第67次南極地域観測隊同行日記【第16回】

第16回:極限環境でもたくましく生きている生き物 ヒルガタワムシ
2026年2月9日(月)

みなさん、こんにちは。
環境省の福濱です。

湿地と湖の調査チームは、第15回で採取した湖の堆積物を調査地点に持ち帰り、その日の夜は顕微鏡での確認が行われました。
南極の湖では、日本の湖で見る魚や、ゲンゴロウやタガメといった水生昆虫の姿は見当たりませんでしたが、何か生き物は生息しているのでしょうか。
 
私もドキドキしながら、顕微鏡をのぞかせてもらいました。すると、初めて対面するオレンジ色のかわいらしい生き物が動いています。思わず息をのみました。


<顕微鏡で初対面のヒルガタワムシ(赤く見えるところ)>

研究者がこの生き物は「ヒルガタワムシ」という肉眼では見えづらいとても小さな生き物だと教えてくれました。このような生き物は、微小動物(びしょうどうぶつ)と呼ばれています。
皆さんは日本で「ヒル」という生き物を見たことがありますか?
湿ったところによくいる、動物の血を吸う生き物です。
私も日本の山でヒルに血を吸われかけたことがありますが、あの「ヒル」に動きが似ているため、「ヒルガタワムシ」と呼ばれているそうです。
 
今回観察したヒルガタワムシの大きさは、0.5mm~0.8mmほど。この世界に、メスのみしか存在しておらず、体内で卵を孵化(ふか)させて子どもを産み、子孫を増やしている生き物です。
彼女たちの食べ物は藻類とバクテリアです。輪盤(りんばん)と呼ばれる突起状になっている部分を回転させて、水流を起こし、藻類とバクテリアの粒を食べて生きています。
 

<ヒルガタワムシの輪盤(赤丸で囲ってあるところ)>

そしてこのヒルガタワムシ、実は日本でも生息していて、世界中のどこでも生きることができる「最強」の生き物なのだとか。
乾燥にとても強く、乾燥状態になると眠り、環境が変化して動くことができるようになるときを待つことができます。眠った状態で数十年、数百年、そして、驚くことに数千年も過ごすことができ、今までの研究では、最長で2万4千年も眠り、その後、眠りから覚め、繁殖した事例が報告されているそうです。万年単位で生きられるなんて、まさに「最強」ですね。


<休眠状態のヒルガタワムシ(赤く見えるところ)>

今回観察したヒルガタワムシは、南極固有の種類で、日本で生息する種よりサイズが大きく、子どもを産むまでのサイクルも日本で生息する種より長くなっています。
 
日本では、ワムシたちが藻類やバクテリアを食べて、水をきれいにしてくれることから、彼女たちの力を借りている浄水場もあります。
私たちの生活にも密接に関わっていたとは驚きです。
 
ヒルガタワムシは、南極では、こういった湖の底のほか、今後ご紹介する湿地やコケに生息しています。
 
南極の夏はとても短く、低温、凍結といった極限の環境下でたくましく生きているこの小さな生き物が、とてもかわいらしく思え、そしてとてつもない生命エネルギーを感じる日となりました。