環境省
VOLUME.64
2018年4月・5月号

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】高知県柏島「NPO法人黒潮実感センター」/お魚の宝庫柏島を、みんなで協力して守る

いきものを守るヒトたち【PEOPLE】高知県柏島「NPO法人黒潮実感センター」/お魚の宝庫柏島を、みんなで協力して守る

透明度が高く多くの魚やサンゴが生息する高知県柏島の海は、漁村に近い「里海」。島と海を丸ごと自然博物館にしようと奮闘するNPO法人黒潮実感センターの活動を紹介します。

※「里海」とは、人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域のこと

NPO法人黒潮実感センター センター長 神田優さん

柏島の海は年間通して暖かく、透明度が高い。黒潮と豊後(ぶんご)水道が交わる影響で、古くから県内有数の漁場として栄えてきた(写真提供/柏島ダイビングサービスAQUAS)

柏島の海は年間通して暖かく、透明度が高い。黒潮と豊後(ぶんご)水道が交わる影響で、古くから県内有数の漁場として栄えてきた

人が海を耕す「里海」だから豊かに生物が息づく

 高知県の南西部に位置する柏島の海は「日本で最も魚の種類が多い海」といわれている。1996年の調査では約1000種の魚種が確認されたが、その中には新種の可能性があるもの、日本で初めて確認されたものが約100種もいた。翌年発表された小笠原諸島の魚種は801種。柏島が、生物多様性の宝庫であることがよく分かる。

 そんな中、この島の豊かな自然に魅了され、「柏島を丸ごと海の自然博物館にしよう!」と、2002年に黒潮実感センターを立ち上げたのが、神田優さんだ。「古くから漁村として人が暮らす集落のすぐそばの海で、ここまでの多様性があるということは、人と海との関係が良かった証なのではないか」と考え、「里海づくり」を提唱した。魚類生態学の博士でありながらプロダイバーでもある神田さんは、まず島の子どもたちに柏島の海の素晴らしさを実感してもらおうと、自身で撮影した海中映像を見せたり、一緒にシュノーケリングをしたりと環境教育を実施した。

 しかし、ちょうどその頃柏島にダイバーが増加してきたのと同時に、島でのアオリイカ漁が不漁となった。ダイバーの増加に因果関係があると考える漁業者が多かったが、神田さんは磯焼けでアオリイカが産卵する藻場が減ったことに着目。藻場の再生は一朝一夕では叶わないので、まずは間伐材を使ったアオリイカの人工産卵床づくりに着手した。魚類生態学の知識を駆使して、アオリイカが産卵しやすいように間伐材の枝振りを整え、ダイバーが協力して海底に固定したところ、すぐにアオリイカが多くの卵を産みつけた。「漁業者とダイバーの双方が互いを尊重し共存できる道をつくりたかった」と神田さんは語る。海底の間伐材が森のように見えることから、「海の中の森づくり」という名称で活動を開始した。

 産卵床づくりは、海と山とのつながりが学べるとして、子どもたちも参加。さらに海藻の一種ホンダワラ類の藻場再生にも取り組むなど、「海の中の森づくり」は着々と進行中だ。「人の手が入るからこそ豊かであり続ける『里海』のモデルとして、柏島の海を存続させ、この活動を広域に広げ、次の世代に受け継いでいきたい」と神田さんは意欲を示している。

[1]慶應義塾幼稚舎の児童たちが、環境教育の一環で、釣った魚のさばき方についてレクチャーを受ける様子。自分で釣った魚を食べることで、海の恵みを丸ごと実感できる
[2]たくさんの魚が生息する柏島の海は、磯釣りのスポットとしても人気。普段あまり目にすることのできない魚と出合うことができる[3]柏島の海岸で「微小貝」を探すこどもたち。微小貝とは、大きさが数mmの、非常に小さな貝のこと。環境のよい場所でないと生息できないが、柏島の浜辺では目にすることができる

[1]慶應義塾幼稚舎の児童たちが、環境教育の一環で、釣った魚のさばき方についてレクチャーを受ける様子。自分で釣った魚を食べることで、海の恵みを丸ごと実感できる [2]たくさんの魚が生息する柏島の海は、磯釣りのスポットとしても人気。普段あまり目にすることのできない魚と出合うことができる [3]柏島の海岸で「微小貝」を探すこどもたち。微小貝とは、大きさが数mmの、非常に小さな貝のこと。環境のよい場所でないと生息できないが、柏島の浜辺では目にすることができる

INFORMATION

NPO法人黒潮実感センター

http://www.orquesta.org/kuroshio/

NPO法人黒潮実感センター

写真/小倉和徳

ページトップへ戻る