報道発表資料

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2007年09月04日
  • 地球環境

「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:インド」の結果について

 平成19年度環境省請負事業として、(財)地球環境戦略研究機関(IGES)は、インド・エネルギー資源研究所(TERI)とともに、8月29-30日にインド・デリーにおいて、「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:インド」を開催しました。この対話は、インドや中国を含むアジアの主要排出途上国との対話を通じて、京都議定書第一約束期間後の気候変動に関する国際枠組みについての議論を促進することを目的としており、今回のデリーに続き、9月13-14日には中国・北京での開催を予定しています。
 インドでの本対話には、日本及びインド等のアジア途上国の政策担当者、産業界、有識者をはじめ、主要先進国や国際機関の開発援助関係者等約70名の参加があり、2013年以降の気候変動枠組みのあり方に関して、活発かつ率直な意見交換が行われました。

1.開催日時・場所

開催日時:平成19年8月29-30日
開催場所:デリー・アショクホテル(Ashok Hotel)

2.実施主体

(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
インド・エネルギー資源研究所(TERI)

3.会議の概要

 2013年以降の気候変動枠組みのあり方に関して、セクター別アプローチ、低炭素技術、適応、コベネフィット(相乗便益)の4つのテーマについて、政策担当者や専門家間で活発な意見交換が行われた。本非公式対話の議題は以下のとおり。

セッション1:
セクター別アプローチ
セッション2:
低炭素技術
セッション3:
気候変動への適応
セッション4:
コベネフィット・開発便益
セッション5:
ディスカッション

本対話の主要なポイントは以下のとおり。

[1] セクター別アプローチ
  • セクター別アプローチは、途上国・先進国双方の将来枠組みへの幅広い参加を促す方策のひとつとして高く評価された一方で、同アプローチを制度化していくことが大きな課題であるとの指摘があった。
  • 途上国の中でも、1人当たりの排出量の多い国(サウジアラビア、韓国、南アフリカ、イラン、マレーシア、ベネズエラなど)、総排出量の多い国(中国、インドなど)は、先進国と途上国の中間に位置づけ、セクター別取組みを行うべきとの意見があった。
  • セクター別アプローチの実施には、削減目標やベースラインの設定、モニタリングなど、クリアしなければならない問題がある。また、実施に際しては、国内及び国家間における企業や業種間の差をどの程度考慮し、どのように目標値等を調整、一致させていくのかが大きな課題である。また、セクター別アプローチの適用は、削減目標のキャップと並行して行うべきとの意見も対話参加者から出された。
  • 現行のプロジェクト毎に実施するCDMの限界から、より包括的に取り扱うセクター別取組みへの期待が参加者から表明された。
[2] 低炭素技術
  • 低炭素技術の技術移転には大きなポテンシャルがあるが、投資や能力の不足など、その実現には課題もある。すでに導入された旧式の技術を更新することが容易でない(技術のロックイン効果)等の問題点も指摘された。新興国における「高炭素」技術へのロックイン効果を回避するためのメカニズムを、将来枠組みにおいて構築する必要性が議論された。
  • 途上国及び先進国において、他国への技術移転(水平的技術移転)とR&Dからの商業化(垂直的技術移転)を促す政策・措置を検討する必要があるとの意見が出された。知的所有権(IPR)に関しては、低炭素技術関連のものは弾力的に運用する必要性があるとの指摘があった。一方で、IPRの保護に関する規則が、どの程度技術移転を妨げているのかを調査・研究するのが先決であるとの指摘もあった。
  • 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)下の将来枠組み及びUNFCCC以外のイニシアティブ(例えばクリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)等)によって、どのように低炭素技術の移転に対するインセンティブを付与することができるかが検討課題として挙がった。また、将来枠組みは、低炭素技術開発・移転におけるUNFCCCとUNFCCC以外のイニシアティブによる相乗効果を考慮する必要があるとの意見もあった。
[3] 気候変動への適応
  • 適応問題には多岐にわたる課題があるが、開発計画や政策に適応を統合させること(開発政策への適応の主流化)及び適応資金が最重要課題であるとの認識が対話参加者の間で共有され、実際これら二点に関する発言が対話の多くを占めた。
  • 適応の主流化のためには、気候変動の影響予測や脆弱性評価が必要であるが、データや能力不足が課題との発言があった。なお、インドにおいて、本年、気候変動の影響に関する専門委員会が設立され、今後検討が進められることが報告された。
  • 適応対策は貧困国や貧困層に焦点を当てるべきという点について参加者の見解が一致した。
  • 途上国が気候変動に適応するための費用は年間数百億米ドルにのぼるとの世界銀行による試算があるが、国際気候枠組みにおける適応資金は現在2億米ドル程度にとどまっており、現状では途上国における適応必要性を満たすにはあまりにも不十分である、との指摘があった。
  • 資金メカニズムは汚染者負担原則(polluters pay principle)に基づくべきだとの意見が参加者から出された。
  • 新たな適応支援基金創設に関する様々な提案(化石燃料課税や航空券課税など)が紹介されたが、衡平性の観点から適切な資金メカニズムに関する更なる調査・研究が必要であるといえる。
  • 将来の影響については不確実性が大きいため、適応対策については、ステップバイステップで対応していくことが重要であるとの指摘があった。
[4] コベネフィット・開発便益
  • 開発が優先事項である途上国における気候変動対策を促進させるためには、開発ニーズの充足と同時に温室効果ガスの排出削減をもたらす、コベネフィット(相乗便益)アプローチを促進することが重要である。具体的手法として、コベネフィットに関する優良事例の収集、定量化手法の開発などが挙げられた。
  • クリーン開発メカニズム(CDM)のコベネフィットについては、認証排出削減量(CER)の多くが持続可能な開発の便益の低いプロジェクトから発生している点、また地理的な不均衡の問題がある点が指摘された。これに対して、持続可能な開発についての評価・モニタリングの制度化、政策CDMやセクターCDMの推進、公的資金の活用、ゴールドスタンダード等のCERの質を保証する認証システムの活用などが提案されたが、同時にコストの増大、手続きの煩雑化、民間資金による投資が妨げられるなどの問題点も指摘された。
[5] ディスカッション
将来気候枠組みにおけるインド等の途上国の役割について、政府政策担当者及び学界や産業界からの有識者がパネルディスカッションを行った。
  • 気候変動枠組条約と京都議定書の重要性を強調しこれらを踏まえない如何なる枠組みにも参加しないこと、共通だが差異のある責任から先進国が率先して取り組むべきであること、インドの1人当たりの排出量は少ないためOECD平均に達するまでは開発を優先すること、コベネフィットを考える際は開発ニーズが主で温室効果ガス削減が副次的便益と捉えられるべきことがインドの参加者から主張された。
  • インドはすでに、省エネや再生可能エネルギーにおいて包括的な政策措置を策定しており、2030年までにBAUレベル(政策を実行しない場合予想される水準)より3.5%の削減が追加コストなしに可能であることが報告された。
  • 将来枠組みにおける民間部門の参加の必要性について議論が行われた。多国籍企業は国境を越えて排出量削減を行う能力を持っており、そのような民間パートナーシップを構築するべきだとの考えが示された。
  • 気候の安定化のためには長期的な投資が不可欠であり、そのような投資を可能とするためには京都議定書よりも長期の枠組みを構築し、将来の不確実性を減らすことが重要であるとの指摘があった。
[6] 総括
今回の政策対話は、将来枠組みにおける大規模排出途上国(アジア諸国)の役割を考える上で重要と思われる4つのテーマ(セクター別アプローチ、低炭素技術、適応、コベネフィット)について、インドのみならず周辺国並びに先進国からの有識者を招いて有意義な議論を行うことができた。途上国と先進国の考え方の両者をバランスよく考慮することによって、より衡平で実効性のある将来枠組みの構築を目指すことが重要である。
連絡先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
tel:03-5521-8330(直)
 国際対策室長:和田 篤也 (6772)
 補佐:川又 孝太郎 (6789)
 担当:小林 豪 (6775)