地域に根ざした青果業者が、地元の農家が育てる自然栽培野菜を買い切って生産を支えつつ、試食イベントや講演会を開催。共感する人々を繋げる『カネマツ倶楽部』を立ち上げて、自然栽培の野菜の美味しさや意義を広く伝える取り組みを続けています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
地元の自然栽培野菜を通じて共感を広げています
有限会社カネマツ物産は「野菜のカネマツ」の看板を掲げ、長野県長野市内の松代地区に店舗を構える青果店です。でも、市場から仕入れた野菜を店頭に並べる普通の八百屋さんではありません。扱っているのは、地元の志ある農家が、農薬や化学肥料を極力使わずに育てた自然栽培野菜や、地域に伝わる伝統野菜です。信頼できる農家から直接、基本的には「作った野菜は全て買い取る」という姿勢で仕入れ、地元のレストランや割烹などの飲食店をはじめ、共感する全国の顧客に直接届けるスタイルを確立しています。地域の幼稚園の給食用に有機野菜を納入し、食育に貢献している点もアワードの選考で高く評価されました。
『カネマツ倶楽部』は、自然栽培野菜にこだわるカネマツの姿勢に共感する顧客のネットワークです。地域でさまざまなSDGsに関わる活動を行う方々とも連携しながら、自然栽培野菜を使った料理教室や試食イベント、実際に畑を訪ねて農家さんの思いを聞く「農の寺子屋」など、多彩なイベントを定期的かつ継続的に開催しています。
地域に根ざした活動だけにとどまらず、インターネットを活用した「共感の拡大」にも積極的に取り組んでいます。旬の自然栽培野菜セットなどを販売するネットショップは、首都圏などに住む会員が定期的にカネマツの野菜を購入する大切な場所。週末を中心に限られた日には松代にある店舗を開けて、SNSを通じて五代目社長の小山修也(のぶや)さん自らがDJを生中継する『NICE TIME MARKET』を開催(月1回程度)しています。
「自然の恵みを、感謝しながら、美味しく楽しくいただこう」とする気持ちは環境への意識と結びつき、ひいては地球とともに生きる人として、広くSDGsの価値観を共有することに繋がります。「野菜のカネマツSDGsプロジェクト」は、自然栽培の野菜を通じて「より豊かな人生を実現しよう」とする思いを、たくさんの人たちで共有するための取り組みです。
取材に合わせ、急遽集まっていただいた「サロン」にて
『NICE TIME MARKET』を手書きの看板でアピール
『NICE TIME MARKET』は定期的に開催するイベント。店頭のターンテーブルで修也さんがDJの腕を奮い、SNSでライブ配信しています
イベント時には選りすぐりの有機野菜も店頭販売
活動のきっかけは?
「野菜で人生変えちゃおう!」という思いを共有する
自らも野菜で人生を変えてきた小山都代さん
カネマツ物産の創業は大正6年(1917年)、すでに100年以上続いている「八百屋さん」です。「物産」という社名が示すように、一時は東京都内の高級スーパーへの卸売りを行うなど事業を拡大した時期もありました。
転機となったのは平成12年(2000年)、現在は会長を務める小山都代(くによ)さんが離婚を機に四代目社長となったことでした。ひとり親として4人の子どもを育てながら、日々の仕事にも追われる中で、都代さんは「これからはお金ではなく、心でつながる仲間の時代」になると確信して『カネマツ倶楽部』を立ち上げました。
平成25年(2013年)には地元の信頼できる農家さんとともに『NAGANO 農と食の会』をスタート。「心でつながる仲間の時代」という思いを共有する生産者や、共感する購入者や協力者のみなさんとのネットワークが広がることで、カネマツ倶楽部の取り組みが拡大します。
グッドライフアワードの表彰式でも紹介された、カネマツ倶楽部の「思い」を示す言葉があります。
いのちをいただき、いのちを生ききる
食が変われば細胞が変わる
細胞が変われば血液が変わる
血液が変われば脳も体も変わる
脳も体も変われば心も変わる
心が変われば人生も変わる
野菜で人生変えちゃおう!
「野菜で人生変えちゃおう!」という思いを共有し「心でつながる仲間」の輪を広げること、それがカネマツSDGsプロジェクトの原点です。
取材時のサロンで出されたカネマツの調理担当、有左さんによる有機野菜が主役のお弁当
お弁当にもメッセージを記したしおりが添えられていました
成功のポイントは?
家族を軸に、たくさんの人の「本気」が集結
ご家族のみなさん。左から、修也さん、祐子さん、都代さん、有左さん
平成23年(2011年)、「3.11」をきっかけにして、実家を出て高校の非常勤講師をしていた次男の修也(のぶや)さんが家業を承継、五代目社長となりました。また、長女の本多祐子さんも修也さんと協力して家業を助け、母親の都代さんは会長となり、家族が力を合わせて「野菜で人生変えちゃおう!」という思いを広げる仕事に取り組みました。平成30年(2018年)には都会で暮らしていた三男の小山有左(ゆさ)さんも松代に戻り、カネマツ倶楽部の協力者であるシェフの元で料理を修業。現在は、カネマツ倶楽部の加工食品部門を支えています。
人生の波乱を乗り越えて、カネマツ倶楽部の仕事に本気で取り組む母親の姿を見て育ったからこそでしょう。今では、母親である都代さんとともに、兄弟姉妹が自らの人生として「心でつながる仲間の時代」を実現するための仕事に、一緒に取り組むようになったのです。
もちろん、家族の力だけではありません。カネマツ物産東京営業窓口の名刺を持ち、カネマツ倶楽部の事務局として活躍する奈須野真弓さんは、カネマツの野菜と出会いその理念に深く共感した顧客のひとりでした。本業は、東京でネットショップやスモールビジネスのコンサルティングを行う会社の代表であり、そのスキルを活かして『NAGANO 農と食の会』と連携したイベント開催などを手伝うなかで、小山さん家族と一緒にカネマツ倶楽部の活動を広げることに尽力するようになりました。
『NAGANO 農と食の会』のメンバーを中心に、カネマツに野菜を出荷する農家のみなさんも、人生をかけて自然栽培の野菜を育てています。『NAGANO 農と食の会』のキーパーソンのお一人でもある「ふるば村自然農園」の渡辺啓道(ひろみち)さんは、子供たちが引き継いだ仕事を見守り、今でも『カネマツ倶楽部』の中心で力を奮う都代さんについて「私たちの活動を支えてきたのは小山(都代)さんの人間力のおかげ。全体を見て方向を指し示してくれる、マザーツリーのような人なんですよ」と話してくれました。
カネマツ倶楽部の会員や顧客のみなさんにとっても、自分自身や家族、大切な飲食店のお客様が口にする食材を購入するという意味で「豊かな人生」を実現しようという思いがあるでしょう。農家のみなさんの「豊かな人生」と、野菜を購入する人たちの「豊かな人生」を、カネマツのご家族やスタッフのみなさんの「本気」がハブとなって繋いでいることが、この取り組みがいきいきと続く原動力となっているのです。
奈須野さんはイベントの度に東京から応援に駆けつけます
「ふるば村自然農園」の渡辺啓道さん
「まごころふれあい農園」の久保田清隆さん
カネマツ倶楽部の思いに共感して有機栽培や自然栽培に取り組む若い農家さんも増えています
レポート!
久保田さんの畑で「野菜の愛」を実感!
令和3年(2021年)6月、長野市内の中条地区で開催された「農の寺子屋」を取材に伺いました。この地区には、『NAGANO 農と食の会』の中心メンバーである久保田清隆さんが無農薬有機農業での野菜づくりを行っている「まごころふれあい農園」の畑があります。
この日の「農の寺子屋」は記念すべき10回目。集合場所となった長野市の支所から、首都圏などからも集まった参加者のみなさんとともに地区の公民館へ移動、まずは農家の方々のお話しを聞くトークセッションが行われました。前出の渡辺さんと久保田さんによるトークのテーマは「野菜の愛・野菜の意思」というものでした。
慣行農法の指導員経験もあるという久保田さん。有機農法を手掛ける農家として大切な仕事は土作りで、自然の生態系の摂理に従って野菜は育ち、きちんと土作りをすれば、病気にならず虫にも強い健康な野菜が育つといいます。夜明けの畑でレタスなどを収穫していると「美味しく食べてね」や「みんな健康になってね」という野菜からのメッセージが聞こえてくるような気持ちになるとのこと。野菜へのリスペクトをもって育てることが大切、というお話しでした。
「農の寺子屋」では、参加者も自分の思いを発表します
畑の見学後、有左さんたちスタッフが手作りした有機野菜メニューで昼食です
その後、久保田さんの畑へ移動。旬の収穫を多彩にするために数多くの品種を栽培している畑は、初夏という時期にも関わらず思いのほか雑草は少なく、久保田さんやスタッフの方が手間暇掛けて愛を注いでいることを実感。雑草などから元気な土着菌を抽出し、米ぬかなどと混ぜて熟成させる手作りの「ぼかし肥料」を活用した土作りの様子も見学することができました。
看護師だった奥様の「有機野菜が食べたい」という言葉をきっかけにして有機栽培に取り組み始めたという久保田さん。最初は家庭菜園程度から始め、次第にいい野菜が収穫できるようになると、それを食べる子供たちも元気になり、「土が健康だと野菜が健康になる、野菜が健康だと人も健康になれる」と気付かされたとのこと。土の中の微生物を活発にするための「ぼかし肥料」の活用など、いかに自然の邪魔をしないで野菜を育てるかということに気を配っているそうです。
標高約800mの山中に合わせて4ヘクタールほどの畑が点在している久保田さんの農園
季節ごとに多彩な旬の味覚を届けるために、およそ100種類ほどの野菜を育てているそうです
「農家は畑で育つ野菜のための給仕係だと思っています。自然栽培といっても、野菜は勝手に育つわけではありません。人の思いが結実するのが収穫です。収穫は、野菜からの愛のお裾分けだと思っています。健康な畑にいると、毎日とても幸せです」と久保田さん。この思いを、多くの人の食卓へ届けているのが、カネマツ倶楽部の取り組みであることを実感できました。
カネマツでは今、「心豊かな食と生活の提供」をテーマに掲げ、おもに3つの事業を展開しています。
●オーガニックHUBとして「人を良くする」野菜を提供し、生産者と消費者と共に成長する青果部門。
●心と体を整え、幸せに食べてもらう加工部門。
●たくさんの人たちが集い、感化し合う「輪」の広がるサロン運営部門。
今回の取材では、生産者と消費者の共感を繋げるイベントだけでなく、松代にある店舗スペースを活用したサロンや「NICE TIME MARKET」の様子から、平日の朝、農家を回って収穫した野菜を集め、選果場での作業風景。また、有左さんによる加工食品作りなど、さまざまな仕事の様子を拝見することができました。
令和4年(2022年)5月からは、修也さんが独立して「音楽で自然栽培野菜を広げていく!」事業にチャレンジすることになり、有佐さんが6代目のカネマツ代表になることが決まったそうです。
心が変われば人生も変わる、「野菜で人生変えちゃおう!」というカネマツからのメッセージ。「人生が変われば暮らしが変わる。暮らしが変われば地球が変わる、未来が変わる」という風に、カネマツの取り組みが、ますます広がっていくのが楽しみです。
ビニールハウスの中で発酵中のぼかし肥料づくりを見学
市内の割烹料理店『きたざわ』による有機野菜のお弁当
店舗スペースを活用したサロンには、さまざまな地域の課題解決に取り組む方々が集い、熱心な意見交換が行われていました
最近、松代地区にカネマツの畑もできました
選果場に集まったさまざまな野菜を出荷先に合わせて仕分けして届けるのが、カネマツの日常的な仕事です
都代さんの実父である二代目社長、実さんは94歳(取材当時)でご健在。店舗奥の自宅で、家族の活躍を見守っています。