里海ネット

聞き書き事例

「聞き書き」とは、話し手の言葉を録音し、一字一句すべてを書き起こして、ひとつの文章にまとめる手法です。
仕上がった文章からは、話し手の語り口や人柄が浮かび上がり、「聞き書き」を通して、地域に住んでいる人たちの持つ知恵や技、その生き様やものの考え方を学び、受けとめることができます。
名人の長い経験から生まれた、ひとつひとつの言葉が糧となり、自然と人の暮らしとのつながりを考える大きなきっかけとなり、里海づくり活動の方向性を探る上での、有効な手段となります。
ここでは、実際に聞き書きを行ったいくつかの事例を紹介します。

兵庫県相生湾沿岸の例(1)事例を閉じる

(語り:T氏(79歳)地元漁師、聞き書き:兵庫県、実施日:平成23年3月15日)
※ここに示す聞き書きの結果は、お話を伺ったままの内容を整理したものです。

相生湾での漁業の歴史
  • 相生湾での牡蠣の養殖は、相生で28か29軒行っている。昔は組合主体で行っていて、漁師は雇われていた。台風によって、水害に遭ったりして空いた期間もある。

  • 昔の漁は、アジ、鯖を捕っていたが、近年、安価になった。冷凍設備が良くなり、保存が出来るようになったので、安くなった。

  • それで牡蠣の養殖をやってみようと、昭和53年頃から始めた。

  • アジ、鯖は、大阪の中央市場に卸していたが、一貫(約4キロ)の箱が3,700円で売れた。それが安くなったので牡蠣に転向した。

  • また、イカナゴ漁などは、漁の時間を10時までと決めて、取りすぎないようにしている。

牡蠣の養殖と海
  • 牡蠣の養殖の筏の数も、それぞれ6と決めて、2年牡蠣(2年かけて育てる)も行わないこととするなどルールを決めている。

  • 牡蠣の養殖を始めてから、種付けする海の底の清掃を行った。これは、水が汚れていると育ちが悪いという理由からである。広島の牡蠣などは水が汚れているからか成育するのに2年かかる。ここはそうならないように頑張っている。海上保安庁に許可をもらって、掃除して海が痛まないようにしている。

  • 一昨年は、佐用町の水害のため水が悪くなり、牡蠣がだめだった。牡蠣の表面が汚れたので一度きれいな水につけたりして、きれいにするようにした。

  • とにかく海を大事にしている。去年は初めて、水上げする場所の海底を2日ほどかけて耕耘も実施した。そうしたところ今年は良く収穫できた。牡蠣の養殖を始めてから、あまり問題はなかったが、今年の猛暑で牡蠣が死んでしまうかと思ったが、なんとかなった。海は大切にしないといけない。息子も民間企業にいたが、今では漁師をやっている。そういうことで、牡蠣の養殖を通じて海を大事に使っている。

昔の相生湾と今の相生湾
  • 昔より海はきれいになっている。息子がいた民間企業なんかも排水を出していたが、そういうことが無くなってきれいになっている。今、工場排水(規制値を超える)を出すとえらいことになる。子どもの頃は、泳ぐと重油が浮いていたり、足にからまったりしたことがあった。湾内の漁では、赤穂の岬の方であっても、相生の魚は油の臭いがするということで、1割近く安く売られた。今は、そんなことは一切ない。

  • 今も昔も漁師は海を大切にしている。一般の人が何かすると注意したりもするし、海はめしの種なので、海が汚れると食べていけない。

昔の相生湾での漁
  • 昔、漁をしている頃は、沖でタイ、サワラ、スズキ、ヒラメなど大きなものを捕っていた。今でもいると思うが。網では、セイとかメバルを湾内で捕っていた。網漁では組合が漁を止めて、誰も漁してはいけないルールを作っていた。そして寒ボラも捕っていた。

  • 今は、ボラを捕ってもお金にならない。寒の内のボラといって、昔は高く売れた。

  • 漁師をして64年、海のこと以外知らない。牡蠣も、初めはくず牡蠣だった。こんな施設もないし、外で小屋を建てて殻むきしていた。魚を捕りながら行っていた。冷凍庫の良いのができて、魚も1,000円しなくなり、パック代、運搬費用を取られると、儲けがなくなった。おもしろかったけど、今は、そんなに捕れないいし、売れない。今、漁に出ているのは、赤字ではないか。魚の値段が安いことや捕れないので、ダメになっている。

  • 牡蠣は水が汚れるとだめ。汚いと死ぬ、去年は(水害のため)全滅に近かった。

行政にお願いしたいこと
  • 行政の方でも海を大切にしてもらっているので、何をしてもらいたいということはない。昔は油も流れていたが、今はそんなことはない。湾の中で波がたつことがあるので、なんとかならないか、海上保安庁にも相談した。最近は少なくなってきている。

相生湾の今後の方向性について
  • この近隣地域で順番に「牡蠣まつり」を行っているが、参加人数が正確に見込めないので困る。今年は、あまり来ないと見込んでいたら、あっという間に売れてしまった。40分で売れてしまった。何時間も待って並んでいた人に怒られた。

  • 「相生の牡蠣が一番おいしい。」と言ってくれる人もいて、阪神間から来る人が多い。「牡蠣まつり」の一番目が相生市。市やJRでPRしてくれている。海の近くでやる方が売れた。海から離れると売れない。鰯も鳥取の境港まで卸おろしに行った。やはり産地に持って行く方が売れる。海をどうして行くか、どうしてほしいと言うのは、あまりない。「牡蠣まつり」のように人が集まるのは良いことだと思う。それが相生の活性化につながればよいと思う。

兵庫県相生湾沿岸の例(2)事例を閉じる
(語り:H氏(69歳)郷土歴史研究家、聞き書き:兵庫県、実施日:平成23年3月15日)
三重県志摩市の例事例を表示する
(語り:地元養殖業者、聞き書き:志摩市、実施日:平成23年2月7日)
佐賀県有明海の例事例を表示する
(語り:漁業者、農業者、写真家、主婦の方、聞き書き:佐賀県)
三重県英虞湾の例事例を表示する
(語り:地元真珠養殖業者、聞き書き:社団法人瀬戸内海環境保全協会、実施日:平成22年2月2日)
兵庫県淡路島の例事例を閉じる
(語り:地元底曳網漁業者、聞き書き:社団法人瀬戸内海環境保全協会、実施日:平成22年2月3日)