報道発表資料

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2011年05月27日
  • 保健対策

局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査結果について(お知らせ)

 環境省では、幹線道路沿道における局地的大気汚染と呼吸器疾患との関係について解明するため、平成17年度から幹線道路住民を対象とした大規模な疫学調査「局地的大気汚染の健康影響に関する疫学調査-そら(SORA)プロジェクト-」を実施いたしました。この度、調査結果を取りまとめましたので公表いたします。

そら(SORA)プロジェクトの「そら(SORA)」はStudy On Respiratory disease and Automobile exhaust(自動車排出ガスと呼吸器疾患との関連についての研究調査)の頭文字をとったものです。

1.調査の概要

(1)目的

 幹線道路沿道における自動車排出ガスへの曝露とぜん息の発症等との関連性について疫学的に評価すること。

(2)経緯

 公害健康被害補償制度において、大気汚染による健康被害を補償する範囲を定めた第一種指定地域について、昭和63年にすべて解除した際に、国会での審議において、「主要幹線道路沿道等の局地的汚染については、その健康影響に関する科学的知見が十分でない現状にかんがみ、調査研究を早急に推進すること」(附帯決議)とされたため、それ以降、技術的課題の検討を行った上で、平成17年度より「そら(SORA)プロジェクト」を開始した。

(3)内容

[1]
平成17年度から平成21年度まで、関東、中京、関西の3大都市圏の主要幹線道路沿道を対象に調査を実施し、得られたデータについて、平成22年度に解析、評価を行った。
(1) 学童コホート調査
57の小学校の協力と約12,500人の方から同意を得て、毎年、ぜん息発症の追跡を行った。
(2) 幼児症例対照調査
9市区の協力を得て、1歳半健診に参加した約6万人について、3歳健診の機会も利用して調査を実施し、ぜん息の発症について症例対照調査を行った。
(3) 成人調査
9市区の協力を得て質問票を配布し、回答のあった約11万人を対象として、ぜん息の発症については症例対照調査、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の有症については断面研究を行った。
[2]
調査のポイント
 国内外の疫学研究の動向を踏まえた調査手法を取り入れ設計した。
自動車排出ガスによる健康影響を高い感度で検出するため、のべ三十万人にも及ぶ多数の協力者による大規模な調査研究とし、複数の幹線道路を対象とした。
ぜん息への発症は性別、年齢、地域により変動するため、既知のぜん息発症のリスクを勘案して、学童、幼児、成人と対象世代を分けて調査を実施した。
自動車排出ガスへの曝露は、交通量、道路構造、道路周辺の地形、気象等の条件、幹線道路ごとに複雑に変化することを勘案し、協力者一人一人に対して曝露量の推計を行い、その妥当性を確認のため、実測値との比較検討を行った。
 なお、従来から行われていた距離帯別解析も併せて行った。
[1]関東:
世田谷区(国道246号、環状7号、環状8号)、千葉市(国道357号)、川崎市(東名高速道路)、他
[2]中京:
名古屋市(国道23号、国道302号)、他
[3]関西:
茨木市、摂津市、門真市(大阪中央環状)、大阪市(国道43号)、尼崎市、西宮市、芦屋市(国道43号)、他

2.本調査の結果

(1)学童コホート調査

 予め十分に精査された適切なデザインによる十分な対象数を確保した疫学調査により収集されたデータに基づき解析した結果、EC及びNOx推計曝露量を指標とした自動車排出ガスへの曝露とぜん息発症との間に関連性が認められた。なお、曝露量推計などに起因する不確実性が残る点に留意が必要であるとともに、関連性の程度(大きさ)については、十分な科学性をもって確定づけることまでは現時点では難しい。
 特に、曝露量推計については、構築された推定モデルが部分的に必ずしも十分な精度を確保できなかったことや、EC及びNOx濃度が調査実施当初よりも終了時点の方が予想されたよりも改善されているという傾向があったことなどにより、関連性の大きさに関する推定結果が大きく異なるに至った可能性が大きいことが示唆される。
 断面調査におけるぜん息有症と調査1年間のEC及びNOxの推計曝露量との関連性並びにぜん息発症と幹線道路からの距離帯との関連性は、いずれも統計学的に認められなかった。

(2)幼児症例対照調査

 ぜん息発症と幹線道路沿道における自動車排出ガスへの曝露との関連については、EC及びNOx個人曝露推計値を指標とした主要な解析において統計学的に有意な関連性はみられず、副次的な解析の一部において統計学的に有意であったものの、結果に一貫性が認められず、今回の調査結果から自動車排出ガスへの曝露との関連性を結論づけることはできなかった。

(3)成人調査

 幹線道路沿道における自動車排出ガスへの曝露と成人のぜん息発症との関連性については、症例対照研究の副次的解析の一部においてEC個人曝露濃度帯のオッズ比が統計学的に有意であったことに留意する必要があるものの、症例対照研究の主要な解析でのEC及びNOx個人曝露濃度帯のオッズ比が統計学的に有意ではなく、関連性を結論づけることはできなかった。
 幹線道路沿道における自動車排出ガスへの曝露とCOPDとの関連性については、断面調査において持続性せき・たん症状の有無とEC及びNOx屋外濃度推計値のオッズ比が統計学的に有意であったこと、COPDに関する研究の副次的解析の一部におけるオッズ比が統計学的に有意であったことに留意する必要があるものの、肺機能検査に基づくCOPDとEC及びNOx個人曝露推計値との主要な解析でのオッズ比が統計学的に有意ではなく、関連性を結論づけることはできなかった。

3.今後の課題と対応方針について

 以上のように、幼児調査及び成人調査において、幹線道路における自動車排出ガスへの曝露とぜん息発症やCOPDとの関連について、EC及びNOxの個人曝露量推計値を指標とした解析の結果、自動車排出ガスへの曝露との関連性があるという一貫した結論は見いだせなかった。ただし、学童調査においては、EC及びNOxの個人曝露量推計値を指標とした、予め解析計画で定められた主要な解析や、副次的な解析の一部において、自動車排出ガスへの曝露とぜん息発症との間に関連性が認められることが指摘された。併せて、曝露量推計などに起因する不確実性や関連性の程度を確定づけることの困難性についても指摘された。
 したがって、今後とも幹線道路沿道における自動車排出ガスへの曝露による健康影響を引き続き注視していくことが必要と考えられるため、長期的かつ予見的観点から継続的に実施してきている「大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査」を通じて、環境モニタリングや健康モニタリング、更にはそれらに必要な科学的知見の一層の充実に努めるとともに、そらプロジェクトにより蓄積された科学的知見と結果を最大限に活用し、より効果的なサーベイランス調査となるよう留意することが必要である。具体的には、[1]局地的大気汚染の視点から新たに3大都市圏において改良された曝露評価及び健康調査の方法を導入することや、[2]個人曝露推計手法を改善するなどの点が重要である。
 国(環境省)においては、引き続き大気環境モニタリング体制の整備等に取り組むとともに、健康影響リスクのより一層の低減に向け、自動車排出ガス対策やPM2.5対策を含む幅広い大気環境保全対策を積極的に推進すべきことは論を待たない。

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境保健企画管理課保健業務室
直通 03-5521-8256
代表 03-3581-3351
室長 加藤 祐一(6320)
室長補佐 佐々木 正大(6322)
主査 高田 朋子(6327)