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2013年03月07日

結果報告

<結果報告>日光国立公園イベント「奥日光ミーティング~奥日光の魅力の"今"を、みんなで考える~」の結果報告のお知らせ

奥日光ミーティング開催概要

 奥日光地域の課題やその対応について、地域内で認識を共有し、検討するため、奥日光地域の地域住民、利用者、行政など多様な関係者が参加する「奥日光ミーティング」を開催した。

(1)概要

日時
平成25年2月2日(土)13:00~16:00(開場12:30)

会場
栃木県立日光自然博物館 2階 レクチャールーム(日光市中宮祠2480-1)

プログラム

参加者数
97名

(2)奥日光ミーティングの様子

課題1 奥日光地域の外来植物

課題2 中禅寺湖の適正利用

課題3 奥日光地域の協働型管理のあり方

会場の様子

写真展示コーナー

(3)記録

<課題1 奥日光地域の外来植物>

※報告の詳細については、別途発表資料(配布資料[PDF 547KB])を参照

討議「奥日光地域における外来植物の取扱いについて」
 ①コマクサ、②ニッコウキスゲ、③クリンソウが奥日光地域において外来植物であるかどうか、また、今後これらの植物をどのように扱っていけばいいのかについて討議を行った。討議にあたっては、参加者に事前に配布したカラーボードで、自分の意志(黄色:外来植物だと思う/水色:外来植物ではないと思う)を示してもらいながら進めた。

【奥日光地域の外来植物についての日光自然環境事務所としての考え方】

  • 国立公園内では、自然公園法という法律の下、素晴らしい風景の場所を保護するとともに、その場所を利用してもらうことを目指している。そのため、環境省としては、規制をかけて開発を抑えるだけでなく、観光客に楽しんでもらうために、自然を守る取組や木道など楽しんでもらうための施設をつくることも重要な役割だと考えている。
  • "生物多様性"の保全が自然公園法の目的の一つに追加されたこと、生物多様性を脅かす要因の一つが外来種であることから、国立公園内では、「本来の生育地ではない植物を植栽し、まくこと」について規制も追加された。見栄えがして利用者が増えるとしても、外来植物では国立公園の主旨に合致しない。
  • 奥日光地域の全ての外来植物について"全て問題あり"とすることは、対策の費用や、役に立っていて他に代わるものがない等で現実的には難しい。また、過去に外来植物が植えられた事実があったとしても、当時と現在では状況が異なるので、行為者を非難するものではない。
  • 戦場ヶ原や小田代原の湿原、日光白根山、中禅寺湖などの日光国立公園の素晴らしい風景の場所のうち、最も重要な保護の対象地は、外来植物の侵入を防ぎ、既に侵入している場合は最優先で取り除く必要があると考えている。
  • 外来植物であっても、上記以外の地域では、広がり具合や管理の状況によっては、異なる取扱いとなることもあり得る。
  • この討議では、結論を出すことを目的にしていない。外来植物の課題を知っていただくとともに、日光自然環境事務所が今後外来植物対策を行う上で参考にさせていただきたい。

①コマクサ

【参加者からの意見】
コマクサは外来植物だと思う(「黄色」多数)

  • 元々なかったものは原則として外来植物だと考える。
  • 平成7年から定住したが、その頃はコマクサを見たことなかった。3年前、前白根でコマクサの赤花を見たが、異質なものとして違和感を覚えた。

コマクサは外来植物ではないと思う(「水色」7名程度)

  • 昭和35年から定住しており、若い頃に白根山頂付近で見たことがある。男体山の8合目にも昭和35年~40年にかけては生育していた。昭和37年に昭和天皇がいらした時にはあった。
  • コマクサが高山植物の女王と言われていること、コマクサの生育地はガレ場であり他の植物を駆逐しないこと、コマクサは薬草として珍重され片品村の方々が頻繁に採取したことにより絶滅したので人の入らない白根隠し付近に植えたという話を聞いていることなどをふまえると、取り除く必要はないと思う。コマクサの花を見て、多くの人が心癒されるのなら、資源として大事にしていいのではないか。

その他

  • 元々あったかどうかということも重要だが、そこに自生していたかどうかも重要。
  • 江戸時代にあったかどうかは不明だが、明治期以降日本の植物学が発達し、植物学者が調査に乗り出している。

②ニッコウキスゲ

【参加者からの意見】
ニッコウキスゲは外来植物だと思う(「黄色」多数)

  • 霧降高原に10年勤めていた。ニッコウキスゲは乾燥地帯では種付きが非常に悪く、15個程度種を持っているが、自然界に種が落ちてもほとんど生えてこない。園芸種であれば生えやすい。小田代原は乾燥していてニッコウキスゲはたぶん生えていなかっただろうし、誰かが植えたのだと思う。ただ、きれいなので抜くのはもったいないとも思う。
  • 個人的には、なかったものでれば当然抜くべきだと思う。環境省の意見が知りたい。
    →小田代原や戦場ヶ原は核心部分であり、元々生育していた植物を守って利用してもらうエリア。外来植物という合意形成ができれば取り除く必要があると思っているが、土地所有の関係などから役所的な手続きが必要となる。また、仮に外来植物という合意形成がなされるのであれば、除去作業の手伝いもお願いしたいと考えている。

ニッコウキスゲは外来植物ではないと思う(「水色」9名程度)

  • 平成10年の電気柵設置以降、ニッコウキスゲは増えたが、それ以前から小田代原にニッコウキスゲはあった。シカが霧降高原から奥日光に移動してきたのであれば、ニッコウキスゲの種子がシカに付いてきたということは十分考えられる。観光客は外来種だから抜き取れとは言わないし、多くの人が癒しを感じている。ダリアやグラジオラスが咲いているというのとは全く異なる。"ニッコウ"という名前が付いた高山植物が咲いていることは喜ぶべきことであり、抜き取るのはナンセンスだと思う。
  • 戦場ヶ原に住んで45年以上経つが、昭和30年代頃からあった。今さら抜くことはない。
  • 他の植物に対しての影響が少なければ、抜く必要はない。

その他

  • ニッコウキスゲに関し、DNA鑑定するのはどうか。
    →基準となるデータがない現時点でニッコウキスゲの鑑定は難しい。
  • 自生の広がりなら自然の動き。人によるものなら外来植物と考える。

③クリンソウ

【参加者からの意見】
クリンソウは外来植物だと思う(「黄色」多数)
(個別意見なし)

クリンソウは外来植物ではないと思う(「水色」8名程度)

  • 今から40年前は、中禅寺湖周辺一帯は180cmのクマザサで覆われていたため、隠れた場所に自生していたクリンソウに植物学者は気が付かなかった。その後、シカの食害によって笹が食べつくされ、一帯にクリンソウが増えたというのが実態。黄色い花はバイオで作られたものであり、繁殖しない種類のため数株植えている。国立公園は利用してもらって初めて国立公園だと思うので、観光資源として使えるものであれば使うべき。クリンソウやニッコウキスゲ、コマクサより問題なのは、セイヨウタンポポ、ビロードモウスイカ、ハルサキヤマガラシなど。
  • クリンソウは、子供の頃は「テングバナ」と呼んで鼻の頭に付けて遊んでいた。昔からある。
  • 昭和17年生まれだが昔からあった。無理に抜く必要もないと思う。(日光市山内近くの)鳴沢や赤沢、稲荷川のクリンソウはシカの影響で、毎年増えたり、減ったりしている。
  • 先ほど外来植物と思って黄色を挙げたが撤回。地元の人が言っているので間違いないと思う。
  • クリンソウに関しては日光市街に昔からたくさんあったと聞いていた。今回の3種の中ではクリンソウが最も自生していた可能性が高い。抜き取ろうという考えはない。

その他

  • 日光の特性を活かすのであれば、クリンソウは現状で管理ができているのでいいが、小田代原のニッコウキスゲや日光白根山のコマクサ(丸沼スキー場以外)は管理ができていないので、対応が必要。

【専門家による総括(谷本宇都宮大学名誉教授)】

  • 植物が元々「なかった」ことの証明は大変難しい。
  • 日光地方には、本草学の採藥師が江戸幕府の特別派遣で多く調査に入っている。その当時の記録にはゼンテイカなどはなかったということが今回の調査で明らかとなった。これをふまえると、第一次登山ブームの時に多少意識的に持ち込まれたと類推できる。ニッコウキスゲは湿地性の草原に生育する種であり、完全な乾燥地には基本的には生育しない。しかし、東京都府中など関東平野に生育するものもあり、厳密に言うと「なかった」とはまだ言えないと思う。さらに議論を重ね、慎重に対応していくべき。また、ニッコウキスゲの遺伝子分析は難しい。隔離されその地域の特性がある植物の場合は遺伝子的に特徴のあるものが発見できるが、関東地方などあちこちに分布している植物の場合は遺伝子的にかなり似ているため分析は難しい。強害草ではないので置いておいてもいいのではないかという意見があったが、チェックリストを作成し、関係者がそれぞれの立場で関心を持ちながら、その植物がどういう状態であるか暫く様子を見ることも一つの手段ではないか。
  • 宇都宮大学船生演習林でアズマネザサの刈り払いによってカタクリが回復したことを観察した。これは、奥日光でクマザサが枯れた後にクリンソウが増えたことと同じだと思う。サクラソウ属の植物は、高山帯の雪田群落のような特殊な場所に咲く場合が多いが、サクラソウ(ニホンサクラソウ)とクリンソウだけは、あちらこちらに生育している。サクラソウは江戸時代に栽培が盛んになった園芸植物であり、学名はシーボルトにちなんでPrimula sieboldiiである。その後、シーボルトが採取したものが園芸種であったことから、天然記念物に指定されているさいた埼玉県田島ヶ原のサクラソウは新種の自生種ということで、古い学名ではforma(フォルマ)とされた。以上のことをふまえると、クリンソウもこの辺りの沢筋に自生していた可能性は非常に高い。様々な環境によって盛衰を繰り返しており、継続した観察が必要である。
  • 個人的な考えとしては、すぐにというよりは、害を起こすようであれば少し遠慮してもらうのがいいのではと思うが、国立公園の純粋な場所では外来植物は取り除いたほうがよいという考え方も確かにある。
  • 植物の経緯についての記録をきちんと調査し、今日のような会合の中でそれぞれの意見を聞きながら方向性を見出していくということは大変心強い。貴重な自然の記録、観察についての関心を高く持っていただきたい。そういう意味でこのミーティングは非常に意味があった。引き続き、このような仕組みを継続していただき、将来に向かって優れた自然・文化遺産を残していってもらいたい。

<課題2 中禅寺湖の適正利用>

※報告及びコメントの詳細については、別途発表資料(配布資料[PDF 709KB] (講義資料[PDF 1,912KB])を参照 (質疑応答については、時間の都合で課題3に含めた。)

<課題3 奥日光地域の協働型管理のあり方>

※講演の詳細については、別途発表資料(配布資料 [PDF 249KB])を参照

討議「奥日光地域の保全と利活用」

(会場より)シカの食害について、シカの個体数を減らすことが必要ではないか。

  • 大きな問題だと考えている。現状では、栃木県はシカ保護管理計画を策定、環境省は戦場ヶ原へのシカ柵設置、林野庁は樹木保護など各主体がそれぞれシカ対策に取り組んでいる。今後はシカ捕獲も進める必要があるが、シカ捕獲者が限られているため、関係機関で連携して効率的な捕獲を目指す必要がある。そのために、関係機関による「シカ対策ミーティング」をはじめたところであり、日光だけではなく尾瀬も含めた対応方策を検討していきたい。【宇賀神所長】
  • シカの生息環境が悪化していることにも着目すべき。農林被害から自然被害に拡大するにつれ、一般国民の関心になってきた。このような環境変化は、シカだけでなく他の生物、人間の生活環境にも影響が出る可能性がある重い問題。関心を持っていただきたい。【谷本氏】
  • シカは全国的にも大きな問題。すぐに効く方策はなく、地道に考えていかなければならない。【土屋氏】

(会場より)シカの人工淘汰が必要ではないか。

  • 頭数制限できない場所については物理的に遮蔽するなどの対策は行っている。一方で、生物多様性という観点からは、地域に伝統的に生活している遺伝子の異なった地域個体群があり、捕獲し過ぎるとその個体群が生活できなくなって特殊なものだけが残るという議論も出てきている。このあたりも、地域住民や行政、研究者などが協働して、よりよい方向を検討していくことが必要。【谷本氏】
  • 東京農工大で行っているシカ食害に関する自主研究を紹介すると、元々の環境や植生によって、シカ影響に対する感受性(シカ影響の受けやすさ)がかなり異なる。また、現状の影響度(被害状況)についても場所によって様々。これら感受性と影響度から見ると、許容限界を超えている場所(例:千手ヶ原)もあれば、超えていない場所(例:戦場ヶ原)もある。すべての場所を同じように守ればよいのではなく、ゾーニングを考え、どこを優先的に守るのかというようなメリハリも必要だと思う。こういうことを考える際にも、協働型管理は非常に重要である。【土屋氏】

(会場より)なぜシカはこんなに増えたのか。

  • 奥日光地区では、戦後の拡大造林として大きな木を切ってカラマツなどを植林しており、シカは木を切った後に生えてくる一時期の草を餌にしていた。そういった草食動物の餌となる草が大面積に広がり、シカ、ウサギ、ネズミなどが増えて、国をあげて防除対策を行ってきたという歴史がある。しかし、年月を経て木が大きくなったため下草がなくなり、餌がなくなっている。現在はシカの個体数は右上がりの時代ではなく、むしろ、ここで捕獲し過ぎるとかえって困るのではないかというのが植物からシカ食害を見てきた印象。【谷本氏】

(会場より)奥日光に増えているズミについてはどう考えるか。

  • ズミなど湿原に生育する植物は水分を蒸散させるため一般的には乾燥化を進めると言われているが、戦場ヶ原におけるズミの分布をみると、本来の湿原にはまばらであり、国道沿いの乾燥している場所に密度高く生育している。場所を決めて生育環境をきちんと観察した上で、対応を考えるべき。ズミは咲いている時は非常に美しいが戦場ヶ原の景色が見えないこともあり、個人的には多少間引いた方が良いとも思う。【谷本氏】

(会場より)戦場ヶ原のマス釣りについての議論をしたい。私としてはマス釣りはやめてもらいたいと思っている。

  • マス釣りについては、明治初期にトーマス・グラバー氏が故郷に似ているということから放流したカワマスが始まり。その後、男体山の大水害によって一匹も魚がいなくなり、北米から卵を輸入して放流し、水産庁が研究のために釣りをしているという歴史がある。「釣りをしてはいけない」というのは、釣りをするために湿原に入ることが木道を通る人に説明がつかないからだと思うが、研究のために戦場ヶ原にマス釣りは必要という観点から行っていることである。【会場】
  • 奥日光の原点であるリゾートを、歴史として見せるだけでいいのか、それとも、なぜここにリゾートができたのかという環境自体も含めて味わってもらうのか。これはマス釣りの話にも繋がる。ある一角については、極端な低密利用になったとしても、歴史としてだけでなく、その歴史が営まれてきたマス釣りをできる環境として残すという方法もあるのではないか。本来の環境水準の元に本来あったリゾートやアクティビティの空間・活動を残すためには、利用者を制限する必要があるだろう。但し、それをどうやるかは皆さんの議論。そのためには、"公"と"私"だけではなく、"公共"という概念が重要であり、行政や住民などが協働で取り組むことが必要である。【永井氏】
  • 湯川には漁業権は設定されておらず、水産庁が直轄管理している。中禅寺湖については、航行区域境界線の西側が禁漁区であり、東側にのみ漁業権が発生している。中禅寺湖漁業協働組合は昭和38年に法的認可を得て設立されたが、それ以前から西側は禁漁になっており、その目的は、種の保存、3年で終わるヒメマスの命を保存していくためだった。こういう歴史的背景が考慮され、車馬乗り入れ規制などが設定されている。また、現在禁漁区は特別に許可を受けた動力船以外は全く入れないが、水上バスというかたちで一般の方も入れるようにすることも必要なのかなと考えている【会場】

(コーディネーターより)話し合いの場が必要という話が出たが、総合的・横断的な場が必要なのかどうか。

  • 地元の出席者は20%程度であり、それ以外の多くの方々が奥日光に興味関心を抱いていただいていて感謝に堪えない。こうした会議は、(日光自然環境事務所の)執行部が変わってもぜひ継続して行ってもらいたい。奥日光には、シカ、サル、外来植物、マス釣りなど様々な問題があって議論するには時間が足りない。もっと数多くやっていただけると有り難い。【会場】
  • かつては、総合的・横断的な話し合いの場である「奥日光活性化推進委員会」という組織があり、活発な議論を行っていた。しかし、当時はインフラ整備に重きを置いたため、その後の効果向上・効果検証の議論までに至らず解散してしまった。その後、行政主導の会議は様々あるが、出席者はほぼ同じであり、もっといろいろな意見がぶつけられる場所をこれからつくる必要がある。"公(行政)"と"私(民間)"を繋ぐインタープリターの役割を環境省に担ってもらいたい。【会場】
  • 日光自然博物館が奥日光の観光拠点となり、地元を引っ張っていってもらいたい。【会場】
  • このような話合いの場が必要であること、課題が山積していること、時間や回数が少ないことは皆さんの思いとして共通していると思う。このような会議の場を継続していってもらいたい。【土屋氏】

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