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野焼きとは

  • 野焼きとは、毎年春のお彼岸の頃に牛馬の飼育に利用している野草地(改良草地では行われません)に火をつけて、草原を焼く作業のことを指します。火をつけることを「火を入れる」ということから「火入れ」とも呼ばれています。
  • 野草地の多くは放牧地と採草地として利用されていますが、野焼きはかつては採草地、すなわちススキなど草丈の長い草地だけで行われていました(草原の種類については「草原の種類」を見てみてください)。近年、一部の放牧地では放牧頭数が減少し、放牧圧が低くなって草丈が伸びたままの枯れ草が見られるため、これらの放牧地でも野焼きが行われています。

野焼きの様子


輪地(画面中央の帯状の部分)

輪地切りの様子

輪地切りとは

  • 野焼きを行うにあたって、草原の周囲にある植林地や建物などに延焼しないように「輪地(わち)」という防火帯を作ります。この作業のことを阿蘇地域では「輪地切り(わちぎり)」と呼んでいます。輪地切りは夏の終わりから秋にかけて行われ、植林地の周りなどを10m程度(場所によって異なりますが)草を刈ります。
  • 輪地切りは残暑の厳しい時期に行われること、多くの場合傾斜がきつく(時には35度以上の傾斜地でも行われます)人力で刈払い機による作業のため危険が伴うこと、輪地の総延長が阿蘇郡全域で640kmにもなることなどの理由により、多くの労力を要する作業となっています。(「阿蘇郡牧野及び牧野組合現況調査:財団法人阿蘇グリーンストック:1999」より引用)

野焼きをする目的

  • 現在の気候条件下では阿蘇の草原は何もしないで放っておくと森林に移行していくので、その第一歩であるアキグミやサルトリイバラなどの低木(これらは草刈りの傷害にもなります)の成長を抑え、牛馬が餌として好むネザサやススキ、トダシバなどイネ科植物の成長、繁茂を促します。もう一つの目的は、前年の枯れ草が新しい草に混じると刈り取りの邪魔になるので焼いて取り除くことにあります。
  • つまり、牛馬の飼育に必要な良い草を得るために、草原の森林化を防いで新しい草の芽立ちを助け、また古い枯れ草を除去して草刈り作業を容易にするために行われているといえます。

草原維持の困難性

  • 草原を維持するには、野焼きやそのための輪地切り(防火帯をつくるための草刈作業)などに多くの人手と労力を必要とします。近年、畜産業の低迷による畜産農家の減少や、過疎化・高齢化による労力不足により、草原が放置され自然の遷移による森林化や植林等が増大しています。それにより、草原の実面積の減少、草原と植林地がモザイク状に分布することによる輪地切り延長の増大により野焼きが益々困難になっています。
  • したがって、畜産放牧のみによる草原の維持管理は今後さらに困難になりつつあり、このまま推移すれば、森林化等が進み草原景観が消えていくのではと心配されています。

草原面積の変遷

  • 下の図は国土地理院発行の地形図をもとに、地図記号の「草地」と「荒地」である部分を判読して、黄緑色に塗ったものです(「自然景観地における農耕地・草地の景観保全管理手法に関する調査研究報告書:財団法人国立公園協会:平成7年」より引用)。阿蘇の草原面積が大幅に減少している様子が確認できます。

明治大正期

昭和20年代

昭和末期〜平成初期