課題名

F-5 サンゴ礁生態系の攪乱と回復促進に関する研究

課題代表者名

澁野 拓郎(独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所石垣支所亜熱帯生態系研究室)

研究期間

平成12−14年度

合計予算額

89,358千円(うち14年度31,240千円)

研究体制

(1)サンゴ礁の攪乱、回復の評価とそれに基づく管理手法に関する研究

  ‖ぞ魅汽鵐慣化犬侶鯀甘抻愽犬亡陲鼎生態系管理手法の開発

(独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所、東京水産大学)

 ◆^榮粟動物群集によるサンゴ礁生態系の指標化と管理手法の開発

(独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所、東京大学)

  個別サンゴコロニーの成長・劣化解析による環境変動評価と管理手法に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所、〈研究協力機関〉県立会津大学、
(株)串本海中公園センター)

 ぁヾ超ストレス応答の向上によるサンゴ礁管理手法の開発

(独立行政法人農業生物資源研究所、
〈研究協力機関〉独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所)

(2)サンゴ礁生態系の回復促進

  .汽鵐慣化犬硫麌促進に関する研究

(国土環境株式会社((財)海中公園センター)、
〈研究協力機関〉東京商船大学、東京水産大学、(株)串本海中公園センター)

 ◆.汽鵐款眠麌のためのサンゴの着生加入過程に関する研究

(財団法人阿嘉島臨海研究所)

  流況と水質の相互作用を考慮したサンゴ礁群集の回復促進要因の解明

(独立行政法人産業総合研究所)

研究概要

1.序

 高い生産性と生物多様性を有しているサンゴ礁生態系は、国家及びその地域に食糧生産、観光の場を提供するだけでなく、地球温暖化に伴う海面上昇問題とも関わる海岸線保護に利益をもたらす極めて重要なものである。しかし、暴風、天敵による食害、水温の変化などの自然要因だけでなく、富栄養化や有害物質による汚染、破壊的漁法による生物資源採取、沿岸陸域の土地利用計画や管理の不備などによる土砂の堆積、海城の汚濁などの人為的影響により、近年世界的な規模でサンゴ礁の減少・衰退が起こっており、今後20年以内には全世界の30%のサンゴ礁が劣化するとも言われている。

 このためサンゴ礁の保全は国際的にも重要な緊急課題となっており、我が国も日米コモンアジェンダを契機として1994年に米国、オーストラリア等8カ国と協力しながらサンゴ礁の保全と持続的な利用に関する包括的な国際枠組みである「国際サンゴ礁イニシアチィブ(ICRI)」をつくるなどサンゴ礁の保全のために取り組みをはじめている。サンゴ礁生態系の保全及び管理の実施に際しては、十分な科学的な情報や根拠に基づいて行うことが重要である。そのためには、サンゴ礁生態系の攪乱の現状を把握すると共に、サンゴを含むサンゴ礁生物群集からみた生態系保全のための指標を確立し、多方面の研究分野からサンゴ礁生態系管理のための手法を探求しながら、サンゴ礁生態系を積極的に回復させる施策を講ずるためのサンゴ礁生態系研究は欠かすことはできない。

 

2.研究目的

 本課題では、サンゴ礁の攪乱・回復の評価とそれに基づく的確な管理手法を確立するために、造礁サンゴ類・海藻類(固着性生物群集)、魚類・ベントス類(移動性動物群集)についてのサンゴ礁生態系の健全度の指標化、サンゴの成長・劣化に関する実証モデル作成、サンゴ・共生藻の環境ストレス応答条件の検討を行うとともに、サンゴ礁を積極的に回復させるために、各サンゴ礁の潜在的回復力を評価し、回復力の低いサンゴ礁に移植を中心にした回復促進を図る手法の開発及び普及、サンゴ幼生の新規加入量と環境との関係解明、サンゴ礁における海水の流動と水質の解析によるサンゴ礁群集の回復促進メカニズムの解明を行い、これらの結果からサンゴ礁生態系の回復促進のための施策への提言を行うことを目的とした。

 

3.研究の内容・成果

(1)サンゴ礁の攪乱、回復の評価とそれに基づく管理手法に関する研究

  ‖ぞ魅汽鵐慣化犬侶鯀甘抻愽犬亡陲鼎生態系管理手法の開発

 サンゴ礁生態系の健全度を評価できる生物指標を探索するため、典型的な裾礁が発達する石垣島東海岸の礁池において、造礁サンゴ類および海藻・海草類の群集構造と環境要因との関係を調べた。造礁サンゴは1443123種が出現し、岸側よりも中央〜沖側において被度や種数が高く、ほとんどの地点でコモンサンゴ属、ミドリイシ属、ハマサンゴ属、キクメイシ科の4分類群が主要な構成要素となっていた。コモンサンゴ類やハマサンゴ類が局所的に大規模群集を形成するものの、造礁サンゴ全体の被度、種数、新規定着数などが健全な群集に比べて著しく低い上、死亡群体の割合が高く、特に環境変動の影響を受けやすいミドリイシ群集の衰退と海藻の繁茂が顕著であった。海藻類は緑藻46種、褐藻21種、紅藻58種、藍藻6種、海産種子植物(海草)4種の合計135種が出現した。造礁サンゴ群集が衰退していたにもかかわらず、緑藻の種数が多く褐藻の種数が少ないという熱帯海域の特徴は維持されていた。死サンゴ骨格上にはハイアミジ、ハイオウギ、無節石灰藻類、イワノカワ類などの葡匐性小型海藻の繁茂が顕著に認められた。これらの海藻は、サンゴ礁生態系の二次遷移の段階、すなわち攪乱を受けた造礁サンゴ群集の回復状態を評価できる「遷移指標種」と見なすことができた。多変量解析の結果、造礁サンゴ類と海藻類の分布特性には当初想定していた南北間の明瞭な差異は認められなかったが、岸〜沖系列軸が認識できたことから「岸側指標種」や「沖側指標種」などの選定が可能となった。浦底湾における定点調査では、1998年夏の白化による造礁サンゴ群集の崩壊以後、沖側を中心に幼群体の加入が繰り返され、環境条件が良好であれば急速に群集が復元されるという可能性が示唆された。

 ◆^榮粟動物群集によるサンゴ礁生態系の指標化と管理手法の開発

 サンゴ礁で優占する樹状サンゴが大規模に死滅した場合、死滅サンゴ枝の崩壊の程度、すなわち、サンゴ礁生態系の悪化度を魚類の個体数密度によって間接的に示すことができるかどうかを、小型人工礁を用いた野外実験で検証した。スズメダイ科の稚魚、特にニセネッタイスズメダイの稚魚の個体数密度は、枝状構造が複雑な人工礁に多く、逆に単純な人工礁には少なかった。したがって、スズメダイ科稚魚の個体数密度はサンゴ礁生態系の悪化度を示す指標として有効であると考えられた。さらに、人工礁の大きさとスズメダイ科魚類の個体数密度との関係を調べたところ、人工礁が大きくなっても、個体数密度はほとんど変化しなかった。

 移動性ベントスを用いてサンゴ礁の環境モニタリングを実施すれば、サンゴ等を用いた場合と比較してより小さな空間と時間スケールを対象とした生物指標を確立できるのではないかと考えた。そこで、サンゴ礫トラップと塩化ビニル製付着板という2種類の基質を用いて、ベントス群集の効率的調査法の確立と指標化を検討した。塩化ビニル製付着板は、群集組成の変異が大きく魚類等の捕食の影響も大きいため、指標化には向かない事が分かった。サンゴ礫トラップでは24週間の設置で周辺の環境を反映した群集が成立し、指標化に有効であった。そこで、サンゴ礫トラップを石垣島東海岸に設置することにより、地点の類別と指標種の抽出を行った。さらに、濁度と塩分がこれらの地点での主要な環境傾度である事を示すともに、指標種の意味付けを行った。中でも2種のヤドカリ類(Diogenes pallescensCalcinus latens)は高濁度地点の有効な指標種といえる。以上の結果、ベントス群集組成の指標種の抽出と座標付けによる指標値の算出という2通りの方法が確立できた。

  個別サンゴコロニーの成長・劣化解析による環境変動評価と管理手法に関する研究

 サンゴ礁の環境管理手法の一環として、サンゴ群体の長期的な(数年〜約10年間の)成長・劣化を、比較的成長の速い卓状ミドリイシと比較的成長が遅い塊状サンゴ(キクメイシ、ハマサンゴ等)について明らかにし、さらにこれに基づいて群体成長・劣化や群体相互の競合のモデル化を行った。方法としては、)前者のサンゴについては、毎年、八重山諸島黒島周囲のサンゴ礁に設置した2つのトランセクトにおいて、水中カメラ並列により同一地点の水中立体画像を取得し、アーカイブとして蓄積する。このアーカイブから、パーソナルコンピューター上の画像処理ソフトウェアによりコロニー外縁の座標を求めた。)後者のサンゴについては、骨格中のストロンチウム/カルシウム比が環境水温と逆相関を示すという知見(Beckら、1992)に基づいて、石垣浦底湾において採取したコブハマサンゴおよびオオハマサンゴの標本年輪の成長速度を求めるとともに、X線導波管を用いた蛍光X線分析による生育環境水温復元を試みた。1994年に取得された1地点のサンゴコロニーの分布を初期値とし、上記の方式で得られた成長速度の概算値をパラメータとしてシミュレーションを行った。

 )の手法により算出したところ、卓状ミドリイシの外縁の水平的成長は、年間5cm内外かそれ以上という大きな値に達することが確認できた。また、画像アーカイブの年次比較からはいくつかの類型的な定性的所見が得られた。そのうちの1つは、局所的に海水交流の悪い空間のコロニーの劣化である。黒島港北のパッチリーフでは、成長の速い卓状ミドリイシの周囲からの伸長に伴い、リーフの凹部に位置したキクメイシの上部のポリプから死んでゆく症例が見られた。また、ハマサンゴの蛍光X線解析では、移動平均による平滑処理により年間1cm内外の成長速度が得られた。ただし、水温再現に関しては、骨格中の空隙による蛍光X線強度の変動が大きく、現在の処理では困難であった。今後、この構造によるノイズ除去の手法を考案する必要がある。群体成長のシミュレーションの結果、成長の速い卓状ミドリイシが塊状サンゴを回りこむような形で伸長してゆくパターン等が得られ、画像アーカイブでとらえられるパターンと定性的な一致をみた。

 なお、取得した水中画像アーカイブは、htmlの形式で整理した結果、経年変化や各群体の成長・競合・劣化等を効率的に参照できるようになった。これらの画像は国立環境研究所のウェブサイトより一般公開する予定である。

 ぁヾ超ストレス応答の向上によるサンゴ礁管理手法の開発

 ハナヤサイサンゴを赤土0ppm(コントロール)と500ppmを含む海水中で4時間飼育し、ディファレンシャル・ディスプレイ法により2処理間の遺伝子発現パターンを比較したところ、明瞭な差異が認められた。この解析により、赤土によって誘導されたと思われる遺伝子断片31クローンを得たので、これらの塩基配列決定を行うとともに、その配列の相同性解析を行った。その結果、31クローンのうち既知遺伝子への相同性が認められたのは1クローンのみで、その配列はストレスタンパクHsp70と高い相同性を有していた。RT-PCRによる解析の結果、この遺伝子の発現は赤土だけでなく高水温によっても誘導されるが、低塩分には誘導されないことが明らかとなった。RACE法により、この遺伝子の全長cDNAクローニングを行ったところ、その全長は2484塩基対で、うちアミノ酸翻訳部位は2007塩基対と推測された。これを翻訳したアミノ酸配列(669残基)は、そのC末端に小胞体滞留シグナルとされるRDEL配列を保持していた。

(2)サンゴ礁生態系の回復促進

  .汽鵐慣化犬硫麌促進に関する研究サンゴ礁回復のためのサンゴの着生加入過程に関する研究

 礁池サンゴ群集の現況把握を空中写真画像解析により行うことを目的とし、まずサンゴと海藻の海水の動揺に対する安定度に着目した予備的画像解析を行った。海水が動揺する条件下の水槽内に様々なサンゴと海藻の被度の組み合わせを再現し、短い間隔で連続的に撮影した画像間でRGBごとに画像濃度値の変化率を調べた結果、変化率とサンゴ被度の相関は負の回帰式を示した。すなわちサンゴ被度が低いと、変化率が大きくなる傾向を示し、サンゴでは画像間の変化は少なく、海藻では変化が大きいことが示唆された。この結果を基に空中写真画像からサンゴ被度によるサンゴ群集の類型化を行うことを目的として、サンゴ被度が知られている沖縄県八重山群島石西礁湖における既存空中写真画像の解析を行った。

 サンゴ移植手法確立のため、サンゴの堆積物に対する耐性を調べることを目的として、沖縄県八重山群島石西礁湖において、移植実験を行った。礁湖内でシルト堆積状況の異なる系列的な5カ所を選定し、200111月、礁湖に普通に見られるAcropora nobilisA. tenuisA. cytheraeaA. formosa4種、各50片を作り、秤量した後、移植基盤に識別できるよう移植した。また、各地点に連続水温の測定を行うため長期水温記録計を設置するとともにシルトの堆積状況を測定するためセディメント・トラップを各地点2個設置した。移植サンゴを20023月に生残状況観察、また200212月に観察、回収秤量を行い、堆積物、水温との関係を検討した。

 ◆.汽鵐款眠麌のためのサンゴの着生加入過程に関する研究

 異なる温度・塩分、赤土堆積、底生生物の存在下でのサンゴ幼生の着生および変態の観察の結果、非常に幅広い温度・塩分下(種によっては1832℃、2151PSU)で着生することができるが、着生後のポリプ形成過程において、異常な温度・塩分環境が、ポリプの骨格形成に悪影響を与えることが明らかになり、幼生の着生加入によるサンゴ礁の回復が促されるために適当な温度・塩分環境は温度26℃−塩分34付近であることが判明した。また、赤土堆積は、たとえわずかな量でも、着生誘引物への幼生の接触機会を減少させ、着生基質を覆い隠して、サンゴ幼生の着生加入を減少させることが明らかになった。さらに海底に生息する底生生物の中には、サンゴ幼生の着生に有利に働くもの(サンゴモ類やイワノカワ類)と不利に働くものの(カイメン類)両者が存在しており、さらに、有利に働くものでも、着生誘引物と着生基質の両面で有効なもの(サンゴモ類)と、着生誘引物としては有効であるが着生基質としては有効でないもの(イワノカワ類)があり、また、アミジグサやハイオウギだけの繁茂する海底では、幼生の加入は期待できないことが明らかになった。

  流況と水質の相互作用を考慮したサンゴ礁群集の回復促進要因の解明

 サンゴ礁に流入する河川についての水質計測の結果、海岸湧水、地下水流入とともに、河川水も大きな栄養塩の流入源でありサンゴ礁の富栄養化の大きな要因となっていることが明らかとなった。宮良川、轟川は硝酸態窒素に高い値を示し、一方、石垣島北東部の小河川は相対的にリン濃度が高い環境が良好と考えられる石垣島北部のサンゴ礁と、陸起源の環境負荷物質の流入を多く受けていると考えられる宮良川河口部など島南部のサンゴ礁の海域間の各種水質項目について比較を試みたところ、窒素及びリンの栄養塩濃度で見る限り、地域差は不明瞭である。一方、懸濁物濃度には、北部のサンゴ礁で低く、大浜サンゴ礁に代表される南部のサンゴ礁で若干高い傾向が見られた。ただし、この南北間の差異は、サンゴ礁群集の被度や多様性に大きな影響を与える程のレベルとは思われない。懸濁物とクロロフィルa濃度には一部で明瞭な逆相関関係が見られるなど、その変動プロセスに関心がもたれるところであるが、今後、慎重な検討が必要である。海水中の懸濁物濃度の変動は、底質中の赤土成分の再懸諾過程が寄与している可能性が推定された。そこで海水中の懸濁物量と底質中の赤土量の双方を比較する調査手法を検討し、小型調査船による短期間多点採水と小型濁度計の利用による底質中懸濁物質含量(いわゆるSPSS)の測定の簡便化、高精度化を試みた。サンゴ礁海水の交換については自記記録センサーによる多点水温計測による評価が有効と思われ、宮良川河口部のサンゴ礁については大潮・小潮時の水温場の不均一性から定性的な海水交換量の評価が可能であった。2001年の夏は、近年では1998年夏の大規模白化現象が観察された年に次いで高水温状態が観測され、沖縄本島周辺では再び白化現象も報告された。石垣島のサンゴ礁でも日平均水温でも30℃以上の日が9月中旬まで継続しており、平年に比べて高水温傾向であったことが明らかとなった。

 

4.考察

 石垣島東海岸の礁池や礁原においてはサンゴ群集の衰退と、それに代わる海藻群落やソフトコーラル群集への移行という現象が近年継続して起こっているという可能性が示唆された。造礁サンゴ類と海藻類の分布特性、死サンゴ骨格の形状と散乱状況、幼群体の加入状況、および過去の報告から判断すると、石垣島礁池における造礁サンゴ群集、特にミドリイシ群集の攪乱状態は十数年以上前に生じ、その後も環境変化が継続しているか、あるいは攪乱が断続的に繰り返されているものと推察され、礁池内のサンゴ礁生態系は長期間にわたって二次遷移が初期段階で停滞していることが判明した。

 死滅サンゴ枝が著しく崩壊している場所に人工礁を設置して、魚類の個体数密度を高めたい場合には、設置する人工礁の大きさを重視するよりも、その構造的複雑性を考慮したほうがよいことがわかった。また、今後はサンゴ礫トラップのベントス群集を用いる事で、きめ細かなサンゴ礁環境のモニタリングが可能となるであろう。

 サンゴ礁池内の水中景観を代表するサンゴ類、海藻・海草類、スズメダイ魚類について、同時期同所的に得られた観察データを利用して、群集組成の統一的な指標化を行った。石垣島東海岸46地点296種の在不在データから地点の類別と指標種の抽出を行うとともに、主成分軸への座標付けによる指標値の算出を行った(図1)。主成分1軸はほぼ岸沖系列に対応すると考えられ、この軸に対する各種の在不在の反応を回帰分析した。その結果、ある指標値で存在する種のセットの予測と、ある種のセットに対応する指標値の推定が、双方向で可能となった。結果として得られた指標種と序列化種による指標値算出法は、石垣島東部海岸と同様の礁池内環境であれば、他の地点や他の時期にも適用可能である。特に、序列化種による指標値の算出は、一部の種の在不在データを用いる事によって全体的な指標値の推定が可能なため、応用範囲が広いと思われる。モニタリングの現場で、サンゴと海藻と魚の専門家を同時に揃えるのは、現実的に困難である場合が多い。そのような場合でも、サンゴ類のみや海藻類のみのデータで共通の指標値を推定できる。さらに、これらの群集組成から見た生物的環境の時間的変化や、空間的変異は、指標値の変化として数値化されるため、仮説検定やトレンド解析などの統計的な扱いも可能である。したがって、指標値の適用範囲と数値化の限界を認識しておけば、サンゴ礁環境の管理計画において数値目標の設定と管理効果の判定に指標値を利用できるだろう。この指標値推定法を応用すれば、サンゴ礁環境の管理計画の数値目標の設定と管理効果の判定に活用できるであろう。

 

 

1. サンゴ、海藻・海草、スズメダイ魚類群集の座標付け

 

 従来から海水交流の良し悪しのサンゴ礁への影響が指摘されていたが、アーカイブの定性的所見からは、これが局所的な空間スケールでも起こることが示唆される。すなわち、流動が弱いリーフ上の凹部や、やや深くて乱流レベルの低い部分で、シルトの堆積速度がはやまることがサンゴにストレスを与える可能性がある。また、成長スピードの他に、異種のサンゴコロニーの刺胞による闘争の結果どちらが空間を占めるかという生物的な要素も大きいようである。このようにサンゴの成長・劣化・競合は多様であり、被度などの巨視的な指標では記述できる部分はそのうちの限られた要素である。したがって、本研究で行ったような、立体構造も含めた群体分布を長期にわたって客観記述し、必要に応じて参照するという手法が、サンゴ礁環境保全のために有効であると考えられる。

 ディファレンシャル・ディスプレイの結果から、赤土はサンゴに遺伝子発現レベルで影響を及ぼしていることが示された。この解析で得られたHsp70様遺伝子が赤土と高水温には誘導されるのに対し、低塩分には誘導されなかったことから、ストレス条件下で誘導される遺伝子はストレスの種類によって異なるものと思われる。さらにこのことは、発現している遺伝子の種類を調べることにより、その生物が受けているストレスの種類を判別できる可能性があることをも示している。

 空中写真画像を解析した結果、予備解析結果と同様に低被度サンゴ群集では画像間の濃度値変化が大きくなる傾向を示したことから、連続的に撮影された空中写真画像からサンゴ被度の解析が可能と判断された。移植サンゴの生残、成長と堆積物との関係から、堆積物がサンゴの成長の阻害要因となることが示唆され、移植種の中ではAcropora nobilisが死滅率が低く、生長量が高く、堆積物に対する耐性が高いことが明らかとなった。

 サンゴの着生加入過程に関する研究では、たとえサンゴ幼生が着生可能な条件下であっても、その後のポリプの発達が行われない、あるいは不十分であることのあることが明らかとなり、したがって、造礁サンゴの幼生による加入過程を考える上では、着生後のポリプの生存および発達条件が、より重要であることが示唆された。また、赤土の堆積は、着生誘引効果をもつものを覆い、さらに着生に適した堅い基質を覆うという2つの悪影響をもち、その堆積した場所へのサンゴ幼生の加入を減少させると考えられた。さらに、サンゴ礁海底に生息する底生生物には、サンゴ幼生着生に対して様々な影響をもつものがおり、それらの生物の生息状況や組成が、その場所でのサンゴ幼生加入過程に大きく影響することが明らかになった。

 石垣島では20世紀を通じて水温の上昇が進行している。エルニーニョなどのイベントに同期して発生する高水温状況は、今後もサンゴの白化減少を引き起こす可能性が高く、海水流動の強弱と外洋水との交換の良否は個々のサンゴ礁にとって重要な影響を持つことになる。

 

5.研究者略歴

課題代表者:澁野 拓郎

1957年生まれ、広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程中退、学術博士、現在、独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所石垣支所亜熱帯生態系研究室長

主要論文:

Shibuno, T., H. Hashimoto and K. Gushima. Japan. J. Ichtyol. , 41, 301-306. (1994).

"Changes with growth in feeding habits and gravel turning behavior of the wrasse, Coris gaimard."

Shibuno, T., K. Hashimoto, O. Abe and Y. Takada, Galaxea, 1, 51-58. (1999).

"Short-term changes in the structure of a fish community following coral bleaching at Ishigaki Island, Japan."

Kawasaki, H., M. Sano and T. Shibuno, Ichthyological Research, 50: 73-77. (2003).

"The relationship between habitat physical complexity and recruitment of the coral reef damselfish, Pomacentrus amboinensis: and experimental study using small-scale artificial reefs."

 

主要参画研究者

(1) 藤岡義三

1956年生まれ、広島大学大学院理学研究科博士課程修了、現在、独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所黒潮研究部主任研究官

主要論文:

Fuji oka, Y. : J. Exp. Mar. Bio1. Eco1., 90, 43-54 (1985)

"Seasonal aberrant radular formation in Thais bronni and T. clavigera"

Fujioka, Y. : Bull. Nansei Nat. Fish. Res. Inst., 31, 1-11 (1998)

"Checklist of the hermatypic corals of Urasoko Bay, Ishigaki Island, southwestern Japan"

Fujioka, Y. : Galaxea, 1, 41-50 (1999)

"Mass destruction of the hermatypic corals during bleaching event in Ishigaki Island, southwestern Japan."

 

◆н野拓郎(同上)

 

:原島 省

1950年生まれ、京都大学大学院理学研究科博士課程修了、現在、独立行政法人国立環境研究所水土壌圏環境研究領域海洋環境研究室長

主要論文:

Harashima, A. et al. in Sherman, K. et al. (eds.),

"Large Marine Ecosystems of the Pacific Rim", 363-373, (1999).

"High-resolution biogeochemical monitoring for assessing environmental and ecological changes in the marginal seas using ferry boats."

原島 省、地球環境研究、6, 93-104. (2001)

「アジア沿岸海域の環境モニタリングと (N, P)/Si問題」

8凝隋‐福功刀正行(編)、国立環境研究所地球環境研究センター、CGER M006-2000, 180ページ.(2000)

「フェリー利用による海洋環境モニタリングおよび関連研究に関する総合報告書」

 

ぁС野暁明

1958年生まれ、京都大学大学院医学研究科博士課程修了、現在、独立行政法人農業生物資源研究所・企画調整部主任研究官

主要論文:

Noda, M., Shimizu, S., Tanabe, T., Takai,.T., Kayano, T. et al., Nature 312, 121-127. (1984).

"Primary structure of voltage-dependent sodiumu channel deduced from electric eel cDNA."

Kayano, T. et al. J. Biol. Chem. 265, 13276-13282. (1990).

"Human facilitative glucose transporters."

Lee, B., Tanaka, Y., Iwasaki, T., Yamamoto, N., Kayano, T. & Miyao, M. Plant Mol. Biol. 37, 265-272. (1998).

"Evolutionary origin of two genes for chroloplast small heat shock protein of tabacco."

 

(2) 藤原秀一

1950年生まれ、東海大学海洋学部卒、現在、国土環境株式会社沖縄支店環境調査グループ長

主要論文:

Satoh, F, and S. Fujiwara. in "The Report of the Project for resources survey and conservation of Tubbataha Reefs National Marine Park." (1996).

"Status of coral community at outer reef of Tubbataha Reefs, Philippines."

Fujiwara, S. Abstract of 9th International Coral Reef Symposium: 262. (2000).

"Coral bleaching occurred in the summer of 1998 around southern Japan"

Fujiwara, S., T. Shibuno, K. Mito, T. Nakai, Y. Sasaki, D. Chang-feng and C. Gang. in Wilkinson (ed.) "Status of Coral Reefs of the World: 2000", pp131-140, (2000).

"Status of Coral Reefs of East and North Asia: China, Japan and Taiwan."

 

◆Т簇研二

1968年生まれ、鹿児島大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了、現在、阿嘉島臨海研究所研究員

主要論文:

ヾ簇研二:みどりいし、8, 20-22 (1997)

“サンゴ幼生の変態促進物質”

岩尾研二・大矢正樹:みどりいし、9, 32-34 (1998)

“ウスエダミドリイシの初期ポリ形成過程の観察”

Iwao, K., T. Fujisawa and M. Hatta: Coral Reefs, 21: 127-129 (2002)

"A cnidarian neuropeptide of the GLWamide family induces metamorphosis of reef-building corals in the genus Acropora"

 

:鈴木 淳

1965年生まれ、東北大学大学院理学研究科中退、現在、独立行政法人産業技術総合研究所海洋資源環境研空部門主任研究官

主要論文:

Kawahata, H., Yukino, I. and Suzuki, A., Coral reefs, 19, 172-178, (2000).

"Terrestrial influence on the Shiraho fringing reef, Ishigaki Island, Japan: high carbon input relative to phosphate."

Suzuki, A., M. K. Gagan, P. DeDeckker, A. Omura, I. Yukino, and H. Kawahata, Geophysical Research Letters, 28, 3685-3688 (2001)

"Last Interglacial coral record of enhanced insolation seasonality and seawater 180 enrichment in the Ryukyu Islands, northwest Pacific

Suzuki, A., H. Kawahata, T. Ayukai and K. Goto: Geophysical Research Letters, 28, 1243-1246 (2001)

"The oceanic CO2 system and carbon budget in the Great Barrier Reef, Australia. "