環境ナノテクがエレクトリック・カーの未来を開く
〜自動車産業のシリコンバレー・モデル〜

AZCA, Inc. マネジングディレクター / Noventi マネジングディレクター 石井正純

5.EV普及のカギとなるバッテリー技術

 さて、話題をエレクトリック・カーに戻そう。冒頭に述べたように、電気自動車用電池の開発は意外と歴史が長い。しかし、電気自動車は次第に消滅していった。その理由は、電池のエネルギー容量はガソリン1ガロンのほんの数分の一にも満たない程度だったためだ。

 フルサイズのセダンでエネルギー密度100Wh/kgの場合は、航続距離に換算するとおよそ160km(100マイル)。現在の最も高性能の電池はおよそ150WH/kgのエネルギー密度を供給する。ガソリンのエネルギー密度の値は1万2,722Wh/kgとされている。ガソリンのエネルギーのうち実際何割が使われているかについては、エンジニアの間でよく議論の的になるが、4,000WH/kgしか利用できないと仮定しても、ガソリンの方がリチウムイオン電池の25倍も多いエネルギーを持っていることになる。2008年の米国エネルギー省の報告によれば、現時点で最も優れているとされているリチウムイオン電池がハイブリッド車に取り入られ、普及するためには、@生産コストの大幅な低減(50%以下)、A航続距離、Bチャージに必要な時間、C寿命(30万サイクル、15年の寿命)、が大きな課題とされた。さらにプラグイン・ハイブリッド車に普及するには生産コストが現在のものより67%から80%安くなることが必要、としている。従って、グリーン・イニシアチブによる「下駄」を履かせてもらったとしても、今後EVが普及するためのキーはバッテリー技術の改良とコストの低減に集約されそうだ。そして、バッテリー技術の改良にはナノテクノロジーが一役買うことになりそうだ。

 実際のところバッテリー技術はナノテクノロジーを活用し、着々と進化している。たとえば、2007年にはスタンフォード大学のマテリアル・サイエンス助教授のイー・クイ (Yi Cui) 氏と同氏のチームがシリコンナノワイヤーを使用して既存のリチウムイオン・バッテリーの10倍ものエネルギー密度を達成する技術を開発した。電池のエネルギー密度は充電の際にバッテリーのアノード(負電極)にどのくらいのリチウムを溜められるかによる。正極活物質には普通LiCoO2などの遷移金属酸化物、負極活物質には黒鉛などの炭素材料が使われる。シリコンは炭素に比べ、より多くのリチウムを蓄積できるが、充電中に膨張し、放電中に縮小するために、 性能が低下し、壊れたりする。クイ氏のバッテリーはナノテクノロジーを使い、リチウムを微細なシリコンナノワイヤに蓄積する。ナノワイヤはリチウム蓄積中は4倍に膨らむが、これまでのシリコンの形態とは違って壊れることはない。 バッテリーにシリコンを使うことは30年前から研究されてきたが、容量が十分でない、寿命が短い、など難点が多く、ほとんどの人があきらめてしまった。しかしナノテクノロジーが進歩してきたおかげで今回のような成果を生み出すことが出来た。クイ氏はこの技術に関する特許を出願済みで、起業するか、 バッテリー製造会社とライセンス契約することを検討している。

このほか、最近ステルス・モードからようやく世間の目に触れるようになったメンロパークにあるイマラ・コーポレーション(Imara Corporation)はSRIインターナショナル(SRI International)の技術をベースに、次世代ビイクル・パートナーシップ(the Partnership for the Next Generation Vehicle Initiative)プログラムの一環で米国エネルギー省からの補助金も使い、既存に比べ性能があらゆる面で各段に勝る次世代のリチウムイオン電池の開発を行なっている。また、ニュージャージー州にあるエムフェーズ(mPHASE)社は、エレクトロウェッティング技術と多孔性のナノメンブレーンを組み合わせた新しいバッテリーを開発している。

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