自然環境・生物多様性
オオタカの国内希少野生動植物種解除と解除後の対応について
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)に基づく国内希少野生動植物種に指定されていたオオタカについて、環境省レッドリストにおいて平成18年と24年の2回の評価において、連続して絶滅のおそれがあるとされるカテゴリーから外れ準絶滅危惧種(NT)に選定されました。それを受けて、国内希少野生動植物種からの解除に向けて検討が行われ、オオタカは、平成29年8月29日閣議決定の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律施行令の一部を改正する政令」により、国内希少野生動植物種から解除されました。
© 足利直哉
1.レッドリストのカテゴリー | 2.国内希少野生動植物種の指定要件 | 3.検討経過 | 4.指定解除に向けた取組後の対応
1.レッドリストのカテゴリー
- 国際自然保護連合(IUCN)の基準に準拠。
- 絶滅危惧I類、II類が、絶滅のおそれのある種(絶滅危惧種)
- 1.絶滅 (EX) 例:ニホンオオカミ、ニホンカワウソ
- 2.野生絶滅 (EW) 例:トキ
- 絶滅危惧種
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- 3.絶滅危惧 I 類 (CR+EN):絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧 IA類 (CR) 例:ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナ
絶滅危惧 IB類 (EN) 例:イヌワシ、ライチョウ - 4.絶滅危惧 II 類 (VU):絶滅の危険が増大している種 例:タンチョウ、タガメ
- 3.絶滅危惧 I 類 (CR+EN):絶滅の危機に瀕している種
- 5.準絶滅危惧 (NT) :存続基盤が脆弱な種 例:オオタカ
- 6.情報不足 (DD) 例:エゾライチョウ
- 7.付属資料 地域個体群(LP) 例:四国山地のツキノワグマ
(参考)
- オオタカの環境省レッドリストランクの推移
- 第1次(平成3年):危急種(V)※現行カテゴリーのVUに相当
- 第2次(平成10年):絶滅危惧II類(VU)
- 第3次(平成18年):準絶滅危惧(NT)
- 第4次(平成24年):準絶滅危惧(NT)
2.国内希少野生動植物種の指定要件
種の保存法に基づく、「国内希少野生動植物」とは、その個体が本邦に生息し又は生育する絶滅のおそれのある野生動植物の種であって、政令で定めるものをいいます。
種の保存法において、「絶滅のおそれ」とは、野生動植物の種について、種の存続に支障を来す程度にその種の個体の数が著しく少ないこと、その種の個体の数が著しく減少しつつあること、その種の個体の主要な生息地又は生育地が消滅しつつあること、その種の個体の生息又は生育の環境が著しく悪化しつつあることその他のその種の存続に支障を来す事情があることをいいます。
(参考)
希少野生動植物種保存基本方針(平成4年総理府告示第24号)(抄) 第二 希少野生動植物種の選定に関する基本的な事項 1 国内希少野生動植物種 (1) 国内希少野生動植物種については、その本邦における生息・生育状況が、人為の影響により存続に支障を来す事情が生じていると判断される種(亜種又は変種がある種にあっては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)で、以下のいずれかに該当するものを選定する。
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また、「絶滅のおそれのある野生生物種の保全戦略(平成26年4月策定)」において、
種の保存法に基づく「希少野生動植物種保存基本方針」に掲げる選定に関する基本的事項に該当しない国内希少野生動植物種については、その指定を解除する、とし、具体的な対応として、以下のとおり記載しています。
国内希少野生動植物種が、個体数の回復により環境省レッドリストカテゴリーから外れ、ランク外と選定された場合、指定を解除する。また、カテゴリーが準絶滅危惧(NT)へとダウンリストし、次のレッドリストの見直しにおいても絶滅危惧II類(VU)以上に選定されない場合、「希少野生動植物種保存基本方針」の規定を踏まえ、解除による種への影響も含めた指定解除についての検討を開始する。その際、特に解除による個体数減少の可能性については、十分な検証に努める。 なお、国内希少野生動植物種から解除した種については、レッドリストの見直し時のカテゴリーの変化を注視する。解除したことにより個体数が減少し、再び環境省レッドリストカテゴリーが上がり絶滅危惧種に選定される場合には、再度指定することを検討する。 |
3.検討経過
平成25年5月15日 中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会
オオタカを国内希少野生動植物種から解除する方向で検討を開始することについて了承。
平成25年6月3日~7月2日
国内希少野生動植物種からの指定解除の検討に関するパブリックコメントを実施しました。
(関連リンク)オオタカの国内希少野生動植物種(種の保存法)からの指定解除の検討に関する意見の募集(パブリックコメント)について
平成25年7月17日 中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会
パブリックコメントの結果を報告。
平成25年10月23日 オオタカ問題シンポジウム-オオタカをどうするか
主催:日本自然保護協会、日本造園学会生態工学研究委員会
共催:明治大学専任教授連合会
後援:ヒトと動物の関係学会、日本野鳥の会、自然環境復元協会、環境省
場所:明治大学駿河台キャンパス
参加者:約200人
オオタカ指定解除に関する問題点等ついて幅広く議論する場として開催。
環境省からは「種の保存法と指定種について」として、種の保存法、レッドリスト、オオタカ指定解除の検討経過、今後の予定を説明。
ディスカッションでは、オオタカが指定されたことにより保全技術の向上に寄与し、保全されてきた経緯があり、解除後のフォローアップや配慮の必要性などの意見がだされた。
平成26年1月には、シンポジウムの講演内容を基にした講演者の原稿が、日本造園学会誌「ランドスケープ研究 VOL.77 NO.4」に掲載された。
平成26年3月9日 東京オオタカシンポジウム~首都圏のオオタカの実態を知る~
共催:都市鳥研究会、日本野鳥の会東京、立教大学理学部
後援:日本野鳥の会
首都圏各地のオオタカの実態を報告していただき、今後予定されているオオタカの指定解除の動きやパブリックコメントについて考えるための情報を明らかにしようというもの。(日本野鳥の会HPより)
パネルディスカッションでは、国内希少種に指定されていることによって生態系も含めて保護対策が進んできたこと、生息地の開発に関わる情報やカメラマン対策、開発事業者への情報提供の重要性等についての意見がだされた。
平成26年7月 オオタカ生息状況に関する追加のアンケート調査
全国のオオタカ調査実施者等を対象としたアンケート等による情報収集を行い検討を行った結果では、オオタカの生息数は1990年代から増加し、2000年代をピークに頭打ちか、2000年以降は緩やかに減少している可能性はあるが、絶滅危惧Ⅱ類(VU)にあてはまるような急激な減少はしていないと考えられた。
平成26年10月4日 シンポジウム「オオタカ -希少種解除の課題-」
主催:日本野鳥の会、日本オオタカネットワーク
共催:立教大学、環境省
場所:立教大学
参加者:235人
解除検討にあたって環境省が行ったパブコメ等で見えてきた課題とそれに対する対応について、環境省及び研究者から話題提供し議論を行う場として開催。
里山を象徴する種として、里山環境を保全していくために、オオタカの指定を解除すべきではないということを強く主張する意見がほとんどを占めた。
平成26年10月16日 中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会
種の保存法の信頼性確保の観点から指定解除するという方針について合意。
ただし、指定解除後の保全策について説明する必要性が指摘された。
(関連リンク)中央環境審議会自然環境部会野生生物小委員会
オオタカの国内希少野生動植物種の指定解除に関する有識者による意見交換会について
オオタカの指定解除に関する検討を行うにあたり、指定解除する際の課題と環境省が検討した保全策について説明するとともに、保全策などについて有識者と意見交換を行うため、平成28年1月23日(土)に仙台、2月13日(土)に大阪、3月5日(土)に東京において、意見交換会を開催しました。
環境省発表資料
オオタカの国内希少野生動植物種の指定解除にあたっての課題とその保全策について [PDF 768KB]
意見交換会結果概要
平成28年1月23日(土) 仙台会場 [PDF 183KB]
平成28年2月13日(土) 大阪会場 [PDF 177KB]
平成28年3月5日(土) 東京会場 [PDF 198KB]
記者発表資料
仙台会場 http://www.env.go.jp/press/101855.html
主な意見
- 指定解除のための情報が不十分(49件)
- 全国的な生息状況(地域差)等の把握が必要
- 個体数の増加理由の検証が必要
- 指定解除後の将来予測が必要
- モニタリングの実施の必要性について(5件)
- 開発への配慮低下の懸念等(26件)
- 違法捕獲・違法取引等への懸念等(31件)
- その他
- 種の保存法の指定基準、解除基準、再指定の進め方の明確化
- 指定解除後の法的な保護措置についての分析・評価が必要
4.指定解除に向けた取組後の対応
(1) 捕獲・流通規制等
- 1 捕獲等の規制について
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- 鳥獣法により、引き続き捕獲が規制される。→希少鳥獣の指定解除により、許可権限は県へ。
- 生きている個体は、鳥獣法に基づく飼養登録の対象となる。(都道府県に登録。1年更新。足輪装着。)
- 愛がん飼養・販売目的での捕獲は許可されない。
- 2 流通の規制について
- 鳥獣保護管理法による販売規制措置等を実施
- 3 輸出入の規制について
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- ワシントン条約(外為法)による輸出入の規制は継続。
- 鳥獣法により、輸出入個体が適法に捕獲等がされたことを証明する書類の添付、輸入個体への標識装着の義務付けを検討中。
- オオタカ識別マニュアル(平成20年3月発行)の改訂
現行版の亜種オオタカと亜種チョウセンオオタカとの識別マニュアルに、国内へ輸入される個体数が多い、ヨーロッパ産亜種等を追加した改訂版のマニュアルを作成。(平成28年5月公開)
改訂版はこちら → オオタカ識別マニュアル改訂版 [PDF 1.94MB]
(2) 「猛禽類保護の進め方」及び里地里山保全施策等、オオタカを象徴として守られてきた環境の保全
- 「猛禽類保護の進め方」
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これまでオオタカを象徴とする環境の保全において環境影響評価などに活用されてきた「猛禽類保護の進め方」については、オオタカが里山を象徴する生態系上位種であることに変わりはなく、「猛禽類保護の進め方」の考え方や生態系上位種との位置づけに変化はないとの考えから、引き続き活用されることが期待される。また、このような考えについて、都道府県等へ周知していく。
(関連リンク)猛禽類保護の進め方
- 環境省における里地里山保全施策等
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オオタカは里地里山を象徴する種であり、国内希少野生動植物であるオオタカの保全が、里地里山の環境の保全に寄与してきたという経緯があるが、種の保存法では「絶滅のおそれ」に基づき種の指定をしており、生息環境(里地里山)の保全を目的・根拠にして種を指定することはできない。
一方、環境省では、里地里山の生物多様性の保全と持続可能な利用に向け、里地里山の保全活用を全国展開するための実行計画として平成22年に「里地里山保全活用行動計画」を策定。本計画に基づいた取組を促進するための手法として、地域や活動団体の参考となる里地里山の特徴的な取組事例の情報発信や里地里山の自然資源や生態系サービスを多様な主体が共有の資源として利用・管理する枠組みの構築に向けた自治体向けの手引書などを策定している。
また、里地里山保全活動により発生する間伐材等のバイオマス資源の活用による地域の低炭素化と里地里山の保全活用の促進に向けた支援事業を平成26年度に創設し、現在実施中。
さらに、生物多様性保全上の観点から全国レベルで重要な里地里山の抽出を進めており、抽出した重要里地里山は、その重要性を全国に公表し、保全活用の理解の促進や各地域での保全活用の取組の促進や拡大に向け活用する予定。
(関連リンク)自然環境局 里地里山の保全
(3) 指定解除後のモニタリング及び絶滅のおそれがあると評価された場合の再指定に向けた手順の整理
- 指定解除後のモニタリング
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解除後の生息状況の変化について定量的に把握し、指定解除による影響を評価するため、平成29年度から5年にかけて、指定解除後のモニタリング等を実施。東日本においてはモニタリング区を設定して営巣数と繁殖成績などを調査、西日本は生息密度が低いため、聞き取り調査により状況を把握するとともに、必要な情報についても情報収集を行い、その結果を令和4年3月にとりまとめた。
オオタカ 国内希少野生動植物種の指定解除後のモニタリング等(2017~2021年度)結果概要【PDF1,204KB】
- 絶滅のおそれがあると評価された場合の国内希少野生動植物種への再指定に向けた手順
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万一、モニタリング等により個体数の減少が確認された場合は、速やかに「絶滅のおそれのある野生生物の選定・評価検討会鳥類分科会(非公開)」を開催し、絶滅のおそれの再評価を行い、絶滅のおそれがあると評価された際には遅滞なく国内希少野生動植物種への再指定を行う。