児童養護施設の子どもたちとともに里山を開拓して手作りの遊具やツリーハウスを整備。家庭の中で居場所を失った子どもたちの「ふるさと」を創り上げる取り組みです。環境保全と児童福祉という社会課題を同時に克服することを目指したチャレンジです。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
環境保全と児童福祉の課題を併せて克服
大都市である東京の周辺にも、人の手が入ることなく荒れてしまった山林は少なくありません。「NPO法人 東京里山開拓団」では、東京都八王子市内で放置されていた山林を、児童養護施設と連携して子供たちやボランティアのスタッフとともに開拓。自然豊かな里山に自分たちの手で居場所を伐り拓き、みんなで焚き火料理をつくり、自由に遊ぶ時間を過ごす活動を行っています。
林業の衰退や不在地主化などによって所有者不明となり、荒れてしまった山林の面積は全国で九州の広さを超えるほどといわれており、里山(山林)の荒廃による獣害や土砂崩れ、不法投棄といったトラブルが深刻な社会課題となっています。一方、虐待や貧困といった理由から家庭の中で居場所を失い、児童相談所が対応する子どもたちの数も急増し、根深い課題となっています。
「東京里山開拓団」の取り組みは、里山の環境保全と児童福祉という現代都市社会が抱える深刻な課題を一石二鳥で克服することを目指した活動として、グッドライフアワード実行委員会の審査でも高く評価されました。
また、学生支部として生まれた上智大学公認のインカレボランティアサークル『Enpentas(エンペンタス)』とも連携。里山だけでなく、連携する児童養護施設を訪問して子どもたちと遊ぶなどの日常生活の支援を行って、子どもたちとの信頼関係を深めています。有志グループ「里山ネット調査隊」では、全国各地で行われている里山を紹介する『日本ノ里山ヲ鳥瞰スル』というサイトを運営しています。
里山紹介サイト
八王子市内の里山に掲げられた手作りの看板
活動のきっかけは?
里山で過ごす「心地よさ」を分かち合いたい
里山に子どもたちを迎える準備をする堀崎さん
活動の始まりは平成18年(2006年)、現在も「東京里山開拓団」の代表である堀崎茂さんが、親類が所有していたものの何十年も放置されていた山林に通い始めたことがきっかけでした。
小学生時代はカブスカウトにも参加していて、ロープワークや焚き火などアウトドアでのノウハウは備えていたという堀崎さん。名古屋から東京の企業に転職して生活の余裕ができたこともあり「自分を見つめ直す場所にしたい」と、この荒れ果てた山林を「里山」として自分の居場所にするための作業を始めました。道作りから始まって、広場を作るためには、生い茂る木を伐り拓かなければいけません。でも、そんな作業を通じて、里山開拓には「整備されたキャンプ場でアウトドア気分を味わうだけ」ではない楽しさがあることに気付きます。
休日に友人家族を誘って焚き火料理を楽しむ会を開くと、来てくれた子供も大人も「また来たい!」と喜んでくれます。この活動を、この楽しさを、社会課題克服のために活かすことはできないだろうか。学生時代に不登校の子どもたちを支援するボランティア活動の経験などがあった堀崎さんは、平成21年(2009年)に任意団体として「東京里山開拓団」を立ち上げました。たくさんの児童養護施設への提案を重ねても実現に至らないなか、連携先を探すためにボランティアセンターに相談。現在も連携して活動する児童福祉施設「救世軍機恵子寮」施設長の髙田祐介さんと出会い、「里山の環境保全×児童福祉の同時解決」を目指す取り組みが平成24年(2012年)にスタートしたのです。
成功のポイントは?
子どもたちとともに「ふるさと」を作り上げたいという思い
タイヤのブランコ!
全国各地で里山保全に取り組む団体や活動はたくさんありますが、「環境を保全しよう」といった目標だけでは参加者のモチベーションを維持しにくいといった悩みを抱えていることが少なくないそうです。「東京里山開拓団」の活動は、もちろん適度に人の手で整備することで里山の環境保全につながりますが、同時に児童福祉施設の子どもたちと力を合わせ、参加した子どもたちの「ふるさと」を作り守っていくことも大切な目的であり、ボランティアで参加する大人たちにとっても「子どもたちとともにふるさとを作り上げていきたいという思いを共有できる」と堀崎さん。
里山開拓のイベントでは、毎回事前のミーティングやメールなどで企画内容を相談しますが、細かなスケジュールを詰め込むことはありません。たとえば、午前中は伐採した里山の木を使って遊具を作ったり工作を楽しんだりして、昼食は手作りかまどの焚き火でカレーなどの料理をみんなで作ります。午後は里山の広場で自由な時間を過ごし、15時前には下山して解散、というのがモデルケース的な1日のメニューです。
高田さんによると、「参加した子どもに、また行きたい? と尋ねると、それまで心を閉ざしていた子が、また行きたい! と目を輝かせて答えるんですよ」とのこと。「しんどい思いを抱えている子供たちが、思い切り身体を動かして楽しめる場所」であるという意義を実感し、堀崎さんと連携して続けるうちに「最初に参加した子どもは、もう20歳を超えている」というほどの回数、活動を積み重ねてきています。
堀崎さんが連携先を探し始めた当初「3年くらいはなかなか話が進まなかった」そうですが、活動の実績を重ねる中で「星美ホーム」や「調布学園」、「東京家庭学校」など児童福祉施設との連携が拡大。活動拠点となった八王子市内の里山は1.5ヘクタールほどの面積ですが、2021年よりあきる野市内のNPO法人「ふるさとの森づくりセンター」と連携して、5ヘクタール以上の広大な里山をフィールドとして活用できるよう進めており、「東京里山開拓団」の活動がさらに広がろうとしています。
レポート!
子どもたちも、見守る大人も、本気で楽しむ!
手作りかまどでの火起こしも楽しい時間
新型コロナ禍に翻弄されて、なかなか里山での活動が行えない状況が続くなか、2021年8月、完成したばかりの児童養護施設のための里山付き別荘『さとごろりん菅生』を訪ねました。連携する「ふるさとの森づくりセンター」の協力を得て、里山の麓にある空き家を借り受け、「東京里山開拓団」のメンバーがDIYで改装しました。スライド上映などもできる20畳ほどの大広間のほか、ハンモック部屋など子どもたちが探検気分で楽しめる空間も工夫されていて、シャワールームやバーベキュー場も備えています。
この日は通常のイベントではなく、救世軍機恵子寮から子ども2人だけを招き、『さとごろりん菅生』の居心地を確かめつつ、目の前を流れる小川での水遊びを楽しんでもらうという機会。軒先では「ふるさとの森づくりセンター」の方による、朝採れ無農薬野菜の無人販売も行われていました。
手作りで改装した『さとごろりん菅生』
ハンモック部屋
研修会などにも活用できる大広間
小川での水遊びや、かき氷などを楽しみました
12月初旬には、活動の原点となった八王子市内の里山で行われた里山開拓に伺いました。救世軍機恵子寮から3人の幼児が参加。「東京里山開拓団」のボランティアなど、8人の大人が見守りながら、一緒に楽しむ計画です。里山開拓のフィールドは通い続けることで保全が進んでいますが、それでも、崖からの転落、慣れない刃物による怪我、焚火での火傷、ハチやイノシシなどとの遭遇などのリスクも考えられるので参加者は保険にも加入します。参加する子どもと同じ、あるいはそれ以上の大人がボランティアで参加して子どもたちを見守り、保険にも加入して備えます。
広場に到着した子どもたちを大人のスタッフがお出迎え
手作りの遊具やツリーハウスで遊ぶ子どもたちが夢中なのはもちろんですが、それを見守りつつ、焚き火や工作の面倒を見る大人のみなさんも、里山の自然を本気で楽しんでいる様子が印象的でした。「子どもたちのため」だけではなく、参加する大人の方々にとっても、里山開拓が大切な時間になっていること、そして、里山に自然には人を惹きつける力があることを実感します。
連携が広がり、新たに菅生の広大な里山と、拠点となる『さとごろりん菅生』ができたことで「これからは里山の恵みを日常生活のなかにもっと取り込んで心豊かな暮らしを実現するような活動にしていきたい」と堀崎さん。
里山での活動はボランティアが支えていますが、保険代や工具、材料費などの経費を賄うために、随時寄付を募集しているほか、企業向けに里山を活用して研修・会議を支援する『アット里山』というサービスを有料で提供しています。『さとごろりん菅生』は、そうした企業向けの活動拠点としても活かされていくことでしょう。
「東京里山開拓団」の取り組みは、児童養護施設と連携することで「環境保全×児童福祉」の一石二鳥を目指すものですが、全国各地の里山で、児童福祉とはまた違った付加価値と組み合わせることもできそうです。里山を活用した有意義な取り組みが、全国でますます広がっていくことを期待しています。
のこぎりを使って木を切ります
里山の木を使った工作を楽しんでいます
この日の昼食メニューはシチューでした
みんなで楽しく「いただきます!」