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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価  4.  第4研究分科会<生態系保全と再生>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: 【S2-10】クマ類の個体数推定法の開発に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 米田 政明(財団法人 自然環境研究センター)

1.研究計画

研究のイメージ

クマ類の科学的・計画的保護管理のため、ヘア・トラップ法によるDNAマーカー個体識別を応用した研究に重点をおき、個体数推定法及びモニタリング手法の開発を目的として本研究を実施した。生息数推定精度向上及び費用対効果の観点から4つのサブテーマを設定した。
(1)ヘア・トラップ法による個体数推定法の確立に関する研究
モデル地域における大規模調査による、トラップ間隔、再捕獲率パラメータ等の入手による高精度個体数推定法の開発。
(2)個体数推定に関わる効果的なDNA分析法の確立に関する研究
ヘア・トラップ法における微量DNA試料に基づくDNA分析プロトコルの確立及びデータの精度管理と標準化を行うデータ解析環境の開発。

図 研究のイメージ        
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(3)補完法・代替法の開発に関する研究
カメラトラップ画像の個体識別精度向上及び生活痕跡密度調査等の個体数推定法への応用技術の開発。
(4)個体群モデルによるモニタリング手法及び生息数推定法の確立に関する研究
個体数推定式の改良及び個体群パラメータと捕獲数動向によるクマ類の個体群モデル構築技術の開発。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]

2.研究の実施結果

(1)ヘア・トラップ法による個体数推定法の確立に関する研究
内部対角線に有刺鉄線を設置するヘア・トラップを開発し、体毛採取効率を高めた。北上山地モデル調査地における平成22〜23年度大規模ヘア・トラップ調査により、約3,100試料(体毛)を採取し、DNA分析の試料及び個体群モデルによる生息数推定の基礎データとした。
(2)個体数推定に関わる効果的なDNA分析法の確立に関する研究
マイクロサテライト遺伝マーカーの検索から個体識別に有効な遺伝子を選定した。3つの遺伝子を組みあわせたmultiplex PCRと、性判別のためのアメロゲニン遺伝子解析を効率的に行う分析法を開発し、さらに精度管理のための手順を定めた。ヘア・トラップ調査で採取された試料を開発した方法で分析し、再捕獲を含む個体識別結果を個体群モデル班に提供した。
(3)補完法・代替法の開発に関する研究
ツキノワグマでは胸部斑紋が、普遍性、唯一性、簡便性などの観点から個体識別のためのすぐれた生体標識であることを確認した。胸部斑紋を効果的に撮影するカメラトラップ法を開発し、ヘア・トラップ法との比較から代替法としての有効性を確認した。
(4)個体群モデルによるモニタリング手法及び生息数推定法の確立に関する研究
空間情報を取り入れた生息密度推定法としてベイズ空間明示型標識再捕獲モデルを開発し、他の推定法に比べ高精度であることを確認した。北上山地における大規模ヘア・トラップ調査とDNA個体識別結果にこの開発したモデルを適用し、生息密度推定を行った。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-10
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S2-10.html

3.環境政策への貢献

本調査研究を通じて開発した手法が、都道府県におけるクマ類の今後の生息数調査に応用されるよう、調査・分析手法等を解説した下記の6種類の手引きを作成し、ウェブサイト(http://www.bear-project.org/)で公開し、統合版手引きを印刷・配布した。体毛DNA分析に関して、その詳細手法・解析環境提供のため上記ウェブサイト上に遺伝マーカー解説を含む共有プラットフォームを設置した。
(i)クマ類の個体数を調べる:ヘア・トラップ法とカメラトラップ法の手引き(統合版)
(ii)ヘア・トラップの設置・見回り・試料回収作業の手引き
(iii)ヘア・トラップ試料のDNA分析マニュアル
(iv)カメラトラップ調査マニュアル
(v)食跡DNA分析マニュアル
(vi)クマ生息地において安全な調査・作業を進めるために
都道府県鳥獣担当部署へのアンケート調査により、13府県が今後のクマ類の個体数調査にヘア・トラップ法を適用する計画があることを確認した。

4.委員の指摘及び提言概要

 クマ類の個体数を高精度で推定するためのヘアトラップ法(ヘアトラップの構造、密度、調査範囲の決定)、カメラトラップ法(カメラ密度、設置期間などの決定とツキノワグマの胸部斑紋の撮影)、DNA分析による個体識別法(ヘアトラップで採取された体毛からDNAを抽出し、マイクロサテライト遺伝マーカーによる個体識別)など個体識別法を全て組み合わせて調査法を設計した点が優れている。また、実地調査法と解析手法等を解説したマニュアルが作成された点も評価できる。しかし、本来の目的である個体数推定法にはまだ不確定性が残されており、精度向上に著しく寄与したとまでは言えない。今後は今回得られた手法を利用した長期個体数変動を追求することにより、個体数変動の要因解明につなげていって貰いたい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【D-0901】熱帯林の減少に伴う森林劣化の評価手法の確立と多様性維持(H21〜H23)
研究代表者氏名: 原田 光(愛媛大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究はボルネオ島を中心に、東南アジア全域の森林を対象として遺伝子をベースにして遺伝的劣化と生態的劣化の両方の視点から森林の劣化機構を究明する。このため森林の修復保全に有効な方策を以下の(1)から(7)までの7つのサブテーマに分けて探求する。
(1)生態系劣化評価1−繁殖構造による脆弱性の解析
フタバガキの送粉者は種特異的に決まっており、送粉者と樹木密度の組み合わせによって森林攪乱によって影響を受けやすい種とそうでない種があると考えられる。マレーシア・ランビル国立公園の天然林および周辺残存林において樹木集団の遺伝子解析を行い、これと森林動態データを組み合わせることにより、森林劣化を引き起こす遺伝的要因を抽出する。
(2)生態系劣化評価2−土壌微生物を指標とした評価手法の確立
土壌環境が健全である時、そこの森林も健全であり、その逆も成立するという作業仮説に基づいて、様々なタイプの熱帯林土壌微生物のメタジェノミックス解析を行い、劣化評価の指標となり得る微生物種と頻度閾値を明らかにする。
(3)遺伝的劣化評価1−地域集団の解析と多様性保全を目指した造林
1)ボルネオ島を中心としてフタバガキ科Dryobalanops属およびShorea属について集団の遺伝的変異を核遺伝子、葉緑体DNAおよびマイクロサテライトマーカーを用いて調べる。これにより集団の遺伝的多様性および遺伝的構造を明らかにし、近交係数による集団の健全度を評価する。これに基づいて遺伝資源保全のための地域区分を決定する。

図 研究のイメージ        
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2)インドネシアジャワ島における古いチークおよびマホガニー人工林において遺伝的多様性が森林の階層ごとにどの様に異なるかを調べる。
(4)遺伝的劣化評価2−種および地域識別遺伝子マーカー開発と広域集団の解析
東南アジア熱帯林の優占樹種で生態的にも林業的にも重要であるフタバガキ科全体を対象として、DNAレベルでの大規模な種及び地域識別マーカーの開発を行う。ボルネオ島を中心としてESTマーカーを用いて広域集団の遺伝的解析を行い、地域特異的な変異を探索する。
(5)遺伝的劣化評価3−希少種および絶滅危惧種の解析(フタバガキの遺伝的変異)
ボルネオ島およびマレー半島のフタバガキ科稀少種およびベトナムのマツ属稀少種について普通種と比較した遺伝的変異を調べる。
(6)遺伝的劣化評価3−希少種および絶滅危惧種の解析(マングローブの遺伝的変異)
南シナ海海域、及びインド洋海域におけるマングローブの遺伝的変異および遺伝構造を葉緑体DNAおよび核遺伝子を用いて明らかにする。
(7)遺伝的劣化評価3−希少種および絶滅危惧種の解析(マダガスカル方式による多様性保全を目指した造林)
これまでマダガスカルで行ってきた希少種および固有種の保全のための住民主体の植林活動をマダガスカル方式として位置づけ、他地域の希少種や固有種の復元保全にも適用しうる手法として改善、普及、定着を行う。

■ D-0901  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/e-091.pdfPDF [PDF 360 KB]
※「 E-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)フタバガキ科10種についてランビル国立公園52ha調査区内およびバカム残存林で局所的空間構造についてマイクロサテライトマーカーを用いた解析を行った。その結果、局所的空間遺伝構造は種子散布距離、送粉者、及び、成木の空間配置と関係していることが明らかになった。これにより森林撹乱によって影響を受けやすい種を特定することが出来た。
(2)ボルネオ島、ジャワ島およびマレー半島各地の合計35調査森林からの土壌採集とDNA抽出を行った。これについて次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析を行った。これにより細菌の組成については森林植生や劣化状態にかかわらず高次分類階級での優先分類群が共通であることが示されたが、菌類組成は森林間で分類群の頻度に細菌よりも著しく大きな不均一性が検出され、菌類は細菌よりも森林環境に大きく影響されることがわかった。
(3)1)Dryobalanops属7種についてマレーシア・サバ、サラワク州を中心に37集団、436個体分の葉を採集した。これについて葉緑体ハプロタイプに基づく種の系統関係を明らかにすると共に、集団毎の変異量の違いを明らかにした。同様な研究をShoreaPachicarpae節7種についても行った。一方、広域種であるShorea curtisiiについてマレー半島13集団、サラワク州2集団についてマイクロサテライトを用いた集団遺伝学的解析を行い、集団の増加減少傾向に関する新しい知見を得た。2)中部ジャワにおいて43年生チークおよびマホガニー人工林の階層構造を調べ、階層ごとの遺伝的多様性をマイクロサテライトマーカーを用いて調べた。
(4)Shorea属の84種、200個体について葉緑体DNA4領域の塩基配列を解読した。一方S.leprosulaについてマレーシア及びインドネシアの広域にわたる遺伝的変異を調査した。これにより種及び産地識別に可能な遺伝子領域を明らかにし、これをマーカー化した。
(5)Shorea balangeran(希少種)と S.leprosula(普遍種)、Pinus krempfii(希少種)と P. yunnanensis(普遍種)の遺伝的変異を比較検討した。S. balangeranS.leprosulaについてcDNAライブラリを構築し、ESTマーカーについて次世代シーケンサーを用いた解析を行った。
(6)オヒルギ(Bruguiera gymnorrhiza)についてマダガスカルからオーストラリア南東部に至る10地点からサンプルを採集し,葉緑体および核遺伝子の遺伝的変異を調べた。その結果、集団毎の遺伝的変異は葉緑体、核遺伝子ともに非常に小さいが,集団全体の変異は温帯林の陸上樹木と同等かそれ以上であり、大きな集団間の遺伝的分化が起こっていることを明らかにした。
(7)マダガスカルの固有樹種の挿し木による造林手法を改善すると共に、シードボール発芽法の導入試験を行った。また森林復元活動の一環として導入した木彫りの経済効果と森林に対する負荷を製炭によるそれを比較検討した。木彫りへの生業転換により経済状態が顕著に改善した例が見られた。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0901
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0901.html

3.環境政策への貢献

本研究により東南アジアの遺伝的多様性のあり方が明らかになるとともに、生態系の多様性と遺伝的多様性の間には密接な関係があることが示された。本研究の成果は今後の熱帯林の保全に向けた政策立案の資料として活用が期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

フタバガキ科樹種に関する遺伝的解析が精力的に実施され、遺伝的多様性に関しても新たな知見が得られている。また、既存の長期観察プロットを上手く利用して成果を導いた研究手法は十分に評価できるので、今後は広域かつ生態学レベルでの解析を進めて貰いたい。一方、熱帯林の破壊がもたらす森林劣化の評価手法については一定程度まで確立できたものの、遺伝的構造(多様性)の違いと個体数減少や絶滅などとの関連実態を明確にできなかったことが残念である。また、サブテーマごとには新規性の高い成果が得られているものの、サブテーマ間の連携が十分でなかったため、統一の取れた総合的成果にまで至らなかったことも残念である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b
  サブテーマ(5):b
  サブテーマ(6):b
  サブテーマ(7):b


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研究課題名: 【D-0902】地域住民による生態資源の持続的利用を通じた湿地林保全手法に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 藤間 剛(独立行政法人 森林総合研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

 熱帯林が減少し続ける中でも、なお住民林業(地域住民の持続的な森林資源利用)を通じて保全・修復されているマングローブ林や河畔湿地林など、身近な湿地林が東南アジアでは散見される。このような住民林業による湿地林の保全策の拡大促進のため、資源面での森林機能、持続的利用のために森を維持する知恵の構造、保全のための許容できる利用量とその限界を明らかにし、湿地林管理策としての住民林業導入の促進に必要な情報を提示する。さらに住民参加森林管理の先行事例分析により想定される問題点と解決策を明らかにし、住民による持続的利用を通じた湿地林管理・保全を政策として安定させるために必要な条件を提示する。

図 研究のイメージ        
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■ D-0902  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/e-092.pdfPDF [PDF 1278 KB]
※「 E-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

 タイを中心に、東南アジアにおけるマングローブや河畔湿地林など地域住民にとって身近な湿地林において、森林の広がりと漁業生産を含めた機能定量化と住民による利用と保全実態の解明によって、湿地林の持続的利用を通じた保全手法を明らかにし、政策化にとっての問題と解決策を提案した。
(1)身近な湿地林における生態資源の過去50年間の変遷
 タイの湿地林を主対象にして、過去50年間の面積変化と分布パターンから減少要因を把握した。湿地林が生み出す生態資源の質と生産力、水界への栄養供給能力を求め、地域における50年間の資源実態の移り変わりを明らかにするとともに、住民が利用可能な資源量を示した。
(2)湿地林が支える漁業資源と住民による利用実態の解明
 タイの湿地を中心に、湿地林が支える漁業資源の生産力と質および住民により利用される資源の季節性や林との関係、住民による漁業資源保全などの実態を明らかにし、地域における資源量と住民が持続的に利用可能な量を示した。
(3)住民による湿地林生態資源利用と管理・保全実態の解明
 社会経済条件が変化する中での、地域住民による湿地林からの生態資源利用の実態を把握した。さらに住民自身が資源の持続的利用のため森林を管理・保全し修復する事例から、湿地林が与えるインセンティブと住民の持つ資源維持の知恵を明らかにし、普遍性を持たせた提示をした。
(4)住民による森林の持続的利用・保全の適正支援政策の必要条件解明
 様々な条件下での住民参加型森林管理の先行事例を分析して問題点を探り、解決策を提案した。地域住民による持続的生態資源利用を通じた湿地林の管理・保全策の立案・実施において森林行政機関が果たすべき役割を明らかにした。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0902
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0902.html

3.環境政策への貢献

 東北タイの河畔湿地林の面積変化、林分構造と成長速度、生物多様性と住民による森林資源利用実態が把握できたことで、持続的資源利用方策の立案についての科学的根拠が得られた。マングローブの生態系機能を利用した養殖システムは、国連食料農業機関(FAO)のガイドラインとして紹介されるなど、環境保全型の持続的な生態資源管理に貢献した。ウェル湿地帯では、海洋沿岸資源局、地方行政担当者(県・郡・地区・村)、住民らの協力によってマングローブ林の再生・保全を進め、エコツーリズムの振興をはかっている。2009年12月にインドネシア・ミャンマー・バングラデシュのマングローブ研究者を招いてタイ国ラノンで開催した国際ワークショップに引き続いて、同国チャンタブリ県ウェル湿地で県知事の参加を得て現地意見交換会を開催し、地元一体型マングローブ保全のモデルをアジアの各国に広めて行くこととした。
 さらに2010年12月にマイメンシン(バングラデシュ)、2011年12月にバンコク(タイ)、において国際ワークショップを開催し、東南アジア各国の研究者や行政担当者らと本プロジェクトの成果について幅広い意見交換を行った。
 熱帯湿地林の資源利用に関する知見は少なく、湿地林の資源利用に関する定量的評価は、生物多様性保全や地球温暖化対策など様々な政策に貢献できる。特に地域住民による森林管理を支援する政策立案に関する知見と、地域研究情報の活用やフィールドワーク経験者の実務への登用という提言は、地域住民の権利に配慮するというREDDプラスのセーフガード対応に有益な示唆を与えるものである

4.委員の指摘及び提言概要

 タイのマングローブ林と河畔湿地林の変遷を林分生産性、生物多様性および住民による資源利用実態の観点から過去50年間にわたり調べ、地域住民が現在まで湿地林資源を持続的に利用してこられた理由を資源政策的レベルから明らかにできたこと、湿地林における漁業資源の潜在生産力と住民による適正利用量を提示できたことは、将来のタイ国における湿地林の保全政策にとって重要な参考資料となり得る。しかし、当課題で示された教訓が日本を含めた他の東南アジア諸国での湿地林保全に直接適用できるか否かについては明確さを欠く点もあり、タイ国以外の地域にも適用可能で一層汎用性の高いものとなるよう今後も努めて貰いたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
nbsp; サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):b


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研究課題名: 【D-0903】絶滅危惧植物の全個体ジェノタイピングに基づく生物多様性保全に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 井鷺 裕司(京都大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 多様な絶滅危惧植物種を対象に、全個体をジェノタイピング(遺伝子型を読み取ること)するという、これまで行われてこなかった手法に基づいて、絶滅危惧種の遺伝子型の包括的モニタリングを行うと共に、数理解析も加え、新たな生物多様性保全策の構築をめざす。
(1)定常的な人為インパクト下にある絶滅危惧植物保全に関する研究
 定常的な人為インパクトで成立している生態系に生育する絶滅危惧植物のうち、個体数が数百個体以下の10種を選定し、全個体ジェノタイピングを行う。絶滅危惧種が保持している遺伝的多様性、遺伝構造、ジーンフロー、集団の遺伝的分化、交配様式と近交弱勢の有無等、適切な保全に必要な遺伝解析を行う。
(2)地史的環境変動と近年の温暖化リスク下にある高山における絶滅危惧植物保全に関する研究
 高山に生育する絶滅危惧植物のうち、個体数が数百個体以下のもの5種を選定し、解析を行う。研究手法はサブテーマ1に準じる。
(3)絶滅危惧シダ植物保全に関する研究
 被子植物とは異なった生活史を持つシダ植物の絶滅危惧植物のうち、個体数が数百個体以下のもの5種を選定し、解析を行う。研究手法はサブテーマ(1)に準じる。

図 研究のイメージ        
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(4)全個体ジェノタイピングおよび位置情報に基づく絶滅危惧植物個体群の持続可能性評価に関する研究
 サブテーマ(1)〜(3)より得られた個体レベルの位置情報、繁殖状態、遺伝子型情報をもとに、空間構造を取り入れた数理モデルを構築し、絶滅危惧植物メタ個体群の持続可能性や脆弱性について総合解析を行う。また、種間あるいは個体群間の比較により、絶滅リスクを高める生物学的要因を明らかにし、生物多様性維持のために必要な管理指針を得る。

■ D-0903  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/f-091.pdfPDF [PDF 1033 KB]
※「 F-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)定常的な人為インパクト下にある絶滅危惧植物保全に関する研究
予定を超える11種(スズカケソウ、トキワマンサク、ヤチシャジン、センリゴマ、シモツケコウホネ、ヒメコウホネ、ガシャモク、ハリママムシグサ、タデスミレ、ウスユキクチナシグサ、キバナスゲユリ)の絶滅危惧種について、種に保持されている遺伝的多様性、遺伝構造、ジーンフロー、集団の遺伝的分化、交配様式と近交弱勢の有無等、絶滅危惧種の適切な保全に必要な遺伝解析を行った。
(2)地史的環境変動と近年の温暖化リスク下にある高山における絶滅危惧植物保全に関する研究
 予定を超える6種(ゴヨウザンヨウラク、ヤクシマリンドウ、ヒダカソウ、キリギシソウ、キタダケソウ、キバナアツモリソウ)の絶滅危惧種の高山植物についてサブテーマ(1)と同様の成果が得られた。
(3)絶滅危惧シダ植物保全に関する研究
 予定通り5種(シビカナワラビ、フクレギシダ、アオグキイヌワラビ、タイワンアリサンイヌワラビ、キュウシュウイノデ)の絶滅危惧シダ植物についてサブテーマ(1)と同様の成果が得られた。
(4)全個体ジェノタイピングおよび位置情報に基づく絶滅危惧植物個体群の持続可能性評価に関する研究
位置情報、繁殖状態、遺伝子型情報をもとに、予定通り空間構造を取り入れた数理モデルを構築した。絶滅危惧植物の持続可能性や絶滅リスクを高める生物学的要因を明らかにし、生物保全のための管理指針を得た。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0903
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0903.html

3.環境政策への貢献

今回得られた成果は、全個体ジェノタイピングという世界的に例のない方法に基づく生物多様性保全という点で、環境政策にもモデルケースを提供しうるものである。
 例えば、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」によって保全対象とされている保全価値の高い分類群等については、これまでにない精度で、絶滅危惧種が置かれている状況を的確に評価でき、また、全個体に付与された遺伝的タグに基づく継続的なモニタリングから、合理的な保全策を講じることが可能になる。また、「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」に基づく環境省生息域外保全モデル事業においても、域外保全する個体の選定や、域外保全効果の評価などを、本プロジェクトのアプローチによって合理的に行うことができる。盗掘被害を受けやすい絶滅危惧植物については、全個体についてジェノタイピングされていることや、違法な採取によって市場に流通している個体の由来を特定できること等を広く周知することによって、盗掘防止への強い圧力になることが期待できる。
 全個体ジェノタイピングに基づくこれらの対策を総合的に実施することにより、絶滅危惧植物について正確に現状を評価し、効果的かつ合理的な保全策が構築できると考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

サブテーマ(1)〜(3)がそれぞれ異なる対象に対してジェノタイピングを行うという科学的に確実かつ実効性のある手法を用いて多くの成果を挙げている。こうした成果は絶滅危惧種の盗掘防止に対する抑止力として活用され得るものであり、簡便で使い勝手の良い利用手引書の作成等に今後も努めて貰いたい。逆に、サブテーマ(4)の数理モデルに関連して、その妥当性と適用可能性についての検証が当初の予想通りに進まなかったことが悔やまれるので、今後はこの面からの補強をしていって貰いたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):b


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研究課題名: 【D-0904】気候変動に対する森林帯−高山帯エコトーンの多様性消失の実態とメカニズムの解明(H21〜H23)
研究代表者氏名: 工藤 岳(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 気候変動に伴う山岳域の環境変動が、植物の生理機能を変化させ、急速な植生変化と生物多様性の消失を引き起こしている可能性を検証し、そのメカニズム解明を目的とする。本研究は、以下の4つのサブテーマから成る。
(1)山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究
主要山岳地域で進行している植生変化を、衛星データや航空写真情報に基づくリモートセンシングと地理情報システムにより定量化し、その変化パタンを明らかにし、変化を引き起こしている環境要因を広域的に抽出し、植生変化の現状と立地環境情報を重ね合わせた、リスクマップの作成を行う。
(2)山岳生態系の植物群集構造解析と環境変動への応答メカニズムの解明
森林帯から高山帯までのエコトーン(移行帯)の構造を明らかにし、生物多様性の現れ方を森林タイプと関連づけて理解する構造解析と、環境変動に対する植物の生理的応答と個体群動態を明らかにする機能解析に焦点を絞り、気候変動に対する生物多様性維持メカニズムの解明と脆弱性評価を行う。
(3)山岳生態系の物質循環過程解析と環境変動への応答メカニズムの解明
高層湿原のレフュージア(避難地)としての多様性維持機能に着目し、気候変動に対する亜高山帯林-高層湿原連続体の多様性維持機構を物質循環に着目し解明する。亜高山帯林が衰退しつつある場所における生産性や炭素・栄養塩循環過程を調べ、健全な場所との差異を引き起こしている要因を明らかにする。

図 研究のイメージ        
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(4)高山植物群集の遺伝的多様性維持メカニズムに関する研究
高山植物群集の遺伝的多様性に着目し、群集構成種の遺伝的多様性の地理的変異を明らかにする構造解析と、生物間相互作用を介した遺伝的多様性維持メカニズムを解明する機能解析の両面から、群集構造の変化が構成種内の遺伝的多様性に及ぼす影響を検討する。

■ D-0904  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/f-092.pdfPDF [PDF 327 KB]
※「 F-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究
大雪山系をモデル地区として航空写真の年代比較により植生判別を行い、チシマザサやハイマツが過去30年間に拡大傾向にあることを定量化した。さらに、植生変化の方向性と立地環境との対応を解析する方法を開発した。また、衛星データを用いて広域土壌水分量の季節変化を定量化する手法の開発に成功した。解析の結果、土壌乾燥化とササの拡大との明瞭な関連性が明らかとなった。将来のササ拡大範囲を示した予測マップを作成した。
(2)山岳生態系の植物群集構造解析と環境変動への応答メカニズムの解明
日本の山岳生態系に特有なエコトーンに沿った種多様性構造を明らかにした。高山帯で種多様性が大きく低下するが、高山植生は固有性の高い種から構成されていることを見いだした。また、土壌乾燥化はチシマザサの拡大と湿生お花畑の衰退の主要因であることを解明した。ササの拡大により種多様性が大きく低下するが、地上部刈取りにより植生回復が比較的短期間で進行することが示された。さらに、上部森林帯では、温暖化に伴う乾燥化が樹木成長を低下させる場合があり、温暖化により森林帯の上昇が起こらない場合もあることが示唆された。気候変動に対する樹木の生長と生理ストレスを評価する手法の開発に成功した。
(3)山岳生態系の物質循環過程解析と環境変動への応答メカニズムの解明
航空写真解析によりオオシラビソ個体群動態を解析する手法を開発し、森林帯の上昇が起きていることを見いだした。エコトーンに沿った物質循環、生産、分解速度を長期モニタリングするシステムを構築した。さらに、高層湿原のレフージアとしての生態機能を解明し、種多様性変化を予測するシミュレーションモデルの開発を行った。
(4)高山植物群集の遺伝的多様性維持メカニズムに関する研究
中部山岳地域の高山植物の遺伝的多様性が山域ごとに分断化しており、遺伝的に脆弱な状態にあることを明らかにした。また、標高傾度に沿って個体群間で遺伝的な分化が生じている植物が見いだされ、その要因として生物間相互作用の重要性が示唆された。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0904.html

3.環境政策への貢献

 原生山岳生態系においても急速な植生変化が生じており、気候変動の自然生態系への影響が確実に起きていることを実証できた。リモートセンシングやGIS技術を活用した広域植生変動や土壌環境の評価手法は、山岳域での環境リスクマップを作成する上で大変有効である。また、具体的な植生管理手法として、ササの刈取りの有効性が示された。高層湿原の生態機能のような景観スケールを考慮した多様性影響予測モデルは、保護地域の設定に有効である。さらに、標高傾度に沿った個体群間の遺伝的分化の存在は、保全すべき対象は種だけでなく、地域個体群であることを示す生物学的根拠を提示するものである。本研究の一連の成果を統合することにより、分野横断的な生態系影響評価手法を提示できる。そのプロトコルを現在作成中である。

4.委員の指摘及び提言概要

森林帯から高山帯までのエコトーンに関する多様性消失のメカニズムを解明するには至らなかったものの、空中写真によるササ分布域の変動解析、蒸発散と土壌水の動態解析、植生回復に必要な要因解析、ササ刈り取り処理後の影響解析などを通じて、気候変動が種多様性や遺伝的多様性に与える影響を総合的に扱っており、多くの成果を生み出した。過去の変動実態をベースに開発したモデルを用いてオオシラビソ生息帯の将来変動予測を行うなど、将来に向けた山岳生態系の問題点をかなり明確に提示できたことも優れた成果と言える。しかし、物質循環の課題において土壌レベルから詰めの甘い部分があり、今後は土壌学の専門家を組み込んだ上で研究を進めて貰いたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【D-0905】アオコの分布拡大に関する生態・分子系統地理学的研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 中野 伸一(京都大学)

1.研究計画

研究のイメージ

アオコは、風気流、鳥類などに運ばれて国内外の湖沼に分布を拡大しており、各湖沼には由来の異なる遺伝的に多様なアオコ群集が存在し、その一部に有害性の高いタイプが含まれると考えられる。湖沼の水質は周辺の人間活動に強く影響されるため、アオコ群集の中でどのタイプが優勢となるかは、周辺の人間活動をも含めた湖沼環境総体により決定されていると考えられる。本研究では、最先端のバイオテクノロジーと大型環境解析システムを駆使し、これまで国や民間団体が蓄積してきた環境データベースを活用しながら、「当該湖沼にどのようなアオコがどのように運ばれてくるか」、「湖沼に新たに入ったアオコは生き残れるのか」、「生き残ったアオコ群集はどう多様なのか」、「多様なアオコ群集の中から特定の機能を持ったアオコ(たとえば有毒種)が増殖するのはどういった理由によるものか」について、明らかにする。また、湖沼周辺の人間活動として土地利用形態の変遷や周辺住民の生活文化特性の調査も行い、アオコ群集組成との対応があるか検討する。

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■ D-0905  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/f-093.pdfPDF [PDF 323 KB]
※「 F-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

サブテーマ(1)、(2)、(3)全てにおいて、3年間の研究期間でほぼ予定通りに研究計画を進めた。
(1)移入アオコ群集の生存と増殖に関する生態学的研究
アオコの早期予報、アナトキシン生産アオコの特異的検出、アオコを摂食する原生動物については、論文が国際学術誌にすでに発表済みあるいは受理された状態である。野外実験においては、平成23年度のサンプルが一部未分析のまま平成24年度に持ち越されたが、現在はそれらすべて分析が終わっている。現在は、この分析結果、西日本湖沼におけるアオコの交流・伝播、アオコに関連する微生物の生態について、国際学術誌に論文を投稿中である。
(2)遺伝的多様性を指標としたアオコの分布拡散機構に関する研究
予定していた日本国内、東南アジア諸国、オーストラリアのアオコ遺伝子型の解析が終了しており、論文もすでに発表済みである。研究途中から新たにサンプルとして加えることになったケニア・ビクトリア湖のアオコについては、すでにクローン株を確立しており、現在は遺伝子解析を進めている。
(3)アオコの生残・増殖に関する分子生態学的研究
予定していた大型室内実験系での実験とサンプル処理が終わり、データの一部はすでに国際学術誌に論文を投稿している。アオコの各遺伝子型の増殖に対する栄養塩類量および供給バランスの影響については、現在、投稿論文準備中である

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0905
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0905.html

3.環境政策への貢献

本研究で提案しているアオコ監視システムを体系的に運用できれば、アオコのリスクをより経済的に効率的に確度高く回避可能であろう。すなわち、水鳥渡来情報(日本野鳥の会やバードウォッチャーからの情報を利用)、人間による水資源利用の情報(各自治体管理情報や水利用組合管理の情報を利用)、各水域への窒素負荷状況の情報(各自治体管理情報)を合わせれば、アオコが発生しそうな水域を特定できる。さらに、それら水域について、顕微鏡観察や本研究で開発された遺伝子プローブを用いたアオコDNAの検出によりアオコの「種(タネ)」の存否を確認し、存在が確認されれば、定期的に本研究で開発されたDCMU蛍光法を用いてアオコの生理状態を調べる。ここまでの作業は、大学に限らず、日本各地や諸外国の試験研究機関の多くで実施が可能である。さらに、DCMU蛍光法を行いながら、アオコ遺伝子型ごとの検出や、ミクロキスティンあるいはアナトキシンaの生産遺伝子の定量PCRマーカーの利用やMLST法による有毒個体の特定により、有害ラン藻類の検出も同時に行えば、有毒アオコの発生を早期予報できる。DCMU蛍光法は、国土交通省の財団法人・ダム水源地環境整備センター(WEC)に注目され、研究代表者がWECの訪問を受けている。
本研究が明らかにした国内外におけるアオコの各遺伝子型の内、霞ヶ浦水系に特有のグループGや、宍道湖などの汽水湖に特有のグループSjは、それぞれ独特の生態学的特性を有している。これらの生態学的特性がより明らかになれば、それぞれの遺伝子型に応じた防除策が可能である。これにより、他の生物への影響を極力少ない、環境にやさしいアオコ防除策が実現するかもしれない。
環境問題は、ある日突然起こるように思われがちであるが、本研究の成果により、少なくともアオコ問題については、より早い段階での対策やリスク回避が可能となった。このことは、環境政策上大きな貢献と言える。

4.委員の指摘及び提言概要

 アオコに関する基礎生物学的な情報の提供、有害アオコ種からのリスク回避に向けた体系的アオコ監視システムの提案など数々の成果が得られ、学術論文として着実に公表されている点を評価したい。今後は、遺伝的多様性と毒性も含む生態的特性との関連性を明らかにすると共に、アオコ発生の早期予測の手法開発などアオコ対策の政策立案に直接生かせる研究内容で進めていって貰いたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a


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研究課題名: 【D-0906】水田地帯の生物多様性再生に向けた自然資本・社会資本の評価と再生シナリオの提案(H21〜H23)
研究代表者氏名: 夏原 由博(名古屋大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究全体の目的は、水田地帯の生物多様性を回復させるために必要な判断材料を提供することである。そのため、ランドスケープの視点から水田地帯のポテンシャルを評価し、それに応じて生態系のつながりを回復し生物多様性を再生するための実験的手法の導入、再生手法を適用するための社会システムの検討、経済的なフィージビリティーの検討を行う。
(1)土地利用・社会変化および生物多様性ポテンシャルに基づく水田地域の類型化手法の構築
 水田地域を土地利用・社会変化および生物多様性ポテンシャルに基づいて類型化し、優先して保全・再生すべき地域を見いだすための手法を開発し、個々の地域において生物多様性を保全していくための戦略的方針の策定方法を検討する。
(2) 小型生物を重視した水田における種多様性の再検討
 水田生態系の基盤とも言える微細藻類と小型甲殻類について、琵琶湖集水域の水田に生息する種のリストを作成し、地理的条件、地質、灌漑水、耕作方法などの違いなどによって群集構造がどのように異なるかを明らかにする。
(3) 水田生物群集のギルド構造に関する研究
 水田生物群集のギルド構造(同じ資源を利用する生物の集まり)のモデルを開発し、実際のデータに基づいてモデルを検証、改良することで、水田の生物群集を構造的にとらえ、生物多様性保全型とされる諸農法が、生物群集構造に及ぼす影響を明らかにする。

図 研究のイメージ        
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(4) 水田地帯の生物多様性を回復するための生態系ネットワーク形成と自然再生実証実験
 氾濫原としての水田地帯に生息する代表的な魚類・両生類と植物の代表種について、生物多様性保全のために必要な生息・利用場所を明らかにする。さらに産卵場所と湿地性植物の再生手法や水管理、灌漑排水路のあり方を研究し、農業と在来動植物の共存を図る手法を開発する。
(5) 水田地帯の生物多様性保全を効果的に進めるための経済的条件に関する研究
 生物多様性を保全する農法の経済的成立条件やそうした農法によって生産される農産物の需要条件の解明を通じて、生物多様性の保全への取り組みを有効に進めるための制度設計に資する政策的条件を導き出す。
(6) 水田地帯の生物多様性保全を効果的に進めるための社会的条件に関する研究
 集落レベルで生物多様性の保全への取り組みを有効に進めるために必要な社会的合意形成のしくみについて明らかにし、集落の意思決定に大きな影響力をもつ、農家・市民・行政との連携のあり方についても、併せて検討する。

■ D-0906  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/f-094.pdfPDF [PDF 409 KB]
※「 F-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)水生・湿性の絶滅危惧植物を指標とする22集群のポテンシャル解析により、9つの景観要因(年平均気温、年平均降水量、最深積雪深、SPI、TWI、河口からの距離、窪地面積率、標高、傾斜角)によって広域分布推定できることがわかった。そのうち、特に水田卓越地域に潜在的分布域を持つ、オニバス、ミズアオイ、アサザ、オオアブノメなどについて流域及びサイトスケールで分布解析したところ、洪水時の浸水深といった水文特性の違いによる生育地分化が確認された。この結果をもとに、保全・再生適地の探索手法を提案した。
(2)滋賀県内の水田から、珪藻250種以上、イタチムシ43種、環形動物40種、微小甲殻類50種などが確認された。この中には新種(記載中のものを含む)が少なくとも7種含まれ、他にも水田から報告されたことがない種が多く含まれていた。珪藻の分布には除草剤の使用が、カイエビの分布には冬期の土壌含水率が、それぞれ影響を及ぼしていた。水田にフナ仔魚を放流すると、対照水田に比べてミジンコ類が激減し、その餌サイズに該当する微小生物がのきなみ増加する「トップダウン栄養カスケード」が観測された。
(3)滋賀県の水田における水生昆虫群集の地域性を生み出す要因として、①水生昆虫の分布域の違い、②水田周辺の景観的な土地被覆の違い、の2つが考えられた。スクミリンゴガイが湖東地域を中心に分布拡大しており、水田雑草への影響が認められた。ヒメゲンゴロウとヒメガムシのLC50の値には、約100倍の差異が認められた。フタバカゲロウ属sp.のδ15Nは水田間で同等の値であったが、δ13Cは水田間で大きく異なった。このことより、植食性種でも、水田により利用する餌資源が異なる可能性が考えられた。
(4)琵琶湖集水域で水田を利用する動植物の分布調査を行い、地理的条件との関係から、自然再生が可能かつ重要な地域を抽出した。生物多様性上重要な地域において、魚道等による水路と水田のつながりの再生実験、草刈り等による草地環境の保全に必要な条件を解明した。また巨椋池干拓地等において、休耕田に湛水を行い、現地で希少種再生可能性を検討した。丘陵地の水田に隣接して常時湛水の池を造成した結果,大型水生動物の落水期の生息場所となる可能性が示された。また、連続した生息場所ごとの個体群存続可能性分析を行い、50年間絶滅リスクを得た。
(5)第一に、生物多様性保全に配慮した農業の展開には、集落における社会関係資本の醸成、生物多様性に配慮して生産された農産物の高付加価値化やブランド形成による価格プレミアムの確保が、水田地帯における生物多様性の再生・保全の取組に重要な役割を果たすことを明らかにした。
 第二に、消費者・農家間のネットワークの形成をはじめとする社会関係資本の醸成が、生物多様性に配慮した農業によって生産される農産物の需要拡大に寄与することを明らかにした。また、生物多様性保全に配慮した農業の取組内容の周知や、そうした農業が有する生物多様性保全機能に対する肯定的評価を獲得するための情報周知が、当該農産物の需要拡大に寄与を通じて、当該農業への支持に結びつきうることも明らかにした。
(6)生物多様性保全に係わる活動が開始されるプロセスについての事例研究を行い、集落に内包されている参加要件を抽出した。その中でもキーと思われる環境アイコン生物については、他班の研究成果や環境社会学における研究史も加味し、その特徴と役割を検討した。その成立要件は以下のように解明した。
①コミュニティにおけるかなり多数の住民が体験的にその生物の行動生態を知っており、その保全に関心を持った場合、住民たちが自らの課題解決と結びつけながら環境改善に着手することが可能なこと。②当該地域における生態系のキーストーン種となりうることが生態学的に見てある程度の確度で実証されているか科学的に推論可能なこと。③その生物の生息・生育環境の改善活動に地方自治体、政府の政策的バックアップが見込めること。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0906
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0906.html

3.環境政策への貢献

 本テーマのメンバーが、環境省の全国里地里山保全活用行動計画(仮称)の策定の議論に一貫して参画し、水田の生物多様性の保全再生の観点からの環境スチュワードシップの検討の必要性や、各地域における典型的な里地里山の選定にあたっては本推進費研究対象地の情報を提供するなどの貢献を行なった。また、農林水産省の環境配慮施設の効果的な配置手法検討委員会に委員として参画し、本研究成果である空間的階層概念に基づく保全適地の絞り込みに関する考え方が取り入れている。
 徳島県生物多様性地域戦略(仮称)においては、本地図が検討材料として取り上げられている。滋賀県の豊かな生きものを育む水田づくり専門委員会ならびに魚のゆりかご水田推進協議会において、本研究の調査結果の一部が活用されるとともに、「豊かな生きものを育む水田づくり」手引書の作成に貢献した。また、滋賀県近江八幡市環境審議会ならびに環境基本計画策定部会において、本研究で得られた知見の一部が情報提供された。日本生態学会第59回大会でシンポジウムを開催し、嘉田由紀子滋賀県知事に基調講演を依頼して、今後の水田地帯の環境保全と研究との関係を参加者とともに議論した。
 2012年7月にラムサール COP 11 での討議資料として用いられる“Rice paddy as wetland system booklet for Ramsar COP 11” の編集に参画し、ラムサール条約(および生物多様性条約)における水田の位置づけをより重要なものにすることに貢献した。OECDの農業シンポジウムにおいて招待講演し、水田の多面的機能について解説し、日本の稲作への国際理解に貢献した。

4.委員の指摘及び提言概要

水田地帯における生物多様性の再生に関するサブテーマをはじめ、各サブテーマとも個別研究としての成果には見るべきものがある。しかし、サブテーマ個々の全体テーマ中における位置付の確認や方法論の調整が不十分であったため、成果の全体が統合化されなかったことが残念であった。こうしたことから、本課題の主目的であった自然資本・社会資本の再生シナリオや支援策の総括的提案は中途半端であり不十分なものとなってしまったと考えられる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):b
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b
  サブテーマ(5):b
  サブテーマ(6):c


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研究課題名: 【D-0907】渡り鳥による希少鳥類に対する新興感染症リスク評価に関する研究
(H21〜H23)
研究代表者氏名: 桑名 貴(近畿大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究で開発する超小型GPS位置測定システムを用いて、ウエストナイル熱ウイルス(WNV)に対する抗体を持つ当年生まれの渡り鳥が極東ロシアのどの地域を帰巣地とするかをカモ類、シギ・チドリ類他で調査することによって、極東ロシア地域の中でWNVの常在汚染地点を特定する。また、WNVを媒介する吸血昆虫の極東ロシアでの発生時期と繁殖期が一致し、日本への飛来時期が日本の吸血昆虫発生時期とが一致しているシギ・チドリ類でのWNV感染状況を調査する。加えて、我が国に侵入した際に絶滅危惧鳥類(シマフクロウ、オジロワシ、タンチョウ、ヤンバルクイナ等の絶滅危機具鳥類種)のどの種に致命的な被害が生じるのかを細胞培養系を用いた感染実験によって明らかにする。
(1)渡り鳥の移動経路と感染症伝播との関連究明に関する研究
①サブテーマ(3)との連携のもとに、我が国に極東ロシア地域から飛来する渡り鳥の移動経路を解明し、②感染症抗体(抗WNV 抗体)陽性個体の繁殖地探索の情報収集を行うことを目的とする。
(2)希少鳥類への渡り鳥による感染症リスク解析研究
①極東ロシアと我が国を往来する渡り鳥のWNV 保有状況と抗WNV 抗体検査をサブテーマ(4)と共同で行うと共に、②我が国の絶滅危惧鳥類及び在来鳥類種の培養細胞を用いてWNV 感受性に関する情報を得る。

図 研究のイメージ        
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(3)超小型の野鳥位置探査システムの開発・改良研究
①重さ25g以下で衛星への信号送信機能を備え、使い捨ての野鳥位置探査用GPS システムを開発する((1)と共同)。また、②システム本体および周辺機器の特許化を行う。
(4)渡り鳥での新興感染症病原体に対する抗体反応性解析・評価に関する研究
①サブテーマ(1)、(2)との共同研究を通じて得る野生鳥類の血清を用いて、新興感染症となるWNV に対する抗体反応性を解析することで、血清採取した鳥類個体の過去の罹患率を確定する。また、②中和抗体試験によって近似の抗体反応を呈する日本脳炎ウイルスに対する抗体との分別鑑定を行うことで追跡すべき渡り鳥個体を特定する情報を全研究班に提供する。

■ D-0907  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/f-095.pdfPDF [PDF 1570 KB]
※「 F-095 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)渡り鳥の移動経路と感染症伝播との関連究明に関する研究
極東ロシア地域から飛来する渡り鳥(シギ類)の移動経路の追跡を3個体で行った。また、既存の送信機によるカモ類の渡り追跡を行い、少数例ながら渡り経路を解明した。
(2)希少鳥類への渡り鳥による感染症リスク解析研究
シギ・チドリ、コガモを捕獲、口腔内スワブ懸濁液によるWNV検査は全て陰性であり、現時点でWNVが我国に侵入定着の可能性は低いと考えられた。また、採取血液サンプルを提供、捕獲した大型シギの3個体を提供し、移動経路追跡を行った。
(3)超小型の野鳥位置探査システムの開発・改良研究
約11gの開発機器を第1班に提供してシギの移動経路追跡をした。その後、強度改善を行って重量は約17gとなったが、最終重量は目標の25g以下を達成できた。
(4)渡り鳥での新興感染症病原体に対する抗体反応性解析・評価に関する研究
第3班提供の血清の抗体反応性検査ではWNV抗体反応性は全て陰性、鳥類細胞での感染実験評価法を開発・遂行し、希少種のヤンバルクイナ細胞でWNV感染が起こらない結果を得、更に詳細な感染機構解析による評価法の改良研究をおこなった。
また、沖縄に生息する希少鳥類ヤンバルクイナ由来細胞を用いたウイルス感受性試験ではウイルス抗原の産生のみならず、ウイルスの増殖までもが完全に制限されることを見いだした。本来、WNVは宿主域が広く、特に自然環の中で鳥類が重要な働きをしていると考えられているが、その鳥類の中でヤンバルクイナに由来する細胞がWNVの増殖を完全に制限していることは非常に興味深い。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0907
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0907.html

3.環境政策への貢献

小型鳥類に装着することが可能な超小型GPSの活用により、多種にわたる野生鳥獣の生態が解明でき、野生鳥獣(絶滅危惧種、希少種、害獣)の生態解明や行動予測等がより正確に行えるようになり、生物多様性保全に大きく貢献できる。
また、培養細胞によるWNVへの感受性評価によって個体への感染実験ができない希少鳥種に対するWNVの病原性を評価できれば、特定の希少種で大量死が起こる可能性が高いか否かが事前に推測可能となる。

4.委員の指摘及び提言概要

 ウエストナイル熱ウイルス(WNV)に対する抗体を持つ渡り鳥(カモ類、シギ・チドリ類)の移動経路を調べるとしていたが、シギ・チドリの移動経路については国内での追跡しか実施されておらず、追跡できたのは既に情報のあるカモについてのみであった。また、感染経路の推定についても不十分と言わざるを得ない。GPS位置測定システムを開発したとはいえ、僅か2日間しか作動せず移動経路調査は失敗に終わったままで、対応策が図られていない。更に、先行研究を含めた6年間を通じて、シギ・チドリ類、カモ類に対するWNVの感染が認められなかったとのことであるが、それも1成果として貴重ではあるが、先行研究の結果を基に感染機構を解析するという積極的な姿勢が欲しかった。

4.評点

   総合評点: C    ★★☆☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): c  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
  サブテーマ(1):c
  サブテーマ(2):c
  サブテーマ(3):c
  サブテーマ(4):c


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研究課題名: 【D-0908】サロベツ湿原と稚咲内湖沼群をモデルにした湿原・湖沼生態系総合監視システムの構築(H21〜H23)
研究代表者氏名: 冨士田 裕子(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究は、低地の高層湿原として日本最大の面積をもつサロベツ湿原と、湿原に隣接する北方針葉樹からなる稚咲内砂丘林と砂丘間湿地・湖沼群を対象に、湿原・湖沼生態系の構造解明、および人為的影響の実態把握と劣化のメカニズム解明を通じて、生態系の変化を広域的に監視するシステムを構築するものである。本研究は以下の4つのサブテーマからなる。
(1)稚咲内湖沼群の形成と環境・気候変動の影響解明
地形地質情報の収集、湖沼堆積物のボーリング、年代測定、花粉分析、ユスリカ化石の分析等を実施し、湖沼群の形成史を解明する。これらから過去の環境・気候変動に対する生態系の応答を明らかにする。

図 研究のイメージ        
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(2)植生・生物群集の特性解明とモニタリング指標生物群の特定
サロベツ湿原と稚咲内湖沼群を対象に、植生・水生植物・底生動物の生物相の特徴を把握する。水位水質等の立地環境について現地調査を行い、生物相との対応関係を統計的な解析によって明らかにする。生物群集の成立因子や動態機構の解析、湖沼の類型化を行い、有効なモニタリング指標生物群について検討する。
(3)湿原と湖沼群をめぐる水循環機構の解明・モデル化とモニタリング必要情報の抽出
地下水位、水質、水温、蒸発散、水のマルチトレーサー分析(安定同位体・放射性同位体・微量元素)などのデータをもとに、地域の水循環機構を明らかにする。広域かつ長期の水循環シミュレーションモデルを作成し、周辺土地利用の影響とその緩和策を検討するとともに、モニタリングに有効な情報の抽出を行う。
(4)リモートセンシング及びGIS技術を用いた湿原および湖沼生態系の総合監視システムの開発
既存の各種情報と新規のリモートセンシング情報を集積し、GISとリモートセンシング技術を用いて湖沼群の水面変化を把握、さらに定点カメラ情報と分光解析による植生のフェノロジーと年次変化の把握など、湿原と湖沼を広域的に監視するシステムを開発する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]

2.研究の実施結果

(1)稚咲内湖沼群の形成と環境・気候変動の影響解明
稚咲内砂丘林や湖沼群の形成過程として以下の事が示された。湖沼群は縄文海進最盛期後の海退に伴い形成された浜堤列が砂丘となり順次海側に前進した陸地の凹地に形成され、その時期は、古いもので約3600cal yr BP(現在から3600年前)以降であった。湖沼群の形成は、内陸側から順次形成されたわけではなく、地下水位の上昇の早い地点から形成されたものと思われた。一方、砂丘林の形成は、内陸側より順次進行しミズナラ林からトドマツ林の形成に至った。このトドマツ林形成は、砂丘林の遷移系列上の極相としてではなく、最近の約1000年間の寒冷化に起因して形成された可能性が高いと考えられた。
(2)植生・生物群集の特性解明とモニタリング指標生物群の特定
冠水期間と植物種の分布の関係から、湖沼水位の低下が植生に及ぼす影響が模式的に示された。また、広域的視点からササ植生拡大に寄与する要因を明らかにできた。さらに、研究例が少ない泥炭地の湖沼における底生動物群集として3タイプの群集を記載した。
(3)湿原と湖沼群をめぐる水循環機構の解明・モデル化とモニタリング必要情報の抽出
湿原や砂丘林帯湖沼群の水循環において、流路からの流出が果たす役割が明らかとなった。特にこれまでまったく不明であった稚咲内砂丘林帯湖沼群の水循環における河川・流路の流出挙動の一端を明らかにした。砂丘林帯湖沼群の流域では流出率が小さく、この地域の水循環において地下浸透や蒸発散の寄与が相対的に大きいことが示唆された。稚咲内湖沼群は蒸発の影響を受けるが地下水流入はないか極微量で、地下水帯を涵養する閉鎖性湖沼であることが示された。また、湖水は透水係数の低い泥炭層を受け皿のようにして保持されていることが推察された。さらに、砂丘列帯内の地下水流動は砂丘列帯を横断する方向へ卓越し、その動水勾配が湖水の下方浸透に影響することから、下流に位置する沿岸農地側の地下水管理が湖沼群の水文環境保全に重要であることが示唆された。熱収支に基づく数値シミュレーションにより、湖沼蒸発量の推定が可能となった。さらに蒸発量が推定できたことで、気象条件を除外した水収支の把握が可能となった。
(4)リモートセンシング及びGIS技術を用いた湿原および湖沼生態系の総合監視システムの開発
サロベツ湿原を例として、地下水位測定結果を基にした簡便な水文環境変動モニタリング手法を提起できた。また、市販のデジタルカメラの利用による、中長期的な環境変動検知手法の実用性を明らかにした。さらに、グランドベースから衛星に至る、空間階層的な植生変動モニタリング手法の実用性を提起した。空中写真の時系列解析と現地調査から、稚咲内湖沼群の1964年以降の経年的な水位変化が推定された。面積と周囲長による湖沼形状の評価指標と水位低下の関連性について検証を行った。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 D-0908
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/D-0908.html

3.環境政策への貢献

①本研究で解明された砂丘林や湖沼群の形成史は、現在の特異な地形や景観が形成されるに至った様々な歴史上の要因とその時間スケールを理解し、現在目にすることができる環境が内包している価値を評価する上で不可欠の情報である。
②稚咲内砂丘帯の植生や底生動物群集の現状記載は、管理計画の策定やモニタリング結果を評価する際の基盤情報となる。
③上サロベツ自然再生協議会において、サロベツ湿原域および稚咲内砂丘林帯湖沼群の水循環に関する基礎情報を提供できた。
④観測孔での地下水位観測や酸素・水素安定同位体やラドンを用いたマルチトレーサー分析による水文特性調査の手法を提示し、沿岸湖沼群の水文環境変化のモニタリングに有効であることを示した。
⑤蒸発量の定量的推定法と推定値は、湖沼管理等の際の基盤情報となる。
⑥環境省の自然再生事業に対して、モニタリング手法を提示することができた。また、本研究によって開発された評価及びモニタリング手法は、汎用的技術として、サロベツ湿原のみならず、今後自然再生への取り組みが見込まれる他の湿原生態系の保全と修復に対しても、効果的な知見を提供することが期待される。
⑦稚咲内砂丘林の湖沼群について、重点的に監視すべき湖沼を示すことができた。今後、行政等で当該地域の空中写真を撮影した場合、変化量を推測する基礎となりえる。

4.委員の指摘及び提言概要

サロベツ湿原と稚咲内湖沼群の歴史的変遷から現状に至るまで、貴重な科学的資料が得られており、両者の成立過程については優れた成果を生んでいる。しかし、モデル対象としたサイトについての粗過程研究に全力を傾け過ぎたためケーススタディ化してしまい、他の湿原・湖沼生態系にも応用できるような普遍的な総合監視システムの構築までには至らなかったのは非常に残念である。今後は、湿原・湖沼生態系に対する監視体制のあるべき姿を具体的に提言できるような研究態勢で臨んで貰いたい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【D-0909】指標生物群を用いた生態系機能の広域評価と情報基盤整備
(H21〜H23)
研究代表者氏名: 日浦 勉(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ

現状の各生態系観測ネットワークの連携を強化することによって森林生態系における生態系総合監視システムを構築し、生態系機能の時空間的変動を明らかにするための指標生物群を特定する。
(1)指標生物群の特定と環境応答評価、植物機能データベースの構築及び統括
モニタリング1000データの解析によって指標生物群を特定し、大規模野外操作実験によってそれらの環境応答特性を明確にする。また植物の機能的性質に関するデータベースを構築する。
(2)簡便な近接リモートセンシングセンサーの開発
林冠の機能やフェノロジーを多点でモニタリング可能とする簡便なセンサーを開発する。
(3)森林キャノピーの光合成生産力とその季節性の観測手法の開発
各サイトの生産性を簡便に推定するための手法を開発し、モニ1000データによってこれを検証する。

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(4)安定同位体による生態系機能評価手法の開発
植物の水・養分利用特性、土壌養分ダイナミクスを明らかにすることを通して生態系の水・養分循環の地理的な特徴を浮き彫りにする。
(5)土壌無脊椎動物の地理分布と機能解析データベースの構築
全国における指標昆虫の栄養段階(食物網の長さ)を明らかにすることで、各サイトにおける食物網多様性の指標を作成する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

(1)指標生物群の特定と環境応答評価、植物機能データベースの構築及び統括
これまでにモニタリング1000森林分野のネットワークセンターである苫小牧研究林に集積された毎木調査、リタートラップ調査、ピットホール調査の各データを解析し、環境の時空間的変動に対する樹木(葉のフェノロジーと葉面積指数)と地表徘徊性昆虫(分解系の上位捕食者)の応答パタンを抽出し、指標生物群を選定し、野外実験を行った。地表徘徊性甲虫のうちゴミムシなど数種の個体数がリターフォール量変化の影響を受けることが明らかとなった。森林生態系での温暖化実験によって葉の化学的防御物質の増加によって食害度が低下することが明らかとなった。
(2)簡便な近接リモートセンシングセンサーの開発
PENで共通して用いている分光魚眼カメラやモニ1000調査区の樹種判別を自動化するためのカメラを苫小牧研究林に導入し、現場で直接観察されている植物機能やフェノロジーとの対応関係を解析した。デジタルカメラの内部センサーの感度評価を行った。全天自立型のデジタル一眼カメラ自動撮影システムを開発した。実際に複数の森林において観測研究も開始し、分光およびデジタルカメラによる野外でのフェノロジー観測技術を確立した。
(3)森林キャノピーの光合成生産力とその季節性の観測手法の開発
リモートセンシングによる葉量と光合成能力のモニタリング技術を開発するために、個葉レベルでのスペクトル特性と光合成などの生理生態学的特性をキャノピーの葉群構造とともに計測した。実測データをもとに、個葉光合成能力および森林キャノピーの全葉面積の季節変化と年変動が森林キャノピーの総光合成生産量の季節変化と年変動にもたらす影響を,モデルシミュレーションにより解析した。現場観測データとモデルシミュレーションにより森林の光合成生産力の季節・年変動を推定する簡便なアルゴリズムを開発した。
(4)安定同位体による生態系機能評価手法の開発
ブナの生理生態学的特徴の地理的変異の把握とNO3-安定同位体比を用いた生態系レベルにおける窒素無機化、硝化量、脱窒量の推定を行った。生態系レベルの窒素循環に関する地理的特徴を明らかにした。
(5)土壌無脊椎動物の地理分布と機能解析データベースの構築
既存の文献データ・未発表データの収集を行ってこれをデータベース化し、機能評価に有効な土壌無脊椎動物であるカマアシムシの地理分布とその特徴を明らかにした。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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3.環境政策への貢献

本研究により栄養段階の異なる複数生物の環境変動に対する応答を明らかにしたことで、森林生態系への影響評価を行う方法の確立に資することが出来る。具体的には、①環境省インターネット自然研究所等各所に設置された自然監視カメラ画像の解析、②一次生産の広域マッピングの簡略化、③過剰な窒素降下環境下での森林生態系保全、水資源管理を考える上で不可欠な情報を得るために有用な方法論の提示、④環境省、農林水産省等の生物多様性モニタリング関連の委員会等を通して、本研究で得られた知見の政策への反映を提案、などを行うことが可能となった。

4.委員の指摘及び提言概要

 市販のデジタルカメラを活用した簡便なリモートセンシング用センサーを開発し、地上での簡便なフェノロジー観測を可能にしたこと、衛星観測からのフェノロジー監視にもインパクトある結果を得たことをはじめ、サブテーマごとに新知見が得られている。しかし、本研究の全体目的である指標生物群として落葉広葉樹林と地表徘徊性甲虫を選定したが、サブテーマ間の関係が不明確であったため全体目標が徹底できず、温度変化など環境変動に対する応答様式の解明にまで及ばなかったことが残念である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c


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研究課題名: 【D-0910】福井県三方湖の自然再生に向けたウナギとコイ科魚類を指標とした総合的環境研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 吉田 丈人(東京大学)

1.研究計画

研究のイメージ

湖沼とその周辺環境を含む水辺生態系の自然再生に寄与する総合的な環境研究を、ラムサール条約登録湿地である福井県三方湖とその流域を対象にして実施する。天然ウナギやコイ科魚類を含む多様な魚類相は、三方湖の生物多様性を特徴づける生物群である。しかし近年、魚類をはじめとした生物多様性が顕著に低下しつつある。主要な要因として、水環境の劣化および水系連結(生態系ネットワーク)の分断化が疑われている。本研究では、ウナギとコイ科魚類を指標とした自然再生の具体的な計画立案をささえる科学的情報を整備するために、生息環境や水系連結の総合的かつ詳細な評価を行う。また、実行可能性が高くかつ有効と考えられる対策を試験的に実施して、自然再生における順応的な取り組みのきっかけとする。

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(1)シンボル種魚類の再生に必要な生息環境の検討
ウナギやコイ科魚類の生息場所としての三方湖の水環境を評価し、どのような環境を優先的に再生する必要があるかを明らかにする。
(2)シンボル種魚類の再生に必要な水系連結の再構築研究
近年の水田圃場整備や河川整備により失われた湖と用水路や水田の連結を、水田魚道や堰上げ水路などにより試験的に再構築し、水系連結の再生に必要な要因の評価と再生効果の予備的評価を行う。
(3)水系連結の改変とシンボル種魚類への影響の長期的変遷
人文社会科学的復元:聞き取り調査などの社会科学的手法を用いて、水系連結と魚類の長期的変遷を明らかにする。
(4)協働参加型調査による環境変化と水系連結喪失の影響評価
環境変化や水系連結の喪失が魚類のみならず多様な生物相に与える影響を評価する。地域の多様な主体が環境の現状を知り自然再生の具体的イメージを持って考える契機となるよう、協働参加型の調査や分析を行う。
(5)研究総括
以上の研究から得られた成果を統合し、三方湖水辺生態系の総合的な解析を行うとともに、自然再生の方策を行政に提案する。地域全体が自然再生に向かうような機運の上昇にも努め、自然再生協議会が現地で立ち上げられるよう、情報交換の場を整備して提供する。

■  研究概要
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2.研究の実施結果

(1)シンボル種魚類の再生に必要な生息環境の検討
安定同位体を用いた生産構造と食物網構造の解析を行い、シンボル種魚類の餌資源を特定するとともに、近年侵入した外来種の影響を評価した。近年における浮葉植物のヒシの急増を明らかにするとともに、ヒシが湖内生態系の水質や生物群集を大きく改変することを見いだした。さらに、シンボル種魚類であるヤリタナゴやウナギの生息環境を特定した。
(2)シンボル種魚類の再生に必要な水系連結の再構築研究
効果的な魚道設置場所を検討するため、フナの産卵や初期生育に重要な環境要因を特定した。それに基づいて、再生効果の見込める場所に水田魚道を設置した。再生効果を確認するための調査を実施し、水田の水管理が水田魚道の効果に大きく影響することが判明し、耕作者の協力が不可欠であることがわかった。さらに、水田魚道以外の水系連結の再生方法としてシュロ採卵法を開発し、水田魚道を利用できない大型のコイなどには特に有効であることを確認した。
(3)水系連結の改変とシンボル種魚類への影響の長期的変遷
さまざまな聞取り調査やワークショップなどにより、この地域における人と水辺の多様な関係が明らかとなった。また、近年は人と水辺のつながりが弱化しており、自然再生の障害となりうることも判明した。これらの人と水辺の関係性や生態系の長期変遷を統合して視覚化する情報プラットホームを新たに開発し、ウェブ上に一般公開した。
(4)協働参加型調査による環境変化と水系連結喪失の影響評価
地域の多様な関係者が協働する調査を企画して実施し、水系連結の喪失や外来魚の侵入など、生態系の現状を共有することができた。協働参加型調査を継続することで、共通認識が醸成され自然再生協議会における円滑な合意形成に貢献することができた。
(5)研究総括
自然再生に関する科学的情報を統合し、十分な情報公開や活発な協働により、地域が主体となって進める自然再生を促すことができた。地域住民と十分な議論を重ねた結果、「三方五湖自然再生協議会」を設立できた。さらに、自然再生全体構想を地元地域との協働によって策定した。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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3.環境政策への貢献

三方湖とその周辺生態系の現状を自然科学と人文社会科学の両面から評価し、自然再生の具体的方策を試験検討し、地域が主体的に実施するモニタリングを協働参加によって開発するなど、この地域における自然再生の取組みを総合的に支援した。多様な関係者が相互に理解しあう機会を提供してきた結果、当初目標としていた自然再生協議会が2011年5月1日に設立された(全国では23番目、中部地方では初)。さらに、本課題の研究成果は、自然再生全体構想の策定に大きく貢献した。地域社会と科学が密接に連携し自然再生を推進するという方式は、他の地域における自然再生のモデルとして国内外で注目されている。

4.委員の指摘及び提言概要

 ウナギやコイ科の魚が環境指標として有効であることを証明するためのデータ収集・解析が順調に進められ、社会的合意形成を図るため地域住民と一体化した諸活動を実施できたことは一通りの成果と認めることができる。しかし、湖沼学として従来から知られている結果の追認となっただけの成果が多かった割に、新たな知見が少なかったことが残念である。また、環境測定データに基づいて、ウナギやヤリタナゴに及ぼす影響を具体的に記した部分が見当たらないことも残念である。今後も引き続き、湖沼とその周辺環境を含む水辺生態系の自然再生に向けて地元との協働を継続してゆくことが望まれる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): c  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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事後評価  4.  第4研究分科会<生態系保全と再生>
ii. 革新型研究開発領域

研究課題名: 【RF-0910】国内移殖による淡水魚類の遺伝子かく乱の現状把握および遺伝子かく乱侵攻予測モデルの構築(H21〜H23)
研究代表者氏名: 鬼倉 徳雄(九州大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 本研究は、生物多様性に深刻な影響を及ぼすにも関わらず、これまで極めて軽視されてきた国内での淡水魚類の大規模移殖放流に伴う「遺伝子かく乱」に着目して研究をおこなう。問題解決のために、①遺伝子かく乱の現状を把握し、②遺伝子かく乱の侵攻予測モデルを構築する。まず、遺伝子かく乱魚種を特定し、それらの侵攻状況を把握する。そして、それらの魚種の定着条件を数値地図情報に基づいてモデル化し、最終的にはかく乱状況を加味した予測モデルを構築する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


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2.研究の実施結果

(1)同一種内における遺伝子かく乱の現状把握
遺伝子かく乱の現状把握のための遺伝子分析を実施したところ、九州においてオイカワ、モツゴ、ゼゼラの3種で外来遺伝子移入を確認した。また、濃尾平野においても同様の分析を行ったところ、上記の3種に加えてヨシノボリ類での外来遺伝子移入を確認した。オイカワ、モツゴについて、九州と濃尾平野を比較したところ、移入集団の出現パターンは異なっており、地域による移植パターンの相違が示唆された。九州において外来遺伝子移入頻度が高いモツゴについて、遺伝子侵入率を算出し、サブテーマ(2)の解析における目的変数とした。
(2)遺伝子かく乱魚種の分布、生息条件の特定および遺伝子かく乱侵攻予測モデルの構築
淡水魚類の分布情報、環境情報のデータベース(約1,200地点)を構築するとともに、外来遺伝子移入が確認された魚種も含め、九州への移殖実績がある全ての魚類について、外来魚類簡易リスク評価法(FISK)を使った評価を実施した。環境省の外来生物法の特定外来生物並みのリスクを伴う魚種は、同法の要注意種を始め、複数種を確認した。そのうち、外来近縁種との交雑、他地域からの異なる個体群移入が確認されている魚種はタイリクバラタナゴとモツゴであったため、その2種を遺伝子かく乱侵攻予測モデルの解析対象魚種として選定した。いずれも、各種の出現/非出現を目的変数、環境情報を説明変数として一般化線形混合モデル(GLMM)およびランダムフォレスト(RF)を使って、各種の環境選好性を解析した後、それらの情報と外来魚の定着種数、外来魚各種の出現/非出現など、移植に関わる情報を追加して、サブテーマ(1)で得られた遺伝子かく乱度を目的変数とし、再度、GLMMおよびRFを実施して、遺伝子かく乱モデルを構築した。タイリクバラタナゴ、モツゴとも、いずれのモデルにおいても比較的高い精度が確認され、遺伝子かく乱のリスクが高い地域の特定などが容易に実施できる技術が構築できた。

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3.環境政策への貢献

環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IA類に指定されるニッポンバラタナゴは外来生物法の要注意外来生物に指定されるタイリクバラタナゴに遺伝子浸透されることが知られるが、その侵攻を予測した研究は本研究が初めてである。その程度を予測マップで示し、リスクを視覚的に示した結果は、今後の国レベルでの法施策に反映されるものと期待する。また、モツゴの地域レベルでの遺伝子かく乱侵攻予測についても、在来のモツゴ集団の生息場所を容易に特定でき、また、それを視覚的にマップ上に示すことにより、保全すべきエリア等の選定が容易に実施可能となった。現在、各地方行政で進められる生物多様性地域戦略等に反映されるものと考える。

4.委員の指摘及び提言概要

国内移殖によって生じる淡水魚類数種の遺伝子撹乱に関する貴重な基礎的知見が得られている。これまでに、アユ、メダカ、タナゴなどの人為的移動に伴う地域固有性の喪失に関する断片的なデータや専門家からの警鐘はあったものの、大規模調査を展開するという実績はなかった。こうした中で、本研究を通じてかなりな程度まで現状把握ができたこと、タイプごとの分布予想モデルを作成できたことは高い評価に値する。ここで作成・提案された分布予測モデルは将来の遺伝子撹乱対策に貢献できるだけでなく、核遺伝子分析を加えることによって撹乱の歴史まで逆戻った解析が可能になると期待できるので、追究を進めて貰いたい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【RF-1009】サンゴ骨格を用いたサンゴ礁環境に及ぼす人間活動の影響評価に関する研究(H22〜H23)
研究代表者氏名: 井上 麻夕里(東京大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究では主に沖縄本島を対象として、サンゴの飼育実験によって栄養塩負荷や低塩分、さらに高温ストレスを与えるなどしてポリプ骨格(稚サンゴ)の飼育を行い、どのような環境負荷要因によって骨格にどのようなシグナル(骨格の粗密や特定の化学成分の増減など)が刻まれるかを、一つ一つ明らかにしていく。

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■ RF-1009  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1009.pdfPDF [PDF 529 KB]

2.研究の実施結果

(1)飼育実験に基づくサンゴの成長に及ぼす環境負荷の影響評価 
サンゴ骨格を用いたサンゴ礁環境に及ぼす人間活動の影響評価に関する研究について、コユビミドリイシの稚サンゴ(ポリプ骨格)について栄養塩添加実験を実施した。その結果、過度の栄養塩は底生藻類の繁茂を促し、稚サンゴの致死率を増加させること、共生藻の獲得が底生藻類との競合力を高めることなどを明らかにした。
(2)環境負荷要因に対するサンゴ骨格の化学的・物理的応答に関する研究
サンゴ骨格を用いたサンゴ礁環境に及ぼす人間活動の影響評価に関する研究について、環境制御下で飼育されたコユビミドリイシの稚サンゴ(ポリプ骨格)について、電子顕微鏡観察および、微量元素測定を行った。その結果、高温ストレスはサンゴ骨格の微細構造にも影響を及ぼしていること、またマグネシウム・カルシウム比が骨格成長のよい間接指標として利用可能であることが明らかとなった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1009
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1009.html

3.環境政策への貢献

本研究より、サンゴ礁の健全な保持に繋がるサンゴ骨格の成長を少しでも促進するためには、稚サンゴが褐虫藻を得るまでの成長段階を保護することが重要であること、海水温が30˚Cを超えるような海域では特に注意が必要であること、が示唆された。

4.委員の指摘及び提言概要

 サンゴ・ポリプ骨格の飼育実験を通じて、温度に関しては29〜31℃の間に閾値があること、低塩分が成長を阻害すること、栄養塩が成長を促進すること、微量元素比が成長速度と関係することなどの基礎的データを得るとともに、今後の研究に応用できる比較的簡便な実験手法を確立した点が優れている。また、生育初期段階で褐虫藻の獲得が必要であることを見出せたことも意義深い。しかし、褐虫藻そのものの直接的・間接的人為ストレスに対する応答様式の解明にまで至らなかった点は残念である。より自然に近い条件下での複合的なストレス評価を含め、サンゴ礁保全のため研究の深化を期待したい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):b
  サブテーマ(2):b


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研究課題名: 【RF-1010】熱帯林の断片化による雑種化促進リスクと炭素収支への影響評価(H22〜H23)
研究代表者氏名: 市榮 智明(高知大学)

1.研究計画

研究のイメージ

150年以上前に断片化されたシンガポール・ブキティマ保護林(断片化林)と、大面積で天然林が残るマレーシア・サラワク州・ランビル国立公園(非断片化林)において、フタバガキ科樹種の雑種化の現状や、雑種個体の生理生態的特性、炭素固定能に与える影響を評価し、雑種化回避のための保全手法の開発を目指す。
(1)熱帯林断片化による雑種化促進リスクの遺伝的評価
調査地に共通に分布するフタバガキ科樹種の成木と稚樹での雑種形成立を、遺伝子解析技術を用いて評価する。また、雑種開花個体の稚樹や種子について、雑種第2代(F2)個体の出現の有無を遺伝的に調べる。さらに、遺伝的な解析結果と各樹種の生態特性との関係から、雑種化回避に必要な森林面積等について具体的に算出する。
(2)熱帯林断片化がフタバガキ科実生の定着過程に与える影響と雑種稚樹の生理生態特性の評価
雑種形成が確認された樹種(雑種第1代、2代)個体を含め、遺伝的解析によって雑種形成に関係すると判断されたフタバガキ科樹種について、親種および雑種個体の稚樹の成長速度や形態的・生理生態特性、ストレス耐性能力等を調べ、雑種や親種個体の環境適応能力や気候変動に対する応答を評価する。

図 研究のイメージ        
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(3)熱帯林断片化による林分動態予測と炭素収支の評価
調査地で継続的に記録されている長期生態観測データに加え、新たに稚樹調査区を設定し、フタバガキ科の雑種、親種個体の成長速度や死亡率などの違いを明らかにする。また、サブテーマ(1)(2)で得られた雑種個体の定着特性や生理生態特性に関するデータと組み合わせて、熱帯林の断片化による雑種化リスクを組み込んだ林分動態予測モデルを作成し、炭素固定機能への環境評価を行う。フタバガキ科雑種個体の実生の定着過程と成長や繁殖特性、個体群動態から将来の林分動態を予測し、雑種化の進行に伴う林分レベルでの炭素収支の変化を評価する。

■ RF-1010  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1010.pdfPDF [PDF 529 KB]


2.研究の実施結果

(1)熱帯林断片化による雑種化促進リスクの遺伝的評価
ブキティマ自然保護区において、Shorea curtisiiS. leprosulaS. parvifoliaの3種の種間雑種が稚樹集団・成木集団のいずれからも複数個体見つかった。しかし、ランビル国立公園からは雑種個体は見つからなかった。マレー半島内6カ所の森林保護区で調査を行った結果、雑種個体は森林面積が500ha以下の2カ所で見つかったが、1000ha以上の面積を持つ森林では見つからなかった。このことから、雑種化促進によるリスクは小面積かつ分断化の進行した森林で高いことが示唆された。また、ブキティマ調査区から雑種F2や戻し交配由来である稚樹が複数個体見つかったことから、稔性のある雑種成木は自殖や親種との交配を行うことで、さらに雑種化が進行する可能性が示唆された。
(2)熱帯林断片化がフタバガキ科実生の定着過程に与える影響と雑種稚樹の生理生態特性の評価
フタバガキ科雑種と両親種稚樹の形態的・生理的特性を調査した結果、成長速度に関係する最大光合成速度、蒸散速度、気孔コンダクタンス、葉内窒素濃度は、S. leprosulaで最も高い値を示し、雑種で中間程度、S. curtisiiで最も高い値を示した。一方、乾燥耐性に関係する葉の水利用効率(WUE)やLMAは、S. curtisiiで最も高く、雑種で中間程度、S. leprosulaで最も低い値を示した。また、灌水を止めて人工的に土壌を乾燥させる操作実験を行ったところ、S. leprosulaで生理機能が大きく低下したものの、雑種やS. curtisiiは低下の度合いが小さく、高い耐乾性を持つと考えられた。今後熱帯雨林の乾燥化や降水パターンが変化すれば、耐乾性の低いS. leprosulaは生存確率が低下する恐れがあり、逆に耐乾性の高いS. curtisiiや雑種はS. leprosulaと置き換わって分布を拡大させる可能性があることが示唆された。
(3)熱帯林断片化による林分動態予測と炭素収支の評価
雑種と両親種(S. curtisiiS. leprosula)の定着環境や成長・枯死特性を解明し、雑種化リスクを組み込んだ林分動態予測と炭素収支への影響評価を行った。その結果、雑種稚樹はS. curtisiiS. leprosulaの中間的な分布環境に多く出現し、成長率や枯死率も、両親種の中間程度であった。マトリックスモデルを用いた解析の結果、S. curtisiiは今後も個体群を維持できるが、S. leprosulaは個体群が減少、雑種はS. leprosulaを上回り個体群が拡大すると予想された。また、乾燥化の影響をモデルに組み込んだ場合、S. leprosulaの個体群の絶滅確率が大幅に高まる危険性が明らかになった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RF-1010
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1010.html

3.環境政策への貢献

現時点で環境政策への直接的な貢献はないが、森林ごとの雑種個体の割合や雑種が見られない森林面積についての具体的な数値データや、複数種の混生の程度により雑種形成の機会が変わる可能性を示したことは、森林の開発・保護・再生に関する政策や植林方法の立案に貢献できる。また、長期断片化に伴う熱帯林主要林冠構成種の雑種化リスクや絶滅確率の増大が、今後の林分動態や炭素蓄積に与える影響を評価した本研究の成果は、生物多様性の保全施策、REDD政策への反映やIPCC報告書環境政策への貢献が可能になると思われる。

4.委員の指摘及び提言概要

熱帯林におけるフタバガキ科の雑種化について、フィールド調査と苗木を用いた生理生態学的実験を非常に上手に組み合わせて、現状の評価、将来の予測を効果的に行っている点が優れている。また、同属近縁種間での雑種化傾向を異なる切り口から解析し、新たな知見を見出すと直ちに公表する姿勢は高く評価できる。しかし、知見の多くが条件付き個別事象に関することが多く、広範な地域を対象とする森林諸政策の立案には不向きな部分もかなり含まれている。簡明で使い勝手の良いマニュアル作成に向けて、主要ポイントを絞り込んだ統合化をもう一歩進めて貰いたかった。炭素収支への影響評価にまで進めることができなかったことも残念である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b


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研究課題名: 【RF-1011】東南アジアにおける違法伐採・産地偽装対策のためのチーク産地判別システムの開発(H22〜H23)
研究代表者氏名: 香川 聡(独立行政法人 森林総合研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

違法伐採抑止のための木材の合法性・違法性証明を行うには、産地判別誤差・誤判定の可能性が小さい木材の産地判別技術を開発する必要がある。1年生の農産物の産地判別と違い、樹木は数十年以上の間成長して年輪を形成するので、木材は農産物に比べてより多くの同位体情報を含んでいる。研究代表者は、年輪の同位体比時系列作成により多数の安定同位体比データを複数年にわたって比較することにより、北米産の木材の産地を誤差60〜300kmで判別することに成功した(Kagawa & Leavitt 2010)。これは、輸入される原木の産出国を判別する技術としては十分な精度である。本課題では、この新しい木材産地判別法を初めて違法伐採地域から産出する木材に適用し、東南アジア産のチーク原木丸太の産地判別を試みる。木材の産地判別が高精度・高的中率で可能になれば、違法伐採材が日本に輸入されることを水際で抑止できる可能性があり、森林保全政策や地球温暖化対策への貢献が期待できる。

図 研究のイメージ        
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■ RF-1011  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/rf-1011.pdfPDF [PDF 529 KB]

2.研究の実施結果

 平成22年度は、高温熱分解型元素分析計(Hekatech社HTO+Costech Zero Blank Autosampler)により、高精度(セルロース標準試料の繰り返し測定誤差σ<0.3‰)の酸素同位体比分析条件を達成した。また、東南アジアに出張し、現地カウンターパートの協力の下で原産地情報の確かなミャンマー産・ジャワ産チーク試料の採取・収集を行った。降水量データを用いる方法により、インドネシア産チークの産地判別に成功した。
平成23年度も、引き続きインドネシア産のチーク試料を採取した。得られたチーク年輪試料を用いて、東南アジア産のチーク年輪の酸素・炭素同位体比・年輪幅・密度データベースを構築した。実際は産地が分かっているチークを産地未知のものと仮定し、推定産地と実産地の距離としての誤差を見積もったところ、120km程度と推定された。また、産地判定の的中率は83%であった。年輪の同位体比等の時系列が、データベース上のどの産地のチークの時系列と最も相関が高くなるかを計算する産地判別法により、チーク材の州レベルでの産地推定に成功した。一方、年輪の同位体比時系列と降水量との比較による産地判別法では、チークの産地判定は多くの場合困難であった。本産地判定技術を東南アジア諸国・日本の税関などに適用する場合は、チーク丸太の抜き取り検査を行い、年輪幅で簡易判別を行った後、産地偽装の疑いが強い試料については、酸素同位体比で産地を確定させる方法が最も効率的であると思われる。

成果イメージ図

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http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-1011.html

3.環境政策への貢献

環境省は、グリーン購入法により政府調達の対象を合法性・持続可能性が証明された木材とする措置(詳細は、環境省HP>自然環境・生物多様性>森林・砂漠化対策>森林対策を参照)を開始しているが、本課題の成果は、税関等において欧米への禁輸措置が取られているミャンマー産のチークなど、申告産地を偽装した違法伐採材の検出に貢献が期待される。今後は木材1点当たりの産地判定にかかるコストを下げることが、本産地判別技術の事業化への課題になると思われる。

4.委員の指摘及び提言概要

 産地偽装の疑いがある輸入チーク材に対して年輪幅による簡易判別を行った後、酸素同位体比を通じて産地特定が可能な効率的手法を提案できたことにより、時系列データベース等を用いたチーク材産地判別システムを構築するという目標はほぼ達成された。得られた成果を活用することにより輸入木材の出生地をかなり絞り込むことが可能となるため、違法取引に対する大きな抑止力が生まれることとなるであろう。しかし、この産地判別システムを運用するためには、チーク材年輪試料の酸素・炭素の同位体比、年輪幅、密度などのデータベースが整備されていることが前提となっており、それらデータベースが不足している現状では適用限界がある。今後も引き続き、国際協力の下でデータベース整備のための資料収集に努め、一刻も早く実用化して貰いたい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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