2年目の実施となった『グッドライフアワード2015』で環境大臣賞最優秀賞を受賞したのは『あきた森の宅配便』の『天然山菜採り代行サービス 〜山のめぐみを、おすそ分けっ! 〜』でした。拠点は十和田湖に面した秋田県小坂町。雪解けの季節を迎えた山菜のふるさとを訪ねてきました!
山菜採りの伝統を「持続可能」な仕事にしたい!
活動のきっかけは?
地元の強みを魅力的にアピール!
十和田湖に面した小坂町。豊かな森が広がっています。
写真の手前が小坂町。十和田湖の下の 谷あいが山菜採りの舞台です。
山の名人たちは、おいしい山菜のために 深い森へ入ります。
『あきた森の宅配便』代表の栗山奈津子さん。
『あきた森の宅配便』の取り組みがスタートしたのは、2006(平成18)年ごろのこと。地域の仲間が集まって「地元にあるものを活用して町が元気になるようなことができないか」と話し合ったことがきっかけでした。
話し合いには、当時まだ高校生だった栗山奈津子さんも参加して「みんなが採った山菜を販売しよう」と決まりました。でも、奈津子さんは「ただの山菜通販ではありきたりだな」と感じ、「私が大好きなふるさとの魅力を、山菜を通じて知ってもらうにはどうすればいいか」とみんなで話し合う中から、天然山菜に徹底的にこだわった『天然山菜採り代行サービス』というスタイルが誕生したのです。
この取り組みは秋田県の独創的創業支援補助の認定も受け、自宅近くの古家を改築してオフィスが完成。ネットショップ運営に必要なパソコンなども購入しました。その後、奈津子さんはいったん大学に進学。お父さんの栗山銕志さんが代表を務め、お母さんの栗山美津子さんや、おばあちゃんの川口キサさんをはじめとするご近所の仲間が「山の名人」として集まって、『天然山菜採り代行サービス』がスタートしたのです。
大学卒業後、就職して数年間営業などの経験を積んだのち、2014年に奈津子さんはふるさとの小坂町に戻ってきました。奈津子さんはお父さんから『あきた森の宅配便』の代表を受け継いで販売用のインターネットサイトをリニューアル。山菜を採ってきてくれる「山の名人」のみなさんの人柄まで伝わるサイトの温かさも、今回、グッドライフアワードで環境大臣賞最優秀賞受賞に結びつきました。奈津子さんは「山菜ガール」としてテレビのニュースや地元紙などにも紹介されながら、この取り組みをさらに盛り上げていこうと奮闘しているところです。
どんな取り組みを?
「山の名人」が採ってきた天然山菜をお届け!
天然のうど(撮影:小松ひとみ)
ねまがりたけのたけのこ(撮影:小松ひとみ)
雪解けとともに旬を迎えるふきのとう (撮影:小松ひとみ)
春になると山菜の季節本番です! (撮影:小松ひとみ)
『あきた森の宅配便』は、十和田湖がある秋田県小坂町周辺で採れた天然山菜のネットショップです。最近は、わらび、うどなどの山菜には栽培ものもたくさん出回っていますが、天然の山菜は野生ならではの豊かな風味があります。ただし、奥深い山に分け入って山菜を採取するのは、簡単なことではありません。
でも、奈津子さんのまわりには、昔から生活の一部として旬の季節の山に入って山菜を採る伝統がありました。実のおばあちゃんであるキサさんをはじめ、ご近所のおじいちゃん、おばあちゃんが「山の名人」として、注文があった山菜を採ってきてくれるのです。さらにはクルマで30分ほど走った大館市内に『陽気な母さんの店』という農家さんが直販する店があり、70名ほどの農家のおかあさんたちも「山の名人」として協力してくれることになりました。
『陽気な母さんの店』の石垣一子会長は「通信販売でものを見ないで買ってくれるんだから、めったに人が入らない山奥まで入って、とびきりおいしい山菜を採ってくるんだよ」と教えてくれました。たとえば、天然のねまがりたけは熊の好物でもあり「熊が食べるか人が採るかの競争だよ」とも。たけのこ採りが得意な山の名人のエースである川口光一さんからは「たけのこの季節の数カ月で、4、5回は熊と会うかなあ」と、ちょっと危ない話も伺いました。でも、熊の気配を感じたら「叫べば向こうが逃げていく」そうです。
天然山菜を採る場所は、名人それぞれの秘密で、家族にさえも詳しい場所は教えないとのこと。また、いくら注文があっても採り尽くしてしまうと次の年には採れなくなってしまいます。名人ならではの塩梅で山の恵みをいただいて届けてくれる、まさに「おすそ分けっ!」と呼ぶのがふさわしいサービスなのです。
成功のポイントは?
豊かな自然と、山の名人の元気が成功の秘訣!
『陽気な母さんの店』会長の石垣一子さん。
集合写真では緊張気味だった名人のみなさん。撮影が終わると素敵な笑顔が弾けていました(笑)。
採ってきた山菜を出荷する状態に 整えるのも名人の腕の見せどころ!
50kgほどの山菜を背負って山を 降りてくることもあるそうです。
秋田県小坂町は、鹿角盆地の北端に位置しており、十和田湖がある青森との県境の町。かつては小坂鉱山で栄え、最近は鉱山の技術を活かしたリサイクルの町として知られています。町の中心部から十和田湖へ登る道の周囲は深い森。まずは、豊かな自然に恵まれていることが『天然山菜採り代行サービス』が成功しているポイントです。
とはいえ、山菜が採れる森は日本のあちこちにあるはずです。恵まれた自然環境に加えて、天然山菜採り代行サービスを支える山の名人のみなさんの存在が、この取り組みにはとても大切です。取材に伺った日には、奈津子さんの実のおばあちゃんである川口キサさんと、キサさんの三姉妹である中村イサさん、秋本ミヨさん。さらに、わらび採りが得意な畠山亮子さん、たけのこ採り名人の川口光一さんが集まってくれました。
「私たちは普段はゆっくり歩くけど、山の中に入ったらカモシカみたいに速いんだぞ」という意味の言葉を地元の方言で話してくれたのは三姉妹の長女であるイサさん。名人たちの元気があってこその取り組みであると同時に、この天然山菜採り代行サービスが、名人のみなさんの楽しみにもなっているのです。
ちなみに、山の名人として協力してくれている大館市の『陽気な母さんの店』も、平成19年度の『農山漁村女性チャレンジ活動表彰』で最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞しています。大好きなふるさとを元気にしたいという奈津子さんの思いが起点となり、そのために行動し、協力してくれる山の名人をはじめとするたくさんの人たちの協力が、この取り組みを成長させてきたといえるでしょう。
レポート
手作りの山菜料理で迎えてくださいました!
食卓の上にはたくさんの山菜料理が並びました!
ふきのとうの天ぷらに使う菜種油も、地元で作ったもの。
台所で料理に腕を振るう山の名人のみなさん。
取材には実行委員の藤野純一さんも 同行してくださいました。
坂町へ取材に伺ったのは3月下旬。ちょうど、ふきのとうが出始める時期でした。まずは大館市の『陽気な母さんの店』に立ち寄って石垣さんのお話しを聞き、クルマで小坂町の『あきた森の宅配便』オフィスに移動しました。空き家になっていた古い家を改築したオフィスには仕事場というより普通の家。キッチンでは、山の名人のみなさんが山菜料理を作ってくださっていたのです。目の前に並んだ山菜料理は14品! 心のこもった山菜フルコース、といった趣で、もちろん、とても美味しかったです。山の名人のみなさん、ほんとうにありがとうございました!
この手料理。奈津子さんが「取材が来るから山菜料理を作ってほしい」と山の名人にお願いしたところ「みんなが張り切って14品も作ってくれた」と、奈津子さんも驚いていました。ふき、みず、うど、わらび、ぜんまい、たけのこ、きのこ、こんにゃく、さといも、枝豆など、なんと19品目が入った「きゃ(け)の汁」(この地方の郷土料理)も、すごくおいしかったです。
同じ地域に住む人が力を合わせ、楽しみながら、天然山菜を通じて地域の魅力を広く社会に発信する。食べきれないほど並んだ山菜料理には、この取り組みの意義と魅力をおいしく実感することができました。余った料理はタッパーに入れて、山の名人のみなさんがそれぞれ持ち帰っている様子も印象的。都会では忘れがちな「おすそ分け」の心を思い出させてもらった気がします。
今後は、長くこの取り組みを続け「私自身も山菜採りを覚えたいし、山菜採りの後継者を育てていきたい」という奈津子さん。山菜を採っておいしくいただく伝統は、豊かな自然と、その自然との付き合い方を知る人の力があってこその食文化です。山で採れた分だけを販売するので、1カ所のビジネスとして大きくするには限界もあるでしょうが、同じような試みが日本全国に広がっていけばとても素晴らしいことだと感じます。頑張ってください!