ローカルエナジー株式会社は、鳥取県米子市と地元企業が官民連携で出資して設立された自治体新電力会社です。地域の太陽光発電所や地熱発電所など多様な再生可能エネルギー発電所から電力を調達。米子市を中心とした鳥取県西部地域の公共施設、企業、一般家庭およそ1万件に電力を供給しています。
どんな活動?
官民連携で設立された地産地消の地域新電力会社
米子市内のメガソーラー施設。
鳥取県米子市は人口およそ15万人、島根県との県境に位置して鳥取県西部地方の中核を成す地方都市です。ローカルエナジー株式会社は、米子市の地方創生総合戦略のひとつとして、2015年12月に設立(2016年2月に米子市他が出資)した自治体新電力会社です。
『ローカルエナジー』では、地域の太陽光発電所、一般廃棄物によるバイオマス発電所、小水力発電所、地熱発電所など、多様な再生可能エネルギーを活用した発電所から電力を調達し、米子市を中心とした鳥取県西部地域の公共施設を始め、ケーブルテレビ事業者である「株式会社中海テレビ放送」と連携し、一般家庭、企業など、およそ1万件に電力を供給しています。
企業理念は「エネルギーの地産地消による新たな地域経済基盤の創出」です。地方創生を果たすためには、地域経済の自立が必要です。ところが、経済活動を支える電力(エネルギー)供給は、おもに中東から輸入される石油に頼り、地域外の大規模な発電所からの供給に依存しているのが実情です。鳥取県でも独自試算によると年間に約1,000億円程度が「電気代」として地域外に流出しています。
地域外への資金流出を少しでも食い止めて、掲げた理念を達成するために、『ローカルエナジー』では、次の6つの事業領域を設定しています。
- 電力小売卸売事業
- 地域熱供給事業
- 電源熱源開発事業
- 省エネルギー改修事業
- 次世代エネルギー実証事業
- 視察受入/コンサルティング
電力の供給ばかりでなく、地域の次世代エネルギー施策全般について取り組み、教育・啓発やコンサルティングにも力を入れているのが特長的です。
伊木隆司米子市長(左)に加藤社長(右)が環境大臣賞受賞を報告。
活動のきっかけは?
ドイツへの視察を契機に
地域のために「できること」を実現
米子市クリーンセンターでは一般廃棄物によるバイオマス発電を実施。
『ローカルエナジー』設立のきっかけになったのは、東日本大震災の後、鳥取県内の有志が実施したドイツへの視察でした。ドイツでは、2000年前後から「シュタットベルケ(ドイツ語で STADT WERKE。英語では public utilities を意味します)」と呼ばれる電気やガス供給、交通などを担う自治体中心の公益企業が広がっています。
現在『ローカルエナジー』の代表取締役であり、米子市を拠点としたケーブルテレビ局『株式会社 中海テレビ放送』の代表でもある加藤典裕さんをはじめとする米子市内の企業のキーパーソンや鳥取県職員などもこの視察に参加。米子市を中心とした地域でも、官民連携による「日本版シュタットベルケを実現しよう」という気運が生まれました。
新電力の会社に自治体が出資することには「民業圧迫では?」と懸念する意見もありましたが、公共施設の電気を共同出資した新電力会社から調達して需要を支えたり、一般廃棄物焼却場である『米子市クリーンセンター』で焼却時に発生する熱を利用したバイオマス発電を行って再生可能エネルギーによる電力を供給するなど、自治体にしかできないこともたくさんあります。
米子市と地元企業が連携し、事業検討を重ねること19回。検討メンバーの熱意によって、『ローカルエナジー株式会社』を設立することができました。
成功のポイントは?
地域連携のネットワークに参加して情報やノウハウを共有
湯梨浜地熱発電所。
『ローカルエナジー』では、25カ所ほどの地域の太陽光発電所、『米子市クリーンセンター』や『宍道湖東部消化ガス発電所』(隣接する島根県松江市にある下水処理施設)などの廃棄物発電所のほか、地熱発電所や小水力発電所など、地域の再生可能エネルギーによる電気をおもに調達。約1万件の顧客に電気を届けています。
『ローカルエナジー』自体で発電所を所有することにはこだわらず、初期投資を抑えながら地域の電源開発事業者との連携を深めていることで、コンサルティングや視察受け入れ、地域の学校での講演会といった人材育成事業にも幅広く取り組むことができる経営的な余裕が生まれています。
地域新電力会社が、個人宅の電気契約を受注するのはなかなかハードルが高いことでもありますが、中海テレビ放送ではもともとケーブルテレビ契約をしている個人宅のネットワークを活用して、少しずつ地域住民への理解を広げているところです。
「ケーブルテレビの普及も、新電力と同じような流れを辿ってきた事業です。これから、エネルギー地産地消の実践を広げていくためにも、地方のプレイヤーが増え、声を上げていくことが大切です。全国各地のケーブルテレビ局の方々に参考にしていただける取組となるように、これからも事業を広げていきたいですね」(加藤典裕社長)というように、地域住民にどのようにアプローチできるかということは、地域新電力事業にとってひとつの大きな成功のポイントといえそうです。
2019年に移転したばかりの新しい本社オフィス。
また、再生可能エネルギー発電を中心とした電力を調達し、刻々と変動する需要に対応して電力を届けるためには、専門的なノウハウが不可欠です。たとえば、電力需給管理システムも単独で構築して運営しようとすると大きな初期投資や固定コストが必要ですが、『ローカルエナジー』では起業に際して『一般社団法人 ローカルグッド創成支援機構』に参加、宮城県東松島市、山形県(山形市)、埼玉県秩父市、石川県加賀市などの地域新電力会社と連携してシステムなどを共有、コストの削減を実現するとともに、幅広い情報交換などを行っています。
電力需給を管理するシステムなどのノウハウが重要。
「地域新電力会社を構想し、事業免許を取るまではそんなに難しいことはありません。でも、実際に事業を進めていこうとすると、システムやノウハウの障壁に直面してしまうことが多かった。『ローカルグッド』に参加して多くの地域新電力会社と連携することで、事業のリアリティが高まりました」(ローカルエナジー株式会社 専務取締役 森真樹さん)
多様な地域の連携によって『ローカルエナジー』の事業が広がり、『ローカルエナジー』の成功が全国各地のエネルギー地産地消を勇気づける先進的な事例となる。今、日本にグッドライフの大きな流れが生まれていることを実感します。
加藤社長(右)と森専務(左)。
レポート!
伊木隆司米子市長が持続可能な取組を語る。
エネルギー地産地消の大切さを語る伊木市長。
米子市に取材へ伺ったのは2019年6月のこと。真新しいオフィスに移転したばかりの『ローカルエナジー』本社をはじめ、地域の太陽光発電所や、一般廃棄物によるバイオマス発電を行っている『米子市クリーンセンター』、東郷温泉にある『湯梨浜地熱発電所』(鳥取県湯梨浜町/協和地建コンサルタント株式会社)などの施設を訪れました。
米子市内で稼働しているソフトバンク鳥取米子ソーラーパークに併設の『とっとり自然環境館』では、運営を担う地域のNPO法人によりソーラー発電を活用した工作体験などのエネルギー教室が毎月実施されるほか、施設内では子供たちにもわかりやすく楽しい展示が行われており、鳥取県および米子市の地域全体で再生可能エネルギー活用や知識拡大に意欲的に取り組んでいることが感じられました
楽しく再生可能エネルギーが学べる『とっとり自然環境館』。
さらに、加藤社長と米子市の伊木隆司市長の対談を実施。加藤社長がグッドライフアワード環境大臣賞受賞を報告し、伊木市長からは「ローカルエナジーと米子市が力を合わせ、エネルギーの地産地消をさらに持続可能な取組として広げていく」との思いが語られました。
米子市が多くの公共施設の電力契約を結ぶことで需要を支えているとはいえ、『ローカルエナジー』ではさらに周辺自治体の公共施設などへの電力供給に関わる競争入札などにも積極的に参加しています。全てが受注できずとも「地域新電力として安価な電力調達を提案することで、他の電力会社からの調達金額を安くすることができれば、それもまた地域貢献になる」(加藤社長)のです。
さらに、ただ安い電力を供給するという提案ばかりでなく、「ピーク時の電力需要を抑える、デマンドコントロール(最大使用電力を抑えることで基本料金を節約)など、従来の電力会社にはできない省エネ提案を行うことで、地域のエネルギー経済基盤づくりに貢献」(森専務)するのも、自治体出資の地域新電力としての重要な役割です。
電力供給による目先の利益を追うのではなく、地域の学校などでの環境教育を行うのも企業の設立理念に則った事業のひとつ。再生可能エネルギーの拡大やエネルギー地産地消による地域経済基盤の活性化という「思い」が広がることで、地域の方々が『ローカルエナジー』の電気を選択してもらえることになり、経営の安定にも繫がります。
さらに、避難所への蓄電池の設置といった地域貢献にも意欲的に取り組んでおり、再生可能エネルギーによる電力供給というビジネスモデルを通じて、地域活性化を実現するという目標実現に向けて着実な歩みが進んでいます。
『ローカルエナジー 株式会社』ウェブサイト
http://www.lenec.co.jp/
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