環境ナノテクの世界動向

NanoGram Corporation 神部信幸

1. はじめに

 ナノテクノロジー(以降ナノテクと省略)は、他分野の技術との融合を通して、新たな産業を創出したり、問題の解決を促進するテクノロジー(Enabling Technology)である。環境ナノテクとは、従って環境技術とナノテクの融合が基本になるが、環境技術自身が多様な技術分野を包含することから、複雑な展開が期待できる。また人間からみる環境が主たる関心であることから、環境に対するヒューマンインターフェースの理解が不可欠である。細胞・たんぱく質・遺伝子のレベルにまで掘り下げたナノバイオインターフェイスなどは最近の展開である。

 環境ナノテクのミッションは、人間社会の持続性を維持するための環境の評価・理解・改善にある。自然環境をコントロールすることは、他の生態系とのバランスを考える上でも、また技術的にもほとんど不可能であるから、ここでは述べない。むしろ、自然環境と人間社会との共生を目指す立場から議論する。

 環境問題を解決することが世界中の国々にとって緊急の課題であることは言うまでもない。産業革命以降加速した地球の人口増加とそれに伴う環境の破壊や資源の枯渇をできる限り抑制し、環境資源のサイクルを持続可能にもっていくことは人間社会にとっての挑戦である。別の観点からすると、こうした巨大な挑戦に立ち向かい、少しでも解決策をもたらすことは大きなインパクトを与える。社会が欲しがるわけだから当然その経済的効果は高い。つまり新しい産業を生み出す機会(opportunity)がそこにある。従って、環境ナノテクという新しい技術・産業融合により、人間と環境の関わり合いに新たなパラダイムが生まれ、新産業創出から経済的効果の波及というプラスの側面が存在する。

 本概説では、ナノテクと環境技術との接点として代表的な分野をいくつか俯瞰し、その世界動向を紹介する。次いで主な技術的挑戦課題を概観し、自然環境や人工環境内の物質の検出・観察または物理化学評価(physicochemical)手法から問題の解決策まで、ミクロを超えたナノスケールでの理解とアプローチの有用性を述べる。特にナノテクの中でも環境問題と密接な関連のあるナノマテリアル[1-3]に着目し、そのエコおよびバイオシステムとの関係にも言及する。環境ナノテクを研究開発しているのは、地域によっても異なるが、公的機関や大学に限らず、新産業の創出に邁進するベンチャー企業群も重要な位置を占めるイノベーションという立場から議論する。著者は、米国やアジアの状況に特に詳しいことから、それらの知見が議論の基になる。

 
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