環境省
VOLUME.66
2018年8・9月号

「適応」に的を絞った、世界でも珍しい法律 気候変動適応法 成立!

気候変動によるさまざまな影響・被害が全国に広がるなか、日本でも今後一丸となって適応策に取り組むべく、「気候変動適応法」が成立しました。その内容をご紹介します。

 気候変動の影響による被害を回避・軽減するための、適応策を進める目的で生まれたのが、今年6月6日に成立した「気候変動適応法」である。法律として定められたことで、日本は適応に関する政策を強力に進めていけるようになった。適応法では、まず国や地方公共団体、事業者や国民それぞれの役割がはっきりと示された。政府は気候変動の適応計画を策定し、5年ごとに行う「気候変動影響評価」を踏まえて定期的にバージョンアップしていく。また、地方公共団体に適応計画策定の努力義務が設けられ、各地域における適応策を強化するよう定められている。

POINT 01 気候変動に関する情報管理の心臓部

 今回の適応法では、国立環境研究所が気候変動の影響や適応事例についての情報収集・提供や、地方公共団体や地域気候変動適応センターに対しての技術的援助等を行うなど、気候変動についてのあらゆる情報を管理する中心的な機関として位置付けられた。

気候変動適応情報プラットフォーム・ポータルサイト

コメ収量の将来予想

>> A-plat

http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/

国立環境研究所のサイト「A-plat」では、気候変化観測やそのデータ・モデルから予測できる情報、温暖化による影響と対応策などを発信している。

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POINT 02 それぞれの地域でも「適応」を推進

 都道府県や市町村では、地域気候変動適応計画策定の努力義務が設けられた。また、地域で適応の情報収集・提供を行うセンターの確保や、「広域協議会」を設けて国・地方公共団体と協力しあい、「適応策」を推し進めていくことなどが定められている。

広域協議会のしくみ

INTERVIEW 国立環境研究所 気候変動適応センター準備委員会 委員長 向井人史さん/情報プラットフォームを構築し施策に役立つ「影響・適応」の情報源に

気候変動法の中で、「適応に関する情報基盤の中核」を担うことになった国立環境研究所。
その具体的な役割について、国立環境研究所の見解を伺いました。

適応政策を総合的に推進するための「気候変動適応法」が今年6月に公布されました。2015年に採択された「パリ協定」においても緩和策に加えて適応策が位置づけられ、世界的に気候変動に関する適応策の重要性が叫ばれる中、日本国内でも「気候変動の影響への適応計画」が2015年11月に閣議決定しています。イギリスやフランスなどは2000年代にすでに、法律をもとにした国としての気候変動適応計画を発表しており、日本においても適応への取り組みが求められる、国際的な潮流への対応でもありました。

 国立環境研究所は、この法律の中で「情報基盤の中核」と位置付けられました。具体的には、気候変動の影響や適応に関する情報を集め、地方公共団体が適応計画を策定する際に必要な情報を提供すること、地域気候変動適応センターとの情報交換や支援などが、我々の役割です。現在上記の情報を取り扱う、総合的な情報プラットフォームの構築や組織作りを進めています。

 情報プラットフォームでは、現状の気候変動や影響関係のデータに加え、将来の気候変動の予測データ(気温、降水量等)、気候変動の影響(例えば健康影響や自然環境影響、農林水産業への影響等)の予測データや、参考となる各種適応策の優良事例などを広く収集し提供する計画です。現在、気候変動適応情報プラットフォームでもさまざまな予測データを公開しています。内容をさらに充実させていくために、他省庁や研究機関などと連携を図り、より多様な情報を提供できる体制を作りたいと考えています。現在、地方公共団体がどのような情報を求めているかの調査を行い、ニーズを拾い上げているところです。

 適応策は信頼できる最新の情報に基づいて実施する必要がありますが、気候は時間とともに変化し状況が刻々変わるため、時として我々が考える以上の影響が出る場合も想定しつつ、提供する情報を常にアップデートしていくことが求められます。また、ある場所や領域で行われた適応策によって、二次的に別の場所で弊害が出ることも考えられます。適応策を個々にではなく、緩和策を含めて統合的に見ていくことも重要です。さらに、地方公共団体の適応策と言っても、例えば漁業に関する影響などは広く海洋の視点が必要になるケースもあります。従って、地域全体や海外、さらにグローバルな情報も幅広く収集し提供していきたいと考えています。

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