中学校の特別支援学級の子どもたちが、先生の指導のもと「eco=環境」をテーマに、さまざまな人たちと連携して地域社会の課題解決につながる多彩な活動を展開するプロジェクト。実績を重ねる中で、学校を飛び出した活動へと広がりつつあります。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
「eco」をテーマに「connect=つながる」ことで社会に貢献
「econnect project」は、福岡県北九州市内で公立中学校の特別支援学級を指導する小川亮さんがプロデュースしている取り組みです。障害をもつ中学生たちが「私たちも社会に貢献できる!」という実感をもつために、「eco」=環境をテーマの軸として、さまざまな人や関係機関と「connect」=連携し協働しながら、さまざまな活動を行ってきました。
もともとは特別支援学級における自立教育の一環ではありますが、小川さんは学級内だけで閉じた活動にするのではなく「国際機関」「地域社会」「教育」「NPO・NGO」「行政」「企業」という6つの機関のうち必ずひとつ、もしくは複数の機関と連携・協働する活動を実践しています。
社会貢献の活動はどこかで「環境課題」にも関わることがほとんどです。さらに、「econnect project」ではSDGsが掲げる目標のうち、「4/質の高い教育をみんなに」「11/住み続けられるまちづくりを」「17/パートナーシップで目標を達成しよう」を重視。「被災地支援」「社会貢献」「国際交流」という3つの分野で、20を超える多彩なプロジェクトに取り組んできました。
活動のきっかけは?
「自信のなさ」や「あきらめ」の克服へ
もともと、高校の教師だったという小川さんは、平成18年(2006年)頃、教育基本法の改正によって設置されることになった特別支援学校に勤務し、特別支援教育への関心を深めます。その後、特別支援学校教諭の免許を取得、市立中学校の教員として採用されて、特別支援学級を担当するようになりました。
現場で生徒たちとふれあう中で、障害をもった生徒たちには、苦手なことへのコンプレックスが強く、「自信のなさ」や「あきらめ」を抱き「自己肯定感が低い」ことが多いと気付きます。社会での生活を支えるための力を養う「自立活動」は、そもそも特別支援学級の大切な教育テーマです。でも、教室の中で「生活スキル」や「ソーシャルスキル」を学んでも、実社会ではなかなか役に立たないのが現実であるとも感じていました。
小川亮さん
そうした課題の解決策として構想したのが、地域の人と連携・協働して、SDGsの目標達成につながるような社会貢献活動を実践する活動でした。まずは地域の困りごとを解決するような活動を手掛けるようになっていた中、平成28年(2016年)4月に熊本地震が発生。学級で「被災地のために何かできないか」と話し合い、復興への祈りを込めてペーパークラフトで熊本城を製作し、北九州市の特別支援学校・特別支援学級合同作品展で披露したのが、「econnect project」と名付けた活動のスタートとなりました。
令和4年(2022年)は、本格的に活動が始まって7年目となります。学級の生徒は毎年進級や卒業で入れ替わり、小川さんの転勤もありましたが、「econnect project」は小川さんが受け持つ特別支援学級の生徒を中心に、すでに中学校を卒業した生徒たちもメンバーとなって多彩な活動を展開しています。
最初は5人の生徒だけで始まった活動が、今では中学生や高校生を中心にして60名を超えるメンバーによるプロジェクトになりました。今までの活動で連携・協働した先は、日本国内で103機関、アメリカで27機関を数え、イベントに参加してくれた市民はのべ4万人を超えるまでになったのです。
SDGsアートプロジェクトにて
北九州空港出発ロビーでマスクキットを配布
成功のポイントは?
人とのつながりが新たなつながりを生んでいく
イベントなどで人気の「SDGs ガチャ」
参加する生徒たちの様子にも、大きな「成果」がありました。
自己肯定感が低く、自信をもてずにいた生徒たちが、「econnect project」で何をどんなふうにやるか自分たちで考えて話し合い、たくさんの人と関わりながら自主的に行動し、「ありがとう」の言葉を掛けられたり、イベントに集まってくれた市民のみなさんの笑顔にふれる「成功体験」を重ねることができます。その結果、今までは苦手なことやうまくできなくてすぐにあきらめていたことに対しても「どうすればできるだろうか」と前向きに考えられるようになり、「社会に出ることは楽しい」、「人と関わるのは楽しい」と実感できるようになるのです。
活動で関わる地域の方々にも、「障害をもった生徒とどう接すればいいのかわからない」といった戸惑いがあることが少なくありません。でも、実際の活動で生徒たちと接する中で、苦手なことにも懸命にチャレンジしている生徒の姿に感銘を受け「障害があっても普通の生徒と同じように接すればいい」という、障害者への理解が地域に広がりつつあることを、小川さんはたしかな手応えとして感じているそうです。
実際に生徒たちが行動し、多くの人とつながって、「econnect project」や障害をもつ生徒たちへの理解が広がることで、新たに連携するパートナーが見つかり、さらなる取り組みへとつながることもあるのです。参加する生徒たちの「成長」こそが、「econnect project」が継続し広がっていることの、最大の原動力になっているとも言えるでしょう。
レポート!
中学校での日常的な活動を拝見しました
今、小川さんが受け持っているのは、北九州市立菅生中学校の2年生5名が学ぶ特別支援学級です。大きなイベントやプロジェクトとはコロナ禍の影響もあってタイミングが合わず、中学校での日常的な活動の様子を拝見することになりました。この日は、給食を終えた午後の時間、「econnect project」の活動として、いくつかの予定が組まれていました。
まず、最初のプログラムは、中学校の向かいにある北九州市立両谷市民センターへの「簡易マスクキット配布」です。このマスクキットは、新型コロナウイルス感染拡大を受けて生徒たちが手作りしたもので、数か月前、北九州空港の協力を得て、旅客ターミナルビルで期間限定の配布を行ったもの。まだ数に余裕があるので、サイズごとに揃え、メッセージを書いた封筒に入れて学級のみんなで届けます。取材のカメラが気になって少し緊張気味ではありましたが、職員の方に笑顔で受け取っていただくことができました。
次の予定は、「econnect project」がイベント出展する際などに活躍している人気プロジェクト、『SDGs ガチャ』の準備です。手作りのガチャマシンに入れるのは、これもみんなで手作りした景品の球。ペットボトルの底ふたつを合わせて輪ゴムで止めた球の中には、地域の方が梱包テープなどで手作りしたアイテムと、学級のみんなで考えた「SDGs クイズ」一問を記入した紙が折りたたまれて入っています。
この日の作業では、輪ゴムが切れたりしていないかと確認して球をきれいに作り直したり、数を足して次回のイベント使用の準備を整えました。
続いて、中学校の裏手にある畑でキャベツ収穫の手伝いです。畑での作業は短時間だったこともあり、収穫の手伝いというよりも生徒たちが収穫体験を楽しむ風情になってはしまいましたが、協力してくれた農家の川崎さんに「上手な収穫方法」を尋ねたりして、生徒たち自身が前向きに取り組む様子を見ることができました。
協力してくれた川崎さんは、まだ家業の農家を継いだばかりで、この畑でキャベツを育てるのは今年が初めてだったとのこと。すぐそばの用水路を「econnect project」の生徒たちが掃除しているところに遭遇して小川さんと知り合ったことがきっかけで、「収穫お手伝い」活動をやってみることになったそうです。
最後に、川崎さんとの出会いのきっかけにもなった用水路でごみ拾いをして、この日の予定は終了となりました。
「econnect project」は、特別支援学級のにおける自立教育の一環として始まり、今まで実績を積み上げてきました。年数を重ね、メンバーの人数や年齢層が広がり、連携する人や機関の数や幅も広がっています。そこで、小川さんは「障害の有無」「校種」「地域」に限定されず、より多くの子ども達が活動に参加できるように、それぞれがSDGsの分野で活躍している森川妙さん、鈴木優一さんとともにNPO法人『SDGs Spiral』を令和3年(2021年)1月に設立しました。
中学校の教室から始まった取り組みが、生徒とともに成長して、より大きな社会に飛び立とうとしていると評することもできそうです。「econnect project」と『SDGs Spiral』が連携し、さらにユニークで有意義なプロジェクトは生まれる可能性もあるでしょう。
「econnect project」メンバーのみなさんと小川さんの、さらなるアクションが楽しみです。
連携した企業の方からのメッセージ
竹木琴づくりプロジェクトも好評でした
ガチャの景品も手作りです