生活クラブは食材の共同購入や宅配を行っている「生活協同組合(生協)」のひとつ。サスティナブルな暮らしを実践するための工夫として、調味料や牛乳などのガラスびんの規格を7種類に共通化してリユースを推進する『グリーンシステム』を1994年から続けています。
どんな活動?
ごみを出さない暮らし方を実践ために
ガラス瓶のリユースを推進
組合員の家庭ではガラスびんを洗って回収に出します。
ガラスびんは日本国内ほとんどの自治体で資源ごみとして回収され、リサイクルする仕組みが広がっています。とはいえ、近年はペットボトルなどの普及によって、重くて割れる懸念があるガラスびんが使われなくなっている傾向があります。一方で、ガラスを細かく砕いて再成形する必要があるリサイクルよりも、同じびんを何度も使う「リユース(再使用)」を進めるほうが、より環境への負荷を減らせます。
『生活クラブ』は消費者が納得できる食の安全・人の健康・自然環境などに配慮したこだわりの食材を共同購入している生活協同組合のひとつです。北海道から兵庫県までの21都道府県で活動する33の会員生協が参加する事業連合で、現在、約40万人の組合員が利用しています。また、首都圏を中心とした店舗『デポー』での販売も行っています。
いろんな食材の容器としてRびんが使われています。
生活クラブの『グリーンシステム』では、しょう油やみりん、マヨネーズやトマトケチャップ、ドレッシングや佃煮といった食材の容器として、リユースのために工夫を凝らしたガラスびんを使用。それぞれの食材に合った形状と、200、350、360、500、900ミリリットルという数種類の容量に分けた6種類の規格に統一して『Rびん』(一般的にはリターナブルびん、リユースびんとも呼ばれます)と名付け、食材の宅配時に回収して効率的にリユースを進めていく仕組みを構築しています。
2000年からはそれまで紙パックが使われていた牛乳も900ミリリットルのリユースびんに切り替えました。さらに、牛乳びんに使われるプラスチックキャップや、配達用のプラスチック袋のリサイクル回収をするようになるなど「ごみを出さない暮らし」を実践する取組を広げています。
牛乳のための軽量びんも独自に開発。
1994年の本格的な取組スタート以来、回収したRびんはすでに1億1800万本(2019年4月現在)。自治体がガラスびんを回収するためにはびん1本当たり約12円かかるとされているので、12億円以上の税金を節約できたことになります。また、リサイクルに比べて3万トン近くの二酸化炭素排出量を削減できたと試算できます。さらに、趣旨に賛同する各地の生協(現在4団体が加盟)と『びん再使用ネットワーク』を設立。累計で2億2000万本以上のガラスびんリユースを実践しています。
Rびんは店舗でも回収しています。
活動のきっかけは?
1990年代から続く取組にも
当初はさまざまな課題がありました
回収されたRびんは埼玉県飯能市のデリバリーセンターに集まります。
生活クラブが創設されたのは1965年。東京都世田谷区で牛乳の共同購入を行ったのがスタートでした。食の安全や環境への配慮にこだわりながら扱う食材を広げ、東日本を中心に都道府県ごとの組織が立ち上がり、1990年には『生活クラブ事業連合生協協同組合連合会』が設立されました。
『グリーンシステム』は1993年11月、まずは神奈川県と北海道で「びん商(ガラスびん回収業者)」によるガラスびんの回収を始めたことがきっかけでした。翌1994年には首都圏の一都三県にも拡大、拠点となるデリバリーセンターにガラスびん回収の仕組みを導入したことを契機に、参加する全都道府県へと広がっていきました。
ごみ処理の問題は環境にとっても深刻で、家庭からでるごみの容積の約半分が容器や包材によるごみといわれています。生活クラブは環境に対する意識も高い消費者の集まりです。ごみ問題への関心はもともと高く、1991年には「容器改善推進プロジェクト」を設置して、グリーンシステムの原型となる方向が示されました。
具体的な検討を進める中で、実際にガラスびんの規格を数種類に統一し再使用を進めていくためには、たとえば温州みかんジュースに再使用びんを使うのは困難なことや、再使用びん(洗いびん)の価格が新品よりも高くなるなど、さまざまな課題も明確になりました。でも、ガラスびんをリユースするシステムを確立することの意義を重視し、不足する費用は各都道府県の生活クラブが負担することとしてグリーンシステムへの取組が本格的にスタートしたのです。
その後、再使用びんのコストを下げたり、回収率向上、超軽量Rびんを開発して導入するなど、さまざまな工夫を重ね、持続可能な取組へと成熟させてきたのです。
『グリーンシステム』の「GREEN」には「GARBAGE REDUCTION FOR ECOLOGY AND EARTH’S NECESSITY(地球生態系のためのごみ減量)」という意味が込められています。
ガラスびんは種類ごとに仕分けされ、生産者の工場へ送られます。
成功のポイントは?
組合員やびん商、生産者のみなさんの
理解と協力が必要不可欠
「子どもたちのためにも生活クラブを利用して、グリーンシステムに参加しています」と話してくださった組合員(利用者)の川口智依子さん。あかねちゃん(5歳)とゆうまクン(3歳)は元気いっぱいでした。
食材容器としてのガラスびんは、軽くて便利、そして安価なペットボトルや紙パックに置き換えられてきました。あえてガラスびんの容器に戻し、リユースを進めていくのは、実はかなり困難なことでもあるといえるでしょう。
生活クラブで20年以上にわたって『グリーンシステム』が継続し発展してきたことには、利用する組合員はもちろん、ガラスびんの回収や洗浄を行うびん商、容器としてガラスびんを使う生産者など、さまざまな関係者の理解と協力が不可欠です。
たとえば、組合員は空きびんの紙ラベルやフィルム包装を剥がし、中を洗って返却します。消費者としては余計な手間が増えてしまいますから、きちんと実践するためには組合員自身がこのシステムの意義や大切さを理解していることが必要です。
食材を詰める容器ですから、回収したガラスびんの洗浄もデリケートな工程です。今回の取材では東京都足立区の株式会社トベ商事の洗びん工場にも伺いました。代表取締役の戸部昇さんは、容器の使い捨てを減らすことの大切さを社会に広める活動に早くから取り組んでおり、『グリーンシステム』発足のキーパーソンともなった方です。工場ではびんの取り扱い作業などに携わる「サポーター」として、障がいのある方々も働いています。
株式会社トベ商事の戸部昇社長と、洗びん工場主任の中森雄大さん。
もちろん、生産者の協力も欠かせません。千葉県匝瑳市のしょう油醸造メーカーであるタイヘイ株式会社は、1970年代、生活クラブがオリジナルで化学調味料無添加のしょう油を商品化する際に共同開発して以来の協力関係が続いています。『グリーンシステム』にも積極的な協力を快諾、しょう油や万能つゆなど、人気の品目を何種類も製造しています。
タイヘイ株式会社では、伝統的な木桶のしょう油蔵も見学させていただきました。
生産者から消費者まで、生活クラブに関わる人たちが『グリーンシステム』の意義を理解して、自分たちに「できること」を誠実に行っているのです。一人の消費者が節約を心がけるだけでは環境への貢献は小さいですが、40万人以上の生活クラブ組合員、そして『びん再使用ネットワーク』を通じてより大きな取組の輪となることで、Rびんのリユースシステムは大きな成果を挙げることができています。
レポート!
シンプルなことを丁寧に誠実に
やり遂げることの大切さを実感!
洗ったびんは厳しいチェックを経て食品メーカーに送られます。
今回『グリーンシステム』の取材では、回収されたガラスびんが集まる埼玉県飯能市のデリバリーセンター、東京都足立区にある『トベ商事』の洗びん工場、そして千葉県匝瑳市でしょう油などの製品を作る『タイヘイ株式会社』を1日で訪ねました。デリバリーセンターからしょう油工場まで、まさに回収されたRびんが通る道を走ったことになり、『グリーンシステム』や生活クラブ(生協)の仕組みを支える物流の大切さを実感することもできました。
もともと木桶を使って化学調味料無添加のしょう油づくりの伝統を守っていたタイヘイですが、『グリーンシステム』に参加して多くの品目を生産することで、さらに無添加の醸造量が増えているそうです。また、人気の『万能つゆ』など、生活クラブ組合員の要望に応えることで品目のバリエーションも増えてきたというお話が印象的でした。
Rびんに充填が完了した万能つゆ。最後のチェックを経て全国へ出荷されます。
1日がかりで首都圏を縦断した取材には、グッドライフアワードの南谷えり子実行委員が同行視察。ガラスびんがリユースされる一連の流れを見学し「シンプルなことを、丁寧に一貫して協力し完璧にやり遂げる熱意をもったチームの力がこのシステムを作り上げていることを実感できました」と評価されていました。
環境と社会によいライフスタイルを実現するためには、ちょっとした手間を惜しまず、シンプルにやり続けることが大切。生活クラブの『グリーンシステム』は、その代表的な取組であることを実感できる取材となりました。
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