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  • 阿蘇地域の草原は、土地を造成し西洋の牧草を播種した改良草地ではなく、自然の地形にススキやネザサなど元々この地方に生育する植物を主体とした草地です。この草原は千年以上の歴史を持ち、畜産のための放牧、採草、野焼きなど、人間の手を加えることによって維持されてきた半自然草地です。現在約14,000ha存在するこの阿蘇地域の草原は、自然と人間との共生の結果成立していると言えます。
  • しかし、「草原」とひとことで言っても草原には様々なタイプがあり、それぞれに独特の生態系が成立しています。以下にそれらを紹介します。

放牧地

文字どおり牛を放牧するところです。阿蘇では赤牛が有名ですが、最近では黒毛和牛も増えてきています。放牧地では牛が草を食べるため、草丈が低い「短草型草原」というタイプの草原になります。長期間放牧することにより、牛が食べない植物が増えてきます(牛はけっこう好き嫌いがあり、おいしい草を選んで食べています)。

牛が食べない草には「ギシギシ」のように牧畜にとって有害雑草になるもの(増えすぎて困る植物)や、「クララ」のように希少な蝶(オオルリシジミ)の食草となるもの、「オキナグサ」のように一風変わった花を咲かせるもの、「ワラビ」のように山菜として人が楽しむものまで様々です。


オオルリシジミとクララ

オキナグサ


ハナシノブ


ツクシマツモト

採草地

家畜の餌や敷料(しきりょう:畜舎で家畜を飼う時に敷く草)、堆肥の製造のために必要な草を刈り取る場所です。刈り取る回数は年に1〜数回と様々で、ススキなどの草丈が高い「長草型草原」というタイプの草原です。

夏場に草を刈り取るためススキの成長が押さえられることにより、様々な植物が生育することができ、熊本県の特定希少野生動植物にも指定されている「ハナシノブ」や「ツクシマツモト(マツモトセンノウ)」、秋の七草で有名な「カワラナデシコ」や「オミナエシ」、固有の植物である「ヒゴタイ」や「ヤツシロソウ」、草原一面に広がる「ユウスゲ(キスゲ)」(左の写真)といった、様々な花が咲き乱れることが特徴です。また、これら採草地の花の多くは盆花として地元の方々に親しまれてきたものです。


カワラナデシコ

オミナエシ

ヒゴタイ

ヤツシロソウ

茅場(かやば)

萱葺き屋根に利用するためのススキを刈るための場所で、草丈の高い「長草型草原」という草原になります。萱葺き屋根に使うのはススキの穂の下にある茎の部分です。

草を刈り取る時期が採草地とは違い、茅場では草が栄養分を地下にため込んだ後の秋に草を刈るため、ススキの成長が抑えられることがないので、ススキばかりの比較的単純な生態系になります。最近では萱葺き屋根自体が見られなくなったので、茅場として利用している場所はほとんどありません。


ススキの花


サクラソウ


ノハナショウブ

草原内の湿地

草原内にはあちこちに湧水があり、湧水の周りには湿地が広がっています。草原のタイプとしては「長草型草原」に分類され、湿地には「サクラソウ」や「サギソウ」、「ノハナショウブ」といった湿地特有の希少植物が生育しています。

また、放牧地の中にある湿地は、牛馬の水飲み場として利用されているところもあります。

改良草地

阿蘇の草原の多くはススキなどの日本にもともとある植物によって構成される草原ですが、改良草地では西洋牧草を栽培しています。西洋牧草はススキなどに比べて栄養価が高く、牛などの家畜の飼料として優れています。また、西洋牧草は寒さに強いため、周年放牧(一年中牛を放牧させる飼育形態。阿蘇では「夏山冬里」といって夏は放牧、冬は畜舎で飼育という形態が伝統的。)を行う放牧地でも栽培されています。

西洋牧草は3〜4年するとススキなどの植物が混じってきてしまうので、定期的に種をまいたり肥料を与える必要があり管理に手間がかかるため、大型機械が入ることができるような比較的平坦な部分に見られます。
(左写真の緑の部分が改良草地:2003年4月17日撮影)