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中間評価 2.第2研究分科会<環境汚染>

研究課題名: B-1001 有明海北東部流域における溶存態ケイ素流出機構のモデル化(H22-24)
研究代表者氏名: 熊谷 博史 (福岡県保健環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 近年の有明海における魚介類の激減、ノリ不作、赤潮・貧酸素水塊の発生など多くの異変は、同海域の漁業を壊滅させかねないため、その原因解明と再生へ向けた対策が緊急の課題である。赤潮対策としては、植物プランクトンの餌となる、陸域からの栄養塩の流入を把握する必要がある。通常、植物プランクトンの必須栄養塩は窒素・リンであるが、珪藻の場合はこれに溶存態ケイ素(DSi)が加わる。有明海の赤潮すなわち植物プランクトン優占種の変遷を論じるためには、DSi を含めた栄養塩の定量的な把握が必要不可欠である。そこで本研究では、陸域から有明海へのDSi の流出状況を明らかにすることを目的とする。本研究は、三つのサブテーマからなり、
(1)DSi を発生・変動させる要因について実態(1,発生源、2.流域間移動、3.停滞域トラップ)を把握し、
(2)沿岸域に流入するDSi を定量的に把握する手法を開発し、
(3)抽出されたDSi 発生・変動要因が沿岸域に流入するDSi にどの程度の影響を与え、実際に沿岸生態系に影響を与えていたのかを調査するものである。

図 研究のイメージ        
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■ B-1001  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1001.pdfPDF [PDF 456 KB]

2.研究の進捗状況

本年度は、サブテーマ(1),(2)を実施した。
サブテーマ(1)-1 では、人為的発生源として事業場排出水中のDSi について調査した。DSi 濃度は範囲に幅があるものの、DSi 濃度20mg・L-1 以下のサンプルが全サンプルの82%を占めており、業種毎の平均値についても0〜約20mg・L-1 の範囲にあった。幾つかの業種で高いDSi 濃度の排水を有するものがあったが、その多くは排出負荷量が小さかった。しかしながら排出源の周辺調査により、事業場排水が影響し水域のDSi 濃度が増加している事例も確認された。
サブテーマ(1)-2 では、嘉瀬川・筑後川・矢部川水系において、水道用水取水18 箇所、工業用水取水6 箇所、農業用水取水553 箇所、水力発電所34 箇所、下水道31 箇所において水移動が確認され、最も取水量の大きい取水は農業用水であった。
サブテーマ(1)-3 では、研究対象流域内の幾つかのダム・堰においてDSi 沈降フラックスを、珪藻プランクトン種数データより見積もった。沈降フラックスが増加する時期及びフラックス量は水域に応じて異なっていた。また、見積もりの際には、増殖する植物プランクトンのサイズ及び沈降速度が、フラックスの算定量に影響していた。
サブテーマ(2)では、定常・洪水時の流量・DSi 濃度データより陸域からのDSi 流出負荷量の経年変化を算定した。その際、調査地点より下流域からの負荷量については、流域地質データをもとに推定した。その結果、ノリの色落ちの生じた2002 年においては前年度比で三河川の合計の流入負荷量が17%減少していた。

3.委員の指摘及び提言概要

少ない研究費の中で、所定の計画に従い順調に調査・研究が進行していること、目的が明確で手法はシンプルであるが多くの調査が系統的に実施されていること、DSi に着目して有明海異変を取り扱った研究で新規性が高いこと、DSi の発生・変動要因調査が徹底的に実施され多くの実測値データが蓄積されたこと、DSi 流入負荷算定方法の開発に向かい進展がみられること、などが評価できる。
今後、沿岸生態系への影響、ため池とダム湖の比較、DSi 発生・変動要因分析、一般的に適用できる定量性のある算定式を得ること、DSi 濃度ののり不作への影響の解析、DSiの負荷量を河川と事業場排水由来とに区別をした解析を進めることにより、さらなる研究の進展が期待される。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: B-1003 貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と底層DO 目標の達成度評価手法の開発(H22-24)
研究代表者氏名: 堀口 敏宏 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 東京湾などの閉鎖性海域では30 年に亘る水質総量規制制度により、一定の水質改善がみられる反面、生物が生きていけないほど溶存酸素(DO)濃度が低下した貧酸素水塊が夏季を中心に広く分布し、生物の生息環境は依然厳しく、魚介類の種数や個体群豊度、現存量は低水準のままである。本研究では、魚介類において環境の影響を特に受けやすい生活史初期の個体(本研究では、特にマコガレイ稚魚とアサリ浮遊幼生・着底初期稚貝)に着目し、室内実験、現場調査及び統計学的手法を駆使して、底層DO 目標値導出のための初期生活史標準試験法の確立、科学的根拠に裏付けられた底層DO 目標値の提示、その目標値適用のための水域区分の提案、及び底層DO 目標の達成度評価手法の確立を図る。これにより、良好な海域環境の回復に向けた政策への貢献が期待される。

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■ B-1003  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1003.pdfPDF [PDF 483 KB]

2.研究の進捗状況

サブテーマ1 及び2 についての進捗と特筆すべきことは、概ね、以下の通りである。初期生活史試験法の標準化について、重要な点とそれを的確に実施するための方法論はほぼ確定し、プロトコルを今年度中に作成できる見通しである。また、それに基づいて実施した試験でマコガレイ稚魚とアサリ幼生・着底初期稚貝の貧酸素耐性データを獲得・蓄積し、来年度に予定通り、シミュレーションを実施する予定である。両種が斃死するDO レベルとともに、貧酸素水塊(低DO海水)に遭遇した際の行動等に関する観察結果も得ており、それらをシミュレーションに反映させる予定である。特筆すべきこととして、アサリ幼生及び着底初期稚貝には、当初の予想以上に貧酸素耐性があることがわかった。一般に、アサリ、サルボウガイ等ある種の二枚貝成体には貧酸素耐性があることが知られているが、幼生等の生活史初期の個体についてはほとんど知見がなく実態が不明であったことから、本研究で得られた成果は貴重である。また、実海域における観測と室内実験の結果から、アサリ幼生は貧酸素水塊を避けて行動する(忌避行動)特性も有している可能性が見出された。これらの結果は、底層DO 目標値の設定及び適用のために有用な基礎知見であるばかりでなく、生活史のごく初期の段階からアサリにこれほどの貧酸素耐性があるのはなぜか(生理学的な機構)、また、そうした生理特性が生物進化のどの過程で獲得され、また、発生・発達期のいつから現れるのか(進化生物学的な獲得機構、並びに、発生生物学的な発現機構)、等の学問的興味をもかき立てるものである。サブテーマ3 では底層DO 目標の達成度評価手法の確立に向けて、二つの課題を推進した。初めに、特定の閉鎖性海域内において測定時点毎にDO 基準値を満足している面積比率を推計し、それを測定時点の順序を考慮に入れずに評価する累積頻度図法の有効性や拡張性等を確認し、この手法の解析結果を分かり易くする方法論の開発を行った。また、測定地点毎の基準値を満足する時間比率に着目し、上記の方法とは異なる累積頻度図法の構築を検討し、現在、その有効性等5 / 30を検証している。次に、DO 基準値の判断に対する年間測定日数の影響を検討し、1年間のサンプリング回数とDO 基準値の誤判別率の定量的評価をシミュレーションと解析的手法により行った。具体的には、データとモデルによって年間の測定回数の変動に伴う誤判別率(1年間において基準を満足していない日が存在しているが、年数回の測定ではそれが検出されない。また、サンプリング回数を増やせば、誤判別率は小さくなる。)の推定を行った。この結果から最終年度に向けて、底層DO 目標達成度評価において行政上必要不可欠である年間の測定回数の決定や目標値適用のための水域区分の提案を定量的に行うための前提作業が終了した。

3.委員の指摘及び提言概要

現行の水質環境基準の見直し、底層DO の環境基準化を目前に控え、現実的な影響評価手法確立のための基礎研究を目標とした本課題の試みは社会的・行政的必要性が高く、学術的な新規性も期待できる。本課題は円滑に推進されて、貧酸素耐性の水槽実験や三河湾現場観測データなど興味深い知見が得られており、研究資金に照らして、期待通りの成果を上げている。二枚貝の貧酸素化による影響のモデル開発や数値モデルによる貧酸素水塊の形成シミュレーションには、現地観測データとの突き合わせなど詳細な検討が必要になろう。また、学術誌への論文投稿と学会での口頭発表を積極的に進める必要がある。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: B-1004 浅い閉鎖性水域の底質環境形成機構の解析と底質制御技術の開発 (H22-24)
研究代表者氏名: 西村 修 (東北大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 富栄養化は世界に共通する課題であり、日本のみならず中国など経済発展の著しい諸外国ではアオコ発生による利水障害が恒常化するなど問題が深刻化している。さらに、地球温暖化は富栄養化を加速度的に進行させることが予測されている。特に富栄養化しやすい特性を有している浅い閉鎖性水域では、底質有機汚濁化、巻き上げによる水質汚濁が著しく、植物や動物など底生生物の消滅をもたらしている。そこで、本研究では流動制御が底質の改善を通じて水質改善、生物多様性の改善というインパクト・レスポンスをもたらすことを実証し、富栄養化対策技術として確立することを目標に、浅い閉鎖性水域の底質環境形成機構の解析と底質制御技術の開発を行う。

図 研究のイメージ        
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■ B-1004  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1004.pdfPDF [PDF 294 KB]

2.研究の進捗状況

(1) 底質制御技術の開発流動制御(インパクト)による底質改善(レスポンス)を技術として確立するために、実際の場で想定するインパクト・レスポンスが成立しているのか検証を行った。松島湾桂島沿岸の隣接するコアマモ場と裸地をフィールドとして、底質-直上水間の粒子状有機炭素(POC)のフラックスを測定し、流動(底質から5 cm 上の流速・流向)および底質性状との関係を解析した結果、藻場の平均流速(10 分平均)0.4 cm/s に対し、裸地は3.1 cm/s と1オーダー大きかった、一方、二潮汐間のPOC フラックスは藻場で巻上げ、裸地で沈降が卓越していた。これらの結果は研究代表者らの行っている砂質・泥質干潟の結果に一致し、流動と底質の有機炭素含有率には動的平衡が働き、流動の弱い場は底質の有機炭素含有率が高く、平常時はPOC のソースとして働くことが検証された。
(2) 底質形成機構(水の流動と底質の有機物含有率の関係)のモデリング浅く富栄養化した湖沼に適用できる底質巻き上げモデルの開発をめざし、伊豆沼をフィールドとして強風時の現地観測を行った。その結果、底質の巻上げには風波によって生じる振動流や乱流の影響が大きいことがわかった。この結果を基に、風速および吹送距離を考慮した流速振幅を定式化し、これを水面における境界条件としたk-ε乱流モデルによる湖水流動の3 次元モデルを構築した。この方法により、風による底質の巻上げを高い精度で再現することができた。モデル中の経験的なパラメータに関しても霞ヶ浦と伊豆沼を比較しながら湖沼形状、底質性状の差異を考慮して説明することが可能となり、様々な特徴を有する浅い閉鎖性水域の底質形成機構を説明できるモデルへと展開する基礎が構築できた。
(3) 底質環境の長期連続モニタリングおよび底質環境形成機構の解析伊豆沼をフィールドとして砂質、泥質、砂泥質と底質性状の異なる3 地点を選定して一ヶ月以上の流速・流速連続モニタリング(10 分毎に1 秒間隔で30 個)を行い、底質環境特性の異なる場における流動特性を解析し、底質性状と流動特性との関係を考察した。その結果、底質の炭素含有率と平均流速(10 分平均)との関係はみられなかったが、新たなパラメータとして流速v がある流速vc を超える頻度F(v≧vc)を定義して解析を行ったところ、F(v≧5cm/s)と底質の炭素含有率との間に相関が認められた。流動特性の詳細な解析から平均流速が最も低いものの砂泥質の性状を有する地点において振動流が認められ、振動流による巻上げが底質の炭素含有率を支配する可能性が示唆された。

3.委員の指摘及び提言概要

概ね計画に書かれた研究・調査が進行している点では評価できる面があるものの、本来の目的に向けた道筋と計画・調査の方向性に以下の問題がある。研究対象の選択では海の干潟と富栄養化した浅い湖の二つを対象としていることから底質環境形成機構の解明とモデル解析を実施することに困難があること、サブテーマ2 と3 は同じ伊豆沼が研究対象であるが調査地点も異なり連携していると思えないこと、「水域の流動が底質を支配する」という仮説の検証のために必要なパラメータ、測定期間やどのようなモデル解析を実施するか等が明確でないこと、既往の研究成果を踏まえていないことや現象を大局的に見る視点に不足が見受けられること等の点について担当間で熟考し、伊豆沼の汚染の現実問題の解決との間の距離を埋める必要がある。また、成果の対外的発表にも更なる努力が必要である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: B-1005 環境基準項目の無機物をターゲットとした現場判定用高感度ナノ薄膜試験紙の開発(H22-24)
研究代表者氏名: 高橋 由紀子 (長岡技術科学大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 事業所での日常的な排水管理、汚染土壌調査、農産物等の大量スクリーニング、発展途上国での水質管理、学校用教材などへの利用と、有害イオンの分析ニーズは多い。しかしながら、基準値が低く機器分析頼りであるため、現場ですぐに結果が分からない、測定料金が高い等の問題のため、分析は限られた範囲に止まっている。真の水質、食品、環境管理を達成するために“だれでも、その場で、迅速に、基準値を超えているか否か判定できる”高感度ナノ薄膜試験紙を提案する。代表者は有機比色試薬のナノ粒子もしくはナノコンポジットから成る厚さ数百ナノメートルの薄膜を作成する技術を確立し、これを用いた高感度なナノ薄膜検出法(既存のイオン試験紙の1,000 倍以上の感度をもち、基準値(ppb)レベルが判定可能)を発案した。環境基本法及び水質汚濁防止法の定める基準のうち無機物(カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、ニッケル、モリブデン、亜鉛、銅、鉄、マンガン、砒素、セレン、ふっ素、ほう素)の14イオンをターゲットとして、個々のターゲットに対する既存の有機比色試薬群から、[1]ナノ薄膜作製の可能性、[2]ターゲットイオンとの反応性、[3]およその感度、[4]およその選択性、[5]感度、[6]選択性、[7]実試料への適用、という評価基準を順次適用することで至適試薬を選定し、現場分析に資するナノ薄膜試験を提供することを目標とする。上記のうち、7 割程度の創出を目指す。特に[4]までクリアした試験紙については[5]から[7]では選別は行わず、使用条件や性能等の仕様を求める。

図 研究のイメージ        
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■ B-1005  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1005.pdfPDF [PDF 225 KB]

2.研究の進捗状況

平成22 年度は、サブテーマ(1)膜の作製条件の最適化、(2)ターゲットとの反応条件の最適化、(3)機器分析を用いた試験紙のクロスチェックを行った。
(1)膜の作製条件の最適化
カドミウム、鉛、亜鉛イオンについて製膜の可能性による試薬のスクリーニングと定量的製膜のための諸条件の確立およびフッ化物イオンについては新規反応系の開発を行った。カドミウムでは15 試薬から10 試薬が、鉛試薬では9 試薬から7 試薬が選択された。フッ化物イオンは試験紙に適した蛍光検出系が見出された。ナノコンポジット膜の作成に必要となるナノ担体の探索実験を行い、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウムのナノ粒子が新たに試験紙の定量的製膜に適した担体として見出された。
(2)ターゲットとの反応条件の最適化
水銀、カドミウム、鉛、亜鉛イオンについてターゲットとの反応性によりスクリーニングを行い、選出された試験紙について感度を求めた。フッ化物イオンについては新規反応系の開発を行った。水銀イオン用ナノ薄膜試験紙として、ジチゾンナノ繊維膜が最終的に得られた。仕様は、通液濃縮法で試料溶液を100 ml とすると、分析時間17 分、TLC スキャナでの検出限界は0.057 ppb、定量範囲0.1〜20 ppb であった。選択性は、10 ppb の水銀イオンの定量に対し、1,000,000 倍のナトリウムイオン、500,000 倍のカリウムおよびカルシウムイオン、50,000 倍のアルミウム(III)イオン、酸性条件下で20,000 倍のクロム(III)イオン、10,000 倍の鉛(II)、鉄(III)、マンガン(II)、ニッケル(II)イオン、さらにEDTA をマスキング剤として添加し水溶性錯体として分離することで10,000 倍の亜鉛(II)イオン、1,000 倍のカドミウム(II)イオン、640 倍の銅(II)イオン、さらに還元剤のアスコルビン酸の添加で20,000 倍のクロム(VI)イオン、ヨウ化ナトリウムを沈殿剤として用い前ろ過することで5 倍の銀(I)イオンを許容であった。アニオン類(塩化物イオン、臭素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン)についても20,000〜12,000,000 倍の添加も許容であった。カドミウムでは評価基準[1]をクリアした10 試薬から3 試薬が、鉛試薬では7 試薬から3 試薬が選出された。5-Br-PADAP ナノ粒子膜は試験紙法にて、色彩計での検出で、カドミウムイオンの検出限界は18.33 ppb、定量範囲は〜約700 ppb であった。TMPyP/SA ナノコンポジット膜は通液濃縮法にて、TLC での検出で、カドミウムイオンの検出限界は0.102 ppb、定量範囲は1〜200 ppb であった。フッ化物イオンについて、排水基準(8 ppm)を満足する、蛍光検出試験紙が見出された。また既存の試験紙のデップ&リードとは異なる本ナノ薄膜試験特有の検出特性について、測定形態の改良のための検討を行った。
(3)機器分析を用いた試験紙のクロスチェック
まず5-Br-PADAP のカドミウムイオン試験紙を例として、試験紙の評価にICP 発光分析およびICP 質量分析によるサンプル溶液と試験紙抽出溶液の分析が妥当であることを示した。

3.委員の指摘及び提言概要

公定法に準ずる感度を持つスクリーニング法については、現場での要望は強く、試験紙等の低コストで迅速な測定手法について、その確立が望まれている。本課題では、Hg 用以外の実用化、製品化にはまだ課題が多いと考えられるが、試験紙としての有望なナノイオン交換体の開発、最適化に向けた詳細な検討、機器分析を用いたクロスチェック体制の確立などが評価できる。ナノ薄膜の作製に関しては、Cd、Zn、Pb、フッ化物イオンの4 項目について、詳細な条件設定による最適化の検討が進められているが、まだそれぞれ課題を残している。対象となる14 項目の無機イオンのうち、7割程度のイオンに対する試験紙の創出を目標としているが、進捗状況から3 年間では目標はやや高すぎると思われる。重要な毒性元素(Cd, Pb, Cr, Sb, Mn, As)の研究に優先的に取り組むことが必要であり、本課題の要である実試料への適用を急ぐことが望まれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: B-1006 先端的単一微粒子内部構造解析装置による越境汚染微粒子の起源・履歴解明の高精度化(H22-24)
研究代表者氏名: 藤井 正明 (東京工業大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では、越境汚染の影響を強く受けており、かつ、人為起源排出が少ないと考えられる長崎県福江島にてバルク観測を行い、後方流跡線解析、エアロゾルに含まれる金属元素の存在比、有機エアロゾルに含まれる化合物の化学変化から履歴推定と起源の推定を行う。これに加えて、単一微粒子内部構造解析装置を用いてバルク観測と同期して捕集する単一微粒子の内部の質量イメージングを行う。構成物質ごとの粒子内分布(質量イメージ)が当該粒子の生成した場所や浮遊履歴を反映することを利用し粒子の起源を区別する。統計的に信頼できるほど十分な粒子を解析することで起源別の粒子の特徴が明らかになり、従来から行われているバルク観測と総合化して越境汚染微粒子の起源・履歴解明の新手法を開発し高精度化を実現する。

図 研究のイメージ        
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■ B-1006  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1006.pdfPDF [PDF 642 KB]

2.研究の進捗状況

2010 年3 月及び12 月に長崎県福江島にてバルク観測を行うと同時に微粒子を捕集し単一微粒子解析を行った。その結果、これまで明らかになっていなかった粒子の混合状態に関する詳細な知見を得た。例えば3 月にサンプリングした粒子については、中国・韓国付近を通過して福江に至る気団(大陸由来)の場合、液滴状の「染み出し」粒子が多くみられた。一方、日本海や太平洋を経由してきた粒子にはこのようなタイプのものは見られなかった。分析の結果、染み出し粒子には
1)NaCl が主成分で微量のCa が含まれるもの、
2)CaCl2 が主成分でNa をほとんど含まないもの
という2 つのタイプがあることが分かった。
前者は海塩粒子が溶け一部土壌成分を取り込んだものと思われる。後者は土壌と海塩の反応物と思われるがNa をほとんど含んでいない。このCaCl2 粒子は、海塩と燃焼ガスから生成される硝酸ガスとの反応によって生成する塩化水素と、土壌粒子に含まれる炭酸カルシウムとの反応で生成すると考えられる。この反応では硝酸ガスの存在量が反応に大きく寄与しており、汚染地帯を通ってきたと考えられる大陸由来の粒子にはCaCl2 染み出し粒子が多く含まれ、日本海・太平洋経由の粒子にはほとんど存在しないことと一致する。また、大陸由来の粒子には結晶状のものも多くみられた。
分析の結果、これらはNanO3粒子であり海塩粒子と硝酸ガスとの反応で生成していると考えられる。このように単一粒子の内部構造解析を行うことで粒子の混合状態を直接可視化することに成功し粒子内部状態を明らかにした。単一微粒子内部でのNa とCl の不均衡は環境汚染地域を経由した兆候であることを明らかにした。

3.委員の指摘及び提言概要

初年度としては着実に課題に取組みバルク観測と一微粒子の内部構造を解析できる手法装置を開発し履歴が高精度に解明されてきたことは評価される。一方、サブテーマは個々に独立した研究のように思え相互の連携が不十分であることから、共通した試料に対し分析・解析を行いデータを共有し多角的に微粒子の起源、履歴等を検討することが必要。また、代表者の研究成果は「PAHs のレーザーイオン化に適した波長の選定」にとどまり予算額からみても研究内容、成果が十分ではないことや観測と開発をつなぐ科学的必要性、意義は小さいと思われること、等が今後の問題点として挙げられることから、連携の効果が表れる方向での検討が必要。また、(1)や(2)は成果公表に力を入れる必要がある。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: B-1007 海ゴミによる化学汚染物質輸送の実態解明とリスク低減に向けた戦略的環境教育の展開(H22-24)
研究代表者氏名: 磯辺 篤彦 (愛媛大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ 近年、東シナ海や日本海に面した地域は大量の越境性漂着ゴミ(海ゴミ)に悩まされている。本研究では、全国10 か所の海岸に設置したウェブカメラ画像を解析し、ゴミ漂着量の時系列データを作成する。そして、これらの漂着量データと海流や漂流物のコンピュータ・シミュレーションを組み合わせ、東アジア海域におけるゴミの漂流経路を明らかする。さらには海岸漂着ゴミ(プラスチックゴミ)に含有・吸着した化学汚染物質(有害重金属や残留性有機汚染物質)の計量や、周辺環境への溶出実験を行う。さらには、先述したゴミ漂流経路と併せ、漂着ゴミに由来する化学物質の輸送量や海岸環境への移行量を定量評価する。以上、漂着ゴミが海岸景観の劣化をもたらすだけではなく、将来の生態系や健康へのリスクになりえるといった知見を、地域住民と地域行政、そしてNPO や研究者が参加する「海ゴミ・サイエンスカフェ」にて社会還元することで、継続的な漂着ゴミ調査・清掃活動体制の構築を図る

図 研究のイメージ        
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■ B-1007  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1007.pdfPDF [PDF 305 KB]

2.研究の進捗状況

平成22 年度中に稚内・酒田(飛島)・輪島・対馬・五島(奈留島)・石垣島の6 か所にウェブカメラを設置し、90 分毎に海岸を連続撮影する漂着ゴミ・モニタリングを開始した(全データはプロジェクトのホームページ[http://www.icataquo.jp/umigomi/]にて一般公開)。平成23 年度中には、青森(尻屋崎)・小笠原(新島)・室戸岬・種子島を加えた計10 か所の設置を終え、日本列島を囲む各海岸での漂着ゴミ監視網を完成させる。既に、撮影画像から人工系ゴミと自然系ゴミを識別するアルゴリズムを世界で初めて開発しており、精度の良いゴミの漂着量時系列データを作成中である【サブテーマ1】。
海岸に漂着したゴミの総重量を推算する空撮技術と画像処理技術を確立した。また、重量比にして70%を占めるプラスチックゴミに着目し、これに含まれる有害重金属の海岸での総重量の算出を可能にした。さらに溶出試験を行うことで、これら重金属の海岸環境中への移行量を推定した。既に、東アジア海域全体を対象に、JCOPE2 やDREAMS といった海流再解析データを用いたゴミの漂流シミュレーションを完成させており、サブテーマ1の時系列データが出そろい次第、東アジア海域の漂着ゴミや、それが媒介となる化学汚染物質の輸送経路の解明に取り組んでいく【サブテーマ2】。
サブテーマ1 が取得しているウェブカメラ画像や、サブテーマ2 が明らかにしつつある漂着ゴミを介する化学汚染物質輸送の実態を教材に、漂着ゴミに悩まされる酒田市や石垣島、あるいは福岡などで、これまでのべ7 回の海ゴミ・サイエンスカフェ(地域紙による報道が初年度のみで6回)や、2 回の地域観察会を実施して、地域住民や地域行政との情報共有を行った。カフェでは、参加者が地域の海岸で収集した海ゴミを愛媛大に送付して分析に供する「海岸鑑定」を実施している。現在は、サイエンスカフェ形式だけではなく、自治会での小規模集会や学校教育との密な連携など、地域の実情に合わせたプログラムの展開を始めている【サブテーマ3】。

3.委員の指摘及び提言概要

サブテーマ(1)のウェブカメラシステムによる海ゴミ輸送量の解析手法の構築や、サブテーマ(2)の漂着プラスチックゴミを介した重金属汚染の解析は、新規性の高い成果である。また、サブテーマ(3)の海ゴミ・サイエンスカフェは有意義な試みである。研究資金に照らして期待通りの科学的高い成果をあげており、それに加えて、社会的、行政的貢献や教育的波及効果の大きい成果もあげている。
今後、POPs 条約(ストックホルム条約)等国際的な行政対応へも寄与することも望まれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: B-1008 山岳を観測タワーとした大気中水銀の長距離越境輸送に関わる計測・動態制御に関する研究(H22-24)
研究代表者氏名: 永淵 修 (滋賀県立大学)

1.研究概要

図 研究のイメージ我が国の水銀モニタリングの遅れを回復し、UNEP 等が特に重要視している大気中水銀の長距離輸送を効率的に解明するための山岳でのモニタリングを確立する。そのためには、商用電源を必要とする観測地点と商用電源を必要としない簡易測定法の両方の確立が必要である。前者については、今年度は富士山頂に水銀自動分析計、SO2 計、一酸化炭素計及びオゾン計を設置し、常時観測を実施した。後者については、商用電源のない場所で使用可能なアクティブ、パッシブ両サンプラーの開発を行っており、アクティブサンプラーについては、すでに精度の高いデータを取得できるようになっている。新たに遠隔制御可能なアクティブサンプリングシステムの開発を行う。沈着量観測においては、小型軽量な自動湿性降下物採取装置を開発する。山岳での降雨サンプルの採取・保存法を確立する。これら開発した装置を用いて取得した詳細な観測データを基礎に開発したマルチメディアモデルを用いて水銀の移流・沈着の解析を行う。本研究では、東アジア圏における水銀の動態とその影響評価及び制御ならびに詳細な観測データの取得、それに基づいたモデル解析・将来予測・影響評価を行うものである。すなわち、[1]自由対流圏と大気境界層での水銀輸送とその起源解析、[2]水銀沈着量の把握と影響評価である。[1]においては、長距離移流する水銀の動態を明らかにするために自由対流圏及び大気境界層における水銀の鉛直分布を明らかにする。さらに自由対流圏及び大気境界層におけるHg(0)とHg(p)の分布を調査し、同時に同期する汚染物質も観測することで水銀の動態を予測する。

図 研究のイメージ        
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[2]においては、大気中に放出された水銀の沈着量計測を降水及び水銀のパッシブサンプラーを用いて同時多点で実施する。これら簡易測定法でのモニタリングは、わが国の水銀モニタリングの体制を整えていく上で重要な課題である。本研究のサブテーマは以下の4 つである。
(1) 自由対流圏及び大気境界層における水銀及び有害金属(Pb、Cd 等)の長距離越境輸送の解明
(2) 水銀パッシブサンプラーの開発と立山連峰における水銀及び同期した物質の標高別沈着量評価及び排出インベントリーに関する情報収集
(3) 大気から湖沼流域への水銀輸送と沈着に関する機構解明と沈着量算定
(4) 水銀のマルチメディアモデルの開発及び国設局の水銀等有害金属類データの解析

■ B-1008  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1008.pdfPDF [PDF 324 KB]

2.研究の進捗状況

水銀の長距離輸送について、富士山頂の大気中水銀濃度の連続観測(15 分毎)の結果から変動が激しく、スポット的に高濃度の水銀が飛来していることが明らかになった。したがって、大気中水銀のモニタリングは時間分解能が重要な因子であることが示唆された。スポット的な高濃度は今までの報告には見られない濃度があったため、今夏、再度確認し、公表する予定である。富士山、立山、伊吹山における水銀及び同期する関連物質の標高別観測からガス状水銀濃度をはじめオゾン濃度、二酸化硫黄濃度とも高標高において高濃度であった。この調査結果から水銀パッシブサンプラーの有効性は確認できた。摩周湖の柱状堆積物中の水銀濃度の鉛直分布から最近数十年に大気中水銀濃度が憎大したことが明らかになった。また、年輪コア中の水銀濃度からも同様の傾向が見られた。霧島のモミで1990年代から水銀濃度が急上昇していた。ただし、年輪コアにおいて針葉樹ではその傾向はみえるが、広葉樹ではかなり厳しいことがわかった。ヤクタネゴヨウの当年葉と1 年葉を比較すると1 年葉に倍以上の水銀が含まれており、大気中水銀が針葉に蓄積されていることが明らかになった。中国における水銀排出インベントリーに関する情報収集のため、中国環境科学院を既に2 回訪問し、調査を継続している。水銀の沈着量評価について、屋久島西部の森林内にある観測タワーでアクティブサンプラー、パッシブサンプラーを併用して森林における沈着量評価を実施したがガス状水銀の森林への大きな沈着はみられなかった。今年度は、屋久島タワー(森林)、摺墨(裸地、豪雪地帯)、桐生(京大演習林)のタワーを利用して樹木、土壌、雪への沈着量評価を行う。山岳地帯における降雨サンプルの採取・保存法を確立した。この手法を用いて降雨・積雪・樹氷中水銀測定したところ山岳の降雨が平野部の約2 倍の平均濃度であることが観測された。屋久島の雪・樹氷中濃度も降雨に比較してかなり高濃度であることが明らかになった。また、一定の降雨量毎に降雨を自動サンプリングする装置を開発し、現在サンプリングを開始している。水銀の輸送・沈着モデルについては、我が国の大気中水銀濃度については、環境省の「有害大気汚染物質モニタリング調査結果」を利用し、解析した。全球スケール及び東アジアスケールについては、最新のモデル研究による推計値をもとに、大気, 陸域, 海洋間の水銀の移動量、及び各環境中の水銀の存在量とその増減の把握を試みた。陸域から大気への自然放出量は、全球で2800〜 4500 Mg yr-1 と推計方法によって値が大きく異なり、信頼性の高い推計方法の開発の必要性が示された。東アジアでは、他領域への正味の大気輸送量は835 Mg yr-1 と大きく、領域間輸送さらにはグローバル輸送の重要性が示唆された。水銀マルチメディアモデルの開発については、水銀の「大気中での化学反応及び輸送・沈着過程」、及び「大気−沈着面間の交換(沈着・放出)及び沈着面内部での化学反応」の解析を目的に、前者を「大気化学輸送モデル」、後者を「沈着モデル」としてそれぞれ開発し、それらを結合したものを完成させることとした。本年度はその運用環境の整備を行った。

3.委員の指摘及び提言概要

Hg にターゲットを絞ってモニタリングデータを蓄積し、長距離越境汚染の実態を明らかにしようとする目的は環境行政に役立つこと、(1)は多くの地点でのデータを分析しているだけでなく、高度別の検討も進めており重要な知見も得られていること、電源不要で多くの地点での観測や途上国での測定を可能にする水銀用パッシブサンプラーを開発したこと、は評価できる。
一方、課題の性質からアジア各国との学術交流が必須と思われるが充分でないこと、各班の知見をどのように関連付け水銀の長距離越境輸送を解明しようとしているのかが不明確なこと、現象に関する知見は多いが理由や原因など長距離越境輸送に結びつく考察が不十分なこと、水銀に加えCd やPb などの有害金属も調査対象項目に含まれているにもかかわらず具体的な成果が見られないこと、最終的な目的や(3)をどのように進めるかが明確でないこと、から研究の方向性を明らかにし研究戦略を再考することが求められる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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研究課題名: RF-1001 気中パーティクルカウンタを現場にて校正するためのインクジェット式エアロゾル発生器の開発(H22-24)
研究代表者氏名: 飯田 健次郎 ((独)産業技術総合研究所)

1.研究概要

図 研究のイメージ 現状の地球温暖化予測において最も科学的知見が欠けている要素の一つは、大気エアロゾルによる冷却効果である。そして大気エアロゾルの研究では、野外観測による光散乱式気中パーティクルカウンタ(Optical Particle Counter、以下OPC と略)を使った粒径分布測定が日常的に行われている。一方、人体に直接悪影響を及ぼす自動車起源のエアロゾル粒子に対し、エンジン排出ガス中の粒子数濃度による規制の実施が計画されており、測定には凝縮成長式気中パーティクルカウンタ(Condensation Particle Counter、以下CPC と略)が広く使われている。エアロゾルの粒子数濃度の測定データの品質保証体制確立への気運が欧州を起源として高まっており、これが現在世界へと波及しつつある。品質保証体制の末端である観測現場にまで環境政策を浸透させるためには、測定現場で日常的に実施可能なCPC およびOPC の校正技術が必要である。このための技術として、本研究では発生される粒径および粒子数が既知であるインクジェットエアロゾル発生器(Inkjet Aerosol Generator、以下IAG と略)を開発している。

図 研究のイメージ        
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■ RF-1001  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1001.pdfPDF [PDF 630 KB]

2.研究の進捗状況

1)インクジェットエアロゾル発生器の粒径制御能力の検証インクジェットエアロゾル発生器により発生される粒子径の制御は、インクジェットより発生される液滴中に含まれる溶質の量により制御される。そして発生粒子径を算出するためにはインクジェット液滴の粒径が必要となるため、この液滴径が容易に測定可能であることを実証した。二つの独立したインクジェット液滴の粒径測定法(「吐出液ボトルからの消費量による液滴径の測定」、および「ノズルからの吐出量による液滴径の測定」)の結果は1%の不確かさの範囲内で一致していた。したがって、これら二つの独立した測定法は技術的に妥当であり、IAG ユーザーはより測定が簡単である吐出液ボトルからの消費量より液滴径を測定できると結論した。さらに、実際に吐出される液滴径の測定日によるばらつきを評価した結果、UPW およびIPA を吐出液とした場合の液滴径の平均値およびその標準偏差は47 0.65 m および30 0.26 m であった。これよりインクジェット液滴の粒径は比較的良く安定していると結論した。そして、IAG により発生される粒子径が液滴中に含まれる溶質濃度を制御することにより制御できることを実証した。塩化ナトリウム固体粒子およびDOS 液体粒子をIAG 発生させ、これらの空気力学粒径を粒径0.5-10 m の範囲で測定した。測定された粒径と、液滴径と溶質濃度より算出された粒径との相関は良好であった。2)インクジェットエアロゾル発生器による気中パーティクルカウンタの現場校正が行えることの検証自動車排出ガスモニタリング用CPC を対象とした評価IAG により平均粒径200nm の粒子を発生させ、これらの粒子がCPC 入口へと輸送される効率(粒子輸送効率)およびその再現性を評価した。IAG の粒子輸送効率の平均値は0.99 であり、日によるばらつき(拡張不確かさk=2)は0.016 であった。この結果はIAG の日ごと安定性が良好であることを示している。これらの結果より、IAG はCPC の基本性能の動作確認を日常的に行えるエアロゾル発生器であると結論した。大気エアロゾル観測用のOPC を対象とした性能評価IAG により粒径0.2-10mm の粒子を発生させ、エアロゾルサンプル流量が0.3 および0.5liter/minute のOPC への粒子輸送効率を評価した。IAG の粒子輸送効率は、ほぼ全粒径域で100%に近い確率であった。この結果より、これらのサンプル流量の粒径0.5-10 m におけるOPC の粒子計数効率の動作確認を行う性能を、IAG は十分に有していると結論した。

3.委員の指摘及び提言概要

既存技術のインクジェットに新しいアイデアを取り入れ、インクジェットエアロゾル発生器を開発しエアロゾル機器の校正に用いようとするもので精度についても十分検討されていること、多用されるOPC、CPC の測定粒径範囲をカバーできる校正機器として有望と考えられること、現場でのニーズによく応え得ること、計画通り遂行され相応な成果を得ていることや研究予算額、研究期間を考えると高く評価される。今後、既往の技術との比較、環境研究としての意義や行政施策への貢献等の点についての充分な考察が必要とされる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a  

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研究課題名: RF-1002 水田のイネ根圏に棲息する脱窒を担う微生物群の同定・定量と窒素除去への寄与解明(H22-24)
研究代表者氏名: 寺田 昭彦 (東京農工大)

1.研究概要

図 研究のイメージ 本研究では、畜産排水処理のため排水由来の液肥を施肥している水田に着目し、イネの根圏に存在する窒素循環に関わる微生物群の同定・定量・空間分布の解明を行い、水田における畜産排水からの窒素除去との関係を明らかにする。窒素はアンモニアを亜硝酸・硝酸に酸化する硝化反応と亜硝酸・硝酸を窒素ガスに還元する従属栄養性の脱窒反応の2 つの異なる生物反応を経て無害化される。これに加え、硝化・脱窒以外の窒素除去経路である嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)およびメタン脱窒が近年になって報告されている。これらの反応を担う細菌の特徴として、温室効果ガスである亜酸化窒素・メタンを放出しないことが挙げられるため、水田からの温室効果ガスの放出を抑制するメリットを有していると言える。

図 研究のイメージ        
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そこで、本研究では、1.イネの根圏に棲息するアナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌の存在量評価、2.アナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌の水田の窒素除去への寄与の割合評価、3.畜産排水の水田への施肥量・管理方法の制御によるアナモックス細菌および脱窒性メタン酸化細菌保持の可能性評価、の3 点を行い、水田を用いた畜産排水からの窒素除去と温室効果ガス削減を同時に達成するための管理指針の提案を目指す。

■ RF-1002  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1002.pdfPDF [PDF 325 KB]

2.研究の進捗状況

1.植栽の有無による水田土壌の微生物活性に関する研究ポット試験を通して様々な施肥量(窒素負荷)、水の浸透速度にて飼料イネを植栽し、畜産排水を液肥として用いた際の窒素除去性能および温室効果ガスの発生量の評価を行った。ポット試験により、水の浸透速度1.74 cm/day において通常の施肥量の約5 倍の窒素負荷450 kg-N/ha で運転しても、窒素化合物の地下流出を抑え、畜産排水の除去を行えることを明らかにした。15N トレーサー試験により、水田土壌に存在する微生物による脱窒反応を確認し、水の浸透速度が高いほど脱窒活性が高いことを示した。また、温室効果ガスの放出特性の評価より、亜酸化窒素およびメタンが放出される条件を明らかにした。水田土壌からの温室効果は亜酸化窒素よりもメタンの方が圧倒的に大きく、全体の9 割以上を占めることが明らかになった。2.窒素除去に関与する“活性のある”微生物群の同定と変遷に関する研究水田土壌に棲息するアナモックスを行うとされる細菌群の同定を、分子生物学的手法を用いて行ったところ、アナモックス細菌に比較的近縁な新規なPlanctomycetes 群を検出した。次に、メタン酸化細菌の検出を試みたところ、未培養のNC10 門と呼ばれるメタン酸化細菌を検出することに成功した。この細菌群は亜硝酸・硝酸の酸素原子を利用してメタン酸化を行うことが可能であるため、現在、NC10 門とメタン生成量の相関関係を調査中であり、水田管理によりこれらの細菌群の制御の可能性を評価する予定である。3.イネ根圏に棲息する微生物群の空間分布と存在量に関する研究定量PCR 法により高浸透・イネ植栽無しの系は同じ浸透速度で植栽有りの系と比べて土壌中に棲息するアナモックス細菌を含むPlanctomycetes 門に属する細菌および脱窒細菌の密度が少ないことを確認した。これにより飼料イネを植栽することで、土壌に存在できる脱窒を担う微生物群を高密度に保持できることが明らかになった。また、水田土壌中に棲息する細菌による脱窒活性とこれらの細菌群の密度に相関関係があることを示した。また、脱窒細菌に対するPlanctomycetes 門に属する細菌の割合は5-25%程度であることが明らかになった。植栽の有無、水の浸透速度、窒素負荷に関してこの割合の明確な傾向はなかった。

3.委員の指摘及び提言概要

窒素を高濃度に含む畜産排水を耕作放棄地を想定した飼料イネ水田による吸収と、嫌気性アンモニア酸化のアナモックス反応による脱窒を利用して窒素除去をするという着想はよく、研究資金額に照らして十分に研究成果を上げている。しかし、本課題では、水稲の生育や土壌・水管理と温室効果ガス(CH4 とN2O)フラックスとの関連を測定・解析しているが、既に多数の既往報告があり、研究の新規性はない。今後はアナモックス反応を担う微生物群の同定と、その微生物群の空間分布および存在量に関する研究を中心に研究すべきである。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b  

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