ホーム > 環境研究総合推進費 > 評価結果について > 研究課題別評価詳細表

研究課題別評価詳細表

I. 事後評価

事後評価   7. 第7研究分科会<循環型社会形成推進研究事業>

研究課題名: 【K2301】廃磁石からのレアアース高効率回収に向けた経済的リサイクルプロセスの開発 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 松宮 正彦(横浜国立大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では、使用済み廃磁石のリサイクル方法として、単一のイオン液体中でクローズドサイクルを形成させ、電気化学的手法により、鉄族元素とレアアースを再資源化できる省エネルギー型プロセスを構築することを研究全体の最終目標とする。各プロセスの達成目標を以下に示す。
(1)陽極溶解プロセス
イオン液体中への酸化挙動を把握した上で、鉄族元素及びレアアースを電流効率:95%以上でイオン液体中に溶解させる。
(2)電解析出プロセスI
プロセス(I)で溶解させた鉄族イオンとレアアースイオンから鉄族イオンのみを陰極回収効率:90%以上で選択的に電解回収する。
(3)電気泳動プロセス
システムの最適化により、消費エネルギーを最小限に抑えた上で、濃縮度:10 倍以上でのレアアースの泳動分離を目指す。
(4)電解析出プロセスII
レアアースの還元挙動に基づき、特にネオジム金属を電流効率:90%以上で高効率回収するまでを最終目標とする。
<成果>
実廃棄物としてHDD に使用されるVCM(Voice Coil Motor)を解体・分別後、廃磁石部材を熱減磁〜メッキ剥離〜酸溶解〜金属塩合成工程で処理した。得られた磁石部材の金属塩はイオン液体に溶解できる形態であり、引き続く電気化学工程(陽極溶解、電解析出I、電気泳動、電解析出II)を実施することで、鉄族元素とレアアースを金属の形態で回収できた。
各プロセスごとの研究成果は以下の通りである。
(1)陽極溶解プロセス
ホスホニウム型イオン液体を電解浴に適用し、鉄族元素及びレアアースを電流効率90%以上で実施できた。
(2)電解析出プロセスI
イオン液体浴を連続使用し、電流効率90%以上で、Fe(II)の陰極回収率80%以上まで鉄族金属を回収できた。
(3)電気泳動プロセス
新規FSA 型イオン液体を開発した上で、Fraction-3 層目までの平均Nd(III)濃度は初期濃度の10 倍以上の濃縮を実現できた。
(4)電解析出プロセスII
Nd(III)については電流効率85%を維持した状態で電解試験が実施できた。
本研究の実施期間中にDOWA エコシステムとの共同研究まで進展し、本研究成果は特願2012-017276「鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収方法」にて共同出願まで完了した。

■ K2301  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22025
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究では電気化学工程(陽極溶解、電解析出I、電気泳動、電解析出II)の開発を主体的に実施してきた。今後、本プロセス技術の実用化を考慮に入れており、実廃棄物であるVCM(Voice Coil Motor)からのレアアース群の回収では以下の工程が必要となり、現在、実廃棄物を利用して、一連のプロセス開発を実施中である。
※VCM 回収→解体・分別→熱減磁→メッキ剥離→酸溶解→金属塩合成→電気化学工程上記プロセスにおいて、実廃棄物の回収から熱減磁工程までをDOWA エコシステム環境技術研究所と共同で実施する予定であり、共同研究契約を締結している。また、上記の一連のプロセスは特願2012-017276「鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収方法」において、基盤技術の共同出願まで完了している。
本研究は従来技術である溶融塩電解法とは異なる新規の「イオン液体電析法」を適用した低温電解技術であり、次世代向けの省エネルギー型リサイクル技術である。システムの簡素化による「廃棄物抑制」と低温電解による「使用エネ削減」の観点に独創性を有する。
本技術は環境調和型溶媒:イオン液体をリサイクル媒体として適用した研究事例に相当し、電気化学的手法をリサイクル工学に応用することで「環境電気化学」という新しい研究領域の新開拓や技術的進展が期待できる。
現在、一連のプロセスに要する消費エネルギー見積りを実施済みであり、溶融塩電解法に比べて約1/8 のエネルギーで遂行できることが明らかになっている。また、全プロセスに要するコスト評価も連携企業との間で進めており、電解工程での建浴費は従来技術である溶融塩電解法よりも低コストであることも判明してきた。
実用化に向けての課題は電解技術のスケールアップ試験による電析物の酸素含有量等の純度解析及び電流効率の妥当性評価であると判断しており、今後も更なる研究活動を実施していくことを検討している。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦個々の要素技術に関して、試験研究の成果があがったであろうことは理解できる。研究目的とされている、各プロセスの相互評価、システムの機能性を確立するという研究の最終目標と、本研究の成果との関係について、もう少し明確な記載が必要である。
♦初期の目標は達成されていると判断する。しかし、研究課題名に“‥‥経済的リサイクルプロセス‥‥”と明記されているので、LCA あるいはLCC の観点から考察されていれば良かったと感じる。
♦システムの機能性の確立が最終目標と書かれ、結論には「廃棄物抑制」「使用エネルギー削減」「経済的」であることが書かれているが、本研究の最も大きな成果がどれであるのか、
また、それを評価できる伽観的な証明が必要である。
♦一定の成果が挙げられたと判断されるが、位置づけが基礎研究であり、政策的観点からの成果が見えにくいことが課題として挙げられる。
♦電気化学工程の技術は完成された技術である。本研究が従来技術に対して上乗せした技術は何かを明確にする必要がある。効率アップが究極の目的であるのであれば、従来技術と比較してVFMが如何程か明示する必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K2303】アモサイトの無害化処理生成物の安全性に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 山内 博(北里大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
アモサイトとその無害化処理した焼成改質材料について、細胞毒性試験およびラットを用いた動物実験(気管内投与、腹腔内注入)での生体影響評価を行ない、アモサイトの焼成温度、焼成処理生成物の結晶構造、粉砕形状を十分に考慮した無害化処理生成物の生体影響に関して、以下のことを明らかにする。
① 呼吸器、腎、その他の臓器への急性・慢性影響がないことを明らかにする。
② 肺がん、中皮腫などの発がん性が認められないことを明確に検証・証明する。
③ アモサイト焼成無害化処理物の安全性に最も相応しい焼成温度と粉砕形状、焼成生成物を解明する。
本研究の遂行から得られた細胞毒性試験および動物実験の結果を総合的に評価して、アモサイト焼成無害化処理物の安全性に関する科学的な根拠を明確とし、国が推進するアスベスト無害化処理品の廃棄や再利用に関する活動に貢献・寄与する。
<成果>
① アモサイトとその焼成改質材料の細胞毒性試験、ラット気管内投与での急性影響評価において、1000℃焼成物ではアモサイトに比較して急性毒性の低減が認められなかったが、1000℃焼成物の粉砕処理による急性毒性の低減が顕著に認められた。一方、1200℃以上の焼成物の急性毒性は低減したが、投与30 日目以降に呼吸器影響の増悪が認められた。
② ラット気管内投与での慢性影響について、1000℃焼成物では肺の線維化が生じたが、1000℃焼成物の粉砕処理では慢性呼吸器影響は認められなかった。一方、1200℃以上の焼成物では肺の炎症が長期間持続し、慢性呼吸器影響が認められた。
③ ラット腹腔内投与発がん試験の結果、アモサイトは高率に中皮腫を発生させた。アモサイトの1000℃焼成物では腹膜の線維化を認めたが、中皮腫発生率はアモサイトに比較して低率であった。一方、1000℃焼成物の粉砕処理では中皮腫発生は認められなかった。
以上の動物実験の慢性呼吸器影響及び発がん性結果から、アモサイトの無害化処理条件として、1000℃焼成後に粉砕する処理が望ましいことが明らかとなった。

■ K2303  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22044
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

アスベストの無害化処理に係る法規制が整備されたが、事業の進展は十分な状況にないと判断され、社会にはアスベスト含有廃棄物が大量に存在する。無害化の処理方法として、溶融法や非溶融の焼成処理法が現実的な候補とされる。非溶融の焼成処理法は溶融法(1500℃以上)に比較して設備に要する費用や処理に必要なエネルギーを削減でき、処理生成物も工業的に再利用しやすい利点がある。しかし、無害化処理の推進において処理物に対する生体への安全性の証明が求められている。本研究班の先行研究(当該研究補助金:K1919、K2056、K2159)では、最も大量に使用されたアスベストであるクリソタイルの焼成無害化処理生成物の実験動物での検証から、1000℃焼成によるフォーステライト化により無害化が達成可能であることを明らかにした。さらに、本研究班では、焼成処理による安全性が懸念されたアモサイトの焼成無害化処理生成物に関する安全性の科学的検証として、アモサイトの焼成温度と粉砕形状を十分に考慮した試験材料を用いて、細胞毒性試験と動物実験を包括的に組み合わせた安全性試験、特に、発がん性試験(中皮腫)を重点的に行った結果、アモサイトについて非溶融での最適な無害化処理条件(1000℃焼成+粉砕)が実験室研究で明らかとなった。
今後、非溶融でのアスベスト含有廃棄物の無害化および再資源化の実用化に向けて、クロシドライトを含めた3 種のアスベスト同時の無害化処理について、工学的な検証による処理条件の最適化(燃焼温度、粉砕条件等)を達成し、ついで、実験室研究から実証プラントでの検証に移行し、実践的な展開が求められる。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦アモサイトの無害化処理について、アモサイトとその処理物及び関連物質について各種毒性試験を行い、無害化を可能とする処理条件を明らかにしており、十分な成果をあげたと評価できる。AM1000 では効果が見られず、AM100G で無害化効果が認められたことは、中皮腫の発症メカニズムと結びつけて考察することはできないのか。アモサイト焼成処理物の生体影響について有用な結果が得られている。焼成後、粉砕により無害化が進むメカニズムにまで踏み込んで欲しかった。
♦本研究はアモサイトの焼成処理物について、ラットを用いて大々的に生体影響調査を行ったもので、無害化は温度と関係無く、1,000℃で焼成後に粉砕することで達成されることを明らかにした。しかし本研究は多大の国費を使って研究しており、まずは環境省の認定方法に基づくアスベストの無害化状況の確認等を行って条件を整理するなど、実務と関連させ効率的に実施し、成果を政策検討に還元すべきではなかったか。
♦アスベスト内の健康最阻害成分クリソタイル無害化に有効とされている高温加熱のアモサイトへの適応性を実験的に調査し、(1)高温でアモサイトは分解されるが別の有害物質の生成される(2)1,000℃の比較的低温加熱と微粉砕によりアモサイトの無害化可能ことを明らかにした。生物試験における条件(接種条件、観察範囲等)の妥当性、および、同条件におけるChrysotile の生物への影響も合わせ試験すべきであった。研究費の過不足の判定は容易ではないが、検討が望まれる。
♦成果を生かすための具体的な実用化への提言を表にして求めたい。


目次へ

研究課題名: 【K2114, K22070,K2305】廃油脂類を原料とした動脈静脈連携型の次世代バイオディーゼル燃料製造技術の開発と評価 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 倉持 秀敏((独)国立環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃食用油等の廃油脂類から既存の製油所で軽油類似炭化水素である次世代バイオディーゼル燃料(BDF)を製造すること(動脈静脈連携型バイオ燃料製造)を目的に、まず、様々な廃油脂類に対して原料成分(油脂分)と不純物成分を明らかにし、低品質な原料に対しては油脂分を回収するための抽出等の前処理技術を確立する。次に、得られた油脂分を次世代BDF へ変換するために脱硫触媒をベースに水素化脱酸素技術の開発を行い、触媒の選定・耐久性等を調べるとともに、燃料の品質を評価する。ここで、両技術開発に必要な相平衡等を実験的に明らかにする。上記の研究開発の成果やプロセスシミュレーションから、製油所における次世代BDF の製造の可能性や影響を明らかにする。また、廃油脂類の回収可能性等の調査・評価に基づき、廃油脂類の回収〜燃料製造を実証するための適切な地域圏(循環圏)を提示し、その循環圏において製油所を拠点とした次世代BDF 製造の社会経済的成立条件を明らかにする。
<成果>
廃油脂類の性状評価を行い、特に、最低品質なトラップグリースの性状を詳細に明らかにした。グリース中の油脂分の物性を測定し、その特性を踏まえて、グリースから油脂分を分離回収するための技術とアルカリ金属類を除去する技術を確立し、実証レベルへ適用できることも確認できた。また、上記の処理技術で発生する残渣もメタン発酵により高い水準でエネルギー化できることもわかった。水素化脱酸素(次世代BDF 化)の研究では、廃油脂類に有効な脱硫触媒を検討し、軽油留分との共処理実験を行い、廃油脂類の割合が10%以下であれば、脱硫性能を維持しつつ次世代BDF を合成できた。また、水素消費量も低減化できた。上記の反応系の相平衡を把握するとともに、プロセスシミュレータを用いて次世代BDF 製造が製油所へ与える影響(動脈連携の影響)を明らかにした。さらに、廃油脂類の賦存量を推定し、次世代BDF 製造の実証へ向けた最適な循環圏を提示した。
循環圏における次世代BDF 製造は経済的に成立することに加えて、従来処理に係る社会コストやCO2 排出量を大幅に削減できることを示した。

■ K2305  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22070
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

未利用な最低品質の廃油脂であるトラップグリースから次世代バイオディーゼル燃料(BDF)の原料成分である油脂分を油相として分離する技術(アップグレード技術)を開発し、低品位な廃熱、例えば、焼却施設からの廃熱等を用いてアップグレードできることを示した。アップグレード技術を約30 店舗から回収した200L 規模のグリース混合物に適用したところ、高い回収率(0.8-0.9)で油脂分を回収でき、十分実用化できると考えられ、実証を準備している状況にある。未利用な廃油脂をアップグレードし、燃料として利用できることを初めて実証に近い規模で技術的に示すとともに、経済的に成り立つことを示した。加えて、アップグレード後の残渣をメタンガスとして有効利用できる可能性を示し、その高いメタン生成能から実用化も可能と予想される。課題としては、メタン生成能を実証に近い規模で確認するとともに、油脂分の脱塩およびメタン発酵に係る廃水の適正処理が考えられる。
アップグレードされた廃油脂類を製油所の脱硫施設を使って次世代BDF へ変換するという動脈静脈連携型の製造を想定し、ラボベースでの評価では脱硫性能を維持しながら次世代BDF を製造できることを示し、かつ、コストの面でも影響が極めて低いことを示し、実用化の最初のステップはクリアーできた。しかし、課題として、より長期的な耐久性や副生する水や酸等の材料への影響等の把握が残っている。これらの課題を克服できれば将来的には実用化が可能と考えられ、石油元売会社に行ったアンケートからも同様な意見が出されていた。石油元売会社からも一部ではあるが本取り組みに対して建設的な意見が得られたことは実用化を進める上で非常に良い成果が得られたものと考えられる。
最後に、社会に与える効果として、京浜地区の製油所から25〜75km 圏内で廃油脂類から動脈連携にて次世代BDF を製造すれば、CO2 の排出量は8.7〜20.8 万t 削減でき、従来の廃油脂類の処理に係るコストも6.3〜15.1 億円削減できると予想される。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦より低品位の回収廃油脂類でも燃料として経済的に再生し、利用可能な燃料とする技術を開発した点、および実用化に向けた検討を行った点を高く評価する。研究費の使途、チームワークもまた適切であったと評価する地域循環圏の成立条件の提示を研究目的としているが、問題の大きさと研究内容の乖離が見受けられる。
♦廃食用油の利用はこれまでも行われているが、廃油脂の利用が可能であり首都圏、阪神、中部地区などでの利用が期待できる。


目次へ

研究課題名: 【K2308】微生物を活用した使用済家電品からのインジウム再資源化プロセスに関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 小西 康裕(大阪府立大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
① バイオ分離・濃縮に関する基礎的知見を得るため、インジウム単独溶液やインジウム・スズ2 成分溶液を対象に、Shewanella 属細菌を用いてインジウムを分離・濃縮するための最適操作条件を確立する。さらに、使用済みFPD(フラットパネルディスプレイ)の塩酸浸出液、エッチング廃液を対象にバイオ回収試験を行い、実液に対してインジウムを分離・濃縮できる微生物機能を発現させる。
② インジウム含有細胞の処理方法として、細菌細胞の乾燥法や燃焼法など、細菌からインジウムを高い濃縮倍率で、経済的に回収するための最善方策を選定する。
③ インジウム含有実液の連続処理に相応しいバイオ回収装置を試作・運転し、実用化に向けての基礎データを収集・解析・評価する。これら試験結果に基づき、使用済みFPD、エッチング廃液等を“インジウム循環資源”として利用できる回収技術を確立する。
<成果>
① 塩化インジウム溶液を対象に、グラム陰性細菌Shewanella algae を用いて回収実験を行い、インジウムが溶液から細菌細胞に効率よく回収できる操作条件を明らかにした。
② 微生物からインジウムを高効率、経済的に回収する最善の方法として、インジウム含有細胞の焼成法(In 含有率 62 %の濃縮物、出発溶液に対するインジウム濃縮率6000倍)を選定した。
③ 小型試験装置を運転してインジウム含有溶液の連続処理実験を各種操作条件下で行い、最適な操作条件を明らかにした。
④ エッチング廃液を対象に、S. algae 細胞によるインジウム回収率が10 分で50〜77 %となり、本バイオ分離・濃縮法の有効性を示した。
⑤ 使用済みFPD の塩酸浸出液を対象に、S. algae 細胞を用いてインジウムを選択的に、分離・濃縮できる操作条件を確立した。
⑥ 得られた全ての研究結果に基づいて、使用済みFPD からのインジウムのバイオ利用回収システムを提案した。

■ K2308  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22025
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

インジウムは、FPD(フラットパネル ディスプレイ)の透明電極材ITO(インジウム-スズ酸化物)を製造するうえで必須のレアメタルである。天然資源小国である我が国にとっては、使用済みFPD 製品(家電品)等を対象に、環境負荷を最小化しつつ高効率にインジウムを回収できる要素技術を確立することは、レアメタル資源の安定供給を確保するだけでなく、廃棄物の減量化・無害化を図るうえでも重要な課題である。
本研究では、現状ではリサイクルが実施されていない使用済みFPD(溶解処理液)とFPD エッチング廃液を対象に、これら廃棄物を“インジウム資源”とするために、溶存インジウムを細胞内に分離・濃縮する機能をもった微生物を見出すとともに、この微生物機能を活用してインジウムが効率的かつ経済的に回収できる操作条件を確立することにより、実在するインジウム含有溶液の連続処理に適用できる新規バイオ回収プロセスを研究開発した。本プロセスは、従来プロセス(イオン交換樹脂法、セメンテーション法)に比べて環境負荷が小さいソフトパスであり、エネルギー使用量と化学物質の消費量を大幅に削減できることから、レアメタル循環システムの構築に貢献する要素技術として社会的要請にも応えるものである。一般的に微生物処理は遅いという短所があるが、本バイオプロセスでは30 分以内の回分操作で程度の短時間で使用済みFPD 製品の溶解処理液からインジウムを分離・濃縮できることから、実用化に向けての期待感も高まる。今後は、ベンチスケール実験装置を用いての実証試験が実用化に向けての課題となる。
液晶テレビ等は、2009 年4 月に家電リサイクル法の対象品目に追加されたことから、“手軽で、経済的なインジウム回収プロセス” を開発する本研究は時機を得たものである。まずは国内の使用済みFPD 製品等を対象に実用化をめざし、その後は韓国、中国などの使用済製品を対象に展開を図り東アジアにおける資源循環システムの構築に貢献したい。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦当初想定していた研究目標は達成できていると評価できる。細胞への収着量は細胞濃度には係わらず一定であることは、回収率を向上させるには、細胞濃度を増加させる必要があると考えられる。また、初期のインジウム濃度が高い場合は、十分な細胞濃度がないと、処理水のインジウム濃度が十分に低下しないおそれが出てくる。実用化していく際には、コスト面などを考慮して、細胞濃度の増加が必須と考えられるが、操作上、どこまで細胞濃度を高められるのか検討をしていく必要がある。
♦インジウムの分離、濃縮に留まっており、資源化に至るには更に踏み込んだ研究が必要である。
♦本研究では、微生物機能を活用して各種のインジウム含有溶液からの分離・濃縮を目論み、相応の成果を上げていることは評価できる。ただ、こうした研究の目的は現行あるいは将来の経済社会の条件下で実用化を図ることであり、従来技術との比較に基づき、その観点からの評価と見通しが求められる。
♦Flat Panel Display 導電性薄膜、製造時のエッチング液に含まれるインジウムをグラム陰性細菌Shewanella algae 細胞表層蛋白質等が金属イオン吸着に有効である事を活用。SA細菌は培養速度も大きく、酸性においても耐久性がある事が期待を大きくする。実験もほぼ期待通りのようである。しかし、多様な単位(mg, mol, m3, cm3 など)、一般に馴染みの少ないcells/m3 等が報文を難解にしている。数学的記述にも曖昧さがある。大きい期待を抱かせる結果であるが、報告書中の上述の難点は本研究の新規・独創性に疑問を感じさせてしまう。
♦操作条件はどんな場合にも当てはまるものなのか。効率性の表示、評価がはっきりしない。


目次へ

研究課題名: 【K2140, K22096, K2309】常温処理済アスベストの安全・安定化に関する研究(H21〜H23)
研究代表者氏名: 田端 正明(佐賀大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
飛灰を原料として多硫化カルシウム溶液を製造し、その溶液をアスベスト含有建材に吹付けアスベストを分解し、無害化する、新しいアスベストの処理技術を開発する。併せて処理済アスベストの再利用法を確立する。具体的には、①飛灰を用いた多硫化カルシウム溶液の製造とその性能の評価、②アスベストの無害化の機構の解明、③吹き付け後の多硫化カルシウム溶液の浸透過程とアスベスト分解・飛散防止過程の評価、④処理済アスベストの物性評価結果に基づいた具体的用途の開発とその適用性を調べる。現場実験を含む大学と企業との共同研究によって、簡便で、低コストのアスベスト常温分解法を確立し、処理済アスベストの再利用技術を開発し、安心・安全な廃棄物処理技術の上に立った、廃棄物の循環型社会の構築に寄与することである。
<成果>
① 飛灰を原料とした多硫化カルシウム液の製造により、飛灰からの重金属の溶出は環境基準値以下に押さえられ、且つ製造した溶液はアスベスト分解剤の機能を示した。
② 処理後のアスベスト分解生成物並びに処理剤の生成物を粉末X 線回折法、X 線吸収端近傍構造スペクトル、走査型顕微鏡法,分散染色法を用いて同定した。アスベスト含有率は0.1%以下までに低下し、硫黄、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムが主に生成した。
アスベストの分解は多硫化カルシウム液の層間へのインターカレートによって起きることが明らかになった。
③ 多硫化カルシウム液を吹きつけ、密封状態で養生するとアスベストは徐々に分解するが、多硫化カルシウム液を更に加え、アスベストをキルン内でボールミルと一緒に撹拌すると、アスベスト含有率は0.1%以下になった。
④ 処理済みアスベストをセメントと混ぜて造粒化に成功した。また、加圧成型したブロックの吸水率と1 軸耐圧試験を行った。

■ K2309  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22096
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

(1)実用化と社会貢献の見込み本研究の目標は、焼却炉から排出される飛灰は有害物質を含むが、それを原料にして有害なアスベストを常温で無害化しその処理物を再利用するという、循環型社会形成に適した廃棄物処理方法を確立することであった。その目標をほぼ達成することが出来た。常温でキルン内での撹拌による分解であるので、装置も簡単で省エネルギー型である。従って、アスベスト処理法として実用化出来ると考えている。更に、アスベスト処理物の造粒化に成功し、地盤材料としての再利用可能である。
本法が実用化されるとアスベストの分解は一気に進むものと期待される。そのためには、アスベスト処理剤の製造、アスベストの飛散防止、アスベストの分解処理、分解生成物の再利用工程を一貫して実施可能なシステムを構築し、アスベスト処理施設をつくらなければならない。現在、いくつかの企業と相談しその実施方法と可能性について検討している。
また、本法は飛灰中のダイオキシンも分解可能であるので、飛灰の重金属溶出抑制と併せて飛灰の処理法としても有効である。
(2)課題
本システムを実施するには法的な制限がある。現行法では、処理済みアスベストでも管理型廃棄物処理施設へ搬入し、埋め立て保管しなければならない。処理物を資源物として再利用するために次の二つの方法を考えている。①管理型廃棄物処理場にアスベスト処理施設を建設し、そこで処理から再利用までの工程を完了する。②車載した移動型アスベスト処理装置をつくり、管理型廃棄物処理場でアスベストの分解と再利用工程を行う。これらを実行するには廃棄物処理業者との打ち合わせ検討が必要となる。
現在のアスベストの排出量から考えると、個々の廃棄物処理場にアスベスト処理施設を建設することは無駄が多い。一方再利用工程まで含む車載型アスベスト分解装置では処理規模は小さくなる。しかし、まずモデル実験施設として上記①、②は可能と考える。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦アスベストの処理技術として、部分的には知見は得られたものの、システムとして実用化できるかどうかについては十分な成果が得られたとは言い難い。個々のサブテーマについても必ずしも十分な成果があげられたとは言い難い上に、各サブテーマが一貫した成果をあげられていないことが、実用化できるかどうかの判断ができないことにつながっている。
♦本研究は、飛灰を用いた多硫化カルシウム溶液の製造、飛灰中の重金属の固定化、アスベストの無害化とその機構解明、処理済みアスベストの用途開発等の課題を掲げた大変意欲的な研究であり、それぞれ相応の成果を上げている。しかし飛灰中の重金属の固定化やアスベストの無害化については、様々な入口条件の変動に対しても、100%の安定した結果が求められ、その点では完成した技術となっておらず、本概要報告ではその見通しも判然としない。総花的に意欲的なのは結構だが、実用化に向けては、やはり着実に一つずつ課題を完成していく必要があるだろう。
♦多硫化カルシウムによるアスベスト内諸鉱物質の硫酸化合物への転換を狙いとし、化学的作用の把握と実際への適用を実験的に検討し、処理物のセメント混合に依る活用も検討している。
♦多硫化カルシウムは吐き気等人等への影響があり、厳重な管理が求められている。吹き付けなどにおける人畜への影響に関する問題点のクリヤーが必要である。報告書はこの技術に馴染みの無いものにも分かりやすく記述されたい。


目次へ

研究課題名: 【K2122,K22051,K2310】可逆凝集を用いたステップ超高圧圧搾による難脱水性有機汚泥の高速減量化技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 入谷 英司(名古屋大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
可逆凝集とステップ超高圧圧搾とを融合した難脱水性有機汚泥の高効率の高速脱水法を提案して、その有効性を検証し、汚泥の凝集・分散機構やケークの脱水機構の解明に基づき、最適な操作法を提示する。可逆凝集では、pH 調整や無機電解質、バイオ凝集剤、界面活性剤等の添加など、種々の手法を試み、それらの優劣を検討して第一段階の低圧圧搾で脱水速度を最大にするために最も効果的な操作法と操作条件を見出す。ステップ超高圧圧搾では、フロックの崩壊が容易な可逆凝集の操作指針を得るとともに、超高圧作用下で達成できる脱水ケークの含水率の限界値を汚泥性状と関連付けて明らかにし、超高圧圧搾の最適操作条件を見出す。これらを綜合して、可逆凝集とステップ超高圧圧搾からなる難脱水性有機汚泥の一連の高速減量化プロセスに対する最適操作法を提示する。数値目標として、総脱水時間として現存技術に対して60 %短縮、含水率として25 %減を掲げる。
<成果>
代表的な難脱水性有機汚泥の下水余剰汚泥を用いて、可逆凝集とステップ超高圧圧搾とを融合した高効率の高速脱水法について、圧搾速度と脱水度の両面から検討した。超高圧用圧搾セルの作製と材料試験機の大型化により50 MPa までの超高圧圧搾を行うことが可能となり、圧搾圧力の増加に伴い、ケーク脱水度が飛躍的に向上することを見出した。汚泥減量化の観点では、多価イオンのポリ塩化アルミニウムを用いる可逆凝集が最適で、50MPa の超高圧圧搾により極めて顕著な効果が見られ、ケーク含水率は23 %となり、現存技術の60 〜 70 %を遙かに凌ぎ、前例のない極めて小さな値が得られた。汚泥原液を基準に、99.87%もの減量を実現したこととなり、含水率として25 %減の目標を大きく超える成果が得られた。総脱水時間についても、プロセスの最適化により60 %短縮という本研究の数値目標を達成した。

■ K2310  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22051
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

汚泥は、産業廃棄物の中で最も大きな排出量割合を占めるため、循環型社会形成を目指して再利用も意識した適切な処理が必要とされる。水分含量が極めて高いことがこれまで汚泥の取り扱いを困難なものにしており、汚泥の脱水は、以後に続くコンポスト化、焼却、溶融等の操作の難易を左右する律速因子となる重要な操作として位置づけられる。このため、汚泥を減量化するための高効率な脱水技術の開発が現在ますます切望されている。特に最近では有機物含量の多い汚泥が急増しており、またエネルギー利用の観点から注目される消化汚泥や排出規制が厳しさを増している食品廃棄物汚泥など、現在の脱水技術では充分な脱水が困難な汚泥にも適用できる優れた脱水技術の開発が喫緊の課題となっている。
本研究で提案する技術が確立されれば、難脱水性有機汚泥の高速減量化が最も省エネルギー的な機械的固液分離操作によって可能となるため、汚泥による環境負荷の著しい低減化に繋がる。また、得られた脱水ケークの含水率は極めて低いため、以後の焼却等の操作の負荷低減に結び付くとともに、透水操作を経るため、脱水汚泥には酸・アルカリや凝集剤等の薬品がほとんど含まれず、汚泥の再資源化への用途も大きく拡がることが期待される。
ラボスケールでは、難脱水性有機汚泥の脱水法として高い脱水速度と高い脱水度の両者を同時に達成でき、循環型社会形成をより一層促進させるために必要不可欠な技術であることを示すことができた。今後は、スケールアップ、超高圧フィルタープレスの開発等を行うことにより本研究成果の実用化が実現できるものと考える。また、本技術は、汚泥処理だけでなく、様々な分野の生産プロセスにおいて必要となる固液分離に適用することによって、その処理速度や歩留まりの向上などにも大きく寄与すると考えられる。コロイド科学における凝集・分散機構の基礎原理の工学的応用や圧力の作用下における粒子間隙水、束縛水などの水の状態の究明など、学術的な意義も深い。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦目標として含水率及び脱水速度の低減を達成しており、狙い通りの成果をあげたと評価できる。多様な難分解性汚泥についても適用し、有効性を確認していく必要がある。
♦脱水の最適条件を明確にし、本研究の目的としてあげた操作指針の確立を図る必要があった。
♦本研究では、「圧搾圧力により脱水効果が向上する」という成果が得られたが、これは想定された結果の確認でもあり、問題は実用化に向けて技術や設備の完成とそれが既存の技術システムに対して、社会経済的にも優位となり凌駕できるかという見通しである。本研究のような技術開発は、単なる技術成果だけではなく、実用技術としての完成と既存体系との相対優位性を絶えず意識しながら取り組むことが求められる。
♦難脱水スラリーを凝集剤(この研究ではポリ塩化アルミニウム)による粒子凝集・低圧.過脱水−純水透過・凝集解分散−高圧プレス圧搾脱水の組み合わせで効率脱水することを狙いとし、活性汚泥から含水率23%のケーキが実験的に作成されている。純水透過の状況および高圧圧搾における圧力とケーキ空隙率の関係把握、他の適性凝集剤の条件、脱水ケーキの構造写真等による説明が必要凝集剤(ここではPACL)の適正添加量、ケーキ中のアルミ二ウムの扱いの検討および実用における高圧圧搾用フィルターの保守(目詰まり対策等)の見通しが求められる。
♦実用化ができるような道筋をつけることが必要。


目次へ

研究課題名: 【K2121,K22057,K2311】循環過程を含む製品ライフサイクルにおけるBFR のリスクコントロールに関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 滝上 英孝((独)国立環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
① 製品・循環製品のBFR 含有状況を明らかにし、製品からの曝露メカニズムについて微視的な視点から明確にし、ハウスダストや室内空気を介した曝露量について、科学的根拠のある推定を行う。
② 曝露メカニズムに関する知見に基づいて、住環境、作業環境(特に途上国)において実効性のあるBFR の制御対策を立案、実施し、曝露媒体及びヒト体内負荷の低減について確認を行う。
③ 電気電子材料、建築材料を対象とした3R シナリオ解析を行い、BFR の望ましい代替や再生、適正廃棄を促すシステムのあり方について検討する。
④ BFR の代替難燃剤としての有機リン系化合物の製品ライフサイクルにおける挙動やハザードに関する情報を、実験調査を通じて収集する。
⑤ BFR と代替難燃剤の得失について室内製品を対象として化学リスク等の観点から統合的に評価する。
<成果>
① 製品(繊維)のBFR 含有量分析を行い、使用時の放散、光分解挙動を明らかにし、住宅における製品負荷試験により発生源単位を求めた。ハウスダストからの正確な曝露量算定に資するため、PBDEs 及びPBDD/Fs の定量に適した標準的な組成のダスト試料の調製方法を検討し知見を得た。
② ベトナム及びインドにおけるe-waste リサイクル現場調査を行い、サイトにおけるBFR 高濃度ダストの存在を突き止め、曝露低減のためのダスト制御の必要性を示した。
途上国の嫌気性埋立処分場からのBFR の高濃度溶出負荷を示唆するデータを実験的に得て、その制御の重要性を示した。
③ 日本人の血中PBDEs の存在状況について日内及び年間変動を調べ、総PCBs 濃度との相関性について考察し、PBDEs の体内動態に関する知見を得るとともに、製品からの恒常的曝露についての示唆を得た。
④ BFR 代替物である有機リン系難燃剤の分析方法を確立し、物性情報(残留性や長距離移動性)を求めた。光分解や加水分解における分解生成物(フェノール類)を同定し、その放散・溶出量からBFR とは異種のリスク評価を試みた。
⑤ BFR のうち、HBCD の異性化反応を考慮した環境動態モデルの構築を進め、人への曝露を評価した。
以上を踏まえ、BFR 及び関連物質の有する化学リスクとその管理について、統合的な論考を行った。

■ K2311  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22057
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

製品中の有害化学物質の監視・把握の仕組みを構築し、ライフサイクルを通じた曝露評価と合わせてリスク管理に繋げてゆくことはEU のREACH の根本概念に据えられるなど、国際的にも重要であるが、BFR はそのリスクが懸念される代表的な物質であり、本研究の期間中(2009 年5 月)にPBDE がPOPs に登録された。今後、静脈側(廃棄、リサイクル)にこのようなBFR が集積されてくる可能性が大いにあり、途上国リサイクル現場等での調査は時宜を得たものであったと自負している。特に製品使用時や循環廃棄過程での曝露が懸念されており、PBDE の生体負荷をもたらす主原因は、食物よりも製品やダストを介した曝露にあって、その制御がend-of-pipe 方策としては最重要であることを示した。
BFR は、製品素材や用途に応じて代替物質に変更されており、有機リン系難燃剤はその代表的なものであるが、環境挙動や健康影響に関する十分な情報をもって代替がなされているとはいえないのは実情であると考えられる。本研究では、国内外で生産使用量が伸びている縮合型リン酸エステル系難燃剤を対象に、先駆的に物性や分解挙動に関する情報を獲得できた。これらは実験的に得られたデータとしては世界でも初めてと言えるものである。本知見をステークホルダーに提供することはリスクコミュニケーション上も有意義と考えられ、今後積極的な情報発信を目指す。
また、難燃剤HBCDs を対象物質として、排出インベントリと環境動態モデル、曝露モデルを精緻化し、ヒトへの曝露を評価した。BFR をはじめ、環境中に排出された化学物質は構造を変えるが、HBCDs も熱異性化により、物性の異なる異性体に変化する(異性体組成が変化する)。この動的な現象をモデルに取り込むことで、排出源、排出先媒体、ヒトへの曝露媒体について化学的な変化を考慮した曝露モデルを構築できたことは本モデルが他の化学物質の環境動態・曝露モデルを考える上でプロトタイプとなり得ることを意味している。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦室内実験は丁寧に行われており、一定の成果が出ている。しかし、人への暴露を考察するうえで、被験者の理解が必要であることを認めつつ、サンプルサイズが小さいために普遍的な結論を出すに至らなかった点は残念である。言い換えれば、サブテーマの一部が全体の評価をやや低くした点は、研究マネジメント上の問題でもあろう。
♦海外調査の結果がどこまで現地の状況を反映しているかについての評価を示して欲しい。
♦事実確認は進んだと思うが、研究費に対して排出制御方法の提案をより充実させて欲しかった。


目次へ

研究課題名: 【K2105,K22067,K2312】抽出分離と晶析剥離を利用したレアメタルの高度分離技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 芝田 隼次(関西大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃棄物由来のタングステンを分離する工程で、溶媒抽出法を適用したり晶析剥離法を適用するのは、短い処理工程で環境調和を保ちながら、高度分離製錬技術を完成させることを目標としているためである。晶析剥離の操作では、有機相から金属イオンを晶析させた後の水溶液を再び晶析剥離工程にもどすことが可能であり、新たな廃棄物を出さないようにすることができる。このような溶媒抽出法、晶析剥離および環境調和をキーワードとする高度分離技術を開発することは、提案しているタングステンやコバルトだけにとどまらず、多くのレアメタルに適用する可能性を見いだすことができる。研究対象の拡大を念頭に置いて、廃触媒からのバナジウムやモリブデンの回収、廃蛍光灯からの希土類の回収、廃電池からのリチウムやコバルトの回収、廃磁石からのネオジムの回収などを例に、ここで提案するいくつかの要素技術を幅広く適用することを最終目標としている。
<成果>
本研究で得られた超硬工具廃棄物からのW とCo の再資源化プロセスでは、まず低濃度のH2SO4 でCo を溶解することによって、浸出工程でW とCo を粗分離する。溶解したCo はD2EHPA またはPC-88A によって抽出分離し、その有機相にシュウ酸による晶析剥離を適用して、Co をCo(COO)2 として晶析させる。先の硫酸浸出からの残渣に含まれるWC を溶解するために、酸化剤KMnO4 を添加した後にメカノケミカル処理を適用し、残渣中のWC を可溶性のK2WO4 に変換することによって、W を非加熱の条件で溶解する。
TOA のようなアミン類によってW を抽出分離し、その有機相にNH4OH-NH4Cl 溶液による晶析剥離を適用して、W をAPT として晶析させる。このような一連の処理を経て、最終的にレアメタルの酸化物の原料となる物質を回収できることが明らかになった。研究対象の拡大の可能性として、廃触媒からのバナジウムやモリブデンの回収、廃電池からのリチウムやコバルトの回収などに幅広く適用できると考えられる。

■ K2312  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22067
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

提案の研究で用いられる高度分離技術のキーワードは溶媒抽出法、晶析剥離、環境調和である。得られた一連の研究成果として、従来のレアメタル回収方法よりもシンプルかつ高度分離が可能な処理プロセス、言い換えると、環境調和型処理技術であると同時に、従来よりも短い処理工程でレアメタルを分離・精製・回収できる処理プロセスが構築できたものと自己評価している。さらには、既存の処理プロセスでは回収されていないレアメタルを効率よく回収することにも焦点を当てており、本研究はこのようなレアメタル回収にかかわる新しい処理技術として一石を投じるものであると考えられる。
レアメタルの回収に限らず廃棄物や未利用資源から有価物を回収する場合には、どんな出発原料からどこまで分離・精製するのかということと、環境負荷および採算性の観点からこの処理方法に合理性を求めることが重要である。得られた成果の実用化について言及できる段階ではないが、回収すべき対象物質を十分に吟味し、既存の回収プロセスと比較しながら、いかに効率よく処理できるかということに留意して研究開発が実施されたものである。概してリサイクル技術の開発には、集荷や処理のコストの問題が潜在的に存在するので、一連の研究によって得られた技術開発の成果を経済的にも成り立つような実際の技術とするために、別視点からの検討を要するものと考えている。
前述のごとく、従来法よりもシンプルで高度な処理方法を確立することは、レアメタルの資源確保の点で極めて重要である。このような視点で研究対象の拡大の可能性を考慮すると、廃触媒からのバナジウムやモリブデンの回収、廃蛍光灯からの希土類の回収、廃電池からのリチウムやコバルトの回収、廃磁石からのネオジムの回収などに際して、ここで提案するいくつかの要素技術が幅広く適用できる可能性があると考えている。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦個々のサブテーマについては一定の新たな知見が得られ、これらの結果を基に、定性的には提案システムによる廃棄物からのレアメタル回収の可能性を示すことはできているが、各プロセス間の定量的な検討等、もう一歩、実際に実現可能かどうかを判断できる材料の提示が必要である。
♦レアメタル含有廃棄物に対して提案したプロセスの実証結果が欲しかった。
♦本研究では、タングステンとコバルトを含む廃棄物から、これらを高度に分離回収する技術を示した。これはまた他のレアメタルにも適用できることを示した。
♦レアメタルについては、市場自体が不安定であり、廃棄物から回収する実用技術が求められているところであり、技術評価は市場状況等にも影響されると思われ、まずは可能性のある技術の蓄積が肝要と思われる。
♦一般に用いられる薬剤組み合わせによりコバルト、タングステンを超硬工具廃棄物から分離回収するルートを実験的に示している。分離・回収率も高く有望であるが、廃棄物の姿(形状、寸法等)の記述がないこと、Mechanical chemical におけるMechanical の役割(分子構造レベルの反応性向上特性、単なる反応生成物の除去又は反応面掘り出し)が不詳であることが惜しまれる。
♦Mechanical chemical の機構が今一歩明らかにできれば、この技術はさらに進むと期待される。
♦実用化が強く望まれている。


目次へ

研究課題名: 【K2130,K22066,K2313】廃棄物からの乾式法による選択的インジウム回収プロセスの基礎研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 平澤 政廣(名古屋大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究で目的とする非高温における塩化を可能とする適切な塩化剤としてNH4Cl などを選択し、効率的な塩化反応の条件を検討すること、および、廃材料の処理などで混入することが予想されるSn、Pb、Fe などの共存元素の塩化挙動と、酸素分圧、塩素分圧、温度勾配などのコントロールによるIn の選択的分離・回収の可能性について重点的な検討を行い、これらプロセスパラメータの最適化を目標とする。また、アルカリ浴前処理プロセスなどを組み合わせて、他のレアメタル回収への展開の可能性を探ることを目標とする。
<成果>
塩化剤としてNH4Cl を採用し、ITO ガラススライドなどをモデル廃棄物として、400℃にて、インジウムの塩化揮発挙動に関する基礎的データを得た。 塩化剤の混合割合や反応温度など種々の反応プロセス因子の影響を検討した。本研究で得られた結果より、酸化物系、合金系などさまざまな種類の廃棄物からIn の分離回収が可能であることが判明した。
とくにITO ガラスに関しては、通常前処理として行なわれる粉砕工程を経ずにITO 蒸着面への塩化剤塗布によって高効率にインジウムを回収できることを見出した。エネルギーを要する粉砕工程を省略できることは本プロセスの魅力のひとつといえる。また、塩化反応で副生するスズは、水による回収などで容易に分離が可能であることが見出した。本プロセスは塩化剤を混合し、加熱するという非常にシンプルなプロセスで、インジウムを濃縮分離することが可能であることから、その実用化も比較的容易であると考えられる。

■ K2313  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22066
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

上述のように、本プロセスはきわめて簡便な手法でインジウムの選択的回収が可能であることから、」本研究の遂行によって、実用化に関してきわめて明るい展望を得ることができた。とりわけ、ITO 蒸着ガラスに関して、粉砕処理を行わずに高いインジウム回収率が得られたことは、エネルギー消費量を大幅に削減できることが期待され、環境負荷の少ないプロセスを実現できる可能性を高めたといえる。
また、本プロセスはITO などの酸化物系のみならず、合金系のインジウムの分離回収も可能であることから、リサイクルプロセスだけでなく、従来行なわれている湿式処理の前処理段階の濃縮分離プロセスとしても利用できると考えられる。従って、既に導入されているプラントの高効率化にも貢献できると考えられる。
本プロセスの現状での問題は、含まれるインジウム(例えばITO ガラスの場合,今回用いた試料についてはガラス1g につき0.3mg 程度)に対して、過剰量のNH4Cl が必要なことにある。化学量論的にはITO ガラスの質量に対して0.01%程度の塩化アンモニウムがあれば、インジウムをすべて塩化できる計算になる。これは、本プロセスがNH4Cl の分解を伴っているために、分解し揮発する量が多いことによるものである。溶液にするなど活量を下げることで、反応効率を向上させることができると考えられる。一方で、塩化剤を塗布するだけというプロセスのシンプルさがひとつのメリットでもあるので、反応効率を挙げるための一手間については、コスト面の検証などが必要である。
また、本プロセスについて、塩化剤の塗布法などプロセス因子を最適化することによって、アルカリ分の除去が可能となれば、ガラス分のリサイクルも可能になる。したがって、より効率的なリサイクルプロセスの構築が可能になると考えられる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦乾式法によるインジウム回収に関して一定の成果が得られている。特にSn との分離法も検討し、実用化への道筋を示した点は十分に評価できる。
♦産業界との共同研究を通した実用化を期待します。インジウム回収の手段として有効な手法を見出せたのではないか。歯科スラッジの場合、水溶液中に回収されたインジウムの資源回収方法の検討が必要ではないか。


目次へ

研究課題名: 【K2129,K22048,K2314】廃棄物リサイクル制度展開の国際比較と化学物質管理の統合システム解析 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 酒井 伸一(京都大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では、使用済み廃磁石のリサイクル方法として、単一のイオン液体中でクローズドサイクルを形成させ、電気化学的手法により、鉄族元素とレアアースを再資源化できる省エネルギー型プロセスを構築することを研究全体の最終目標とする。各プロセスの達成目標を以下に示す。
(1)陽極溶解プロセス
イオン液体中への酸化挙動を把握した上で、鉄族元素及びレアアースを電流効率:95%以上でイオン液体中に溶解させる。
(2)電解析出プロセスI
プロセス(I)で溶解させた鉄族イオンとレアアースイオンから鉄族イオンのみを陰極回収効率:90%以上で選択的に電解回収する。
(3)電気泳動プロセス
システムの最適化により、消費エネルギーを最小限に抑えた上で、濃縮度:10 倍以上でのレアアースの泳動分離を目指す。
(4)電解析出プロセスII
レアアースの還元挙動に基づき、特にネオジム金属を電流効率:90%以上で高効率回収するまでを最終目標とする。
<成果>
実廃棄物としてHDD に使用されるVCM(Voice Coil Motor)を解体・分別後、廃磁石部材を熱減磁〜メッキ剥離〜酸溶解〜金属塩合成工程で処理した。得られた磁石部材の金属塩はイオン液体に溶解できる形態であり、引き続く電気化学工程(陽極溶解、電解析出I、電気泳動、電解析出II)を実施することで、鉄族元素とレアアースを金属の形態で回収できた。
各プロセスごとの研究成果は以下の通りである。
(1)陽極溶解プロセス
ホスホニウム型イオン液体を電解浴に適用し、鉄族元素及びレアアースを電流効率90%以上で実施できた。
(2)電解析出プロセスI
イオン液体浴を連続使用し、電流効率90%以上で、Fe(II)の陰極回収率80%以上まで鉄族金属を回収できた。
(3)電気泳動プロセス
新規FSA 型イオン液体を開発した上で、Fraction-3 層目までの平均Nd(III)濃度は初期濃度の10 倍以上の濃縮を実現できた。
(4)電解析出プロセスII
Nd(III)については電流効率85%を維持した状態で電解試験が実施できた。
本研究の実施期間中にDOWA エコシステムとの共同研究まで進展し、本研究成果は特願2012-017276「鉄族元素及び希土類元素の回収方法、並びに鉄族元素及び希土類元素の回収方法」にて共同出願まで完了した。

■ K2314  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22048
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

国際比較研究の結果、循環型社会形成に向けた3R 政策においては、資源の再利用を最大化するための回収、再精製に係る制度設計と技術構築が求められるが、有用資源の中には、資源性と有害性を併せ持つ物質も多く、3R 政策においては、物質の持つ有害性に対する管理戦略を内包することが不可欠である。家庭系有害廃棄物(HHW)には、レアメタルやクリティカルメタルのような枯渇性や貴重性が高くその回収、再利用が必要とされる物質が含まれるが、これらには、鉛や水銀のように環境放出を適切に管理することが必要とされる有害な物質も含まれる。3R 政策においては、資源の持つ有害性に配慮した管理戦略を織り込むことが必要であることは国際的にも強く認識されつつあるが、具体的なHHW管理戦略については、国情に応じて多様である。
有害化学物質のシンクとなる可能性があり、曝露源である室内ダストを中心に化学/毒性学的キャラクタリゼーションを行った結果、ハウスダストはダイオキシン様毒性とアレルギー免疫毒性に留意が必要で、とくに室内ダスト中では、塩素化ダイオキシン類ではなく、規制対象となっていない臭素化ダイオキシン類が最も重要なダイオキシン類縁化合物であることがわかったことは政策的にも重要な知見である。
家庭系有害廃棄物の家庭内の保有及び廃棄の動態、市民意識を把握すること、海外の回収モデル等を参考に、それらの回収試行を行ったところ、退蔵(使用しないまま保管)されたものも多く、30 年以上使われていないもの、現在使用禁止となっている物質を含むもの、容器の腐食が著しいものも見られた。回収モデル試行の結果、石油類、乾電池、中身の入ったカセットボンベ・スプレー缶、化学薬品や塗料類などが相当量回収され、これら家庭系有害廃棄物等へのきめ細やかな対応を望む声が多いことが確認できた。今後、品目ごとのフローとストックに関する知見、循環・適正処理の在り方や費用負担を含むシステム構築の在り方についての議論が必要と考えられた。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦個々の分担テーマに関しては、学術レベルにおいても高い評価が可能な成果を上げている。
♦また、個々のテーマの成果は、間接的には環境政策に寄与できる成果ともなっている。しかし、統合システム解析というタイトルにふさわしい統合的な研究となっているか、という点では疑問が残り、これではオムニバス研究の寄せ集めという印象となってしまっており、期待を集めている研究だけに残念である。各分担者に研究の目的を徹底させえていなかったか、あるいは、成果の統合的解析と整理が不足しているか、その双方が原因であると思われる。
♦研究テーマは5 つに分けられるが、個々のテーマに関する研究内容と成果は評価できるものの、これらを取りまとめた総括的な内容がよく理解できない。個々の研究を単に取りまとめただけの印象となってしまっている。
♦個々の担当者による成果がばらばらであり、一つの方向性を示すものとしてまとめられていない。
♦サブテーマごとには一定の成果が得られたと思われるが、研究全体を通じた成果が見えにくいことが課題として挙げられる。
♦大学、民間の研究者だけでなく、行政の経験者も参画した研究であり、得難い情報が蓄積されたことは評価に値する。今後は研究者がこれらのデータを踏まえてさらに内容の深化されることを望む。


目次へ

研究課題名: 【K22034,K2315】一般廃棄物焼却飛灰, 家畜骨粉のリン酸カルシウムハイドロゲルへの再資源化と燃料電池への利用 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 福井 国博(広島大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本申請期間内に以下の点を達成目標として研究を推進している。
① 焼却飛灰をリン酸カルシウムハイドロゲルの中間生成物に再資源化するためのプロセス開発とその最適操作条件を確立する。
② 焼却飛灰からリン酸カルシウムハイドロゲルを創製するのに最適な組成等を明らかにし、前処理法を確立する。
③ 最適な創製プロセスを構築するための理論を構築する。
④ リン酸カルシウムハイドロゲルの創製において、家畜骨粉等を再利用することでリン酸使用量の削減を達成する。
⑤ 廃棄物焼却工程とリン酸カルシウムハイドロゲル創製工程を一つにした省エネルギーの新規なワンステップ創製プロセスを構築する。
⑥ マイクロ波誘導加熱による高温反応場を利用したリン酸カルシウムハイドロゲルの創製プロセスを開発する。
⑦ 再資源化したリン酸カルシウムハイドロゲルを利用した燃料電池を作製し、実用レベルの発電特性を実現する。
<成果>
焼却飛灰, 家畜骨粉をリン酸カルシウムハイドロゲルに再資源化するための中間生成物であるリン酸カルシウムガラス粉末を作製する過程と前処理法を構築した。また、家畜骨粉を原料とすることで、再資源化に必要なリン酸使用量を約25%削減してもリン酸カルシウムハイドロゲルに再資源化できることを示した。さらに、再資源化プロセス中のゲル化・結晶化過程において、高温・高圧処理を採用することで焼却飛灰や家畜骨粉から再資源化したハイドロゲルの均質性と粘弾性特性を同時に向上することに成功した。
廃棄物焼却とリン酸カルシウムガラス粉末の合成を同時に行う新規なシングルステップ再資源化法を新規に提案し、本法によってリン酸カルシウムガラス粉末を合成することに成功した。この方法で作製したリン酸カルシウムガラスをゲル化・結晶化を促進するために、撹拌を併用した新規のゲル化・結晶化方法を提案した。
さらに、燃料電池の電極へのハイドロゲルの塗布法の改良を行い、再資源化ハイドロゲル膜を持つ燃料電池の性能を、純粋物質から合成した同種の燃料電池と同等にまで向上させることに成功した。

■ K2315  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22034
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究成果によって、一般廃棄物の焼却飛灰や家畜骨粉をリン酸カルシウムガラス粉末作製を経由して、リン酸カルシウムハイドロゲルに再資源化することが可能であることが示された。このことから、各々700 万t/年、500 万t/年以上排出され、年々増加傾向にある一般廃棄物の焼却飛灰, 家畜骨粉を付加価値が高く、その需要の増大が見込める材料に転換することで再資源化率を向上させることが可能になったと予想される。また、一般廃棄物の焼却プロセスとハイドロゲルへの再資源化を同時に行うプロセスを構築することが可能であることを明らかとしたことから、現在稼働している焼却設備に再資源化のためのプロセスを付設することで焼却処分場を機能性材料創製工場として稼働させることが可能になったと予想される。
さらに、再資源化で作製したリン酸カルシウムハイドロゲルの性能は純粋物質から作製したものと同等の性能を有することから、再資源化で作製したリン酸カルシウムハイドロゲルは比較的広く普及させやすいと考えられる。また、廃棄物焼却と再資源化を同時に行うので、純粋物質から作製するよりも効率的であり、低コストでリン酸カルシウムハイドロゲルを得られると考えられる。したがって、今回検討を行った燃料電池に加え、電気二重層キャパシタや水素センサーなど次世代デバイスへの利用も見込むことができる。
しかし、本材料の実用化のためには、燃料電池への構成技術を高め長期間安定した性能を発揮できるか否かを十分に精査する必要があると思われる。
以上のように、廃棄物の再資源化に貢献だけでなく、石油代替効果、二酸化炭素排出量削減、原子力発電所シビアアクシデントに由来するエネルギー危機の抜本的な解決策である「水素社会」の到来にも貢献できると言える。よって、廃棄物処理問題の解決、再資源化率の向上という産業・社会ニーズに加え、エネルギー問題を解決するための燃料電池の高性能化、低コスト化という産業・社会ニーズに応えることができたと結論できる。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): c

4.委員指摘及び提言

♦廃棄物を利用することにより、従来法で作成されたものと比べて優れた性能が得られているのかの比較証明が必要である。一方、リサイクルによる減量効果も提示、研究目的の最初に記載されている重金属やダイオキシンが提案技術でどうなるのかについても検討が必要である。
♦本研究自身は相応の成果をあげたと考えられるが、燃料電池の実用化を目的とするのなら、それに向けての技術開発の課題設定を明確にする必要がある。
♦本研究では、燃料電池など現在競われている高度な先端技術課題に対して、一般焼却飛灰を活用する技術開発を目的に掲げて様々な実験を重ね、その範囲では相応の成果を挙げているが、現行技術を凌駕する実用化という観点では展望が見られない。多様な物質が含まれている一般廃棄物を、高品質を必要とする先端技術に適用しようという目的の設定は困難ではないか。
♦一般廃棄物焼却灰、家畜骨粉の中の活用せんとする成分、目的とするリン酸カルシウムハイドロゲルの所要性状が与えられていない。
♦数種の進展が述べられているが従来方法から新方法へのステップの学術的背景、各事象の真相究明の記述が疎であり、研究が新規性に乏しいように見受けられる。


目次へ

研究課題名: 【K2115, K22088, K2316】バイオマス廃棄物を利用した希少元素含有スクラップからのレアメタルの回収および適正処理技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 馬場 由成(宮崎大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
小型電子機器、触媒、パソコンおよびディスプレイ等の電子機器からのレアメタルの回収プロセスを構築するために、まず、スクラップからのレアメタルのターゲットリーチング法の確立を行い、キチン・キトサンバイオマスの機能性(豊富な配位基と柔軟性)を最大限に活用することにより、これらのレアメタルに高い吸着選択性および速い吸着速度を有する新規なキチン・キトサン誘導体吸着素子の開発を行う。このために、キチン・キトサン素材の柔軟性を活かし、分離・吸着材の形状(パーフュージョンクロマト用の貫通孔多孔性ビーズ、ナノファイバー、膜、キトサンコーティングろ過材)を最適化し、分子インプリント法や簡易グラフト重合法により高機能化を図り、リーチング溶液に含まれるレアメタルを回収後、完全脱着による分離材の再生技術を確立し、その実用化を目指す。こうして、バイオマス廃棄物の資源化とレアメタルの資源循環システムの構築を同時に達成することを可能にする。
<成果>
「キチン」と「キトサン」を出発原料としてターゲット金属に対して高い選択性を示す「新規キトサン誘導体」を開発し、貴金属、レアメタル、ベースメタルの吸着性能の基礎データを蓄積した。さらにこれらの「吸着選択性」を利用することによって20〜30 種類の金属イオンが混合している浸出液からターゲット金属イオンの分離・濃縮技術を開発した。まず「ターゲットリーチング法」を検討し、特に「太陽電池廃パネル」の場合に非常に有効であることを見出した(特許申請中)。高選択的で高容量の吸着材を開発するためには、配位子の選択だけではなく、吸着材担体の表面特性、細孔構造特性も重要なポイントであり、吸着材担体の形状(貫通孔、フィルター、超多孔性、真球状体、膜)やそれらの細孔構造の最適化を詳細に検討し、実用的な吸着材の合成法(ワンポット合成法、簡易型グラフト重合法、配位子と架橋を同時に達成する方法)を確立した。これらの要素技術を基に高選択的で高速処理できる「パーフュージョンクロマト用の新規キトサン誘導体」および「キトサンコーティングろ過材」を開発し、実用化技術を構築した。

■ K2316  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22088
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究では、「キチン」および「キトサン」を出発原料とし、ターゲット金属イオンに対して高い吸着選択性を示す「配位子」を導入することによって新規キトサン誘導体を開発し、「都市鉱山」、「エッチング廃液」や「太陽光廃パネル」からの貴金属、レアメタルの分離・濃縮プロセスを開発するための基礎データを蓄積し、その実用技術の開発を行った。
吸着材の形状は、微粒子、貫通孔をもつ超多孔性キトサン球状体、繊維、膜などである。吸着プロセスは、実用化を目的に超高速分離・濃縮が期待される「カラム法(パーフュージョンクロマトグラフィー)」と「コーティングフィルター法」である。具体的にそれらの成果を以下に示すが、これらは全て特許申請中である。
① 貫通孔を有するキトサン微粒子の調製に成功した。本法はエマルション間の水の浸透圧差を利用した方法であり、細孔構造の設計が可能となった。このことが実用化技術の実現に向けての大きな第一歩となり、現在パーフュージョンクロマト用の担体としての実用化が実現しつつある。
② 安価な銅イオンを鋳型とするキトサン誘導体によって、同じ平面4配位をとるAu(III)、Pd(II)などの貴金属を高選択的に吸着できる吸着材が開発され、その実用化が期待される。
③ ポリアミンを配位子とするキトサン誘導体をコーティングしたフィルターの調製に成功した。このフィルターはITO エッチング廃液からのIn/Sn の分離・濃縮に最適であり、商品化に向けて共同研究企業によってその小型テストプラントが作成された。
④ ホスフィン酸型キトサン誘導体によるIn/Ga/Zn の分離・回収が実現した。現在、これらの吸着材の商品化に向けての検討が行われている。
⑤ 貴金属・レアメタル浸出液からこれらを高選択的にしかも超高速吸着するための新規な処理プロセスの吸着材となる、「パーフュージョンクロマトグラフィー用のキトサン誘導体」と「ろ過材にキトサン誘導体をコーティングし、高選択的吸着機能を付与したフィルター」が開発された。現在これらの吸着材は現在商品化に向けて、その最適化を行っている。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦種キトサン誘導体を作成し、これらの吸着選択性、吸着速度および吸着容量を求めた努力は高く評価する。ただ、研究成果はあくまで基礎レベルにとどまっており、経済性、有用性など実用化への評価は今後に待たねばならない。
♦レアメタルの資源循環に関してはライフサイクル全体を考えた考察が必要。
♦今後バイオマス廃棄物を利用した吸着物質が工業的に生産されることを期待する。
♦PFC を工業的応用する場合のプラントイメージを示す必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K22010,K2317】人口減および低炭素社会への移行に対応した資源循環施設の更新と技術選択 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 盛岡 通(関西大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
第一に、少子高齢化及び低炭素社会への移行の中で、循環型社会対応の資源循環システムを構築し、施設を高度化・更新していくシナリオを評価するため、コスト、CO2 排出量、総発電量、リサイクル率、最終処分量を算定するシミュレーションモデルを開発する。さらに開発モデルの妥当性、有用性を検証のうえ、地域の循環政策シナリオを考察・評価する。
第二に、既存の廃棄物焼却施設の更新と修繕の実績をもとに、焼却施設のユニットおよびコンポーネントの残存する効用を表現するサブモデルを構築する。さらに、減少していくごみ量および対応するごみ焼却施設に対して、資金調達法を工夫して平準化を行うことによるコスト面での効果を検討し、ストック・マネジメントによる費用削減効果を評価する。
第三に、全国の施設管理者に対して、アンケート調査を行い、焼却施設の長寿命化やごみ量減少時の低負荷運転の対応方針を明らかにする。また、広域化や低炭素化のためには、市民の合意形成が必要であることから、広域化や低炭素政策への市民の関心と選好を明らかにする。
<成果>
① 焼却施設を更新していくシナリオに基づき、広域化とエネルギ回収を評価する手法を開発した。兵庫県を対象に2030 年までのコスト、CO2 排出量、総発電量等を算定した。
広域化シナリオでは、Bau シナリオよりも収集費が増大するが、施設管理費を低減できるため、両者の差はわずかである。また総発電量は、広域化によりBau よりも2 倍近い値となり、地域エネルギ供給施設の拠点となり得る。
② 複数の焼却施設の詳細な動向調査より施設の点検、補修、更新の部材取扱い及び費用支出のインベントリを作成し、保全費の勘定モデルを構築した。官民協働手法を導入することで、ピーク時支出額を半減させ、機会費用の利率2%に対して、16-19%程度の効果が見込める。
③ 全国1,200 施設を対象に調査した結果、低負荷運転時への対応策は、第一に運転炉数・運転時間の見直しであり、その後は同一市域(組合)内において施設が複数かどうかにより、対応策のフローが異なる。また、1 千通の市民アンケート調査から、廃棄物行政の転換に革新的な態度と保守的な態度とで大きく類型化して態度や行動を説明できることを示した。

■ K2317  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22010
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

一般廃棄物処理では財政上の効率化や支出の削減を図ることが実務上欠かせないので、施設整備にかかる費用の見積もりを可能とするツールの開発も要求される。また、技術効果と資金管理効果の両面から見たアセット・マネジメントが必要となっている。この維持管理の方式と費用の詳細は、これまで経験知として関係者の知るにとどまっていた。都市部の日量数百トン規模の焼却施設の技術者に対するヒヤリングとアンケートを行い、さらに全国的の施設関係者にごみ焼却施設の運営に関するアンケート調査を行った結果も活用して、焼却炉の建設後の時間経過に沿って維持管理費用が変化する過程を表現する勘定モデルの開発を行った。このモデルは標準化、実用化に大きく貢献する。本研究では、大規模改修後の保守点検や修繕、部分更新が機能の回復や予防的保守に貢献しているとの技術的な証拠を得る目的に15 年を経過した実施設を対象に調査分析することはできなかった。
そのため、22 年度に実施した10 年余の維持修繕の過程をモデル化した結果を、さらに高年度に適応して時系列的に運用することを避けざるを得なかった。
次に、人口減と低炭素社会への移行に対応した資源循環施設の更新と技術を選択する目標を達成するべく、5 年間を区切りとして巨視的な循環指標、低炭素指標、経済指標を評価のベンチマークとする2030 年頃までのシナリオ研究を実施した。このシナリオ研究では人口減少下で廃棄物減量化を進めた時の施設容量の余剰に対し、広域化、統合的総量削減を検討することを主眼とし、その狙いは費用の増大を招くことなく発電量の大幅増加の結果を得て、社会の関心を科学的に検証する道筋をえた。管理費用の時系列や機能回復の効果を組み入れておらず、初期の施設建設費や収集運搬費用の推定と同じレベルの原単位法あるいは非線形の回帰式を利用するにとどまり、課題として残る。長寿命化による機能回復と費用の関係等について10 年余の観察から得たモデル式に頼れば、維持管理費と機能のダイナミックな関係を組み入れた将来予測を為し得たとも思われるが、そのような移行過程は、信頼性の面から再現することは出来なかった。
さらに信頼性の幅を加えたモデルに高度化する課題は残されているが、2030 年までの一般廃棄物のうちの可燃分を中間処理に供する焼却炉を更新する際に、より広域的単位で焼却して発電エネルギとして回収することは、3R 政策に抵触せず、総コストも増大せず、むしろ低炭素社会の形成を促進する点で効果的であることを明らかにした。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦三つのテーマのいずれについても、十分な研究成果を得ている。ただし、アンケートによる研究結果は、傾向の分析結果を示すに止まっていて、この結果を政策に生かすためには、さらに検討が必要である。テーマ1・2 によって広域化のメリットを定量的に示したことは、政策の支援に大きく資するものと評価できる。兵庫県と条件の異なる地域での同様の検討に関しての示唆が十分に示されていたならば、評価がさらに高いものとなった。
♦得られた成果を具体的な政策提言し、政策に生かしていただきたい。
♦近い将来に課題となる資源循環施設の社会的な位置づけに焦点を当てた研究であり、精度の高い有用な研究成果が報告されている。
♦科学的知見に加え、政策的な観点からの知見も得られていると思われる。実際の人口減少のシナリオを加味した分析が今後望まれる。
♦ストック・マネジメントによる費用削減効果と市民アンケート調査によって得られた広域化や低炭素政策への関心・選好とをうまく統合する必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K2106,K22086,K2318】ナノ膜分離プロセスを組み込んだ熱分解ガス化-触媒改質技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 川本 克也((独)国立環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃棄物系バイオマス等からエネルギーを有効に回収できる触媒適用型ガス化改質および膜分離プロセスの開発を目指す。ガス化改質工程では、各種の触媒および補助的材料が水素等の主要なガス成分の回収効率とタール分等の副生成分の排出抑制に果たす効果を定量的に明らかにする。
膜分離プロセスに適用し、選択性の高い物質分離が可能なナノサイズ孔をもつシリカ素材の膜材料をガス化ガスの分離に適用するための基礎的な分離性能等を評価するために、水素や一酸化炭素等の透過率パラメータおよびその温度依存性、耐水蒸気性能等を定量的に明らかにする。
ガス化工程での生成ガスを改質するため、活性劣化物質等に対する耐久性をもち、貴金属を使用せず安価で高性能の触媒開発を目指す。様々な合金管の表面を酸化した管壁型触媒および炭化水素モデル物質含有ガスを用いて改質効果を試験し、水蒸気改質、部分酸化およびドライリフォーミングに最も効果の高い触媒を見出すことを目標とする。
<成果>
木質からのガス化ガスにニッケル系触媒、およびステンレス鋼管合金を用いて改質効果を評価した結果、ニッケルの存在が改質に与える効果は高く、水素と一酸化炭素の増大に有効であった。タール成分に対する水蒸気改質反応の促進が主な要因と考えられた。炭素の析出防止には、酸素放出能力をもつ酸化セリウムの添加が有効であることを見出した。
膜分離におけるガス分子透過特性には、温度および透過方向が影響し、得られた水素の透過率はおおむね10-7 molPa-1m-2s-1 の水準であった。水蒸気が共存すると、乾燥条件に比較しガスの透過性がかなり阻害されることを示した。一方、硫化水素の共存は乾燥水素ガスの分離性にほとんど影響を与えなかった。触媒を組み込んだ膜反応管を適用すると、一酸化炭素転化率と水素生成量が増大した。
直鎖炭化水素、芳香族、チオフェンについて水蒸気改質、部分酸化、二酸化炭素改質を行い、貴金属を含まない合金酸化触媒を探索、開発した。水蒸気改質、部分酸化にはハステロイが、二酸化炭素改質にはコバールが最適な合金触媒であることを見出した。

■ K2318  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22086
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究において開発を目指したガス化および比較的低温の改質さらに膜分離プロセスを実用化する上で重要な点は、①安価で長期使用が可能であり実用性のある触媒が得られること、②膜材料が水分や種々の共存成分を含むガスに適用性があり、経済的な実用性をもつこと、である。①に関して、触媒開発で取り上げた市販の合金管を用いた触媒は、精密な触媒製造方法をとることや複雑な触媒交換作業が不要であるため、オンサイト型の中・小規模のガス化システムの実用化に大きく貢献すると考えられる。ガス化工程の操作条件に合わせて合金を選択するだけで、最適化がある程度達成される点も有利である。ガス化工程の実用性については従来の流動床方式の適用が可能であり、研究において改質触媒の選択と性能に関する基本的なパラメータに係るデータや各種知見を得たことは、実用化の段階を進捗させ得たと考える。課題としては、長期の適用性やタール関連成分の除去性能を一層向上させるための触媒構成の最適化をはかること、触媒合金の有効成分を特定し機構を明確にすること、表面処理等によって性能をさらに向上させることがあげられる。
ナノサイズの微細孔をもつ膜材料を用いた分離プロセスに関しては、水素を始めとするガス分子の透過率や特性に関するデータを温度、圧力および膜透過の方向等の因子に対するデータとして明らかにした。膜の開発が基礎的な材料開発の段階であり、応用的な装置への組み込みと実用化は、改質触媒の場合に比較して初期段階であった。とくに、分子の有効な分離がシリカ素材の膜層で生じることから、水蒸気が共存する場合の耐性が不十分であり、乾燥ガスの場合に比較しガスの透過性がかなり阻害されることが明らかになった。
バイオマスのガス化ガスへの応用展開を考慮すると、この課題は重要である。一方、触媒を膜構造内に組み込んだ膜反応管を適用すると、一酸化炭素転化率と水素生成量が増大することを明らかにし、将来技術の適用に係る方向性を明らかにした。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦開発目標である有用ガスの選択的分離は、部分的には成果を得ているが、結果を見る限り実用可能な技術にまでは至っていないといえる。したがって、おおむね提案当初に想定した成果にとどまっていると判断する。
♦要素技術についての結果を独立して述べるだけではなくシステム全体の評価、ボトルネックとなる技術の同定等も実施して欲しい。
♦水素などのガス成分の高率回収システム、分散型エネルギー利用システムがこの研究によりどのように確立されるのか、膜素材の開発、改質触媒の開発共にどのレベルなら十分なのかを示す必要がある。
♦用いた装置規模の試験結果からコスト解析したとあるが、スケールアップした場合の規模が想定されていないので、その解析結果の持つ意味の説明が十分とは言えない。


目次へ

研究課題名: 【K2136,K22042,K2319】溶融飛灰及び焼却飛灰の資源化と有用金属回収を可能とする化学的ゼロエミッション技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 長谷川 浩(金沢大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
(1)焼却飛灰及び溶融飛灰の洗浄に適したキレート洗浄液の開発
飛灰中重金属のキレート洗浄に関与する化学因子を解明し、キレート洗浄に適したキレート剤、補助剤の組成を明らかにする。
(2)超分子作用を利用した新規固相抽出材の開発と重金属に対する挙動
EDTA 程度の強さのキレート溶液から、目的成分を定量的に分離する技術を確立する。
(3)飛灰中における重金属の存在状態別解析法の確立
化学的分画法、表面機器分析により、飛灰に対する洗浄効果の評価法を確立する。
(4)実験室レベルにおける廃棄物の洗浄・有用金属回収
廃棄物中Pb, Cd, As の溶出を0.01ppm 以下に低減するとともに、主要なレアメタルの回収率90%を達成する。
(5)小規模な飛灰処理プラントの設計と試行
連続処理において、飛灰中Pb, Cd, As の溶出を低減するとともに、主要なレアメタルの回収率60%を達成する。
<成果>
① モデル飛灰を用いて、生分解性キレートを主成分とした洗浄液により希土類元素と一部の遷移元素をほぼ100%回収できることを明らかにした。
② キレート溶液中のレアメタルを回収する目的に、超分子型新規固相抽出剤18 種を開発し、EDTA 存在下でも希土類元素と遷移元素90%以上を回収する技術を確立した。
③ 廃棄物中における元素の存在状態や挙動の解析法を確立した。また、経済性の観点から全体コストを比較する計算モデルを構築した。
④ 実験室レベルの検討で抽出率向上に関与する条件を明らかにし、廃ITO ガラス、廃蛍光管等の実試料から主なレアメタル90%以上を回収した。また、洗浄後の廃棄物に関して、Pb, Cd, As の溶出量0.01ppm 以下を達成した。
⑤ 「キレート洗浄-固相抽出連続処理」のスケールアップ実験を行い、廃棄物からのレアメタル回収率が良好であることを確認するとともに、実試料として非鉄精錬ダストを用いた検討でインジウム回収率85%を達成した。

■ K2319  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22042
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究では、生分解性キレート剤を利用した廃棄物洗浄-レアメタル抽出技術を確立するとともに、回収率向上の手法として、超音波照射、湿式粉砕、マイクロウェーブ法等の比較的穏やかな高温高圧条件、前洗浄工程の導入等が有効であることを見いだした。また、新規な超分子型固相抽出剤を開発し、従来の固相分離剤では不可能であったキレート溶液からのレアメタル分離技術を世界で初めて確立した。この二つの要素技術は、レアメタル回収のための湿式プロセスに新しい選択肢を提供するものである。現在、企業2 社と実用化に向けた共同研究を進めており、更に2 社との契約締結の手続きを進めている。本技術は、都市鉱山からの新しいレアメタル資源の発掘に有効であるのに加え、社会問題化している廃棄物の新しい適正処理技術の確立へも繋がり、各企業より社会へ大いに貢献するものと期待されている。短・中期的な取り組みとして、これら連携企業との共同研究を進める中で、実用化に関わる技術開発を行うとともに、連携企業への技術移転を進めることを計画している。共同研究企業との事業の進展に応じて、環境省、NEDO、JST 等の実用化研究に対する助成金制度への応募を検討する予定である。
今後の課題は、具体的な廃棄物への適用とレアメタル回収に要するコストの軽減である。
廃棄物からのレアメタル回収は、長期的には我が国にとって不可欠な技術であるが、現段階では他国から輸入する方が経済的に有利である。コスト面に関して、本研究では国内の化学材料企業2 社と連携して生分解性キレート剤や超分子型固相抽出材の開発を行ってきた。現段階で薬剤量産の目途はたっており、実用レベルの価格で市場に供給可能である。
廃棄物洗浄-レアメタル抽出技術の普及に関しては、更に、コスト評価モデルによって実用レベルで全回収過程を精査し、薬剤の再利用技術など、コスト削減と回収率向上を両立した各プロセスの改善が期待される。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦個別の組み合わせについては、有用金属の回収について有用な知見が得られたと考えられるが、研究テーマがオムニバス的に設定されているため、一つのシステムとしての有効性について判断できる材料が十分に得られていないのではないか。
♦丁寧な実験を行ったことがうかがえ、スケールアップや実試料での回収にまで踏み込んだことが評価できる。
♦現代文明に不可欠となっているレアメタルやレアアースは偏在しているため、その確保や代替技術の開発は高度な政治課題となっている。そのため、あらゆる面からの技術の開発を行い、多様な回収方策を実現することが求められている。その点、廃棄物は主要な発生源でもあり得、飛灰などに濃縮されると思われる。本研究はそうした点に着目して回収技術の開発に努めたもので、キレート剤を用いて回収効果を高められることを実証するとともに、ケースごとの処理コストの算出を行うなど、実用化に向けた着実な研究プロセスと成果を挙げている。
♦実用化への方策の検討が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K22028,K2320】E-Waste からのレアメタルリサイクリングに関するセパレーションプロセス最適化 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 大和田 秀二(早稲田大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
E-waste のリサイクリングでは、処理対象となる製品が非常に多種にわたること、EOLであり製造年代が一定しないこと、特に電子製品では使用部品・元素が急速に変化すること,等を踏まえてリサイクリングシステムを構築することが必要である。レアメタル類の多くはベースメタル製錬の中では原理的に回収されないものも多く、事前に物理選別等で分離することが必要であるが、現状ではその技術開発はほとんど行われていない。その効率的な実施の必要条件としては、対象物の元素−部品類のインベントリーを整備し、それを極力細粒化させずに製品から分離し、適切な特性を利用して物理選別を行う、ことが挙げられる。本研究は、E-Waste のこうした特有の性質を考慮した上で、レアメタルリサイクリングのために特に重要度の高いレアメタル濃縮の一連のプロセスを総合的にコントロールして、各種製品からの特定レアメタル含有部品あるいは画分の分離の高効率化を図るものである。
<成果>
デジタルカメラ・LED を構成する金属の存在状態を詳細に分析することにより、主に構造材などに使用されるベースメタルの分離、選別は従来の選別技術によって達成することができるが、レアメタルはガラスや微小な電子部品に使用されている場合も多く、この場合は、対象物に応じた特殊な粉砕・選別プロセス、あるいは化学的プロセスを開発・導入していく必要があることが判明した。
また、汎用的な電子基板を力学的粉砕機5 種類7 条件および電気パルス粉砕を加えた6種類8 条件にて粉砕し、基板からの部品剥離率および部品破壊率を比較し、部品を非破壊で基板から剥離するための力学的粉砕条件を明らかにした。特にDEM シミュレーションによりパーツセパレータでの部品剥離機構を明らかにした。また、電気パルス粉砕は小部品の剥離に有効であり、大部品については破壊されるものの金属素材の単体分離が格段に向上することを発見した。レアメタル類の濃縮にあたっては、特に「部品選別」が有効であり、それと「粉体選別」を組み合わせた最適処理フローを構築した。

■ K2320  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22028
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

使用済み小型家電品については、現状で一部が収集されているが、それらについてもその中の素材回収は銅製錬における銅および貴金属のみにとどまっている。所謂レアメタルは小型家電中に濃集されてはいるが、少なくともレアアース等、銅より.なる元素については現状でほとんど回収が行われていない。したがって、これら元素を回収するためには、銅製錬に投入する前にこれら元素を小型家電類から分離する必要がある。そこで本研究では、小型家電品および各種電子機器(基板のみの場合も)中に含有される各種元素の存在状態を明らかにして、その破砕・選別・精製の可能性調査を行う(東北大学担当)とともに、携帯電話および通信基板を対象として、部品選別という新たな概念を取り入れ、現状の破砕機・選別機を効果的に組み合わせて、現状の中間処理において理想的に破砕・選別が行われた際の各元素の濃縮性を明らかにした。
これらの結果は、今後の使用済み小型家電品からのレアメタル回収においてポイントとなるレアメタル類濃縮技術の大幅な進展に寄与するところが大きいと考えられる。また、こうした市場性の低い各種使用済み資源の循環利用において、安価で省エネルギー的なこうした濃縮技術の進展は、今後の真の資源循環型社会構築における中間処理技術の高効率化を促進することになる。特に、この中間処理分野からの部品分解・成分分離での問題点は、今後のサプライチェイン全体の最上流に当たる各種製品設計段階にフィードバックされるものであり、本研究成果の一部は今後の易リサイクル設計において貴重な情報を提供するものと考えている。今後の課題としては、使用済み小型家電品からのレアメタル濃縮で得られた本研究の成果を日本全体のレアメタルマテリアルフローに組み込んでその意義を明確にするとともに、上記の製造段階へのフィードバックにおけるより具体的な提案の策定である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦元素−部品類インベントリーの整備という目的には、一部のケースについては行われているが、E-WASTE 全体から見ると、ごく一部に止まっているように思える。
♦濃縮率を高める部品分離技術が評価されており、レアメタル回収につながる成果が得られている。
♦本研究は、E-Waste からのレアメタル回収に際し、前処理たる廃棄物からの分離技術について、最適化に向けて体系的に取組んだ実証的な実験研究であり、実用性の高い成果が得られている。勿論こうした回収システムや技術の選択はレアメタルの相対的価値に影響されるものであるが、本研究では破砕分離技術の効果を体系的に整理しており、今後の具体化に有用と思われる。
♦データ収集との点では評価できるが、結果は想定範囲内である。
♦実際に当たっては改めての実験的検討が必要になる。また、実際は数種の機器の組み合わせを用いる事となろう。


目次へ

研究課題名: 【K2128,K22092,K2321】レアメタル再資源化総合システム評価技術開発(H21〜H23)
研究代表者氏名: 中村 崇(東北大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
我が国には多くの工業製品が存在し、その中には多くのレアメタルが使用されてきたが、廃棄物からのレアメタル回収はほとんどなされていない。そこで、社会システムも含めこれからの研究リソースをどのように集中すべきか方向性を示すことを研究の目標とする。まず、回収対象となる廃製品や廃棄物として、一般廃棄物の粗大ごみ、家電リサイクル法で取り扱う対象物、小型廃電気・電子機器、廃自動車、廃産業機械(PC サーバなどを含む)、その他と分類し、それらを通じたレアメタルの社会蓄積量(回収ポテンシャル量)の把握を試みる。対象レアメタルは、希土類元素、タングステン、インジウム、白金等とする。
廃棄物中のレアメタル含有量に関する文献・資料調査を行い、また、これまでの調査で組成量が明らかにならなかった製品・部品も洗い出し、追加的な定量分析などを行うことで、マテリアルフローを整理し、社会蓄積量を推計する。最終目標として、レアメタル再資源化に向けたLCI(Life Cycle Impact)の評価を、産業連関表(IO)分析手法を活用したモデルにより行う。
<成果>
3 カ年を通じて、小型廃電気・電子機器、廃自動車、廃産業機械中のレアメタル含有量の多くの情報が揃い、これらを通じたレアメタルのマテリアルフローを把握することができた。機器や部品、元素によっては、資源供給量(自動車向け)などの統計を用いた推計結果であることや、仮定ベースでの含有量であるなど、実態との整合性を必ずしも確認できないものもあるが、大まかなフローを把握することは可能となった。
また、自動車のHV 化やEV 化の進展に対するLCI 評価(シミュレーション分析)を行い、エネルギーモデルと素材のMF をリンクした元素戦略モデルを用いたことにより、自動車需要に伴うレアメタル資源のシナリオ分析も行うことが可能となった。
研究テーマでの国内シンポジウムや国際シンポジウムを開催し、研究成果の公開とともに最新の情報収集を行うことができた。

■ K2321  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22092
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

多様な廃製品(小型廃電気・廃電子機器、廃自動車、廃産業機械)のフローとそれが含有するレアメタル含有量(推計ベースの結果も含む)から、レアメタルの社会蓄積量(回収ポテンシャル量)の把握が可能となった。このことにより、回収ポテンシャル量と合わせて回収技術が向上する際、いかにして効率的にレアメタル回収ができるか予見することが可能となる。また、どの製品に対応したどの元素の回収技術を開発することで、より効果的にレアメタルの再資源化が可能となるのかの把握が可能となる。ただし、実際のレアメタル回収ポテンシャル量は、レアメタル回収技術にも依存することから、回収までの実用化には技術向上を待つなど時間を要する。
今後の課題としては、廃自動車などに代表されるように、環境対応のために今後も一層ハイブリッド化、電気化が進むと予想される自動車などの追加実態調査を反映した、レアメタル社会蓄積量・回収ポテンシャル量の継続的な把握である。環境規制等に順応するため製品が様変わりするとき、その素材・構成元素も変革する可能性が高いことから、各製品間でのレアメタル蓄積量・回収ポテンシャル量も変革する。この場合、効率的な回収方法も異なる結果となる場合が考えられる。継続的な調査を続け、最新の情報を盛り込むことが、効率的なレアメタル回収に向けた課題である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦電子機器等からの金属回収のポテンシャル量に関する信頼性の高い推計データを得ることができたことは、政策支援の研究として期待どおりの成果であるといえる。
♦報告書概要版の結論に記載されている“今後の課題”のハイブリッド化・電気化は極めて重要であるので、研究の継続に期待している。
♦旅費で得られた成果が本研究にどう反映されているのか明確に示して欲しかった。
♦漠然と語られているレアメタルリサイクルの必要性に対して定量的なメスを入れたことは評価に値する。これを第1 歩として、更なる研究の深化に努められたい。


目次へ

研究課題名: 【K22006,K2323】一般廃棄物焼却施設の物質収支・エネルギー消費・コスト算出モデルの作成 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 松藤 敏彦(北海道大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
全国の一般廃棄物焼却施設を対象としてアンケート調査を実施し、残渣発生率、用役(電力、薬品、燃料)使用率、施設の運転に必要な電力、燃料使用量、建設費、維持管理費などと、施設の設備構成、排ガス処理方法などとの相関の有無を分析する。次に、物質収支、エネルギー、コストの算出モデルを作成し、「焼却技術の基礎的情報の整理と分析、および物質収支、エネルギー収支、コストの標準値算出モデル」によって、既存施設の評価、新規施設の選択に利用できる技術情報提供を目的とする。
<成果>
① 物質収支、エネルギー収支、コストについて、約400 の全連続式焼却施設のデータを収集した。データは処理前に施設ヒアリングにより確認を行った。
② 施設を焼却、灰溶融つきの焼却(溶融方法別)、ガス化溶融(炉形式別)に分類し、特に電力は発電、消費、売電等の収支を明らかにし、灰溶融、ガス化溶融が電力生産施設となっていないことなどを示した。さらに、燃料使用量、電気使用量等より、エネルギー産出効率、外部への取り出し効率として評価した。
③ 物質収支、エネルギー、コスト等を指標化し、炉形式の性能評価を行った。エネルギーについては13 の指標を用い、各指標の定量評価方法を考案し、評価結果をわかりやすくマップで示した。
④ エネルギー使用量は同一炉形式でも施設によって差が大きい。その原因を明らかにするため、稼働率、規模等を変数とするモデル化を試みた。線形モデル、指数モデルの結果はほぼ一致し、炉形式による差も定量的に示した。

■ K2323  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22006
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

(1)我が国におけるこれまでの課題
焼却は、日本の廃棄物処理における中心的な技術であり、一般廃棄物だけで1300 以上の施設が稼働している。焼却施設について、施設の規模、燃焼方式(焼却、ガス化溶融)、排ガス処理技術(集じん、窒素酸化物除去技術等)、エネルギー回収方法(発電、熱回収)、焼却灰・集じん灰の処理方法等の違いがある。
21 世紀は環境低負荷に加えて、資源循環、低炭素社会のための資源節約・回収、エネルギー回収を適正コストで行うことが求められるようになった。しかし上記のうちどのような施設を選択すべきか、判断するための情報は少ない。例えば、低炭素化のためごみ発電を進めることが必要とされているが、発電量のみ注目され、どれだけ外に取り出せるかのデータはなかった。環境省が毎年行っている一般廃棄物処理実態調査では、調査されていない。また、施設のパフォーマンスに影響する設備構成や排ガス処理方法、また維持管理、運転費用などについては調査されていない。
(2)本研究の社会貢献
本研究は、施設の評価に必要な情報を整理し、アンケートによって収集した。データ自体の有用性のみならず、施設評価をどのような情報にもとづいて行うかという方法を示した点で、今後の実施される調査に有用な示唆を与える。
また、処理ごみ量に対する残さ発生量、活性炭、キレートなどの薬品類使用量、燃料や電気の使用量、そしてコストは、施設の性能をあらわす指標といえる。既存の施設については、同タイプの他施設と比較することによって、問題点、改善すべき点を明らかにできる。また新規施設の計画において、定量的分析値はどのような項目を考慮すべきかを教え、自治体等はそれをもとに重視する項目を設定し、提供されたデータに基づいて目的にかなった炉形式等を選択することができる。
本研究の成果は報告書としてまとめ、大学、研究機関、コンサル等に配布し、さらに研究室ホームページにPDF 版を掲載して、広く利用されるよう試みる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦個別のデータについても検討を加えることにより、より正確な知見を得ようとしていることは評価でき、焼却施設の運転状況についてより正確な知見が得られたと評価できる。ただ、回答率が60%程度にとどまっており、未回答の調査対象に何らかの偏りがあると、全体像を見るという観点からは偏りを生ずるおそれがある。また、稼働率とごみ排出原単位を比較することにより、ごみ削減に対する自治体の姿勢に違いが見られるかどうか、興味がある。
♦信頼性の高い有益な情報なので、ホームページ等を利用して発信すべきだ。
♦本研究は、全国の一般廃棄物焼却施設について、物質収支・エネルギー収支・コストの点から整理してとりまとめた労作である。従来施設台帳的な統計資料は整理されていたが、施設の運営管理の質が問われている時代状況の中で、施設実態について新たな切り口を提示している。実態把握にも、また今後の施設建設や運営にも役に立つと思われる。コストパーフォーマンスの非常にいい研究とも言える。
♦計画段階で概ね見積もられているが、実際のデータ整理・集積が見えにくく、アンケート等への回答も当を得ないものが少なくなく、また、製造メーカー、ユーザーの実状秘匿の風潮から開示されることが難しい面もあるが、データ収集・分析は評価される。処理設備設置準備に当たっては参考になる。
♦原データ及びデータベースで誰でも使えるようにすれば、研究成果が生きてくる。是非、生データを提供することが必要である。


目次へ

研究課題名: 【K22011, K2325】機能性界面活性剤を用いた起泡クロマトによる廃棄物からのガリウムの選択的回収 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 二井 晋(名古屋大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
酸性溶液中のガリウムを選択的に捕集する界面活性剤を用いて、夾雑物が共存する溶液からガリウムを単一の装置で、分離度5000 以上で分離可能な装置の設計および操作条件を解明する。
塔型装置内を上昇する泡沫相を制御して高い分離性能を達成するため、操作条件および設計条件を系統的に検討して最適化する。分離特性を支配するキーパラメータと分離特性を相関し、分離操作の基礎式を確立する。さらに、実用化に向けて設計因子と分離特性への影響を明らかにして、スケールアップのための指針を得る。
<成果>
ガリウム捕集にはエチレンオキシド鎖を有する非イオン性界面活性剤が有効で、選択的分離には最適な鎖長があることを明らかにした。塔型装置を用いてガリウム回収率100%と他の金属に対する高分離度を両立できる最適条件を見出した。起泡クロマトによるガリウム回収において主要な夾雑物質は鉄であり、鉄以外の金属に対して5000 を超える分離度を達成した。金属溶液にアスコルビン酸を添加することでガリウムの回収を損なうことなく大幅なガリウムと鉄の分離度を向上できた。
実際の廃棄物として亜鉛精錬残渣の浸出液から100%のガリウム回収率と鉄などの金属に対するガリウムの非常に高い分離度を得た。装置の塔径の拡大により、回収率を維持したまま、高い分離度と濃縮比が格段に向上できることを示し、スケールアップの指針を確立できた。さらに、高い酸濃度溶液中での界面活性剤と金属イオンとの相互作用を評価するための手法として、モノリスカラムを用いる低圧高速液体クロマトグラフィーの有用性を明らかにした。

■ K2325  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22011
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究で開発した起泡クロマト法は、溶媒抽出とは異なり有機溶媒を必要とせずガリウムに選択親和する、既存物質の界面活性剤を用いて、シンプルな構造の塔型装置により高い回収率と分離度および濃縮を同時に達成できる優れた手法であることを明らかにした。
廃棄物からのガリウム回収への適用性として、ヒ素や主要な夾雑物質である鉄を含む実際の廃棄物である、亜鉛精錬残渣の塩酸浸出液からのガリウム回収試験を行い、高い分離性能を実証した。これらの成果は、手法として起泡クロマトの実用化の可能性が極めて高いことを示している。さらに、装置の観点からも塔径を拡大することで分離性能が向上するというスケールメリットを有することから、実用的規模での装置設計手法を確立すれば、迅速な実用化が期待される。
ガリウムは半導体、発光ダイオードや太陽電池パネルの製造に必須なレアメタルであり、電力源の分散化、省エネルギー化を推進するため国内での資源確保は不可欠であり、大量に廃棄される工業製品などを都市鉱山として「採掘」するための技術開発が重要である。採掘の可否判断の鍵は分離コストにあり、現状の技術よりも格段に高効率・高性能・低環境負荷の分離技術が求められる。代表的な湿式分離法の溶媒抽出では所要床面積の大きさと、溶媒のクローズド化や抽出試薬の回収など、環境対策の付帯設備の点から立地が制限され、集約型の処理しか実現できない。一方、起泡クロマト法はシンプルな構造の塔型装置を用いるため設置場所の制約を受けず、ヒ素などの有毒物質のクローズド化が容易で発生源での分散型回収が可能となり、我が国に適したリサイクルの実現に貢献できると考えられる。
解決すべき課題は、起泡クロマトの実用化を進めるため、実際の廃棄物を原料としてガリウムを単離するためのプロセスの開発と、起泡クロマトをガリウム以外のレアメタルに展開するための方策を検討することである。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦十分に研究目標を達成している。また、スケールアップすることで分離効率が向上することも確認しており、本法の実用化への道筋を示した点は高く評価できる。したがって、研究費に対して得られた成果は極めて高いと判断する。
♦スケーリングについての系統的あるいは戦略的な検討が必要であろう。
♦ガリウムを含む廃棄物からのガリウム回収について、更なる向上が必要。
♦ガリウム回収対象としての廃棄物を亜鉛精練残渣としているが、他の廃棄物はどのようなものを対象と考えているのか、整理が必要である。
♦(800mm、30mm)から(900mm、60mm)への変更からスケールアップ効果を考察しているが、実証機または実機を想定した考察が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K22030,K2326】都市鉱山からの樹脂成分とレアメタルのリサイクル-有機溶剤フリーでの完全リサイクルを目指して- (H22〜H23)
研究代表者氏名: 落合 文吾(山形大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
都市鉱山からレアメタルと有機成分を環境適合性の高い手法でリサイクルするシステムを開発する。まず半導体基板等の有機成分を高温水でモノマーレベルまで分解し、従来の機械的な破壊では有機成分に残存していたレアメタルを含む無機成分まで完全に回収する。
分別した無機成分からの選鉱は、金属選択範囲の異なる樹脂を用いて行う。第一に白金族などを高選択的かつ簡便に分離する樹脂により回収し、第二に、段階的に金属種選択範囲が高くなる超高回収量樹脂を用いてレアメタルを分離する。
レアメタル回収の具体的数値を含む目標の例は、ppb レベルの低濃度白金族の回収・廃IC パッケージからの貴金属、およびその他の金属の分離・白金族以外の回収では10 回程度の樹脂リサイクル性である。有機成分は再ポリマー化する。
<成果>
高温水もしくは高温メタノールを用いたIC パッケージおよびモデル樹脂の分解を300℃程度で行うことに成功した。これにより、モノマーを回収して市販品と同程度の分子量をもつフェノール樹脂の合成と、成形可能な程度の粘度を持つオリゴマーの回収に成功した。
高選択性樹脂により、10 種類以上の金属を含む溶液から貴金属のみを選択的に回収することに成功した。また、Pt(IV)においては10ppb 程度の超希薄溶液からのほぼ定量的な回収にも成功した。
高回収量樹脂を用いた金属回収では、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、パラジウム、金、白金が効率よく回収され、その量はいずれも世界最高峰であるポリマー1g あたり0.5g以上であった。この樹脂から硝酸水溶液により定量的に金属を脱離することができ、回数を追うごとに吸着能は低下したものの4 回程度までは従来の樹脂よりも高い吸着能を示した。

■ K2326  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22030
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

今回得られた成果は、IC パッケージ等の都市鉱山から有機溶媒フリーで有機成分とレアメタルをともに回収する技術の基礎となるものである。これが確立できれば、処理場における溶剤や酸・塩基の使用が非常に少ないため、処理設備の建造・維持コストを低くできると見込まれ、レアメタルの回収コストを低減でき、社会に大きく貢献する。この実現に向けては、以降述べる課題をクリアする必要がある。
各要素技術においては、効率よいIC パッケージの分解、低濃度貴金属の選択回収、リサイクル可能な超高回収量樹脂の開発を達成することができた。各技術で残された課題は、IC パッケージのリサイクルにより得られたフェノール樹脂の特性解析と実用品レベルの強度を持つ硬化物の作製、高選択性樹脂からの金属の脱離である。また、これらの各技術をリンクさせた実際のIC パッケージからの金属回収の検討には至ることができなかった。
今後の課題は、IC パッケージの高温水分解により得られた金属部分からの選鉱を本樹脂で行うことであり、これが成功すれば貴金属の回収を中心とする環境適合性に優れるレアメタル回収方法を構築できる。この際、従来法の一つである金属を溶解させてから回収する液相法であれば、今回の結果から十分に実用化が可能であると見込まれる。ただし、環境負荷の低減と設備の簡素化という観点からより理想的なのは、金属を酸などで溶解させずに行う固液抽出である。このためには、今回の研究で用いた金属回収樹脂をゲルやフィルムなど非水溶性の構造体とし、液相を介して固体の金属と半固体の回収剤を混合し、わずかに溶解した金属を回収するシステムが有効と考えられる。この目的には、今回の成果で得られた超希薄溶液からも金属を回収できる樹脂は有効と考えられる。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦タイトルでは完全リサイクルを目指すとあり、本法はレアメタル回収で重要であるが、トータルプロセスというより前処理法と位置付けられる。また高温水による樹脂成分の完全分解は十分に達成したとは言い難く、今後の課題として残っている。さらに、回収率の点でも、結果が%で表示されているのでわかりにくかったが、当初の目標を達成したとは読み切れなかった。なお、脱着で硝酸を使う点も、環境問題を考えるとリサイクルしにくい酸のため、廃液問題が残ってしまう。
♦数値目標の設定を明確にすることで、成果の説明に説得力が生じる。経済性を評価するための基準、あるいは学術的な評価の根拠となる仮説・機構論的な説明が必要。都市鉱山からの有用物回収としているが、IC パッケージが主体となっており、他に応用が可能かどうか更に研究をすることが必要である。
♦実機ベースを想定した検討が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K2113,K22076,K2327】水熱爆砕による草木質系バイオマスの省エネ高効率糖化前処理の研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 堀添 浩俊(名古屋大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
草木系バイオマスの糖化前処理技術として、本研究者が考案した水熱爆砕法の可能性と適用範囲を検証することが主目的である。即ち、① 蒸発潜熱が不要で無害な加圧熱水を用いて各種草木系バイオマスを水熱爆砕する独自の方法により、少ないエネルギーで緩やかな加水分解、リグニンの剥離促進、セルロースの結晶化度低下促進、微細化による表面積増大促進が可能であることを検証し、酵素糖化に適した爆砕条件の把握およびその効果を明らかにする。
② 上記爆砕処理物の酵素糖化を行ない、酵素糖化率や糖化速度が増大し酵素使用量が低減でき、かつ発酵阻害物質を抑制できることを検証する。
③ 上記結果をもとにプロセスの概念試設計を行い、所要エネルギーを試算してバイオエタノール製造エネルギーの低減に大きく寄与できることを明らかにする。
<成果>
ケヤキ(広葉樹)、杉(針葉樹)及び稲わらを水熱爆砕、水蒸気爆砕及び水熱徐冷の前処理を広範囲の温度で行い、その前処理物を酵素糖化してHPLC+蛍光誘導体化検出法による16 種類の糖分析、可溶性多糖類およびエタノール発酵阻害物質分析定を行い、それらの物質収支より比較評価した。水熱爆砕前処理物は他の水熱徐冷や水蒸気爆砕の前処理物より酵素糖化率は高く、約10mm の粗破砕物でも高濃度で水熱爆砕前処理可能で、本提案技術の有効性が示唆された。また、水蒸気爆砕の適正温度条件を明らかにするとともに、水熱爆砕は水蒸気爆砕の約30 倍の膨張エネルギーを有しながら、約1/3 の所要エネルギーにできる省エネプロセスであることを確認した。
杉の水熱処理時に過酸化水素を添加することにより、前処理温度を約20℃低減可能で、糖収率の増大および発酵阻害物質の大幅な低減が可能であることを見出した。
市販酵母によりグルコース及びキシロースのエタノール発酵条件を確認し、濃縮脱水に有利な高濃度前処理糖化液でのエタノール発酵を計画したが、高濃度前処理液では不活性固体への酵素吸着増大に起因すると考えられる酵素糖化率の大きな低下がみられたので、その原因と対策を今後検討する必要がある。

■ K2327  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22076
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本技術により、セルロース系バイオマスを微粉砕することなく高濃度で少ないエネルギーで糖化前処理が可能であり、バイオエタノールの製造効率改善策の有望技術として実用化に向けた研究を展開する必要がある。実用化に向けて残された課題は以下のとおりである。
① バイオマス高濃度処理液の酵素糖化率の低下防止が大きな問題である。その原因の解明も必要であるが、最近開発された炭素系固体酸は高濃度ほど糖化率が高く、容易に分離回収して繰り返し使用できる可能性を有しており、今後は酵素糖化以外に炭素系固体酸糖化も視野にいれて検討する必要がある。
② 水熱処理時の過酸化水素の添加により糖化が促進されるとともに発酵阻害物質の大幅な低減が確認されたので、過酸化水素添加での水熱爆砕前処理を行うことにより更なる改善が期待される。
③ 上記結果を踏まえながら、杉、けやき、稲わら以外の各種セルロース系バイオマスについても適正な水熱爆砕前処理条件を探索する必要がある。
④ 上記課題を解決しながら、本技術により製造した高濃度糖化液のエタノール発酵を行い、発酵阻害物質の影響とエタノール収率を明らかにする必要がある。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦水熱爆砕法である程度の前処理効果を見いだせたが、今回の結果は他の方法でも容易に達成できるレベルであり、本方法の特徴(効率性)がより顕著に表れることを期待していただけに、今後への課題が残ったといえる。今回の前処理による糖化であれば、アルコール生産のブレークスルーは困難であろう。
♦プロセスの概念設計に相当する作業結果を十分に示す必要がある。
♦実機ベースを想定した検討が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K2110,K22063,K2328】水鉛製錬工程を利用したブラウン管鉛ガラスカレットの資源化処理プロセスに関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 柴田 悦郎(東北大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では、廃ブラウン管鉛ガラスカレットを国内の鉛製錬プロセスで高度に再資源化するための研究開発を行う。想定するプロセスとしては、家電リサイクル工場で回収したフッ化カルシウムから作製したフッ酸で、鉛ガラスカレットを全量溶解する。鉛ガラスを溶解したケイフッ酸溶液の一部は、鉛製錬の既存の鉛電解精製の電解液に導入して鉛を回収する。鉛電解精製に導入できないケイフッ酸溶液に関しては、その一部は既存の電解槽を利用した鉛電解採取の電解液として鉛を回収する。さらに一部の鉛含有ケイフッ酸溶液に関しては、硫酸化物沈殿等により鉛を沈殿回収し、鉛溶鉱炉への鉛原料として鉛を回収する。また、ケイフッ酸溶液からはシリカ分を回収して非鉄製錬工程でのフラックスとして再利用することも検討する。このプロセスの実現に向け、フッ酸による鉛ガラスカレットの溶解、鉛の沈殿回収、シリカ分の回収、電解採取などの基礎的研究を行う。
<成果>
5mass%HF 溶液(100ml)にCRT ガラス5g を溶解(24h)した後のろ液に、5mol/LH2SO4を10vol%添加することにより、Pb 全量が硫酸鉛として析出沈殿した。ろ液に5mol/LNaOH溶液を10vol%添加するとアルカリケイフルオロケイ酸が析出回収された。本実験でガラス中のPb の全量溶解が可能な条件で得られる溶液組成を、蒸留水、PbSiF6、H2SiF6 を用いて調整した。得られた電解液を用いて、電流−電圧曲線を作成し、-0.5V 以下の過程でPb金属の析出が進行することが確認された。さらに、電位-電流曲線の結果を基に定電流電解を行った。その結果、デンドライト状から塊状析出物への成長が見られ、また、ICP による電析物中のPb 分析ならびにイオンクロマトによる電析物中のF 分析により、Pb 純度は99mass%以上であった。さらに、ゼラチン添加の効果やアルカリ不純物の影響も調査した。
CRT ガラスカレットのフッ酸溶解液を直接、Pb 電析の実験に用いたが、その結果、合成電解液とほぼ同様の結果が得られ、6 h の電解では、電流効率は84 %であった。研究期間内で得られた実験結果を検討して具体的な実機フローの提案を行った。

■ K2328  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22063
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

わが国では家電リサイクル法より家電4 品目と資源有効利用促進法によりOA 機器の回収再資源化が義務づけられている。その中でもテレビやパソコンモニタに使われているブラウン管は、鉛を含有してないパネルガラスと、鉛を多量に含有するファンネルガラスとネックから構成されている。ブラウン管ガラスの排出量は2006 年で約900 万台であり、しかしながら、液晶ディスプレーのシェア拡大に絡みブラウン管製造工場は全て海外に移転していることから、国内で再資源化することが困難になってきている。ガラスカレットのほぼ全量の6 万トンが海外へブラウン管ガラス原料として輸出されている。しかしながら、世界的に液晶ディスプレーのシェアが拡大しており、ブラウン管ガラスの製造は減少の一途を辿っている。したがって、海外のブラウン管ガラス工場が閉鎖されれば、国内で鉛ガラスカレットを処理する必要がある。鉛は廃棄されれば有害性物質であるが、前処理により原料形態を変えることにより十分に鉛製錬での鉛原料として資源化が可能である。
現状では一部の鉛含有ガラスカレットが鉛溶鉱炉で鉛原料として再資源化されている。しかし、ガラス中にはシリカ分が多量に含有されていることなどもあり、鉛溶鉱炉で再資源化量は、現在でも限界に近い状態と考えられる。年間約5 千トンのみが鉛製錬業で資源化処理されていると推定されている。これからわかるように、未処理の鉛ガラスカレットの形態では鉛製錬原料として資源化するのは限界があることがわかる。そこで、研究代表者は、上記したプロセスを経ることで鉛ガラスカレットが鉛製錬工程での資源として再利用できると考えた。
今後、現状処理できずに貯め置かれている鉛含有のブラウン管ガラスを国内で早急に処理する必要が出た場合、本研究で提案した実機プロセスを鉛製錬所で行えば、国内での早急な資源化処理に道が開け、かつ鉛原料の確保の一助となることが期待される。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦基礎実験研究としての成果を得ているのであろう。しかし社会的ニーズに応える展開につながるかどうかは不分明である。
♦鉛精錬施設を利用した実機プロセスフローが提案されているが、同時にケーススタディでもよいので、コスト試算も行っていただきたかった。
♦政策的展開につながる一定の成果が得られていると思われる。
♦従来の製錬工程法による鉛回収技術と何処に研究の新知見があるのか明確にしていただきたい。また、本研究によって、実際に鉛回収プラントをつくった場合のスケールアップ上の問題点およびコストは従来法に比べてどうか。


目次へ

研究課題名: 【K22024,K2329】塩化揮発と湿式処理を利用した廃基板等レアメタルの高効率・低エネルギー回収プロセスの開発 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 柴山 敦(秋田大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃電子基板からのレアメタル等有用金属の回収を目的に、乾式と湿式処理を組み合わせた新しい低エネルギー型リサイクルプロセスを開発する。乾式処理には塩素ガスや塩素化合物を利用した塩化揮発法を利用し、各温度・雰囲気でのレアメタルの揮発・分離挙動の調査と形態分析を行い、熱力学平衡計算あるいは速度解析によるレアメタルの揮発データを蓄積する。さらにレアメタルを含む揮発成分は、各種溶液への溶解度の差や沈殿分離、溶媒抽出など湿式多段回収による選択的な分離を行い、湿式-乾式両手法を利用した新規レアメタル回収プロセスを提案する。具体的には、塩化揮発法においてSb, Ni, Co, W, Ta などのレアメタルとAu, Pd など貴金属の揮発率90%以上が得られる条件を究明し、その際の塩素源の影響、還元剤の利用による具体的な揮発挙動を明らかにする。揮発成分は、塩化物としての回収と水溶液や有機溶媒での溶解性の差、沈殿回収などを併用した複数の湿式工程を調査し、対象レアメタルの回収率90%以上を目標とするリサイクルプロセスの開発を行う。
<成果>
塩化揮発ではCu 等の揮発が500℃付近から始まり、700℃で90%以上の揮発率を示すほか、Au やNi, Co は800℃で80%以上、Sb は300℃付近から90%以上の揮発率に達するなど、各種金属の揮発挙動並びに塩素源による影響や温度依存性を明らかにした。この際、基板に含まれるCu, Ag, Au, Ni, Cr, Mn, W等が原料に比べ揮発物に濃縮することを解明したほか、塩化物として気相化し固体で回収される理論計算やマテリアルフローを実験的に確認した。湿式回収法では、揮発物を純水に溶解させることでAu, Sb, Ta を未溶解固形物として回収し、純水に溶解した金属のうちCu, Pd をNaHS の添加によって硫化物に濃縮回収できることを明らかにした。さらに硫化後液に残る Fe, Zn, Pb, Co およびNi を抽出剤D2EHPA によって溶媒抽出し、Fe 等を有機相に移し、Co とNi を水相に残す湿式多段回収フローを構築した。以上、低温域での揮発現象を利用した塩化揮発と湿式処理による分離回収工程を具体化し、銅は捕収液と合わせ回収率が95%に達するほか、Ta 83%、Au73%が回収されるなど低エネルギー型新規リサイクルプロセスにつながる有用な技術開発を行なうことができた。

■ K2329  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22024
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

我が国の金属リサイクルは非鉄金属製錬が重要な役割を担っているが、例えば1250〜1300℃で加熱処理される銅製錬所では、酸化しやすい金属など原理的に回収が難しいレアメタルの多くはスラグに混入し廃棄されるなど十分に回収されている訳ではない。本研究では、塩化揮発と湿式分離の強みを活かした新規レアメタル回収プロセスとして、塩化揮発では、900℃前後という比較的低温域で多くのベースメタルや貴金属、レアメタルが揮発回収できることを明らかにした。また、揮発物は管状電気炉の出口付近にその大半が固相析出することを確認した。このことは揮発成分をガス冷却や集塵装置で回収できる可能性を示唆している。湿式回収でも、既存技術の改良と応用による多段分離が可能で、水への溶解度の差、硫化処理、溶媒抽出を組み合わせた逐次分離の可能性を見出している。これらの技術的成果と各種分離条件を明らかにしたことが本研究の重要な成果である。得られた成果、技術を直ちに実用化することは困難だが、塩化揮発によってこれまで回収が難しかったレアメタルの回収の可能性を広げ、今後は平衡計算や速度解析を積み重ねることで製錬工程に技術転用するための工業的知見を得ることが期待される。特に、塩化揮発は塩素という腐食性、毒性をもった物質を利用するため安全性、環境面など設備上の維持管理、条件制御が課題になるが、既存製錬プロセスに比べ低温域で反応が進行するなどエネルギー効率の面で優れている点が特徴である。また前述の通り、揮発ガスの冷却回収など新たな可能性が見出されたことも実用化を果たす上では有用な知見である。塩化揮発については、これまで特定の金属や試料について揮発挙動などの諸現象が調べられているが、基板等のレアメタルに対し理論的な揮発モデルや平衡計算、形態分析が報告された研究成果はない。また、揮発した回収物(塩化物)の湿式回収に踏み込んだ点で本研究の技術的有用性は高く、必要な熱エネルギーの低減を果たすなど本成果を活用した高効率な金属回収プロセスの構築が期待される。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦塩化揮発と湿式処理に関する一定の知見は部分的に得られているが、研究目的にあげているレアメタル回収プロセスの基礎フローの構築までには、更なる研究が必要である。
♦個々の金属の分離について不明な点があるが、塩化揮発と湿式処理を組み合わせた金属回収プロセスが提案され、その有用性が確認された点が評価できる。本研究では、廃電子基板を主な対象に、塩化揮発法による乾式の揮発分離を初段として、純水による溶解特性や硫化や溶媒抽出による分離回収などを実験により確かめ、これらを大成してリサイクルプロセスにつながる有用な知見を得ている。ただ実験室レベルのこうした知見が、今後実用プロセスとして活用されるかは技術上や社会経済的な条件があり、そうした視点からの検討が望まれる。
♦100 ミクロ大に粉砕した電子基板のベースメタル( Cu,Pb,Zn ) 及びレアメタル(Ni,Co,Ta,Au)を塩化、揮発摘出し,水中補足後、NaHS,D2EHPA に依る硫化と溶媒抽出により分離回収可能を実証し、適性条件を把握されている。ただし、各種金属の個別回収は残された問題であり、さらに一歩踏み込んだ検討が望まれる。


目次へ

研究課題名: 【K2102,K22087,K2334】ヒ素の無毒化法とレアメタルのリサイクル技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 中村 浩一郎(日本板硝子((株)))

1.研究における達成目標

<最終目標>
経済性に優れたヒ素の無毒化法の確立、そして、希少金属の安全な回収と再利用技術の確立を行い、併せてヒ素の無毒化反応で生成される中間体と最終生成物の安全性試験を実施するにあたり、以下を目標とする。
(1)ヒ素の無毒化法の効率と経済性向上【日本板硝子㈱・中村グループ】
光エネルギー等を利用した究極の低コストプロセスの確立。
(2)希少金属の分離・回収とヒ素の無毒化品の保存技術の確立
ガリウム(Ga)、インジウム(In)の回収技術とアルセノベタイン(AB)の隔離保存法の確立。
(3)生体影響試験法の確立
ヒ素の無毒化生成物、中間体、副生成物の毒性評価試験を実施し安全性に関する科学的な根拠を明確にする。
本研究の初年度は達成目標をクリアした。本成果をもとに、国が推進するレアメタル(Ga、In)の回収・備蓄と、究極の低コストのヒ素無毒化法による国内、国際社会のヒ素問題解決に貢献・寄与する。
<成果>
(1)ヒ素の無毒化法の効率と経済性向上
アミノ酸、ビタミンB12 による無毒化システム、ビタミンB12 の触媒システム、究極の低コスト処理法として酸化チタン光触媒システムを開発した。光照射により様々なヒ素化合物が無毒のアルセノベタイン(AsB)に変換された。
(2)GaAs 半導体のGa リサイクルとヒ素無毒化
GaAs 半導体のGa リサイクルについて、セリウム系吸着剤を使用したプロセス、シリカゲルによりGa からAsB を分離するプロセス、また、GaAs 廃棄物から、直接ヒ素を選択溶出させるプロセスを開発した。
(3)安全性試験
最終無毒化生成物AsB、中間体物質トリメチルアルシンオキシド(TMAO)の急性毒性試験、皮膚、眼刺激試験を実施し、毒物指定解除を示した。
(4)安定性試験
AsB、TMAO は、海水中で速やかに無機ヒ素濃度(2ppb)に拡散希釈し、安定に存在したことから、海洋投棄が可能と判断された。また、無機ヒ素のみを検出するオンサイト簡易光学モニターを開発した。
最終処分場を必要としない低コストのヒ素処理法が提案された。

■ K2334  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22087
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

(1)ヒ素無毒化処理システム
① バイオミメティックシステムはビタミンB12 とシステインを用い、2 段期で、定量的にAsB を得る。反応は温和な水溶液中で進行し、有機溶媒を必要としない。固体や高濃度のヒ素化合物の溶液に適用され、GaAs 半導体、ヒ素化学兵器などに由来する無機ヒ素をAsB として単離することに成功した。
② バイオインスパイアード触媒システムは、ビタミンB12、酸化チタン、メチル基供与体(XCH3)で構成し、触媒サイクルを発現することに成功した。
③ 酸化チタン光触媒システム:酸化チタンの光触媒作用により、酢酸が分解され、無機ヒ素からアルセノベタイン(AsB)を直接1段階で合成する。ヒ素の希薄溶液に対して適用される。ヒ素含有産業廃水、ヒ素汚染地下水等に対して有効であることが実証された。
④ AsB の安全性試験については、急性毒性値、皮膚・目に対する刺激性/腐食性の動物実験により、毒物、劇物のいずれにも該当しない安全な物質であることが示された。中間体物質についても実施した。
⑤ 安定性試験:海水中でのAsB の安定性試験(100ppm、20℃)を実施したところ、3ヶ月以上、安定に存在した。また、拡散挙動を調べたところ、AsB 濃度は、24 時間以内に海水中に元来存在する無機ヒ素濃度(2ppb)に到達し、その後、2 ヶ月以上安定に存在したことから、海洋投棄が可能と判断される。
(2)レアメタルのリサイクル技術
GaAs 半導体のプロセス廃棄物からヒ素選択吸着剤でヒ素をGa から分離する系、セリウム系吸着剤を用いないGa とAs の分離システムについても開発した。このレアメタルのリサイクルとヒ素の無毒化処理技術は、GaAs 半導体が用いられている実際の太陽電池や、情報家電に使われている液晶パネルの酸化インジウム錫(ITO)からIn の回収処理に対しても検証された。
(3)波及効果
ヒ素の無毒化処理技術は、ヒ素化学兵器、ヒ素汚染地下水の処理についても実サンプルを用いた実証試験で成功した。様々な分野での実用化が期待される。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦成果は高く評価するが、企業が係わった研究であるので、開発技術の商用プロセスへの適用に関する言及がないこと(例えば既に本法を上梓したとか、めどが立ったかなど)が気になる。当初一企業ではリスクが高いので、開発経費をかけられないことから、本補助金を申請したと記憶している。また、研究経費のなかで旅費の割合が高いのも気になる。
♦無毒化に関する基本的な考え方、つまり借り物の基準でなく、社会技術的な視点で独自に何処まで考えるのか、明らかにして欲しい。
♦ヒ素の無毒化法については、成果はあったと思われる。研究とは別次元ではあるが無毒化したヒ素の海洋投入処分は疑問がある。
♦実機ベースを想定した検討が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K2133,K22039,K2335】石綿含有廃棄物の処理・再資源化過程における石綿の適正管理に関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 貴田 晶子(愛媛大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃棄物処理における石綿分析は、固体や気体に対する従来の分析法では十分に対応できない。第1 の目的は、石綿の厳密な測定法と日常モニタリング測定法として、光学顕微鏡及び電子顕微鏡法を相互補完的に利用し、全ての媒体及び全ての処理過程に適用しうる石綿分析法を確立することである。また、石綿分析の標準試料の作成やクロスチェックの実施等、精度管理手法とその態勢を確立し、ばらつきの要因分析をつうじて、石綿の適正管理における測定データの信頼性を担保し、石綿分析の精度向上に資する情報を提供することである。第2 の目的は、石綿含有廃棄物の推定量が過小評価されている可能性をふまえ、未解明となっている廃棄物処理過程における石綿曝露のリスクの実態把握を行い、また飛散石綿を捕捉する集じん装置の性能を検討することにより、石綿の適正管理としてのリスク低減方策に資する基礎情報を提供することである。
<成果>
石綿分析法の確立に関して、固体試料中の低濃度(0.1%)の石綿を偏光顕微鏡法により定量可能であることを確認した他、走査型電子顕微鏡で視野面積を規格化できるグリッドを開発し集じん物の定量に適用した。分析精度管理に関して、電子顕微鏡法と位相差顕微鏡法それぞれクロスチェックを実施し、石綿繊維の同定基準や分析者の習熟度等の誤差要因を抽出し留意点として取りまとめた。
建築物解体や廃棄物処理過程等の静脈過程での石綿曝露リスク管理に関して、石綿含有建材の廃棄量推計や破砕実験、解体工事現場での石綿濃度測定を行い、建材の廃棄量は2010 年代にピークになること、破砕実験から試算した排出係数により推定した石綿濃度は実測結果と同程度ややや高い値であることを示した。また、建設系廃棄物及び一般廃棄物処理施設において受入物や処理物、破砕排ガス等の石綿を測定し、固形物や排ガス中では濃度は低かったが、排ガス集じん物で濃度が高い場合もあり、曝露防止上適切扱う必要があることを示した。

■ K2335  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22039
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究において検討・確立した石綿分析法に関し、固体試料の偏光顕微鏡を用いた分析法については、東日本大震災で発生した災害廃棄物への石綿含有物の混入状況や被災建築物解体前調査の試行等に適用されており、公定法よりも簡易・迅速に調査が行えるという認識が得られつつあり、今後の研究で迅速判定法として求められる要件や実施上の留意点を検討してゆく。分析精度管理に関しては、位相差顕微鏡法では日本環境測定分析協会の石綿分析精度管理プログラムとして分析実務者の技量向上に活用されている。また電子顕微鏡法では石綿含有廃棄物の無害化処理認定の他、アスベストモニタリングマニュアル改定で総繊維濃度が比較的高い場合に電子顕微鏡法で確認を行うことが盛り込まれたことからニーズが高まると考えられるが、繊維同定等留意すべき点を示したことで、分析事業者等において適切に分析精度管理が行われるものと考える。
建築物解体等の静脈過程での石綿管理に関し、石綿成形板破砕実験より試算された解体時排出係数を用いて推算した石綿濃度が実測値と同等かやや高い値であることを示した。
このことから、建材からの石綿飛散を定量的に評価し、解体工事における作業者の曝露量評価に利用することが可能であり、適切なリスク評価に寄与できるものと考える。
廃棄物処理・再資源化の過程での石綿曝露リスク管理においては、受入物や処理物、排ガスの実態調査では石綿含有基準や管理濃度を超過することはなかったが、一部作業環境空気で管理濃度を超えた例もあり、また排ガス集じん物で石綿含有基準に近い値もあったことから、廃棄物処理・再資源化過程は石綿曝露の場となり得るということを示したこと
は本研究の成果である。また、東日本大震災の災害廃棄物の処理・再資源化において、災害がれきはオープンな環境で処理されたり、埋め戻し材等の復興資材として利用されることもあり、より制御が困難と認識している。こうした災害廃棄物処理過程での曝露防止を今後の重要な課題として取組んでゆく。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦サブテーマごとには一定の知見が得られているが、全体としてまとまった成果が得られたとは判断できない。今後、焦点を絞った研究計画の設定を行い、既存の知見を含めてまとまった成果を得る必要がある。
♦調査結果の蓄積は行われので、今後それらを石綿の適正管理に生かしていく方向を示すべきである。本研究は、災害廃棄物の処理も含め石綿含有廃棄物の処理や再資源化過程における石綿の実態を把握して適正処理に還元しようという大々的かつ体系的な研究であり、分析の精度などへの影響要因等様々な知見が得られているが、ただ本研究の中では当初目論みの測定法や制度管理手法の確立までは至っていない。
♦本研究により石綿管理に関して多彩な知見が得られているので、これらの成果を活かして現場に適用できるような整理が望まれる。
♦複数検査機関に同一サンプルを供給し、TEM(透過性電子顕微鏡),SEM(走査性電子顕微鏡)によるChrysotile, Amosite のカウントを行い、石綿繊維数計数値を照合し、標準偏差にして数十パーセントのばらつきがあること、繊維長など被測定物の状態が不定であり、Mg/Si 比でさえ石綿判定に慎重さを要することを示した。さらに建材除去作業雰囲気調査により破砕作業では石綿飛散対策を要するが、他の作業では注意を喚起する程度であることを認めた。
♦アスベストが問題になって久しく、いまだ計数法、作業環境把握が重要な課題である事は驚きである。現場対応としては、顕微鏡視野的検査では全体把握は容易ではなく、広視野検査法に挑戦すべきではないか。


目次へ

研究課題名: 【K2119,K22038,K2336】廃食品性バイオマスを用いたレアメタル高選択的分離技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 丸山 達生(神戸大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究の目的は、食品産業等で主に廃棄されていた、タンパク質高含有バイオマスをレアメタルの吸着剤として利用する新しいレアメタルリサイクル基盤技術の確立である。対象とするレアメタルは、パラジウム、白金、インジウム、ロジウム、ルテニウムなど価格が高く、触媒等に広く利用されている金属とする。これらレアメタルイオンを、卑金属存在下でタンパク質高含有バイオマスが如何に高選択的に吸着するかを明らかにする。このとき用いるタンパク質高含有バイオマスとしては食品産業で廃棄される卵殻膜、トウモロコシタンパク質、羽毛、廃棄獣肉、廃発酵菌体などを検討し、レアメタル吸着能力に優れる廃棄性バイオマスを発見する。同時に、これらタンパク質バイオマスをシート状や粒状に成形することにより、リサイクル現場で利用しやすい吸着剤に加工する。これらの検討を通して、廃食品性バイオマスによるレアメタルリサイクルの実現可能性を検証する。
<成果>
レアメタル吸着剤としてタンパク質バイオマス11 種類を検討し、その吸着能力を比較検討した。その結果、卵殻膜、鰹節、鶏挽肉の順に高い吸着能力があることが判明した。また実在廃液も十種以上入手し、卵殻膜による実在廃液に含まれる有価金属イオンの回収を検討し、いくつかの廃液において目的レアメタルの効率的回収に成功した。廃液の種類によりタンパク質バイオマスの有効性の違いが見いだした。またタンパク質バイオマスによる吸着では、特定のペプチド鎖による吸着、タンパク質糖鎖が関与するタンパク質の還元作用が関与していることが示唆された。バイオマスを、実用を踏まえたハンドリングが容易なシート状に成形することに成功した。このバイオマスシートは金属吸着能を有しており、実用化可能なことが示された。

■ K2336  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22038
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本事業の研究成果から、工業的に比較的未利用のタンパク質バイオマスが、湿式金属リサイクル現場におけるレアメタルの選択的吸着剤として活用可能であることが示された。
現在実用化に向けて、金属リサイクルメーカー複数社と実用化検討を行っている。いくつかの金属リサイクルケースにおいては、有用性が実証されており、実用化の見込みは近いものと考えている。しかしながら、実用化にはまだいくつかの解決すべきハードルが残っており、タンパク質バイオマスの低価格化など難しい問題も存在する。このコストの問題は、タンパク質バイオマス製造メーカーとの交渉によりある程度低価格化ができる可能性がある。また酸性度の厳しい条件下での吸着が検討項目として残っており、大学側研究者として明らかにすべきものである。
いずれにしても本研究により、廃食品性バイオマスに含まれるタンパク質をレアメタル選択的吸着素子として用い、これからのゼロエミッション時代に対応した新規レアメタルリサイクル技術の開発が可能であることを実証した。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦特段素晴らしい成果を得たとは言えないが、各種タンパク質系の廃棄物を使い、吸着材を作成するとともにその吸着特性を明らかにした点は評価できる。卵殻膜が効果的であることを示したが、これの実用化への道筋(廃棄物の収集、前処理、膜回収なども含め)を是非示してほしい。
♦廃食品の分別状態への依存性について現状を想定した検討が必要であろう。
♦金の吸着にバラつきはあるものの金属廃液からのレアメタル回収に応用可能と思われる。


目次へ

研究課題名: 【K2123,K22077,K2337】水蒸気−水添ハイブリッドガス化によるバイオマス・廃棄物からの高品位液体燃料の製造 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 野田 玲治(群馬大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
代表研究者らのグループでは、特定の触媒のもと、水素リッチな条件でバイオマスを水添ガス化させることにより、石炭の場合と同様にBTX 類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)を高効率で生産できることを明らかにした。さらに、非常に低温(550℃程度)でバイオマスから高収率で水素を製造する水蒸気ガス化触媒に関する知見が得られている。
本研究では、バイオマスの水蒸気ガス化水素製造プロセスと、バイオマスの水添ガス化プロセスを組み合わせることによって、高付加価値の化学原料や高品位燃料を高収率で生産するプロセスを確立することを目的とする。既往の研究成果に基づいたプロセス計算では、水素製造プロセスにおけるチャーの生成率が熱効率に大きな影響を及ぼすことが分かっており、本研究では、実証試験を通じて適切なプロセス運転条件を明確化するとともに、高効率(投入バイオマスの10wt%以上)で原料転換が可能であることを示す。
<成果>
バイオマスから、水添ガス化の原料となる熱分解タールと水素を同時に生産する3室内部循環流動層のベンチスケール試験装置を完成させた。製作した3室内部循環流動層は、各反応室間の粒子循環量をダイナミックにコントロール可能な世界初の技術であることが確認された。当該技術によってバイオマスの熱分解を行い、予想されたタールの生産が可能であることを明らかにした。
バイオマス熱分解生成物を水素共存下でCoMo/Al2O3 触媒層を通過させることで、熱分解生成物中の酸素を低減し(54wt%→10wt%)、発熱量を大幅に改善できる(25MJ/kg→36MJ/kg)条件を明確化した。タールの水蒸気ガス化ガス中のCO を水素に転換するシフト反応装置の最適条件を明確化した。
得られた成果に基づいて、バイオマスから高品位液体燃料を製造するプロセスを提案し、プロセスシミュレーションによって性能を予測した。その結果、投入バイオマスの10wt%以上の収率で高品位液体燃料を製造可能であることを示した

■ K2337  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22077
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

小規模バイオマスエネルギ転換技術の導入は、生産物の利用先が確保されるかどうかにかかっている。現在、もっとも活発に開発が行われているガス化では生成ガスによるガスエンジン発電を想定しているが、発電量と需要がマッチングした利用先が限定されており、マイクログリッドなど導入障壁の高い技術の導入を待たなければならない。本研究開発事業の結果、バイオマスから水素とバイオオイルを生産し、同時にバイオオイルを水素で水添ガス化することで、高発熱量の液体燃料を生産できることを示した。液体燃料を併産することで、比較的小規模でも生産物の引受先を確保することで、ガス化発電プロセスの導入が困難な地域における未利用バイオマス資源の利用拡大を格段に進めることが可能となるシステムとなりうる。同様のアイデアに基づいて近年開発が活発化しているガス化FT合成では加圧プロセスとなるに対して、本プロセスは常圧プロセスであり、イニシャルコスト及び運用面で優れている点が特徴である。本技術を商用化し、対象とする事業者ならびに地域発生バイオマス資源の範囲を拡大することで、温室効果ガスの削減量を段階的に拡大することが可能となる。
本プロセスにおいて、バイオマスの発熱量の15%を液体燃料に、15%を電力に転換しうるものとして、燃料のうち半分を家畜排せつ物、のこりを森林系バイオマスと想定し、群馬県域において温室効果ガス削減量を試算すると、49 千t-CO2/y のCO2 削減効果が見込める。(群馬県内の木質系未利用バイオマス資源57 千t/y(製材残材7 千t/y、建設発生木材34 千t/y、林地残材16 千t/y(群馬県バイオマス活用ハンドブック 平成19 年版)を利用可能とし、発電のCO2 排出原単位=0.378kg-CO2/kWh=0.105kg-CO2/MJ、灯油のCO2排出原単位=0.0679kg-CO2/MJ として算出)本提案プロセスの実用化に向けて、 3 室内部循環流動層に、シフト反応器および水添ガス化反応器を追加したトータルシステムでの実証が必要であると考えている。本研究開発事業の成果をもとに、10t/日規模のパイロットプラントにおいて、実際に液体燃料を製造するとともに、得られた液体燃料を既存の農業用ボイラ等でそのまま利用可能であることを実証するための地域のステークホルダーを巻き込んだプロジェクト化を検討する。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦ベンチスケール試験装置でバイオマスの熱分解を行い、タールの生産が可能であることを示した点は高く評価する。また、多くの研究者が協力して実証プロセスの設計、試作のレベルにまで達した点も、研究マネジメントの成果であり、高く評価する。研究費の配分、使途も適切であった。
♦実証試験から実用化に至るまでの残された課題を整理する必要がある。
♦BTX 等の高品位燃料の収率wt10%以上の実証の検討が必要である。当初の目的がどう達成されたのかについて、もう少しまとめ方を工夫してほしい。


目次へ

研究課題名: 【K2118,K22059,K2338】東南アジアにおける廃棄物データベースの構築及び廃棄物処理システムの評価 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 大迫 政浩((独)国立環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
東南アジア諸国におけるコベネフィット型の持続可能な廃棄物管理システム導入及び当該分野のGHG インベントリ整備に資するべく、ベトナムの政府系研究機関及び各国の廃棄物研究者と共同・連携して、各国の発生/排出量、物理組成、化学組成、三成分、発熱量等を調査し、東南アジアの主要都市及びベトナムを対象にして廃棄物データを整備・更新する。また、集積した廃棄物管理データを活用して、処理技術システム及び社会経済システムの観点から現状を分析・評価し、今後の廃棄物処理システムの改善の方向性を提示する。自治体が関与するフォーマルセクターだけでなく、インフォーマルセクターも考慮して実証評価研究を実施し、箱モノ援助とは異なる新たなシステム改善手法として、今後のODA 等による開発援助事業の指針を示す。
<成果>
ベトナム国の廃棄物管理の将来ビジョンを階層分析法(AHP)を用いて描出することができた。データ入力ミス等ヒューマンエラーの修正やトラックスケールの利用によるデータの精度向上の確認ができた。把握が困難なインフォーマルセクターにおける有価物フローや、事業系廃棄物の排出原単位を明らかにした。ベトナム国の都市部における廃棄物の収集原単位を検証することにより、既存の管理不足な埋立処分に代わる新たな処理技術を選択するために、廃棄物の三成分データを用いて、分別を前提とした技術的側面から代替処理技術を選択するための評価ツールを提示した。ハノイ市で実施されている有機ごみ分別プロジェクトのモデル地区において、住民が分別行動を実施する主な規定因として、住民リーダの分別行動が挙げられた。循環型準好気性埋立技術の環境負荷低減効果を実証した。ベトナム国ハノイ市にて研究成果報告セミナーを開催し、研究の成果を関係者と共有することができた。

■ K2338  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22059
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

JICA はベトナム国建設省をカウンターパートとした、「廃棄物管理基本計画ガイドライン策定支援技術協力プロジェクト(仮称)」を平成24 年度に開始する予定である。本研究を開始した3 年前よりJICA ベトナム事務所と本研究の成果を継続的に共有しており、JICA プロジェクトの企画段階から貢献してきた。JICA プロジェクトが開始された後にも本研究の成果が積極的に利用される見込みである。また、インドネシア国及びベトナム国で実施中のJICA 温室効果ガスインベントリ策定支援プロジェクトにおいて課題とされている廃棄物管理に関する活動量(収集量、物理組成、三成分、発熱量等)データの取得手法に関して、本研究の成果を還元することができた。東南アジアの地方自治体レベルで具体的かつ実効性の高い廃棄物管理計画を策定する際に有効な廃棄物管理データの分析・評価手法を提示することができた。また、本研究は、ベトナム国のInstitute for UrbanEnvironment and Industry of Vietnam ( INEV ) 及びInstitute of Science forEnvironmental Management(ISEM)とのMoU 締結をもとに共同研究を遂行して現地研究者の廃棄物管理に係る研究能力を向上させ、共著論文を執筆することができた。今後は、本研究の成果が地方自治体レベルで廃棄物管理計画を策定する際に利用されることが見込まれる。
一方で、途上国においてデータを集積することが容易ではなく、信頼性の高いデータを集積することに相当の時間と労力を要した。特にインフォーマルセクターに関するデータ収集が容易ではなかった。今後の課題としては、廃棄物管理に関する現地でのニーズを的確に把握し、課題解決に向けた現状評価及び将来予測を行い、さらにそれらを発展させて廃棄物管理システムを改善するための社会的、経済的、技術的側面から意思決定支援ツールを開発することとする。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦東南アジア諸国における廃棄物の実態について、数多くの知見が得られたことは評価できるが、得られた知見を総合化して東南アジア諸国における廃棄物処理のあり方についての提言をまとめる必要がある。
♦ベトナムやマレーシアのデータが手に入ったという意味ではよいかも知れないが、効果を現地研究者の能力向上に止めず、データ集積が日本と東アジアの国々にとってどのようなメリットがあるのかという視点が必要である。
♦ベトナムを含め東南アジア諸国に対しては、JICA を主として様々な協力プロジェクトが実施されてきたが、それぞれテーマ毎に断片的で、的確な広範な実態把握をベースにする取組みは見られなかった。本研究では、廃棄物データベースの構築やその他関係する実態について、大々的かつ丁寧に取組み、様々な実態が明らかになり、今後の協力事業に有効に反映されることが期待される。そうしたことを通じて、先方のCD を図り、それをベースとして取組みのレベルアップを図ることが望まれる。
♦ベトナムなどの廃棄物処理問題化が目前に迫っている地域の現状把握と有効な提言は評価されるが、対象が過多のように思われる。また、生活スタイルの変化に伴う廃棄物の質的変化(難処理成分の増加)を考慮した検討も必要である。
♦検討項目を絞り、研究チームの組織的活動が必要な命題と思われる。


目次へ

研究課題名: 【K2127,K22019,K2340】有価廃棄物からのレアメタルの統合的抽出分離回収システムの開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 吉塚 和治(北九州市立大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
研究計画は、①酸の浸出液を用いた粉末原料からのレアメタルを抽出(浸出)プロセスの開発、②抽出された溶液中からの個々のレアメタルの選択的分離回収プロセスの開発、③上記の2 つのプロセスを連携させた統合的抽出分離回収システムの開発に大別される。
① 微粉末原料を効率的に抽出(浸出)可能な抽出条件を明らかにするとともに、撹拌式や流動層式の抽出装置を開発し、90%以上の効率でレアメタルの抽出が可能な操作条件を確立する。
② 抽出液中のレアメタルを固体吸着剤により選択的に分離する技術開発に加えて、固体吸着剤の充填カラム型あるいはスパイラル膜型にモジュール化した新規な分離装置の開発を行い、個々のレアメタルを99%以上の純度を保証する選択的分離回収プロセスを開発する。
上記の2 つのプロセスを統合・連携化した有価廃棄物からのレアメタルの効率的な分離回収が可能なリサイクルシステムの開発と提案を行う。
<成果>
(1)レアメタルの効率的な抽出(浸出)
リチウム二次電池および自動車触媒の微粉末からレアメタルを迅速に抽出可能な操作条件についての研究を行った。リチウム二次電池からのコバルトおよびリチウムの抽出では、(2mol/L 塩酸、70℃、5 時間)でほぼ100%抽出できることを明らかにした。また、自動車触媒からの白金族金属の抽出においても、(5mol/L 塩酸、70℃、12 時間)でほぼ100%抽出することに成功した。以上の知見を基にして、微粉末からのレアメタルの効率的抽出装置の設計と開発を行った。
(2)レアメタルの選択的分離回収リチウム二次電池については、両極剤からの抽出(浸出)液からのコバルトおよびリチウムの分離回収プロセスを確立した。本プロセスにより、当初目標である99%の純度でコバルトとリチウムの分離回収が可能となった。自動車触媒からの白金族金属の分離回収に関して、イオン交換樹脂および抽出剤含浸樹脂によるカラム吸着法と、イオン交換樹脂によるバッチ吸着法を駆使することで、それぞれ100%の純度で分離回収することが可能となった。加えて、溶離液中から白金族金属をメタルとして回収する手法を確立した。

■ K2340  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22019
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

リチウム二次電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウムが多く用いられており、将来的にはニッケル酸リチウムやマンガン酸リチウムが使われることとなり、コバルト、ニッケル、マンガンおよびリチウムのリサイクルが重要な課題である。現在のリチウム二次電池のリサイクル率は35%に留まっており、更なるリサイクル率の向上が必須である。
既往の分離回収プロセスは、電池を放電→分離選別→粉砕→塩酸浸出→ろ過→アルカリ沈殿によるコバルトの分離回収→膜分離によるリチウムの濃縮回収の順で行われている。しかしながら、このプロセスでのコバルトやリチウムの回収率は60%程度に留まっていた。
一方、自動車排ガス触媒は、コーディライト担体にパラジウム、プラチナとロジウムを担持した三元触媒が用いられている。現在の自動車触媒のリサイクルプロセスは金属銅を用いた乾式精錬法あり、白金族金属以外の金属成分は全量、溶融スラグへ移行し埋め立て処分されている。加えて乾式法は、高エネルギー消費プロセスであるため、環境負荷が大きい。
本研究事業で開発したリチウム二次電池や自動車触媒などの有価廃棄物からのレアメタルの統合的抽出分離回収システムは、レアメタルを90%以上の効率で抽出(浸出)するプロセスと抽出溶液中から個々のレアメタルを99%以上の純度で分離回収するプロセスを統合したシステムである。本システムは、一貫して湿式冶金法を用いており、省エネルギー型で、かつ、環境負荷が小さく、既往の回収プロセスでリサイクルされていないレアメタルも回収できる特長を有する。加えて本システムは、種々のレアメタルが混在した廃棄物中から、吸着分離法により各金属を個別に分離回収するものであり、「レアメタルの山元還元」が可能であることから、我が国の資源確保戦略に極めて大きな貢献が可能である。今後は、本研究事業で開発した有価廃棄物からのレアメタルの統合的抽出分離回収システムの実証試験と技術移転を行っていく予定である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦技術的可能性を明らかにできた実験研究として、水準に達しているのであろう。社会への実装がコスト面からどうなるのかが課題なのではないだろうか。
♦実証試験と同時に、コストの試算も行っていただきたい。
♦成果が具体的であり、目標が達成されている。
♦科学的な観点からは、一定の成果が得られたと思われる一方、政策展開につながる実証研究が望まれる。
♦金属銅による乾式精錬法では白金族以外の金属は溶融スラグへ移行してしまうという欠点に着目して湿式製錬法に着目した点が評価される。コストとスケールアップに対するコメントが欲しい。


目次へ

研究課題名: 【K2101, K22099, K2341】常圧過熱水蒸気によるコンプレックス材料の分解メカニズムと回収物の再利用−低コストかつ高回収率のFRP リサイクル法と装置の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 鮑 力民(信州大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃FRP の分解用の常圧過熱水蒸気装置を完成し、それらを利用して、常圧過熱水蒸気によるFRP 分解のメカニズムを解明する。
回収された強化繊維を利用した高い付加価値がある産業構造材のFRP を成形する方法を検討し、確立する。水蒸気と樹脂の分留装置と、油化装置を完成し、回収された樹脂の油化方法を完成する。
リサイクルFRP に対して、そのFRP の強度、剛性、衝撃特性を把握し、FRP リサイクルシステムの設計資料になる。
<成果>
廃FRP の分解用ために常圧過熱水蒸気装置に対して、排ガスの排出ろ過装置や樹脂・水を分離装置やFRP サンプル固定台を試作し、テストと改善し、廃FRP が分解でき、樹脂の回収と排ガス環境基準をクリアできる装置が完成した。
完成した装置を利用して、分解メカニズムを解明し、強化繊維が無傷の最適な分解条件を分かった。
回収さ入れた強化繊維の処理法を確立し、リサイクルFRP の成形を完成した。成形したリサイクルFRP の曲げ強度と衝撃特性を新繊維の8 割以上に保持し、高い付加価値リサイクルFRP ができるシステムを完成した。
リサイクルコスト(電気代・水道代・薬品代)が150 円/kg で、新繊維の8,000 円/kg よりはるかに安く、循環型社会の発展が可能である。

■ K2341  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22099
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

成果欄に示したように回収物の実用価値がリサイクルコストより大きいFRP リサイクルシステムが構築し、 解明されたメカニズムと提案した方法がこれからの装置設計や条件の決定の参考資料になっていると思っている。
本FRP リサイクルシステムを採用すれば、会社では補助金なしで、十分利益を得ることができる。FRP 業界で循環型社会への実現が可能である。
本研究の成果はいくつかの学会で発表し、 数件の論文を投稿した。学術面で社会に発信し、好評であったが、産業界の認知度がまた低く、採用する会社はまたなかった。これから、展示会と新聞などを通じて分かりやすく産業界や社会に発信し、FRP リサイクルシステムの普及に努力する予定である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦常圧過熱水蒸気によりFRP の樹脂を分解して繊維の回収の目処を立てた点は高く評価する。FRP のリサイクルは困難廃棄物として課題であったが、すべてをスクラップにすることなく、繊維は繊維として再利用できる点で、本技術は注目に値する。基礎研究にとどまらず、実用化への道筋をつけてほしい。
♦用途についての配慮が十分とは言えない。特にFRP のような複合材料の場合、設計できる材料であることに意味があり、機能/価格についての考慮が必要になってくる。
♦回収された繊維はある程度の長さがなければ再利用が限定されると思うがそこのところは検証が必要である。
♦本試験に用いた装置の処理能力はどれほどか? また、試料を装置に投入するに当たり必要な前処理方法についても考慮願いたい。


目次へ

研究課題名: 【K22020,K2342】環境調和型溶剤イオン液体を用いたレアメタルの高効率分離回収システムの構築 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 後藤 雅宏(九州大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究は、使用済み製品からのレアメタルの分離回収を可能にするため、イオン液体を溶媒に用いて、湿式精錬の分野で広く用いられている溶媒抽出法に基づくレアメタル分離回収技術を開発する。湿式法では、製品を分解、選別、濃縮したのちに金属を酸などの溶液に溶出するが、多種、多量の金属不純物が含まれる滲出液からの分離は容易ではない。
イオン液体は、蒸気圧が殆ど無く、合成が容易であることから物性の調整が可能である。
本研究では、イオン液体の特性を利用して、環境調和型のレアメタル選択的なイオン液体抽出系を開発し、滲出液からのレアメタルの効率的な分離回収を行う。さらにイオン液体を高度に利用するために、イオン液体抽出相を液膜とする新規膜分離プロセスを開発する。
最近入手が困難となっているレアアースを対象として、蛍光体や希土類磁石のような使用済み製品をモデルに、本法による再資源化とリサイクルの妥当性を評価する。
<成果>
本研究では、CRT および蛍光管の蛍光体ならびにNd-Fe-B 磁石を使用済み製品に選定し、レアアースのリサイクルを検討した。
PC-88A など従来レアアースの分離に用いられる抽出剤では、大量に含まれるZn, Fe などの不純物金属からの分離は困難であったが、新規抽出系によりこの分離が可能となった。
特にイオン液体系では顕著なFe の抽出抑制が見られ、金属特異なイオン液体の効果が得られた。抽出特性および抽出機構を明らかにし、抽出分離システムの最適化条件の指針が得られた。さらに、イオン液体相を液膜相とした膜分離システムを開発した。適切なイオン液体系を用いることにより、長期に安定な膜の形成が可能となり、本法が実用化可能であることを示した。操作条件の設定によって、レアアースのみが選択的に膜を透過し、定量的に回収相に分離する効率的な膜分離システムに成功した。本法はリサイクル技術として利用可能であることを示した。

■ K2342  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22020
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

金属の中でも特にレアアースには、溶媒抽出法が最も有用な分離法である。しかし近年では大量の揮発性溶媒を使うために溶媒抽出法はその技術転換を求められてきた。1998 年にイオン液体が抽出溶媒として利用できることが報告されて以来、不揮発性、不燃性という溶媒の特性からイオン液体が環境調和型の溶媒として注目を浴び、金属の抽出分離に関する研究が行われてきた。しかし、イオン液体中で使える抽出剤が少ないこと、イオン液体系での金属の抽出機構が明らかではなく、また逆抽出が困難であることなど、その実用化には問題点が多く残っていた。
本研究では、新たな抽出剤により、抽出ならびに逆抽出が酸濃度の調整により容易に行えるイオン液体抽出系を開発した。また、その抽出挙動を明らかにし、金属によってイオン液体利用の効果が異なること、これを利用して分離性が向上することも示した。イオン液体抽出系の指針が得られ、金属分離のための溶媒としての利用が進展すると考える。
一方、イオン液体は抽出溶媒として用いるには高価であり粘性も高いため、薄膜化による利用を図った。すなわち液膜法で、イオン液体使用量の低減と攪拌操作の省略が可能である。液膜法は多孔性の高分子に膜液を含浸させ、膜を介して抽出と逆抽出が一回の操作で行える高効率分離法である。従来有機溶媒を用いて多くの研究が行われてきたが、金属輸送のキャリアを含む液膜相が劣化するため、これまでほとんど実用化されていなかった。
本研究ではイオン液体を液膜相として利用することにより、長期安定な膜を形成し、目的のレアアースを定量的かつ選択的に回収することに成功した。
ここで得られた成果は、溶媒抽出法が主要な分離技術として発展し、レアアースをはじめ金属の分離回収に用いられること、イオン液体の分離媒体としての研究が更に進展することにより高度技術の開発が進むことが期待できる。複雑な混合系からの金属の分離回収が可能になると考える。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦成果をあげており、また今後の課題の明らかにし得ている。予算の配分額に対しての研究成果が大きく、また経費の使途も合理的である。
♦対象とする廃棄物には不純物が含まれていますが、イオン液体に蓄積し、効率が低下したり、その処理・処分が必要になると思われるが、その検討が必要である。
♦研究目的に対応した一定の成果が得られていると思われる。
♦希土類元素に高選択な抽出剤とイオン液体を組合せてテレビ画面に使われている蛍光体から希土類金属を抽出する。希土類金属の高効率な分離法として原料相と抽出相の間に抽出剤を含む液体相を入れる。この抽出剤の選択如何によって、レアアースの透過性、金属選択性、膜の安定性が変わる。そのための最適抽出条件を見出そうとしたものである。イオン液体の物性、回収酸の選択が重要との結論を得たが、その物性や酸の何がどのように働くのか、本研究の創意工夫された点は何か、分かりやすく説明して欲しい。


目次へ

研究課題名: 【K2108,K22068,K2344】溶融塩および合金隔膜を用いた廃棄物からの希土類金属分離・回収プロセスの開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 小西 宏和(大阪大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃棄物からの分離・回収を行うためには、希土類金属間の分離性に加えて処理速度(電流密度)が重要である。3 つのサブテーマを並行して推進するが、各目標を以下のように設定する。
① 塩化物系溶融塩について、特にDy, Nd 等磁石材料向け希土類金属の分離・回収に適した電解条件や合金組成を明らかにする。処理速度の目安となる合金形成時の電流密度の目標値を300 A/m2 とする。
② フッ化物系溶融塩について、①と対比しつつ検討し、希土類金属の分離・回収に適した条件を明らかにする。合金形成時の電流密度の目標値を1000 A/m2 とする。
③ 上記結果をもとに、実・模擬廃棄物を用いて電流密度300 A/m2 以上で定常的に希土類金属を分離・回収できる条件を確立する。
<成果>
① 723 K のLiCl-KCl 共融組成塩を用い、Dy とNd が混在する系において適切な電解条件ではDy を高精度に(Dy/Nd = max 72(質量比))分離回収できた。また、Dy, La, Feが混在する系においてDy のみを選択的に回収できることを明らかにした。DyNi2 の合金形成速度は電流密度500 A/m2 に到達した。
② 1123 K のLiF-CaF2 共融組成塩を用い、Nd-Ni 合金あるいはDy-Ni 合金の電解形成について検討し、合金相と電解電位の関係を明らかにした。さらに、Dy とNd が混在する系での(Nd, Dy)-Ni 合金形成を行い、Nd とDy との分離の可能性を示すとともに(Dy,Nd)Ni2 の合金相の形成速度として2000 A/m2 を達成した。
③ 合金隔膜を用いた分離速度や電流効率を定量的に測定するための電解装置を試作するとともに、その特性をLiCl-KCl 共融組成塩を用いて評価した結果、最大で電流効率98%、電流値密度280 A/m2 という値が得られた。一般的な溶融塩電解から、当初90%程度の電流効率を予想していたが、極めて高い電流効率を実現したため、この電流密度は当初の目標値を上回る分離速度に相当する。

■ K2344  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22068
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本プロジェクトでは、使用済み希土類磁石のリサイクルを想定し、各種溶融塩中での基礎研究および実際に合金隔膜等を用いた応用研究を行い、多くの成果を得た。特に、Dy/Ndの分離係数が最大で 72(質量比)、分離速度280 A/m2、電流効率98%といった値が得られたことは、非常に優れた成果と言える。実用化に向けては、アノード側で廃棄物(ネオジム磁石)から希土類金属を高精度に溶解することが課題の一つである。本プロジェクトでも、実際の磁石を用いた溶解試験では、4h の定電流電解で希土類の浸出率90%かつ電流効率96%、更に鉄の浸出率0%という比較的良好な結果を得ている。ただ、実用化するにはいくつかの課題が残っており、今後は、本プロセスの「スケールアップ」、「技術を実現する設備設計」および「回収した金属の再利用」について検討する必要がある。
一方、社会への貢献の見込みに関しては、現在、日本は中国に90%以上の希土類金属を依存していることから、国内での廃棄物からのレアアースリサイクルシステム構築によって新たな回収システム事業が日本経済の発展に繋がる。さらに、ネオジム磁石を使用し、今後、使用量の急増が予測される電気自動車やハイブリッドカーの自動車産業、エアコン等の家電産業の活性化への寄与も大きい。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦新規の技術開発の試みに成功したものと評価される。ただし、政策への効用につながるためには、なお、いつくかのステップがあるのであろう。
♦新たな科学的知見が得られていると判断される一方、成果が基礎的であり、政策的な展開からかなり距離があることなどが課題として挙げられる。
♦共融組成塩および合金隔膜を用いた電気分解によって使用済み希土類磁石からDy、Nd などのランタニド系遷移化合物を選択的に分離する技術を開発しようとする研究であり、ねらい自体は時宜に適ったものである。実規模で本システムを行うことを想定する場合のスケールアップの可能性、使用電力その他の環境負荷による費用便益性は他技術と比較してどうか検証していく必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K2126,K22090,K2345】使用済み廃棄物等の炭化処理によるレアメタルおよび炭素の資源回収 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 藤田 豊久(東京大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
使用済み電気・電子機器に含まれている電子基板 Printed Circuit Board(PCB)は、銅および貴金属が高濃度で含まれるため、廃製品から取り出された後、銅製錬所へ売却されている。電子基板は様々な部品によって構成される。主基板 Printed Wiring Board(PWB)は、銅箔とエポキシ樹脂を含浸させたガラス繊維で構成される。エポキシ樹脂には難燃剤として臭素が含まれており、ガラス繊維の主成分は珪素である。珪素およびアルミニウムは製錬工程でスラグ成分となり、この含有量によって製錬処理量に制約が出る。
実装部品はタンタルやニッケルなどのレアメタルを含有している。しかし、電子基板が銅製錬へ送られた場合、回収される成分は銅製錬のプロセス上で回収されるものに限られ、その他の成分はスラグや排ガス中へ拡散し廃棄されている。
これらの問題に対し、本研究では、熱処理および物理選別処理を用いて、従来回収されていないレアメタルを分離濃縮するとともに、銅製錬における不要成分を廃電子基板から分離することを目的とした。
<成果>
電子基板をプリント配線板Printed Wiring Board(PWB)と実装部品とに分離するための水中爆破破砕を行い、エポキシ樹脂製の電子基板に対しては、水中爆破破砕が実装部品を分離する有効な破砕方法となる得ることが示された。また、傾斜型の機械的粉砕機も実装部品の分離に有効であった。
タンタルコンデンサの熱処理挙動を調べ、タンタルコンデンサを含む実装部品からのタンタル濃縮プロセスを検討した。タンタルコンデンサを空気中723K で熱処理後、0.5mmで篩分けすることにより、タンタル品位70%、タンタル実収率91%のタンタル濃縮物を得た。積層セラミックコンデンサMLCC(Multi-layer Ceramic Capacitor)の熱処理挙動を調べ、MLCC が実装された電子基板からのニッケル濃縮プロセスを検討した。さらにMLCC を含む基板の破砕細粒から、金のロス無くニッケルを分離するプロセスを検討した。
MLCC が実装された電子基板に対し、低酸素雰囲気下873K での熱処理と、4mm 篩分け、0.1T 磁選処理により、-4mm 磁着物ではNi 品位が処理前の0.16%から6.7%へ向上し、Ni実収率74%を得た。+4mm では、Cu 品位が処理前の23%から31%へ向上し、Cu 実収率90%を得た。半田の回収も磁選により可能であることが明らかとなった。リード部を除いた基板破砕物細粒の磁着物から、空気中873K 熱処理、解砕、0.5mm 篩分け、0.1T 磁選処理のフローにより、Ni 品位は1.7 から6.9%へ向上し、Ni 実収率82%、回収物への金ロス1.5%を得た。

■ K2345  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22090
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

電子基板の中から有用成分のみを分離濃縮するため、実装部品の分離剥離、ついで基板の炭化法による熱処理と物理選別による銅およびレアメタルのニッケルの回収とシリカ粉の分離および臭素の処理、実装部品では物理的選別後のタンタルコンデンサの空気中加熱処理を用いて回収するプロセスを提案できた。
まず、水中爆破破砕が実装部品を基板から分離する有効な破砕方法となる得ることが示され、また、傾斜型の機械的粉砕機も実装部品の分離に有効であった。
炭化法による基板からの銅箔とシリカ粉の分離はスタンプミルと静電選別機の利用で可能となった。さらに、炭化における臭素除去は炭化物の炭素の洗浄で可能とした。基板に付着しているニッケル積層コンデンサからのニッケル濃縮プロセスは、既存プロセスと比較し約18%の消費エネルギー増となった。エネルギーコストは30%増となったが、ニッケル濃縮物の売却益を見込んだ場合は既存プロセスより低コストとなった。環境負荷はニッケルのリサイクルにより既存プロセスより低下し、実用化が期待される。
実装部品からは黄色のタンタルコンデンサが選別され、その熱処理挙動を調べ、タンタルコンデンサを含む実装部品からのタンタル濃縮プロセスを検討した。タンタルコンデンサを空気中723K で熱処理後、0.5mm で篩分けすることにより、タンタル品位70%, タンタル実収率91%のタンタル濃縮物を得た。HDD(Hard Disk Drive)基板の部品に対し、空気中723K、823K の2 段階熱処理と篩分けプロセスにより、タンタル品位は6.3 から16%へ向上し、タンタル実収率71%を得た。タンタル濃縮プロセスは、2 度の熱処理を行うことによる効果が大きく、既存プロセスと比較し約50%の消費エネルギー増となった。しかし経済性評価では、タンタル濃縮物の売却益が大きく影響し、利益増となった。環境負荷はタンタルのリサイクルにより既存プロセスより低下し、実用化が期待される。
考案した各プロセスについて、現行の処理プロセスとの消費エネルギー、経済性評価および環境影響評価を行った。レアメタルのリサイクルに関して、タンタル濃縮プロセスは、エネルギー消費は増すものの大きな利益を見込め、設備を投資して実施する価値があると考えられる。また、ニッケル濃縮プロセスは、新規の投資効果は得られないが、環境負荷の低い点で可能性のあるプロセスと考えられた。
以上のように、プリント基板からの実装部品の破砕分離方法、銅およびレアメタルのニッケル回収のための炭化法、実装部品中のタンタルコンデンサの空気中熱処理による濃縮方法はプリント基板からのレアメタルの回収方法として経済的にも実用化が期待される。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦コスト計算に基づいたコメントではないが、提案・検討された回収プロセスはカスケード的(順番に回収しやすい元素から、個別の処理法を適用して回収する手法)であり、実用化には困難な手法と考える。むしろ、ある特徴的な技術で最も必要とされるレアメタルに的を絞って回収を試みるほうがより実用的であると考える。本研究で得られた成果は当初予定した成果の範囲内であり、また使用経費も適切に研究成果に反映されている。問題設定が適切であるので、産業と連携し実用化に向けた実証的な研究へと発展することを期待する。
♦実務として十分利用できるレベルと思われる。


目次へ

研究課題名: 【K2120, K22089, K2346】貴金属のリサイクル(H21〜H23)
研究代表者氏名: 前田 正史(東京大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究の目標は、亜鉛(Zn)との合金化反応を利用して、貴金属のリサイクルに伴う環境負荷を低減する手法を見出すことである。貴金属のリサイクルにおいては水溶液への溶解工程が不可避であるが、溶解する際には強力な化学薬品を用いた処理が必要である。そこで、溶解に先立って貴金属に Zn 蒸気を接触し、合金とすることで酸への溶解性を高めることができれば、より低環境負荷のリサイクルが実現する。本研究では、貴金属の溶解を促進するための、合金化前処理および酸浸出の条件を明らかにすることを目指す。とくに電気化学的手法を用いた溶解速度測定を中心とした調査を行い、貴金属を迅速に溶解するための合金化条件を明らかにする。また、リサイクルの対象として想定している自動車排ガス浄化触媒の実物を試料とした合金化実験および浸出実験を行い、本研究が想定する貴金属リサイクルの有用性を検証するとともに、より有利となる処理条件を明らかにする。
<成果>
白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などの貴金属を Zn 蒸気処理により合金化するとともに、Zn 蒸気接触時の温度条件を調整することで生成物の組成を制御することに成功した。また、貴金属-Zn 合金の溶解速度を測定し、ある種の合金においては、貴金属が通常よりも遥かに迅速に溶解することを示した。以上の結果より、貴金属を合金化処理によって溶解性を高めるための条件について、有用な知見を得た。また、Pt-Pd 合金や実物の使用済み触媒に対して Zn 蒸気処理を施し、合金化を確認した。さらにリサイクル対象の実物に近いモデル触媒に対して Zn 蒸気処理および浸出実験を行い、合金化の有用性を検証した。とくに Rh については、合金化による溶解促進が顕著に観察された。

■ K2346  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22089
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究により得られた貴金属合金の溶解に関する知見は、貴金属の浸出処理を容易にすし、貴金属リサイクルに伴う環境負荷やコストを低減する上で有用となる。とくに、いくつかの貴金属-Zn 合金において観察された顕著な溶解促進は、湿式プロセスによる貴金属リサイクルを画期的に改善できる可能性を示唆している。貴金属の溶解が迅速に進行すれば、浸出処理に必要となる薬品の使用量や処理時間が低減できる。これにより、廃液処理や設備の劣化といった問題も軽減される。また、いくつかの貴金属-Zn 合金では、貴金属単体と比較し、低い電位においても溶解が進行することが確認された。これは、合金とした際に、王水などよりも弱い酸化剤によっても貴金属が溶解できる可能性を示し、より環境負荷の小さい薬品で貴金属の浸出が行えると予想される。また、本研究は貴金属に Zn蒸気処理を施す際に、温度条件に応じて得られる合金組成についても明らかにした。したがって、実際に貴金属含有スクラップに対して Zn 蒸気処理を施す際に、後工程において有利となる合金を選択的に生成させることができる。
本研究においてはモデル触媒の浸出処理を行うことで、Zn 蒸気処理の有用性を検証した。この結果、とくに Rh について、前処理が有効となることを明らかにした.ただし、実際の貴金属触媒に対する実証試験など、より多様な反応条件において検証し、浸出において最適となる前処理の条件を探索していく必要がある。さらに、実用される貴金属触媒の性状は様々であり、貴金属の状態や共存する物質によって、最適な処理は異なると予想される。より多くの条件において合金化前処理の効果を検証するとともに、実際の触媒の合金化および溶解について反応を詳細に調査することが望まれる。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦亜鉛蒸気による貴金属の回収について、基礎的な知見は得られたものの、様々な成分が共存する実際の廃棄物への適用は不十分で、本システムによる貴金属回収の可能性が示されたことにとどまっている。本研究で亜鉛蒸気処理の有用性が確認されたので、貴金属のリサイクルに向けて課題を整理し、取り組んで欲しい。
♦本研究参加の研究者を含め、東大生産研では、亜鉛蒸気による貴金属回収については、既に科研費での研究実績があり、本研究により研究がどのように発展し、どのような新たな知見を得て、さらに実用化の可能性についてどう展望が得られたかを示す必要がある。
♦貴金属と亜鉛の合金が水溶液に溶解しやすいとの予想を実験的に検証し、適性条件の把握と予想の現象を認めている。予想の背景と実験対象金属種の増加が望まれる。実用化が待たれる。


目次へ

研究課題名: 【K2107,K22058,K2347】アジア地域における廃電気電子機器の処理技術の類型化と改善策の検討 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 吉田 綾((独)国立環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
① 韓国における廃電気電子機器の排出量を推計し、日本と韓国における中古品の輸出量
を把握することで、アジア地域におけるE-waste の発生・中古品の輸出状況とマテリアルフローに関するデータの拡充に努める。
② アジア地域3 ヶ国において、技術レベルが異なる現場・施設を訪問し、処理リサイクル工程を把握し、相違点・共通点を分析し類型化する。環境および健康への影響を評価するため、回収された金属量や物質フローを調査するとともに、現場の残渣物、土壌、労働者の毛髪などを採取し、環境中への飛散や健康への影響について明らかにする。
③ 既存のE-waste の管理制度のレビューから、先進国の経験から考え得る提言を整理する。さらに、利害関係者(リサイクル業者・NGO・専門家・自治体等)が一堂に会したワークショップを開催し、本研究で得られたデータや情報を共有するとともに、どのような技術協力や設備投資、管理・法規制が必要かなどの改善策について議論する。
<成果>
① ポピュレーションバランスモデルを用いて、韓国の2000〜2020 年までの使用済み電気電子機器(8 品目)の排出量を推計した。日本と韓国からの中古品輸出量を推定するため、貿易統計を分析した。中国とベトナム国境の中古品フローについて現地調査し、流通量を推定した。
② ベトナム、フィリピン、インドネシア、中国の現地研究機関と共同で現地調査し、E-waste の解体プロセスフローを把握した。インドネシア、フィリピンにおいて、インフォーマルな金・銀回収プロセスの詳細を把握し、有価資源の回収率や有害物質の環境放出状況を明らかにした。
③ 先進国におけるE-waste 管理制度の経験をレビューし、アジア各国の現行の法規制によるE-waste の管理状況を整理した上で、今後導入しうる対策や制度について検討した。
④ フィリピンにおいて利害関係者を招いたワークショップを開催し、インフォーマルリサイクルの改善に向けた意識啓発と連携のあり方を議論した。

■ K2347  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22058
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

韓国において2000 年から2020 年までの8 種類の使用済み電気電子機器の排出量を推計し、韓国の公式リサイクル制度における回収量と比較した。制度内で回収されない使用済電気電子機器について、日本やEU でも関心が高まる中、韓国における「見えないフロー」を算定した意義は大きい。
フィリピンおよびインドネシアのインフォーマルな金・銀リサイクル工程を詳細に把握し、金回収の物質収支を把握した。また、フィリピンにおいて、フォーマルとインフォーマルリサイクル現場の土壌およびダストをサンプリング調査し、結果を比較した。
これまでインフォーマルリサイクルによる環境影響を報じた既存研究は多くあるが、フォーマルリサイクル現場における重金属汚染や健康影響の危険性を把握した研究は少ない。
また、フィリピンやインドネシアのE-waste リサイクル現場の労働者の生体試料を分析した先行研究はなく、本研究で得られたデータは、作業工程が労働環境と人体へ与える影響の解明や、今後の途上国政府の対策に大きく貢献すると考えられる。実際に、労働者の生体試料の分析結果から、インフォーマルの労働者のみならずフォーマルの労働者からもPbやAs, In が高い結果が得られたことから、ダストの管理、場内換気の重要性が示唆されている。
本研究は先進国の既存のE-waste 管理制度から得られた経験をまとめた上で、途上国内での既存の法制度の最新情報を収集し、現状の課題・問題点を把握している。E-waste 管理方策を具体的に検討している。さらに、本研究で得られた最新情報を利害関係者間で共有するため、2012 年1 月にフィリピン・ケソン市において、「フィリピンにおけるE-waste問題啓発ワークショップ(第8 回国立環境研E-waste ワークショップ)を開催した。今後、現地の政府、国際機関、NGO などを通じて、現状改善のための具体的な活動や対策の実施に貢献しうる成果が得られたと考えている。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦先行研究にさらに適切なデータを追加しえた研究結果となっている。韓国の輸出実態を調査対象としているので、これまで以上に有用なデータを提供しうる研究成果である。報告は多く今後の課題を示すが、これを政策面でどのように克服すべきか、についての踏み込んだ提言、ないし示唆を示す内容であればさらに高い評価をすることができた。
♦一定の成果が得られている一方、政策的な提言に関する記述が求められる。
♦この研究者グループは以前から長期にわたってこの種の研究に関わっており、ベテランである。多方面の情報がまとまった段階で市販本などの形で公表して欲しい。


目次へ

研究課題名: 【K2142,K22060,K2348】溶融炭酸塩を用いた使用済み電子機器からのレアメタルの回収 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 加茂 徹((独)産業技術総合研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
使用済み電子機器には貴金属やレアメタル等の有用資源が多く含まれている。従来法では基板をいったん焼却した後に残渣から貴金族を回収しているが、レアメタルは焼却するとスラグ化するために後段で回収することが困難であった。また手解体でレアメタルを回収することは費用が高く、使用済み電子機器から効率良くレアメタルを回収できる技術の開発が急務である。
本研究では、混合炭酸塩共存下で水蒸気ガス化反応が促進されることを利用して電子機器に使用されている各種の電子基板や電子部品を穏和な条件下でガス化し、手解体や粉砕等のプロセスを介さずに金属やレアメタルを効率的に回収できる手法を開発する。本法では炭酸塩共存下の還元雰囲気下で行われるため、臭素や塩素は安定で安全な無機塩として回収され、金属やレアメタルはスラグ化せず、プラスチックは高純度の水素に転換してエネルギー源として利用できる。
<成果>
混合炭酸塩共存下でエポキシ基板、フェノール基板およびポリイミドフィルムなどを水蒸気ガス化すると、水素が主に生成し微量の二酸化炭素や一酸化炭素が検出された。またフェノールやタールなどの液体生成物も得られた。本反応は急速な初期熱分解と比較的遅いチャ—と水蒸気との反応からなり、混合炭酸塩共存下では残渣や液体生成物の収率が低下し、水素の生成速度が顕著に促進された。エポキシ基板、フェノール基板、ポリイミドフィルムの水蒸気ガス化反応の活性化エネルギーを測定し、混合炭酸塩の触媒作用が確認された。タンタルコンデンサーの水蒸気ガス化では、電極材が触媒となってモールド樹脂のガス化が促進され、反応温度550℃10 分でタンタル焼結体を回収できた。
外熱式ロータリーキルンを用い、混合炭酸塩共存下でパソコンのマザーボードを水蒸気ガス化すると銅などの金属を回収できることを明らかにした。また極微量の混合炭酸塩を噴霧するだけで、電子基板のエポキシ樹脂を容易に除去でき、ガラス繊維や銅箔を回収できることを明らかにした。

■ K2348  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22060
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

使用済電子機器には貴金属やレアメタルなどの有用資源が多く含まれており、これらを回収することは単に資源の有効利用を図るだけでなく、日本の基幹産業である電子産業に不可欠な戦略資源を確保するためも極めて重要である。
使用済み電子機器から貴金属を回収するには、これまでは主に電子基板などを熱分解あるいは焼却処理した後に残渣を非鉄金属用精錬炉へ投入してきた。しかし従来の処理法ではレアメタルが酸化してスラグ化するために回収することは事実上不可能となり、またプラスチック類も素材資源あるいはエネルギー資源として再利用することはできなかった。
研究としてはこれまでにも使用済み電子機器を熱分解あるいはガス化する提案が多く出されているが、レアメタルの回収費用が高く、しかも電子基板や筺体中の難燃剤や絶縁材に臭素や塩素が多く含まれているために実用化には至っていなかった。
本研究では、使用済み電子機器に少量の混合炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム)を添加して600〜700℃で水蒸気ガス化すると、基板や筺体のプラスチックは水素を主成分とするクリーンなガスに転換でき、金属類はほとんど酸化させることなく回収できることが確認された。本研究開始当初、大過剰の混合炭酸塩を用いて使用済み電子機器を水蒸気ガス化することを検討したが、微量の混合炭酸塩でも十分プラスチック類を除去できることが明らかになり、炭酸塩の消費量の低減および反応器の腐蝕の問題が実用化に向けて大きく前進した。本技術を実用化するには、①運転条件の最適化、②添加する炭酸塩組成の最適化と更なる低減化、③有害金属の反応挙動の把握、④ガス化収率の向上とガス生成物のクリーン化、⑤試料の前処理工程や残渣の回収工程の簡素化、⑥長期連続運転による信頼性の確保などの課題を解決することが重要である。
本研究で開発された技術は、使用済み電子機器を直接ガス化処理してプラスチック部を除去し、貴金属やレアメタルを回収するための費用を大幅に削減することができるため、廃棄物の中間処理企業や非鉄金属精錬企業から早期の実用化が期待されている。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦基板がガス化することは示すことができたが、肝心のレアメタルの回収に関する検討、あるいは記述が不十分である。本研究の主たる目的はレアメタルの回収であり、基板がガス化したのち、どの部位にレアメタルが存在し、それをどうやって回収するかの具体的な検討がほしかった。タイトルでは回収となっているが、前処理法の検討であったと判断する。
♦実用化への道程を検討して欲しい。
♦物理的破砕あるいは焼却せずに貴金属やレアメタルを回収できるのは良いが、プラスチックを高純度の水素に転換して利用する部分の十分な説明が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K22004,K2349】溶融施設の負荷削減とメタル回収に関する研究(H22〜H23)
研究代表者氏名: 武田 信生(立命館大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
一般廃棄物焼却施設で発生する焼却灰や焼却飛灰を処理する溶融施設については、運営経費の増大が施設を管理する自治体等の財政を圧迫する要因になっている。経費削減策を提案するために、本研究では、溶融対象物の質的改変として溶融炉に悪影響を及ぼす考えられる飛灰中の塩類の水洗除去、及び量的削減として溶融不適物の高度分離による施設への負荷削減を検討すること、加えて、水洗工程で発生する廃液や残渣に存在する有用なメタルの回収を検討することを研究課題としている。このため現地調査や試料分析で得たデータを基に水洗脱塩及び高度分離の効果を検証し、またメタル回収実験を通じて、「溶融施設の負荷削減方策の確立と資源回収システムの構築」を目指す。
<成果>
飛灰の質的改変について、クロムに注目して焼却/溶融飛灰、耐火物、生成物を分析した結果、クロム系耐火物が侵食作用を受けて6 価クロムに変化することが明らかになった。
脱塩飛灰と無処理飛灰を用いた熱負荷試験においても、6 価クロムの生成が確かめられ、脱塩効果が示された。試験に供した耐火物のSEM 観察においては、飛灰による侵食らしき模様が認められた。
量的削減について、溶融対象物の粗い粒子に溶融不適物が多く存在し、高度分離による量的削減を通じて負荷削減が期待される結果を得た。
メタル回収について、リチウム吸着試験において概ね良好な結果を得たが、廃液中の塩類の析出対策が課題となった。電気二重層によるイオン除去では、脱塩廃液処理の可能性とセシウムを含む廃液にも適用できることが示された。貴金属については、ごみ焼却飛灰と下水汚泥焼却飛灰における金の賦存量を示した。さらに下水汚泥溶融飛灰に金が濃縮されていることが判明し、廃棄物として処理費を投じて処分されていたものが、有価物として取引できることが明らかになった。

■ K2349  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22004
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

溶融施設の負荷削減について、溶融対象物の量的削減と質的改変として対象物である焼却飛灰の水洗脱塩の二面から検討した。
焼却飛灰の水洗脱塩という質的改変においては、耐火物を構成している無害なクロムが溶融処理過程において有害な6 価クロムに変わることが、実機のサンプルからも熱負荷試験のサンプルからも確認されたことは大きな収穫である。本研究は、今後の焼却灰等の処理について、
・溶融処理を行うかどうか
・行う場合焼却飛灰を投入するかどうか
・投入する場合水洗工程を設けるかどうか
・耐火物にどのような素材を使うか
など検討すべき範囲を広げ、適切な判断を行うための情報を提供したといえる。
量的削減においては、溶融対象物の実態を調べたところ粒径の大きいものに溶融不適物が少なからず含まれており、このようなものを取り除くことにより負荷の削減を図ることができ、既存設備の改善等や新たな設備の設計への反映が期待される。
第二のテーマ、メタルの回収について、脱塩廃液中のリチウム吸着やイオン除去、バクテリアリーチングによるメタル溶出、下水汚泥焼却/溶融飛灰からの貴金属の回収を試みた。
このうちイオン除去は、焼却飛灰脱塩廃液よりもむしろ焼却灰のセメント原料化における水洗廃液(塩濃度低)や放射性セシウム除染廃液への適用性が高く、本研究終了後も継続して検討していく考えである。下水汚泥溶融飛灰は、金含有濃度が高く資源的価値を有すること、すなわち売却できることが明らかになった。現在、当事者間で売買に向けた協議がなされており、取引成立が期待される。ただし下水汚泥の溶融処理も経費高騰から施設の運転が継続されるかどうかに問題がある。汚泥の焼却は継続して運転されるであろうが、焼却灰/飛灰の金における資源的価値は溶融飛灰ほど高くない。金の品位をあげることが今後の課題である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦分級による溶融のための焼却灰の減量は自治体の課題であり、それの解決への道筋を示した点は高く評価する。また、脱塩により炉の長寿命化を図れることを示した点も素晴らしい。金等の回収は余録であろう。現場をよく知ったテーマであり、学術的とは言えないが実用的な成果を出している。研究成果とは異なるが焼却灰、飛灰にこれほどの濃度で金が含まれているのであれば、すべて鉱山に売却可能ではないか。通常の金鉱山では金の含有量は数g/t であり、高品位といわれる菱刈鉱山で平均50g/t である。
♦経費削減策としては、対象物の量的削減、焼却灰からの塩類除去、不適物の高度分離が必要となることは理解できるが、それぞれのコストのミニマム化が必ずしもトータルコスト削減につながらないのではないか。つまり、それぞれの段階でのコストミニマム化への投資コストも考慮する必要があるのでは。


目次へ

研究課題名: 【K2134, K22053, K2350】製鋼スラグと腐植物質による生態系修復技術の受容性と環境リスクの総合評価 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 駒井 武((独)産業技術総合研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
沿岸海域における磯焼けなどの生態系を修復する手法として、海水中の溶存鉄の不足に着目した製鋼スラグと腐植物質による磯焼け回復技術の開発とその実証的な検証を行う。生態系修復効果には腐植物質と2 価鉄の錯形成の寄与が示唆されるが、詳細なメカニズムや長期安定性は明らかになっていない。一方、製鋼スラグにはふっ素、ほう素、鉛などの有害元素が含まれ、有害金属の環境中の動態や生態系への影響に関する環境リスクの側面も重要である。このため、製鋼スラグと腐植物質の相互作用により、可溶性の腐植酸鉄を新たに生成させる溶出メカニズムを解明し、海域の藻場再生を促進させるための実証な検討に基づき、循環型社会に適合した生態系修復技術を開発する。
具体的には、製鋼スラグと腐植物質の相互作用による生態系への便益と環境リスクを評価するための標準的な試験法を提案するとともに、製鋼スラグと腐植物質を活用した生態系修復技術の有用性を検証することを目標とする。
<成果>
製鋼スラグと腐植物質の相互作用に関する実証的な検討を進め、溶出特性や錯体形成に関する室内実験、腐植物質の構造解析と実際の海水条件に基づく錯形成能の評価、さらには海洋を模擬した各種試験を実施して、生態系修復効果を検証した。海域への適用資材のための標準的な試験法を提案するとともに、製鋼スラグと腐植物質を活用した生態系修復効果および環境リスク評価を実施する上での基盤データを整備した。また、腐植酸鉄の生成機構および実海域での実証的検討によって、製鋼スラグと腐植物質の混合効果に関して、鉄溶出と海藻生育の関係に相関性があることが確認された。実海域における生態系修復に関する環境モニタリングを実施し、実用化に向けて科学的な知見を蓄積することができた。これらの一連の研究により、製鋼スラグの実海域での導入に向けての実証試験と環境リスク評価手法を確立した。また、上記の各種データや標準的な試験法の提案に基づいて、製鋼スラグと腐植物質に関わる技術的な指針を作成した。

■ K2350  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22053
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本研究開発では、製鋼スラグと腐植物質の相互作用について実験的および解析的に検討し、双方の資材を混合することにより腐植酸鉄の生成が促進され、海藻などの生態系に大きな便益があることを実証した。また,鉄還元菌などの環境微生物により腐植酸鉄の溶出を促進させる機構を明らかにし、実海域における実証試験や環境モニタリングなどを通じて、生態系修復の効果を定量的に検証した。さらに、製鋼スラグと腐植物質の環境安全性について総合的に検討した結果、これらの資材を混合して使用することにより、鉛、ヒ素、クロムなどの重金属類の溶出が抑制され,環境リスクを低減できることなどを示した。製鋼スラグを活用した沿岸域の環境修復については、すでに製鐵会社を中心に日本国内で30 箇所以上の実証試験が進行している。その多くは、ワカメ、昆布および海草類の繁茂および磯やけの防止を目的として実施されている。しかし、製鋼スラグと腐植物質からの鉄や栄養塩の溶出メカニズムや効果的な施肥の方法などについては明確になっておらず、基盤的な研究開発が強く求められていた。(例えば、日本鉄鋼学会2009 シンポジウム)このような新たな科学的知見や基礎データは、今後実際の海域において磯やけの防止および修復を実施するために、定量的かつ実用的な指針を与える。また、今回の研究において製鋼スラグと腐植物質の効果とリスクに関して標準的な試験法を提案したことにより、海域での使用に関する技術的な指針を確立することができた。これにより、今後業界における製鋼スラグの安全な活用について一定の理解が得られ、生態系修復技術としての適用事例が増加することが期待される。さらに、自治体や漁業関係者などとのリスクコミュニケーションが円滑となり、海域における製鋼スラグと腐植物質の活用が飛躍的に進むことも考えられる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦鉄鋼スラグを用いた生態系修復の可能性を実証しえた研究であり、実用化に向けた検討が着実に行われている。経費の支出も合理性がある。
♦得られた成果をもとに、是非とも実用域への導入を図っていただきたい。
♦同様の他研究はあるが、一定の具体的成果が得られている。
♦産業系と環境系複数の研究機関に所属する研究者が一体となって研究体制を組んだ点は評価される。腐食物質と2価鉄とで形成されると推測される錯体の実体を定量分析的に捉えて欲しい。


目次へ

研究課題名: 【K2141,K22056,K2352】廃棄物発生抑制行動を推進する心理要因の構造化と市民協働プログラムの実践 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 栗栖 聖(東京大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
循環型社会の形成に向けて、廃棄物の発生抑制が求められている。しかし、特に家庭部門からの廃棄物発生抑制は、住民の行動様式に負う所が大きく、その実効性が問われる。有効な施策構築には、発生抑制行動の支配因子を明らかにする必要がある。社会規範が制約因子ならば、法規制等の社会規範に訴えかける施策が有効と考えられる。一方で、廃棄物発生抑制行動は、個人規範等の別因子に影響されると推測されるが、その構造を明らかにした先行研究は見られない。住民の廃棄物発生抑制行動を、モデル化により理解し、さらに、構築したモデルに基づいた施策の有効性を実証することは、廃棄物発生抑制施策構築に寄与すると考えられる。本研究では、市民の行動に影響を与える心理的・経済的因子をモデル化し、重要因子を抽出する。さらに、その結果に基づいた市民協働プログラムを実践することにより、実効性を伴う廃棄物削減施策を提案することを目的とする。
<成果>
大規模アンケートに基づき、廃棄物削減行動の特徴を把握した。行動を類型化し議論することの有効性が示され、特に、一般的廃棄物管理行動と、廃棄物削減行動は別行動として扱うことが有効であろうことが、確認された。さらに、廃棄物削減行動の中でも、環境意識の高さ(LOHAS 層)や、積極的にショップ利用する意識など、異なる要因が各行動の実施度に影響を与え、個人属性としては、特に性別の影響が大きく、続いて年齢が大きく影響を与えていた。特に廃棄物削減行動への影響する心理因子としては個人規範の影響が大きいことが、モデル解析の結果明らかとなった。心理因子に関連した情報としては、「リスク喚起」「有効性認知」「記述規範」情報を組み合わせ提供した場合に、行動意図が高まることが確認された。LCA による行動変容に伴う環境負荷の算定においては、シナリオにより、CO2 削減と廃棄削減の両者を可能とするものがある一方で、トレードオフの関係を生じるものもあることが定量的に明らかとなった。同情報を用いた協働プログラムの有効性も確認された。

■ K2352  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22056
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

廃棄物削減行動を促進する場合に、対象とする行動を考えるに当たり、本研究で行った行動の類別化に基づいて、廃棄物削減行動およびその他の家庭における環境配慮行動を集約したいくつかのカテゴリに分類することが可能となった。これにより、施策を考えるに当たって対象とする行動は、個別ではなく、その特徴に応じていくつかのグループに分けて考えることができる。さらに、実行動を対象に、ライフサイクルアセスメント(LCA)によって算定したデータは、目に見える環境負荷である廃棄物削減と、CO2 発生量の間にトレードオフやWin-win の関係が生じることの環境教育現場での説明材料となりうる。同データをもとに市民との協働プログラムを実施することが可能であり、本研究内でその有効性も示された。一方で、同マテリアルは一般市民を対象とした場合に、環境意識の高い層への働きかけには有効であるが、無関心層に対し働きかけるツールとしては、やや難しいものとなった。よって、最終年度に検討した、フリーペーパーやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の利用可能性が考えられる。特にフリーペーパーでの情報提供は、リスク喚起、有効性認知、記述規範情報を組み合わせ提供することで、行動意図への正の影響がもたらされる。本研究中では予算の制約上、同社会実験は韓国で行わざるを得なかったが、より大規模に日本国内にて実際に実施することも考えられる。一方、新しい媒体としてのSNS に関しては、いまだ発展途上であり、その利用可能性に関する研究もほとんど見られない。本研究内で実施した社会実験では、コミュニティの活発度が行動促進には有効であることは明らかとなったが、いかに活発なコミュニティを形成するかには、依然課題が残った。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): c  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦廃棄物抑制行動の構造がどこまで明らかにされたかが不明瞭。アンケートとその分析結果は、これまでに知られている知見を裏付けるものとはいえるものの、特に新たな知見や政策へのインパクトを与える内容とは評価しがたい。
♦全国47 都道府県を対象に、網羅的なアンケートを行い、多数の回答を得た点は大きな成果であったと思う。ただ、廃棄物、それも家庭からのものを考えた場合、市町で設置・稼働している焼却設備との関係が極めて大きいはずである。この点をどのように評価に入れるのかが必要である。
♦一定の成果が得られていると判断される一方、全国調査を行ったことによって得られる地域的な特性の考慮や、韓国における調査結果の反映方法などの点について、より詳しい説明が求められる。
♦消費者の環境行動様式を環境配慮と廃棄物発生抑制の側面から見て統計的にその構造化を図った点は評価されるが、ここで終ると環境心理学の域を出ない。ここから真の目的である廃棄物発生抑制に向けて、地域的、年令構成的、性差などを配慮して消費者に対してどのような環境行動様式をとってもらうのが最も効果的という結論を引き出してほしい。


目次へ

研究課題名: 【K22015,K2353】不法投棄によるVOC 汚染サイトの環境修復技術・評価に関する研究 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 巽 正志(三重県保健環境研究所)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では、今後、廃棄物の全量撤去だけではない修復システムを構築する必要性があることから、廃棄物を残置した場合の環境修復技術及びその評価に関する修復システムの提案を行うものである。その際、当該現場の環境修復を行う過程で必要と考えられる下記の要素技術について開発を行う。なお、本研究で提案する修復システムは、当該現場だけではなく、同様の廃棄物を残置し、水処理等の継続により長期的な管理が求められる汚染現場への適用が可能なシステムとして提案するものである。
<成果>
新MIP-CPT では、調査地点の深度方向に連続的な汚染状況を把握することができ、公定法よりも短時間でVOC の種類と相対濃度レベルと高濃度汚染廃棄物の分布も把握することが可能となった。
新たに構築された浄化システムでは、パイロット試験レベルで、砂質土については300kg/hr、粘性土については75kg/hr の処理速度で、VOC 汚染土壌を目標値まで浄化できた。これにより、有害金属や腐食質等有機物を含む廃棄物等のオンサイトでの浄化が可能となった。
評価法の検討では、地下環境中に生息する微生物の物質循環に関する状況を把握することが可能であった。また、検出された各地点の菌叢を主成分解析し、汚染の無い地点の菌叢と比較することで、汚染程度を数値化することができる新たな評価指標の可能性を示すことができた。
これら開発した技術により廃棄物を残置した場合の修復システムを提案することができた。

■ K2353  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22015
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

今回、研究の対象とした桑名市五反田事案を含め、三重県内にも対策が必要な大規模不法投棄事案が現在14 件程度存在しており、また、国内各所に対策が必要な不法投棄汚染カ所は多数存在している。不法投棄の現状として国内の廃棄物不法投棄件数は年々減少傾向にあるが、これまで既に投棄された廃棄物の残置件数と残置量は平成22 年末時点で2610件、17,816,521t であり、それらの対策が今後必要になると考えられる。特に、大規模な不法投棄事案の場合には、コスト面や除去汚染物の受入先の確保の面からも全量撤去を選択することは困難であり、現場に廃棄物を残置しながら、生活環境等の支障除去、あるいは支障の恐れの防止措置を行う手法が、今後の環境修復対策の主流になると予測される。
それに先駆け、本研究で提案した「廃棄物を残置したままの環境修復システム」は、調査・解析の実施から、そのデータに基づく高濃度汚染廃棄物の撤去・浄化処理、及び、汚染が低濃度に至った段階で環境基準項目以外の化学物質影響にも考慮したモニタリング方法に至るまでの一連の手法である。低コストで周辺再汚染リスクの低い、この新たなシステムは、モニタリング結果を示すことで、周辺住民に対して、残留する化学物質の生物影響性についての不安に答えることも可能であり、リスクコミュニケーションに基づく円滑な修復を推進することができるものと考えられる。
本研究により提案した環境修復システムは、今後、国内の多くの汚染サイトでの適用が期待されるものである。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦現場のニーズに応える技術開発研究であり、自治体の環境研究機関の研究として、高く評価されてよいものと考える。
♦政策的な展開につながる成果が得られていると判断される一方、研究者間の役割分担があまり明確になっていないように思われること、研究者の構成と委託先との関係が不明であることが課題として挙げられる。
♦汚染地下水の菌そうから当該サイトの汚染の程度についての何らかの情報がえられたとの成果は評価できる。


目次へ

研究課題名: 【K2131, K22075, K2354】バイオマス廃棄物を有効利用した使用済み小型家電製品からのレアメタル回収技術の開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 大渡 啓介(佐賀大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
使用済み小型家電等の基板の破砕、粉砕物の塩酸浸出液中に含まれるレアメタルの分離・回収プロセスの開発を行う。特に有価物のパラジウムと有害物のクロムに的を絞り、これらを高選択的、高容量で吸着・分離可能な吸着剤を木質廃棄物、稲藁、麦藁等より得られるリグノフェノールや古紙、綿廃棄物、果実廃棄物等の多種多様なバイオマス廃棄物を原料として低コストで調製することを目標とする。さらにこれらの吸着剤の利用に適した吸着操作法を開発することを目標とする。
また、原子力機構では使用済み小型家電等に含まれるパラジウムの分解回収技術を開発するため、電子線を利用して、綿(コットン)廃棄物から効果的かつ効率的に吸着剤を合成する方法を開発するとともに、パラジウムの吸着挙動を明らかにする。
<成果>
銅等の卑金属からの金、パラジウム、白金の選択的回収のためのリグニンを母体としたリグノフェノールの吸着剤を数種類開発した。
綿、紙、セルロース等の純粋の多糖類、柿渋抽出物等を濃硫酸で処理することにより、金を高選択的、かつ高容量で吸着・回収する吸着剤を開発し、その吸着メカニズムを明らかにした。
パラジウムや白金の選択的分離・回収のために柿渋抽出物に4 級アミノ基、ビスチオ尿素等の官能基を固定化した吸着剤を開発した。
綿の表面に放射線グラフト法により、エチレンジアミン等の官能基を固定化した吸着剤を調製し、パラジウムに対して高い選択性を有することを明らかにした。
使用済み携帯電話の基板の塩酸—塩素浸出液から上記の吸着剤を用いて金、パラジウム、白金を個別に回収するプロセスを開発した。またチオ尿素と希硫酸の混合液を用いた新たな貴金属浸出法を開発した。
濃硫酸処理した渋柿廃棄物や柿渋抽出物を用いた6 価クロムの吸着・除去法を開発した。

■ K2354  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22075
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

携帯電話等の使用済み小型家電製品からの有価金属、レアメタルの回収においては金を始めとする高価な貴金属から回収して行くのが鉄則である。本研究の最大の成果は使用済みの木綿製品等の廃棄物を濃硫酸で処理することにより簡単かつ安価に調製される吸着剤により金を高選択的、かつ高容量で吸着・回収する技術の開発である。この回収技術は王水のような塩酸系の液や酸性チオ尿素水溶液からの金の回収には問題なく直ちに実用可能であるが、世間で多く行われている塩基性シアン溶液からの回収には適していない。本研究でパラジウムや白金の回収のために開発したグアニジン等の高塩基性の官能基を修飾した柿渋抽出物の吸着剤には、このような可能性が期待されるので、今後その利用について研究する必要がある。
パラジウムや白金の回収には4 級アミノ基等の官能基を固定化した柿渋廃棄物や綿の吸着剤が効果的であるが、課題はこれらの貴金属の吸着後の回収法である。チオ尿素と塩酸の混合液によりこれらを溶離して、吸着剤を再生することは可能であるが、溶離液からの回収方法等の後処理の問題が残る。吸着後に焼却することも簡単な回収法であるが、吸着剤の製造コストとの関係が課題となる。
貴金属含有廃棄物からの貴金属の回収は、最初に硝酸で銀を溶出させ、その後に王水等の塩酸系水溶液を用いて金やパラジウムを溶出させる方法が現在広く行われている。この方法では窒素酸化物の処理等の後処理の問題が残る。これに対して本研究で行った酸性チオ尿素水溶液を用いた溶出方法はこのような窒素酸化物の処理を伴わない、より環境調和型の技術である。さらに現在多く行われているシアン溶液による溶出方法にも代替でき、今後の普及が期待できる。すなわちシアン溶液の使用は専門の既存の業者には問題ないが、新規に貴金属の回収を行うことを計画している業者には大きな抵抗がある。このような業者にとって本技術は簡単に採用可能な技術である。本研究で開発したバイオマス廃棄物の吸着剤と組み合わせることにより、誰もが利用可能な環境適合型の技術として普及が期待できる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦今や佐賀大学のお家芸といえる廃バイオマスを基材として、各種有用金属の吸着材を開発し、広範囲な基礎的検討を行った点を高く評価する。今後の展開として開発された吸着材のコスト、吸着能、再生法等の検討と主に、地域における環境と経済の両立を目指してほしい。
♦小型家電製品のビジネスの変化にも対応した異なるアプローチについても検討が必要。
♦研究成果がうまく利用されることを期待する。
♦それぞれの吸着剤の製造コストを考慮に入れる必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K22019, K2356】炭化物系吸着材を利用した低コスト型ダイオキシン類汚染土壌/底質の無害化技術の開発 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 細見 正明(東京農工大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では吸着能を有した炭化物系吸着材を排ガス処理に用いた後、ダイオキシン類汚染土壌や底質と混合して、加熱源として利用する低コスト型分解無害化手法を検討する。炭化物系吸着材として、バイオマスの利活用となる安価な粉炭や下水汚泥炭化物を利用する。室内規模の実験装置により、粉炭や下水汚泥炭化物を用いて、汚染土壌/底質との混合割合、空気空塔速度を検討したうえで、最適な分解無害化システムを提案する。この分解無害化システムに必要な炭化物系吸着材の吸着カラム充填量、汚染土壌/底質との混合量と空気量、ブロワー等の必要エネルギーを算定し、トン当たりの処理コスト5 万円以下を目指す。さらに最適な分解無害化システムにおいて、その他のPOPs(DDT やBHC などの農薬、PFOS などの新規POPs)汚染土壌/底質への適用可能性を明らかにする。
<成果>
市販されている土壌改良用の粉炭をダイオキシン汚染土壌/底質の加熱源と加熱処理に伴って生じる排ガスに含まれるダイオキシン類の吸着剤として利用することで、処理後の土壌/底質は環境基準値を満足する結果が得られた。加熱条件としては、汚染土壌/底質の10wt%に相当する粉炭を加えて混合して、空気空塔速度3 cm/sec の条件下で着火し、目標加熱温度の650℃以上(ダイオキシン類の分解するうえで必要な温度条件)を満たすことが出来た。本処理法を実汚染底質(富岩運河底質)試料に適用し、土壌加熱槽において大部分のダイオキシン類の分解が可能であること、汚染試料の無害化が可能であることを示した。さらに、排ガスを乾燥前の土壌/底質と粉炭とを混合した試料を充填したカラムと炭化物充填カラムの2 段システムにより、排ガス中のダイオキシン濃度の基準値(処理目標0.1ng-TEQ/m3)を満たすことができた。運転コストの大部分は、汚染土壌/底質トンあたり100kg の粉炭と空気空塔速度3 cm/sec の電気代である。粉炭の発注量により必要経費は異なるが、汚染土壌/底質1 トンあたり、必要な粉炭は1 万円程度となる(電話ヒアリング)。したがって、トン当たりの処理コスト目標値5 万円を十分に下回ると推定される。

■ K2356  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22019
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

汚染土壌/底質の10wt%に相当する粉炭を加えて混合して、空気空塔速度3 cm/sec の条件下で着火し、目標加熱温度の650℃以上(ダイオキシン類の分解するうえで必要な温度条件)を満たすことができ、これを実汚染底質(富岩運河底質)試料に適用し、土壌加熱槽において大部分のダイオキシン類の分解が可能で、ダイオキシン類汚染土壌/底質の分解無害化が可能であることを示した。さらに、排ガスを乾燥前の土壌/底質と粉炭とを混合した試料を充填したカラムと炭化物充填カラムの2 段システムにより、排ガス中のダイオキシン濃度の基準値(処理目標0.1ng-TEQ/m3)を満たすことができた。
以上のように、吸着能がある炭化物(粉炭)を用いた低コスト型ダイオキシン類汚染土壌/底質の無害化技術の適用可能性を示すことができた。研究期間においては、加熱分解過程で発生する排水にもダイオキシン類が含まれることは判明したが、排水処理については十分な検討ができなかったので、今後の課題としたい。ただ、排水処理として、粉炭による吸着処理ができる、あるいは凝集沈殿処理とその汚泥の脱水処理後には、汚染底質として本無害化技術を適用できると考えている。
実験室スケールで実証できた「炭化物を用いたダイオキシン無害化技術」は、炭化物のコストによりダイオキシン類汚染土壌/底質の処理コストが大きく依存するので、大量の発注が可能となれば、トン当たりの処理コスト目標値5 万円を十分に下回ると推定される。
ダイオキシン類汚染底質の浚渫後、セメント固化して、最終処分場に埋立処分する方式が処理コストの観点から実際には採用されることが多い。本研究で検討した「炭化物を用いたダイオキシン無害化技術」は、これとほぼ同等の処理コストとなることから、ダイオキシン類の分解無害化を達成できるので、社会への貢献の可能性は非常に大きいといえる。
しかし、「炭化物を用いたダイオキシン無害化技術」は、まだまだ実験室スケールでの検討段階である。パイロットスケールでの実証(汚染土壌や底質と炭化物との混合方法、乾燥方法、排水処理法など)への展開などまだまだ課題は残されているのは事実である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦目的を明確にし、途中で生じた問題点に対しても、対応を検討し、一定の経過を得た点は評価できる。汚染土壌と底質で無害化率に差が出たことに、土壌ないし底質の性状の違いが係わっているのではないか。この点を解明することが、実用化に向けての課題の1 つとなると考えられる。
♦提案技術の有用性が確認されたので、実用化に向けての課題を克服して欲しい。
♦本研究は、汚染土壌や低質の分解無害化技術の低コスト化を直接的な目的とするものであるが、技術としての完成度(安定性、再現性、操作性等)の検討が不十分の上、低コスト化の達成可能性についても検討を進める必要がある。
♦実験室実験としての装置構成、処理すべき試料の位置は一応可と認められる。DXN の追跡が容易ではないが、それだけに実験状況の克明な把握が望まれる。さらに、実用化への適用の構想を示す必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K2138, K22078, K2357】完了を迎えた廃棄物処分場の安全保障のための有害物質長期動態シミュレーターの開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 島岡 隆行(九州大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
埋立完了後の最終処分場については、暫定的な跡地利用の際、あるいは廃止後の形質変更等によって攪乱が引き起こされる場合に、何か望ましくないことが起こるかもしれないという不安を払拭できない。問題は、処分場内に存在する各種物質が、埋立完了後から完全な安定化(土壌化)までの移行期間においてどのような消長を辿るのかが不明なためである。特に、有害化学物質と重金属に関しては、埋立完了後も埋立廃棄物中に残存し続け、その長期的動態が科学的根拠を持って説明できないことが、安全・安心を担保する上での大きな障害となっている。したがって、これらの物質について長期的動態を予測することは,埋立完了後の処分場のリスクを管理するために極めて重要である。本研究では、これまで申請者らが開発してきた処分場の数値計算モデルを高度化し、特に有害化学物質と重金属の挙動に焦点を当て、それらの長期的動態を予測する。
<成果>
埋立地内での有害物質の挙動を記述する各コンパートメントモデルを統合化した。ガス・温度・水分移動モデルをもとにシナリオを作成し、各シナリオにおいてワンセル型統合化モデルによって重金属や有害性有機物の長期挙動をシミュレートできた。住民アンケートより埋立地への不信感払拭、安心の確保に向けて埋立地の長期挙動シミュレーションはこれらの要求に合致するものであることが示され、本研究成果は社会への貢献性が高いと考えられる。

■ K2357  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22078
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

住民アンケートより埋立地への不信感払拭、安心の確保のためには、埋立地の長期安全性を示すことが必要であると見出された。本研究の成果は埋立地の長期挙動シミュレーションを可能とするものであり、前述の要求に対して有効に貢献できるものである。具体的には、埋立地の長期挙動シミュレーションによって、重金属や有害性有機物の長期挙動を科学的に予測するとともに、その結果を図示することで分かりやすく埋立地の安全性を提示することが出来る。従来は埋立地の長期安全性について根拠をもって説明することができなかったが、本研究で得られた統合化モデルによって、「なぜ重金属が埋立地内に留まるのか?」といった具体的かつ本質的な質問に対して、科学的な回答を提示することが可能となる。NIMBY 構造物である埋立地に対する近隣住民の理解促進や、新規埋立地の建設に向けた住民理解のためのツールとして、本研究に成果は有効に活用することが出来ると考えられる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦各サブテーマの成果が埋立処分地における長期的な有害物質管理にどう結びついていくのかを示す必要がある。研究としてはいくらか新たな知見が得られているとは思うが、実際の場面での活用を想定した検討が必要である。
♦長期間の予測はシミュレーションによってしか行えず、そのためのツールを現場のデータとの比較、検証の上、開発した点が評価できる。
♦本研究により、廃棄物埋立処分地の長期動態変化のシミュレーションの精度が向上し、より実務に応用が見込まれると思われる。今後さらに実施設でのデータ解析との照合による精度向上や操作性等の使いやすさを向上させ、処分場実務に実用されることが望まれる。
♦実用に供しうる予測プログラムの作成は極難題であり、それへの取り組みは評価される。
♦金属と有機成分のかかわり、平衡計算のシミュレーションにおける意義、モデルの扱い(均質相と看做しているようであるが、実際との乖離の水酸結果に及ぼす影響、円柱型BOXの境界条件、初期条件の与え方と結果への感度など)、ボウリング内流れ、堆積層との諸伝達機構なども説明されていない。すなわちこの検討による予測技術の進歩は分かりにくい。
♦評価するだけに、この検討の要点(複数)を具体的に明示し、それらの研究結果を示し、その評価を実用性に照らして述べられることを期待したい。
♦成果をどう生かすかを考えていく必要がある。


目次へ

研究課題名: 【K2117,K22047,K2358】アジア地域における液状廃棄物の適正管理のための制約条件の類型化および代替システムの評価 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 藤井 滋穂(京都大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
アジア地域の衛生改善上、液状廃棄物の適正処理は最重要の課題である。しかし、途上国の地域特有の制約条件が原因で、処理システムが適切に機能・普及しない例は少なくない。こうした制約条件に関する知見は、ケースごとのノウハウなどとして断片的に存在するが、系統だった集約整理(類型化)はなされていない。制約条件が類型化された下でこそ、代替システムを設計評価し、その実現性を現実的に検証するなど、現在の閉塞感ある衛生問題の現状を打開するための糸口を見出すことも可能となる。そこで本研究では、アジアの諸都市におけるフィールド調査に基づき、地域ごとの特色の適切な把握、汎用性を踏まえた系統だった制約条件の類型化、技術的な制約条件の整理と途上国における液状廃棄物処理システム整備の基盤情報の体系化、さらに、現地の制約条件に基づいた効果的な液状廃棄物管理戦略を構築する手順の提案を目指した。
<成果>
KJ 法を援用した参加型手法により、各都市の多様なステークホルダーの参加の下、液状廃棄物管理における潜在的な制約条件を包括的に9 分類した。データの制約の厳しい途上国都市において制約条件を数値化する方法を構築し、8 都市を対象に数値化およびポートフォリオ化を行うことで液状廃棄物処理システム整備の基盤となる制約条件を体系化した。
さらに、都市比較を通じて各都市における特徴的な制約を明らかにした。
重点調査では、ハノイ・郊外集落にて、都市化に伴う廃棄物管理の変化と複数の衛生システムの導入効果をマテリアルフローモデルを用いて明らかにした。クルナ・スラム地区にて、バイオガス処理を核とした衛生システムを提案し、実証調査を通じて屎尿資源の活用が衛生改善意識を形成するインセンティブとなる可能性を示した。
液状廃棄物管理のための技術・システムのデータベース化を行うと共に、途上国における液状廃棄物処理システム整備を効果的に進めるためのツールとして、各制約条件とマッチングした技術・システムの選択を支援するためのアルゴリズムを開発した。さらにこれを重点調査の2 地域に適用したところ、重点調査の結果と整合する技術システムが高評価となり、本アルゴリズムの妥当性・有効性が示された。
以上、制約条件の類型に基づく現地情報の体系化を行い、制約条件情報を開発したアルゴリズムにインプットすることで技術・システムの選択を支援する一連のプロセスについて、重点都市をケースに実証した。最後に、本プロセスは現地の多様な制約に基づいた液状廃棄物管理戦略構築の手順として提案された。

■ K2358  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22047
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

国連ミレニアム開発目標(MDGs)でも取り上げられるように、途上国衛生改善は国際的課題である。途上国での処理システム導入の成否は、こうした制約条件を打開できるかどうかにかかっているともいえる。本研究で類型化・数値手法をまとめ、ポートフォリオ化した潜在的な液状廃棄物管理制約条件は、途上国における液状廃棄物処理システム整備方策の体系化を目指す基盤情報となる。この成果は、同分野のODA などの効果的な展開への寄与が期待される。
また、本研究で構築した液状廃棄物管理技術・システムの選択を支援するアルゴリズムは、具体的なアプリケーションソフトウェアとして開発をすることができた。実用を目的に作成されており、途上国の行政関連をはじめとした関係者が、当地の多様な地域制約条件に基づき液状廃棄物管理戦略を構築する上で、有効なツールとなるだろう。こうした観点から、日本はもとより、各国協力機関を通じて各国関連組織へ提言をすすめる。ひいては、今後日本の液状廃棄物関連産業がアジア途上国都市に進出する際に、アジア都市特有の制約を体系的に理解した上で効果的に技術導入を進めていく上でも活用されることが期待される。
また、ハノイおよびクルナにおける重点調査の結果は、直接当該地域の廃棄物管理の実態を詳細に調査したものであり、その結果はカウンターパートを通じて、信頼できるデータが極めて乏しい途上国の現場において活用されている。さらに、それぞれの地域で現況を改善するシステムの検討および候補システムの効果の推計を行っており、この成果についても現地でのワークショップなどを通じて現地の関係者に公開されており、現実の衛生改善施策の検討においてその情報が活用されることが期待される。
本研究では、アジア9 都市のカウンターパートとの共同で研究を進めてきた。現地の液状廃棄物研究の専門機関を通じて、当該地域の関係者とワークショップを重ねるなどして上記をはじめとした本研究の成果は関係国に継続的に公開・宣伝されている。本研究で築いたアジア途上国の液状廃棄物専門家ネットワークを有効に活用し、関係を長期的に維持することで、本研究の成果を活用すると共に、その成果を現地カウンターパート共に改善することが計画されている。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦アジアの複数の都市の比較を行って情報を体系的に整理・提示するという研究の目的はほぼ達成されている、と評価できよう。ただし、にもかかわらず、個別の都市ごとの特別な背景事情があることを思わされる。その意味では、個別性と共通性、という両面からの検討の必要性がこの種の研究には不可欠であると考えられる。
♦アジア地域では、都市ごとに液状廃棄物の管理施策は異なると思う。特に、浄化槽の導入を考えた場合、浄化槽本体とともに、法的な諸制度も同時に移転しないと保守点検・清掃に不具合を生ずる可能性が高くなる。このシステム全体を考慮した管理戦略の構築が今後の課題としていきたい
技術的側面については一定の成果が得られていると判断される一方、地域特性を考慮した社会的受容性や各技術適用する際の能力開発などの社会的側面の検討が今後望まれる。調査対象の都市なり国なりが本研究をどの程度歓迎し、ニーズを感じているかが、この種の研究成果発揮の鍵をにぎるが、そのことについての確認が必要である。


目次へ

研究課題名: 【K2144,K22101,K2359】廃石膏ボードのリサイクル技術の総合化に関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 佐藤 研一(福岡大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃石膏ボードのリサイクル量の大部分は、石膏ボード製造メーカーが新築工事現場から回収して再利用したもので、解体系廃石膏ボードはその大部分が埋立処分されている。一方、廃石膏ボードから紙と分離した石膏(ニ水石膏)は、これを焼成(半水石膏)して既往の固化材の代替材料として利用しようと試みられている。しかし、半水石膏はフッ素等の有害物質を含有していることや硫化水素の発生が知られており、再利用後の地域環境の保全問題が懸念される。また、回収された廃石膏ボードには土砂等の不純物が付着していることから、半水石膏の品質管理の観点から対策が求められている。本研究はこれらの課題を解決し、地域環境保全を図ることを目的に以下の技術を開発する。
(1) 土壌改良材としての再生半水石膏(中性固化材)のリサイクル用途の開発及び再生半水石膏の品質基準の確立と地盤改良効果の把握
(2) 改良土からのふっ素および硫化水素ガス発生メカニズムの解明および防止対策技術の開発
(3) 有害物質(特にフッ素)の安価な溶出防止剤の開発
(4) 半水石膏の製造における前処理技術として廃石膏ボード分別解体工法の提案
(5) 再生半水石膏を用いた地盤改良材の利用マニュアルの検討
<成果>
(1)土壌改良材としての再生半水石膏(中性固化材)のリサイクル用途の開発及び再生半水石膏の品質基準の確立と地盤改良効果の把握
○ 土質材料の影響
○ 初期含水比の影響
○ 補助固化材添加量及び補助固化材の種類の違いの影響
○ 補助固化材を用いた地盤改良土の養生日数の違いによる影響
○ 固化材及び補助固化材添加量の違いがコーン指数に及ぼす影響
○ 発生現場及び破砕方法の異なる再生半水石膏が力学特性に及ぼす影響
○ 再生半水石膏地盤改良土の耐久性
○ 再生半水石膏地盤改良土の膨張性
○ 再生半水石膏地盤改良土の再泥化
以上9 項目について実験的な検討を行い、再生半水石膏を地盤改良材として用いる場合の問題点を解明した。
(2)改良土からのふっ素および硫化水素ガス発生メカニズムの解明および防止対策技術の開発
○ ふっ素溶出挙動の把握
○ 固化材(再生半水石膏)及び補助固化材(高炉セメントB 種)添加量が再生半水石膏地盤改良土からのふっ素溶出特性に及ぼす影響
○ 補助固化材の種類の違い(高炉セメントB 種、生石灰)がふっ素溶出特性に及ぼす影響
○ 養生日数の影響
○ 再生半水石膏の種類の影響
○ 土質材料の影響
○ 実地盤に適用した際のふっ素溶出特性の検討
以上7 項目について実験的な検討を行い、再生半水石膏を地盤改良材として用いる場合のふっ素溶出特性を把握し、地盤改良材としての利用時の問題点を解明した。
(3)有害物質(特にフッ素)の安価な溶出防止剤の開発
産業廃棄物を使用した不溶化材によるふっ素不溶化効果は見られたものの、全ての条件においてふっ素の土壌環境基準値である0.8mg/l 以下を下回る溶出濃度の結果は得られなかった。
(4)半水石膏の製造における前処理技術として廃石膏ボード分別解体工法の提案
実際の建築物の解体現場にて廃石膏ボード排出実態調査および分別解体工法の調査を行い、分別解体の現状把握が出来き、調査した現場ではいずれもきちんと分別解体が行われていることが明らかになった。
(5)再生半水石膏を用いた地盤改良材の利用マニュアルの検討
再生半水石膏を地盤改良材料として用いる場合のマニュアルを提案した。このマニュアルに従って室内及び現場において地盤改良固化特性と環境安全性を管理することが出来れば、利用目的に応じて再生半水石膏を有効かつ安全に利用することが出来る。

■ K2359  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22101
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

3 年間の研究成果として、再生半水石膏の地盤改良材として用いる場合におけるマニュアルの作成をすることが出来たことが一番の大きな成果である。このマニュアルに従って室内及び現場において地盤改良固化特性と環境安全性を管理することが出来れば、利用目的に応じて再生半水石膏を有効かつ安全に利用することが出来ると考えている。さらに下記の点については課題が残り、今後引き続き検討を行う予定である。
①堤体用盛土材としての適用を想定した強度定数の把握
再生半水石膏を用いた地盤改良材を堤体用盛土材に適用する際、円弧すべり面法により安定計算を行い、いくつかの円についての計算から最小安全率を求める。その際、すべり面上の土の粘着力c と内部摩擦角φ の強度定数が必要となる。また、堤防の長期安定性や、浸透流解析によって浸潤線が上昇して地下水の影響を受ける場合は、有効応力法の解析が用いられる。そのため、再生半水石膏により改良された土質材料の強度定数を把握するために、改良土の三軸せん断試験を行い検討する必要がある。
②添加方式の検討
本研究では全て粉体で土質材料と混合させて検討を行った。今後利用箇所を拡大させて有効利用を促進させていくためにも、柱状固化処理を想定した、スラリー混合による検討が必要となる。
③再生半水石膏の種類によるデータの蓄積
発生場所の異なる廃石膏によって溶出特性が異なるため、今後データの蓄積を行うことが一つの指標となると考えられるため検討する必要がある。
④拡散溶出試験の検討
再生半水石膏を用いた地盤改良材は、実地盤への適用を想定した場合、改良土表面からはふっ素の溶出や、pH の低下が予想されるが、透水性が低いため、移流による改良土内部のアルカリ分や重金属等は溶出しにくいことが考えられる。そのため、拡散係数を算出し、溶出挙動を把握する必要がある。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦再生廃石膏ボードの利用について、様々な角度から検討を行っており、多くの知見が得られたと評価できる。しかし、再生廃石膏ボードに補助固化材を加えて使用しており、地盤改良効果の大きな部分は補助固化材が負っていると思われる。再生廃石膏ボードを加えることで、どのようなメリットが生ずるのか。
♦材料と環境安全性の観点から丁寧なデータ取得が行われている。
♦本研究では、廃石膏ボードの地盤改良材としての有効利用に関し、様々な実験を行い、地盤改良効果や環境安全性について様々な知見を得ている。しかし有効利用の前提となる、現場での分別回収や焼成等のハンドリングとコストや実際に現場適用でのハンドリングやコスト等についても明らかにし、実用性についてどの程度の展望が開けるかを示す必要がある。
♦廃石膏ボード活用を目的とし半水石膏としセメント、高炉セメントとの混合も含め実用強度とF,S 溶出を実験的に調べ、廃石膏破砕物からの回収法、補助剤の効果を明らかにし、実用への参考資料を提供していることは評価できる。なお、審査員には石膏、セメント、土木に馴染みが薄い方も居り、これらの読者も念頭においた報告書が望まれる。


目次へ

研究課題名: 【K22005, K2361】ナノ秩序構造を用いたレアメタル高選択性高効率抽出技術(H22〜H23)
研究代表者氏名: El-Safty Sherif((独)物質・材料研究機構)

1.研究における達成目標

<最終目標>
修飾HOM により、使用済電子機器由来都市鉱石に代表される多様な金属混在物からの希薄非親銅戦略レアメタルの単離抽出技術を開発する。すなわち目的とする戦略レアメタルを90%台の歩留まりで、かつ、他の金属成分を分析限界下に抑えた単離抽出技術を実現する。その際、反応効率を0.1mmol/g-HOM、抽出速度0.1mmol/min、繰り返し使用による非劣化率95%以上を目指し、かつ\70/g-HOM 等経済性の確保にも努める。
<成果>
TMR による資源性評価に基づき戦略的レアメタルを選択し、まずAu(金)イオンの検出および抽出に用いるHOM 捕獲剤の作成、およびその捕獲剤を用いた金の抽出方法を確立した。続いて、白金族元素のPd(パラジウム)イオンを効率的かつ選択的に回収するHOM 捕獲剤を作成し、検出および回収に成功した。さらに希土類元素(レアアース)の中でも最近注目されているランタノイド元素(原子番号57(ランタン)から原子番号71(ルテチウム)までの15 の元素の総称)において、昨年度確立したHOM センサーを用いたランタノイドイオンのモニタリング方法による認識・検出・除去に関する研究を継続し、上記元素の1 つであるYb(イッテルビウム)の検出および抽出に成功した。
本年度目標の戦略性の高いDy(ディポシウム)の抽出に関しては、類似する元素の間の分離が困難なため選択的な回収にまだ課題が残るため、引き続き研究を行う必要がある。

■ K2361  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22005
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

修飾HOM を用いた技術は、従来のレアメタルリサイクルの経済的困難性に対して技術面から解決を図るものである。それにより、これまでは採算性の面から金、銅の乾式製錬と共存できる製錬特性を持つレアメタルに限定されていた使用済電子機器からのリサイクルシステムを、より広範な戦略的レアメタルをも対象としたものに構築していくことが必要である。特に非親銅系レアメタルには、Dy やNd(ネオジム)等の希土類やW(タングステン)のように天然資源由来ではほぼ一国が独占するものも多く、本技術により既利用資源を対象にした都市鉱山の開発が進むことは、我が国の経済だけでなく世界的資源リスクの軽減にも大きく貢献するものである。
課題としては、一つに経済困難性が挙げられる。これはHOM のさらなる技術開発により、有効面積の拡大、有効捕獲官能基の修飾密度の増大、修飾HOM の繰り返し使用寿命の増大などで単位量の修飾HOM あたりの反応容量を増加させるなどの方向性を考えていく。また、現段階の修飾HOM を用いても、システムの組み方として有価性の高い金の回収を並置することで、システム全体としての採算性を確保するということも可能である。
さらに、希土類など他のレアメタルの抽出可能な修飾HOM を開発できれば、マルチのレアメタルと貴金属回収システムとしての成立性はより高くなるものと期待できる。もう一つの課題は、発生する廃液や沈殿物の処理、すなわち「廃棄物の壁」の問題である。プラスチックや無機物化合物の混入がこれらの廃棄物の量を増す原因であり、「破解機」「都市鉱石化」のプロセスをより改善し、これらのプラスチックや無機酸化物の混入を極力抑える技術を開発していくことがますます必要になっているが、本来的に解体容易設計ができていれば、これらの混入は初期から防げるはずであり、設計段階からのリサイクル指向設計が本質的な解答を与えるものと期待される。
また、修飾HOM を用いた研究は、福島原発事故により放射能汚染問題や、世界的に問題となっているヒ素による飲料水汚染問題で、その対象となる元素(I(ヨウ素)、Sr(ストロンチウム)、Cs(セシウム)、As(ヒ素))の検出・除去に関しても、実用化展開による効果が期待できる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): a  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

4.委員指摘及び提言

♦基礎的研究として新たな発想からのアプローチであり、高く評価する。廃棄物を対象とするには、共存物質の妨害(特に高濃度に存在する金属や塩類など)にもかかわらず、選択的に低濃度のレアメタルが吸着されるかなどにも着目してほしい。是非実用化への道筋を示して欲しい。
♦社会的な着目を集めるテーマでは、手本となる研究開発で世界全体をリードすることが大切である。そうした役割を期待したい。
♦研究成果が利用されるよう期待する。


目次へ

研究課題名: 【K2111, K22083, K2362】日本海に面した海岸における海ごみの発生抑制と回収処理の促進に関する研究 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 田中 勝(鳥取環境大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
(1)発生源調査
海ごみの漂流経路を推定する調査方法を示す。特定のごみ発生源と漂着ごみとの関係を明らかにする調査方法について検討する。
(2)発生実態調査
定点詳細調査により漂着ごみの発生実態を明らかにする。また広範囲の漂着ごみの発生実態を把握するため、人工衛星画像データ解析、及びヘリコプターによる視認調査の利点欠点、調査効果の比較結果を示し、継続的で効果的な調査方法を提案する。
(3)発生抑制のための普及啓発
海ごみについての漁民や市民に対する教育や普及啓発の方法を提示する。また、海ごみの発生を抑制するための、法制度や国際協力のしくみを提案する。
(4)回収、処理システムの検討
海底ごみを漁民が持ち帰り、自治体が引き受け処理処分するための社会制度モデルを構築し、その社会実験の結果を得る。そして、構築された漁民、行政、市民、漁業協同組合並びに近隣国関係者のネットワークを通じ、海ごみ問題解決の先例を作る。
<成果>
(1)発生源調査
海ごみの漂流経路を推定する調査方法を示した。特定のごみ発生源と漂着ごみとの関係を明らかにする調査方法を示した。更に、研究成果を、東日本大震災で発生した津波ごみの移動経路推定にも応用した。
(2)発生実態調査
定点詳細調査により漂着ごみの発生実態を明らかにした。また広範囲の漂着ごみの発生実態を把握するための地域特性を踏まえた漂着ごみの調査方法を提案した。
(3)発生抑制のための普及啓発
海ごみについての漁民向け・海外向け・子供向け・市民向け等の教育用教材を作成することにより、教育や普及啓発の方法を提示した。また、海外訪問や国内・国際シンポジウムを開催する事により、海ごみの発生抑制のための法制度や国際協力について提案した。
(4)回収、処理システムの検討
海岸漂着物処理推進法の枠組みにおける海底ごみ持ち帰り回収制度モデルの社会実験を実施し、海ごみ問題解決のための海底ごみ回収処理システムを提案した。

■ K2362  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22083
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

開発した海ごみの漂流経路を推定する調査方法を東日本大震災で発生した漂流ごみの移動経路追跡に応用する。東日本大震災に起因する津波によって発生した大量の漂流ごみは、海外の国々に被害をもたらす可能性があり、その被害を少なくするための対策に貢献が見込める。位置情報を把握可能な発信機を漂流ごみに付加し、移動経路を把握する事により漂着の時期や場所を予測する。この方法により、漂流ごみによって生じる二次被害を最小化するための方策検討に役立てる事が出来る。また、漂流ごみのコンピュータシミュレーションによる移動経路予測が他機関で行われているが、そのシミュレーション精度を向上させることにも貢献が出来る。シミュレーション結果を補正し、確実に漂流経路を追跡するためには、実際の漂流物を利用した移動経路の実データを収集することは効果的であり、それは二次被害の回避に貢献出来ることが見込める。
今後も海ごみの発生抑制のための普及啓発活動を行っていく必要がある。その際に様々な対象者向けの教育用教材を活用する事により、より効果的な普及啓発活動を行う事が可能となる。その教育用教材を不特定多数が参照可能なインターネット上のホームページへ掲載する事により、更にその効果が高まると考えられる。このような普及啓発は、ごみ処理レベルの向上に貢献し、公衆衛生の向上、生活環境の保全・改善につながる見込みがある。
海岸漂着物処理推進法の枠組みにおける社会実験により、当事者が費用負担をする事無く継続可能な海ごみの回収処理が実現出来た。自治体は、海ごみの受け入れに対して拒否反応があるが、科学的な社会実験データに基づいて合理的な判断が出来るようになり、海ごみの回収や処理が円滑化されるために、結果的には海岸環境保全、海・河川の水質保全が促進される。グリーンニューディール基金に依存しない持続可能な回収処理システムの構築が今後の課題である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦日本海に面した海岸における海ごみの発生抑制と回収処理の促進、という研究課題とのつながりが不十分な結果である。東北地方での漂流ごみの挙動調査は別の課題として取り組まれるべきではなかったか。また、得られた知見は事例研究以上の汎用性があることを明らかにすべきである。課題に関しての抑制策の研究として、シンポジウムやこども向け教材(劇やクイズ)作成・実施という本来行政が行う事業であるべき内容に終始している点も研究費の使途としての適正に疑問なしとしない。
♦得られた研究成果の環境政策に対する具体的な展開を示す必要がある。
♦一定の成果が得られていると判断される一方、委託費の一部に研究構成メンバーとの役割分胆に説明が求められる点があるように思われる。
♦漂流ごみの経路と海流との関係を考察していただきたい。多くの人に分かってもらえる研究である。得られた知見の普及発展に努力していただきたい。


目次へ

研究課題名: 【K22016, K2365】人口減少とインフラ老朽化時代における生活排水処理システムの持続的マネジメント戦略 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 細井 由彦(鳥取大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
人口減少と施設の老朽化が進む状況の下で、日々欠かすことのできない生活排水処理事業を、持続的に継続するための方策を検討する。このような傾向が顕著である小規模あるいは中規模の事業体においては、集合処理を実施している場合に浄化槽の効果的な利用が不可欠であるとの観点から、そのための有用な情報を提供する。すなわち、浄化槽事業の全国的な状況や、これまであまり明確にされていない、浄化槽の維持管理や老朽化、汚泥の収集輸送費用などの実態について明らかにする。また人口減少や高齢化を考慮して、中小規模の汚水処理施設の整備や更新を実施する方策について、費用や環境影響を考慮して検討し、種々のケースのシミュレーションを行い、具体的な持続的マネジメント方策を提案する。
<成果>
全国的な統計データ及び種々の現地視察により、浄化槽事業の経営は厳しく一般会計からの繰り入れに頼っている状況が明らかになった。老朽化したし尿処理施設、あるいは地震による被災を受けたし尿処理施設に対して、し尿や浄化槽汚泥を下水道に受け入れている例が示され、今後の汚水処理事業を継続するための重要な方策であると思われる。
浄化槽維持管理業者、市町村に対するアンケートにより浄化槽に維持管理の実態を調査した。またし尿処理施設の老朽化の状況について調査した。
浄化槽汚泥処理の広域化、人口減少が予想される小規模地域における汚水処理方策(集合処理、個別処理、PFI 導入)、過疎化が進む集落排水処理事業の更新方策(統合化、個別処理導入)、人口減少が進む地区の小規模下水道事業の更新方策(長寿命化、個別処理導入)、小規模生活排水処理事業の費用負担方策、小規模集合処理システム及び浄化槽施設におけるライフサイクルアセスメントなどにつき、ケーススタディを中心に具体的に検討を行った。

■ K2365  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22016
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

人口減少や厳しい財政状況により、今後の汚水処理事業を継続していく上でいかなる方策をとるかに頭を悩ませている事業体は多いものと予想される。とくに人口減少が著しい場合、これまでのシステムをそのまま継続することが難しく、今後の事業のあり方を再検討する必要性にも迫られると考えられる。本研究では数々の現地調査と、種々の具体的なモデル事業例をあげてケーススタディを行っており、このような事業体が今後の汚水処理事業を検討する上でのヒントになると考えられる。
現地調査の結果つぎのような情報が利用可能である。
○ 浄化槽事業における各種維持管理費の実態
○ 浄化槽事業におけるPFI 導入時の留意点
○ 老朽化したし尿処理施設を有する事業体の今後のし尿処理、浄化槽汚泥方策
○ 浄化槽の地震対策:持続的経営方策として具体的には次のような事例が提案され、その妥当性が分析されている。
○ し尿から浄化槽汚泥への移行、し尿処理施設の老朽化、財政の逼迫が進む状況への対策としての浄化槽汚泥処理の市町を超えた広域化
○ 汚水処理整備計画を新規に作成する必要のある小規模地域において人口減少を考慮して集合処理、個別処理の選択を含む事業計画及びPFI 導入計画
○ 下水道の管路補修と設備機器交換、浄化槽本体の長寿命化とブロワに関する省エネ化、機器・部品の延命化策についてのモデル化とライフサイクルアセスメント
○ 老朽化した集落排水処理施設分散地域における、施設の統合、個別処理への切り替えを考慮した更新方策の検討
○ 人口減少が進む老朽化した集合処理地域における、更新後の個別処理の導入を考慮した施設の長寿命化政策
○ 人口減少地域の小規模な浄化槽事業における料金設定と世代別負担の検討

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): a  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦主に鳥取県内をフィールドとして行われる研究との印象があって、事例研究となることがおそれられたが、評価できる成果をあげている。人口減少地域における生活排水処理システムを考えるという環境政策の課題に対する支援の素材を与える研究成果である。提言としての行政の縦割りの是正の点はすぐにも行政が参考にして制度の見直しを始める手がかりにすることが望まれる。詳しい研究成果が行政、立法、地域関係者へ発信されることを期待したい。
♦緻密な研究成果が得られているが、生活排水処理に関することがテーマになっており、本事業の趣旨である循環型社会形成推進との関連性が薄く感じられる。
♦研究費規模に対して一定の成果が挙げられていると判断される一方、購入した書籍と本研究との関連が俄かに理解しがたい点がある。なお経費の内訳と成果との関係に不明な点が少なくないため、より詳しい説明が求められる。
♦生活排水処理施設(し尿処理)の問題は技術問題はもとより、類似した事業を扱う官庁が3 つ縦割りになっており、予算的にも個人負担と公的負担の度合いがまちまちであることから、実態を充分わきまえた研究者によるきめ細かい調査研究が必要である。少ない予算にもかかわらず今後の政策に有効な成果が得られている。


目次へ

研究課題名: 【K22018,K2367】炭素還元を利用した廃リチウムイオン二次電池からのレアメタルとLi の同時回収 (H22〜H23)
研究代表者氏名: 平井 伸治(室蘭工業大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
廃リチウムイオン二次電池のリサイクルは、現状では、解体、破砕、焙焼、選別の後、湿式法が適用されている。一部の小型電池では、電解液を残したまま最初に焙焼が行われる場合もある。これらの焙焼において、その後の湿式工程におけるリサイクルされる材料の純度を向上させるために、破砕した正極活物質に黒鉛を加えた炭素還元によりCo、Ni、Mn を予め濃縮させようとする動きもある。本研究では、乾式法の長所を生かしながら、焙焼のみによりレアメタルと酸化リチウムを同時に分離・回収するプロセスを構築することを目的とした。最近では原材料費の大幅な低コスト化を目指したLiNiO2、LiMn2O4 やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2 も正極活物質として用いられ、これらの混合物からそれぞれのレアメタルを回収する必要がある。基礎研究としてそれぞれ試薬のLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4の混合物から構成される模擬正極活物質から黒鉛負極材の粉砕粉を還元剤に用いた炭素還元によりレアメタル回収を試みた。また、一部の小型電池において、電解液を残したまま焙焼が行われる場合がある現状から、最初に焙焼時における電解質の不活化について検討した。
<成果>
試薬のLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4 の混合物から黒鉛負極の粉砕粉を還元剤に用いた炭素還元によりレアメタル回収を試みた。最初にLiPF6 への生石灰添加による無害化について検討した結果、LiF の他、熱分解生成物であるPF5 とCaO の反応により生成したものと推定されるCaF2 を生成が確認された。次に、粉砕と篩分けにより廃正極からアルミニウム、廃負極から銅の分離を試みたところ、アルミニウム箔/正極活物質、銅箔/黒鉛それぞれの界面の容易な剥離性により、廃正極の粉砕粉ではAl 濃度が0.07mass%、廃負極材の粉砕粉ではCu濃度が0.01mass%まで減少することを確認した。焙焼実験では、最初に250 Paの真空中においてLiCoO2 のカーボンブラックによる還元を試みたところ、焙焼温度が1323K ではCo とLi2O のピークが検出されたが、1373K ではLi2O のピークが消滅し、Coのみとなった。次に、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4 の混合物から黒鉛負極の粉砕粉を還元剤に用いた炭素還元を行ったところ、15 Pa の真空中、焙焼温度が1373 K の真空焙焼により、Ni-Co 合金およびMnO の生成の他、Li2O の揮発と凝縮を確認した。また、焙焼実験においてトラップ長や形状を工夫することにより、約 70 mass% 程度のLi の回収が可能になった。

■ K2367  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22018
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

○リチウムイオン二次電池の社会における必要性
リチウムイオン二次電池の2011 年度における世界市場規模は1 兆1,693 億円であるのに対し、2015 年度には1 兆8,834 億円に膨れ上がることが予想されている。今後は、再可能エネルギーの導入活性化やバックアップ電源需要の増加による電力を一時的に貯蔵する電力系統連系用蓄電池への展開も期待されている。
○リチウムイオン二次電池のリサイクルの必要性
リチウムイオン二次電池の正極活物質を構成するCo, Ni, Mn はレアメタルである他、Li については埋蔵地域が南米と中国に偏在していることと、独占的供給による需要ギャップが懸念されるためレアメタルに位置付けられる場合がある。リーマンショック時には、多くのレアメタル価格が軒並み下落しているなか、炭酸リチウムとしてその9 割以上が電池に使用されているLi 価格の回復は早く、かつ大きな下げには至らなかった。
○乾式法によるリサイクルプロセスの必要性と期待される成果
正極活物質の焙焼と湿式法(酸浸出)を組み合わせたプロセスによりレアメタルが回収されてきたが、Li は回収されていない。一般的に、乾式法はリサイクルした材料の純度が低いという欠点が指摘される場合があるが、コンパクトな炉で、大量処理が短時間で可能であり、単位質量当たりのコストが安価という特徴がある。大量の廃液処理や発生した酸性排ガス処理も不要となる。
○現状のリサイクルプロセスへの適用
現状では、中小のリサイクル業者がリチウムイオン二次電池の解体、破砕、焙焼、選別を受け持ち、その後、大手の金属製錬企業で湿式法が適用されている。一部の小型電池では、電解液を残したまま最初に焙焼が行われる場合もある。これらの焙焼において、その後の湿式工程におけるリサイクルされる材料の純度を向上させるために、破砕した正極活物質に黒鉛を加えた炭素還元によりCo、Ni、Mn を予め濃縮させようとする動きもある。
このような現状において、本研究成果は、焙焼時に電解質が残存していても消石灰を共存させるだけで電解質の不活化が達成され、さらには正極活物質、黒鉛のアルミニウム箔、銅箔への密着性が強固でないことから、焙焼前に簡単なカッターミキサーによる粉砕により箔を含まない正極活物質粉末、黒鉛粉末の作製を可能にした。また、大手の金属製錬企業における湿式法を適用しなくても、真空中炭素還元焙焼のみで、材料の純度の向上は勿論のこと、Li も同時に回収できることを明らかにした。これらは、リチウムイオン二次電池の解体、破砕、焙焼、選別を受け持つ中小のリサイクル業者に直接役立つ知見である。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦今回の基礎研究で技術開発の見込みが得られたので、次のステップでの飛躍を期待したい。
♦本研究では、廃リチウムイオン二次電池からのレアメタルとリチウムの同時回収を目指して様々な実験研究を行い、その範囲で多種の知見が得られているが、実用に向けての展望は開けていない。
♦廃リチウム電池よりコバルトとリチウムを炭素との焙焼還元により乾式で回収できることを実験的に確かめている。正負電極の粉砕によりリチウム,コバルト化合物を剥離分離可能である事も認めたい。焙焼は250Pa 真空で行われ、 温度制御によりリチウムとコバルトの分離も可能である。成果の実用化へ道筋を明確にすることが大切。


目次へ

研究課題名: 【K21045, K22045, K2369】干潟の生態系サービスを持続的に提供する人工干潟の創出への製鋼スラグの適用 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 西嶋 渉(広島大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
本研究では、人工干潟の造成砂として製鋼スラグを用いた場合、水産資源の生産性において期待されるメリットを明らかにすることを目指し、指標生物として二枚貝のアサリを取り上げた。二枚貝の生産のためには、受精卵から発生した浮遊幼生が着底すること、着底後の稚貝が親貝まで成長できること、そうしたライフサイクルが成立することが不可欠である。そこで本研究では、製鋼スラグにおけるアサリ浮遊幼生の着底性、稚貝の生残・成長性を評価した。この際、製鋼スラグを実際に使用した場合をシミュレートし、海水中でのエイジングが着底性や生残・成長性に与える影響も把握した。さらに、スラグにおける着底や生残・成長性に影響する因子を明らかにするため、エイジング前後におけるスラグの表面形状や含有物質の溶出性といった物理的、化学的、生物学的特性を評価した。そして、最終的には製鋼スラグで造成した干潟でもアサリのライフサイクルが成立しることを示すこととした。
<成果>
脱リンスラグ、フェロマンガンスラグへの浮遊幼生の着底性は地御前干潟海砂の約10倍であることを明らかにした。この高い着底性は、主に溶出物に起因しており、他に表面の滑らかさも寄与していた。また、浮遊幼生を誘引し、着底を促進させる金属として、Znを特定するに至った。
一方、両スラグへの浮遊幼生の着底性は、エイジングにより低下し、2 ヶ月で海砂と同程度となった。この低下は表面の滑らかさの変化ではなく、着底促進物質の溶出能の低下に起因することが示唆された。また、エイジング期間に形成された生物膜による着底への影響は確認できなかった。
両スラグにおいては、着底後の稚貝の減耗が大きく、脱リンスラグで海砂の50〜13%、フェロマンガンスラグで24〜5%となった。その一因としてアルカリ溶出によるpH 上昇が考えられた。しかし、生残した個体の成長は海砂と同レベルであった。また、20 mm 程度まで成長した稚貝は生残、成長とも海砂と大差なく、成熟サイズまでの成長できたことから、スラグ上でアサリのライフサイクルが成立しうることが示された。

■ K2369  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22045
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

近年、人工干潟の用いる海砂、川砂の採取は困難となっており、海砂代替材として製鋼スラグが注目されている。しかし、その普及促進には天然土砂に勝るメリットを見出すことが重要である。本研究では、人工干潟の造成砂として製鋼スラグを用いた場合、水産資源であるアサリの生産において期待されるメリットを明らかにするため、アサリ浮遊幼生の着底性や生残・成育性を評価した。その結果、浮遊幼生のスラグへの着底性は高いことを示したが、着底稚貝のその後の生残性は海砂より低かった。但し、生残した稚貝の殻長は海砂と同程度であった。また、20 mm 程度の稚貝では生残・生長性に遜色なかった。従って、スラグのメリットは浮遊幼生の高い着底性、デメリットは着底稚貝の生残性低下であることが認められた。
生残率低下の原因については、今後の検討課題である。一因は高pH と考えられるが、この点は高pH とならない程度までスラグに天然土砂と混合することで克服することが可能である。このように、スラグと天然土砂の混合材を用い、スラグのメリットである高い着底性を活かしながら、アサリ浮遊幼生が着底して成育できる再生産の場を創出することにより、持続的にアサリ資源という生態系サービスを得られることが期待される。但し、水産物として利用するアサリについては、金属の蓄積状況を別途把握しておく必要がある。
一方、本研究は、スラグの高い着底性がスラグからの溶出物と表面の滑らかさによって説明できることを確かめ、浮遊幼生を誘引して着底を促進する金属としてZn を特定した。
しかしながら、スラグ溶出物の効果は説明できていないため、今後は溶出物に含まれる着底促進物質の解明をさらに進める必要がある。こうした情報は、浮遊幼生の着底性が極めて低く、稚貝の散布に依存している既存のアサリ漁場に対し、着底性を向上させて自律的再生産能を付与するための漁場改善材の創出に応用できる。さらに、Zn などの金属による浮遊幼生の誘引、着底促進効果を解明すれば、アサリのみならず、他も含めて二枚貝の生態への道筋となるなど、学術的波及効果も期待できる。

3.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦貝類の幼生の溶融スラグの着底について、段階的な試験を行い、新たな知見が得られたものと評価できる。配分された研究費に対して十分な成果が得られたものと評価できる。
♦本技術の生残効果や環境安全性に疑問がある。
♦本研究は製鋼スラグの干潟への適用に関し、様々な観点から実験を行い、その可能性や影響について追求したもので、アサリ浮遊幼生の着低性やエイジングの影響等様々な知見は得られ、その範囲で一定の評価はできるが、実用に向けては十分な成果を上げたとは言えない。本研究での追求課題以外に環境影響や社会性からの検討が必要であろう。ただ本研究は研究費の割に成果が多く、費用効果のいい研究と言えよう。
♦鉄鋼スラグ浜への二枚貝(アサリ)生育可能性を基礎実験的に調査し,溶融スラグ、脱リンスラグ、フェロマンガンスラグでは亜鉛,マンガン溶出と表面滑らかさが理由で着床数は山砂の6〜10 倍であったこと、しかし20 日で着床数は自然干潟並みに低下したこと、UV照射で着床数が増加している事(原因未解明)、着床した稚貝の生存性は低い(原因はPH上昇にあろうと考えられる)が成長したメス貝の大きさは海砂と差はなかった事から鉄鋼スラグを用いたライフサイクル成立の可能性を認めている。
実地適用への検討に進まれたい。


目次へ

研究課題名: 【K2132, K22052, K2371】鉄鋼スラグからのリン回収新規リサイクルプロセスの開発 (H21〜H23)
研究代表者氏名: 難波 徳郎(岡山大学)

1.研究における達成目標

<最終目標>
鉄鋼スラグには、脱リンスラグの他にもリンを含むものがあり、高炉水砕スラグにも同程度のリンが含まれている。鉄分の含有量が脱リンスラグでは高く、高炉水砕スラグでは鉄分はほとんど含まれない。本研究では、脱リンスラグの他に高炉水砕スラグに対して同様の処理を施し、リンの回収挙動などに関する比較を行うとともに、リンの回収リサイクルプロセスの開発を行う。数値目標は下記の通りとする。
①リンの回収率80%以上
②リン肥料へ再利用する場合、肥料公定規格を満たすようリン酸含有量3%以上、窒素含有量1%未満
試験試料に用いる鉄鋼スラグは、岡山県内の製鉄所から排出されるものを用いる。申請者は平成18、19 年度において、岡山県産業振興財団の仲介により高炉水砕スラグを提供いただき、高純度シリカの分離回収プロセスの開発研究を行った実績がある。今回の研究で用いる鉄鋼スラグは、異なる2 社の製鉄所から提供いただく予定である。
<成果>
脱リンスラグにB2O3 やSiO2 を添加したガラスを分相させ、酸処理によりリンを効率的に回収可能な処理条件の探索を行った。また、分相に伴うリンの分配挙動の解明を目的とした基礎的実験を行った。これより、下記の成果を得た。
(1)リンの回収率
脱リンスラグを高温で溶融しガラス化させた後、熱処理により結晶化させたスラグガラスを酸に浸漬することにより、80%のリンを選択的に酸に溶出させることができた。
(2)リン肥料への再利用
上の処理の際、リンと共に溶液に溶出するアルミニウムの割合は10%にとどまっていた。
公定規格を満たすと共に、植物の生育阻害元素をリンから分離することができた。
(3)リンの単独回収の可能性
Al2O3 やTiO2 がリンの分配挙動を支配することを見出した。リンの分配に対して、より高い効果を有する成分を見出すことができれば、リンの単独回収も可能になると思われる。

■ K2371  研究概要
http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/kagaku/h22/kagaku.html#K22052
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.得られた成果の実用化、社会への貢献の見込み及び課題

本事業では、脱リンスラグにSiO2 を添加してガラス化させた後、酸処理することにより、リン肥料として再利用可能になることを明らかにした。ここで、SiO2 は試薬を用いたが、実用化を考えた場合、廃棄物をSiO2 原料として用いることが望まれる。研究代表者のグループでは、やはり鉄鋼スラグの一種である高炉水砕スラグから高純度なSiO2 を回収するプロセスの開発に既に成功している。このプロセスを併用することで、鉄鋼スラグのリン肥料へのリサイクルが可能になる。また実用化にあたっては、脱リンスラグから調製したリン肥料が植物の生育にどのような影響を与えるかについても、調査する必要がある。また、処理コストも重要であるが、製鉄所であればガラス化に必要な熱源を容易に確保することができる。むしろ、酸やアルカリ溶液の処分の方が大きな課題と言え、廃液の再生、循環再利用プロセスの開発が必要である。
近年、米国や中国などリン鉱石の生産国は、自国の需要確保のため輸出を中止したり制限する傾向にある。このためリン資源を100%輸入に頼っている我が国では、リンの安定確保が急務となっている。鉄鋼製造プロセス、特に脱リン過程で発生するスラグ中に含まれるリンの量は、我が国におけるリン鉱石の輸入量の80%に匹敵すると試算されている。
鉄鋼スラグ中のリンの回収リサイクルプロセスが構築されることによって、国内におけるリン資源の循環型利用、国際価格に影響を受けない新しいリン供給体制の確立、グローバルな環境保全に貢献することなどが期待される。
本事業で開発した処理法では、最終処分場に埋立処分された廃棄物からリンを始めとする様々な資源を回収することも可能である。現在我が国では、枯渇性の希少元素を必要としない代替技術の開発、いわゆる元素戦略プロジェクトが進められているが,廃棄物中の元素を回収し循環利用するシステムの構築は重要であると言える。

3.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

4.委員指摘及び提言

♦鉄鋼スラグの新たな資源化への試みとして注目できる研究である。ただし、十分に成果を得ていると評価するためには、やや距離を感じさせられる。
♦一定の科学的知見が得られていると判断される一方、政策的な展開についてより明確に示す必要がある。
♦鉄鋼スラグからのリン回収システムの構築という限定的リサイクル技術の開発であるがそれだけに実用性は期待できる。


目次へ

研究課題名: 【K111013】輸入不要の還元剤を用いる希土類磁石合金のリサイクル法の確立(H23〜H23)
研究代表者氏名: 鈴木 亮輔(北海道大学)

1.研究における達成目標

<全体目標>
ハードディスク、エアコン、電気自動車類に用いられる高性能省エネモーターに不可欠な希土類磁石合金(主としてNd-Fe-B 磁石)の表面は、空気酸化により希土類元素の酸化皮膜で覆われる。この皮膜は融点が高く耐火物と反応し易いので磁石合金の再溶解リサイクルが困難であり、有害元素ボロン含有廃棄物として管理廃棄処分を行う必要があった。本研究目標は、希土類磁石の工業廃材に対し、前処理、酸化物除去および再溶解からなる一連のリサイクル法を確立することである。具体的には、脱炭処理もしくはメッキ除去からなる既報の前処理を利用し、溶融塩化物浴中のCaO を電気分解して還元剤Ca を発生させ、その場で酸化皮膜に作用させて磁石合金に還元除去する処理技術を確立する。本研究では、再溶解に至る一連の工程を設計した上で、これに最適な組み合わせと電解の操業条件を定め、実用化時に経済的なリサイクル方法を完成する。
<本年度の目標>
最もリサイクルが産業的に成立しやすい点を重視して、ネオジム磁石の工場内粉末屑から酸素濃度の低い磁石合金に再生すること、すなわち市販ネオジム磁石の工場内スクラップから酸素濃度5000ppm、炭素濃度350ppm の金属合金に再生することが第1 の数値目標である。これをクリアすれば、再溶解後に市販新品のレベルまでスクラップを再生することが直ちに可能である。研究室規模の第二の目標として電解後の段階で酸素濃度8000ppm、炭素濃度1000ppm の達成を図り、磁気特性の面でもバージン材と遜色がないことを示す。このための溶融塩の選定、操業条件の設定は経済性も加味して定めるべきである。第三の目標は、Ca 原料による再生プロセスよりも経済的に極めて安価になることを示すことであり、本質的に効率の悪い実験室規模であっても電流効率50%を超えることを示す。
<本年度の成果>
脱炭処理もしくはメッキ除去からなる既報の前処理を利用し、溶融塩化物浴中のCaOを電気分解して還元剤Ca を発生させ、その場で酸化物層に作用させて酸素を除去し金属合金に還元する処理を想定し、これに対して再溶解を施す一連の工程を設計した。純粋なCa による還元に比べ電解還元では還元速度の低下が懸念された。
これに基づき、電気分解法における実験的な条件を確立し、その反応機構を調査した。想定どおりのCa 還元で解釈できることを示した。また、酸化鉄、酸化ネオジムの還元実験の結果から、エタノールを用いて凝固した塩化カルシウムを除去するとの最適実験条件を定めた。NdOCl の生成にもかかわらず、炭素坩堝を陽極にして陰極電流密度を向上させ高速還元するとネオジウム(Nd)が得られた。これら条件から、ネオジム磁石スクラップの再生に挑み、14%から3.4%酸素のレベルまで濃度を下げることに成功した。以上、実用化時に経済的に適用可能なリサイクル方法への指針を得た。

■ K111013  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/jisedai.html#1013
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): a

3.委員指摘及び提言

♦短期間での実験にもかかわらず、基礎的な知見は十分に得られている。また成果の実用化への道筋を明確化した点も高く評価できる。
♦設計時におけるガイドライン、設計手順を明示することにより仲間も増え、実用的なリサイクル方法の発見も加速する。
♦経済的なリサイクル方法を完成するという研究目的に向け、更なる研究が必要であるように感じる。


目次へ

研究課題名: 【K111014】都市鉱山中のガリウムとインジウムの完全分離回収システムの構築 (H23〜H23)
研究代表者氏名: 國仙 久雄(東京学芸大学)

1.研究における達成目標

<全体目標>
持続可能な豊かな社会生活を送るために必要な先端産業を支えるレアメタルは、既に輸入され製品化されている。これらは用途終了後にレアメタルを含む産業廃棄物となり、近年は都市鉱山と呼ばれる資源として見なされている。この中からGa とIn の分離回収を行う。
<本年度の目標>
本研究では、Ga とIn 相互分離を指向したイオン交換分離材を合成する。この分離材の捕集挙動を明らかにする。加えてイオン交換分離材をカラム法に適応し、微量濃度の廃液からのGa とIn 相互分離系の構築を目的とする。
<本年度の成果>
新規分離材の捕集挙動を明らかにした。この結果を基にして分離材をカラム法に適用してGa3+とIn3+の吸着分離を行った。その結果、対陰イオンとして硝酸イオンを選択した場合、相互分離は困難であったが、過塩素酸イオンを選択したところ、両金属イオンをカラムに保持出来た。その後、pH 制御した溶離液をカラムに通すことで、始めにIn3+が溶離し、その後Ga3+が溶離して相互分離が可能となった。

■ K111014  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/jisedai.html#1014
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.評点

   総合評点: A    ★★★★☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

3.委員指摘及び提言

♦単年度の研究としてみる限り、一定の成果をあげていると評価でき、さらに今後の研究課題をも明らかにし得ている。
♦研究プロジェクトを組織し、複数の研究体制で実用化を指向していただきたい。
♦基礎研究に位置づけられるが、今後、実証に向けた取り組みが望まれる。
♦太陽電池等を溶解した低濃度のGa3+、In3+を分離するというデリケートな技術の開発である。研究者は今後の課題も明確にとらえており、さらなる完成の域を待ちたい。


目次へ

研究課題名: 【K111028】既存インフラを活用した使用済み小型家電等からの資源回収システムの設計・評価に関する研究 (H23〜H23)
研究代表者氏名: 小野田 弘士(早稲田大学)

1.研究における達成目標

<全体目標>
社会コストミニマムでの使用済み小型家電等からのレアメタルを含む資源回収システムの構築が求められている。本研究では,新たな収集・回収ルートの構築や設備投資を必要最低限に抑制することを目的に、既存の一般廃棄物の収集・回収ルートおよび民間の破砕選別施設を活用することによる資源回収システムの費用対効果の算定を埼玉県におけるモデル事業を通じて実施し、その実現可能性を検証する.埼玉県に立地する複数の自治体から発生する分別回収された小型家電および破砕処理後の残渣を県内の民間破砕施設で受け入れ、破砕・選別を行い、希少資源が含有している可能性がある基板くずのレアメタル等の含有量を把握したうえで、本モデルによるマテリアルバランスを把握する。それらに基づき,既存インフラを最大限活用することによる経済性や環境負荷削減効果および本モデルの埼玉県内および全国への展開可能性について明らかにすることを目的とする。
<本年度の目標>
単年度のため同上。
<本年度の成果>
分別回収された小型家電を対象に、民間処理施設を活用した実証試験を通して環境性・経済性の検討を行った。その結果,乾式選別を行うCASE1、湿式選別を行うCASE2 でそれぞれ、再資源化率が84.7%、53.9%となり、共に現状の取引価格での評価では有価取引できる可能性が高いことがわかった。一方で、資源価格の変動を考慮すると逆有償となる場合が発生しており、有価取引を前提としない処理スキームを検討する必要があることを明らかにした。
事前に入手可能な製品の素材構成から破砕・選別後の経済性を推定することで、投入物の素材構成から回収物の素材構成を求めることを可能とした。これにより,さまざまな投入物に対する経済性を算出した。
自治体の破砕処理施設から発生している残渣を,再度民間処理施設で選別することで、表評価の前提条件においては、自治体の現状処理費用を低減しつつ、再資源化率を向上できることを示した。

■ K111028  研究概要
http://www.env.go.jp/houdou/gazou/13895/jisedai.html#1028
研究イメージ図

図 研究のイメージ        
詳細を見るにはクリックして下さい

2.評点

   総合評点: B    ★★★☆☆  
  必要性の観点(科学的・技術的意義等): b  
  有効性の観点(環境政策への貢献の見込み): b  
  効率性の観点(マネジメント・研究体制の妥当性): b

3.委員指摘及び提言

♦前提とするモデル、ケースの妥当性、汎用性の点はともかくとして、これを前提とする限り、優れた解析結果を得ることに成功しており、説得力のある研究内容となっている。政策支援研究という観点からみても、有用な結果となっている。
♦小型家電の種類と回収物との関連性で、小型家電の内訳はどのようなものか興味がある。
♦小型家電リサイクルでは、現実的に、収集輸送費、選別・解体等の人件費が経済性に大きく影響を与えると思われるので、これらの観点を含めて経済性を評価してほしい。
♦事例に基づく具体的な成果が得られていると判断される一方、経費における賃金ならびに委託費の割合が相当程度高いため、研究を進めるうえでの必要性についてより明確な説明が求められる。
♦既設民間処理施設の活用により、小型家電廃棄物の資源回収効率が如何に向上するかという点をねらった研究の目的は理解できるが、研究成果の分かりやすい説明が必要である。


目次へ