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中間評価 3.第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>

研究課題名: S2-11 風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究(H22-24)
研究代表者氏名: 橘 秀樹 (千葉工業大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 地球温暖化対策等のための再生可能エネルギー利用として、わが国でも風力発電施設の建設が2000年頃から本格化した。これらの風車の設置場所は静かな農山村部がほとんどであるが、そのような環境に突然風力発電施設が建設された結果、新たな騒音問題が生じることになり、近隣住民から直接的な騒音被害(アノイアンス)だけでなく、健康上の不安に関する苦情が訴えられるようになってきた。この新たな環境騒音問題に対して行政的な対応が必要となったが、わが国ではこの種の騒音に関する科学的知見の蓄積が乏しく、統一的な基準が整備されるには至っていない。また、現在のところ風力発電施設が環境影響評価の対象となっておらず、技術的にも事前評価手法の熟度が低い状況にある。このような現状から、風車騒音の暴露状況の測定・評価の手法及びそれに基づく対策法の確立が必要とされている。
そのための基礎研究として、低周波音を含む風車騒音の人間に対する生理的・心理的影響及び社会的影響に関する調査研究を行うことを目的として、平成22年度から3箇年の予定で本研究が計画された。その具体的な内容は、風車騒音の実測調査、近隣地域住民を対象とした社会反応調査、実験室における風車騒音に係る聴感実験、及び内外における関連資料の調査・整理などから成る。本研究の成果としては、風車騒音の物理的特性(音圧レベル、周波数スペクトルなど)と人間に対する生理的・心理的影響(特にアノイアンス)の関係の解明とともに、風車騒音の測定・評価手法の確立や行政対応における指導指針の整備等が期待される。

図 研究のイメージ        
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■ S2-11  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/s2-11.pdfPDF [PDF 348 KB]

2.研究の進捗状況

3箇年計画の初年度である平成22年度に実施した研究内容の概要は以下に述べるとおりである。
(1) 研究総括および関係資料の収集 音響学、機械工学、心理学、医学などの諸分野の専門家から成る研究委員会を設置し、環境省との連携のもとに研究の全体計画、サブテーマ間の調整、低周波音測定システムの開発を行った。また、風車騒音に関する諸資料の収集・整理を開始した。
(2) 風車騒音の実測調査および地域住民に対する影響調査 風車騒音の実態を把握するために、3年間で全国36の風力発電施設を対象とした実測調査・社会反応調査を計画している。そのうち、平成22年度には6箇所の施設周辺における騒音・低周波音の実測調査及びそのうちの4箇所の施設周辺の住民を対象としたインタビュー方式によるアンケート調査を実施した。これらの調査によって、風車騒音の物理的特性が詳細なデータとして得られ、また近隣住民の住環境に対する意識、風力発電施設に対する問題意識、騒音によるアノイアンス及び自覚的健康状態などに関するアンケート調査を試行することができた。これらの調査は、(社)日本騒音制御工学会に業務を委託し、同学会に所属する全国の研究者・専門家の協力を得て実施している。
(3) 実験室における風車騒音に係る聴感実験 風車騒音には超低周波音領域を含む低周波数の音が含まれている。この種の騒音・低周波音に対するヒトの聴覚生理・心理的反応を実験室実験によって調べることを目的とし、3年間で120名程度の被験者を対象とした聴感実験を計画している。この実験のためには、ヒトの可聴周波数の下限とされている20Hz以下の超低周波音も再生できることが必要で、本年度はこの性能を有する実験設備を東京大学生産技術研究所の音響実験施設内に構築した。また、それを用いた基本的実験として、10Hz〜200Hzの低周波数域の純音に対する聴覚閾値を21歳〜33歳の20名(男性16名、女性4名)を被験者として調べた。この実験的研究は、東京大学生産技術研究所に業務を委託して実施している。

3.委員の指摘及び提言概要

風力発電施設からの低周波音を含む風車騒音の人間に対する生理的・心理的影響及び社会的影響に関する調査研究を行うことを目的として研究が推進され、風車騒音の実態そのものを把握できるようになりつつあることは、高く評価できる。風力発電施設の環境アセスメント手法の確立は政策的意義がきわめて高く、また東日本大震災とそれに伴う原子力発電所のトラブルの結果、風力発電に対する注目も以前より高くなっており、本研究成果の環境政策への活用も重要になってくると思われる。行政ニーズの高い研究として、行政にいかに役立つかを考えつつ今後の研究を進めてほしい。人への影響を疫学的に明らかにする視点からは、疫学の専門家を研究分担者に加えるのが望ましい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: C-1001 わが国都市部のPM2.5 に対する大気質モデルの妥当性と予測誤差の評価(H22-24)
研究代表者氏名: 速水 洋 (財団法人 電力中央研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 環境省は2009 年9 月にPM2.5 の環境基準を告示したが、都市部を中心に多くの地域で環境基準を達成できない可能性がある。一部ですでに対策の検討が進められているが、現状の大気質モデルはPM2.5 対策の効果を高い精度で予測・評価可能なレベルにあるとはいえない。そこで本研究は、PM2.5 濃度再現性を向上して大気質モデルをわが国のPM2.5 対策検討に「使える」ツールと して確立することを最終的な目標とする。そのために、
(1)大気質モデルの改良・検証を目的とした観測データと、
(2)より完全な原因物質排出量データを整備し、
(3)国内の都市大気質モデル研究者の協力による比較計算を実施して大気質モデルの精度を評価する。

図 研究のイメージ        
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■ C-1001  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1001.pdfPDF [PDF 407KB]

2.研究の進捗状況

(1)二次生成成分の時間・空間分布の把握と二次粒子生成サブモデルの検証2010 年初冬期の首都圏内複数地点において、4 時間毎のフィルタサンプリングを中心とする大気調査を実施した。硫酸塩を除く主要成分の濃度はPM2.5 質量濃度ととともに変動したが、高濃度時にはEC/TC 比が上昇し、化石燃焼およびバイオマス燃焼の影響が大きくなることが示唆された。また、フィルタ法によるOC 濃度は、比較的濃度の高い時では最高30 %程度がフィルタに吸着されたガス態OC に由来することが示され、大気質モデルのOC 濃度過小予測の一因が観測側にもあることがわかった。さらに、係留気球により上空の粒子数およびEC(BC)濃度を観測したところ、夜間〜早朝には下層で濃度が高くなるが、日中にはほぼ鉛直一様にあり、地上付近のPM2.5 質量濃度にみられる日内変動(早朝・夕方の濃度が正午前後よりも高い)をもたらすひとつの要因と考えられた。
(2)二次粒子生成に係わる未把握原因物質の排出インベントリ構築二次粒子の原因物質として重要であるにもかかわらず不明な点の多いNH3 とSVOC について調査を行った。NH3 については、最新の国内排出インベントリ(JATOP、EAGrid2000)で採用されている家畜と施肥の排出係数を文献調査により最新のものに更新した。また、下水管渠内のNH3 濃度を実際に測定し、下水管渠が都市における重要なNH3 発生源になり得ることを示した。SVOC については、PRTR 調査結果などを用いて排出の可能性のある成分と量を把握した。
(3)相互比較による大気質モデリングの妥当性検証と予測精度評価大気質モデルの相互比較においてモデル入力条件を統一するために、排出量と気象のデータセットを作成した。相互比較には国内の7 機関8 モデルが参加した。解析では、二次粒子よりも挙動が単純であるにもかかわらず、モデルで過小予測されたEC に着目し、その原因を各過程(排出、輸送・拡散、沈着)に分けて調べた。その結果、EC 濃度は排出過程と鉛直拡散過程に強く影響されることが明らかとなった。また、(1)で得られた鉛直濃度分布に対して再現計算を試みたところ、鉛直分布の日変化は定性的に一致したものの、地上濃度の予測精度向上のためには観測された大きな鉛直濃度差をモデルで再現する必要のあることがわかった。

3.委員の指摘及び提言概要

都市域において濃度低減が求められているPM2.5 に関して、冬季における首都圏の水平、垂直、及び時系列の実測データを得て、そのデータの解析より排出量と鉛直拡散の影響を明らかにしたことは評価できる。ただし、選定した観測地点5か所で得られたデータの大気質モデル構築に向けた有用性の検証、考察はまだ不十分であるので、早急に検討を行ったうえで、今後の観測計画を進めた方がよい。また、現在は各種モデル間で整合性が得られていないが、PM2.5 の濃度予測と濃度低減のため開発中の大気質モデルは重要であり、その改良を目標として着実な研究を進めるのがよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: C-1002 ディーゼル起源ナノ粒子内部混合状態の新しい計測法(健康リスク研究への貢献)(H22-24)
研究代表者氏名: 藤谷 雄二 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 内側に低溶解性の粒子があり、外側に高溶解性の成分が付着した内部混合状態の粒子は、肺胞に沈着後に外側のみが溶解して、さらに粒径が小さい低溶解性の粒子として残れば、細胞透過性が増す。したがって生体との相互作用、毒性の評価を考える上で、粒子の構造や成分、それらの内部混合状態の情報が必要である。本研究ではディーゼルナノ粒子に対して、新しい計測法“集束イオンビーム質量顕微鏡”を適用し、従来の分析手法では明らかになっていない一粒子単位の化学組成(有機物・無機物)、内部混合状態の情報を獲得するための手法を確立し、ディーゼルナノ粒子の毒性評価、健康リスク研究に、その情報を提供することを目的とする。

図 研究のイメージ        
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■ C-1002  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1002.pdfPDF [PDF 247KB]

2.研究の進捗状況

捕集基板、捕集法を最適化した上で、ディーゼル粒子を空気力学径30〜630nm の範囲内の6粒径区分に分級採取した。集束イオンビーム質量顕微鏡を用い、それらの試料の個別分析を行った。実粒径、化学組成、形態に応じて、ディーゼル油滴、塊状のスス粒子、CaCl2、炭素、Na/K主成分粒子の5 種類に分類され、初めて個別粒子の組成が明らかになった。一方、ターゲットの有機化合物をレーザーイオン化するのに適したレーザー波長の選定を行い、PAHs には266 nmによるレーザーイオン化が、キノン類には118 nm によるレーザーイオン化が適していることが分かった。

3.委員の指摘及び提言概要

集束イオンビーム質量顕微鏡という高度な機器を用いて、ディーゼル起源ナノ粒子の内部混合状態の計測法を開発しようとしていることはある程度評価できる。ただし、研究目標である健康リスクへの貢献、および本研究成果が環境中ナノ粒子の動態把握や規制といった環境政策への活用可能性に関してはまだ不明確である。また、本研究で開発された計測法について、ディーゼル起源ナノ粒子以外の環境中微小粒子計測適用可能性など、活用方法を検討する必要がある。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: C-1003 HBCD 等の製品中残留性化学物質のライフサイクル評価と代替比較に基づくリスク低減手法(H22-24)
研究代表者氏名: 益永 茂樹 (横浜国立大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 国際化学物質管理会議で採択された国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)では、2020 年までに化学物質のライフサイクルを通したリスクの最小化がうたわれ、対応が求められている。また、リスクが指摘された化学物質に対し、行政が使用禁止や代替を誘導したり、事業者が自主的に代替物質に代えたりすることは多いが、本当に総リスクの低減につながるか評価されていることはまれである。このような状況の下、ライフサイクルを通した代替リスクを比較する手法の整備が急務となっている。そこで、本研究では、マテリアルフロー解析を基盤としてライフステージ毎に環境放出量と曝露量を推定し、それらによる人健康や生態リスクを評価し、リスクの大きいライフステージを明らかにすること、さらには、代替物質あるいは代替プロセスとの間でライフサイクルを通した総リスクの比較を可能にするリスク比較手法を提示し、適切な対策の選択を支援することを目指す。具体的には、ストックホルム条約で残留性有機汚染物質(POPs)の候補として取り上げられているヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)を研究対象物質として、その代替候補物質・プロセスと合わせて全ライフサイクルを通した代替リスク比較を実施し、それに基づき一般化した代替リスク評価手法を提示する。

図 研究のイメージ        
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■ C-1003  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1003.pdfPDF [PDF 394KB]

2.研究の進捗状況

(1)ライフサイクルを通した環境排出量評価手法の構築マテリアルフロー解析に必要な排出係数を既存のデータベースやツールに基づき推定したが、情報源により環境排出量推定結果が大きく異なってしまい、実態に即した排出係数の整備の必要性が示唆された。特に、HBCD 含有製品の廃棄段階や火災等の非定常時の排出係数に関する情報が不足していることが分かった。そこで簡易焼却実験装置を試作し、難燃加工カーテンを試料とした予備的な焼却実験を行い、生成物質の定性を試み、複数の臭素系芳香族化合物を検出した。また、火災等の非定常時を想定し、難燃剤の種類や温度によって急性毒性を有するガス(一酸化炭素等)の生成が異なることを認めた。今後、HBCD 含有製品について実験を行い、情報を整備する予定である。
(2)ライフサイクルを通した曝露評価手法の構築環境動態予測モデルの推定精度や曝露シナリオのスクリーニング手法の検証のための基礎情報として、HBCD 等の環境媒体中濃度に関する情報を収集、整理した。さらに、HBCD を含有する不純物や、分解産物に関する情報を収集した。他方、環境動態予測モデルの予測精度検証に関する研究例を収集するとともに、発生源近傍大気濃度予測モデル、作業環境曝露モデル、および消費者曝露予測モデルに必要なパラメータを整理した。対象化学物質の物性から主要な曝露シナリオを抽出するために、代表的な物性値から、特定の媒体間移行や曝露シナリオの重要性をスコアリングする手法について検討し、曝露シナリオのス2 / 3クリーニング手法を仮提案した。
(3)代替オプション間のライフサイクルリスクの比較とリスク低減手段の提案HBCD の代替物質開発状況を調査した。特許情報等から候補物質138 種が選定され、産業界のヒアリング等によりさらに絞りこみ、最終的に4 種の用途に対して5 物質をHBCD のモデル代替化合物として選定した。次に、HBCD を継続使用する場合と各用途で代替が進む場合の2つのシナリオについて、マテリアルフロー解析に基づきHBCD と代替物質のライフステージ別使用量、排出量の経時変遷(1986〜2020 年)を予測した。その結果、代替物質導入によりHBCD 排出量は2020 年には80%以上削減されるが、長寿命の製品中に長く残存することがわかった。他方、代替物質は単位製品当たりの使用量がHBCD より多くなるため、排出量が経時的に増加すると予測された。今後、推定精度の向上を図ると共に、リスク削減や代替プロセスとの比較に発展させる予定である。HBCD と代替物質の間でリスク比較を行う際の課題について予備的検討を行った。まず、同等の難燃性を担保した場合の製品からの代替難燃剤の放散量を予測し、モデルを用いて曝露量を推定した。次に、同じエンドポイントに対する毒性試験結果が存在するが、それら質(不確実性)が異なる化学物質について検討し、ベンチマーク用量とその不確実性の分布を推定することで、毒性実験設計や精度に依存しない有害性評価値を算出する方法を提案した。

3.委員の指摘及び提言概要

ライフサイクルを通した化学物質の環境排出量評価手法の開発は、より安全な化学物質への代替の促進に当たって重要な課題である。本研究では、臭素系難燃剤として広く使用されているHBCD(ヘキサブロモシクロドデカン)の代替物質の探索と特定に至る手順を明らかにし、代替過程を考慮した環境排出量の推定手法を構築、提示しつつあり、その成果は高く評価できる。文献情報だけでなく、関連企業への聞き取り調査や難燃剤の焼却処理における挙動試験を実施して、必要なパラメータを得る努力がなされている。不足する実験データや情報を今後どのように集めていくか等、検討すべき課題があるが、化学物質リスク低減を可能にする一般的な評価手法の開発が期待できる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: C-1004 産業環境システムの耐リスク性(H22-24)
研究代表者氏名: 東海 明宏 (大阪大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 生活の利便性と環境質の維持のために、これらを一体として形成される産業環境システムのリスク管理が求められている。本研究では、産業環境システムがどれほど複数の環境制約、利便性の維持の実現に対して対応可能であるか、ということを耐リスク性という視点で、自動車を取り上げ、リスク評価手法、ライフサイクル評価手法、不確実性評価手法、環境家計簿技法を用いて、資源転換、規制の強化にともなうリスクに対する産業環境システムの適応性を評価し、管理戦略の構築を目指すものです。これにより、生活者の利便性と環境への依存の裏表の関係が明確化され、リスクからみた生活・産業・環境の環境適合への貢献が期待されます。

図 研究のイメージ        
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■ C-1004  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1004.pdfPDF [PDF 243KB]

2.研究の進捗状況

課題1 耐リスク性の評価手法の構築課題1では,耐リスク性評価手法のプロトタイプモデルを構築した。このモデルは,ライフサイクルを通じた化学物質の環境リスクを、リスクトレードオフおよび不確実性情報の視点からの解析を可能とするものであり、ある一面におけるリスク削減が別の環境側面への改善・改悪の程度の把握を可能とする方法である。課題2で取り上げた物質に適用することで、手法の特徴をまとめた。H23 年度以降は引き続き、適用事例を増やし手法の有効性を検証する予定である。
課題2 ケーススタディ:製品のリスク評価の実施課題2では,自動車に由来する環境負荷物として、素材に用いられる化学物質のなかで優先性の高い物質に関し基礎情報の収集整備を行った。その結果、DecaBDE およびEBPBP に関し、H23 年度以降に実施する暫定版リスク評価シート作成のため必要となる知見の収集を行うとともに、スクリーニングレポートをまとめた。さらに、リスク評価の全体構造とその手順を整理した。H23 年度においては,リスク・リスクトレードオフを論点に据えたリスク評価シートの作成とリスクに関する情報の価値の解析を行う予定である.
課題3 社会的合意形成の検討課題3では、生活者が自分自身および社会全体のリスクを考えながらリスク削減行動誘発支援装置を開発する。H22 年度は、交通行動をとりあげ、「自分自身の便益とリスク」と「社会全体の便益とリスク」に関する環境家計簿を作成し生活者を対象として実地調査を行った。72 名のデータを収集した。その結果、自動車の所有に伴う環境・社会依存性脱却のための行動選択の可能性が示された。その行動の一例としては、自動車の所有行動、買い替え行動、代替交通手段の選択行動、利用方法の工夫、等であった。今後調査を継続することで、ライフスタイル要因を自動車由来の負荷・環境リスク計画変数として利用できる可能性を検討する予定である。

3.委員の指摘及び提言概要

企業等が意思決定を行う際に求められる統合的な耐リスク性に関する不確実性の定量的評価手法を開発しようという、大きな構想を持ったチャレンジングな課題である。
しかし、今回の提案は作業仮説の域を出ておらず、その仮説の正しさや有用性をどのようにして検証・実証するのか、研究の方針が明確でない。また、新たに多くの指標(耐リスク性、情報の価値、鋭敏比)が導入されているが、その概念および研究全体の構想との関係についての説明が不十分である。研究費配分額に見合った研究成果があげられるよう、研究協力者を増やし研究体制を強化するなど、早急な対策が必要である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: C-1005 大気中粒子状物質の成分組成及びオゾンが気管支喘息発作に及ぼす影響に関する疫学研究(H22-24)
研究代表者氏名: 島 正之 (兵庫医科大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ大気環境中の粒子状物質、特に粒径2.5μm以下の微小粒子状物質(PM2.5)は、呼吸器系、循環器系に様々な影響を生じることが諸外国で報告されており、わが国でも2009年に環境基準が設定された。しかし、わが国では大気汚染の健康影響に関する知見は限られており、特に粒子状物質の成分濃度と健康影響との関連を評価した研究はほとんど行われていない。粒子状物質の粒径別分布及び成分組成は国や地域によって異なり、健康影響には人種や生活習慣等の違いによる差も考えられることから、わが国において粒子状物質及びその成分組成と健康影響との関連を明らかにするための疫学研究が必要である。さらに、近年は中国大陸から春季に飛来する黄砂や春〜夏季に高濃度となるオゾンの健康影響も懸念されている。
そこで、本研究では、長年にわたり気管支喘息発作数が1週間毎に性・年齢・居住地区別に集計されている兵庫県姫路市において、粒径別に粒子状物質の連続測定を実施し、質量濃度に加えて、元素成分、イオン成分の分析を行い、大気汚染常時監視の結果も含めて、喘息発作数との関連を検討する。
サブテーマは、以下の3つにより構成した。
(1)大気中粒子状物質及びオゾンの気管支喘息発作への影響に関する疫学研究
(2)大気中粒子状物質のPIXE法による多元素分析及びイオン成分の分析
(3)大気中粒子状物質の日平均成分濃度の解析

図 研究のイメージ        
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■ C-1005  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1005.pdfPDF [PDF 284 KB]

2.研究の進捗状況

(1)姫路市市街地の飾磨局における2010年度のPM2.5、PM10、ディーゼル排ガス由来のブラックカーボン(OBC)の平均濃度はそれぞれ20.5μg/m3、33.4μg/m3、0.52μg/m3であった。粒子状物質の測定を開始した2008年8月から2011年1月までに報告された喘息発作数30,929件について、一般化線型モデルにより気温、湿度等を調整して粒子状物質濃度との関連を解析した。65歳以上ではPM2.5の週平均濃度10μg/m3増加当たりの喘息発作リスク比は1.06[95%信頼区間:1.01-1.10]、15-64歳ではOBCの週平均濃度1μg/m3増加当たり1.07 [1.01-1.13]と有意な増大が認められた。0-14歳ではいずれの物質とも有意な関連は認められず、小児では大気汚染以外の影響が大きいことが示唆された。
1995〜2010年の喘息発作数(167,138件)を用いた解析では、全年齢で光化学オキシダント及び二酸化窒素濃度との関連が有意であり、浮遊粒子状物質濃度との関連は65歳以上においてのみ有意であった。
サブテーマ(2)で得られた成分濃度については、イオン成分PO43-、元素成分K、Rb等と喘息発作との関係が示唆されたが、粒子の粒径及び季節等によって異なっていた。さらに長期的な観察とともに、粒子成分の発生源寄与割合等も考慮した検討が必要と考えられた。
(2)2009年11月から2011年3月までに1週間毎に大気中粒子状物質を粒径別に捕集し、荷電粒子励起X線(PIXE)法により元素分析を行った。定量された主要元素は、Na、Mg、Al、Si、S、Cl、K、Ca、FeおよびZnの10元素であり、粒径サイズが小さくなるにしたがってNa、Mg、Al、Si、Cl、KおよびCaの値は低下し、SとZnの値は高かった。イオンクロマトグラフ法によるイオン成分の分析では、Cl-、NO3-、SO42-、Na+およびNH4+が主体で、SO42-とNH4+は粒径サイズが小さくなるにしたがって高い値を示した。NO3-はPM2.5よりも粒径2.5μm以上の粗大粒子側が際立って高く、SO42-およびNH4+とは発生源が異なることが示唆された。NO3-がPM2.5よりも粒径の大きい粗大粒子側に多い要因として、海水中のNaClとHNO3が反応してNanO3が生成した可能性が考えられた。
(3)各季節に20日間ずつ24時間毎に粒子状物質及びガス状物質の連続捕集を行った。フィルタ秤量法によるPM2.5及びPM10-2.5の質量濃度と、サブテーマ(1)で実施した自動測定法による粒子状物質濃度の相関は高く、特にPM2.5は良好であったが、フィルタ秤量法に比べ自動測定法が高濃度となる傾向がみられ、測定時の相対湿度の影響が示唆された。この傾向は夏季に顕著であり、平均で30%程度高かった。
PM2.5の主要成分は、全季節を通じてSO42-とOCの割合が高く、夏季にはそれぞれ28.8%、26.2%であった。PM2.5質量濃度と各成分との相関係数は、全季節でSO42-、NH4+との間がそれぞれ0.9以上、OC、K+との間がそれぞれ0.8以上であり、これらがPM2.5質量濃度の支配要因であることが示された。ガス状物質については、HnO3は冬季に、SO2は夏季に、NH3は全季節にPM2.5質量濃度との相関係数が小さく、PM2.5濃度を支配する要因ではなかった。
PM2.5成分濃度にPositive Matrix Factorization(PMF)解析を適用した結果、7種の発生源因子が抽出された。そのうち硫酸アンモニウムを指標とする因子の寄与割合が最も大きかったが、重油燃焼や製鋼業等の地域的な発生源と推測される因子の寄与もみられた。

3.委員の指摘及び提言概要

15年間以上の気管支喘息発作数が性・年齢・居住地区別に集計されている兵庫県姫路市において、粒径別粒子状物質の質量濃度に加えて、元素成分、イオン成分の分析を行い、大気汚染常時監視の結果も含めて、喘息発作数との関連を検討しており、興味ある成果としてかなり高く評価できる。姫路市のデータは非常に貴重であるので、今後は発生源別要因との関連分析、性別、居住地(道路沿道―非沿道地)、また喘息発作の原因となる大気汚染以外の因子との関係等、さらに詳細な分析・解析がなされることを期待する。また、急病センター受診者と1日データとの関係も興味深いので、今後は重点課題として研究を進めるとよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: C-1006 妊婦の環境由来化学物質への曝露が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究(H22-24)
研究代表者氏名: 柴田 英治 (産業医科大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 子宮内胎児発育遅延は周産期死亡率の増加、精神神経発達障害、また将来の生活習慣病発症のリスク因子である。正常な胎児発育は胎盤の栄養素輸送機能に強く依存している。従来、子宮内胎児発育遅延は子宮胎盤血流量の減少による母体から胎児への酸素・栄養素の供給量低下が主病態とされてきた。しかしながら、近年、環境由来化学物質の曝露と出生体重減少との関連性が報告され、胎盤の栄養素輸送機能が環境因子(環境由来化学物質)によっても修飾されていることが示唆されている。様々な環境化学物質の胎児毒性については、胎盤を通過し胎児に直接到達した化学物質の影響について論じる報告が多い。
しかしながら、化学物質は胎盤通過性がなくても胎盤の母体面(栄養膜細胞層)に到達し胎盤機能を修飾することによって、間接的に胎児に悪影響を与え得る。環境化学物質が与える胎児・小児疾患の研究においては胎盤機能評価が極めて重要であり、本調査は、我が国の「エコチル調査」においても重要な役割を果たすと考えられる。そこで我々は、環境由来化学物質は、胎盤栄養素輸送障害により胎児発育を制限するという研究仮説もと、研究計画を立案・実施した。

図 研究のイメージ        
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■ C-1006  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1006.pdfPDF [PDF 265 KB]

2.研究の進捗状況

(1)環境由来化学物質が胎盤栄養素輸送機能に与える影響の研究
正常妊娠末期の9症例を対象とし、実際の生体内(母体・胎児血中)の環境化学物質濃度を測定した。母体・胎児試料の両方で水銀が検出された。水銀においては母体静脈血よりも臍帯静脈血で濃度が高く、世代間で濃縮傾向にあることが示唆された。カドミウムは母体試料で検出されたが、臍帯静脈血では検出されず、胎盤通過性の低さが確認された。鉛、ヒ素、農薬類は、全ての生体試料において測定限界以下であった。
環境化学物質が胎盤栄養素輸送活性に与える影響についてin vitroで調べた。メチル水銀、ヒ素、カドミウムやグルタルアルデヒド、2,6−トリレンジイソシアネートは、胎盤アミノ酸輸送活性を有意に低下させ、胎児発育を修飾する環境化学物質と考えられた。環境化学物質は胎盤機能を修飾し間接的に胎児発育を制限している可能性が示唆された。
妊娠中の職業と胎盤栄養素輸送機能との関連性について調べた。妊娠中も職業に従事している有職者群では、非有職者群に比較して胎盤重量と単位胎盤当りの栄養膜細胞容積が減少傾向にあり、労働環境に胎盤機能を修飾する因子が存在することが推察された。
今後、このような環境因子(化学物質や労働環境)が胎盤栄養素輸送を変化させるメカニズムについて詳細に分析する。
(2)胎盤のアミノ酸・糖輸送活性および低酸素障害に関する研究
エコチル調査「パイロット調査」55症例の妊娠・分娩・胎盤基本情報、胎盤低酸素指標、胎盤栄養素輸送機能評価(胎盤重量・胎盤容積・胎盤病理学的診断、胎盤栄養膜細胞容積・胎盤栄養素輸送蛋白の発現)を行った。H.E.染色の画像解析による胎盤栄養膜細胞容積の定量は可能であり、胎盤機能を反映する因子として重要であると考えられた。また、Mammalian target of rapamycin(mTOR)シグナルは、環境化学物質などのストレスに反応する因子と考えられ、胎盤におけるmTOR定量とその活性化について分析した。今後、当サブユニットセンターで得られたこれらの胎盤機能に関連する基礎データと、国立環境研究所で計測予定の母体静脈血・臍帯静脈血中の環境化学物質との相関性について分析を行う。
妊娠高血圧症候群および子宮内胎児発育遅延の胎盤では胎児・胎盤の低酸素・低栄養に適応し、栄養膜細胞においてアミノ酸輸送蛋白およびmTORシグナリング発現が亢進していることが示唆された。胎盤にはストレス(環境化学物質・低酸素・低栄養など)に反応し、mTORシグナリング修飾を介してアミノ酸輸送蛋白発現などのレギュレーションを行い、胎児栄養障害に適応するメカニズムが存在することが示唆された。今後、環境化学物質が胎盤のmTORシグナルに与える影響についても分析する。
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3.委員の指摘及び提言概要

エコチル調査の追加調査として、環境由来化学物質による胎盤栄養輸送障害が子宮内胎児の発育を抑制する影響を明らかにすることを目的に研究を実施しているが、研究成果にはあまり見るべきものがない。研究目的は新しい視点として意義があると思われるが、生体内(母体・胎児血中)の環境化学物質濃度を測定した症例数が5例と少なく、また胎盤栄養素輸送機能評価(胎盤重量・胎盤容積・胎盤病理学的診断、胎盤栄養膜細胞容積・胎盤栄養素輸送蛋白の発現)も55症例であり、研究目的を検証するデータとして不十分である。実験方法及び解析手法をさらに明確にして、エコチル調査に貢献できる研究成果が得られるよう最大限の努力をすることが望まれる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: C-1007 化学物質の複合暴露による健康リスク評価に関する分子毒性学的研究(H22-24)
研究代表者氏名: 菅野 純 (国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)

1.研究概要

図 研究のイメージ 【目的】 本研究は、中央環境審議会からも指摘され国民の関心も高いが、現行の毒性評価法では技術的に対応困難であるところの、環境化学物質の複合暴露の健康リスク評価について、トキシコゲノミクスによる分子毒性学的な有害性評価検討手法を適用し、その網羅性、定量性、及び分子メカニズム解析能をもって、それを可能とする評価基盤を構築することを目的とする。
【背景】 人や野生動物は、環境中に意図的に散布された、或いは非意図的に分散した複数の化学物質の複合暴露を受けているが、法規制に関わる基準値は単独化合物についてしか検討されていない。その理由として、複合暴露問題が現行の毒性学では扱いきれていないことが挙げられ、そこには、解決を要する2つの問題点が存在している。
第一点は、現行の毒性学では、化学物質Aの毒性情報と、化学物質Bの毒性情報が在ったとしても、それらが現象論的な情報であることから、A+Bの複合暴露による毒性を予測することが困難であり、A+Bは、新物質Cとして改めて検討し直す必要がある。このため、複合暴露の評価には、化学物質や濃度毎の厖大な組み合わせ数の毒性試験を逐次実施しなければならない状況にあり、現実的に手がつかないのである。

図 研究のイメージ        
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第二点は、複合暴露が起こった際の閾値が、個々の単一化学物質の閾値と同等であるかどうかの科学的検討がなされていないことである。毒性に閾値があるということは、例えば、体の中に毒性に対抗する中和物質が備わっていて、ある量の毒性物質までは中和するためであると考えることが出来る。現行の法規制は、個々の化学物質の暴露量が閾値以下であれば、複数の化学物質に同時に暴露されても、毒性症状は現れないと仮定している。しかし、実際は体内の中和物質の減少はこの閾値以下の量でも起こるので、個々が閾値以下の量であっても複合して作用した場合、中和物質が枯渇し、毒性症状が現れる可能性がある。
これらの問題点は、毒性学の近代化を目指し我々が進めているパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクス法(Kanno et. al. BMC Genomics (2006), 7:64、特許第4415079号)により解決することが可能である。この手法は、mRNA発現データの精度と定量的な取り扱い性能を格段に向上させたものであり、最終表現形としての毒性症状が明らかになる前の段階から、且つ微量暴露の状態から化学物質影響を、網羅性を担保しつつ、遺伝子レベルで高感度・定量的に観察するものである。そのため、分子毒性機序に基づく評価が可能となり、化学物質A+BをCとせず、AとBのそれぞれのPercellome情報からA+Bを科学的に評価するための技術基盤開発が大いに期待される。
【アプローチ】 実施に当たっては、短期間で効率良く開発を進めるために、必要な諸技術をゼロから開発するのではなく、研究代表者独自の複合影響判定に関する数理統計学的基礎(Matsunaga et. al. Enviromentrics (2009), 20:1-13)と、開発済みの分子毒性学的な有害性評価検討手法であるパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクス手法、及びこれを利用して構築した既存の大規模・高精度トキシコゲノミクスデータベース(Percellomeデータベース)を用いる。

■ C-1007  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1007.pdfPDF [PDF 425KB]

2.研究の進捗状況

本研究課題を開始するに当たり、今後の解析に必要な高精度データの取得に加え、実験手技と解析手法の確認と最適化にも重点を置いた。
【化学物質選択】 初年度である平成22年度は、環境化学物質であり、工業的には主に溶剤として使用されている2物質、四塩化炭素(CCl4)及びトルエンを複合暴露実験のモデル物質として選択した。これらの個々の化学物質は、既存のPercellomeデータベースに、複数の暴露条件(単回経口投与(肝を中心として、一部は反復投与)、多臓器解析、及び吸入暴露)に於けるトランスクリプトームデータが豊富に存在することも選択の大きな理由である。単独暴露用量は、既存データの実験条件と整合を取り、また毒性機序の起点を捉えるために、病理組織学的検査に於いて毒性所見が現れない用量域に設定した。複合暴露の用量は、各化学物質の単独暴露用量から数理統計学的に設定した。
【複合暴露実験】 実験動物(マウス)に於ける複合暴露実験は、高度な実験技術と経験を有するサブテーマ担当者が専従し、厳密な飼育環境維持(特に照明制御による概日リズムの堅持)のもと、mRNA用サンプル採取に最適化された高度なプロトコールに基づいて実施し、単独投与群(各1)、複合投与群(1)、溶媒対照群(1)の4群(n=3)につき、投与後2、4、8、及び24時間に採取した肝、肺、腎の計144サンプルを得た。
用量設定に於いて企図した通り、一般状態、体重、剖検、臓器重量及び病理組織学的検査結果には単独投与、複合投与とも影響は検出されなかった。また一般状態、体重、臓器重量及び後述の遺伝子発現データに於いても概日リズムの乱れを示す異常は検出されず、Percellome遺伝子発現解析に適した高品質のmRNA測定用サンプル採取に成功したものと判断した。
【遺伝子発現情報解析】 採取したサンプルから、Percellome標準プロトコールに沿って、低分解・高純度のRNAを抽出し、GeneChip MOE430 2(Affymetrix)を用いて、マウスの全遺伝子に相当する約4万種のmRNAの経時的発現量変動を細胞1個当たりのコピー数という絶対単位量として測定した。
データ解析は開発済みのPercellome用各種ソフトウエアを用いて行った。これらのソフトウエアでは、遺伝子(プローブセット)ごとに用量×時間×発現量からなる3次元曲面パターンを生成し総合的な解析を行うことを特徴としている。
初年度は先ず、暴露条件(単独、複合、用量)、時間、発現量の組み合わせからなる様々な形式の3次元曲面を生成し、これを、標準的な単独、時間、発現量の組み合わせデータ用に開発された既存のPercellome用ソフトウエアへ適合させる複数の試行を進め、それらの性能評価を実施した。特に、RSort(特徴的な発現を示す遺伝子をその3次元曲面パターンを用いて自動抽出する独自アルゴリズム)に於いて、複合暴露実験の特徴的な変動を最も高感度に検出することの出来る3次元曲面パターンを選定した。これを複合暴露評価に於ける標準マトリクスとして採用し、RSortを用いて単独暴露及び複合暴露に反応した候補遺伝子を自動抽出した。これらの候補遺伝子の発現パターンを、Percellomeデータベースの単独投与時データと比較した結果、四塩化炭素×トルエンの複合暴露下で相加、相乗、及び相殺の発現パターンを示す遺伝子リストを自動的に得た。
【考察】 初年度は、研究計画での見込み通り、複合暴露影響のある遺伝子を既存のPercellome用ソフトウエアによって自動的に検出可能であることが確認されたことから、今後の研究実施に於いて効率的な網羅的解析と、それによる目標達成の可能性が高まった。
一方、臓器間のデータ比較により、複合暴露影響に於いても臓器特異性があることが明確に示された。このことから、複合暴露による生体影響評価・予測に際しては、臓器単位の複合影響が全身症状にどの様に反映されるかを検討するために、もう一段階複雑な解析を行う必要性が明らかとなった。次年度以降は、肝、肺、及び腎での臓器間解析をモデルとして基礎検討を進める。
さらに経時的データの解析結果から、個々の化学物質の単独暴露による経時的影響と、これらの複合暴露による経時的影響に乖離がある遺伝子が存在することが認められた。このことから、複合暴露によって遺伝子発現ネットワークの構造に動的変動が誘発されることが明らかとなった。このレベルの解析には、さらに概日リズムを基盤としたホメオスターシスと複合暴露との動的相互作用を考慮する必要があることが判明した。この点については、既にPercellomeプロジェクトで検討を開始している概日リズムの基本的データベース、及び、概日リズムを相殺してデータ解析を行うアルゴリズムを開発済みであることから、速やかな対応が可能である。
 四塩化炭素とトルエンに複合暴露されることによって毒性が増強されるといった報告は過去に例が無いが、遺伝子発現レベルからみると、潜在的な相乗影響が存在している可能性が示唆された。
本研究では、分子機序に基づいた単独暴露情報の組み合わせからの複合暴露影響の予測の方法論の開発に重点を置いて進めている。現在までに抽出された候補遺伝子数からすると、本研究期間中に複合暴露による相乗影響を起こし得る遺伝子のリストと、それらの持つ特性(機能、発現制御機構、臓器分布、臓器内局在等)の多くを捕捉できる可能性が高いと考える。

3.委員の指摘及び提言概要

現行の毒性評価法では技術的に対応が困難である環境化学物質の複合暴露の健康リスク評価を、研究代表者が開発したパーセローム(Percellome)トキシコゲノミクスによって可能にすることを目的として研究を推進し、質の高い成果が得られつつあることはある程度評価できる。ただし、初年度はトルエンと四塩化炭素の組み合わせであり、次年度以降の計画も1年間一組(2物質)の実験である。人への影響が問題となる環境化学物質の数は膨大であるので、このような限られた数の複合暴露影響評価データがどのように環境政策に活用できるのか明確にすべきである。また、今回の複合暴露データから健康上どのような影響があるのかを理解することは困難である。実験結果の具体的な意義、成果の内容に関する説明が必要である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: C-1008 エピゲノム変異に着目した環境由来化学物質の男性精子への影響に関する症例対照研究 (H22-24)
研究代表者氏名: 有馬 隆博 (東北大学大学院医学系研究科)

1.研究概要

図 研究のイメージ 我が国の男性不妊症患者は漸増し、精子の数と機能低下が報告されている。以前より、環境由来化学物質曝露による生殖細胞への影響が指摘されているが、的確な解析手法がなくその実態は不明である。最近化学物質は、遺伝子プロモーター等のエピジェネティックな修飾(エピゲノム)に影響を及ぼすことが立証されてきた。エピゲノムは、生殖細胞形成過程では、遺伝子刷り込み(ゲノムインプリンティング)として知られ、その分子機構の本体はDNAメチル化である。特筆すべきは、生涯安定なインプリント遺伝子制御領域のメチル化は、最も鋭敏に影響を受けること、またこの分子機構の破綻は、先天性疾患に限らず、乳幼児の行動、性格異常等に影響を与えることである。本研究では、精子数の異常と機能異常(エピゲノム異常に起因するインプリント異常)の原因となる化学物質群(複合因子)を同定し、因果関係を正確に評価し、科学的成果を得ることを目的としている。

図 研究のイメージ        
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そのため、
(1)PCR-Luminex法を用いた新規メチル化解析技術
(2)飛行時間型質量分析計(T0F-MS)に高分解能ガスクロマトグラフ(HRGC)あるいは包括的二次元ガスクロマトグラフ(Comprehensive GC:GC x GC)を組み合わせ脂溶性化学物質の網羅的な解析技術を確立し、研究計画を実施。最終的には、多変量解析にて正確に評価・検証する。サブテーマは他に患者精子登録・リスク要因の評価と総合評価により構成される。

■ C-1008  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/c-1008.pdfPDF [PDF 235KB]

2.研究の進捗状況

(1)患者登録:特定地域の26〜52歳の男性337人を登録し、十分なサンプル数を確保した。128人は乏精子症(うち重症型は61人)で、209人は正常。2群間で年齢、BMIに差を認めたが、喫煙、飲酒に差はなかった。これらの要因を交絡因子として考慮する。
(2)新規メチル化解析法の開発と性能評価;PCR-Luminex法を用いた8種類のインプリント遺伝子を標的としたメチル化解析法を確立(特願2010-116634 東北大学)し、精度を向上された。具体的には、
1)精子DNAのバイサルファイト処理法の検討 
2)ビオチン化プライマーの設計 
3)ハイブリダイゼーション検討等である。また実際にヒト精子検体を用い検証した。メチル化異常は乏精子群で37.5%(重症型は80.0%)、正常精子群では5.4%で精子濃度と強い相関がみられた。最も影響を受けやすい領域は、新生児発育や行動に影響を及ぼすPEG1であった(8.84%)。
(3)GC-TOF/MS 及び Comprehensive GC(GC x GC)-TOF/MSによる網羅的環境化学物質(脂溶性化学物質)の測定系の確立:
1)血液前処理方法及び測定装置設定条件の検討を行った。ケミカルハザードクリーンルームの使用、実験器具並びに試薬調整の検討によって、ブランク値を測定装置で運用可能なレベルに低減することができた。
2)4種類のGCカラム(GC x GCについては、1st 及び2ndカラムの組み合わせ)について検討を行い、血液試料に適した組み合わせを決定した。
3)プール血液試料及び乏精子群、正常精子群健常者の血液試料を用い、検討結果から設計した方法を適用し測定分析を行った。
得られた結果から、検出された化合物の同定をマスクロマトグラムによる構造解析及び化学物質の個別標準物質を用いて同定作業を行い、次の化合物が同定できた。ポリ塩化ビフェニル(45異性体)、クロロベンゼン(2異性体)、 ブロモベンゼン(4異性体)、クロロスチレン(3異性体)、HCH等POPs(25化合物)、ナフタレン(5異性体)、ペンタクロロアニリン、4,4'-(2-クロロビニリデン)ビス(クロロベンゼン)、 トリス(クロロプロピル)ホスフェート(2異性体)、 ポリ塩化ターフェニル(異性体数が多いので異性体毎のアサインは未実施)。このように多数の化学物質を同時検出した例はもちろん例がなく、また、血液中で初めて検出された化合物も多い。現在、検出されてはいるが、未同定の物質を継続して同定中である。実際の血液試料においては試料量が限られるため、装置感度の観点からここで検出された化合物全てを測定することは不可能である。ある程度の同定作業が終了した時点で対象化合物の絞り込みを行い、同位体希釈による定量方法を設計し、実際の乏精子群並びに正常精子群健常者の個々の被験者の血液試料の分析を行い、多変量解析に供する予定である。さらに精漿にも応用する。
(4)化学物質濃度のヒト精子への影響についての評価は、2×2群あるいは多変量解析により、交絡要因について補正を行い検証する。さらに、これらのデータに基づいて、我が国における化学物質曝露のヒト男性精子への直接作用について提言を行う。

3.委員の指摘及び提言概要

精子数の異常と機能異常の原因となる化学物質群(複合因子)を同定し、因果関係を正確に評価する手法の開発を目的として研究を進め、目的とする研究成果を得つつあり、またエコチル調査の追加研究としてもかなり高く評価できる。ただし、対照群が不妊外来受診者から選択されているので、対照群として妥当性があるのか、今後十分な証明が必要である。また、乏精子症患者の血液中に同定された化学物質とエピゲノム変異との相関に意義があることを検証できるか本研究のポイントであるので、慎重な検討を進めていただきたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: RF-1003 環境ストレスが及ぼす生物影響の評価手法の開発(H22-24)
研究代表者氏名: 北野 健 (熊本大学・大学院自然科学研究科)

1.研究概要

図 研究のイメージ 近年、多くの化学物質が及ぼす生物への影響メカニズムが明らかとなりつつあるが、TBT(トリブチルスズ)のように、イボニシやヒラメの雄化を誘導する物質については、詳細な分子機構が解明されていない。最近、私たちは、高温ストレスが副腎から分泌されるコルチゾルの量を増加させ、メダカの雄化を誘導することを明らかにした(Hayashi et al., 2010)。したがって、TBT による雄化等の影響は、ストレス誘起(コルチゾル量の上昇)が一因である可能性が考えられるが、この環境ストレスを評価するシステムは未だ確立されていない。そこで本研究では、有用なトランスジェニック(Tg)メダカ系統を利用して、環境ストレスが及ぼす生物影響の評価システムの開発を目指す。具体的には、平成22 年度は環境ストレスの影響評価、平成23、24 年度は化学物質の影響評価を実施する。

図 研究のイメージ        
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■ RF-1003  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1003.pdfPDF [PDF 279KB]

2.研究の進捗状況

コルチゾル量の増加は、下垂体での副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌により引き起こされ、ACTH 量の増加は、視床下部での副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)により誘導されることが分かっている。したがって、環境ストレス応答の中枢である視床下部内でCRH を制御する因子を解析する必要があると考えた。そこで、視床下部領域を緑色蛍光タンパク質(GFP)蛍光で可視化したnurogenin3(ngn3)-GFP Tg メダカ系統を用いて、視床下部領域において高水温(33°C)処理により変化する遺伝子をDNA マイクロアレイ解析により探索した。その結果、コントロールと比較して発現量が10 倍以上上昇した遺伝子は、メダカ44,000 遺伝子中65 遺伝子であり、その中にはheat shock protein (hsp)70、hsp30 等が含まれていた。またCRH については、発現量が約5 倍上昇していることが確認された。さらに、これらの遺伝子発現パターンを定量的リアルタイムPCR で確認したところ、DNA マイクロアレイ解析と同様な発現パターンであったことから、今回のDNA マイクロアレイ解析結果は十分信頼できると考えられた。次に、ストレス応答性のin vivo 評価系の確立を目指して、メダカhsp70 遺伝子の発現を緑色蛍光タンパク質(Venus)蛍光で可視化したhsp70-Venus Tg メダカ系統を用い、この系統における高温ストレスに対する応答性を解析した。その結果、通常水温(26°C)で飼育した個体では、Venus蛍光が全身では観察されず、レンズにおいてのみ確認された。一方、高水温飼育個体においては、すべての個体でVenus 蛍光がレンズだけでなく頭部から尾部にかけて確認され、尾部においてはより強い蛍光が観察された。さらに、酸性水で飼育した個体においても、すべての個体で頭部から尾部にかけて強い蛍光が観察された。このように、hsp70-Venus Tg メダカ系統は、高温や酸性の環境ストレスに対して強い応答性を示し、「環境ストレスが及ぼす生物影響の評価」に大変有効であることが明らかとなった。今後は、より簡便な評価システムを確立しつつ、計画されているいくつかの化学物質の評価を進めていく予定である。さらに、環境ストレスが及ぼす雄化等の生物影響の分子メカニズムを解明すべく、DNA マイクロアレイ解析で単離した遺伝子の機能解析も継続していきたいと2 / 3考えている。

3.委員の指摘及び提言概要

トランスジェニック(Tg)メダカ系統を利用して、環境ストレスが及ぼす生物影響の評価システムを開発することを目的として、初年度(平成22 年度)は温度や酸性の環境ストレスを緑色蛍光タンパク質(Venus)蛍光よる可視化手法で明らかにしており、若手研究としてはかなり高く評価される。しかし、環境ストレスによる生物影響のうち最大の関心事である化学物質によるストレスの研究はまだ実施されていない。研究の焦点を絞って、化学物質に関する研究を進めてほしい。その際、研究の方向性やポイントを明確化するため、「環境ストレス」の定義についても検討するとよい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: RF-1004 水生・底生生物を用いた総毒性試験と毒性同定による生活関連物質評価・管理手法の開発 (H22-24)
研究代表者氏名: 山本 裕史 (徳島大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 従来からの洗剤成分に加え、医薬品や化粧品等の多種多様な生活関連物質の検出報告が近年相次ぎ、国民の不安が増大している。本研究では、生活排水を多く含む河川約10 箇所を選定して水・底質試料を採取し、以下の3 つのサブテーマについて検討を行い、生活関連汚染物質の評価・管理策に活用することを最終目標とした。
(1) 欧米や韓国等で導入され、環境省でも平成21 年度から検討が開始された総排水毒性(WET)試験に準じた手法で水生生物(魚類・ミジンコ・藻類)と底生生物(ユスリカ)に対する河川水もしくは河川底質の直接影響を調べ、総毒性を評価する。
(2) 同じ水・底質試料中の医薬品や界面活性剤の化学分析を実施し、各物質の毒性試験結果と合わせて総毒性に対する寄与の高い物質を同定・定量する。
(3) 同じ水・底質試料中の化粧品等のパーソナルケア製品についても同様に化学分析を実施し、各物質の毒性試験結果を合わせて総毒性に対する寄与の高い物質を同定・定量する。

図 研究のイメージ        
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■ RF-1004  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1004.pdfPDF [PDF 325KB]

2.研究の進捗状況

平成22 年度は、未処理の生活排水や下水処理水が混入する徳島・京都・埼玉の河川から計12地点を選定し、2〜4 回採取した河川水試料について検討を実施した。
サブテーマ(1)では、水生生物3 種のWET 手法に基づく亜慢性試験を実施した。その結果、魚類(ゼブラフィッシュ胚・仔魚毒性試験)、ミジンコ(ニセネコゼミジンコ繁殖試験)、藻類(ムレミカヅキモ生長阻害試験)でそれぞれのべ12 試料中6 試料、34 試料中20 試料、30 試料中2 試料から毒性影響を検出した。
サブテーマ(2)では、同じ試料について、医薬品64 種について濃度測定を実施したところ、最も高濃度で検出された医薬品類は最大11,000 ng/L のcaffeine(強心剤)で、他にcrotamiton(鎮痒剤)、sulpiride(抗精神病薬・消化性潰瘍用剤)、acetaminophen(解熱鎮痛剤)、clarithromycin, levofloxacin,sulphamethoxazole(すべて抗菌剤)等も最大1,000〜2,000 ng/L 程度検出された。また、陰イオン界面活性剤LAS や非イオン界面活性剤AE の分析法の確立、底質試料の分析法の検討を行った。
サブテーマ(3)では、同じ試料について、パーソナルケア製品34 種について濃度測定を実施したところ、パーソナルケア製品では、2-phenoxyethanol(防腐剤)が最大14,000 ng/L で、他にresorsinol(防腐剤)、benzyl salycilate(紫外線吸収剤)、triclosan(抗菌剤)、isopropylmethylphenol(防腐剤)等も数百〜1000 ng/L 程度検出された。また、それぞれの物質について底質試料の分析法の確立もおこなった。
サブテーマ(2)および(3)で分析した物質のうち測定濃度が高いもしくは毒性が強いと考えられる10〜20 種について魚類、ミジンコ、藻類の亜慢性試験、疎水性の高い5 種についてユスリカの毒性試験を実施し、その試験結果で重み付けして、地点ごとの毒性単位(TU)を調べた。ミジンコや藻類に対するTU はtriclocarban、triclosan、clarithromycin 等が比較的高く、levofloxacin やsulphamethoxazole も一定の寄与が推定された。一方、比較的高濃度で検出されたcaffeine やcrotamiton、phenoxyethanol 等の毒性への寄与は小さく、これらの物質のTU を単純に足し合わせても、サブテーマ(1)で測定したミジンコの総毒性に対する割合は最大でも約10%であった。それに対して、藻類については個別物質を足し合わせたTU が非常に大きく、逆に栄養塩などによるマスキングの影響からサブテーマ(1)で総毒性が検出されないケースが多かった。現在は、同じ地点で採取した底質試料について、ユスリカを用いた毒性試験、化学分析、水生生物を用いた個別物質の毒性試験を行うとともに、水試料中の界面活性剤濃度の測定を順次進めている。

3.委員の指摘及び提言概要

生活排水を多く含む河川約10 箇所において採取した水・底質試料の総排水毒性、医薬品、界面活性剤、化粧品等の同定・定量化に関する貴重なデータが得られつつあり、その成果は高く評価される。
最終的には生活関連汚染物質の評価・管理施策への活用を目標としているが、広範な物質を対象としており、これらを一様に評価することは困難と考えられるため、総毒性試験結果をもとに対象物質を絞り込んで、生態毒性の評価を行うのがよい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: RF-1005 遺伝毒物学を使った、ハイスループットな有害化学物質検出法の開発(H22-24)
研究代表者氏名: 廣田 耕志 (京都大学医学研究科)

1.研究概要

図 研究のイメージ これまでの遺伝毒性物質の検査には、細菌細胞を用いたエームス試験や、マウスを用いた小核試験が用いられてきた。これらの試験の問題点は、偽陰性や偽陽性が大量に発生することであった。本研究では、DT40(ニワトリBリンパ球細胞株)を用いて、偽陰性、偽陽性を低減させた次世代の有害化学物質の検出法を開発することである。DT40細胞の特徴は、遺伝子の標的破壊の効率が高いことである。我々はこの細胞から100種を超える、DNA修復関連因子の遺伝子破壊を系統的に行い、世界最大のノックアウト細胞のライブラリーを持っている。DT40細胞の特色として、細胞の70%がS期(DNA複製期)にあり、G1からS期に移行する際のDNA損傷チェックポイントが全く機能しないことが挙げられる。この特徴は、DNA損傷を高感度に捉えるのに適している。それは、G1期にDNAが損傷を受けたとしても、DNA複製を行うので、DNA上の些細な損傷もDNA複製後にはDNA2重鎖切断に発展するからである。これまでに、このDNA2重鎖切断は染色体の断裂として、顕微鏡下で観察する技術があった。実際に染色体分析は、遺伝毒性物質の検出に用いられている。しかし、この方法はDNA断裂を可視化するので、他の損傷(例えば、UVによるDNA鎖上の損傷)は、感度よく検出できなかった。DT40ではG1期のチェックポイントが機能せず、複製中の細胞が70%を占めるので、高確率にDNAのキズがDNA2重鎖切断に発展し、高感度にDNA損傷を捉えることができる。本研究では、染色体分析法を遺伝毒物学手法で改善することを目指した。遺伝毒物学手法とは、野生型細胞を常に陰性対照におき、DNA修復関連因子のノックアウト細胞を解析し、野性型-ノックアウト細胞の間の差異から遺伝毒性を試験する方法である。

図 研究のイメージ        
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■ RF-1005  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1005.pdfPDF [PDF 1,561KB]

2.研究の進捗状況

本研究以前に、NIHとの共同研究で、ハイスループットに遺伝毒性物質のスクリーニングを実施した。このスクリーニングでは1408種の化学物質を14種類の濃度で試験した。試験に用いた細胞は、野性型DT40と7種のDNA修復の変異DT40細胞である。このスクリーニングでは、細胞生存を野性型と変異体の間で比較している。このスクリーニングで特定した42種の化学物質のうち、特に効果の強い(強い遺伝毒性を示す)物質について、遺伝毒物学による染色体分析を行い、スクリーニングの結果の評価を行った。特に強い効果を示す8種の化学物質のすべてで、本試験で遺伝毒性を認めることができた。さらに、7種の各種DNA修復経路の変異細胞との比較を行い、これらの化学物質が誘導するDNA損傷のタイプを解明した。毒性物質のなかには、本試験ではじめて明らかとなったDNA毒性も認められた。
NIHで行ったスクリーニングにおいて、興味深い結果を得た。それはDNA複製阻害を行うことが知られている葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)は野生型細胞も、どのDNA修復酵素欠損細胞も同様に生存を低下させる結果である。DNA複製をブロックする化学物質の及ぼす遺伝毒性についての研究は、ほとんどこれまでになかった。そこで、葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)に加えて、複製阻害を及ぼすことの知られるヒドロキシ尿素(HU)、5-フルオロウラシル(5FU)の毒性評価を行った。この解析で用いた細胞は、野性型DT40細胞と、Rad54/Ku70変異DT40細胞である。Rad54とKu70はDNA2重鎖切断の修復において中心的な役割を果たす相同組換えと非相同末端結合にそれぞれ必須の因子である。すなわち、Rad54/Ku70変異DT40細胞ではDNA2重鎖切断を修復できない為、DNA2重鎖切断が発生した時、染色体の断裂が野生型細胞に比べて多く見られることが知られている。興味深いことに、野性型、Rad54/Ku70細胞の両方で、葉酸拮抗剤(Pyrimethamine)、ヒドロキシ尿素(HU)、5-フルオロウラシル(5FU)によって細胞を処理後に染色体の断裂が同程度に増加するのが観察された。この結果から、DNA複製ブロックを誘導するタイプの薬剤が作用した時、DNA2重鎖切断は引き起こされていないことが示唆される。では、なぜどのように染色体の断裂はこれらの化学物質で誘導されるのであろうか?おそらく、複製のブロック時に停止した複製フォークからクロマチンタンパク質が離脱し、DNAの切断を経ずに、染色体を染色した時にクロマチンタンパク質の離脱した部分が抜けて染色される為に、断裂のように見えていたものと考えられる。これまで染色体断裂=DNA2重鎖切断と考えられてきた既成概念を本研究結果は覆す概念を提唱する。
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3.委員の指摘及び提言概要

従来の遺伝毒性物質検査法としては、細菌細胞を用いたエームス試験や、マウスを用いた小核試験があるが、これらの試験法には偽陰性や偽陽性が大量に発生する問題がある。本研究では代替試験法として、DT40(ニワトリBリンパ球細胞株)を用いる有害化学物質のDNA毒性検出法を開発し、偽陰性、偽陽性を低減させた結果を得ており、その研究成果はかなり高く評価される。ただし、現在の試験法は感度、精度が低いのが問題であるので、それらの問題を克服し、有効かつ汎用的な検出法として確立されることを期待したい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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