環境ナノテクの世界動向

NanoGram Corporation 神部信幸

2.環境ナノテクの世界的潮流

 環境問題に対する関心は世界的な規模で起きており、研究開発への投資が年を追うごとに増加していることは確かであろうが、その数値を把握するのは容易くない。その理由は、環境問題の重心が地球上の地域やその経済状況等によって異なることにもよる。例えばアジア・アフリカでは水・エネルギー・農業関連に関心の重点が置かれるのに対して、米国などでは再生可能エネルギーバイオ燃料等代替技術に関心が高い。また同じアジアでも、日本や韓国、台湾などでは、米国と同様の分野に関心が集まる。

 世界全体でみると、この数年来クリーンテック(cleantech)という枠組みの中で環境を議論することが多い。この場合は、太陽電池・風力発電・バッテリーといった再生可能または新エネルギー関連の投資が多くを占める。毎年ベンチャーファンドによる当分野への投資額が公表されるので、それを環境に対する投資トレンドを示す一つの参考データとしてみてみよう。図1に、2001年から2008年までのクリーンテック・ベンチャーへの投資額の推移を示す[4]。ベンチャーファンドは、世界の地域によりレベルの差が大きく、図の値は、北米・欧州・イスラエル・中国・インドを積算したものである。残念ながら、日本ではこうしたベンチャーファンドによる環境技術に対する投資はあまりみられないので統計には含まれない。

図1.ベンチャーファンドによるクリーンテック投資の推移

 図1によると、2007年には61億ドル弱だったのが、翌2008年には推計84億ドルまで急増している。念を押すが、この値はベンチャーファンドによるベンチャー起業への投資であり、各国政府や各企業による投資を含むとはるかに大きな額になる。2008年の場合、急速な金融不況とそれに伴う経済減速があったにも拘わらず、通年でクリーンテックへの投資が増加したことは、当産業分野がおそらくは最大級の雇用と価値を生み出す源になってきたことを示唆する。米国では、新政権の下2009年よりクリーンテックへのさらに強い支援が実施され、また州単位でもカリフォルニア等で新たな環境イニシアティブが執られることから、当面このトレンドは変わらないと考えられる。

 一方ナノテクの視点から米国のベンチャーファンドによる投資動向をみると、2007年には合計7億ドルで、そのうち30%弱が環境・エネルギー分野のベンチャー企業に投資された。2008年は計10億ドルを超える模様でやはり環境・エネルギー分野への投資は漸増している[5]。従って、環境ナノテクとしても益々当該技術への投資は増大すると推測できる。因みにナノテクに対する投資では、ベンチャーファンドによるものは国や企業による投資に比べ十分小さい。従って推測するに、環境ナノテクに対する総投資は世界全体で30億ドル前後に上る可能性がある。

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