今回から新設された部門賞。「地域コミュニティ部門」は、奈良県生駒市鹿ノ台地区で活動する『ECOKA委員会』が受賞しました。7000人以上が暮らす住宅地を囲む約12ヘクタールの緑地を整備するなどの取組を通じて、地域の魅力を高め、住民のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上を目指しています。
どんな活動?
荒れていた緑地を整備して植樹。
明るい森を守っています!
鹿ノ台地区の全景。
ECOKA委員会が活動する奈良県生駒市鹿ノ台地区は、大手デベロッパーが開発し、昭和52(1977)年に入居が始まった住宅街です。総面積は約122ヘクタール。約2800区画の住宅都市に、現在は7000人余りの住民が暮らしています。
丘の上に広がる町は、第1緑地から第10緑地まで、およそ12ヘクタールの緑地に囲まれています。この緑地を所有、管理するのは生駒市ですが、住民の有志20数名が集まったECOKA委員会では、行政などの確認を取りながら、住民独自の活動として緑地を整備。明るい森を維持していくことで、この町の魅力を高める活動をしているのです。
ECOKA委員会が結成されたのは平成20(2008)年6月です。もともとは大阪などの企業に勤めていた人がほとんどで、森林については素人同然だったのですが、メンバーのみなさんはチェーンソーの使い方や森林整備の講習を受けるなどして、森を守るための知識と技術を習得。無秩序に生い茂った竹を切り、不法投棄されたゴミを片付けるなどの作業を続けてきました。
活動のスタートからおよそ10年が経過して、広大な緑地のほとんどは整備された明るい森に変貌しました。藪を伐採した後には、カシなどの常緑樹、クヌギやケヤキなどの落葉広葉樹、さらに桜やモミジなど季節ごとに景観の彩りとなる木々を、森のバランスに考慮しながら植樹。植樹した本数も1000本を超えています。
また、緑地に接した約250坪の畑を「オープンガーデン」と名付け、チューリップやユリ、ヒガンバナなど四季折々の花を育てています。オープンガーデンに花が咲く季節には、地域の保育園や幼稚園、小学校などの子どもたち、また、福祉施設の利用者などが訪れて、自然を愛でる時間を過ごします。
さらに、明るくきれいになった緑地を地域住民と一緒に歩くイベント、『森林ウォーク』を定期的に開催。地域住民の絆を深め、住民のみなさんが豊かな自然に囲まれた鹿ノ台の魅力を実感するための役割を果たしています。
ECOKA委員会のみなさん。
竹藪になっていた場所も多かったそうです。
森を守るための技術も習得。
オープンガーデンには地域の子どもたちも訪れます。
活動のきっかけは?
高齢化とともに、荒れていく緑地に感じた問題意識。
暗い森が明るくなっていきました。
鹿ノ台地区の開発が始まったのは昭和40年代のこと。入居が始まってから40年以上が経っています。働き盛りでこの町にマイホームを手に入れた人たちにも、すでに定年を迎えて退職、地域住民の高齢化が進んでいます。また、開発から年月が経つにつれ、地域を囲む緑地は荒れ放題となって暗い森となり、ゴミの不法投棄が目立つようになっていました。
「緑地の所有者は生駒市とはいえ、分譲地の開発には自分たちがマイホームを購入したお金が使われている。私達にも住民としての誇りと責任があります。行政に任せきりにするのではなく、住民の力で緑地を整備して、地区の魅力を高めることに貢献したい」(ECOKA委員会代表・山田勲さん)
右から、理事の一箭(いちや)恵三さん、代表の山田勲さん、副代表の山本保彦さん。
そんな思いの有志が集まってECOKA委員会を結成。おもに日曜日などの休日を活動の日と決めて、緑地を整備していく活動が始まったのです。
地域住民の高齢化や周辺環境の荒廃は、鹿ノ台地区に限ったことではありません。大都市周辺に開発された住宅地では、開発から時間が経つほどに、鹿ノ台と同じような問題に直面しているケースが少なくないでしょう。
身近な自然環境、そして自らが暮らす地域が抱える課題を見据え、自分たちで行動を起こす。ECOKA委員会の取組内容やその姿勢は、ほかの多くの地域コミュニティにとっても、課題を解決していくための大きなヒントになるのではないでしょうか。
急斜面には丸太の階段を整備。
成功のポイントは?
住環境への高い意識と、楽しみながら続けることが活発な活動に!
旧消防署を活用した鹿ノ台いきいきホール。
緑地に囲まれて丘の上に広がる鹿ノ台の町は、ヨーロッパの城郭都市のような落ち着いた雰囲気に包まれています。町の中心部で、統合されて移転した消防署の建物を活用して住民が運営する『鹿ノ台いきいきホール』には、交流サロンや鹿ノ台自治連合会の事務所があり、ECOKA委員会の拠点もここに置かれています。
平成21(2009)年には、地域住民が自主的に定めた「鹿ノ台花づくり住民協定」が、奈良県景観条例に基づく奈良県景観住民協定として県内で初めて認定されるなど、鹿ノ台で暮らす人々の中には、地域の景観や住環境を守る高い意識が根付いているのです。
『鹿ノ台自治連合会』の事務所には、住民が気軽に集えるサロンがあり、ECOKA委員会がグッドライフアワードで環境大臣賞を受賞したことを報告するポスターも掲示されていました。そのポスターを見て驚いたのは、ECOKA委員会と同様の住民の活動グループである「鹿ノ台いきいき街づくり会」が同じ年の厚生労働省「健康寿命をのばそう!アワード」優良賞を受賞、鹿ノ台自治連合会が「平成29年度ふるさとづくり大賞」で総務大臣賞を受賞していたことです。
ECOKA委員会の活動が活発に継続、発展してくることができたのは、もともと、この地域に暮らす方々が住環境への高い意識をもっていることが、大きな理由のひとつになっているのだと実感しました。
さらに、活動継続のヒントになることがありました。ECOKA委員会では、ただ緑地を整備して植樹するだけでなく、伐採したクヌギの木を使ってシイタケを栽培したり、藪を切り拓いた場所にイモの畑や果樹園をつくるなど、自分たち、そして住民が楽しむための工夫をしていることです。
5月には、明るくなった森の木々の間にロープを張って、鯉のぼりが泳ぐそうです。また、畑での芋掘り体験やシイタケ狩りなどのイベントを開催して、地域の子どもたちの環境学習に役立てています。
多彩な自治活動の拠点になっています。
立派なシイタケが育っていました。
緑地を活用するための、いろんな工夫をしています。
レポート!
『森林ウォーク』で住民の人たちも身近な自然を再発見!
2018年3月4日(日)、地区の住民のみなさんが集まって整備された緑地を歩く『森林ウォーク』が開催されました。100名以上の参加者が4班に分かれ、ECOKA委員会メンバーの説明を聞きながら、およそ3kmほど、緑地を歩き森林浴を楽しむのです。
急斜面には作業用に丸太を配した階段がつくられたりはしていますが、遊歩道が整備されているわけではありません。造成時、法令に従ってつくられた、法面(人工的な斜面)の崩壊を防ぐための排水路などを頼りに歩く、想像以上に険しい道の散策でした。
『森林ウォーク』は今年で5回目の開催とのこと。今年は寒波の影響でシイタケが不作だったこともあり「今年はシイタケのお土産がないのが残念だけど、毎回楽しく歩いています」という常連の住民の方がいる一方で、「自分が住んでいる町のすぐそばに、こんなに豊かな自然があることに驚きました!」という参加者もたくさんいらっしゃいました。
鹿ノ台に住んで1年というご家族も笑顔で参加!
明るい森を守り、地域の環境を守っていくことは、ひいてはこの町の価値を高め、次世代の新たな住民を集める魅力となっていくことでしょう。また、町の活気が維持されて、住民同士の快い繋がりを保っていくことは、住む人のQOL向上にも直結します。
身近な環境を注視して、環境を守るために自分たちが行動を起こす。ECOKA委員会の活動の価値を体感できる『森林ウォーク』の時間となりました。
当日は好天に恵まれました。
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