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研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価   2. 第2研究分科会<環境汚染>
i. 環境問題対応型研究領域

研究課題名: 【S2-05】超高感度分光法によるニトロ化合物リアルタイム検出器の開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 山田 裕之(独立行政法人 交通安全環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

自動車から排出されるニトロ化合物を、赤外キャビティーリングダウン吸収分光法を用いてリアルタイム計測可能な計測装置を開発する。計測対象物質としては、排ガス中に含有されているニトロ化合物のうちの主要物質としとし、一般的な自動車計測に求められている数秒間隔程度のリアルタイム計測を行う。 
(1)赤外キャビティーリングダウン吸収分光法によるニトロ芳香族計測手法に関する基礎的研究
自動車からの排出されるニトロ化合物を赤外キャビティーリングダウン吸収分光法によりリアルタイム計測する手法を確立する。
(2)自動車ニトロ化合物計測装置の開発および排出実態に関する研究
ニトロ化合物リアルタイム計測装置を開発し、今後普及が予想される様々な車両からのニトロ化合物排出量調査を行う。

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■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]

2.研究の実施結果

(1)赤外キャビティーリングダウン吸収分光法によるニトロ芳香族計測手法に関する基礎的研究
本研究では、中赤外量子カスケードレーザーを光源としたキャビティーリングダウン吸収分光法(CRDS)による自動車排ガス中のNOおよびNO2の高感度計測装置の開発を行った。NO2について、CRDSを測定手法として用いppbvの感度を実現した。自動車排気ガス計測に応用できるよう、可搬型CRDS装置を設計し完成させた。前年度検証したNOと同様にNO2についても自動車排気ガス測定において、30分以上にわたる長時間安定性が、フィルタおよびパージガスを用いて微粒子によるミラーの汚染を防ぐことにより簡単に実現できることを実証した。ドライヤを用いて水分を除去し、配管を加熱することで干渉影響が軽減でき、選択性も保証された。
自動車排ガス中の主要ニトロ化合物であるニトロメタンとp−ニトロフェノールの中赤外CRDS法による検出を目的とした、基礎分光データ調査および、ニトロメタンについては検出波長の決定と検出下限の測定等の基礎研究を行った。NO2計測についてもCRDS法による基礎実験を行った。ニトロメタンの検出波長としては、1590 cm-1付近が最適であった。
(2)自動車ニトロ化合物計測装置の開発および排出実態に関する研究
本研究では従来の赤外吸収分光法をさらに高感度化するキャビティーリングダウン(CRDS)赤外吸収分光法を自動車排出ガスに応用し、ニトロ化合物のリアルタイム計測法を確立すること、および開発した方法により様々な自動車から排出されるニトロ化合物を評価することを目的とする。
研究の初年度に当たる平成21年度の結果によると、ディーゼルトラックの排出ガス中に含まれるニトロ化合物としては、ニトロフェノール類、ニトロメタンが計測された。したがって、ニトロメタン、ニトロフェノールを計測対象とする初期型CRDS計測装置を平成22年度に開発し、その性能を評価した。その結果を踏まえ改良型CW-CRDS装置の開発、評価を平成23年度に実施した。これらの開発に必要な装置校正、前処理装置、測定波長に関しては、東大の研究成果を利用し使用を決定した。本方式により実用化され、長時間の排出ガス計測が可能な装置としては本研究が世界初めてである。
 改良型CW-CRDS装置の性能評価を行った結果、NO2、ニトロメタン、p-ニトロフェノールの検出限界がそれぞれ2 ppbv, 3 ppbv, 5 ppbvと非常に高感度に計測可能であることが確認された。排出ガスには様々な成分が含まれており、それらによる干渉が懸念される。水、NO2による干渉は、ドライヤ、NO2光分解コンバータ等で除去可能なことが確認されると共に、炭化水素成分に関しては代表58成分に関して問題が無いことを確認した。また、p-ニトロフェノール測定時の異性体であるo-ニトロフェノールの干渉は、蒸気圧の違いを利用した、配管温度の異なる条件での計測結果の比較により十分に除去ができることを確認した。
実際の排出ガス測定に関して、得られた測定対象物質の排出プロファイルはS2-06で実施されている国立環境研究所のグループのPTR-MSの結果とよく一致しており、それぞれの測定結果が信頼できるものであることが確認された。
現在の自動車沿道の有害物質の主な原因と考えられる新短期規制適合車両からのニトロメタン、p-ニトロフェノールの排出は、NO2の測定結果、健康影響を基にそれと比較する形で行った影響調査では特に問題ないレベルであることが確認された。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-05
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S2-05.html

3.環境政策への貢献

今回の結果により自動車排出ガス中にニトロメタン、p-ニトロフェノールが含まれていること、さらにはこれらの物質が社会へ与える影響が現状では少なく、早急な行政対応が必要ではないことが確認された。また一方で、自動車排出ガス規制が厳しくなる一方で、その厳しい排出ガス規制に適合させるための技術により、未規制有害物質の排出増加が発生していることを、新長期規制適合車両、新短期規制適合車両のニトロメタン排出量比較により得られた。これより、単純に規制値を厳しくすれば環境は改善するわけではなく、常に未規制物質の排出実態を注視しなければならないことが示された。

4.委員の指摘及び提言概要

高感度で共存物質の影響が少ないと言われているCRDSを用いて、NOとNO2(個別に)及び低濃度のニトロメタンやニトロフェノールを高分解能で連続測定することを可能にした。しかし、ニトロメタンやニトロフェノールの測定精度(正確さ)、尿素SCRの結果とその評価に関してはさらに検討すべき点もあり、今後、CRDS吸収分光法の長所を発揮した自動車排ガス測定法の更なる推進を期待したい。市販に向けての取り組みについては判然としない。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【S2-06】PTR-TOFMSを用いたディーゼル車排ガス中ニトロ有機化合物のリアルタイム計測(H21〜H23)
研究代表者氏名: 猪俣 敏(独立行政法人 国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

揮発性有機化合物のリアルタイム計測のために独立行政法人国立環境研究所で自主開発した陽子移動反応−飛行時間型質量分析計(PTR-TOFMS)の高性能化を行なった後、シャシーダイナモ稼働下でのディーゼル車排ガス中のニトロ有機化合物の多種類をリアルタイムで検出・定量を行い、ニトロ有機化合物の排出特性(種類・(全)量・性状)を把握する。また、レーザー光イオン化法を利用した質量・反跳速度同時測定法を開発し、ニトロ有機化合物検出への適応性を評価する。

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(1)PTR-TOFMSを用いたディーゼル車排ガス中ニトロ有機化合物のリアルタイム計測
PTR-TOFMSの高質量分解能化を行い、ディーゼル車排ガス中のニトロ有機化合物のリアルタイム測定法を確立する。シャシーダイナモ稼働下でのディーゼル排ガス中のガス状・粒子状ニトロ有機化合物の全量及び個別化合物の定量に取り組み、ディーゼル排ガスからのニトロ有機化合物の排出特性を把握する。
(2)レーザー光イオン化法を用いたニトロ有機化合物の新規検出法の開発
 紫外レーザー光解離法と真空紫外レーザー光イオン化質量分析法を組み合わせた新たな質量・反眺速度同時測定法の開発に取り組む。この手法はニトロ有機化合物の検出でこれまで欠点とされていた光解離過程を逆に積極的に利用するものであり、ニトロ有機化合物の高感度検出へ適応が可能かを評価する。

■  研究概要
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2.研究の実施結果

(1)PTR-TOFMSを用いたディーゼル車排ガス中ニトロ有機化合物のリアルタイム計測
後処理システムの異なるディーゼル車とガソリン車から排出されるニトロ有機化合物を網羅的にかつ秒オーダーでのリアルタイム計測を行った。検出されたニトロ有機化合物は、ニトロメタン、ニトロフェノール類、ジヒドロキシニトロベンゼンであった。それらニトロ有機化合物の排出特性として、ニトロメタンは車種に依らず出されること、それ以外のものは、後処理システムのところで生成されていることがわかった。
 粒子状成分に関しては、LC/MSやTD-GC/MSでフィルター捕集して分析した結果、ニトロフェノール類、ニトロ多環芳香族炭化水素が検出された。量的には、粒子全体の0.1%以下であった。PTR-TOFMSによるディーゼル粒子中の有機化合物のリアルタイム計測に成功した。しかし、粒子中に含まれるニトロ有機化合物に関しては、量が少なかったため、リアルタイム計測では検出できなかったが、さらなる高感度化に成功すれば、検出も可能と考えられる。
 シャシーダイナモメータ実験の結果の整合性をチェックするため、沿道での観測を行った。シャシーダイナモメータ実験で検出されたニトロ有機化合物の排出を確認するなど、概ね整合性のあるデータが取れた。さらに、シャシーダイナモメータ実験では検出されていなかったニトロ芳香族炭化水素の排出を観測した。
(2)レーザー光イオン化法を用いたニトロ有機化合物の新規検出法の開発
高分解能・高精度の反跳速度ベクトル観測装置の開発に成功し、本計測手法を用いて排ガス中に見つかっているニトロメタン(CH3NO2)の紫外光解離で生成するNO、CH3、Oの散乱分布画像の測定を行った。ニトロメタンの異性体であるニトロナイトライト(CH3ONO)の散乱分布画像を取得し比較したところ、散乱分布の違いが見出され、本手法で異性体の識別が可能なことが実証された。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-06
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S2-06.html

3.環境政策への貢献

 本研究の成果として、ディーゼル車等自動車から排出されるニトロ有機化合物の種類、性状(ガス状vs粒子状)ごとの排出量を網羅的に調べる手法が確立できた。秒オーダーでのリアルタイム計測により、運転状況の違いによる排出の違いについてのデータを得ることができる。実際、後処理システムの異なる3種類のディーゼル車および1種類ではあるがガソリン車について試験を行い、ニトロ有機化合物の排出状況について高時間分解のデータを今回提供した。これにより、自動車からニトロ有機化合物の排出を低減するにはどういうところを改善すればいいのかといった基礎データを提供できた。今後、車両を変えた試験を行うこともできる。また、シャシーダイナモメータ試験の結果を踏まえ、実大気観測を行い、シャシーダイナモメータ試験結果と整合するデータが得られたのと同時に、沿道でのニトロ有機化合物の排出状況に関する情報が得られた。実際の濃度レベルを踏まえた健康リスクを、データが十分でないため推察の部分が多いが、評価することができ、現状で影響がありそうな濃度レベルではなさそうであるとまとめられた。しかし、ユニットリスクの高いニトロベンゼンやニトロ有機化合物の中で、ニトロメタン以外で最も排出レベルが高いニトロフェノールに関しては注意が必要と考えている。これらの排出状況を、本手法を用いることによって、今後、監視していくことも可能になった。
 本研究で用いた陽子移動反応質量分析法は、ニトロ有機化合物の多種類のリアルタイム計測に適していることを示したが、毒性は異性体によって異なるため、異性体を分けたきめ細かな分析が必要である。GCやLCを用いた手法が異性体を区別して定量的に分析できる手法であるが、反応性や吸着性の高いものの定量や、サンプリング時や濃縮時のアーティファクトの問題をクリアするにはリアルタイム計測装置が必要である。サブテーマ2で開発した新手法はニトロ有機化合物の異性体までを区別して検出できるリアルタイム計測装置として貢献するきっかけとなる成果を出したと考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

 本研究は、研究費規模に照らして、研究の開始時期より順調に推移し、ほぼ計画通りに研究を実施しており有用な成果をあげた。種々の条件を設定し、系統的にニトロ化合物の排出量を計測し、その発生過程及び特徴を明らかにするなどきめ細かい研究を行うと同時に、沿道における大気の計測し、解析によって環境政策上重要な知見を得た。これらの成果は、しかしながら論文として公表されていないため、今後積極的に発表されることが望ましい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【S2-07】土壌無機汚染物質の迅速・低コスト分析システムの開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 浦野 紘平(横浜国立大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 土壌汚染を判定するための試験方法には1週間以上を要する。一方、基準超過事例の約80%が重金属等の無機物質による汚染とされている。そこで本研究では、迅速・低コストな土壌無機汚染物質の分析システムとその活用方法を開発・提案することを目的とした。
本研究は2つのサブテーマからなり、サブテーマ(1)では、迅速な試験方法の基礎となる無機汚染物質の土壌への吸着・脱離平衡や脱離速度、及び分析妨害物質の水溶出/酸抽出量を明らかにするとともに、従来の装置より大幅に低コストなフローインジェクションアナライザー(FIA装置)と蒸留ユニットを開発した。

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また、サブテーマ(2)では、迅速な溶出量試験と含有量試験の方法、及び土壌分析で多くの対象分析項目に使用可能なパックド試薬使用・検量線組込み分光光度計の適用性と改善方法を明らかにした上で、精製・濃縮前処理方法を評価・開発し、併せて他の測定方法の情報収集と評価および公定法の問題点と改善提案を行った。

■  研究概要
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2.研究の実施結果

(1)-a 土壌からの水溶出/酸抽出基礎特性の解析
カドミウムと酸性域での鉛の吸着・脱離平衡は競争イオン交換式、ホウ素の吸着平衡は物理吸着のFreundlich式、6価クロムとヒ素の吸着平衡は競争イオン交換式とFreundlich式の組み合わせで解析できることを明らかにした。また、カドミウムの吸着と脱離は可逆的であったが、鉛は土壌中で複雑に変化して吸着・脱離は不可逆であることを明らかにした。とくに、中性域での鉛はフミン質などの有機物と結合して吸着性が大きく低下すること、また、二酸化炭素や酸素との反応によって、脱離性が大きく変化することなどを明らかにした。
(1)-b 低コスト土壌用FIA(フローインジェクション アナライザー)の開発
 従来の1/3以下の低コストFIA装置を用い、シアンは4-ピリジンカルボン酸−1,3-ジメチルバルビツール酸法、フッ素はランタンアリザリンコンプレキソン(アルフッソン)法、ホウ素はアゾメチンH法、6価クロムはジフェニルカルバジド法、鉛はPAR法、カドミウムはカディオン法で分析するためのキャリヤー液の組成、発色試薬の種類と濃度、流量、反応コイル長さ、反応温度等の最適条件を決定し、土壌の試験液への適用性を確認した。また、定量範囲及び繰り返し再現性を明らかにし、JIS法FIAや環境省告示の分析法よりも省試薬、高感度、高精度、かつ迅速な分析が可能であることを明らかにした。また、空冷式シアン用ミニ蒸留ユニットを試作し、溶出試験液の蒸留と含有量試験用土壌の蒸留における試料量や温度、時間等の最適条件を決定し、従来法より設置面積、エネルギー消費量、必要試薬量、廃液量を1/10〜1/30、装置コストを約1/4にでき、迅速化もできることを示した。
(2)-a 迅速な水溶出/酸抽出方法の開発
含水率が45%と高い土壌でも約12時間以内に60試料を同時に風乾できる高速風乾装置を試作した。また、多種多様な汚染土壌試料について、溶出量試験と含有量試験での濃度の経時変化を調べ、温度影響が大きいこと、微細化、超音波照射、脱気、塩添加等は効果が小さいことを確認し、40℃に初期加温すれば、大部分の場合、1時間でほぼ公定法6時間振とうと同じ値が得られ、迅速化できることを明らかにした。ただし、鉛やヒ素に汚染された有機物含有量の多い黒ぼく土では、公定法の6時間以降も溶出量が増え続けたので、60分後の有機物溶出量を260nm吸光度で測定し、大きい場合には6時間にするのがよいことを示した。
(2)-b 簡易前処理組み合わせ分光光度計の開発
パックド試薬使用・検量線組込型分光光度計に用いられる40種類の市販パックド試薬の情報を収集し、土壌試験液に適用できる可能性のある16試薬、78組み合わせについて、分析感度と16土壌の試験液中妨害性物質の影響を実測によって調べ、メーカー表示の分析感度が得られない試薬や土壌試験液中の分析妨害物で正しい分析値が得られない試薬があることを明らかにした。これらの調査と実測の結果から、ホウ素と6価クロムは市販試薬で妨害無く分析できることを確認した。また、市販試薬では、感度不足で妨害影響があると判定された鉛とカドミウムについては、分子認識ゲルによる精製・濃縮条件を検討し、十分な精製と分析が可能になる方法を開発した。また、妨害影響があると判定されたシアンとフッ素については、サブテーマ(1)で空冷式シアン用ミニ蒸留ユニットを開発したのに加えて、サブテーマ(2)では空冷式フッ素用ミニ蒸留ユニットを開発し、従来法より、設置面積、エネルギー消費量、必要試薬量、廃液量を1/8〜1/30にでき、装置価格も約1/3にできることを示した。
(2)-c 他の測定方法の調査・試験と評価
 蛍光X線法は、溶出量試験には適用が困難であるが、含有量試験のスクリーニングには使用可能であることが分かった。また、ボルタンメトリー法は、鉛とヒ素の分析に使用例があり、公定法との相関も報告されているが、前処理を適切に行わないと誤差が大きくなることが分かった。ヒ素の分析に適用されている検知管法は、やや感度不十分であるが、汚染の有無の判定には使用可能と考えられた。
さらに、公定法でも、溶出量試験の室温によって±18%も溶出濃度に差が出ること、定められた6時間振とうでは溶出濃度が増え続ける試料があること、ろ過操作時に鉛が損失し、シアンも保管や風乾時に損失しやすいこと等々の問題点を明らかにし、改善方法を提案した。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 S2-07
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S2-07.html

3.環境政策への貢献

極めて多数ある無機物質で汚染されている土地の調査や対策を推進するために不可欠である「実用的な迅速・低コスト分析技術」として、低コストで高感度なFIA装置による、シアン、フッ素、ホウ素、6価クロム、鉛、カドミウムの分析方法が開発された。また、従来の方法よりも消費電力や有害薬剤の使用量(廃棄量)、及び設置場所が大幅に低減できるシアンとフッ素の蒸留装置が開発された。さらに、迅速な溶出試験方法や多くの項目を迅速・低コストに測定できるパックド試薬使用・検量線組込型分光光度計の活用方法が提案され、併せて公定試験法の問題点の明確化と改善提案がなされた。これらの成果を行政が認定して活用すれば、土壌汚染対策法に基づく調査と対策の促進に大きく貢献するものと考えられる。

4.委員の指摘及び提言概要

迅速な溶出試験方法の提案と公定試験法の問題点の指摘と改善策を提案できたことは、高く評価したい。さらに実用化への努力を行うとともに成果の論文発表を望む。しかし、汚染物質の存在形態がモデル土壌とは異なっている可能性が高いので、実汚染土を用いた追試を行って欲しい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【S2-08】第二種特定有害物質汚染土壌の迅速で低コストな分析法の開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 丸茂 克美(独立行政法人 産業技術総合研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

 土壌汚染原因物質である砒素や鉛などの第二種特定有害物質の含有量や存在形態、溶出量を迅速かつ低コストに把握することのできる分析法を確立するため、①汚染土壌の蛍光X線情報と透過X線の情報を活用できる蛍光X線透視分析装置を開発する。また、②第二種特定有害物質の溶出を促進する硫化鉱物や、溶出を抑制する鉱物の反応メカニズムを解明するとともに、③蛍光X線透視分析装置の測定データを補完して第二種特定有害物質の溶出量を計算するための溶出シミュレーションプログラムを開発する。さらに、④第二種特定有害物質汚染土壌の標準試料を作成し、蛍光X線透視分析装置を用いた迅速・低コスト分析法の精度管理を行う。

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■  研究概要
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2.研究の実施結果

(1)蛍光X線透視分析装置による迅速・低コストな分析法の開発に関する研究
 蛍光X線透視分析装置を開発し、蛍光X線透視分析装置のX線管球電圧を変化させる際に得られる特定有害物質の粒子径や輝度変化の情報から、第二種特定有害物質の蛍光X線分析値が公定法含有量と同様な結果が得られるかを把握する手法や、第二種特定有害物質の溶出を促進する硫化鉱物や、溶出を抑制する鉱物の有無を把握する手法を確立した。
(2)第二種特定有害物質の溶出・吸着特性の把握に関する研究
 砒素や鉛の溶出量と含有量が高い汚染土壌と、砒素や鉛の溶出量は低いが含有量が高い土壌に含まれる第二種特定有害物質を蛍光X線分析装置で調べた結果、砒素が硫化物(硫砒鉄鉱)として存在する場合には砒素含有量と溶出量がいずれも高く、硫化物が分解することにより砒素溶出量が増加するものの、砒素が鉄と硫酸イオンを含む水酸化物(シュベルトマナイト)に含まれる場合には砒素が溶出しないことが明らかとなった。一方、鉄やマンガンの水酸化物の表面に鉛が吸着されている場合には鉛含有量と溶出量がいずれも多いことが判明した。また、自然由来の砒素と鉛の土壌汚染に関しては、砒素と鉛の溶出量は時間とともに増加し、10分間程度の短時間溶出試験では砒素と鉛の溶出量を把握できないことが明らかとなった。
(3)溶出シミュレーションプログラムの開発に関する研究
 地球化学コードPHREEQCを用いて鉱物-水溶液間の平衡計算と鉱物の溶解・析出の反応速度計算を行い、溶出量試験における鉱物の溶解・吸着現象をモデル化し、溶出量試験のシミュレーションを行い、溶出量試験結果と比較した結果、蛍光X線分析法で得られた土壌の化学分析結果から長期的な溶出水の水質変化を予測できることが判明した。また、公定法の溶出試験は6時間溶出での水質を反映するものの、長期的な水質変化を予測できないことが判明した。
(4)汚染土壌分析の基盤整備のための標準試料作製に関する研究
 東京都内の工場跡地や病院跡地に分布する汚染土壌を7試料採取して粒子径を調整し、第二種特定有害物質である鉛、砒素、水銀、セレン、フッ素の公定法溶出量試験と含有量試験、底質調査法試験を実施して溶出量、含有量、全量値の値付けを行い、標準試料を作成した。またこれらの標準試料中の第二種特定有害物質の存在形態を蛍光X線透視分析装置で明らかにするとともに、蛍光X線分析法の全量値と底質調査法試験の全量値とを比較し、蛍光X線透視分析装置を用いた迅速・低コスト分析法の精度管理を行った。

成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

改正土壌汚染対策法では汚染土壌地を要措置区域や形質変更時要届出区域に分類し、自然起源の汚染が見つかった場合には自然由来特例区域に指定する必要がある。自然起源の汚染であるか人為由来の汚染であるかを判定するためには有害物質の存在形態を解明する必要があるが、蛍光X線透視分析装置によりこうした判定ができる。
また、本研究で開発された蛍光X線透視分析装置や溶出シミュレーションプログラム、標準試料を用いることにより、土壌汚染の迅速・低コスト分析や、土壌から地下水への汚染物質の移行の可能性を評価することが可能となり、汚染土壌地の区域の分類や土壌汚染対策の効率化に貢献できる。特に、改正土壌汚染対策法の対象となった自然起源の土壌汚染問題について、長期的なリスク評価や対策の必要性が明らかにされた。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、概ね許容できる研究成果を上げた。特に、傾向X線分析法を用いて、鉛とカドミウムを実用的な感度で迅速に分析できることを示した点、および土壌中の物質の存在形態を分析可能としたし、溶出挙動を予測可能とした点は学術的にも有意義である。しかしながら、上記以外の第二種特定有害物質の分析、および「低コスト」の実現については明らかではなく、また成果を蛍光X線の専門誌のみで発表していることについては、改善が望まれる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【B-0702】高エネルギー密度界面を用いた大容量キャパシタの開発(H19〜H23)
研究代表者氏名: 本間 格(東北大学)

1.研究計画

研究のイメージ

(1)大容量型電極材料の開発
高い電子伝導性と比表面積を有するカーボン材料の究極は単原子層カーボンであるグラフェンでる。グラフェンにおいては表裏の表面積を用いれば2600m2/gにもおよぶ大きな電気二重層界面を利用できる。本研究開発ではグラフェンの効率的な合成法の開発、構造評価と電気化学特性の精密測定を行う。グラフェン表面の高エネルギー密度界面構造を設計しキャパシタの高容量化技術を開発する。キャパシタ電極の高容量化に有効な巨大電気二重層の耐電圧化という界面制御技術を開発し、従来実現しなかった大容量グラフェン電極を実現する。

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(2)高耐電圧型電解質の開発
キャパシタの蓄電エネルギー密度は E = 1/2CV2と表されるため蓄電電圧の二乗に比例してエネルギー密度が増大する。従って従来使用されている有機系電解液の耐電圧を大きく超えうる電解質が開発できたならば大容量型キャパシタが実現するであろう。本研究ではこれらの耐電圧型の電解質を実現するためにイオン液体のハイブリッド化技術を開発し、高イオン伝導性かつ耐電圧型の電解質を開発することによるキャパシタの大容量化を実現する。


2.研究の実施結果

環境技術として極めて重要な基幹技術である再生可能エネルギーの中で太陽光・風力発電の市場導入加速が世界的に最重要な政策的課題に挙げられている状況で、これらのグリッドシステムへ連結する際の安定化電源であるキャパシタデバイスの高容量・高出力化の研究開発が大変活発化している。基本的にサイクル特性に優れたEDLCデバイスでは原理的には電気二重層容量を増大させるためにはキャパシタ電極の容量を増大させるか、あるいは蓄電電圧を上げるかのどちらかである。前者においてはカーボン電極の比表面積を増大させる手法と擬似容量(ファラディック容量付与された電極)を付与する手法の双方が試みられているが、同時に実現すれば巨大な容量を有したキャパシタ電極の創製が期待できる。革新的なキャパシタ電極を目的として、科学的意義の大きなものは優れた物性を有する新材料の適用法を開発することであるが、特に2010年のノーベル物理学賞が授与されたグラフェンを大容量キャパシタに適用することは大変科学的意義の高い基礎研究と言える。グラフェンという新物質にノーベル賞が授与された大きな原因は、その優れた電子物性やエネルギー物性に革新的デバイスのイノベーションが期待できるからであり、特に本研究開発で取り組んだように、その大きな比表面積(2600m2/g)と高い電子伝導性を有する単原子層カーボン物性であるグラフェンとイオン液体等の高耐電圧型電解質を用いれば、従来材料より大きな電極容量に、より高い電圧で蓄電出来るため、これまで不可能であった高エネルギー密度界面の構築が可能になるという科学的にも重要な技術開発が出来ることにある。本研究では、電気二重層キャパシタ電極に適したグラフェン構造を構築するために、グラフェンの原料に注目し、黒鉛の粒子径の選定やカーボンナノファイバーを利用しグラフェンの構造制御を行った。その結果、表面積が80〜540 m2/gの多種多様のグラフェンの合成に成功した。またそれらのグラフェンのイオン液体(EMI-TFSA)を用いた電気二重層キャパシタ特性は、高電圧を印可すると、容量が増加し、さらにサイクル数よっても容量が増加する従来の電気二重層キャパシタにはない現象を発見した。また、正極に活性炭、負極にグラフェンを用いた非対称型の電気二重層キャパシタ特性は、電圧4Vで50 F/gを有し、電極あたり111Wh/kgのエネルギー密度であり、この値は鉛蓄電池のエネルギー密度に匹敵する。さらに、グライム錯体を利用した新規なイオン液体(【TEMA-G4】【TFSA】)を用いても、グラフェン電極の評価を行ったところ、電圧3.5 Vで31 F/gを有し高耐電圧の電界液として使用可能であることが判明した。本研究開発の科学的意義としてはノーベル賞の受賞理由でもあるグラフェンという可能性に満ちた新素材の優れた物性を最大限活かしたキャパシタ電極材料の基礎研究を深めると共に高容量高出力型キャパシタデバイス電極材料としての利用法を開発し、さらにはイオン液体に代表されるように耐電圧型電解質などの周辺分野の最先端材料技術を総動員した革新的キャパシタ技術を創成したことにある。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0702
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0702.html

3.環境政策への貢献

大容量キャパシタの応用はエネルギー技術の多岐に渡っており、グリーンイノベーションと温暖化対策の双方に多きく貢献できる。まず、脱原発とグリーンイノベーションに直に貢献するエネルギー技術としては太陽光・風力発電のスマートグリッドの負荷平準化電源としての応用である。高出力型の蓄電デバイスは、これらの変動の激しい発電機器の平滑化に用いることができるため、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入に伴い、その導入が加速して行く事が予想される。また、世界的にもこれらの高出力型蓄電デバイスの市場規模は増大の一途を辿り、産業競争力の向上にも大きく貢献することが期待できるため、環境政策と産業政策上、大きな波及効果が期待できるエネルギーデバイスである。また、大容量キャパシタをさらに高容量化できれば太陽電池やハイブリッド車などの回生電源にも使用できるため、これらの再生可能エネルギーのバックアップ電源として広範囲に用いられる可能性がある。太陽電池やハイブリッド車の市場導入は温暖化対策と大気環境改善の重要なキーテクノロジーであるため、環境政策上もさらに加速しなければならない最重要な環境技術である。
 また、これらのキャパシタ技術は産業界で広く利用されている様々なエネルギーデバイス・機器の省エネ化に貢献する。例えば、電車、エレベーターの省エネ化、工場、オフィスビル、OA機器などの省エネ化にも貢献する。生産現場だけでなく民生の広い分野でエネルギー機器の電化に貢献すると供に省エネ化を進展させることが可能である。さらに、キャパシタ電源は発火などの事故が起きえない構造となっているため他の電池技術、例えばリチウム電池などと比較して格段の安全性を有しており、震災等の緊急時のバックアップ電源などとしても利用可能であり社会環境のセキュリティー向上にも多大に貢献することが期待できる

4.委員の指摘及び提言概要

 高エネルギー密度の電力エネルギー貯蔵可能なキャパシタデバイスの開発の基礎をつくり上げたことは、高く評価できる。しかし、グラフェンの表面積は期待しているほど大きくなっておらず、また、グラフェンの最大の長所である電子物性、エネルギー物性を最大限に発揮させるための研究と当初目標としていた耐電圧型電解質の研究は不十分である。これら分野の研究者と連携した研究体制の構築により新しいタイプの電池研究の更なる進展を期待したい。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c


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研究課題名: 【B-0901】風送ダストの飛来量把握に基づく予報モデルの精緻化と健康・植物影響評価に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 西川 雅高(独立行政法人 国立環境研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究プロジェクトは、風送ダスト(黄砂・バイオエアロゾル)の大気物理・大気化学的解析、気象学的解析とモデル技術開発、生物化学的検証、動物実験学的検証を基にして、深刻化する黄砂問題に関する社会的・行政的要求に答えることを基本目的とする。それに資する具体的な研究目的は、①黄砂予報精度の向上のための実用モデル(MASINGAR)の改良、②影響評価研究のための黄砂および大気汚染粒子の混在化情報を含む飛来量、沈着量分布および発生量の定量的把握、③動物実験研究による健康被害の検証・機構解明と疫学調査による影響評価、④沈着後の健康/自然生態系に影響を与えるような風送ダスト中の微生物種の同定とその同定種の影響評価のためのサーベイ、である。また、ライダーを中心とする黄砂モニタリングネットワークデータおよび予報モデルの相互比較を目指すTEMM合意による国際研究協力への貢献も視野に入っている。

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■ B-0901  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/c-091.pdfPDF [PDF 279 KB]
※「 C-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)ライダーを中心とする黄砂モニタリングネットワークによるリアルタイム動態把握と発生・輸送・沈着の定量的解析に関する研究
 先行研究等で確立したライダーネットワークによる黄砂観測を継続的に行った。分担課題(2)と連携し、リアルタイムのデータをモデル同化するための解析処理法を確立した。同化モデルを用いて、過去の事例の発生・輸送・沈着量の定量的な解析を行った。風送ダストの組成分析を行い、それを動物実験材料として分担課題(3)に提供した。
(2)黄砂予報モデルの精緻化に関する研究
ダスト発生モデル検証のための観測システムをモンゴルに設置し、モデルパラメータ集積のための観測を行った。それら観測結果や既有のダスト飛散量データも利用して、MASINGARモデルの改善を行った。分担課題(1)や衛星による観測データの同化解析システムを基にモデル誤差情報をまとめ、全球黄砂予測モデルの誤差の大きさを明らかにした。パラメータの最尤推定値によって黄砂シミュレーションモデルの改良を行うことができた。
(3)風送ダストによる健康影響評価に関する疫学及び動物実験学的検証研究
気管支喘息モデルマウス、スギ花粉症モデルマウスを用いて黄砂のアレルギー増悪作用を明らかにしたほか、分担課題(4)が分離培養した風送ダスト中の常在細菌を免疫力低下モデル動物に投与する感染症実験も行った。また、北九州地域在住の学生とその家族を対象に黄砂日記方法による疫学調査を実施した。
(4)健康・植物影響評価のための風送ダスト中バイオエアロゾルの直接採集・分析に関する研究
 黄砂発生源地域(中国)および沈着地域(日本)における大気混合層に浮遊する風送ダスト(黄砂バイオエアロゾル)を直接採集し、分離培養同定・メタゲノム解析・DGGE解析などを駆使して黄砂バイオエアロゾル中の菌種を特定した。また、黄砂バイオエアロゾルによる植物生態系影響調査や検証実験も行った。加えて、風送ダスト中で見つかった納豆菌を用いての納豆製造や防菌マスクの考案など派生的研究成果もあった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0901
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0901.html

3.環境政策への貢献

 日中韓およびモンゴルが関与する日中韓黄砂共同研究第1作業部会(DSS-WG1)会合に、科学的知見や観測データを提供した。黄砂予測モデル精度の大幅な向上を達成し、気象庁の黄砂予報モデル改良の技術基盤を確立したことにより、気象庁・環境省共同運営の黄砂情報ホームページの黄砂予報情報の質的向上に貢献できた。また、本研究で開発された逆解析手法による黄砂発生源・発生量情報の高精度化のためには、関係諸国の観測データ共有が有効であることの意義が示され、DSS-WG1会合における東アジア各国の黄砂データの共有化を図る上で大きな科学的根拠となる。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして期待通りの成果をあげた。北東アジアの多国間の協力で黄砂現象をモニタリングし、データ解析により黄砂現象の解明に取り組んで黄砂の飛来予測システムを構築したことは、同地域の環境政策および環境管理の面で意義も高い。一方で、自動車排ガス粒子など都市域の粒子やバイオエアロゾルの影響についての吟味が十分ではなかった。今後、ネットワークの維持およびモデルシステムの精度の向上が望まれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【B-0902】黄砂現象の環境・健康リスクに関する環境科学的研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 那須 正夫(大阪大学)

1.研究計画

研究のイメージ

国境を越えた地球規模での環境問題となっている黄砂現象の実態を解明し、「科学的根拠に基づく黄砂の環境あるいは健康へのリスク評価」を行うにあたって必要不可欠な基盤的知見を集積することを目的として、「微生物のキャリアーとしての黄砂」と「微小粒子としての黄砂の生体への影響」の両面から経年的に研究を行うことにより、黄砂現象の普遍的な影響を考察する。
(1)黄砂付着微生物の微生物生態学的解析
これまでに独自に開発・応用してきた「培養に依存しない」新たな分子微生物生態学的手法を用いて、黄砂現象にともなう微生物の移動を実証する。さらに、その移動量や属種等を明らかにするとともに、微生物群集構造解析を行い、黄砂付着微生物の特徴を明らかにする。
(2)黄砂付着微生物の遺伝子生態学的解析
黄砂とともに飛来する微生物の遺伝情報解析を行う上で重要となる黄砂発生源に存在する微生物について、その遺伝学的特徴を明らかにするとともに、中国・北京市に飛来した黄砂に付着した微生物の遺伝学的特徴についても明らかにする。

図 研究のイメージ        
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(3)黄砂の環境毒性学的解析
 黄砂を「微小粒子」としての観点から捉え、黄砂およびその成分の吸引暴露後の鼻粘膜や気管・肺等における細胞内取り込みや血中への移行性などを精査する。さらに、黄砂粒子の生体に対する免疫毒性学的影響をin vitroおよびin vivoで評価する。
(4)黄砂現象の環境および健康への影響評価
 (1)、(2)において得られる黄砂現象にともなう微生物の移動量や属種に関する定量的な情報と(3)で得られる微小粒子としての生体への影響、また特性や生体内での動態に関する情報を総合し、黄砂現象の環境、生態系、そして健康への影響について検討し、その実態を明らかにする。

■ B-0902  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/c-092.pdfPDF [PDF 292 KB]
※「 C-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)黄砂付着微生物の微生物生態学的解析
日本上空(鳥取県北部および兵庫県南部の沿岸部:高度1,000〜2,000 m)で採取した黄砂について、バイオイメージングにより黄砂粒子上に微生物が付着していることを直接的に証明するとともに、黄砂とともに飛来する細菌の一部が増殖能を有していることを明らかにした。さらに、黄砂とともに飛来する細菌の現存量は、黄砂発生時には104 cells/m3であるのに対し、黄砂終息時には102 cells/m3以下になることを明らかにした。
また、16S rRNA遺伝子を標的として細菌群集構造解析を行った結果、黄砂とともに日本へ飛来する細菌種はこれまで考えられていた以上に多種多様であることを明らかにするとともに、約2,000クローンの細菌データベースを構築した。
(2)黄砂付着微生物の遺伝子生態学的解析
黄砂発生源であるタクラマカン沙漠、ゴビ沙漠、黄土高原について合計450クローンのクローンライブラリを作成し、細菌群集構造を解析した結果、乾燥地である黄砂発生源においても、多様な種の細菌が存在することを明らかにした。さらに、中国・北京市に飛来する黄砂中にも、日本と同様に多様な細菌種が存在していることを明らかにした。
(3)黄砂の環境毒性学的解析
黄砂粒子は黄土高原土壌と比較して強い起炎性を有することを明らかにするとともに、その炎症惹起メカニズムの一部を明らかにした。また、粒子径が小さくなるほど黄砂粒子の起炎性が強くなることを示した。さらに、黄砂が体内に移行する可能性を示すとともに、黄砂曝露により炎症性細胞浸潤に伴う炎症反応が肺組織で誘導される可能性を示した。
(4)黄砂現象の環境および健康への影響評価
本サブテーマおよびサブテーマ(1)から(3)により得られた「微生物のキャリアーとしての黄砂」と「微小粒子としての黄砂」の基盤的知見を総合し、黄砂現象の環境・健康への影響を考察した。その結果、微生物の面から健康へのリスクを考えた場合、黄砂とともに飛来する細菌の現存量はヒトが生活する一般的な環境の大気中の細菌現存量と比較しても同程度以下であること、加えて深刻な感染症等の起因菌は検出されていないことから、黄砂とともに飛来する細菌による感染症の発生等のリスクは低いと考えられた。その一方で、その属種については多種多様であることから、飛来地での定着や遺伝子伝播を通じて、今後も地球上の微生物生態系に影響を与える可能性が考えられる。
一方で粒子としての黄砂は、炎症を惹起するとともに、生体内に侵入し、細胞障害を起こす可能性が示され、さらに細かい粒子ほど起炎性が強くなることが明らかになった。凝集体として日本に飛来している黄砂粒子がヒトの粘膜上でさらに微細な粒子に分散する可能性も示されたことから、粒子としての黄砂は生体に影響を与える可能性があると考えられた。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0902
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0902.html

3.環境政策への貢献

本研究では、黄砂とともに飛来する細菌の現存量および多様性、ならびに黄砂粒子の生体影響に関する基盤的知見を得た。これらの成果を学術的に公表するとともに、種々のメディアを通じて一般社会に紹介し、成果の広報・普及に努めることにより、科学的根拠のない情報によって生じる黄砂現象に対する過度の社会不安を取り除き、科学的データに立脚した環境リスクのマネジメントやリスク・コミュニケーション等の政策に貢献できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究目的は重要であり、大事な研究であり、重要なデータも取られており、黄砂付着微生物の微生物生態学的解析と遺伝子生態学的解析のサブテーマ(2)は相応な成果をあげているが、黄砂の環境毒性学的解析と健康への影響評価については中間評価以降あまり進展がみられておらず、研究の本質部分すなわち健康リスク評価の結論が不鮮明で、可能性の指摘にとどまった。また、起炎性評価では、黄砂モデル粒子(シリカ粒子)ではなく、粒子ごとに組成が異なる可能性はあっても、黄砂粒子そのものを用いる方が適切ではないか。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):c


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研究課題名: 【B-0903】東アジアと北太平洋における有機エアロゾルの起源、長距離大気輸送と変質に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 河村 公隆(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究では、中国の発生源における有機エアロゾルの分子レベルでの組成・濃度と、下流域(済州島、沖縄、札幌、父島)における結果を比較することにより、越境大気汚染の日本への影響を評価する。特に、有機物の越境汚染と大気輸送中における汚染性揮発性有機物の光化学的酸化による水溶性有機エアロゾルの二次的生成の実態を明らかにする。また、放射性炭素(14C)の測定により、有機エアロゾルへの化石燃料燃焼と植生からの寄与率を評価する。本研究では、東アジアを発生源とする有機エアロゾルの北太平洋域における長期変動の傾向を解析する。中国を含めた国際的な大気汚染規制の基準作りに本研究の結果を反映させることを含めて、今後の国際的大気環境政策立案に貢献することを本研究の目標とする。
(1)中国、札幌、沖縄、済州島、父島における有機エアロゾルの分子レベル解析によるソース・起源域の特定、および、水溶性有機物 (WSOC)、無機イオンの測定とエアロゾルの雲凝結核特性の解明
 東アジア・北太平洋における有機エアロゾルの化合物レベルでの分布、季節変化、経年変化をガスクロマトグラフィー・質量分析計を用いることにより解析する。また、有機物の安定炭素同位体比(δ13C)および放射性炭素(14C)を測定し、汚染物質・植生など異なる起源からの有機エアロゾルへの寄与を評価する。

図 研究のイメージ        
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(2)エアロゾル炭素の放射性炭素(14C)測定と起源解析および個別有機物の14C測定と有機物年齢の評価
 エアロゾル粒子に含まれる放射性炭素を測定することにより、化石燃料(14Cを含まず)からの寄与と植生からの寄与(14Cを含む)の割合を計算する。これにより、汚染起源のエアロゾル炭素に寄与する割合を評価する。
(3) 沖縄辺戸岬におけるエアロゾルのサンプリングと無機成分の分析
 沖縄辺戸岬においてエアロゾル試料を長期連続的に採取し、エアロゾルの化学組成へのアジア大陸および海洋からの寄与を明らかにする。特に、中国からの越境大気汚染の実態を偏西風やアジアモンスーンの違いにより特徴付ける。沖縄における汚染物質の長距離大気輸送の経年変化を特徴付ける。

■ B-0903  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/c-093.pdfPDF [PDF 877 KB]
※「 C-093 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)中国、札幌、沖縄、済州島、父島における有機エアロゾルの分子レベル解析によるソース・起源域の特定、および、水溶性有機物 (WSOC)、無機イオンの測定とエアロゾルの雲凝結核特性の解明
 東アジアからの汚染大気の下流域である東シナ海の済州島、西部北太平洋の小笠原諸島・父島、および、汚染の影響の少ない北部北太平洋上で採取した海洋エアロゾル試料を分析し、低分子ジカルボン酸など有機エアロゾルの組成解析を行った。父島では2001年より2011年までの変動を解析した。その結果、エアロゾル炭素濃度には増加傾向は認められなかったものの、δ13Cの測定は有機エアロゾルに質的変化が起こっていることを示した。すなわち、2001年から2007年まではエアロゾル炭素のδ13C値は-24‰程度からわずかに増加傾向を示した後、減少傾向に転じた。この増加は、陸上植物起源に対する石油起源の有機物の寄与の増加を示しているのに対し、それ以降のδ13Cの減少は、化石燃料の相対的寄与が低下していることを意味している。この結果は、中国本土からの硫酸塩の排出傾向とも一致しており、化石燃料の燃焼による大気汚染が頭打ちになったか、あるいは、陸上植物起源の有機物の寄与が増加している可能性を示している。また、父島における季節変化の解析から、海洋植物プランクトン起源不飽和脂肪酸の酸化生成物であるアゼライン酸が、夏に最大濃度を示すことがわかった。一方、父島に比較して済州島での全ジカルボン酸濃度は5倍程度高いことが明らかとなり、アジア大陸近傍では人間活動の影響を強く反映することを示した。父島エアロゾルの全窒素同位体比(δ15N)は、2001年から2008年まで増加したが、それ以降2012年まで減少傾向であった。この傾向は、中国における硫酸の排出傾向とも一致しており、アンモニアと硫酸エアロゾルとの間の平衡反応における同位体分別の大きさが硫酸塩濃度によって規定されることを示している。本研究により、アジア域の人間活動が西部北太平洋の大気質を大きく変えていることが明らかとなった。また、ジカルボン酸の分子組成より、近年、西部北太平洋の大気酸化能力が増大していることが示唆された。
(2)エアロゾル炭素の放射性炭素(14C)測定と起源解析および個別有機物の14C測定と有機物年齢の評価
 札幌で採取されたフィルター試料(有機炭素)の14Cの測定結果は、56-64 pMC(%)(percent Modern Carbon)であった。pMC=100%は、炭素が生物起源であることを(植物などからの二次生成有機エアロゾルもの含む)、0%は化石燃料起源であることを意味する。また水抽出により分離した水溶性有機炭素(WSOC)についても測定を行った。WSOCは、58-110 pMC(%)の値を示し、生物起源炭素の寄与がより大きいことがわかった。また、全炭素に比べてWSOCがより生物起源に富むことが明らかとなった。有機エアロゾルの起源として、これまで考えられていた以上に植物からの寄与が大きいことがわかった。この結果は、温暖化とCO2の施肥効果による植生起源VOC排出量の増加か、大気酸化能の増大によるWSOC生成能の増加を意味する。
(3) 沖縄辺戸岬におけるエアロゾルのサンプリングと無機成分の分析
沖縄島の国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション(CHAAMS)において大気エアロゾルを採取し、水溶性化学成分を分析した。試料採取は、2005年8月に開始し、現在も続いている。自然起源化学物質濃度が減少傾向にあるにも関わらず、汚染起源の硝酸イオンの増加が顕著であり、2005年から毎年約15%増加していることがわかった。硫酸イオンの経年変化(2005〜2011)はほぼ横ばいであった。季節変動としては、11月、3月、4月に年間の約40〜60%の量に相当する大気中濃度が観測され、アジア大陸方位からやってきた気塊によって強く影響されていた。また、水溶性有機炭素(WSOC)については、春季にKイオンと強い相関を示し、東アジアでのバイオマス燃焼の影響が示唆されたが、年変化率をみると2007年をピークに減少傾向が見られ、減少率は非海塩性硫酸イオンとほぼ同程度であった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0903
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0903.html

3.環境政策への貢献

本研究の成果は、東アジアからの汚染物質が東シナ海だけでなく、西部北太平洋にまで長距離大気輸送されている実態を複数の観測サイトにおける長期変動解析から明らかにしたものである。この成果は、アジアにおける汚染有機物などの排出規制を法制化していく上での科学的根拠を提供するものであり、今後の環境政策への貢献はきわめて大きいと考えられる。エアロゾル中の有機物の14C測定は、化石燃料起源の炭素に加えて植生からのVOC由来の炭素が重要であることを明らかにした。このことは、生物起源VOCは酸化能力が増大した大気中で酸化反応を強く受け、ガスから粒子(水溶性有機エアロゾル)に変換していることを示している。これは、汚染の影響を受けた大気中で生物起源VOCが酸化を受け、水溶性有機エアロゾルに変換していることを意味しており、今後の環境政策立案の重要な議論材料を提供するものである。無機成分についても、今後継続し分析することでデータを蓄積し、近年、経済発展が著しい東アジアにおける大気質の変化を明らかにし、将来の環境政策を立案する際の基礎データを提供する必要性がいっそう明らかとなった。
済州島では低分子ジカルボン酸濃度の増加傾向は2007年までは顕著であったが、それ以降は減少傾向にあることがわかった。しかし、父島においてはその濃度には減少傾向は認められず、大気中を長距離大気輸送される間に有機エアロゾルとその前駆体は光化学酸化を受けてより水溶性のカルボン酸を生成していることが示唆された。このことは、NOxやVOCのエミッションが増加した結果、東アジアとその下流域でのオゾン濃度など大気酸化能力が増大していることを示唆しており、今後、これらの規制を更に強化する環境政策が必要とされる。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、概ね許容できる研究成果をあげた。データの解析により有機エアロゾルの起源について新しい知見を提供したことは学術的に評価でき、多くの研究論文にまとめたことも評価できるとともに、行政面での科学的な根拠としても評価できる。しかしながら、研究題目にあるエアロゾルの流れに乗った変質の定量的な解析が十分とは言えないこと、サブテーマ間の連携が十分ではない点は改善の余地がある。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b


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研究課題名: 【B-0904】アジアにおける多環芳香族炭化水素類(PAHs)の発生源特定とその広域輸送(H21〜H23)
研究代表者氏名: 高田 秀重(東京農工大学)

1.研究計画

研究のイメージ

多環芳香族炭化水素類(PAHs)は未規制の有害化学物質である。規制が行われない背景には、大気・水圏の汚染実態解明の不足と起源の多様性がある。PAHsは化石燃料やバイオマスなど有機物の燃焼に伴い生成する。また、PAHsは原油および石油製品中にも含まれる。大気・水圏へは燃焼起源・石油起源の多種の発生源からPAHsが供給されている。発生源が多様にあることがPAHsの環境負荷低減策の提案を困難にしている。本研究では、東京、沖縄、北京、ハノイ、コルカタにおいて徹底した調査を行い、アジア地域のPAHs汚染の実態を詳細に明らかにし、最新の化学的手法を総動員し、起源特定を行う。また、本研究では越境輸送起源のPAHsとローカルな発生源からのPAHsを区別することにより、PAHsの負荷削減に向けたアジア諸国の国際協調への客観的なバックグランドを与える。以下のサブテーマを設定し、研究を遂行する。
(1)バイオマス燃焼PAHsと化石燃料燃焼PAHsの識別
(2)アジア主要都市の大気水圏中PAHsの分布把握と起源特定
(3)アジア地域のエアロゾルの起源解析
(4)リモートサイトPAHsの起源解析:越境輸送の評価
(5)アジアの大気・水環境中のPAHsのリスク評価

図 研究のイメージ        
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■ B-0904  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/c-094.pdfPDF [PDF 294 KB]
※「 C-094 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)バイオマス燃焼PAHsと化石燃料燃焼PAHsの識別
堆積物中のPAHsの個別化合物放射性炭素同位体比測定を行うための精製法を確立した。コルカタ運河堆積物へ開発した手法を適用し、バイオマス燃焼の寄与率は6%〜10%と計算された。化石燃料燃焼に由来する残りの90〜94%のPAHsを、石炭燃焼とディーゼル排ガスの2種類の混合によるものと仮定し、アルキルPAHs比を用いて計算すると、石炭燃焼とディーゼル排ガスの寄与率はそれぞれ60〜65%、29〜33%と計算された。
(2)アジア主要都市の大気水圏中PAHsの分布把握と起源特定
各都市の大気中平均PAHs濃度は北京>コルカタ≫ジャカルタ≒ハノイ≒東京≒クララルンプールの順となり、北京、コルカタはアジアのその他の大都市よりも1桁〜2桁PAHs濃度が高かった。いずれの都市においてもPAHs濃度は夏季に低濃度で冬季に高濃度であった。PAHs濃度が高くなる冬季の北京については暖房用石炭燃焼の寄与が大きいことを明らかにした。熱帯アジア8ヵ国と東京の水域堆積物180試料中のPAHs濃度を明らかにし、起源推定を行った。インドと東京の堆積物は燃焼起源の特徴が強く、インドの堆積物については主に石炭燃焼起源であることが示唆された。それ以外の熱帯アジアの都市域では広く石油起源PAHsの負荷があることが明らかにされた。石油起源PAHsの発生源としては、普遍的にタイヤ摩耗物由来のPAHsの寄与があることが明らかになった。さらに、マレーシア、カンボジア、インドネシアでは廃エンジンオイルの寄与が大きいことが示された。
(3)アジア地域のエアロゾルの起源解析
北京では、人為起源のCuの影響が大きいこと、ハノイにおいては年間を通じてタイヤ摩耗粉塵等の人為的なZnの発生源があることが、考えられた。コルコタにおいてはPb濃度が極めて高く、人為起源粒子に汚染された土壌の巻き上がりが現在のコルコタにおける大気中Pbの主要な発生源ではないかと考えられた。東京では冬季と比較して夏季にVが約4倍増加しており、他の都市と異なって極めて特徴的であった。東京におけるVの起源としては重油燃焼が挙げられ、首都圏における夏季の電力需要の増加に伴う火力発電所での重油消費量の増加が原因の一つである可能性がある。
(4)リモートサイトPAHsの起源解析および越境輸送の評価
沖縄辺戸岬のPAH濃度は同時に観測された福岡、福江よりも低く、長距離輸送されていることが示唆された。秋は主に北京を中心とした中国北部から、春は韓国・日本と中国北部から約半分ずつ輸送されていた。同様の長距離輸送はインドコルカタ周辺でも観測された。また、東京では、パッシブエアサンプラーを用いた観測から、長距離輸送の影響が春先等に首都圏全体に及んでいること、夏季において広範囲にバイオマス燃焼の影響が強まること、石油燃料の揮発の影響が強まること等が組成解析から明らかになった。
(5)アジアの大気・水環境中のPAHsのリスク評価
大気の吸引による発ガンリスクは、東京では6.4×10-7〜5.1×10-5、コルカタ1.3×10-5〜1.0×10-3、北京2.3×10-5〜1.8×10-3、ハノイ1.2×10-6〜9.5×10-5となった。年間平均値において、北京やコルカタでは低い方のユニットリスクを仮定しても、リスクレベルが10-5を超えていた。水生生物への奇形リスクは、底層水での魚類奇形を引き起こす可能性のあるレベルを超える汚染地域が熱帯アジアおよび東京に広く存在していることが本研究課題の結果から示唆された。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0904.html

3.環境政策への貢献

アジア各都市の水域と大気中のPAHsの起源を推定した。今後、現地の協力研究者を通して、現地行政機関にPAHsの汚染源の推定結果を伝えることにより、本研究成果は各国の発生源対策に貢献する見込みである。各国の発生量抑制により、大気経由での長距離輸送による日本への影響の軽減につながる。

4.委員の指摘及び提言概要

 多地点で、多岐に亘る計測を実施した。PAHsの発生源特定のための起源識別指標(全31試料)の調査結果は、各地における今後のPAHs起源研究に大いに寄与できるものと考える。しかし、サブテーマ(1)を除いては、研究対象とする地域(国)が広すぎたし、サブテーマ間での研究内容や役割・分担などが不明確で、データの共有など有効活用を図るといった、プロジェクト研究としての有機性(連携)が不足している。結果として、説得力のある結論を出すことができていない。政策的な観点からは東アジアに集中した研究計画と体制を取ることが重要であったと考えられる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c
  サブテーマ(1):b
  サブテーマ(2):
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b
  サブテーマ(5):b


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研究課題名: 【B-0905】日本海域における有機汚染物質の潜在的脅威の把握に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 早川 和一(金沢大学)

1.研究計画

研究のイメージ

日本海域の多環芳香族炭化水素(2個以上の芳香環が結合した基本骨格を有する化合物、例えばbenzo【a】pyreneなど。以下PAHと略す。)類、及び難分解性有機汚染物質類(有機汚染物質の中でも特に環境中で分解しにくく長期間残存するもの、例えばDDTやダイオキシンなど。以下POPsと略す。)を対象として、これらの分析と起源・動態解析を行い、有機汚染物質の発生・輸送と海洋への負荷、並びに環境中での有機汚染物質の毒性化反応を追及し、その結果に基づいて、有機汚染マップを作成し、潜在的な脅威がどこにあるのかを明らかにすることを目的とする。研究は、次のサブテーマから構成される。
(1)日本海域のPAHsの分析と動態解析(金沢大学)、(2)日本海域のPOPsの分析と起源推定・動態解析(兵庫県環境研究センター)、(3)日本海域の有機汚染物質の発生・輸送と海洋への負荷(アジア大気汚染研究センター)、(4)環境中での有機汚染物質の毒性化反応(金沢大学)。

図 研究のイメージ        
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■ B-0905  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/d-091.pdfPDF [PDF 992 KB]
※「 D-091 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)日本海域のPAHsの分析と動態解析
①環日本海諸国のうち中国の都市は、PAH、NPAH濃度が他国より著しく高いうえ、【冬】/【夏】値は日本より大きいことから主要発生源が異なることが明らかになった。
②【NPAH】/【PAH】値から、日本の主要排出源は自動車、中国東北地方は石炭燃焼施設であった。近年、日本と韓国のPAH、NPAH濃度は減少し、自動車排出ガス対策が奏功したが、中国とロシアでは増加の都市も多く、東アジアの急激な変化の追跡が必要である。
③能登半島の大気中PAH、NPAH濃度は10月中旬に上昇し始め、その後高レベルを維持し4月中旬から減少して元に戻る季節変化を繰り返した。高濃度時期は中国の石炭暖房期間であり、後方流跡線はこの時期の空気塊の中国東北地方通過を示した。更にPAH、NPAH組成は瀋陽に類似した。以上より中国から能登半島へのPAH、NPAH飛来がわかった。
④日本海のPAH濃度はロシア側より日本側が高く、表層より中層が高かった。海洋沈着量シミュレーションを行った結果、日本海へのPAH負荷は海流(対馬海流)由来と大気由来が同レベルで著しく大きく、海流由来の主要発生源として揚子江が疑われた。
(2)日本海域のPOPsの分析と起源推定・動態解析
①HCHs、HCB、DDTs、Drin、Chlordaneは主に溶存態で、HCHsが最高濃度を呈した。
②HCHs濃度は揚子江下流域が最高で、北海道周辺も高かった。日本海では低緯度ほどα/γ比が減少し、理由として中国南部の殺虫剤(Lindane)使用が考えられた。エナンチオマー比(EF = (+) / ((+) + (-))は高緯度ほど減少し、揚子江の汚染源が推察された。
③DDTs濃度は対馬海峡北部(韓国の海洋投棄区域周辺海域)で高かった。
④塩素系難燃剤デクロランプラスは対馬海峡周辺で濃度がやや高かった。
(3)日本海域の有機汚染物質の発生・輸送と海洋への負荷
①9種PAH排出インベントリ(2000-2005)を作成した。benzo【a】pyrene(BaP)の年間排出量は中国東北部で高く、冬季に中国中央地方〜東北地方で増加した。主要因として石炭暖房が考えられ、中国の研究グループが報告した排出量と概ね一致した。
②能登半島における実測値(サブテーマ1)とモデル値は良く一致した。中国・北京でも観測値とモデル値が概ね合っており、モデルは2地点の季節変動や濃度差を良く再現した。
③排出インベントリ(REAS-POP)及び大気化学輸送モデル(RAQM-POP)を用いた東アジアの大気BaP濃度と沈着量のシミュレーション計算から、冬季に中国北東部〜中東部のBaPが日本列島に輸送される状況が示された。また、大気沈着したPAHsが海流によって日本海域に拡散される結果が得られた。
④能登の大気中BaPの発生源は、冬〜春の中国北〜中部のバイオ燃料燃焼、石炭燃焼、石炭の物質転換由来が支配的であった。東シナ海では近傍発生源の寄与が高く、韓国、日本、日本海では冬の中国からの長距離輸送の寄与が高いことが示された。
(4)環境中での有機汚染物質の毒性化反応
①PAHの水酸化体(OHPAH)やキノン体(PAHQ)のGC-MS/MS分析法を開発し、大気中から初めてのものを含むOHPAH16種及びPAHQ15種を同定した。
②富山湾の魚胆汁中OHPAH濃度は他の海域のものより低かった。
③酵母two-hybrid法を用いて、いくつかのOHPAH及びPAHQはエストロゲン様活性又は抗エストロゲン活性を示すこと、しかも同じ作用機序の可能性が大きいことを見出した。
④通常ウロコより骨芽細胞および破骨細胞の活性が高い再生ウロコを用いて、100倍以上高感度な化学物質影響評価アッセイ系を開発した。
⑤再生ウロコアッセイ系で低濃度OHPAH(4-hydroxybenz【a】anthracene)の抑制作用を検出した。PCB類もエストロゲン様作用があり、魚骨代謝をかく乱する可能性が判明した。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0905
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0905.html

3.環境政策への貢献

①運営する日本、中国、韓国、ロシアモニタリングネットワークは本国際共同調査研究の大きな推進力で、環境施策に関する国際的な枠組み形成にも大いに貢献できる。
②日本海域のPAH、NPAH挙動の研究は、国毎に異なる効果的な排出抑制施策の立案に有効な情報を提供した。また、東アジアのPAH、NPAH汚染の将来予測を可能にした。
③日本周辺海域のPOPs汚染マップは、国の汚染防止対策に活用が期待できる。更に、沿岸域・海域総合統合管理(ICARM)等の国際的な政策や環境基準作成に寄与できる。
④日本海域におけるPAHs、POPsの汚染負荷量情報は、長距離越境大気汚染条約(CLRTAP)の下に設立された大気汚染物質の半球規模輸送に関するタスクフォース(TF-HTAP)が2015年に作成予定の評価報告書に貢献が見込まれる。
⑤OHPAH及びPAHQ等の高感度分析法は、環境基準策定や毒性化反応解析に不可欠なツールであり、バイオアッセイの成果は生態系やヒトへのリスク評価に活用できる。

4.委員の指摘及び提言概要

研究はほぼ当初計画通り順当に遂行され、一部のサブテーマは期待を上回る成果をあげている。POPsのみならずPAHsを含むPOPs候補物質に注目して、日本海域における大気、海洋、陸域の汚染実態と動態、発生源解析、毒化プロセスについて解明した成果は国際級の業績であり、国内外への学術的波及効果は大きい。また、新規POPsに関するストックホルム条約の締約国会議等においても本研究で得られた情報の活用が見込まれる。これらの成果を政策提言につなげ、成果を眠らせないための次の方向性が示されるとよい

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
  サブテーマ(1):a
  サブテーマ(2):a
  サブテーマ(3):a
  サブテーマ(4):a


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研究課題名: 【B-0906】東シナ海環境保全に向けた長江デルタ・陸域環境管理手法の開発に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 木幡 邦男(独立行政法人 国立環境研究所)開始〜H23年9月まで
越川 海(独立行政法人 国立環境研究所)H23年10月〜終了まで

1.研究計画

研究のイメージ

将来に亘る東シナ海環境の保全のためには長江流域からの汚濁負荷レベルの適切な管理が求められる。本研究では流域汚濁発生と海域生態系応答に関する数理モデル構築とそれらを用いた陸域負荷削減施策の効果の事前予測のための科学的枠組みを提示することを目的とする。
(1)長江起源水による東シナ海生態系の変調把捉に関する研究
東シナ海陸棚域の海洋調査及び過去10年程度の既往観測データの解析によって、中国沿岸環境の劣化が陸棚域の水質・生態系へ及ぼす影響・メカニズムを明らかにする。

図 研究のイメージ        
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(2)長江デルタの農業構造転換に伴う陸域負荷構造の変化に関する開発地理学的研究
長江デルタの農業地域からの汚濁負荷発生構造の変動に関する開発地理学的フィールド調査、データベース構築、統計データ解析を行い、汚濁負荷制御に有効な操作変数を明らかにする。
(3)①長江中下流域都市活動起源の栄養塩負荷量の推定に関する研究
長江水質観測データを用いて陸域の水・物質循環モデルの検証を行い、長江本流の汚濁負荷の定量評価を行う。長江デルタの栄養塩動態データベースを構築し、中国環境政策と汚濁負荷動態の関係を解析する。サブテーマ(4)で行う東シナ海環境再現や将来予測にこれらの知見を提示する。
(3)②長江デルタの生活様式変化に伴う陸域負荷構造の変化に関する研究
長江デルタの農村部における都市化が農業生産活動と生活様式に及ぼす影響の結果として惹起される汚濁負荷の発生構造の変化を現地調査結果と栄養塩収支モデルを用いて検討する。
(4)東シナ海生態系保全に向けた長江流域圏及び海域環境管理手法の開発
サブテーマ(1)と共同で行う海洋観測や室内培養実験で得られる水質・生態系情報に基づく3次元流動生態系モデル開発を行う。サブテーマ(2)・(3)が解析する陸域負荷情報との統合により、陸域人間活動の変化が東シナ海環境に及ぼす影響を評価し、負荷削減施策の効果を予測する手法を提示する。

■ B-0906  研究概要
href="http://www.env.go.jp/houdou/gazou/11490/d-092.pdfPDF [PDF 399 KB]
※「 D-092 」は旧地球環境研究推進費における課題番号


2.研究の実施結果

(1)長江起源水による東シナ海生態系の変調把捉に関する研究
研究期間中の東シナ海観測と研究開始前に取得した1970年代以降の栄養塩、2000年代の低次生態系データの時系列解析により、近年の陸棚域での渦鞭毛藻優占化と長江希釈水影響域のPO4-P濃度の著しい低下傾向を明らかにした。定点連続観測では渦鞭毛藻の日周鉛直移動が観測され、栄養塩環境変化と併せて渦鞭毛藻優占化進行の要因であると考えられた。観測に基づく水質・生態系情報は、サブテーマ(4)で構築した流動生態系モデルの検証に基礎データを与えた。
(2)長江デルタの農業構造転換に伴う陸域負荷構造の変化に関する開発地理学的研究
長江デルタの汚濁発生・水質汚染発生状況と農業関連要素の変化には明瞭な対応関係が存在し、且つデルタ内の農業構造の変容段階には地域差があることを明らかにした。上海市、蘇州市、嘉興市の比較では、工業、農業、都市化の複合的な再編が進む嘉興市において水質汚染発生が著しく、環境管理を効果的に進める上での地域変化のメカニズム評価の重要性が指摘された。
(3)①長江中下流域都市活動起源の栄養塩負荷量の推定に関する研究
水・物質循環モデルにより2001〜2010年の東シナ海への河川水、N、P流出量の再現を行った。1980年代比でNO3-N流出量は約3倍に相当したが、2000年代の顕著な増加はなかった。全流域に対するデルタ域からのN負荷は約10%、P負荷は約15%に相当した。中国環境政策の解析から農業セクター(特に畜産排水)の制御が負荷削減に効果的であることが示された。
(3)②長江デルタの生活様式変化に伴う陸域負荷構造の変化に関する研究
都市化に伴う農産業構造・生活様式の変化が長江デルタ窒素循環に及ぼす影響を統計情報と現地アンケート調査により解析した。2000年以降、上海市地域からの化学肥料由来負荷は減少したが、農業生産の郊外シフトによりデルタ域の総負荷量はむしろ拡大したことが鮮明となった。
(4)東シナ海生態系保全に向けた長江流域圏及び海域環境管理手法の開発
サブテーマ(2)・(3)で解析した2000年代の陸域汚濁負荷に対する東シナ海低次生態系の応答再現と中国環境政策の解析結果を根拠とする汚濁負荷削減効果の予測を行った。その結果、長江河口域や黄海での赤潮抑制の有効性が予見されたが、陸棚での渦鞭毛藻優占化の抑制は限定的であり陸棚生態系の外洋起源栄養塩への依存度の高さが示唆された。近年の東シナ海陸棚域生態系の変化は必ずしも長江由来の汚濁負荷の影響のみに帰することができないことが指摘された。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0906
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0906.html

3.環境政策への貢献

サブテーマ(3)-1)の分担者は陸域負荷総量規制を担当する環境省水・大気局と中国環境保護部汚染物排出総量規制局の共同WGに参画し、また国立環境研究所と中国長江水利委員会の共同で技術交流シンポジウムを開催した。両国の研究者・政策担当者に本課題で得られた科学的知見を提供することで環境政策に貢献した。東シナ海では赤潮発生や大型クラゲ大量出現が観測されるなど環境変化が明らかである。今後も課題代表者らが委員を務めるPICES、NOWPAP等を通じアジア海洋環境政策に科学的知見を提供し、また水産研究分野でも有害生物による漁業被害の防止を目的とした保全対策検討や東アジアのモニタリングネットワーク策定等に貢献していく。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、概ね許容できる研究成果をあげた。東シナ海の赤潮発生と栄養塩の変動を長江流域からの汚濁負荷のデータと海洋観測データおよび既存のデータにより解析した点は評価できる。しかし、陸域負荷に関しては現状把握に止まっており、研究課題にある陸域環境管理手法には至っていない。また、サブテーマ間の連携は十分とは言えない。研究成果を論文やシンポジウムの開催など公表することが望まれる。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
  サブテーマ(1):b
  サブテーマ(2):b
  サブテーマ(3):b
  サブテーマ(4):b


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研究課題名: 【B-0907】揮発性有機化合物の低温完全燃焼を実現する新しい環境浄化触媒の開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 今中 信人(大阪大学)

1.研究計画

研究のイメージ

活性が高く、悪臭成分や可燃成分を発生させることなしに炭酸ガスと水蒸気に完全燃焼でき、しかもメンテナンスを不要とする簡素な構成の、『安全で安心して用いることができる』、全く新しいVOCの完全燃焼触媒を開発する。
(1)触媒の調製・活性評価・最適化に関する研究
代表的な揮発性有機化合物であるエチレン、トルエン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドを対象に、150°C程度の温度において、大気中の酸素により炭酸ガスと水蒸気に完全燃焼可能な新しいVOC完全燃焼触媒を開発する。また、共存が予想される一酸化炭素やメタンの燃焼活性についても同時に評価する。

図 研究のイメージ        
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(2)触媒の基礎物性評価、及び触媒の精密分析と高活性発現の機構解明に関する研究
高活性触媒開発の鍵となる、触媒の構造、組成、活性な酸素分子の発生温度などの基礎物性を調べ、VOC燃焼に対して最も効果的な条件を明らかにする。また、開発された触媒に対して、様々な分光学的手法を用いた精密分析を行い、VOCの完全酸化に対して高い活性が発現する機構を明らかにする。
(3)共存ガス存在下での評価と試作品の作製に関する研究
水蒸気や炭酸ガスなど、大気中に共存するガスの影響について調べ、触媒の劣化の有無や耐久性を評価し、最適化された触媒と小型循環型の空気清浄機を組み合わせたVOC処理装置を試作(委託外注)する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

 固体結晶化学と固体電解質(イオン伝導性固体)の設計指針を触媒調製に組み込んだ全く新しい発想に基づき、低温で高い酸素貯蔵・放出能を示すCeO2–ZrO2–Bi2O3及びCeO2–ZrO2–SNO2複合酸化物を開発した。これらの複合酸化物と、白金超微粒子、及び高比表面積アルミナ(γ-Al2O3)を組み合わせた新しい触媒を設計すると、揮発性有機化合物の酸化反応が促進されることを明らかにした。その結果、代表的な揮発性有機化合物であるエチレン、トルエン、アセトアルデヒドに対し、それぞれ55°C、110°C、140°Cにおける完全燃焼浄化を実現した。
さらに、触媒担体の酸素放出能を向上させることにより、従来触媒に比べてPtの使用量を5分の1に低減しても、従来触媒(170°C)よりも低温(160°C)でトルエンを完全燃焼できることを明らかにした。
また、開発触媒を用いることにより、共存が予想される一酸化炭素は室温(20°C)以下で完全に酸化されることを明らかにした。この触媒を150時間連続使用しても、水蒸気の有無に関わらず、一酸化炭素の燃焼活性が全く低下しないことから、開発触媒が極めて耐久性に優れることを明らかにした。
通常のVOC燃焼触媒は、共存ガスが存在すると、触媒活性点が被覆され、浄化性能が著しく低下することが課題となっていたが、本委託事業により開発された触媒においては、水蒸気や炭酸ガス共存下においてもその浄化性能はほとんど影響を受けないことを明らかにした。
さらに、開発された触媒を組み込んだVOC処理装置を試作した。本装置は40畳用の大型装置でも50万円以下の価格設定であり、現在、対応が困難な中小企業での利用が期待できる。また、光触媒との性能比較を行ったところ、本事業で開発した触媒は、光触媒に比べて著しくエチレン分解活性が高いことが明らかとなった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0907
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0907.html

3.環境政策への貢献

 民間企業数社と連携を組み、研究成果の実用化を目指しているところであり、開発触媒を用いたVOC処理装置の試作まで至っている。また、連携民間企業の内、1社とは共同研究に発展し、本学との共願で特許出願を行った。

4.委員の指摘及び提言概要

 従来法に比し、低温でVOCを完全に燃焼でき、かつCO2や水蒸気などの共存物質の影響を受けない触媒を開発し、その性能特性を各種VOCについて確認した。また、開発した触媒を用いて、10畳用、40畳用実用化試験装置を試作し、光触媒方式より効果が大きいことを実証した。しかし、研究の当初目的である排ガス中のVOCを処理するシステムを設計、製作するために必要なデータはまだ十分に示されていない。また、0℃の飽和水蒸気圧は20℃では相対湿度25%くらいなので、湿度の影響を判断するには、実際の作業空間でのデータも欲しい。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【B-0908】降雨に伴う流量増大時の栄養塩多量流入に対する内湾生態系の応答に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 井上 隆信(豊橋技術科学大学)

1.研究計画

研究のイメージ

三河湾の湾奥部を対象にして研究を実施し、下記の4つのサブテーマを設定し研究を実施する。
(1)流域からの流入負荷機構の解明に関する研究
降雨時に流量増加時から低減時までの降雨時調査を実施する。総量規制に用いられているポイントソースからの負荷及び調査で得られた流出負荷から、降雨に伴う流量増大時に三河湾の流入負荷を発生源別に推定する。年数回の観測を実施し、降雨時の負荷量変化が再現可能な流入負荷モデルを開発し、三河湾のシミュレーションモデルに組み込む。

図 研究のイメージ        
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(2)栄養塩循環及び赤潮・貧酸素水塊発生機構の解明に関する研究
降雨前後に三河湾における栄養塩濃度分布、赤潮・貧酸素水塊の発生状況の調査を実施し、栄養塩の湾内での3次元的な広がりを把握する。調査結果を用いて時間的な変化が再現可能なシミュレーションモデルを構築する。
(3)アマモ場・アサリ漁場の水質浄化機構の解明に関する研究
降雨前後にアマモ場、アサリ漁場の調査を実施し、降雨に伴う流量増大時の懸濁物質の流入による影響の調査を行う。また、アマモ場、アサリ魚場における栄養塩除去能、アマモ場における酸素供給能を現場調査等により把握する。
(4)赤潮、貧酸素水塊の発生抑制手法の提案に関する研究
栄養塩挙動と赤潮、貧酸素水塊発生予測のシミュレーションモデルを用いて、種々の対策を実施した場合の効果を検証し、効果的な抑制手法の提案を行う。また、赤潮、貧酸素水塊発生予測が可能かの検証を行う。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

(1)流域からの流入負荷機構の解明に関する研究
三河湾東奥部(渥美湾)に流入する河川の流域面積は、豊川が70%と大部分を占めており、次に大きい梅田川でも4%である。豊川のT-N負荷量の比率は流域面積比率より小さく31%、T-Pではさらに小さく8%であった。これに対して、梅田川はT-N負荷量で11%、T-P負荷量で12%とT-Pでは豊川より大きくなった。環境省の平成16年度発生負荷量等算定調査報告書から求めた各河川の発生負荷量の算定値と比較すると、降雨時を考慮した流出負荷量は発生負荷量よりも大きくなり、現在の原単位による発生負荷量は過小評価の可能性があることがわかった。
 栄養塩流出負荷シミュレーションモデルは、水分流出モデルにより計算した各層からの水分流出量の濃度を与え、溶存態、懸濁態別に算定可能な構造とした。概ね精度よくT-N、T-P負荷量を算定できる流出負荷モデルを構築した。
(2)栄養塩循環及び赤潮・貧酸素水塊発生機構の解明に関する研究
三河湾における観測の結果、降雨に伴う出水の後、わずか2日前後でプランクトンが急増して赤潮となり、5日後には枯死し、9日目には無機化に至る変化を観測できた。夏季の渥美湾の底層では、DO濃度は無酸素状態から過飽和状態まで急激な変化をしており、夏季の浅海域の水質変化は東西方向の水塊移動の影響を大きく受けていることが示唆された。
これらの濃度変化を再現可能なシミュレーションモデルを構築し、再現性について検討した結果、水温については、計算値と観測値は概ね整合した結果となり、7-8月の成層した水塊の状況から9月に混合していく様子が再現された。塩分については、表層は一部不一致も認められるものの、概ね河川流量に応じた変化を示しており、地点ごとの特徴が合理的に再現されていた。出水時においても、河川からの淡水が湾口に向かい拡散している様子が再現できた。
(3)アマモ場・アサリ漁場の水質浄化機構の解明に関する研究
 観測と聞き取り調査結果から、三河湾のアマモ場は、基本的には多年生の生活史を呈していた。冬季において栄養株が消失した場合でも、実生株から地下茎を伸長させ、濃密なアマモ場が急速に回復し、夏季においても場所によっては維持され、冬季には栄養株として残存していた。アマモは、地下茎をアサリ等の埋在性二枚貝類に絡ませて残存しているものと考えられた。開放性の高い海域であれば形成されたアマモ場は夏季においても維持され、栄養塩を吸収し、貧酸素水塊発生抑制に寄与するものと考えられる。三河湾におけるアマモの生息適正水深は、おおむね3m以浅で、総面積55km2であった。これらの結果を基にして、アマモ場を含む干潟再生可能地域を算定するとともに、アマモとアサリによる栄養塩除去能を推定した。
(4)赤潮、貧酸素水塊の発生抑制手法の提案に関する研究
赤潮、貧酸素水塊の発生抑制手法の一つとして、河川からの負荷量が半減することを仮定し、河川における栄養塩と有機物の負荷量を1/2に設定した。計算結果では、出水時にDINの減少がみられ、その時期にChl-aやDOも減少した。また、出水時の変化分布によると、豊川河口においてChl-aは最大10μg/L程度、梅田・柳生川河口において最大4μg/L程度減少した。アマモ場を含む干潟を、造成可能な場所で造成したシナリオの結果では、造成干潟域における懸濁物食者による有機懸濁物の除去および栄養塩排泄により、全体的にChl-aが減少し栄養塩が増加する結果となった。それらに伴い、底泥への有機物の沈降が減少するものと予測され、特に豊川河口付近でDOが増加する結果となった。また、出水時の変化分布によると、豊川河口においてChl-aは最大6μg/L程度、梅田・柳生川河口において最大2μg/L程度減少していた。これらの結果から、流域からの栄養塩流入負荷の削減と、アマモ場を含む干潟再生が、赤潮、貧酸素水塊の発生には有効であることがわかった。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0908
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-0908.html

3.環境政策への貢献

国土交通省中部地方整備局が事務局で、環境省も加わっている伊勢湾再生会議において、本研究結果を受けて降雨時の流出負荷が重要との認識になり、伊勢湾流域陸域モニタリング計画の策定に本研究成果が貢献し、実際に伊勢湾に流入する一級河川での降雨時流出負荷調査が実施されている。三河湾内の豊川河口域は生態系にとって重要な場所であると認識されており、生態系シミュレーションモデルを用いて負荷量の削減とアマモ場を含む干潟の造成が、赤潮、貧酸素水塊の発生抑制に有効であることを示すことができ、これらの結果は、「健全な伊勢湾」、「活力のある伊勢湾」を再生するための科学的裏付け根拠として利用できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、期待通りの研究成果をあげた。降雨前後の内湾の水質変化測定データを解析し、コンパートメントモデルによるシミュレーション手法を用いてアマモ等の水質浄化機能を解明したことは高く評価できる。しかしながら、これらの結果に基づいた適切な抑制手法の提案が十分とはいえない。このために、環境政策への貢献や社会的波及効果が見えにくくなっており改善が必要である。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【B-0909】リモートセンシングを活用した水域における透明度分布の高頻度推定手法の開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 福島 武彦(筑波大学)

1.研究計画

研究のイメージ

(1)リモートセンシング手法による衛星画像から透明度の推定方法の確立
様々な水域を対象に、いくつかのモデルにより透明度分布を推定し、(2)の測定結果との比較を行うことから、それぞれの手法の精度を評価する。また、衛星画像と現地での反射スペクトルの比較などから、Case-II水域(藻類だけなく、無機濁質なども光学特性に影響を及ぼす水域)における大気補正の方式を確立する。さらに、様々な水域で透明度変化に及ぼす環境変動を解析し、透明度予測モデルを作成するとともに、(4)の水質改善手法の提案に役立つようにする。

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(2)現地での光消散係数の連続測定と実験室での固有光学特性の測定
波長別消散係数を測定できるシステムを、霞ヶ浦湖心等にある水質測定タワーに数週間設置し、連続測定を行う。また、様々な湖沼、内湾で定期的に水サンプルを採取し、実験室において、植物プランクトン、無機濁質、溶存有機物各成分の分光吸収、散乱係数といった固有光学特性(IOP)を測定するとともに、透明度などの見かけ光学特性(AOP)を測定する。これらをもとに、透明度測定のために各水域で測定すべきIOP、 AOPなどの基本水質特性を明らかにする。
(3)衛星画像による透明度、藻類、無機濁質、溶存有機物の分布の推定
MERISといった高頻度衛星画像を利用し、(1)、(2)で得られたモデル、基本粒子特性をもとに水質分布を推定し、実測値との比較を行う。
(4)水質改善対策の提案、および水質指標としての評価
各水域のIOP、 AOP、及び植物プランクトン、無機濁質、溶存有機物濃度、といった情報をもとに、透明度改善のために有効な対策が何であるかを明らかにする手法を確立し、いくつかの湖沼、海域で例示する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

水質モニタリング経費の削減、水質改善の対策案の提示などを目的として、リモートセンシング手法により湖沼、内湾での透明度、藻類、無機濁質、溶存有機物の分布を高頻度に推定する方法を開発した。
(1)リモートセンシング手法による衛星画像から透明度の推定方法の開発
様々な水域を対象に、いくつかのモデルにより透明度分布を推定し、測定結果との比較を行うことから、それぞれの手法の精度を評価した。また、衛星画像と現地での反射スペクトルの比較などから、大気補正の方式を提案した。
(2)現地での光消散係数の連続測定と実験室での固有光学特性の測定
波長別消散係数測定システムで連続測定を行った。また、様々な湖沼、内湾で定期的に水サンプルを採取し、実験室において、植物プランクトン、無機濁質、溶存有機物各成分の分光吸収、散乱係数といった固有光学特性(IOP)を測定するとともに、透明度などの見かけ光学特性(AOP)を測定し、データベース化した。また、トリプトンの測定方法を開発した。
(3)衛星画像による透明度、藻類、無機濁質、溶存有機物の分布の推定
MERISといった高頻度衛星画像を利用し、(1)、(2)で得られたモデル、基本粒子特性をもとに水質分布を推定し、実測値との比較を行って良好な結果を得た。
(4)水質改善対策の提案、および水質指標としての評価
透明度改善のために有効な対策が何であるかを明らかにする手法を確立し、いくつかの水域で例示した。また、水域の光環境を表現する項目のいくつかについて、測定方法、精度、意味するもの、などの観点で比較した。

成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

霞ヶ浦に対しては、茨城県と衛星画像解析データを茨城県環境科学センターのホームページに公開することで合意し、こうしたデータを環境研究機関での活用への道を拓いた。また、霞ヶ浦、琵琶湖の長期モニタリングデータを用いて、Chl-a、トリプトン、CDOM濃度と透明度の逆数との関係から統計モデル、解析モデルを構築した。こうしたモデルを用いると3成分の透明度への寄与割合を定量的に計算できることになり、対象水域の透明度改善に向けてどのような施策が有効であるかを科学的に提示できるようにした。また、透明度等、水域の水環境を表現する指標の特性を明らかにして、透明度を環境基準項目とする場合に注意すべき事項を示した。

4.委員の指摘及び提言概要

 湖沼や海域の水質環境基準として「透明度」に注目し、関連の物理的、生物学的、化学的環境要因との関係を解析してリモートセンシング技術に適用し、その測定手法を体系化する試みは、ほぼ計画通り順当に遂行され相応の成果を得ている。広域、高頻度、高精度のモニタリングが可能な水環境監視手法を大きく前進させた本研究成果の行政的価値と社会的意義は評価できる。しかし、実用に供するには、まだ不十分な点があり、光学など多分野の研究者を動員した研究のもう一歩の推進が待たれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【B-0910】現地観測データとGISの統合的利用によるアマモ場の生態系総合監視システムの構築(H21〜H23)
研究代表者氏名: 仲岡 雅裕(北海道大学)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究では、沿岸生態系の重要な構成要素であるアマモ場を対象に、現地観測データとリモートセンシングデータを統合したGISデータベースを作成し、これをもとに環境・生物多様性・生態系機能間の関連性解析を行うことにより、アマモ場の生物多様性と生態系機能の広域かつ長期にわたる変動を監視するシステムを構築する。本研究は、下記のサブテーマから構成される。
(1)広域情報データベースの基盤整備
野外観測と広域空間情報を統合した階層的なGISデータベースを作成し、アマモ場の変動を広域かつ長期的に把握するとともに、サブテーマ(2)の結果を合わせ、アマモ場の生物多様性と生態系機能を広域的に評価する。

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(2)アマモ場の生物多様性と生態系機能の関連性解析
アマモ場の生物多様性との主要機能の関係を、統計的手法や、野外・室内の操作実験等により解明する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

(1)広域情報データベースの基盤整備
設計・作成した統合データベースにアマモ場に関する各種空間データ、統計・表データを入力・登録し、また、公開版データベースを作成・公開した。さらに、リモートセンシング情報よりアマモ場を高解像度で判別する手法を開発し、それにより調査地のアマモ場の長期変動を明らかにした。アマモ場の生態系機能の空間評価については、アマモ自身の生態系機能、動物のアマモ場利用様式、およびサブテーマ(2)で解析した動物の種多様性・現存量の広域評価結果を合わせた統合評価法を開発した。
(2)アマモ場の生物多様性と生態系機能の関連性解析
アマモの生長量と水深勾配の関連性を検討すると共に、アマモの諸機能を簡易的に評価する手法を開発した。アマモ場における野外調査では、アマモの形態形質がアマモ場の動物群集の生物多様性・生物量に大きく影響していることが判明した。屋外水槽および野外実験により、アマモの形態形質の変異をもたらす環境要因を検討し、流速条件が重要であることを明らかにした。これらの成果をもとに、主要3海域における動物群集の生物多様性および生物量の空間分布を評価し、サブテーマ(1)の統合解析にデータを供出した。

成果イメージ図

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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-0910
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3.環境政策への貢献

本事業により、アマモ場に関する既存のさまざまな異なるタイプのデータソースを階層的に整理・検索することが可能になり、今後の多方面にわたる社会的なニーズに応じて、必要な情報を効率的に検索、利用するための基盤が整った。本システム、およびそれを利用して解析した成果は既に環境政策に関連する多数の事業・研究プログラム(「地球温暖化観測推進ワーキンググループ報告書」、「藻場・干潟の炭素吸収源評価と吸収機能向上技術の開発(水産庁地球温暖化対策推進費委託事業)」、「重要生態系監視モニタリング推進事業・沿岸域調査(環境省)」、「漁場環境・生物多様性評価手法等開発事業(水産総合研究センター)」、「藻場の資源供給サービスの定量・経済評価と時空間変動解析による沿岸管理方策の提案(環境省・環境研究総合推進費)」、「アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究(環境省・環境研究総合推進費)」等)に適用され、実績を挙げつつある。また、2011年3月に発生した東日本大震災において激甚な被災を受けた沿岸域の被害状況の把握と影響評価を行う水産庁、文部科学省、環境省の各事業において、本研究の手法を用いた解析が行われている。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして期待通りの研究成果が得られた。国内の3か所のアマモ場を研究対象とし、特に北海道東部の厚岸湖を中心としてデータベースを作成し、GISデータベースを活用して生態系統合監視システムを構築した。その成果はWeb上に公開され、多くの事業や研究プログラムに適用されている。今後、国内外の関連する研究との対比を行うとともに、システムで用いたパラメータの選定やそれらのチューニング等による改善が必要であろう。

4.評点

   総合評点: A    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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研究課題名: 【B-0911】ゼオライトろ床と植栽を組み合わせた里川再生技術の開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 木持 謙(埼玉県環境科学国際センター)

1.研究計画

研究のイメージ

浄化効率や維持管理性等の浄化施設の視点と、水生生物等の生息場所(=形状も含む)としての有効性等のビオトープの視点から研究開発を進める。また、他サイトへの適用も見据えた仕様設計のための知見を蓄積する。施設の維持管理や生物観察会への学校や地域住民の参加を積極的に促し、地域で持続可能な技術をめざす。
(1)ゼオライトろ床・植栽活用型里川再生技術の開発と浄化特性の解析評価
 ゼオライト成形体を、水質改善のための接触材や水生植物の植栽基盤材として導入する。水質浄化特性については、窒素および有機物除去を中心に、流入負荷に対する除去率・速度、物質収支等を解析評価する。また、ゼオライト成形体表面に形成される生物膜の遺伝子解析等を行い、細菌叢と浄化メカニズム等について解析評価するとともに、浄化性能向上を図り技術の設計を行う。

図 研究のイメージ        
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(2)ゼオライトろ床・植栽活用型里川再生技術の維持管理手法の開発
 植栽による懸濁物質の捕捉を中心とした汚泥の蓄積機構の解明と、適切な回収方法について検討する。汚泥や植物体の回収と堆肥等の資源化手法の簡易化・効率化を中心に、専門知識・機材等を必要としない、住民等で対応可能な方法を模索する。さらに、本技術の運転・維持管理にかかるエネルギー消費特性について、従来型技術との比較を行い、その導入効果等について検討する。
(3)水生生物生息場所の創造と導入効果の解析評価
 単なる水質改善技術ではなく、ビオトープ技術としての位置づけが大きいことから、水生生物、特に魚類の生息場所として適切な資材・機材とその導入手法について研究開発する。水質改善効果と併せて、魚類を中心とした生物相の変遷について追跡・解析する。これまで実施してきた調査研究で得られた知見を活かし、生息生物の多様性の視点から解析する。特に魚類の生息環境という視点から、ライフサイクルリスクアセスメント(LCRA)を適用し、魚類が再生産可能な技術の構築へとフィードバックする。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]


2.研究の実施結果

(1)ゼオライトろ床・植栽活用型里川再生技術の開発と浄化特性の解析評価
 水質浄化技術としての研究開発の結果、最終年度に構築した里川再生技術基本仕様案では、浄化時間1時間程度でBODおよび全窒素(T-N)の除去能がそれぞれ50%および20%と、BOD除去能は年間を通じて当初目標をほぼ達成できた一方、T-N除去能は冬季は達成できたもののさらなる改善が必要と考えられた。また水質浄化の概念として、溶解性BOD→懸濁態BOD、NH4-N(水生生物に有害)→NO3-N(より無害)といった“物質変換”、“毒性低減”の目標の導入が望ましいことが示唆されたとともに、里川再生技術基本仕様案では、これらの視点からの目標水質(BOD:5mg/L、NH4-N:3mg/L)がほぼ達成できた。
微生物学的な視点からは、ゼオライト成形体表面には、非常に多様性に富んだ生態系が創出されており、ゼオライト成形体は、河川の直接浄化技術における接触材としての十分な機能を有することがわかった。その一方で、ミクリ等の水生植物の硝化細菌群保持能力が非常に大きかったことから、里川再生技術を導入する上では水生植物の活用が重要であり、植栽基盤材としてのゼオライト成形体との組合せが特に効果を発揮すると考えられた。
(2)ゼオライトろ床・植栽活用型里川再生技術の維持管理手法の開発
里川再生技術の設計・施工にあたってはエリアコンセプト(例えば、せせらぎ、植栽、渕)を明確にし、その環境を維持することを主眼に維持管理を行うのが効果的であること、また底泥の溜まるエリアを積極的に設定するのも管理上現実的であること等が導出された。また、一定の河川流量が確保されれば、底泥の蓄積/流出についての“バランス”が保たれるため、あえて底泥は回収する必要はない、という可能性も考えられた。これらに加え、出水時等の流況の把握も重要であり、そのためには河川水位の連続計測が効果的であることがわかった。
 実際の維持管理面からは、河川流量の確保が特に重要であり、住民による軽微な清掃や底泥厚の観測等に基づき、河川管理者が必要に応じて重機等を用いて大規模清掃(浚渫)を実行するのが現実的と考えられた。作業の効率化からは、維持管理システムへのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の導入の結果、関係者がほぼリアルタイムに情報共有でき、作業等への効率的な対応が可能となった。また、清掃等による回収底泥は芝の目土や花卉栽培の土壌改良資材として、植物体は堆肥等としての活用が期待された。なお、本技術は水質浄化等においてばっ気等を必要としないため、運転に係る消費エネルギーはゼロであった。
(3)水生生物生息場所の創造と導入効果の解析評価
 魚類の生息場所および産卵床としての水質浄化モジュールの製作・導入を試みた結果、水質浄化モジュールの水生生物生息空間としての利用が確認され、特にミクリ植栽のモジュールで、魚類が集中して生息していた。また、水槽実験および実装置の双方で、魚類(モツゴ)による水質浄化モジュールの産卵床としての利用が確認された。さらに、里川再生技術基本仕様も含めた生息生物調査の結果、エリア毎に特徴的な魚種が観察されたこと、事前調査に比較して生息魚種・数の大幅な増加がみられたことからも、環境改善が進んでいると期待された。
 里川再生技術導入サイトにおける、全15魚種のLCRA結果と実調査結果を比較解析したところ、LCRAの予測精度は約86%と魚類の生息状況が良好に評価できることを確認したとともに、研究サイトでの主要なストレス因子は溶存酸素(DO)の枯渇および産卵場所の消失と導出することができた。同様に、LCRAを用いて里川再生技術の導入による魚類の生息環境の改善効果を評価した結果、ストレス因子の削減による生息ポテンシャルの上昇が導出された。今後の課題としては、ストレス応答・リスク評価における不確実性の改善等が考えられた。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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3.環境政策への貢献

本研究は、行政、小中高校、地域住民(NPO含む)の参加を通じて、里川再生への実質的な取り組みとして強力に推進されてきた上、参加メンバーを拡大して平成24年度も同サイトで引き続き研究開発を進めており、得られた成果・知見の他河川の環境等改善等への活用が期待されている。また、各種イベント・講演会・学習会等でも研究内容を紹介しており注目を浴びていることからも、河川環境政策への大きな貢献が期待されている。

4.委員の指摘及び提言概要

 地域研究として小河川にビオトープを組み込み、浄化を計ることは重要で、現場での再生実験と関連する調査、維持管理手法の検討などは評価に値する。しかし、ゼオライトでなければならない理由不明、実河川を対象とした里川再生という長期にわたる野外実験に必要な耐久性や集中豪雨などへの対応不明、浄化能力も期待したほどではなく、科学的成果も従来の知見の範囲を特段に超えるものではない点は残念である。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【B-0912】化学センシングナノ粒子創製による簡易型オールプリント水質検査チップの開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: チッテリオ ダニエル(慶應義塾大学)

1.研究計画

研究のイメージ

 グローバルに使用可能な紙ベースの水質センシングチップ(オールプリント化学センサーデバイス)を、インクジェットプリント技術で開発する。この場合、センシング材料を同一の条件でプリントすることを可能とする新たなナノ粒子状化学センシングインクを開発する。これらの技術開発からのセンシングチップの実現により、安価かつ簡便迅速に水サンプルの多項目同時定量を可能とすることができる。
(1)ポリマーナノ粒子を用いた化学的および生化学的に応答するインクジェットプリント用センシングインクの開発
環境検査における水質分析のためのオプティカルケミカルセンシング機能物質のキャリアーとなるポリマー粒子の開発、合成および最適化を行う。また、環境検査に関連する項目分析のための、化学的および生化学的に応答するポリマーナノ粒子ベースのインク開発を行う。

図 研究のイメージ        
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(2)水質多検体モニタリングのための“オールインクジェットプリント技術による”ケミカルセンシングペーパーの作製
多項目の水質検査を定量的に行える、インクジェットプリント技術を用いたマイクロ流体ケミカルセンシングペーパーの作製を行う。
(3)環境検査のための安価な水質検査トータルシステムの開発
高い定量性の確保のため、色情報分析法としてのデジタルカラーアナリシスの適応化と最適化の検討を行う。また、データプロセッシングを含む安価な定量分析システムを構築する。

■  研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題PDF [PDF 176 KB]

2.研究の実施結果

①環境中の水質検査チップにおける検査試薬として、pHや二酸化窒素、重金属イオンに応答するポリマーナノ粒子状化学センシングインクを数種開発できた。また、金コア・ユウロピウム錯体内包のシリカシェルナノ粒子複合体の設計と合成を行い、新規高感度ラベル化剤が開発できた。そのラベル化剤の有用性を確かめたところ、高感度な測定が可能であるとされる酵素免疫測定法(ELISA)よりもさらに高感度な測定が行えることが確かめられた。
②安価で高性能の水質検査チップのマイクロ流路を、市販のインクジェットプリンタで、有機溶媒を用いずに簡便に作ることができる新たな作製法が確立できた(紫外線硬化インク流路作製法:特許を出願済み。また、マルチセンシングチップとして、一度にケミカルセンシング(色変化のケミカルセンサー)とバイオセンシング(ラテラルフローイムノセンサー)の多項目の同時センシングが可能な安価な紙ベースのセンサーチップが作製できた。最終的には、水質検査センサーが1台のインクジェットプリンタにより作製できることを実証した。
③作製した水質検査チップを用いて目視およびスキャナーを用いたデジタルカラーアナリシスにより、定量のための検量線を作成することができ、目標を達成した。

成果イメージ図

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3.環境政策への貢献

本研究の結果は、ペーパーを用いる安価なマイクロ流体センサーデバイスの大量生産を可能にする。また、このような安価なセンサーデバイスを用いることで、その場で簡便に水質検査や排水検査を行うことが可能になるため、今後はグローバルな利用が期待できる。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、必ずしも十分ではないが許容できる研究成果をあげた。水質検査のために必要な汚染物質と反応して発色する試薬などをナノ粒子に担持させた上でインクジェットプリンタを用いて紙に印刷して試験紙とする技術を開発した点はユニークである。しかし、現在ある簡易分析キットとの優劣及び感度の向上、さらには実際の廃液等の妨害成分を含む試料の分析など実用化に際しての課題が多く残されている。

4.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b


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研究課題名: 【B-1002】有機フッ素化合物の環境負荷メカニズムの解明とその排出抑制に関する技術開発(H22〜H23)
研究代表者氏名: 高橋 明宏(東京都環境科学研究所)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究は有機フッ素化合物(PFCs)による汚染対策を迅速かつ合理的に実施するために不可欠な情報である環境負荷メカニズムを解明することを目的としている。
(1) 底質におけるPFCsの分析法の確立と水環境中の挙動解明 
底質を含めた都内の水環境おけるPFCsの環境実態を調査し、化学物質の挙動について解明を進める。また、地下水についても汚染実態調査を把握する。
(2) PFCsの組成プロファイルに基づく起源推定手法の確立
検出された組成プロファイルを用いて、未知なものから既知のものまで様々な発生源を特定することが可能となる標準的な手法を確立する。
(3) 前駆体を含めたPFCs一斉分析法の確立と発生源及び環境実態把握に関する研究
PFCsの汚染拡散の主要因と疑われているフッ素化テロマーも含めたPFCsの、排出源ごとの同族体パターンの特徴を明らかにし、各種排出源からの同族体分布等の情報を把握する。また、各種環境媒体の汚染状況を把握し、排出源との関係を明らかにする。
(4) 琵琶湖水および周辺河川におけるPFOS・PFOA類縁有機フッ素化合物の実態把握調査
PFOS・PFOA類縁有機フッ素化合物について分析法の検討を実施し、淀川水域の最上流部に位置する琵琶湖における表層水の濃度レベルを把握するとともに、周辺の琵琶湖流入河川における調査を実施することにより汚染源の推定を行う。

図 研究のイメージ        
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(5) 神戸沿岸海域、河川水、地下水等におけるPFCsによる環境汚染の実態、トレンド把握及びPFCs汚染の削減に向けた検討
PFCsの異性体やPFCsの前駆体であるテロマーアルコール類などの分析法を検討し、神戸沿岸海域における汚染の現状を把握するとともに将来予測についても検討する。また、地下水や大気環境中の実態把握を実施する。
(6) 大阪府域におけるPFCsの環境調査及び製造・使用事業場周辺環境の実態把握
水質・大気におけるPFCsの存在状況の把握および府域内に立地している製造・使用事業場周辺環境調査を実施してPFCsの汚染状況を明らかにし、化学物質対策に資する。また、PFOA、PFOS等PFCsの分析法の簡便化等の検討も行う。
(7) 昆虫を利用した市民参加型広域的陸域監視手法の確立(国立環境研究所)
PFCsの蓄積状況に関するトンボの種差、性差、採取時期の差などの情報を集積して、亜寒帯から亜熱帯までを含む日本全国の調査を行うための相互に比較可能な種類や性別の組み合わせを選別し、採取や輸送、保管などに関する手法を確立してマニュアル化する。

■ B-1002  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/12772/b-1002.pdfPDF [PDF 197 KB]

2.研究の実施結果

(1) 底質におけるPFCsの分析法の確立と水環境中の挙動解明
分析法を検討後、東京湾や多摩川の底質を調査した。粒径の細かいシルト状の底質には、炭素数の多い類縁物質の濃度の割合が高くなる傾向が見られた。地下水では、PFOSの分岐異性体と直鎖体との濃度比率が、地点によって大きく異なっていた。土壌カラムを用いた浸透実験から、PFOSは土壌浸透の過程で、異性体の組成が変化する可能性が示唆された。
(2) PFCsの組成プロファイルに基づく起源推定手法の確立
大気中におけるPFOSおよびPFOA濃度の平均値は、環境省が実施した過去の調査と同程度であった。PFCsの組成はそれぞれの地点間で組成プロファイルが異なり、且つ連続した日間での変動はあまり見られないことから、大気中PFASs/PFCAsの組成プロファイルは、サンプリング地点周辺に存在する主要発生源の組成プロファイルを反映していることが推察された。
(3) 前駆体を含めたPFCs一斉分析法の確立と発生源及び環境実態把握に関する研究
撥水・撥油剤を使用する繊維加工事業所がPFCsの排出源の一つであること、それらの環境中での挙動は炭素鎖に依存することが確認できた。また、事業所の排水処理工程中でフッ素テロマー化合物がPFCAsに変化していることが示唆された。大気中のフッ素テロマーを調査した結果、8:2FTOHの検出地点数が多いことが明らかとなり、さらにサンプリング地点毎にフッ素テロマーの総合的な濃度の高低や濃度組成に特徴があることを確認した。
(4) 琵琶湖水および周辺河川におけるPFOS・PFOA類縁有機フッ素化合物の実態把握調査
琵琶湖について、南湖の閉鎖性水域でややPFCs濃度が高くかつ濃度変動が大きいが、他の地点では大きな濃度変化はなく、いずれの地点、時期においてもPFOAの比率が高かった。 流入する主要河川の調査では、南湖東部流入河川および西部の和迩川において、比較的高濃度のPFCsが検出され、それらの河川のPFCsの組成、濃度は比較的安定していた。
(5) 神戸沿岸海域、河川水、地下水等におけるPFCsによる環境汚染の実態、トレンド把握及びPFCs汚染の削減に向けた検討
環境水中のPFCs、特にPFACs及びPFASs濃度の実態について把握した。海水ではPFOAに代わり2008年8月以降にPFHxAが急上昇しており、その傾向が継続している。河川水や地下水については、特定のPFACs及びPFASsが比較的高濃度である地点が確認された。また、新規に分析を試行した他の有機フッ素系界面活性剤を一部の試料から検出した。
(6) 大阪府域におけるPFCsの環境調査及び製造・使用事業場周辺環境の実態把握
河川水と地下水中のPFCs濃度及び組成割合は地点により異なり、両者のPFCsは発生源が異なることが示唆された。製造・使用事業場周辺環境調査では、河川水中のPFOA濃度は、平成19年度に比較して1/100以下に減少していたが、代替物質として使用されるPFHxAの濃度が高い地点が見られた。大気中のPFOAの濃度は平成16年度の調査結果より減少していた。
(7) 昆虫を利用した市民参加型広域的陸域監視手法の確立(国立環境研究所)
一般市民や外部の研究者の協力を得て、172地点のトンボ試料を集めた。分析の結果、全国規模での濃度分布の概要が明らかになるとともに、人口密集地帯以外にも比較的濃度レベルの高い地域があることを確認した。また、関東と近畿の二大人口密集地帯では主なフッ素系界面活性剤の汚染状況が異なることを確認した。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 B-1002
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/B-1002.html

3.環境政策への貢献

①分析法の確立について
2010年5月に新規POPs物質として追加されたPFOS及びPFOSFについて、各種環境試料の分析法を開発した。今後の調査に活用が期待される。
②環境実態の把握について
水環境、大気環境に関してPFCsの詳細な実態が把握できた。今後、環境基準化等がなされた場合における対策方法の検討に役立つと考えられる。また、今回得られた異性体に関する情報は、今後高濃度汚染が確認された際に発生源の把握等に有用であると考えられる。
③生物をモニタリングについて
環境中のフッ素系界面活性剤の存在状況ならびに主要発生源の探索に活用可能なモニタリング手法が整理できた。一般市民が参画できる化学物質管理手法として期待される。

4.委員の指摘及び提言概要

 知見の少ない新規制対象物質、残留性汚染物質に関して、分析法、排出源、環境実態、処理法、監視手法を多くの自治体研究機関の協働により一斉に短時間に実施した研究であり、環境行政に基本的な根拠を提供したものとして評価できる。自治体間の協働作業、自治体間および行政官−研究者間の情報、知見の共有の意義は大きい。しかし、広範囲・包括的な研究計画を設定したため、発生源の特定や除去方法の開発などを含め全体に成果の考察が消化不良気味である。英文の成果発表を増大し国際的な場で波及効果を高める努力も望まれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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事後評価   2. 第2研究分科会<環境汚染>
ii. 革新型研究開発領域

研究課題名: 【RFb-11T1】非特定汚染源からの流出負荷量の推計手法に関する研究(H23〜H23)
研究代表者氏名: 古米 弘明(社団法人日本水環境学会)

1.研究計画

研究のイメージ

本研究では、非特定汚染源の市街地、農地、森林に分けて各非特定汚染源からの有機汚濁物質、富栄養化要因物質の窒素、リン等の流出に関する文献や観測データの収集し、収集したデータの流域情報と負荷量に関するデータベースを作成するとともに、原単位に関する考え方について整理し、新しい原単位の推定手法の提案を行うことを目的としている。

図 研究のイメージ        
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非特定汚染源を市街地、農地、森林の3つに分けて、それぞれの汚濁負荷情報に関する国内外の文献情報を収集するとともに原単位の推定可能な国内観測データを収集し、流域情報、気象条件とともに負荷量の情報につきデータベース化を行う。それぞれのデータベースから負荷量変動要因について解析を行い、最も確からしい原単位算定手法の開発に向けての問題点を明らかにするとともに、非特定汚染における原単位の考え方を整理し、これまでの原単位の算定手法や水域管理における原単位法の適用の現状と課題について明らかにし、非特定汚染原制御に関する現実的な方法論を提案する。

■ RFb-11T1  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFb-11T1.pdfPDF [PDF 257 KB]

2.研究の実施結果

市街地、農地、森林の原単位、さらに大気降下物負荷量について、既報の文献等から関連情報を収集・整理してデータベースを作成した。
市街地の原単位についてデータベース化した件数は合計で506件であり、内訳は報告書等301件、和文学術誌131件、英文学術誌74件である。国および地方自治体の委託業務等の報告書等、広く公開されていない又は容易に入手できない資料を多くデータベースとしてまとめられた。データベース化された原単位そのものの情報が得られたものは313件で、うち窒素が273件、リンが190件、有機物が141件、懸濁物質が90件、その他(重金属や炭化水素等)が29件であった(一つの文献で複数の項目の原単位を掲載しているものがあるため、単純合計は313件を超える)。得られた原単位は最小値から最大値までは約1,000倍の開きがあり、25%位〜75%位の値に限定しても約10倍の開きがあることや、原単位情報について土地利用変化等の影響といった時間的変遷の一定傾向は認められず、原単位を検討する際に最新の調査事例にのみ限定する必要性は低いこと等が明らかになった。
農地からの流出負荷量や原単位のデータベース化は、水田と、水田以外の2つに大別して行った。水田の原単位に関して収集できた72報の文献から562件のデータが得られた。調査期間別では灌漑期が377件と最も多かったものの、通年、非灌漑期、代かき・田植え時期のデータも180件得られた。測定頻度の多いデータが全体の85%以上あり比較的信頼性の高いデータが多く収集できた。収集した慣行農法の現場水田における原単位データは、窒素排出量は第6次水質総量削減計画の面源原単位と大差なかったが、リン排出負荷量は削減計画の原単位を大きく上回り、またCOD排出量も削減計画の原単位と比較して大きいものであることがわかった。水田以外の農地の原単位としては、畑地・樹園地・草地・ハス田について49件、複合流域について20件の文献が収集され、負荷量データは全288件得られた。内訳は、畑地で114件、樹園地・草地・ハス田で88件、複合流域で86件である。畑地、樹園地、草地、ハス田における窒素、リン及びCOD排出負荷量の算術平均値は、農法(慣行及び改善)の如何に関わらず、削減計画原単位を大幅に上回るものがほとんどであり、削減計画原単位を大幅に上方修正する必要があることを強く示唆された。また同じ地目(畑地、樹園地、草地)であっても、窒素施肥量の多い作目(野菜、茶、飼料用作物)では、それ以外の作目の3〜6倍もの窒素の排出負荷量を示すなど、地目による負荷量の差異を明確にすることができた。
 森林の原単位に関する情報として、収集した文献数は、国内外の学術雑誌、各都道府県の林業試験場や森林総合研究書の報告書等から、317件(国内137件、海外180件)が得られた。内訳として、窒素154件、リン93件、有機物(TOC、COD等)61件、懸濁物質9件であった。森林からの流出負荷量の情報は他の土地利用と比べて限られており、特に出水時の調査に基づく結果が示されたものが少なく、出水時を重要視した対象流域ごとの戦略的な調査の実施が必要であるといえる。
 降雨負荷を中心とした大気降下物による沈着量についても情報収集とデータベースの作成を行った。国内外の学術雑誌、地方環境研究所71機関全てを含む国内研究所の報告書や環境省等による公表データ集を対象に、国内またはアジアにおいて1980年以降に実施されたもののうち、降水中の全窒素、全リン濃度やそれらの負荷量について調査されたものを収集・整理した。その結果、文献29報から248件の情報が得られ、また環境省と全環研で公表データから19,777件の情報が得られた。
上記の原単位のデータベース化に加えて、報告書には原単位の定義と歴史、実測値からの原単位の算出方法および算出根拠、面源にかかる原単位の利用方法について整理した。そして、原単位の問題点と課題として、まず降雨時調査を実施しなければ原単位は過小評価になることや、土壌タイプ、樹種、交通量等の場所の特性で負荷量が変化すること等、設定根拠に関する問題、次いで流達率の扱いや、地下水からの負荷量など負荷のダブルカウントの有無などの負荷計算上の問題、さらに、利用している原単位の見直しスキームの必要性、TOCや各物質の形態別負荷の設定の必要性等、原単位利用方法上の問題の大きく3つに分類できた。さらに実際に原単位を使う場合の留意点を非特定汚染源ごとにまとめた。
以上のように、本研究ではこれまで系統的に収集されていなかった市街地、農地、森林、大気降下物の原単位を整理し、当該文献や報告書に記載の関連情報とともに内容をまとめることができた。また、現在使用されている原単位の根拠を明確にするとともに、使用されている原単位の問題点や利用における課題について整理した成果となった。

成果イメージ図

図 研究成果のイメージ        
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ネットde研究成果報告会 ネット de 研究成果報告会 RFb-11T1
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RFb-11T1.html

3.環境政策への貢献

環境省水・大気環境局水環境課と密接に連絡をとり、非特定汚染源対策の推進に係るガイドラインに基づいた調査計画の在り方、次回の総量削減に向けた原単位の在り方を検討する際に有用となる知見の提供などに貢献した。

4.委員の指摘及び提言概要

 研究費規模に照らして、期待通りの研究成果をあげた。非特定汚染源の流出負荷量を推定するために有効な文献や観測データを網羅的に収集整理してデータベースを構築し、そのために原単位の考え方を明確にしたことは高く評価できる。この研究成果を総説や講演等を通して広く公開し研究者や行政関係者に活用されることが望まれる。

4.評点

   総合評点: A    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): s  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a


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