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事後評価 5.第5研究分科会<持続可能な社会・政策研究>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: E-0701 水・物質・エネルギー統合解析によるアジア拠点都市の自然共生型技術・政策シナリオの設計・評価システムに関する研究(H18-22)
研究代表者氏名: 藤田 壮 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では東アジアの拠点都市において、都市・産業システムの代替的な技術・政策シナリオを計画するために定量的なインベントリを構築するとともに、それを評価する統合的な環境技術・政策のシミュレーションシステムを構築した。
第一に、中国科学院瀋陽応用生態研究所、中国瀋陽市環境保護部および中国遼寧省環境科学院との連携で包括的な実施計画の設定プロセスの検討研究を進め、地理情報システム(GIS)、情報技術、コンピュータシミュレーション技術などとの情報技術を活用するデータベースを構築した。
水汚染、水資源・利用、および地域の経済構造等を包括的に調査して、その空間情報と連関するデータベースの構築を進めた。国立環境研究所で開発した水大気統合型の三次元物理連成の流域解析モデル(NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology (NICE) model;NICE モデル)を都市域に適用できるように開発を進めた。

図 研究のイメージ        
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並行して、遼寧省内の都市型流域圏について、中国研究機関との共同でデータ収集の上でモデル適用を進めて、流域の環境特性と社会経済活動との関連を明らかにした。具体的には大連市の水源機能を提供する中国遼寧省南部のBiliu 河流域の分析に適用することにより、ダム建設および経済発展による環境への影響を評価し流域での解析を進めた。その知見を踏まえて、より広範な中国遼河流域の分析を進めて、鉄林サブ集水圏に関する調査を実施した。
第二に、都市・圏域のマルチスケール間での物質、財、サービスの移動・流通に伴う水・熱・物質の連関、都市・地域内での水・熱・物質のマクロバランスおよび分布構造を把握するシステムを開発する。具体的には、陸域-地下水統合管理モデルに入力が可能な都市スケールと圏域・国土スケール水需要、汚濁負荷、エネルギー、CO2 排出の統合的なインベントリモデルを遼寧省を対象に開発した。さらに、アジアにおける持続可能な都市のための既存の都市間ネットワークの発展プロセスを解析して、アジア都市と日本の地方政府が連携する発展プロセスを構築した。
最後に、日本の環境技術システムとしてエコタウンの技術政策要素について、現状の資源循環の特性を把握し、その循環効率や低炭素化への寄与、さらに経済性などを実証的に算定する技術政策シミュレーションを開発した。日本における環境配慮型経営にも注目してその推進条件を解析した。

■ E-0701  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/e-0701.pdf PDF [PDF 299 KB]
※「 E-0701 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 遼河流域圏の典型的な都市周辺地域における水質変数とその潜在的な汚染源を分析し、人口増加と経済成長が環境条件へ及ぼす影響を解析した。拠点都市および周辺圏域での適合性の高い循環型の水系浄化・廃棄物処理技術のインベントリデータベースおよび水処理技術の導入シナリオを構築し、各技術導入によるCO2 排出量と汚濁負荷除去量を比較し環境効率を分析することを進めた。下水道システムや浄化槽などの個別の技術を対象として、中国都市圏における技術導入シナリオを設定し、最適な技術組合せシナリオを明らかにして、東アジア自治体における水処理技術システムの導入および更新の意思決定の際に、基礎的な知見を与える成果を得た。また、大都市を含む長江流域において、農畜産業から発生する汚濁負荷量の推計方法を改良し作物別、家畜別に詳細に推計できるようにした。全産業を対象にした汚濁負荷インベントリを開発して、水質観測データに基づいてその精度を向上させた。三峡ダム上流域、太湖流域等における水質汚濁物質の排出総量規制等の政策的な応用が期待される。また、近年発展途上国を中心に人畜一体型のメタン発酵装置の活用したCDM 事業において、環境負荷削減の科学的根拠となる方法論を開発した。また、持続可能な発展に関する国際都市・地域間連携の実績について一定の分析枠組みのもとに情報を収集、整理し、その促進・阻害要因を予備的に分析して政策報告書にまとめて広く関係者に配布するとともに、社会環境や技術の変化に応じた今後の国際都市・地域間連携の形成に貢献した。

図 研究成果のイメージ        
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最後に、都市の発展段階などの実情に応じた適正な技術スペックを再構築する実用的な選択肢を用意している。水質汚濁削減とエネルギー効率改善との都市・地域の環境制約のもとで、適正な「環境技術」とその効率的な活用を可能にする、制度や規制、参加システムなどの「社会技術」についても定量的な選択肢として用意することができた。日本の都市環境工学と政策シミュレーションのモデルを瀋陽に適用することで、日本から瀋陽へのいくつかの廃棄物循環技術移転の環境的利点の可能性について定量的な結果を提示した。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0701
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0701.html

3.委員の指摘及び提言概要

個々のサブテーマにおいては、中国遼寧省の下水道計画、長江流域の農畜産業からの水質汚濁等に対して一定の数量的分析結果を与え、個別の技術の最適組み合わせシナリオを明らかにした。
またアジア各都市間の環境ネットワークに関する知見を与え、さらに廃棄物循環型都市政策の比較等からエコタウン事業について因果論的分析と議論を展開した。以上のように、個々のサブテーマの研究はそれぞれ有用な知見を与えたものと評価できる。
しかしサブテーマ毎の分析的フレームがかならずしも共有されてはおらず、プロジェクト全体として何を引き出したかは明確でない。本プロジェクト全体が本来意図していたシナリオ・プラットフォームを構築するなどの方法を適用して、日本の経験を、より迅速にわかりやすく諸外国地方政府と共有していく方向に誘導しうる成果には至っていない。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0801 里山イニシアティブに資する森林生態系サービスの総合評価手法に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 杉村乾(独立行政法人森林総合研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 生物多様性の減少は、生物が人間生活にもたらす恵み(生態系サービス)の低下をも意味する。とくに里山地域では、開発地域の拡大及び人的関与の縮小が顕著に起きており、それらが生態系サービスに与える影響が問題視されている。そこで、生態系サービスの評価手法を開発し、里山景観の変化によってどのように生態系サービスが変わるのか、異なる森林タイプの生物相や森林利用をもとに明らかにする。

図 研究のイメージ        
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■ E-0801  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/h-081.pdf PDF [PDF 366 KB]
※「 H-081 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 福島県南会津地域と茨城県北部を主な対象地に、生態系サービスのポテンシャル(生態系機能)及びサービスの評価手法の開発、開発地域の拡大(人工林化)及び人的関与の縮小(伐採面積の減少、林道管理や社会組織の低下)が生態系サービスに与える影響について調査した。
評価指標として、送粉機能はハナバチ類、害虫制御機能は寄生バチの個体数を用いるのが適当であることがわかった。さらにソバ畑で調査を行ったところ、結実率との有意な関係から、訪花昆虫数や周囲の森林・自然草地の面積をサービスの指標として利用できることが明らかになった。供給及び文化サービスについては天然林産物の採取がとくに重要であり、機能よりもサービスを直接評価する方が妥当であることなどがわかった。人工林化については、ハナバチ及び寄生バチの個体数、山菜やキノコの採取地はおおむねスギ林に比べて広葉樹林の方が多いので、評価対象のサービスに対してはマイナスの影響を与えると推定された。
伐採面積の減少については、ハナバチ及び寄生バチの個体数は伐採直後の草地的な環境では人工林、広葉樹林とも多いので、送粉及び害虫制御の機能に対してマイナスの影響を与えると推定された。一方、キノコは老齢の広葉樹林に多いので、採取にはプラスに働くと推定された。また、山菜とキノコはアクセス性維持のための林道管理や乱獲を防ぐための地域社会組織の維持がそれらの採取に重要であることなどがわかった。さらに、福島県只見町では、利用が認められている森林に対する価値意識が厳正な保護に比べて高いことがわかった。

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0801
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0801.html

3.委員の指摘及び提言概要

里山条約に対して科学的な基盤を示す研究として企画されており、一定の成果を上げている。里山における生物の多様性と機能の指標、山菜やキノコ採取活動の詳細な社会・文化的な枠組みからの評価などの成果が、本プロジェクトの主テーマである経済的評価の計量枠組みに反映されていて、我が国の多様な森林・里山の生態系のタイプに応じた評価手法を実証分析で確立したことは評価できる。さらに、森林や里山に生活を依存する地元住民の直接的な利用価値と、都市住民の機会費用としての受動的な利用価値との評価の違いを、実証的に分析できたことは、これからの生物多様性保全の政策的な検討に資するものである。また里山機能としての媒介昆虫の研究も注目できる成果をあげている。しかしながら個々の研究を森林生態系サービスの総合評価に結びつけていく上で、サブテーマの取り上げた生態系の要素を扱う精度や不確実性の度合いには大きな差があり、さらにシステム化へ向けた研究の展開が必要である。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0802 アジア太平洋地域を中心とする持続可能な発展のためのバイオ燃料利用戦略に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 武内 和彦 (東京大学サステイナビリティ学連携研究機構)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究は、学術と問題の構造化に基づく分野横断的総合評価から政策提言へと至ることを可能とするサステイナビリティ学アプローチにより、アジア太平洋地域を中心に、バイオ燃料に関する特徴を総合的に分析し、世界、地域、国家レベルでのバイオ燃料利用戦略を策定することを目的とする。すなわち、食料生産との競合、森林破壊および水資源への影響、エネルギー収支に関する問題等の指摘を、複雑多岐な地域・国家、ステークホルダー間の関係を自然科学-社会科学の融合・分野横断により明確に把握・評価し、さらにそれを踏まえた持続可能なバイオ燃料利用戦略・政策提言を導出する。なお、本研究の主な対象は、日本・中国・インド・インドネシアとバイオ燃料に関する世界のキー・プレイヤーである米国・ブラジル・EU である。
本研究は以下の7 つのサブテーマからなる。
(1)オントロジーを用いた問題の構造化と政策立案支援ツールの開発
(2)持続可能な発展を目指したバイオ燃料利用戦略の策定
(3)国際農産物需給を考慮した社会経済分析
(4)バイオ燃料生産とそれに伴う森林・土地・水利用変化の影響評価
(5)LCA によるバイオ燃料利用に関する総合影響評価
(6)アジア太平洋地域における生態系の財・サービスとバイオ燃料利用
(7)アジア太平洋地域における政策パッケージおよび地域的政策協調の検討

図 研究のイメージ        
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上記のサブテーマは、主に3 つのグループに分けられる。サブテーマ(1)、(2)はそれぞれの研究を実施するとともに、他のサブテーマの結果を受け、最終的に世界・地域・国家レベルでのバイオ燃料利用戦略を検討する。サブテーマ(3)〜(5)は米国、ブラジル、EU をそれぞれ主要な対象としてグローバルレベルの、サブテーマ(6)、(7)は、アジア太平洋地域、すなわち中国、インド、インドネシア、日本を対象とし、調査・研究を行う。
本研究は、各サブテーマを緊密に連携させ、相補的に進展させることが極めて重要であることから、適宜研究全体のミーティングおよび関連サブグループ間のミーティングを実施し、研究の方向性・分担の確認、カウンターパートに関する情報共有等の相互連携、協力を行う。

■ E-0802  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-082.pdf PDF [PDF 278 KB]
※「 Hc-082 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 1)オントロジーを用いた問題の構造化と政策立案支援ツールの開発
1)バイオ燃料オントロジーを用いた問題領域俯瞰のためのオントロジー探索ツールを試作し、いくつかの問題領域の俯瞰を試みるとともに、収集・解析した基礎資料からの問題構造を整理し、その結果を元にバイオ燃料オントロジーを拡充した。さらに、サブテーマ(2)と連携して本ツールの評価実験を実施した。その結果、本ツールを用いて専門家にとって十分に意味があるマップやパス(概念連鎖)が生成できることが確認できた。また、本ツールが思いがけない内容を提示し利用者の発想を刺激する可能性を持つことが示唆された。
2)サブテーマ(2)の協力のもと、本ツールを政策立案に必要となるステークホルダー間の合意形成支援ツールとして発展させ、被験者がステークホルダーの役割を演じて(ロールプレイ)議論を行う実験を通して、合意形成支援の可能性を示すことができた。

図 研究成果のイメージ        
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(2)持続可能な発展を目指したバイオ燃料利用戦略の策定
1)ブラジルとインドネシアをケーススタディとして現地調査、ヒアリングによりステークホルダー分析を行った。その結果、土地利用の変化とそれに伴う環境影響以外にも、国内の雇用問題、地域間の所得格差、輸出先のバイオ燃料政策についても、導入における重要課題として検討する必要性が、ブラジルとインドネシアいずれにおいても明らかになった。同様に、生産農家や環境団体のほかにも、プラントメーカー、労働者団体、商社など多様な国内外のステークホルダー群を捕捉した。
2)「多様な観点からのバイオ燃料利用に関係する影響項目の統合評価」、「バイオ燃料の製造・利用技術についての検討」のため基礎調査として、バイオ燃料の環境的及び社会・経済的観点からの持続可能性基準策定動向を題材として調査を行ったほか、国内のバイオ燃料導入事例を横断的に整理し、技術導入における課題を抽出した。
(3)国際農産物需給を考慮した社会経済分析
米国とブラジルのバイオエタノール生産に関する経済的生産性の比較、国際植物油市場がパームヤシ生産農家に与える影響についてインドネシアを事例に分析を行った。これらに加え特に米国のバイオエタノール導入に関連する政策が、トウモロコシを中心とした国際穀物市場に与える影響を、シミュレーション・モデルを用い分析した。
1)米国が自らの社会的余剰の最大化のみを目標とするならば、税控除なしでエタノール生産を行うことが最適となるが、グローバルレベルでの社会的余剰の最大化を目標とするならば、米国がエタノール生産を停止することが最適となることが明かとなった。
2)米国の社会的余剰の最大化を目指したエタノール生産は、エタノール利用によるCO2 削減効果の価値がグローバルレベルの社会的余剰の最大化を達成した場合と米国のそれが達成された場合の差を上回れば許容される可能性があることが明かとなった。
(4)バイオ燃料生産とそれに伴う森林・土地・水利用変化の影響評価
1)東南アジア(マレーシア/インドネシア)のパームオイル生産とヨーロッパのナタネ油生産を比較し、「後発者の不利益」ともいえる状況があることを明らかにした。
2)インドネシアにおいて、パームヤシの生産性に基づく地域(州)ごとの影響評価を実施し、土地利用転換に伴う環境影響には州ごとに大きな格差が生じ得ることを示した。次いで、州別に土地条件(泥炭土シェア)を考慮し、土地利用転換に伴う州別のCO2 排出量は、化石燃料由来のCO2 排出量より一般に多く、土地条件(泥炭土シェア)を考慮するとさらに増加することを解明した。
4)LCI データを構築する中で、商用のパームヤシプランテーションにおける肥料・農薬等の資材や用水の利用実態を明らかにした。また、土地利用の影響評価の一環として、エネルギー作物生産の水必要量を推計した。
(5)LCA によるバイオ燃料利用に関する総合影響評価
1)中国各省のバイオディーゼルの生産ポテンシャルを推定した結果、2020 年の需要の6 割をまかなえること、副産物のエネルギー利用をすればLCA 的にも有利であることが示された。2)ブラジルのサトウキビ由来のバイオエタノールについて、将来のシナリオを複数設定してLCA による比較を行った。生産の過程では、発生副産物であるバガスをエネルギー源として発電することによって、電力代替効果によるGHG 削減が達成され、消費過程でのガソリン代替効果を加えることによって大幅なGHG 排出削減が可能になることが明かとなった。しかし、サトウキビ重量あたりでは、バガスからもバイオエタノールを生産した方がGHG 削減量が大きいことが分かった。
3)インドのジャトロファ由来のバイオディーゼルについて、将来のシナリオを複数設定してLCAの比較を行い、生産過程と消費過程を統合的に判断すると、GHG 排出量削減に貢献できることを示した。しかし、副産物をもバイオディーゼルに変換し収量を上げたプロセスは、製造時のGHG排出が大きくなるため、必ずしも有利とは言えないことが分かった。
(6)アジア太平洋地域における生態系の財・サービスとバイオ燃料利用
1)文献調査及びケーススタディによりバイオ燃料と生態系サービスの相関について分析を行った。
2)バイオ燃料の原料となるパームオイルに関する国際的な産業連盟であるRSPO(Roundtablefor Sustainable Palm Oil)の参加者をステークホルダーと捉え、パームオイル生産拡大に伴う生物多様性、生態系サービスや人間の生活の向上といった広範な項目に関して彼らの認識を検証した。この結果、RSPO というひとつのステージに関連しながらも異なる背景を持つグループ毎の問題意識や優先事項を明らかにした。
(7)アジア太平洋地域における政策パッケージおよび地域的政策協調の検討
アジア太平洋地域の主要なバイオ燃料利用国(中国、インド、インドネシア、日本)のバイオ燃料利用に関する政策と現状の分析から共通課題・教訓および国特有の状況などを整理し、持続可能な発展に資するバイオ燃料利用戦略の在り方を検討した。併せてバイオ燃料政策の定量的評価のための経済モデルの開発、及びバイオ燃料の持続性基準策定における議論進展のレビューを行った。
1)アジアにおける第1 世代バイオ燃料の持続的生産は、土地利用変化による問題が適切に対処されるのであれば理論上は可能であり、GHG 排出削減やエネルギー安全保障等にある程度寄与しうるものの、非持続的な生産を促す強い経済的誘因が存在するため、持続的な生産の可能性が保証されるまでは、その推進は慎重を期する方が賢明であると結論づけられた。
2)日本を含め、セルロース由来(第2 世代、特に廃棄物の利用)さらには微細藻類由来(第3世代)のバイオ燃料開発が各国で進んでいるが、商業生産技術は開発途上にあり、またそれらのLCA に基づく影響評価は未知であり、さらなる知見の蓄積が必要である。
3)バイオ燃料の持続性に関する国際的な基準については、持続可能なバイオ燃料のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Biofuels:RSB)などにより、留意すべき事項を包括的に取り込んだドラフトが提示されるなどの進展があったものの、ステークホルダーの参加に対するコミットメント、イニシアチブ自体のガバナンス、実際の基準運用(基準適合の判断や認証機関の設置等)等にまだ多くの課題が残されている。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0802
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0802.html

3.委員の指摘及び提言概要

本研究は、個別のテーマの研究としては優れた成果をあげている。本研究の目的は分野横断的な総合評価を通じて従来のオントロジー探索ツールを発展させ、政策立案に必要なステークホルダー分析を実施することにより、バイオ燃料の戦略的利用を目指した政策担当者、企業、地域住民等の合意形成手法を開発し、持続可能なバイオ燃料の利用戦略および政策提言を行うことにあり、政策提言という点では評価される。
ただし、オリジナルな研究成果が弱く、サブテ−マ(1)はオントロジーの手法検証を出る内容となっていない。また個々のサブテ−マ間でLCA へ適用するシナリオの精度に差がある。サブテーマ(3)以降のいずれのサブテーマも、見方によっては事後解釈に終わっている面がある。結果として、全サブテーマの集約化という点ではなお不足しており、世界に発信できる十分な内容を得たということは困難であり、今後、英文図書で研究成果のまとめが公刊される予定があるので、これに期待することとしたい。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0803 低炭素社会に向けた住宅・非住宅建築におけるエネルギー削減のシナリオと政策提言(H20−H22)
研究代表者氏名: 村上 周三(建築研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 民生部門におけるエネルギー消費量は一貫して増加傾向にあり、これに歯止めをかけることは、日本のみならず世界の各国にとって差し迫った重要な課題となっている。民生部門における省エネ対策の検討を行うためには、人口動態、建物寿命など長期的に変化する要因を考慮した上で、中、長、超長期的な視点から民生用エネルギー需要および省エネ対策実施効果の精度の高い予測が必要となる。 そこで本研究では、民生部門におけるエネルギー消費量の大幅削減の方策を探るため、日本全体の住宅・非住宅建築におけるエネルギー消費量の予測モデルを構築し、エネルギー消費量大幅削減のシナリオを提案した上で、現実的に推進するための政策を提言することを目的とする。また、予測モデルに必要となるデータを最新の資料に基づいて整備すると同時に、日本各地のエネルギー消費実態調査に基づくデータの補足および改良を行った。

図 研究のイメージ        
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サブテーマは次の6 つである。
(1) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量削減のシナリオにもとづいた将来予測と政策提言
(2) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の東京都を対象とした検証と予測モデルの改良
(3) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の大阪市を対象とした検証と予測モデルの改良
(4) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量推定法の仙台市を対象とした検証と予測モデルの改良
(5) 住宅・非住宅建築エネルギー消費量の将来推計手法の開発
(6) 全国各地の住宅・非住宅建築における室内環境、設備、エネルギー消費量原単位等に関するデータベース作成

■ E-0803  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-083.pdf PDF [PDF 197 KB]
※「 Hc-083 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ [1]まず、住宅、非住宅建築起因のエネルギー消費量、CO2 排出量の予測モデルを開発した。
次に国内外の施策事例調査に基づきエネルギー削減シナリオを設定し、開発した予測モデルに我が国の建築に関する最新データを用いて2050 年までのエネルギー消費量および二酸化炭素排出量の予測を行った。その結果、民生家庭部門において短期的にエネルギー消費削減効果を得るためにはライフスタイルの変化(省エネ努力の推進)が効果的であるが、長期的には太陽光発電器の普及および継続的な発電効率の向上努力が重要で、我が国の二酸化炭素削減中期目標を達成するためには、低炭素技術の飛躍的な普及や電力二酸化炭素排出係数の削減努力だけでなく、エネルギー需要自体を減少させるための省エネ行動が不可欠であることが示唆された。

図 研究成果のイメージ        
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[2]住宅におけるエネルギー消費量の予測精度を向上させるための研究として、建物断熱性能に関する統計データの精緻化や、高層集合住宅のエネルギー消費実態調査、住宅の間取りや周辺環境条件がエネルギー消費量に与える影響の検討、農村部住宅のエネルギー消費実態調査などを行った。主要な成果として、超高層集合住宅における共用部エネルギー消費量は中高層と比較して非常に多いこと、住宅の間取りや周辺環境条件がエネルギー消費量に与える影響を定量化して比較すると典型的な標準条件に対して省エネルギー街区形状に変更することにより5%程度、省エネルギー間取りに変更することにより25%程度のエネルギー消費量(空調・照明)を削減すること、農業地域の住宅を対象とした気候区分ごとのエネルギー消費原単位など、これまで明らかとなっていなかった有用な知見が得られた。
[3]業務部門については、業種別・地域別エネルギー消費量予測精度を向上させるための研究として、提供サービスの違いに着目し小売店舗を中心に提供サービスや店舗形態の違いがエネルギー消費量に及ぼす影響などについて検討を行った。その結果、提供サービスの違いによってエネルギー消費量に有意な差が見られることが、実態調査に基づき確認された。特に食料品小売店舗では、冷設什器のエネルギー消費量が約3 分の2 を占め、冷設什器に対する省エネルギー対策が有効であることを示した。それらの結果を基に、冷設什器の形態や設定温度ごとに電力消費量や室内との熱交換量を予測するとともに、冷設什器からの冷気漏れを考慮した建物全体の空調エネルギー消費量を予測することが可能な、冷設什器を有する食品小売店舗のエネルギー消費予測モデルを構築した。また、仙台市を対象とした、民生部門におけるエネルギー消費量の詳細な予測を行い、予測モデルの改良方法等について検討した。
以上の今回開発された最新データに基づく住宅、非住宅建築起因のエネルギー消費量、CO2排出量の予測モデルにより、エネルギー消費量削減を現実的に推進するための政策提言が可能となった。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0803
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0803.html

3.委員の指摘及び提言概要

本研究は、省エネルギー技術による効果を実証的に検証できる体系のデータベースとして、これらを集約し、また現実的で有用性のある諸知見を得たものであると、成果を評価できる。東京、大阪、仙台での実証研究においても見るべきものがあったが、しかしそれらの相互比較分析が行われていたならば、地域特性が省エネルギー技術とその効率にどの様に影響するのかが判明し、社会シナリオの内容に具体性を持って反映できたものと考えられる。
なお、学会、一般への成果発表に欠けるところがあるので、今後の努力を求めると共に、その際には、環境省の低炭素社会への中・長期ロードマップ中の住宅・建築物分野で描かれている道筋について、有用な提言となることを意識した研究成果のとりまとめ・公表を期待する。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0804 都市・農村の地域連携を基礎とした低炭素社会のエコデザイン(H20-22)
研究代表者氏名: 梅田靖(大阪大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究課題は、「都市・農村の地域連携」を基本コンセプトとして、低炭素社会の下でのアジア(特に日本および中国)における都市・農村の在り方を具体的な事例を通じて分析・評価し、あるべきエネルギー・物質の地域循環利用システムを基盤とした将来シナリオを描くことを目的とする。
その目的を達成するために、本研究は4つのサブテーマで構成する。サブテーマ2〜4では日本、中国で現地調査とモデル化を行うパイロットモデル事業/地域を設定し、都市・農村連携のモデルを具体的に提示する。すなわち、
農工連携による自然資本を生かした低炭素化産業の創出(業結合モデル)(サブテーマ2)、
都市−農村空間結合による低炭素化クラスター形成(空間結合モデル)(サブテーマ3)、
日中互恵モデルによる広域低炭素化社会実現のためのエネルギー・資源システムの改変と政策的実証研究(国際互恵モデル)(サブテーマ4)である。

図 研究のイメージ        
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さらに、サブテーマ1において、各サブテーマのパイロットモデル事業/地域の現地調査および分析・評価から得られた基礎データを共通の分析ツールで数理モデル化することにより、都市・農村の地域連携によるエネルギー・物質の地域循環利用システムの規範モデル(これを「都市・農村連携クラスター・モデル」と呼ぶ)を複数作成し、各モデルの国内およびアジアへの展開可能性とそれによる低炭素社会への潜在的効果を推定する。この過程を通じて、低炭素社会における中長期的な都市・農村連携の在り方を提言することを最終目的とする。

■ E-0804  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-084.pdf PDF [PDF 266 KB]
※「 Hc-084 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (サブテーマ2)中国におけるトチュウ植林事業を対象に、水土保全(年間土壌流出量を現状のトウモロコシ畑からトチュウ植林に変更することにより 86.8 t/haから 6.9 t/haまで軽減)・低炭素化(年間二酸化炭素(CO2)排出削減量 6.12 t-CO2/ha)などの環境便益、雄花茶・トランスゴムなどの事業売上を含む経済便益(年間 12,200元/ha)および経済波及効果(効果倍率 1.4倍)の評価を行うことを通じて、農工連携バイオマス産業の一石二鳥コベネフィットの可能性を科学的に示すことができた。
(サブテーマ3)北海道自立に向けて、第一次産業における産出投入表を整理し、都市・農村間の相互補完による食料・エネルギー自給および低炭素化などの可能性について分析した。 2030年には、食料自給率 296%、エネルギー(バイオマス)自給率 28%および CO2排出削減量約 70%となる条件が存在することを明らかにした。
(サブテーマ4)都市・農村連携による分散型エネルギー最適化評価システムの開発と実証分析、東アジア地域の国際互恵型低炭素評価モデルの開発、および広域低炭素社会のシナリオ構築に関する感度解析を行った。都市と農村における個別の対策よりも都市と農村が連携したエネルギーシステムの方がより高い低炭素化効果(コスト 50%削減、 CO2価格約 4 円/kg-CO2で、CO2排出削減率約 80%まで可能)を得ることができる可能性が明らかとなった。

図 研究成果のイメージ        
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(サブテーマ1)サブテーマ2〜4のパイロットモデルから得られた基礎データを共通の分析ツールで数理モデル化し、複数の都市・農村連携クラスター・モデルを作成することにより、日本および中国全土の適用可能地域に広域展開した場合の CO2排出削減ポテンシャルを推計した。その結果、日本で約 55.5 Mt-CO2、中国で約 491 Mt-CO2(各モデルのそれぞれの適用可能地域における削減割合は数 %のオーダー)の最大削減ポテンシャルが期待できることを明らかにした。
また、将来予測に基づくシナリオ分析では、サブテーマ3の都市・農村空間結合による低炭素化クラスター・モデルを日本全国に広域展開した場合の試算結果を例として挙げると、 2030年の段階でエネルギー代替および肥料代替による CO2排出削減量 35.8 Mt-CO2/年を空間結合モデルにより達成できる成立条件があることが明らかとなった。また、原油価格が高騰するシナリオにおいて、原油価格高騰に伴う農産品の価格高騰および炭素オフセットクレジット(農村における低炭素化事業による CO2排出削減分を、都市が直接削減できない排出分と相殺する炭素オフセットに用いる地域内クレジット制度)を導入することにより、品目(米、野菜、豚など)によっては補助金に依存することなく従来の農業所得水準を超えることができる可能性があることを定量的に明らかにした。
本研究課題では、低炭素社会の構築に向けた都市・農村連携の目指すべき姿は、農村の多面的機能を再評価することにより、都市と農村が対等な関係性を構築し、農村の生態系サービスの維持・発展を都市と農村が連携して担うことであると結論づけた。都市・農村連携を促進するためには、基本的には、都市・農村間の価値観の共鳴と、農村部における内発的発展・自立が前提となると考えられる。そのためには、農村のストックの価値を明確化し、農村から都市への多様なフローを提供すると同時に、都市自体の需要のスマート化を実現し、都市から農村のフロー、特に、労働力・人材、資金、知識・技術の流れを拡充し、農村と都市間で安定的な循環システムを成立させることが求められる。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0804
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0804.html

3.委員の指摘及び提言概要

「都市・農村の地域連携」を基本コンセプトとして具体的な事例分析を行い、あるべきエネルギー・物質の地域循環利用システムを基盤とした将来シナリオを描くという課題に真正面から取り組み、先駆的研究としてほぼ期待にそう研究成果をあげた。具体的な対象は中国のトチュウ植林事業、北海道の自立へ向けた都市・農村間の相互補完の分析、東アジア地域の国際互恵型低炭素評価モデル構築等である。
これらの政策は、日本なり中国なりが国家レベルで取り組めば、都市・農村の地域連携を基礎とした低炭素社会のエコデザインとして十分に通用するものである。したがってモデルを外延的に拡大するための、より詳しい条件の説明や、サブテーマを組み合わせて一つの大きな農工連携社会を描くシナリオの提示という点でより詳細な説明があれば、さらに有用な研究になったと評価される。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: E-0805 バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 仲 勇治 (東京工業大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ バイオマス資源の有効利用に関して様々な研究開発や事業の普及策が講じられつつある。バイオマスは広く・薄く分布しているため、活用目的やそれに伴う変換プロセスの選定だけでなく、収集・輸送などの物流整備を含めた課題がある。また、エネルギーや有用物質に変換するにもプロセス効率やプラント建設単価が化石資源に比べて不利であり、円滑な普及/促進が進んでいない。
本研究では、「バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築」を目指し、多様なバイオマス資源の利用を円滑に進めるための物流システムと、エネルギーなどの有価物への変換システムからなるバイオマス利用システムの全体を求める方法論の確立と、その方法論に基づくシステム設計を支援するツールである技術情報基盤の整備を目標とする。さらに、この成果を実地域(青森県中南地域を対象)に適用し、その方法論を実用可能なものにすると同時に、より適用範囲を広げることも目標とする。サブテーマは、次のとおりである。
サブテーマ1:バイオマスの地域における活用状況に関する調査研究
サブテーマ2:技術情報基盤の開発に関する研究
サブテーマ3:導入過程に関する研究
サブテーマ4:地域への適用方法に関する研究

図 研究のイメージ        
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■ E-0805  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-085.pdf PDF [PDF 363 KB]
※「 Hc-085 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ <サブテーマ1>では、青森県全域におけるバイオマス資源の種類別、市町村別の発生から処理・処分、利活用に至るデータを収集・分析して、実情を把握した。資源の種類は「稲わら」、「もみ殻」、「一般廃棄物」、「廃食用油」、「家畜排せつ物」、「製材廃材」、「間伐材」、「林地残材」、「りんご剪定枝」、「りんご絞り粕」、「ホタテウロ」を対象とした。また、バイオマス作物の利用可能性の検討等を想定して「耕作放棄地」の面積も対象とした。合わせてバイオマスの処理・再資源化施設や利用施設等についても調査を実施した。その結果、青森県中南地域ではりんご剪定枝、稲わらなどの発生量が多く、りんご剪定枝は薪に、稲わらは堆肥や飼料等として一部有効利用されているものの、未利用のまま樹園地内や圃場での焼却(野焼き)が行われていることが確認された。

図 研究成果のイメージ        
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りんご剪定枝の有効利用方法として、地域の稲作及びりんご栽培への還元を想定して、堆肥としての利用可能性を検証した。水稲での栽培試験の結果、収量は稲わら堆肥による慣行栽培とほぼ同等であったことから、水稲栽培におけるりんご剪定枝堆肥の有効性を確認した。りんご栽培においては、一部の病害発生を助長することが懸念されたため、病害(紫紋羽病)発生圃場においてりんご剪定枝堆肥施用の有無に伴う発病状況を試験した。その結果、発病度の比較では両区に有意差はみられず、剪定枝堆肥施用により紫紋羽病の発病が助長される傾向は認められなかった。
<サブテーマ2>ではコンピュータ上で動作するバイオマス利用システムの設計支援ツールである技術情報基盤を開発した。本基盤はモデル編集機能、シミュレーション機能、GIS 機能の3つの主要機能からなり、それぞれの機能が連携して、最終アウトプットであるバイオマス利用システム全体や構成要素のコストや環境負荷を出力する。
モデル編集機能では、バイオマスの収集、輸送、変換、利用、処分といった物流のモデルを、アイコンを使用して描画することで、模擬的なバイオマスの利活用システムを構築できる機能を実装した。
シミュレーション機能では、モデル編集機能によって構築した利活用システムの各アイコンに、資源の発生量や変換施設の設備能力等のデータを設定してシミュレーションすることによって、各工程及びシステム全体のコストや環境負荷排出量を計算する機能、及びコストや環境負荷排出量を目的関数として、任意の利活用システムにおいて最小値を求める最適化シミュレーション機能を実装した。輸送や変換に係るコストや環境負荷の計算根拠はサブテーマ1で調査・収集したデータに基づくものであり、計算結果は自治体等の公表データと比較的近似している点が確認された。
GIS 機能では、データベース機能として、サブテーマ1で調査・収集した青森県各市町村のバイオマス資源量、中南地域に立地するバイオマス関連施設を登録して、ブラウザ上で確認できるデータベースを構築した。経路探索機能として、任意の二点間の最短経路を探索して、シミュレーション機能の計算に用いる道路距離を求める機能を実装した。
<サブテーマ3>では、政策や将来構想の導入のガイドラインの提示として、政策・合意形成、意思決定論、参加・協働デザイン等に関する著書・論文調査や事業関係3主体(行政組織、事業者、市民・住民組織)へのヒアリング調査を実施し、この結果に基づいて、意思決定のプロセスとそれに関連する諸要素を明確に表わすことができるIDEF0 (Integration Definition forFunction Modeling0)のアクティビティモデルを利用して、各主体の意思決定の現状モデル(As Isモデル)とそれに基づく将来理想モデル(To Be モデル)を構築した。
評価モデリングでは、マテリアルフロー分析(MFA)、ライフサイクル・アセスメント(LCA)、環境省型およびストック・フロー型環境会計に関する報告書、産業連関表、自治体バランス・スコアカード、行政評価に関する著書・論文、青森県政策評価ガイドブック、GRI(Global ReportingInitiative)のサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン等といった既存評価モデルの検討に基づいて、上記事業関係3主体の意思決定を支援する、企業単体から地域全体の採算性、環境影響、社会的影響が評価可能な新たな環境会計モデルと、サブテーマ2 の技術情報基盤からの情報利用を想定した環境会計からの評価方法を提示した。
<サブテーマ4>では、青森県中南地域を対象としたバイオマス利用システムの将来シナリオを作成し、サブテーマ1〜3で得られた知見や構築したツール・評価手法を用いてシナリオ検証・評価を実施した。この検証・評価手法とシナリオの評価結果の最終とりまとめは、地域のステークホルダーへの意見聴取を実施した結果を踏まえた内容となっている。
検証・評価したシナリオは「持続可能な社会インフラを目指す」「りんご剪定枝による新事業を創出する」「環境保全・増益指向型農業を展開する」の3 シナリオである。
「持続可能な社会インフラを目指す」シナリオでは、中南地域における清掃工場や下水処理場の将来的な統廃合や厨芥と下水の複合処理等を検討した。清掃工場を既存の3 施設から1 施設とし、下水処理場を既存の2 施設から1 施設として厨芥類を下水処理場で消化した場合、技術情報基盤による試算では、コストでは約6,000 万円/年、CO2 排出量では約7.6 万t/年の削減効果が見込まれる結果となった。
「りんご剪定枝による新事業を創出する」シナリオでは、中南地域で発生するりんご剪定枝を燃料チップとして地域内の空調設備で利用するケースを検討した。りんご剪定枝を小規模分散型の可搬式チッパでチップ化して輸送するケースと、剪定した枝条の状態で大規模なチップ化施設まで輸送して一括でチップ化するケースとの比較では、前者のほうがチップ化工程でのコストが嵩み、輸送効率向上による輸送コストの抑制分を加味しても、コスト面では後者よりも不利となる結果となった。一方、環境負荷面では可搬式チッパによるケースがチップ化施設によるケースの1/5 程度となった。
「環境保全・増益指向型農業の展開」シナリオでは、稲わら、もみ殻、りんご剪定枝、りんご絞り粕を、農業用堆肥、畜産用飼料、農業用ハウス加温用燃料にそれぞれ可能な限り利用するケースを想定して現状の処理処分・利用状況の試算結果と比較した。現状ではコストは低く抑えられているものの、野焼きされている未利用資源について産業廃棄物としての適正処理コストを潜在コストとして計上すると、約20 億円/年程度の処理コストが必要であることが確認された。この現状+潜在コストと比較すると、堆肥、飼料、燃料の全てのケースにおいて、40%〜60%程度のコスト削減効果が見込まれる結果となった。環境負荷面では燃料のケースで排出量が少ない結果となった。
青森県産業技術センター及び弘前大学北日本新エネルギー研究センターにおいては、本テーマで構築した地域への適用についての方法論の有用性が認識され、2 センターが主体となるプロジェクトにて採用された。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0805
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0805.html

3.委員の指摘及び提言概要

バイオマス資源を有効利用する社会技術システムを目指す方法論の確立と、システムの設計支援のための技術情報基盤の整備を目標として行われた研究である。バイオマスの利用システムの計画・設計・実施にあたっては、本研究のような計画・立案・設計モデルが果たす役割が大きい。その点からみて本研究は、具体的対象を持った政策研究であり、一定程度の成果は得られたと思われる。
しかしながら結果の一部は伝統的農法の追試にとどまっており、また地域社会の高齢化や過疎化が進む中での労働力確保などの観点からの解析が少なかった等、成果にやや欠ける面がある。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0806 低炭素型都市づくり施策の効果とその評価に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 井村 秀文 (名古屋大学大学院環境学研究科)

1.研究概要

図 研究のイメージ 以下の4つのサブテーマについて研究を実施した。
(1)地球温暖化対策ロードマップの作成
名古屋都市圏におけるエネルギーの利用状況、エネルギー資源の賦存量等の各種データ収集を行い、これらに基づき、名古屋都市圏を対象にCO2 排出量2050 年80%削減(1990 年比)のロードマップ試案を作成した。次に、住宅の低炭素化リフォーム、バイオマスエネルギーの利活用等による各種のCO2 削減対策を実施することを想定し、各対策の導入時期、削減効果の発現時期等をロードマップ化した「名古屋都市圏CO2 削減ロードマップ案」を提案した。
さらに、ロードマップ案で示した各種CO2 削減策に対して、2050 年までの導入量や削減効果量として適切な予測値を入力することで、現実的なロードマップ案を作成した。各種CO2 削減策の2050 年までの予測は、国レベルにおいても存在しない。そこで、各分野の専門家(大学・研究機関、企業、行政など)に、予測と課題・対策案に関する見解を出してもらい、デルファイ法を用いそれらの収斂を図ることで、適切な値を導出した。

図 研究のイメージ        
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(2)都市の動的物質・エネルギー代謝
1)低炭素型都市理論の構築
仮想的な都市について、産業構造、空間構造、気候等の条件を任意に変え、そこに省エネルギー等のさまざまな技術を導入した場合のCO2 削減効果を定量的に評価する仮想都市モデルの開発を行った。さらに、都市形態の変化とエネルギー消費の関係性を分析した。ここでは、名古屋市を対象として、オフィスビルの容積率上限までの建設、住宅地への用途転換等の複数のケースを提案した。また、これに伴う病院、学校等の業務系建物の建設を合わせてシミュレーションすることで、各ケースにおけるエネルギー需要量の変化を評価した。
2)都市の成長、建物、インフラとエネルギー:分析ツール(都市シミュレータ)の開発
名古屋市を対象として、都市空間の再編に伴うCO2排出量の削減効果を評価した。具体的には、メッシュ単位での人口、土地利用・建物データを整備し、2000 年〜2050 年における民生部門及び交通部門からのエネルギー消費量及びCO2 排出量を推計した。また、建物の建設から廃棄までに係るライフサイクルでの物質ストック量、物質フロー量を評価した。都市空間再編シナリオとして、特定地区への中央集約型、駅そばへの分散集約型、非集約型を提案し、住宅及び業務建物の再配置に関する将来変化予測を行った。これに、民生部門、運輸部門の低炭素化に資する対策技術を導入することによる時系列的なCO2 削減可能量を推計した。(3)都市類型による施策の評価
効率的な都市の低炭素型化対策実施のため、主に屋内外の気温低減を通じた空調負荷削減に焦点を絞り、規模(人口、面積等)、自然条件、経済社会条件等で異なる国内外のさまざまな都市・地域を対象に実施された研究をレビューした。具体的には、国内外の都市開発プロジェクトにかかる資料を収集し、気候別、都市計画手法別、熱供給手法別、政策別に分類する手法を検討した。
(4)アジアへの適用
統計データが十分揃っていないアジア途上国の都市におけるエネルギー消費の時空間分布を解析する1つの手法として、中国を対象に夜間光衛星画像データを活用し、より簡易的かつ高精度に都市の形を抽出する新たな手法を開発した。また、これにより中国25 都市の1993 年から2003年の都市域の拡大を評価した。中国の省別電力需要データと夜間光衛星画像データから得られる各省内の都市および農村部の夜間光強度の関係から、中国における電力消費の空間分布とその時系列的変化を把握した。
さらに、アジアにおける社会経済の将来予測で大きく変化する要素として、家計消費も挙げられる。経済成長に伴う家計消費の増大は、エネルギー消費の変化を通して環境負荷排出を増大させる。本研究では、中国の家計消費と環境負荷の関係に着目し、まず産業連関分析の手法を用いて、家計におけるエネルギーおよび水の消費に伴う直接的・間接的な環境負荷を定量的に評価した。また、都市と農村の家計消費由来の一人当たりCO2 排出量等の比較を行った。加えて、家計収入の財ごとの価格と支出金額の関係を分析するモデル(AIDS(Almost Ideal Demand System)モデル)を用いて、電力・水道料金が中国の家計消費支出に及ぼす影響を分析し、家計由来のCO2増加抑制に向けた適切な料金設定のあり方について論じた。

■ E-0806  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-086.pdf PDF [PDF 426 KB]
※「 Hc-086 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (1)地球温暖化対策ロードマップの作成
名古屋都市圏を対象に具体的なロードマップの作成を完了した。今後導入が見込まれるさまざまな技術の導入見通しとその削減ポテンシャルを評価した。
(2)都市の動的物質・エネルギー代謝
具体的な都市を対象に、将来予想される土地利用の変化、住宅・ビルの新築・建替え等のシナリオを与えて、エネルギー消費量とCO2 排出量を定量的に予測するシミュレータを完成した。これにより、都市整備のさまざまなシナリオに応じたCO2 排出量削減可能量の分析が可能となった。
(3)都市類型による施策の評価
国内外のさまざまな都市の気候・気象等の特性と、そこで有効な施策の関係について知見の整理を完了した。
(4)アジアへの適用
統計データの入手が困難なアジア途上国の都市におけるエネルギー消費の空間分布を衛星からの夜光データで解析する手法について、その精度と限界を検証した。

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0806
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0806.html

3.委員の指摘及び提言概要

全体としての統一性が見えにくく、サブテーマ相互の関連性が十分でないが、サブテーマ(1)、(2)は個別研究としては水準を満たす成果を得ている。
サブテーマ(1)では、デルファイ法を使うなど様々な工夫をして、名古屋都市圏における「2050 年マイナス80%ロードマップ試案」を作成した。他地域での展開のための具体的な示唆に欠けるところはあるが、その手法は参考になる。
サブテーマ(2)は、仮想的な都市について、様々な条件下でCO2 削減効果を定量的に評価する新しい試みに挑んだ。
しかし社会的実現性を反映しているとはいえない面がある。サブテーマ(3)、(4)は海外での低炭素型都市づくりの研究であるが、資料不足などの制約もあり、従来の研究の集大成や現状の紹介が中心であって、データベースの構築以上に研究が進んだとはいえない。今後も地域の特性を反映させた低炭素都市づくりは研究が必要なテーマであり、本研究の「成果」を再構成し、具体的な指針づくりが行なわれることを期待する。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0807 社会資本整備における環境政策導入による CO2削減効果の評価と実証に関する研究(H20-22)
研究代表者氏名: 野口貴文(東京大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では現状・将来の地域的社会特性(商習慣、産業構造、人口など)および実構造物の実態(位置、築年数、将来計画など)を基盤データとした上で環境パフォーマンスを評価できる環境政策検討シミュレーターを開発し、全国、都市圏、地方圏で導入可能な環境政策とその効果を把握し、最終的に、導入効果の高い環境政策として提案することを達成目標とする。具体的には、
(1)環境政策検討シミュレーターの開発
(2)シミュレーション試行のための大都市圏でのデータ収集・実態調査(関東圏)
(3)シミュレーション試行のための地方圏でのデータ収集・実態調査(四国)
(4)環境政策の検討と導入効果の評価(大都市圏)
(5)環境政策の検討と導入効果の評価(地方圏)
(6)環境政策の検討と導入効果の評価(全国レベル)
のサブグループによって研究を遂行し、地域の立地、建設需要、経済構造によって異なる特性に基づき、社会資本整備において最適な CO2削減政策のあり方を提案することで社会に貢献する。

図 研究のイメージ        
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■ E-0807  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-087.pdf PDF [PDF 382 KB]
※「 Hc-087 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 本研究を通じて次の科学的貢献が得られた。
(1)シミュレーター ecoMAの開発により、これまで得られなかった広域調達を想定した各資材の CO2排出原単位の産出を実現した。
(2)産業連関表をベースとして、各種建材レベルの環境負荷原単位を算出できる計算手法を確立した。
(3)社会資本整備のおもだった環境負荷原単位を実データで網羅的に算出した。
(4)生コンクリート工場を中心にして、製造工場の規模の経済と集積の経済のメカニズムを消費電力の長期的計測により定量的に明らかにした。
(5)道路の維持管理に関して、長期的かつ集約的に低炭素技術を利用することが規模の経済のメカニズムを発揮し CO2削減につながることを明らかにした。
(6)モーダルシフトによって建設資材の輸送部門において CO2削減効果が見込めることを定量的に明かにした。
地球環境政策への貢献という観点から言うと、基礎的ではあるが社会資本整備にかかわる業界がどのように努力・行動すれば今後 CO2を削減できるかを、 ecoMAを用いて検証、評価できるようになったことで、関係業界にとっては、地球環境保全への貢献のための運用方針決定の一助になると考えられる。また、産学連携の地域コンソーシアムを組織したことで研究成果の社会的な適用や認知度を高めることができた。今後はこの動きを相乗的に活用しながら研究成果を実社会に適用することのできる可能性について検証していきたい。

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0807
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0807.html

3.委員の指摘及び提言概要

本研究は、コンクリート産業を対象として、製造から輸送、そして廃材利用・処理までのマテリアルおよびエネルギーフロー、それに伴う CO2排出量のモデル化を試み、省エネルギーと CO2排出削減の可能性を検討したものである。コンクリートに関連した CO2削減というテーマでの実証的研究として見た場合には、個々のサブテーマに関して、新たな知見を加えたものと評価することができる。
しかしながら本研究の成果内容に、「環境政策」というキーワードがどのように取り入れられ反映されているかが全く不明である。一例としてサブテーマ (1)では、シミュレーター上で種々の環境政策を導入するとされているにもかかわらず、輸送距離以外の環境政策要素が取り入れられていない。今後、サブテーマで得られた成果が環境、運輸、産業などの政策分野に反映されることを期待するものの、全体として環境政策への寄与という観点からいえば、研究成果への評価は低い

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: E-0808 低炭素社会の理想都市実現に向けた研究(H20-H22)
研究代表者氏名: 中村勉((社)日本建築学会低炭素社会特別調査委員会)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究は、 2050年に CO2排出量を半減、人口減少社会に対応可能な都市空間を、地方都市で実現する手法を導き出すことを目的とする。サブテーマは、[1]都市構造・交通、[2]市民のライフスタイル・都市政策、[3]建築・環境工学手法、[4]都市・建築物・市民生活のエネルギー評価手法と総括を併せた 5つにより構成されており、各分野から学際的で実践的な理想都市を具体化する手法を検討し、その評価ツールの開発を含めて方策を導き出すことを目標とする。
特徴ある 5都市(茨城県土浦市、新潟県長岡市、東京都福生市、北九州市、千葉県柏市)をフィールドとして、行政や市民の協力を得ながら、各都市の持つ特性を活かして、具体的に模索する。
各サブテーマで抽出された手法を総合化し、 2050年の社会に対応する理想都市イメージを描くとともに、まちから排出される CO2を削減するための方策を立案する。今後、行政単位での環境政策や施策、都市マスタープラン策定などに応用可能とし、疲弊していく地方都市の再生に寄与することを目的とする。

図 研究のイメージ        
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■ E-0808  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-088.pdf PDF [PDF 636 KB]
※「 Hc-088 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ サブテーマ(1)では、サブテーマ (2)〜(5)の研究成果を総括としてまとめた。 2050年における「低炭素社会の理想都市」実現のための基本理念を構築し、これを実現するための汎用性のある都市政策手法を「 13のガイドライン」として提示した。
サブテーマ(2)では、長岡市をモデルとして、現状の都市政策の延長上にある都市形態と程度の異なる二つのコンパクト化シナリオを、再編成過程(2010年〜2050年)を含む長期的な CO2排出量で評価した。
サブテーマ(3)では、福生市では、市民と協働で将来におけるライフスタイル像、低炭素コミュニティ像と実現政策を描き、北九州市の若松区では、低炭素都市のライフスタイルと都市将来像と行動計画の枠組みを構築した。土浦市では「新しい生活像」を描くため、基礎調査を実施し、分析した。
サブテーマ(4)では、土浦市をモデルとして、空洞化する中心市街地と既成住宅地の 2050年のシナリオを描き、まちで低炭素社会を実現する手法とそれらの適切な導入方法についてまとめた。併せて 2050年の社会に向けて、建築施設の CO2排出量を削減する設計手法についてまとめた。 サブテーマ (5)では、
[1]街区スケールで熱環境・エネルギー・ CO2排出量を予測・評価できる環境シミュレータの開発と、
[2]市民等とのコミュニケーションに利用可能な環境情報の 3D-CAD可視化ツールの開発を行った。

図 研究成果のイメージ        
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ケーススタディとして、土浦市中心市街地の土地利用の異なる 5街区を対象に、熱環境・エネルギー・ CO2排出量に関する現状と将来像の分析を行った。また都市広域や市街地の土地被覆や表面温度分布等の情報を可視化できる航空機リモートセンシングデータを取得した。
以上 3年間の研究成果報告として、 2011年3月 23日に環境省共催のシンポジウムを開催した。このとき、低炭素社会を構築する基本理念と 13のガイドラインについてまとめたパンフレットを作成し、今後も、建築学会や UIAなどで配布、啓蒙活動に活用する予定である。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0808
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0808.html

3.委員の指摘及び提言概要

本研究は 2050年に CO2を半減しつつ、人口減少社会に対応可能な都市空間を地方都市で実現する手法を導き出すために行われた。各サブテーマで、ケーススタディとして特徴ある 5つの地方都市をモデルとして選び、都市将来像と行動計画の枠組みを提示した。同時に、基本理念を構築し、目的とする都市空間を実現するための都市政策手法を、 13のガイドラインとして提示した。
しかしながら、各サブテーマの連携がほとんどとれておらず、また提案された理想都市の 13のガイドラインには次元の差がありすぎ、制度や政策的な手段に結びついていかないことが懸念される。特に 2050年の社会像については、価値観のようなソフトの部分からみた場合、共通理解を得ることに困難があり、その結果、提案に係る政策を具体的に実行に移すことを誰がどのように担保するかが大きな課題として残されることとなる。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c

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研究課題名: E-0809 中国における気候変動対策シナリオ分析と国際比較による政策立案研究 (H20−H22)
研究代表者氏名: 外岡 豊(埼玉大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 中国の気候変動対策、政策について省別・エネルギー需給詳細部門別・エネルギー種類別のエネルギー需給データを基礎に、人口、経済社会、各種技術、社会資本形成、世界経済との関係、都市と農村の住居等、諸影響要因を解析して、2030 年の将来温室効果ガス排出量と各種対策効果を定量評価し、対策を実現する施策のあり方について検討し、中国における低炭素社会化への可能性を客観分析するものである。その際、現行の関連政策状況を調べ、また国際比較を行い、その上で有効な政策について考察した。研究は以下のサブテーマから構成される。
(1) 中国エネルギー需給現況分析と温室効果ガス将来排出量シナリオ分析に関する研究
省別・エネルギー需給詳細部門別・エネルギー種類別のエネルギー需給データを経年的に分析し、その動向を多面的な影響諸要因との関係から分析した。対策技術を含め影響要因の動向を想定し、一部の発生源部門については2030 年の将来温室効果ガス排出量をシナリオ推計分析した。
(2)エアロゾル排出係数に関する研究
大きな温室効果を持つEC(エレメンタリーカーボン、未燃炭素小粒子)と冷却効果を持つOC(有機炭素)の排出実態を明らかにするため家庭用厨房暖房機器(カン、?、kang)の排出についての実測をおこなった。

図 研究のイメージ        
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(3)建築分野施策と住宅省エネルギーに関する研究
都市部住宅について家計調査を用いた独自推計を行い、経年動向と省別分布を分析、農村部住宅についても同様の分析を行うとともに、寒冷地域の地域熱供給量についても分析した。バイオマス燃料消費実態を中心に農村住宅のエネルギー消費実態調査を大連近郊他で実施した。中国における非住宅建築のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量について建物用途別エネルギー用途別省別に推計し、将来シナリオ予測を行った。
(4)中国の気候変動対策と関連政策に関する研究
世界全体の温室効果ガス排出と削減における中国の位置づけ、中国社会の現状を踏まえ京都会議後の国際的な取り組みにおける可能性などについて検討した。近年気候変動国際条約交渉の中で中国の存在感が増しており、エネルギー資源政策、再生可能エネルギー政策、省エネルギーと国内気候変動対策施策の相互連携の最新状況についてまとめた。
(5)国際比較による対策総合評価に関する研究
環境クズネッツ曲線分析による国際比較と中国の地域間比較を同時に実施し、その応用による政策分析の可能性を検討し、以上の研究を総合して中国における気候変動対策と政策について考察、提言した。環境クズネッツ曲線分析は過去の動向の後追い分析としてだけでなく、国際比較,地域比較を通じてこれからの政策評価に応用できることを示した。

■ E-0809  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/9846/hc-089.pdf PDF [PDF 163 KB]
※「 Hc-089 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ (1) 中国エネルギー需給現況分析と温室効果ガス将来排出量シナリオ分析に関する研究
製造業業種別・省別・経年動向分析は統計データの質が悪くて解析困難な部分も多かったが、主要業種・主要生産地域について分析し将来予測シナリオ色分析を行った。鉄鋼、セメント、交通について特に詳細分析を行った。地域構造、産業構造、素材選択など間接的上流対策、施策の排出削減効果についても定量評価したかったが、それは十分できなかった。また各業種の生産工程やエネルギー利用における省エネルギー対策の技術実態情報が少ないので製造業の技術実態を反映した省エネルギー対策効果の定量評価は十分できていない。このニ点が今後の課題である。

図 研究成果のイメージ        
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(2)エアロゾル排出係数に関する研究
大きな温室効果を持つEC(エレメンタリーカーボン、未燃炭素小粒子)と冷却効果を持つOC(有機炭素)の排出実態を明らかにするため家庭用厨房暖房機器(カン、.、kang)の排出についての実測をおこなった。EC(温室効果)よりOC(冷却効果)の排出がかなり大きいことを示唆する結果が得られたが、複雑な気候変動メカニズムを解明する上で非常に大きな学術的成果である。
さらに確認実測を継続し、その結果を踏まえて(3)で農村バイオマス利用に関する対策、施策の具体化につなげることが次の課題である。
(3)建築分野施策と住宅省エネルギーに関する研究
利用できる諸統計を活用した省別分布と経年動向のマクロな推計を行うとともに農村部住宅については各地で実態調査を行い検証的なミクロ分析研究を行った。農村部バイオマス利用実態については両者は矛盾なく一致する傾向を示し、厨房用かまどとカン(.、kang)によるトウモロコシなどの農業廃棄物の自給利用が今でも各地で行われている実態を確認できた。清華大学の調査と推計では石炭消費量が多く、バイオマス燃料消費割合が我々の推計より小さかった。その理由について清華大研究者と討論したが理由は解明できていないが、我々の研究では統計によるマクロ推計と各地実態調査によるミクロな検証とが一致しており当面の結論として我々の研究結果が正しいものと理解している。
非住宅のエネルギー消費実態については床面積当エネルギー消費原単位調査結果は多少研究蓄積がされてきているが不十分であり、我々の試算はどこまで実態を反映しているを検証することは難しく、推計制度の向上をめざした追加情報収集と改訂推計を随時行っている。推計の精度向上の余地は残されているが、この分野の研究として世界的にも先行した成果を得ることができた。
(4)中国の気候変動対策と関連政策に関する研究
定量的な資料を踏まえた政策状況の検討を行ったが、国際交渉における中国政府の立場と国内気候変動、省エネルギー、再生可能エネルギー行政の関連性については、さらなる情報収集と考察が必要であり、継続研究予定である。
(5)国際比較による対策総合評価に関する研究
上記、各サブテーマ研究の成果を取り込んだ応用解析はまだできていないが、環境クズネッツ曲線を用いた様々な応用解析を試行し、環境政策、エネルギー政策、気候変動政策に共通して政策評価に環境クズネッツ曲線を応用できることを示すことができた。様々な具体例において、とくに中国国内の地域格差に応じて沿岸部先進地域政策から順次内陸の未開発地域へと漸進的な政策推進にこの手法を応用したいと考えている。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0809
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0809.html

3.委員の指摘及び提言概要

中国のエネルギー需供給分析に際して信頼性に大きな疑問のある統計データを精査し、エネルギー消費量がとりわけ多い鉄鋼分野、セメント分野、交通分野でのデータを取得したことは評価することができる。また住宅の省エネルギーに関しては丹念なミクロ的調査とデータ収集を基礎に、現状報告および分析を行っており、大きな努力の跡がうかがえる。また政策立案研究としては異質な研究ではあるが、温暖化に強く影響するブラックカーボンの起源となる「カン(kang)による燃焼」実態を実験科学的に解析し興味深い成果を得た。
しかし、研究を全体的にみると、各サブテーマの整合性がとれておらず、研究の内容に統一性がなく、将来を展望したシナリオが示されていない。その結果、本研究の成果が中国へ還元可能なのか、またそれが逆に日本にとってどのようなメリットになるのか判然としないままに終わっている。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c

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研究課題名: E-0903 再生可能エネルギーの大規模導入を可能とする自律協調エネルギーマネジメントシステム(H21−H22)
研究代表者氏名: 荻本 和彦 (東京大学 生産技術研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では、家庭、業務などの民生部門におけるエネルギーサービス水準を維持・向上しつつ再生可能エネルギーの大規模導入を実現するための自律協調エネルギーマネジメントシステムの構築を目的とし4 つのサブテーマにより実施した。検討したシステムは、気象予測に基づき広域における変動の平滑化効果(以下、ならし効果)を考慮した発電予測や快適な空間の維持向上に必要なエネルギーサービス量を境界条件として、エネルギーシステム全体と協調的に運用される需要側建物等における自律分散型のエネルギーマネジメントシステムである。ここで言う協調とは、再生可能エネルギーの大規模導入による既存エネルギーシステム(ネットワーク)への負担を軽減するよう、集中/分散のエネルギー貯蔵要素や需要機器制御などを活用し、さらにはネットワーク側の電圧や周波数などの品質維持も分担することをいう。
サブテーマ1では、エネルギーマネジメント等に必要な再生可能エネルギー供給量の変動予測に関する研究として、天気予報や数値予報データを利用した単地点の太陽光発電の発電量予測技術の開発、広域におけるならし効果を考慮した発電量予測技術開発を行った。

図 研究のイメージ        
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サブテーマ2では、快適性維持と省エネルギーの実現に加えて、電力システム全体に貢献できる建物レベルの分散エネルギーマネジメントシステムの開発を目指し、エネルギーサービス需要量予測に必要な住宅内需要構造解析手法の検討、快適性を損なわない範囲での制御パターンの検討、家庭内機器を制御した場合の効果の評価を行い、装置の実装技術の検証のための装置の試作を行った。
サブテーマ3では、分散エネルギーマネジメントと集中エネルギーマネジメントが協調したシステムの開発を目指し、分散発電大量導入時の系統安定化対策に関して、蓄電池システムの必要設置容量の適切な評価手法および電気自動車やヒートポンプ給湯機など他の可制御な需要家機器との協調制御手法の確立を行った。
サブテーマ4では、再生可能エネルギーの変動性に加え、ヒートポンプ給湯機や電気自動車など需要側機器の普及によるエネルギー需要の変動を考慮した動的エネルギー需給解析モデルを用いて、解決すべき課題分析とその解決のための集中/分散エネルギーマネジメントモデルの開発、および、開発された技術に制度を組み合わせて導入した場合の目的達成の可能性の解析・評価を行った。

■ E-0903  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-093.pdf PDF [PDF 508 KB]
※「 H-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ 2 年間という期間を最大限に活かし、所定の目標を達成することができた。
具体的には、発電量予測は、太陽光発電システムの大量導入には必須の技術課題であり、環境省「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」においても「再生可能電力出力予測」が挙げられている。本研究では、電力システムの安定運用に不可欠の広域の発電量予測の予測誤差は明確になっていないため、導入可能量や必要対策費など定量化が難しいのが現状であった。電力需給の低炭素化に向けた再生可能エネルギー導入について、導入可能量および対策を明らかにすることができた。
太陽光発電等の出力が不安定な低炭素分散電源を大規模に導入するには、需給バランス調整という観点から家庭等の需要を能動化する集中/分散のエネルギーマネジメントの協調は不可欠である。将来、低コストでこの機能を有する装置を家庭に大量に普及させるための研究として、分散エネルギーマネジメント技術が住宅一軒の快適性、省エネ性、省CO2 などのとして有効に働くこと、またそれが多数の住宅に普及することで太陽光発電や風力発電の高い普及率目標の実現に不可欠な電力システム全体の需給調整力の向上に貢献できるkとを需給解析により検証した。
配電系統に必要な安定化対策としての蓄電池容量の評価手法は、今後の家庭用太陽光発電システム導入に係るコスト試算に際して有効である。

図 研究成果のイメージ        
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また、ヒートポンプ給湯器が系統制御に貢献することで大量の再生可能エネルギー電源導入につながる可能性を明らかにし、低炭素化技術としてのヒートポンプ給湯機の普及促進という点でも期待できることを示した。
以上の要素を組み合わせた、再生可能エネルギー発電量予測の下での、需要側と供給側の双方の調整力を電力システムの需給調整力確保に活用する集中/分散のエネルギーマネジメントの協調は、中長期ロードマップ小委員会および低炭素社会づくりのためのエネルギーの低炭素化検討会(エネルギー供給WG)の報告書(平成22 年12 月)に取り入れられた。また、研究代表者あるいは参画者は、競争的資金を活用し、それぞれの研究を深堀、発展させる研究、技術研究開発につなげることができた。また、スマート家電、スマートハウスなどの産業界の活動をリードしている。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0903
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0903.html

3.委員の指摘及び提言概要

2 年間という短い期間の研究であったが、課題に沿って入念な分析と提言がなされており、内容の高い研究成果をあげた。成果は明確に集約されており、「再生可能エネルギー」と「自立協調型のマネジメント」という2 つのキーワードの結びつきを、技術的な文脈で納得させるものとなっている。今後の太陽光発電の大量導入に向けて参考にすべき成果が多々あり、研究結果が可及的速やかに政策議論の場において検討されることが期待される。
一方で環境政策的な研究としてみると、分散自律協調型システムでは居住者・消費者としての市民の省エネルギーへのインセンティブや、ライフスタイルと関連した文脈の研究要素が重要である。居住者や投資者の立場からのシステム設計の内容への参加や関与の課題が今後に残されている。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: E-0904 低炭素車両の導入による CO2削減策に関する研究(H21-22)
研究代表者氏名: 近藤美則(独立行政法人国立環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 低炭素社会づくりに向けて、交通分野でのビジョンの構築と実現に関する研究が急務とされている。低炭素型の社会の実現の一翼を担う低炭素型車両の開発と普及を着実に進めていくためには、車両の実使用状態での CO2排出量の「見える化」による消費者の低炭素選択の推進、今後、広い普及が期待されている電気自動車(BEV)等の電動車両の充電設備設置可能性に関する具体的な検討が必要である。また、小型パーソナルモビリティや LRT(次世代型路面電車システム)等を含めた広義での電動車両の導入による交通行動の転換が重要である。

図 研究のイメージ        
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本研究では、短期的削減策として、低炭素型車両の普及と開発をより確実とするため、販売される車両の実使用状態での CO2排出量の評価を行い、信頼性の高い数値の「見える化」を行う。導入間近の BEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)の導入効果について,走行特性や充電頻度を含めた形で推定し、実使用状態で予想される効果を利用実態別に明らかにする。短中期的削減策として、電動車両の家庭等での充電設備整備について、居住形態別地域別に可能性を調査、利用可能な充電方式の評価を通して実現可能性の高い整備方法と課題等を明らかにする。中長期的削減策として、個人用移動手段と中量公共交通機関(広義の電動車両)の組合せによる次世代型交通システムについて、技術進歩を考慮しつつ、 CO2、コスト、資源等を指標とする多面的な評価、地域特性に応じた実現可能性の高い提案を行う。
この研究を実施するために、次の 3つのサブテーマを設ける。
(1)実使用燃費の見える化と電動車両導入効果の推計に関する研究
(2)電動車両用充電設備の設置における問題とその解決策に関する研究
(3)次世代電動車両の性能評価と導入における問題と解決に関する研究

■ E-0904  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/h-094.pdf PDF [PDF 508 KB]
※「 H-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号

2.研究の達成状況

図 研究成果のイメージ サブテーマ (1)では、代表的な市販車 24台に対して、より実利用に近い走行モードを使ったシャシーダイナモ試験を実施して CO2排出量を計測し、ユーザー入力式実燃費データベースであるe燃費(実燃費)からの CO2排出係数と概ね近い値を得ることに成功し、一部の結果を公表した。一方、車両の利用の仕方が CO2排出量に与える影響について、 10-15モードカタログ値に比べ速度パターンの違いで 2〜6割、エンジンが冷えた状態からの利用やヘッドライトやエアコンなどの補機を利用することで 1〜3割の排出増があることを解明した。
また、つくば市周辺居住者の十数台の(軽)乗用車の長期実利用データをもとに最新の BEVについて利用可能性を試算し、月に1回程度の長距離移動への対応ができれば、ほとんどの車両は家庭充電のみで電気自動車に代替可能であることを明らかにした。また、同じデータを使ってハイブリッド車に比べた PHEVのメリットを比較し、短距離中心利用では大きなメリットが得られるが長距離では小さい、電池搭載量を増やすとメリットが低下する、低炭素な電源利用でなければデメリットが大きい、等を明らかにした。
サブテーマ (2)では、各地域の家庭における電力契約状況及び、冬季の電力機器使用実態を調査し、現在の家庭での電力契約・使用状況で電動車両を普通充電する場合、深夜は他の電力機器使用への影響はないが、午前中や夕方から深夜にかけてはアンペア契約制の場合にはブレーカーが落ちる可能性があり、家庭での電力マネジメントが必要であるとの示唆を得た。

図 研究成果のイメージ        
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また、道路交通センサス OD調査データを用い、 BEVに代替可能な需要と BEV導入に伴う走行段階での CO2排出量削減効果を示すとともに、 BEVのライフサイクルインベントリ分析を行い、搭載する電池容量がライフサイクル CO2排出量に与える影響に関する感度分析を行った。
一方、低価格ハイブリッド車・ BEV・PHEVの市販化と、いわゆる「エコカー補助金」「エコカー減税」の実施による消費者の電動車両に対する受容性の変化を、コンジョイント分析によって解析した。消費者の電動車両に対する受容性を踏まえ、電池性能の向上・電池量産効果による価格低下が達成された場合の 2020年時点における電動車両の普及可能性の分析を行い、交付される補助金の額が電動車両の普及率とそれによる CO2排出削減量に大きな影響を与えることを示した。
サブテーマ (3)では、地域特性を考慮した移動・交通手段の変更による CO2削減量等をより現実的に評価するために、個人用から公共交通機関までの移動手段に対して、文献調査および一部の個人用電動車両は実利用時性能評価を行い、乗車人数、移動速度等を考慮した CO2等の排出原単位データベースを構築した。さらに、現在と今後現れる新規移動手段の性能評価を統一的に実施するためのツールを試作した。
道路交通センサス OD調査データを用いて人口密度別に一日の走行距離と CO2排出量の地域差を明らかにし、上記データベースにおける低炭素車両の適用範囲を把握した。これらをもとに地域特性を考慮した CO2削減量試算ツールを開発、相模原市のデータにより利用可能性を確認した。
一方、自動車から公共交通機関、パーソナルモビリティの利用への転換を早くから行っている欧州および米国における現地調査により、転換を成功に導くための各種の検討項目に関する情報を収集した。より確実な実現には、インフラ整備だけではなく、利用実態調査等に基づく整備計画や制度の策定、教育・普及啓発など、ソフト面の取り組みの同時推進が重要であり、都市・地域の目標毎に異なる対応が必要であることを確認した。

ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 E-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data/E-0904.html

3.委員の指摘及び提言概要

自動車からの CO2削減のための実証的でかつ具体的な技術データを蓄積したという意味で、成果が見られる。特に実使用燃費の見える化、および電動車両用充電設備の設置という課題においては、短期的削減策としての知見の獲得に成功している。これらは電気自動車導入促進への施策実施へ資するところがあろう。
しかし次世代電動車両の性能評価と導入における問題点に関する研究では、データベース、削減量試算ツールのいずれにおいても考え方の枠組みが提示される段階にとどまっており、研究期間が 2年に短縮された影響をうけてではあるが、研究の完成度が十分とはいえない結果となっている。

4.評点

  総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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