未来に引き継ぐ大自然 国立公園
日本の国立公園

保護と利用

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国立公園は、次の世代も、私たちと同じ感動を味わい楽しむことができるように、すぐれた自然を守り、後世に伝えていくところです。
そのために、自然の保護と利用について様々な管理をしています。

時代の変化とともに

国立公園の歴史を見ても分るように、初期の頃は、古くから民衆に親しまれてきた風景地である各地の名所・旧跡・伝統的な探勝地や山岳など原始性の高い自然の大風景が国立公園に指定されていましたが、その後、居住地に近接したレクリエーションに適した場所も指定されるようになりました。
20世紀後半になってからは、すぐれた自然の風景地としての評価が多様化し、自然性の高い生態系の景観やサンゴ礁などの海域景観、野生生物の生息地としての景観や広大な湿原景観なども国立公園として指定されるようになりました。
一方で、局地的なオーバーユースの問題や、草原等の二次的自然の荒廃、ニホンジカなど大型野生動物による食害、外来生物による生態系のかく乱など、多くの課題も生じています。

オニヒトデの駆除作業の写真
足摺宇和海国立公園:オニヒトデの駆除作業
山開きで大にぎわいの写真
阿蘇くじゅう国立公園:山開きで大にぎわい

そのため各地では色々な利用規制を設けたり、多数のボランティアの協力を得るなどして、自然環境を保全するための努力をしています。
さらに、社会的情勢の変化に伴って国立公園の利用者数は減少傾向にあり、国立公園を資源としてきた観光産業など地域経済が衰退し、公園施設の十分な維持管理ができなくなるなど、困難な状況に陥っている地域もあります。
こうした状況の中、国立公園の保護と利用を推進するため、地域の多様な関係者の連携による「協働型管理運営」が重要となっています。

国立公園を訪れてその風景地を十分に味わうと同時に、この私たちの貴重な遺産を次の世代へ受けついでいけるよう、一人一人が心掛けたいものです。

自然の保護と利用の管理

国立公園の管理にあたっては、自然公園法に基づくさまざまな仕組みがあります。

1.管理運営計画

国立公園を管理するための方針は、各公園の「管理運営計画書」に記され、それに基づいて各公園毎の実情にあった規制のルールを定めるとともに、公園内に施設を設置したり、自然を学ぶ機会を設けたりして、自然環境の保護と適正な利用を推進しています。

管理計画
管理計画

2.開発行為の規制

国立公園の自然や風景を変える恐れのある建築物などの工作物の新改増築や木竹の伐採、土石の採取や動植物の捕獲・採取などの行為を規制しています。
規制は、公園計画(保護規制計画)に基づき、指定された地域の種類により規制の強弱や内容が異なります。

3.動植物の保護

自然の風景はそこに生息・生育している動植物の営みともいえる生態系がつくり出しているものもすくなくありません。国立公園では、その特別地域内において許可無く捕獲や採取をしてはならない動植物を指定して生態系の多様性の確保をしています。

指定植物の1つ、ニッコウキスゲの写真
指定植物の1つ、ニッコウキスゲ

4.利用調整

国立公園を訪れる人が増え、原生的自然や景観、生物多様性の保全に支障が生じるのを防ぐため、平成14年(2002年)に、環境大臣が指定した地域における公園利用者の立入りを認定制にする利用調整地区制度を創設し、景観の維持とその適正な利用を図っています。

5.自動車などの乗り入れ規制

スノーモービルやオフロード車などの乗入れによる植生や野生動植物の生息・生育環境への被害を防止するため、国立又は国定公園の特別地域のうち環境大臣が指定する区域において、これらの行為が規制されるようになりました。

スノーモービル乗り入れ規制看板の写真
スノーモービル乗り入れ規制看板

6.自然再生

過去に失われた生態系の健全性を積極的に取り戻すことを目的に、直線化された河川の蛇行化による湿原の回復、都市臨海部における干潟の再生や森づくりなどの自然再生事業を行っています。

サンゴ着床具の海底への設置の写真
サンゴ着床具の海底への設置(石西礁瑚自然再生事業)

7.風景地保護協定

土地所有者等による管理が不十分で風景の保護が図れないおそれのある国立・国定公園内の風景地について、環境大臣、地方公共団体又は公園管理団体が土地所有者等との間で風景地の自然保護のために協定を締結し、土地所有者等に代わり風景地の自然保護の管理ができるとしたものです。

認可状況
(1)下荻の草風景地保護協定(阿蘇くじゅう国立公園 阿蘇地域)
管理主体 公益財団法人 阿蘇グリーンストック
認可日 平成16年3月25日

(2)湯の丸高原風景地保護協定(上信越高原国立公園 浅間地域)
管理主体 特定非営利活動法人 浅間山麓国際自然学校
認可日 平成23年11月15日

8.特定民有地買上事業

国立公園には多くの民有地が含まれています。優れた自然を有している民有地について、所有者からの申出によって、環境省が土地の買上げを行っています。

9.生態系維持回復事業

シカやオニヒトデ等による自然植生やサンゴ群集等への食害の深刻化や他地域から侵入した動植物による在来の動植物の駆逐など、従来の規制的手法だけでは自然の風景地を保護できない事例が各地でおきている状況から、国立・国定公園において、優れた自然の風景地の維持を図っていくために、食害をもたらすシカやオニヒトデ等の捕獲や外来種の駆除、食害からの自然植生やサンゴ群集の保護などに積極的に取り組んでいます。

10.マイカー規制(自動車利用適正化対策等)

過去には自動車を無制限に受け入れてきた国立公園ですが、休日などの特定の日に駐車場の許容量を超える車が殺到したり、排気ガスに対して脆弱な特性を持つ自然地域への影響などの問題が生じ、環境省では昭和49年(1974年)から、マイカー規制として、地域と期間を限定して車の乗入れを規制しています。

11.利用施設

国立公園は、自然を守るだけではなく、自然の大切さについての理解を深めたり、健康やレクリエーションのために自然とふれあい楽しんでもらうことも重要な目的としています。環境省では、国立公園を訪れた人が快適に自然とふれあうことができるよう、ビジターセンターや歩道、トイレや展望台などの施設整備を行い、国立公園での適正な利用を進めています。

12.ユニバーサルデザインへの対応

「ユニバーサルデザイン」とは、バリアを除去することを主旨とするバリアフリーの概念に代わって提唱された、「改造を施したり特別なデザインとすることなく、最大限可能な限りすべての人々に利用しやすい製品や環境をデザインする」考え方のことです。

国立公園では、平成25年7月に制定された「自然公園等施設技術指針(平成27年8月改定)」に沿って、"優れた自然景観の魅力を利用者の誰もが楽しめるようにすること"を目的として、利用施設の整備改善に加え、補助器具の貸し出し、介助サポート、適切な情報提供などソフト面での補完を重視し、総合的なユニバーサルデザインシステムとして対応するよう、各種の取り組みを進めています。

国立公園では以下の基本的な考えに沿って、整備を進めています。

1. 魅力・資源を楽しんでもらう方法の実現
2. 利用者の能力や興味に応じて行動範囲・内容が選択できること、またそのための安全対策を講じる
3. 自然資源を損なわないハード整備、ハード整備が困難な場所では補助器具の貸し出しなどのソフト対応で補完
4. 風雪や塩害などの厳しい自然条件に配慮した材料や工法の選択と適切な維持管理
5. 多様な利用者の特性やニーズに応じたソフト対応、不具合の継続的な改善

各地の取組みの事例

バリアフリー木道

車いす使用者同士がすれ違えるように、全線の幅員を確保するか拡幅部を設けています。

知床五湖園地歩道の写真
知床五湖園地歩道 : 幅員2.0m
(知床国立公園)
温根内園地歩道の写真
温根内園地歩道 : 幅員1.8m
(釧路湿原国立公園)
多目的トイレ

車いすの転回スペース、手すり、ベビーベッド、オストメイト洗浄装置等を設置しています。

河童橋公衆便所の写真
河童橋公衆便所
(中部山岳国立公園)
草原学習館の写真
草原学習館
(阿蘇くじゅう国立公園)
建物入口のスロープ

入口にスロープを設け、車いす使用者、高齢者、子ども連れの入館を容易にしています。

上高地インフォメーションセンターの写真
上高地インフォメーションセンター
(中部山岳国立公園)
重富海岸自然ふれあい館の写真
重富海岸自然ふれあい館
(霧島錦江湾国立公園)
ハードを補完するソフト対応に関する各地の取組

パンフレット等におけるユニバーサルデザインの紹介を行っています。

国民公園※・国立公園 ユニバーサルデザインプロジェクト

環境省では、2015年に「国民公園・国立公園 ユニバーサルデザインプロジェクト」を実施し、国民公園・国立公園において、高齢者、障がい者、ベビーカー利用者、外国人など、あらゆる人が快適に過ごすことのできるようなアイディア(ユニバーサルデザイン)をハード面、ソフト面、短期的取組、長期的取組等に分けてそれぞれ取りまとめました。プロジェクトの実施に当たっては、ユニバーサルデザインの有識者の方々に、実際の施設を視察いただき、助言をいただくことで、より実態に即したアイディアを取りまとめることができました。

※国民公園:旧皇室苑地であった皇居外苑、京都御苑、新宿御苑の3ヶ所と、公園としての性格を有する墓地公園である千鳥ヶ淵戦没者墓苑の計4ヶ所を、国民公園として国の直接管理のもと、広く国民に開放しています。