ホーム > 環境研究総合推進費 > 評価結果について > 研究課題別評価詳細表

研究課題別評価詳細表

平成23年度中間・事後評価の結果を、研究課題ごとに、

  • 研究者による
  • 「1.研究概要」、
  • 「2.研究の進捗状況(事後評価については「研究の達成状況」)」と
  • 評価委員による
  • 「3.委員の指摘及び提言概要」、
  • 「4.評点」
をとりまとめた評価詳細表です。
この評価結果は、研究課題毎の計画の見直しや研究予算の配分に活用されています。

目次

  • I. 中間評価
  • II. 事後評価

    I. 中間評価

    中間評価 S.戦略的研究開発領域

    戦略プロジェクト名: S-6 アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究(H21-25)
    プロジェクトリーダー氏名: 甲斐沼 美紀子(国立環境研究所)

    1.研究概要

    世界の気温上昇を工業化以前と比較して2℃以下に抑えるという目標を達成するためには、2050年に、世界人口の半分以上、温室効果ガス排出量の半分以上のシェアを占めると言われているアジア地域で低炭素社会が実現できるかどうかが鍵を握っている。アジア地域においては、先進国が歩んできたエネルギー・資源浪費型発展パスの途を繰り返すのではなく、経済発展により生活レベルを向上させながらも、低炭素排出、低資源消費の社会に移行する必要があり、この低炭素発展パスに進むための方策を検討することは緊急かつ重要な課題である。本プロジェクトでは、将来像からのバックキャスティングとその実現に向けたロードマップを描く手法を開発し、アジア地域へ適用することによりアジア地域の中長期的な気候変動政策策定に貢献する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    テーマは次の5つである。
    (1) アジアを対象とした低炭素社会実現のためのシナリオ開発
    (2) アジア地域の低炭素型発展可能性とその評価のための基礎分析調査研究
    (3) 低炭素アジア実現に向けた中長期的国際・国内制度設計オプションとその形成過程の研究
    (4) 経済発展に伴う資源消費増大に起因する温室効果ガス排出の抑制に関する研究
    (5) アジアにおける低炭素交通システム実現方策に関する研究

    ■ S-6  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ s-6 .pdfPDF [PDF 317 KB]

    2.研究の進捗状況

    2050年GHG世界半減(1990年比)の実現のためには、アジア全体で、2005年から37〜52%削減しなければならない。アジア各国では、例えば、中国は26〜63%の削減、インドは36%の削減から52%までの増、日本は29から87%といった大幅な削減が必要となる。現状で想定できる技術のみの対策の適用では、2050年での限界削減費用は760$/tCO2に上る。このような経済・社会的負担を軽減するには、制度、ライフスタイル、交通システム、物質ストック・循環などの技術以外の対策の検討を行い、低炭素社会実現を後押しする必要がある。本研究では、低炭素社会移行への方策を検討し、これらの方策を実施するための制度設計、資源消費への影響分析、交通システムや都市構造の分析を行っている。
    実際に低炭素社会シナリオを作成し、対策に繋げるのはアジア各国の政策担当者や研究者であるため、「低炭素社会モデル人材育成ワークショップ」(バンコク、2010;ベトナム、2011)、「低炭素アジアセミナー」(タイ、2009;広州、2009;カンボジア、2010;ベトナム、2010)、AIMトレーニング・ワークショップ(つくば、2010、2011)などの会合を通じて低炭素シナリオ開発モデルの移転を行った。本プロジェクトで開発したモデルを用いて作成したインドネシア、タイ、ベトナムのシナリオは、各国における長期的な低炭素シナリオとしては初めてのものである。タイ、マレーシア、ベトナムでは気候変動を担当する部署がモデルを用いた政策分析に強い関心を示すようになった。また、シナリオ作成のための方法論普及のため、COP15およびCOP16において「アジア低炭素社会」のサイドイベントを行い、研究成果を国際的な場で発表した。
    以下に各テーマの進捗状況を記す。
    (1) 「2050年の世界の温室効果ガス排出量を1990年比半減」に資するアジア各地域の排出量の目安と技術削減の可能性、経済影響について科学的に分析できるツールであるモデルを開発し、アジア主要国を対象としてその分析を行った。
    (2) 中国、インドを対象に国の政策を分析した。中国が低炭素型発展を遂げるためには、生産・製造にかかわる技術の導入や、法規制や環境基準、モニタリング制度やマネジメントといった社会制度・基盤の整備、またそれら技術や社会制度・基盤を導入・設置に向けた資金の流れを作りだすこと、インドでは、今後如何に中央と地方政府の間で合意形成をしていくかが鍵であろうことが分かった。
    (3) 排出削減目標検討に対して、目標差異化にかかる衡平性指標に関しては、費用効率性指標、責任指標、支払能力指標の3種類の指標を用いた多面的な評価の必要性を示し、さらに、国際的貿易を考慮することの重要性を明らかにした。また、低炭素技術検討のための問題特定化のためのフレームワークを構築した。
    (4) 物質フロー・ストックと温室効果ガスの排出を有機的に結びつけて評価するモデルを構築し、これらの相互関係を分析できるようにした。また、温暖化対策技術の普及において重要となる希少金属需要量を同定する枠組を示した。
    (5) 鉄道整備がモータリゼーション進展に与える影響をモデル化し、人口増加や自動車依存の程度を考慮しながら、鉄道整備時期によるCO2排出量削減効果の違いを評価するとともに、鉄道を利用したインターモーダル輸送の促進には積替施設の整備が不可欠であることを明らかにし、鉄道輸送促進による将来CO2排出量を推計した。また、都市旅客公共交通マネジメントについて、幹線的公共交通と端末輸送との連携方策について整理することにより、政策設定、運営管理策、運用方策、都市計画との関係を検討し、CO2排出量削減効果との関係を明らかにすることができた。
    本研究プロジェクトの研究成果を活用して、研究参画者は、環境省中央環境審議会中長期ロードマップ小委員会において、バックキャストモデルによる試算結果や衡平性に関する知見を示した。同小委員会の中間整理では、S-3やS-6で得られた日本低炭素社会シナリオの知見に基づいてロードマップが作られた。また、中印政策対話や各国専門家との意見交換を踏まえ、国としての適切な緩和行動(NAMA)に関する報告書の取り纏めに貢献した。
    「OECDのWPCID(気候・投資・開発作業部会)」、「UNEP持続可能な資源管理に関する国際パネル」、「物質フローと資源生産性に関するOECDプログラム」等の国際会議への参加や、国際シンポジウム2009「交通と気候変動」を世界交通学会と共催したことを通じて、その政策的な議論に貢献するとともに、本研究の成果の一部は、民主党「地球温暖化と経済成長の両立をめざす議員連盟」総会(2010年11月24日)におけるプレゼンテーションに使用されるなど、科学的知見の提供に大きく貢献した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    本課題は、中国・インドなどの急速な経済成長により、温室効果ガスの排出量が全世界で半分以上を占めるようになっているアジア域の途上国において、技術移転を伴いながらも、従来の先進国の発展経路とは異なる経路で低炭素社会へ移行する可能性の研究を具体的に進めている。各テーマでの研究は、テーマ間の分担や研究のマネジメントを見直すべきものもあるが、全体として順調に進行している。
    今後、研究終了時に向けて、各テーマの成果をプロジェクト全体で統合することが必要である。このためには、各テーマ間で相互に意思疎通し、テーマ2から5の成果をテーマ1に組み込むことにより各テーマ間の有機的連携を一層図り、プロジェクト全体として政策決定とその推進に実務的に寄与できる成果をまとめていくことが必要である。また、農業部門の動向と対策を十分考慮するとともに、アジアの各国の多様性を踏まえたアジア型の低炭素社会の特徴を明確化した、削減シナリオと政策オプションの提示を期待したい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-6-1 アジアを対象とした低炭素社会実現のためのシナリオ開発(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 増井 利彦 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    アジア各国を対象に、各国の経済発展や各国が抱える個々の環境問題の解決に加え、低炭素社会の実現を統合するビジョンを作成するとともに、その実現に向けた対策、道筋の検討と評価を、バックキャストの手法を用いて定量的に行う。定量化にあたっては、各国のみを対象とするのではなく、各国間の関係も視野に入れた分析を行うために、世界モデル、国モデル、地域モデルなど、多岐にわたるモデルを用いて分析を行う。また、再生可能エネルギー開発と温暖化抑制以外の地球規模諸問題との係わりなど、低炭素社会を検討する際に問題となる諸制約条件についても定量的に解析し、アジアにおける低炭素社会の実現に向けた統合シナリオを開発する。特にエネルギーシステム・政策に関しては、これまでのエネルギー開発の経緯や世界全体のエネルギー需給状況、各国・地域のエネルギー安全保障など、低炭素社会以外の要素をも十分考慮して定量的に検討する。また、中国、インドなどアジアの主要国を対象に、各国・地域の研究機関、研究者と協力して、各種モデルを適用し、国・地域レベルの低炭素社会シナリオを構築する

    2.研究の進捗状況

    既存の将来シナリオ、政府目標等を参照して作成した定性的な叙述シナリオとともに、世界モデルを用いた2050年の温室効果ガス排出量を1990年比半減させる場合のアジア地域における影響の分析や、各国・地域を対象としたコペンハーゲン合意等各国目標の分析、エネルギーシステムを対象とした計量経済モデルによる分析など、アジア低炭素社会の定量的な評価を行ってきた。また、開発したモデルの普及を目的としたトレーニングワークショップを実施した。
    (1) 2050年の世界における温室効果ガス排出量を1990年比半減させる際のアジアにおける排出削減シナリオを検討することを目的として、世界を対象とした応用一般均衡モデルの改良とそれを用いた分析を行った。また、アジア低炭素社会シナリオを検討するために重要となる再生可能エネルギーのポテンシャルの推計を行った。さらに、2050年低炭素社会実現に向けたわが国の方策を検討することを目的としてバックキャストモデルの開発を行った。
    (2) 各国において有効な温室効果ガス排出抑制のための政策を策定・実施するための手段として、将来の目標とする低炭素社会の姿を定量的に描写し、必要な低炭素対策を同定するための定量推計を行うモデル構築を行った。
    (3) アジアの主要国を対象に、各国主要機関と協力して、低炭素社会シナリオを構築することを目的として、低炭素社会シナリオ作成に資する定量・定性情報を収集した。また、簡易ツール群のアジア主要国への普及を目的としたセミナー、ワークショップを実施し、世界モデルによるトップダウン的な分析と整合するアジア各国シナリオの開発に向けた分析を行った。
    (4) 詳細なエネルギーバランス表に基づき、長期のエネルギー需給状況を広域かつ詳細に評価することを可能とする計量経済モデルを作成し、アジアを中心とする世界各国・地域のエネルギー資源開発動向・政策動向や計画等に関する最新の情報を踏まえた上で、2050年までのエネルギーシナリオを素描した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    世界の温室効果ガス排出量を半減させるための政策立案に必要なデータ収集と具体的なデータ分析方法の提案が行われており、本来の研究目的を達成できると期待される。共同研究をアジア各国の研究機関と実施しており、その意味で、ここでのシナリオが各国の施策に生かされることが期待される。
    今後は、各国の施策に活かされるよう、テーマ相互の連携を深め、トップダウンとボトムアップの双方のギャップを埋めるアプローチや目標実現を阻む諸困難への対応手段の提案を望みたい。また、農業部門からの排出と削減策をシナリオに組み込むこと、福島原子力事故などの大きな変動の影響を組み込むことについて検討すべきである。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-6-2 アジア地域の低炭素型発展可能性とその評価のための基盤分析調査研究 (H21-25)
    テーマリーダー氏名: 明日香 壽川 (財団法人地球環境戦略研究機関)

    1.研究概要

    本研究はアジアの多様性を踏まえた低炭素社会発展基盤を明確化し、他の研究テーマへのインプットを図るとともに、共同研究・研究会合/政策対話・学会発表および報告書等を通じてアジアの影響力のあるステークホルダーを巻き込み、各国政策決定過程へ向けた研究成果の発信を行うことを目的とする。
    S-6-2(1)「低炭素社会への飛躍のための発展パターンのあり方に関する研究」では、
     (a)低炭素社会の基盤となる各国発展の道筋に影響を与える国内・国際要因を分析し、
     (b)leap-frog型発展・alternative development pathの推進要因や障害要因を分析、低炭素社会への直接発展可能性を検討し、 (c)「アジア的特質・価値観」を背景にアジア地域が独自の将来ビジョンを描くことができるかについての考察をする。
    S-6-2(2)「アジアにおける低炭素社会構築に向けた都市発展メカニズムに関する研究」では、都市化の進展の在り方がその国のエネルギー消費とCO2排出にどのように関係するかに関する理解を深め、低炭素社会を目指した都市発展の道筋を示すための知見を得ることを最終目標とし、特に、アジア途上国における発展段階や多様性を考慮した低炭素型都市発展のパターンについて論じる。

    2.研究の進捗状況

    低炭素社会への飛躍のための発展パターンのあり方に関する研究では、昨年度はインドネシアに焦点を当てたのに対し、今年度は中国、インドの二カ国を中心に研究を進めた。
    第一に、「低炭素社会の基盤となる各国発展の道筋に影響を与える国内・国際要因分析」では、国際気候枠組みの発展が各国の低炭素社会構築に向けた取り組みにどのような影響を与えたかを、比較政治学・国際関係論に基づき、国内制度や国内利害関係の観点から検討した。
    第二に、「leap-frog型発展・alternative development pathの推進要因や障害要因の分析」では、中国、インド両国の低炭素型発展シナリオやそれらシナリオを実現するための政策・施策、技術に注目し研究を行った。特に中国において第11次5か年計画の内容及び結果について詳細な分析を行った。
    第三に、「アジア的特質・価値観に基づく発展可能性の検討」では、アジア各地で持続可能な生活様式を支えてきた価値観・慣習を、低炭素社会の形成に資する形に翻訳・普及する可能性を検討するため、来年度の対象国(日本、中国、インドネシア、タイ、香港)でのアンケート調査・事例調査を行う実施準備として、既存研究のレビュー等を行った。
    アジアにおける低炭素社会構築に向けた都市発展メカニズムに関する研究では、
    1)国全体の都市化と発展プロセス・エネルギーの関係に関する研究、
    2)発展段階、規模、産業構造の異なるアジア都市における都市への移転住民の所得とエネルギーアクセスに関する研究、
    3)都市化と直接・間接エネルギー消費を考慮した都市の責任排出量に関する研究、
    4)低炭素社会へ向けた先行事例研究を行った。

    3.委員の指摘及び提言概要

    主に中国とインドにおける低炭素化に関する国内政策の解析が行われているが、現状分析に留まっている観がある。目的として示されているトップダウン型の削減目標とのギャップをどう埋めていくかの検討がまだ不足している。アジアの各国の多様性を考慮した低炭素社会の内容を実証的に追及することは、このS-6全体のシナリオ形成の基礎であるので重要である。
    しかし、このグループが全体シナリオにどのような成果を提供するのか、中国・インド以外のアジアの各国をどこまで対象にするのかという研究の枠組みがよく見えない。後半の研究期間を有効に活用するため、テーマ1とインタラクティブな研究の進め方、国内政策の解析を詳細に行う対象国の絞り込み等、プロジェクト全体の中でのテーマ2の研究のマネジメントと研究計画の早急な改善を図った上で、今後の研究の進展に期待したい。

    4.評点

       総合評点: C    ★★☆☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
    目次へ

    テーマ名: S-6-3 低炭素アジア実現へ向けた中長期的国際・国内制度設計オプションとその形成過程の研究(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 蟹江 憲史 (東京工業大学大学院社会理工学研究科)

    1.研究概要

    本研究チームは、低炭素アジアを実現するための制度設計のあり方とその構築プロセスを検討する。温室効果ガスの長期大幅削減のための低炭素ガバナンスには、国家のコミットメントも重要であるが、国家以外のステークホルダーが制度に参加することも不可欠である。このため本チームは両レベルに焦点を当て、低炭素ガバナンス制度の鍵となる二つの要素を検討する。
    一つは、中長期目標に関する研究であり、とりわけ国際的目標差異化の際の衡平性のあり方である。国家に低炭素化の期待が収斂し、「タイムテーブルと目標設定アプローチ」が拘束力を伴って継続する場合には特にこれが重要となる。衡平性指標によって国際交渉に資する各国の目標値は大きく異なるからである。
    今一つは、低炭素技術に関する制度設計である。目標が拘束力を持つと持たないとに関わらず、低炭素技術移転やその国際的普及は、地球規模での低炭素型発展には不可欠である。とりわけ、目標の拘束性が弱まる場合には、行動目標に活動の焦点があてられることから、技術を巡る制度が重要性を増す。
    本チームはこうした研究により、シナリオチームに対して、
    [1]国際的な削減量差異化に関する社会科学的根拠を提供すること、
    [2]各国の削減ポテンシャルを実現するため(場合によってはそれを超えた削減をするため)の技術開発・移転のあり方のシナリオを示し、また、そのための資金がどの程度必要となるかを示すこと
    を目的としている。

    2.研究の進捗状況

    目標に関する研究に関しては、国家、自治体、企業を中心に最新の中長期目標をその根拠と確度とともにデータベース化し、インターネット上に公開しており、政府、NGOを問わず多方面で引用されるところとなっている。衡平性指標に関しては、責任、能力、実効性及びその組み合わせによる指標に関して詳細な分析をし、それぞれの長短と制度設計へのインプリケーションをまとめた。また、具体的目標設定の仕方(例えば約束期間平均削減量とするのか、目標年における削減量とするか)によって、排出量も変化することを示した。成果は、S-6-1と連携することで定量的計算を実施し、2009年の中期目標設定過程や中長期ロードマップ委員会等で利用された他、査読付き論文としても公表された。さらに、目標にたいして貿易による排出量の変化を考慮することで国別目標も変わることから、グローバル化した社会においてはこうした要素を勘案する重要性を指摘した。
    低炭素技術に関する制度設計に関しては、個別技術により、また、対象国により必要とされる制度的要素が多様性に富むことが明らかとなり、分散的な制度設計が必要であることが明らかとなった。これは、グローバル化に伴う制度設計と親和性が高いことが分かった。また、自律分散協調型の制度設計は、変化に対して頑強かつ柔軟性に富むものであり、特に低炭素技術に関しては、途上国の貧困層のエンパワーメントにもつながることから、リープフロッグのためにも望ましいシステムだという事がわかった。こうした制度は、技術を保持する企業と政府やNGOとのパートナーシップ型でありながら、政府を中心に公共性(炭素制約)を担保する必要がある。S-6-1で算出されるところの、個別技術普及のためにアジア各国で必要なコストをカバーする形で、こうしたパートナーシップ型ガバナンス制度が資金のマネジメントを行う事が望ましいことが分かった。

    3.委員の指摘及び提言概要

    日中韓貿易におけるセクター別CO2の排出量を相互比較した結果、グローバル化に伴う貿易の増減により、一国の排出量が貿易相手国の需要動向に左右されていることを示せたことは評価に値する。分散的制度による国際的パートナーシップによるガバナンスなどのオプションの提示など、科学的にも政策的にも意義のある成果が得られている。
    ポスト京都の混迷の時期、衡平性指標、技術移転、資金など、新しい制度設計の研究は、困難で不確実な面もあって、研究成果に基づく具体的な提案にはまだ到達していないが、今後は、全サブテーマの成果を統合した着地点への展望、プロジェクト全体への貢献のビジョンを明確にし、発展過程にあるアジア地域での技術移転の新しい枠組みの提言につなげていくことを期待したい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-6-4 経済発展に伴う資源消費増大に起因する温室効果ガス排出の抑制に関する研究(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 森口 祐一 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    大量生産・大量消費に支えられた経済社会から循環型社会への転換は、主に廃棄物問題の改善、資源の有効利用の観点から提唱されてきたが、エネルギー消費・GHG排出の面からも大きな意義がある。また、今後、アジア諸国では、社会基盤整備や耐久消費財の普及などにより、素材産業からのGHG排出の増大が見込まれる。加えて、そうした耐久財の蓄積は、その利用段階でのエネルギー消費と密接に関連するとともに、将来の二次資源の供給源という性格ももち、物質のストックと物質・エネルギーのフローを関係づけて解析する新たな視点が必要である。さらに、今後の資源需給には、温暖化対策との交互作用も含め大きな変化が予想される。天然資源供給サイドでは、金属鉱石の品位の低下、採掘対象の深化等のエネルギー消費やGHG排出が増大する要因がある。また、需要サイドでは、IT化などの技術革新が、資源生産性の高い発展の経路をもたらす一方で、温暖化対策のための新技術の導入が、稀少資源の需給に重大な影響を及ぼす可能性がある。
    本研究では、アジア諸国の経済発展に伴う社会基盤の整備、耐久消費財の普及、消費財の消費拡大、あるいは低炭素化技術の普及等の想定に基づいて、今後の資源需要量と素材生産に係る温室効果ガス排出量の推計を行うとともに、こうした資源の需給バランスや資源の効率的・循環的利用による低炭素化のポテンシャルについて検討することを目的とする。特に、素材生産における効率向上やエネルギー転換、ストックされた循環資源や再生可能資源による資源代替、国際的な分業・国際資源循環などの素材供給側の視点と、アジアの地域特性を生かした資源消費のより少ない社会基盤整備、耐久消費財の保有形態の変化、一過性の資源消費の少ない消費形態への転換などの需要側の視点の両面から、低炭素化のポテンシャルの検討を行う。

    2.研究の進捗状況

    これまでに得られた本研究の成果と今後の予定は以下の通りである。
    (1) 先行研究で構築してきた物質フローモデルに経済圏内部の物質ストックの表現を加え、長期的なシナリオ分析の組み入れを考慮したモデルの枠組みを設計した。また、耐久財・耐久消費財の使用時のエネルギー消費を表現するプロセスモデルを設計した。このモデルを用いて、アジア地域における紙・板紙需要量とそれに伴う温室効果ガス排出量の将来推計、中国における自動車の将来像を踏まえた温室効果ガス排出量および資源消費量に関する分析等を行った。その結果、2050年のアジア10カ国における紙・板紙需要量は、現在の世界(アジア10カ国)の消費量の111%(336%)〜153%(463%)になること、黒液利用や技術改善によって数10%のCO2削減効果が得られること、現在の先進国程度の自動車保有を上限(0.5台/人)に想定すると、今後中国において大量の乗用車および資源が必要になること、中国で電気自動車が大きく普及した場合でも、想定されるCO2電力排出係数では、中国の低炭素化に大きく貢献できない可能性があることなどを示した。
    (2) 金属については、過去に開発してきた鉱山開発のための最適生産計画立案ツールの中に、明示的に温室効果ガス発生量を取り込むことを目的にツールの作成を行い、これを用いて今後の金属鉱床の深化等に伴う総物質関与量(TMR)の増加量などのシミュレーションを試行するとともに、既存鉱山からのCO2排出量の分析を行った。鉱床の大深度化によりかなりのTMRの増加が見込まれることが分かったが、必ずしも深さの3乗に比例するわけではないことが明らかになった。また、インジウム、シリコン、ガリウムのマテリアルフロー分析、次世代自動車普及に伴う電池需要をケースとしたマテリアルフロー予測などを行った。
    (3) 中国については、主に交通インフラの道路と鉄道を中心として、インフラ整備の物質需要原単位を推計したうえで、物質フロー・ストックモデルを構築し、中国の道路・鉄道整備による鉄鋼、セメント、土石、木材の物質需要を推計した。その結果、新規建設による物質需要はピークを過ぎた後減少するが、補修・更新による物質需要は2050年までに増加すると予測された。今後のセメントコンクリート舗装の普及により、新規建設によるセメント需要は2020年前後、補修によるセメント需要は2045年前後にピークとなり、その後に減少すると予測された。
    (4) 今後は以上の成果を受け、これらの成果の統合化を行うとともに、マクロレベル、ミクロレベルでの推計を相互検証し、推計の精度を向上させることによって、鉄鋼、セメント、紙・パルプ等の需要を牽引する因子と需要量、リサイクル、廃棄物・副産物利用、省資源化等の対策によるCO2削減効果を提示する。また、温暖化対策技術の普及による資源制約の可能性を提示した上で、リサイクルによる資源制約の緩和、適正な資源利用によるCO2削減効果の最大化の可能性を提示する。これらをもとに、GHG総排出量制約と国際分業のもとでの物質需給のシナリオをS-6-1チームと連携して作成する。

    3.委員の指摘及び提言概要

    本研究の主題である素材生産・利用における効率的・循環的利用による低炭素化のポテンシャルについて、先行研究の物質フロー・ストックモデルを拡張し、分析を進めている。また、各サブテーマとも当初の研究計画に沿って手堅く、順調に進捗していると考えられ、有益な分析結果が示されている。
    今後は、CO2削減に向けた技術改善について更に詳しく分析すること、および他テーマ(特にテーマ3)との密接な連携によって、さらなる成果の充実を期待したい。
    さらに、S-6 全体の研究目標である低炭素化ポテンシャルの推定、中国・インド等の資源多消費国が節約型に転換する新たな削減政策オプションの提案、長期的な削減シナリオの形成等に有益な情報や証拠としての入力となるような研究成果を最終的に示して欲しい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-6-5 アジアにおける低炭素交通システム実現方策に関する研究(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 林 良嗣 (名古屋大学環境学研究科)

    1.研究概要

    今後、世界のCO2排出量増加の多くはアジア開発途上国において生じ、中でも運輸部門の伸びは他部門に比べ大きいと予想され、その増加を抑制する施策をいかに立案し実施するかは極めて重要な課題である。運輸部門のCO2排出量の趨勢を決定するのは経済発展に伴うモータリゼーション進展の動向であることを考えれば、経済発展とCO2増加とをデカップリングする新たな交通体系モデルの提示は、アジア途上国において「持続可能な交通」を実現するために必要不可欠である。
    しかし、アジア途上国で実施されている交通政策にはこのような視点は十分考慮されておらず、多くの地域ではモータリゼーション進展に伴う渋滞を解消するために道路建設を進めるという対症療法的な施策に終始している。これは長期的には自動車交通の増加を誘発し、いっそうのCO2増加をもたらすパラドックスを招くことになる。これは先進国都市が経験してきた失敗であるが、アジア途上国でも一層大きなスケールで同じ道をたどりつつあり、この失敗の繰り返しを防止する必要がある。
    本テーマS-6-5では、まず2050年におけるアジア低炭素社会実現のために、必要とされる都市−交通体系を提示する。そして、交通部門からのCO2排出対策を、AVOID(交通発生そのものの抑制)、SHIFT(低炭素交通モードへの利用転換)、IMPROVE(交通起源環境負荷排出の効率化)の3戦略に整理分類し、CO2削減目標のレベルに応じたバックキャスティングアプローチにより、各戦略の削減量組み合わせを見いだす。これに基づいて、削減目標に至るロードマップを提案することを目的とする。

    2.研究の進捗状況

    本研究では、アジアの都市内と地域間の旅客と物流交通を研究対象としており、昨年度までは都市内旅客交通と地域間物流交通を中心に研究を行ってきた。
    まず、アジアの多くの都市では、経済成長にともない自動車保有・利用が急増し、これによる都市域の拡大がモータリゼーションをさらに加速させるような悪循環が生じている。一旦、自動車依存社会が形成されると、そこからの脱却は難しいため、都市内旅客交通における早期のモータリゼーションの抑制を目的とした公共交通の整備によるSHIFTや都市域拡大の抑制によるAVOIDが重要となる。そこで本研究では、道路と鉄道の整備順序が都市域拡大とモータリゼーションの促進と抑制に与えるメカニズムをモデル化し、乗用車保有率とその排出原単位により乗用車起源CO2排出量を推計した。そして、北京、上海、バンコク、デリーといったメガシティにこのモデルを適用し、2050年の鉄道整備時期によるCO2排出削減効果について分析を行い、その早期整備の効果を特定した。
    また、アジア都市に適した公共交通整備として、都市全体を網羅するような専用バスレーンのネットワークを用いたBRT(Bus Rapid Transit)は、そのインフラ開発コスト抑制効果や輸送力の高さから有効であると考えられる。本研究では、ベトナム・ハノイで計画されているBRTの導入において、車利用からBRT利用への転換行動により、自動車交通の増加による渋滞が緩和される過程をマイクロシミュレーションで表現し、そのCO2削減効果について評価を行った。さらに、アジア地方中核都市であるタイのコンケンで、BRT沿線に公共交通指向型都市開発(TOD)を取り入れた場合の交通起源CO2排出を、交通需要予測を行い評価した。メガシティとしては、タイのバンコク首都圏を対象にし、郊外に新都心を建設する場合も想定し、人口と産業の立地分布の違いによるCO2排出の変化を分析している。
    一方、AVOIDやSHIFTには限界があり、技術進歩による車両燃費およびエネルギー効率向上といったIMPROVEも、CO2排出量削減の重要な戦略である。特に、アジア諸国では二輪車が多いが、その多くは2ストロークで排出率が高いことが大きな問題となっている。本研究では、燃費効率や動力源構成によるCO2排出原単位を算出し、HV・EV等の低環境負荷自動車の普及シナリオを設定し、運輸部門CO2排出量の削減可能量を推計した。また、二輪車の技術向上の効果を検討するため、バンコクにおける二輪車保有の推移と技術進歩をシナリオ化し、将来CO2排出量の削減目標を達成するのに必要な低公害車の普及率を算出した。
    加えて、アジア発展途上国大都市では、急速な経済発展や人口増加によって都市交通システムは大きく変化する必要があるが、現状の行政管理能力でこの変化に対応するのには限界がある。このため、アジア各都市において特有の地域特性を考慮し、新システムの実現可能性を評価していく必要がある。
    本研究では、世界各都市の事例を分析し、アジア都市において有効な都市交通システムの運営管理を整理した。また、アジア都市交通において利用が高い交通システムとして、バスとタクシーの間に位置する公共交通機関であるパラトランジットに注目し、これを幹線交通のフィーダーとして活用するような階層的な交通システムのあり方を分析している。
    アジアの経済成長は地域間交通の需要も高め、特に大規模な道路建設やLCC(Low Cost Carrier)参入等により、貨物・旅客輸送は一層増加することが予想され、これらによるCO2排出増加の抑制は重要となる。本研究では、地域間物流のSHIFTとして、アジアの中でも陸上貨物量の大幅な増加が見込まれるGMS(Greater Mekong Subregion)域内および中国内陸部の貨物輸送において、鉄道インターモーダル輸送を促進させた場合のCO2排出抑制可能量を計測した。また、地域間旅客については、日中韓国際航空輸送を対象として、航空機の機材サイズの変更として大型機から中・小型機にするようなIMPROVEによるCO2排出削減可能量を推計した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    急速に人口の増加している都市交通に関する低炭素社会への方向性を示しており、アジア低炭素交通ビジョンを一般理論として示す段階までの研究としては、期待される成果となっている。また、各サブテーマとも当初の研究計画に沿って順調に進捗している。このようにテーマとして独立性の高い成果を既にあげていることから、プロジェクト全体への今後の貢献も期待できる。なお、S-6課題の中での低炭素交通システムの検討対象として、これまで大都市圏の交通システムを中心に検討してきたことの意義・合理性について説明しておく必要があろう。また、交通セクターのどの部分を対象としていくのか、境界を明確にすべきである。
    低炭素社会構築、低炭素交通への対応は各国で異なってくること、研究の分析深度も国ごとに異なっているので、今後は、テーマ1との整合性・一貫性に留意し、アジア低炭素交通化のシナリオの内容を政策オプションと関連させた分析、具体的提案をとりまとめることを期待したい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    戦略プロジェクト名: S-7 東アジアにおける広域大気汚染の解明と温暖化対策との共便益を考慮した大気環境管理の推進に関する総合的研究(H21-25)
    プロジェクトリーダー氏名: 秋元肇(財団法人日本環境衛生センター)

    1.研究概要

    現在、大気汚染の問題は我が国にとって次の二つの点で重要である。
    第一に、東アジアにおける大気汚染物質の排出量の増加が、我が国のオゾン・エアロゾル(特に PM2.5)の濃度増加をもたらし、人間の健康、農作物等に大きな影響を及ぼしつつあること、
    第二に、大気汚染と気候変動を一体化して抑制しようといういわゆる共便益(コベネフィット)の考え方が、国際的に大きく取りあげられるようになり、越境大気汚染を含む東アジアの広域大気汚染問題解決のためにも我が国としての戦略を確立する必要があることである。
    アジアの大気汚染問題に関しては現在まで、気候変動に対する IPCCや、欧米の越境大気汚染条約のような国際的な議論の場や条約の枠組みがない。このため我が国としては問題解決へ向けて、越境大気汚染に関する科学的な知見を確立すると同時に、将来の国際条約などへの流れを促進するために、こうした知見を関係国の間で共有するための国際的な議論の場を構築する必要に迫られている。また、共便益を考慮した大気汚染物質削減シナリオの策定は、このような国際的な議論の場においても、将来における我が国の大気汚染の改善のために必須である。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    このような問題に包括的に対処するため、本研究では、アジア域及び半球規模におけるオゾン・ PM2.5の長距離越境輸送のソース・レセプター関係の精度向上を図るとともに、これら大気汚染物質の環境影響を定量的に評価し、国際的な議論のベースとする。また、共便益に関しては最近急速に国際的な関心が高まってきたオゾン、ブラックカーボンなど短寿命の放射活性物質(Short-Lived Climate Forcer, SLCF)との共便益/共制御を含めた削減シナリオを議論する。これらの結果を踏まえて、本研究では、東アジアの大気環境管理に関する将来の国際条約などを目指して、国際的な議論の枠組みを提言することを目的とする。
    テーマは以下の3つである。
    (1)数値モデルと観測を総合した東アジア・半球規模のオゾン・エアロゾル汚染に関する研究
    (2)東アジアにおける排出インベントリの高精度化と大気汚染物質削減シナリオの策定
    (3)東アジアの大気汚染対策促進に向けた国際枠組とコベネフィットアプローチに関する研究

    ■ S-7  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ s-7 .pdfPDF [PDF 277 KB]

    2.研究の進捗状況

    [1]数値モデルと観測を総合した東アジア・半球規模のオゾン・エアロゾル汚染に関する研究
    テーマ1(S-7-1)においては、東アジア(北東アジア及び東南アジア)におけるオゾンと PM2.5の長距離越境輸送に関するソース・レセプター関係を確立するとともに、オゾン、ブラックカーボン、 SO2.等大気汚染物質の気候影響を評価するための研究を行い、共便益アプローチを含めた国際取り組みの必要性を指摘した。
    ソース・レセプター関係に関しては、これまでに全球化学輸送モデルを用いて、東アジア域のみならず北半球全域及び成層圏オゾンの寄与を含めたオゾンの授受に関する全体像を得ることができた。これにより我が国への中国などからの影響、中国への他地域からの影響を含めて、東アジアにおける越境輸送に関する全体像を初めて明らかにすることができた。研究の後半ではより高解像度の領域モデルを用いて、我が国のオゾンに対する中国や日本のセクター毎の排出削減感度解析と、 PM2.5に対するソース・レセプターの計算を行う。
    大気汚染の気候影響に関しては、化学気候モデルにより対流圏オゾン・ブラックカーボンについて IPCC過去シナリオを用いて産業革命以来の放射強制力と地表気温上昇との計算を行い、これらの大気汚染物質を合わせた全球平均の温暖化影響は CO2の約半分に相当することを明らかにした。このことは逆にこれらの濃度低減による温暖化抑制のマージンが大きいことを意味しており、今後テーマ2(S-7-2)の削減シナリオ、テーマ3(S-7-3)の SLCF共便益の議論と同調させて、大気汚染物質による将来の温暖化・気候影響の計算を行う。
    オゾン・エアロゾル汚染の現状の実態解明と、それに基づくモデル精緻化の研究では、我が国における常監局データの解析・全球モデル解析などから、我が国を含む北東アジアは世界で最もオゾン汚染の深刻な地域であること、衛星からの観測データから特に中国中東部では 1996-2010年までオゾン前駆体物質である NO2の濃度増加がなお続いていることを明らかにした。オゾン及び特にモデルの精度がまだ劣っている PM2.5等エアロゾルに関するモデルの精緻化のため、九州・福江島及び中国上海北方約 100kmの沿岸・如東(Rudong)における集中観測を行った。福江島では越境大気汚染が主な原因で、PM2.5質量濃度が環境基準を達成できない状況であることを明らかにした。エアロゾルのモデル計算については、水分の影響、農業残渣の野外燃焼からの排出量推定、有機エアロゾルの二次生成メカニズムなどの不確定性が大きく、本研究での観測結果ではこれらのパラメータの精度向上に重要なデータが得られたので、それらを基に、現在 PM2.5に関するモデル精度の向上を行っている。
    [2]東アジアにおける排出インベントリの高精度化と大気汚染物質削減シナリオの策定
    テーマ2では、テーマ1でのソース・レセプター解析や気候影響解析のために用いる、アジア域における排出インベントリ REASについて、 2008年までのアップデートとその高精度化を図ってきた。また、今後テーマ1における将来予測、テーマ3における国際枠組みの議論、共便益アプローチなどの議論に利用する大気汚染物質削減シナリオを作成するため、 IPCCシナリオの中の大気汚染物質インベントリと REASとの整合化を図った。
    REASに関しては、最新のエネルギー消費量などの統計データ、及び、最近の発生源規制動向を考慮した排出係数をもとに、ボトムアップ手法により 2000〜2008年の排出量を推計し、更に、時間・空間分解能を精緻化して、アジア域排出インベントリ REAS2.0を構築した。また、テーマ 1から提供された対流圏観測衛星データと化学輸送モデルを利用して、いわゆるトップダウン手法による逆推計により、中国における NOx排出トレンドについて REAS2.0の結果を評価した。その結果、逆推計された NOx排出量の 2000〜2008年における増加率は REAS2.0の結果よりも低く、インベントリは経年的な増加を過大評価している可能性が示唆されたので、今後この結果を参考にして REAS2.0の改良を進める。
    大気汚染物質削減シナリオの作成に関しては、統合評価モデル AIM(アジア太平洋統合モデル)の経済モデル AIM/CGE[Global]を用いて、アジアを中心とした大気汚染物質の排出シナリオを、社会経済活動及び温室効果ガス排出量のシナリオとセットで作成する準備を進めた。具体的には、 2050年までに世界の温室効果ガス排出量を 1990年比半減させる「低炭素社会シナリオ」に対応する大気汚染物質の排出シナリオを分析するとともに、多様な大気汚染対策技術を評価できるようにモデルを改良した。その結果、「なりゆきシナリオ」では、活動量あたりの大気汚染物質の削減量は増大するが、化石燃料をはじめとするエネルギー消費量が増加し、アジアにおける 2050年の SO2排出量は 2000年と同水準、 NOx排出量についてはやや増加する結果となった。一方、「低炭素社会シナリオ」では、エネルギー効率改善が進み、一次エネルギー消費量が大幅に削減されること、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進むといったことから、大気汚染物質の排出は大幅に削減されることが分かった。
    [3]東アジアの大気汚染対策促進に向けた国際枠組とコベネフィットアプローチに関する研究
    テーマ1におけるこれまでの研究成果から我が国の大気汚染の低減には、半球汚染を含む越境汚染の低減に各国が協同して取り組むための国際的な枠組みが必要であることが確認されたが、テーマ3では、そのような枠組みを目指して具体的にどのような国際的な議論の場を考えるべきかの提言を行うとともに、そのような提言の中で重要な役割を果たすと思われる東アジアにおけるオゾン、 PM2.5による人間の健康影響及び農作物影響の評価、及び共便益アプローチの制度設計を行った。
    過去の条約等に到るプロセスの欧米とアジアの比較、中国・韓国・タイの科学者や政策関係者へのインタビュー調査などから、アジアでは、欧米が長年にわたり培った「科学を基盤とした政策形成」プロセスが欠落していること、政策手段に関する合意形成の経験が少ないこと等が課題であることが示唆された。また東アジアの大気環境管理に関する国際合意に到る現在の段階は、長距離越境大気汚染条約(LRTAP条約)に到る欧州の 1970年代・ 1980年代初頭の段階、気候変動に関する議論の 1980年代後半 -1990年代初頭の状況に相当する時期にあることが示唆された。
    こうした分析から、例えば「アジア大気汚染に関する政府間パネル」のような仕組みを設立し、この中でアジア広域大気汚染に関する科学的知見の確立とその評価・共有(WG1)、大気汚染影響の評価とその知見の共有(WG2)、共便益を含む削減シナリオなど大気汚染緩和策(WG3)を議論する場を創設し、将来の条約等の国際枠組みの促進を目指すことを提言した。予備的な検討から、枠組みのオプションとしては、新たな条約、既存の仕組みの改善等が考えられる。既存のアジア準地域を中心とした取り組みを考慮した当面のロードマップとして、政策調整を中心とする経験の共有とキャパシティ・ビルディングのための国際的な議論の場「アジア太平洋地域の大気環境に関する合同フォーラム」の構築を提言した。
    今後の広域大気汚染に関する各国間の共通認識を形成する上で重要と思われる大気汚染の環境影響に関し、アジアにおけるオゾンと PM2.5による健康影響、農作物影響の評価を行った。その結果、 2000年及び 2005年のオゾンによる中国の作物の減収量は、小麦では大きく(31〜47%)、トウモロコシでは小さい(3〜6%)こと、 PM2.5とオゾンの影響により、 2000年、 2005年、 2020年の早期死亡数は、東アジア全体でそれぞれ約 33万人、 51万人、 67万人と推定されること等を明らかにした。研究の後半には、東アジア地域全体の評価及び経済損失の評価等を行う。
    アジア地域での気候変動政策と大気汚染政策の共便益に関する経済学的な分析のため、アジア版拡大 MERGEモデルを構築した。また、 SLCFの濃度分布は地域的に偏在しているにもかかわらず、各地域に対する平衡気温上昇は CO2等寿命の長い GHGとほぼ同等であることを明らかにし、 SLCF共便益を温暖化抑止の観点から CO2削減を補完することの理論的根拠を構築した。また、 SLCFのメトリックとして有効放射強制力を用いることを提案した。
    [課題全体について]
    本研究は大気汚染に関して自然科学と社会科学を結んで「科学から政策へ(Science and Policy)」に取り組んだ我が国で初めてのプロジェクトであり、その眼目はアジア大気環境管理に向けての国際的枠組み提言にある。これまでの2年間余りの研究から、「アジア大気汚染政府間パネル」のような仕組みの提言を行ったが、今後その実現に向けて具体的内容の検討を行うとともに、政府のみならず幅広いステークホルダーを巻き込んだ仕組みについても検討し、将来の条約等への流れの促進を目指す。

    3.委員の指摘及び提言概要

    国内の光化学オキシダント問題の解決、 PM2.5への対応に不可欠な東アジアでの原因物質、前駆物質のインベントリ、化学的な変化を伴う長距離輸送などの実態解明とモデル開発による定量化、これらの知見を活用した東アジアにおける大気環境管理の枠組作りという明確な目標が設定され、3テーマの設定も適切と考えられる。
    テーマ3については、社会科学分野における研究の特性もあって、現段階においては最終成果を期待するに十分とはいえないサブテーマを含んでいる等、必ずしも高い評価を与えることができないものの、全体についていえば、越境汚染問題に関する本格的な研究として順調に研究か進められていると評価できる。
    特に、テーマ1の数値モデルと観測を総合した広域汚染の実態の解明や、テーマ2のインベントリの高精度化では成果が着実にあがっており、今後の国際協力の推進や国際ルールづくりの上で大きな寄与が期待できる。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-7-1 数値モデルと観測を総合した東アジア・半球規模のオゾン・エアロゾル汚染に関する研究(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 金谷有剛(海洋研究開発機構)

    1.研究概要

    化学輸送モデルにより、オゾン・微小エアロゾルの東アジア域における越境汚染量、半球規模での大陸間輸送量、我が国における生成量を明らかにし、東アジア域からの寄与を定量化する。アジア地域における地上・衛星観測と解析を行い、モデルを精緻化する。これらの結果から、我が国への越境汚染に直接関与する発生源の詳細な地域を特定し、それらの地域における排出削減の我が国への感度評価、我が国における NOx、VOC排出量の低減必要量の推定を行う。同時に、化学気候モデルによって大気汚染物質の気候影響評価と削減感度評価を行う。
    サブテーマは次の 6つである。
    (1)領域モデルによる東アジア広域汚染の解析
    (2)大気汚染物質のソース・レセプター解析と削減感受性評価
    (3)化学気候モデルによる全球大気汚染と温暖化影響の評価
    (4)北東アジアにおけるモデル精緻化のためのオゾン・エアロゾル現場観測
    (5)地上・衛星ライダーによるアジア域のエアロゾル解析
    (6)受動型衛星観測による大気汚染物質の時空間分布の解析

    2.研究の進捗状況

    [1]地表オゾンに関する全球・領域モデルを用いたソース・レセプター解析と削減提案
    越境大気汚染の影響が懸念される 3〜5月において、我が国の地表オゾンの起源は多様であり、自国分 22%、中国 12%、欧米 7%の寄与が含まれることがわかった。 3〜8月の高濃度日に対しては、感度実験から、日中韓でオゾン前駆物質の排出を 30%削減することで一定のオゾン低減効果(約 7ppb減少)が得られることを明らかにし(サブ 2、1)、テーマ 2(S-7-2)での今後の削減シナリオ構築を支援した。また、モンスーンの効果による東南アジアから中国南東部へのオゾン流入寄与も無視できず(サブ 2)、中国を単に発生源側と見なすのではなく、中国への越境輸送も含めた双方向性を重視することが、国際的な対応の際に役立つことが示唆された。関連して、日中韓に東南アジアを加えることでオゾン汚染の利害関係国(流入・流出の寄与率が 10%超)地域を括ることができることがわかり(サブ 2)、日中韓の枠組みに加え、東南アジアを加えた国際的地域協力の枠組みにも科学的根拠があることがわかった(テーマ 3(S-7-3)へリンク)。その他、中国など東アジアの排出量増加を考慮することにより、日本における過去 25年間の地表オゾン濃度の上昇トレンド(+0.32ppb/年)がモデルにより良く再現されることが示された(サブ 2)。今後はテーマ 2、3による将来・削減シナリオに沿った計算、ソース・レセプター解析のエアロゾルへの応用を進める。
    [2]化学気候モデルによるオゾン・ブラックカーボン(BC)全球汚染の気候影響評価
    対流圏オゾン、 BCについて、産業革命前〜現在の濃度分布の変化をシミュレートし、地上観測・衛星観測(サブ 4等)との整合性評価ののち、気候影響を評価した。オゾン、 BCによる放射強制力・地表気温上昇度の全球平均値は合わせて +0.85W m-2、 0.59℃にも達し、 CO2の約半分にも相当することがわかった(サブ 3)。これら短寿命成分の対策も、即効的な気候変動緩和の方策のオプションとして、また環境改善との共便益性の高い施策として、今後十分な有効性をもって議論されるべきであることが示唆された(サブ 3。テーマ 3へ知見提供)。サブ 2、3の連携で、半球規模汚染や大気化学・気候相互作用に関するモデル間国際比較実験に参加した。今後はテーマ横断で将来シナリオに沿った気候影響評価計算を進め、共便益を有する削減方策の提案に結びつける。
    [3]衛星・地上観測によるオゾン・エアロゾル動態解明とモデル精緻化
    オゾン関連では、客観性の高い衛星からの NO2観測データについて、さまざまな空間スケールでの長期トレンドを解析し、特に中国中東部では 1996〜2010年まで増加が続いていることを明らかにした(サブ 6)。日変化は衛星とモデルで整合的であり(サブ 6、1)、観測時刻の異なる衛星データをつなぎ合わせた議論も可能となった(サブ 6。テーマ 2インベントリの検証にも応用)。 VOC(揮発性有機化合物)については精緻な観測データの取得を行った(サブ 4)。領域化学輸送モデルの改良により、九州・福江島でのオゾンについてモデル・観測間の相関係数が向上した(サブ 1)。エアロゾル関連では、福江島において、越境大気汚染が主な理由で、 PM2.5質量濃度の環境基準を達成できない状況であることを観測から明らかにし(サブ 4)、国際取り組みの必要性を指摘した。 PM2.5濃度内訳に含まれる水分の重要性を指摘した。中国華中・ Rudongにおいて、農業残渣の野外燃焼を含む発生源情報など近年得にくい実地データを得た(サブ 4)。福江・華中観測と連携したモデル解析では、硫酸塩濃度はよく再現されるが有機エアロゾルについてはモデルが過小評価する傾向が示され、二次生成分のモデル表現向上を進めている(サブ 1)。地上・衛星ライダーによって、大気汚染性(球形)粒子の情報を黄砂など(非球形)から分離して導出し、東アジアでのエアロゾルの 3次元的動態や光学的厚さの 10年規模変動を推定した(サブ 5)。これらと衛星イメージャによる光学的厚さについてモデルとの比較を行っている(サブ 5、1、6)。以上により、従来のオゾンに加え、エアロゾルについても観測を総合して(サブ 4、5、6)モデルの精緻化を進め(サブ 1)、それを用いたエアロゾルのソース・レセプター解析を H23−24年度に実施する(サブ 2)。

    3.委員の指摘及び提言概要

    東アジアを中心とする広域大気汚染、中でも重要なオゾンとエアロゾル汚染は我が国にとって重要な問題であるばかりでなく、地球規模の対流圏化学にも影響を与える重要な課題である。本テーマはその広域大気汚染の全体像を定量的に把握し、汚染の発生源と受容域の関係を相互に定量化するために個別・数値的に評価しようとしており、国際的な環境問題の議論の場における我が国の立場を強化するうえで行政的にも重要である。これまで実施してきた推進費などもあり、 2年という研究期間に期待される科学的及び政策的な成果を十分に挙げていると評価される。
    しかし、オゾンの観測値と計算値の相関が改善されてはいるが、絶対値での差はまだ大きいこと、有機エアロゾルの計算値が観測値をかなり下回ることなどの課題があり、モデル計算の改良と検証に注力してほしい。また、数値モデルの概要(どこまで改善され、どこが解らないのか、どれほど説得性が持てるのか、国際交渉にどのくらい使えるのか)についての説得力が欲しい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-7-2 東アジアにおける排出インベントリの高精度化と大気汚染物質削減シナリオの策定(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 大原利眞((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    アジア域における大気汚染物質の排出インベントリ REASについて、衛星・地上観測データによる逆モデル計算、検証及び最新推計(トップダウン・アプローチ)、及び排出実態データに基づく排出量推計の改良(ボトムアップ・アプローチ)を行い、その高精度化を図る。また、中国における大気汚染物質の排出削減対策技術の地域ごとの導入水準とその削減効果を同定するとともに、日本の産業集積都市における比較調査に基づいて、経済成長、産業構造、環境投資水準から排出水準を推定する技術導入モデルを開発する。
    さらに、統合評価モデルである AIMを使用し、 IPCC第5次評価報告書に向けて検討されている温暖化対策シナリオやアジアの低炭素社会シナリオをベースに、社会経済活動及び総合的な大気汚染物質削減シナリオを策定する。
    サブテーマは次の 3つである。
    (1)観測データと排出実態データによる排出インベントリの高精度化
    (2)アジア都市での大気汚染物質排出削減のための技術導入モデルの開発
    (3)温暖化対策とのコベネフィット評価も含めた総合的な大気汚染物質削減シナリオの策定

    2.研究の進捗状況

    [1]排出実態データによる排出インベントリの最新推計と改良
    最新のエネルギー消費量などの統計データ、及び、最近の発生源規制動向を考慮した排出係数をもとに、ボトムアップ手法により 2000〜2008年の排出量を推計し、更に、時間・空間分解能を精緻化して、アジア域排出インベントリ REAS2.0を構築した(サブ 1)。その結果、アジアにおける SO2、NOx、CO、黒色炭素(BC)、有機炭素(OC)、 PM2.5の排出量はそれぞれ、2000〜2008年の間に 1.4倍、1.7倍、1.4倍、1.3倍、1.2倍、1.4倍に増加し、中国における排出量が引き続き増加している(各々、1.7倍、2.1倍、1.5倍、1.4倍、1.2倍、1.5倍)ことを明らかにした。しかし、中国の SO2排出量は脱硫装置の普及等によって 2007年をピークに減少し始めていること、NOx排出量の増加も 2005年以降鈍化していることが明らかとなった。REAS2.0は、今後、テーマ 1の化学輸送モデルの入力データ、及び、削減排出シナリオ作成(下記[3])のベースデータとして使用されるとともに、越境大気汚染の現況・経年変化・将来動向の理解、テーマ 3における削減シナリオの影響評価や実現課題の整理に活用される。また、インド工科大学ロルキー、ロシアの Institute of Global Climate and Ecology、中国の北京師範大学との共同研究により、インド、ロシア、中国における最新の排出実態情報を入手した。さらに、中国科学院瀋陽応用生態研究所との共同研究を推進し、遼寧省における詳細な排出関連データを入手した(サブ 2)。今後、これらの地域実態を反映した排出関連データを使用して、REAS 2.0の改良を進める。
    [2]衛星観測データによる排出インベントリの検証と改良テーマ 1から提供された対流圏観測衛星データと化学輸送モデルを利用して、東アジアの NOx
    排出量を簡易に逆推計するトップダウン手法を開発し、 2000〜2008年の中国における NOx排出トレンドについて REAS2.0の結果を評価した。その結果、逆推計された NOx排出量の 2000〜 2008年における増加率は REAS2.0の結果よりも低く、インベントリは経年的な増加を過大評価している可能性が示唆された。この結果を参考にして、今後、 REAS2.0の改良を進める。また、この逆推計手法により、中国・日本・韓国における NOx排出量の季節変動と週内変動を推計し、反応性の低い冬季を除くと、 NOx排出量の時間変動パターンを設定できることを示した。今後、テーマ 1と連携し、中国の地上観測データを活用して REAS2.0の検証・改良を進める。
    [3]大気汚染物質削減シナリオの作成
    大気汚染物質削減シナリオを作成するために、日中両国において、大気汚染物質抑制技術にかかわる産業技術インベントリの構築を進めた(サブ 2)。また、統合評価モデル AIM(アジア太平洋統合モデル)の経済モデル AIM/CGE[Global]を用いて、アジアを中心とした大気汚染物質の排出シナリオを、社会経済活動及び温室効果ガス排出量のシナリオとセットで作成する準備を進めた(サブ 3)。具体的には、 2050年までに世界の温室効果ガス排出量を 1990年比半減させる「低炭素社会シナリオ」に対応する大気汚染物質の排出シナリオを分析すると共に、サブ 2で進めている多様な大気汚染対策技術を評価できるようにモデルを改良した。その結果、「なりゆきシナリオ」では、活動量あたりの大気汚染物質の削減量は増大するが、化石燃料をはじめとするエネルギー消費量が増加し、アジアにおける 2050年の SO2排出量は 2000年と同水準、 2050年の NOx排出量についてはやや増加する結果となった。一方、「低炭素社会シナリオ」では、エネルギー効率改善が進み、一次エネルギー消費量が大幅に削減されること、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進むといったことから、大気汚染物質の排出は大幅に削減される。なお、削減量の変化については、汚染物質によって異なる。更に、大気汚染対策技術を組み込むために、サブ 2と連携して AIM/CGE[Global]を改良し、各国・各地域を対象に部門別に限界削減費用を設定して、個々の技術導入による削減効果を評価できるようにした。

    3.委員の指摘及び提言概要

    排出インベントリの高精度化についてはボトムアップ及びトップダウンの両手法について詳細な検討がなされ、 NOxなどについて逆推計モデルの検証も含めて成果が得られており評価できる。技術導入モデルの開発については瀋陽をモデル地域として調査研究が進められ、 SO2についてよい成果が得られている。
    しかし、この一地域の情報を中国全域また東アジアを対象として解析するには大きなギャップがあり得るので、既存の多くの情報をしっかりと収集利用し、東アジアの特性に合わせて解析する必要がある。また、 2050年の温室効果ガス半減シナリオとの共便益としての有効な将来の排出量削減シナリオの例を明示することなど、一層の研究の加速が求められる。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    テーマ名: S-7-3 東アジアの大気汚染対策促進に向けた国際枠組とコベネフィットアプローチに関する研究(H21-25)
    テーマリーダー氏名: 鈴木克徳(金沢大学)

    1.研究概要

    テーマ1(S-7-1)、テーマ2(S-7-2)の研究成果(東アジアにおける大気汚染物質の排出量の増加が我が国のオゾン・エアロゾル濃度増加をもたらし、大きな影響を及ぼしつつあること、我が国の大気汚染の低減には、半球汚染を含む越境汚染の低減に各国が協同して取り組むための国際的な枠組みが必要であること等)を踏まえ、越境大気汚染を含む東アジアの広域大気汚染問題解決に資する国際枠組みの検討を進める。既存の各種の国際枠組みの分析結果等を踏まえ、東アジアの大気汚染対策を総合的、効果的に進めるための国際枠組みの在り方を提言するとともに、国際枠組みの合意形成に必要な諸課題を明らかにし、交渉に資するような大気汚染と気候変動とのコベネフィット・アプローチ(以下「コベネ」と言う。)の制度設計を含め、国際枠組みの実現に有効な合意形成のプロセスについて提言する。また、そのような交渉プロセスを促進するため、越境大気汚染による環境影響を検討する。
    サブテーマは次の 6つである。
    (1)既存の地域協力枠組み形成プロセスを踏まえた環境分野の合意形成プロセスの研究
    (2)主要関係国の環境政策の変遷とその要因を踏まえた交渉推進の制約要因と課題の研究
    (3)東アジアの大気環境管理における科学と政策の関係に関する研究 -汚染物質削減目標の研究
    (4)政治的経済的動向を踏まえた東アジアの環境協力レジーム形成に影響を及ぼす外的要因に関する研究
    (5)大気汚染物質削減交渉に資するコベネフィットアプローチの制度設計に関する研究
    (6)東アジアにおけるオゾン・エアロゾル汚染の低減による温暖化対策とのコベネフィット評価に関する研究(H22から追加)

    2.研究の進捗状況

    [1]越境大気汚染問題解決のための国際枠組みの在り方
    欧米の長距離越境大気汚染条約(LRTAP条約)の進展を考慮すると、東アジアは、条約の成立に至るステージ、削減対策の合意形成ステージの初期段階(1970年代〜 80年代前半)に相当する時期にあり、「後発国の利益」により欧米におけるプロセスを大幅に短縮できる可能性があることを明らかにした。その際、アジアでは、欧米が長年にわたり培った「科学を基盤とした政策形成」プロセスが欠落していること、政策手段に関する合意形成の経験が少ないこと等が課題であることを示唆した(サブ 1)。
    各国が協同して取り組むための国際枠組み実現に向けた措置として、アジア広域大気汚染のメカニズムに関する科学的知見の確立と評価・共有(テーマ 1)、大気汚染影響の評価とその知見の共有(サブ 3)、削減シナリオに基づく大気汚染緩和策の評価(サブ (3)及びテーマ 2)などを対象とした国際的な議論の場を重層的に構築することが必要なことを提言した。予備的な検討から、枠組みのオプションとしては、新たな条約、既存の仕組みの改善等が考えられる。 EANETの活動範囲が現在なお狭義の酸性雨モニタリングに限定されており総合的な科学的知見の確立と共有の場とないにくいこと(サブ (1)、(2))、科学と政策が対話可能な「合意された知識」という形での知識の展開及び提供が重要であること(サブ (4))等から、例えば交渉枠組みとは別の政府間パネル等の設立の重要性を示唆した。研究の後半には、政府のみならず幅広いステークホルダーを巻き込んだ仕組み、共便益の制度設計を含め、オプションを深化し、国際枠組み構築への流れの促進を目指す。なお、枠組みを評価するために考慮すべき要件として、多様な物質・ガスを対象とした複合効果の考慮、モニタリングから対策に至る統合的なアプローチ、北半球全域の大気汚染に関する対応、気候変動対策とリンクさせた大気汚染対策の必要性を明らかにした。また、大気汚染影響の知見を国際的に共有するために、オゾンの農作物と健康に対する影響を評価し、 2000年及び 2005年のオゾンによる中国の作物の減収量は、小麦では大きく(31〜47%)、トウモロコシでは小さい(3〜6%)こと、 PM2.5とオゾンの影響により、 2000年、 2005年、 2020年(REFシナリオ)の早期死亡数は、東アジア全体でそれぞれ約 33、51、67万人と推定されること、広域大気汚染により既に大きな影響があること等を明らかにした(サブ (3))。研究の後半には、東アジア地域全体の評価及び経済損失の評価等を行う。
    [2]国際的枠組みの実現に有効な合意形成のプロセス
    文献調査及び関係国担当者へのアンケート、インタビュー等により、アジアでは合意形成に際しては各国のオーナーシップが重視されていること、コンセンサス方式の合意形成による漸進的なステップが求められること、将来の発展に対する柔軟性が求められること(サブ (1))、国ごとに関心の高い大気汚染が異なること、科学的な国際協力が求められていること、一カ国による過剰な主導を避けることが望まれること、現在の枠組みに対する誤解があること(サブ (2))等を明らかにした。既に準地域を中心とした取り組みが進んでいることから、当面のロードマップとしては、グローバルな視点を持ちつつも、既存の取り組みを活かしたアジア独自のイニシアチブが重要であることを示唆し、政策調整を中心とする経験の共有とキャパシティ・ビルディングのための国際的な議論の場の構築を「アジア太平洋地域の大気環境に関する合同フォーラム」として提言した。研究の後半には、合同フォーラム等を活用し、合意形成の基盤づくりを進める。
    [3]交渉に資するような大気汚染と気候変動とのコベネフィット・アプローチの制度設計
    アジア版拡大 MERGEモデル(経済モデル)を開発した。このモデルにより、アジアの各地域(国)の大気汚染政策、気候変動政策、エネルギー政策に関する様々なオプションを示し、各オプション下での各地域(国)の行動の経済的コストを把握するとともに、共便益を考慮した場合の経済合理性を定量的に示す(サブ (5))。大気中の寿命が短い温室効果ガス(オゾン、ブラックカーボン等: SLCF)の濃度分布は地域的に偏在しているにもかかわらず、各地域に対する平衡気温上昇は CO2等寿命の長い GHGとほぼ同等であることを明らかにし、温暖化抑止の観点から SLCF削減が CO2削減を補完し得ることの理論的根拠を構築した。また、 SLCFのメトリックとして有効放射強制力を用いることを提案した(サブ (6))。

    3.委員の指摘及び提言概要

    大気汚染と気候変動とのコベネフィットアプローチについて国際的な合意を得て、各国における大気環境管理を推進し、越境汚染の低減を図る本テーマは、まさに行政・政策を直接支援する研究と位置づけられる。各国の考え方、状況について情報が収集され、アジア・コベネフィット・パートナーシップの枠組みが形成されたことは評価されるが、サブテーマ間での連携が不十分で、成果の見えないサブテーマもあり、テーマ全体としてのまとまりに問題が生じている。
    本テーマは S-7全体の評価を左右する重要な位置づけにあり、サブテーマ担当者はそのことを自覚しチーム内でよく議論し、かつ他のテーマともよく連携を図る必要がある。さらに、提案されている「アジア大気汚染政府間パネル」の仕組みの有効性が懸念され、より国家戦略を明確に打ち出した仕組みを検討する必要がある。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    中間評価 1.第1研究分科会<全球システム変動>

    研究課題名: A-1001 埋立地ガス放出緩和技術のコベネフット比較検証に関する研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 山田 正人 ((独)国立環境研究所 )

    1.研究概要

    世界中で開発および導入されている廃棄物埋立地の温室効果ガス放出緩和技術について、温室効果ガス放出削減と浸出水汚濁防止というコベネフィット性能を定量的に評価し、比較検証する。各種緩和技術適用時における温室効果ガスと浸出水の長期的な挙動を、実験と現場観測で得たデータにより定式化する。その上で我が国で開発された代表的な緩和技術である準好気性埋立技術のコベネフィット性能を、東アジアの気候・廃棄物の条件下で最適化する技術仕様を提示する。
    サブテーマは次の3つである。
    (1) 埋立地ガス放出緩和技術の温室効果ガス排出抑制機能の比較評価に関する研究
    (2) 埋立地ガス放出緩和技術の浸出水制御機能の比較評価に関する研究
    (3) 準好気性埋立技術の東アジア地域への適応化に関する研究

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ a-1001 .pdfPDF [PDF 232 KB]

    2.研究の進捗状況

    (1) 準好気性埋立における廃棄物埋立地からのメタン排出挙動を表現する、好気嫌気共存下ガス排出モデルの詳細を検討した。好気および嫌気的な廃棄物分解速度に対する阻害定数をそれぞれ実験的に算出し、算定量評価に適用した。同モデルは分解機作が嫌気分解の一部が好気的に転換されただけでなく、包括的な分解促進が表現可能なモデルとなっていることが示唆された。
    (2) 埋立構造の違いによる酸素流入は廃棄物中の炭素の分解・可溶化速度への影響は小さいが、可溶化期間の短縮およびガス化への移行に影響することが示された。この移行時期の定式化を通じて、液相への炭素分配挙動(浸出水炭素負荷)を表現する手法について検討した。窒素の可溶化量も酸素流入により減少し、菌体同化、硝化脱窒反応による気化、非解離性アンモニアの蒸発(ストリッピング)などによる浸出水窒素負荷の軽減機構が提案された。
    (3) タイにおける準好気性埋立テストセルおよびライシメータ実験を実施し、廃棄物層内の水分不足による生物活性低下を防ぎつつ、ガス交換の空隙を確保する必要性が示された。熱帯地域で準好気性埋立を緩和技術として十分に機能させるためには、廃棄物層への降水の浸透量と廃棄物層からの排水量の調節が肝要であることが示された。

    3.委員の指摘及び提言概要

    有機物の埋立処理方法の違いが、温室効果ガス排出と浸出液中の有機物濃度に及ぼす影響について、定量的な知見が得られつつあることは評価できる。メタン回収効率と再利用、埋立地の早期安定による都市用地としての有効利用など、さらに広い視点からのコスト・ベネフィットを考慮したアプローチを期待する。また、全球システムへの貢献の視点を示すことが望まれる。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: A-1002 日本海深層の無酸素化に関するメカニズム解明と将来予測(H22-24)
    研究代表者氏名: 荒巻 能史 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    日本海の深層では、温暖化の影響により、過去数十年間にわたって深層海水の水温が上昇、溶存酸素濃度が減少していることが分かってきた。
    本研究は、日本海全域における海洋観測を利用して、海水中溶存酸素濃度の時空間分布図を作成するとともに、水温や塩分などの海水特性や海水の流動過程などを解明する。これらの結果をモデル計算に応用して過去数十年間の溶存酸素濃度の時系列変動の再現実験を行い、その将来予測に資する。これにより、今後の地球規模での温暖化に伴う海洋環境変動に関するシミュレーションに貢献する上、国民にとって最もなじみ深い日本海の温暖化影響の情報発信による温暖化問題に対する国民への啓蒙を推進する役割も担う。
    サブテーマは次の4つである。
    (1) 溶存酸素濃度の高精度時空間マッピングによる日本海深層の無酸素化の将来予測
    (2) 日本海深層における海水混合と水塊変質過程の解明
    (3) マルチトレーサーを活用した日本海底層水の起源推定と循環機構の解明
    (4) 鉛直多層ボックスモデルを用いた日本海底層水の海水年齢と漸減する溶存酸素濃度の再現実験

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-1002  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ a-1002 .pdfPDF [PDF 1,286 KB]

    2.研究の進捗状況

     (1) 過去の日本海全域で得られた溶存酸素データの品質管理ならびに再解析の結果、日本海底層水中の溶存酸素濃度は海盆によって時間変動が異なることが明らかになった。また2010年の大規模観測によって、溶存酸素濃度の長期的な減少傾向がなおも継続していることを確認した。
    (2) 日本海盆及び大和海盆において海面から海底付近までの海水特性の測定、ならびに降下式超音波流速計による海底直上までの流速測定を実施した。これらのデータ解析から、日本海深層の海水混合には海底で励起された120m以上の鉛直波長をもつ近慣性周期の内部重力波が関与していることを明らかにした。
    (3) 日本海深層水塊の形成域やその起源、循環過程を詳細に把握するため、既存のCFC-11、CFC-12及びSF6同時定量法を改良して、これまで不可能であったCFC-113を加えたハロゲン化合物4成分定量法を開発した。また日本海盆及び大和海盆において、CFC-12、CFC-113、ならびに炭素14の測定を行い、CFC-12/CFC-113比が日本海深層循環のトレーサーとして有効であること、大和海盆の底層水の方が日本海盆に比べて見かけ上"若い"水塊であることを明らかにした。
    (4) 1℃以下の水温値をもった沈降量を未知数として適当に変化させ、海水が沈降できる水深が時々刻々変化する水温鉛直プロファイルで決定される、より現実に近い物理構造をもつ鉛直多層ボックスモデルを構築した。さらに既存の水温及び炭素14データが再現できるようにパラメータをチューニングして、日本海深層水の海水年齢を見積もった。

    3.委員の指摘及び提言概要

    低層水中の溶存酸素は長期にわたり低下傾向にあることを解析により示しており、フロン類をトレーサーとした海水の物理特性を鉛直24層にわたり実測し、鉛直多層モデルへデータを渡すなど、底層水の溶存酸素低下の実態に迫ろうという本課題は順調に進行していると判断できる。また、個々のサブテーマでの学術的な成果も期待されるが、全体としての無酸素化の将来予測について、今後はモデルの改良を含め、より定量的な見通しにつなげることを望みたい。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆
     
    必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-1003 北極高緯度土壌圏における近未来温暖化影響予測の高精度化に向けた観測及びモデル開発研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 内田 昌男 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    近年、温暖化が顕在化している北極高緯度域では、永久凍土の融解や自然火災の増加が報告され、気候変動に対する脆弱性が指摘されている。これまで冷涼かつ湿潤な気候ゆえに大量の土壌炭素が蓄積されてきたこれらの地域では、今後の劇的な環境変動によって炭素循環の様相が大きく変化し、陸域土壌炭素リザーバーを容易に不安定化させることが懸念されている。しかしながら、温暖化に伴う永久凍土の融解による物理・水文プロセスの変化や、長期的に残留してきた土壌炭素分解とこれに伴うCO2放出に関するデータは少なく、精度の高いモデルを構築するための体系的な観測は実施されていない。そこで本研究では、北極高緯度域土壌有機炭素の中・長期的な動態をシミュレートするモデルの開発とその高精度化を目標に、アラスカにおける観測とモデル研究を並行して行う。
    サブテーマは次の4つである。
    (1)土壌有機炭素分解の実態把握と生物地球化学的メカニズムの解明
    (2)微気象・物理・水文プロセスの総合観測と変動量評価
    (3)温室効果ガスのフラックス観測とその起源の定量的評価
    (4)土壌炭素動態モデルの開発および高精度化

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ a-1003 .pdfPDF [PDF 443 KB]

    2.研究の進捗状況

     (1)土壌有機炭素蓄積の実態把握のため、アラスカを南北800kmに縦断するトランセクトに沿って、火災跡地を含む16 地点で土壌採取を実施し、放射性炭素同位体(14C)による土壌有機炭素の滞留時間の算出を行った。また古土壌の有機物分解等の北極域特有の炭素分解メカニズム解明のため、土壌CO2、土壌から放出するCO214C分析を行い、土壌から発生するCO2の炭素源に関する知見を得た。北方林の火災跡地の解析からは、火災により表層10cmの植物リター層(炭素量にして4.4kgCm2相当、1950年以降に蓄積した炭素の53%)が焼失していたがわかった。本研究で行った14C分析法では、土壌炭素プロファイルに正確な時間情報を与えることができることから、土壌炭素蓄積量の算出だけでなく、焼失量の算定もでき、シミュレーションモデルの開発・検証において極めて重要なデータを提供可能であることが確かめられた(サブ1)。
    (2)アラスカ北部では冬期の積雪の多寡が、地面の冷却・凍結状態に影響し、融雪後の昇温・凍土融解に影響を与える、また融雪水は土壌水分の変動に重要な影響を持つ。そこで、アラスカを南北に縦断するトランセクトに沿った年間モニタリングサイトにおける年間の地表付近の気象・積雪状態(積雪深・積雪内温度プロファイル・熱伝導)・地温プロファイル・土壌水分・凍結深の時間変化を計測し、これによって広域の物理環境の時間変化をモニターし、これらの地域差、季節変化の特徴を示した。ここで得られる物理情報を温暖化影響予測の高精度化に向けたモデル開発を実現するための検証データとして提供した(サブ2)。
    (3)サブテーマ1および2と連携して南北のトランセクト上に定点観測点6地点をもうけ、生態系毎の土壌呼吸速度およびメタンフラックスの測定を行った。さらに土壌呼吸及びメタンフラックスと微生物活動との関連性を明らかにするため、土壌微生物群集構造の解析を行った。この結果、2004年の火災跡地は、高いメタンシンクとなっていること、またこれを裏付けるようにメタン酸化細菌の存在量が未火災地と比べて高いことが判明した。また土壌中の微生物群集構造は調査点によらず特定の細菌種が普遍的に存在している一方で、その組成すなわち多様性は、温帯などの環境と比べて低く、環境変化が北極微生物生態系へ与える影響が大きいことが示唆される結果を得た。加えて、同じ調査点でも深度に応じ群集構造が変化していることも判明した。北極土壌圏における微生物群集構造と温室効果気体発生量との関連性を定量的に明らかにするため、土壌の培養実験にも着手した。微生物活性の温度依存性を求めることは、微生物群集と微生物代謝応答の変化も考慮に入れた新たな土壌炭素動態モデルの開発につながることが期待される(サブ3)。
    (4)土壌内部の鉛直構造を明示的にシミュレーションする土壌炭素動態モデルの開発を達成した。構築されたシミュレーションモデルによって、世界で初めて動的に変化する土壌炭素循環と土壌物理のプロセスが明示的に結合された。これにより、気候変動によって引き起こされる土壌の温度や水分量の変化が土壌炭素の蓄積や分解に与える影響を正確にシミュレーションすることが可能になった。さらに、土壌中の14Cの変動を扱うプロセスをモデルに組み込むことによって、フィールド観測で得られた14C濃度や年代推定の結果と直接比較可能なシミュレーションモデルとなったため、シミュレーション結果の検証が容易となり、より適切な将来予測を行うことができるようになる。シミュレーションモデリングとフィールド観測の有機的結合とフィードバックによって将来予測の高度化を達成している(サブ4)。

    3.委員の指摘及び提言概要

    本課題では、炭素循環における重要な要素である土壌炭素蓄積量に関して、これまで欠如していた北方域での困難な観測を行うとともに、北方域の特性を表現できる炭素動態モデルを開発・高度化することにより、変動のメカニズムの解明を進めつつある。また、科学的な成果の論文掲載もインパクトがあり、研究が順調に進んでいるといえる。今後、プロセス研究の進展と、その成果のモデルへの反映を期待したい。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆
     
    必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
     効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    中間評価 2.第2研究分科会<環境汚染>

    研究課題名: B-1001 有明海北東部流域における溶存態ケイ素流出機構のモデル化(H22-24)
    研究代表者氏名: 熊谷 博史 (福岡県保健環境研究所)

    1.研究概要

    近年の有明海における魚介類の激減、ノリ不作、赤潮・貧酸素水塊の発生など多くの異変は、同海域の漁業を壊滅させかねないため、その原因解明と再生へ向けた対策が緊急の課題である。赤潮対策としては、植物プランクトンの餌となる、陸域からの栄養塩の流入を把握する必要がある。通常、植物プランクトンの必須栄養塩は窒素・リンであるが、珪藻の場合はこれに溶存態ケイ素(DSi)が加わる。有明海の赤潮すなわち植物プランクトン優占種の変遷を論じるためには、DSi を含めた栄養塩の定量的な把握が必要不可欠である。そこで本研究では、陸域から有明海へのDSi の流出状況を明らかにすることを目的とする。本研究は、三つのサブテーマからなり、
    (1)DSi を発生・変動させる要因について実態(1,発生源、2.流域間移動、3.停滞域トラップ)を把握し、
    (2)沿岸域に流入するDSi を定量的に把握する手法を開発し、
    (3)抽出されたDSi 発生・変動要因が沿岸域に流入するDSi にどの程度の影響を与え、実際に沿岸生態系に影響を与えていたのかを調査するものである。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1001 .pdfPDF [PDF 456 KB]

    2.研究の進捗状況

    本年度は、サブテーマ(1),(2)を実施した。
    サブテーマ(1)-1 では、人為的発生源として事業場排出水中のDSi について調査した。DSi 濃度は範囲に幅があるものの、DSi 濃度20mg・L-1 以下のサンプルが全サンプルの82%を占めており、業種毎の平均値についても0〜約20mg・L-1 の範囲にあった。幾つかの業種で高いDSi 濃度の排水を有するものがあったが、その多くは排出負荷量が小さかった。しかしながら排出源の周辺調査により、事業場排水が影響し水域のDSi 濃度が増加している事例も確認された。
    サブテーマ(1)-2 では、嘉瀬川・筑後川・矢部川水系において、水道用水取水18 箇所、工業用水取水6 箇所、農業用水取水553 箇所、水力発電所34 箇所、下水道31 箇所において水移動が確認され、最も取水量の大きい取水は農業用水であった。
    サブテーマ(1)-3 では、研究対象流域内の幾つかのダム・堰においてDSi 沈降フラックスを、珪藻プランクトン種数データより見積もった。沈降フラックスが増加する時期及びフラックス量は水域に応じて異なっていた。また、見積もりの際には、増殖する植物プランクトンのサイズ及び沈降速度が、フラックスの算定量に影響していた。
    サブテーマ(2)では、定常・洪水時の流量・DSi 濃度データより陸域からのDSi 流出負荷量の経年変化を算定した。その際、調査地点より下流域からの負荷量については、流域地質データをもとに推定した。その結果、ノリの色落ちの生じた2002 年においては前年度比で三河川の合計の流入負荷量が17%減少していた。

    3.委員の指摘及び提言概要

    少ない研究費の中で、所定の計画に従い順調に調査・研究が進行していること、目的が明確で手法はシンプルであるが多くの調査が系統的に実施されていること、DSi に着目して有明海異変を取り扱った研究で新規性が高いこと、DSi の発生・変動要因調査が徹底的に実施され多くの実測値データが蓄積されたこと、DSi 流入負荷算定方法の開発に向かい進展がみられること、などが評価できる。
    今後、沿岸生態系への影響、ため池とダム湖の比較、DSi 発生・変動要因分析、一般的に適用できる定量性のある算定式を得ること、DSi 濃度ののり不作への影響の解析、DSiの負荷量を河川と事業場排水由来とに区別をした解析を進めることにより、さらなる研究の進展が期待される。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: B-1003 貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と底層DO 目標の達成度評価手法の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 堀口 敏宏 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    東京湾などの閉鎖性海域では30 年に亘る水質総量規制制度により、一定の水質改善がみられる反面、生物が生きていけないほど溶存酸素(DO)濃度が低下した貧酸素水塊が夏季を中心に広く分布し、生物の生息環境は依然厳しく、魚介類の種数や個体群豊度、現存量は低水準のままである。本研究では、魚介類において環境の影響を特に受けやすい生活史初期の個体(本研究では、特にマコガレイ稚魚とアサリ浮遊幼生・着底初期稚貝)に着目し、室内実験、現場調査及び統計学的手法を駆使して、底層DO 目標値導出のための初期生活史標準試験法の確立、科学的根拠に裏付けられた底層DO 目標値の提示、その目標値適用のための水域区分の提案、及び底層DO 目標の達成度評価手法の確立を図る。これにより、良好な海域環境の回復に向けた政策への貢献が期待される。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1003 .pdfPDF [PDF 483 KB]

    2.研究の進捗状況

    サブテーマ1 及び2 についての進捗と特筆すべきことは、概ね、以下の通りである。初期生活史試験法の標準化について、重要な点とそれを的確に実施するための方法論はほぼ確定し、プロトコルを今年度中に作成できる見通しである。また、それに基づいて実施した試験でマコガレイ稚魚とアサリ幼生・着底初期稚貝の貧酸素耐性データを獲得・蓄積し、来年度に予定通り、シミュレーションを実施する予定である。両種が斃死するDO レベルとともに、貧酸素水塊(低DO海水)に遭遇した際の行動等に関する観察結果も得ており、それらをシミュレーションに反映させる予定である。特筆すべきこととして、アサリ幼生及び着底初期稚貝には、当初の予想以上に貧酸素耐性があることがわかった。一般に、アサリ、サルボウガイ等ある種の二枚貝成体には貧酸素耐性があることが知られているが、幼生等の生活史初期の個体についてはほとんど知見がなく実態が不明であったことから、本研究で得られた成果は貴重である。また、実海域における観測と室内実験の結果から、アサリ幼生は貧酸素水塊を避けて行動する(忌避行動)特性も有している可能性が見出された。これらの結果は、底層DO 目標値の設定及び適用のために有用な基礎知見であるばかりでなく、生活史のごく初期の段階からアサリにこれほどの貧酸素耐性があるのはなぜか(生理学的な機構)、また、そうした生理特性が生物進化のどの過程で獲得され、また、発生・発達期のいつから現れるのか(進化生物学的な獲得機構、並びに、発生生物学的な発現機構)、等の学問的興味をもかき立てるものである。サブテーマ3 では底層DO 目標の達成度評価手法の確立に向けて、二つの課題を推進した。初めに、特定の閉鎖性海域内において測定時点毎にDO 基準値を満足している面積比率を推計し、それを測定時点の順序を考慮に入れずに評価する累積頻度図法の有効性や拡張性等を確認し、この手法の解析結果を分かり易くする方法論の開発を行った。また、測定地点毎の基準値を満足する時間比率に着目し、上記の方法とは異なる累積頻度図法の構築を検討し、現在、その有効性等5 / 30を検証している。次に、DO 基準値の判断に対する年間測定日数の影響を検討し、1年間のサンプリング回数とDO 基準値の誤判別率の定量的評価をシミュレーションと解析的手法により行った。具体的には、データとモデルによって年間の測定回数の変動に伴う誤判別率(1年間において基準を満足していない日が存在しているが、年数回の測定ではそれが検出されない。また、サンプリング回数を増やせば、誤判別率は小さくなる。)の推定を行った。この結果から最終年度に向けて、底層DO 目標達成度評価において行政上必要不可欠である年間の測定回数の決定や目標値適用のための水域区分の提案を定量的に行うための前提作業が終了した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    現行の水質環境基準の見直し、底層DO の環境基準化を目前に控え、現実的な影響評価手法確立のための基礎研究を目標とした本課題の試みは社会的・行政的必要性が高く、学術的な新規性も期待できる。本課題は円滑に推進されて、貧酸素耐性の水槽実験や三河湾現場観測データなど興味深い知見が得られており、研究資金に照らして、期待通りの成果を上げている。二枚貝の貧酸素化による影響のモデル開発や数値モデルによる貧酸素水塊の形成シミュレーションには、現地観測データとの突き合わせなど詳細な検討が必要になろう。また、学術誌への論文投稿と学会での口頭発表を積極的に進める必要がある。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: B-1004 浅い閉鎖性水域の底質環境形成機構の解析と底質制御技術の開発 (H22-24)
    研究代表者氏名: 西村 修 (東北大学)

    1.研究概要

    富栄養化は世界に共通する課題であり、日本のみならず中国など経済発展の著しい諸外国ではアオコ発生による利水障害が恒常化するなど問題が深刻化している。さらに、地球温暖化は富栄養化を加速度的に進行させることが予測されている。特に富栄養化しやすい特性を有している浅い閉鎖性水域では、底質有機汚濁化、巻き上げによる水質汚濁が著しく、植物や動物など底生生物の消滅をもたらしている。そこで、本研究では流動制御が底質の改善を通じて水質改善、生物多様性の改善というインパクト・レスポンスをもたらすことを実証し、富栄養化対策技術として確立することを目標に、浅い閉鎖性水域の底質環境形成機構の解析と底質制御技術の開発を行う。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1004  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1004 .pdfPDF [PDF 294 KB]

    2.研究の進捗状況

    (1) 底質制御技術の開発流動制御(インパクト)による底質改善(レスポンス)を技術として確立するために、実際の場で想定するインパクト・レスポンスが成立しているのか検証を行った。松島湾桂島沿岸の隣接するコアマモ場と裸地をフィールドとして、底質-直上水間の粒子状有機炭素(POC)のフラックスを測定し、流動(底質から5 cm 上の流速・流向)および底質性状との関係を解析した結果、藻場の平均流速(10 分平均)0.4 cm/s に対し、裸地は3.1 cm/s と1オーダー大きかった、一方、二潮汐間のPOC フラックスは藻場で巻上げ、裸地で沈降が卓越していた。これらの結果は研究代表者らの行っている砂質・泥質干潟の結果に一致し、流動と底質の有機炭素含有率には動的平衡が働き、流動の弱い場は底質の有機炭素含有率が高く、平常時はPOC のソースとして働くことが検証された。
    (2) 底質形成機構(水の流動と底質の有機物含有率の関係)のモデリング浅く富栄養化した湖沼に適用できる底質巻き上げモデルの開発をめざし、伊豆沼をフィールドとして強風時の現地観測を行った。その結果、底質の巻上げには風波によって生じる振動流や乱流の影響が大きいことがわかった。この結果を基に、風速および吹送距離を考慮した流速振幅を定式化し、これを水面における境界条件としたk-ε乱流モデルによる湖水流動の3 次元モデルを構築した。この方法により、風による底質の巻上げを高い精度で再現することができた。モデル中の経験的なパラメータに関しても霞ヶ浦と伊豆沼を比較しながら湖沼形状、底質性状の差異を考慮して説明することが可能となり、様々な特徴を有する浅い閉鎖性水域の底質形成機構を説明できるモデルへと展開する基礎が構築できた。
    (3) 底質環境の長期連続モニタリングおよび底質環境形成機構の解析伊豆沼をフィールドとして砂質、泥質、砂泥質と底質性状の異なる3 地点を選定して一ヶ月以上の流速・流速連続モニタリング(10 分毎に1 秒間隔で30 個)を行い、底質環境特性の異なる場における流動特性を解析し、底質性状と流動特性との関係を考察した。その結果、底質の炭素含有率と平均流速(10 分平均)との関係はみられなかったが、新たなパラメータとして流速v がある流速vc を超える頻度F(v≧vc)を定義して解析を行ったところ、F(v≧5cm/s)と底質の炭素含有率との間に相関が認められた。流動特性の詳細な解析から平均流速が最も低いものの砂泥質の性状を有する地点において振動流が認められ、振動流による巻上げが底質の炭素含有率を支配する可能性が示唆された。

    3.委員の指摘及び提言概要

    概ね計画に書かれた研究・調査が進行している点では評価できる面があるものの、本来の目的に向けた道筋と計画・調査の方向性に以下の問題がある。研究対象の選択では海の干潟と富栄養化した浅い湖の二つを対象としていることから底質環境形成機構の解明とモデル解析を実施することに困難があること、サブテーマ2 と3 は同じ伊豆沼が研究対象であるが調査地点も異なり連携していると思えないこと、「水域の流動が底質を支配する」という仮説の検証のために必要なパラメータ、測定期間やどのようなモデル解析を実施するか等が明確でないこと、既往の研究成果を踏まえていないことや現象を大局的に見る視点に不足が見受けられること等の点について担当間で熟考し、伊豆沼の汚染の現実問題の解決との間の距離を埋める必要がある。また、成果の対外的発表にも更なる努力が必要である。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: B-1005 環境基準項目の無機物をターゲットとした現場判定用高感度ナノ薄膜試験紙の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 高橋 由紀子 (長岡技術科学大学)

    1.研究概要

    事業所での日常的な排水管理、汚染土壌調査、農産物等の大量スクリーニング、発展途上国での水質管理、学校用教材などへの利用と、有害イオンの分析ニーズは多い。しかしながら、基準値が低く機器分析頼りであるため、現場ですぐに結果が分からない、測定料金が高い等の問題のため、分析は限られた範囲に止まっている。真の水質、食品、環境管理を達成するために“だれでも、その場で、迅速に、基準値を超えているか否か判定できる”高感度ナノ薄膜試験紙を提案する。代表者は有機比色試薬のナノ粒子もしくはナノコンポジットから成る厚さ数百ナノメートルの薄膜を作成する技術を確立し、これを用いた高感度なナノ薄膜検出法(既存のイオン試験紙の1,000 倍以上の感度をもち、基準値(ppb)レベルが判定可能)を発案した。環境基本法及び水質汚濁防止法の定める基準のうち無機物(カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、ニッケル、モリブデン、亜鉛、銅、鉄、マンガン、砒素、セレン、ふっ素、ほう素)の14イオンをターゲットとして、個々のターゲットに対する既存の有機比色試薬群から、[1]ナノ薄膜作製の可能性、[2]ターゲットイオンとの反応性、[3]およその感度、[4]およその選択性、[5]感度、[6]選択性、[7]実試料への適用、という評価基準を順次適用することで至適試薬を選定し、現場分析に資するナノ薄膜試験を提供することを目標とする。上記のうち、7 割程度の創出を目指す。特に[4]までクリアした試験紙については[5]から[7]では選別は行わず、使用条件や性能等の仕様を求める。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1005  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1005 .pdfPDF [PDF 225 KB]

    2.研究の進捗状況

    平成22 年度は、サブテーマ(1)膜の作製条件の最適化、(2)ターゲットとの反応条件の最適化、(3)機器分析を用いた試験紙のクロスチェックを行った。
    (1)膜の作製条件の最適化
    カドミウム、鉛、亜鉛イオンについて製膜の可能性による試薬のスクリーニングと定量的製膜のための諸条件の確立およびフッ化物イオンについては新規反応系の開発を行った。カドミウムでは15 試薬から10 試薬が、鉛試薬では9 試薬から7 試薬が選択された。フッ化物イオンは試験紙に適した蛍光検出系が見出された。ナノコンポジット膜の作成に必要となるナノ担体の探索実験を行い、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウムのナノ粒子が新たに試験紙の定量的製膜に適した担体として見出された。
    (2)ターゲットとの反応条件の最適化
    水銀、カドミウム、鉛、亜鉛イオンについてターゲットとの反応性によりスクリーニングを行い、選出された試験紙について感度を求めた。フッ化物イオンについては新規反応系の開発を行った。水銀イオン用ナノ薄膜試験紙として、ジチゾンナノ繊維膜が最終的に得られた。仕様は、通液濃縮法で試料溶液を100 ml とすると、分析時間17 分、TLC スキャナでの検出限界は0.057 ppb、定量範囲0.1〜20 ppb であった。選択性は、10 ppb の水銀イオンの定量に対し、1,000,000 倍のナトリウムイオン、500,000 倍のカリウムおよびカルシウムイオン、50,000 倍のアルミウム(III)イオン、酸性条件下で20,000 倍のクロム(III)イオン、10,000 倍の鉛(II)、鉄(III)、マンガン(II)、ニッケル(II)イオン、さらにEDTA をマスキング剤として添加し水溶性錯体として分離することで10,000 倍の亜鉛(II)イオン、1,000 倍のカドミウム(II)イオン、640 倍の銅(II)イオン、さらに還元剤のアスコルビン酸の添加で20,000 倍のクロム(VI)イオン、ヨウ化ナトリウムを沈殿剤として用い前ろ過することで5 倍の銀(I)イオンを許容であった。アニオン類(塩化物イオン、臭素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン)についても20,000〜12,000,000 倍の添加も許容であった。カドミウムでは評価基準[1]をクリアした10 試薬から3 試薬が、鉛試薬では7 試薬から3 試薬が選出された。5-Br-PADAP ナノ粒子膜は試験紙法にて、色彩計での検出で、カドミウムイオンの検出限界は18.33 ppb、定量範囲は〜約700 ppb であった。TMPyP/SA ナノコンポジット膜は通液濃縮法にて、TLC での検出で、カドミウムイオンの検出限界は0.102 ppb、定量範囲は1〜200 ppb であった。フッ化物イオンについて、排水基準(8 ppm)を満足する、蛍光検出試験紙が見出された。また既存の試験紙のデップ&リードとは異なる本ナノ薄膜試験特有の検出特性について、測定形態の改良のための検討を行った。
    (3)機器分析を用いた試験紙のクロスチェック
    まず5-Br-PADAP のカドミウムイオン試験紙を例として、試験紙の評価にICP 発光分析およびICP 質量分析によるサンプル溶液と試験紙抽出溶液の分析が妥当であることを示した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    公定法に準ずる感度を持つスクリーニング法については、現場での要望は強く、試験紙等の低コストで迅速な測定手法について、その確立が望まれている。本課題では、Hg 用以外の実用化、製品化にはまだ課題が多いと考えられるが、試験紙としての有望なナノイオン交換体の開発、最適化に向けた詳細な検討、機器分析を用いたクロスチェック体制の確立などが評価できる。ナノ薄膜の作製に関しては、Cd、Zn、Pb、フッ化物イオンの4 項目について、詳細な条件設定による最適化の検討が進められているが、まだそれぞれ課題を残している。対象となる14 項目の無機イオンのうち、7割程度のイオンに対する試験紙の創出を目標としているが、進捗状況から3 年間では目標はやや高すぎると思われる。重要な毒性元素(Cd, Pb, Cr, Sb, Mn, As)の研究に優先的に取り組むことが必要であり、本課題の要である実試料への適用を急ぐことが望まれる。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: B-1006 先端的単一微粒子内部構造解析装置による越境汚染微粒子の起源・履歴解明の高精度化(H22-24)
    研究代表者氏名: 藤井 正明 (東京工業大学)

    1.研究概要

    本研究では、越境汚染の影響を強く受けており、かつ、人為起源排出が少ないと考えられる長崎県福江島にてバルク観測を行い、後方流跡線解析、エアロゾルに含まれる金属元素の存在比、有機エアロゾルに含まれる化合物の化学変化から履歴推定と起源の推定を行う。これに加えて、単一微粒子内部構造解析装置を用いてバルク観測と同期して捕集する単一微粒子の内部の質量イメージングを行う。構成物質ごとの粒子内分布(質量イメージ)が当該粒子の生成した場所や浮遊履歴を反映することを利用し粒子の起源を区別する。統計的に信頼できるほど十分な粒子を解析することで起源別の粒子の特徴が明らかになり、従来から行われているバルク観測と総合化して越境汚染微粒子の起源・履歴解明の新手法を開発し高精度化を実現する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1006  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1006 .pdfPDF [PDF 642 KB]

    2.研究の進捗状況

    2010 年3 月及び12 月に長崎県福江島にてバルク観測を行うと同時に微粒子を捕集し単一微粒子解析を行った。その結果、これまで明らかになっていなかった粒子の混合状態に関する詳細な知見を得た。例えば3 月にサンプリングした粒子については、中国・韓国付近を通過して福江に至る気団(大陸由来)の場合、液滴状の「染み出し」粒子が多くみられた。一方、日本海や太平洋を経由してきた粒子にはこのようなタイプのものは見られなかった。分析の結果、染み出し粒子には
    1)NaCl が主成分で微量のCa が含まれるもの、
    2)CaCl2 が主成分でNa をほとんど含まないもの
    という2 つのタイプがあることが分かった。
    前者は海塩粒子が溶け一部土壌成分を取り込んだものと思われる。後者は土壌と海塩の反応物と思われるがNa をほとんど含んでいない。このCaCl2 粒子は、海塩と燃焼ガスから生成される硝酸ガスとの反応によって生成する塩化水素と、土壌粒子に含まれる炭酸カルシウムとの反応で生成すると考えられる。この反応では硝酸ガスの存在量が反応に大きく寄与しており、汚染地帯を通ってきたと考えられる大陸由来の粒子にはCaCl2 染み出し粒子が多く含まれ、日本海・太平洋経由の粒子にはほとんど存在しないことと一致する。また、大陸由来の粒子には結晶状のものも多くみられた。
    分析の結果、これらはNanO3粒子であり海塩粒子と硝酸ガスとの反応で生成していると考えられる。このように単一粒子の内部構造解析を行うことで粒子の混合状態を直接可視化することに成功し粒子内部状態を明らかにした。単一微粒子内部でのNa とCl の不均衡は環境汚染地域を経由した兆候であることを明らかにした。

    3.委員の指摘及び提言概要

    初年度としては着実に課題に取組みバルク観測と一微粒子の内部構造を解析できる手法装置を開発し履歴が高精度に解明されてきたことは評価される。一方、サブテーマは個々に独立した研究のように思え相互の連携が不十分であることから、共通した試料に対し分析・解析を行いデータを共有し多角的に微粒子の起源、履歴等を検討することが必要。また、代表者の研究成果は「PAHs のレーザーイオン化に適した波長の選定」にとどまり予算額からみても研究内容、成果が十分ではないことや観測と開発をつなぐ科学的必要性、意義は小さいと思われること、等が今後の問題点として挙げられることから、連携の効果が表れる方向での検討が必要。また、(1)や(2)は成果公表に力を入れる必要がある。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: B-1007 海ゴミによる化学汚染物質輸送の実態解明とリスク低減に向けた戦略的環境教育の展開(H22-24)
    研究代表者氏名: 磯辺 篤彦 (愛媛大学)

    1.研究概要

    近年、東シナ海や日本海に面した地域は大量の越境性漂着ゴミ(海ゴミ)に悩まされている。本研究では、全国10 か所の海岸に設置したウェブカメラ画像を解析し、ゴミ漂着量の時系列データを作成する。そして、これらの漂着量データと海流や漂流物のコンピュータ・シミュレーションを組み合わせ、東アジア海域におけるゴミの漂流経路を明らかする。さらには海岸漂着ゴミ(プラスチックゴミ)に含有・吸着した化学汚染物質(有害重金属や残留性有機汚染物質)の計量や、周辺環境への溶出実験を行う。さらには、先述したゴミ漂流経路と併せ、漂着ゴミに由来する化学物質の輸送量や海岸環境への移行量を定量評価する。以上、漂着ゴミが海岸景観の劣化をもたらすだけではなく、将来の生態系や健康へのリスクになりえるといった知見を、地域住民と地域行政、そしてNPO や研究者が参加する「海ゴミ・サイエンスカフェ」にて社会還元することで、継続的な漂着ゴミ調査・清掃活動体制の構築を図る

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-1007  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1007 .pdfPDF [PDF 305 KB]

    2.研究の進捗状況

    平成22 年度中に稚内・酒田(飛島)・輪島・対馬・五島(奈留島)・石垣島の6 か所にウェブカメラを設置し、90 分毎に海岸を連続撮影する漂着ゴミ・モニタリングを開始した(全データはプロジェクトのホームページ[http://www.icataquo.jp/umigomi/]にて一般公開)。平成23 年度中には、青森(尻屋崎)・小笠原(新島)・室戸岬・種子島を加えた計10 か所の設置を終え、日本列島を囲む各海岸での漂着ゴミ監視網を完成させる。既に、撮影画像から人工系ゴミと自然系ゴミを識別するアルゴリズムを世界で初めて開発しており、精度の良いゴミの漂着量時系列データを作成中である【サブテーマ1】。
    海岸に漂着したゴミの総重量を推算する空撮技術と画像処理技術を確立した。また、重量比にして70%を占めるプラスチックゴミに着目し、これに含まれる有害重金属の海岸での総重量の算出を可能にした。さらに溶出試験を行うことで、これら重金属の海岸環境中への移行量を推定した。既に、東アジア海域全体を対象に、JCOPE2 やDREAMS といった海流再解析データを用いたゴミの漂流シミュレーションを完成させており、サブテーマ1の時系列データが出そろい次第、東アジア海域の漂着ゴミや、それが媒介となる化学汚染物質の輸送経路の解明に取り組んでいく【サブテーマ2】。
    サブテーマ1 が取得しているウェブカメラ画像や、サブテーマ2 が明らかにしつつある漂着ゴミを介する化学汚染物質輸送の実態を教材に、漂着ゴミに悩まされる酒田市や石垣島、あるいは福岡などで、これまでのべ7 回の海ゴミ・サイエンスカフェ(地域紙による報道が初年度のみで6回)や、2 回の地域観察会を実施して、地域住民や地域行政との情報共有を行った。カフェでは、参加者が地域の海岸で収集した海ゴミを愛媛大に送付して分析に供する「海岸鑑定」を実施している。現在は、サイエンスカフェ形式だけではなく、自治会での小規模集会や学校教育との密な連携など、地域の実情に合わせたプログラムの展開を始めている【サブテーマ3】。

    3.委員の指摘及び提言概要

    サブテーマ(1)のウェブカメラシステムによる海ゴミ輸送量の解析手法の構築や、サブテーマ(2)の漂着プラスチックゴミを介した重金属汚染の解析は、新規性の高い成果である。また、サブテーマ(3)の海ゴミ・サイエンスカフェは有意義な試みである。研究資金に照らして期待通りの科学的高い成果をあげており、それに加えて、社会的、行政的貢献や教育的波及効果の大きい成果もあげている。
    今後、POPs 条約(ストックホルム条約)等国際的な行政対応へも寄与することも望まれる。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: B-1008 山岳を観測タワーとした大気中水銀の長距離越境輸送に関わる計測・動態制御に関する研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 永淵 修 (滋賀県立大学)

    1.研究概要

    我が国の水銀モニタリングの遅れを回復し、UNEP 等が特に重要視している大気中水銀の長距離輸送を効率的に解明するための山岳でのモニタリングを確立する。そのためには、商用電源を必要とする観測地点と商用電源を必要としない簡易測定法の両方の確立が必要である。前者については、今年度は富士山頂に水銀自動分析計、SO2 計、一酸化炭素計及びオゾン計を設置し、常時観測を実施した。後者については、商用電源のない場所で使用可能なアクティブ、パッシブ両サンプラーの開発を行っており、アクティブサンプラーについては、すでに精度の高いデータを取得できるようになっている。新たに遠隔制御可能なアクティブサンプリングシステムの開発を行う。沈着量観測においては、小型軽量な自動湿性降下物採取装置を開発する。山岳での降雨サンプルの採取・保存法を確立する。これら開発した装置を用いて取得した詳細な観測データを基礎に開発したマルチメディアモデルを用いて水銀の移流・沈着の解析を行う。本研究では、東アジア圏における水銀の動態とその影響評価及び制御ならびに詳細な観測データの取得、それに基づいたモデル解析・将来予測・影響評価を行うものである。すなわち、[1]自由対流圏と大気境界層での水銀輸送とその起源解析、[2]水銀沈着量の把握と影響評価である。[1]においては、長距離移流する水銀の動態を明らかにするために自由対流圏及び大気境界層における水銀の鉛直分布を明らかにする。さらに自由対流圏及び大気境界層におけるHg(0)とHg(p)の分布を調査し、同時に同期する汚染物質も観測することで水銀の動態を予測する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    [2]においては、大気中に放出された水銀の沈着量計測を降水及び水銀のパッシブサンプラーを用いて同時多点で実施する。これら簡易測定法でのモニタリングは、わが国の水銀モニタリングの体制を整えていく上で重要な課題である。本研究のサブテーマは以下の4 つである。
    (1) 自由対流圏及び大気境界層における水銀及び有害金属(Pb、Cd 等)の長距離越境輸送の解明
    (2) 水銀パッシブサンプラーの開発と立山連峰における水銀及び同期した物質の標高別沈着量評価及び排出インベントリーに関する情報収集
    (3) 大気から湖沼流域への水銀輸送と沈着に関する機構解明と沈着量算定
    (4) 水銀のマルチメディアモデルの開発及び国設局の水銀等有害金属類データの解析

    ■ B-1008  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ b-1008 .pdfPDF [PDF 324 KB]

    2.研究の進捗状況

    水銀の長距離輸送について、富士山頂の大気中水銀濃度の連続観測(15 分毎)の結果から変動が激しく、スポット的に高濃度の水銀が飛来していることが明らかになった。したがって、大気中水銀のモニタリングは時間分解能が重要な因子であることが示唆された。スポット的な高濃度は今までの報告には見られない濃度があったため、今夏、再度確認し、公表する予定である。富士山、立山、伊吹山における水銀及び同期する関連物質の標高別観測からガス状水銀濃度をはじめオゾン濃度、二酸化硫黄濃度とも高標高において高濃度であった。この調査結果から水銀パッシブサンプラーの有効性は確認できた。摩周湖の柱状堆積物中の水銀濃度の鉛直分布から最近数十年に大気中水銀濃度が憎大したことが明らかになった。また、年輪コア中の水銀濃度からも同様の傾向が見られた。霧島のモミで1990年代から水銀濃度が急上昇していた。ただし、年輪コアにおいて針葉樹ではその傾向はみえるが、広葉樹ではかなり厳しいことがわかった。ヤクタネゴヨウの当年葉と1 年葉を比較すると1 年葉に倍以上の水銀が含まれており、大気中水銀が針葉に蓄積されていることが明らかになった。中国における水銀排出インベントリーに関する情報収集のため、中国環境科学院を既に2 回訪問し、調査を継続している。水銀の沈着量評価について、屋久島西部の森林内にある観測タワーでアクティブサンプラー、パッシブサンプラーを併用して森林における沈着量評価を実施したがガス状水銀の森林への大きな沈着はみられなかった。今年度は、屋久島タワー(森林)、摺墨(裸地、豪雪地帯)、桐生(京大演習林)のタワーを利用して樹木、土壌、雪への沈着量評価を行う。山岳地帯における降雨サンプルの採取・保存法を確立した。この手法を用いて降雨・積雪・樹氷中水銀測定したところ山岳の降雨が平野部の約2 倍の平均濃度であることが観測された。屋久島の雪・樹氷中濃度も降雨に比較してかなり高濃度であることが明らかになった。また、一定の降雨量毎に降雨を自動サンプリングする装置を開発し、現在サンプリングを開始している。水銀の輸送・沈着モデルについては、我が国の大気中水銀濃度については、環境省の「有害大気汚染物質モニタリング調査結果」を利用し、解析した。全球スケール及び東アジアスケールについては、最新のモデル研究による推計値をもとに、大気, 陸域, 海洋間の水銀の移動量、及び各環境中の水銀の存在量とその増減の把握を試みた。陸域から大気への自然放出量は、全球で2800〜 4500 Mg yr-1 と推計方法によって値が大きく異なり、信頼性の高い推計方法の開発の必要性が示された。東アジアでは、他領域への正味の大気輸送量は835 Mg yr-1 と大きく、領域間輸送さらにはグローバル輸送の重要性が示唆された。水銀マルチメディアモデルの開発については、水銀の「大気中での化学反応及び輸送・沈着過程」、及び「大気−沈着面間の交換(沈着・放出)及び沈着面内部での化学反応」の解析を目的に、前者を「大気化学輸送モデル」、後者を「沈着モデル」としてそれぞれ開発し、それらを結合したものを完成させることとした。本年度はその運用環境の整備を行った。

    3.委員の指摘及び提言概要

    Hg にターゲットを絞ってモニタリングデータを蓄積し、長距離越境汚染の実態を明らかにしようとする目的は環境行政に役立つこと、(1)は多くの地点でのデータを分析しているだけでなく、高度別の検討も進めており重要な知見も得られていること、電源不要で多くの地点での観測や途上国での測定を可能にする水銀用パッシブサンプラーを開発したこと、は評価できる。
    一方、課題の性質からアジア各国との学術交流が必須と思われるが充分でないこと、各班の知見をどのように関連付け水銀の長距離越境輸送を解明しようとしているのかが不明確なこと、現象に関する知見は多いが理由や原因など長距離越境輸送に結びつく考察が不十分なこと、水銀に加えCd やPb などの有害金属も調査対象項目に含まれているにもかかわらず具体的な成果が見られないこと、最終的な目的や(3)をどのように進めるかが明確でないこと、から研究の方向性を明らかにし研究戦略を再考することが求められる。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: RF-1001 気中パーティクルカウンタを現場にて校正するためのインクジェット式エアロゾル発生器の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 飯田 健次郎 ((独)産業技術総合研究所)

    1.研究概要

    現状の地球温暖化予測において最も科学的知見が欠けている要素の一つは、大気エアロゾルによる冷却効果である。そして大気エアロゾルの研究では、野外観測による光散乱式気中パーティクルカウンタ(Optical Particle Counter、以下OPC と略)を使った粒径分布測定が日常的に行われている。一方、人体に直接悪影響を及ぼす自動車起源のエアロゾル粒子に対し、エンジン排出ガス中の粒子数濃度による規制の実施が計画されており、測定には凝縮成長式気中パーティクルカウンタ(Condensation Particle Counter、以下CPC と略)が広く使われている。エアロゾルの粒子数濃度の測定データの品質保証体制確立への気運が欧州を起源として高まっており、これが現在世界へと波及しつつある。品質保証体制の末端である観測現場にまで環境政策を浸透させるためには、測定現場で日常的に実施可能なCPC およびOPC の校正技術が必要である。このための技術として、本研究では発生される粒径および粒子数が既知であるインクジェットエアロゾル発生器(Inkjet Aerosol Generator、以下IAG と略)を開発している。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ rf-1001 .pdfPDF [PDF 630 KB]

    2.研究の進捗状況

    1)インクジェットエアロゾル発生器の粒径制御能力の検証インクジェットエアロゾル発生器により発生される粒子径の制御は、インクジェットより発生される液滴中に含まれる溶質の量により制御される。そして発生粒子径を算出するためにはインクジェット液滴の粒径が必要となるため、この液滴径が容易に測定可能であることを実証した。二つの独立したインクジェット液滴の粒径測定法(「吐出液ボトルからの消費量による液滴径の測定」、および「ノズルからの吐出量による液滴径の測定」)の結果は1%の不確かさの範囲内で一致していた。したがって、これら二つの独立した測定法は技術的に妥当であり、IAG ユーザーはより測定が簡単である吐出液ボトルからの消費量より液滴径を測定できると結論した。さらに、実際に吐出される液滴径の測定日によるばらつきを評価した結果、UPW およびIPA を吐出液とした場合の液滴径の平均値およびその標準偏差は47 0.65 m および30 0.26 m であった。これよりインクジェット液滴の粒径は比較的良く安定していると結論した。そして、IAG により発生される粒子径が液滴中に含まれる溶質濃度を制御することにより制御できることを実証した。塩化ナトリウム固体粒子およびDOS 液体粒子をIAG 発生させ、これらの空気力学粒径を粒径0.5-10 m の範囲で測定した。測定された粒径と、液滴径と溶質濃度より算出された粒径との相関は良好であった。2)インクジェットエアロゾル発生器による気中パーティクルカウンタの現場校正が行えることの検証自動車排出ガスモニタリング用CPC を対象とした評価IAG により平均粒径200nm の粒子を発生させ、これらの粒子がCPC 入口へと輸送される効率(粒子輸送効率)およびその再現性を評価した。IAG の粒子輸送効率の平均値は0.99 であり、日によるばらつき(拡張不確かさk=2)は0.016 であった。この結果はIAG の日ごと安定性が良好であることを示している。これらの結果より、IAG はCPC の基本性能の動作確認を日常的に行えるエアロゾル発生器であると結論した。大気エアロゾル観測用のOPC を対象とした性能評価IAG により粒径0.2-10mm の粒子を発生させ、エアロゾルサンプル流量が0.3 および0.5liter/minute のOPC への粒子輸送効率を評価した。IAG の粒子輸送効率は、ほぼ全粒径域で100%に近い確率であった。この結果より、これらのサンプル流量の粒径0.5-10 m におけるOPC の粒子計数効率の動作確認を行う性能を、IAG は十分に有していると結論した

    3.委員の指摘及び提言概要

    既存技術のインクジェットに新しいアイデアを取り入れ、インクジェットエアロゾル発生器を開発しエアロゾル機器の校正に用いようとするもので精度についても十分検討されていること、多用されるOPC、CPC の測定粒径範囲をカバーできる校正機器として有望と考えられること、現場でのニーズによく応え得ること、計画通り遂行され相応な成果を得ていることや研究予算額、研究期間を考えると高く評価される。今後、既往の技術との比較、環境研究としての意義や行政施策への貢献等の点についての充分な考察が必要とされる。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: RF-1002 水田のイネ根圏に棲息する脱窒を担う微生物群の同定・定量と窒素除去への寄与解明(H22-24)
    研究代表者氏名: 寺田 昭彦 (東京農工大)

    1.研究概要

    本研究では、畜産排水処理のため排水由来の液肥を施肥している水田に着目し、イネの根圏に存在する窒素循環に関わる微生物群の同定・定量・空間分布の解明を行い、水田における畜産排水からの窒素除去との関係を明らかにする。窒素はアンモニアを亜硝酸・硝酸に酸化する硝化反応と亜硝酸・硝酸を窒素ガスに還元する従属栄養性の脱窒反応の2 つの異なる生物反応を経て無害化される。これに加え、硝化・脱窒以外の窒素除去経路である嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)およびメタン脱窒が近年になって報告されている。これらの反応を担う細菌の特徴として、温室効果ガスである亜酸化窒素・メタンを放出しないことが挙げられるため、水田からの温室効果ガスの放出を抑制するメリットを有していると言える。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    そこで、本研究では、1.イネの根圏に棲息するアナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌の存在量評価、2.アナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌の水田の窒素除去への寄与の割合評価、3.畜産排水の水田への施肥量・管理方法の制御によるアナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌保持の可能性評価、の3 点を行い、水田を用いた畜産排水からの窒素除去と温室効果ガス削減を同時に達成するための管理指針の提案を目指す。

    ■ RF-1002  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ rf-1002 .pdfPDF [PDF 325 KB]

    2.研究の進捗状況

    1.植栽の有無による水田土壌の微生物活性に関する研究ポット試験を通して様々な施肥量(窒素負荷)、水の浸透速度にて飼料イネを植栽し、畜産排水を液肥として用いた際の窒素除去性能および温室効果ガスの発生量の評価を行った。ポット試験により、水の浸透速度1.74 cm/day において通常の施肥量の約5 倍の窒素負荷450 kg-N/ha で運転しても、窒素化合物の地下流出を抑え、畜産排水の除去を行えることを明らかにした。15N トレーサー試験により、水田土壌に存在する微生物による脱窒反応を確認し、水の浸透速度が高いほど脱窒活性が高いことを示した。また、温室効果ガスの放出特性の評価より、亜酸化窒素およびメタンが放出される条件を明らかにした。水田土壌からの温室効果は亜酸化窒素よりもメタンの方が圧倒的に大きく、全体の9 割以上を占めることが明らかになった。2.窒素除去に関与する“活性のある”微生物群の同定と変遷に関する研究水田土壌に棲息するアナモックスを行うとされる細菌群の同定を、分子生物学的手法を用いて行ったところ、アナモックス細菌に比較的近縁な新規なPlanctomycetes 群を検出した。次に、メタン酸化細菌の検出を試みたところ、未培養のNC10 門と呼ばれるメタン酸化細菌を検出することに成功した。この細菌群は亜硝酸・硝酸の酸素原子を利用してメタン酸化を行うことが可能であるため、現在、NC10 門とメタン生成量の相関関係を調査中であり、水田管理によりこれらの細菌群の制御の可能性を評価する予定である。3.イネ根圏に棲息する微生物群の空間分布と存在量に関する研究定量PCR 法により高浸透・イネ植栽無しの系は同じ浸透速度で植栽有りの系と比べて土壌中に棲息するアナモックス細菌を含むPlanctomycetes 門に属する細菌および脱窒細菌の密度が少ないことを確認した。これにより飼料イネを植栽することで、土壌に存在できる脱窒を担う微生物群を高密度に保持できることが明らかになった。また、水田土壌中に棲息する細菌による脱窒活性とこれらの細菌群の密度に相関関係があることを示した。また、脱窒細菌に対するPlanctomycetes 門に属する細菌の割合は5-25%程度であることが明らかになった。植栽の有無、水の浸透速度、窒素負荷に関してこの割合の明確な傾向はなかった。

    3.委員の指摘及び提言概要

    窒素を高濃度に含む畜産排水を耕作放棄地を想定した飼料イネ水田による吸収と、嫌気性アンモニア酸化のアナモックス反応による脱窒を利用して窒素除去をするという着想はよく、研究資金額に照らして十分に研究成果を上げている。しかし、本課題では、水稲の生育や土壌・水管理と温室効果ガス(CH4 とN2O)フラックスとの関連を測定・解析しているが、既に多数の既往報告があり、研究の新規性はない。今後はアナモックス反応を担う微生物群の同定と、その微生物群の空間分布および存在量に関する研究を中心に研究すべきである。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    中間評価 3.第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>

    研究課題名: S2-11 風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 橘 秀樹 (千葉工業大学)

    1.研究概要

    地球温暖化対策等のための再生可能エネルギー利用として、わが国でも風力発電施設の建設が2000年頃から本格化した。これらの風車の設置場所は静かな農山村部がほとんどであるが、そのような環境に突然風力発電施設が建設された結果、新たな騒音問題が生じることになり、近隣住民から直接的な騒音被害(アノイアンス)だけでなく、健康上の不安に関する苦情が訴えられるようになってきた。この新たな環境騒音問題に対して行政的な対応が必要となったが、わが国ではこの種の騒音に関する科学的知見の蓄積が乏しく、統一的な基準が整備されるには至っていない。また、現在のところ風力発電施設が環境影響評価の対象となっておらず、技術的にも事前評価手法の熟度が低い状況にある。このような現状から、風車騒音の暴露状況の測定・評価の手法及びそれに基づく対策法の確立が必要とされている。
    そのための基礎研究として、低周波音を含む風車騒音の人間に対する生理的・心理的影響及び社会的影響に関する調査研究を行うことを目的として、平成22年度から3箇年の予定で本研究が計画された。その具体的な内容は、風車騒音の実測調査、近隣地域住民を対象とした社会反応調査、実験室における風車騒音に係る聴感実験、及び内外における関連資料の調査・整理などから成る。本研究の成果としては、風車騒音の物理的特性(音圧レベル、周波数スペクトルなど)と人間に対する生理的・心理的影響(特にアノイアンス)の関係の解明とともに、風車騒音の測定・評価手法の確立や行政対応における指導指針の整備等が期待される。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ S2-11  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ s2-11 .pdfPDF [PDF 348 KB]

    2.研究の進捗状況

    3箇年計画の初年度である平成22年度に実施した研究内容の概要は以下に述べるとおりである。
    (1) 研究総括および関係資料の収集 音響学、機械工学、心理学、医学などの諸分野の専門家から成る研究委員会を設置し、環境省との連携のもとに研究の全体計画、サブテーマ間の調整、低周波音測定システムの開発を行った。また、風車騒音に関する諸資料の収集・整理を開始した。
    (2) 風車騒音の実測調査および地域住民に対する影響調査 風車騒音の実態を把握するために、3年間で全国36の風力発電施設を対象とした実測調査・社会反応調査を計画している。そのうち、平成22年度には6箇所の施設周辺における騒音・低周波音の実測調査及びそのうちの4箇所の施設周辺の住民を対象としたインタビュー方式によるアンケート調査を実施した。これらの調査によって、風車騒音の物理的特性が詳細なデータとして得られ、また近隣住民の住環境に対する意識、風力発電施設に対する問題意識、騒音によるアノイアンス及び自覚的健康状態などに関するアンケート調査を試行することができた。これらの調査は、(社)日本騒音制御工学会に業務を委託し、同学会に所属する全国の研究者・専門家の協力を得て実施している。
    (3) 実験室における風車騒音に係る聴感実験 風車騒音には超低周波音領域を含む低周波数の音が含まれている。この種の騒音・低周波音に対するヒトの聴覚生理・心理的反応を実験室実験によって調べることを目的とし、3年間で120名程度の被験者を対象とした聴感実験を計画している。この実験のためには、ヒトの可聴周波数の下限とされている20Hz以下の超低周波音も再生できることが必要で、本年度はこの性能を有する実験設備を東京大学生産技術研究所の音響実験施設内に構築した。また、それを用いた基本的実験として、10Hz〜200Hzの低周波数域の純音に対する聴覚閾値を21歳〜33歳の20名(男性16名、女性4名)を被験者として調べた。この実験的研究は、東京大学生産技術研究所に業務を委託して実施している。

    3.委員の指摘及び提言概要

    風力発電施設からの低周波音を含む風車騒音の人間に対する生理的・心理的影響及び社会的影響に関する調査研究を行うことを目的として研究が推進され、風車騒音の実態そのものを把握できるようになりつつあることは、高く評価できる。風力発電施設の環境アセスメント手法の確立は政策的意義がきわめて高く、また東日本大震災とそれに伴う原子力発電所のトラブルの結果、風力発電に対する注目も以前より高くなっており、本研究成果の環境政策への活用も重要になってくると思われる。行政ニーズの高い研究として、行政にいかに役立つかを考えつつ今後の研究を進めてほしい。人への影響を疫学的に明らかにする視点からは、疫学の専門家を研究分担者に加えるのが望ましい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: C-1001 わが国都市部のPM2.5 に対する大気質モデルの妥当性と予測誤差の評価(H22-24)
    研究代表者氏名: 速水 洋 (財団法人 電力中央研究所)

    1.研究概要

    環境省は2009 年9 月にPM2.5 の環境基準を告示したが、都市部を中心に多くの地域で環境基準を達成できない可能性がある。一部ですでに対策の検討が進められているが、現状の大気質モデルはPM2.5 対策の効果を高い精度で予測・評価可能なレベルにあるとはいえない。そこで本研究は、PM2.5 濃度再現性を向上して大気質モデルをわが国のPM2.5 対策検討に「使える」ツールと して確立することを最終的な目標とする。そのために、
    (1)大気質モデルの改良・検証を目的とした観測データと、
    (2)より完全な原因物質排出量データを整備し、
    (3)国内の都市大気質モデル研究者の協力による比較計算を実施して大気質モデルの精度を評価する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1001 .pdfPDF [PDF 407KB]

    2.研究の進捗状況

    (1)二次生成成分の時間・空間分布の把握と二次粒子生成サブモデルの検証2010 年初冬期の首都圏内複数地点において、4 時間毎のフィルタサンプリングを中心とする大気調査を実施した。硫酸塩を除く主要成分の濃度はPM2.5 質量濃度ととともに変動したが、高濃度時にはEC/TC 比が上昇し、化石燃焼およびバイオマス燃焼の影響が大きくなることが示唆された。また、フィルタ法によるOC 濃度は、比較的濃度の高い時では最高30 %程度がフィルタに吸着されたガス態OC に由来することが示され、大気質モデルのOC 濃度過小予測の一因が観測側にもあることがわかった。さらに、係留気球により上空の粒子数およびEC(BC)濃度を観測したところ、夜間〜早朝には下層で濃度が高くなるが、日中にはほぼ鉛直一様にあり、地上付近のPM2.5 質量濃度にみられる日内変動(早朝・夕方の濃度が正午前後よりも高い)をもたらすひとつの要因と考えられた。
    (2)二次粒子生成に係わる未把握原因物質の排出インベントリ構築二次粒子の原因物質として重要であるにもかかわらず不明な点の多いNH3 とSVOC について調査を行った。NH3 については、最新の国内排出インベントリ(JATOP、EAGrid2000)で採用されている家畜と施肥の排出係数を文献調査により最新のものに更新した。また、下水管渠内のNH3 濃度を実際に測定し、下水管渠が都市における重要なNH3 発生源になり得ることを示した。SVOC については、PRTR 調査結果などを用いて排出の可能性のある成分と量を把握した。
    (3)相互比較による大気質モデリングの妥当性検証と予測精度評価大気質モデルの相互比較においてモデル入力条件を統一するために、排出量と気象のデータセットを作成した。相互比較には国内の7 機関8 モデルが参加した。解析では、二次粒子よりも挙動が単純であるにもかかわらず、モデルで過小予測されたEC に着目し、その原因を各過程(排出、輸送・拡散、沈着)に分けて調べた。その結果、EC 濃度は排出過程と鉛直拡散過程に強く影響されることが明らかとなった。また、(1)で得られた鉛直濃度分布に対して再現計算を試みたところ、鉛直分布の日変化は定性的に一致したものの、地上濃度の予測精度向上のためには観測された大きな鉛直濃度差をモデルで再現する必要のあることがわかった。

    3.委員の指摘及び提言概要

    都市域において濃度低減が求められているPM2.5 に関して、冬季における首都圏の水平、垂直、及び時系列の実測データを得て、そのデータの解析より排出量と鉛直拡散の影響を明らかにしたことは評価できる。ただし、選定した観測地点5か所で得られたデータの大気質モデル構築に向けた有用性の検証、考察はまだ不十分であるので、早急に検討を行ったうえで、今後の観測計画を進めた方がよい。また、現在は各種モデル間で整合性が得られていないが、PM2.5 の濃度予測と濃度低減のため開発中の大気質モデルは重要であり、その改良を目標として着実な研究を進めるのがよい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: C-1002 ディーゼル起源ナノ粒子内部混合状態の新しい計測法(健康リスク研究への貢献)(H22-24)
    研究代表者氏名: 藤谷 雄二 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    内側に低溶解性の粒子があり、外側に高溶解性の成分が付着した内部混合状態の粒子は、肺胞に沈着後に外側のみが溶解して、さらに粒径が小さい低溶解性の粒子として残れば、細胞透過性が増す。したがって生体との相互作用、毒性の評価を考える上で、粒子の構造や成分、それらの内部混合状態の情報が必要である。本研究ではディーゼルナノ粒子に対して、新しい計測法“集束イオンビーム質量顕微鏡”を適用し、従来の分析手法では明らかになっていない一粒子単位の化学組成(有機物・無機物)、内部混合状態の情報を獲得するための手法を確立し、ディーゼルナノ粒子の毒性評価、健康リスク研究に、その情報を提供することを目的とする。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1002  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1002 .pdfPDF [PDF 247KB]

    2.研究の進捗状況

    捕集基板、捕集法を最適化した上で、ディーゼル粒子を空気力学径30〜630nm の範囲内の6粒径区分に分級採取した。集束イオンビーム質量顕微鏡を用い、それらの試料の個別分析を行った。実粒径、化学組成、形態に応じて、ディーゼル油滴、塊状のスス粒子、CaCl2、炭素、Na/K主成分粒子の5 種類に分類され、初めて個別粒子の組成が明らかになった。一方、ターゲットの有機化合物をレーザーイオン化するのに適したレーザー波長の選定を行い、PAHs には266 nmによるレーザーイオン化が、キノン類には118 nm によるレーザーイオン化が適していることが分かった。

    3.委員の指摘及び提言概要

    集束イオンビーム質量顕微鏡という高度な機器を用いて、ディーゼル起源ナノ粒子の内部混合状態の計測法を開発しようとしていることはある程度評価できる。ただし、研究目標である健康リスクへの貢献、および本研究成果が環境中ナノ粒子の動態把握や規制といった環境政策への活用可能性に関してはまだ不明確である。また、本研究で開発された計測法について、ディーゼル起源ナノ粒子以外の環境中微小粒子計測適用可能性など、活用方法を検討する必要がある。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: C-1003 HBCD 等の製品中残留性化学物質のライフサイクル評価と代替比較に基づくリスク低減手法(H22-24)
    研究代表者氏名: 益永 茂樹 (横浜国立大学)

    1.研究概要

    国際化学物質管理会議で採択された国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)では、2020 年までに化学物質のライフサイクルを通したリスクの最小化がうたわれ、対応が求められている。また、リスクが指摘された化学物質に対し、行政が使用禁止や代替を誘導したり、事業者が自主的に代替物質に代えたりすることは多いが、本当に総リスクの低減につながるか評価されていることはまれである。このような状況の下、ライフサイクルを通した代替リスクを比較する手法の整備が急務となっている。そこで、本研究では、マテリアルフロー解析を基盤としてライフステージ毎に環境放出量と曝露量を推定し、それらによる人健康や生態リスクを評価し、リスクの大きいライフステージを明らかにすること、さらには、代替物質あるいは代替プロセスとの間でライフサイクルを通した総リスクの比較を可能にするリスク比較手法を提示し、適切な対策の選択を支援することを目指す。具体的には、ストックホルム条約で残留性有機汚染物質(POPs)の候補として取り上げられているヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を研究対象物質として、その代替候補物質・プロセスと合わせて全ライフサイクルを通した代替リスク比較を実施し、それに基づき一般化した代替リスク評価手法を提示する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1003 .pdfPDF [PDF 394KB]

    2.研究の進捗状況

    (1)ライフサイクルを通した環境排出量評価手法の構築マテリアルフロー解析に必要な排出係数を既存のデータベースやツールに基づき推定したが、情報源により環境排出量推定結果が大きく異なってしまい、実態に即した排出係数の整備の必要性が示唆された。特に、HBCD 含有製品の廃棄段階や火災等の非定常時の排出係数に関する情報が不足していることが分かった。そこで簡易焼却実験装置を試作し、難燃加工カーテンを試料とした予備的な焼却実験を行い、生成物質の定性を試み、複数の臭素系芳香族化合物を検出した。また、火災等の非定常時を想定し、難燃剤の種類や温度によって急性毒性を有するガス(一酸化炭素等)の生成が異なることを認めた。今後、HBCD 含有製品について実験を行い、情報を整備する予定である。
    (2)ライフサイクルを通した曝露評価手法の構築環境動態予測モデルの推定精度や曝露シナリオのスクリーニング手法の検証のための基礎情報として、HBCD 等の環境媒体中濃度に関する情報を収集、整理した。さらに、HBCD を含有する不純物や、分解産物に関する情報を収集した。他方、環境動態予測モデルの予測精度検証に関する研究例を収集するとともに、発生源近傍大気濃度予測モデル、作業環境曝露モデル、および消費者曝露予測モデルに必要なパラメータを整理した。対象化学物質の物性から主要な曝露シナリオを抽出するために、代表的な物性値から、特定の媒体間移行や曝露シナリオの重要性をスコアリングする手法について検討し、曝露シナリオのス2 / 3クリーニング手法を仮提案した。
    (3)代替オプション間のライフサイクルリスクの比較とリスク低減手段の提案HBCD の代替物質開発状況を調査した。特許情報等から候補物質138 種が選定され、産業界のヒアリング等によりさらに絞りこみ、最終的に4 種の用途に対して5 物質をHBCD のモデル代替化合物として選定した。次に、HBCD を継続使用する場合と各用途で代替が進む場合の2つのシナリオについて、マテリアルフロー解析に基づきHBCD と代替物質のライフステージ別使用量、排出量の経時変遷(1986〜2020 年)を予測した。その結果、代替物質導入によりHBCD 排出量は2020 年には80%以上削減されるが、長寿命の製品中に長く残存することがわかった。他方、代替物質は単位製品当たりの使用量がHBCD より多くなるため、排出量が経時的に増加すると予測された。今後、推定精度の向上を図ると共に、リスク削減や代替プロセスとの比較に発展させる予定である。HBCD と代替物質の間でリスク比較を行う際の課題について予備的検討を行った。まず、同等の難燃性を担保した場合の製品からの代替難燃剤の放散量を予測し、モデルを用いて曝露量を推定した。次に、同じエンドポイントに対する毒性試験結果が存在するが、それら質(不確実性)が異なる化学物質について検討し、ベンチマーク用量とその不確実性の分布を推定することで、毒性実験設計や精度に依存しない有害性評価値を算出する方法を提案した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    ライフサイクルを通した化学物質の環境排出量評価手法の開発は、より安全な化学物質への代替の促進に当たって重要な課題である。本研究では、臭素系難燃剤として広く使用されているHBCD(ヘキサブロモシクロドデカン)の代替物質の探索と特定に至る手順を明らかにし、代替過程を考慮した環境排出量の推定手法を構築、提示しつつあり、その成果は高く評価できる。文献情報だけでなく、関連企業への聞き取り調査や難燃剤の焼却処理における挙動試験を実施して、必要なパラメータを得る努力がなされている。不足する実験データや情報を今後どのように集めていくか等、検討すべき課題があるが、化学物質リスク低減を可能にする一般的な評価手法の開発が期待できる。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: C-1004 産業環境システムの耐リスク性(H22-24)
    研究代表者氏名: 東海 明宏 (大阪大学)

    1.研究概要

    生活の利便性と環境質の維持のために、これらを一体として形成される産業環境システムのリスク管理が求められている。本研究では、産業環境システムがどれほど複数の環境制約、利便性の維持の実現に対して対応可能であるか、ということを耐リスク性という視点で、自動車を取り上げ、リスク評価手法、ライフサイクル評価手法、不確実性評価手法、環境家計簿技法を用いて、資源転換、規制の強化にともなうリスクに対する産業環境システムの適応性を評価し、管理戦略の構築を目指すものです。これにより、生活者の利便性と環境への依存の裏表の関係が明確化され、リスクからみた生活・産業・環境の環境適合への貢献が期待されます。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1004  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1004 .pdfPDF [PDF 243KB]

    2.研究の進捗状況

    課題1 耐リスク性の評価手法の構築課題1では,耐リスク性評価手法のプロトタイプモデルを構築した。このモデルは,ライフサイクルを通じた化学物質の環境リスクを、リスクトレードオフおよび不確実性情報の視点からの解析を可能とするものであり、ある一面におけるリスク削減が別の環境側面への改善・改悪の程度の把握を可能とする方法である。課題2で取り上げた物質に適用することで、手法の特徴をまとめた。H23 年度以降は引き続き、適用事例を増やし手法の有効性を検証する予定である。
    課題2 ケーススタディ:製品のリスク評価の実施課題2では,自動車に由来する環境負荷物として、素材に用いられる化学物質のなかで優先性の高い物質に関し基礎情報の収集整備を行った。その結果、DecaBDE およびEBPBP に関し、H23 年度以降に実施する暫定版リスク評価シート作成のため必要となる知見の収集を行うとともに、スクリーニングレポートをまとめた。さらに、リスク評価の全体構造とその手順を整理した。H23 年度においては,リスク・リスクトレードオフを論点に据えたリスク評価シートの作成とリスクに関する情報の価値の解析を行う予定である.
    課題3 社会的合意形成の検討課題3では、生活者が自分自身および社会全体のリスクを考えながらリスク削減行動誘発支援装置を開発する。H22 年度は、交通行動をとりあげ、「自分自身の便益とリスク」と「社会全体の便益とリスク」に関する環境家計簿を作成し生活者を対象として実地調査を行った。72 名のデータを収集した。その結果、自動車の所有に伴う環境・社会依存性脱却のための行動選択の可能性が示された。その行動の一例としては、自動車の所有行動、買い替え行動、代替交通手段の選択行動、利用方法の工夫、等であった。今後調査を継続することで、ライフスタイル要因を自動車由来の負荷・環境リスク計画変数として利用できる可能性を検討する予定である。

    3.委員の指摘及び提言概要

    企業等が意思決定を行う際に求められる統合的な耐リスク性に関する不確実性の定量的評価手法を開発しようという、大きな構想を持ったチャレンジングな課題である。
    しかし、今回の提案は作業仮説の域を出ておらず、その仮説の正しさや有用性をどのようにして検証・実証するのか、研究の方針が明確でない。また、新たに多くの指標(耐リスク性、情報の価値、鋭敏比)が導入されているが、その概念および研究全体の構想との関係についての説明が不十分である。研究費配分額に見合った研究成果があげられるよう、研究協力者を増やし研究体制を強化するなど、早急な対策が必要である。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: C-1005 大気中粒子状物質の成分組成及びオゾンが気管支喘息発作に及ぼす影響に関する疫学研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 島 正之 (兵庫医科大学)

    1.研究概要

    大気環境中の粒子状物質、特に粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は、呼吸器系、循環器系に様々な影響を生じることが諸外国で報告されており、わが国でも2009年に環境基準が設定された。しかし、わが国では大気汚染の健康影響に関する知見は限られており、特に粒子状物質の成分濃度と健康影響との関連を評価した研究はほとんど行われていない。粒子状物質の粒径別分布及び成分組成は国や地域によって異なり、健康影響には人種や生活習慣等の違いによる差も考えられることから、わが国において粒子状物質及びその成分組成と健康影響との関連を明らかにするための疫学研究が必要である。さらに、近年は中国大陸から春季に飛来する黄砂や春〜夏季に高濃度となるオゾンの健康影響も懸念されている。
    そこで、本研究では、長年にわたり気管支喘息発作数が1週間毎に性・年齢・居住地区別に集計されている兵庫県姫路市において、粒径別に粒子状物質の連続測定を実施し、質量濃度に加えて、元素成分、イオン成分の分析を行い、大気汚染常時監視の結果も含めて、喘息発作数との関連を検討する。
    サブテーマは、以下の3つにより構成した。
    (1)大気中粒子状物質及びオゾンの気管支喘息発作への影響に関する疫学研究
    (2)大気中粒子状物質のPIXE法による多元素分析及びイオン成分の分析
    (3)大気中粒子状物質の日平均成分濃度の解析

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1005  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1005 .pdfPDF [PDF 284 KB]

    2.研究の進捗状況

    (1)姫路市市街地の飾磨局における2010年度のPM2.5、PM10、ディーゼル排ガス由来のブラックカーボン(OBC)の平均濃度はそれぞれ20.5μg/m3、33.4μg/m3、0.52μg/m3であった。粒子状物質の測定を開始した2008年8月から2011年1月までに報告された喘息発作数30,929件について、一般化線型モデルにより気温、湿度等を調整して粒子状物質濃度との関連を解析した。65歳以上ではPM2.5の週平均濃度10μg/m3増加当たりの喘息発作リスク比は1.06[95%信頼区間:1.01-1.10]、15-64歳ではOBCの週平均濃度1μg/m3増加当たり1.07 [1.01-1.13]と有意な増大が認められた。0-14歳ではいずれの物質とも有意な関連は認められず、小児では大気汚染以外の影響が大きいことが示唆された。
    1995〜2010年の喘息発作数(167,138件)を用いた解析では、全年齢で光化学オキシダント及び二酸化窒素濃度との関連が有意であり、浮遊粒子状物質濃度との関連は65歳以上においてのみ有意であった。
    サブテーマ(2)で得られた成分濃度については、イオン成分PO43-、元素成分K、Rb等と喘息発作との関係が示唆されたが、粒子の粒径及び季節等によって異なっていた。さらに長期的な観察とともに、粒子成分の発生源寄与割合等も考慮した検討が必要と考えられた。
    (2)2009年11月から2011年3月までに1週間毎に大気中粒子状物質を粒径別に捕集し、荷電粒子励起X線(PIXE)法により元素分析を行った。定量された主要元素は、Na、Mg、Al、Si、S、Cl、K、Ca、FeおよびZnの10元素であり、粒径サイズが小さくなるにしたがってNa、Mg、Al、Si、Cl、KおよびCaの値は低下し、SとZnの値は高かった。イオンクロマトグラフ法によるイオン成分の分析では、Cl-、NO3-、SO42-、Na+およびNH4+が主体で、SO42-とNH4+は粒径サイズが小さくなるにしたがって高い値を示した。NO3-はPM2.5よりも粒径2.5μm以上の粗大粒子側が際立って高く、SO42-およびNH4+とは発生源が異なることが示唆された。NO3-がPM2.5よりも粒径の大きい粗大粒子側に多い要因として、海水中のNaClとHNO3が反応してNanO3が生成した可能性が考えられた。
    (3)各季節に20日間ずつ24時間毎に粒子状物質及びガス状物質の連続捕集を行った。フィルタ秤量法によるPM2.5及びPM10-2.5の質量濃度と、サブテーマ(1)で実施した自動測定法による粒子状物質濃度の相関は高く、特にPM2.5は良好であったが、フィルタ秤量法に比べ自動測定法が高濃度となる傾向がみられ、測定時の相対湿度の影響が示唆された。この傾向は夏季に顕著であり、平均で30%程度高かった。
    PM2.5の主要成分は、全季節を通じてSO42-とOCの割合が高く、夏季にはそれぞれ28.8%、26.2%であった。PM2.5質量濃度と各成分との相関係数は、全季節でSO42-、NH4+との間がそれぞれ0.9以上、OC、K+との間がそれぞれ0.8以上であり、これらがPM2.5質量濃度の支配要因であることが示された。ガス状物質については、HnO3は冬季に、SO2は夏季に、NH3は全季節にPM2.5質量濃度との相関係数が小さく、PM2.5濃度を支配する要因ではなかった。
    PM2.5成分濃度にPositive Matrix Factorization(PMF)解析を適用した結果、7種の発生源因子が抽出された。そのうち硫酸アンモニウムを指標とする因子の寄与割合が最も大きかったが、重油燃焼や製鋼業等の地域的な発生源と推測される因子の寄与もみられた。

    3.委員の指摘及び提言概要

    15年間以上の気管支喘息発作数が性・年齢・居住地区別に集計されている兵庫県姫路市において、粒径別粒子状物質の質量濃度に加えて、元素成分、イオン成分の分析を行い、大気汚染常時監視の結果も含めて、喘息発作数との関連を検討しており、興味ある成果としてかなり高く評価できる。姫路市のデータは非常に貴重であるので、今後は発生源別要因との関連分析、性別、居住地(道路沿道―非沿道地)、また喘息発作の原因となる大気汚染以外の因子との関係等、さらに詳細な分析・解析がなされることを期待する。また、急病センター受診者と1日データとの関係も興味深いので、今後は重点課題として研究を進めるとよい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    研究課題名: C-1006 妊婦の環境由来化学物質への曝露が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 柴田 英治 (産業医科大学)

    1.研究概要

    子宮内胎児発育遅延は周産期死亡率の増加、精神神経発達障害、また将来の生活習慣病発症のリスク因子である。正常な胎児発育は胎盤の栄養素輸送機能に強く依存している。従来、子宮内胎児発育遅延は子宮胎盤血流量の減少による母体から胎児への酸素・栄養素の供給量低下が主病態とされてきた。しかしながら、近年、環境由来化学物質の曝露と出生体重減少との関連性が報告され、胎盤の栄養素輸送機能が環境因子(環境由来化学物質)によっても修飾されていることが示唆されている。様々な環境化学物質の胎児毒性については、胎盤を通過し胎児に直接到達した化学物質の影響について論じる報告が多い。
    しかしながら、化学物質は胎盤通過性がなくても胎盤の母体面(栄養膜細胞層)に到達し胎盤機能を修飾することによって、間接的に胎児に悪影響を与え得る。環境化学物質が与える胎児・小児疾患の研究においては胎盤機能評価が極めて重要であり、本調査は、我が国の「エコチル調査」においても重要な役割を果たすと考えられる。そこで我々は、環境由来化学物質は、胎盤栄養素輸送障害により胎児発育を制限するという研究仮説もと、研究計画を立案・実施した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ C-1006  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1006 .pdfPDF [PDF 265 KB]

    2.研究の進捗状況

    (1)環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究
    正常妊娠末期の9症例を対象とし、実際の生体内(母体・胎児血中)の環境化学物質濃度を測定した。母体・胎児試料の両方で水銀が検出された。水銀においては母体静脈血よりも臍帯静脈血で濃度が高く、世代間で濃縮傾向にあることが示唆された。カドミウムは母体試料で検出されたが、臍帯静脈血では検出されず、胎盤通過性の低さが確認された。鉛、ヒ素、農薬類は、全ての生体試料において測定限界以下であった。
    環境化学物質が胎盤栄養素輸送活性に与える影響についてin vitroで調べた。メチル水銀、ヒ素、カドミウムやグルタルアルデヒド、2,6−トリレンジイソシアネートは、胎盤アミノ酸輸送活性を有意に低下させ、胎児発育を修飾する環境化学物質と考えられた。環境化学物質は胎盤機能を修飾し間接的に胎児発育を制限している可能性が示唆された。
    妊娠中の職業と胎盤栄養素輸送機能との関連性について調べた。妊娠中も職業に従事している有職者群では、非有職者群に比較して胎盤重量と単位胎盤当りの栄養膜細胞容積が減少傾向にあり、労働環境に胎盤機能を修飾する因子が存在することが推察された。
    今後、このような環境因子(化学物質や労働環境)が胎盤栄養素輸送を変化させるメカニズムについて詳細に分析する。
    (2)胎盤のアミノ酸・糖輸送活性および低酸素障害に関する研究
    エコチル調査「パイロット調査」55症例の妊娠・分娩・胎盤基本情報、胎盤低酸素指標、胎盤栄養素輸送機能評価(胎盤重量・胎盤容積・胎盤病理学的診断、胎盤栄養膜細胞容積・胎盤栄養素輸送蛋白の発現)を行った。H.E.染色の画像解析による胎盤栄養膜細胞容積の定量は可能であり、胎盤機能を反映する因子として重要であると考えられた。また、Mammalian target of rapamycin(mTOR)シグナルは、環境化学物質などのストレスに反応する因子と考えられ、胎盤におけるmTOR定量とその活性化について分析した。今後、当サブユニットセンターで得られたこれらの胎盤機能に関連する基礎データと、国立環境研究所で計測予定の母体静脈血・臍帯静脈血中の環境化学物質との相関性について分析を行う。
    妊娠高血圧症候群および子宮内胎児発育遅延の胎盤では胎児・胎盤の低酸素・低栄養に適応し、栄養膜細胞においてアミノ酸輸送蛋白およびmTORシグナリング発現が亢進していることが示唆された。胎盤にはストレス(環境化学物質・低酸素・低栄養など)に反応し、mTORシグナリング修飾を介してアミノ酸輸送蛋白発現などのレギュレーションを行い、胎児栄養障害に適応するメカニズムが存在することが示唆された。今後、環境化学物質が胎盤のmTORシグナルに与える影響についても分析する。
    "

    3.委員の指摘及び提言概要

    エコチル調査の追加調査として、環境由来化学物質による胎盤栄養輸送障害が子宮内胎児の発育を抑制する影響を明らかにすることを目的に研究を実施しているが、研究成果にはあまり見るべきものがない。研究目的は新しい視点として意義があると思われるが、生体内(母体・胎児血中)の環境化学物質濃度を測定した症例数が5例と少なく、また胎盤栄養素輸送機能評価(胎盤重量・胎盤容積・胎盤病理学的診断、胎盤栄養膜細胞容積・胎盤栄養素輸送蛋白の発現)も55症例であり、研究目的を検証するデータとして不十分である。実験方法及び解析手法をさらに明確にして、エコチル調査に貢献できる研究成果が得られるよう最大限の努力をすることが望まれる。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: C-1007 化学物質の複合暴露による健康リスク評価に関する分子毒性学的研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 菅野 純 (国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)

    1.研究概要

    【目的】 本研究は、中央環境審議会からも指摘され国民の関心も高いが、現行の毒性評価法では技術的に対応困難であるところの、環境化学物質の複合暴露の健康リスク評価について、トキシコゲノミクスによる分子毒性学的な有害性評価検討手法を適用し、その網羅性、定量性、及び分子メカニズム解析能をもって、それを可能とする評価基盤を構築することを目的とする。
    【背景】 人や野生動物は、環境中に意図的に散布された、或いは非意図的に分散した複数の化学物質の複合暴露を受けているが、法規制に関わる基準値は単独化合物についてしか検討されていない。その理由として、複合暴露問題が現行の毒性学では扱いきれていないことが挙げられ、そこには、解決を要する2つの問題点が存在している。
    第一点は、現行の毒性学では、化学物質Aの毒性情報と、化学物質Bの毒性情報が在ったとしても、それらが現象論的な情報であることから、A+Bの複合暴露による毒性を予測することが困難であり、A+Bは、新物質Cとして改めて検討し直す必要がある。このため、複合暴露の評価には、化学物質や濃度毎の厖大な組み合わせ数の毒性試験を逐次実施しなければならない状況にあり、現実的に手がつかないのである。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    第二点は、複合暴露が起こった際の閾値が、個々の単一化学物質の閾値と同等であるかどうかの科学的検討がなされていないことである。毒性に閾値があるということは、例えば、体の中に毒性に対抗する中和物質が備わっていて、ある量の毒性物質までは中和するためであると考えることが出来る。現行の法規制は、個々の化学物質の暴露量が閾値以下であれば、複数の化学物質に同時に暴露されても、毒性症状は現れないと仮定している。しかし、実際は体内の中和物質の減少はこの閾値以下の量でも起こるので、個々が閾値以下の量であっても複合して作用した場合、中和物質が枯渇し、毒性症状が現れる可能性がある。
    これらの問題点は、毒性学の近代化を目指し我々が進めているパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクス法(Kanno et. al. BMC Genomics (2006), 7:64、特許第4415079号)により解決することが可能である。この手法は、mRNA発現データの精度と定量的な取り扱い性能を格段に向上させたものであり、最終表現形としての毒性症状が明らかになる前の段階から、且つ微量暴露の状態から化学物質影響を、網羅性を担保しつつ、遺伝子レベルで高感度・定量的に観察するものである。そのため、分子毒性機序に基づく評価が可能となり、化学物質A+BをCとせず、AとBのそれぞれのPercellome情報からA+Bを科学的に評価するための技術基盤開発が大いに期待される。
    【アプローチ】 実施に当たっては、短期間で効率良く開発を進めるために、必要な諸技術をゼロから開発するのではなく、研究代表者独自の複合影響判定に関する数理統計学的基礎(Matsunaga et. al. Enviromentrics (2009), 20:1-13)と、開発済みの分子毒性学的な有害性評価検討手法であるパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクス手法、及びこれを利用して構築した既存の大規模・高精度トキシコゲノミクスデータベース(Percellomeデータベース)を用いる。

    ■ C-1007  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1007 .pdfPDF [PDF 425KB]

    2.研究の進捗状況

    本研究課題を開始するに当たり、今後の解析に必要な高精度データの取得に加え、実験手技と解析手法の確認と最適化にも重点を置いた。
    【化学物質選択】 初年度である平成22年度は、環境化学物質であり、工業的には主に溶剤として使用されている2物質、四塩化炭素(CCl4)及びトルエンを複合暴露実験のモデル物質として選択した。これらの個々の化学物質は、既存のPercellomeデータベースに、複数の暴露条件(単回経口投与(肝を中心として、一部は反復投与)、多臓器解析、及び吸入暴露)に於けるトランスクリプトームデータが豊富に存在することも選択の大きな理由である。単独暴露用量は、既存データの実験条件と整合を取り、また毒性機序の起点を捉えるために、病理組織学的検査に於いて毒性所見が現れない用量域に設定した。複合暴露の用量は、各化学物質の単独暴露用量から数理統計学的に設定した。
    【複合暴露実験】 実験動物(マウス)に於ける複合暴露実験は、高度な実験技術と経験を有するサブテーマ担当者が専従し、厳密な飼育環境維持(特に照明制御による概日リズムの堅持)のもと、mRNA用サンプル採取に最適化された高度なプロトコールに基づいて実施し、単独投与群(各1)、複合投与群(1)、溶媒対照群(1)の4群(n=3)につき、投与後2、4、8、及び24時間に採取した肝、肺、腎の計144サンプルを得た。
    用量設定に於いて企図した通り、一般状態、体重、剖検、臓器重量及び病理組織学的検査結果には単独投与、複合投与とも影響は検出されなかった。また一般状態、体重、臓器重量及び後述の遺伝子発現データに於いても概日リズムの乱れを示す異常は検出されず、Percellome遺伝子発現解析に適した高品質のmRNA測定用サンプル採取に成功したものと判断した。
    【遺伝子発現情報解析】 採取したサンプルから、Percellome標準プロトコールに沿って、低分解・高純度のRNAを抽出し、GeneChip MOE430 2(Affymetrix)を用いて、マウスの全遺伝子に相当する約4万種のmRNAの経時的発現量変動を細胞1個当たりのコピー数という絶対単位量として測定した。
    データ解析は開発済みのPercellome用各種ソフトウエアを用いて行った。これらのソフトウエアでは、遺伝子(プローブセット)ごとに用量×時間×発現量からなる3次元曲面パターンを生成し総合的な解析を行うことを特徴としている。
    初年度は先ず、暴露条件(単独、複合、用量)、時間、発現量の組み合わせからなる様々な形式の3次元曲面を生成し、これを、標準的な単独、時間、発現量の組み合わせデータ用に開発された既存のPercellome用ソフトウエアへ適合させる複数の試行を進め、それらの性能評価を実施した。特に、RSort(特徴的な発現を示す遺伝子をその3次元曲面パターンを用いて自動抽出する独自アルゴリズム)に於いて、複合暴露実験の特徴的な変動を最も高感度に検出することの出来る3次元曲面パターンを選定した。これを複合暴露評価に於ける標準マトリクスとして採用し、RSortを用いて単独暴露及び複合暴露に反応した候補遺伝子を自動抽出した。これらの候補遺伝子の発現パターンを、Percellomeデータベースの単独投与時データと比較した結果、四塩化炭素×トルエンの複合暴露下で相加、相乗、及び相殺の発現パターンを示す遺伝子リストを自動的に得た。
    【考察】 初年度は、研究計画での見込み通り、複合暴露影響のある遺伝子を既存のPercellome用ソフトウエアによって自動的に検出可能であることが確認されたことから、今後の研究実施に於いて効率的な網羅的解析と、それによる目標達成の可能性が高まった。
    一方、臓器間のデータ比較により、複合暴露影響に於いても臓器特異性があることが明確に示された。このことから、複合暴露による生体影響評価・予測に際しては、臓器単位の複合影響が全身症状にどの様に反映されるかを検討するために、もう一段階複雑な解析を行う必要性が明らかとなった。次年度以降は、肝、肺、及び腎での臓器間解析をモデルとして基礎検討を進める。
    さらに経時的データの解析結果から、個々の化学物質の単独暴露による経時的影響と、これらの複合暴露による経時的影響に乖離がある遺伝子が存在することが認められた。このことから、複合暴露によって遺伝子発現ネットワークの構造に動的変動が誘発されることが明らかとなった。このレベルの解析には、さらに概日リズムを基盤としたホメオスターシスと複合暴露との動的相互作用を考慮する必要があることが判明した。この点については、既にPercellomeプロジェクトで検討を開始している概日リズムの基本的データベース、及び、概日リズムを相殺してデータ解析を行うアルゴリズムを開発済みであることから、速やかな対応が可能である。
     四塩化炭素とトルエンに複合暴露されることによって毒性が増強されるといった報告は過去に例が無いが、遺伝子発現レベルからみると、潜在的な相乗影響が存在している可能性が示唆された。
    本研究では、分子機序に基づいた単独暴露情報の組み合わせからの複合暴露影響の予測の方法論の開発に重点を置いて進めている。現在までに抽出された候補遺伝子数からすると、本研究期間中に複合暴露による相乗影響を起こし得る遺伝子のリストと、それらの持つ特性(機能、発現制御機構、臓器分布、臓器内局在等)の多くを捕捉できる可能性が高いと考える。

    3.委員の指摘及び提言概要

    現行の毒性評価法では技術的に対応が困難である環境化学物質の複合暴露の健康リスク評価を、研究代表者が開発したパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクスによって可能にすることを目的として研究を推進し、質の高い成果が得られつつあることはある程度評価できる。ただし、初年度はトルエンと四塩化炭素の組み合わせであり、次年度以降の計画も1年間一組(2物質)の実験である。人への影響が問題となる環境化学物質の数は膨大であるので、このような限られた数の複合暴露影響評価データがどのように環境政策に活用できるのか明確にすべきである。また、今回の複合暴露データから健康上どのような影響があるのかを理解することは困難である。実験結果の具体的な意義、成果の内容に関する説明が必要である。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: C-1008 エピゲノム変異に着目した環境由来化学物質の男性精子への影響に関する症例対照研究 (H22-24)
    研究代表者氏名: 有馬 隆博 (東北大学大学院医学系研究科)

    1.研究概要

    我が国の男性不妊症患者は漸増し、精子の数と機能低下が報告されている。以前より、環境由来化学物質曝露による生殖細胞への影響が指摘されているが、的確な解析手法がなくその実態は不明である。最近化学物質は、遺伝子プロモーター等のエピジェネティックな修飾(エピゲノム)に影響を及ぼすことが立証されてきた。エピゲノムは、生殖細胞形成過程では、遺伝子刷り込み(ゲノムインプリンティング)として知られ、その分子機構の本体はDNAメチル化である。特筆すべきは、生涯安定なインプリント遺伝子制御領域のメチル化は、最も鋭敏に影響を受けること、またこの分子機構の破綻は、先天性疾患に限らず、乳幼児の行動、性格異常等に影響を与えることである。本研究では、精子数の異常と機能異常(エピゲノム異常に起因するインプリント異常)の原因となる化学物質群(複合因子)を同定し、因果関係を正確に評価し、科学的成果を得ることを目的としている。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    そのため、
    (1)PCR-Luminex法を用いた新規メチル化解析技術
    (2)飛行時間型質量分析計(T0F-MS)に高分解能ガスクロマトグラフ(HRGC)あるいは包括的二次元ガスクロマトグラフ(Comprehensive GC:GC x GC)を組み合わせ脂溶性化学物質の網羅的な解析技術を確立し、研究計画を実施。最終的には、多変量解析にて正確に評価・検証する。サブテーマは他に患者精子登録・リスク要因の評価と総合評価により構成される。

    ■ C-1008  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ c-1008 .pdfPDF [PDF 235KB]

    2.研究の進捗状況

    (1)患者登録:特定地域の26〜52歳の男性337人を登録し、十分なサンプル数を確保した。128人は乏精子症(うち重症型は61人)で、209人は正常。2群間で年齢、BMIに差を認めたが、喫煙、飲酒に差はなかった。これらの要因を交絡因子として考慮する。
    (2)新規メチル化解析法の開発と性能評価;PCR-Luminex法を用いた8種類のインプリント遺伝子を標的としたメチル化解析法を確立(特願2010-116634 東北大学)し、精度を向上された。具体的には、
    1)精子DNAのバイサルファイト処理法の検討 
    2)ビオチン化プライマーの設計 
    3)ハイブリダイゼーション検討等である。また実際にヒト精子検体を用い検証した。メチル化異常は乏精子群で37.5%(重症型は80.0%)、正常精子群では5.4%で精子濃度と強い相関がみられた。最も影響を受けやすい領域は、新生児発育や行動に影響を及ぼすPEG1であった(8.84%)。
    (3)GC-TOF/MS 及び Comprehensive GC(GC x GC)-TOF/MSによる網羅的環境化学物質(脂溶性化学物質)の測定系の確立:
    1)血液前処理方法及び測定装置設定条件の検討を行った。ケミカルハザードクリーンルームの使用、実験器具並びに試薬調整の検討によって、ブランク値を測定装置で運用可能なレベルに低減することができた。
    2)4種類のGCカラム(GC x GCについては、1st 及び2ndカラムの組み合わせ)について検討を行い、血液試料に適した組み合わせを決定した。
    3)プール血液試料及び乏精子群、正常精子群健常者の血液試料を用い、検討結果から設計した方法を適用し測定分析を行った。
    得られた結果から、検出された化合物の同定をマスクロマトグラムによる構造解析及び化学物質の個別標準物質を用いて同定作業を行い、次の化合物が同定できた。ポリ塩化ビフェニル(45異性体)、クロロベンゼン(2異性体)、 ブロモベンゼン(4異性体)、クロロスチレン(3異性体)、HCH等POPs(25化合物)、ナフタレン(5異性体)、ペンタクロロアニリン、4,4'-(2-クロロビニリデン)ビス(クロロベンゼン)、 トリス(クロロプロピル)ホスフェート(2異性体)、 ポリ塩化ターフェニル(異性体数が多いので異性体毎のアサインは未実施)。このように多数の化学物質を同時検出した例はもちろん例がなく、また、血液中で初めて検出された化合物も多い。現在、検出されてはいるが、未同定の物質を継続して同定中である。実際の血液試料においては試料量が限られるため、装置感度の観点からここで検出された化合物全てを測定することは不可能である。ある程度の同定作業が終了した時点で対象化合物の絞り込みを行い、同位体希釈による定量方法を設計し、実際の乏精子群並びに正常精子群健常者の個々の被験者の血液試料の分析を行い、多変量解析に供する予定である。さらに精漿にも応用する。
    (4)化学物質濃度のヒト精子への影響についての評価は、2×2群あるいは多変量解析により、交絡要因について補正を行い検証する。さらに、これらのデータに基づいて、我が国における化学物質曝露のヒト男性精子への直接作用について提言を行う。

    3.委員の指摘及び提言概要

    精子数の異常と機能異常の原因となる化学物質群(複合因子)を同定し、因果関係を正確に評価する手法の開発を目的として研究を進め、目的とする研究成果を得つつあり、またエコチル調査の追加研究としてもかなり高く評価できる。ただし、対照群が不妊外来受診者から選択されているので、対照群として妥当性があるのか、今後十分な証明が必要である。また、乏精子症患者の血液中に同定された化学物質とエピゲノム変異との相関に意義があることを検証できるか本研究のポイントであるので、慎重な検討を進めていただきたい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: RF-1003 環境ストレスが及ぼす生物影響の評価手法の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 北野 健 (熊本大学・大学院自然科学研究科)

    1.研究概要

    近年、多くの化学物質が及ぼす生物への影響メカニズムが明らかとなりつつあるが、TBT(トリブチルスズ)のように、イボニシやヒラメの雄化を誘導する物質については、詳細な分子機構が解明されていない。最近、私たちは、高温ストレスが副腎から分泌されるコルチゾルの量を増加させ、メダカの雄化を誘導することを明らかにした(Hayashi et al., 2010)。したがって、TBT による雄化等の影響は、ストレス誘起(コルチゾル量の上昇)が一因である可能性が考えられるが、この環境ストレスを評価するシステムは未だ確立されていない。そこで本研究では、有用なトランスジェニック(Tg)メダカ系統を利用して、環境ストレスが及ぼす生物影響の評価システムの開発を目指す。具体的には、平成22 年度は環境ストレスの影響評価、平成23、24 年度は化学物質の影響評価を実施する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ rf-1003 .pdfPDF [PDF 279KB]

    2.研究の進捗状況

    コルチゾル量の増加は、下垂体での副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌により引き起こされ、ACTH 量の増加は、視床下部での副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)により誘導されることが分かっている。したがって、環境ストレス応答の中枢である視床下部内でCRH を制御する因子を解析する必要があると考えた。そこで、視床下部領域を緑色蛍光タンパク質(GFP)蛍光で可視化したnurogenin3(ngn3)-GFP Tg メダカ系統を用いて、視床下部領域において高水温(33°C)処理により変化する遺伝子をDNA マイクロアレイ解析により探索した。その結果、コントロールと比較して発現量が10 倍以上上昇した遺伝子は、メダカ44,000 遺伝子中65 遺伝子であり、その中にはheat shock protein (hsp)70、hsp30 等が含まれていた。またCRH については、発現量が約5 倍上昇していることが確認された。さらに、これらの遺伝子発現パターンを定量的リアルタイムPCR で確認したところ、DNA マイクロアレイ解析と同様な発現パターンであったことから、今回のDNA マイクロアレイ解析結果は十分信頼できると考えられた。次に、ストレス応答性のin vivo 評価系の確立を目指して、メダカhsp70 遺伝子の発現を緑色蛍光タンパク質(Venus)蛍光で可視化したhsp70-Venus Tg メダカ系統を用い、この系統における高温ストレスに対する応答性を解析した。その結果、通常水温(26°C)で飼育した個体では、Venus蛍光が全身では観察されず、レンズにおいてのみ確認された。一方、高水温飼育個体においては、すべての個体でVenus 蛍光がレンズだけでなく頭部から尾部にかけて確認され、尾部においてはより強い蛍光が観察された。さらに、酸性水で飼育した個体においても、すべての個体で頭部から尾部にかけて強い蛍光が観察された。このように、hsp70-Venus Tg メダカ系統は、高温や酸性の環境ストレスに対して強い応答性を示し、「環境ストレスが及ぼす生物影響の評価」に大変有効であることが明らかとなった。今後は、より簡便な評価システムを確立しつつ、計画されているいくつかの化学物質の評価を進めていく予定である。さらに、環境ストレスが及ぼす雄化等の生物影響の分子メカニズムを解明すべく、DNA マイクロアレイ解析で単離した遺伝子の機能解析も継続していきたいと2 / 3考えている。

    3.委員の指摘及び提言概要

    トランスジェニック(Tg)メダカ系統を利用して、環境ストレスが及ぼす生物影響の評価システムを開発することを目的として、初年度(平成22 年度)は温度や酸性の環境ストレスを緑色蛍光タンパク質(Venus)蛍光よる可視化手法で明らかにしており、若手研究としてはかなり高く評価される。しかし、環境ストレスによる生物影響のうち最大の関心事である化学物質によるストレスの研究はまだ実施されていない。研究の焦点を絞って、化学物質に関する研究を進めてほしい。その際、研究の方向性やポイントを明確化するため、「環境ストレス」の定義についても検討するとよい。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: RF-1004 水生・底生生物を用いた総毒性試験と毒性同定による生活関連物質評価・管理手法の開発 (H22-24)
    研究代表者氏名: 山本 裕史 (徳島大学)

    1.研究概要

    従来からの洗剤成分に加え、医薬品や化粧品等の多種多様な生活関連物質の検出報告が近年相次ぎ、国民の不安が増大している。本研究では、生活排水を多く含む河川約10 箇所を選定して水・底質試料を採取し、以下の3 つのサブテーマについて検討を行い、生活関連汚染物質の評価・管理策に活用することを最終目標とした。
    (1) 欧米や韓国等で導入され、環境省でも平成21 年度から検討が開始された総排水毒性(WET)試験に準じた手法で水生生物(魚類・ミジンコ・藻類)と底生生物(ユスリカ)に対する河川水もしくは河川底質の直接影響を調べ、総毒性を評価する。
    (2) 同じ水・底質試料中の医薬品や界面活性剤の化学分析を実施し、各物質の毒性試験結果と合わせて総毒性に対する寄与の高い物質を同定・定量する。
    (3) 同じ水・底質試料中の化粧品等のパーソナルケア製品についても同様に化学分析を実施し、各物質の毒性試験結果を合わせて総毒性に対する寄与の高い物質を同定・定量する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-1004  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ rf-1004 .pdfPDF [PDF 325KB]

    2.研究の進捗状況

    平成22 年度は、未処理の生活排水や下水処理水が混入する徳島・京都・埼玉の河川から計12地点を選定し、2〜4 回採取した河川水試料について検討を実施した。
    サブテーマ(1)では、水生生物3 種のWET 手法に基づく亜慢性試験を実施した。その結果、魚類(ゼブラフィッシュ胚・仔魚毒性試験)、ミジンコ(ニセネコゼミジンコ繁殖試験)、藻類(ムレミカヅキモ生長阻害試験)でそれぞれのべ12 試料中6 試料、34 試料中20 試料、30 試料中2 試料から毒性影響を検出した。
    サブテーマ(2)では、同じ試料について、医薬品64 種について濃度測定を実施したところ、最も高濃度で検出された医薬品類は最大11,000 ng/L のcaffeine(強心剤)で、他にcrotamiton(鎮痒剤)、sulpiride(抗精神病薬・消化性潰瘍用剤)、acetaminophen(解熱鎮痛剤)、clarithromycin, levofloxacin,sulphamethoxazole(すべて抗菌剤)等も最大1,000〜2,000 ng/L 程度検出された。また、陰イオン界面活性剤LAS や非イオン界面活性剤AE の分析法の確立、底質試料の分析法の検討を行った。
    サブテーマ(3)では、同じ試料について、パーソナルケア製品34 種について濃度測定を実施したところ、パーソナルケア製品では、2-phenoxyethanol(防腐剤)が最大14,000 ng/L で、他にresorsinol(防腐剤)、benzyl salycilate(紫外線吸収剤)、triclosan(抗菌剤)、isopropylmethylphenol(防腐剤)等も数百〜1000 ng/L 程度検出された。また、それぞれの物質について底質試料の分析法の確立もおこなった。
    サブテーマ(2)および(3)で分析した物質のうち測定濃度が高いもしくは毒性が強いと考えられる10〜20 種について魚類、ミジンコ、藻類の亜慢性試験、疎水性の高い5 種についてユスリカの毒性試験を実施し、その試験結果で重み付けして、地点ごとの毒性単位(TU)を調べた。ミジンコや藻類に対するTU はtriclocarban、triclosan、clarithromycin 等が比較的高く、levofloxacin やsulphamethoxazole も一定の寄与が推定された。一方、比較的高濃度で検出されたcaffeine やcrotamiton、phenoxyethanol 等の毒性への寄与は小さく、これらの物質のTU を単純に足し合わせても、サブテーマ(1)で測定したミジンコの総毒性に対する割合は最大でも約10%であった。それに対して、藻類については個別物質を足し合わせたTU が非常に大きく、逆に栄養塩などによるマスキングの影響からサブテーマ(1)で総毒性が検出されないケースが多かった。現在は、同じ地点で採取した底質試料について、ユスリカを用いた毒性試験、化学分析、水生生物を用いた個別物質の毒性試験を行うとともに、水試料中の界面活性剤濃度の測定を順次進めている。

    3.委員の指摘及び提言概要

    生活排水を多く含む河川約10 箇所において採取した水・底質試料の総排水毒性、医薬品、界面活性剤、化粧品等の同定・定量化に関する貴重なデータが得られつつあり、その成果は高く評価される。
    最終的には生活関連汚染物質の評価・管理施策への活用を目標としているが、広範な物質を対象としており、これらを一様に評価することは困難と考えられるため、総毒性試験結果をもとに対象物質を絞り込んで、生態毒性の評価を行うのがよい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  
    目次へ

    研究課題名: RF-1005 遺伝毒物学を使った、ハイスループットな有害化学物質検出法の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 廣田 耕志 (京都大学医学研究科)

    1.研究概要

    これまでの遺伝毒性物質の検査には、細菌細胞を用いたエームス試験や、マウスを用いた小核試験が用いられてきた。これらの試験の問題点は、偽陰性や偽陽性が大量に発生することであった。本研究では、DT40(ニワトリBリンパ球細胞株)を用いて、偽陰性、偽陽性を低減させた次世代の有害化学物質の検出法を開発することである。DT40細胞の特徴は、遺伝子の標的破壊の効率が高いことである。我々はこの細胞から100種を超える、DNA修復関連因子の遺伝子破壊を系統的に行い、世界最大のノックアウト細胞のライブラリーを持っている。DT40細胞の特色として、細胞の70%がS期(DNA複製期)にあり、G1からS期に移行する際のDNA損傷チェックポイントが全く機能しないことが挙げられる。この特徴は、DNA損傷を高感度に捉えるのに適している。それは、G1期にDNAが損傷を受けたとしても、DNA複製を行うので、DNA上の些細な損傷もDNA複製後にはDNA2重鎖切断に発展するからである。これまでに、このDNA2重鎖切断は染色体の断裂として、顕微鏡下で観察する技術があった。実際に染色体分析は、遺伝毒性物質の検出に用いられている。しかし、この方法はDNA断裂を可視化するので、他の損傷(例えば、UVによるDNA鎖上の損傷)は、感度よく検出できなかった。DT40ではG1期のチェックポイントが機能せず、複製中の細胞が70%を占めるので、高確率にDNAのキズがDNA2重鎖切断に発展し、高感度にDNA損傷を捉えることができる。本研究では、染色体分析法を遺伝毒物学手法で改善することを目指した。遺伝毒物学手法とは、野生型細胞を常に陰性対照におき、DNA修復関連因子のノックアウト細胞を解析し、野性型-ノックアウト細胞の間の差異から遺伝毒性を試験する方法である。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-1005  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ rf-1005 .pdfPDF [PDF 1,561KB]

    2.研究の進捗状況

    本研究以前に、NIHとの共同研究で、ハイスループットに遺伝毒性物質のスクリーニングを実施した。このスクリーニングでは1408種の化学物質を14種類の濃度で試験した。試験に用いた細胞は、野性型DT40と7種のDNA修復の変異DT40細胞である。このスクリーニングでは、細胞生存を野性型と変異体の間で比較している。このスクリーニングで特定した42種の化学物質のうち、特に効果の強い(強い遺伝毒性を示す)物質について、遺伝毒物学による染色体分析を行い、スクリーニングの結果の評価を行った。特に強い効果を示す8種の化学物質のすべてで、本試験で遺伝毒性を認めることができた。さらに、7種の各種DNA修復経路の変異細胞との比較を行い、これらの化学物質が誘導するDNA損傷のタイプを解明した。毒性物質のなかには、本試験ではじめて明らかとなったDNA毒性も認められた。
    NIHで行ったスクリーニングにおいて、興味深い結果を得た。それはDNA複製阻害を行うことが知られている葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)は野生型細胞も、どのDNA修復酵素欠損細胞も同様に生存を低下させる結果である。DNA複製をブロックする化学物質の及ぼす遺伝毒性についての研究は、ほとんどこれまでになかった。そこで、葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)に加えて、複製阻害を及ぼすことの知られるヒドロキシ尿素(HU)、5-フルオロウラシル(5FU)の毒性評価を行った。この解析で用いた細胞は、野性型DT40細胞と、Rad54/Ku70変異DT40細胞である。Rad54とKu70はDNA2重鎖切断の修復において中心的な役割を果たす相同組換えと非相同末端結合にそれぞれ必須の因子である。すなわち、Rad54/Ku70変異DT40細胞ではDNA2重鎖切断を修復できない為、DNA2重鎖切断が発生した時、染色体の断裂が野生型細胞に比べて多く見られることが知られている。興味深いことに、野性型、Rad54/Ku70細胞の両方で、葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)、ヒドロキシ尿素(HU)、5-フルオロウラシル(5FU)によって細胞を処理後に染色体の断裂が同程度に増加するのが観察された。この結果から、DNA複製ブロックを誘導するタイプの薬剤が作用した時、DNA2重鎖切断は引き起こされていないことが示唆される。では、なぜどのように染色体の断裂はこれらの化学物質で誘導されるのであろうか?おそらく、複製のブロック時に停止した複製フォークからクロマチンタンパク質が離脱し、DNAの切断を経ずに、染色体を染色した時にクロマチンタンパク質の離脱した部分が抜けて染色される為に、断裂のように見えていたものと考えられる。これまで染色体断裂=DNA2重鎖切断と考えられてきた既成概念を本研究結果は覆す概念を提唱する。
    "

    3.委員の指摘及び提言概要

    従来の遺伝毒性物質検査法としては、細菌細胞を用いたエームス試験や、マウスを用いた小核試験があるが、これらの試験法には偽陰性や偽陽性が大量に発生する問題がある。本研究では代替試験法として、DT40(ニワトリBリンパ球細胞株)を用いる有害化学物質のDNA毒性検出法を開発し、偽陰性、偽陽性を低減させた結果を得ており、その研究成果はかなり高く評価される。ただし、現在の試験法は感度、精度が低いのが問題であるので、それらの問題を克服し、有効かつ汎用的な検出法として確立されることを期待したい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  
    目次へ

    中間評価 4.第4研究分科会<生態系の保全と再生>

    研究課題名: D-1001 野草類の土壌環境に対する生育適性の評価と再生技術の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 平舘 俊太郎((独)農業環境技術研究所)

    1.研究概要

    かつて日本の国土面積の約20%を占めていた半自然草地(刈り取りや野焼き等の伝統的な人為活動の関与によって維持されてきた草地)は、高度経済成長期以降急速に減少し、国土面積の2%にまで減少している。その結果、多くの草地依存性の生物群が絶滅の危機に瀕しており、とくに植物は多くの種がレッドリストに掲載されている。現在、これら希少な野草類を保全・再生するために、多くの自然再生事業が試みられているが、必ずしも成功するケースばかりではない。たとえば、単に木本植物や潅木類を伐採しただけでは目的の野草類は再生されず、荒地となったケースや外来植物が蔓延したケースなどが報告されている。課題代表者らは、野外における植物の分布と生育環境について調査を行った結果、野草類を含む多くの植物にはそれぞれの生育に適した特定の土壌環境があり、したがってある植物を保全しようとした場合にはその植物の保全に適した土壌環境を明らかにし、このような環境を整える必要があることを見出している。
    本課題では、半自然草地において貴重な野草類を保全し、生物多様性を維持・増進させることを目的として、下記の4つのサブテーマを実施することにより、野草類の土壌環境適性を明らかにし、かつての土壌環境を復元することによって、あるいは土壌環境を保全・制御することによって、生物多様性の保全上重要な半自然草地を再生する技術を開発する。
    サブテーマ1:野草類の分布と土壌の化学的特性の関係解明
    サブテーマ2:野草類に含まれる無機栄養元素組成の解明
    サブテーマ3:アーカイブ植物試料に含まれる無機栄養元素組成の解明と過去の土壌環境推定
    サブテーマ4:野草類の土壌環境適性の解明と再生技術の開発

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1001 .pdfPDF [PDF 223 KB]

    2.研究の進捗状況

    【サブテーマ1:野草類の分布と土壌の化学的特性の関係解明】
    半自然草原が分布する日本全国の9地区(阿蘇、石垣、塩塚高原、芸北、蒜山、富士宮、稲敷台地、小笠原、十和田)において植生調査および土壌サンプリングを実施し、合計814点の調査地点について、植物の分布と土壌特性の関係に関する情報を得た。
    その結果、ススキ、ヨモギ、ヤブマメ、クズといった日本の草原で普遍的にみられる植物種は土壌の化学的特性に対する適応幅も広いこと、オミナエシやシラヤマギクといった各地で個体数の減少が認められている植物種は土壌特性に対する適応幅が比較的狭く、有効態リン酸が低い土壌環境に主として分布していることが明らかとなった。要注意外来生物であるカモガヤ、オニウシノケグサ、セイタカアワダチソウは、土壌pHが強酸性とはならない環境で、かつ土壌中の有効態リン酸が豊富な環境に主として分布していることが明らかとなった。
    【サブテーマ2:野草類に含まれる無機栄養元素組成の解明】
    草原から6797点の植物試料を採取し、体内に含まれる植物栄養元素等を化学分析した。
    その結果、ススキは窒素(N)およびリン(P)に対する要求性は低く、貧栄養的な環境において土壌NおよびPに関する適応性の幅が広いと考えられた。ヨモギはNおよびPに対する要求性は高く、富栄養的な環境において土壌NおよびPに関する適応性の幅が広いと考えられた。草原において分布の減少が懸念されているオミナエシおよびシラヤマギクは、Pに対する要求性は低く、またNに対する要求性の幅は狭いことが明らかになった。
    【サブテーマ3:アーカイブ植物試料に含まれる無機栄養元素組成の解明と過去の土壌環境推定】
    植部体内成分と土壌特性の関係を検討した結果、オミナエシ、ミツバツチグリ、キジムシロの葉中C/P比は、それぞれの植物が生育していた土壌の有効態リン酸レベルをよく反映していることが明らかになった。また、ヨモギ、ヤブマメ、ゲンノショウコも、土壌中有効態リン酸を推定する指標として利用できる可能ある。
    これらの植物については、博物館等に保存されている過去の植物体試料を化学分析することにより、過去の土壌環境を推定することができる可能性があると考えられた。ススキ、クズ、ワラビの葉内C/P比は、土壌中有効態リン酸とある程度関連していたものの、その反応はシャープではなかった。また、オニウシノケグサ、ハルガヤ、シロツメクサの葉内C/P比は、土壌中有効態リン酸に対してほとんど反応していなかった。
    【サブテーマ4:野草類の土壌環境適性の解明と再生技術の開発】
    塩化アルミニウムを土壌表面に処理することによって、セイタカアワダチソウなど外来植物を長期間にわたって衰退させ、代わりにチガヤなどの在来植物で構成される多様性の高い草地に誘導する効果が確認された(特許出願中)。また、伝統的な草地の管理手法は、草地の土壌を貧栄養的な環境に誘導する性質が強く、その効果は、刈取り>放牧>野焼き、の順であると考えられた。また、刈取りおよび放牧は土壌を酸性化させ、その効果は、刈取り>放牧、の順であると考えられた。野焼きは土壌pHを上昇させる効果があるものの、長期的に見れば、草地におけるCaやKといったアルカリ分の土壌からの溶脱や持ち出しを助長することにより、貧栄養化を促していると考えられた。
    以上、これまでの調査・研究により、いくつかの代表的な植物についてその土壌環境適性および植物栄養学的特性が明らかになった。これらの植物は、それぞれに個性的な土壌環境適性および植物栄養学的特性を持っており、これが現在の分布状況を特徴づけていると考えられた。また、いくつかの種につては、その体内成分組成からその植物が生育していた土壌特性を知る手がかりが得られることが明らかになった。さらに、土壌の化学的特性を制御することによって植生を制御する手法について、新たに資材を投入する手法を開発するとともに(特許出願中)、伝統的な半自然草地の管理手法を、土壌の化学的特性の面から整理し、それぞれの手法の特徴や効果を整理した。
    これらの研究成果は、科学的な意義も大きく、また草原の再生や外来植物の蔓延防止といった環境政策の現場にも大きく貢献するものであると考えられる。

    3.委員の指摘及び提言概要

    調査地点や植物試料数は膨大だが、分析は順調に進んでおり、日本に分布する主な野草類の生育・分布環境を明らかにしつつある。科学的再現性を確保するに相応しい多点サンプリングを実施して、植物種ごとに固有な含有/要求要素量の値域帯を設定できたことは大変興味深いし、科学的意義は大きい。
    しかし、土壌以外の環境にも目を向ける必要がある。塩化アルミニウムの使用に関しては影響(弊害)の評価も必要である。また、草原再生や外来植物のまん延防止など、環境政策への貢献を意識した研究内容の修正も必要なのではないか。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: D-1002 湖沼生態系のレトロスペクティブ型モニタリング技術の開発(H22-24)
    研究代表者氏名: 占部 城太郎(東北大学大学院生命科学研究科)

    1.研究概要

    近年の生態系変化は、人間社会の持続性に対する脅威になると懸念されている。この脅威を回避・緩和するためには、生態系の変化を迅速に検出するための広範囲なモニタリングが必要である。しかし、生態系モニタリング、特に生物種や生物群集に関するモニタリングは、対象とする生態系の深刻な変化やその兆しが顕在化されてから開始されることが多く、事前データがないため、変化前のその生態系の様相や変化を引き起こした生態系過程がどのようなものであったかを確かな精度で把握できないことが多い。変化前の生態系の状態が把握できなければ、その保全や復元にあたって目標を設定することは困難である。また、辺境地、例えば高山湖沼などでは、日常的な生態系モニタリングは人的・経済的に困難であるため、現在でもきわめて断片的な知見しかない。本研究では、この生態系モニタリングがかかえる問題を克服するため、湖底に堆積している動植物プランクトン遺骸や生物・環境由来の化学物質に加え、動物プランクトン休眠卵がもつ DNA情報等を手がかりに、過去 100年間の生物群集や環境状態の変遷を高精度に明らかにするモニタリング技術を開発する。これにより、長期モニタリングデータのない湖沼や高山など辺境地での生態系モニタリングを可能にし、近年懸念されている大気降下物や温暖化など広域的な環境変化要因と富栄養化など地域的な変化要因の影響の識別を行う。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    研究にあたって設定したサブテーマは以下の3つである。
    1 堆積物の動物プランクトン情報を用いた湖沼生物群集の復元
    2 堆積物の藻類・光合成色素を用いた湖沼の栄養・物理環境の復元
    3 堆積物の有機物・安定同位体を用いた湖沼と集水域環境の復元

    ■ D-1002  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1002 .pdfPDF [PDF 357 KB]

    2.研究の進捗状況

    平成22年7月に道東の羅臼湖(知床半島)と阿寒湖及び道南のニセコ大沼で、また平成23年2月には道南の渡島大沼で、いずれも最深部において堆積物コアを採取した。採集した堆積物は層別にスライスして210Pb 及び137Cs による年代測定を行い、サブテーマごとに分取して分析試料とした。
    (1)堆積物の動物プランクトン情報を用いた湖沼生物群集の復元ミジンコ類(Cladocera)では休眠卵が孵化しても、それを包んでいた卵鞘と呼ばれる母体由来の殻片が堆積物に残される。この卵鞘は微小な甲殻であるためDNA を抽出するのは困難とされてきた。しかし、堆積量が多いため、DNA が抽出できれば過去の生物相を精度高く再現するための重要な情報となる。そこで、アルカリや熱ショックなどDNA を分離するための処理を試行錯誤し、超音波処理をすることで卵鞘など微小な甲殻断片からDNA の抽出を可能にするUltraSHOT 法という手法を開発した。この手法を、採集した堆積物中の卵鞘に適用したところ、調査湖沼によってDNA 増幅成功率が異なり、安定した解析が難しかった。
    そこでPCR 法による増幅を様々な条件で調整して行った結果、当初10%程度の卵鞘しか増幅出来なかった湖沼でも約60%の卵鞘でDNA 増幅および塩基配列を決定することが可能となった。この一連の手法は、動物プランクトンの死骸断片全般に適用可能であることから、堆積物から抽出出来る生物情報を劇的に増加させるものである。
    ヒゲナガケンミジンコ類(Copepoda)はミジンコ類とならんで湖沼の主要な動物プランクトンであるが、堆積物に遺骸が残らないため過去復元においては無視されてきた生物群である。
    本研究では、ミジンコ類と同様にヒゲナガケンミジンコ類にも着目し、堆積物に残される休眠卵から種同定を行う技術を開発した。まず初めに、日本産ヒゲナガケンミジンコ類全種(8属11 種)のDNA 塩基配列ライブラリを作成した。次に、堆積物中のヒゲナガケンミジンコ休眠卵からDNA を抽出する技術を開発した。その塩基配列を決定し、ライブラリと比較することで、休眠卵から過去に生息していたヒゲナガケンミジンコ種を同定することが可能となった。
    これら手法を各湖沼で採集した堆積物に適用し解析を進めている。現在時点での解析はまだ断片的であるが、山岳湖沼の羅臼湖やニセコ大沼では動物プランクトン組成や生息していたミジンコ種の遺伝子型に過去100 年で大きな変化は確認されていないが、阿寒湖では組成の変化や遺伝子型頻度の変化が示唆されている。
    (2)堆積物の藻類・光合成色素を用いた湖沼の栄養・物理環境の復元
    動物プランクトンの遺骸とともに藻類遺骸や藻類由来色素を分析した。その結果、ニセコ大沼と阿寒湖では1950〜60 年代に藻類、動物プランクトンが共に増加していることがわかった。この時期、全リンも増加していたことから、いずれも栄養塩負荷によるボトムアップ効果でプランクトン生物量が増加したと推察された。栄養塩負荷源として、阿寒湖の場合は観光地化による集水域の人間活動の増加によるものと考えられるが、ニセコ大沼の場合は集水域に人間活動の影響が見られないことから集水域起源とは考えにくく、広域的な大気からのリン負荷に起因する可能性が伺われた。また、世界遺産の登録地域に位置する羅臼湖では過去200 年の間に藻類、動物プランクトンに大きな変化は認められなかた。
    これら、プランクトン生物量の過去の変遷に加え、群集構造の特徴を指標する動物プランクトンによる藻類への捕食圧を評価するプロキシとしてSCEs 色素(クロロフィルの誘導体ステリルクロリンエステル類)の有効性を検討した。阿寒湖ではSCEs 色素が、カロテノイド色素から推測される藻類量の変化と異なったパターンを示し、むしろ湖沼生態系の主要な植食者であるミジンコ類Daphnia の遺骸量と類似した変動を示していた。これは、SCEs 色素から、動物プランクトンが捕食した藻類量やどんな藻類が主に餌として利用されたのかを再現できることを示唆しており、過去の食物連鎖やその変遷を評価する指標の開発に目処がついた。
    (3)堆積物の有機物・安定同位体を用いた湖沼と集水域環境の復元
    上記湖沼について、炭素・窒素同位体分析、主成分・微量元素分析、リグニンフェノール分析を、また一部の湖沼についてはストロンチウム同位体分析、花粉分析を行った。その結果、世界自然遺産知床半島に位置する羅臼湖では、過去200 年以上にわたって、湖沼及び集水域環境やその植生に大きな変化が見られないことが裏付けられた。一方、阿寒湖では、集水域の植生や陸上起源有機物の供給に大きな変化は見られないものの、1950 年以降、富栄養化しそれが現在まで継続していること、そして1960 年頃に増加した鉛などの重金属の供給が1970 年以降には減少したことが示された。また道南の山岳湖沼であるニセコ大沼では、1960年以降、集水域の植生に顕著な変化は見られなかったが、植物プランクトン生産と共に陸上起源有機物の供給が増加したことが明らかになった。その時期以降、大気降下物の影響と考えられる窒素同位体比の減少が見られた。さらに、人為由来と考えられる鉛などの重金属の供給が増加しており、何らかの環境変化が集水域もしくは大気降下物経由で生じたことが示された。今後、鉛やストロンチウムなどの同位体分析により、その物質の起源の特定を行う。
    また、上記3 湖沼周辺の現在の植生と堆積物中のリグニン由来フェノールの植生パラメーターの間によい対応が見られ、今後、堆積物を用いた古植生復元への応用が期待できる。
    なお、平成23 年7 月に信州のみくりが池と木崎湖でも採集を行い、計6 湖沼について比較解析を行うことで開発した手法を評価するとともに、各湖沼での生態系の変化ドライバーの特定を行う予定である。

    3.委員の指摘及び提言概要

    湖沼堆積物試料から、初めてミジンコ卵鞘のDNA 抽出に成功し、光合成色素の分析により藻類及び栄養・物理環境の復元を、有機物・安定同位体の分析により、湖沼と集水域環境の復元を目指して、ニセコ大沼、羅臼湖、阿寒湖で、環境の変化に違いがあったことを明らかにした。研究面、技術面ともに新規性があり、今後の発展が期待できる。
    しかし、この研究成果が湖沼生態系の改善に具体的にどう役立つのかなど、環境政策への貢献という点では必ずしも明確でない。また、古い研究者が残してきた標本を正しく検討しなおせば、古い時代の生物相をより明らかにすることが可能なのではないか。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: D-1003 野生動物保護管理のための将来予測および意思決定支援システムの構築(H22-24)
    研究代表者氏名: 坂田 宏志 (兵庫県立大学)

    1.研究概要

    野生動物による被害が深刻になるなか、適切な保全と管理の実施が強く求められている。本課題では、特定鳥獣保護管理計画の策定と実施に必要なデータ収集から分析、将来予測、意思決定までの一連の作業体系を確立し、都道府県による計画策定と実施を支援するシステムの開発を目的とする。
    具体的には、モニタリング調査項目の開発(三重県)、そのデータを用いた将来予測等のデータ分析技術の確立(兵庫県立大学)、分析結果を基にした意思決定支援のためのコンテンツの開発(大阪府)、およびこれらの全ての手法を効率的に実施するソフトウエア・パッケージの開発(ブレイン)を役割分担して行う。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1003 .pdfPDF [PDF 432 KB]

    2.研究の進捗状況

    モニタリング項目の開発(三重県)では、47都道府県の実態調査と三重、大阪、兵庫の3府県での試行的なモニタリングの結果から、どの都道府県でも採用しやすいと考えられる調査フォーマットを作成した。3府県では、作成したフォーマットによる調査を実施中である。
    データ分析の手法確立(兵庫県立大学)では、上の調査結果も踏まえて、全ての都道府県でデータを所有している捕獲数をベースにしたHarvest-based modelを状況に応じて拡張した推定手法を開発した。さらに、糞塊密度調査や堅果類の豊凶など都道府県独自の調査結果を組み込んで、推定精度を上げる手法を開発した。この推定法は兵庫県の特定鳥獣保護管理計画におけるニホンジカおよびツキノワグマの個体数推定や将来予測に採用されたほか、環境省生物多様性センターの平成22年度自然環境保全基礎調査特定哺乳類生息状況調査及び調査体制構築検討業務報告での個体数推定にも採用された。さらに、島根県からも同じ手法での推定を委託され実用に供された。
    コンテンツの開発(大阪府)については、ニホンジカ35、イノシシ33の特定鳥獣保護管理計画を精査し、また、各都道府県でのヒアリングを行った上で、個体数や管理目標値の設定など必要な項目やその提供形式の素案を作った。また、その中で上のデータや分析結果の適切な提示手法を検討した。
    ソフトウエア・パッケージの開発(ブレイン)では、モニタリング項目の開発で作成した調査フォーマットからのOCR自動読込やデータ管理プログラム、およびGISによる補間手法を組み込んだ分布図等の自動作成など、いくつかの部分的なシステムを構築した。例えば、入力に関する労力は約100人日から30人日へ、作図に関しては2〜3日かかっていた業務を1分未満で行うことが可能になり、効率化・省力化が実現できた。
    以上のように総じてほぼ計画通り研究開発を進めることができた。

    3.委員の指摘及び提言概要

    都道府県が行う野生動物保護管理の支援を目指しており、科学的な根拠に基づく特定計画制度の進展のために開発するべきコンテンツとシステムを整理していて、それぞれのサブテーマとその統合ソフトウエアの開発が期待できる。
    しかし、頭数の推定変化予測は十分ではなく、捕獲頭数を提示しても実行可能性、検証可能性は少ない。小地域でもいいから、現地調査で得たデータで検証解析をすべきである。都道府県の実態をさらに精査し、担当者への総合的な支援策になることを望みたい。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-1004 魚介類を活用したトップダウン効果による湖沼生態系保全システムの開発・研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 藤岡 康弘(滋賀県水産試験場)

    1.研究概要

    近年の琵琶湖では、栄養塩濃度から見ると水質の改善傾向が認められる一方、水草の異常繁茂や漁網への藻類等の大量付着が発生し、漁業被害や生態系サービスの低下が顕在化している。また、有害外来魚は、駆除対策の徹底により最近ではその生息量は減少しつつあるが、在来魚介類は未だ減少した状態が続き、種組成の偏りが続いている。かつての琵琶湖では、これら魚介類が豊富に生息し水草や付着藻類の摂餌あるいは湖底の攪拌などの機能を発揮して、生息環境の維持だけでなく、生態系の保全や水質の維持に重要な役割を果たしていたと考えられる。
    上記に掲げた水草の異常繁茂や漁網への藻類の大量付着等の現在の琵琶湖で発生している異変現象の改善策を検討するため、現状把握と原因解明を行うと共に、魚介類の湖沼生態系保全機能を評価し、異変現象に伴う生態系サービスの経済的損失を求めたうえで、費用と便益を考慮し、在来魚介類を活用したトップダウン効果による湖沼生態系の管理保全方策を提言する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-1004  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1004 .pdfPDF [PDF 353 KB]

    2.研究の進捗状況

    水草の異常繁茂現象の現状把握とメカニズム解明のため、魚探を用いた調査により、繁茂期(9月)には南湖湖底のほとんどの場所が群落に覆われ、衰退期にはほとんど消失する群落と衰退期でも繁茂している群落(主にセンニンモ)があることを明らかにした。一方、サイドスキャンソナーを用いた群落形状の把握技術の開発において、島状の群落と森林状の群落の 2つの形状が検出された。また文献資料を元に 1936年〜現在の南湖の水草の分布と消長を整理した結果、 4つの時期に区別でき、 1995年〜現在は、センニンモの分布範囲と現存量が著しく拡大したことが判明した。このことから、異常繁茂メカニズムの解明にはセンニンモの生育環境の変遷を調べることが鍵になると考えられた。
    漁網への付着物の増加現象のうち、エリ網への付着について試験エリ網への付着物量と付着藻類組成および湖水中の栄養塩濃度、水温等を調査して要因を抽出した結果、付着珪藻の増殖に DIN濃度や DIP濃度、水温が関与していることが示された。試験エリ網に付着藻類が定着し増殖する過程を追跡したところ、試験網の設置直後から藻類が付着し始め、 1月からの設置試験では珪藻が優占して 2月中旬以降に急激に増加した。培養試験の結果から、この時期の成層の解消に伴い深水層から回帰する栄養塩類が漁網付着藻の増加に寄与することが示された。
    刺網については、漁業者が実際に使用している刺網の汚損度と操業水域を調査したところ、 8〜9月を除く春から 11月までの操業期間を通じて網への付着量が多くなり、原因となる藻類種では緑藻の Mougeotia spp.が優占することを明らかにした。 Mougeotia spp.の湖水中の密度は、 1970年代、1980年代に比べて最大で 3倍高くなっていた。また、試験刺網を用いて網へ付着する藻類組成を湖水中の藻類組成と比較した結果、刺網へは紐状・帯状の群体を形成する Fragiralia sp.、 Klebsormidiumu sp.、Mougeotia spp.などが優占して付着しており、特に Mougeotia spp.は水中の全植物プランクトン中に占める割合が 20%未満であるのにもかかわらず、刺網に付着した藻類では最も優占していたことから、特に網地に巻き付いて付着しやすいと考えられた。
    琵琶湖における漁網への藻類付着の増加等の要因解明のため、滋賀県と国土交通省による表層の各態栄養塩濃度、クロロフィル a濃度のデータ、滋賀県によるプランクトン調査のデータおよび下水道処理放流水による栄養塩負荷量を検討した。 1989〜2008年の 20年間で琵琶湖全体では TN濃度、TP濃度、クロロフィル a濃度は減少傾向にあった。北湖での植物プランクトン種組成は、緑藻が減少し珪藻や藍藻が増加傾向にあった。下水道処理施設からの栄養塩負荷の影響については、下水道処理施設で栄養塩が極めて効果的に除去されている影響の検討が必要であると考えられた。
    琵琶湖において水草の異常繁茂と漁網への藻類等の異常付着などの生態系異変現象によって生じている生態系サービスの損失額の推定を行うため、生態系サービスの一部について、経済価値の現状と過去からの推移を代替法を用いて推定した。供給サービスは実質漁獲金額について、調整サービスはシジミによるリン除去量部分の経済価値について、基盤サービスは水産業による魚介類取り上げによる窒素・リン固定量部分の経済価値について検討した結果、各種生態系サービスの評価額は 1970年代のピーク時に比較して近年はそれらの 1〜3割程度まで減少していることが明らかとなった。
    魚介類によるトップダウン効果の検証のため、在来魚 5種と外来魚 1種を池で実験的に調べた結果、ワタカとコイに水草繁茂抑制効果が見られた。また、在来魚介類 9種を水槽実験で調べた結果、ニゴロブナ、ゲンゴロウブナ、ホンモロコ、カネヒラ、ビワヒガイ、アユ、スジエビの 7種に漁網付着物抑制効果が見られた。これらの魚種が回復すれば近年問題となっている水草の異常繁茂やエリ網への付着物の増加現象は一定解消されることが期待される。これら魚介類によるトップダウン効果を琵琶湖全体を対象範囲として評価し、その機能を活用した生態系管理方策を探るための生態系モデルを「 Ecopath with Ecosim」を用いて構築中であり、それに入力する各魚種の現存量の推定手法を決定した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    水草の異常繁殖の実態、その要因である栄養塩類の動態や光環境の変動、異変現象がもたらした生態系サービスの損失実態と損失改善のための魚介類による生態系保全手法の開発など、当初の研究計画に沿って順調に進捗している。「魚介類の生態系保全機能」を考慮したモデルによるシミュレーションは興味深い。今後の成果を期待できる。
    しかし、ブラックバス、ブルーギルに限定され、望ましい湖沼生態系システムとは、どんなものか、という視点の議論がなく、水産物の水揚げが大きくなることを目的とした研究のように見える。また、4つのサブテーマ間のつながりもあまり感じられない。

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-1005 生態系サービスからみた森林劣化抑止プログラム(REDD)の改良提案とその実証研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 奥田敏統(広島大学大学院総合科学研究科)

    1.研究概要

    本研究は、途上国における森林減少・劣化の防止による排出削減対策の一つとしてのインセンティブメカニズム(以下REDD plus)が熱帯林の本質的価値の保全のための活動(「二酸化炭素の排出削減」、「生物多様性保全」、「貧困削減」)を実施する上で,どのように有効に機能するのか、またこうしたメカニズムが当事国や地域社会で発展的に受け入れられるためには今後どのような仕組みの改善が必要かを明らかにすることを目的とする。そこで,本課題ではインドネシア・マレーシアの商業伐採活動と土地利用改変活動を対象に、前者では主として森林施業方法の改善方法,後者では地域社会と地方や中央政府による土地利用政策との接点(ゾーニングプランの改善やREDD plus の対象となる土地利用形態)に焦点を当て,森林・土地利用の「使い方」の改善によって炭素放出量の削減、貯留量の保全,生物多様性の保全,地域住民の貧困削減がどの程度実施可能かについて調査を行っている。さらにこうした改善策がコストベネフィットの面から,どの程度の実現性が見込めるのか、また、生態系保全の基本であるエコシステムアプローチの原則にどの程度合致し、さらには、当事国が締結している国際条約(気候変動枠組条約や生物多様性条約)とそれをもとにした国内法と照らし合わせ、REDD plus の運用面での実現性の検証を行うものである。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    本課題では以下のサブテーマを実施している。
    (1) 持続的森林経営評価による劣化抑止プログラムの改良策とその実現性に関する研究
    (2) 炭素ストックの強化による劣化抑止プログラムの改良策とその実現性に関する研究
    (3) 森林の生物多様性評価による劣化抑止プログラムの改良策とその実現性に関する研究
    (4) 劣化抑止プログラムによる経済効果の分析およびクレジットの市場取引の可能性に関する検証に関する研究
    (5) 劣化抑止プログラムの導入にあたってのゾーニングとガバナンスに関する研究
    (6) 劣化抑止プログラムの導入による地域社会への影響評価と住民参加のためのインセンティブ導入方法に関する研究
    (7) 劣化抑止プログラムと国際・国内現行法との整合性および問題点の検証
    (8) エコシステムアプローチからみた森林劣化抑止プログラムの検証

    ■ D-1005  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1005 .pdfPDF [PDF 308 KB]

    2.研究の進捗状況

    2010 年度の調査で以下のことが明らかとなった。
    ・インドネシアにおいては後発移住民による無秩序な森林伐採や農地への転換などで森林劣化が深刻化している地域がある一方で、住民と公園管理事務所による植林事業やNGO 主導での住民との協働作業による森林再生の動きもあることが分かった。これらの地域内の「緑の回廊」として指定されている地帯において、伐採強度による植生回復の違いを調べるための植生試験地を設置し炭素貯留量のベースライン分析が行える態勢を整えた。
    ・このように現地の政府・行政機関、地域住民を支えるNGO 団体はREDD plus に関して高い関心を持っているものの、実際の運用にあたってのコスト、法的基盤、支援体制が不透明で不確定要素が多く、研究投資は十分なされているとは言えない状況であることが分かった。
    ・また、マレーシアでの現地調査や国際機関でのヒアリングを通じて、REDD plus に関する様々なセーフガード(例;先住民・地元住民の伝統的知識と権利の尊重、生態系サービスの維持確保)への準備状況(国家戦略の策定や国際的セーフガード項目への対応など)について調査を行ったが,REDD plus に関する法的枠組みと制度設計の詳細に関する論議が継続中であり、制度設計までには至っていないことが分かった。
    ・「森林管理」の改善によるREDD クレジットの可能性としては、生物多様性保全および炭素ストック量回復の観点から林道、搬出路の敷設密度を抑制するのが極めて効果的であることが示された。特に路網密度を上げると野生動物の種子散布能力による森林回復が著しく阻害されることが分かったのでその定量的把握によりREDD plus 導入の効果の把握が可能であることが示唆された。
    ・「土地利用管理の改善」に関しては、行政機関と住民による緑の回廊設置などの協働事業の実施状況が社会的にも生態的にも効果的であることが分かった。一方で住民側の選好から、法的な非林地の中に広く存在する果樹園など森林に類似した土地利用形態をREDD plus の活動として認めることの検討が重要であることが示された。
    ・上記2 つの改善策にかかるコストが炭素排出削減クレジットのみの収益で補填仕切れないケースも想定して、一般消費者を対象とした保全に対する支払い意思額を調査したところ,生物多様性の保全やCO2 の発生削減に配慮する場合、消費者は1・2 倍〜1・5 倍程度の余分の出費を許容するとしている。
    ・集水域の上流・中流・下流域を対象とした生物多様性保全プログラムがエコシステムアプローチとしてどの程度有効に機能するか、その有効性について聞き取り調査を行った。その結果、このプログラムには研究体制の構築、普及啓発、住民参加型保護区管理、高度な意思決定機関等による利害調整等の活動が含まれており、それが生態系保全に資する可能性はかなり高いことからREDD plus の改善にも上記のプログラムの構成要素が応用できることが分かった。
    ・現在、REDD を軌道に乗せるため、3つのフェーズ;基金などによるREDD の準備段階、マーケットベースへの移行期間(試行)、マーケットによる本格的運営,が提案されているが,生態系サービスを担保するためのREDD plus の実施には多くの費用が発生し、市場メカニズムによるクレジットだけで十分補填できるか不透明である。その場合、ハイブリッドインセンティブ(市場メカニズム+基金によるREDD plus の運用)のようなメカニズム導入の必要性が示唆された。そのためのコストや生態系サービスを含めた便益に関する調査を23 年度は継続すると共に,本課題で提唱する新たなメカニズムの設計上の問題点の抽出(エコシステムサービスの原則の応用や法律面との整合性)を行うこととした。
    ・本研究の成果を広く一般に広めるために以下のシンポジウムを主催・開催し(予定も含む)REDD およびREED plus の問題点(特に地域社会への導入に関しての問題点やコストベネフィット等)を取り上げると同時にこれらの解決策へむけた研究機関・行政・NGO などへのインプットが出来た。
    ・熱帯生態学会(REDD)の主催(2010 年6 月)
    ・CBD-COP10 でのサイドイベントの開催(REDD と生物多様性のリンケージ)(2010 年10月)
    ・国際シンポジウム(REDD のコストベネフィット(2011 年10 月)

    3.委員の指摘及び提言概要

    東南アジア各地の森林生態系劣化抑止を謳ったREDD+に対して、地域、森林の現場から取り組みの基本を提言しようという、きわめて挑戦的、意欲的な試みである。初年度の成果としては、択伐後の残渣からの炭素放出量が極めて多く、それらを定量化できたこと、熱帯雨林に於ける総土壌呼吸を根呼吸と微生物呼吸に分離して定量出来たこと、マレーシア消費者のREDD+に対する価値観を支払い意思額として定量化できたことなどがあり、今後の成果が期待できる。しかし、極めて広範にわたる研究であるところから、最終的にどこまで全体がまとまるかについては、不安がある。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: D-1006 熱帯林のREDDにおける生物多様性保護コベネフィットの最大化に関する研究 (H22-24)
    研究代表者氏名: 北山 兼弘 (京都大学)

    1.研究概要

    本課題は、熱帯林におけるREDD(森林減少・劣化に伴う温室効果ガス排出の抑制)の実施において、生物多様性保護コベネフィットが最大に達成されるための技術開発を目的とする。インドネシアやマレーシアでは、商業的な木材伐採のための生産林が国土の過半を占めており、それは10万fレベルの管理区に分割されて管理されている。国レベルの空間スケールにおいては、生物多様性に影響を与える地表の森林劣化や生物多様性の実態を高精度に把握するのが困難であり、生物多様性保全の立場を優先すると、管理区毎のREDDアカウンティング導入が望ましい。このため、本課題では、対象を森林経営がなされている管理区レベルの生産林とする。
    REDDを通して熱帯林の生物多様性保護コベネフィットが達成されるためには2つの問題が解決されなければならない。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    第一に、森林減少率と森林劣化率は個別に把握されなければならない。森林はその定義上、植被率に大きな幅が認められている。原生林が森林利用によって劣化しても、植被率が下限以上であれば、森林面積は定義上変化しない。しかし、実質的な森林劣化によりその生物多様性は大きく変容する懸念がある。従って、森林劣化率が正当に評価されない限り、生物多様性の保護効果が過大評価されてしまう。そこで、本課題ではレーザー技術による高さ方向での構造把握が可能な衛星LiDARを用いて熱帯林の3次元構造を評価し、管理区スケールにおいて3次元構造の変化から森林劣化を推定する技術を開発する(サブテーマ1)。
    第二に、生物多様性保全のインセンテイブをREDDの制度設計に組み込む必要がある。その具体的な方法として、生物多様性指標を用いた森林生態系の健全度診断と炭素マーケットでの優位性確保、及び生物多様性の希少性に基づく経済的なプレミアム発生、の2つが考えられる。このため、REDDにおいて生物多様性保全のインセンテイブが有効に働くように、最も効果的な生物多様性指標とモニタリング手法を開発する(サブテーマ2)。

    ■ D-1006  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1006 .pdfPDF [PDF 328 KB]

    2.研究の進捗状況

    (サブ1)リモートセンシングによる森林の3 次元構造とその変化の把握手法の開発
    対象とする熱帯林管理区の林分特性を明らかにするため、マレーシア・サバ州デラマコット及びタンクラップ森林管理区を対象として、高分解能衛星であるIKONOS 衛星データを取得し、オブジェクト指向型分類に基づく林相区分を行った。さらに、衛星LiDARであるICESat 衛星GLASデータの観測円(フットプリント:半径35 m)の中心点を現地におけるGPS 測位によって同定し、その中心点に半径15m の円形プロットを20 カ所に設定して、胸高直径10cm 以上の立木に対して、樹高と胸高直径の毎木調査を行った。この調査データから、各プロットにおける樹高分布および直径分布を明らかにした。また、ICESat 衛星GLAS データから3 次元構造を表す波形データを切り出すためのアルゴリズムを作成し、切り出された波形データについて定性的な特徴を明らかにした。
    (サブ2)REDD における生物多様性の効果的モニタリング手法の開発
    サバ州中部のデラマコット森林管理区とタンクラップ森林管理区において効果的モニタリング手法の開発を行った。異なる劣化度を持つ複数の森林に調査区を置き、樹木群集組成・多様度と森林劣化度との関係を異なる分類階級(種、属、科)や異なる樹木サイズ毎に検討した。この結果を調査努力量と精度の2 側面から検討し、標準方法として現場に導入可能な調査方法を開発した。開発した標準法を複数のマレーシアの森林管理区に導入し、実務レベルで実際に適用していただきその効率性を検証中である。
    哺乳動物群集のモニタリング手法の開発については、両管理区の全域に設置された多数の自動撮影カメラで撮影された中型・大型哺乳動物の種と撮影頻度のデータに基づき、必要努力量の検討を行った。その結果、最低500 カメラ日の調査努力量を払えば、各調査林分の生息種のおおよそを把握することができ、森林劣化に対する生息密度の変化を検出できることが明らかとなった。
    これらの結果に基づき、効果的モニタリング手法を確立した。

    3.委員の指摘及び提言概要

    REDD における生物多様性の効果的モニタリング手法に関して、種多様度の変化に対し樹木群集組成の変化がより森林劣化度と線形な関係にあることを見出した点が評価に値する。しかし、コベネフィットを最大化するためのインセンティブを制度設計に組み込む必要性を掲げておきながら、実際に行う研究との間にギャップがある。どのような道筋或いは論理でこの両者を繋ぐのか説明が必要であろう

    4.評点

       総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-1007 高人口密度地域における孤立した霊長類個体群の持続的保護管理(H22-24)
    研究代表者氏名: 古市 剛史 (京都大学)

    1.研究概要

    ヒト以外の霊長類は、すべて赤道から中緯度にかけての人口密度の高いところにいる。そのためヒトとそれ以外の霊長類は共存することを余儀なくされ、農地の拡大や森林伐採等による生息地の分断によって多くの個体群が孤立化している。大面積の手つかずの森林を残すという旧来の保護の手法が難しくなっている今、そのような孤立個体群をいかに守るかが、霊長類の存続のための最重要課題となっている。本研究は、20 年後の世界に多くの霊長類種が将来にわたって存続可能な状態で残っていることを目標とし、孤立個体群の存続のリスク要因に関する学術的な研究と保護政策への提言を、これまで日本人研究者が深く関わってきたアフリカ、アジア、日本の類人猿およびマカク類のフィールドで実施する。
    孤立個体群の絶滅リスクのひとつは、個体数減にともなう遺伝的多様性の喪失である。近年の類人猿の保護会議などでは、ある数以下になった個体群は、費用対効果の観点から保護活動のプライオリティリストから除外するといった傾向すらある。しかし、存続可能な最小個体群サイズに関する科学的知識はきわめて乏しく、有効な保護政策の立案ためにもこの点についての研究が急がれる。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    本研究では、糞試料から効率的にDNA を抽出するための手法を開発し、アフリカのボノボとチンパンジー、アジアのトクモンキーとアカゲザル、日本のニホンザルなど代表的な種を対象として野生孤立個体群から収集した糞からDNAを抽出して分析し、地域個体群のサイズ、孤立化の程度、孤立からの年数などの要因と、個体群内の遺伝的多様性との関係を調べる。また、遺伝的劣化の激しい地域個体群については、コリドールによる生息地の連結や、捕獲による管理政策の見直しなど、有効な保護政策を提言する。
    もうひとつの重大なリスクは、人獣共通感染症である。ヒトに似た遺伝子構成をもつ霊長類では、他の動物と違って人獣共通感染症のアウトブレークが起こりやすく、とりわけヒトとの接触の機会の多い孤立個体群にとっては大きな脅威となる。これまでにも、はしか、エボラ出血熱、インフルエンザ様の呼吸器疾患等の流行によってチンパンジー、ゴリラなどの地域個体群が壊滅的な打撃を受けている。本研究では、野生個体の糞試料からウイルス等に対する抗体を検出する方法を確立し、これを用いておのおのの個体群で潜在的リスクとなっている人獣共通感染症の実態を調べる。また、アウトブレークのサーベイランスのシステムと、その予防のためのガイドラインを作成する。
    これらの研究の成果を実際の保護政策に結びつけるには、各地域個体群のデモグラフィーや森林の状態、脅威となる人間活動の実態等に関する情報の集積が不可欠である。そこで、主な研究対象であるいくつかの種について、各個体群の情報を収集してデータベース化する。これを用いて、いくつかのモデル個体群について保護政策の提言と実装的研究を行うとともに、情報をインターネット上で公開して様々な保護活動に活用できるようにする。

    ■ D-1007  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1007 .pdfPDF [PDF 917 KB]

    2.研究の進捗状況

    個体群の遺伝的多様性に関する研究では、野生由来の糞試料を用いてマイクロサテライトDNAの遺伝子型分析を行うため、DNA を抽出する独自の溶解緩衝液法を開発した。この方法は、従来から市販されているキットよりも安価かつ効率的にDNA を抽出することができるほか、組成が既知であるため容易に改良ができる。また本研究以外にも、野生動物の生態や保全についての様々な研究や調査で自由に利用することができる。
    保護政策に関する世界の注目を集めているボノボについては、コンゴ盆地全域にわたる様々な個体群で研究を行う各国のグループの協力を得て、継続的に糞試料を収集する体制を確立した。また、持ち帰った試料で予備的分析を行って、上記の方法の有効性を確認した。これらの個体群については、むこう1 年間にわたって試料収集を継続して分析する。また、生息状況や個体群構成や生息状況が確かめられていない個体群については、基礎的情報の収集のための生態学的調査を行っている。これらの研究の成果は、学術誌に発表するとともに、毎年開催されるボノボの保護に関する国際会議に保護政策立案のための資料として提供する。
    ニホンザルとアジアのトクモンキー、アカゲザルについても、野生個体群から糞試料を収集し、DNA の抽出と遺伝子型の分析を行った。とくにニホンザルについては、東北地方の5個体群で得られた結果をSTRUCTURE 法によって解析したところ、下北と津軽の孤立個体群の遺伝的多様性が隔離からの経過年数から予想される以上に小さく、捕獲による管理政策の再検討が必要であることがわかった。
    人獣共通感染症についての研究では、まず霊長類研究所で飼育されている複数のチンパンジーから血液試料を採取し、各種病原体に対する特異的IgG 抗体の有無を検討して潜在的リスクとなるウイルスをリストアップした。次に、とくにIgG 抗体価が高かった抗EBV 抗体について、糞試料の抽出液からIgA 抗体を検出する方法を開発した。さらに、この方法で条件の悪い野生類人猿由来の糞試料からのIgA 抗体の検出を試みたところ、個体ごとの過去の感染の有無を推定できることが確かめられた。現在は、他のウイルスについても検出系を確立する作業を進めており、人獣共通感染症の実態把握とサーベイランスの実現に向けて大きく前進している。
    一方、霊長類研究所で発生した原因不明の致死的なニホンザルの血小板減少症について、社団法人予防衛生協会、国立感染症研究所、大阪大学微生物病研究所、京都大学ウイルス研究所等の研究機関と協力して原因究明に当たった。その結果、カニクイザルがほぼ無害なウイルスとして保有しているW型サルレトロウイルスが、ニホンザルに感染することによってこの病気を引き起こすことを、異例の早さで突き止めることができた。この研究成果は、「種の壁」を超えた感染の危険性を改めて示すことになった。また、5 機関の緊密な連携で解明を成し遂げたことで、「日本に霊長類感染症の研究拠点を形成する」という本研究課題の所期の目標である波及効果についても、前進をみることができた。
    孤立個体群についての情報収集とデータベース作成も順調に進んでおり、一部についてはすでにインターネット上で公開している。今後は対象とする種や個体群を増やすとともに、上記の遺伝学的研究と感染症に関する研究の成果もデータベースに組み込んで公表する予定である。
    本研究はまだ始まって間もないが、ツールとして用いる試料の収集・分析手法の開発については、ほぼめどがついた。また、継続的に試料を収集する体制も多くの地域で確立することができ、今後の2 年間で大きな成果を上げることが期待できる。なお、本研究のこれまでの成果は、4 編の論文として査読付き英文誌で発表されたほか、他に2 編が昨年度中に受理されて印刷中となっている。

    3.委員の指摘及び提言概要

    霊長類個体群の保護に必要とされる知見が着実に集積されており、霊長類研究の中心的役割を担う日本の研究者による大変優れた、かつ緊急性の高い研究である。糞試料からDNA を抽出できるようになったのは、大きな成果であり、今後のデータ収集が加速化されることを期待する。
    また、人との共通性をもつ点に新たな進展が見られる。
    しかし、大課題の「高人口密度地域」の定義づけをして欲しい。また、人獣共通感染症のリスクアセスメントにおいて、「孤立個体群」であることによるリスクがどのように評価できるのか、孤立個体群の維持・回復のための道筋は何かがはっきりわからない。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: D-1008 生物多様性情報学を用いた生物多様性の動態評価手法および環境指標の開発・評価(H22-24)
    研究代表者氏名: 伊藤 元己 (東京大学大学院総合文化研究科)

    1.研究概要

    1992 年に地球規模の環境問題を議題にしたリオで行われた地球サミットで、気候変動枠組み条約と同時に、生物多様性の持続的利用をめざして生物多様性条約が締結された。気候変動についてはその後におきた地球温暖化の顕在化を通じて、人間活動の環境への影響を持続可能なものに変える必要性が国際的に広く認められるに至った。この成果にはIPCC による科学的なデータ解析と予測がはたした役割が大きいことは周知の事実である。一方、生物多様性は、その構造の複雑性からまだ解析・評価・予測が不十分で、同時に始めた気候変動ほどの認知にいたってない
    しかし生物多様性の問題の深刻化により、生態系・生物多様性保全への関心が高まり、IPCC の報告書のような科学的データに基づく議論が生物多様性に関して必要とされているが、日本やアジア地域では十分な科学的根拠を持った評価が提出できていないのが現状である。その理由として、1)潜在的には多数ある生物多様性調査結果の情報公開と集積が十分でなく、各研究者が断片的な情報のみしか利用できない、2)各生物種の個体数や生育地の減少率など、生物多様性動態を推定する方法が確立していないことなどがあげられる。このような状況を打破し、科学的な根拠に基づく評価をするためには、大量の生物多様性情報の集積と統合を行い、その情報に基づいた生物多様性評価手法を新たに開発する必要がある。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    情報技術の発展に伴い、この10 年間に生物多様性を扱う生物多様性情報学が発展してきた。その結果、多量の多様性情報処理や、それに基づく分布予測などを行うエコロジカル・ニッチ・モデリングなどの手法が開発され、実際に研究や政策決定に使用可能となった。また、詳細な衛星画像が使用可能となり、リモートセンシング技術も格段に進歩してきた。本研究では、最新の生物多様性情報学技術を用い、従来の手法をさらに発展させて広地域の生物多様性の動態評価手法を確立しようとする先導的なものである
    従来行われてきた陸域の生物多様性評価では、数ha 単位の調査プロットでの詳細かつ継続的な観察、広い地域をカバーしているが網羅性の低い地上での調査、リモートセンシングによる衛星画像からの推定など異なるスケール・方法での評価が独立に行われてきたが、異なるスケール・方法間の連携や分析がされてこなかった。そこで本研究では生物多様性情報の集積を行うとともに異なるスケール・方法で得られた生物多様性情報を統合・情報間の関係を解析してモデル化し、広範囲に渡る確度高い生物多様性評価が可能になるような手法の確立が目標となる。そのため、6つのサブテーマを実施し、最終的に科学的根拠を持った生物多様性の評価・推定結果を出す

    ■ D-1008  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ d-1008 .pdfPDF [PDF 229 KB]

    2.研究の進捗状況

    本研究プロジェクトの情報基盤となる2つの基本的な生物多様性情報データベース、生物多様性情報メタデータベースと生物分布情報データベースが構築され、これまで日本国内で作成されてきた同様なシステムを大きく上回る規模の情報に容易にアクセスすることが可能になった
    これらの情報生物多様性評価基準作りや実際の評価に利用され、評価精度の向上が期待される
    また、これらのデータを用いた生物種の自然分布予測が可能であることも示すことができ、リモートセンシング情報による土地利用マップも作成されたので、これらを統合することにより、現状の分布推定への道が開け、生態系の時空間的な再構成が可能となる見通しが立った
    本研究で、各生態系での実用的な生物多様性環境指標作りを行う上での方針や問題点が明らかになってきた。森林生態系の生物多様性のモニタリングは種のモニタリングが中心であり、主に種数変化によって生物多様性の変化が表示されていた。このような状態のモニタリングでは、変化の要因を解明することはできなかった。生物多様性条約のGBO3 では個体群の変化を加味したLiving Planet Index という指数が提案されたが、本研究により、樹木に関しては種数と個体数では生物多様性の変化について誤った結論を導く可能性が始めて明らかになった。また、従来、無かった広範かつ総合的な農業生態系の生物多様性観測情報をRuLIS に集積した。これは今後の生物多様性総合評価を進める上で重要な成果である。陸水生態系の生物分布の変動を直接的に広域的網羅的に評価した例は極めて少ないが、本研究は、魚類の全国にわたる分布の寡多と増減を生物の分布から直接的・定量的に示した。また、空間スケールにおける生物の分布域形成に関しては、広域かつ詳細な分布データと地理や環境変数の集積が必要であるが、本年度の研究でその基礎が構築された

    3.委員の指摘及び提言概要

    全体的に当初目標に沿って順調に進んでおり、特に森林生態系、農業生態系の環境指標作成に貢献することが期待できそうである。もう少しペースアップして、研究成果の充実と公表をはかって欲しい。

    4.評点

       総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    中間評価 5.第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>

    研究課題名: E-1001 アジア低炭素社会の構築に向けた緩和技術コベネフィット研究(H22-24)
    研究代表者氏名: 内山 洋司 (筑波大学院 システム情報工学研究科 )

    1.研究概要

    中国やインドなど経済成長が著しいアジア諸国におけるエネルギー需要の増加が著しく、エネルギー供給施設の整備には先進国で開発された性能に優れた発電技術などの技術移転が欠かせない。先進国から新興国への技術移転は、温室効果ガスである二酸化炭素を削減するだけでなく、都市の大気汚染などの環境改善にもなる。
    本研究は、アジア諸国において低炭素社会の構築に向けて、今後、導入が予想される各種発電技術について、その経済性を二酸化炭素削減のクレジットだけでなく大気汚染物質削減による外部コストを含めたコベネフィットを考慮して分析することを目的とする。分析は、アジアの国をさらに地域別に区分し、それぞれの地域のエネルギー・環境・経済データを基にして、アジア諸国のCDMプロジェクトとして導入が期待されている各種エネルギー技術オプションについてコベネフィットを含めて経済性を明らかにするものである。
    研究によって得られる成果は、技術面ではアジア諸国における環境技術開発に対して技術選択を支援するだけでなく、日本の環境技術移転・普及の政策判断にも役立つものである。また、2013年以降の新しい国際枠組みの制度設計に不可欠な温暖化緩和技術の政策判断に寄与する資料を提供することができる。
    本研究は、次に示す4つのサブテーマから成っている。
    (1)エネルギーチェーンLCAモデルおよび地理情報システムによるアジア主要地域における各技術オプションの検討
    (2)緩和技術に関わる社会的認識についての調査・分析
    (3)新オフセット・メカニズムにおける緩和技術のコベネフィットを考慮した技術的経済的評価
    (4)アジア地域におけるコベネフィットを考慮した緩和技術の導入分析

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-1001  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ e-1001 .pdfPDF [PDF 279 KB]

    2.研究の進捗状況

    サブテーマ(1)は、地域のエネルギー供給システムに導入される温室効果ガス緩和技術を総合的に分析するボトムアップ・アプローチ手法(エネルギーチェーンLCAモデル)に必要となる各種データを文献調査および現地ヒアリングにて収集した。地理情報システム(GIS)を用い中国全土を対象とした石炭産出の分布と発電向けの石炭需要分布データの構築ならびに石炭輸送フロー分析と石炭輸送最適化分析を実施し、石炭輸送に起因する消費地域別CO2排出原単位と最適化による排出低減見込、および先進火力発電技術導入効果を明らかにした。これらに加え、中国における都市域発電所排出SO2拡散評価および再生可能エネルギー導入評価についてGISデータの整備を進めると共に、カザフスタンにおける風力発電導入についても評価を進めている。
    サブテーマ(2)では、緩和技術によって発生する副次的効果の評価を行うため、環境汚染の経済評価手法について検討を行った。CDMプロジェクトが実施されると期待される地域の一般公衆を対象として、大気汚染影響に起因する健康被害を回避するためのコスト負担に関する予備的な社会調査を実施し、支払意志額の推定のための予備データを得た。調査は、訪問面接法により実施し、中心となる設問には仮想評価法による質問を用いている。
    サブテーマ(3)では、アジア地域における温暖化によるコベネフィットを定量的に分析するためのライフサイクル影響評価手法(LIME)の高度化を目指しており、温暖化も含めた環境外部性の暴露応答関係に最新の科学的知見を反映するとともに、環境被害の経済評価をアジア地域全体に適用することを意図して、コンジョイント法による中国・インドにおける支払意思額の予備調査を実施した。得られた指針に基づいて、本調査の準備を進めている。
    サブテーマ(4)では、排出クレジットだけを考慮する現行CDMと、大気汚染に関するコベネフィットも考慮するCDMを比較するために、地域別・技術別CDMポテンシャルの評価手法を改良した。中国をホスト国とする先進的発電技術CDMを想定した試算により、コベネフィットがCDMのポテンシャルを拡大する可能性を示した。現在、インド等に対象地域を広げるためにモデルの拡張を進めている。

    3.委員の指摘及び提言概要

    コベネフィット分析と技術シナリオ評価モデルを用いた、アジア諸国とのCDM評価研究であり一定の成果が期待できるが、CDM自体とコベネフィットの効用が、より直接的かつ政策的に有効となるように結びつくよう進行させるべきである。
    サブテーマ(2),(3)で実施されるアンケート調査については、調査対象国の政治的環境等の事情等も考慮して、説得性のあるデータを得られるよう慎重に方法・内容等を検討して実施・解析し、またサブテーマ(1)と(4)のような技術モデル分析においては、抽象化や理想化と各地域特有の諸要因による現実的動態との折り合いを十分に考慮して研究を進展させることを要望する。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-1002 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源のセミドメスティケーション化 (H22-24)
    研究代表者氏名: 小林 繁男 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

    1.研究概要

    REDDにおいて、天然林、二次林、焼き畑休閑林などを完全に荒廃地化させない、あるいは焼き畑ローテーション期間を確保するためには地域住民の森林生態資源に対するインセンティブが最も重要である。インセンティブは地域住民にとって森林資源の利用と直結していることから、ラオス・ルアンナムター県、エチオペア・ナスレト、ペルー・ウカヤリ州の各地域において、伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用実態を明らかにし、非木材林産物の持続的生産を目指すセミドメスティケーション化技術に開発を行い、地域住民のセミドメスティケーション化に参加する方法を検討し、その結果、カーボンクレジットがどれほど生まれるかを評価する。そのため下記のサブテーマを設定した。
    (1) 伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用評価
    東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカにおける二次林、休閑林や薪炭材採取林の生態資源の伝統的利用実態を解明する。
    (2) 熱帯林生態系資源のセミドメスティケーション化の開発
    [1]植物生態資源のセミドメスティケーション化技術
    伝統的に利用されている植物資源の繁殖特性を明らかにし、焼き畑休閑地や荒廃林地に粗放的に植栽する。
    [2]動物生態資源のセミドメスティケーション化技術
    伝統的に利用されている動物資源の繁殖様式を明らかにし、半家畜化を行う。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (3) 地域住民の森林生態資源利用の住民参加システムの検討
    [1]移住-定着関係と生態資源利用における住民参加
    移住-定着関係における地域住民の生活・家計に占める生態資源の価値と貨幣経済に依存しないコモディティーを評価する。
    [2]環境保全政策と生態資源利用における住民参加
    調査対象国で行われている環境保全政策をもとに、生態資源利用における住民参加システムを検討する。
    (4) 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源利用によるカーボンクレジットの評価
    二次遷移植生資源の利用を通したカーボンクレジットに対する地域住民の認識とREDDやCDMに対する問題意識を総括する。また、セミドメスティケーション化によりカーボンクレジット量を評価する。

    ■ E-1002  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ e-1002 .pdfPDF [PDF 455 KB]

    2.研究の進捗状況

    ラオス・ルアンナムター県、エチオペア・ナスレト、ペルー・ウカヤリ州の各地域をコアサイトとして決定し、他の周辺諸国からはサブテーマ(1)、(2)、(3)、(4)に直接関連する情報の入手をするという研究方針を定めた。
    (1)伝統的知識に基づいた地域住民の熱帯林生態資源の利用評価
    ラオス・ルアンナムターでは生態資源として、主にラタンシュート(食用)、ブルームグラス(箒)、カルダモン(香辛料)、アルピナ(香辛料)、ビターバンブー(食用)、サッパン(薬用植物)、バイライ(薬用植物)が利用されていた。また、薪炭材利用は焼き畑耕作の伐根(80から100 cm高)を利用していた。さらに、この伐根からのぼう芽による休閑林の再生を促す方法は伝統的知識と認められた。しかし、非木材林産物の過剰採集から、生物資源の枯渇が問題化していた。ギニア・ボッソウ村のオイルパームは天然分布をしており、意図的に焼き畑に残す方法は、伝統的なセミドメスティケーション と考えられた。エチオピアではアフリカカルダモンやエンセーテが利用されており、タンザニアは5種のタケ(1種は酒作り)が利用されていた。ペルー・プカルパとブラジル・ベレンでは木炭の生産・利用や果樹を主体としたアグロフォレストリー(カカオを中心に多様な果樹)のシステムが広く行われていた(二次遷移を利用したカブルンカ・システム)。 伝統的に利用されてきた非木材生産物の中に、既に枯渇化された動植物があり、それについての情報を収集する必要があるとともに、地域住民の伝統的知識についての情報をさらに収集する必要がある。
    (2) 熱帯林生態系資源のセミドメスティケーション化の開発
    [1]植物生態資源のセミドメスティケーション化技術
    東南アジアのラオス・ルアンナムターでは4年目の休閑林にカルダモン(香辛料)、アルピナ(食料)、サッパン(薬用)を植栽した。 インドネシア・リアウでは泥炭湿地林択伐跡地にジュルトン樹下植栽(ガム採取) した。試験地(非木材林産物の植栽とカーボンクレジット測定)の設定は完了した。ラテンアメリカではペルー・プカルパで、3年目の6樹種混植地に果樹(アグアフェ、カムカム、ピフアヨ)の樹下植栽を本年度に行えるように準備をし、炭素の固定量は継続調査を行っている。 ブラジル・アルタミラではカブルンカ・システム(二次遷移を利用したアグロフォレストリーの1形態)へのカカオの樹下植栽地に試験地を設定し、計測を継続している。 アフリカ(試験地選定完了、非木材林産物選定)ではエチオピア・オモ県で、択伐跡地を選定した。本年度にアフリカカルダモンとエンセーテを植栽する。 タンザニア・イリンガでは、択伐跡地選定した。アビシニカタケ(酒採取)の植栽を本年度行う。地域住民が非木材林産物のセミドメスティケーション化によりインセンティブを得るようにすることと過剰採取から生物多様性を保全することを目指す。
    [2]動物生態資源のセミドメスティケーション化技術
    毛皮生産はペッカリーの毛皮(collaredとwhite-lipped)が商品価値が高く、ペルー・アマゾンでは、ロレト県、ウカヤリ県の生産が多かった。毛皮収集・販売はプカルパに、毛皮を集める3軒の店があり、18年間から43年間にわたりこの仕事に従事してきた。毛皮流通は1年間におよそ1万枚近い毛皮がリマやアレキーパーに運ばれ、この毛皮の一部はドイツにも輸出されて、ゴルフ用の手袋などになっていた。 国内にはプカルパのほかにイキトス、タラポト、ティンゴマリアなどにおいても毛皮を扱う店があり、その集散地は主にアマゾン川の流域(ウカヤリ川ほか多数)であり、日本の国土面積ぐらいに相当する。 ペルー・アマゾンが、アマゾンのなかで最大の毛皮集散地である。これらの生産(商業的狩猟)が、持続可能であるのか否か。とくに、ペッカリーの生息数の変動を調査継続していく。
    (3) 地域住民の森林生態資源利用の住民参加システムの検討
    [1]移住-定着関係と生態資源利用における住民参加
    調査地の側道に至る直前までの移動経緯を図化し、ブラジルアマゾンで起きている開発の同様な過程を明らかにした。住民はプカルパの市街・郊外、トカチェ周辺に移住した。土地は、占拠・購入により入手し、0〜350ha、平均46ha(65件)であった。購入が多いが、今日でも土地の占拠がみられた。トカチェ周辺では80年代中〜90年代初にコカノキ栽培のための移住が多かった。80年代後半〜90年代前半にテロを逃れて調査地へ来た人も多かった。移住と定着において、新たに形成された村落の住民参加は住民の履歴を元に参加システムを構築する必要がある。
    [2]環境保全政策と生態資源利用における住民参加
    ラオス・ルアンナムター県のDAFO(農林業地域局)の局長カミセン博士とナムハー村の副村長に非木材林産物の利用実態を聴取し、今後の地域住民参加への協力が得られるようになった。ネパール・ポカラ市とチャリカット市周辺の村落では、NPOをメディエータとして、コミュニティーフォレストリーグループ(複数の村から参加)が創られ、グループリーダがファシリテータの役割を担って、コミュニティーフォレストリー管理システムが作られていた。タイのサイヨークとラチャブリの周辺村落でのコミュニティーフォレストリーの聴取では、グループは村落単位であり、メディエータは、王室林野局、ファシリテータは村長。共用林の管理は主に、環境保全を目的としていた。 ウカヤリ州では、ペルー・アマゾンの森林で、多様な非木材林産物の利用が行われているが、いずれも個人単位であった。一方、ブラジル・トランスアマゾン・アルタミラ市周辺の村落では、地元NPOとICRAF(世界アグロフォレストリー研究センター)がメディエータとなり、村落の篤農家がファシリテータとなって、二次林の遷移を利用して、そこにアグロフォレストリーシステムを導入する方法(カブルンカ・システム)が行われていた。コミュニティーフォレストリーシステムについては様々な方法・システムがあるが、森林資源のセミドメスティケーション化の担い手としての機能を持つ。NPOや地方自治体も重要なメディエータとしての担い手であることが分かった。
    (4) 地域住民のREDDへのインセンティブと森林生態資源利用によるカーボンクレジットの評価
    セミドメスティケーション化はブラジルで行われているカブルンカ・システム(アグロフォレストリーの一形態で、二次遷移を利用)を用い、住民参加としてはネパールで行われているコミュニティーフォレストリーを適用する方針を選定した。研究代表者の従来の研究成果からREDD+モデルの構築を行った。これらの成果をREDD(+)モデルを使って、カーボンクレジットの評価とセミドメスティケーション化した非木材林産物のコストーベネフィットの評価の試算を行った。プロジェクト全体におけるREDD(+)とセーフガードを検討する。

    3.委員の指摘及び提言概要

    地域住民の知識、権利に関する研究によって森林劣化、減少を軽減し炭素クレジットを獲得しようとの意図で課題を設計し、既に丹念な現地調査を進め、セミドメスティケーション化の視点から研究を展開しており、この面では成果が期待できる。しかし単に農村経済調査や、資源の経済性、先住民・地域集落の知識調査に重点をおくのではなく、社会・文化にも視野を広げた調査をし、伝統的知識、権利と生態資源の関係を評価する,森林減少・劣化・再生と、ここで取り上げている資源の動態についての研究を行う,動物生態資源の評価は再検討する,先住民、地域集落の住民のREDD+活動への参加プロセスの検討と、そのためのインセンティブの創出を図るといった諸点を重視することが望まれる。現行のREDD+では、地域住民の知識・権利への配慮や参加等はセーフガードとして措置することとされREDD+政策・活動から地域住民の参加が排除されないようにすることをねらっている。セーフガードとしての地域住民の参加をどうしていくかについての研究を強化する必要がある。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-1003 次世代自動車等低炭素交通システムを実現する都市インフラと制度に関する研究 (H22-24)
    研究代表者氏名: 森川 高行 (名古屋大学)

    1.研究概要

    我が国のCO2排出の2割を占める交通部門における低炭素化を着実に誘導できるパッケージ施策と実現化手法の提案が本研究の目的である。低炭素交通システムを実現するため、本研究では、EV(電気自動車)等次世代自動車の普及促進、そしてTDM(交通需要管理)やITS(高度道路交通システム)、LRT(次世代型路面電車)、EVや自転車のシェアリングなど低無公害車両へ都市空間を優先的に再配分する施策のパッケージ的な展開が有効であると考え、これらを実現するには都市インフラや制度面からの支援が必要であるとの論点から研究を進める。また,現在の社会情勢を踏まえ、税制政策や低炭素化に向けた地方行政の着実な取組みに貢献できるなど、具体的な政策に直結する研究成果の導出を目指す。具体的には、環境税や道路利用課金(ロードプライシング)等プライシングスキームの再構築とパッケージ施策の提案、及びこれを実現するための制度設計や合意形成手法の提案を主眼とする。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-1003  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ e-1003 .pdfPDF [PDF 287 KB]

    2.研究の進捗状況

    初年度は4つのサブテーマごとに研究・調査を行い、全体の調整・連携を図るために全体会議を開催してきた。各サブテーマの研究進捗状況は次の(1)〜(4)の通りである。今後は、サブテーマの研究成果を入力データ・条件とし、低炭素交通システムの数値分析、実現化手法の検討を綿密な連携のもと行う予定である。
    (1)低炭素交通システムを実現するモビリティデザインの方向性に関する研究
    サブテーマ(1)では、次世代自動車をはじめとする低炭素交通社会が目指すべき方向性を明確にするため、以下の4項目を実施した。[1]電気自動車の普及・活用策、ロードプライシング等低炭素交通に係る国内外の先進施策事例を調査しデータベース化するとともに、専用WEBを開設し情報公開を行った。(http://www.trans.civil.nagoya-u.ac.jp/kankyo/
    [2]環境問題、高齢社会等数多くの課題を抱える将来、市民が求める新しいモビリティ像を解明し、低炭素交通社会の方向性に関する分析を行った。
    [3]低炭素交通社会を実現する施策に関する市民の合意形成手法の開発検討を行った。
    [4]施策によるCO2削減とヒートアイランド緩和効果を視覚的に訴求でき、合意形成支援ツールとなり得る"3D都市環境評価システム"を開発した。この他に、国際貢献の観点から、次世代自動車に関する日中共同セミナーを開催した。
    (2)ライフスタイル(生活・交通行動)を考慮したパッケージ施策に関する研究
    サブテーマ(2)は、世帯の自動車保有状況や個人の交通行動を予測できる交通需要予測モデルを用いて、環境改善効果と効率性が高い次世代交通システムを提案することを目的としている。本年度は「次世代自動車の保有形態等に関する研究」として、エコカー減税・補助金施策によってハイブリッドカー購入者は高収入世帯からより広い世帯層に分布し、モデル分析から高齢者世帯の購入確率は低下するなど世帯属性別の影響を把握した。また、EV購入意向には販売価格や航続距離、乗車定員は影響するが、充電施設整備水準はほとんど影響しないことをアンケート調査の基礎分析とモデル分析から明らかにした。「充電施設の最適配置計画に関する研究」では、交通需要予測モデルにて保有者属性別のEV利用パターンをシミュレートし、主婦のセカンドカー的利用よりも就業者が利用した方が環境改善効果は高く、幹線道路でEV交通量が多く、都心部で駐車台時が長いことから充電施設整備の潜在的なニーズがあることを示した。「CO2削減効果を踏まえたパッケージ施策の提案」として、環境改善効果はEVが普及する程高くなるが、EV走行費用の割安感から走行台時は増加するため道路課金政策などとの施策のパッケージ化が必要であること、EV専用レーン導入は10%程度の普及率では社会的便益を低下させること、その対策としてEV/Tollレーンを提案し、一般車両の通行料金収入により社会的便益は改善し、EV保有インセンティブ創出効果や環境改善効果も有するため効率的な施策であることを示した。
    (3)低炭素交通システムにおけるエネルギーと都市環境の総合評価に関する研究
    サブテーマ(3)では、低炭素交通システムの構築に向けて、エネルギーと都市環境の総合的評価を踏まえた再生可能エネルギー供給体制を提案することを目的としている。本年度は「エネルギー評価に関する研究」では、EVをバッファとして考える(供給変電所エリア内のみならず、エリア外からの交通も含む)再生可能エネルギー普及促進シナリオの検討を行った。「都市環境評価に関する研究」では、名古屋都市圏を対象として、現行のガソリン車の交通排熱がEVの交通排熱に置き換わった場合に温熱環境に及ぼす影響をシミュレーションモデルにより解析・評価した。夏季の名古屋においては、EVへの代替に伴う排熱量の減少により、一ヶ月平均値として最大約0.3℃の気温低下が見られた。
    (4)低炭素交通システムの実現に向けた制度設計と合意形成手法の開発
    サブテーマ(4)の研究目的は、[1]次世代自動車への転換など低炭素交通システムの実現に向けた自動車関係諸税、プライシングスキームのあり方を提案すること、[2]低炭素交通システムの実現に向けた合意形成手法としての「プロモーション・プログラム」の開発、である。低炭素交通システムの実現に向けた制度設計のため、日本における現行の自動車関連諸税等を調査し、1台当たりの課税額及び2020年にEV70万台が同規模のガソリン車に代替する場合の税収の変化、CO2削減量等を試算した。さらに、ドイツの税制改革を参考にし、
    [1]自動車税(軽自動車税を統合)の課税標準をCO2と車体重量に応じたものに変更する、
    [2]自動車取得税、自動車重量税を廃止する、
    [3]揮発油税・軽油引取税・石油ガス税の税率を引き上げる、
    低炭素自動車への代替促進のための税制改革試案を作成した。
    低炭素交通システムの実現に向けた合意形成手法としての「プロモーション・プログラム」の開発のため、試乗会を併せたワークショップを開催し、一般生活者の意見を収集した。この結果、参加者の関心は、費用、充電、次世代自動車の特性の3つの内容に集約された。また、ガソリン車との使い分けや車の新しい使い方、生活者の行動の変化など、新しいライフスタイルが創造される可能性が伺えた。アンケート調査からは、70%を超える参加者が、試乗会を併せたワークショップの参加により、次世代自動車に関する理解が進み、身近な乗り物になると感じられたと回答した。しかし、実際の次世代自動車の購入・普及に至るためには、新たな付加価値・魅力、制度等が必要と考えられ、これは来年度の課題としたい。なお、ワークショップの様子はマスメディアに取り上げられ、広く一般に公開できた。

    3.委員の指摘及び提言概要

    市民のライフスタイルに則した、実現性と効果の高い低炭素交通システムの提案を目指した政策志向型の研究として順調に推移していると判断できる。今後、これまでの調査・研究で新規に分かった事項について集中した分析を行うこと、EV車の材料から生産、消費(運転)、廃棄までのLCA的なシミュレーション評価などの研究課題にも対応すること、検討対象を名古屋圏にとどめず日本全国へと広げること等が必要であり、その上で、モビリティデザインの明確な描像を構築することが望ましい。なお、現行のパラメーターによる最適配置計画の検討による研究の発展を危惧する意見があった。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    II. 事後評価

    事後評価 1.第1研究分科会<全球システム変動>
    i. 環境問題対応型研究領域

    研究課題名: A-0601 アジアの水資源への温暖化影響評価のための日降水量グリッドデータの作成(H18-22)
    研究代表者氏名: 谷田貝亜紀代(総合地球環境学研究所)

    1.研究概要

    地球温暖化による地域の将来の気候変動予測や水資源への影響評価研究が進められている。そこでは高解像度化した気候モデルや統計的な手法が用いられているが、その検証データとして重要な観測データは十分に整備されていなかった。各要素の中で降水分布は空間変動性が高く、アジアでは山岳域の降水量の定量評価や変動評価が、水資源量、河川流出量等の評価の点から重要なため、日単位の定量性に優れた、高精度、長期間のグリッドデータが必要である。
    そこで本研究は、アジアの日降水量観測データを収集し、品質管理や内挿手法の改良研究を行い、グリッドデータを作成・公開すること、また、これらを用いて高解像度気候モデルの降水量の検証や、過去の降水量変動の解析を行うことを目的として、以下の2サブテーマにより開始した。
    (1)日降水量グリッドデータの作成
    (2)日降水量グリッドデータによる気候モデル降水量の検証
    当該課題は、国内外の多くの研究者、気象水文機関の協力を得、目標以上にデータを収集し成果物の評価も高く、2度の中間評価を経て2年延長することとなった。延長時(第2期)はサブテーマ課題名を次のように変更した。
    またサブテーマ(3)として平成20〜22年度に国際交流研究(EFF)を実施した。
    (1)ユーザーフィードバックによる降水・気温データの作成と品質向上
    (2)高解像度気候モデルの検証、及びそのための観測降水グリッドデータ内挿手法の改良に関する研究 

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (3)国際交流研究(EFF)
    ●早期警戒システムと温暖化影響緩和のための日降水量グリッドデータの利用(平成20年度EFF)
    ●東アジアにおける降水量・気温データの品質管理 (平成21年度EFF)
    ●衛星および雨量計観測を組み合わせた南アジア域における高解像度降水量グリッドデータの作成 (平成22年度EFF)

    ■ A-0601  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/7177/03.pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 B-062 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    第1期は、先行研究で作成したアルゴリズムの問題点を修正し、22年分の日降水量グリッドデータ(APHRO_V0804)を公開、リファレンス論文を執筆した。対象期間を45年間に延長し解析・品質管理手法を改良したプロダクト(APHRO_V0902,Yatagai et al.2009)は、主に第1期の成果である。またこれらプロダクトを用いて気象研究所のモデルの検証解析を行った論文、中近東の降水量温暖化時の水循環変化予測に関する論文、チベット高原周辺やシベリアの降水量、水循環変動に関する論文等が受理印刷された。
    本課題で作成した降水量プロダクトは、他の降水プロダクトと比べて入力雨量計数が多く高品質な長期データのため、幅広い科学研究や政策決定のために有用であることが明らかになり、国際的な場での招待講演や共同研究の誘いを受けるようになった。これをふまえて第2期では、データユーザーの要求、水資源研究、極端現象評価、衛星プロダクト評価など様々な利用目的を念頭に、プロダクト作成手法の改良研究とデータの利用研究を実施した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    第2期では解析期間を57年間(1951−2007年)に延長し、新たな観測データを含んだ新降水プロダクトを作成・公開した。品質管理手法の改良により観測記録の誤値の検出精度が大幅に向上し、プロダクトの品質が向上した。アジア域グリッドデータは、提供元機関が生データの再配布を懸念することから、0.25度、0.5度格子のものを公開したが、日本はその問題がないため、日本域については0.05度版を作成、公開した(APHRO_JP, Kamiguchi et al., 2010)。このAPHRO_PRを用いて、日本の降水量の長期変動を解析し、高解像度気候モデルでシミュレートされた降水量の検証を行った。また、観測気温データのグリッドデータを作成し、雨雪判別情報を付加した。衛星や再解析データの検証、予報への応用、水循環解析への利用を通じて、プロダクトの有効性を示した。
    サブテーマ3(EFF)や、平成21年度に総合地球環境学研究所で実施したキャパシティービルディング、最終年度に主催した地球惑星物理学連合大会(JpGU)の国際セッションにより、データ提供国や国際的な組織との関係がより強固なものとなり、またデータの品質に関する情報交換が出来た。JpGUには国際的なトップレベルの研究者を複数招き、現在も共同研究論文を執筆、投稿中のものがある。また国際環境研究協会の雑誌Global Environment Researchの特集号を担当することになり、成果論文12本を現在査読中で、2011年秋季には刊行の予定である。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0601
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0601 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    当面の環境政策への貢献という点からは成果は十分とは言えないが、収集解析して得られたデータの価値は、解析手法の改良開発も含めて、極めて高いものと評価される。とりわけ地球環境の経年変動の把握、および温暖化予測モデル等の気候モデルへの検証データの提供という面で特筆される研究であり、それらの研究を通して環境政策にも今後貢献することが強く期待される。
    一方で、地球環境研究の観点からみると、得られたデータの実社会への利用など環境影響について、もう一歩踏込んでほしかった。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-0801 グローバルな森林炭素監視システムの開発に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 山形与志樹(独立行政法人国立環境研究所)

    1.研究概要

    世界的な森林減少・劣化の傾向は現在も継続しており、特に近年はアジア域における森林減少が大きい。グローバルなCO2 排出のうち、森林減少による排出は約20%(年60 億トンCO2)を占めている。2050 年までに現状比で50%のグローバルな温室効果ガス削減を実現する長期的な対策が、サミット等で国際的に議論されはじめている中、化石燃料の消費を大幅に減らすとともに、森林減少・劣化によるCO2 排出を抑制する対策の実現が喫緊の課題となっている。森林減少・劣化が進んでいる発展途上国の国々の森林保全を進めるために、先進国が資金を拠出して温室効果ガスの排出権取引を行う制度が検討されている。従って、森林減少・劣化の防止を温暖化対策として実施する場合には、途上国等において温暖化対策の排出削減目標が達成されたかどうかを判定する必要がある。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    本課題では、衛星リモートセンシング技術を用いて熱帯域をはじめとする各種森林生態系を定期的に観測し、さらに現地観測データとモデルシミュレーションを用いて、森林減少・劣化に伴うCO2 排出を評価する森林炭素監視システムの構築に向けた研究をおこなった。

    ■ A-0801  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ b-081 .pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 B-081 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    東南アジアに位置するボルネオ島のような広域を対象として、人為的な森林減少を考慮した炭素収支マッピングを行う手法のプロトタイプを開発した。この手法は、代表的な熱帯林サイトにおける土壌まで含めた炭素収支に関する観測データを用いた検証を経ている。また、最近の衛星観測と組み合わせることで、これまで実施が困難であった広域評価への道筋をつけることができた。この手法は、森林における土地利用変化に伴う排出量の広域評価を高精度化し、グローバル炭素循環の理解に貢献すると期待される。また、衛星データと森林インベントリの統合解析を行う上では、プロットの位置情報の精緻化が必要である。このため、データベース構築に当たっては、四隅の位置情報の登録など、精緻な位置情報を付与するための一定のルールが必要であることを示した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    一方、衛星データに関しては、合成開口レーダを始めとしたリモートセンシングを用いて、北方林における広域のバイオマス変遷のデータセットを作成し、そのデータ検証の結果から森林改変の検出限界を明らかにした。また、合成開口レーダ画像であるJERS-1 SAR とALOSPALSAR を組み合わせて土地被覆分類変化を抽出したところ、起伏の平坦な地域に関しては整合性の高い結果が得られ、可視赤外センサーと相互補完的に利用することで信頼性を高くすることができることを明らかにした。一方で、起伏の激しい地域では、デジタル標高モデルを利用した地形効果補正を施しても十分な地形効果補正処理が行われなかったため、利用に際しては注意が必要であることも示唆された。撹乱が森林生態系の構造や機能に本質的な影響を与えることは、これまでの生態学的な研究により森林をはじめとする多くの生態系で定性的に観察されてきたが、植生の転換を含む大規模な撹乱による長期的な炭素収支を定量的に評価することは困難であった。
    本研究では、従来の陸域モデルを高度化することで森林減少に伴う炭素収支変化のシミュレーションを可能とした。これは、以前のモデル研究で用いられた経験的方法や、IPCC GPG-LULUCF による簡易推定などと比べると、現地データに基づいた生態学的関係から導出された信頼性の高い手法といえる。本研究で開発された陸域生態系モデルで用いられるパラメータは基本的に生理生態的な意義付けがあり、多様な生態系への適用が可能となった。さらに、このモデル推定はメッシュ気象データなどを用いることで広域展開が容易であり、アジア地域の炭素収支評価にも重要な貢献を為すものと期待される。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0801
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0801 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    森林減少に伴う森林からの CO2発生量が人間活動による全発生量の 20%に当たるという知見に関連して、森林バイオマスの地域・時間変動を監視することの必要性は高い。課題全体としてこの問題に挑戦し、森林の減少・劣化に対する国際監視システムを構築する足がかりを造ることができたと考えられるなど、一定の成果があったと評価できる。
    しかし得られた手法等の検証は十分とは言えない。各サブテーマの成果を連結し、かつ森林生態学以外の成果も取り入れて、より精度の高い森林炭素管理システムの構築が望まれる。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: A-0802 PALSARを用いた森林劣化の指標の検出と排出量評価手法の開発に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 清野嘉之((独)森林総合研究所)

    1.研究概要

    国産衛星「だいち」に搭載された PALSAR(フェーズドアレー方式 Lバンド合成開口レーダー)は、雲を透過して地表の土地被覆やバイオマスを観測できるので、熱帯地域の森林変化のモニタリングに威力を発揮すると期待される。
    しかし、 PALSARを森林減少・劣化による排出量把握に用いるときの精度など技術的な課題がある。このため、 PALSARを利用したリモートセンシング技術と地上計測技術を結びつけ、泥炭湿地林を含む熱帯林地の温室効果ガス排出量をモニタリングする新手法の開発に取り組み、 PALSARによる熱帯林観測の利用・実用化の道を開いた。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-0802  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ b-082 .pdf PDF [PDF 250 KB]
    ※「 B-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    [1]PALSARの HV・HH偏波を利用して、雲の多い熱帯でも森林の面積の高頻度モニタリングが可能であることを明らかにした。
    [2]PALSARのインターフェロメトリ機能を利用して、排水された泥炭地の地盤低下速度を広域で抽出し、地上計測データを拡張して温室効果ガス排出量を広域推定する手法を開発した。
    [3]b排水された泥炭地の地盤は、泥炭分解により経常的に低下し続け、泥炭火災により急激に低下すること、低下速度や CO2・N2O・CH4フラックスは地下水位に強く規定されていることを地上計測により明らかにした。
    [3]a乾地の熱帯林ではバイオマスからの CO2排出、排水された泥炭湿地林では泥炭からの CO2排出が最も影響の大きい温室効果ガスの排出経路であった。
    PALSARで森林面積を計測し、影響の大きい排出を、地上計測を併用して把握することが熱帯林劣化による温室効果ガス排出量モニタリングの現実的手法と考えられる。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0802
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0802 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    PALSARデータを有効利用するための基礎的研究として有用であった。 HH偏波および HV偏波をうまく組み合わせた点は高く評価され、 InSAR技術を用いた地表面高度変化から泥炭地の炭素放出を求めた点も興味深い。熱帯林および泥炭湿地における現地観測により得られた基礎データータは今後も利用できる貴重なものである。
    ここで得られた成果を対象国のインドネシアとカンボジアにどのように還元・検証していくかが、今後の重要な課題となろう。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-0803 革新的手法によるエアロゾル物理化学特性の解明と気候変動予測の高精度化(H20-22)
    研究代表者氏名: 近藤豊(東京大学先端科学技術研究センター)

    1.研究概要

    大気中のエアロゾルは、 CO2による温室効果に匹敵する冷却効果を持ち、現時点で温暖化を一部マスクしていると推定されている [IPCC第4次報告書 ]。しかしながら、現状の気候モデルにおけるエアロゾルの取り扱いは非常に簡略化されており、この推定には大きな不確実性がある。エアロゾルによる太陽可視光線の散乱・吸収効果(直接効果)の推定においては、気候モデル間の違いが非常に大きく、 IPCC第 5次報告書に向けての改善が急務である。東アジア域は、エアロゾル量が他地域に比べ極めて多く、直接効果がエアロゾルの雲生成効果(関接効果)を上回ると推定されている。また、光吸収性のあるブラックカーボンによる大気加熱は、対流活動を抑制するため、雲・降水過程への影響があると推定されているが、未だ検証されていない。アジアにおけるエアロゾルの放射効果の正確な見積もりとそれに基づく信頼性のある気候変動予測は、この地域の計画的な社会・経済の発展にとって重要となる。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    放射強制力により温暖化が駆動されるため、不確定性の大きいエアロゾルの放射強制力の推定の高精度化が地球規模・大陸規模の気候変動の解明と将来予測にとって急務である。エアロゾルの放射強制力の高精度化にはエアロゾルの物理化学特性の解明と、それに基づくエアロゾルの物理化学・光学モデルの構築が必要である。
    本研究では高精度エアロゾル計測技術、広域観測、気候モデルの系統的な連携により、これまで扱いが不十分であった直接効果を厳密に行い、大気大循環モデルによる直接放射強制力の推定を高精度化する。また、気候感度実験と対策シナリオに沿った数値実験を行い、日射量、雲量、降雨量変化を評価することを目的とする。
    ブラックカーボンを含む全てのエアロゾルの光学特性・化学組成を測定することにより、エアロゾルの光学的厚さと反射率を定量する。この値を、放射リモート観測から得られる値と比較し、エアロゾルの汎用放射モジュールを根本的に改良する。
    次に、改良された放射モジュールを大気大循環モデルに組み込み、放射強制力を計算し、従来のスキームを用いた計算結果と比較する。改良されたモデルを用いて、地球規模、アジア規模での放射強制力の推定・予測精度を格段に向上させ、エアロゾルによる気候変化を評価する。

    ■ A-0803  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ b-083 .pdf PDF [PDF 244 KB]
    ※「 B-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)科学的研究成果
    1)アジア大陸から放出される BCの粒径分布、被覆状態、質量濃度の信頼性のある3次元的な測定値を初めて得ることができ、大きな放射効果があることを示した。また、この情報から、 BCの光吸収係数を計算するのに通常用いられている shell/coreモデルの妥当性を室内実験で初めて評価した。
    BCの質量濃度を長期安定に測定できる COSMOSシステムを開発した。これを沖縄辺戸ステーション、長崎福江島観測所、長野八方観測所の3地点で配備することによりアジア大陸下流の大気境界層中での BCの時間空間変動の理解が飛躍的に進展しつつある。
    2009年春に 0-8 kmの高度領域で、東シナ海・黄海でエアロゾル粒径分布、 BC、エアロゾル化学組成、一酸化炭素の高精度観測を実施した。この観測には、本年度に整備・開発した測定器が用いられた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    この高度領域での東アジアでのエアロゾル高精度観測は初めてであり、エアロゾルの気候影響を詳細に研究する上で貴重なデータが得られた。特にエアロゾルの湿性除去が降水過程と密接に結びついていることを実証した意義は大きい。
    2)これまであまり観測例の無かった粗大粒子中の ECの存在割合を推定した。沖縄辺戸では多くて 6%程度含まれていることもあったが、平均すると 2%程度であった。長崎福江でも多いときで 8%、平均で 5%程度であった。この観測は同時期に行われた航空機観測、地上での放射観測と同期しており、エアロゾルの物理化学的特性の解明が可能となる。
    また ECの存在形態を電子顕微鏡で観察した。その結果、 ECの凝集態と土壌粒子などがより大きな凝集態を形成していることが明らかとなった。粗大粒子の混合状態のモデル化に寄与する。
    3)月平均のエアロゾルの光学的特徴を、 SKYNET辺戸岬及び福江島サイトで明らかにすることができた。これによる放射効果を推定した結果、両サイトでは明らかに異なる特徴を示唆するデータを得ることが出来、輸送モデル検証や衛星データ解析結果との比較に有効なデータを提示することが可能となった。
    4)標準版 SPRINTARSモデルでは取り入れてなかった硝酸塩過程を組み込み、また硫酸塩過程を改善した改良版 SPRINTARSモデルでは、 SO2や SO4が上層にも輸送されるようになり、標準版モデルよりも観測結果に近づいた。改良版モデルの検証を、 MODIS衛星や地上 AERONETサンホトメータネットワーク、また BSRN地上日射量ネットワークなどから得られるエアロゾルの光学的厚さや日射量を用いて、地上検証班とともに行い、改良版モデルが妥当であることが示された。
    5)エージング効果のパラメタリゼーションの SPRINTARSモデルへの取り込みを、 BC測定班とともにおこなった。その結果、 BCの発生源から離れるにつれて、親水性の BCの割合が増加し、観測値との対応が良くなり、被覆された BCエアロゾルの割合が東アジア域全域でほぼ一定になる結果が得られた。これは、エアロゾルが引き起こす放射強制力の評価に取って重要な知見である。
    6) 硫酸塩、硝酸塩、黒色炭素に関する改良を行ったモデルによって、最終的な放射強制力の評価をおこなった。それによると本研究による改良型モデルによる大気上端での放射強制力は、 IPCC-AR4による評価や AEROCOMグループによる評価に近い値を得た。
    7)東アジアにおける厚い人為起源エアロゾル層による地表面日射量の減少が地表面を冷やし、モンスーン循環などの大気大循環を変化させる新しいメカニズムの可能性を示した。シミュレーション結果によると中国南部、中東部、北部における近年観測されている雲量と降水量の長年変化は、エアロゾルの直接効果、間接効果、および前述した大循環の変化を通した複雑な効果によることを示した。8) タイのピマイにおける年間を通した大気エアロゾルの地上観測により、乾期の前半は東アジアとくに中国からの化石燃料の燃焼の影響が、また後半はバイオマス燃焼の影響が大きいことが、初めて明らかになった。また、これらの観測結果は改良版モデルでほぼ再現された。
    9) アンサンブルカルマンフィルターを用いたエアロゾルの SPRINTARS同化システムを開発し、逐次観測データを取り込むことにより、全球規模の海上での AOTが、同化しないモデルに比べて大きく改良された。
    (2)環境政策への貢献
    1)IPCC-AR5の雲とエアロゾル(近藤)、放射強制力(中島)の Lead Authorとして本研究の成果を含むエアロゾルの気候影響に関する知見を、その評価報告書において役立てている。
    2)大気大循環モデルのエアロゾル放射効果スキームを改良するために必要な高精度観測データの取得を行いつつある。また、並行して放射効果スキームの改良も行いつつある。この研究は、地球規模気候変動予測の向上に大きく貢献することになる。観測で得られた BCの分布はアジア大陸で発生する BC量やその気候影響を高精度で推定するための重要なデータとなる。またこのようなデータはアジアにおける温暖化対策・大気汚染対策を国際的に議論する上での重要な知見となる。
    3)SPRINTARSモデルは、文部科学省の予測革新プロジェクトや環境省推進費の S-5等における温暖化現象評価にも使われているが、これらの研究チームと密接な連絡を取りながら、本研究結果を標準版の改良に反映させる努力も行っている。
    4)環境省の GOSAT衛星のデータからの温室効果ガス気柱量を正確に求めるためには、エアロゾルによる大気放射の寄与を補正しなければならない。そのための解析補助のために CAIイメージャーからによるエアロゾル光学的厚さの導出、および MIROC+SPRINTARS気候モデルにモデル計算値を、国立環境研究所の GOSATチームに提供している。
    5)日本学術会議の地球温暖化問題に関わる知見と施策に関する分析委員会(主査:中島映至)の対外報告書における「地球温暖化問題解決のために―知見と施策の分析、我々の取るべき行動の選択肢―」の図(本報告書の図1)を作る際には本研究を参照した。
    6)Joint IPCC-WCRP-IGBP Workshop: New Science Directions and Activities Relevant to the IPCC AR5(3-6 March 2009, Hawaii)において本成果を発表し、 IPCCの第5次報告書 (AR5)において検討すべき研究テーマとして指摘した。
    7)本研究によって確立したエアロゾルモデルと SPRINTARSエアロゾル気候モデル、同化システムは、平成 22年度から始まった文部科学省の気候変動適応研究推進プログラムの中での、適応政策の研究にも使われる。
    8)研究期間中に 14件のマスメディアの取材に応じ、エアロゾルの気候影響、太陽出力変化の影響、大気汚染と気候の関係などについて、わかりやすく正しい知識の発信に努めた。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0803
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0803 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    光吸収性のブラックカーボン、非吸収性の硫酸塩などによる、エアロゾルの直接効果は、気候モデルによる予測結果に主要な不確実性をもたらしているが、本課題では、光学上及び放射過程上のメカニズムを過程モデルの導入と、地上観測あるいは航空機観測による検証により、物理・化学的に明らかにするとともに、物理量や化学組成を定量化し、大気大循環モデルにおける放射強制力過程の改良を進め、また、東アジアにおけるエアロゾルの特性も明らかにしている。
    また得られた新知見に関する学術誌への論文掲載も豊富でインパクトが大きく、また、 IPCC/AR5への貢献の確実な可能性が見られ、政策的な面でも成果が期待される。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-0804 海洋酸性化が石灰化生物に与える影響の実験的研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 野尻幸宏((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    大気のCO2 が増加して海に溶け込むことで、海のpH は既に低下して来ている。今後のpH 低下予測は、海洋モデルで比較的容易に行えるが、実際にそのpH 変化(CO2 分圧の増加)で海の生物と生態系にどのような影響が起こるかの知見が不足している。海の動物の飼育には設備と技術が必要であるために実験例が少ないが、本課題では、わが国は南北に長い気候の異なる海域に臨海施設を有し、多くの生物を飼育する技術を持っていることを利用して、わが国沿岸に生息する多様な動物種のうち、CO2 影響が顕著に現れると考えられる石灰化生物(炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生物)として沿岸性底生生物(ウニ、貝類、サンゴなど)を中心に、CO2 分圧(pCO2)を高めて飼育する実験で影響評価を行った。
    従来からの研究で、ウニ類や巻貝類にpCO2 増加に鋭敏に応答する生物種がいることが分かってきたので、
    サブテーマ1では、CO2 に対する応答性の高いウニを対象として低濃度の曝露実験から近未来の影響把握実験を行った。
    サブテーマ2では、水産重要生物への影響把握を目的として主にエゾアワビの幼生のCO2 曝露実験を行った。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    サブテーマ3ではサンゴ礁を形成するサンゴと有孔虫の石灰化へのCO2 影響評価実験を、
    サブテーマ4ではサンゴの生活史段階のいくつかにおける酸性化影響実験を行った。
    また、サブテーマ5では各サブテーマの実験を支えるCO2 分圧制御装置の技術開発として、特に低レベルのpCO2 制御を可能として21 世紀後半の大気CO2 レベルでの影響を把握できる飼育実験系を作り上げた。

    ■ A-0804  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ b-084 .pdf PDF [PDF 513 KB]
    ※「 B-084 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    研究の立ち上げのために、海水のCO2 分圧を精密に制御して正確なCO2 曝露実験を行えるようにする装置の開発を行った。所定のCO2 分圧を持つ海水を水槽とは別の溶解装置で作ってから飼育水槽に送るという、これまでとは違う発想の制御機構を持つ精密な海水のCO2 分圧制御装置を設計・製作し、各参画機関に設置して生物飼育実験に使用することとした。定めた一定値にCO2分圧を制御するという基本的な機能に加え、一定の日周変化幅を与える機能、さらには実日周変化模擬機能も用意した。また、供給海水のCO2 分圧を計測することから沿岸域のCO2 分圧変化の通年データを得た。結果によると、白浜や横須賀の実験所では自然海水が夏季には日周振幅320ppm という大きな日周変化を示すこと、冬には日周変化幅が小さくなることが明らかになった。これは、日周変化を加える実験を行う際の基礎データとなった。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ウニ幼生の飼育実験では、約300ppm という産業革命以前のCO2 分圧に近い条件と400ppm、500ppm、600ppm という現代から近未来に想定される条件において、四腕幼生の成長サイズを評価したところ、300ppm 条件は500ppm および600ppm 条件と有意に差があることが明らかになり、CO2 の現代濃度が既にウニの幼生の石灰化に影響している可能性が示唆された。また、サンゴの幼生ポリプの飼育実験においては、日周変動(400ppm 幅)を加えてみたところ、平均が同じ800ppm であっても、800ppm 一定と比較して600ppm から1000ppm に日周変動する条件の方が、石灰化の阻害に働くことが明らかになった。
    エゾアワビの幼生のCO2 曝露実験では、殻を構成する炭酸カルシウム(アラゴナイト)の飽和条件を上回るCO2 分圧(1000-1500ppm 以上)で、殻の奇形や溶解という悪影響が明らかになるものの、800ppm からそれ以下の程度では、発生から稚貝に成長するプロセスでのCO2 影響が現れにくいことがわかった。比較的酸性化に強いことからその日周変化実験では、実環境より大きな日周幅である800ppm を与えて行った。平均が800ppm であっても800ppm 一定と比較して400-1200ppm に日周変化する条件が、1200ppm 一定と比較して800-1600ppm に日周変化する条件が、エゾアワビ幼生の死亡率、奇形率を高め、殻の生長を阻害することが明らかになった。
    これは、先のサンゴ幼生ポリプの生長に及ぼす日周変化実験の結果と矛盾しない。
    サンゴ礁を構成する主要なサンゴ種であるミドリイシとハマサンゴのうち代表的な種で実験したところ、それぞれ産業革命以前のCO2 濃度である約280ppm の飼育実験で、現代濃度より石灰化の促進が見られた。また、400ppm から800ppm にいたるCO2 濃度増加が生長阻害に与える影響の現れ方は種によって異なり、濃度とともに生長阻害される場合と、400ppm から800ppm にかけて生長阻害の違いが顕著でない場合とがあるとわかった。このことは、種によってCO2 に対する応答に違いがあることが将来のサンゴ礁の種構成を変化させ、生態系変動を生むという可能性を示唆するものである。水温の影響との複合影響もあるので、今後より精密な実験が必要である。
    これら、新たに開発された精密なCO2 制御系を活用することで、これまで実験されてきたより低いCO2 濃度域で曝露実験を行うことができ、世界でもまだ事例がほとんどない低いCO2 濃度域で海洋生物が受ける酸性化影響を評価する実験結果を得ることができた。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0804
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0804 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    本課題では、脆弱と考えられる沿岸性底生生物に対し、CO2 分圧の制御技術の開発により、極端な場合ではなく、21 世紀に生じる可能性があるような環境下での影響についての知見が得られている。また、現実的な日周変動についても詳しく解析されており、学術的な意義のある成果といえる。
    ただ海洋酸性化の影響評価に関しては、まだ知見がごく限られており、条件設定などもう一歩踏み込んだ実験的研究の展開が望まれる。
    IPCC ワークショップには、本課題での成果に基づく今後の研究への提言をするなど、国際的な観点からも有意義な発信がなされている点は政策的意義として評価される。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: A-0805 環礁上に成立する小島嶼国の地形変化と水資源変化に対する適応策に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 山野博哉((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    環礁上に成立する小島嶼国は、地球温暖化に伴う海面上昇と気候変動によって,海岸侵食と水資源の劣化が懸念されている。本研究においては、環礁上に成立する小島嶼国において、地形形成史、降水量変動史と人間居住史に基づいて環境収容力を推定し、地球温暖化にともなう海面上昇・気候変動と、社会変動の両方の影響を予測して脆弱性の評価を行い、地形変化と水資源変化に対する適応策の立案と普及を行う。
    本研究により、脆弱な小島嶼国において、地球温暖化がもたらすものとして特に重要な項目、海面上昇と気候変動に対する自然・社会両方の面から具体的な適応策の立案が可能となることが期待される。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-0805  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ ba-085 .pdf PDF [PDF 273 KB]
    ※「 Ba-085 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    本研究により、小島嶼国の危機の構造が明らかになるとともに、適応策を要因(グローバルな影響の低減、ローカルな影響の低減、未利用資源の開拓)で整理でき、対象地に対して具体的な適応策を提示することができた。
    ツバルにおいては、要因において特に重要なものが、グローバルな要因である海面上昇と降水量変動、ローカルな要因である人口増加にともなう土地利用変化と汚染にあることが示された。元湿地帯を示したハザードマップによる都市計画の立案、海浜植生の回復による海岸保護、ゾーニングによる保護区域の設定とともに、汚染の低減やサンゴ・有孔虫の増殖によって生態系を積極的に回復させて砂生産を増大させること、タロイモ畑における淡水保水力のある土壌を導入すること、環礁間や島外のネットワークを促進する運輸手段の増強を行うことなどが具体的な対策として考えられる。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    一方、マーシャル諸島共和国においては、ツバルより頑健であるものの、海岸侵食や淡水レンズの塩水化の問題が起こりうる。マーシャル諸島共和国において、人口が少なく健全なサンゴ礁生態系の維持されている島の周辺では砂生産が過剰にあり、そこからの砂運搬による養浜も対策として考えられることが示された。また、診断ツールとして水収支モデルの構築を行い、適切な水利用の指針策定に貢献した。
    環礁州島の立地条件は多様で、それに従い、環礁州島は多様な構造を持つ。一つの環礁内においても、そこに分布する州島の地形、形態や面積は多様である。環礁に居住を始めた人間は、地形を改変し、農耕栽培を行って景観を形成してきた。こうした人間居住史や社会構造、生活圏形成の歴史も多様である。火山島からなる小島嶼国は環礁とはさらに異なる構造や歴史を持っているであろう。
    本プロジェクトは、こうした多様性を理解した上で、グローバル・ローカルな要因を特定して具体的な対策を立案し、現地での施策や援助計画に反映させることが必要であることを示した。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0805
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0805 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    新たな観点からの意欲的な研究課題で、個々のサブテーマにおける研究は成果をあげており、興味深い結果が得られている。サブテーマの統合化が不十分で、さらに時間をかけて取り組むべきであったことを指摘したいが、具体的な現地の適応策の提案が行われ、この研究がJST-JICAの事業に結びついたことは高く評価される。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-0806 気温とオゾン濃度上昇が水稲の生産性におよぼす複合影響評価と適応方策に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 河野吉久((財)電力中央研究所)

    1.研究概要

    地球温暖化が進行しているが、開発途上国における化石燃料に由来したエネルギー消費の急激な増加とともに二次汚染物質であるオゾン濃度の上昇も指摘されている。オゾンの植物影響評価に係るこれまでの研究により、現状濃度レベルでも植物に対してオゾンの潜在的な影響が指摘され、オゾン濃度がさらに上昇すれば植物の生産性を低下させ、影響が顕在化する可能性の大きいことが指摘されている。一方、温暖化に係る将来の影響予測については、温度上昇に対する植生の脆弱性や水稲の高温障害などが検討されているが、気温とオゾン濃度の上昇が複合した場合の影響についての検討はほとんど行われていない。
    本研究では、アジア各国の食糧供給源として重要な作物である水稲の収量を指標にしたオゾンに対する品種間の感受性の差異についてインド型品種と日本型品種のオゾン感受性の差異について検討するとともに、国内で栽培されている主要品種を対象に温度とオゾンの複合影響が収量および品質におよぼす影響の程度を検討した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    また、これまでに行われた農作物の生育時期別のオゾン感受性に関する研究によれば、収量は生殖成長期前後のオゾン濃度の影響を受けやすいと考えられているが、水稲について実験的に解明した報告はないため、オゾン影響を受けやすい時期の特定を試みると同時に、オゾンの影響は窒素施肥の時期や施肥量などの影響を受ける可能性があることから、影響回避・軽減策として窒素施肥条件等とオゾン影響の発現との関連性について検討し、肥培管理面から適応方策を検討した。
    植物に対するオゾンと高温の複合影響については、分子レベルではほとんど調べられていない。
    このため,長期にわたる暴露試験に代わる実験室レベルでの影響予測評価手法の開発を目指して、長期暴露試験と併行して高温やオゾンにさらされた植物体内の物質の変化を分子マーカーとして検出することにより、これを利用した新しい影響評価手法やオゾンストレス診断用のDNA アレイの開発を目指した。

    ■ A-0806  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ ba-086 .pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 Ba-086 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)気温とオゾン濃度上昇が水稲の収量・品質に及ぼす影響評価
    3 年間で合計60 品種・系統の日本型・インド型品種を対象にオゾン濃度と収量反応について検討した結果、日本型品種はインド型品種よりもオゾン耐性の品種が多く、“日本晴、コシヒカリ、にこまる”などはオゾンの影響を受け難いオゾン耐性品種、“きらら397、ササニシキ、タカナリ、Kasalath、IR36”などはオゾンの影響を受けやすい感受性品種に分類された。
    植物影響評価用のオゾン暴露指標としてこれまでに様々な指標が提案されているが,日中12時間の平均濃度あるいは暴露期間の長短の影響を考慮したオゾンドースが最も単純で簡便な暴露指標として適していると考えられた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    国内で栽培されている水稲主要品種の個体当たりの精籾重量(収量)を対象にオゾン、気温、年度間の差異について多元分散分析を実施し、それぞれの要因の影響について検討した結果、一部のオゾン感受性の品種では複合影響が懸念されるものの、主要栽培品種についてはオゾンと気温の複合影響は考慮しなくても良いと考えられた。また,玄米を対象に外観品質や食味品質を左右するタンパク質含量を対象にオゾンと気温の複合影響について検討した結果、気温の上昇とともにオゾン濃度が上昇しても、両者の複合によって著しく品質が低下することはないと考えられた。
    大気常時監視測定局で記録されている光化学オキシダントデータを基に、そのトレンドから2020、2030 および2050 年度のオゾン濃度を推定し,オゾンによる収量減少率を推定した結果、2050 年時点において全国平均で約2%程度の減収で済むと見積もられた。同様に、タンパク質含量は、2050 年時点において全国平均で相対含量が約4%増加すると推定された。一方,アジア圏の2005 年における水稲生産量はオゾンの影響により既に約8%の減収となっていると推定された。また、2005 年の人為起源の排出量を5 割増とした場合の減収率は約10%と見積もれられ,国内よりもアジア圏における水稲生産に対するオゾンの影響が大きいことが明らかになった。
    (2)水稲の生育時期別オゾン感受性の評価
    全期間オゾン処理をしていない処理区の収量を基準にして,オゾン暴露時期の影響を評価した結果、収量低下率は移行期のオゾン暴露が最も大きく、次に栄養成長期であった。結実前後の移行期は期間が短いものの、この時期のオゾン暴露が収量に与える影響は大きいことが明らかとなった。また,窒素施肥量が多くなるのに伴って水稲の収量は増加する傾向にあったが、水稲の収量に対するオゾンの影響は窒素施肥量が変わっても大きく変わらなかった。このため、収量レベルを維持するためには窒素を多めに施肥する必要があると考えられた。また、ケイ酸質資材を施用してもオゾンの影響を軽減あるいは回避できないことも判明した。
    (3)高温・オゾン適応のための分子マーカーの探索とオゾンストレス診断アレイの開発
    オゾンによる収量影響を受けにくい品種ではマロンジアルデヒド(脂質分解物)とサクラネチン(ファイトアレキシンの一種)の含量が、オゾン暴露により顕著に増加することが明らかになり、オゾン耐性を判定する指標として利用できると考えられた。また、マイクロアレイで網羅的に遺伝子発現を調べ,幼苗段階で簡便にイネ品種の高温とオゾンに対する感受性を評価する方法を開発した。また,収量、品質等と種子における遺伝子発現パターンを比較し、種子の遺伝子発現マーカーによる影響評価法を開発した。
    一方,イネのオゾンによる収量低下に関与する遺伝子座を同定するためQTL 解析を行った結果、オゾン感受性イネ品種“ハバタキ”におけるオゾンによる収量の減少は、APO1 遺伝子の働きが抑制されることによる一次枝梗数の減少を介して総精籾数(総頴花数)が減少することにより生じている可能性を明らかにした。
    さらに,シロイヌナズナを用いたオゾン診断アレイによりオゾンの急性影響の検出と、一日の最大オゾン濃度が60ppb 以上の時に慢性影響を検出できることが明らかとなった。また、イネ・マイクロアレイ解析の結果に基づき、イネの高温・オゾンストレス診断用DNA アレイを作成し、ストレス診断を行った結果、オゾンまたは高温に特異的に発現応答する遺伝子を複数同定することができ、イネのストレス診断アレイの有用性を確認できた。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0806
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0806 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    従来の知見を大きく変えるものではないが、イネの品種によりオゾン濃度の影響の現れ方に差異があることを示したこと、分子レベルでの影響解析に着手したことなどが注目される。
    しかし、対象区でも整粒歩合が20〜60%と極めて低いものが多いこと、不稔が異常に多いことから、本実験のイネが異常な生育をしていたことが推察される。実験装置・方法の点検が必要であろう。
    今後、研究成果を対策に活かすには、得られた知見を確実にするために、さらなる実験をくり返す必要がある。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: A-0807 気候変動に対する寒地農業環境の脆弱性評価と積雪・土壌凍結制御による適応策の開発(H20-22)
    研究代表者氏名: 廣田知良((独)農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター)

    1.研究概要

    我が国を代表する農業地帯であり、冬の気候が少雪厳寒である北海道・道東地方は、近年、土壌凍結深が顕著な減少傾向にある。土壌凍結深の減少は農業生産に正の効果をもたらす反面、野良イモと呼ばれる雑草の増加など、負の効果も現れている。寒冷地では、また、土壌凍結深が深くなると、晩冬から初春にかけて温室効果ガスである一酸化二窒素が大量放出することが知られている。一方、土壌凍結深が浅くなることで、融雪水の浸透量が増加し、窒素肥料の溶脱による地下水汚染のリスクが増大することが懸念されている。
    そこで、本研究では土壌から大気への一酸化二窒素放出と土壌中の硝酸態窒素動態とを中心に、寒冷地農業環境の温暖化・気候変動に対する脆弱性を評価した。そして、積雪・土壌凍結深制御による環境負荷低減と農業生産性が両立する対策技術を開発した。
    サブテーマは次の二つである。
    (1) 寒地の農業環境における温暖化影響に対する脆弱性の評価と適応対策技術の開発
    (2) 異なる積雪・土壌凍結条件下の土壌中の硝酸態窒素を含む陰イオン移動の定量的評価

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-0807  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ ba-087 .pdf PDF [PDF 350 KB]
    ※「 Ba-087 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    1.農地での土壌の凍結融解条件における一酸化二窒素が短期・集中的に大量放出するメカニズムを明らかにした。土壌凍結層が発達した条件では、融雪水が地表に湛水して、大気との通気性が阻害され、融凍期に土壌ガス中の酸素分圧が低下した。これにより、微生物が酸素から硝酸イオンに呼吸基質を選択する脱窒が発生し、一酸化二窒素が表層・土壌中に大量に生成・蓄積され、消雪後に湛水がなくなるのと同時に大量に大気に放出されることを明らかにした。
    2.上記のプロセスに大きく関与する、土壌凍結条件での融雪水の浸透量および土壌中の硝酸態窒素動態を定量的に評価した。最大土壌凍結深が 20 cm以下では融雪水が土壌に速やかに浸透し、土壌中の硝酸態窒素はほとんど残存しないが、凍結深がこの深さを越えると融雪水の浸透が抑制され、土壌中の硝酸態窒素が表土に残存することを実証した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    3.地温・土壌凍結深予測モデルを用いて、雪割り(農地の除雪と再集積)の時期や期間を考慮し、農地の土壌凍結深に最適な深さにコントロールする土壌凍結深制御手法を開発した。本手法は、北海道・十勝地方で普及を始めた野良イモ防除への適用に加えて、土壌中の硝酸態窒素の溶脱による地下水汚染の環境負荷を低減する技術へと拡張可能であることを示した。野良イモ防除効果と環境負荷低減の両者を両立させる最適土壌凍結深は 30-40 cmであることを明らかにした。
    4.積雪地帯で広く実施されている融雪促進のための雪面黒化法による融雪材散布は、木炭を用いると土壌炭素蓄積効果が大きく、畑土壌からの年間温室効果ガス排出相当量の難分解性炭素が土壌に投入可能になることがわかった。すなわち、融雪材をこれまでよく用いられている工業残渣や安価な工業原料からバイオ炭の利用を進めることで、融雪促進による農業生産性の向上に加えて環境負荷低減を両立できる有効な手法となりうることを明らかにした。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0807
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0807 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    北海道における特定の地域での、温暖化に対応した土壌の炭素蓄積、養分流出の問題が取り扱われており、個々の研究課題において野外調査、実験、モデルを通じて、現象の解明、さらに今後の北海道などの寒冷地での温暖化に伴う土壌の問題への対応策をとる上での、基礎的な研究成果を生み出している。
    なかでも融雪期に一酸化二窒素が大量に放出されるメカニズムを明らかにし、雪割り・土壌凍結深制御によって一酸化二窒素放出を制御できることを示した意義は大きい。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: A-0808 統合評価モデルを用いた気候変動統合シナリオの作成及び気候変動政策分析(H20-22)
    研究代表者氏名: 増井利彦((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    本研究の目的は、これまでに AIMのモジュールとして構築してきたモデル群を対象に、最新の科学的知見を反映するように個々のモデルを改良する作業や、複数のモデルの統合を行い、各種フィードバック効果も考慮しつつ、温室効果ガスの排出、気温上昇、温暖化影響に関する一貫性を持った世界シナリオの開発を行うことであった。また、日本や世界シナリオに大きな影響を及ぼすアジア主要国を対象に、国別シナリオを作成することを目的としたモデルの開発、及びそれらの統合化を行い、これらを用いて各国における温暖化対策の効果と影響について分析を行った。
    得られた成果は、IPCC新シナリオの作成やわが国における温室効果ガス削減の中期目標策定、アジアの発展途上国における温暖化対策の促進に貢献してきた。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ A-0808  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ bc-088 .pdf PDF [PDF 400 KB]
    ※「 Bc-088 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    わが国を対象とした分析については、温室効果ガス排出削減の中期的な目標設定に関する議論に参加し、世界を対象とした技術選択モデル AIM/Enduse [Global]を用いてわが国と主要国の削減についての関係を明らかにし、日本を対象とした技術選択モデル AIM/Enduse [Japan]を用いて、温暖化対策を促進させる施策も含めて削減の姿を定量化し、得られた対策によるエネルギー削減量や対策を導入するための追加投資の情報を日本を対象とした経済モデル AIM/CGE [Japan]に組み込んで、温暖化対策の経済的な影響までの一貫した分析結果を提示した。また、 2020年の温室効果ガス排出量を 1990年比 25%削減するという目標に対する施策についても AIM/Enduse [Japan]と AIM/CGE [Japan]を用いて分析を行い、 25%削減という目標は、極めて厳しい目標ではあるが実現可能であり、適切な施策の導入により経済的な影響も最小限に抑えられることを明らかにした。[サブテーマ1・3]
    また、世界を対象とした AIM/CGE [Global]を用いた代表的濃度経路の分析から、目標設定とする放射強制力に対してエネルギーから土地利用までを範囲をとする世界の排出シナリオを示すことができた。また、 AIM/Enduse [Global]、AIM/CGE [Global]を用いた国際比較研究プロジェクトへの参加から、地球の平均気温を産業革命前から比較して 2℃以内に抑えるという目標(大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素換算で 450ppmに安定化させるに相当)も非常に達成困難であるが、再生可能エネルギーの導入やエンドユース側の効率改善などあらゆる施策の導入により実現できることを示した。[サブテーマ1・2]

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    こうした温暖化対策は、先進国だけの課題だけではなく、アジアの主要国にとっても重要となりつつある。本研究で開発したモデル群を中国、インド、タイの研究者とそれぞれの国に適用して、温暖化対策に向けたシナリオについても検討することができた。また、こうした取り組みを加速させるために、温暖化対策の副次的な便益である大気汚染対策を評価するためのモデルを開発し、各国における大気汚染物質の曝露量について分析を行った。[サブテーマ2・3]
    以上の分析結果から、本研究では、統合評価モデルである AIMを構成する様々なモデル群を改良、開発し、世界、日本、アジア主要国に適用することで、温暖化対策の効果と影響を定量的に明らかにするとともに、温暖化政策に資する情報をシナリオとして整理し、中央環境審議会をはじめ国内外の様々なところに結果を提供してきた。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 A-0808
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ A-0808 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    ポスト京都の議論においては、途上国の対応を含んだ排出削減の方向性が模索されているが、本課題は、先行の AIMモデルによる研究の発展として、中国・インドなど急速に排出を増大させている主要な排出国を含むアジアの途上国の気候変動政策を含む世界の各種シナリオを具体的に示すことにより、政策オプションに関する科学技術的、社会・経済的な知見を導出しており、政策に関連した重要な情報を提供しているといえよう。
    さらに、わが国に関しては、 2020年までに 25%の削減をすることに関する科学技術的、社会経済的な知見を実際に政策決定者に提供しており、本課題の成果は学術的にも政策的にも意義が極めて高いと思われる。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    事後評価 1.第1研究分科会<全球システム変動>
    ii. 革新型研究開発領域

    研究課題名: RF-0901 4次元データ同化手法を用いた全球エアロゾルモデルによる気候影響評価(H21-22)
    研究代表者氏名: 竹村俊彦(九州大学)

    1.研究概要

    大気浮遊粒子状物質(エアロゾル)は、人類および他生物の呼吸器系等に悪影響を及ぼしたり視界悪化を招いたりする他、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも指摘されているように、気候変動を誘発する物質である。しかし、エアロゾルは発生源が多様であること、温室効果気体とは異なり粒子であるために大気滞留時間が短いこと、さらに物理化学組成に依存して直接効果(太陽放射および赤外放射の散乱・吸収)および間接効果(雲の凝結核/氷晶核の機能を通じた雲反射率および降水効率の変化)が大きく異なることなどから、地球規模のエアロゾルの分布および気候に対する影響を評価することには困難を伴う。この問題の打開策の 1つとして、データ同化手法を導入した精度の高いエアロゾルの気候影響の評価が考えられる。
    本研究課題では、地球規模のエアロゾルの分布および気候影響をシミュレートするエアロゾル気候モデル SPRINTARSに対して、観測データを直接導入するために、データ同化手法の1つである4次元変分法を適用することを最大の目的とした。これにより、エアロゾルの気候に対する影響を評価する際の大きな不確定要素の1つである、エアロゾル排出量の時空間分布に関して高精度な逆推定を行ったり、観測データが充分考慮されたエアロゾルの放射強制力を算出したりすることにより、従来の研究よりも信頼度の高いエアロゾルの気候に対する影響の評価への道が拓ける。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0901  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-091 .pdf PDF [PDF 803 KB]
    ※「 RF-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    最初に、本研究課題の最重要行程である4次元変分法適用のためのアジョイントモデルの構築を行った。アジョイントモデルは、元々エアロゾル気候モデル SPRINTARSにおいて時間順方向で計算するために構築されている輸送プロセス(発生・移流・拡散・化学反応・湿性沈着・乾性沈着・重力落下)を、観測データを導入しつつ時間逆方向で解くために必要である。
    次に、データ同化システムのチェックや同化手法の有効性を調査するテスト実験(「双子実験」という)を行った。その結果、構築した4次元変分法を用いたデータ同化システムが有効に機能しており、また、エアロゾル排出量の逆推定に有用であることが示された。双子実験の後、実際のエアロゾル輸送現象に対して、本研究で構築したデータ同化手法を適用した。使用した観測データは、人工衛星搭載センサ MODISから得られたエアロゾル光学的厚さである。 2007年の黄砂現象に関して検証を行ったところ、データ同化前のシミュレーション結果は、 MODISの観測値と比較して、定性的な分布は良い一致を見ているものの、定量的に小さくなっている。これが、データ同化後には MODISの観測値に近づいている結果が得られ、本研究で構築したシステムが正常に機能していることが示された。
    その後、データ同化後に逆推定された黄砂発生量の分布を検討した。データ同化前から同化後に光学的厚さの数値が変化していることと整合的に、数値モデルで計算された黄砂発生量が修正されることが示された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    4次元変分法は、上述の通り、時間を過去に遡って積分するアジョイントモデルが組み込まれているため、発生源まで陽に遡ることが可能であり、観測データを基にして高精度でエアロゾル発生量の逆推定がなされていると考えることができる。また、データ同化適用後に計算されたエアロゾルの放射強制力は、これまで数値モデル単独で行ってきた放射強制力の評価を、観測データを用いて修正されたものであり、信頼度の高い気候変動評価に貢献するものである。
    大気中の物質輸送に対してデータ同化手法を導入する重要性は以前から指摘されてきたものの、実現するに至らなかった。本研究では、全球モデルで4次元変分法により、物質輸送へのデータ同化適用を達成したことになり、その意義は大きいと考えられる。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0901
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0901 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    エアロゾルデータの 4次元同化という新しい課題に一定の目処をつけたこと、それを活用してエアロゾル放出源の分布を見積もるインバージョンの可能性を示したことで、期待通りの成果を挙げたものと評価される。まだ精度は十分とはいえないが、こうした評価手法の進展は、遅れていたエアロゾルの科学的知見の深化に貢献し、ひいては有効な環境政策の策定にもつながる重要な研究成果になると判断される。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: RF-0902 亜寒帯林大規模森林火災地のコケ類による樹木の細根発達と温室効果ガス制御機構の解明(H21-22
    研究代表者氏名: 野口享太郎((独)森林総合研究所)

    1.研究概要

    亜寒帯林は地球上の全森林が貯留する炭素の 30〜50%を貯留しており、地球上の炭素動態において重要な役割を担う生態系と考えられている。しかし、近年になり亜寒帯林では森林火災が頻発し、被害面積が急増している。これらのことから、 IPCCの第 4次評価報告書では、森林火災が将来の生態系に対するキーインパクトの一つとして位置づけられている。
    亜寒帯林の多くでは地表面がコケ類や地衣類などの林床植生に覆われており、発達すると数十 cmにおよぶ厚い林床植生と堆積有機物の層を形成する。これらの林床植生と堆積有機物の層は、樹木根の主な生育の場となっているほか、断熱効果を発揮して土壌温度を低温に保つことにより、土壌呼吸による二酸化炭素(CO2)放出量に影響を与えていると考えられる。また、林床植生そのものも光合成により炭素を固定するほか、その一部は窒素固定活性やメタン(CH4)酸化活性などのユニークな機能を持つことから、これらの林床植生の存在は、 CO2、CH4、亜酸化窒素(N2O)などの温室効果ガスフラックスを制御する主要な要因の一つとなると考えられる。そのため、森林火災により林床植生が焼失もしくは衰退すると、樹木根の成長に伴う炭素蓄積過程や温室効果ガスフラックスも大きく変化する可能性がある。
    しかし、このような亜寒帯林の炭素動態および温室効果ガスフラックスに対する森林火災の影響や、火災後の回復過程、その中で林床植生が果たす役割については不明な点が多く、その解明は、陸域生態系の炭素動態に対する理解をより深めるとともに、その将来予測の精度を高めるためにも重要な課題となっている。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    そこで、本研究では北米アラスカ州内陸部の火災後 5〜90年を経過したマリアナトウヒ(Picea mariana)林において、細根の生産量、林床植生の生産量、地表面における CO2、CH4、N2Oなどの温室効果ガスフラックスの火災後の変動について明らかにするとともに、林床植生とその下部の堆積有機物層の発達がこれらの変動に与える効果を明らかにすることを目的とした。

    ■ RF-0902  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-092 .pdf PDF [PDF 229 KB]
    ※「 RF-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)森林火災後の林床植生成長速度と林床植生が樹木根の成長に与える影響の評価
    各調査区でマリアナトウヒと低木・草本類の地上部現存量を調査した結果、火災後年数が短いほど小さかった。 5年区では火災によりマリアナトウヒの成木は全て枯死しており、回復して火災の跡が見られない 90年区では、地上部現存量の 96%がマリアナトウヒであった。
    一方、リターフォール量については、調査区間の差異は小さかった。 5年区のリターフォールの大半は低木・草本類のものであり、 90年区では 50%がマリアナトウヒのものであった。
    各調査区で林床植生被覆率は火災後年数が短いほど小さく、地表〜堆積有機物層の深さも 5年区の値は 10年区、 90年区よりも有意に小さかった。これらの結果は、火災が起こるとマリアナトウヒ林の植生や堆積有機物層は減少し、数年〜 10年程度では十分に回復しないことを示唆している。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    また、各調査区における林床植生生産量を推定した結果、調査区間の差は小さく、 5年区、 10年区、90年区でそれぞれ 46、33、38 g m-2 yr-1であった。また、各調査区において直径 2 mm以下の細根の生産量を推定した結果、 5年区、 10年区、 90年区でそれぞれ 48±13、47±12、63± 10 g m-2 yr-1であり、調査区間で有意な差は認められなかった。これらの結果は、林床植生や細根の生産量が火災後数年で速やかに回復することを示唆している。また、各調査区の細根生産量を林床の状態により比較した結果、 90年区において地衣類を含む群落下の細根生産量がコケ類の群落下よりも有意に小さかった。この結果は、細根生産量が林床植生の種類によって変動しうることを示唆している。
    (2)森林火災後の林床植生被覆を介した温室効果ガスフラックスとその制御機構の解明
    土壌呼吸速度、林床からの CH4フラックス、 N2Oフラックスについてクローズドチャンバー法による調査を行った。火災からの経過年数が最も短い 5年区では、他の区に比べて土壌呼吸速度が小さく、 10年区と 90年区では土壌呼吸速度に差は見られなかった。また、各調査区における土壌呼吸速度は地温と正の相関関係を示したが、同じ温度レンジで見ると、 5年区では、他の区に比べて土壌呼吸速度が小さかった。各調査区内では林床被覆の状態により土壌呼吸速度が異なったが、これは林床被覆の状態による地温や生物活性の違いによるものと考えられた。得られた土壌呼吸速度と地温の関係式、地温の経時変動、林床植生被覆率をもとに推定した 5年区、 10年区、90年区の年間土壌呼吸量は、それぞれ 2.10、2.81、2.94 t C ha-1で、積雪期間の土壌呼吸量は年間土壌呼吸量の 4.5〜6.3%の寄与と推定された。
    また、2009年 8月の調査の結果、 5年区の CH4吸収フラックスは 10年区、90年区よりも大きかった。また、 10年区の N2Oフラックスは 5年区、90年区よりも大きかった。重回帰分析の結果、N2Oフラックスは、土壌水分率が高く、土壌呼吸速度が大きいほど大きくなることが明らかになった。
    以上から、土壌呼吸速度、 CH4および N2Oフラックスの地点による違いは、林床被覆の状態や林床植生の回復状況を反映することが示唆された。
    (3)森林火災がマリアナトウヒ林の地表面の炭素収支に与える影響
    細根生産量、林床植生生産量、リターフォール量は、地下部への有機物供給源と考えられる。本研究で得られた細根生産量、林床植生生産量、リターフォール量の合計量を、炭素含有率を 50%として炭素量に換算すると、 5年区、10年区、 90年区における地下部への炭素供給量は 0.57、0.51、0.66 t C ha-1 yr-1となった。これらを土壌呼吸速度(2.10〜2.94 t C ha-1 yr-1)と比較するとかなり小さい。この原因については、細根生産量などの推定値の過小評価にあるのか、あるいは菌根菌の生産量など未測定の要素の寄与が大きいことにあるのか、現時点では不明であるが、今後、さらに研究を進める上での重要な課題と考えられる。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0902
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0902 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    サブテーマの目標は明瞭であり、個々の研究課題に関して十分な成果が得られている。特に生態学的には、計画的な野外調査により生態系としての火災跡地のトウヒ林生態系の記述がなされて、火災から回復過程にある森林の炭素収支に及ぼす林床植生の影響について興味深い結果が得られていることは評価できる。また、生態系の変化に対応した二酸化炭素や窒素などのフラックス測定が成されており、重要な成果を得ている。得られた成果の学術誌などにおける発表が少ないので、早く成果をとりまとめて発表することにより、研究成果を客観化することが必要である。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: RF-0903 日本の落葉広葉樹林におけるメタンおよび全炭化水素フラックスの高精度推定(H21-22)
    研究代表者氏名: 深山貴文((独)森林総合研究所)

    1.研究概要

    人工衛星によるメタン濃度の観測が開始され、地上部におけるフラックスの高精度推定に必要な連続観測技術の確立が必要とされている。特に森林流域には嫌気的土壌が存在し、陸生植物からのメタン発生の可能性も報告されたことから、森林群落のメタン収支が注目されている。
    一方、森林起源の非メタン炭化水素は、温室効果ガスを酸化させる大気酸化力を維持し、有機エアロゾルを形成して温室効果を軽減すると考えられており、その放出量の評価が必要とされている。そこで本研究では新測器を用いて炭化水素フラックスの連続観測システムを開発し、野外観測における有効性を確認すると共に、森林における炭化水素フラックスの変動特性と変動要因の検討を行った。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0903  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-093] .pdf PDF [PDF 317 KB]
    ※「 RF-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    可変波長半導体レーザー分光法による高速メタン計と、プロトン移動反応質量分析法による炭化水素計という新測器を用いて、炭化水素フラックスの多点連続観測システムを開発した。これは、大気−森林間での群落炭化水素フラックスの評価を目的として乱流変動法と簡易渦集積法を、群落内におけるフラックス形成メカニズムの解明を目的として自動多点チャンバー法を同時に運用するもので、群落上、葉面、土壌表面における炭化水素フラックスの連続的な並行観測を実現している。
    新測器とガスクロマトグラフの野外観測における比較観測や校正ガスによる精度評価を通じて、新測器の有効性が確認された。また野外観測では湿潤土壌からのメタン放出が主に落葉やルートリターが堆積した夏期の渓流の汀線上や砂州上に限られ、そこからの放出も降雨の影響を強く受けて停止する断続的なものであることが分かった。また、葉群や群落からのメタン放出も認めらなかったことから、この森林はメタンの弱い吸収源であり現段階でのメタン排出源対策は不要と考えられた。イソプレンについてはコナラ葉面、土壌面、群落上で明瞭なフラックスの日変化を観測し、エアロゾル形成等を示唆する結果を得た。
    本研究で得られた成果は炭化水素フラックス観測ネットワークの構築や比較観測等に活用していくことを予定している。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0903
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0903 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    可変波長半導体レーザー式高速メタン計を組み込んだ計測システムを開発して、リターなど表面積の大きな有機物の高温期のメタン放出の激しい変動を計測できるようになり、一つの集水域におけるメタンの発生の時空間的な分布を明らかにしている。
    地球規模のメタン観測ネットワーク構築の足がかりになることを期待する。また、ソフトイオン化法質量分析計を用いて、非メタン炭化水素についても森林からの急激な放出が観測できるようになり、二次有機エアゾル形成との関連究明に貢献できると期待される。今回の成果のとりまとめが、学会誌、学会における発表により公開されることを期待している。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 2.第2研究分科会<環境汚染>
    i. 環境問題対応型研究領域

    研究課題名: B-0801 東アジアにおける生態系の酸性化・窒素流出の集水域モデルによる予測に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 新藤純子((独)農業環境技術研究所)

    1.研究概要

    欧米では 1980年代以降、大気からの酸性物質の負荷と森林生態系の物質循環調査の詳細なモニタリングおよびそのモデリングにより、土壌や渓流水の酸性化や植生変化などの進行や回復過程の解明が行われている。東アジアは近年の急速な経済発展のもと、酸性沈着量の増大も予想されているが、特に熱帯地域における上記の様な影響解明のための生物地球化学的循環に関する調査はほとんどなく、循環の特徴やメカニズムは未解明である。また既存のモデルの多くは温帯から亜寒帯の生態系を対象としており、熱帯・亜熱帯地域への適用性はほとんど検討されていない。またその多くは非常に詳細な入力データが要求され、測定データの少ないアジアへの適用は困難な状況である。
    本課題では、熱帯域を対象に集水域内の物質収支解析のためのモニタリング手法の確立とモデルの作成、また、これらを用いて酸性物質の生態系への流入・循環・流出の特徴とそのメカニズムを解明すること、更に、森林流域を含むより広域な領域を対象とした窒素収支の将来予測も含む経年的な変化を評価し、その中で大気沈着の寄与を明らかにすることを目的とした。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    このためタイのサケラートおよびマレーシアのダナンバレーの小流域を拠点サイトとして設定し、各々拠点サイトを含むナコンラチャシマ県およびサバ州を研究対象領域として、以下の3サブテーマで研究を実施した。
    (1)東アジア集水域を構成する生態系における酸性物質の循環のモデル化に関する研究
    (2)集水域システムにおける酸性物質の蓄積・流出過程のモデル化に関する研究
    (3)東アジアにおける集水域モデル開発のための渓流水化学性および物質循環の解析

    ■ B-0801  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ c-082 .pdf PDF [PDF 250 KB]
    ※「 C-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)サブテーマ3による観測結果やタワー観測データ、衛星データに基づいて森林の物質循環と大気沈着を考慮した土壌影響モデルを作成し、加治川(新潟県)のデータで検証した後、拠点サイトに適用した。サケラートで観測された表層土壌 pHの季節的な変化と類似の変化が推定され、モデルを用いた要因解析の結果、短期的な pH変化は雨季と乾季の水分条件の違いに起因すると考えられた。加治川と比較すると、両地点では大気沈着量に比べて、生物地球化学的循環量が大きいこと、大気沈着量の増大は長期的に土壌 pHの低下を招く可能性があることを示した。また、サブテーマ2による窒素循環とリンクさせることにより、ナコンラチャシマ県の 8%を占める森林からの窒素流出は県全体の負荷の 2%程度であると推定した。
    (2)ナコンラチャシマ県とサバ州を対象に家庭、農畜産業および自動車からの窒素排出量の 1980年〜 2005年の推移、および将来の人口、作物生産、自動車台数と排出規制への適合率などの予測に基づいた 2030年までの変化を推定した。ナコンラチャシマ県では人口と一人当たりのタンパク質消費量の増加、窒素肥料使用量の増加により、窒素排出量は 1995年ころまで急激に増大したが、以降は安定し、今後の変化も小さいと推定された。サバ州では増大は現在まで継続し、特に近年のパームオイル需要の増大に伴う農耕地の拡大と肥料使用量の増加の寄与が大きい。今後、水系への窒素流出と共に肥料からのアンモニア発生量増加の可能性を示した。一方両地域とも自動車からの窒素酸化物の排出量は排出規制の導入により今後低下すると推定された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (3)拠点サイトにおいて大気沈着量と渓流水質の継続的な観測やイオン交換樹脂を用いた土壌中の物質フラックスの観測等を行い、気象条件や植生の異なる両集水域での物質循環特性を明らかとした。熱帯多雨林のダナンバレーは内部循環が大きく高い酸中和能を有しているのに対して、熱帯乾燥林のサケラートでは大気沈着量や渓流水質が季節により大きく変動し、渓流水質は雨季と乾季の交代や大気沈着に敏感に応答する酸感受性河川であることを示した。拠点サイトを含む広域観測も実施し、両地域とも拠点サイトは河川水の pH、EC、アルカリ度が最も低く酸感受性が高い地点であった。本研究の成果に基づいて作成した集水域モニタリングガイドラインは EANET科学諮問委員会において承認され、 EANET集水域モニタリングの本格的実施の基礎となる。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0801
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ B-0801 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    これまで酸性沈着の調査や解析がほとんど行われていない熱帯域の森林や流域(タイの熱帯季節林、マレーシアの熱帯多雨林)を対象に、土壌化学プロセス・窒素循環モデルを作成、検証し、目標を概ね達成した。また、熱帯、亜熱帯雨林での土壌、渓流水化学性の国際共同研究成果も整いつつある。
    水域システムの蓄積、流出過程のモデル化については、上記土壌化学プロセス、窒素循環のモデル化のアプローチとの整合性、相補性、継続性は見られず、大気沈着、降水から集水域流出に至る全体システムのモデル化には及ばなかった。なお、本課題にはサブテーマが 3つあるが国際誌への成果の発信が少なく、全体としてのまとまり感がみられなかった。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: B-0802 東アジア地域における POPs(残留性有機汚染物質)の越境汚染とその削減対策に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 森田昌敏(愛媛大学農学部)

    1.研究概要

    我が国において 3地点の大気定点モニタリング、東シナ海での 3回の航海による洋上大気モニタリングおよび海水モニタリング、国内および中国、韓国を含む松葉を用いたモニタリング、日本海、東シナ海から太平洋にわたるイカを用いたモニタリング更にはスペシメンバンクに蓄積されたイカおよび二枚貝の分析を通じて、有機塩素系農薬を主体とした有機残留性汚染物質(POPs)の我が国周辺での現在の分布の状況および過去から現在に至るトレンドを明らかとした。これらの POPs類は高濃度の汚染地点から低濃度の汚染地点へ、また大気経由では西から東へ、気化 /沈着を繰り返しながら寒冷な北への移動が、そして水圏経由では海流にのって移送されていると思われる。越境汚染が明確に観察されたのは、マイレックスの場合であった。本物質は、大陸側で使用され、その地域において高濃度で見いだされるとともに我が国で使用実績のない物質であり、日本では低濃度であること、そしてその汚染は大気経由で(一部は海流にのって)我が国に運ばれたと推測された。
    汚染物質の移送現象は、物質の物性、発生量、気象等に支配されるが、モデル化することによりシュミレーションすることができ、その程度を見積もることが出来る。全球多媒体輸送・動態モデルの開発を試み、各種 POPs化合物について東アジア地域の大気濃度に対する地域内排出の寄与の推定が行えるようになった。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-0802  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ c-083 .pdf PDF [PDF 234 KB]
    ※「 C-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    研究は 4つのサブテーマについて行なってきたが、その達成は次のように評価できる。
    [1] POPs全球多媒体輸送・動態モデルは一応の完成をみている。このモデルは多くのインプリケーションをもっており、新しい場への適用等、活用の場を拡大させることは重要と思われる。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    [2]東アジア諸国における POPsの排出推定と排出削減対策に関する研究では、中国におけるマイレックス汚染、インドネシアにおける森林火災によるダイオキシン発生量推定等に一定の成果をあげ、また、今後の POPsの新規化学物質(デクロランプラス)についての中国での基礎的知見を得ている。
    [3]東アジア地域・西太平洋地域における POPsの定点モニタリングでは広い地域にわたる POPs成分の分析値の集積、および輸送経路の検討を可能として、我が国に使用実績のないマイレックスについては越境汚染を証拠だてることが可能とした。また同時に海流を通じた移送の重要性も示された。
    [4]スペシメンバンク試料を用いた汚染レベルの時系列的変化の解明は時間軸を遡及して、過去から現在に至るまでの汚染解析を通じて、汚染の全容解明にむけて、また長期的移送にかかわる情報を含めて重要な知見が得られている。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0802
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ B-0802 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    課題全体として、また 4つのサブテーマについては、予定された計画が遂行され順当な成果を上げたと評価されるが、総体としてのまとまり感が薄い。また、研究目的に削減対策について明記されているが、結果は不十分である。
    各サブテーマで扱った POPsの種類に統一性がないため科学的法則性の提示に至っていないこと、サブテーマ間の連携により導かれた結果や結論が乏しいこと等は、本研究の成果が断片的に利用されることはあっても、将来予測や政策提言の場で統一感のある総合的指針として効果を発揮する可能性は低いと思われる。国際誌発への表論文は多いもののハイランクの国際誌に掲載された論文は少なく、学術的な波及効果や国際的インパクトは弱いと考えられる。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: B-0803 次世代大気モニタリングネットワーク用多波長高スペクトル分解ライダーの開発に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 西澤智明((独)国立環境研究所大気圏環境研究領域遠隔計測研究室)

    1.研究概要

    本研究では、多種多様なエアロゾル特性を精緻測定でき、かつ時間連続的にその動態を把握できる次世代のエアロゾルモニタリングネットワークの構築を主眼とし、このネットワークの実現化に必要となる、小型で自動連続運転可能なネットワーク用のマルチチャンネルライダーのプロトタイプの開発を目的とする。具体的には、高スペクトル分解ライダー (HSRL)技術に基づき、 Nd:YAGレーザーから得られる3波長 (1064 nm, 532 nm, 355 nm)を用いて、2波長 (532 nm, 355 nm)の消散係数、3波長の後方散乱係数および2波長 (1064 nm, 532 nm)の偏光解消度を測定する小型の昼夜自動連続測定可能なマルチチャンネルライダーシステムを開発する。先行研究で個別に開発された波長 532nmと 355nmでの HSRL技術(各々、狭帯域フィルターとしてヨウ素吸収フィルターとファブリペロエタロン(以下、エタロン)を用いる)を 1台のライダーに合理的に統合することで、 2波長 HSRLシステムを構築する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    さらに 2波長(1064nm, 532nm)での偏光測定機能も組み込むことで、世界屈指のマルチチャンネルライダーシステムの構築を目指す。
    ネットワーク観測を視野に入れ、長期観測に耐えうる小型のライダーシステムを構築し(サブテーマ1)、
    自動連続測定機能(レーザーと狭帯域フィルターの自動波長調整システム)の開発を行う(サブテーマ2)。

    ■ B-0803  研究概要
    ./pdf/ b-0803 .pdf PDF [PDF 287 KB]

    2.研究の達成状況

    サブテーマ1(ライダーシステムおよびデータ処理手法の最適化に関する研究)では、小型かつ高性能な光学系及び信号処理を実現するライダーの最適設計を考案し、ライダーシステムの構築を行った。また、本ライダーシステムに適した受信信号の幾何学的効率等の校正手法を検討し、信号解析を行った。粒子(エアロゾル及び雲)の消散係数・後方散乱係数・偏光解消度を精密に導出する解析手法の開発も行った。構築したシステムを用いた実測を行い、開発した解析手法を用いてその信号解析を実施した。導出した粒子光学特性が先行研究の観測結果と整合することを確認し、本ライダーシステム及び解析手法の妥当性を実証した。本研究では、小型の多波長 HSRLシステムの骨子を世界に先駆けて構築することに成功した。この技術統合によるライダーのマルチチャンネル化は、遠隔計測手法によるエアロゾルの分離測定および光学特性測定を革新的に飛躍させるものである。
    サブテーマ2(自動波長同調システムの開発に関する研究)では、ヨウ素吸収フィルターの吸収波長へレーザー波長を常時固定し(レーザー波長固定手法)、かつ固定したレーザー波長へエタロンの透過波長を常時調整する(エタロン透過波長調整手法)技術の開発を行った。これらの技術は HSRLの測定精度を維持し、かつ自動連続測定を可能とするために必須となる。レーザー波長固定手法では、先行研究で開発された AOM(音響光学変調器 )を用いた手法を発展させ、より精度良く波長固定できる手法を考案し、本ライダーシステムへ実装した。実測を行い、長時間にわたってレーザー波長を適切にヨウ素吸収線へ固定できることを実証した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    エタロン透過波長調整手法では、エタロン透過光の干渉縞のパターンの変化を常時モニターし、パターンの変化に応じてエタロン内の圧力を常時調整することで、レーザー波長へエタロン透過波長を固定する方法を考案し、本ライダーシステムへ実装した。実測結果から、本手法を用いることでエタロン透過波長をレーザー波長へ常時調整できることを実証した。
    本研究で開発した自動波長調整技術は、多波長 HSRLを自動測定化するための根幹技術である。 HSRLの多波長化は世界の潮流であり、自動測定化のために本技術が広く利用されることが期待できる。また、十分な精度を持った時間連続の観測(及び解析)データは粒子の大気環境や気候システムへの影響の評価において必須であることから、本技術開発の貢献は大きい。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0803
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ B-0803 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    小型で自動連続運転可能なネットワーク用のマルチチャンネルライダーシステムとデータ処理手法の最適化や自動波長同調システムの開発が研究計画に沿い達成されたことは高く評価できる。
    この次世代型ライダーを用いエアロゾルの種類(煤、硫酸塩、黄砂など)の同定や動態等の解析に積極的な応用が期待される中、実用化に向けた検討がさらに必要。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: B-0804 浚渫窪地埋め戻し資材としての産業副産物の活用−住民合意を目指した安全性評価に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 徳岡隆夫(NPO法人自然再生センター)

    1.研究概要

    日本を代表する汽水湖の中海には、干拓事業に伴い形成された水深 10〜14mのヘドロが堆積した浚渫窪地が多く存在する。窪地から溶出する栄養塩や硫化水素は中海の水質に大きな影響を及ぼすと考えられていて、浚渫窪地を対象に現況調査を行い、窪地の形状、堆積物量、水質などの状況を明らかにした。また、埋め戻し材として利用可能と考えられる産業副産物の安全性について、住民の合意が得られる評価方法として生物影響評価試験及び生態系影響評価試験を行った。また、埋め戻しに伴う環境影響を調査し、環境影響の少ない埋め戻し工法を検討すると共に、石炭灰造粒物による覆砂効果について調査した

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ B-0804  研究概要
    ./pdf/ b-0804 .pdf PDF [PDF 300 KB]

    2.研究の達成状況

    (1)中海浚渫窪地の現況調査研究
    音波探査によって窪地の形状と面積・体積を求めた。また、音波探査記録と柱状堆積物試料との比較によって,音波探査記録の透明層を追跡することでヘドロの層厚分布を把握できることがわかった。窪地内の水質は弓ヶ浜沿いに連続してつながる窪地と安来沖などに点在する独立性の強い窪地とで挙動が異なった。独立性の強い窪地では 6月から 11月にかけて無酸素状態が継続し、硫化水素の蓄積がみられ、無機態リンやアンモニア態窒素の蓄積がみられた。連続した窪地でも 6月から 11月にかけて無酸素状態が継続したが、アンモニア態窒素の蓄積は観測されなかった。流向流速計の測定結果から、連続した窪地ではかなり強い流れが確認され ,水が入れ替わっていると推測された。また、独立性の強い窪地では内部セイシュによる往復の流れが観測された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (2)産業副産物の埋め戻し材としての完全性評価研究
    埋め戻し資材に産業副産物を活用するため、イシマキガイを指標生物としたバイオアッセイを行い、産業副産物の安全性を評価した。その結果、廃瓦、石炭灰造粒物、鋳物廃砂造粒物、酸化スラグ、廃耐火レンガにおいて重金属の生物濃縮は確認されず、浚渫窪地の埋め戻し材料としての候補となり得ると考えられた。また、単一の生物に対する評価手法に加えて生態系影響評価を試みた。生態系影響評価試験は 270Lの屋外水槽に中海の底泥と湖水を入れることで疑似中海生態系を作り、試験資材を入れて試験した。一次生産を指標に試験した結果、上記の産業副産物では一次生産を阻害する資材はなかった。
    (3)埋め戻し工法と埋め戻しに伴う環境影響評価
    産業副産物である石炭灰を造粒した石炭廃造粒物 750m3を細井沖浚渫窪地に40mx40の範囲に覆砂する実験を行った。覆砂による N、Pおよび H2Sの溶出抑制効果について底泥チャンバーを用いて検討した。栄養塩の溶出抑制効果および酸素消費速度の抑制効果が 1年以上にわたって確認することができた。埋め戻し工法について覆砂工事時にセジメントトラップを用いて調査した。巻き上がりは塩分躍層より下位に限られることがわかり、躍層下までシルトスクリーンを下ろすことで、周辺への施工時の影響は防げる事が分かった。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0804
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ B-0804 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    汽水湖である中海特有の干拓事業に伴い形成された水深 10〜14mヘドロが堆積した浚渫窪地の問題を取り上げた課題であり、中海の海底における窪地の状態、浚渫窪地の水質特性およびヘドロの堆積量を定量化するとともに、埋め戻し材として石炭灰造粒物による覆砂効果など成果が得られ、今後の中海の水質改善の方向性を概ね示すことができた。一方、サブタイトルにもなっている住民合意形成を目指した安全性評価については、安全性や環境影響についての評価はなされているが、それと住民合意形成との関係が判然としない。合意形成には、どのような情報をどのように提供するべきなのかなど、情報の内容と提供方法などについての検討とそれに基づく安全性評価が必要なのではないか。成果はシンポジウムやセミナーで発表されているが、査読論文としても発表すべきである。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: B-0805 湖内生産および分解の変化と難分解性有機物を考慮した有機汚濁メカニズムの解明(H20-22)
    研究代表者氏名: 一瀬諭(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)

    1.研究概要

    近年、湖沼や海域において難分解性と考えられる溶存態の有機物が増加傾向にある可能性が指摘されている。我々は、琵琶湖内において、これら有機物指標にかかる水質メカニズムを解明するため、湖沼への有機物供給における内部生産の寄与を明らかにし、今後の湖沼管理政策へ貢献することを目的として、プランクトンの長期的な変動解析と内部生産構造の変動解析を中心に、湖内における生産や分解の変化と難分解性有機物を考慮した水質汚濁メカニズムの解明についての研究を実施した

    ■ B-0805  研究概要
    ./pdf/ b-0805 .pdf PDF [PDF 459 KB]

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    2.研究の達成状況

    琵琶湖における過去 30年間の植物プランクトン定期調査データの変動解析した結果、琵琶湖において CODと BODの乖離現象が特に顕著となってきた 1985年以降、植物プランクトンが小型化し、藍藻等の粘質鞘を有する植物プランクトンの優占度が増している特徴が明らかとなった。
    また、過去 30年間におけるバイオマスの 53%を占めた 13種類について大量培養し生分解試験を実施した結果、 3か月 (100日間分解 )経過しても CODとして平均 35%の有機物が残存しており、 TOCとしても平均 25%が残存しており、湖内でプランクトンが生産した有機物が長期間分解されずに湖水中に残存していることが明らかとなった。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    プランクトンの分解者である湖水中の細菌類による難分解性有機物の生成を検討するため、湖水中にグルコースやアミノ酸を添加して細菌を培養繁殖させ、繁殖後の溶存有機物の化学組成の変化や、溶存有機物の変成について評価した結果、細菌の増殖にともない新たな溶存有機物が生成されることが確認され、さらに、細菌の増殖により生成する有機物は、親水性で、分子量 1,000以下の低分子量の有機物が主成分であることが確認された。
    これらのことから、植物プランクトン種組成変化に伴う内部生産構造の質的、量的変化が難分解性有機物の供給に大きく影響している可能性が明らかとなった。さらに、 1995年と 2000年および 2005年の純生産量を比較推定した結果、 1995年に比較して、 2000年および 2005年は湖内純生産量がそれぞれ 1.62倍、 1.69倍に増加していることが推計された。また、藍藻などの小型種が大量に発生することで純生産量を増大させている可能性が示唆された。さらに、琵琶湖への有機炭素の流入負荷は、滋賀県の試算によれば 28 tonC/d(1995年)から 19 tonC/d(2005年)に減少している。一方、琵琶湖の内部純生産量は逆に増加している上、流入負荷量よりも一桁大きな値を示していることから、琵琶湖の有機物による水質汚濁を考える上で、内部生産制御の重要性が明らかとなった。本成果は、今後、水質管理目標の検討、湖沼管理政策立案への基礎資料として活用する予定である

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0805
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ B-0805 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    膨大な植物・動物プランクトン等のデータを活用し、植物プランクトン種組成変化に伴う内部生産構造の質的、量的変化が難分解性有機物の供給に大きく影響している可能性が明らかしたことは高く評価される。水質管理目標の検討、湖沼管理政策立案に貢献できる点でも評価される。
    各テーマの結果を総合し定量性を持った成果としてまとめること、残された課題(CODと BODの乖離現象への内部生産の影響、内部生産の難分解性物質への寄与、難分解性物質の正体等)の検討、論文発表が今後の課題。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: S2-01 外場援用システム触媒による持続発展可能なVOC排出抑制技術に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 尾形敦((独)産業技術総合研究所環境管理技術研究部門)

    1.研究概要

    環境触媒の活性成分や燃料電池の電極として用いられている白金、パラジウム等の貴金属は、世界的な環境意識の高まりから、使用量が増大している。一方で、貴金属系触媒ほど性能は高くないが、次候補として卑金属系触媒も考えられている。しかしながら、一部の重金属成分は、触媒の製造・廃棄時の環境中への排出、すなわち「ライフサイクルにわたる環境リスク」が懸念されている。これらは中長期的に使用の制約・制限が予想されるが、ポスト貴金属系触媒の開発は民間では大きなリスクを伴うため進んでいない。
    本研究では、環境に負荷が少ない材料を用いた新規触媒、並びに触媒機能を補強・増幅させる外場援用システムを用いて、従来型触媒と同等あるいはそれ以上の性能を持つ次世代型触媒の開発を行う。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    酸化触媒は固体表面に VOCや酸素などを吸着させることにより反応場を提供する。活性成分とされる金属元素は、活性酸素を生み出す機能やそれが VOCと反応するまで固体表面上に安定化させる役割を担っている。従来の活性成分を用いず、これらの特徴を発現できる材料を見出すことができれば、次世代酸化触媒の創製が可能となる。そこで、不足する機能を補強・増幅するために、プラズマやマイクロ波等の外場を援用し、
    [1]プラズマ援用シリカ系触媒システムの開発と、
    [2]マイクロ波援用ペロブスカイト系触媒システムの開発を行う。

    ■ S2-01  研究概要
    ./pdf/ s2-01 .pdf PDF [PDF 249 KB]

    2.研究の達成状況

    プラズマ援用シリカ系触媒システムの開発では、 Mn系触媒がオゾンを用いた VOC分解用触媒(オゾン援用酸化触媒)として知られていたが、本研究を通して Ag系触媒が Mn系触媒よりも副生成物の抑制に優れていることを明らかにした。さらに、種々の単純酸化物の担体に Agを担持し、 Ag活性種を活かすための触媒設計指針として、担持された Ag活性種が酸化物であるよりも金属である方が、副生成物の生成の抑制と CO2選択率の向上に効果的であり、金属状態の Ag微粒子活性種を得るには、担体として塩基性の強い金属酸化物 (ZrO2, MgO)が有効なことを明らかにした。その結果、 Ag/ZrO2触媒が従来型燃焼触媒(Pt触媒)では実現が難しかった 100°Cの低温における高い VOCの酸化能を発揮することを示した。
    この成果をもとに、 Zrを一定量の Ceで置換した複合酸化物とシリカ相から成るメソ構造体が、 Ptに代わる新たな酸化触媒となる可能性を見出した。また、触媒の効果的な活用法として、完全酸化能力に優れた Ag/ZSM-5触媒をトルエン転化率の高い ZSM-5触媒に後置して二層化し、触媒反応器の中に充填することで、総合的な処理効率が高められることを見出した。
    一方、一段式の吸着−酸素プラズマサイクルシステムにおいて、金属ナノ粒子を担持したゼオライト系酸化物が有用な触媒であること、ならびに触媒上の金属ナノ粒子がプラズマ領域を触媒表面に広く拡散させる役割を担っていることを実験的に示した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    マイクロ波援用ペロブスカイト系触媒システムの開発においては、マンガン、鉄などの比較的安価な成分で構成されたペロブスカイト複合酸化物を基盤材料とした触媒とマイクロ波を組み合わせることにより低環境負荷型触媒反応プロセスを開発した。 ABO3型ペロブスカイト型複合酸化物(A=La, B=Fe, Mn, Ni, Co)の昇温特性、 CO酸化触媒特性は Aサイト、 Bサイトの金属種を変えることで制御できること、外部加熱に比べて反応温度領域が低温化することがわかった。
    ベンゼンの酸化反応についてはマンガン系ペロブスカイトが有効であり、 LaMnO3を低温焼成することで触媒表面の酸素種の反応性とベンゼンの吸着容量が増大し、酸化反応速度が向上することが明らかとなった。マイクロ波加熱下では LaMnO3の急速昇温により速やかにベンゼンを CO2に酸化分解し、外部加熱下に比べて低温領域での反応特性が向上することを見出した。また、半導体型の VOCセンサの開発では、形状異方性の大きな酸化チタンナノチューブを用いることで、焼結性を抑えたポーラスなガス感応膜の作製に成功した。これにより、 VOCのような大きなサイズのガスの膜内部への拡散が容易になり、感度の飛躍的な向上につながった。さらに、金ナノ粒子を高分散で担持することでより高感度かつトルエンに対して選択的な VOCセンサの開発に成功した。固体電解質として、低温で高い酸素イオン導電性を有する BiCuVOx(Bi2V0.9Cu0.1O5.35)を用いて電気化学セルを作製し、燃焼触媒を電極上に取り付けることで、ホルムアルデヒドやエタノールに対して高い感度を示す小型平板センサの開発に成功した。また、固体電解質 CO2センサと燃焼触媒を組み合わせ、標準ガス中の VOCの濃度を分析できるシステムを開発し、 VOCの連続的な濃度分析が可能となった。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-01
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ S2-01 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    触媒システムと高感度で選択的な VOCセンサの開発において研究計画に沿った成果は得られたと評価されるが、コスト面には課題が残った。実用化に向け、コストや効率等の基礎データの整理、省エネルギーで低コストな処理技術にしていくこと、現場で使用可能な技術にしていくことが必要。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: S2-02 二酸化炭素を排出しない排ガス中VOCの循環効率的な除去処技術の開発(H20−H22)
    研究代表者氏名: 田中茂(慶應義塾大学理工学部)

    1.研究概要

    2006年 4月より、 VOC(揮発性有機化合物 )の排出抑制に向けて大気汚染防止法が改正され、 VOC排出規制が開始された。当初は、大規模な排出施設が対象となるが、 2010年からは、多くの排出施設において VOCの 30%削減が義務づけられており、 VOC削減対策技術の開発は緊急の研究課題である。その一方で、エネルギー・コスト的に合理性を持ち、この問題を解決できる VOC削減対策技術の開発は進んでいないのが現状である。
    そこで、様々な固定発生源から排出される排ガス中 VOCを削減する為に、革新的なガス除去処理技術である拡散スクラバー法を用いて、従来法の燃焼方式とは異なり温暖化対策で問題となるCO2を排出せずにエネルギー・コスト的にも優れた排ガス中 VOCの循環効率的な除去処理技術を実現する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    具体的には、 VOC除去液を用いた多孔質 PTFE膜平行板型拡散スクラバーと活性炭繊維シート平行板型拡散スクラバーを使用して排ガス中 VOCを効率良く除去する。更に、 VOCを除去した除去液、吸着剤を再生使用するリサイクルの技術開発を行った。
    本研究で実用化した費用対効果が高い拡散スクラバー法を用いた循環効率的な VOC除去処理システムにより、今後、多くの中小企業に導入され、塗装・印刷工場などの固定発生源からの VOC排出量を大幅に削減できる。その結果、我が国の環境大気中オキシダント濃度を低下させ、更に、 VOC削減のため CO2を新たに発生することなく温暖化対策を同時に進めることができる。

    ■ S2-02  研究概要
    ./pdf/ s2-02 .pdf PDF [PDF 249 KB]

    2.研究の達成状況

    拡散スクラバー法による排ガス中 VOCの循環効率的な除去処理技術に関しては、多孔質 PTFE膜を用いた平行板型拡散スクラバーによる排気ガス中 VOC除去処理装置の基本設計と試作を行い、 VOC除去処理装置の最適化を検討した。実際に、塗装工場の排気ダクトへ装置を接続し、 VOC除去の性能評価実験を行った結果、排気ガス処理風量 3600m3/hにおいて、 TVOC(11種類のVOCの総計)で約 50%の除去効率を得ることができ、中小企業の自主的目標値である 30%VOC削減をクリアーすることができた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-02
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ S2-02 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    拡散スクラバー法を用いCO2 を排出せずエネルギー・コスト的にも優れた排ガス中VOC の除去処理技術とVOC を除去した除去液と吸着剤の再生使用技術の開発が目的の研究。実用化に向けた開発は概ね研究計画に沿い達成されている。現場テストを実施し、性能評価だけでなく、コスト効率等の把握を行ったことは評価できる。
    一方、内容的に、除去効率の向上、コストの削減、除去液がどの程度持つか、回収VOC の活性炭による吸着処理のコストとエネルギーの問題、など開発した処理技術に関わる多くの課題があり実用化に向けさらなる検討が必要。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: S2-03 クリーン開発メカニズム適用のためのパームオイル廃液(POME)の高効率の新規メタン発酵プロセスの創成(H20-22)
    研究代表者氏名: 原田秀樹(東北大学)

    1.研究概要

    パームオイルの生産に伴って排出されるパームオイル圧搾廃液(POME: Palm Oil Mill Effluent)は、 COD濃度が 70,000〜80,000 mgCOD/Lもある典型的な高濃度有機性廃液で、その半分以上が固形性有機物、かつ脂質由来の COD物資も 1/3以上占める、メタン発酵にとってもっとも手強い廃水種でもある。現状では POMEの大部分(9割方)が、ラグーン(安定化池)と呼ばれる素堀の池で極めて長い滞留時間(60日以上)で嫌気的に処理されている。その結果、 2890万トン CO2等量(メタンの GWPを CO2の 21倍として計算)もの大量のメタンが大気中に放出されている。一方、 POMEの処理過程で放出されるメタンガスを適切に回収した場合、 5億 7800万 US$の炭素クレジット(20 US$/トン CO2として計算)が取引可能となる。
    したがって、メタンガスを高効率に回収可能な POME処理システムを開発し、 CDM事業を展開することは、途上国側と先進国側の双方にメリットがある事業であるといえる。本研究は
    (1)可逆流嫌気性バッフル反応器(RABR: Reversible flow Anaerobic Baffled Reactor)による POME廃液の高性能メタン発酵技術の開発、
    (2)プロセス安定化・効率化のための微生物群のコミュニティ解析・コントロール技術の 2つのサブテーマを立て、高性能メタン発酵技術を軸とした POME処理システムを創成しようとするものである。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ S2-03  研究概要
    ./pdf/ s2-03 .pdf PDF [PDF 578 KB]

    2.研究の達成状況

    [サブテーマ 1]前段 DAFユニット(実容積 4.56 m3、有効容積 4.26 m3)と後段 RABR(実容積 50 m3、有効容積 37.8 m3)からなる実証試験プラントを設計・製作し、マレーシアのパームオイル工場内に設置し、約 2年間の連続処理実験を行った。前段の DAFユニットで、 POME中に含まれる固形分及び脂質のおよそ 50%除去し、 COD容積負荷 7.3 kgCOD/m3.d、HRT 8日の条件において全システムでの COD除去率 85 %以上を達成した。最大運転 COD容積負荷 12 kgCOD/m3.d時においては COD除去率の低下が確認された。この値は、我々が調査した現行の嫌気性消化槽やラグーンに比べ、 5-10倍の高速処理を達成していた。提案システムは運転に電力エネルギーを要するが、発生ガスを回収・利用可能であるため、必要エネルギーを十分に賄うことができる。また、本開発システムは高速処理が可能なため、リアクター容積のコンパクト化によるイニシャルコスト削減が可能である。 RABRによる温室効果ガス削減効果を評価するため、マレーシアのパームオイル工場の嫌気性ラグーンからのメタンガス放出量の調査した結果、メタンガス放出量は 1日当たり 7,100 m3(平成 20年度)および 4,580 m3(平成 21年度)であった。この値は、 1年当たり 25,100〜39,000トンの CO2と等量の温室効果ガスが放出されていることが確認された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    これを基にマレーシア・インドネシアで生産されている CPOから換算される両国の POME処理嫌気性ラグーンから発生する温室効果ガス量は、日本の削減目標量 (1990年の 25%削減 )の 6〜9%分に当たると試算され、本研究開発システムなどによる POME処理プロセスからの温室効果ガス発生抑制の必要性が示された。
    [サブテーマ 2] POMEを処理する 3つのシステム (ラグーン・消化槽・ RABR)の網羅的解析の結果、主要な微生物群として Bacteriaでは Firmicutes門に属する微生物群が大きく貢献していることが考えられた。この門には高級脂肪酸を分解することで知られている Syntrophomonadaceae科が属する他、 POME分解に重要な微生物群が存在していることが明らかになった。また Archaeaにおいては Methanosaeta属が優占した。集積培養試験から、メタン生成古細菌等への阻害性は、 POMEの主要成分である C18:1がより強いことが示唆され、安定運転管理には、 C18:1濃度のモニタリングが重要である。
    高級脂肪酸阻害は、酢酸資化性メタン生成菌が水素資化性メタン生成菌に比べ阻害を受けやすく、また C16阻害は微生物コミュニティの違い、特に Archaeaの構造が阻害耐性に大きく関係していることを明らかにした。一方、 C18:1阻害においては、このようなことは見られなかった。迅速・簡便なモニタリングツールの開発においては、金ナノ粒子および分子量分画膜を用いた方法を開発した。また、機能解明ツールの開発には、未培養微生物の機能を遺伝子レベルで推定するために、シングルセルレベルで機能遺伝子の視覚的検出が可能なポリヌクレオチドプローブを用いた two-pass TSA-FISH法を開発した。
    これら開発技術は、 POMEの様なプロセスが不安定になりやすい廃水のモニタリングおよびプロセス安定化のための微生物機能解明に有効である。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-03
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ S2-03 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    前段の加圧浮上装置(DAF)で POME中の固形分および脂質を取り除き、後段の可逆流嫌気性バッフル反応器(RABR)で高速のメタン発酵を行うシステムで、試験プラント的にはほぼ所定の成果をあげたと思われる。特にメタン醗酵における微生物群集の解析に関しては多くのデータが得られているものと判断される。加えて、ラグーン(安定化池)におけるバイオガスの発生挙動(量や組成)についての実測データが得られており、今後に有用な情報を提供することになった。
    しかし、油分を含む搾り滓のスカム利用(ボイラー燃料とした発電)の実現性やラグーンから排出される二酸化炭素、メタンガス等のバイオガス(温室効果ガス)への対策などプロセスの実用化の可能性については未だにやや不明であり、課題として残った。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: S2-04 干潟機能の高度化システムによる水環境改善技術及びCO 2固定化技術の開発研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 木幡邦男((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    富栄養化した閉鎖性内湾での水環境改善対策は喫緊の課題であるが、一方、温暖化対策の推進が求められていることから、エネルギー使用量を増加させることは出来ない。
    本研究では、干潟の持つ自然水質浄化機能のうち、二枚貝による水質浄化能を高度化し、システム化することで、この課題を解決することを目的とした。温排水などの余剰エネルギーや CO2を用いて二枚貝の増殖や微細藻類への CO2固定化の増加を有効に実現する技術を開発することで、コベネフィット技術として、海域での水質浄化に貢献すると共に、食糧としての二枚貝の供給を可能とする

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ S2-04  研究概要
    ./pdf/ s2-04 .pdf PDF [PDF 186 KB]

    2.研究の達成状況

    本研究課題は
    サブテーマ (1)「高機能干潟システムにおける栄養塩削減と CO2固定高効率化モデル開発研究」、
    サブテーマ (2)「CO2固定リアクターによる微細藻類大量培養技術の開発研究」、
    サブテーマ (3)「二枚貝高生産増殖技術の開発研究」により構成され、
    各サブテーマの連携により本課題を遂行した。
    サブテーマ (1)においては、微細藻類増殖モデルと二枚貝成長モデルを作成し、サブテーマ (2)、(3)で得られたパラメータを用いて微細藻類から二枚貝へと移行する栄養塩に基づいて水質浄化量を推定した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    サブテーマ (2)においては増殖モデルのパラメータの取得として CO2濃度と成長との関係を把握した。また、大量培養の技術開発として長期にわたる半連続培養を成功に導いた。
    サブテーマ (3)としては、二枚貝稚貝の大量増殖技術として、砂を用いないアップウエリング飼育手法を開発した。また、従来データが無かった稚貝の成長特性について明らかにした。
    さらに、本手法を用いて成長モデルのパラメータデータを取得するとともに、二枚貝の炭素、窒素、リンの餌料転換効率を定量的に明らかにすることで、水質浄化機能の改善についても検討を行った。
    以上の結果から、本研究では、富栄養化海域の窒素・リン削減という水質浄化技術の開発において、二枚貝の生産という水産的技術と環境技術を一体化できるコベネフィット技術の開発が達成できた。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-04
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ S2-04 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    微細藻類大量培養技術と二枚貝生産技術の統合による水質浄化と食糧生産および CO2固定の個々の研究は個別研究としてほぼ計画どおり遂行され、所定の成果をあげた。
    しかし、東京湾のような閉鎖性内湾の干潟環境では様々な要因が関係するので、単純化した実験系での成果をどの程度適用できるのか検討と検証が重要であり、もう一歩の工夫によって、より精度の高い、また、多角的な評価が可能になったものと思われる。
    干潟における生物機能を利用して水質改善及び二酸化炭素固定を図るシステム構築の目標には全体として到達していない。なお、学術誌へ成果の発信が望まれる。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 2.第2研究分科会<環境汚染>
    ii. 革新型研究開発領域

    研究課題名: RF-0904 POPs候補物質「難分解性PPCPs」の環境特性と全球規模での汚染解析(H21-22)
    研究代表者氏名: 中田晴彦(熊本大学)

    1.研究概要

    近年、医薬品および生活関連物質 (PPCPs)の一部に環境中で難分解かつ生物蓄積性を有し、既知の難分解性有機物質(POPs)と類似の分布挙動を示すものの存在が明らかになった。ストックホルム条約(POPs条約)における指定物質の拡充や、欧州共同体が推進する REACHの制定等により、難分解性化学物質の国際管理が厳しく問われる中、新たな POPs候補物質を探索し、その環境特性を理解することは、日本を含む全球的な汚染リスクを早期に削減する上で重要な意味をもつ。
    本研究では、難分解性 PPCPsであるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に着目して調査研究を行い、 POPs条約附属書 Dおよび Eの各項目に関する科学的知見を収集、解析することを目的とした。実験およびデータ解析の結果、 UV-327 (CAS #: 3864-99-1)はストックホルム条約への申請条件を概ね満たし、新たな POPs候補として今後注目すべき物質であることが示された。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0904  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-094 .pdf PDF [PDF 565 KB]
    ※「 RF-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    4種のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を対象に、 POPs条約附属書 Dの 3項目(残留性 [環境半減期 ]・生物濃縮性・長距離移動性 [広域汚染 ])と附属書 Eの 2項目(発生源・監視に基づく資料 [汚染の経年変化 ])に関する科学的知見を収集、解析した。 UV-327の堆積物中半減期は 540日であり、附属書の基準(180日)を大幅に超過していることがわかった。 UV-327は、日本沿岸で採取したイルカや鳥類など海洋生態系の高次生物や国内外の人体脂肪から検出された。海水¬魚類、海水−イルカ間の濃縮係数 (BCF)は、代表的な POPsであるヘキサクロロシクロヘキサン (HCH)のそれとほぼ同等で、 UV-327が高い生物残留性を有することがわかった。アジアと米国西海岸産のイガイを分析したところ、その大部分から UV-327が検出され、環太平洋域における広域汚染の存在が明らかになった。
    過去 30年間に日本近海で採取されたイルカと、東京湾の柱状底質試料をそれぞれ分析したところ、 UV-327は 1970年代の試料から検出され始め、濃度値は 1980〜 1990年代にかけて上昇した。その傾向は 2000年以降の試料にも認められ、 UV-327による環境負荷は現在進行形である様子が窺えた。排水処理施設の汚泥から比較的高濃度の UV-327が検出された。また、国道の複数地点から採取した道路ダストにも UV-327が認められ、生活排水や車の部品(タイヤやプラスチック部等)が UV-327の環境排出に寄与する様子が窺えた。
    急性および慢性毒性等、現段階で十分な情報が得られない項目もあるが、 UV-327は概ね POPs条約附属書 Dおよび Eの各項目の基準を満たしている。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    さらに、 2010年度の UV-327国内製造・輸入量は、前年度比 98%減の 3トンに激減している。このことは、 UV-327の代替品が開発され、国内市場に流通していることを意味し、 POPs条約附属書 Fの項目「代替となるものの存在」の条件を満たしている。
    以上の結果は、 UV-327が新たな POPs候補として今後注目すべき物質であり、ストックホルム条約の追加物質として申請可能な環境が整いつつあることを示唆している。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0904
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0904 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    広く流通している紫外線吸収剤について、 POPsの要件である蓄積性、難分解性、長距離移動性を、生物を含めた各環境媒体で検討を行い、生物への高い蓄積性、環境残留性、広域汚染を明らかにした。特に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、 POPs条約の追加物質候補となることを詳細な調査研究により明確にしており、海外の環境省庁等からの関心も惹いており、高く評価される。
    さらに分析に関しても、高精度分析法の確立、新規 /既存 POPsに関しても、広くモニタリングし、政策基盤となる有用な情報が得られたと判断できる。これらは POPs条約や REACHの議論に貢献できる成果である。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: RF-0905 黄砂粒子上で二次生成する多環芳香族炭化水素誘導体による越境大気汚染と健康影響(H21-22)
    研究代表者氏名: 亀田貴之(金沢大学)

    1.研究概要

    黄砂の輸送過程における変質や大気汚染物質との相互作用の解明は、未だ充分になされていない。とりわけ黄砂粒子表面を反応場とする有害有機化学物質の生成反応に関しては、現象そのものの理解が不充分であることに加え、その結果もたらされる有害物質による健康被害についての評価・予測は全くなされていないと言ってよい。
    本研究は、黄砂表面における多環芳香族炭化水素(PAH)誘導体の二次生成反応、とりわけ発がん性を有するニトロ PAHや、呼吸器・循環器疾患やアレルギー疾患増悪作用を有する PAHキノン等の非意図的生成に関わる反応について模擬大気実験系を用いた実験を行い、黄砂表面が関与する大気内 PAH誘導体生成反応過程を明らかにするとともに、実大気観測ならびにバイオアッセイによって、長距離輸送中の黄砂表面における有害 PAH誘導体生成と、その生体影響の実態を明らかにすることを目的とした。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0905  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-095 .pdf PDF [PDF 409 KB]
    ※「 RF-095 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    [1]反応チャンバーを用い、黄砂粒子表面における PAHと種々のガス状物質との反応や光反応を検討した。その結果、 PAHは黄砂表面において二酸化窒素やオゾンと速やかに反応し、高い収率でニトロ PAHや PAHキノンを生成することを見出した。
    [2]地元汚染源の影響を受けない石川県輪島市、および黄砂通過地点の大都市である北京市で、黄砂を含む粒子状物質を捕集し、粒子中の PAHおよび PAH誘導体の分析を行ったところ、大規模な黄砂飛来時にはニトロ PAHや PAHキノンの濃度上昇が確認され、黄砂表面の反応によるそれらの二次生成を示唆する結果を得た。
    [3]輪島および北京で捕集した粒子状物質の変異原性を粒径別に測定したところ、粗大粒子が示す活性は黄砂飛来時に高くなる傾向が認められた。黄砂表面における PAH誘導体二次生成との関連が示唆される。本研究により、中国都市部で排出される高濃度の有機化合物が、黄砂表面における反応でより有害な化学物質に変質し、日本に飛来することを初めて指摘することができた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    本研究で得られた成果は、将来的には影響地域における健康被害規模の推定やそれに伴う経済的損失の試算等への応用・展開が見込まれるばかりでなく、環境基準値の設定や関連法令・近隣諸国間における国際的な規約等の制定実現のための指針を示し、被害を緩和するための対策や予報・警報システムの構築に貢献するものと期待される。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0905
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0905 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    中国都市部で排出される高濃度の有機化合物が、黄砂表面における反応でより有害な化学物質に変質し日本に飛来することや粗大粒子が示す変異原性が黄砂飛来時に高くなる傾向と PAH誘導体二次生成との関連が示唆される成果があったことや学術的な面、行政への貢献の点でも有用な知見であることから高く評価される。
    健康被害の実態と今回の結果との定量的な関連の検討がさらに必要。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: RF-0906 マルチサイズ解析による東アジアにおける大気中超微粒子(UFP)の動態に関する研究(H21-22)
    研究代表者氏名: 宇都宮 聡(九州大学大学院理学研究院)

    1.研究概要

    本研究は、東アジア、中国大陸〜日本に拡散する大気微粒子を対象として、 PM2.5と UFP領域の元素分布、個別粒子の化学的・物理的特性を、バルク〜ナノ分析技術を駆使して分析し、 PM2.5と UFP中有害元素の存在状態、生体摂取量予測に対する知見を与えるとともに、黄砂輸送にともなう PM2.5と UFPの東アジア越境汚染を明らかにすることを目的とした。
    大気試料は中国の合肥、福州と日本の小値賀、福岡、東京の5地点において、 MCI、PIXE、と HVエアサンプラーを用いて採取した。バルク組成は ICP-MS、結晶相同定に XRD、化学種同定に放射光 XANESを用いた。一方個別粒子分析は SEM-EDS、ナノレベル分析は TEM、STEM、EDS、EELSを用いて行った。非黄砂時における都市大気微粒子中には、燃焼起源を示唆する球状でスピネル構造をもった酸化鉄のナノ粒子(数 10 nm)の凝集体が観察された。これらは Mn、Crを含有しており、 Mnが共存元素の酸化促進を引き起こし Crの酸化によって粒子毒性が高くなる可能性がある。また、鉛は Pb2+硫酸塩の二次的なナノ粒子として存在した。熱力学的考察より、これらの酸化鉄ナノ粒子は体液との接触で溶解する可能性が示唆され、ナノサイズに起因した高表面活性サイト密度のために、フェントン反応の進行と活性酸素の増産が予想される。
    一方で、黄砂時のサブミクロン粒子中には、人為起源の球状鉄酸化物、鉛硫酸塩、クロマイトの存在が見られた。合肥試料の PM2.5領域では鉛の顕著な濃集と人為的な鉛同位体比を示し、黄砂輸送に伴う有害ナノ粒子の拡散を示唆した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    さらに黄砂粒子中に鉄は最大通常の 11倍程度含まれ、イライト、スメクタイトが 58.8-60.7 %と鉄重量比で最も鉄を含むことが分かり、その比較的高い溶解度のため海洋への主要な鉄供給源となっていると考えられる。また、鉄酸化物は 22.5-27.6 %、鉄水酸化物が7.52-11.1 %と比較的重量への寄与が大きい。特に鉄水酸化物は生物活性が高く海洋生物活動への影響は無視できない。
    今回の結果は、環境省が施行している PM2.5規制に対してミクロレベルで初めての系統的な貢献となった。

    ■ RF-0906  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-096 .pdf PDF [PDF 279 KB]
    ※「 RF-096 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    これまで個別粒子解析が困難であった PM2.5と UFPの存在形態に関して、通常のバルク・個別粒子分析に加えて最先端の電子顕微鏡測定技術とシンクロトロン放射光を組み合わせたマルチサイズでの系統的解析を行うことで、より正確な有害重元素の化学種同定が可能となった。
    これにより、東アジアの都市大気には燃焼起源を示唆する球状でスピネル構造をもった酸化鉄のナノ粒子(数 10 nm)の凝集体が主要であることが分かった。この鉄ナノ粒子中に固溶する Mnは共存元素 Crの酸化促進を引き起こし、 Crの酸化によって粒子毒性が高くなる可能性を示唆する。また、ナノサイズ、形状に起因した高い表面活性サイト密度が見積もられた。熱力学的考察から、フェントン反応の進行と活性酸素の増産が予想され、大気微粒子中の金属酸化物ナノ粒子の重要性が示された。
    黄砂中 PM2.5粒子では、鉛は硫酸塩ナノ粒子として存在し、顕著な濃集と人為的な鉛同位体比を示し、黄砂輸送に伴う有害ナノ粒子の拡散の重要性を提唱することができた。さらに黄砂粒子中の鉄は最大通常の 11倍程度含まれ、イライト、スメクタイトが 58.8-60.7 %と鉄重量比で最も鉄を含むことが分かり、その比較的高い溶解度のため海洋への主要な鉄供給源となっていると考えられた。また、鉄水酸化物は 7.52-11.1 %と定量され、その生物活性の高さから、海洋生物活動への影響は無視できない。
    これによって黄砂粒子中の鉄存在状態が明らかになり、大気−海洋−気候フィードバック機構の海洋への鉄供給形態が定量的に解明された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0906
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0906 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    短期間の研究であったが一定の成果が得られた。各々の分析から興味深い知見がえられているが、解析が必ずしも十分でないため基礎情報の提供にとどまっている。
    いろいろな分析データはあるので、これらを羅列するのではなく、総合的に解析しどのように全体像を作っていくかを示すことが必要。査読論文発表も欲しかった

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 3.第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>
    i. 環境問題対応型研究領域

    研究課題名: C-0801 細胞株とメダカの遺伝子破壊株(メダカ)を使った環境発がん物質を検出するバイオアッセイ系樹立の為の国際共同研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 武田俊一(京都大学)

    1.研究概要

    環境中に排出される有害化学物質の生体・生態への影響を検出するとして、野生型の、細胞やメダカを使ったバイオアッセイがある。しかし、野生型の生物は毒物を代謝・無毒化するので、毒物を高感度に検出できない。そして、バイオアッセイは必ず偽陽性の結果を出すが、野生型細胞や野生型動物のみを使った従来のバイオアッセイでは、偽陽性を検証することが困難である。有害化学物質の毒性をその化学構造からコンピューターで予測することが、将来必要である。ところが、偽陽性が多い実験結果は、コンピューターで予測することを目的とした学習データには使えない。
    我々は、過去に世界に先駆けて、ニワトリ細胞株(DT40)とメダカにおいて簡便に遺伝子破壊する手法を確立した。そして、発がん物質によって生じた DNA損傷を効率よく修復できない、多種類のミュータント DT40細胞を樹立した。同様に、 DNA修復経路や小胞体ストレス応答が欠損したメダカを樹立した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    我々が提案する研究は、この遺伝子破壊生物(ニワトリ細胞株やメダカ)を、有害化学物質の検出およびその毒性の評価を目的にしたバイオアッセイに利用することである。言い換えると、特定の毒性(例、変異原性やミトコンドリア毒)を特異的に検出する手法を開発する方向に努力することを止め、どの遺伝子破壊がどの化学物質に対する生体応答(例、細胞死)に影響するかをハイスループットに解析する手法を開発する。そして遺伝子破壊と化学物質の構造との関連をデータベース化する。このデータベースを学習データにして、有害化学物質の毒性をその化学構造からコンピューターで予測することを最終目標にする。
    我々が実施した研究は以下の3種類である。
    1)変異原性をハイスループット解析 DNA修復酵素の遺伝子を破壊した DT40細胞を使って、変異原性をハイスループット解析できるようにする。この研究目標を米国国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)と共同研究することで実現する。 NIHとの共同研究で得られたデータは、すべて PubChemで公開することが義務づけられる。言い換えれば、自分でデータベースを管理する必要がない。この公開データから in silicoによる毒性や薬効を予測する手法を開発できる。
    2)環境に存在する化学物質の変異原性の検出ソウル大学と協力して、 DT40細胞を使って、環境に存在する化学物質の変異原性を検出する。
    3)遺伝子破壊メダカメダカの遺伝子破壊は、多くの手間とコストがかかる。破壊手法を見直し、コストを下げる。また過去に創った遺伝子破壊メダカで有害化学物質の評価を実際に行う。

    ■ C-0801  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ c-0801 .pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 C-0801 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)変異原性をハイスループット解析米国国立衛生研究所と共同研究し、 DT40細胞から作製された遺伝子破壊株は、化学物質の変異原性をハイスループットに検出するのに有効であることが証明できた。それだけでなく、我々が創った遺伝子破壊株を使った解析方法は、変異原性の機構(DNA毒性の内容)を解明できることも証明した。
    (2)環境に存在する化学物質の変異原性の検出 Polybromi-nated diphenyl ethers (PBDEs)なかの BDE-47とBDE-49とが DNA毒性を持つことを証明できた。さらに、 BDE-47と BDE-49とに対する、様々な DNA修復欠損株のあいだの感受性のプロファイルから、 BDE-47と BDE-49がどんな DNA損傷を作っているかも推定できた。
    2007年 12月 7日のタンカー事故から漏出した重油で汚染された海岸の土壌に含まれる残留化学物質の変異原性を証明できた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (3)遺伝子破壊メダカメダカの遺伝子破壊を、次世代シーケンサーを使ってできるようにした。細胞を使った解析では、化学物質がもつ臓器特異的な毒性(例、生殖細胞への毒性)を検出できないことは明らかである。我々が世界で初めて創った遺伝子破壊メダカは、臓器特異的な毒性を解析できる有望なバイオリソースである。谷口が創った p53遺伝子破壊メダカは、変異原性以外の原因の発がん物質を検出するのに貴重な実験材料であることが証明できた

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 C-0801
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ C-0801 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    ニワトリ Bリンパ細胞株とメダカ遺伝子破壊株を使って環境発ガン物質を検出するバイオアッセイ系を樹立して、動物試験を削減し、より簡便でかつ信頼性の高い毒性評価手法を開発しようとする意図は評価できる。その中で、リンパ細胞株のミュータントを用いた研究では、亜ヒ酸ナトリウムの DNA毒性機構の解析、 PBDEs(Polybrominated diphenyl ethers)の DNA毒性の検出等の知見が得られている。
    しかし、この試験系をハイスループットスクリーニングに用いて、多様な環境化学物質の in silicoの毒性予測につなげるためには、数多くの課題が残り、これらの課題克服のための工程や手順に関する考察が不十分である。また、次世代シークエンサーを利用して多種類の変異メダカを効率的に作製すると毒性評価におけるどのような課題が解決できるのか、その限界は何かを示して欲しかった。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: C-0802 レチノイン酸様化学物質による水環境汚染の実態解明およびリスク評価(H20-22)
    研究代表者氏名: 池道彦(大阪大学)

    1.研究概要

    レチノイン酸(RA)様化学物質は、ビタミン Aの代謝物であるレチノイン酸(RA)の受容体(RA受容体(RAR)あるいはレチノイド X受容体(RXR)) に結合することでレチノイドシグナル伝達系を攪乱し、人間や野生生物に奇形等の重篤な生体影響を引き起こす可能性のある水環境の潜在的なリスクファクターである。近年、RA様化学物質による水環境汚染や、RA様化学物質が原因と推定される水生動物への悪影響が海外で報告されるようになってきたが、我々の予備調査でも、国内の水環境中においても RA様化学物質が存在することが確認された。しかし、RA様化学物質による水環境汚染の実態は殆ど明らかにされておらず、原因物質もごく一部の物質を除き特定されていない。このため、RA様化学物質汚染に伴う現状未知のリスクを正しく評価し、必要に応じて制御戦略を確立するための予見的研究が必要である。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    そこで本研究では、国内水環境における RA様化学物質汚染の実態を明らかにし、その汚染によって人間および野生生物に対して生じ得る潜在的なリスクを推定することを目的として、各種水環境における汚染実態の把握、原因物質の特定、ならびにその各種生物への影響の評価を試みた。RA様化学物質のリスクは、人間および広範な動物種に及ぶことから、本研究の成果は、水環境中の生態系の健全性の保全や、特に水資源に乏しい都市域に暮らす人々の水利用をめぐる安全性の確保に大いに貢献するものと考えられる。

    ■ C-0802  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ c-0802 .pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 C-0802 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    RARおよび RXRに対する結合活性を指標として近畿地方の河川、海域における RA様化学物質汚染の調査を行い、RXRアゴニストの存在は極めて局所的であり汚染レベルも低いが、RARアゴニストは普遍的に存在していることを明らかにした。また、淀川、猪名川における RARアゴニスト汚染度マップを作成し、流域レベルでの汚染分布を示した。河川における汚染分布と下水処理場における調査結果から、下水処理場の流入下水には RA様化学物質が普遍的に含まれているが、かなりの部分が下水処理で除去されることが明らかになり、下水処理場は RARアゴニスト汚染の原因にはなっていないことが示された。このことは、RARアゴニスト汚染がエストロゲン様化学物質汚染とは大きく異なる特徴を有することを示している。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    河川水中の RARアゴニストは物質の同定には至らなかったが(継続検討中)、都市下水中の主要な RARアゴニストは天然の RA類とその代謝物である 4-oxo-RA類であることを明らかにし、その排出経路を推定するとともに、固相抽出と HPLC分画、LC/MS分析を組み合わせた RA類、 4-oxo-RA類の定量分析手法を開発した。また、RA類と 4-oxo-RA類の基本的な物性と RARアゴニスト活性を整理するとともに、活性汚泥処理による除去特性について検討し、汚泥への吸着や化学分解、生分解の作用により比較的容易に水中から除去できることを明らかにした。しかし、場合によっては、4-oxo-RA類の処理過程で未知の活性物質が生成する可能性のあることも示唆された。
    他方、 RA様化学物質の各種生物に対する影響を正確に評価するため、既に構築できているヒトに加え、哺乳類(マウス)、両生類(ニシツメガエル)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ)の RAR、RXRに対するリガンド活性を評価できる実験系(in vivoレポータージーンアッセイ系、酵母 two-hybrid系)を構築した。また、その過程で、これまで未知であったメダカ RAR、RXRのリガンド結合領域の遺伝子配列を解明することができた。
    構築した評価系を用いて RA類、 4-oxo-RA類の各種生物の RAR、RXRに対するアゴニスト活性を評価することにより、 4-oxo-RA類の影響(毒性)がヒトと魚類、両生類で異なり、 4-oxo-RA類は水生生物にとって RA類と同等かそれ以上のリスク要因となる可能性のあることを明らかにした。さらに、 RA類の妊娠中の齧歯類の内分泌機能への影響について検討し、 RA類が妊娠中のラット胎盤の内分泌機能に影響を及ぼさないことを明らかにし、 RA様化学物質のリスク評価においては種差の考慮が重要であることを示した。
    これらの成果は、 8編の査読付き論文として発表しており、さらに 4編の論文を投稿準備中である

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 C-0802
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ C-0802 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    奇形誘発因子であるレチノイン酸様化学物質の水環境中における存在を明らかにし、そのリスク評価を行い、これらの結果を、発表を通して社会に広く知らしめたことは評価できる。本研究で開発されたレチノイン酸様化学物質汚染の実態調査における手法は、今後多くの有害化学物質調査の参考となりうる成果である。また、水生生物(メダカ、カエル)に対するレチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイド X受容体(RXR)アゴニスト活性評価手法が提案されたことは、水生生物に対する影響評価手法としても有用である。
    ただし、今後他の水生生物に対する影響をどのような戦略で実証していくかの検討、及びレチノイン酸様物質の定量化並びに発生源の解明を進めて、環境汚染の解決に役立つ手法の確立を期待する。また、実環境中での“リスク評価”の観点からは、さらに低用量でのアッセイ系試験法の開発が望まれる。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 4.第4研究分科会<生態系保全と再生>
    i. 環境問題対応型研究領域

    研究課題名: D-0801 非意図的な随伴侵入生物の生態リスク評価と対策に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 五箇公一 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    経済の国際化に伴い、国際貿易が加速するなか、ひとやモノに付着して非意図的に侵入してくる随伴侵入生物の問題は今後一層深刻になると考えられる。本研究課題では、これまで政策的にも、また社会的にも関心を集めることが少なかった潜在的な随伴侵入生物の中で、特に生態系および人間生活に対して重大な影響を及ぼしているもの、あるいは及ぼすおそれのあるものを選定して、それらの侵入実態および生態学的特性を明らかにするとともに、在来生物・生態系および人間生活に対する影響評価を行う。さらに侵入ルートおよび分布拡大プロセスについて生物学的側面のみならず、社会経済学的側面からの解明および予測を図り、検疫・防除手法の具体的検討を行うことを目的とする。また、オーストラリア・アメリカ・韓国・中国・台湾・東南アジア諸国などの研究機関とも連携を図り、アジア地域を中心とした国際的な随伴侵入生物の防除ネットワークの構築を目指す。
    最終的には、環境省・外来生物法における「非意図的な随伴侵入生物」の管理方針の必要性を示し、科学的提言を行う。研究対象として、大量に輸入される資材に紛れて侵入してくる微小生物(昆虫、センチュウ、ダニ、貝類)と、ペットとして意図的に導入される生物に随伴して侵入してくる寄生生物(カエルツボカビ、ラナウィルス、マダニ媒介感染症)という随伴侵入生物の主要な2 タイプを扱い、実証研究を進める。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-0801  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ f-081 .pdf PDF [PDF 634 KB]
    ※「 F-081 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    [1]世界に分布拡大しているアルゼンチンアリはわずか4 つのコロニーで形成されていることが明らかとなった。また侵入地における生活史を明らかにし、巨大コロニーの形成メカニズムにオスを介した遺伝子流動の可能性を示した。
    [2]両生類の新興感染症カエルツボカビはアジア起源である可能性が高いことを明らかにした。
    また、さらに新しい両生類の感染症ラナウィルスが日本にも生息していることを確認するとともに、外来両生類ウシガエルの野生個体群で感染爆発していることを明らかにした。カエルツボカビの成果は、Molecular Ecology やOIE に掲載され、カエルツボカビの検出法およびDNA 変異分析法のグローバルスタンダードを構築した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    [3]タイワンタケクマバチ、ニレ立枯れ病菌をはじめとする輸入建材に随伴して侵入してくる外来種の実態を明らかにするとともに、その分布拡大経路を追跡した。農林水産省林野庁保護対策室と森林総合研究所の意見交換会において、「ニレ立枯病の日本への侵入」を報告し、対策について協議し、防除事業等の立案検討に貢献した。
    [4]付着性外来二枚貝のカワヒバリガイは日本国内に複数回侵入していることおよび、水利施設を通して分布拡大が進行していることが集団遺伝学的に裏付けられた。国土交通省が建設を進めている霞ヶ浦導水事業に対してカワヒバリガイの分布拡大リスクを提示するとともに、その防除対策について検討を行った。
    [5]輸入爬虫類に寄生するマダニ類体内より新型ボレリアおよび人獣共通感染症であるアフリカダニ咬傷熱ウィルスを発見した。マダニ類とボレリアの共進化関係を明らかにした。現在法的措置が一切ない輸入爬虫類の病原体モニタリングの重要性を提起した。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0801
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ D-0801 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    カエルツボカビ・アジア起源説の提唱、ラナウイルスによる新興感染症の探索など、随伴侵入生物である微生物や微小な寄生生物の生態リスク評価でまとまった成果を上げたことは評価できる。
    ただ具体的な対策に結び付くまでには至っていない。全体として外来生物への対応についての、技術的、法的手段の提案を出して欲しかった。これは各サブテーマ間の連携が十分ではなかったためであり、課題代表者の下で各サブテーマの研究者が対策まで視野に入れて統合的に研究を進めていればよかった。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-0802 SEA-WP海域における広域沿岸生態系ネットワークと環境負荷評価に基づく保全戦略(H20-22)
    研究代表者氏名: 灘岡和夫(東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻)

    1.研究概要

    SEA-WP(Southeast Asia and West Pacific)海域、すなわち東南アジアから西太平洋中部に至る海域は、沿岸生態系における生物多様性が世界中で最も高い地域として知られているが、様々な人為的環境負荷によって沿岸生態系の劣化が急速に進行している。
    本研究では、同海域の沿岸生態系保全策として有望視されている海洋保護区(MPA; Marine Protected Area)に関して、その合理的設定と維持に重要な情報となる同海域における広域的沿岸生態系ネットワーク(reef connectivity;サンゴ礁間連結性)の実態解明と、ネットワーク中の幼生供給源の同定およびそこでの環境負荷評価を、新たに開発した海洋物理・低次生態系モデルに基づくサンゴ礁生物の広域幼生分散数値シミュレーションや集団遺伝学的解析(遺伝学的手法による異なる集団間の遺伝学的類似性の解析)、そして陸源負荷評価解析等によって行った。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-0802  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ f-082 .pdf PDF [PDF 287 KB]
    ※「 F-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    [1]太平洋−インド洋接合域に位置する超多島複雑海域としての SEA-WP海域での高精度海流計算を可能とする高解像度入れ子モデルを、同海域を対象とした低次生態系モデルとともに開発することに成功した。
    [2]これらのモデルをベースとして、 SEA-WP海域におけるいくつかの重要海域において幼生分散シミュレーション解析を行い、海流特性等に対応した幼生分散特性を解明するとともに、サンゴ礁間連結性の解析を可能とした。そして、その成果と[3]の集団遺伝学的解析の成果に基づく MPA候補サイト設定のための指針を示した。
    [3]サンゴ、ナマコ、ヒトデなどの無脊椎動物 16種類約 6,000個体を採取し、遺伝子マーカーを用いて集団遺伝学的な解析を行うことにより、 SEA-WP海域のさまざまな場所での幼生分散の範囲やその方向の推定に成功した。また、幼生浮遊期の長さや生殖様式が異なる種ごとの集団遺伝構造を明らかにした。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0802
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ D-0802 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    SEA-WP海域において、広域沿岸域の流れと気象条件を組み合わせ、沿岸域生態系の構成生物群について、幼生の流出入を経た交流を具体的に検証した。また、集団遺伝学解析を行って、種分化に関する貢献を行った。いずれも沿岸域生態系保全の基盤となるべき重要な貢献であり、優れた成果をあげた。
    しかし、日単位の変動から、氷河期の関わる現象まで幅が広く、時間スケールに関する統一性がない。生物の絶滅リスクに関して生物の長期変動を見据えた研究が望まれる。また、それぞれの海域でのソース -シンク関係が明らかになったが、全体としての MPA候補地への言及が無いのは何故だろうか。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-0803 海洋酸性化の実態把握と微生物構造・機能への影響評価に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 濱 健夫 (筑波大学)

    1.研究概要

    人類が化石燃料を消費することにより大気に放出された二酸化炭素の約半分は、海洋に吸収されていると推定され、海洋の炭酸物質の濃度は、大気中の二酸化炭素の濃度と同様に年々増加している。このため、海洋は酸性化の一途をたどるものと予想されている。
    本研究では、高い精度を持つ分析機器を開発して西部北太平洋における酸性化の実態を把握するとともに、これまで国内外で得られている情報と統合することにより、海洋酸性化に関するデータベースを構築し、広域にわたり酸性化の評価を行う。さらに、海洋微生物の培養実験を通して、海洋の微生物群集に及ぼす海洋酸性化の影響の評価を実施する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ D-0803  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ f-083 .pdf PDF [PDF 305 KB]
    ※「 F-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    最新の光学技術を応用する事により開発したpH 測定器を用いる事により、±0.002 の高い繰り返し精度で、海洋表層から深層のpH を観測することに成功した。また、気象庁・気象研究所が北太平洋西部において取得した炭酸系のデータを利用することにより、1983 年から2007 年までの海洋表層水のpH の経年変化を明らかにした。この結果、海洋表層水ではCO2 の吸収による有意なpH の低下傾向を明らかにすることができた。更に、太平洋全域にわたる全511 航海分のデータを統合し、航海間による系統的な測定値の差を補正することにより構築したデータセット「PACIFICA」を構築した。これにより、太平洋全域の1990〜2008 年に渡るpH の動向を明らかにすることができ、酸性化の進行の南北による違いなどが明確となった。
    自然微生物群集を用いた培養実験の結果、酸性化の進行は海洋の主要な植物プランクトンの一種であるハプト藻、Chrysochromulina sp.の増殖を阻害するなどの影響を与えること、また、酸性化に伴い植物プランクトンサイズ組成が小型化する傾向があることなどが認められた。これらの群集組成の変化は、食物連鎖、有機物の鉛直輸送等の海洋物質循環に影響を与えることが予想される。一方、海洋酸性化の影響を評価するキースピーシーズである円石藻Emilianiahuxleyi に関する詳細な培養実験の解析から、大気中CO2 濃度上昇による海洋酸性化は、本種の増殖、光合成、石灰化(ココリス形成)に対して、大きなダメージを与える可能性は少ないことを実験的に証明した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0803
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ D-0803 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    太平洋における海洋pH の測定法を確立し、観測船による航海観測を可能にしたことによって、地球規模の二酸化炭素濃度の上昇が海洋の酸性化に及ぼす影響を実証的に検討した。
    ほぼ計画通りに研究を遂行しており、きわめて優れた成果である。円石藻が予想される酸性化に対して適応能力を持っていることが証明されたことは、新しい重要な発見であった。
    しかし、生物群集の解析には、さらに広がりが必要という印象である。また、本推進費と気象研究所自身の持つ開発費がどのように使われ、推進費による研究がどのように貢献したかが、分かるような報告が欲しい。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-0804 温暖化が大型淡水湖の循環と生態系に及ぼす影響評価に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 永田 俊(東京大学大気海洋研究所)

    1.研究概要

    本研究では、温暖化が大型湖沼の生態系と水質に及ぼす影響を評価することを目的とし、我が国最大の淡水湖である琵琶湖を主要な調査対象として、観測、実験、モデリングを連携させた学際的な研究を実施した。具体的には、6サブテーマの連携のもとに、次の3つの目標を達成することを目指した。
    目標1: 琵琶湖における総合的な観測や実験的な解析を実施することで、温暖化が、生態系や水質に及ぼす影響を評価するのに必要な新たな科学的知見を得る。
    目標2:それらの知見を統合化することで、高精度な「流動場―生態系結合型」の数値モデルを構築する。これを用いて琵琶湖の生態系と水質が今後100 年間にどのような変化をするのかについての評価を行う。また、他の大型湖沼についても評価を行い、結果を比較する。
    目標3:以上の知見に基づき、予想される被害の緩和策や適応策の構築に資する基盤情報を整備する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    サブテーマは以下のとおりである。
    (1)琵琶湖の全循環と生態系モデリングに関する研究(東京大学)
    (2)乱流・混合過程に伴う酸素フラックス量の定量化に関する研究 (東京海洋大学)
    (3)温暖化が物質循環と水質に及ぼす影響評価に関する研究(東京大学)
    (4)温暖化が底生動物と魚類に及ぼす影響評価に関する研究(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)
    (5)温暖化が浮遊性生物相互作用に及ぼす影響評価に関する研究(滋賀県立大学)
    (6)安定同位体比を用いた生態系変動評価と予測に関する研究(京都大学)

    ■ D-0804  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ fa-084 .pdf PDF [PDF 309 KB]
    ※「 Fa-084 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)全循環の発生に関わる表層と底層の水温変動の再現性向上に焦点を当て、境界条件の精緻化等を進めた結果、温暖化シナリオのもとで、
    1)琵琶湖では成層期の底層の水温上昇率が表層の水温上昇率を上回り、全循環が継続して発生すること、
    2)池田湖では表層の水温上昇率が底層の水温上昇率を上回り、全循環が停止することを示した。
    琵琶湖と池田湖の予測結果の比較から、琵琶湖では、今後の気温上昇により表層平均水温が底層平均水温より上昇しても、成層期に底層水温が上昇し、循環期に下降する季節変動を示すため、全循環が継続して発生するものと推察した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    次に、生態系サブモデルの改良を加えた結果、深水湖の季節変動および経年変動を想定した予測精度の範囲内で再現できた。今後100 年間で気温が上昇すると仮定した場合は、水温の上昇により酸素の溶解度が減少し、年最低溶存酸素濃度が低下した。また、底層での溶存酸素濃度の低下により栄養塩が溶出し、富栄養化によって湖底の溶存酸素濃度がさらに低下することが明らかになった。
    (2)琵琶湖の夏季の成層期には、乱流混合がほとんど発生しない成層の強い層が存在し、表層を通して中・底層への酸素の供給が極めて小さいことを明らかにした。冬季の係留系データを基に、湖が冷却していく状態を解析した結果、表面冷却による対流現象と湖底面に沿って流下する密度流を捉えることができた。湖は全体が一挙に冷やされるのではなくて、対流と密度流が間欠的に発生することを繰り返しながら冷却していくことが明らかになった。さらに、北湖東岸の緩斜面から得られたデータによれば、冷却の過程で冷水・低酸素・低クロロフィルの層が波動の状態で存在することも確認できた。
    (3)堆積物直上水が有酸素及び無酸素のそれぞれの条件下でリンの溶出フラックスを測定し、その結果から、深水層の無酸素化に伴うリンの内部負荷が生態系に及ぼす影響を評価した。深水層が1 カ月間にわたって無酸素化した場合のリンの溶出量は1.1〜10.9 トン、一方、12 カ月間にわたって無酸素化した場合には、この値は3.1〜29 トンと見積もられた。無酸素化が12 カ月間続いた場合に増加するリンの内部負荷量は、外部負荷量の3〜29%に相当した。このことから、温暖化に伴う深水層の無酸素化が、リンの内部負荷の増大を通して、富栄養化を促進する可能性が示された。
    (4)水中ロボットによる湖底調査から、イサザの生存条件を制限する水温と溶存酸素濃度を調べた。また、琵琶湖で採集されたイサザやアナンデールヨコエビを用いた飼育実験を行い、底生動物の行動に影響を及ぼす溶存酸素濃度の閾値を推定した。その結果、溶存酸素濃度が2mg L-1以下の場合、死んだイサザしか確認できないこと、また、イサザはアナンデールヨコエビに比べてより低酸素化の影響を受けやすいことが明らかになった。
    (5)琵琶湖における粒子の沈降フラックスと植物プランクトン一次生産が湖水の流動および気象の変化にどのように応答しているのかを詳細な時系列観測から明らかにした。得られたデータから、琵琶湖の深層に負荷される年間の有機炭素量を見積もるとともに、その起源を、炭素安定同位体比から推定した結果、鉛直輸送された炭素の大部分が自生性であることが示唆された。また、全沈降フラックスが風向・風速の影響をうけて変動することを明らかにした。
    (6)酸素安定同位体比を用いて琵琶湖深水層の酸素消費過程を解析した結果、全体の酸素消費に対して、水柱における酸素消費が約40%、湖底堆積物による酸素消費が約60%寄与しているものと推定された。また、堆積物コアを用いた窒素動態の解析の結果、湖底が無酸素になると、アンモニウムの活発な溶出が起こる一方で、硝化−脱窒系が機能しにくくなるため、堆積物による窒素除去能が低下し、窒素の内部負荷が加速することが示唆された。
    イサザ個体群および環境変数についての長期データを統計解析した結果、湖底酸素濃度の低下、卵成熟開始タイミングのシグナルとなる秋季の沖帯表層水温の低下時期の遅延、繁殖資源をめぐる水温特異的な競争による近縁種からの繁殖干渉などの生理・生態的影響により、イサザの個体群減少が引き起こされることが示唆された。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0804
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ D-0804 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    温暖化が地球にさまざまな影響を与え始めた中で、温暖化の大型淡水湖に及ぼす影響について優れた成果を上げたと考える。多くの分野の専門家の成果を、課題代表者がどう統括するかだが、『温暖化の湖沼学』として出版するというのも興味深い。
    一方で、固有種のイサザにスポットを当て過ぎたことなどもあって、生態系全体への影響を見たり、環境政策に反映させるという視点にやや欠けていたのではないかと思われる。また、電気分解による酸素供給は、実現性、実用性があるのだろうか。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: D-0805 航空レーザ測量データを用いた景観生態学図の作成と生物多様性データベース構築への応用(H20-22)
    研究代表者氏名: 小荒井衛(国土地理院)

    1.研究概要

    地域の生物多様性を評価する上では、単に種の分布や自然の劣化度を捉えるだけではなく、地形という場の条件を理解した上でその上に存在する生態系を捉える景観生態学的な視点が重要である。航空レーザ測量によって森林の下の詳細な地形や樹木の三次元構造を捉えることが可能になってきており、この新技術を活用して詳細な地形や植生の三次元情報を反映した景観生態学図を作成し、生物多様性管理のベースマップとして活用することを考えた。
    本研究では、原生的自然環境の地域として世界自然遺産に認定されている知床半島を、里山環境の地域として古くからたたら製鉄に伴う「鉄穴(かんな)流し」による大規模な地形改変と植生改変が行われてきた中国山地を取り上げた。活葉期と落葉期の2時期の航空レーザ測量データを取得し、樹林下の詳細地形データの解析による自動地形分類図と、植生三次元構造を捉えた植生図とを作成した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    これらの情報を組み合わせて生物多様性評価に役立つ景観生態学図を凡例レベルから吟味して作成するとともに、生物多様性評価に役立つデータベースも構築した。また、航空レーザ測量データを用いてルーチン的に景観生態学図を作成する手法の検討も行った。
    サブテーマは次の3つである。
    1)詳細地形データを用いた景観生態学図作成に関する研究
    2)原生的自然環境における景観生態学図の生物多様性評価への応用に関する研究
    3)里山環境における景観生態学図の生物多様性評価への応用に関する研究

    ■ D-0805  研究概要
    ./pdf/ d-0805 .pdf PDF [PDF 92 KB]

    2.研究の達成状況

    航空レーザ測量データから、落葉樹か常緑樹かの区分(または落葉時期の違いによる区分)と、植生高、樹冠の厚さ、単層か複層かの区分のような植生三次元構造を反映した植生図(レーザ植生図)を作成することができ、その手法の一般化を図ることができた。(サブテーマ1)
    航空レーザ測量で得られた詳細地形データ(DEM)を用いて、傾斜、凸度、地形のきめ(テクスチャー)の3つの地形要素に着目した自動地形分類図を作成した。また、解像度の異なる DEMによる地形要素の値の変化特性や、鉄穴流し跡地ではテクスチャーの値が一定の値を示すことなど、地形学的に貴重な知見が得られた。(サブテーマ1、3)
    航空レーザ測量データから、エゾシカの食害の把握に繋がる情報(Deer Lineとしての枝下高、エゾジカ不嗜好性草本であるハンゴンソウの分布)を捉えられることが示せた。(サブテーマ2、1)
    知床岬で鳥類相調査を行うことにより、エゾシカの食害による草原植生の変化が鳥類の生態系に及ぼす影響をモニタリングする上での基礎資料を得ることができた。また、羅臼岳登山道の侵食状況を計測して、登山者のオーバーユースによる荒廃度を評価するための基礎資料を得ることができた。(サブテーマ2)
    DEMの自動地形分類による緩傾斜・凹型・テクスチャー粗の地域に主に分布することが分かった。そして、鉄穴流しによる人為改変地にオニグルミ林が卓越して成立することを実証した。大規模な人工改変が行われた箇所で、結果的に植生の多様性が高まる結果となっている。これは、環境史の分野でもこれまで報告されていない興味深い現象であり、人為と生態系の関係を考究する上で新しい視座を提供した。(サブテーマ3、1)

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    鉄穴流し跡地で全層植生図を作成し、レーザ植生図と対比するための基礎資料を得ると共に、オニグルミ林の草本層の生物多様性が豊かであることを示すことができた。(サブテーマ3)
    航空レーザ測量データを基に、植生三次元構造を反映した植生と詳細 DEMによる自動地形分類とを組み合わせて、原生的自然環境と里山環境での景観生態学図を作成した。また、その手法の一般化を検討し、既存の航空レーザ測量データを活用する作成手法等を、マニュアル的にまとめることができた。(サブテーマ1)
    景観生態学図を作成するために集約した GISデータを、生物多様性データセットとしてまとめることができた。今後 HP等で公開する予定である。(サブテーマ1)

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0805
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ D-0805 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    高精細 3次元景観生態学図の作成は成功し、一部問題はあるものの、ほぼ十分な精度のものができたと評価できる。
    一方、応用に関しては、植物群落構造に関する情報の精度が飛躍的に向上したほか、中国山地に於ける鉄穴流しによる人工改変地の把握、その後のオニグルミ群落の発生など新たに得られた成果はあるものの、もう一つの対象地域である知床半島では、シカの食害の把握が十分でないなど、十分な成果があったとは言えない部分もある。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 4.第4研究分科会<生態系保全と再生>
    ii. 革新型研究開発領域

    研究課題名: RF-0907 藻場の生態系サービスの経済的価値評価:魚類生産の「原単位」から「日本一」を探る(H19-20)
    研究代表者氏名: 小路 淳 (広島大学)

    1.研究概要

    本研究では、藻場の資源供給サービスの推定と、その経済価値の試算の具体例を示すために、コアサイトとして位置づけた瀬戸内海のアマモ場において高頻度サンプリングを実施し、温帯域アマモ場の優占種でありかつ水産業上重要種であるシロメバルを題材として、藻場における魚類生産速度(重量/ha/年)を推定し、その経済価値(円/ha/年)の試算を行った。さらに、シロメバルが我が国温帯域のアマモ場に広域分布することを利用して、生産速度の南北比較と変動を左右する要因の探索を実施した。
    これらの調査研究により、藻場の生態系サービスのうち、これまでブラック・ボックスであった魚類生産(供給サービス)の定量評価を比較的高い精度で推定する手法の開発が可能となる。全ての生態系サービス(基盤サービス、調整サービス、供給サービス、および文化サービス)を包括的に定量評価したうえで、浅海域の生態系サービスの総合評価を達成するための手法を提供することにも本研究は貢献しうる。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0907  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-097 .pdf PDF [PDF 380 KB]
    ※「 RF-097 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    小課題1では、藻場における魚類生産の定量評価と広域的解析を目的として、全国サイト(広域サイト)における魚類採集、集中調査サイト(瀬戸内海:コアサイト)における継続採集および飼育実験における成長至適水温の探索を実施した。全国調査の結果、魚種数と個体密度の空間変動については明瞭な傾向が認められなかったが、バイオマスは南で少なく北(北海道、東北)で多い傾向が認められた。また、単位面積あたり魚類バイオマスと種数の間には正の相関関係が認められた。魚類生産速度の広域比較を実施するためのモデル種としたシロメバルの個体密度およびバイオマスは、瀬戸内海と仙台湾において大きかった。シロメバル仔稚魚の成長様式は全国で3 つのパターンに大別された。
    特筆すべき成果は、
    [1]これまで研究事例がきわめて乏しかった水圏生態系の供給サービス(魚類生産)を高頻度サンプリングにより定量評価しその経済的価値を試算したこと、
    [2]全く同一の手法で全国サイトにおけるサンプリングを実施し、魚類群集の種多様性と生産構造について、過去にない広い空間スケールで定量評価したこと、
    [3]フィールド調査と飼育実験を組み合わせて、地球温暖化による環境変動が魚類の分布、成長に与える直接・間接的影響を評価するための基礎的知見を提供したことである。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    小課題2では、藻場の生物多様性・生物生産の保持機能と漁業資源供給サービスの持続的利用にむけて、藻場の魚類生産の定量評価とその時空間変異性を解明し、環境変動を考慮したモデル解析により生態系サービスの将来予測を行うことを目的とした。その結果、瀬戸内海および東北海域に高魚類生産ゾーンが形成されたが、温暖化の進行によって瀬戸内海海域のアマモ場の群落構造の縮小および不安定化が生じ、魚類生産は高いにもかかわらず瀬戸内海海域の高生産ゾーンが崩壊するパターンが確認された。
    得られた成果には、国内にとどまらず国際的にも先進的・独創的なものが含まれるとともに、以下のような点から、環境政策への貢献も期待される。
    ・藻場の生態系サービスのブラック・ボックス=供給サービスを定量評価した
    ・生物多様性が高いとされる日本沿岸域において、魚種多様性の南北勾配をみいだした
    ・海洋保護区(MPA)の選定などに重要な定量的データを充実させた
    ・地球温暖化による魚類への影響は、種(の特性)に依存的であることを指摘した
    なお、本研究の成果をもとにした一般普及書「浅海域の生態系サービス:海の恵みと持続的利用」を本課題の研究代表者・分担者が編集・執筆し、2011 年3 月にすでに刊行されている(恒星社厚生閣、東京)。今後は、この書籍の広報・普及に努めるとともに、学会や専門誌での論文発表を積極的に行う予定である(最終報告書の提出以降に、英語論文1 報が新たに受理された:2010年6 月22 日現在、計2 件)。また、国内の産官学の関係者が集う2010 年度の全国アマモサミット(鹿児島県指宿市)において、本課題の研究成果を基盤に基調講演を行い、アマモ場の生態系サービスとその持続的利用に向けたアマモ場の保全・再生のあり方について本課題の研究成果を基盤に基調講演を行った(分担者)。その反響として、水産庁の藻場・干潟に関する生態系保全関連事業を実施しているいくつかの団体から、本課題の成果に基づく事業計画の見直しに関する打診を受けている。また、環境省重要生態系監視モニタリング事業(沿岸域)、水産庁生物多様性総合保全事業、水産庁地球温暖化対策推進費など関連する事業の実施において本課題の成果を反映させている。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0907
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0907 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    海洋生態系保護区を設定する基盤的な研究で、重要な知見を提供している。アマモをキーストーン種にメバルを指標種としたアプローチと評価は適切といえよう。藻場の生態系サービスの経済的価値が、先行研究による推定より35%高いことなど、政策的にも有用な結果を得ており、期待以上の成果が多かった。
    しかし、藻場をより総合的に評価することが必要であり、構成種の違いを含めて要となる生態系サービスモデルが明示されていない。対馬海流についての調査や評価がない。また、シロメバルの評価を行う際に、単純に市場価値を使用したことは期待に反した。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: RF-0908 南西諸島のマングースの水銀濃縮解明に関する研究(H21-22)
    研究代表者氏名: 渡邉泉(東京農工大学)

    1.研究概要

    本研究は南西諸島で分布拡大している侵略的外来種マングースの水銀濃縮メカニズムの解明を試みたものである。これまで、野生動物における水銀濃縮現象は海生哺乳類や海鳥類など海の動物でみられていた。マングースは同様の濃縮を示す唯一の陸上哺乳類である。そのため、本種を用いたアプローチは、再現の困難であった in vitroの各種投与実験を可能にし、野生動物の水銀濃縮メカニズムに新たな知見をもたらす可能性が考えられた。さらに、実際の生態系で水銀をどのように濃縮するのかという理解は、包括的な生態系保全にくわえ、マングースの駆除にも有用な知見をもたらすことが期待された。
    そこで本研究は、琉球大学大学院医学研究科の柳による「水銀濃縮機序解析ツールとして不可欠なマングース由来細胞の安定供給をめざす戦略」と、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の山本雅達による「水銀濃縮機構の解析と重金属解毒系遺伝子の発現評価系の作製と個体での発現評価」の二つのサブグループから、生化学的に野生動物の水銀濃縮現象を解明するアプローチと、東京農工大学大学院農学研究院の渡邉泉による「食物網を通した水銀取込み・排泄に関する研究」から生態環境科学的に、蓄積メカニズムに迫るアプローチを試みた。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-0908  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ rf-098 .pdf PDF [PDF 252 KB]
    ※「 RF-098 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    本研究の結果、野生動物の水銀濃縮現象を解明するために必要不可欠な「細胞を用いた実験系」の手法が確立された。つまり、水銀を濃縮する組織器官である肝臓の
    [1]初代細胞の培養法が確立され、
    [2]不死化細胞樹立への展望が具体化された。
    このことで、これまで困難であった in vitro実験に基づく水銀濃縮機序解明への検証が可能となった。
    確立された初代細胞培養法を用い、得られた肝臓細胞で、水銀およびその解毒に関係しているとされる必須元素セレンの投与実験を行った。その結果、 in vitroの重金属負荷試験によって得られるデータは、野生動物の摂食行動・生活環境をも反映しうることが示された。さらに海生哺乳類のセレンの蓄積量は水銀の蓄積量と正に相関するが、マングースの肝細胞はセレンの耐性度と個体の水銀の蓄積量が負に相関した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    これらの結果から、水銀高蓄積を示す個体には、セレン類似の分子化合物を駆除剤として使用することで、有効性が見いだせる可能性を示した。
    生態環境科学的アプローチは、やんばると奄美大島の生態系で起きているマングースの水銀濃縮メカニズムを明らかにした。つまり、生態系を構成する低次生物から、マングースと類似の高次捕食者まで 51種の野生動物、さらに比較として沖縄島中部および鹿児島本土のマングースの微量元素および親生物元素の安定同位体分析を行い、水銀の濃縮メカニズムを検討した。
    その結果、マングースの水銀濃縮は、肝臓における特異な蓄積能、さらに換毛による排泄が少ないといった種の特徴にくわえ、生息する生態系の“深さ”が寄与していた。つまり、他地域でみられた低い水銀レベルは環境<無脊椎動物<マングースという生物増幅の結果であるのに対し、やんばると奄美大島では環境<無脊椎動物<両生類など多様な中間捕食者(多くは固有種)<マングースの増幅であることが明らかとなり、貴重な生態系の保全のためにもマングースの速やかな駆除が必要であると結論された。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-0908
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-0908 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    水銀高濃縮種であるマングースを通して、生態系保全の問題まで追求した優れた研究である。
    マングース由来細胞の安定供給(1)、水銀濃縮機構の解析(2)、食物網を通した水銀取り込み、排泄に関して (3)、それぞれに一定の成果を挙げたことが認められる。マングース以外の動物についての応用も考えてほしい。
    しかし、食物網を議論するのに、試料としてマングースとコセンダングサしか扱っていないのは、研究計画とは大きく異なり、目標が達成されたとはいえない。また、政策への貢献の道筋がよく意識されていない。研究成果の発表において、業績が非常に少ない。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: RF-1013 ポスト 2010年目標の実現に向けた地球規模での生物多様性の観測・評価・予測(H22-23)
    研究代表者氏名: 矢原徹一(九州大学大学院理学研究院)

    1.研究概要

    本研究は、平成 23年度開始予定の戦略的研究開発の具体的方途について事前に調査・分析を行い研究開発の具体的目標となる課題を特定することを目的として実施された。具体的には以下の課題を調査することを目的とした。
    (1)陸域生物多様性の評価に関する課題の調査
    ●陸域生態系の生物多様性観測を行っている ILTER(International Long-Term Ecological Research:国際長期生態学研究)などの達成状況を評価し今後の課題を特定する。
    (2)海域生物多様性の評価に関する課題の調査
    ●海域生態系の生物多様性観測を行っている CoML(Census of Marine Life:海洋生命センサス)などの達成状況を評価し今後の課題を特定する。
    (3)種・遺伝子多様性の評価と生物多様性の価値に関する課題の調査
    ●種多様性の変動傾向に関する従来の指標(Red List Index:レッドリスト指数 , Living Planet Index:生きている地球指数)の問題点を明らかにしこれらに代わる指標開発の方向性・課題を特定する。また評価の前提となるデータベース化の課題を特定する。
    ●遺伝子多様性の変動傾向に関しては指標がないので地球規模での指標開発の可能性を示し課題を特定する。
    ●生物多様性の価値評価に関して従来の方法(仮想市場法など)の問題点をレビューし研究課題を特定する。人間活動の生物多様性への負荷や生物多様性損失がもたらす結果に関する評価法についてのレビューを含む。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ RF-1013  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1013.pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 RF-1013 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    遺伝子・種・生態系レベルの生物多様性(陸域・海域を含む)の観測・予測・評価に関するこれまでの研究をレビューした。その結果、以下の課題を解決することが重要であると結論づけた。
    1)生息地の消失にともなう種の消失速度を定量的に評価すること。
    2)生息地や種の消失にともなう生態系機能・生態系サービスの消失を定量的に評価すること。
    3)緊急に保護を必要とする地域を科学的証拠にもとづいて選定する方法を開発すること。
    また、研究手法について検討した結果、以下の課題が重要であると結論づけた。
    (1)標本にもとづく研究、プロットにもとづく研究、地域を限定した研究、リモートセンシングによる研究を統合すること。
    (2)自然要因と社会要因の両方を説明変数とする空間分布モデルにもとづいて、統計学的解析を行うこと。
    上記の検討結果にもとづいて環境研究総合推進費平成 23年度戦略的研究開発領域課題(案)を策定した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1013
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ RF-1013 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    生物多様性観測・予測・評価に関する環境研究総合推進費戦略的研究開発に関して今後のプロジェクトを発展させるための問題点の整理と成果が得られたと思われる。ただし、陸域の淡水域の問題点の洗い出しが弱いように感じた。今後の研究に期待したい。この課題は全体的な統合作業が中心になっており、評価の基準はその研究成果というよりも、どれだけ広く、かつ現状に照らした展望を持っているかにかかっている。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    事後評価 5.第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>
    i. 環境問題対応型研究領域

    研究課題名: E-0701 水・物質・エネルギー統合解析によるアジア拠点都市の自然共生型技術・政策シナリオの設計・評価システムに関する研究(H18-22)
    研究代表者氏名: 藤田 壮 ((独)国立環境研究所)

    1.研究概要

    本研究では東アジアの拠点都市において、都市・産業システムの代替的な技術・政策シナリオを計画するために定量的なインベントリを構築するとともに、それを評価する統合的な環境技術・政策のシミュレーションシステムを構築した。
    第一に、中国科学院瀋陽応用生態研究所、中国瀋陽市環境保護部および中国遼寧省環境科学院との連携で包括的な実施計画の設定プロセスの検討研究を進め、地理情報システム(GIS)、情報技術、コンピュータシミュレーション技術などとの情報技術を活用するデータベースを構築した。
    水汚染、水資源・利用、および地域の経済構造等を包括的に調査して、その空間情報と連関するデータベースの構築を進めた。国立環境研究所で開発した水大気統合型の三次元物理連成の流域解析モデル(NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology (NICE) model;NICE モデル)を都市域に適用できるように開発を進めた。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    並行して、遼寧省内の都市型流域圏について、中国研究機関との共同でデータ収集の上でモデル適用を進めて、流域の環境特性と社会経済活動との関連を明らかにした。具体的には大連市の水源機能を提供する中国遼寧省南部のBiliu 河流域の分析に適用することにより、ダム建設および経済発展による環境への影響を評価し流域での解析を進めた。その知見を踏まえて、より広範な中国遼河流域の分析を進めて、鉄林サブ集水圏に関する調査を実施した。
    第二に、都市・圏域のマルチスケール間での物質、財、サービスの移動・流通に伴う水・熱・物質の連関、都市・地域内での水・熱・物質のマクロバランスおよび分布構造を把握するシステムを開発する。具体的には、陸域-地下水統合管理モデルに入力が可能な都市スケールと圏域・国土スケール水需要、汚濁負荷、エネルギー、CO2 排出の統合的なインベントリモデルを遼寧省を対象に開発した。さらに、アジアにおける持続可能な都市のための既存の都市間ネットワークの発展プロセスを解析して、アジア都市と日本の地方政府が連携する発展プロセスを構築した。
    最後に、日本の環境技術システムとしてエコタウンの技術政策要素について、現状の資源循環の特性を把握し、その循環効率や低炭素化への寄与、さらに経済性などを実証的に算定する技術政策シミュレーションを開発した。日本における環境配慮型経営にも注目してその推進条件を解析した。

    ■ E-0701  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ e-0701 .pdf PDF [PDF 299 KB]
    ※「 E-0701 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    遼河流域圏の典型的な都市周辺地域における水質変数とその潜在的な汚染源を分析し、人口増加と経済成長が環境条件へ及ぼす影響を解析した。拠点都市および周辺圏域での適合性の高い循環型の水系浄化・廃棄物処理技術のインベントリデータベースおよび水処理技術の導入シナリオを構築し、各技術導入によるCO2 排出量と汚濁負荷除去量を比較し環境効率を分析することを進めた。下水道システムや浄化槽などの個別の技術を対象として、中国都市圏における技術導入シナリオを設定し、最適な技術組合せシナリオを明らかにして、東アジア自治体における水処理技術システムの導入および更新の意思決定の際に、基礎的な知見を与える成果を得た。また、大都市を含む長江流域において、農畜産業から発生する汚濁負荷量の推計方法を改良し作物別、家畜別に詳細に推計できるようにした。全産業を対象にした汚濁負荷インベントリを開発して、水質観測データに基づいてその精度を向上させた。三峡ダム上流域、太湖流域等における水質汚濁物質の排出総量規制等の政策的な応用が期待される。また、近年発展途上国を中心に人畜一体型のメタン発酵装置の活用したCDM 事業において、環境負荷削減の科学的根拠となる方法論を開発した。また、持続可能な発展に関する国際都市・地域間連携の実績について一定の分析枠組みのもとに情報を収集、整理し、その促進・阻害要因を予備的に分析して政策報告書にまとめて広く関係者に配布するとともに、社会環境や技術の変化に応じた今後の国際都市・地域間連携の形成に貢献した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    最後に、都市の発展段階などの実情に応じた適正な技術スペックを再構築する実用的な選択肢を用意している。水質汚濁削減とエネルギー効率改善との都市・地域の環境制約のもとで、適正な「環境技術」とその効率的な活用を可能にする、制度や規制、参加システムなどの「社会技術」についても定量的な選択肢として用意することができた。日本の都市環境工学と政策シミュレーションのモデルを瀋陽に適用することで、日本から瀋陽へのいくつかの廃棄物循環技術移転の環境的利点の可能性について定量的な結果を提示した。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0701
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0701 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    個々のサブテーマにおいては、中国遼寧省の下水道計画、長江流域の農畜産業からの水質汚濁等に対して一定の数量的分析結果を与え、個別の技術の最適組み合わせシナリオを明らかにした。
    またアジア各都市間の環境ネットワークに関する知見を与え、さらに廃棄物循環型都市政策の比較等からエコタウン事業について因果論的分析と議論を展開した。以上のように、個々のサブテーマの研究はそれぞれ有用な知見を与えたものと評価できる。
    しかしサブテーマ毎の分析的フレームがかならずしも共有されてはおらず、プロジェクト全体として何を引き出したかは明確でない。本プロジェクト全体が本来意図していたシナリオ・プラットフォームを構築するなどの方法を適用して、日本の経験を、より迅速にわかりやすく諸外国地方政府と共有していく方向に誘導しうる成果には至っていない。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0801 里山イニシアティブに資する森林生態系サービスの総合評価手法に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 杉村乾(独立行政法人森林総合研究所)

    1.研究概要

    生物多様性の減少は、生物が人間生活にもたらす恵み(生態系サービス)の低下をも意味する。とくに里山地域では、開発地域の拡大及び人的関与の縮小が顕著に起きており、それらが生態系サービスに与える影響が問題視されている。そこで、生態系サービスの評価手法を開発し、里山景観の変化によってどのように生態系サービスが変わるのか、異なる森林タイプの生物相や森林利用をもとに明らかにする。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-0801  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ h-081 .pdf PDF [PDF 366 KB]
    ※「 H-081 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    福島県南会津地域と茨城県北部を主な対象地に、生態系サービスのポテンシャル(生態系機能)及びサービスの評価手法の開発、開発地域の拡大(人工林化)及び人的関与の縮小(伐採面積の減少、林道管理や社会組織の低下)が生態系サービスに与える影響について調査した。
    評価指標として、送粉機能はハナバチ類、害虫制御機能は寄生バチの個体数を用いるのが適当であることがわかった。さらにソバ畑で調査を行ったところ、結実率との有意な関係から、訪花昆虫数や周囲の森林・自然草地の面積をサービスの指標として利用できることが明らかになった。供給及び文化サービスについては天然林産物の採取がとくに重要であり、機能よりもサービスを直接評価する方が妥当であることなどがわかった。人工林化については、ハナバチ及び寄生バチの個体数、山菜やキノコの採取地はおおむねスギ林に比べて広葉樹林の方が多いので、評価対象のサービスに対してはマイナスの影響を与えると推定された。
    伐採面積の減少については、ハナバチ及び寄生バチの個体数は伐採直後の草地的な環境では人工林、広葉樹林とも多いので、送粉及び害虫制御の機能に対してマイナスの影響を与えると推定された。一方、キノコは老齢の広葉樹林に多いので、採取にはプラスに働くと推定された。また、山菜とキノコはアクセス性維持のための林道管理や乱獲を防ぐための地域社会組織の維持がそれらの採取に重要であることなどがわかった。さらに、福島県只見町では、利用が認められている森林に対する価値意識が厳正な保護に比べて高いことがわかった。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0801
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0801 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    里山条約に対して科学的な基盤を示す研究として企画されており、一定の成果を上げている。里山における生物の多様性と機能の指標、山菜やキノコ採取活動の詳細な社会・文化的な枠組みからの評価などの成果が、本プロジェクトの主テーマである経済的評価の計量枠組みに反映されていて、我が国の多様な森林・里山の生態系のタイプに応じた評価手法を実証分析で確立したことは評価できる。さらに、森林や里山に生活を依存する地元住民の直接的な利用価値と、都市住民の機会費用としての受動的な利用価値との評価の違いを、実証的に分析できたことは、これからの生物多様性保全の政策的な検討に資するものである。また里山機能としての媒介昆虫の研究も注目できる成果をあげている。しかしながら個々の研究を森林生態系サービスの総合評価に結びつけていく上で、サブテーマの取り上げた生態系の要素を扱う精度や不確実性の度合いには大きな差があり、さらにシステム化へ向けた研究の展開が必要である。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0802 アジア太平洋地域を中心とする持続可能な発展のためのバイオ燃料利用戦略に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 武内 和彦 (東京大学サステイナビリティ学連携研究機構)

    1.研究概要

    本研究は、学術と問題の構造化に基づく分野横断的総合評価から政策提言へと至ることを可能とするサステイナビリティ学アプローチにより、アジア太平洋地域を中心に、バイオ燃料に関する特徴を総合的に分析し、世界、地域、国家レベルでのバイオ燃料利用戦略を策定することを目的とする。すなわち、食料生産との競合、森林破壊および水資源への影響、エネルギー収支に関する問題等の指摘を、複雑多岐な地域・国家、ステークホルダー間の関係を自然科学-社会科学の融合・分野横断により明確に把握・評価し、さらにそれを踏まえた持続可能なバイオ燃料利用戦略・政策提言を導出する。なお、本研究の主な対象は、日本・中国・インド・インドネシアとバイオ燃料に関する世界のキー・プレイヤーである米国・ブラジル・EU である。
    本研究は以下の7 つのサブテーマからなる。
    (1)オントロジーを用いた問題の構造化と政策立案支援ツールの開発
    (2)持続可能な発展を目指したバイオ燃料利用戦略の策定
    (3)国際農産物需給を考慮した社会経済分析
    (4)バイオ燃料生産とそれに伴う森林・土地・水利用変化の影響評価
    (5)LCA によるバイオ燃料利用に関する総合影響評価
    (6)アジア太平洋地域における生態系の財・サービスとバイオ燃料利用
    (7)アジア太平洋地域における政策パッケージおよび地域的政策協調の検討

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    上記のサブテーマは、主に3 つのグループに分けられる。サブテーマ(1)、(2)はそれぞれの研究を実施するとともに、他のサブテーマの結果を受け、最終的に世界・地域・国家レベルでのバイオ燃料利用戦略を検討する。サブテーマ(3)〜(5)は米国、ブラジル、EU をそれぞれ主要な対象としてグローバルレベルの、サブテーマ(6)、(7)は、アジア太平洋地域、すなわち中国、インド、インドネシア、日本を対象とし、調査・研究を行う。
    本研究は、各サブテーマを緊密に連携させ、相補的に進展させることが極めて重要であることから、適宜研究全体のミーティングおよび関連サブグループ間のミーティングを実施し、研究の方向性・分担の確認、カウンターパートに関する情報共有等の相互連携、協力を行う。

    ■ E-0802  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-082 .pdf PDF [PDF 278 KB]
    ※「 Hc-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    1)オントロジーを用いた問題の構造化と政策立案支援ツールの開発
    1)バイオ燃料オントロジーを用いた問題領域俯瞰のためのオントロジー探索ツールを試作し、いくつかの問題領域の俯瞰を試みるとともに、収集・解析した基礎資料からの問題構造を整理し、その結果を元にバイオ燃料オントロジーを拡充した。さらに、サブテーマ(2)と連携して本ツールの評価実験を実施した。その結果、本ツールを用いて専門家にとって十分に意味があるマップやパス(概念連鎖)が生成できることが確認できた。また、本ツールが思いがけない内容を提示し利用者の発想を刺激する可能性を持つことが示唆された。
    2)サブテーマ(2)の協力のもと、本ツールを政策立案に必要となるステークホルダー間の合意形成支援ツールとして発展させ、被験者がステークホルダーの役割を演じて(ロールプレイ)議論を行う実験を通して、合意形成支援の可能性を示すことができた。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (2)持続可能な発展を目指したバイオ燃料利用戦略の策定
    1)ブラジルとインドネシアをケーススタディとして現地調査、ヒアリングによりステークホルダー分析を行った。その結果、土地利用の変化とそれに伴う環境影響以外にも、国内の雇用問題、地域間の所得格差、輸出先のバイオ燃料政策についても、導入における重要課題として検討する必要性が、ブラジルとインドネシアいずれにおいても明らかになった。同様に、生産農家や環境団体のほかにも、プラントメーカー、労働者団体、商社など多様な国内外のステークホルダー群を捕捉した。
    2)「多様な観点からのバイオ燃料利用に関係する影響項目の統合評価」、「バイオ燃料の製造・利用技術についての検討」のため基礎調査として、バイオ燃料の環境的及び社会・経済的観点からの持続可能性基準策定動向を題材として調査を行ったほか、国内のバイオ燃料導入事例を横断的に整理し、技術導入における課題を抽出した。
    (3)国際農産物需給を考慮した社会経済分析
    米国とブラジルのバイオエタノール生産に関する経済的生産性の比較、国際植物油市場がパームヤシ生産農家に与える影響についてインドネシアを事例に分析を行った。これらに加え特に米国のバイオエタノール導入に関連する政策が、トウモロコシを中心とした国際穀物市場に与える影響を、シミュレーション・モデルを用い分析した。
    1)米国が自らの社会的余剰の最大化のみを目標とするならば、税控除なしでエタノール生産を行うことが最適となるが、グローバルレベルでの社会的余剰の最大化を目標とするならば、米国がエタノール生産を停止することが最適となることが明かとなった。
    2)米国の社会的余剰の最大化を目指したエタノール生産は、エタノール利用によるCO2 削減効果の価値がグローバルレベルの社会的余剰の最大化を達成した場合と米国のそれが達成された場合の差を上回れば許容される可能性があることが明かとなった。
    (4)バイオ燃料生産とそれに伴う森林・土地・水利用変化の影響評価
    1)東南アジア(マレーシア/インドネシア)のパームオイル生産とヨーロッパのナタネ油生産を比較し、「後発者の不利益」ともいえる状況があることを明らかにした。
    2)インドネシアにおいて、パームヤシの生産性に基づく地域(州)ごとの影響評価を実施し、土地利用転換に伴う環境影響には州ごとに大きな格差が生じ得ることを示した。次いで、州別に土地条件(泥炭土シェア)を考慮し、土地利用転換に伴う州別のCO2 排出量は、化石燃料由来のCO2 排出量より一般に多く、土地条件(泥炭土シェア)を考慮するとさらに増加することを解明した。
    4)LCI データを構築する中で、商用のパームヤシプランテーションにおける肥料・農薬等の資材や用水の利用実態を明らかにした。また、土地利用の影響評価の一環として、エネルギー作物生産の水必要量を推計した。
    (5)LCA によるバイオ燃料利用に関する総合影響評価
    1)中国各省のバイオディーゼルの生産ポテンシャルを推定した結果、2020 年の需要の6 割をまかなえること、副産物のエネルギー利用をすればLCA 的にも有利であることが示された。2)ブラジルのサトウキビ由来のバイオエタノールについて、将来のシナリオを複数設定してLCA による比較を行った。生産の過程では、発生副産物であるバガスをエネルギー源として発電することによって、電力代替効果によるGHG 削減が達成され、消費過程でのガソリン代替効果を加えることによって大幅なGHG 排出削減が可能になることが明かとなった。しかし、サトウキビ重量あたりでは、バガスからもバイオエタノールを生産した方がGHG 削減量が大きいことが分かった。
    3)インドのジャトロファ由来のバイオディーゼルについて、将来のシナリオを複数設定してLCAの比較を行い、生産過程と消費過程を統合的に判断すると、GHG 排出量削減に貢献できることを示した。しかし、副産物をもバイオディーゼルに変換し収量を上げたプロセスは、製造時のGHG排出が大きくなるため、必ずしも有利とは言えないことが分かった。
    (6)アジア太平洋地域における生態系の財・サービスとバイオ燃料利用
    1)文献調査及びケーススタディによりバイオ燃料と生態系サービスの相関について分析を行った。
    2)バイオ燃料の原料となるパームオイルに関する国際的な産業連盟であるRSPO(Roundtablefor Sustainable Palm Oil)の参加者をステークホルダーと捉え、パームオイル生産拡大に伴う生物多様性、生態系サービスや人間の生活の向上といった広範な項目に関して彼らの認識を検証した。この結果、RSPO というひとつのステージに関連しながらも異なる背景を持つグループ毎の問題意識や優先事項を明らかにした。
    (7)アジア太平洋地域における政策パッケージおよび地域的政策協調の検討
    アジア太平洋地域の主要なバイオ燃料利用国(中国、インド、インドネシア、日本)のバイオ燃料利用に関する政策と現状の分析から共通課題・教訓および国特有の状況などを整理し、持続可能な発展に資するバイオ燃料利用戦略の在り方を検討した。併せてバイオ燃料政策の定量的評価のための経済モデルの開発、及びバイオ燃料の持続性基準策定における議論進展のレビューを行った。
    1)アジアにおける第1 世代バイオ燃料の持続的生産は、土地利用変化による問題が適切に対処されるのであれば理論上は可能であり、GHG 排出削減やエネルギー安全保障等にある程度寄与しうるものの、非持続的な生産を促す強い経済的誘因が存在するため、持続的な生産の可能性が保証されるまでは、その推進は慎重を期する方が賢明であると結論づけられた。
    2)日本を含め、セルロース由来(第2 世代、特に廃棄物の利用)さらには微細藻類由来(第3世代)のバイオ燃料開発が各国で進んでいるが、商業生産技術は開発途上にあり、またそれらのLCA に基づく影響評価は未知であり、さらなる知見の蓄積が必要である。
    3)バイオ燃料の持続性に関する国際的な基準については、持続可能なバイオ燃料のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Biofuels:RSB)などにより、留意すべき事項を包括的に取り込んだドラフトが提示されるなどの進展があったものの、ステークホルダーの参加に対するコミットメント、イニシアチブ自体のガバナンス、実際の基準運用(基準適合の判断や認証機関の設置等)等にまだ多くの課題が残されている。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0802
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0802 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    本研究は、個別のテーマの研究としては優れた成果をあげている。本研究の目的は分野横断的な総合評価を通じて従来のオントロジー探索ツールを発展させ、政策立案に必要なステークホルダー分析を実施することにより、バイオ燃料の戦略的利用を目指した政策担当者、企業、地域住民等の合意形成手法を開発し、持続可能なバイオ燃料の利用戦略および政策提言を行うことにあり、政策提言という点では評価される。
    ただし、オリジナルな研究成果が弱く、サブテ−マ(1)はオントロジーの手法検証を出る内容となっていない。また個々のサブテ−マ間でLCA へ適用するシナリオの精度に差がある。サブテーマ(3)以降のいずれのサブテーマも、見方によっては事後解釈に終わっている面がある。結果として、全サブテーマの集約化という点ではなお不足しており、世界に発信できる十分な内容を得たということは困難であり、今後、英文図書で研究成果のまとめが公刊される予定があるので、これに期待することとしたい。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0803 低炭素社会に向けた住宅・非住宅建築におけるエネルギー削減のシナリオと政策提言(H20−H22)
    研究代表者氏名: 村上 周三(建築研究所)

    1.研究概要

    民生部門におけるエネルギー消費量は一貫して増加傾向にあり、これに歯止めをかけることは、日本のみならず世界の各国にとって差し迫った重要な課題となっている。民生部門における省エネ対策の検討を行うためには、人口動態、建物寿命など長期的に変化する要因を考慮した上で、中、長、超長期的な視点から民生用エネルギー需要および省エネ対策実施効果の精度の高い予測が必要となる。 そこで本研究では、民生部門におけるエネルギー消費量の大幅削減の方策を探るため、日本全体の住宅・非住宅建築におけるエネルギー消費量の予測モデルを構築し、エネルギー消費量大幅削減のシナリオを提案した上で、現実的に推進するための政策を提言することを目的とする。また、予測モデルに必要となるデータを最新の資料に基づいて整備すると同時に、日本各地のエネルギー消費実態調査に基づくデータの補足および改良を行った。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    サブテーマは次の6 つである。
    (1) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量削減のシナリオにもとづいた将来予測と政策提言
    (2) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の東京都を対象とした検証と予測モデルの改良
    (3) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の大阪市を対象とした検証と予測モデルの改良
    (4) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の仙台市を対象とした検証と予測モデルの改良
    (5) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量の将来推計手法の開発
    (6) 全国各地の住宅・非住宅建築における室内環境、設備、エネルギー消費量原単位等に関するデータベース作成

    ■ E-0803  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-083 .pdf PDF [PDF 197 KB]
    ※「 Hc-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    [1]まず、住宅、非住宅建築起因のエネルギー消費量、CO2 排出量の予測モデルを開発した。
    次に国内外の施策事例調査に基づきエネルギー削減シナリオを設定し、開発した予測モデルに我が国の建築に関する最新データを用いて2050 年までのエネルギー消費量および二酸化炭素排出量の予測を行った。その結果、民生家庭部門において短期的にエネルギー消費削減効果を得るためにはライフスタイルの変化(省エネ努力の推進)が効果的であるが、長期的には太陽光発電器の普及および継続的な発電効率の向上努力が重要で、我が国の二酸化炭素削減中期目標を達成するためには、低炭素技術の飛躍的な普及や電力二酸化炭素排出係数の削減努力だけでなく、エネルギー需要自体を減少させるための省エネ行動が不可欠であることが示唆された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    [2]住宅におけるエネルギー消費量の予測精度を向上させるための研究として、建物断熱性能に関する統計データの精緻化や、高層集合住宅のエネルギー消費実態調査、住宅の間取りや周辺環境条件がエネルギー消費量に与える影響の検討、農村部住宅のエネルギー消費実態調査などを行った。主要な成果として、超高層集合住宅における共用部エネルギー消費量は中高層と比較して非常に多いこと、住宅の間取りや周辺環境条件がエネルギー消費量に与える影響を定量化して比較すると典型的な標準条件に対して省エネルギー街区形状に変更することにより5%程度、省エネルギー間取りに変更することにより25%程度のエネルギー消費量(空調・照明)を削減すること、農業地域の住宅を対象とした気候区分ごとのエネルギー消費原単位など、これまで明らかとなっていなかった有用な知見が得られた。
    [3]業務部門については、業種別・地域別エネルギー消費量予測精度を向上させるための研究として、提供サービスの違いに着目し小売店舗を中心に提供サービスや店舗形態の違いがエネルギー消費量に及ぼす影響などについて検討を行った。その結果、提供サービスの違いによってエネルギー消費量に有意な差が見られることが、実態調査に基づき確認された。特に食料品小売店舗では、冷設什器のエネルギー消費量が約3 分の2 を占め、冷設什器に対する省エネルギー対策が有効であることを示した。それらの結果を基に、冷設什器の形態や設定温度ごとに電力消費量や室内との熱交換量を予測するとともに、冷設什器からの冷気漏れを考慮した建物全体の空調エネルギー消費量を予測することが可能な、冷設什器を有する食品小売店舗のエネルギー消費予測モデルを構築した。また、仙台市を対象とした、民生部門におけるエネルギー消費量の詳細な予測を行い、予測モデルの改良方法等について検討した。
    以上の今回開発された最新データに基づく住宅、非住宅建築起因のエネルギー消費量、CO2排出量の予測モデルにより、エネルギー消費量削減を現実的に推進するための政策提言が可能となった。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0803
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0803 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    本研究は、省エネルギー技術による効果を実証的に検証できる体系のデータベースとして、これらを集約し、また現実的で有用性のある諸知見を得たものであると、成果を評価できる。東京、大阪、仙台での実証研究においても見るべきものがあったが、しかしそれらの相互比較分析が行われていたならば、地域特性が省エネルギー技術とその効率にどの様に影響するのかが判明し、社会シナリオの内容に具体性を持って反映できたものと考えられる。
    なお、学会、一般への成果発表に欠けるところがあるので、今後の努力を求めると共に、その際には、環境省の低炭素社会への中・長期ロードマップ中の住宅・建築物分野で描かれている道筋について、有用な提言となることを意識した研究成果のとりまとめ・公表を期待する。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0804 都市・農村の地域連携を基礎とした低炭素社会のエコデザイン(H20-22)
    研究代表者氏名: 梅田靖(大阪大学)

    1.研究概要

    本研究課題は、「都市・農村の地域連携」を基本コンセプトとして、低炭素社会の下でのアジア(特に日本および中国)における都市・農村の在り方を具体的な事例を通じて分析・評価し、あるべきエネルギー・物質の地域循環利用システムを基盤とした将来シナリオを描くことを目的とする。
    その目的を達成するために、本研究は4つのサブテーマで構成する。サブテーマ2〜4では日本、中国で現地調査とモデル化を行うパイロットモデル事業/地域を設定し、都市・農村連携のモデルを具体的に提示する。すなわち、
    農工連携による自然資本を生かした低炭素化産業の創出(業結合モデル)(サブテーマ2)、
    都市−農村空間結合による低炭素化クラスター形成(空間結合モデル)(サブテーマ3)、
    日中互恵モデルによる広域低炭素化社会実現のためのエネルギー・資源システムの改変と政策的実証研究(国際互恵モデル)(サブテーマ4)である。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    さらに、サブテーマ1において、各サブテーマのパイロットモデル事業/地域の現地調査および分析・評価から得られた基礎データを共通の分析ツールで数理モデル化することにより、都市・農村の地域連携によるエネルギー・物質の地域循環利用システムの規範モデル(これを「都市・農村連携クラスター・モデル」と呼ぶ)を複数作成し、各モデルの国内およびアジアへの展開可能性とそれによる低炭素社会への潜在的効果を推定する。この過程を通じて、低炭素社会における中長期的な都市・農村連携の在り方を提言することを最終目的とする。

    ■ E-0804  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-084 .pdf PDF [PDF 266 KB]
    ※「 Hc-084 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (サブテーマ2)中国におけるトチュウ植林事業を対象に、水土保全(年間土壌流出量を現状のトウモロコシ畑からトチュウ植林に変更することにより 86.8 t/haから 6.9 t/haまで軽減)・低炭素化(年間二酸化炭素(CO2)排出削減量 6.12 t-CO2/ha)などの環境便益、雄花茶・トランスゴムなどの事業売上を含む経済便益(年間 12,200元/ha)および経済波及効果(効果倍率 1.4倍)の評価を行うことを通じて、農工連携バイオマス産業の一石二鳥コベネフィットの可能性を科学的に示すことができた。
    (サブテーマ3)北海道自立に向けて、第一次産業における産出投入表を整理し、都市・農村間の相互補完による食料・エネルギー自給および低炭素化などの可能性について分析した。 2030年には、食料自給率 296%、エネルギー(バイオマス)自給率 28%および CO2排出削減量約 70%となる条件が存在することを明らかにした。
    (サブテーマ4)都市・農村連携による分散型エネルギー最適化評価システムの開発と実証分析、東アジア地域の国際互恵型低炭素評価モデルの開発、および広域低炭素社会のシナリオ構築に関する感度解析を行った。都市と農村における個別の対策よりも都市と農村が連携したエネルギーシステムの方がより高い低炭素化効果(コスト 50%削減、 CO2価格約 4 円/kg-CO2で、CO2排出削減率約 80%まで可能)を得ることができる可能性が明らかとなった。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (サブテーマ1)サブテーマ2〜4のパイロットモデルから得られた基礎データを共通の分析ツールで数理モデル化し、複数の都市・農村連携クラスター・モデルを作成することにより、日本および中国全土の適用可能地域に広域展開した場合の CO2排出削減ポテンシャルを推計した。その結果、日本で約 55.5 Mt-CO2、中国で約 491 Mt-CO2(各モデルのそれぞれの適用可能地域における削減割合は数 %のオーダー)の最大削減ポテンシャルが期待できることを明らかにした。
    また、将来予測に基づくシナリオ分析では、サブテーマ3の都市・農村空間結合による低炭素化クラスター・モデルを日本全国に広域展開した場合の試算結果を例として挙げると、 2030年の段階でエネルギー代替および肥料代替による CO2排出削減量 35.8 Mt-CO2/年を空間結合モデルにより達成できる成立条件があることが明らかとなった。また、原油価格が高騰するシナリオにおいて、原油価格高騰に伴う農産品の価格高騰および炭素オフセットクレジット(農村における低炭素化事業による CO2排出削減分を、都市が直接削減できない排出分と相殺する炭素オフセットに用いる地域内クレジット制度)を導入することにより、品目(米、野菜、豚など)によっては補助金に依存することなく従来の農業所得水準を超えることができる可能性があることを定量的に明らかにした。
    本研究課題では、低炭素社会の構築に向けた都市・農村連携の目指すべき姿は、農村の多面的機能を再評価することにより、都市と農村が対等な関係性を構築し、農村の生態系サービスの維持・発展を都市と農村が連携して担うことであると結論づけた。都市・農村連携を促進するためには、基本的には、都市・農村間の価値観の共鳴と、農村部における内発的発展・自立が前提となると考えられる。そのためには、農村のストックの価値を明確化し、農村から都市への多様なフローを提供すると同時に、都市自体の需要のスマート化を実現し、都市から農村のフロー、特に、労働力・人材、資金、知識・技術の流れを拡充し、農村と都市間で安定的な循環システムを成立させることが求められる。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0804
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0804 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    「都市・農村の地域連携」を基本コンセプトとして具体的な事例分析を行い、あるべきエネルギー・物質の地域循環利用システムを基盤とした将来シナリオを描くという課題に真正面から取り組み、先駆的研究としてほぼ期待にそう研究成果をあげた。具体的な対象は中国のトチュウ植林事業、北海道の自立へ向けた都市・農村間の相互補完の分析、東アジア地域の国際互恵型低炭素評価モデル構築等である。
    これらの政策は、日本なり中国なりが国家レベルで取り組めば、都市・農村の地域連携を基礎とした低炭素社会のエコデザインとして十分に通用するものである。したがってモデルを外延的に拡大するための、より詳しい条件の説明や、サブテーマを組み合わせて一つの大きな農工連携社会を描くシナリオの提示という点でより詳細な説明があれば、さらに有用な研究になったと評価される。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: E-0805 バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 仲 勇治 (東京工業大学)

    1.研究概要

    バイオマス資源の有効利用に関して様々な研究開発や事業の普及策が講じられつつある。バイオマスは広く・薄く分布しているため、活用目的やそれに伴う変換プロセスの選定だけでなく、収集・輸送などの物流整備を含めた課題がある。また、エネルギーや有用物質に変換するにもプロセス効率やプラント建設単価が化石資源に比べて不利であり、円滑な普及/促進が進んでいない。
    本研究では、「バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築」を目指し、多様なバイオマス資源の利用を円滑に進めるための物流システムと、エネルギーなどの有価物への変換システムからなるバイオマス利用システムの全体を求める方法論の確立と、その方法論に基づくシステム設計を支援するツールである技術情報基盤の整備を目標とする。さらに、この成果を実地域(青森県中南地域を対象)に適用し、その方法論を実用可能なものにすると同時に、より適用範囲を広げることも目標とする。サブテーマは、次のとおりである。
    サブテーマ1:バイオマスの地域における活用状況に関する調査研究
    サブテーマ2:技術情報基盤の開発に関する研究
    サブテーマ3:導入過程に関する研究
    サブテーマ4:地域への適用方法に関する研究

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-0805  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-085 .pdf PDF [PDF 363 KB]
    ※「 Hc-085 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    <サブテーマ1>では、青森県全域におけるバイオマス資源の種類別、市町村別の発生から処理・処分、利活用に至るデータを収集・分析して、実情を把握した。資源の種類は「稲わら」、「もみ殻」、「一般廃棄物」、「廃食用油」、「家畜排せつ物」、「製材廃材」、「間伐材」、「林地残材」、「りんご剪定枝」、「りんご絞り粕」、「ホタテウロ」を対象とした。また、バイオマス作物の利用可能性の検討等を想定して「耕作放棄地」の面積も対象とした。合わせてバイオマスの処理・再資源化施設や利用施設等についても調査を実施した。その結果、青森県中南地域ではりんご剪定枝、稲わらなどの発生量が多く、りんご剪定枝は薪に、稲わらは堆肥や飼料等として一部有効利用されているものの、未利用のまま樹園地内や圃場での焼却(野焼き)が行われていることが確認された。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    りんご剪定枝の有効利用方法として、地域の稲作及びりんご栽培への還元を想定して、堆肥としての利用可能性を検証した。水稲での栽培試験の結果、収量は稲わら堆肥による慣行栽培とほぼ同等であったことから、水稲栽培におけるりんご剪定枝堆肥の有効性を確認した。りんご栽培においては、一部の病害発生を助長することが懸念されたため、病害(紫紋羽病)発生圃場においてりんご剪定枝堆肥施用の有無に伴う発病状況を試験した。その結果、発病度の比較では両区に有意差はみられず、剪定枝堆肥施用により紫紋羽病の発病が助長される傾向は認められなかった。
    <サブテーマ2>ではコンピュータ上で動作するバイオマス利用システムの設計支援ツールである技術情報基盤を開発した。本基盤はモデル編集機能、シミュレーション機能、GIS 機能の3つの主要機能からなり、それぞれの機能が連携して、最終アウトプットであるバイオマス利用システム全体や構成要素のコストや環境負荷を出力する。
    モデル編集機能では、バイオマスの収集、輸送、変換、利用、処分といった物流のモデルを、アイコンを使用して描画することで、模擬的なバイオマスの利活用システムを構築できる機能を実装した。
    シミュレーション機能では、モデル編集機能によって構築した利活用システムの各アイコンに、資源の発生量や変換施設の設備能力等のデータを設定してシミュレーションすることによって、各工程及びシステム全体のコストや環境負荷排出量を計算する機能、及びコストや環境負荷排出量を目的関数として、任意の利活用システムにおいて最小値を求める最適化シミュレーション機能を実装した。輸送や変換に係るコストや環境負荷の計算根拠はサブテーマ1で調査・収集したデータに基づくものであり、計算結果は自治体等の公表データと比較的近似している点が確認された。
    GIS 機能では、データベース機能として、サブテーマ1で調査・収集した青森県各市町村のバイオマス資源量、中南地域に立地するバイオマス関連施設を登録して、ブラウザ上で確認できるデータベースを構築した。経路探索機能として、任意の二点間の最短経路を探索して、シミュレーション機能の計算に用いる道路距離を求める機能を実装した。
    <サブテーマ3>では、政策や将来構想の導入のガイドラインの提示として、政策・合意形成、意思決定論、参加・協働デザイン等に関する著書・論文調査や事業関係3主体(行政組織、事業者、市民・住民組織)へのヒアリング調査を実施し、この結果に基づいて、意思決定のプロセスとそれに関連する諸要素を明確に表わすことができるIDEF0 (Integration Definition forFunction Modeling0)のアクティビティモデルを利用して、各主体の意思決定の現状モデル(As Isモデル)とそれに基づく将来理想モデル(To Be モデル)を構築した。
    評価モデリングでは、マテリアルフロー分析(MFA)、ライフサイクル・アセスメント(LCA)、環境省型およびストック・フロー型環境会計に関する報告書、産業連関表、自治体バランス・スコアカード、行政評価に関する著書・論文、青森県政策評価ガイドブック、GRI(Global ReportingInitiative)のサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン等といった既存評価モデルの検討に基づいて、上記事業関係3主体の意思決定を支援する、企業単体から地域全体の採算性、環境影響、社会的影響が評価可能な新たな環境会計モデルと、サブテーマ2 の技術情報基盤からの情報利用を想定した環境会計からの評価方法を提示した。
    <サブテーマ4>では、青森県中南地域を対象としたバイオマス利用システムの将来シナリオを作成し、サブテーマ1〜3で得られた知見や構築したツール・評価手法を用いてシナリオ検証・評価を実施した。この検証・評価手法とシナリオの評価結果の最終とりまとめは、地域のステークホルダーへの意見聴取を実施した結果を踏まえた内容となっている。
    検証・評価したシナリオは「持続可能な社会インフラを目指す」「りんご剪定枝による新事業を創出する」「環境保全・増益指向型農業を展開する」の3 シナリオである。
    「持続可能な社会インフラを目指す」シナリオでは、中南地域における清掃工場や下水処理場の将来的な統廃合や厨芥と下水の複合処理等を検討した。清掃工場を既存の3 施設から1 施設とし、下水処理場を既存の2 施設から1 施設として厨芥類を下水処理場で消化した場合、技術情報基盤による試算では、コストでは約6,000 万円/年、CO2 排出量では約7.6 万t/年の削減効果が見込まれる結果となった。
    「りんご剪定枝による新事業を創出する」シナリオでは、中南地域で発生するりんご剪定枝を燃料チップとして地域内の空調設備で利用するケースを検討した。りんご剪定枝を小規模分散型の可搬式チッパでチップ化して輸送するケースと、剪定した枝条の状態で大規模なチップ化施設まで輸送して一括でチップ化するケースとの比較では、前者のほうがチップ化工程でのコストが嵩み、輸送効率向上による輸送コストの抑制分を加味しても、コスト面では後者よりも不利となる結果となった。一方、環境負荷面では可搬式チッパによるケースがチップ化施設によるケースの1/5 程度となった。
    「環境保全・増益指向型農業の展開」シナリオでは、稲わら、もみ殻、りんご剪定枝、りんご絞り粕を、農業用堆肥、畜産用飼料、農業用ハウス加温用燃料にそれぞれ可能な限り利用するケースを想定して現状の処理処分・利用状況の試算結果と比較した。現状ではコストは低く抑えられているものの、野焼きされている未利用資源について産業廃棄物としての適正処理コストを潜在コストとして計上すると、約20 億円/年程度の処理コストが必要であることが確認された。この現状+潜在コストと比較すると、堆肥、飼料、燃料の全てのケースにおいて、40%〜60%程度のコスト削減効果が見込まれる結果となった。環境負荷面では燃料のケースで排出量が少ない結果となった。
    青森県産業技術センター及び弘前大学北日本新エネルギー研究センターにおいては、本テーマで構築した地域への適用についての方法論の有用性が認識され、2 センターが主体となるプロジェクトにて採用された。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0805
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0805 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    バイオマス資源を有効利用する社会技術システムを目指す方法論の確立と、システムの設計支援のための技術情報基盤の整備を目標として行われた研究である。バイオマスの利用システムの計画・設計・実施にあたっては、本研究のような計画・立案・設計モデルが果たす役割が大きい。その点からみて本研究は、具体的対象を持った政策研究であり、一定程度の成果は得られたと思われる。
    しかしながら結果の一部は伝統的農法の追試にとどまっており、また地域社会の高齢化や過疎化が進む中での労働力確保などの観点からの解析が少なかった等、成果にやや欠ける面がある。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0806 低炭素型都市づくり施策の効果とその評価に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 井村 秀文 (名古屋大学大学院環境学研究科)

    1.研究概要

    以下の4つのサブテーマについて研究を実施した。
    (1)地球温暖化対策ロードマップの作成
    名古屋都市圏におけるエネルギーの利用状況、エネルギー資源の賦存量等の各種データ収集を行い、これらに基づき、名古屋都市圏を対象にCO2 排出量2050 年80%削減(1990 年比)のロードマップ試案を作成した。次に、住宅の低炭素化リフォーム、バイオマスエネルギーの利活用等による各種のCO2 削減対策を実施することを想定し、各対策の導入時期、削減効果の発現時期等をロードマップ化した「名古屋都市圏CO2 削減ロードマップ案」を提案した。
    さらに、ロードマップ案で示した各種CO2 削減策に対して、2050 年までの導入量や削減効果量として適切な予測値を入力することで、現実的なロードマップ案を作成した。各種CO2 削減策の2050 年までの予測は、国レベルにおいても存在しない。そこで、各分野の専門家(大学・研究機関、企業、行政など)に、予測と課題・対策案に関する見解を出してもらい、デルファイ法を用いそれらの収斂を図ることで、適切な値を導出した。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (2)都市の動的物質・エネルギー代謝
    1)低炭素型都市理論の構築
    仮想的な都市について、産業構造、空間構造、気候等の条件を任意に変え、そこに省エネルギー等のさまざまな技術を導入した場合のCO2 削減効果を定量的に評価する仮想都市モデルの開発を行った。さらに、都市形態の変化とエネルギー消費の関係性を分析した。ここでは、名古屋市を対象として、オフィスビルの容積率上限までの建設、住宅地への用途転換等の複数のケースを提案した。また、これに伴う病院、学校等の業務系建物の建設を合わせてシミュレーションすることで、各ケースにおけるエネルギー需要量の変化を評価した。
    2)都市の成長、建物、インフラとエネルギー:分析ツール(都市シミュレータ)の開発
    名古屋市を対象として、都市空間の再編に伴うCO2排出量の削減効果を評価した。具体的には、メッシュ単位での人口、土地利用・建物データを整備し、2000 年〜2050 年における民生部門及び交通部門からのエネルギー消費量及びCO2 排出量を推計した。また、建物の建設から廃棄までに係るライフサイクルでの物質ストック量、物質フロー量を評価した。都市空間再編シナリオとして、特定地区への中央集約型、駅そばへの分散集約型、非集約型を提案し、住宅及び業務建物の再配置に関する将来変化予測を行った。これに、民生部門、運輸部門の低炭素化に資する対策技術を導入することによる時系列的なCO2 削減可能量を推計した。(3)都市類型による施策の評価
    効率的な都市の低炭素型化対策実施のため、主に屋内外の気温低減を通じた空調負荷削減に焦点を絞り、規模(人口、面積等)、自然条件、経済社会条件等で異なる国内外のさまざまな都市・地域を対象に実施された研究をレビューした。具体的には、国内外の都市開発プロジェクトにかかる資料を収集し、気候別、都市計画手法別、熱供給手法別、政策別に分類する手法を検討した。
    (4)アジアへの適用
    統計データが十分揃っていないアジア途上国の都市におけるエネルギー消費の時空間分布を解析する1つの手法として、中国を対象に夜間光衛星画像データを活用し、より簡易的かつ高精度に都市の形を抽出する新たな手法を開発した。また、これにより中国25 都市の1993 年から2003年の都市域の拡大を評価した。中国の省別電力需要データと夜間光衛星画像データから得られる各省内の都市および農村部の夜間光強度の関係から、中国における電力消費の空間分布とその時系列的変化を把握した。
    さらに、アジアにおける社会経済の将来予測で大きく変化する要素として、家計消費も挙げられる。経済成長に伴う家計消費の増大は、エネルギー消費の変化を通して環境負荷排出を増大させる。本研究では、中国の家計消費と環境負荷の関係に着目し、まず産業連関分析の手法を用いて、家計におけるエネルギーおよび水の消費に伴う直接的・間接的な環境負荷を定量的に評価した。また、都市と農村の家計消費由来の一人当たりCO2 排出量等の比較を行った。加えて、家計収入の財ごとの価格と支出金額の関係を分析するモデル(AIDS(Almost Ideal Demand System)モデル)を用いて、電力・水道料金が中国の家計消費支出に及ぼす影響を分析し、家計由来のCO2増加抑制に向けた適切な料金設定のあり方について論じた。

    ■ E-0806  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-086 .pdf PDF [PDF 426 KB]
    ※「 Hc-086 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1)地球温暖化対策ロードマップの作成
    名古屋都市圏を対象に具体的なロードマップの作成を完了した。今後導入が見込まれるさまざまな技術の導入見通しとその削減ポテンシャルを評価した。
    (2)都市の動的物質・エネルギー代謝
    具体的な都市を対象に、将来予想される土地利用の変化、住宅・ビルの新築・建替え等のシナリオを与えて、エネルギー消費量とCO2 排出量を定量的に予測するシミュレータを完成した。これにより、都市整備のさまざまなシナリオに応じたCO2 排出量削減可能量の分析が可能となった。
    (3)都市類型による施策の評価
    国内外のさまざまな都市の気候・気象等の特性と、そこで有効な施策の関係について知見の整理を完了した。
    (4)アジアへの適用
    統計データの入手が困難なアジア途上国の都市におけるエネルギー消費の空間分布を衛星からの夜光データで解析する手法について、その精度と限界を検証した。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0806
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0806 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    全体としての統一性が見えにくく、サブテーマ相互の関連性が十分でないが、サブテーマ(1)、(2)は個別研究としては水準を満たす成果を得ている。
    サブテーマ(1)では、デルファイ法を使うなど様々な工夫をして、名古屋都市圏における「2050 年マイナス80%ロードマップ試案」を作成した。他地域での展開のための具体的な示唆に欠けるところはあるが、その手法は参考になる。
    サブテーマ(2)は、仮想的な都市について、様々な条件下でCO2 削減効果を定量的に評価する新しい試みに挑んだ。
    しかし社会的実現性を反映しているとはいえない面がある。サブテーマ(3)、(4)は海外での低炭素型都市づくりの研究であるが、資料不足などの制約もあり、従来の研究の集大成や現状の紹介が中心であって、データベースの構築以上に研究が進んだとはいえない。今後も地域の特性を反映させた低炭素都市づくりは研究が必要なテーマであり、本研究の「成果」を再構成し、具体的な指針づくりが行なわれることを期待する。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0807 社会資本整備における環境政策導入による CO2削減効果の評価と実証に関する研究(H20-22)
    研究代表者氏名: 野口貴文(東京大学)

    1.研究概要

    本研究では現状・将来の地域的社会特性(商習慣、産業構造、人口など)および実構造物の実態(位置、築年数、将来計画など)を基盤データとした上で環境パフォーマンスを評価できる環境政策検討シミュレーターを開発し、全国、都市圏、地方圏で導入可能な環境政策とその効果を把握し、最終的に、導入効果の高い環境政策として提案することを達成目標とする。具体的には、
    (1)環境政策検討シミュレーターの開発
    (2)シミュレーション試行のための大都市圏でのデータ収集・実態調査(関東圏)
    (3)シミュレーション試行のための地方圏でのデータ収集・実態調査(四国)
    (4)環境政策の検討と導入効果の評価(大都市圏)
    (5)環境政策の検討と導入効果の評価(地方圏)
    (6)環境政策の検討と導入効果の評価(全国レベル)
    のサブグループによって研究を遂行し、地域の立地、建設需要、経済構造によって異なる特性に基づき、社会資本整備において最適な CO2削減政策のあり方を提案することで社会に貢献する。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-0807  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-087 .pdf PDF [PDF 382 KB]
    ※「 Hc-087 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    本研究を通じて次の科学的貢献が得られた。
    (1)シミュレーター ecoMAの開発により、これまで得られなかった広域調達を想定した各資材の CO2排出原単位の産出を実現した。
    (2)産業連関表をベースとして、各種建材レベルの環境負荷原単位を算出できる計算手法を確立した。
    (3)社会資本整備のおもだった環境負荷原単位を実データで網羅的に算出した。
    (4)生コンクリート工場を中心にして、製造工場の規模の経済と集積の経済のメカニズムを消費電力の長期的計測により定量的に明らかにした。
    (5)道路の維持管理に関して、長期的かつ集約的に低炭素技術を利用することが規模の経済のメカニズムを発揮し CO2削減につながることを明らかにした。
    (6)モーダルシフトによって建設資材の輸送部門において CO2削減効果が見込めることを定量的に明かにした。
    地球環境政策への貢献という観点から言うと、基礎的ではあるが社会資本整備にかかわる業界がどのように努力・行動すれば今後 CO2を削減できるかを、 ecoMAを用いて検証、評価できるようになったことで、関係業界にとっては、地球環境保全への貢献のための運用方針決定の一助になると考えられる。また、産学連携の地域コンソーシアムを組織したことで研究成果の社会的な適用や認知度を高めることができた。今後はこの動きを相乗的に活用しながら研究成果を実社会に適用することのできる可能性について検証していきたい。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0807
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0807 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    本研究は、コンクリート産業を対象として、製造から輸送、そして廃材利用・処理までのマテリアルおよびエネルギーフロー、それに伴う CO2排出量のモデル化を試み、省エネルギーと CO2排出削減の可能性を検討したものである。コンクリートに関連した CO2削減というテーマでの実証的研究として見た場合には、個々のサブテーマに関して、新たな知見を加えたものと評価することができる。
    しかしながら本研究の成果内容に、「環境政策」というキーワードがどのように取り入れられ反映されているかが全く不明である。一例としてサブテーマ (1)では、シミュレーター上で種々の環境政策を導入するとされているにもかかわらず、輸送距離以外の環境政策要素が取り入れられていない。今後、サブテーマで得られた成果が環境、運輸、産業などの政策分野に反映されることを期待するものの、全体として環境政策への寄与という観点からいえば、研究成果への評価は低い

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ

    研究課題名: E-0808 低炭素社会の理想都市実現に向けた研究(H20-H22)
    研究代表者氏名: 中村勉((社)日本建築学会低炭素社会特別調査委員会)

    1.研究概要

    本研究は、 2050年に CO2排出量を半減、人口減少社会に対応可能な都市空間を、地方都市で実現する手法を導き出すことを目的とする。サブテーマは、[1]都市構造・交通、[2]市民のライフスタイル・都市政策、[3]建築・環境工学手法、[4]都市・建築物・市民生活のエネルギー評価手法と総括を併せた 5つにより構成されており、各分野から学際的で実践的な理想都市を具体化する手法を検討し、その評価ツールの開発を含めて方策を導き出すことを目標とする。
    特徴ある 5都市(茨城県土浦市、新潟県長岡市、東京都福生市、北九州市、千葉県柏市)をフィールドとして、行政や市民の協力を得ながら、各都市の持つ特性を活かして、具体的に模索する。
    各サブテーマで抽出された手法を総合化し、 2050年の社会に対応する理想都市イメージを描くとともに、まちから排出される CO2を削減するための方策を立案する。今後、行政単位での環境政策や施策、都市マスタープラン策定などに応用可能とし、疲弊していく地方都市の再生に寄与することを目的とする。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ■ E-0808  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-088 .pdf PDF [PDF 636 KB]
    ※「 Hc-088 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    サブテーマ(1)では、サブテーマ (2)〜(5)の研究成果を総括としてまとめた。 2050年における「低炭素社会の理想都市」実現のための基本理念を構築し、これを実現するための汎用性のある都市政策手法を「 13のガイドライン」として提示した。
    サブテーマ(2)では、長岡市をモデルとして、現状の都市政策の延長上にある都市形態と程度の異なる二つのコンパクト化シナリオを、再編成過程(2010年〜2050年)を含む長期的な CO2排出量で評価した。
    サブテーマ(3)では、福生市では、市民と協働で将来におけるライフスタイル像、低炭素コミュニティ像と実現政策を描き、北九州市の若松区では、低炭素都市のライフスタイルと都市将来像と行動計画の枠組みを構築した。土浦市では「新しい生活像」を描くため、基礎調査を実施し、分析した。
    サブテーマ(4)では、土浦市をモデルとして、空洞化する中心市街地と既成住宅地の 2050年のシナリオを描き、まちで低炭素社会を実現する手法とそれらの適切な導入方法についてまとめた。併せて 2050年の社会に向けて、建築施設の CO2排出量を削減する設計手法についてまとめた。 サブテーマ (5)では、
    [1]街区スケールで熱環境・エネルギー・ CO2排出量を予測・評価できる環境シミュレータの開発と、
    [2]市民等とのコミュニケーションに利用可能な環境情報の 3D-CAD可視化ツールの開発を行った。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    ケーススタディとして、土浦市中心市街地の土地利用の異なる 5街区を対象に、熱環境・エネルギー・ CO2排出量に関する現状と将来像の分析を行った。また都市広域や市街地の土地被覆や表面温度分布等の情報を可視化できる航空機リモートセンシングデータを取得した。
    以上 3年間の研究成果報告として、 2011年3月 23日に環境省共催のシンポジウムを開催した。このとき、低炭素社会を構築する基本理念と 13のガイドラインについてまとめたパンフレットを作成し、今後も、建築学会や UIAなどで配布、啓蒙活動に活用する予定である。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0808
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0808 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    本研究は 2050年に CO2を半減しつつ、人口減少社会に対応可能な都市空間を地方都市で実現する手法を導き出すために行われた。各サブテーマで、ケーススタディとして特徴ある 5つの地方都市をモデルとして選び、都市将来像と行動計画の枠組みを提示した。同時に、基本理念を構築し、目的とする都市空間を実現するための都市政策手法を、 13のガイドラインとして提示した。
    しかしながら、各サブテーマの連携がほとんどとれておらず、また提案された理想都市の 13のガイドラインには次元の差がありすぎ、制度や政策的な手段に結びついていかないことが懸念される。特に 2050年の社会像については、価値観のようなソフトの部分からみた場合、共通理解を得ることに困難があり、その結果、提案に係る政策を具体的に実行に移すことを誰がどのように担保するかが大きな課題として残されることとなる。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
    目次へ

    研究課題名: E-0809 中国における気候変動対策シナリオ分析と国際比較による政策立案研究 (H20−H22)
    研究代表者氏名: 外岡 豊(埼玉大学)

    1.研究概要

    中国の気候変動対策、政策について省別・エネルギー需給詳細部門別・エネルギー種類別のエネルギー需給データを基礎に、人口、経済社会、各種技術、社会資本形成、世界経済との関係、都市と農村の住居等、諸影響要因を解析して、2030 年の将来温室効果ガス排出量と各種対策効果を定量評価し、対策を実現する施策のあり方について検討し、中国における低炭素社会化への可能性を客観分析するものである。その際、現行の関連政策状況を調べ、また国際比較を行い、その上で有効な政策について考察した。研究は以下のサブテーマから構成される。
    (1) 中国エネルギー需給現況分析と温室効果ガス将来排出量シナリオ分析に関する研究
    省別・エネルギー需給詳細部門別・エネルギー種類別のエネルギー需給データを経年的に分析し、その動向を多面的な影響諸要因との関係から分析した。対策技術を含め影響要因の動向を想定し、一部の発生源部門については2030 年の将来温室効果ガス排出量をシナリオ推計分析した。
    (2)エアロゾル排出係数に関する研究
    大きな温室効果を持つEC(エレメンタリーカーボン、未燃炭素小粒子)と冷却効果を持つOC(有機炭素)の排出実態を明らかにするため家庭用厨房暖房機器(カン、?、kang)の排出についての実測をおこなった。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (3)建築分野施策と住宅省エネルギーに関する研究
    都市部住宅について家計調査を用いた独自推計を行い、経年動向と省別分布を分析、農村部住宅についても同様の分析を行うとともに、寒冷地域の地域熱供給量についても分析した。バイオマス燃料消費実態を中心に農村住宅のエネルギー消費実態調査を大連近郊他で実施した。中国における非住宅建築のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量について建物用途別エネルギー用途別省別に推計し、将来シナリオ予測を行った。
    (4)中国の気候変動対策と関連政策に関する研究
    世界全体の温室効果ガス排出と削減における中国の位置づけ、中国社会の現状を踏まえ京都会議後の国際的な取り組みにおける可能性などについて検討した。近年気候変動国際条約交渉の中で中国の存在感が増しており、エネルギー資源政策、再生可能エネルギー政策、省エネルギーと国内気候変動対策施策の相互連携の最新状況についてまとめた。
    (5)国際比較による対策総合評価に関する研究
    環境クズネッツ曲線分析による国際比較と中国の地域間比較を同時に実施し、その応用による政策分析の可能性を検討し、以上の研究を総合して中国における気候変動対策と政策について考察、提言した。環境クズネッツ曲線分析は過去の動向の後追い分析としてだけでなく、国際比較,地域比較を通じてこれからの政策評価に応用できることを示した。

    ■ E-0809  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/ hc-089 .pdf PDF [PDF 163 KB]
    ※「 Hc-089 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    (1) 中国エネルギー需給現況分析と温室効果ガス将来排出量シナリオ分析に関する研究
    製造業業種別・省別・経年動向分析は統計データの質が悪くて解析困難な部分も多かったが、主要業種・主要生産地域について分析し将来予測シナリオ色分析を行った。鉄鋼、セメント、交通について特に詳細分析を行った。地域構造、産業構造、素材選択など間接的上流対策、施策の排出削減効果についても定量評価したかったが、それは十分できなかった。また各業種の生産工程やエネルギー利用における省エネルギー対策の技術実態情報が少ないので製造業の技術実態を反映した省エネルギー対策効果の定量評価は十分できていない。このニ点が今後の課題である。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    (2)エアロゾル排出係数に関する研究
    大きな温室効果を持つEC(エレメンタリーカーボン、未燃炭素小粒子)と冷却効果を持つOC(有機炭素)の排出実態を明らかにするため家庭用厨房暖房機器(カン、.、kang)の排出についての実測をおこなった。EC(温室効果)よりOC(冷却効果)の排出がかなり大きいことを示唆する結果が得られたが、複雑な気候変動メカニズムを解明する上で非常に大きな学術的成果である。
    さらに確認実測を継続し、その結果を踏まえて(3)で農村バイオマス利用に関する対策、施策の具体化につなげることが次の課題である。
    (3)建築分野施策と住宅省エネルギーに関する研究
    利用できる諸統計を活用した省別分布と経年動向のマクロな推計を行うとともに農村部住宅については各地で実態調査を行い検証的なミクロ分析研究を行った。農村部バイオマス利用実態については両者は矛盾なく一致する傾向を示し、厨房用かまどとカン(.、kang)によるトウモロコシなどの農業廃棄物の自給利用が今でも各地で行われている実態を確認できた。清華大学の調査と推計では石炭消費量が多く、バイオマス燃料消費割合が我々の推計より小さかった。その理由について清華大研究者と討論したが理由は解明できていないが、我々の研究では統計によるマクロ推計と各地実態調査によるミクロな検証とが一致しており当面の結論として我々の研究結果が正しいものと理解している。
    非住宅のエネルギー消費実態については床面積当エネルギー消費原単位調査結果は多少研究蓄積がされてきているが不十分であり、我々の試算はどこまで実態を反映しているを検証することは難しく、推計制度の向上をめざした追加情報収集と改訂推計を随時行っている。推計の精度向上の余地は残されているが、この分野の研究として世界的にも先行した成果を得ることができた。
    (4)中国の気候変動対策と関連政策に関する研究
    定量的な資料を踏まえた政策状況の検討を行ったが、国際交渉における中国政府の立場と国内気候変動、省エネルギー、再生可能エネルギー行政の関連性については、さらなる情報収集と考察が必要であり、継続研究予定である。
    (5)国際比較による対策総合評価に関する研究
    上記、各サブテーマ研究の成果を取り込んだ応用解析はまだできていないが、環境クズネッツ曲線を用いた様々な応用解析を試行し、環境政策、エネルギー政策、気候変動政策に共通して政策評価に環境クズネッツ曲線を応用できることを示すことができた。様々な具体例において、とくに中国国内の地域格差に応じて沿岸部先進地域政策から順次内陸の未開発地域へと漸進的な政策推進にこの手法を応用したいと考えている。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0809
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0809 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    中国のエネルギー需供給分析に際して信頼性に大きな疑問のある統計データを精査し、エネルギー消費量がとりわけ多い鉄鋼分野、セメント分野、交通分野でのデータを取得したことは評価することができる。また住宅の省エネルギーに関しては丹念なミクロ的調査とデータ収集を基礎に、現状報告および分析を行っており、大きな努力の跡がうかがえる。また政策立案研究としては異質な研究ではあるが、温暖化に強く影響するブラックカーボンの起源となる「カン(kang)による燃焼」実態を実験科学的に解析し興味深い成果を得た。
    しかし、研究を全体的にみると、各サブテーマの整合性がとれておらず、研究の内容に統一性がなく、将来を展望したシナリオが示されていない。その結果、本研究の成果が中国へ還元可能なのか、またそれが逆に日本にとってどのようなメリットになるのか判然としないままに終わっている。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
    目次へ

    研究課題名: E-0903 再生可能エネルギーの大規模導入を可能とする自律協調エネルギーマネジメントシステム(H21−H22)
    研究代表者氏名: 荻本 和彦 (東京大学 生産技術研究所)

    1.研究概要

    本研究では、家庭、業務などの民生部門におけるエネルギーサービス水準を維持・向上しつつ再生可能エネルギーの大規模導入を実現するための自律協調エネルギーマネジメントシステムの構築を目的とし4 つのサブテーマにより実施した。検討したシステムは、気象予測に基づき広域における変動の平滑化効果(以下、ならし効果)を考慮した発電予測や快適な空間の維持向上に必要なエネルギーサービス量を境界条件として、エネルギーシステム全体と協調的に運用される需要側建物等における自律分散型のエネルギーマネジメントシステムである。ここで言う協調とは、再生可能エネルギーの大規模導入による既存エネルギーシステム(ネットワーク)への負担を軽減するよう、集中/分散のエネルギー貯蔵要素や需要機器制御などを活用し、さらにはネットワーク側の電圧や周波数などの品質維持も分担することをいう。
    サブテーマ1では、エネルギーマネジメント等に必要な再生可能エネルギー供給量の変動予測に関する研究として、天気予報や数値予報データを利用した単地点の太陽光発電の発電量予測技術の開発、広域におけるならし効果を考慮した発電量予測技術開発を行った。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    サブテーマ2では、快適性維持と省エネルギーの実現に加えて、電力システム全体に貢献できる建物レベルの分散エネルギーマネジメントシステムの開発を目指し、エネルギーサービス需要量予測に必要な住宅内需要構造解析手法の検討、快適性を損なわない範囲での制御パターンの検討、家庭内機器を制御した場合の効果の評価を行い、装置の実装技術の検証のための装置の試作を行った。
    サブテーマ3では、分散エネルギーマネジメントと集中エネルギーマネジメントが協調したシステムの開発を目指し、分散発電大量導入時の系統安定化対策に関して、蓄電池システムの必要設置容量の適切な評価手法および電気自動車やヒートポンプ給湯機など他の可制御な需要家機器との協調制御手法の確立を行った。
    サブテーマ4では、再生可能エネルギーの変動性に加え、ヒートポンプ給湯機や電気自動車など需要側機器の普及によるエネルギー需要の変動を考慮した動的エネルギー需給解析モデルを用いて、解決すべき課題分析とその解決のための集中/分散エネルギーマネジメントモデルの開発、および、開発された技術に制度を組み合わせて導入した場合の目的達成の可能性の解析・評価を行った。

    ■ E-0903  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ h-093 .pdf PDF [PDF 508 KB]
    ※「 H-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    2 年間という期間を最大限に活かし、所定の目標を達成することができた。
    具体的には、発電量予測は、太陽光発電システムの大量導入には必須の技術課題であり、環境省「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」においても「再生可能電力出力予測」が挙げられている。本研究では、電力システムの安定運用に不可欠の広域の発電量予測の予測誤差は明確になっていないため、導入可能量や必要対策費など定量化が難しいのが現状であった。電力需給の低炭素化に向けた再生可能エネルギー導入について、導入可能量および対策を明らかにすることができた。
    太陽光発電等の出力が不安定な低炭素分散電源を大規模に導入するには、需給バランス調整という観点から家庭等の需要を能動化する集中/分散のエネルギーマネジメントの協調は不可欠である。将来、低コストでこの機能を有する装置を家庭に大量に普及させるための研究として、分散エネルギーマネジメント技術が住宅一軒の快適性、省エネ性、省CO2 などのとして有効に働くこと、またそれが多数の住宅に普及することで太陽光発電や風力発電の高い普及率目標の実現に不可欠な電力システム全体の需給調整力の向上に貢献できるkとを需給解析により検証した。
    配電系統に必要な安定化対策としての蓄電池容量の評価手法は、今後の家庭用太陽光発電システム導入に係るコスト試算に際して有効である。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    また、ヒートポンプ給湯器が系統制御に貢献することで大量の再生可能エネルギー電源導入につながる可能性を明らかにし、低炭素化技術としてのヒートポンプ給湯機の普及促進という点でも期待できることを示した。
    以上の要素を組み合わせた、再生可能エネルギー発電量予測の下での、需要側と供給側の双方の調整力を電力システムの需給調整力確保に活用する集中/分散のエネルギーマネジメントの協調は、中長期ロードマップ小委員会および低炭素社会づくりのためのエネルギーの低炭素化検討会(エネルギー供給WG)の報告書(平成22 年12 月)に取り入れられた。また、研究代表者あるいは参画者は、競争的資金を活用し、それぞれの研究を深堀、発展させる研究、技術研究開発につなげることができた。また、スマート家電、スマートハウスなどの産業界の活動をリードしている。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0903
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0903 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    2 年間という短い期間の研究であったが、課題に沿って入念な分析と提言がなされており、内容の高い研究成果をあげた。成果は明確に集約されており、「再生可能エネルギー」と「自立協調型のマネジメント」という2 つのキーワードの結びつきを、技術的な文脈で納得させるものとなっている。今後の太陽光発電の大量導入に向けて参考にすべき成果が多々あり、研究結果が可及的速やかに政策議論の場において検討されることが期待される。
    一方で環境政策的な研究としてみると、分散自律協調型システムでは居住者・消費者としての市民の省エネルギーへのインセンティブや、ライフスタイルと関連した文脈の研究要素が重要である。居住者や投資者の立場からのシステム設計の内容への参加や関与の課題が今後に残されている。

    4.評点

      総合評点: A    ★★★★☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
    目次へ

    研究課題名: E-0904 低炭素車両の導入による CO2削減策に関する研究(H21-22)
    研究代表者氏名: 近藤美則(独立行政法人国立環境研究所)

    1.研究概要

    低炭素社会づくりに向けて、交通分野でのビジョンの構築と実現に関する研究が急務とされている。低炭素型の社会の実現の一翼を担う低炭素型車両の開発と普及を着実に進めていくためには、車両の実使用状態での CO2排出量の「見える化」による消費者の低炭素選択の推進、今後、広い普及が期待されている電気自動車(BEV)等の電動車両の充電設備設置可能性に関する具体的な検討が必要である。また、小型パーソナルモビリティや LRT(次世代型路面電車システム)等を含めた広義での電動車両の導入による交通行動の転換が重要である。

    図 研究のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    本研究では、短期的削減策として、低炭素型車両の普及と開発をより確実とするため、販売される車両の実使用状態での CO2排出量の評価を行い、信頼性の高い数値の「見える化」を行う。導入間近の BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)の導入効果について,走行特性や充電頻度を含めた形で推定し、実使用状態で予想される効果を利用実態別に明らかにする。短中期的削減策として、電動車両の家庭等での充電設備整備について、居住形態別地域別に可能性を調査、利用可能な充電方式の評価を通して実現可能性の高い整備方法と課題等を明らかにする。中長期的削減策として、個人用移動手段と中量公共交通機関(広義の電動車両)の組合せによる次世代型交通システムについて、技術進歩を考慮しつつ、 CO2、コスト、資源等を指標とする多面的な評価、地域特性に応じた実現可能性の高い提案を行う。
    この研究を実施するために、次の 3つのサブテーマを設ける。
    (1)実使用燃費の見える化と電動車両導入効果の推計に関する研究
    (2)電動車両用充電設備の設置における問題とその解決策に関する研究
    (3)次世代電動車両の性能評価と導入における問題と解決に関する研究

    ■ E-0904  研究概要
    http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/ h-094 .pdf PDF [PDF 508 KB]
    ※「 H-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

    2.研究の達成状況

    サブテーマ (1)では、代表的な市販車 24台に対して、より実利用に近い走行モードを使ったシャシーダイナモ試験を実施して CO2排出量を計測し、ユーザー入力式実燃費データベースであるe燃費(実燃費)からの CO2排出係数と概ね近い値を得ることに成功し、一部の結果を公表した。一方、車両の利用の仕方が CO2排出量に与える影響について、 10-15モードカタログ値に比べ速度パターンの違いで 2〜6割、エンジンが冷えた状態からの利用やヘッドライトやエアコンなどの補機を利用することで 1〜3割の排出増があることを解明した。
    また、つくば市周辺居住者の十数台の(軽)乗用車の長期実利用データをもとに最新の BEVについて利用可能性を試算し、月に1回程度の長距離移動への対応ができれば、ほとんどの車両は家庭充電のみで電気自動車に代替可能であることを明らかにした。また、同じデータを使ってハイブリッド車に比べた PHEVのメリットを比較し、短距離中心利用では大きなメリットが得られるが長距離では小さい、電池搭載量を増やすとメリットが低下する、低炭素な電源利用でなければデメリットが大きい、等を明らかにした。
    サブテーマ (2)では、各地域の家庭における電力契約状況及び、冬季の電力機器使用実態を調査し、現在の家庭での電力契約・使用状況で電動車両を普通充電する場合、深夜は他の電力機器使用への影響はないが、午前中や夕方から深夜にかけてはアンペア契約制の場合にはブレーカーが落ちる可能性があり、家庭での電力マネジメントが必要であるとの示唆を得た。

    図 研究成果のイメージ        
    詳細を見るにはクリックして下さい

    また、道路交通センサス OD調査データを用い、 BEVに代替可能な需要と BEV導入に伴う走行段階での CO2排出量削減効果を示すとともに、 BEVのライフサイクルインベントリ分析を行い、搭載する電池容量がライフサイクル CO2排出量に与える影響に関する感度分析を行った。
    一方、低価格ハイブリッド車・ BEV・PHEVの市販化と、いわゆる「エコカー補助金」「エコカー減税」の実施による消費者の電動車両に対する受容性の変化を、コンジョイント分析によって解析した。消費者の電動車両に対する受容性を踏まえ、電池性能の向上・電池量産効果による価格低下が達成された場合の 2020年時点における電動車両の普及可能性の分析を行い、交付される補助金の額が電動車両の普及率とそれによる CO2排出削減量に大きな影響を与えることを示した。
    サブテーマ (3)では、地域特性を考慮した移動・交通手段の変更による CO2削減量等をより現実的に評価するために、個人用から公共交通機関までの移動手段に対して、文献調査および一部の個人用電動車両は実利用時性能評価を行い、乗車人数、移動速度等を考慮した CO2等の排出原単位データベースを構築した。さらに、現在と今後現れる新規移動手段の性能評価を統一的に実施するためのツールを試作した。
    道路交通センサス OD調査データを用いて人口密度別に一日の走行距離と CO2排出量の地域差を明らかにし、上記データベースにおける低炭素車両の適用範囲を把握した。これらをもとに地域特性を考慮した CO2削減量試算ツールを開発、相模原市のデータにより利用可能性を確認した。
    一方、自動車から公共交通機関、パーソナルモビリティの利用への転換を早くから行っている欧州および米国における現地調査により、転換を成功に導くための各種の検討項目に関する情報を収集した。より確実な実現には、インフラ整備だけではなく、利用実態調査等に基づく整備計画や制度の策定、教育・普及啓発など、ソフト面の取り組みの同時推進が重要であり、都市・地域の目標毎に異なる対応が必要であることを確認した。

    ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0904
    http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/ E-0904 .html

    3.委員の指摘及び提言概要

    自動車からの CO2削減のための実証的でかつ具体的な技術データを蓄積したという意味で、成果が見られる。特に実使用燃費の見える化、および電動車両用充電設備の設置という課題においては、短期的削減策としての知見の獲得に成功している。これらは電気自動車導入促進への施策実施へ資するところがあろう。
    しかし次世代電動車両の性能評価と導入における問題点に関する研究では、データベース、削減量試算ツールのいずれにおいても考え方の枠組みが提示される段階にとどまっており、研究期間が 2年に短縮された影響をうけてではあるが、研究の完成度が十分とはいえない結果となっている。

    4.評点

      総合評点: B    ★★★☆☆  
      必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
      有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
      効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
    目次へ