学校の枠を超えた徳島県の高校生チームが、河川や公園などの維持活動で出る刈草を再利用した良質な堆肥を商品化。行政と連携した事業を立ち上げ、地域の雇用を創出しました。さらに、作った堆肥を活用して環境出前授業を行うなど、脱炭素社会への意識を広めています。
どんな活動?
刈草堆肥『もったいない2号』を活用して
多彩な環境活動を展開!
ミニ緑のカーテンセット
「緑のリサイクルソーシャルエコプロジェクトチーム」は、地球温暖化防止や脱炭素社会の実現に向けて、多彩な活動を展開する高校生を中心としたチームです。チームのメンバーは、徳島県の新野(あらたの)高校(阿南市)、小松島高校(小松島市)、小松島西高勝浦校(勝浦町)、そして徳島北高校(徳島市)の有志で、人数は約50名。新野高校教諭で、チームの顧問を務める湯浅正浩先生が見守りながら、全国各地でさまざまな環境保全に関連した活動を行っています。
活動の柱になっているのは『もったいない2号』と名付けられた堆肥です。河川や道路、公園などの維持管理作業で発生する刈草は膨大な量となり、自治体が多額の費用を掛けて焼却処分しています。湯浅先生はチームメンバーとともに試行錯誤を重ねて『もったいない1号』を開発。その後、専門家のアドバイスなどを受けながら改良し、平成25(2013)年に『もったいない2号』が誕生しました。
袋詰めなども高校生の手作業です。
事業化で雇用も創出しました。
『もったいない2号』はエコロジーであるばかりでなく、安全&安心で良質な堆肥として、高校生の団体としては全国で初めてとなる肥料の製造販売業の許可を取得。エコ商品の認定も取得しました。また、徳島県などの行政と連携し、徳島県南部健康運動公園内にある「緑のリサイクル施設」を刈草堆肥の製造場所として事業化。年間に約6トンの堆肥を生産し、地域の雇用も創出しているのです。
さらに、『もったいない2号』にアサガオやヒマワリの種を添えた「ミニ緑のカーテンセット」を環境教材として、地元はもちろん、全国各地のイベントなどで配布するとともに、チームメンバーの高校生による環境出前授業を行っています。
また、平成29(2017)年からは、夏のグリーンカーテンに活用する植物として、栽培が容易でおいしい果実が収穫できるパッションフルーツに着目。『もったいない2号』とパッションフルーツによるグリーンカーテン作りの出前授業も実施しています。
パッションフルーツのグリーンカーテン。
活動のきっかけは?
甲子園出場を応援してくれた
地域への恩返しから始まりました
大量の刈草処分は地域の課題になっていました。
この活動が始まったのは、新野高校の野球部が徳島県代表として甲子園出場を果たしたときに、応援してくれた地元への御礼として、生徒たちの手で「花いっぱい運動」を行ったことがきっかけでした。その活動の中で県民局を訪れたときに、刈草処分の多くの費用が掛かっているという課題を知り、刈草堆肥の開発というアイデアが生まれたのです。
当時の新野高校生徒会の5名ほどをメンバーとして、「緑のリサイクルソーシャルエコプロジェクトチーム」がスタート。その後、湯浅先生の異動先の生徒が参加したり、地域のイベントなどでの活動に協力してくれた中学生が別の高校に進学してチームに参加する中で、チームの輪が学校の枠を超えて広がっていったのです。
今では、このチームで環境問題への意識に目覚めた生徒が卒業して大学へ進学。OBになってもチームに協力してくれることで、チームの輪はさらに広がりつつあります。
顧問の湯浅正浩先生。
成功のポイントは?
積極的に産官学の連携を広げて
活動が元気になっています!
地元プロ球団のホームゲームでセットを配布。
この取組が評価されたポイントのひとつが、さまざまな地域の自治体や団体、また企業などとの連携を深めて、活動の幅がどんどん広がっている点です。
『もったいない2号』の生産は、徳島県と連携して事業化し、高校生の取組から4名(2018年現在)の雇用が生まれました。徳島県南部健康運動公園内の球場をホームスタジアムのひとつとしている縁で、プロ野球独立リーグの徳島インディゴソックスとも連携。この球場でのホームゲーム開催時に『もったいない2号』を配布しました。
グリーンカーテンから収穫できるパッションフルーツには民間の企業の注目度も高く、飲料会社との連携が生まれ、6次産業化へのチャレンジが進むとともに、イベント開催時に試供品の提供を受けるなど「いい関係」が広がっています。
パッションフルーツの活用法も広がっています。
さまざまな連携が広がる理由のひとつは、チームの活動を通じて自信を深めた生徒のみなさんの姿が共感を呼ぶことが挙げられます。また、顧問の湯浅先生自らが、連携の可能性を感じた先に対して、積極的に声を掛けているのもポイントになっています。
実は、2017年の年末に開催されたグッドライフアワードの表彰式会場で、『暑熱対策のための移動できる森(可搬式緑化技術)の開発と普及』の取組で実行委員会特別賞(高橋俊宏委員選定の地域ブランディング賞)を受賞した群馬大学と東京都農新総合研究センターの関係者に「『もったいない2号』を使いませんか?」と声を掛け、すでに実証実験を行いました。この「移動できる森」の取組は、ベンチなどと組み合わせた可動式の植栽を、まずは2020年の東京オリンピック・パラリンピックで活用することを目指しています。順調にプロジェクトが進展すれば、東京五輪の会場周辺で、グッドライフアワード受賞取組のコラボによる、涼やかな空間が提供されるかもしれません。
「思いを言葉にして、まずは自分が行動することで、社会が変わっていくのです」という湯浅先生の思いは、しっかりとチームメンバーの生徒のみなさんにも伝わって、多彩な活動へと広がっているのです。
提携先にみんなで作った『もったいない2号』を送りました。
レポート!
『もったいない2号』をきっかけにして
多彩な環境保全に貢献
高校生にとってプレゼンテーションは自分たちの学習でもあります。
平成30(2018)年5月、徳島市内の「エコみらいとくしま」という施設で、チームの生徒による「緑のカーテン講習会」が実施されると聞き、取材に伺いました。
パッションフルーツのグリーンカーテンと、環境保全の大切さについて生徒がプレゼンテーションを行い、プランターによる栽培の講習会を実施。参加費は無料ですが、苗やプランター、そして『もったいない2号』もプレゼントされるとあって、会場は満席で大盛況でした。
たくさんのご家族が講習を楽しんでいました。
翌日は日曜日でしたが、ちょうど授業参観日で生徒も登校しているということで、阿南市の新野高校へ。ちょうど、「移動できる森」との実証実験のために使う『もったいない2号』を、生徒たちが手作業で袋に詰める様子などを取材することができました。
新野高校は、県立高校の再編統合によって阿南光高校に変わることが決まっています。
何人かの高校生に話しを聞くと、「木頭(きとう)で山桜を植えた活動が印象的だった」とか「ナミキソウの保全活動が楽しかった」など、さらに新たな「連携」による活動の話が挙がってきます。
木頭というのは徳島県の山間にある那賀町(なかちょう)の木頭地区のことです。ここでは年々減少する地域のシンボルである山桜を守るためのプロジェクトが実施されていて、山桜の植樹活動に「緑のリサイクルソーシャルエコプロジェクトチーム」も『もったいない2号』とともに参加しているのです。
また、「ナミキソウ」というのは海岸で可憐な紫色の花をつけるシソ科の植物ですが、徳島県では絶滅危惧種になっています。県内で唯一の自生地とされる美波町(みなみちょう)の志和岐(しわぎ)地区で、地域の方々とともに、ナミキソウ自生地に『もったいない2号』を散布するなどの保全活動に取り組んでいます。
木頭地区のみなさんと!
志和岐地区のみなさんと!
肥料、そして土壌改良材として優れた『もったいない2号』は、さまざまな植物に関わる環境保全活動に活用できます。チームの活動の幅がこんなに広がるのは、『もったいない2号』が、植物を育てる「土」を豊かにするからこそともいえるでしょう。
パッションフルーツの水耕栽培実験をしている学校の温室では、地球温暖化がイネの生育に及ぼす影響を調べる観察も行われていました。「緑のリサイクルソーシャルエコプロジェクトチーム」のメンバーは、もっともっと、「自分たちにできること」の模索を続けているのです。チームメンバーの高校生にとっても、『もったいない2号』を軸とした活動が、環境への意識を高める豊かな土壌になっていることを実感できる取材となりました。
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