環境ナノテクがエレクトリック・カーの未来を開く
~自動車産業のシリコンバレー・モデル~

AZCA, Inc. マネジングディレクター / Noventi マネジングディレクター 石井正純

3.最先端のエレクトリック・カーはシリコンバレーから

 さて、当地シリコンバレーで世界でも最先端のエレクトリック・カーを開発、販売している会社がある。「Pure Electric」、「60 mph (96Km/時)まで3.9秒の加速」、「一回の充電で244マイル(390Km)」、「1マイルあたりの電気代は数セント」というキャッチフレーズでテスラ・ロードスター(Tesla Roadster)を開発、販売しているテスラモーターズ社(Tesla Motors、 Inc。)である。図表4はテスラモーターズが販売しているロードスターの写真である。すでに流線型のこのスポーツカーの写真を目にした読者も多いだろう。ロードスターの性能は図表5の通りである。

図表4.テスラモーターズ ロードスター

図表4.テスラモーターズ ロードスター

図表5. Tesla Roadsterの主な性能・仕様

図表5. Tesla Roadsterの主な性能・仕様

 テスラモーターズ社は創業してからまだ5年というのに、すでにスピンアウトした会社がある。テスラのチーフ・エンジニアであったイアン・ライト(Ian Wright)が始めたライトスピード社(Wrightspeed、 Inc。)である。筆者も試乗したことのある Wrightspeed X1はゼロから60 mphまでの加速が3秒でテスラ・ロードスターより速いスポーツカーである(図表6)。このような素晴らしいスポーツカーを製作し、もともとは本年中に量産を計画していたライトスピード社であるが、ニッチ市場であるスポーツカーだけでは事業の成長が見込めないと判断し、方向を180度転換し、EV 市場がもっと成長するまでは、バッテリパック、制御ソフトウェア、その他のコンポーネントなど、EVの性能を向上させるためのパワートレーンの開発・販売に専心するという。

図表6. Wrightspeed X1

図表6. Wrightspeed X1

 ノルウェイの会社ピブコ(PIVCO)は1990年代に小型EVを開発していたが、1999年にフォードがこの会社を買収しシンク・ノルディック(Think Nordic AS)と改名、その後2年間の間に1000台以上のEVを生産した。2004年にフォードはヨーロッパの投資家に技術を売却、ことしの三月になって、米国で著名なベンチャーキャピタル会社クライナー・パーキンス・コーフィールド・バイヤーズ (Kleiner Perkins Caufield & Byers -KPCB)などが投資を決め、あらたにシンク・グローバル社(TH !NK GLOBAL)として、小型のEVの開発・販売を行なうため、再出発することになった。シンク・グローバル社は小型のEV、シンク・シティ(Th !nk City)(図表7)をまずノルウェイで発売、次世代モデルTh !nk Oxは米国でも生産、販売の予定。Th !nK Cityは最大速度100Km/h、加速も50Km/hまで6秒、80Km/hまで16.0秒とスポーツカー並みといかないが、テスラ・ロードスターの10万ドル近い価格に比べると2万5千ドル程度と安価で、通勤や市街地での運転を目標として、今後販売が大きく拡大することが予想される。

図表7. TH!NK city

図表7. TH !NK city

 エレクトリック・カー普及のためのインフラ整備はどうか?2007年にシリコンバレーで創立されたクーロン・テクノロジー社(Coulomb Tehcnology, Inc.)は今年の1月にはドイツのベンチャーキャピタル会社エスタッグ・キャピタル(Estag Capital AG)などから350万ドル(約3億円)資金調達を受け、チャージポイント・ネットワーク(ChargePoint Nework)というプラグイン車のためのチャージステーションのインフラを提供し始めた。すでにサンフランシスコ市は一部でこのインフラを採用し始めている。このインフラはプラグイン車のユーザーに対して、空いているチャージステーションへのナビゲーションなどの利便性を提供し、今後のEVの購入者の増加に寄与するとされている。

 クーロン・テクノロジー社に対して、全く別考え方でEVのインフラを提供しようとしているベンチャー企業ベタープレイス(Better Place)がある。ベンチャー企業といっても、この会社はイスラエルのベンチャーキャピタル、イスラエル・クリーンテック・ベンチャーズ(Israel Cleantech Ventures)、イスラエル・コープ(Israel Corp。)、モーガンスタンレー(Morgan Stanley)などから2億ドル(約190億円)もの資金を得て2007年に創業した。かれらのEVに関する基本的な考え方は、100マイル未満の走行に対してはチャージステーション、100マイル以上に対してはバッテリーの交換ステーションを設置しようというものである。本社はシリコンバレーだが、まずイスラエル、デンマークででこのインフラを導入し、さらにオーストラリア、ハワイへと拡大する計画を持っている。

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