国産木材価格低迷などの影響で、林業従事者の減少や高齢化が進み、山村の森が荒廃していくのは、現在の日本が抱えている大きな課題のひとつです。東京チェンソーズは、平均年齢30代前半の若者が集結。「東京で林業の成功事例をつくる」ことを目指して、新しい森の価値を発信しています。
どんな活動?
住宅からおもちゃまで「木のある暮らし」を提案。
鹿ノ台地区の全景。
みなさんは「林業」についてどんなイメージを持っているでしょうか。危険で過酷な重労働だと思う人もいるでしょう。また、あまり知らないという方も少なくないでしょう。東京チェンソーズでは、わかりやすくきれいなウェブサイトを運営。テレビや雑誌などメディアの取材にも積極的に協力して、林業、そして東京の森についての情報発信を行っています。
目指しているのは「東京で林業の成功事例をつくる」ことです。近年、国産の木材価格は低迷している上に、後継者不足などもあり、全国各地であまり手入れされていない荒廃した森が増えていることが問題になっています。東京チェンソーズでは、公共事業としての補助金ばかりに頼ることなく、森や材木の活用方法を社会に提案。新たな付加価値を生み出すことで、林業を持続可能なビジネスにすることを目標としているのです。
林業とは、木を植えて、育てて、使うこと。そのすべてのプロセスを「商品」として工夫し、一本一本の木の価値を高めるために、さまざまな取組を行っていることが、東京チェンソーズの特長です。
本業では、年間50ヘクタール以上の森林整備を行い、「TOKYO WOOD」と名付けられた良質な地域材のブランド普及に取り組んでいます。でも、東京チェンソーズの活動はそれだけではありません。
「森デリバリー」というプロジェクトでは、従来は山に捨てられていた枝や葉を活用した工作のワークショップを開いたり、素材として販売することで、切りだした材木を一本まるごと活用することに挑戦しています。東京都心などで開催されるイベントに駆け付けられるよう、2017年には専用の軽トラック「森デリカー」がデビューしました。
「東京美林倶楽部」は、毎年会員を募集している会員制の森林体験プログラム。東京チェンソーズの社有林に、会員一口につき3本の苗木を植樹。下草刈りや枝打ちなどの作業にも参加して、25年目と30年目に間伐した木は会員が自由に活用(加工などは仲介してくれます)できるという、30年間のストーリーが展開する壮大なプロジェクトです。2018年現在で第4期までの活動がスタートしていて、200口以上が会員が集まっています。
また、専用のロープや用具を使って木に登る「ツリークライミング教室」など、森を舞台に子どもから大人まで楽しむことができるイベントも開催しています。森のめぐみを届け、森に興味をもち、楽しんでもらうことで美しい森を守っていく。それが東京チェンソーズが描く「成功」のカタチです。
会社の拠点には古民家を活用。
端材などの用途を提案する『一本まるごとカタログ』!
森のめぐみを運ぶ森デリカー。
東京美林倶楽部の植え付けイベント。
活動のきっかけは?
若い人がいない仕事だからこそ、
自分が必要とされている!
代表の青木亮輔さん。
東京チェンソーズがスタートしたのは2006(平成18)年。檜原村の森林組合で働いていた青木さんをはじめとする4名の若者が集まって独立。まずは森林組合の下請けとして森林整備を受託する仕事を始めました。その後、東京都や市町村からの仕事を元請けとして受注できるようにして、2011(平成23)年に法人化、株式会社東京チェンソーズが設立されました。
この頃になると、東京で林業に挑む若者たちの挑戦がテレビ番組などでしばしば取り上げられるようになり、そうした情報を見て、出資などの支援を申し出る人が現れるようになりました。そうした期待に応えるためにどうすればいいか。青木さんを中心とする東京チェンソーズのメンバーが検討して生まれたのが「東京美林倶楽部」など、林業のイメージを一新するさまざまな商品やサービスだったのです。
青木さんは大学卒業後、出版社に就職しました。でも「地下足袋で土を踏みしめる仕事がしたい」という思いから林業の仕事を探しました。採用されたのは東京都森林組合。でも、正規の職員ではなく半年間の期限がある緊急雇用対策(失業者対策)でした。創業時からのメンバーで、現在は広報を担当している木田正人さんも、同じように緊急雇用対策で森林組合で働いている時に知り合った仲間です。
創業時のメンバー4名のうち2名はその後独立。でも、東京チェンソーズを知り、「東京で林業にチャレンジしたい!」という熱意を共有する若者達が集まって、現在は社員数15名となっています。社員のみなさんはもちろん檜原村周辺に移住して地域の活性化にも貢献。林業で「月給制で賞与があり、完全週休二日制、社会保険完備、有給休暇や育児・介護休暇」などを備えた働きがいのある会社に成長していくこともまた、東京チェンソーズが目指す「成功」のひとつです。
創業時からの仲間で広報担当の木田正人さん。
「地下足袋で土を踏みしめる仕事がしたい」がモチベーション!
成功のポイントは?
積極的な情報発信とともに新しい林業のビジネスモデルを模索。
「ほたるのつみき」。
従来の林業では、良質な木材を産出すること、またキノコ栽培などが収益の中心で、東京チェンソーズのように、都市で暮らす人たちをターゲットとして、森や木を題材にした新しい商品やサービスを提案していることはほとんどありませんでした。
東京チェンソーズの場合、若いスタッフのプロフィールなどとともに、企業としての理念を伝え、東京美林倶楽部や森デリバリーといった画期的なサービスについて、公式のウェブサイトやブログ、SNSなどを通じての情報発信に力を入れています。
東京チェンソーズでは、森で育てた木を材木として売るだけでなく、森のめぐみを生活に活かすことを提案し、森の価値を改めて見直してもらうことで、新たなニーズを切り拓き、一本の木の価値を高めていくという発想でさまざまな事業に取り組んでいます。地に足の付いたソーシャルビジネスとして成長を続けていることが、マスメディアにしばしば紹介されることにも繋がっています。
また、檜原村(自治体)にさまざまな提案をして、連携を深めています。2014(平成26)年には、第2回グッドライフアワードで環境大臣賞を受賞した日本グッド・トイ委員会(現・芸術と遊び創造協会)とも連携して、檜原村が自治体として「ウッドスタート宣言」を行いました。
ウッドスタート宣言をした自治体では、その市町村で誕生した赤ちゃんの「ファーストトイ」として地産地消の木のおもちゃをプレゼントするのですが、檜原村からのプレゼント品である「ほたるのつみき」は、東京チェンソーズが檜原村産のヒノキで製作しています。
さらに、木のおもちゃを檜原村の特産品にすることを目指した「檜原村トイビレッジ構想」が始動。観光施設ともなるおもちゃ美術館を創設する計画が進んでいます。美しい森を守る環境への取組や、地域の活性化は自治体としても重要な課題です。若者が村に移住して、真剣に森と向き合う東京チェンソーズの活動は、檜原村を元気で魅力的な場所にしつつあるのです。
木のおもちゃのバリエーションも広がりつつあります。
森デリバリーで紹介している葉の活用例。
レポート!
世代を超えて育っていく、30年後の森に思いをはせる!
植え付けイベント参加者のみなさんと。
2018年4月22日、払沢の滝の近くにある東京チェンソーズ社有林で開催された、東京美林倶楽部の植え付けイベントを取材してきました。今回は、グッドライフアワード実行委員会から、中井徳太郎委員と末吉里花委員が同行。代表の青木さんに案内いただきながら、参加者が苗木を植える様子などを視察しました。
東京チェンソーズのスタッフが自ら作った作業道を歩き、苗木を植える場所へ到着。あらかじめ細かく平坦な林内歩道が整備されていたものの、スキーでいえば中級者コースほどの急斜面です。
参加者には家族連れが多く、まだ小学校に上がる前の小さな子どもたちが一生懸命に苗を植え、小さな足で周囲の土を踏み固める(しっかりと根が張るように!)様子が印象的でした。
「30年後の間伐まで、私は生きていられるかどうかわからないけど、子どもたちにこの森を残してあげられれば」という言葉が、参加者と一緒に健全な森を育てるという、このプロジェクトの価値を教えてくれます。
こうしたイベントに多くの参加者を集めることができるのは、人口が多い東京という地の利があるからともいえるでしょう。でも、森というフィールドを活用し、一本の木の価値を最大限に高めようとする東京チェンソーズの取組は、里山の荒廃という問題を抱える全国のさまざまな場所に広がっていく可能性をもっていることを実感できました。
小さな子どもたちも一生懸命植えていました。
中井委員、末吉委員も森の魅力を体感!
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