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■日時:平成19年3月28日(水) 9:30~12:30 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■場所:都市センターホテル オリオン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■出席者:(敬称略) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■資料: | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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■議事録 1.開会 (青木) 若干遅れておられる方もいらっしゃるようですが、時間となりましたので、開催したいと思います。
(北野) 皆さん、おはようございます。ただいまから第20回化学物質と環境円卓会議を始めたいと思います。
(青木) 本日の出席等の状況でございますが、まず、メンバーの交代はございません。
2.議事 (北野) それでは、早速、議論に入りたいと思います。
(神谷) ![]() 化学物質対策は、第3次環境基本計画においても重点分野の1つに取り上げられており、非常に重きをおかれた分野となっております。その内容を中心に御紹介したいと思っております。話題としましては、基本計画における化学物質の環境リスク低減への取組について、それから本日のメインの議題であります、ライフサイクル・アセスメントが第3次環境基本計画においてどのように位置づけられているか、さらに、基本計画を踏まえた今後の化学物質環境対策の展開について、ということで御紹介致します。 ![]() 「環境から拓く新たなゆたかさへの道」という副題が付いた第3次環境基本計画は、昨年の4月に閣議決定されたものでございます。そもそも環境基本計画は環境基本法の第15条にその根拠がございまして、「政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画を定めなければならない」ということで、政府の環境政策の総合的かつ長期的な施策の大綱という性格づけがされているものでございます。今回の基本計画は3回目の基本計画となるわけですが、その構成は、「第一部 環境の現状と環境政策の展開の方向」、「第二部 今四半世紀における環境政策の具体的な展開」ということで、その中に重点分野を10個定めております。地球温暖化等々ございますが、その5番目に「化学物質の環境リスクの低減に向けた取組」が位置づけられております。それに加えて「環境保全施策の体系」ということで、その他の対策を網羅的に位置づけた上で、「計画の効果的実施」についてという定めがございます。 ![]() この中の重点分野政策プログラムの第5節に「化学物質の環境リスクの低減に向けた取組」というのがございまして、ここを詳しく見ていきたいと思います。構成でございますが、「現状と課題」「中期的な目標」「施策の基本的方向」「重点的取組事項」「取組推進に向けた指標及び具体的な目標」から成っております。 ![]() 「現状と課題」でございます。現状での化学物質の問題の背景としまして、非常に多種多様の化学物質を使うことによって現在の暮らしが成り立っているという認識、化学物質についてはその製造量の多さ・環境への排出や環境中での残留状況・有害性・残留性等々の性質が極めて多様であること、化学物質の適切な管理として、化学物質に固有な有害性の程度と人や生物へのばく露レベルを考慮し、環境を通じた人や生態系への悪影響の可能性(環境リスク)をできるだけ少なくすることを基本とすること、環境リスクは完全には解明されていないという前提に立つべきであること、管理に際しては不確実性の中で意思決定が必要となることがある、といった事項が示されております。 ![]() これまでの環境基本計画においてどのような化学物質対策が位置づけられてきたか、少し振り返ってみたいと思います。
![]() 第2次基本計画以降、取組の進展があった典型的な分野として、ダイオキシン類対策を挙げさせていただいております。ダイオキシンについては、「ダイオキシン類対策特別措置法」が平成11年にでき、廃棄物焼却炉等の排出の規制、廃棄物の減量化等の取組を強力に進めた結果、97年から2003年の間に排出量の95%削減を達成するという成果が得られております。 ![]() 残る課題として、大きく4つの課題が挙げられております。まず、有害性、ばく露、リスクに関する情報の不足。2番目としては、化学物質の特性等に応じた様々な対策手法の必要性ということで、具体的には、化学物質の多様な用途あるいは化学物質の製造から廃棄に至るライフサイクルに対応した対策の必要性等があるということでございます。さらに「安全」と「安心」のギャップがございます。これは具体的には、環境リスクについての情報の提供・共有が不十分であるために、こうしたギャップが生じ、国民の間に不安が生じた様々な事象があったことを述べているものでございます。それから、国際的な課題に対応する我が国からの情報発信が課題として位置づけられております。 ![]() それでは、この環境基本計画の中で中期的な目標としてどのような社会の姿を描いているかをご紹介いたします。2025年頃の社会、21世紀の最初の四半世紀において達成したいという目標でございます。1つ目としては、化学物質の環境リスクの最小化が図られることが必要ということでございます。ここで「ライフサイクル」という言葉が出てきていますが、主要な物質の有害性・ばく露に関する必要な知見が、秘密情報に留意しながら、できる限り共有されて、科学的な環境リスクが評価される社会を目指すということ。
![]() 具体的な内容になりますが、基本的な方向として4つの柱がございます。1つ目は、科学的な環境リスク評価を推進すること。化学物質の有害性、ばく露、廃棄、残留実態、あらゆる面で化学物質に関する情報の不足がこの基本計画全体を貫くキーワードだろうと思っております。そのような情報のギャップを埋めるための取組を推進することがございます。
![]() この環境基本計画策定の背景として、以前、この円卓会議でも取り上げましたSAICMの採択という出来事がございます。これに関しては、2002年に開かれた「国連持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)の中で、今後の対策の指針として実施計画が定められており、化学物質に関しては、2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響を最小化するという目標が定められております。SAICMはそれを具体化するために、昨年ドバイで開催された「国際化学物質管理会議(ICCM;International Conference on Chemicals Management))の中で採択された文書でございます。
![]() 基本計画に戻ります。重点的取組事項として、最初に「各主体に期待される役割」が位置づけられております。
![]() これに基づいて4つの対策、科学的なリスク評価の推進、効果的・効率的なリスク管理の推進、リスクコミュニケーションの推進、国際的責務の履行と積極的対応ということで、個別の具体的課題への対応が位置づけられております。
![]() ここで特に国際の関係でございますが、POPs条約(注、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約;Stockholm convention on Persistent Organic Pollutants)の適切な推進を掲げております。POPs条約は、化学物質対策が国際化していることの1つの典型的な事例であり、成果でございます。これは毒性が高く、分解しにくく、生物中に蓄積され、長距離移動する、という性質を持つ、POPs(注、Persistent Organic Pollutants)と呼ばれる残留性有機汚染物質について、世界的なレベルでの取組を進めるという条約で、2004年5月に発効したものでございます。現在、12の物質について対策を進めることになっており、各国は国内実施計画を策定すること、あるいはそれに基づいてPOPsの廃絶や削減のための措置をとっていくことで、国際的に協調して対策を推進すること、モニタリングを推進すること等の取組を進めているところでございます。我が国はこのような取組についても積極的に貢献していくことにしております。 ![]() もう1つはGHS(注、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals;化学品の分類および表示に関する世界調和システム)でございますが、これも化学物質対策の国際化の典型的な例でございます。化学物質の有害性に基づいた分類と表示を国際的に統一したルールの下で実施していこうというもので、2003年にGHSに関する国連勧告が出ております。化学物質の表示の仕方については、このようなシンボルマーク、注意喚起語を組み合わせた世界共通のルールでの情報の伝達を促進していこうという内容のものでございます。 ![]() さらに、化学物質安全性データシート、これは企業間での化学物質のやりとりをする際に添付する文書でございますが、この中に化学物質の性状や取り扱いに関する様々な情報が含まれております。この記載方法についても統一的なルールで進めていこうという内容となっております。 ![]() これらの取組を進める上で、指標と具体的な目標が定められております。これは実際にどの程度進捗しているかを判断するために、できる限り数値化した目標を示し、基本計画をフォローしていこうというものでございます。環境基準や指針値の達成状況、有害性情報の収集を済ませた化学物質数、リスク評価を行った化学物質数、あるいは、PRTRデータ等を用いた化学物質の環境排出状況、これは特に基準が設けられている化学物質の環境排出状況といったものを指標にしていこうということにしております。また、今後さらにPRTRデータ等を用いた排出インベントリの構築等の対策も目指していくことにしております。
![]() 次に、本日のメインの議題のライフサイクル・アセスメント(LCA)が第3次環境基本計画においてどのように位置づけられているかを簡単に御紹介いたします。
![]() 具体的にLCAという言葉は3カ所出てまいります。1つは、重点分野施策の7番目に「市場において環境の価値が積極的に評価される仕組みづくり」がございます。この中で「市場における環境に関する情報の共有」ということで、環境ラベリングなどの取組を紹介しているくだりの中に、「商品の環境への影響について、ライフサイクル・アセスメント(LCA)の整備を進め、ラベリング制度などへの反映を図ります。」という記述がございます。
![]() さらに、「各主体の自主的積極的取組に対する支援施策」という中には、企業の取組を支援する1つの分野として、「ライフサイクル・アセスメント(LCA)、社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES;Social and Environmental Green Evaluation System)などの手法について、事業者の実施状況を踏まえ、引き続き調査研究を進め、幅広い事業者への普及・活用を図ります。」ということにしております。
![]() 今回定めた化学物質に関する基本計画の内容を今後どのように具体化していくかということでございます。この重点取組4分野の実施方法についての議論をいただくための中央環境審議会への諮問を昨年11月に行っております。この中では、基本計画を踏まえた今後の化学物質環境対策の在り方について御議論いただき、当面の取組として、法律に基づく見直しが必要となっています化学物質排出把握管理促進法(化管法、PRTR法)と化審法の、特に化管法について見直しを進めることになってございます。 ![]() 当面の日程としましては、中環審の中に小委員会を設置して議論を開始しており、今年の2月からは産業構造審議会との合同会合の形で、化管法について、見直しの議論を行っていただいているところでございます。これに関しては、今年の夏頃、中間取りまとめをいただく予定でございます。さらに、化審法も含めた化学物質対策の全体的な議論をこの後行っていただくということを念頭に議論を進めていただいております。 ![]() 以上が第3次環境基本計画における「化学物質の環境リスクの低減」に関する取組の紹介でございました。情報の不足ということを念頭に、これをいかに解消するかというアプローチにより、4つの柱を軸に取組を進めていることでご理解いただければと思います。
(北野) 神谷さん、どうもありがとうございました。それでは、ただ今の発表につきまして、特に今ここでクリアにしておきたいことがございましたら質問いただきましょうか。原科さん、どうぞ。 (原科) どうもありがとうございました。これらの新しいルールの効果についてですが、「我が国におけるダイオキシン類対策の進展(スライド7)」によって、97年から2003年までの6年間で約1/20、5%まで減りました。随分効果があったわけですね。今の水準というのは、国際的に見てどのような水準かということをもう一度確認しておきたい。私はかなり良いと思いますがいかがでしょうか。
(神谷) ダイオキシン類対策の世界との比較ということですが、基準のレベルとしては世界的にトップレベルの基準値を設けているということと、排出量のレベルについても国際的な比較の中で日本はかなり低い水準になってきているということでございます。現在、その対策技術について、各国から様々な支援や貢献を求められている状況にあると私も理解しております。
(原科) 10年ほど前に、本学(東京工業大学)で「環境安全論」という講義を始めました。これは全学科目ですから、1年生全員です。そのときはダイオキシンがものすごく多く、国際比較しても非常に多いので、「これは困ったことだ」と話をしていたのですが、今は違う。これだけ低くなっていますから、これは環境対策をすればそれなりの成果が上がるという良い例だと思います。ぜひこういったことはもっと国民に強くアピールしていただき、コミュニケーションを促進していただきたいと思います。
(北野) では、中下さん。 (中下) 「SAICMの構成(スライド11)」の中で、「包括的方針戦略」の中に基本的な考え方として「ガバナンス」という考え方が打ち出されていると思います。ところが、第3次環境基本計画を見ましても、相変わらず「リスクコミュニケーションの推進」という形にとどまっているのではないか。もちろんリスクコミュニケーションは大切ですが、それをさらに一歩進めて、「ガバナンス」という考え方を日本の中でも導入していかなければ、国際的なSAICMに合致しないのではないかと思います。この点について、環境基本計画の中で「ガバナンス」という言葉をどこかに使っておられるのか。環境基本計画を読んだ限り、そういう考え方が展開されている箇所が確認できませんでしたが、どこに入れておられるのか御指摘いただきたい。また、「ガバナンス」について、環境省ではどのような考えを持っておられ、また、今後これを実施していくためにどのような対策が必要だとお考えなのか。以上をお聞かせいただきたいと思います。 (神谷) 「ガバナンス」が出てくる箇所は、私もこの場で明確に確認することはできません。先ほど申し上げたとおり、環境基本計画の中で「参加」という考え方は、第1次計画から終始流れている考え方でございまして、国民参加の下に環境対策を進めるということは、今回の計画の中でもはっきり書いてあると思います。
(中下) 例えばPOPs条約の国内実施計画の時には、国側で準備された案についてパブコメを、ものすごく短い、2週間か3週間の期間で募集しておられた。それでパブコメを出せと言われても難しい。SAICMも今度、国内実施計画を作られると思います。SAICMは膨大な施策にわたることですから、国内実施計画の策定に当たって、意見を言わせるだけというのではなく、もう少し中身の議論について参画をする、そのようなプロセスをぜひ準備していただきたいと思います。 (北野) 今回はこの講演内容の質問だけに限って、この後にまたそういう議論をしましょうか。さらに参加を進めていくにはどのようにするかということで。村田さん。 (村田) 「中長期的な目標(スライド9)」の最初の段落、「化学物質の環境リスクの最小化が図られていることが確認できるよう、主要な物質の」と書いてありますが、この「主要」というのは、どういう観点なのか。観点によって全然違ってくると思うので、その辺をもう少し具体的に教えていただきたい。 (神谷) 国内外で一番注目している指標としては、製造・輸入量がどうかということです。OECD(注、Organization for Economic Cooperation and Development;経済協力開発機構)のHPVプログラム(注;高生産量化学物質プログラム。日米欧3極にて年間1,000トン以上(米国は100万ポンド以上)を生産及び輸入する既存化学物質に関し、有害性情報・暴露情報を収集し、リスク評価を行うプログラム。HPV;High Production Volume Chemicals)や日本の化審法の「Japan チャレンジ」(注、官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム。化審法が制定された昭和48年の時点で製造・輸入されていた既存化学物質の安全性情報を収集し、広く国民に情報発信するプログラム)などで行われているように、ばく露の可能性を考慮して、特に製造・輸入量の多いものについての情報をまず優先的に整備するというアプローチを行政ではとっているところでございます。 (北野) 神谷さん、どうもありがとうございました。
(伊坪) ![]() 武蔵工大の伊坪といいます。このたびは大変貴重な場を御提供いただきましてありがとうございます。
![]() 化学物質の話に入る前に、前置きとして、まず、LCAの利用動向について御紹介致します。これはよく紹介される事例ですが、例えばトヨタさんがプリウスを始め多くの車種を対象としたLCAの結果をホームページで提供しております。赤く囲われている部分がLCAの結果です。これをもう少し見やすくしたのがこちらに示します。 ![]() ここではハイブリッドカーを例として紹介します。ハイブリッドカーを使いますと、確かに燃費の削減によって使用段階の環境負荷は下がることが期待できます。しかし、ハイブリッドカーには、モーターや二次電池を新たにつくらないといけません。そのため、部品の点数も増えるし、材料の消費量も増えます。これにより生産までの環境負荷は上がるものと考えられます。LCA結果によれば、このような環境負荷の増分も認めながらも、主要段階での環境負荷をより大きく削減することができれば、ライフサイクル全般で見て環境負荷総量を削減できることを示すことができます。このように環境情報を定量的に表現することで、よりわかりやすいコミュニケーションツールとしてLCAが注目され、様々な業界において現在利用されています。 ![]() LCAの利用は、もちろん自動車だけではなく、接着剤、ノートパソコン、事務機器、さらにはおむつのような衛生品、さまざまなものに対して行われています。LCA結果は、内部の意思決定だけではなく、外部へのコミュニケーションという形でホームページや環境報告書の中で取り上げられています。 ![]() 外部に向けたコミュニケーションツールとして最近注目されているのは、環境ラベルです。環境ラベルは3つの種類に分かれており、その中でLCAを基本としたラベルはタイプⅢです。これは産業環境管理協会が先導して進めており、500を超えるLCAの結果が環境ラベルという形でインターネットを通じて公開されております。このような情報を見ることによって、LCAの結果を非常に簡単に入手することができるという時代になってまいりました。 ![]() これまでLCAの基本的な動向についての紹介致しました。これからは、LCAの実際の流れを1回整理した上で、化学物質の評価がどこまでLCAで行われているのかについて、事例も含めながら御紹介したいと思います。
![]() 日本のインベントリデータベースとして一番有名なものは、LCA日本フォーラム(社団法人 産業環境管理協会HPへ)です。こちらは経済産業省が主導で開発したデータベースで、国内の企業が集結し、工業会が中心となってデータを作ったのが特徴です。また、このデータベースはインターネットで公開されていて、会員登録していれば、データをいつでも容易に入手することができます。 ![]() インベントリデータベースは、LCA 日本フォーラム以外にも様々なところで提供されています。主なデータベースを5つ挙げました。LCA日本フォーラムのデータベースは、工業会による300品目のデータが搭載されています。特に工業会がオーソライズしているというのは非常に重要なことで、利用する側が安心して使うことができます。それ以外に、国立環境研究所が開発した3EID((独)国立環境研究所HPへ)、韓国のLCA プロジェクト、欧米のデータベースなどがありますが、それぞれ特徴が違っております。掲載されている品目数については、Ecoinventは多いですが、他は数百品目であり、網羅性はほぼ同程度であると思いますが、一方で、評価対象物質の種類という視点で見ますと、随分差があると言わざるを得ません。特に今回のテーマである化学物質になりますと、国内のデータベースではまだ十分カバーできていないといわざるを得ません。
![]() ここでは、鉄1kgを生産するまでの環境負荷について示します。一番左の部分に化学物質の化学式があります。これらの物質について、環境負荷の最大値、平均値、最小値、SD(標準偏差)について示されています。もちろんこの中には化学物質の量も含まれます。例えばアンチモン、バリウム、ベリリウム、カドミウムなどのインベントリデータが出ております。鉄の場合は全部で1000項目に渡るデータが示されています。これもライセンスを取っていれば、入手することは何ら問題なくできます。
![]() 次に、インパクト評価について説明します。インパクト評価は、環境負荷に対するデータを環境影響に置き換えるプロセスです。ISO14042によれば、環境影響の評価を複数のステップに分けていますが、その中でもよく利用されるのは「特性化」、「被害評価」、「統合化」の3つのプロセスでございます。「特性化」は、環境問題レベルで潜在的な影響量を測るというものです。「被害評価」は、エンドポイントレベルの潜在的な被害量を測ろうというものです。「統合化」は、総合的な指標として単一指標を測るというプロセスです。この3つのプロセスが主にLCAの事例研究では採用されます。ただ、その採用の仕方は実施者の自由です。国際規格上では、特性化までの評価は必須要素ですので、必ず実施しなくてはなりません。一方で被害評価と統合化のステップは、目的によって使っても使わなくても構わない、という仕組みになっております。
![]() このような前提を置きまして、LCIA(ライフサイクルインパクトアセスメント)の評価手法も様々な機関で開発されております。オランダ(CML)、デンマーク(EDIP)、米国(TRACI)では、特性化までの評価手法を開発しています。一方で日本(LIME)、スウェーデン(EPS)、オランダ(EI99)の手法は、統合化までを評価できるようにしており、評価手法開発側の目的も大きく2つに分かれております。このような評価手法の差異を認識した上で、実施者はどの手法を採用するのか決めます。 ![]() インパクト評価において化学物質の評価はどこまで進んでいるのか整理しておきたいと思います。先ほど紹介しました2つのグループに分けますと、左の2つの手法は特性化について評価するグループ、右の2つの手法は特性化から統合化まで評価を行うグループです。特性化について絞ってみると、だいぶ共通認識に近づいていると思います。すなわち、環境負荷物質が出たときに、大気中、あるいは水中の化学物質濃度がどのぐらい増えるのかを評価するモデルでは、全ての手法がシンプルなボックスモデルを採用します。結果の表示方法も、いずれもハザード比ベースで表します。
![]() 次に、先ほど御紹介しました「特性化」と「被害評価」と「統合化」、この3つのステップの中で化学物質に対する評価をどのように行うかを簡単に御紹介したいと思います。
![]() 「特性化」では、化学物質に対する影響に特化した形での評価を行いますが、「被害評価」、「統合化」では、環境影響の種類を超えて評価を行います。
![]() 次に、「統合化」における評価手法について紹介します。ここでは、健康影響だけではなく、化学物質による生物多様性への影響についても並行して評価を行います。その後、人間健康や生物多様性などの間の重みづけを行ったり、経済評価を行うことでそれらの影響を足し合わせることで、様々な環境影響を単一指標で表現する作業を行います。その中では、環境経済学で開発された手法をなるべく利用する手法が注目されています。この手法を利用すると、最終結果をお金で表現することができます。この部分についてもまだまだ環境経済学の中でもいろいろ議論されているところでございまして、我々は、このような評価手法を活用して得られた結果について提示すると同時に、研究の進捗に応じて更新、改善を行っております。 ![]() ここで紹介した係数に、自分で収集したインベントリデータを適用すれば、環境影響の評価ができます。
![]() 現在はこのような手法開発も積極的に行われております。そのような中で3月上旬に行われたLCA学会の中で、化学物質を含めたLCA事例研究も幾つか発表がございました。その中から2つほどピックアップして御紹介したいと思います。
![]() こちらに結果の一部を示します。例えばアロフェン系の調湿建材は、生産のときには、加熱してタイルをつくりますので、その分エネルギーを多く消費します。よって、生産までの環境影響としては大きいのですが、使用段階においてはVOC(注、volatile organic compounds;揮発性有機化合物)の吸着による環境影響削減効果が随分大きそうだという結果になりました。今回は比較対象に塩ビ製のビニールクロスを挙げております。塩ビの材料レベルの評価で見ますと、タイルよりも随分小さく出ております。問題となりうる場合は、接着剤に、例えばホルムアルデヒドが溶媒として多く使われた場合です。微量ではありますが、使用期間中に長期間かけて放出されます。室内ですとばく露効率が高いので、それによる潜在的な影響量は大きいという結果です。
![]() もう1つの事例としては、鉛フリーはんだです。これはRoHSの規制対象として注目された材料です。はんだは鉛が入っているということで、使用が全面的に規制されました。鉛が入っていると売れないということで、日本企業は積極的に鉛フリーはんだの開発を行ってきましたが、これも問題があります。すなわち、鉛フリーはんだを使えば、当然、鉛の使用が削減されるわけですから、鉛のばく露による健康影響は回避できます。その一方で、鉛の代わりに使う銀、銅、スズの消費量が増えます。そうしますと、資源の採取という観点ではむしろ悪化する可能性もあります。また、このような金属を製錬するときにはエネルギーの消費も増えます。そうすれば温暖化も加速される可能性があります。有害物質と温暖化の両方の環境問題のトレードオフをどのように考えるのか、というのも1つの目的になってきました。 ![]() 従来のはんだを使用した場合と鉛フリーはんだを使用した場合のLCIAの統合化の結果です。従来はんだを利用しますと、その捨て方に応じて鉛の環境中への排出量が大きく変わってしまいますので、結論が随分変わります。例えば廃棄された後の管理がしっかりやられていないで、基板と一緒に燃やされてしまうと、鉛の大気中の排出量が増えますので、それによる健康影響が増えてしまいます。一方で、鉛を使っていたにしても、しっかりと適切に管理して、鉛が外へ出ないように埋め立て、浸出水からの鉛の排出もしっかり管理すると、鉛の排出量は大きく削減できますので、環境影響自体も小さいという結果になります。この結果によりますと、管理の仕方で、どちらの影響が大きいのかを結論すること難しいということがわかりました。しかしながら、今は1%程度家電製品が不法投棄されております。不法投棄を考慮しますと、桁違いに鉛による環境影響は大きくなります。そういうことを考えますと、予防原則の観点から、鉛フリーはんだを選定するということも理解できます。
![]() 次に、LCAとリスク評価の比較としてまとめたものを示します。リスクの場合は、1物質を評価対象として予め選定し、その影響量がどの程度あり得るのか、これが危険であるのか、ないのかといった形で評価を行うことが主な目的だと思います。一方で、LCAの場合には、製品全体の環境影響をなるべく網羅的に見てやって、重要なプロセスや物質はどこにあるのかというのを抽出し、その重要なプロセスにおける環境負荷をより効果的に削減するためのアプローチを見出していくことが目標になります。そういう意味では、利用者は、製品の設計者、企業の方々もしくはそういう解釈をしたい消費者の方々になってきます。そうしますと、LCA専門家の役割は、評価を自分が行うだけではなく、実施者の皆さんが簡便に、かつ信頼性ある形で評価できるようなインフラをつくっていくということにあると認識しています。このような点においてリスクとLCAは大きく違っていると考えます。 ![]() その一方で、今日御紹介したようなLCIAの手法では、運命分析を利用していたり、ドーズレスポンスを利用していたりします。これらは全部リスクアセスメントの成果です。ですから、今後は、リスクアセスメントの研究者とLCAの研究者の距離をいかに縮めていくのか、ということが課題だろうと認識しております。例えば、ヨーロッパにおけるLCAは化学物質のデータが大分そろっておりますが、この背景には、SETAC(注、Society of Environmental Toxicology and Chemistry)という学会がございます。これは化学物質の専門家がLCAに特化した形で集まったのが始まりです。これが現在のLCA研究を牽引していることから、LCAで化学物質を含めて評価するのは普通のことと認識されています。日本の場合は、エンジニアが中心に行ってきましたものですから、化学物質よりはエネルギー、温暖化のほうに注目されたのかなと思っています。ただ、現在はLCA学会も日本でできましたので、今後はこのような連携を深めていくことが重要であると思っています。
(北野) 伊坪さん、ありがとうございました。
(佐々木) 人の健康の影響評価のところで、発がん性についてデータベースがあるというお話でしたが、具体的な例でいえば発がん性のデータが、投与・ばく露経路別なのか、試験結果の信頼性・適用範囲についていえば、人への発がんがはっきりしているもの、そうでないものなど様々な段階があると思います。そのようなところが考慮されたものかどうか。というのは、結局、そこがきちんと対応されていないと、リスクアセスメントの結果とLCAの結果とがすごく乖離してしまうのではないかという気がいたします。 (伊坪) ありがとうございます。リスクアセスメントとLCAの統合、あるいは、比較の議論は、アメリカやヨーロッパではよく行われております、最近、日本のLCA学会でもそのような形のアプローチが増えてきております。今後そういう議論は増えてくるだろうと認識しております。実際に調整がとれているのかは、今後の議論になろうと思いますが、少なくとも、例えばIRIS(注、Integrated Risk Information System。米国環境保護庁(EPA)により作成され維持されているデータベース。環境中の様々な化学物質への暴露から起こるヒトの健康影響についての情報が収載されている)やIARC(注、International Agency for Research on Cancer;国際がん研究機関)のような国際機関が出しているユニットリスクのデータをリスクアセスメントでもLCAでも用いることができる状況にあると思います。厳密な言い方をすれば、例えば人種によって違うといったものもありますが、そのような違いは、ある程度仮定として認めれば、データベースとしては、共有できるでしょう。
(北野) ありがとうございました。では、岩本さん、どうぞ。 (岩本) 佐々木さんの質問にもちょっと関連するのですが、実は私は素材産業側として、10数年前からLCI(注、Life Cycle Inventory;ライフサイクルインベントリ)など、データをお出しする側として様々なことをやっておりました。当時から「CO2だけじゃない」という意識は持っていました。当時やった結果、塩ビはLCA的に見れば、すばらしい材料だと思い込んでいたのですが、今、データ(スライド18)をお聞きして「塩ビクロスは随分問題だ」と思いました。この場合、ホルムアルデヒドのばく露をどう評価するのかというのが、最後に人間の有害性を評価するときには大きな問題になるだろうと思います。環境省さん、あるいは、厚生労働省さんで、室内で塩ビクロスを貼って、様々な化学物質を分析されていて、指針値の2桁ぐらい低いという状況から見れば、ほとんど人にリスクがないというデータなども出ていたと私は記憶しております。これらのことと「随分粗い」とおっしゃったばく露評価、それをどうこれからリンクしていくかということではないかと思います。見る側から見ると、「これはやばいな」という受け止め方になると思います。 (北野) その辺はこの後の総合討論でしましょうか。だいぶ時間が押していますので、伊坪先生の御説明内容についての疑問点だけお願いします。 (原科) 「主なインベントリデータベース」のリストについて、これらはいつできたのでしょうか。というのは、先ほどの御説明で、日本が非常に少ない理由は目的が違うから少なかったのだと理解しましたが、最初お聞きしたときは、まだ始まったばかりだから少ないのかと思いました。そのような誤解をしてしまうと思いますので、作られたタイミングを教えていただければありがたいです。 (伊坪) LCA日本フォーラムは、LCA第1期プロジェクトの終了と同時に出ましたので、2003年です。これから継続的に更新、修正、追加作業を行っております。Ecoinventは毎年更新されておりますので、2006年のデータが一番新しいです。 (原科) Ecoinventについては、最初は何年ぐらいに作られたのですか。 (伊坪) Ecoinventはスイスの研究所のデータベースを集約したものですが、その各研究所のデータベースについては90年代の後半から出ています。それを集約したというのが2000年です。 (原科) そうすると、そういう歴史の違いもあるわけですね。 (伊坪) あります。 (北野) では、恐縮ですが、時間が押していますので、次に、国際連合大学の上野さんから御発表いただきたいと思います。お願いします。 (上野) ![]() 御紹介ありがとうございます。上野でございます。
![]() LCAの話、産業界のLCAについて話して欲しいと依頼されておりますので、こんなにやっているというデータ、さらに、RoHSに対してどういう対応をしたのかについても少し入っています。
![]() では、どのぐらいLCAが導入されているかというと、これは家電製品協会の製品アセスメントマニュアルの歴史ですが、最初に出たのは1991年です。まだまだ机の上で議論する段階でした。今では第4版まで改訂されていますけれども、LCAの導入というのは、2001年に既に環境適合設計のアセスメントマニュアルに書かれています。これは業界のマニュアルですから、これを受けて、各会社は、それぞれ会社の特徴に応じてLCAを導入してきているということになっています。 ![]() これは、ある会社の製品アセスメントシートの例です。勘定すると、100項目以上のチェック項目がありまして、各工場でこのようなチェックを全てするわけです。現在、資源有効利用促進法という法律に基づいて、決められた製品については全てこのようなチェックをして社外に出す、商品にしているという状況です。
![]() 例えば、これは、使っているパソコンが皆CRTタイプであることから、随分前の写真であると分かります。今、会社のパソコンはみんな液晶になっていますから、相当古くからLCAの実習を各社でやっていることが分かります。つまり、この会社の工場には必ずLCAのキーマンがいるということ、そのぐらいのレベルになっているのです。 ![]() 日本も負けてはいません。同じ時期にJ-MOSS(注、RoHS対象6物質含有についての表示方法を規定したJIS規格の通称)をスタートさせています。これはJISですから強制力はありませんが効果はすごいものです。資源有効利用促進法では、日本に上市される海外の製品にもこの規格を適用しているのです。 ![]() 化学物質規制で何が起こったかというと、「知りませんでした」「わかりません」「相手が教えてくれない」「コストがかかるのでやっていません」ということが世界的に許されなくなったことです。最後に書いてある「マイノリティー保護」という考えかたは消えてしまいました。OECDではマイノリティー保護を非常に強調しています。特に環境規制でやたらに厳しいことをマイノリティーに要求してはいけない。それは大企業がきちんと保護しなければいけないという内容です。ところが、現実に組み立て産業というのは、小さい会社から部品を買うわけですから、サプライチェーン・マネジメントが世界的にものすごく進んでいます。そういう意味でいうと、マイノリティー保護が化学物質規制のために事実上消えてしまったのです。
![]() 今、産業界はどうなったか。RoHS規制で困ったという話を聞きますが、違います。RoHS規制のおかげで品質がすごくよくなったと思います。例えば、はんだ付けはすでに枯れた技術なのですが、世界に冠たる生産技術を誇る日本の企業ですから、RoHS規制によって改めてはんだ付けを全部見直したのです。おかげで、はんだ付けの信頼性がぐんと上がっています。ただし、鉛フリーはんだによって、確かに鉛はなくなったけれども、本当に製品が環境によくなったのか、これはLCAを使って議論しなければいけないと思います。
![]() もう1つ、LCAがどんなに日本に普及しているかを示します。これはだいぶ前の大学入試問題です。タイのチュラロンコン大学の先生に話したのですが、国民に普及させる一番良い方法は、一流大学が入試問題に出すことです。大学入試にLCAが出るということは、その翌年から高校生、予備校の先生、お母さん、みんながLCAを勉強するようになります。ですから、今、日本はたぶん世界で一番「LCA」という言葉を知っている国民になったのです。 ![]() これはお手元にお配りしておりませんが、冷蔵庫ぐらいになると、部品点数が多いですから、本気でLCAをやると、膨大なフローを作る必要があります。フローがないLCAというのはごまかしです。 ![]() 先ほどは2000点ぐらい部品が出てきましたけれども、冷蔵庫に使っているすべての部品の材料を洗い出してLCAをするのです。これをやらないとLCAになりません。それを電機業界はやりました。 ![]() 今、JEITA(注、Japan Electronics and Information Technology Industries Association;(社)電子情報技術産業協会)とかJEMA(The Japan Electrical Manufacturers' Association;日本電機工業会)も様々な環境情報公開を行っています。 ![]() 家電製品協会がウェブサイトで製品アセスメント事例を公開しています。特に我が社のこれは良いですということを公開しているのです。その中に、14番目にLCAが入っています。ですから、各社みんなLCAをやっているのですが、公開はしていません。公開しないかは後で話します。 ![]() ネガティブ情報という言葉があります。LCAは、科学的な環境評価手法です。逆にいうと、ネガティブ情報も入っているのです。さっき伊坪先生がおっしゃいましたが、様々な項目があるので、企業によっては出したくない項目もあります。なぜか。日本はまだまだネガティブ情報を評価する社会になっていないからです。ここにいらっしゃる方は意識が高いから、ネガティブ情報も評価されますが、でもやはり難しい。
![]() 例えば、難燃材は「とんでもない」と言われます。私もそう思いますが、しかし、現実にスウェーデンのテレビとアメリカのテレビでは100倍ぐらい火災発生率が違うというデータが公開されています。ここは設計者のトレードオフといえます。火事で人が死ぬよりも環境のほうが大事か。いや、やはり環境が大事だ。使い方によるのです。ある物質を制限すると、違うものが出てくる。モグラ叩きです。こっちを抑えれば、こっちが出てくる。様々なことがあります。LCAはそこを総合的に評価できます。 ![]() LCAは科学的なトレードオフです。判断を誰に求めるか、ここがポイントです。LCAをやりました。その判断を企業に求めるのか、行政に求めるのか、あるいは学者か、NPOか専門家か、ここが大きなポイントです。同じLCAの結果でも人によって、あるいは地域によって、国によって、時代によって評価が変わるのです。 ![]() 「1グラムと1センチメートルはどちらが甘いですか?」という質問をよくするのですが、答えられませんよね。次元が違うことを聞いているからです。LCAは、ある意味で同じです。有害化学物質削減と資源枯渇は、あなたはどっちが大事だと思いますか。「両方大事です」では答えになりません。物をつくる人はどちらかトレードオフしなければならない。「でも、やっぱりこっちのほうがもっと重要です。こっちを重視してください」「わかりました。では、そういうものをつくりましょう。その代わり、何が起こるかわからない」、化学物質規制というのはそういうことが起こりうるのです。 ![]() 例えば1~12まで評価項目があるのですが、冷蔵庫を例にとると、「良い冷蔵庫と悪い冷蔵庫、エコマーク1個で評価してください」と言う人がいます。「いや、なかなか1個で評価するのは難しい」「では、LCAをやってください」。冷蔵庫でLCAをやると、様々な項目が出ます。会社によっても違うのですが、それを1つのマークで示すのは難しいのです。 ![]() LCAの一番恐いところは、さっき伊坪先生はあえてお出しになったのだと思いますが、グラフだけを出すと、そのグラフを見て判断されます。「塩ビのクロスってこんなに危ないのか」と思う人が出てきてしまうのです。そうではない。非常に深い解析をやって、様々な分析をする。例えば、はんだは3種類のやり方があります。リフロー、フロー、はんだごてでやる手はんだ、全然違います。それから、はんだに使うフラックスがあります。そのことについては誰も考えません。鉛フリーはんだにすると、融点が20℃上がります。地球温暖化で騒いでいるのに融点が20℃も上がって良いのか、こういう問題もあります。「鉛フリーはんだで鉛がなくなった、よかった」というわけではありません。なおかつ、今日、行政の方も、自動車工業会の方もいらっしゃいますが、例えば日本では鉛蓄電池として鉛を約170トン使っています。鉛はんだに使っている鉛は約17トンです。そして、17トンのうち、家電リサイクルによって、半分が回収されている。つまり、一番大事なのは、コントロール出来るか出来ないか、そこにポイントがあるのではないかという気します。LCAもその辺りの評価が必要なのです。 ![]() これは省エネラベルです。日本は世界に冠たる省エネ大国です。最近、LCAを使って省エネを表現する事例が結構多いのですが、これはLCCO2でLCAではありません。ライフサイクルを考慮した製品のCO2を表現しているにすぎないのです。LCAの結果、省エネになりましたというのは正しくないと思います。 ![]() 多くの項目のうちの1つだけを見ていませんか?結果としては、情報のマトリックスで、様々な情報があります。しかし、こんなに多くを開示してしまったら、消費者も困るから、マーク1個で表現してくださいという要求です。それも分かるけれども、あらゆる情報を見て判断するのがLCAです。 ![]() これは繰り返しになりますが、様々な項目があります。どれを見ますか。全体を見ますというと、甘いのと辛いのとどっちが好きですか、人によって違ってきます。だから、LCAの統合化というと、反対する人がいます。それはいかがわしいところがあると考えるからです。アンケート手法の場合、例えば中国の港湾労働者と中国のレストランで働いている人と山奥の人にインタビューしたら、全然違う答えを出してくるでしょう。ツバルの人も違うし、アラスカの人も違う。専門家も違う。そのようなことを聞いて統合化をすると、「やっぱりちょっといかがわしい」というのが率直な感じです。したがって、正しいのはライフサイクルインベントリ(LCI)までだと思います。 ![]() 結論としては、多様な自己判断が必要ということです。LCAは青い鳥ではありません。LCAもすごく普及し、現在、日本の会社がLCAをやりたいと思ったら、20万円ほどで立派なソフトを購入できます。データを入れると、答えが出てきます。どんなデータを入れたかということを照査しないと、非常にいかがわしいLCAが増えてきます。日本の企業は非常にまじめなので、まじめにLCAをやると思います。「第三者の評価を得たか、見せて下さい」と言えば、おそらく見せてくれると思いますが、そうでないLCAもありうるということです。 ![]() 危険なLCAとしては、恣意的なLCAがあります。1970年代に、自分の都合の良い範囲だけを評価して、こんなに環境に良いのだという宣伝をする恣意的なLCAがありました。
![]() これはだいぶ古い例ですが、冷蔵庫のLCAです。ある会社の製造工程を見たものです。
![]() これもちょっと古いデータですが、携帯電話は製造段階の負荷が意外に高く、使用段階は低いことがわかりました。電気製品は使用段階の環境負荷がほとんどだ言われますが、それは間違っています。携帯電話などを見ると、やはり製造段階の環境負荷も高い。意外なことに取扱説明書の環境負荷が高い。今はだいぶ少なくなっていますが、昔は電話帳みたいな取説が付いてきました。LCAでこういったことでわかってきます。設計者が理解するのです。 ![]() これはオーディオのLCAです。オーディオは使用段階の環境負荷も結構大きい。でもやはり製造段階の負荷が大きいです。このデータをなぜ公開しないのかとメーカーの人に聞くと、電子部品がたくさんあるが、そのLCAデータがない。だから、推定せざるを得ない。そうすると、本当のLCAではない。だから公開できない。かつ、今日は自動車産業の方がいらっしゃいますが、カーオーディオをつくっている人のお客さんは自動車メーカーです。「自動車メーカーが出してよい」と言わないと出せない。そういうこともあります。 ![]() 半導体のLCAです。これは製造している人でないとわからない。半導体の環境負荷は結構高いのです。今日、私は答えを持っていませんが、液晶とPDP(注、プラズマディスプレイ)とどちらが環境負荷が高いのか、LCAをやれば、たぶん答えが出てくるでしょう。なぜ公表しないのかというと、それはある会社のある工場のデータにすぎないからです。これを公表し「当社の液晶はこんなに環境負荷が低いです」と言ったら、たぶん他社からクレームが来るでしょう。だから公開しないのです。しかし、設計者はこれを見て設計をしています。 ![]() これはついこの間、LCA学会で公開されたもので、混合プラスチックをどうやってリサイクルしたら良いかを検討したものです。燃してサーマルリサイクルするのが良いか、ケミカルリサイクルが良いか、マテリアルリサイクルが良いか。今、日本の家電業界はマテリアルリサイクルを一生懸命やっていますが、こういうこともLCAをやると答えが出てくるのです。ただし、ある条件下で結果が出てくるということで、それが全てではないのです。 ![]() ある有名な会社のネガティブ情報の例です。これは「法令に違反した」、「何を垂れ流した」などのネガティブ情報です。今後はLCAデータを出して、これはネガティブ情報ですから、良いことばかりではありませんが、そのようなことを皆さんが評価しないと、おそらくLCAは普及しないと思います。 ![]() まとめは省略しますが、2番目が結構大事です。LCAはやれば誰でも結果が出てしまいます。これがLCAの一番恐いところです。入試のおかげで日本中がLCAを知っていますが、決してLCAは青い鳥ではありません。RoHS規制によって、中小企業保護(途上国保護)政策は世界中からなくなりました。自分がつぶれてしまうから保護できないのです。最後に、日本だけのローカル規制は日本だけが弱くなります。RoHS規制によって日本は強くなりました。グローバル化の時代ですから、競争はイーブンでなければいけない、というのが私の結論です。 (北野) どうもありがとうございました。
(獅山) 大変立派な、また、示唆的な講演だったと思いますが、1点だけお願いいたします。LCAの事例紹介のグラフの縦軸にポイントというのがあります。単位は非常に重要だと思いますが、その意味がなかなかわからない。どう解釈すれば良いのかを教えていただけたらありがたいと思います。 (上野) 今の質問は伊坪先生からのほうが良いですね。エコポイントの話。 (伊坪) 統合化の結果ですが、たぶん後でまたディスカッションのポイントになるかと思います。簡単に言いますと、エコポイントはスイスで開発された方法で、考え方としては、環境影響の現在のフローと目標のフローを設定しておいて、目標と現状との乖離が大きければ大きいほど高い重みづけを設定します。これを用いて環境影響を無次元化してしまうという方法です。基本的には、1995年ぐらいまではこのようなアプローチが多かったのですが、LCIAの研究の中でも非常に批判にさらされました。それ以降LCIA手法の開発研究が、様々な分野で今行われています。その中の1つのアプローチとして、例えば先ほど原科先生から御質問があったような、環境影響を経済的に測るというものもあります。 (北野) よろしいでしょうか。原科さん、どうぞ。 (原科) ネガティブ情報の問題です。情報がきちんと開示されないと、なかなか評価できないということは、おっしゃるとおりだと思います。また、日本ではネガティブ情報がなかなか評価されないとおっしゃったのですが、そうでない部分もあると思います。だいぶ変わってきたように思います。その辺の最近の変化について何か感じたことはありませんか。 (上野) ありがとうございます。例えば環境報告書を作る人は、ネガティブ情報を1つぐらい入れておかないと評価されないのではないかとものすごく悩みます。もう1つは「法律に違反してないのだからネガティブじゃない」という言い方もあります。さっき御紹介したのは、法律違反ではないけれども、危ないところで助かったという例です。それを報告しているのです。問題は、それを、例えば、ある新聞が「こんな危ないことをやっている」という形で記事にすることがいけないのではないかと思います。 (原科) 扱い方でしょうね。我々はよく外国の大学へ学生を推薦したりするときに、余り良いことばかり言うと、かえって評価されないから、ネガティブ評価を入れないと推薦に余り役に立たない。だから、そういう感覚をかなり持つようになったのです。昔は違いました。そのような変化があると思います。 (上野) 成熟した社会になれば、ネガティブ情報が評価されるのです。しかし、まだ世界中がそのような社会にはなっていないのです。 (北野) ほかにございますか。それでは、ここで10分間ほど休憩いたします。 |
―― 休憩 ――
(北野) そろそろ時間ですので、再開したいと思います。
(岩本) 実は私ども化学産業界として、LCIのデータを出す立場におります。先ほど上野さんや伊坪先生のお話を聞いて思ったのですが、1つは、CO2という概念で考えているときは、主要材料だけでもLCIAのデータがあれば、何とかものになった。ところが、伊坪先生のように、微量な化学物質による環境への影響を統合化して実施しようとすると、例えば塗料や接着剤など、いろいろなもののデータが必要になってくる。
(北野) ありがとうございます。特に今お話にあった微量の化学物質等について、LCAをどう適用するか、その限界などについて、伊坪さん、上野さんから御意見をいただいた上で、他の方の御意見をいただきたいと思います。 (伊坪) 岩本さんのおっしゃるとおりだと思います。化学物質の評価は、まだ走り出しの状況でございまして、これを評価に含めると、どのような結果が出るのかやってみようというレベルだと思います。実際に今日お示ししたものについても、排出量は、あるシナリオの想定の下でやった。接着剤についても、従来使われている接着剤についてやってみた。ライフスタイル、例えば換気回数など、あるシナリオで評価してみた。その場合、この程度の潜在的な環境影響があり得るという結果だと思います。その結果をどのように製品改善に生かしていくか、という視点を持つことが必要だと思います。その中で、重要なポイントはどこにあるのかをきちんと見出し、これを自社の製品開発にフィードバックしていくのがLCAの本来使われるべきアプローチです。実際はLCAのこのような特徴が環境マネジメントシステムの構築に有用であるとして、国際規格化に至りました。
(北野) LCAは、何の目的で、誰のために行っているのか、その辺を明確にするということだと思います。上野さん、どうぞ。 (上野) 今、岩本さんのお話で思い出したのですが、国際競争社会の中で我々は生きています。LCIのデータ、科学データはみんなが知るべきでしょう。それは当然ですが、一方ではそこにノウハウが入っているのです。同じ化学物質を作るときに触媒として何を使うかというのは、会社のノウハウです。触媒は開示しないのです。そうすると、本当は製造会社によって環境負荷は違うのに、日本のLCIのデータは、例えばABS(注、ABS樹脂。アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の3つの重合体からなるポリマー)でもPEC(注、ポリエステルカーボネート。生分解性樹脂)でもみんな同じデータになってしまいます。本当は「環境負荷の低い製品を使いたいから、この会社の製品を買おう」 LCAはそのような選択に使えるべきです。しかし、使えないのです。
(北野) ほかにございますか。原科さん、どうぞ。 (原科) 情報公開が大変難しいというのはわかります。戦略的環境アセスメントの話に戻りますが、発電所が外れたのは、発電所の立地選定段階からの情報開示を嫌ったからです。でも、そのレベルと今の話は全然違う。立地選定段階の情報開示は、普通、先進国はどこでもやっている。途上国でもやっている。したがって、社会的に立地選定に対する企業秘密の意味が違う。LCIの場合には、まさに技術、ノウハウにかなりかかってくるので、これは相当デリケートかなという感じがします。
(北野) では、伊坪さん、お願いします。 (伊坪) 結果を出す立場からしますと、設定したシナリオや仮定、プロセスをきちんと明確化しなければならないことは理解していると思います。一方、それらの情報を出す場合に、媒体の紙面も限られます。そこに非常に詳細な情報を詰め過ぎると、せっかく言いたいメッセージが相手に伝わらない可能性があります。よって、情報を出す側は提示する情報をなるべくコンパクトにまとめたいというニーズがあるのは事実だと思います。しかし、シナリオをきちんと重視して出さないと、評価の透明性を確保できません。
(北野) ありがとうございました。大沢さん、どうぞ。 (大沢) 今の話を聞きますと、普通の市民が誰かというのもありますが、普通の市民にとってLCAというのはなかなか難しく、理解するのは大変だと思います。ただ、市民からすれば、できるだけわかりやすく出してほしいので、情報が単純化するという面はしょうがないだろうと思います。情報の出し方として、1つには、市民は製品を流通業から買うわけです。したがって、流通業が何を売るかという選択をするときの判断材料として理解できる情報がある。もう1つは、すべての情報を調べようと思えば調べられるという段階に分けた情報があると、使い勝手がよくなるのかなという感じがしますが、いかがでしょうか。 (上野) 第三者について、みんなが公平に同じように情報を出せば、という前提があると思います。これだけグローバル化してくると、輸入品などわけがわからないものもあります。それが大きな問題だと私は思います。 (伊坪) 1つの事例としての御紹介ですが、例えば電機・電子機器産業の中では、情報公開をしっかりとやっていくという一環で、例えば化学物質の含有量がどれぐらいあるのかをJGPSSI(注、Japan Green Procurement Survey Standardization Initiative;グリーン調達調査共通化協議会)において公開しています。それらは、商品を売買する際の情報の一つとして利用されるであろうと思います。そのような枠組の中に環境情報も入ってくると思います。今後、LCAが入ってくるのかどうかわかりませんが、今あるシステムをうまく利用することでLCAを上手に活用することも可能ではないかと期待しております。 (北野) 嵩さん。 (嵩) 私は、小売業という業界で仕事をしております。お客様に近い場所で仕事をしているという立場上、LCAというと、それがB to C(注、Business to Consumer;対一般消費者取引)のコミュニケーションツールになり得る可能性について一番考えてしまいます。経験上、LCIもそうですが、まずは情報をオープンにして、データを見える形にすることが入り口としては非常に高い壁になっていると考えています。小売業は、大抵の産業界の方からすると、お客の立場のはずなのですが、私たちから生産者側にデータを要求しても簡単には出てこない。LCA的にアプローチするということは、組織の壁、企業の壁、産業の壁、業界の壁をある程度突き破っていくことが必要です。データがどれだけ見えるかは、サプライチェーン・マネジメントの成熟度にも依存してくると思います。実は、小売業として私たちもそこにリーダーシップを発揮して、化学物質の安全面も含めて環境的なアプローチを実施したいと考えています。但し、過去何度か試みているのですが、なかなかうまくいかない。ここに対し、今までご経験からの御意見、アドバイスを頂きたい。例えば、私たちが生産者側にアプローチするときに、どういう手法をとれば、多くの産業界は動いてくれるのか。もしかしたら行政というカードが必要なのかもしれない。あるいは、学識研究者のカードも必要なのかもしれない。私のようなことを考えている人間は業界の中では多いので、そこの御意見をいただければと思います。 (上野) これは伊坪先生とは意見を異にする可能性がありますが、LCAを使うからいけないのだと思います。リスクマネジメントで、このお菓子には鉛が入っているとか、いないとか、そういう表示をすることが大事であって、このお菓子はLCA的に見て、非常に環境に良いなどと表示するといかがわしくなって、ごまかしをやる人が出てくるのだと私は思います。 (北野) 要するにリスクマネジメントとLCAと分けて使うべき、ということですか。 (上野) はい。 (北野) 伊坪さん、どうですか。 (伊坪) 私はLCAを使っていただきたいと思います。利用する側の立場から言えば、第一にLCAインフラ自体がどこまで整備されているのか、第二に使用するインフラがどの程度信用できるか、ということだ思います。この2つが相まってやっと利用できることになります。
(北野) LCAデータの信憑性というか、そういうことについて、学会レベルでは当然クリティカルレビューを行っていく。さらにLCAの信頼性を増すためには、今、伊坪さんからお話があったように、ユーザーの側からLCAデータを評価して、フィードバックする。ユーザーとLCAデータ作成者相互のコミュニケーションが大事ではないかということで、まずとりあえず使ってみてくれということです。村田さん、どうぞ。 (村田) ものによっては、原料から製造段階、流通のプロセスよりも、使用段階でどうするかによって、桁違いに影響の度合いが違うようなものもあり得るのではないかと思います。そういったものの具体的例をいくつかご紹介いただきたい。 (上野) 使用段階というと、例えば電機業界は啓発に随分熱心です。冷蔵庫のドアを開ける回数などの評価も行っています。省エネ的には、ファイブドアの冷蔵庫よりもツードアの冷蔵庫のほうが良いのです。しかし、使う人はファイブドアのほうが便利だから使います。そういった評価は大事だと思います。今日、自動車産業の方がいらっしゃいますが、自動車メーカーの人に聞いた話では、苦労して燃費の良い車をつくっても、交差点で1回空吹かししたらおしまいだと言うわけです。したがって、本当は燃費が悪くなるのだけれども、例えば全部オートマチックにしたほうが良いなど、そのような情報も必要ではないかと思います。 (北野) 使用スタイルがかなり大きいということですね。瀬田さん、どうぞ。 (瀬田) 神谷さんにお伺いします。今日3つの講演を聞いて、LCAは、私は非常に有効な手段だと思っていたのですが、それなりにまだ問題もあるということがよくわかってきました。お尋ねしたいのは、第3次科学技術基本計画、あるいは最近、中間結果が発表されました「イノベーション25」などの中に、環境適合社会を実現するためにLCAを導入するという考え方はあるのでしょうか。 (神谷) 今おっしゃった2つの計画の中にLCAの記述があるかというのは、手元に資料がなく、十分お答えできる情報がございません。ただ、LCAの整備は、環境基本計画の中に、環境の価値を商品選択に反映させるために推進すると記載されておりまして、そのための技術開発についても位置づけがございます。環境基本計画の中で研究開発も含めてLCAを推進するという方針が出ておりますので、政府全体として、そういう方向性ははっきり打ち出されている、ということは申し上げられると思います。
(北野) 岩本さん、お願いします。 (岩本) 似たような話で、神谷さんに提案です。化管法も施行後、何年かたちますと、大変な時期に来ます。何が大変なのかというと、排出を削減するために膨大な設備をつくらなければならないということになるのだろうと思います。これをLCA的に評価すると、必ずCO2が圧倒的に増えると思うのです。もちろん環境基準を超えているようなところでは何が何でも排出を削減しなきゃいけない。ところが一方、それほどでないところにCO2の排出を増やしてまでこれを削減するのか、というトレードオフの議論が出てくるのではないかと思います。化学物質の排出削減みたいな世界の中にもLCA的な概念、CO2とのトレードオフがどうなるのか、という考え方は導入できるのではないかと思っているのです。リスクアセスメントという観点から、例えば少々CO2が増えても、あるリスクが想定されるなら、下げなければならないなど、そういうLCAの使い方というのも考慮できるのではないかと思います。
(北野) 神谷さん、どうですか。 (神谷) 先ほど上野さんの講演にもありましたが、規制への対応ということで、一気に世の中の対応が進むという話がありました。一方、化管法のPRTRというのは、規制とは言えない制度です。自主的管理を推進するための物質をリストアップし、その排出量についてのデータを集計・公表することによって、自主的な取組を進めるということを定めているだけです。対象物質は直ちに排出量削減を義務づける物質ではありません、という説明をしております。そうはいっても、実際には、化管法・PRTRの対象になった途端に、その物質の削減と、その代わりとなる物質への代替が進んでいます。他の面も考えたときに、果たしてそれで良いのか、どういう評価になるのかは、重要な論点だと思います。次回4月の化管法見直し合同会合の中で対象物質選定の議論をしますが、環境に対してある程度の影響の可能性がある物質を選ぶという観点と同時に、代替物質についても十分考え、今後どういう形で物質選定や制度設計をしていくかは、合同会合で議論しなければならない大事なテーマだと思っております。 (北野) 伊坪さん、御意見ありますか。 (伊坪) まさにおっしゃるとおりだと思います。製品の環境設計というのは、何か特定の環境問題に対する対応がほとんどです。その特定の問題に対応した結果、その他の環境問題は増える可能性があります。そのようなときに、第一の問題として私が認識しているのは、このようなトレードオフの問題について議論するのに利用すべき情報すらないことです。定性的な議論のみで、こちらは良いが、他方では悪い、といった情報のみでは議論が進みません。まず定量的に表現し、なおかつ、評価結果について合理的に理解できるツールとなりうるものを出す必要があると思います。
(原科) 統合化で「信頼性」という言葉を使われました。発表のときに気になったのですが、「信頼性」という用語はあまり適切でないように思います。トレードオフ関係は人によって違うわけですから、ウエートが違う結果は当然出てくるもので、それは通常の信頼性とは違うでしょう。むしろ概念としては、信頼性というよりも、変動するものだと。変動するものをどうやって相互に調整していくか、そういう調整過程といいますか、あるいは合意形成過程が一番大事だと思います。合意形成のプロセスの中で情報として使っていく。そういう枠組みを作っておかないと、せっかくの情報が生かされないのではないかと思います。「信頼性」という表現になると、1つの答えが出たように誤解をしてしまうのです。それはちょっとまずいかと思いました。いかがでしょうか。 (北野) 「信頼性」という言葉の定義ですね。 (伊坪) 言い方が適切でなかったと私も思います。具体的に言いますと、環境経済の中でとられているアプローチでは、個人の中での重みづけが違うということを認識しています。その上で、統計的に有意な結果が出るような形にするために、なるべく多数のサンプリングを行って、ばらつきも考慮した上で母平均を求めます。分布についても計算できるのですが、今回の評価結果については、平均値を採用しています。 (原科) 「信頼性」という表現は正しくないというのは、そういう意味です。実は、統合化は、代替案の比較検討のときに必要です。今おっしゃったように、会社の中で特定の製品では代替案の比較検討の話にならない。したがって、場合によっては、統合化にあまり重きを置かず、被害評価をまずきちっとやることが大変大事だと思います。その上で、さきほどのように社内で使う場合は、いけるような感じがいたしました。
(北野) 中下さん、お願いします。 (中下) 私もこれはとても有効な方法かと思うのですが、消費者の側から見ると、情報提供の問題、たとえば、我々の側にわかりやすい形での情報提供があるのか、特性についての見方や前提としてのデータの仕組みを理解するための教育など、まだまだ問題があると思います。教育は非常に大事だと思います。いきなりLCAが出てきても、ちょっと対応できない。一般消費者が理解でき、使えるようなツールとなるために、どのような教育、情報の出し方をすればよいか、何か御意見があれば、お二方の先生にお伺いしたい。
(北野) 一般の消費者に利用していただくためにはどのようなことが必要かということと、REACHの発効がLCAにどういう影響を与えるか、という2点ですね。 (伊坪) 環境教育についてのコメントです。私もLCAをいかに教育に利用できるのか、ということに関心を持って研究し始めました。昨年は、中学生に対して、LCAの情報をいかにわかりやすく提供するか、それによって、環境に対する行動がどのように変わりえるか調べました。
(北野) ありがとうございました。上野さん、どうぞ。 (上野) 教育に関しては、一番良いのは、会社でやることだと思います。そうすると、お父さんがやっているということは子供も覚えます。そういう形で広めるのが一番良いのではないかと思います。
(北野) 先ほどLCAの教育の話があったのですが、淑徳大学で私は、とりあえずLCAの論文を読ませています。具体的にいうと、例えばお風呂の残り湯を使った洗濯機と従来の洗濯機とについての比較のようなレポートをもとに、LCAの範囲やどういうデータで、どのように結果を出すのか。CO2や資源の枯渇性、水の需要などの勉強をするわけです。その後に、例えばガラス容器とアルミ容器とペットボトルの容器について、それぞれ製造・流通・リサイクルの段階でどのぐらいCO2が発生するかというデータを見ながら、例えばガラス容器はリユースが良い、アルミだったらリサイクルが良いなど、LCA結果をもとに、ライフスタイルを考える、そんな授業を文科系の学生に行っています。大学でLCAが授業科目にあるところはありましょうか。 (原科) そのタイトルの授業はないですね。環境安全論の中でやるくらいです。 (伊坪) 武蔵工大では私がやっています。 (北野) 岩本さん、どうぞ。 (岩本) 今の中下さんの話に、消費者としての立場から発言します。今いろいろお聞きしたように、日本のメーカーは、様々な検討を一生懸命やっているのだろうと思います。LC Thinkingではないですが、何か物質が含まれているから問題だということではなく、トータルで考えて設計されているという理解を消費者として持つようにすべきではないかと思います。トータルの中でリスクを考え、トータルで最適化された(トータル・オプティマイズされた)製品をつくるように企業は一生懸命努力しているというように消費者の方は理解していただければ良いなと思っています。 (上野) 私は、岩本さんのおっしゃることに賛成です。ただ、企業には良い企業と悪い企業があります。そこを見極めるのは、眼力がないとできない。そこをどうするかが問題です。 (北野) 八谷さん。 (八谷) 自動車産業にいる者として、今日のお話で、若干違和感を感じました。CO2やエネルギーの部分は、10数年のLCA歴史の中で当たり前になってきている。伊坪先生のプレゼンテーションにもプリウスの例が使われ、燃費が良いといっても、その生産や廃棄などライフサイクルのプロセスの中でトータルで見なければいけないということは、自動車産業の中では誰もが知っているような状況になってきた。自動車工業会の中でもLCA分科会があって、今までいろいろと研究をしながら、インベントリも固めてきて、ある程度仕組みが固まってきた。そして、つい最近、LCA分科会でやることはやったので、そろそろ解散させて欲しいという提案があり、近々解散させようかという動きがあった。そのような中で、今日、化学物質の中にLCAを取り込むというので、私は少し驚いて、本当はまだやることがあるのかなというところで、少し違和感を覚えました。
(北野) ありがとうございました。では、中下さん、どうぞ。 (中下) 先ほど岩本さんのお話で、企業に任せれば良いというお話だったのですが、そうはなかなか言えない。というのは、実際に私のところに来る例でいうと、シックハウスの方々の相談があとを絶たない。かなり大手のハウスメーカーさんの住宅でそのような被害に遭われている。大手の企業さんだから大丈夫だろうと思って買っていても、実際には被害に遭ってしまった例も決して少なくないのではないかと思います。
(北野) ありがとうございました。では、岩本さん。 (岩本) あえて私は消費者としての立場から発言しますと断わったつもりですが。もちろん任せろというつもりは毛頭ありません。しかし、世の中に皆さんが利用できる形で商品が出回っているという中で、商品をうまく使いこなしていくことが必要であろう。それに対して必要な情報はもちろん出していかなければならない。
(北野) 岩渕さん、どうぞ。 (岩渕) LCAとRA(注、Risk Assessment;リスクアセスメント)が今、議論の中でごちゃごちゃになっているような気がします。要するに、消費者側が製品を選ぶ基準として、LCAでやるのか、RAでやるのかという話になると思います。私は、LCAは、製造する側が、どのようにすれば環境負荷が一番小さいものをつくれるかというツールとして有効ではないかと思います。ところが、消費者が見るものとしては、出来上がったものからどうリスクが出てくるかというRAの問題ではないか思います。その辺を少し切り分けた形で表示なり何かができると良いと思います。そうなると、LCAなのか、RAなのか、どちらかわかりませんが、標準化した手法がどこかでできると良いというのが私ども行政としての期待です。 (北野) ありがとうございました。どなたか、特に化学物質のLCA等について、行政として今までの議論を聞いた上で、どのような御感想なり、何か御意見なりがあれば伺いたいのですが。佐々木さんいかがですか。 (佐々木) 今のLCAは最後の統合化の部分で、何にプライオリティをつけて評価するかというところについて、先ほど指摘があったようにいろいろ議論があるのだということをこの場の皆さんも認識されていると思います。そこのところの、我々国民としてここが重要だというプライオリティづけが出てきて、統合化して示さないと国民の側からはLCAという手法はわかりやすくならないと思います。個別の要因からみるとわかりにくい、統合化するというわかりやすいけれどもそこのところが危険だということですし、重みづけについてのコンセンサスをつくっていかないといけない、今後行政が利用するとなると、そこの重みづけのところのバランスが今のところでどこなのか、というところが我々としてもまだつかみきれていないところだと思います。
(北野) ありがとうございました。他の方はいかがでしょうか。 (原科) 統合化は、そのプロセスをいかに透明なものにするかがポイントだと思います。しっかりした議論の場、私は「公共空間での議論」といっています。公共空間というのは、誰もがアクセスできる透明性の高い場ということです。それは行政にぜひやってもらいたい。さきほど3つに整理されました。それぞれについてどんなウエートで考えるかは、Aのパターン、Bのパターン、Cのパターンと分けることもできます。それには、さっきおっしゃったように、ある母集団があります。母集団の分布を考え、ずれた山が2つ3つあれば、それは一緒にしないで、分けて比較しなければいけない。そういうことを前提に考えれば、透明性のある議論の場をどうつくるかが大変大事だと思います。ぜひ行政の方でそのような場をつくっていただきたいと思います。 (北野) ありがとうございました。LCAの利用ということで、最終的には、例えばCO2の問題と環境、あるいは、人の健康、あるいは、資源の枯渇性のインパクトなどが出てくるわけです。それは異なる概念のもので足し算できない。そうのようなときにどれに一番重きを置くかというのは、その人の人生観みたいなものにかかってくるわけです。佐々木さんがおっしゃったことは大体そういうことでしょうか。
(瀬田) LCA、RAとの比較も含めていろいろお伺いして、現状はよく理解できました。これは難しい話かもしれませんが、両先生にお聞きしたいのは、例えば10年後とか20年後のLCAというのは、どういう形を想定しておられるのか。3年後でも5年後でも結構ですが、今後LCAをどんなものに育てていきたいかというビジョンのようなものがおありだと思うので、それをお聞きしたいと思います。 (上野) 今、瀬田さんが20年後と言いました。これはとても良い話です。20年後ということは、今の大学生が40歳ぐらいです。世界的に、環境教育を受けた人が社会をリードしていく時代になっていく。中国などの途上国でも、LCAを今一生懸命勉強している人がいますので、彼らが指導していくでしょう。そういう時代になると思います。 (伊坪) 非常に難しい質問です。今はステークホルダーが限られており、企業の中での利用というところに閉じている状況です。ここを広げて、いかに消費者もしくは政府の中で意思決定を支援するツールとして活用されるようにできるか。
(原科) 計画のスパンについて、40年、50年とおっしゃいましたが、通常、日本ではそのような長期の計画は作りません。せいぜい20年ぐらいだと思います。40年、50年の根拠は何かあるのですか。 (伊坪) 特段根拠はありません。例えば長期のシミュレーション、ワールドスリーは100年程度を見ています。LCAがこのようなツールと並んで活用できるのか、といった可能性を見出したいという期待でございます。そう考えた時に、100年とは難しいのですが、せめて50年程度を考えることができる、少なくともシナリオ分析として幾つかのシナリオに対して予測した結果が出せるものが出来ないか。理想的には、例えばIPCC(注、Intergovernmental Panel on Climate Change;気候変動に関する政府間パネル)報告書に示されるようなシナリオ分析結果をLCAの情報をベースにした形で出すことができるか検討したいと思っております。 (原科) 40年、50年の予測モデルが作れれば、20年ぐらいまではかなり信頼性が高いと言えるかと思います。しかし、方法論の手法開発の話と実際の計画とでは少し違うのではないかと思います。 (上野) 一言だけよろしいでしょうか。40年、50年というのは、結構重要なポイントです。今から40年前、フロンは、人畜無害でこんなに安定な化学物質はないといわれていました。今でも人畜無害で安定なことは間違いないのです。しかし、それがオゾン層を破壊していることがわかったのです。それは、そんなに昔の話ではありません。このようなことから、化学物質の評価というのは、短期的に見るとやはり危ないと思います。そういう意味で、今、伊坪先生がおっしゃった40年、50年というのは、結構大事だと思います。 (原科) 計画の話よりむしろリスクの観点からいうと、そこまではチェックしたいということですね。わかりました。 (北野) そろそろ予定の時間になりました。今日は、LCA、特に化学物質のLCAを中心にお話をしてきました。単なるCO2の排出だけでは置き換えられない、非常に難しいものであるというのが皆さんの共通の考えだったと思います。また、LCAデータの信頼性、公表の仕方、さらに、それをどう利用していくのか、いろいろな面から議論いただきました。化学物質のLCAについて現状をよく理解でき、大変参考になったと思います。
(青木) 本日は大変ありがとうございました。これにて終了させていただきますが、本日の会議等についての御意見、御感想につきましては、アンケート用紙に御記載の上、入り口の質問受付箱にお入れいただければと思います。
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