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中間評価 1.第1研究分科会<全球システム変動>

研究課題名: A-1001 埋立地ガス放出緩和技術のコベネフット比較検証に関する研究(H22-24)
研究代表者氏名: 山田 正人 ((独)国立環境研究所 )

1.研究概要

世界中で開発および導入されている廃棄物埋立地の温室効果ガス放出緩和技術について、温室効果ガス放出削減と浸出水汚濁防止というコベネフィット性能を定量的に評価し、比較検証する。各種緩和技術適用時における温室効果ガスと浸出水の長期的な挙動を、実験と現場観測で得たデータにより定式化する。その上で我が国で開発された代表的な緩和技術である準好気性埋立技術のコベネフィット性能を、東アジアの気候・廃棄物の条件下で最適化する技術仕様を提示する。
サブテーマは次の3つである。
(1) 埋立地ガス放出緩和技術の温室効果ガス排出抑制機能の比較評価に関する研究
(2) 埋立地ガス放出緩和技術の浸出水制御機能の比較評価に関する研究
(3) 準好気性埋立技術の東アジア地域への適応化に関する研究

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■ A-1001  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ a-1001 .pdfPDF [PDF 232 KB]

2.研究の進捗状況

(1) 準好気性埋立における廃棄物埋立地からのメタン排出挙動を表現する、好気嫌気共存下ガス排出モデルの詳細を検討した。好気および嫌気的な廃棄物分解速度に対する阻害定数をそれぞれ実験的に算出し、算定量評価に適用した。同モデルは分解機作が嫌気分解の一部が好気的に転換されただけでなく、包括的な分解促進が表現可能なモデルとなっていることが示唆された。
(2) 埋立構造の違いによる酸素流入は廃棄物中の炭素の分解・可溶化速度への影響は小さいが、可溶化期間の短縮およびガス化への移行に影響することが示された。この移行時期の定式化を通じて、液相への炭素分配挙動(浸出水炭素負荷)を表現する手法について検討した。窒素の可溶化量も酸素流入により減少し、菌体同化、硝化脱窒反応による気化、非解離性アンモニアの蒸発(ストリッピング)などによる浸出水窒素負荷の軽減機構が提案された。
(3) タイにおける準好気性埋立テストセルおよびライシメータ実験を実施し、廃棄物層内の水分不足による生物活性低下を防ぎつつ、ガス交換の空隙を確保する必要性が示された。熱帯地域で準好気性埋立を緩和技術として十分に機能させるためには、廃棄物層への降水の浸透量と廃棄物層からの排水量の調節が肝要であることが示された。

3.委員の指摘及び提言概要

有機物の埋立処理方法の違いが、温室効果ガス排出と浸出液中の有機物濃度に及ぼす影響について、定量的な知見が得られつつあることは評価できる。メタン回収効率と再利用、埋立地の早期安定による都市用地としての有効利用など、さらに広い視点からのコスト・ベネフィットを考慮したアプローチを期待する。また、全球システムへの貢献の視点を示すことが望まれる。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

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研究課題名: A-1002 日本海深層の無酸素化に関するメカニズム解明と将来予測(H22-24)
研究代表者氏名: 荒巻 能史 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

日本海の深層では、温暖化の影響により、過去数十年間にわたって深層海水の水温が上昇、溶存酸素濃度が減少していることが分かってきた。
本研究は、日本海全域における海洋観測を利用して、海水中溶存酸素濃度の時空間分布図を作成するとともに、水温や塩分などの海水特性や海水の流動過程などを解明する。これらの結果をモデル計算に応用して過去数十年間の溶存酸素濃度の時系列変動の再現実験を行い、その将来予測に資する。これにより、今後の地球規模での温暖化に伴う海洋環境変動に関するシミュレーションに貢献する上、国民にとって最もなじみ深い日本海の温暖化影響の情報発信による温暖化問題に対する国民への啓蒙を推進する役割も担う。
サブテーマは次の4つである。
(1) 溶存酸素濃度の高精度時空間マッピングによる日本海深層の無酸素化の将来予測
(2) 日本海深層における海水混合と水塊変質過程の解明
(3) マルチトレーサーを活用した日本海底層水の起源推定と循環機構の解明
(4) 鉛直多層ボックスモデルを用いた日本海底層水の海水年齢と漸減する溶存酸素濃度の再現実験

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■ A-1002  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/ a-1002 .pdfPDF [PDF 1,286 KB]

2.研究の進捗状況

 (1) 過去の日本海全域で得られた溶存酸素データの品質管理ならびに再解析の結果、日本海底層水中の溶存酸素濃度は海盆によって時間変動が異なることが明らかになった。また2010年の大規模観測によって、溶存酸素濃度の長期的な減少傾向がなおも継続していることを確認した。
(2) 日本海盆及び大和海盆において海面から海底付近までの海水特性の測定、ならびに降下式超音波流速計による海底直上までの流速測定を実施した。これらのデータ解析から、日本海深層の海水混合には海底で励起された120m以上の鉛直波長をもつ近慣性周期の内部重力波が関与していることを明らかにした。
(3) 日本海深層水塊の形成域やその起源、循環過程を詳細に把握するため、既存のCFC-11、CFC-12及びSF6同時定量法を改良して、これまで不可能であったCFC-113を加えたハロゲン化合物4成分定量法を開発した。また日本海盆及び大和海盆において、CFC-12、CFC-113、ならびに炭素14の測定を行い、CFC-12/CFC-113比が日本海深層循環のトレーサーとして有効であること、大和海盆の底層水の方が日本海盆に比べて見かけ上"若い"水塊であることを明らかにした。
(4) 1℃以下の水温値をもった沈降量を未知数として適当に変化させ、海水が沈降できる水深が時々刻々変化する水温鉛直プロファイルで決定される、より現実に近い物理構造をもつ鉛直多層ボックスモデルを構築した。さらに既存の水温及び炭素14データが再現できるようにパラメータをチューニングして、日本海深層水の海水年齢を見積もった。

3.委員の指摘及び提言概要

低層水中の溶存酸素は長期にわたり低下傾向にあることを解析により示しており、フロン類をトレーサーとした海水の物理特性を鉛直24層にわたり実測し、鉛直多層モデルへデータを渡すなど、底層水の溶存酸素低下の実態に迫ろうという本課題は順調に進行していると判断できる。また、個々のサブテーマでの学術的な成果も期待されるが、全体としての無酸素化の将来予測について、今後はモデルの改良を含め、より定量的な見通しにつなげることを望みたい。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆
 
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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研究課題名: A-1003 北極高緯度土壌圏における近未来温暖化影響予測の高精度化に向けた観測及びモデル開発研究(H22-24)
研究代表者氏名: 内田 昌男 ((独)国立環境研究所)

1.研究概要

近年、温暖化が顕在化している北極高緯度域では、永久凍土の融解や自然火災の増加が報告され、気候変動に対する脆弱性が指摘されている。これまで冷涼かつ湿潤な気候ゆえに大量の土壌炭素が蓄積されてきたこれらの地域では、今後の劇的な環境変動によって炭素循環の様相が大きく変化し、陸域土壌炭素リザーバーを容易に不安定化させることが懸念されている。しかしながら、温暖化に伴う永久凍土の融解による物理・水文プロセスの変化や、長期的に残留してきた土壌炭素分解とこれに伴うCO2放出に関するデータは少なく、精度の高いモデルを構築するための体系的な観測は実施されていない。そこで本研究では、北極高緯度域土壌有機炭素の中・長期的な動態をシミュレートするモデルの開発とその高精度化を目標に、アラスカにおける観測とモデル研究を並行して行う。
サブテーマは次の4つである。
(1)土壌有機炭素分解の実態把握と生物地球化学的メカニズムの解明
(2)微気象・物理・水文プロセスの総合観測と変動量評価
(3)温室効果ガスのフラックス観測とその起源の定量的評価
(4)土壌炭素動態モデルの開発および高精度化

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■ A-1003  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/a-1003.pdfPDF [PDF 443 KB]

2.研究の進捗状況

 (1)土壌有機炭素蓄積の実態把握のため、アラスカを南北800kmに縦断するトランセクトに沿って、火災跡地を含む16 地点で土壌採取を実施し、放射性炭素同位体(14C)による土壌有機炭素の滞留時間の算出を行った。また古土壌の有機物分解等の北極域特有の炭素分解メカニズム解明のため、土壌CO2、土壌から放出するCO214C分析を行い、土壌から発生するCO2の炭素源に関する知見を得た。北方林の火災跡地の解析からは、火災により表層10cmの植物リター層(炭素量にして4.4kgCm2相当、1950年以降に蓄積した炭素の53%)が焼失していたがわかった。本研究で行った14C分析法では、土壌炭素プロファイルに正確な時間情報を与えることができることから、土壌炭素蓄積量の算出だけでなく、焼失量の算定もでき、シミュレーションモデルの開発・検証において極めて重要なデータを提供可能であることが確かめられた(サブ1)。
(2)アラスカ北部では冬期の積雪の多寡が、地面の冷却・凍結状態に影響し、融雪後の昇温・凍土融解に影響を与える、また融雪水は土壌水分の変動に重要な影響を持つ。そこで、アラスカを南北に縦断するトランセクトに沿った年間モニタリングサイトにおける年間の地表付近の気象・積雪状態(積雪深・積雪内温度プロファイル・熱伝導)・地温プロファイル・土壌水分・凍結深の時間変化を計測し、これによって広域の物理環境の時間変化をモニターし、これらの地域差、季節変化の特徴を示した。ここで得られる物理情報を温暖化影響予測の高精度化に向けたモデル開発を実現するための検証データとして提供した(サブ2)。
(3)サブテーマ1および2と連携して南北のトランセクト上に定点観測点6地点をもうけ、生態系毎の土壌呼吸速度およびメタンフラックスの測定を行った。さらに土壌呼吸及びメタンフラックスと微生物活動との関連性を明らかにするため、土壌微生物群集構造の解析を行った。この結果、2004年の火災跡地は、高いメタンシンクとなっていること、またこれを裏付けるようにメタン酸化細菌の存在量が未火災地と比べて高いことが判明した。また土壌中の微生物群集構造は調査点によらず特定の細菌種が普遍的に存在している一方で、その組成すなわち多様性は、温帯などの環境と比べて低く、環境変化が北極微生物生態系へ与える影響が大きいことが示唆される結果を得た。加えて、同じ調査点でも深度に応じ群集構造が変化していることも判明した。北極土壌圏における微生物群集構造と温室効果気体発生量との関連性を定量的に明らかにするため、土壌の培養実験にも着手した。微生物活性の温度依存性を求めることは、微生物群集と微生物代謝応答の変化も考慮に入れた新たな土壌炭素動態モデルの開発につながることが期待される(サブ3)。
(4)土壌内部の鉛直構造を明示的にシミュレーションする土壌炭素動態モデルの開発を達成した。構築されたシミュレーションモデルによって、世界で初めて動的に変化する土壌炭素循環と土壌物理のプロセスが明示的に結合された。これにより、気候変動によって引き起こされる土壌の温度や水分量の変化が土壌炭素の蓄積や分解に与える影響を正確にシミュレーションすることが可能になった。さらに、土壌中の14Cの変動を扱うプロセスをモデルに組み込むことによって、フィールド観測で得られた14C濃度や年代推定の結果と直接比較可能なシミュレーションモデルとなったため、シミュレーション結果の検証が容易となり、より適切な将来予測を行うことができるようになる。シミュレーションモデリングとフィールド観測の有機的結合とフィードバックによって将来予測の高度化を達成している(サブ4)。

3.委員の指摘及び提言概要

本課題では、炭素循環における重要な要素である土壌炭素蓄積量に関して、これまで欠如していた北方域での困難な観測を行うとともに、北方域の特性を表現できる炭素動態モデルを開発・高度化することにより、変動のメカニズムの解明を進めつつある。また、科学的な成果の論文掲載もインパクトがあり、研究が順調に進んでいるといえる。今後、プロセス研究の進展と、その成果のモデルへの反映を期待したい。

4.評点

  総合評点: A    ★★★★☆
 
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
 効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

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