「ウェイスト(waste)」は、英語で「無駄」や「浪費」を意味する言葉です。「ゼロ・ウェイスト」とは、無駄や浪費をなくして、ごみを出さないこと。特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーでは、ごみのない社会実現に向けてさまざまな活動を行っています。
どんな活動?
ごみをごみでなくするために
人の意識や社会の仕組みを変革する
町にひとつの「ごみステーション」。
「ごみ」って何ですか? 『ゼロ・ウェイストアカデミー』公式ウェブサイトのトップページは、そんな問いかけから始まっています。不要なもの、使えないものが「ごみ」。でも、要らない、使えないと決めているのは人の主観でしかなく、人の意識や社会の仕組みを変えていけば、ごみをごみでなくすることができるというのです。
ゼロ・ウェイストアカデミーが拠点を置く徳島県上勝町では、「2020年までに上勝町のごみをゼロにする=埋め立てや焼却処分をしない」ことを目指し、2003年に自治体として日本で初めての『ゼロ・ウェイスト宣言』を行いました。以来、上勝町ではごみ収集を行わず、生ごみなどは各家庭で堆肥化し、瓶や缶などのさまざまな「資源」を住民各自が『日比ヶ谷ごみステーション』に持ち寄って45種類以上に分別、2016年度にはリサイクル率81%を達成しています。
ゼロ・ウェイストアカデミーでは、2005年の設立以来2017年度末まで、このごみステーションの管理運営(2018年度から町へ引き継ぎ)を行いながら、まだ使えるものをごみステーション内の一角に並べて地域内でのリユースを促す『くるくるショップ』や、使われなくなった着物や鯉のぼりなどの布を手作り商品にリメイクして販売する『くるくる工房』を発案し、企画・運営してきました。
さらに、2017年には企業や店舗、事業所などのゼロ・ウェイストな取り組みを公的に認証する「ゼロ・ウェイスト認証制度」を創設。上勝町内だけでなく、長崎県や高知県、大阪府など、全国各地の10店舗(2019年4月現在)が認証を取得しています。また、事業所などへのゼロ・ウェイスト研修や、小中学生向けの体験学習、世界各地からの視察受け入れや講演依頼に対する講師の派遣など、ゼロ・ウェイストを世界に広げていくための取組にも力を注いでいます。
ほかにも、上勝町住民への意識調査や地域内におけるごみ削減の施策提案、高齢者世帯のごみ運搬支援、「ゼロ・ウェイスト・ウエディング」の企画とサポート、飲食店における使い捨て容器なしの購買方法「量り売り」の導入サポートなど、多様で精力的な活動を続けています。
ごみステーションには宣言を示すフラッグが!
不要品をリユースするための「くるくるショップ」。
手作りのリメイクアイテムが並ぶ「くるくる工房」。
益田実行委員長が現地を視察しました。
活動のきっかけは?
ごみ焼却施設の廃止をきっかけに
ごみを出さない社会を目指す
取組には住民の理解と協力が不可欠です。
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーは、上勝町がゼロ・ウェイスト宣言を行ったことをきっかけにして、官民の力を合わせて取組を進めていくために設立されました。上勝町の人口は約1500人(2019年1月現在)、過疎化や高齢化は深刻な課題です。そんな小さな町がゼロ・ウェイスト宣言に踏み切ったのは、それまで町で使用していた野焼き場や小型のゴミ焼却炉が規制の対象となって廃止され、新たな施設の確保が困難だったことがきっかけでした。
上勝町『ゼロ・ウェイスト宣言』
- 地球を汚さない人づくりに努めます。
- ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします。
- 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!
そもそも、ごみの焼却や埋め立て処分にかかるコストは、小さなまちにとって大きな負担となります。サスティナブルな社会を実現していくためには、「製造や消費段階においてごみの発生を予防する政策」や「資源が循環する社会システムの構築」が必要不可欠であるという決意が、当時、オーストラリアのキャンベラ、カナダのトロント、ニュージーランドなど世界中で提唱され始めていた「ゼロ・ウェイスト宣言」と上勝町を結びつけたのです。
ゼロ・ウェイストアカデミーの事務所。
焼却処分をゼロにするのが目標です。
成功のポイントは?
さまざまな立場の人の想いが連携し
引き継がれてきたこと
理事長の坂野晶さん。
ゼロ・ウェイストアカデミーの設立は2005年。活動を重ねる中でまさに「地球を汚さない人づくり」が実践されて、ゼロ・ウェイストの意義を理解した人材を輩出してきました。また、いくら町が宣言しても住民の協力なしにはゼロ・ウェイストは実現できません。取組のスタート当初から町民全てに受け入れられたわけではありませんでした。でも、少しずつ「孫の世代のためにやりましょう」と言ってくれる協力者が増え、年月をかけて根付いていきました。
2015年から理事長を務める坂野晶さんは、兵庫県西宮市生まれ。環境政策を学んでいた大学生時代、上勝町でゼロ・ウェイストの活動を推進していた役場職員の東ひとみさんの娘である東輝実さんと友達になり、夏休みに遊びに来たのが初めての上勝町でした。さまざまな立場の人が、それぞれの想いをもってゼロ・ウェイストの実現に向けて取り組んでいる姿に感銘を受け、その後何度も上勝に通うようになったそうです。大学を卒業した坂野さんは海外の企業などで働いた後、2014年に上勝町に移住し、ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長を引き受けることになりました。
2019年1月には、スイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)に共同議長として参加して、新聞などでも大きく報道されました。会議では各国のリーダーが集まる場で、世界全体がごみを排出しない循環型経済モデルに転換していく必要があるということを訴えました。「上勝モデル」への関心は高く、国内はもとより海外からの視察も増えています。
グッドライフアワードが目指すソーシャルグッドな取組は、ひとりのキーパーソンが奮闘するだけではなかなか継続できません。ゼロ・ウェイストアカデミーでは、さまざまな立場の人の想いが連携し、また引き継がれていくことで、大きな目標に向けて前進することができているのだと感じます。
上勝町は徳島市街から車でおよそ1時間、標高100~700mの山あいに50あまりの集落が点在しています。近年は『彩』というブランド名で知られる「葉っぱビジネス」でも注目されています。美しい自然に恵まれて豊かな里山の暮らしが受け継がれてきた町だからこそ、ゼロ・ウェイストを推進するという想いをもった多くの人が育ち、集まってきたともいえるでしょう。
現在は町内でカフェを営む東輝実さん(左端)とお店のスタッフのみなさん。
レポート!
上勝町だけの取組ではなく
世界に広げることが目標です!
日本の棚田百選に認定された「樫原の棚田」。
現地取材に伺ったのは2019年2月です。住民が不要なものを持ち寄り分別する「日比ヶ谷ごみステーション」は、町を貫く県道16号線沿い、正木ダムが勝浦川を堰き止めたダム湖のほとりにありました。ちょうど新しいごみステーションが建設中で、仮設のステーションでしたが、細かな分別は変わることなく実践されていました。
たとえば「ガラスびん」でも、透明の色、茶色とそれ以外の色のガラスびん、キャップも金属製とプラスチック製で別々のケースに分けていくようになっています。また、それぞれの品名を示す看板には、赤と緑に色分けされて金額が書き込まれた札が表示されています。緑の札は業者が回収する際に支払ってくれる価格、逆に赤い札は業者に支払う価格を示しています。
分別ケースには「価格」が表示されています。
分別の種類は取組の中で増えてきました。
また、同じプラスチック容器でも、きれいに洗ったものであれば業者に払う費用は少ないですが、汚れたものはより多くの費用が必要になるなど、リサイクルや処理のためのコストと収入がわかりやすく示されているのです。ステーション内には「汚れているものはリサイクルができません」と手書きされた「洗浄のお願い」看板も掲示されていました。
『くるくる工房』では、実際に古い鯉のぼりの布でオリジナルの半纏を縫製しているところを拝見することができました。ゼロ・ウェイストアカデミーの事務所とくるくる工房は、町の施設である『介護予防活動センターひだまり』内にあります。古い着物や鯉のぼりのリメイクは、ものづくりが得意な高齢者に呼びかけて始まり、高齢者がやりがいを感じて取り組める仕事にもなっているのです。
視察のために同行したグッドライフアワードの益田文和実行委員長は、ゼロ・ウェイストアカデミーの取組について「こんなに小さな町だけど、ゼロ・ウェイストアカデミーという意識の高い団体があることで、リサイクルのためのアウトプット(商品や情報発信)の質が高く、魅力的な活動になっている。上勝は私の大好きな町でもあります」と評価していました。
工房のアイテムはひとつひとつ手作りです。
バックヤードには持ち込まれた着物などのストックがいっぱい!
取材の合間の昼食は、東輝実さんが営む『カフェ・ポールスター』でいただきました。輝実さんご自身もかつてはゼロ・ウェイストアカデミーの事務局長として活動していた方です。カフェを開く構想は輝実さんのお母さん、東ひとみさんのアイデアだったそうです。オープンは2013年。残念ながらひとみさんはカフェが完成する前に亡くなってしまったそうですが、「上勝町を世界のモデルになるような町にしよう」という母の想いを輝実さんがしっかりと受け継いでいます。
瀟洒なカフェはもちろんゼロ・ウェイスト認証の店。提供するランチなどの料理には地元の食材を活かし、生ごみをできるだけ出さないような調理を心がけ、どうしても残ってしまった食材はコンポストで堆肥化しています。
東輝実さんが営む『カフェ・ポールスター』。
入り口にはゼロ・ウェイストの認定マークが。
いただいたランチはとても美味しかったです。上勝町は山あいの小さな町ではありますが、カフェ・ポールスターのような、おしゃれで質の高いお店があることも、益田実行委員長が評価する「アウトプットの質の高さ」を象徴していることを実感できました。
「ごみをゼロにする」と聞くと、とてもハードルが高い目標にも感じます。でも、いろんな立場の人の想いや工夫があれば決して不可能な目標ではないことが、上勝町を訪れると実感できます。とはいえ、プロダクトを生産する企業にまで「ゼロ・ウェイスト」の想いが共有されないと、完全にごみをなくすることはできないのも事実です。
ゼロ・ウェイストアカデミーの想いとは、「人の意識・行動を変える」「ものを使う人・使い方を変える」「社会の仕組みを変える」ことで、「ごみ」をごみでは無くすこと。まずは一人一人、自分自身がライフスタイルを見直してゼロ・ウェイストな暮らしを目指す行動を実践すれば、社会を変える力になる。上勝町での取材は、そんな「想い」を実感できる時間になりました。
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