環境ナノテクの世界動向

NanoGram Corporation 神部信幸

4.環境ナノテクの推進者たち

 アジア各国では、環境、特に水資源、とエネルギー、農業が重要な課題と挙げられる。アジア13カ国からなるナノテク推進機関であるAsia Nano Forum (ANF)は日本の国立研究機関が当初リーダーシップを発揮してできたしくみであるが、その場でも、いわゆる経済大国とよばれる少数の国々を除くと、環境とエネルギーの改善が最重要課題でありそれなしには持続は不可能であるように窺える。当然当事者たる国々の研究機関や企業は懸命に改善努力をしているが、こと前章にあるようなナノテクからの取り組みについては、日本や台湾・韓国に後塵を拝する。そこで、先進者としての日本等の国々からの協力が必要である。その技術成果は、必然として支援した国々の環境にも恩恵をもたらす。さらによいことには、経済的な恩恵ももたらす可能性が高いことである。

 現時点では、環境ナノテクに対する国や企業、ベンチャーファンド投資をまとめると、米国・欧州・日本がリードしており、地域間の格差を埋めるには上記のような国際協力が必要である。その一方で、先進諸国においても、総体的に環境分野における予算は十分ではないのが現状といえる。その意味で、2009年から米国の新政権が環境・エネルギーを戦略的重要分野と捉え、政策的にも予算的にも増加させる模様なのは心強い。各国の産業界では、製造プロセスや製品から排出される温暖化ガスなどの削減については、規制レベル以下を保つことに注力されているが、今後より大きな努力が必要である。特に2050年までに50%またはそれ以上CO2のエミッションを削減する目標が各国で計画されており、そのためには社会横断的な予測・目標設定・実践が不可欠である。最近いくつかの学会レベルで技術分野横断的なイニシアティブが生まれつつある[12]。

 こうした公的研究機関や企業の開発部門とは別に、前章で述べたように、環境ナノテクベンチャーの台頭が著しい。ただし、世界の地域によって事情は大きく異なる。シリコンバレーをはじめとする米国は、おそらく半分以上のベンチャー活動があると言ってよい。それは以前の章で述べた研究開発投資の金額からも推測できる。最近では、台湾や中国、インドでも多くのクリーンテック・ベンチャーが生まれている。日本では、そうした動きは少なく、将来に向けた課題である。いずれにせよ、これらのベンチャーの出口は、新産業の創成であったり、既存の企業の将来ビジネスの一部と化していく。高い付加価値を作り出すことが目標であるから、当然産業界へのインパクトも高く、経済的効果も高い。

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