報道発表資料

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2006年07月21日
  • 地球環境

「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:東南アジア」の結果について

平成18年度環境省請負事業として、(財)地球環境戦略研究機関(IGES)は、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)とともに、7月19-20日にタイ・バンコクにおいて、京都議定書第一約束期間以降の気候変動に関する国際枠組みについての議論を促進する目的で「2013年以降の気候変動枠組みに関する非公式対話:東南アジア」を開催した。
 同対話は、7月3-4日に中国において開催した北東アジアでの対話に続くものであり、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス、日本から政策担当者、産業界、学者、NGOsなど約70名が参加し、2013年以降の国際気候枠組みのあり方に関して、活発で率直な議論・意見交換が行われた。

1.開催日時・場所

開催日時:
平成18年7月19-20日
開催場所:
タイ・国連会議センター

2.実施主体

(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)

3.参加者

 東南アジア各国から政策担当者、産業界、学者、NGOsを中心に約45名が参加した他、日本側からは、環境省(水野国際対策室長)、IGES(森嶋理事長他)、浜中慶応大学教授他の12名、国連関係機関から13名の総計約60名が参加。

4.会議の概要

 2013年以降の気候変動枠組みのあり方に関して、開発・エネルギー安全保障、技術開発・移転、クリーン開発メカニズム(CDM)、適応の4つのテーマについて、政策担当者や専門家間で活発な意見交換が行われた。本非公式対話の議題は以下のとおり。

セッション1:
 2013年以降の気候変動枠組みへの視座
セッション2:
 開発・エネルギー安全保障
セッション3:
 技術開発・移転
セッション4:
 クリーン開発メカニズム(CDM)
セッション5:
 適応

本非公式対話の主要なポイントは以下のとおり。

[1] エネルギー安全保障・開発と気候政策
  • エネルギー生産、消費ともに温暖化ガス排出と深い関係があることから、人口が多く、また経済成長が著しいアジア諸国においては、エネルギー問題と気候政策の連携した取り組みが特に必要である。再生可能エネルギーの開発や省エネ対策の推進に積極的に取り組んでいく必要がある。
  • これまでは、必ずしも貧困削減と気候政策は一体的に議論されてこなかったが、途上国における優先課題である貧困対策として、貧困層に対するエネルギー供給が重要であることからも、貧困対策と気候政策を関連付ける取り組みが必要である。
  • 途上国独自の再生可能エネルギー技術や省エネ技術もあり、こうした技術を積極的に利用する必要性が指摘された。
[2] クリーン開発メカニズム(CDM)
  • CDMは途上国にとって有効な排出削減メカニズムであるが、CDMを効果的かつ継続的に実施していくためには、2013年以降はより長期の約束期間が必要である。
  • CDMの実施を持続可能な開発の実現とより一層リンクさせる必要がある。また、後発開発途上国(LDC)でのCDM実施を促進するために、LDCでのCDM事業については特に手続き簡素化・柔軟化を認めるとともに、事業準備資金等を先進国が支援する必要がある。一方、追加性条件を緩和することについては慎重な検討が必要である。
  • 先進国からの資金・技術移転を伴わず途上国が単独で実施するCDM事業(ユニラテラルCDM)をその事業によって得られる認証排出削減量(CER)を割り引く制度とリンクさせる手法が提案された。一方で、ユニラテラルCDMとして途上国のみでCDM事業を実施することができない途上国もあるなどの懸念も表明された。
  • 特定のセクターを対象としたCDMや特定のプログラムに基づくCDMについては、事業の追加性、CDM事業による排出削減量管理等の観点から更なる検討が必要である。
[3] 技術開発・技術移転
  • 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の究極目標を達成するためには、更なる技術開発、途上国に対する技術移転とともに、途上国国内での技術普及を促進する必要がある。ユニラテラルCDMもそうした政策のひとつとして捉えることが可能。
  • 市場を通した技術移転の促進に関しては、国際貿易機関(WTO)など国際貿易ルールの枠組みにおいて取り組むといった、CDMに頼らない新たなアプローチが示された。一方、商業的に移転が困難な技術については、UNFCCCプロセスを活用・強化することが必要であり、WTO等のプロセスと相互補完的な制度とすることが可能。
  • 民間セクターの積極的参加を促すためには、公的研究機関の活用や、優遇税制の導入など、政府の役割が重要である。
  • 途上国が、技術の発展段階を一足飛びに駆け上がる「かえる飛び(leapfrogging)」の必要性が認識されたが、その一方で、そうした新技術を運営維持管理していくための能力を併せて形成していく必要があり、技術の発展段階をひとつずつ登っていくステップ・バイ・ステップ・アプローチが現実的であるとの意見も出された。
  • 国際的な技術基準の設定について、各国の国内事情を反映させる必要性から否定的な意見が多く見られた。ただし、家電製品、運輸、ビルディングといったプロジェクト・ベースのCDMへの適用が容易ではない分野については、国際技術基準もひとつのアプローチとして考慮するべきだとの意見もあった。
[4] 気候変動への適応
  • 気候変動の緩和対策に比べ、適応問題に対する国際的な認知度は未だに低いが、東南アジア諸国では、既に気候変動に関する災害が多く生じており、早急に気候変動への適応に取り組まなければならない。
  • 国際制度については、適応問題に関する財政的な支援が十分ではなかったり、既存のメカニズムが複雑すぎるといった問題を抱えている。例えば、現行の地球環境基金(GEF)の適格性審査では、適応対策事業と開発関連事業を厳格に区別した審査が行われているが、両事業は関連性が強く、後発途上国(LDCs)にとって判別することが難しい。
  • 国内における適応への対応は、国によって差があり、国内ファンド設立など積極的な対応を行っている国もある。一方、多くの参加国では、気候変動による影響の評価や適応対策の専門家が不足しており、地域間および二国間協力の必要性が指摘された。また、国家開発計画における適応問題の位置づけやODAの有効活用の検討も重要であることが指摘された。
  • 適応に資する技術の情報公開・開発・普及など、官民協力の推進が期待されている。また、民間に対するインセンティブの提供とその手段について今後の更なる検討が必要である。
[5] 総括
 今後は、途上国における貧困対策等持続可能な開発と気候変動問題をより一層関連付け、国際的に取り組んでいく必要がある。その際、開発・エネルギー安全保障、技術開発・移転、CDM、適応については、今回の対話で示された意見・課題を詳細に検討し、アジア各国の懸念として将来枠組みに反映させていく努力が重要である。
連絡先
環境省地球環境局地球温暖化対策課
国際対策室長:水野 理  (6772)
 補佐:竹本 明生 (6773)
 担当:小林 豪  (6775)