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研究課題別評価詳細表
I. 事後評価
事後評価 3. 第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>
i. 環境問題対応型研究領域
研究課題名: 【S2-09】マイクロコズムを用いた生態系リスク影響評価システム手法の開発
(H21〜H23)
研究代表者氏名: 稲森 悠平(福島大学)
1.研究計画
本研究は、標準モデル生態系として活用が期待されるマイクロコズムを用いて、機能パラメータ(P/R比)と構造パラメータ(生物相)から、各種の化学物質の影響評価を行い、生態系リスク影響評価手法の開発に資する基礎的知見の集積を目的として検討してきているものである。研究体制は国内におけるマイクロコズム研究の第一人者クラスから構成され、サブテーマ(1)〜(5)を分担しながら相互に密な連携体制をとりつつ実施してきている。得られた成果については、国内外の従前の研究成果と比較検討を行い、OECD等の国際的な標準試験方法として採用されるよう精力的に検討を進めているところである。
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■ 研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題 [PDF 176KB]
2.研究の実施結果
(1)マイクロコズムを用いた各種化学物質の生態影響の総合解析評価およびマニュアル化
界面活性剤(LAS、AE、SDS)を対象として実験的検討を行った結果、個体数密度の遷移の評価と生産量(P)、呼吸量(R)値からの評価は整合性が存在することが示唆された。また、P、R値を用いることで客観的に生態系機能の抵抗安定性と回復安定性の評価を行うことが可能であった。さらに、マイクロコズム試験とメソコズム試験には高い相関性があることが示唆された。
(2)マイクロコズムの構成微生物群と安定性確保のための操作条件の最適化およびモデル化
生態系の生産・消費構造(生産者、消費者、生産者及び生産者の量)および変化を 溶存酸素濃度(DO )値の極大値と極小値から定量的に評価できることが数理モデルと培養実験から明らかとなった。さらに、DO波形の極大値と極小値の変化を解析することにより、毒物が生態系の生産および消費(呼吸)の量的構造に及ぼす効果とその程度を評価できることが明らかになった。特に、DO波形の極大値・極小値の変化の方向、程度および回復時間を知ることで、毒性が生態系の生産・消費構造のどこに作用するかという特性とその強さを評価できることが明らかにされた。
(3)マイクロコズムを用いた金属類の生態系システムに及ぼす解析評価
金属類に着目して実験的検討を行った結果、各金属のマイクロコズム無影響濃度(m-NOEC)は、Al3+:0.15mg・L-1、Cu2+:0.25mg・L-1、Zn2+:1.20mg・L-1、Cd2+:0.16mg・L-1、Mn2+:1.0mg・L-1、Mg2+:10mg・L-1、Ca2+:5.0mg・L-1、Ni2+:≦1.0mg・L-1、Co2+:1.5mg・L-1と見積もられた。また、培養モデルと数理モデルのバイブリッド型リスク評価システムの構築を試み、両者の相関は高いことを明らかにできた。
(4)マイクロコズムを用いた農薬・有機物負荷等の生態系に及ぼす解析評価
農薬類のシマジン、ベンチオカーブ、フェニトロチオンを対象として、実験的検討を行った結果、殺虫剤のフェニトロチオンは動物の個体数が大きく減少したり消滅したりする負荷濃度で、生産量と呼吸量では影響がみられなかったのに対して、除草剤シマジンでは生物の個体数に全く影響がない負荷濃度においても、呼吸量が減少するため、P/R比も減少する影響が確認された。また、アルコール類を溶媒とすることで、農薬物質を適正に溶解させることができ新たな化学物質を対象とした評価試験のマニュアルを開発することができた。
(5)マイクロコズムを用いた微量汚染化学物質等の低減機能および生態系システムに及ぼす解析評価
抗生物質としてオキシテトラサイクリン(OTC)を対象として実験的検討を行った結果、m-NOEC(<0.007 mg・L-1)はEPAによる値(0.11 mg・L-1未満)よりも十分小さく、これはEPA試験では考慮されていないOTCに対する感受性の高い生物への直接的な影響と、生物間相互作用を通した間接的な影響が評価されたためであると考えられた。
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ネット de 研究成果報告会 S2-09
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/S2-09.html
3.環境政策への貢献
環境リスク評価のための従来法の単一生物種を用いた評価においては見落とされる可能性のある生物間相互作用に起因する生態系への影響評価に対し、マイクロコズム試験法は有効であることが示された。特に,本マイクロコズムには従来法では用いられていない原生動物や後生動物が存在しており,それらの生物種の存在が微生物生態系に及ぼす影響を評価する上で重要なことがわかった。また、水圏モデル生態系マイクロコズム導入によるP/R比評価法は、生態系への様々な化学物質の影響に対する基礎的な知見を得ることが可能であり、化学物質の適正な管理による自然生態系保護のための有用な基盤技法となるものであることを明らかにした。本評価法は、実験方法、データの解析方法等が全てマニュアル化されており、日本発の新しい汎用化可能な生態系リスク評価手法として、OECD試験標準法化の可能性を有し、国際的環境政策としての意義は極めて大きいといえる。また、生態・環境リスク評価の重要性は、国際放射生態学連合のタスクグループ「環境防護への生態系アプローチ」の最終報告書案に採用され、この報告書は国際放射線防護委員会(ICRP)や経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)などに大きな影響を与える可能性が高く、これら国際機関の勧告等を通して、我が国における環境の放射線防護政策を含めて大きく貢献し、波及効果は甚大であるものと考えられた。なお、OECD化に向けたマイクロコズム試験の今後の展開としては、現在、リードラボ主導による試験法の開発および国内リングテストの初期段階にあり、試験方法(プロトコール)の確立と統一、施設間再現性の検証(リングテスト)、データベースの構築と適用領域の明確化を推進しているところであり大きな展望が開けた。この段階では、データベースの充実化、自然生態系(メソコズム)との相関解析、既知毒性データとの関係性の評価を検証することが必要であり、これを経た後に、公的機関によるバリデーション(有用性評価)、ピアレビュー(国際審査)を経て、公定法として制定されることとなり大きな期待が持てる。なお、WET試験法(Whole Effluent Toxicity Test)に続き、本プロジェクトで得られた成果を最大限活用してOECD試験法として国際標準化することで、技術立国としての日本から発信される新たな環境政策情報となることが期待される。
4.委員の指摘及び提言概要
生態系の影響評価手法は重要な課題であるが、マイクロコズムを用いP/ Rを導入した評価法の検討から、新たな知見が得えられ、実用性が高められたことは評価される。
一方、P/Rでの評価法についても多様な化学物質に対する系統的な研究が必要とされるが、断片的な結果がでているに過ぎないこと、第三者による有用性の評価や一般化された行政的手法として利用するには不十分なこと、国際審査、国際的な公定法としての認定への道筋が明確でないこと、従来の単一種を用いる評価法に対し明快なメリットがあるとの結論を得るには至っていないことが指摘される。これらのことから、P/R比の再現性、感度、値の評価基準の根拠、妥当性の検討、マイクロコズムを用いた評価法と個別試験法の感度の比較、簡便に再現性良くできる手法の確立、評価法の国内での基準作り、OECDで採用をめざすことが今後の課題である。また、視点を変え従来法でのアセスメント係数の妥当性や従来法を補完するのに役立つ場合を示すことを主目的としてデータの蓄積や方法論の確立が有用となる。
4.評点
総合評点: B ★★★☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【C-0901】ディーゼル排気ナノ粒子の脳、肝、生殖器への影響バイオマーカー創出・リスク評価(H21〜H23)
研究代表者氏名: 黒河 佳香(独立行政法人 国立環境研究所)
1.研究計画
(1)ナノ粒子曝露の脳への影響のメカニズム解明と新たなバイオマーカーの創出・リスク評価
マウスにNRDE(nanoparticle-rich diesel exhaust)を吸入曝露し、各(短・長)期間における嗅球、海馬等での炎症性サイトカインおよびNMDA型グルタミン酸受容体サブユニット(NR2A、NR2B)のmR NA発現レベルヘの影響を明らかにする。また、行動科学的手法により、マウスの学習(海馬依存学習、強化学習)
機能への影響を検証する。
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(2)ナノ粒子曝露の肝臓、腎臓への影響のメカニズム解析と新たなバイオマーカー創出・リスク評価
NRDEを曝露した実験動物(ラット、マウス)の試料を用いて肝臓・腎臓の病理学的検討を行うとともに、血漿中の逸脱酵素(AST,ALT等)を測定する。また、肝障害のメカニズム解明のため、肝のRNA、タンパク、病理組織を用いて炎症メディエーター・シグナル、アポトーシス等をRT PCR、Western Blot、TUNEL等で検討し、ナノ粒子曝露による影響のバイオマーカー候補を創出する。
(3)ナノ粒子曝露のホルモン系への影響と新たなバイオマーカーの創出・リスク評価
NRDEを曝露した実験動物の試料を用いて、血中および副腎中の各種ホルモンを測定することにより、ナノ粒子が副腎に及ぼす影響のメカニズムを明らかにする。階層的な支配関係にある内分泌・生殖器系の機能変化を系統だてて検証するために、マクロ観察から分子生物学的手法にいたるまでの各種検査を行なう。
■ 研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題 [PDF 176KB]
2.研究の実施結果
20nm付近の粒径のナノ粒子を多く含んだディーゼル排気(NRDE)の亜急性曝露(1〜12か月)がマウス・ラットの脳・肝・腎・生殖器系に与える影響を検証した。
(1)ナノ粒子曝露の脳への影響のメカニズム解明と新たなバイオマーカーの創出・リスク評価
行動科学的検査および脳組織の分子生物学的分析で得られた所見では、NRDE曝露によりオペラント学習機能には影響は見られなかったが、海馬依存的な学習機能に影響が現れる可能性が示唆された。
(2)ナノ粒子曝露の肝臓、腎臓への影響のメカニズム解析と新たなバイオマーカー創出・リスク評価
NRDE曝露による肝機能への影響の一端が明らかになった。その影響の一部にPPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)が関与すること、脂質のホメオスタシスが1ヶ月曝露で撹乱されること、そして長期曝露の結果として実際に肝臓に脂質の蓄積が起こることを明らかにした。
(3)ナノ粒子曝露のホルモン系への影響と新たなバイオマーカーの創出・リスク評価
先行研究で観察されていた曝露後のテストステロンの上昇は精巣への直接作用(精巣ラィディヒ細胞におけるステロイドホルモン生合成酵素と関連因子の活性上昇、エイコサノイド合成系の関与)である可能性が示唆された。また、妊娠ラットの高濃度曝露で認められる黄体機能の低下・コルチコステロン分泌増加は、曝露により流産や雄胎子の脳の脱雌性化の阻害がおこりやすくなることも示唆された。
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ネット de 研究成果報告会 C-0901
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/C-0901.html
3.環境政策への貢献
本研究の結果から、環境基準値よりはるかに低い濃度の曝露(15 µg/m3)でも肝臓の脂質量に変化をもたらすことが明らかとなった。同濃度の曝露により先行研究においてテストステロン濃度の有意な上昇が確認されている。また、長期DE曝露マウスの結果では、粒子を除去したガス成分のみの曝露においても高濃度NRDE曝露群同様に肝臓の脂質の蓄積が観察されている。これらのことから、環境基準値と粒子規制を主とする排気ガス規制の見直しの検討が必要となるかもしれないが、その際の科学的知見として貢献できると考えられる。
さらに、ナノ粒子曝露により雄の精巣機能に影響がでる可能性を示唆したことから、本研究は、ヒトを含んだ都市部で生活する雄動物の生殖機能への作用メカニズムを研究することの必要性を提示した。また、ナノ粒子曝露により妊娠動物の卵巣機能が抑制される可能性を示唆したことから、本研究は、都市部で生活する妊婦への影響について研究を深める必要性を提示した。
4.委員の指摘及び提言概要
ディーゼル排気ナノ粒子の吸入曝露装置を用い、生体影響をみたものであり、環境基準値より低レベルの曝露において影響(肝脂質量の変化)が観察され、PPARαを介しての影響であることを明らかにした点で評価できる。一方、結果の整理や考察が不十分なため、曝露がどのような影響を与えたのか、与えなかったのかが不明な点や高濃度曝露群と除粒子群で、同様の変化を示す指標があることからナノ粒子の影響なのか除粒子群のガス状物質の何が影響しているのか、再現性についても明確でない。これまで行われている国立環境研の長期曝露影響評価や短期曝露の結果と長期曝露での影響の関係における本研究の位置づけが不十分な点があった。研究費の総額からみて課題として掲げられた新たなバイオマーカーの創出とリスク評価には十分な成果が得られていない。結果を整理し、影響の有無およびその背景にある知見が全体として明らかになる工夫が必要。
4.評点
総合評点: C ★★☆☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【C-0902】妊娠可能な女性を対象とする難分解性有機汚染物質の体内負荷低減の介入研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 仲井 邦彦(東北大学)
1.研究計画
妊娠可能な年齢の女性のPersistent Organic Pollutants (POPs) 体内負荷低減を目指す介入研究を行った。当初は1および2の2つのサブテーマを設定し、次年度以降は不飽和脂肪酸(PUFA)摂取および食事調査に関する3〜5の3つのサブテーマを追加した。
(1)介入研究の実施に関する研究
若年女性を対象とする介入研究を計画し、74名程度の研究協力者(介入群、対照群について各37名)を登録し、層別ランダム化による介入研究を計画した。介入は、POPs曝露源となる魚種を特定し、その情報を研究協力者のうち介入群に対して、面談、ニュースレター、勉強会などで提供した。一方、対照群には介入情報の提供は行わないこととした。
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(2)介入研究の評価に関する研究
研究協力者の適格性判断、介入群と対照群への群分け、安全性評価を行った。介入効果について、介入前後で血中POPs濃度を比較するとともに、定期的な血液生化学的検査を行った。
(3)不飽和脂肪酸の摂取と代謝に関する研究
PUFA摂取量のモニタリングを目的とし、赤血球膜中リン脂質を抽出し、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸分析を実施した。
(4)食品および栄養素摂取の評価に関する研究
研究協力者の全体的な食品摂取の評価を目的とし、食事記録法と写真撮影法による食物摂取調査を実施した。
(5)介入研究における食物摂取頻度調査に関する研究
研究協力者の栄養摂取について、自記式食事歴法質問票を用いて、介入による変動や偏りを解析した。さらに、若年女性特有の栄養学的な課題として、鉄欠乏についても配慮した。
■ 研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題 [PDF 176KB]
2.研究の実施結果
(1)介入研究の実施に関する研究
133名の登録を受けてベースライン調査を実施し、魚摂取頻度、年齢、体格指数(BMI)、食費、学歴、家族同居の有無、血清フェリチン値より層別ランダム化比較試験による介入群と対照群への群分けを行った。実質20ヶ月間の介入後に、130名(介入群、対照群ともに65名)で調査を終えた。
介入効果の検証を、年齢、BMIおよび研究期間中の体重変化率を共変量とし、血中ポリ塩化ビフェニル(PCB)濃度の変化を共分散分析により解析した。総PCBは対照群に比し介入群で8.7%減少した。介入群の中には、低減率が30%以上となる事例も含まれており、介入によりPCB体内負荷量は有意に減少したと結論された。仮に10年間、介入を継続した場合の低減効果を推定すると、20ヶ月間の低減効果を10%で試算した場合、10年後は53%のPCBが残留するが、20ヶ月の低減効果を30%で試算した場合、10年後は12%に減少することが示された。
(2)介入研究の評価に関する研究
調査の進展とともに、両群で体重、BMI、血圧値の低下傾向、血液生化学検査の変動等が観察されたが、介入そのものに起因した影響ではなく、若年女性に共通した現象と考えられた。
(3)不飽和脂肪酸の摂取と代謝に関する研究
介入に伴う魚介類全般の摂取量の抑制と、それに伴うn-3PUFA摂取量の欠乏が起こることを懸念し、赤血球膜中リン脂質脂肪酸の測定を行った。その結果、介入群では介入1年目にかけて赤血球膜中リン脂質脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)が減少したが、対照群との間には差はなく、栄養学的な問題は起きてはいないと判断された。
(4)食品および栄養素摂取の評価に関する研究
介入に伴う栄養学的な偏りの有無を検証するため、24時間の自記式食物摂取調査による栄養調査を実施した。介入群では、食塩摂取量が低下し、魚介類と肉類の間で動物性食品の交換が起こったが、飽和脂肪酸やn-6PUFAの増加は観察されておらず、動物性食品の交換は栄養学的には問題ない範囲内でとどまっていた。
(5)介入研究における食物摂取頻度調査に関する研究
栄養調査を自記式食事歴法質問票により検討した。その結果、総エネルギー摂取、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン類、微量元素などの摂取量に大きな偏りは観察されなかった。鉄貯蔵や増血に関連するビタミンB6、ビタミンB12、葉酸摂取量、鉄摂取量においても差は認められず、介入による栄養素の偏りはないことを確認した。
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ネット de 研究成果報告会 C-0902
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/C-0902.html
3.環境政策への貢献
POPsの人体ばく露については、低レベルにおいても有害性が懸念されており、リスク回避のための方法の考案が求められている。POPsは主に魚介類に蓄積していることから、リスク回避については魚介類を摂取するのか、または摂取しないのか、の二者択一的な議論が行われてきた。本研究の結果からは、食生活を見直すことにより、魚介類摂取に内包するベネフィット(栄養素の摂取)を享受しながら、汚染度が高い魚介類の摂取を控えることでリスク(化学物質ばく露)を回避することが可能となることが示された。今回開発した方法は、魚介類の食べ方を中心に食行動を変えるだけで実行することができる簡単な方法であり、食の安全と安心に関する情報提供、POPsに関するリスクコミュニケーションを具体化する上での基礎資料として活用できると考えられた。
4.委員の指摘及び提言概要
ダイオキシン類の妊婦から胎児への移動についての知見が得られていることや、サブテーマ(2)で出生体重への影響と性差において一定の研究成果が得られた点は評価できる。一方、移動性、移動メカニズム、移動量とリスク評価の関係、基礎研究の結果と疫学調査の関係、サブテーマ間の整合性や最近の母体中の濃度程度では胎児発育遅延とダイオキシン類濃度とは関連がないと推察できるのかといった課題全体、についての考察が不十分な点、サブテーマ(1) では正常例数が少なすぎることや、血液サンプルが未分析であり科学的意義について言及できない点、サブテーマ(2)では、正常例について、母体・胎児の曝露量と児の胎盤、甲状腺、免疫機能の多くの検討項目がほとんど実施されず、カネミ油症患者に関する研究のみが行われた点、サブテーマ(3)は胎盤毒性の作用機序解明には至っていない点で成果が十分あがったとはいえない。目的と目的を達成する具体的な方法との関係を一層明確にした取組みや結果に対する十分な考察をすることが求められる。
4.評点
総合評点: A ★★★★☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
研究課題名: 【C-0903】妊婦におけるダイオキシン摂取が胎児健康に及ぼす影響のリスク評価に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 月森 清巳(福岡市立こども病院)
1.研究計画
本研究では、妊婦におけるダイオキシン類摂取が胎児の発育・発達に及ぼす影響を観察することによって、ダイオキシン類のヒトの健康に及ぼす影響のリスク評価を行うことを目的とした。この主旨に沿って、ダイオキシン類の母体から胎児への移行に関する研究、子宮内ダイオキシン類曝露とそれによる児の健康影響との関連に関する研究、ダイオキシン類の胎盤毒性に関する基礎的研究の3課題を設定し、研究をすすめた。
(1)ダイオキシン類の母体から胎児への移行に関する研究
母体並びに胎児関連の様々な生体試料を採取し、当該試料中のダイオキシン類濃度を計測することによって、ダイオキシン類の母体側から胎児側への移行量やダイオキシン類異性体別の移行の傾向、母体−胎児間の濃度分布等を把握すること、
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(2) 子宮内ダイオキシン類曝露とそれによる児の健康影響との関連に関する研究
高濃度のダイオキシン類、なかでも2,3,4,7,8-5塩化ジベンゾフラン( 2,3,4,7,8-PeCDF)に曝露したカネミ油症患者における母体−胎児ダイオキシン類移行と児の健康影響との関連の観察を介して、子宮内ダイオキシン類曝露による児の健康影響を明らかにすること、ダイオキシン類の子宮内膜や絨毛細胞に対する細胞生物学的影響を明らかにすること、によって、ダイオキシン類の母体側から胎児側への移行量やダイオキシン類異性体別の移行の傾向、母体−胎児間の濃度分布等を把握すること、
(3) ダイオキシン類の胎盤毒性に関する基礎的研究
テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)がヒト絨毛外栄養膜細胞(EVT)の生物学的性質に与える影響を明らかにすること、ヒトアリル炭化水素(AhR)のプロモータ領域単一核多型(SNPs)によるAhR転写制御への影響を明らかにすること、
をそれぞれ目的とした。
■ 研究概要
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2.研究の実施結果
(1)ダイオキシン類の母体から胎児への移行に関する研究
臍帯血、母体血、胎盤のダイオキシン類濃度を正常出産ならびに子宮内発育制限の妊産婦において測定し比較したところ、母体血、臍帯血、母体脂肪組織、胎盤組織の各試料中のダイオキシン類濃度(Total 毒性等量(TEQ))は、母体の出産経験数及び年齢と関連を有すること、母体血、胎盤、臍帯血の順に低くなり、胎児側に近い組織ほどダイオキシン類濃度は低くなること、子宮内発育制限症例でもこの傾向は同様であること、母体内でのダイオキシン類の胎児への透過は胎盤で一定の抑制がなされていること、がわかった。
(2) 子宮内ダイオキシン類曝露とそれによる児の健康影響との関連に関する研究
油症患者より出生した児の健康影響は、母体血中ダイオキシン類濃度は出生体重と有意に負の相関があること、出生体重に及ぼす影響はポリ塩化ジベンゾパラダイオキシン類(PCDDs)がポリ塩化ジベンゾフラン類(PCDFs)より大きく、男児の方が女児より影響を受けやすいこと、母体血中ダイオキシン類濃度の上昇はBlack baby発症リスクを増加させること、女系の2世、3世では男児出生率が低下すること、がわかった。
(3) ダイオキシン類の胎盤毒性に関する基礎的研究
TCDDはEVT由来株の増殖や細胞死、分化マーカータンパク発現に有意な影響をあたえないが、絨毛幹細胞の増殖・維持には抑制的に作用し、幹細胞の出現率を低下させる可能性があること、AhRプロモーター領域の一塩基多型によりダイオキシンの生物学的作用には個体差が生じうること、がわかった。
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3.環境政策への貢献
本分担研究で採取している生体試料は母体血のほか、胎脂、胎便や羊水など、これまでダイオキシン類の測定事例が殆ど報告されていない試料である。本調査研究では、これらの様々な種類の生体試料の分析に対応するために、分析法の改良・開発を並行して実施している。新しい分析方法は、国内外の多くの研究者にとって有益な情報であって、本分野の研究の進展に寄与するとともに環境政策に役立つ科学データの蓄積が図られることになる。また調査手順の全般(試料採取方法や試料保管方法など)で得られた知見や課題は、今後想定される大規模な調査プロジェクトにおいて、調査手法の設計・立案に役立つと考えられる。ダイオキシン類の胎児発育に及ぼす影響における性差の機序やダイオキシン類による胎児発育抑制の発現機序を明らかにすることは、ダイオキシン類による児への健康影響を評価するためのひとつの指標となり、ダイオキシン類に関する環境政策への根拠を提供することに繋がるものと思われる。SNPsと個体におけるTCDDの感受性の関連について明らかとなれば、TCDDの影響を受けやすい高感受性の個体への暴露防止策などあらたな対策がとれるものと思われる。
4.委員の指摘及び提言概要
生態系の影響評価手法は重要な課題であるが、マイクロコズムを用いP/ Rを導入した評価法の検討から、新たな知見が得えられ、実用性が高められたことは評価される。
一方、P/Rでの評価法についても多様な化学物質に対する系統的な研究が必要とされるが、断片的な結果がでているに過ぎないこと、第三者による有用性の評価や一般化された行政的手法として利用するには不十分なこと、国際審査、国際的な公定法としての認定への道筋が明確でないこと、従来の単一種を用いる評価法に対し明快なメリットがあるとの結論を得るには至っていないことが指摘される。これらのことから、P/R比の再現性、感度、値の評価基準の根拠、妥当性の検討、マイクロコズムを用いた評価法と個別試験法の感度の比較、簡便に再現性良くできる手法の確立、評価法の国内での基準作り、OECDで採用をめざすことが今後の課題である。また、視点を変え従来法でのアセスメント係数の妥当性や従来法を補完するのに役立つ場合を示すことを主目的としてデータの蓄積や方法論の確立が有用となる。
4.評点
総合評点: B ★★★☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【C-0904】微量化学物質の胎児・新生児期曝露と乳幼児のアレルギー疾患の関連性に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 森 千里(千葉大学)
1.研究計画
難燃剤は火災などの燃焼被害を抑制するために、家庭電化製品や家具、プラスチックなどに添加され用いられている。難燃剤は、臭素系や塩素系、リン系などに区分されるが、現在はおもに臭素系が世界中で使用されている。臭素系難燃剤(brominated flame retardants:BFRs)にはポリ臭素化ジフェニルエーテル(polybrominated diphenyl ethers : PBDEs)、テトラブロモビスフェノールA(tetrabromobisphenol A:TBBPA)、トリブロモフェノール(tribromophenol:TBP)などがある。BFRsのなかで代表的なPBDEsには209の異性体が存在し、ポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyls:PCBs)や甲状腺ホルモンと化学構造が類似している。また、PBDEsの分解産物として臭素化ダイオキシン類などが発生することが知られている。PBDEsは空気や土壌などの環境中や野生生物、ヒトからも検出されるほか、魚類)やハウスダストからも検出されることが報告されている。
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ところで、ヒトは環境からさまざまな化学物質を摂取していることが報告されており、塩素系化合物、臭素系化合物、フッ素系化合物、重金属などの一部の化学物質は健康に悪影響を及ぼしている可能性が指摘されているが、まだ不明な点が多い。また、蓄積性化学物質の曝露が生体にさまざま影響を及ぼすことが知られるようになってきたものの、アレルギー疾患の発症との関連についても影響の可能性が示唆されているが、明確なエビデンスはない。
本研究では、出生時曝露レベルとその後のアレルギー疾患発症との関連を追跡調査することで両者の関連性を調べるものである。そのため、臍帯中の化学物質曝露量、塩素化有機化合物 (ポリ塩化ビフェニル、主要な農薬類)、臭素化難燃剤(臭素化ジフェニルエーテル :PBDE)等を測定する。ただし、本研究ではPBDEを測定対象化学物質とする。併せて、幼児期(2歳前後)まで臨床現場あるいはアンケート調査で追跡が可能な被験者に対し、継続的にアレルギー症状について調査し、PBDEの曝露量とアレルギー疾患との関連性を統計的に解析する。また、これらの結果は、どの程度の曝露があればアレルギー疾患の発症や増悪に影響するかという定量的データが得られることも期待されるため、授乳期間との関係も調べ授乳期間の基本的なデータをつくるものである。
本研究の骨子は、① 臍帯に含まれるPBDEs濃度分析と、② 臍帯中PBDEs濃度とアレルギー疾患発症の追跡調査の2つからなり、アレルギー疾患と臍帯中PBDEs濃度による胎児期化学物質曝露との関連性について検証する。
■ 研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題 [PDF 176KB]
2.研究の実施結果
86名の協力者から出産時に採取した臍帯のPBDEs濃度を測定した。PBDEsは全ての臍帯試料から検出され、総PBDEs平均濃度は、試料重量あたり70.9 pg/g-wetであった。異性体別では、工業製品に含まれる主要異性体BDE-209、BDE-47、BDE-99、BDE-100、BDE-153が検出された。なかでも、BDE-209の存在割合が高く、総PBDEs濃度のほとんどをBDE-209が占めた。
臍帯中PBDEs濃度の解析対象者の中から、出生時および生後7か月時におけるアンケート等全てのデータが揃った80名に対し乳幼児アレルギー疾患と出生時PBDEs曝露レベルの関係について追跡した。アレルギー性皮膚炎の発症児は27名、非アレルギー性皮膚炎の児は53名であった。PBDEs濃度とアレルギー性皮膚炎を検討したところ、総PBDEs濃度および一部の同族体/異性体におけるPBDEs濃度とアレルギー性皮膚炎との関連が認められ、濃度が高い場合、アレルギー性皮膚炎の発症に関連する可能性が示された。
また、胎児期PBDEs曝露によるアトピー性皮膚炎の発症・促進は、炎症性を介しての可能性が示唆された。
図 研究成果のイメージ
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ネット de 研究成果報告会 C-0904
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/C-0904.html
3.環境政策への貢献
家庭電化製品や家具、プラスチックなどに添加され用いられている難燃剤は、臭素系や塩素系、リン系などに区分されるが、現在はおもに臭素系が世界中で使用されている。特に、臭素系難燃剤(BFRs)のなかで代表的なPBDEsは、空気や土壌などの環境中や野生生物、ヒトからも検出されるなか、食物中の魚類やハウスダストからも検出されることが報告されている。
ところで、ヒトは環境からさまざまな化学物質を摂取していることが報告されているが、塩素系化合物、臭素系化合物、フッ素系化合物、重金属などの一部の化学物質は健康に悪影響を及ぼしている可能性が指摘されているが、まだ不明な点が多い。
よって、本研究の骨子である“胎児・新生児曝露と乳幼児のアレルギー疾患の関連性”についての研究結果により明らかとなった、1) PBDEは、母体血・臍帯血・臍帯中の全ての検体で検出され、胎児期において、様々な同族体/異性体を含めPBDEに曝露されている点、2) PBDEの胎児曝露は、アトピー性皮膚炎の発症・促進に何らかの関係がある可能性がある点、3) 胎児期PBDE曝露によるアトピー性皮膚炎の発症・促進は、炎症性を介しての可能性が示唆された点、4) 乳幼児期のアレルギー疾患発症と化学物質曝露の関係は、胎児期曝露に加え母乳による乳児期曝露や遺伝的背景を加えた更なる解析が必要となる点、についてはヒトを取り巻く環境下にあるBFRsとヒトの健康に関する知見に繋がる可能性が期待される。
4.委員の指摘及び提言概要
難燃剤の測定値に対する信頼性に問題点はあるが、貴重な人体臍帯試料の測定をし、ほぼすべての試料からPBDEが検出されたことなど日本での人体汚染の現状を明らかにした点が評価される。一方、PBDEがアトピー性皮膚炎発症と関係する可能性については、遺伝的背景、母乳・食餌、他の環境因子など多くの複合要因が考えられること、交絡因子が調整されていないこと、コホート解析がなされていないことなどがあり初期的な知見にとどまっている。限られた予算の中での限界はあるが、計画通りの2年間の観察、症例数の増加、データ解析の再検討を図ることを期待する。
4.評点
総合評点: B ★★★☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【C-0905】小児先天奇形発症における環境リスク評価法の基盤整備(H21〜H23)
研究代表者氏名: 緒方 勤(浜松医科大学)
1.研究計画
(1)バイオマーカーの開発に関する研究
環境リスク評価の指標となるバイオマーカーとして、相関解析および機能解析で有意と判定された遺伝子多型・ハプロタイプ、および、疾患責任遺伝子のメチル化パターンや発現量を検討する。
(2)臍帯血・胎盤バンキングシステムの整備に関する研究
分子生物学的解析試料と暴露量測定試料の両者を対象としてバンキングを行う。そして、連結可能匿名化の臨床情報採取とバイオマーカーとして使用しうる多型・ハプロタイプの頻度や疾患責任遺伝子の発現量などのプロファイリングを行った後に試料をバンキングし、広くわが国の研究者が使用可能な成育バンキング体制を整備する。
図 研究のイメージ
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■ 研究概要
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2.研究の実施結果
(1)バイオマーカーの開発に関する研究
エストロゲン受容体α遺伝子(ESR1)の特定ハプロタイプが停留精巣と尿道下裂の強い感受性因子であり、その本態が感受性ハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示す2,244 bpの微細欠失であることを見いだした。
日本人精子形成障害患者と妊よう性陽性男性におけるハプロタイプ関連解析から、ESR2遺伝子の中央から3’領域に存在する約40 kbの連鎖不平衡領域のTGTAGA特定ハプロタイプが、精子形成障害の感受性であることを見いだした。
これまでの研究から、AHR、ARNT2、CYP1A2、CYP17A1、およびN1RI2(PXR)の5遺伝子の多型が男児外陰部異常症の発症と関連することが示唆されている。日本人について患者248名(停留精巣116名、尿道下裂98名およびマイクロペニス34名)および正常者141名について、前記の5遺伝子とその関連性を調べた結果、疾患によって異なる遺伝子のSNPを検出した。日本人における停留精巣において、CYP17A1 rs4919686およびARNT2 rs5000770を検出したが、尿道下裂では、CYP1A2 rs2069521およびARNT2 rs2278705、rs5000770が検出され、CYP17A1のSNPは検出されなかった。さらに、ARNT2 rs5000770は、停留精巣においても検出された。
外陰部皮膚線維芽細胞を用いたin vitroにおけるbisphenol-A (BPA)、estroadiol (E2)、TCDD暴露実験は、DMSO暴露を比較対照として行い、各群1.2倍以上の発現変化が見られた遺伝子の抽出を行った。その結果、BPA暴露では71遺伝子(42発現減少と29発現上昇)、E2暴露では814遺伝子(371発現減少と443発現上昇)、TCDD暴露では824遺伝子(344発現減少と480発現上昇)の発現変化を見いだした。
外陰部皮膚で発現しているARとSRD5A2のプロモーター領域において、過剰メチル化が少数の尿道下裂患者で認められた。
(2)臍帯血・胎盤バンキングシステムの整備に関する研究
正常児における臍帯血・胎盤の使用およびバンキングを行った。
これまでに、DNA・リンパ球セルライン検体として、臍帯血1,200、胎盤67、精子形成障害患者150、尿道下裂・停留精巣患者350、早発性卵巣機能不全患者120、口蓋裂患者60例分を集積した。また、組織検体として、胎盤67、尿道下裂・停留精巣患者の外陰部皮膚350、口蓋裂患者の口腔粘膜60例分を集積した。
胎盤・臍帯血を用いた発現解析やメチル化解析を種々の遺伝子やインプリンティング遺伝子を対象として行った。その結果、新鮮な胎盤では、種々の遺伝子やインプリンティング遺伝子を対象とする遺伝子発現解析やメチル化解析などの様々な解析が可能であることが判明した。
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ネット de 研究成果報告会 C-0905
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/C-0905.html
3.環境政策への貢献
(1)バイオマーカーの開発に関する研究
本研究により同定される感受性多型・ハプロタイプは、小児の環境化学物質感受性を評価するバイオマーカーとなる。そして、健常者における感受性因子の頻度を、暴露量が異なると考えられる世代間で比較することで、現在の小児集団が成人集団よりも、暴露量の観点から先天奇形症発症に関してより高いリスクを持つことを認識させる効果を持つと期待される。
(2)臍帯血・胎盤バンキングシステムの整備に関する研究
本研究の環境リスク研究に広く貢献できる臍帯血・胎盤バンキングシステムの整備は、先天奇形のなかでも尿道下裂など、生殖と密接に関連する領域の研究において、遺伝因子と環境因子の相互作用で出現する先天奇形の表現型の適切な解析を可能とする。尿道下裂など生殖と密接に関連する領域の研究は、少子化対策の観点から、強いインパクトを持つと考えられる。また、バンキングシステムの整備により、精神発達障害、発癌性、催奇形性など、環境化学物質との関連が危惧される疾患の発症機序解明にも貢献する。
4.委員の指摘及び提言概要
環境汚染化学物質暴露が増加している現状で、健康影響を評価するための臍帯血、胎盤バンキングの基盤整備は重要な事業であるがシステムの構築やサンプルの集積も進んでいること、小児先天奇形発症に関し内分泌撹乱物質に対する高感受性個体(エストロゲン受容体遺伝子のハプロタイプ解析によって特定)が存在し、感受性因子を持つ個体に対して保護しうるような基準や規制を行う必要性を示した点、バイオマーカーの開発に関する研究では、先天異常疾患ごとに特異的な遺伝子のSNPを明らかにしている点、論文発表など成果の公表が着実になされている点が評価できる。
今後の課題として、対象疾患等も含めた系統的な研究、遺伝子の特定ハプロタイプが感受性決定要因であることを証明する事実の検証、エコチル調査と連携した長期間継続できるシステムの構築がある。
4.評点
総合評点: A ★★★★☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【C-0906】受容体AhRの転写活性化を伴わないダイオキシン類の新たな毒性発現メカニズムの解明(H21〜H23)
研究代表者氏名: 遠山 千春 (東京大学)
1.研究計画
遺伝子欠損マウスを用いた新生仔への曝露実験系を構築し、ダイオキシン類によって新生仔期特異的に起こる催奇形性である水腎症を毒性影響評価指標として、ダイオキシン類が多様な毒性現象を引き起こす鍵になる生体内因子を特定する。また、この鍵になる生体内因子が奇形という組織レベルでの大規模な変化を引き起こすメカニズムを明らかにする。本研究の動物実験系ならびに本研究で特定する毒性発現に必要な因子が、他の毒性影響評価指標の解明と、さらには、ダイオキシン多様な毒性の全貌を明らかにする為に有用である。
図 研究のイメージ
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(1) cPLA2遺伝子欠損マウスにおけるダイオキシン曝露による水腎症に関する研究、及びダイオキシン曝露マウス腎臓におけるサイトカインの解析に関する研究
AhRの転写活性化を伴わない新たな毒性性発現メカニズムが存在することを明らかにし、またそのメカニズムと毒性現象を仲介する分子を探索する。
(2)ダイオキシン曝露マウス尿管の形態と機能の解析に関する研究
ダイオキシン曝露が引き起こす水腎症に関して、腎臓と尿管の微細形態の変化を組織学的に詳細に解析することで、曝露後早期に起こる分子レベルでの変化が組織レベルでの顕著な変化を起こすメカニズムを明らかにする。
■ 研究概要
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2.研究の実施結果
(1) cPLA2遺伝子欠損マウスにおけるダイオキシン曝露による水腎症に関する研究、及びダイオキシン曝露マウス腎臓におけるサイトカインの解析に関する研究
マウス産仔に経母乳曝露を行ったところ、TCDD曝露による水腎症の発症率は野生型では100%であったのに対し、cPLA2α遺伝子欠損型の曝露群では35.7%と顕著に低かった。また、TCDD曝露によるマウス授乳期水腎症の原因となるCOX-2のmRNA量と活性の増加は、共にcPLA2αに依存することが明らかになった。さらに、水腎症発症に伴って発現量の減少する遺伝子であるNKCC2, ROMK AQP2も、cPLA2αに依存することが明らかになった。これらの結果から、cPLA2αは原因となる分子の上流に位置して発症に影響を与える分子であることが明らかになった。重症度についても、cPLA2α遺伝子欠損型の曝露群では野生型に比して顕著に抑制された。この結果から、cPLA2αはダイオキシン曝露による授乳期水腎症の発症を引き起こす重要な分子であることが明らかになった。
ダイオキシン曝露マウスの腎臓において、曝露と発症を仲介する分子の探索を行うために、Luminexシステムを利用してサイトカイン類の定量を行った。その結果、ケモカイン(IP-10, MCP-1, MIG)と炎症性サイトカイン(IL-1β, TNF-α, IL-6)の量が増加することを発見した。しかしながら、これらのサイトカイン類の変化がcPLA2α遺伝子の有無に依存するとの結果は得られなかった。このことから、これらのケモカインと炎症性サイトカインはcPLA2αの関与するAhRのノンジェノミック作用と水腎症を仲介する分子ではない可能性が高いと考えられる。
(2) ダイオキシン曝露マウス尿管の形態と機能の解析に関する研究
TCDD曝露個体の腎臓で、腎臓の形態には大きな形態変化が認められなかった。蠕動運動に関しては曝露影響が認められなかった。一方、尿濃縮能の指標として尿浸透圧と尿量の指標として尿重量を測定した結果、TCDD曝露群では尿浸透圧が有意に減少し、また、尿重量が顕著に増加した。TCDD曝露による尿量増加を抗利尿作用のあるdDAVPを用いて抑制する実験を行った結果、TCDD単独曝露群に比べてdDAVPを同時に曝露した群では、尿量増加が顕著に減少し、対照群レベルまで減少した。また、腎臓について組織学的解析を行ったところ、dDAVPを同時に曝露した群の水腎症発症率、重症度ともに、TCDD単独曝露群に比べて顕著に低下した。以上の結果から、TCDD曝露による水腎症は、TCDDによる尿産生量増加に起因することが明らかになった。
図 研究成果のイメージ
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ネット de 研究成果報告会 C-0906
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3.環境政策への貢献
種々の化合物がダイオキシン様毒性を持つかを検証するために、AhRの転写活性化能を指標とするレポーターアッセイシステムが利用されている。本研究は、AhRの転写活性化能に基づかないダイオキシン毒性が存在することを明らかにした。このことは、上記レポーターアッセイシステムのみでダイオキシン毒性を評価することが不適切である可能性を示唆している。ダイオキシン毒性を持つ化学物質のリスク評価に影響し得る新たな科学的知見をもたらしたものと考えられる。
4.委員の指摘及び提言概要
水腎症をエンドポイントとしてダイオキシンの毒性発現機構におけるcPLA2αを介したAhRのノンジェノミック作用の役割を明らかにした点、ダイオキシン類による水腎症発生メカニズムに尿浸透圧の低下と尿量の増加が関与していることを明らかにした点で評価できる。一方、ダイオキシンの毒性発現は多様であり、その全体像解明に向けて本研究の寄与がどの程度のものであるのか不明な点や実用的な側面、環境政策への展開が全く見えない点で限定的な成果にとどまっている。
4.評点
総合評点: B ★★★☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
事後評価 3. 第3研究分科会<リスク管理・健康リスク>
ii. 革新型研究開発領域
研究課題名: 【RF-0909】実環境の複合汚染評価を目的としたトキシコゲノミクス解析法の開発と現場への適用に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 宇野 誠一(鹿児島大学)
1.研究計画
本研究ではメダカを対象とし、①メタボロミクスとトランスクリプトミクスを同時に行って複合影響評価法を確立する、また、②実環境でのトキシコゲノミクスによる汚染影響評価を行うための礎となるデータの構築とシステムを作る、ことを目的とする。このとき生物が受ける影響の大きさを数値で表し定量化することで影響評価の結果を簡単に判断できるようにする。さらに本研究で作るシステムにより実際の海底泥の汚染影響評価を行い、その影響度を数値で表して影響度比較を行う。
■ 研究概要
環境研究・技術開発推進費 平成21年度新規採択課題 [PDF 176KB]
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2.研究の実施結果
本研究では、平成21年度に生物に異なる影響を与える絶食および低温暴露の2つのストレスのヒメダカへの暴露試験、22年には類似の影響を与えると考えられるフェナントレンとピレンの混合暴露試験を行って、メタボロミクス及びトランスクリプトミクスによる影響評価法を確立した。23年度は海底泥からの総抽出物をヒメダカに暴露し、21、22年度に確立した方法を用いて海底質の影響評価を試みた。
(1)メタボロミクスによる影響評価法の確立に関する研究
本研究ではヒメダカから抽出した代謝物をGC/MSにより測定し、そこから得られる代謝物の情報を収集した。これらを一元配置分散分析(ANOVA)で処理し、暴露群間や暴露−コントロール群間で有意差があった代謝物情報を選別して、このデータを主成分分析(PCA)で処理した。PCA処理後、結果を2次元平面上にプロットして影響の大きさの数値化し、また、2つのストレスの複合暴露影響評価を行った。絶食及び低温暴露試験ではコントロールに対して絶食のみの群はPC1軸に、また低温暴露のみの群はPC2軸方向に分布した。そして絶食と低温暴露両方のストレス暴露群はそれぞれの単独暴露のベクトルの和に当たる位置に分布した。この結果は異なる2つのストレス混合暴露の結果、両ストレスの影響が足し合わされてヒメダカの影響として現れたと考えられた。また、フェナントレンとピレンの暴露試験では、フェナントレンとピレンの両単独暴露群は2次元平面上で分離することがなく、その影響は類似していると考えられた。また両混合暴露区は単独暴露群とは異なった位置に分布したことから、単独暴露とは異なった影響が現れたと考えられた。本法では2次元平面上でコントロールからの距離の大きさ=影響の大きさとして表すことができ、複雑な代謝物情報から単純な数値でその影響の大きさを示すことに成功した。また、2次元平面上にその影響を示して、各群の分布する位置から影響の相同・相違性を見出せることが可能となった。さらに大阪湾とフィリピン スービック湾から採取された底質の抽出物暴露試験を行い、メタボロミクスにより影響評価を行ったところ、致死を指標とした影響試験よりも少なくとも25倍以上の感度で影響が見出せることが明らかになった。また、スービック湾底質の方が大阪湾底質よりもヒメダカに与える影響は大きかった。
(2)トランスクリプトミクスによる影響評価法の確立に関する研究
本研究ではヒメダカから抽出したRNAをマイクロアレイによりスキャニングしてその情報全てをメタボロミクスと同様にANOVAで有意差があった遺伝子情報を選別し、このデータをPCAで処理して、その結果を次元平面上にプロットして影響評価を行った。絶食及び低温暴露試験、フェナントレン及びピレンの暴露試験ではサブテーマ(1)の結果とほぼ同様の結果が得られ、数値化法も同様に確立できた。また、海底質抽出暴露試験でもメタボロミクスとほぼ同様の結果を得た。
本研究ではメタボロミクス及びトランスクリプトミクスによる数値を用いた影響評価法の確立に成功し、本法を用いれば2つ以上のストレスの複合暴露時にもその評価が可能であることを示した。また、両法は感度良く環境影響評価が行え、さらに、その影響の地点間差も明らかにできることを示した。特にトランスクリプトミクスはヒメダカ内の影響を見出す際に強力なツールである。またメタボロミクスはまだ未発達な方法であるが、トランスクリプトミクスよりも体内で見出せる影響を忠実に反映するという特徴を持つことから両者の併用による影響試験を行えばこれまでよりも感度良く、さらに詳細で網羅的な影響評価が行えることを示した。
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ネット de 研究成果報告会 RF-0909
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RF-0909.html
3.環境政策への貢献
化学物質の複合影響についてはその重要性は認識されているが、作用機序の複雑さからその研究は遅れている。個々の化合物を対象とした化学物質のリスク評価は、毒性物質の初期スクリーニングには重要な役割を持つが、化学物質の環境影響を評価する際には、より複雑な要因を加味する必要がある。本研究は、個々の化学物質は無作用濃度未満であっても、複合的に作用することで生物に対して悪影響を及ぼすことを示しており、このことは現行の化学物質の環境影響評価手法の有用性を根幹から揺るがすものである。現状では、複合影響の評価手法は確立されていないが、本研究より得られる成果は、化学物質の複合毒性を広く認識させることに貢献するのみならず、将来的に確立すべき複合毒性の影響評価手法の1つの候補となり得ることを示した。
4.委員の指摘及び提言概要
メタボロミクス、トランスクリプトミクスのデータに主成分分析を導入して影響の解析と考察を行い今後の応用の可能性をもたらした点が評価される。一方、適用事例が少ない点、
データに再現性の確認がない点、結論の正当性についての実験的検証がない点などが指摘される。これらの点を踏まえ、この手法が適用できる範囲、例えば化学物質の種類、曝露期間、被験生物の種やライフステージ等の状況、水質汚染の場合など環境での複合汚染の影響評価、多数サンプルの比較の可能性等、検討課題は多く残されている。これらの点を検討し、環境政策に役立つ場面がどのような状況かを明らかにすることが必要である。
4.評点
総合評点: A ★★★★☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b
研究課題名: 【RFc-1101】ナノ材料を含む製品の使用時・廃棄時の環境中への放出量の推定(H23〜H23)
研究代表者氏名: 松井 康人(京都大学)
1.研究計画
ナノ材料を含む製品およびそのパーツを、使用時に近い状況で使用した場合と、これらを粉砕や燃焼により廃棄した場合に、製品から発生するナノ材料の量を、定性と定量により把握する事を目的とした研究である。本研究を通じて、使用時と廃棄時における、土壌や大気、水といった環境への放出量が推定可能となり、ISO/TC229といった国際標準化を通じた政策提言へと貢献する。本研究は、(1)ナノ材料の発注と使用時・廃棄時を想定した焼却処理、(2)ナノ材料の分級捕集と個数濃度計測および破壊試験、(3)ICP/MSを用いた元素分析と放射光分析による同定、の3つのサブテーマから構成されている。これらのテーマを通じ、導電性チャンバーを用いた粒子の捕集方法や得られた値の評価方法が開発され、製品由来のナノ材料を同定・定量が可能となる。
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■ RFc-1101 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFc-1101.pdf [PDF 174 KB]
2.研究の実施結果
(1)ナノ材料の発注と使用時・廃棄時を想定した焼却処理
製品やそのパーツの使用状況を可能な限り再現し、燃焼による廃棄処理を実験室レベルで再現した。同時に、導電性チャンバーを用いた粒子の捕集方法を開発した。
(2)ナノ材料の分級捕集と個数濃度計測および破壊試験
導電性チャンバー内にて、製品やそのパーツの破壊試験を行うことで、ナノ材料を分級捕集すると同時に、その個数濃度と粒度分布を計測した。
(3)ICP/MSを用いた元素分析と放射光分析による同定
バックグラウンドの粒子と比較・区別するために、ICP/MSを用いた複数元素のマスバランスを取得した。さらに、化学形態分析や顕微鏡観察を併用することで、製品含有ナノ材料を同定した。
図 研究成果のイメージ
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http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RFc-1101.html
3.環境政策への貢献
OECD(経済協力開発機構)、WPMN(Working Party on Manufactured Nano-materials)、SG8(Steering Group 8:曝露量計測と曝露量低減)によるナノマテリアルの曝露量計測と曝露量低減に関する国際調査により、本研究成果であるチャンバーを用いた曝露評価法を提示し、調査報告書である「RESPONSES TO THE SURVEY TO COMPILE AVAILABLE METHODS AND MODELS FOR ASSESSING EXPOSURE TO MANUFACTURED NANOMATERIALS」にこれが掲載された。今後も国際社会に向けてアピールすることで、本研究課題で開発した曝露評価法を標準化への足掛りとしたい。
4.委員の指摘及び提言概要
目的も明確で、短期間でナノ粒子の捕捉可能なチャンバーを構築しその性能を評価し、また粒子を分級し個体数濃度および粒径濃度を正確に計測できる装置を開発した点、実際的な条件を踏まえた使用時と廃棄時における評価手法を開発した点、成果の一部がOECDの報告書に記載されている点、で高く評価できる。ナノ材料の放出量の定量についての正確度や繰返し精度をどのように検証されたのか明示することが必要と考えられる。今後、製品の安全性評価に用いられるような、また、コストを含め成果の民間企業や公的機関での利用が進むような改良が期待される。成果のOECD 、WPMN 、SG8、ISOのナノ評価手法の分科会での紹介等による標準化への道筋を考えるとよい。
4.評点
総合評点: A ★★★★☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): a
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a
研究課題名: 【RFc-1151】体外培養環境における化学物質曝露におけるエピゲノミクス評価法の開発と検証(H23〜H23)
研究代表者氏名: 樋浦 仁(東北大学)
1.研究計画
ヒト細胞のエピゲノムに基づく化学物質曝露の評価法を開発することを目的として、ヒト未分化細胞(ES、TS細胞)を用いて、ビスフェノールA、ノニルフェノールおよびフタル酸エステルの化学物質を8段階希釈法により添加し、培養する。8種類のインプリント遺伝子を標的としたエピゲノム(DNAメチル化)解析を行い、評価法を確立する。
図 研究のイメージ
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■ RFc-1151 研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/pdf/RFc-1151.pdf [PDF 254KB]
2.研究の実施結果
(1)体外培養環境における化学物質曝露のエピゲノミクス評価法の開発
研究計画について、東北大学倫理委員会に申請し、許可を得た。ヒト未分化幹細胞(ES、TS細胞)に化学物質(ビスフェノールA、ノニルフェノールおよびフタル酸エステル)を8段階希釈法により培養液(フェノールレッド非添加、無血清培地)に添加し、ガラス製培養ディッシュにて培養した。また、化学物質の組み合わせにより複合曝露についても検討した。8種類のインプリント遺伝子を対象としたエピゲノム(DNAメチル化)解析を行い、化学物質濃度および培養日数から、DNAメチル化異常の頻度・程度・影響を受けやすい遺伝子を明らかにし、開発したエピゲノミクス評価法の検証を行った。
図 研究成果のイメージ
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ネット de 研究成果報告会 RFc-1151
http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h23/RFc-1151.html
3.環境政策への貢献
体外培養中に放出された化学物質は、少量であっても短期間であっても、受精卵は最も脆弱で、影響を受けやすい細胞であるため、その影響は計り知れない。従って、化学物質のヒト生殖細胞への影響は、少子化問題を抱え、確実に体外授精の拡大が予想される我が国においては、重要な課題である。いかなる化学物質が、受精卵に影響を及ぼすのか、明らかにし、回避する方法を考案し、リスクコミュニケーションとして、国民に伝える事が、求められている。特に強調したい点は、リスクを回避する方法とその効果はどのくらいあるのかを、実証的なデータを併せて提示することにある。本研究成果では、そのリスクコミュニケーションに必須の実証的なデータを、体外培養の安全性と有効性を含め、報告した。今後、本研究計画から導き出された結果を出生コホートにおいて検証し、環境由来化学物質曝露と児の身体的発育と精神的発育との関連性について、研究を継続する必要性を認識した。
4.委員の指摘及び提言概要
ESやTS細胞を用い、ノニルフェノールやフタル酸エステルが受精卵のインプリント遺伝子のメチル化の変化を惹起し、インプリンティングをかく乱する可能性があることを示し不妊治療現場への警鐘を与えたこと、様々な化学物質のスクリーニング検査や疫学調査への活用が期待できる点で評価できる。一方、生殖医療で使われる培養液中や器材から溶出する化学物質の濃度が示されていないことやメチル化の様相の時間変化や、メチル化の変化と有害影響の関係が明確でないことから、血中濃度の10倍、100倍での影響がいかなる意味を持つか評価しがたい点に問題が残る。また、ヒト材料のES細胞を用いた実験であり倫理委員会での審議結果を付記すべき。
4.評点
総合評点: B ★★★☆☆
必要性の観点(科学的・技術的意義等): b
有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c
効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b