水・土壌・地盤・海洋環境の保全

瀬戸内海環境保全基本計画

第1 序説

1 計画策定の意義

 瀬戸内海が、我が国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝の地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民が等しく享受し、後代の国民に継承すべきものであるという認識に立って、それにふさわしい環境を確保し維持すること及びこれまでの開発等に伴い失われた良好な環境を回復することを目途として、環境保全に係る施策を総合的かつ計画的に推進するためこの計画を策定するものである。


2 計画の性格

 この計画は、国民に対して瀬戸内海の環境保全の目標を示し、その理解と協力を得て、各種関係法令及び関係計画と連携しつつ、国、地方公共団体及びその他の者がその目標を達成するために講ずべき施策等の基本的方向を明示するとともに、諸施策の実施に当たって指針となるべきものである。


3 計画の範囲

 この計画は、瀬戸内海の沿岸域の環境の保全、再生及び創出、水質の保全及び 管理、自然景観及び文化的景観の保全、水産資源の持続的な利用の確保等について定める。 


4 計画の期間

 この計画の期間は概ね10年とする。また、策定時から概ね5年ごとに、本計画に基づく施策の進捗状況について点検を行うものとし、必要に応じて見直しを行うものとする。
 

第2 計画の目標

 瀬戸内海は古くから人とのつながりが緊密であり、人と自然が共存してきた海域であるが、高度経済成長期における人口増加、産業集積、埋立てや開発等により、多くの自然海岸や藻場・干潟が消失し、「瀕死の海」と呼ばれるほどに水質汚濁が進行した。このため、水質の改善を目指して、これまでに、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)(以下「水質汚濁防止法」という。)に基づく対策に加え、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)(以下「法」という。)の制定や同法に基づく様々な対策が実施され、人為的な負荷が軽減するなど、一定の成果がみられてきた。これらについて、引き続き対策を進めていくことに加え、海洋プラスチックごみによる汚染、気候変動に伴う影響など、新たに顕在化している課題への対応が必要である。
 中央環境審議会ではこれらの課題を整理した上で、令和2年3月に、基本的な考え方や施策の方向性を記した「瀬戸内海における今後の環境保全の方策の在り方について(答申)」を取りまとめた。当該答申では①栄養塩類の管理等による生物の多様性及び生産性の確保、②瀬戸内海全体の水環境を評価・管理する制度的基盤、③地域資源の保全・利活用に係る取組の推進、④海洋プラスチックごみを含む漂流・漂着・海底ごみ、気候変動等の課題に対する基盤整備、の4つの方策(4つの方策は互いに関係し合っており、個別の施策についても同様)を、湾・灘ごと、更には湾・灘内の特定の海域ごとの実情に応じて取り組むこととされている。
 当該答申のほか令和3年1月に取りまとめられた「瀬戸内海における特定の海域の環境保全に係る制度の見直しの方向性(意見具申)」、令和3年6月に成立した「瀬戸内海環境保全特別措置法の一部を改正する法律(令和3年法律第59号)」(以下、「改正法」という。)、第5次環境基本計画に示された地域循環共生圏 1)構築やそのための森・里・川・海のつながり 2)に配慮しつつ地域における里海づくりを進めるべく、幅広い主体が、地域の状況に応じた「あるべき姿」を共有し、取組を進める必要がある。この際、令和3年6月に開催されたG7首脳会合の成果文書の一部として合意された「自然協約 3)」に示された内容も踏まえ、当該地域における施策の実施に当たっても、このような国際的な潮流も意識し、 価値観を共有して取り組むことが求められる。
 なお、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」は、経済、社会及び環境の三側面を、不可分のものとして調和させ、統合的に解決しながら持続可能なよりよい未来を築くことを 目指している。目標14に掲げられている、海洋資源の保全のみならず、17 の目標 4)全てを瀬戸内海地域に当てはめ、諸課題を統合的に捉えることは、「きれいで豊かな瀬戸内海」を実現するための重要な視点である。
 きれいで豊かな海の確保に向けては、次の1から4に掲げる目標を達成するべく取組を進める必要がある。その際には、これらの取組が相互に関係し合っていること、必ずしもプラスの相乗効果を生み出すものばかりではないことに十分留意することが重要である。なお、新型コロナウイルスの流行により、地域活動の停滞や観光業への影響が深刻であること、気候変動による水温の上昇や降雨の変化の影響範囲や程度については十分解明されていないこと等も踏まえることとする。

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1) 地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、 地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、環境・経済・社会が統合的に循環し、地域の活 力が最大限に発揮されることを目指す考え方
2) 例えば、瀬戸内海に注ぐ旭川の上流域に位置する岡山県真庭市では、瀬戸内海で行っているカキ養殖の際に出るカキの殻(かきがら)を、真庭市の水田で肥料として使用 (かきがらを廃棄するのではなく、肥料として有効利用することで、根張りが良くなり、稲が倒れにくくなるという効果がみられ、稲作の収量増加につながり、海と山の課題を同時に解決している事例)
3) 2030年(令和12年)までに生物多様性の損失を止めて反転させるという世界的な使命にコミットするもので、G7各国は、陸地及び海洋全ての発生源からのプラスチックによる海洋汚染の深刻化に対処するための行動を加速化するとともに、保護地域とその他の効果的な地域をベースとする保全手段(OECMs)も活用し、国内の状況に応じて2030年までにG7各国の陸地及び海洋の少なくとも30%を保全又は保護することを目指すもの(詳細は、以下外務省ホームページを参照)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_000989.html
4) 17の目標:1貧困、2飢餓、3保健、4教育、5ジェンダー、6水・衛生、7エネルギ ー、8経済成長と雇用、9インフラ・産業化・イノベーション、10 不平等、11持続可能な都市、12持続可能な消費と生産、13気候変動、14海洋資源、15陸上資源、16平和、17実施手段(詳細は、以下外務省ホームページを参照) 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html

 

1 水質の保全及び管理並びに水産資源の持続可能な利用の確保について 

 瀬戸内海の水質は、全体として改善傾向であるが、有害化学物質等の低減や、 水質汚濁、赤潮、富栄養化の防止のための取組は引き続き維持することとする。また、湾・灘ごと、更には湾・灘内の特定の海域によって、栄養塩類の増加が原因とみられる課題と減少が原因とみられる課題が入り組んで存在している状況は解消されておらず、これらの課題を同時に解決することが必要な状況である。
 そのため、改正法により創設された栄養塩類管理制度の活用を始めとする特定の海域ごとの実情や必要性に応じたきめ細やかな栄養塩類の管理を推進していくこととする。なお、海域における栄養塩類等環境条件の変化に対する生物の応答は複雑であり、解明されていないことも多い点、一部の海域において依然として赤潮・貧酸素水塊が発生している点等に留意し、関係者との協議の下、順応的な栄養塩類の管理 5)を効果的かつ機動的に進めるよう配意が必要である。
 この特定の海域ごとの対策に当たっては、個々の対策の成果の積み重ねが瀬戸内海全体の評価となることに留意し、周辺環境の保全と水産資源の持続可能な利用の確保の調和・両立を図ることとする。この際、季節ごとの状況の変化、陸域からの影響、更には気候変動による水温上昇等の影響も考慮することが必要である。
 また、令和3年3月中央環境審議会答申「第9次水質総量削減の在り方について」において、「今後は、水生生物の生息への影響等をより直接的に表すことができる指標として追加された底層DOの類型指定を速やかに行い、底層の改善対策を推進していくことが重要」とされていることにもかんがみ、底層DOと既存の環境基準を併せて活用して、各地域の海域利用の在り方に照らした水環境管理に関する検討や順応的な取組の推進に努めることとする。
 さらに、生物多様性の恩恵の一つである水産資源の持続的な利用を確保するため、生物多様性・生物生産性の観点から環境との調和に配慮しつつ、水産動植物の増殖の推進を図るとともに、藻場・干潟の保全・創造等を含む必要な環境整備や、科学的知見に基づく水産資源の適切な保存及び管理の一層の推進に努めることとする。 

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5) 目標を設定し、モニタリングと並行しながら、人為的に管理し得る範囲において手法を実施し、その後、モニタリング結果に基づく検証・学習によって随時手法の変更を加え、目標を達成していくという順応的な考え方に基づく栄養塩類の管理


2 沿岸域の環境の保全、再生及び創出、並びに自然景観及び文化的景観の保 全について

 湾・灘ごと、更には湾・灘内の特定の水域ごとの実情に応じた対策については、 栄養塩類をはじめとした水質の管理のほか、生物の産卵場所、生息・生育の場としても重要な藻場・干潟・浅場等の保全・再生・創出、底質の改善等を同時並行で実施するよう努めることとする。
 また、健全な生態系を保全・再生することで、気候変動対策や防災・減災対策を含む社会課題の解決に貢献する「NbS(Nature-based Solutions:自然を活用した解決策)」の考え方を踏まえた取組を行うことが重要である。特に、藻場・ 干潟等にはブルーカーボンとしての役割も期待 6)されることにかんがみ、瀬戸内海地域の藻場・干潟等のCO2の吸収・排出の評価に向けた調査、検討等に着実に取り組む必要がある。
 さらに、瀬戸内海地域に成立している優れた自然の風景地や生物多様性の保全上重要な地域について、引き続き保全を推進することとする。
 このため、既存の自然の保護地域等における保全状況を定期的に点検し、保護地域等の拡充や保全の質の向上を図ること。沿岸域の環境の保全等の活動については、保全活動への多様な関係者の参画による活性化や、持続可能なツーリズムへの展開等も視野に入れたものとなることが望ましい。今般の改正により新たに指定対象が拡充された自然海浜保全地区については、生物の生息場所の確保のみならず、人々の交流の場、地域による保全活動の場等の新たな視点でも、新規指定の候補地を検討し、保全活動の活性化を促進することとする。 

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6) 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和3年6月関係省庁策定文書)において、「ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)については、吸収源と しての大きなポテンシャルが期待」されている旨、記載 


3 海洋プラスチックごみを含む漂流・漂着・海底ごみへの対応について

 きれいで豊かな海の実現、また、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」7)の実現に向け瀬戸内海地域でも海洋プラスチックごみを含む漂流・漂着・海底ごみ問題に取り組むため、関係府県においてまずは海洋プラスチックごみ削減に係る取組目標を設定し、これを踏まえて除去、実態把握や発生抑制を行うこととする。 更に、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年法律第60号)や美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律(平成21年法律第82号)(以下、「海岸漂着物処理推進法」という。)及び同法に基づく基本方針を踏まえつつ、内陸地域も含め、民間事業者、住民等地域関係者と協働した発生抑制、普及啓発等、取組を進めることとする。 

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7) G20大阪サミット(令和元年6月開催)において、日本が提唱しG20首脳間で共有された海洋プラスチックごみに関するグローバルビジョン「社会にとってのプラスチックの重要な役割を認識しつつ、改善された廃棄物管理及び革新的な解決策によって、管理を誤ったプラスチックごみの流出を減らすことを含む、包括的なライフサイクルアプローチを通じて、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す。」 


4 気候変動への対応について

 近年の瀬戸内海において気候変動影響が生じていること及びこれが長期にわたり拡大するおそれがあることにかんがみ、瀬戸内海の環境保全に関する施策において、気候変動適応に関する視点を踏まえた対応が必要である。特に、気候変動やそれ以外の要因も関連して生じる水質や生物の生息・生育環境等の変化が、生物の多様性及び生産性に与える悪影響の低減を図るため、適応策を検討・推進することとする。また、気候変動の影響も踏まえた栄養塩類と水産資源の関係等について、水温や降雨の状況の変化に伴う陸域からの汚濁負荷の流入の変化も含め、引き続き、調査研究を行っていくこととする。


第3 基本的な施策

 瀬戸内海における今後の環境保全の方策については、湾・灘ごと、さらには特定の海域ごとに課題が多様化していることから、この解決に当たっては、各々の地域が主体となって、あるべき地域の海の姿を具体的に描き、この実現に向けて検討を行い、対策を講じる必要がある。すなわち、地方自治体をはじめ、地域で活動する環境団体、事業者、研究者等の地元関係者に期待される役割は大きい。一方で、湾・灘によって取り巻く環境の状況等が異なることも考慮し、広域連携の意義が大きいことを踏まえ、国も広域的な見地から、府県域を越えた課題解決に向けて、環境省が中心となり更に関係省庁が連携を深め、取組を推進し、地域の取組が円滑に進むよう積極的に関与していくことが求められる。これには、平成27年の法改正において、地域の関係者の多様な意見を集める場として例示された、湾・灘協議会を活用することも有効と考えられることから、各府県において当該協議会等を設置し、更に、広域的な課題については府県域を越えて連携・協調していくことが望ましい。
 また、以下に示す施策については、各々の施策同士が、必ずしもプラスの相乗効果を生み出すものばかりではないことから、統合的沿岸管理の観点も踏まえ、特定の海域、湾・灘、瀬戸内海全体といった空間スケールや時間スケールに応じて、個々の方策を使い分ける必要がある。その上で、各地域が相互に連携し、瀬戸内海という一つの海において、最大限の効果が発揮されるよう調和したものとするべきである。その際、経済、社会及び環境の三側面を調和させるSDGsの視点も重要である。
 なお、対策の効果について科学的な知見が十分に得られていない場合には、科学的に裏付けられたデータの蓄積及び分析を行いつつ、順応的な考え方に基づき、柔軟かつ慎重に取組を推進するものとする。
 基本的な施策の概要は次のとおりである。 


1 水質の保全及び管理並びに水産資源の持続可能な利用の確保

(1)  水環境管理の観点からの汚濁負荷の低減
 水質汚濁、赤潮、富栄養化の防止のため、総量削減制度等に基づき、生活排水対策、産業排水対策及びその他の排水対策等、必要な対策を計画的かつ総合的に講じ、現在の水質が悪化しないよう、現状の取組を継続するものとする。加えて、引き続き、有害化学物質等の低減に努めることとする。さらに、これらの取組と合わせ、生物の生息等に対する直接的な影響を判断できる指標として、底層DOの環境基準が平成28年に定められたことから、今後、類型指定を進めていく必要がある。これらの対策を推進するに当たっては、(2)以降に掲げる下水道等の整備等の施策と合わせ、次の施策を総合的に講ずるものとする。
(ア)  産業排水については、総量規制基準の遵守等の観点から、引き続き、現状非悪化に留意し、必要な処理施設等の改善整備及び維持管理の適正化に努める。
(イ)  持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号)に基づき魚介類の養殖漁場の底質の悪化や富栄養化が生じないよう漁場管理の適正化に努める。また、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)等の活用を通じて化学肥料の使用の低減に努めるとともに、家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律(平成11年法律第112号)に基づき家畜排せつ物の適正処理に努める。
(ウ)  河川等の直接浄化を推進するとともに、自然環境が有する水質浄化機能の積極的な活用を図る。 

 
(2) 下水道等の整備の促進等
 瀬戸内海の特性等にかんがみ、水質総量削減制度の実施、富栄養化対策の推進等の観点から、地域の実情に応じ、下水道、コミュニティプラント、農業集落排水施設、浄化槽(合併処理浄化槽)等の各種生活排水処理施設の整備について促進に努めるものとする。
 さらに、地域の状況にかんがみ、必要な場合は窒素及び燐の除去性能の向上を含めた高度処理の積極的な導入を図るものとする。
 一方で、必要な地域においては、地域合意を踏まえ、環境基準の達成状況に配意しつつ、施設の季節別運転を行い、順応的アプローチによる管理を進めることも必要である。
 
(3) 湾奥部をはじめとする底層環境等の改善
 水質及び底質は互いに影響を及ぼす関係であることから、水質の保全とともに底質環境の改善を講ずることも重要である。底質環境に悪影響を及ぼす水質の悪化、水質に悪影響を及ぼす堆積した有機物の分解等への対策については、海域利用の実情に応じて、浚渫や覆砂、敷砂、海底耕耘等の底質環境の改善対策を水質保全対策等と組み合わせるなど、環境との調和に十分配慮しつつ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。
 栄養塩類の偏在や底質からの過剰な窒素及び燐の溶出、貧酸素水塊の発生を抑制するため、湾奥部等における流況改善対策や浚渫や覆砂等の底質改善対策について、周辺海域の水環境の改善効果を把握及び評価しつつ推進するものとする。その際、場所ごとに立地特性や海域利用の実態等の条件が異なること、季節性を考慮した対策が必要な場合もあることに留意した対策が求められる。
 また、海砂等の採取跡である大規模な窪地は、貧酸素水塊が発生する原因の一つとなっているため、窪地の埋戻しによる周辺海域の水環境の改善効果を把握及び評価しつつ、今後も引き続き埋戻しを推進するものとする。
 水質浄化及び生物の生息・生育空間の確保の観点から、新たな護岸等の整備や既存の護岸等の補修・更新時には、施工性及び経済性等も考慮しつつ、原則として、生物共生型護岸等の環境配慮型構造物を採用する必要がある。これらの取組は、生物の生息・生育環境を維持・回復することが、生態系を活用した防災・減災にも通ずるものであることに留意する必要がある。
 なお、実施することが効果的な場所においては、海底耕耘等の対策も必要である。  

 
(4) 油等による汚染の防止
 瀬戸内海は閉鎖性海域であり、大規模な油流出事故が発生した場合、被害が甚大になることが予想されることから、事故による海洋汚染の未然防止を図るためコンビナート等の保安体制の整備、海難の防止のための指導取締りの強化等必要な措置を講ずるものとする。また、これまでの大規模な油流出事故の際に得られた知見を活用しつつ、油回収船、オイルフェンス等の防除資材の配備等により排出油防除体制の整備を図るものとする。
 この他、油流出による自然環境等に及ぼす影響及び事故後の回復状況の評価にも資するべく、引き続き、平常時の自然環境等の観測データの蓄積に努めるものとする。
 
 
(5) 栄養塩類の管理等
 生物多様性・生物生産性の確保の重要性にかんがみ、改正法により創設された、「栄養塩類管理制度」も活用しながら、地域における海域利用の実情を踏まえ、必要に応じ、順応的かつ機動的な栄養塩類の管理等、特定の海域ごと、季節ごとのきめ細やかな水質管理を行うこととする。同時に、周辺環境の保全と調和・両立を前提に、一部の海域への栄養塩類供給及び藻場・干潟等の再生・創造等により、地域ごとのニーズに応じた、生物の多様性の恩恵としての、将来にわたる多様な水産資源の確保に貢献するものとする。
 また、栄養塩類と生産性が低下している水産資源との関係解明等を更に進め、一部の海域で指摘されている栄養塩類不足によるノリの色落ちや、栄養塩類が植物プランクトンの生成を通じて魚介類等の水産資源に与える影響の可能性について、関係者に知見を提供するとともに、栄養塩類供給の管理方策を提案し、より効果的に取り組んでいくものとする。 
 
(6) 水産資源を含む生物の生息環境の整備等 
 藻場・干潟は重要な漁場であるばかりでなく、水産生物の産卵、仔稚魚の生育等の資源再生産の場、有機物の分解による水質の浄化、ブルーカーボン等の様々な機能を有していることを踏まえ、その保全・創造等に努めるものとする。
 また、水産生物の生活史に対応した良好な生息・生育環境空間を創出するため、より広域的・俯瞰的な視点を持った漁場整備と水域環境保全対策の推進に努めるものとする。
 なお、他の海域から入り込む魚介類や微生物等が瀬戸内海の特性によりその水質や生態系、水産資源等に大きな影響を及ぼすおそれがあることから、それらに対して十分留意し、必要に応じて対策を行うものとする。
 さらに、水産資源の管理措置については、漁業者はもとより、広く一般の理解を深めるとともに、地域の関係者として遊漁者にも資源管理において一定の役割を果たしてもらえるよう努めるものとする。 


2 沿岸域の環境の保全、再生及び創出、並びに自然景観及び文化的景観の保全 

(1)  自然海浜等の保全等
 沿岸域における藻場・干潟・砂浜・塩性湿地等が適正に保全され、また、必要に応じて再生・創出のための措置を講ずるものとする。とりわけ藻場・干潟等については、1(6)にある様々な役割にも留意し、自然海浜保全地区制度の活用も含め、保全・再生・創出の取組を推進するものとする。また、継続的な観察、モニタリング等により、生物の生息・生育場所としての機能の確認や、CO2吸収量の算定や精査にも貢献するものとする。
 瀬戸内海の沿岸域は、開発等により、自然海岸が減少し、既に海岸の景観が損なわれている場合もあることにかんがみ、残された自然環境の保全について、特に慎重に配慮するものとする。また、海面及び沿岸部等において、施設を設置する場合においても、景観の保全について十分配慮するものとする。
 これらの対策を推進するに当たっては、(2)以降に掲げる環境整備等の施策と合わせ、次の施策を総合的に講ずるものとする。なお、このような人工的に改変された海岸線を有する海域の環境改善に当たっては、海藻類の着生等を促進する機能を有する構造物や、底生生物や仔稚魚などの水生生物を引き寄せる構造物の設置が有効な場合もあることから、これらの積極的な活用を検討する必要がある。
(ア)  瀬戸内海の自然景観の核心的な地域は、その態様に応じて国立公園等の保護地域制度を用いて適正な保全を図るものとする。また、このような保護地域と同等の自然の価値を有するエリアについて、関係者と調整の上、その態様に応じ、必要な保全策を講ずるものとする。なお、取り得る保全策が複数存在する場合には、相互に連携・調和し、制度として補完し合うこととする。
(イ)  海水浴、潮干狩り、海釣り等の自然とのふれあいの場等として多くの人々に親しまれている自然海浜等が、できるだけその利用に好適な状態で維持・管理され、また、適切な利用を確保するものとする。また、個別海域の特性に応じ、必要な場合には、国の排水基準の設定されていない項目について、措置を講ずるものとする。 
(ウ)  瀬戸内海の島しょ部及び海岸部における草木の緑は、瀬戸内海の景観を構成する重要な要素であることにかんがみ、保安林、特別緑地保全地区等の制度の活用等により現状の緑を極力維持するのみならず、積極的にこれを育てる方向で適正に保護管理するものとする。
(エ)  瀬戸内海の自然景観と一体をなしている史跡、名勝、天然記念物等の文化財が適正に保全されることが望ましい。また、瀬戸内海各地に点在する漁港、段々畑、街並みなどの自然景観と一体となって重層的にそれぞれの地域の個性を反映している文化的な景観についても、適切に保全されるよう配慮するものとする。 
 
(2)  海砂利の採取の抑制
 海砂利の採取については、これまで府県の条例等に基づき禁止等の運用が行われていることを踏まえ、原則として行わないものとする。
 なお、河口閉塞対策等を含め、地域の実情等によりやむを得ず海域の砂利採取 を行う場合においては、採取による当該及び周辺海域の環境等への影響を調査し、最小限の採取量並びに影響を及ぼすことの少ない位置、面積、期間及び方法等とするよう努めるものとする。また、採取後の状況についてモニタリングを行うよう努めるものとする。
 河口域における河川の砂利採取にあっても、動植物の生息・生育環境等の保全及び海岸の侵食防止等に十分留意するものとする。
 なお、上流域も含め堆積した砂利については、例えば、砂浜や干潟の造成や、やせた砂浜や機能の低下した干潟の回復といった自然再生活動に活用したいというニーズがある場合などと、適切かつ効果的なマッチングが行われることが望ましい。 
 
(3)  埋立てに当たっての環境保全に対する配慮
 公有水面埋立法(大正10年法律第57号)に基づく埋立ての免許又は承認に当たっては、法第13条第1項の埋立てについての規定の運用に関する同条第2項の基本方針に沿って、引き続き環境保全に十分配慮するものとする。
 また、埋立てに当たっては、環境保全に十分配慮することとし、環境影響を回避・低減するための措置を講ずるものとする。特に、環境影響評価法(平成9年法律第81号)及び条例に基づく環境影響評価に当たっては、環境への影響の回避・低減を検討するとともに、必要に応じ適切な代償措置を検討するものとする。 その際、地域住民の意見が適切に反映されるよう努めるものとする。
 これらの検討に際しては特に藻場・干潟等は、一般に生物多様性・生物生産性が高く、底生生物や魚介類の生息・生育、海水浄化等において重要な場であることを考慮するものとする。
 
(4) エコツーリズム等の推進
 瀬戸内海に特有な景観を活用して、都市住民を含む市民が海や自然の保護に配慮しつつ自然等とふれあい、これらについての知識や理解が深まるよう、エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づきエコツーリズムを推進するものとする。この際、独自の景観を残している島しょ部をはじめ、地域の生業やそれに取り組む人々の姿が印象的な漁村の風景、スナメリやカブトガニといった地域の保全活動等を象徴する生物など、地域が持つ特有の魅力を再評価すると同時に、地域の活性化にもつながるよう努めるものとする。
 また、瀬戸内海の島々のネットワークや自然環境を活かした海洋観光の取組を推進するものとする。
 さらに、周辺環境を勘案しつつ、人工海浜や干潟の造成等の海と人とがふれあえる場を創出するよう努めるものとする。なお、この際、利用マナー等に係る普及啓発も重要である。
 
(5) 健全な水循環・物質循環機能の維持・回復
 流域や生態系における健全な水循環・物質循環機能の維持・回復を図るため、海域と陸域の連続性や土砂を含む物質移動の連続性に留意して、海域においては藻場・干潟等の沿岸域の環境の保全及び自然浄化能力の回復に資する人工干潟等の適切な整備を図るものとする。陸域においては森林や農地の適切な維持管理、河川や湖沼等における自然浄化能力の維持・回復、地下水のかん養、下水処理水の再利用等に努めるものとする。また、これらの施策の推進に当たっては、流域を単位とした関係者間の連携の強化に努めるものとする。
 
(6) 島しょ部の環境の保全
 島しょ部では限られた環境資源を利用した生活が営まれており、その環境保全は住民生活や社会経済のあり方に直結する課題であることにかんがみ、環境容量の小さな島しょにおいては、特に環境保全の取組に努めるものとする。


3 海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の除去・発生抑制等 

(1)  海岸漂着物等の除去及び内陸地域を含む発生抑制の推進 
 海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等は世界の多様な地域から発生しており世界全体の共通課題となっていることから、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現に向けて国際社会との連携・協力を推進することが重要である。
 内海である瀬戸内海における海洋プラスチックごみの大半は国内由来であることが判明しており、主要な発生源の一つである内陸地域を巻き込み、また、府県域を越え、官民その他関係者が広く連携し、瀬戸内海の海岸漂着物等の問題について、共通の価値観を共有し、協働して発生抑制対策を推進することで、広く国内外に先行的優良事例として発信していく機会を有している。
 こうしたことを念頭に、海洋プラスチックごみを含む海岸漂着物等の問題の解決に当たっては、海岸漂着物等の除去の視点だけではなく、ポイ捨て抑制対策、分別回収の徹底と散乱防止対策、これらの普及啓発等により発生抑制を推進することとする。
 海岸漂着物等については、海岸漂着物処理推進法及び同法に基づき策定した基本方針に基づき、府県における地域計画の策定、円滑な回収・処理、効果的な発生抑制対策を関係府県等と連携して促進する。また、漂流・海底ごみについては、同法附帯決議に基づき、実態把握や回収・処理、発生抑制対策等に積極的に取り組むものとする。
 具体的には、以下3点を柱とする。
(ア)  海岸漂着物等の円滑な処理を一層推進するとともに、流域圏にある地方公共団体が民間団体等も含めて連携して一体となって海岸漂着物等の発生抑制対策に取り組み、その円滑な処理や発生抑制を施策の両輪として講ずること
(イ)  関係者の相互協力が可能な体制づくりや、民間団体等、事業者、研究者、地域住民等との連携、協力、支援を通じて、多様な主体の適切な役割分担と連携の確保を図ること
(ウ)  海洋プラスチックごみ対策の国際的側面を踏まえ、地球規模や東アジア・東南アジアなどの周辺国における多国間の枠組み、二国間協力や官民協力等を通じて瀬戸内海における取組を適切に情報発信するとともに、そこで得られた国際的な知見・経験等を国内の取組に適切に反映すること 
 
(2) プラスチックごみ対策の推進 
 廃プラスチック等の漂流・漂着・海底ごみについては、プラスチックごみの量や種類等の実態把握や、使用や廃棄段階における適切な管理等を通じたマイクロプラスチックも含めた海洋への流出防止の対策のほか、「プラスチック資源循環戦略」(令和元年5月)に掲げる「3R+Renewable」の基本原則に沿った取組を進めるとともに、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律に基づき、プラスチック廃棄物の排出抑制や回収・リサイクルの円滑化、環境に配慮された代替素材への転換を促進するための措置を講じ、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けた取組を着実に進めていく。 
 
(3) 循環経済への移行
 大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済から、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行を中長期的に進めていく必要性が高まっている。循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)の趣旨を踏まえつつ、事業者・民間団体等が地方公共団体とも連携し、創意工夫のもとでワンウェイ・プラスチック製品や地産地消を通じた容器包装材の使用削減を含むプラスチックごみの発生抑制や、回収したプラスチックごみのリサイクルやアップサイクルなどを通じ、地域における循環経済への移行を推進するとともに、資源投入量の抑制・再生資源の活用を通じて、事業活動の持続可能性を高めるとともに、企業の中長期的な競争力の源泉としていく。
 また、廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の促進、処理施設の整備等の総合的施策を推進することにより、廃棄物としての要最終処分量の最小化を図るものとする。また、廃棄物の海面埋立処分に際しては、環境保全と廃棄物の適正な処理の両面に十分配慮するとともに、当該処分地が地域で果たす役割や大規模災害等に備えた災害廃棄物の処分地の確保に対する社会的要請の観点から、整合性を保った廃棄物処理計画及び埋立地の造成計画によって行うものとする。  


4  気候変動への対応を含む環境モニタリング、調査研究等の推進

(1)  監視測定の充実、調査研究等の推進 
 水質汚濁防止法に基づく水質総量削減制度の実施及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号)の運用等に伴い、水質の監視測定施設、設備の整備及び常時監視を含む環境モニタリングの体制の維持・拡充に努めるとともに、引き続き水質等の保全のための監視測定技術の向上等について検討を進めるものとする。
 国、地方公共団体、事業者、民間団体等の連携の下に、海象等の基礎的研究、瀬戸内海の特性に対応した水環境管理手法に関する調査検討、地域における海域利用の実情に応じて、より効率的な排水処理技術の開発、環境影響評価手法の向上に関する調査研究、生物多様性・生物生産性の確保に主眼を置いた水質管理及び底質改善に関する調査研究等を推進する。
 引き続き、赤潮の発生及び貧酸素水塊の形成のメカニズムの解明並びにそれらの防除技術の向上に努めるとともに、その発生の人為的要因となるものを極力減らすものとする。さらに、瀬戸内海に関する環境情報や調査研究、技術開発の成果等のデータベースの整備等を進め、オープンデータ化も含めた情報の共有化や、情報の収集・活用の効率化に努めるものとする。
 また、今般の改正法により、法の基本理念に気候変動の影響に係る観点を追加したことも踏まえ、地球規模の気候変動による水温の上昇、降雨の強度や期間の変化(これに伴う淡水流入量、陸域負荷量等の変化を含む)、海面の上昇等がもたらす生物多様性・生物生産性への影響や適応策の調査研究等を強く推進するものとする。その際、海洋の酸性化による生態系への影響も懸念されていることに留意するものとする。さらに、気候変動適応法(平成30年法律第50号)に基づく気候変動適応広域協議会との連携を通じて関係者間の協力体制の構築に努めるとともに、地域気候変動適応計画への関連施策の組込み等により、地域の状況に応じた適応策を推進するものとする。

(2)  技術開発の促進等
 瀬戸内海の環境を保全し回復させる観点から、生態系の構造や各種機能の評価、景観等の評価手法と指標の開発、生態系等の効果的な環境モニタリング手法、生態系への化学物質の影響等に関する調査研究並びに生物の生息環境に係る視点も含めた水質・底質保全、藻場及び干潟の造成、廃棄物等の再利用等に関する技術開発や技術の適切な普及等を促進するものとする。

(3) 栄養塩類管理等における、最新の科学的知見に基づく評価
 海域における栄養塩類等環境条件の変化に対する生物の応答は複雑であり、 解明されていないことも多い点にも留意し、順応的な栄養塩類の管理等に当たっては、今後も更なる調査・研究を継続するとともに、常に最新の科学的知見に基づき、その効果・影響を適切に評価するものとする。 


5 基盤的施策の着実な実施

(1) 環境保全思想の普及、広域的な連携の強化等
 法の対象は、瀬戸内海沿岸地域のみならず、内陸地域も含む13府県が関係する広範な地域となっていることから、瀬戸内海における環境保全施策の推進に当たっては、この枠組みも活用し、一層の広域的な連携強化や普及啓発を図ることが有効である。
 また、その実効を期するため、多様な環境施策の計画・実施等を行う行政、事業活動における環境配慮行動等を行う事業者、生業の場としての海における環境配慮行動等を行う漁業者、地域に根ざした環境配慮行動の提案・企画・実施等を行う民間団体、日常生活における環境配慮行動等を行う市民等がその責務を果たすことはもちろんのこと、瀬戸内海地域の住民や民間団体及び瀬戸内海を利用する人々の正しい理解と協力、地域における「きれいで豊かな海の実現」という目標の共有が不可欠であり、瀬戸内海の環境保全に関する思想の普及及び意識の高揚を図るものとする。さらに、汚濁負荷や廃棄物の排出抑制、環境保全への理解、行政の施策策定への参加等の観点から、住民参加の推進に努めるものとする。
 環境保全対策を推進するに当たっては、生活排水をはじめとする従来からの陸域負荷のコントロールによる富栄養化対策だけでなく、プラスチックを含む廃棄物対策等についても、内陸地域を含めた総合的な対策に取り組むこととする。
 また、健全な水循環・物質循環機能の維持・回復のための取組の推進、住民参加の推進、環境教育・環境学習の充実を図り、流域を単位とした関係者間の連携の強化に努めるとともに、各地方公共団体の環境保全の取組の実施においても連携の強化に努めるものとする。
 このため、公益法人等の民間団体による環境ボランティアの養成等への取組の支援に努めるものとする。また、環境保全施策の策定に当たって、必要に応じて地域協議会をつくるなど、幅広い主体の意見の反映に努めるものとする。
 とりわけ、湾・灘協議会については、その設置が令和3年3月時点でいまだ5県7協議会にとどまっていることも踏まえ、設置に向けた取組を更に強化するものとする。また設置後も、地域の様々な課題について各主体が連携・協働して対応する上で、当該枠組みが活用されるよう努めるものとする(双方向のコミュニケーションの重要性に留意)。

 (2)  情報提供、広報の充実
 住民参加、環境教育・環境学習、調査研究等を推進するため、食、文化、レクリエーションを通じた普及啓発活動、市民の環境に対する認識の確認、多様な情報に関するデータベースの整備等により広く情報を提供するシステムの構築等を進めるとともに、広報誌等を通じて、瀬戸内海の環境の現状及び汚濁負荷や廃棄物の排出抑制への取組等の広報に努めるものとする。
 その際、瀬戸内海は、元来有している美しい自然と人の営みが古くから共生してきた、まさに「里海」らしい場所であったという原点、また、その風景は万葉集にうたわれるなど、優れた風景地として古くから人々に愛されてきたこと、近現代においても、昭和9年に、我が国最初の国立公園の一つとして、備讃瀬戸を中心とする地域が瀬戸内海国立公園として指定されたこと等を踏まえることとする。なお、瀬戸内海は、大小様々な島が作り出す多島海景観、白砂青松と称される海岸線といった自然景観、人々の生活や歴史、風土が織りなす漁村景観や農業景観、厳島神社をはじめとする歴史的な文化財や街並みなどを含む多様な文化的景観が、国内外から高く評価されており、これを生かした取組が求められる。

(3)  環境教育・環境学習の推進
 瀬戸内海の環境保全に対する理解や環境保全活動に参加する意識及び自然に対する感性や自然を大切に思う心を育むため、地域の自然及びそれと一体的な歴史的、文化的要素を積極的に活用しつつ、国、地方公共団体、事業者、民間団体の連携の下、環境教育・環境学習を推進するものとする。このため、海とのふれあいを確保し、その健全な利用を促進する施設の整備や、理解促進のためのプログラム等の整備等に努めるとともに、必要に応じ、子どもたちの体験活動の再構築を図るものとする。
 また、国立公園等を活用した自然観察会等地域の特性を生かした体験的学習が、保護施策への理解を深め、環境教育・環境学習の観点からも効果が期待されることにもかんがみ、多様な自然体験活動を一層充実させるとともに、機会の提供やボランティア等の人材育成及び民間団体の活動に対する支援等に努めるものとする。なお、平成29・30年に公示された学習指導要領において、一人一人の児童生徒が「持続可能な社会の創り手」となることができるようにすることが求められており、学校における環境教育については、社会科、理科、技術・家庭科を始め様々な教科等を通じて横断的に取り組むこととされている。 

(4) 国内外の閉鎖性海域との連携
 国内外の閉鎖性海域における環境保全に関する取組との連携を強化し、瀬戸内海の環境保全の一層の推進を図るとともに、国内外における取組に積極的に貢献するため、閉鎖性海域に関する国際会議等の開催や支援、積極的な参加、人的交流、情報の発信及び交換等に努めるものとする。  

(5)  国の援助措置
 国は、この計画に基づき地方公共団体等が実施する事業について、その円滑かつ着実な遂行を確保するため必要な援助措置を講ずるよう努めるものとする。


第4 計画の点検

 この計画の点検の際には、水質及び底質の状態を示す項目、水温等のほか、次の指標等を当該地域の状況の把握に活用するものとする。また、第3の5に記載された基盤的な施策をはじめ、数値化しにくい要素を含む取組や他地域へのモデルになるような先駆的な取組もあることから、具体的な事業や取組事例の把握や、そのアウトカムまでも含めたベストプラクティスの共有も重要である。
※ 第3の構成に沿って4つに分類。ただし、各分野は相互に関係し合っており、各掲載項目も、複数の分野に関わるものも多く、特定分野のみの指標を意味するものではない。
※ 特に気候変動に係る項目については、直接的な指標は少ないものの複数の項目を重ね合わせて分析・検討することで、その変化をより適切に把握することが可能となる。
※ 法第4条第2項も踏まえ、関係府県における府県計画の策定、点検等においては、地域の関係者で構成される湾・灘協議会等を設置し、これを活用することが望ましい。

【主に水質の保全及び管理並びに水産資源の持続可能な利用の確保に関する指標】

  • 水質汚濁に係る環境基準達成状況
  • クロロフィルa
  • 汚水処理人口普及率
  • 下水道高度処理実施率
  • 漁場改善計画策定漁協の養殖生産量シェア
  • 漁場改善計画数
  • 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律への対応状況
  • 栄養塩類管理計画策定数、当該計画に基づく栄養塩類増加措置の実施施設数
  • 保護水面指定数
  • 藻場・干潟ビジョン策定件数
  • 漁業就業者数
  • 漁業生産量 
【主に沿岸域の環境の保全、再生及び創出、並びに自然景観及び文化的景観の保全に関する指標】 
  • 底生生物の出現種数・個体数
  • 藻場・干潟・砂浜・塩性湿地等面積
  • 渡り鳥飛来数 
  • 自然海浜保全地区の新規指定数箇所数及び5年以内の保全状況の点検実施箇所数
  • 史跡、名勝、天然記念物・重要文化的景観等の件数 
  • 国立公園面積 
  • 国立公園利用者数
  • 海水浴場の数・利用者数
  • 里海づくり活動の取組箇所数(自然再生推進法(平成14年法律第148号)等 に基づく公的機関の取組箇所数も含む)
  • 海砂利採取量
  • 森林整備(造林)実施面積
【主に海洋プラスチックごみを含む漂流ごみ等の除去・発生抑制等に関する指標】 
  • 漂流ごみ等の回収量、うちプラスチックごみ量8)(全体量及び人口1人当たりの回収量)  
  • 陸域におけるプラスチックごみの分別収集量(市町村及び人口1人当たりの収集量)
  • 漂流ごみ等の回収に参画する人数、参加団体数(官民の別を含む) 
【主に気候変動への対応を含む環境モニタリング等の推進に関する指標】 
  • 水温(表層及び底層)
  • 地域ごとの淡水流入量(豊水時及び平水時)
  • 水温変化の影響を受けやすい生物の生息・生育情報(水産資源への影響も含む)
 また、法第4条第1項に基づく瀬戸内海の環境の保全に関する府県計画においては、上記を基本としつつ、これに替わり得る、又は、より府県の実情を踏まえた適切な指標を府県が独自に設定することも可能とする。更に、これとは別に、地域の実情に応じて、府県独自の指標を追加して点検を行うものとする。なお、これらの指標は、当該地域に係る自然的・社会的環境の基礎的情報(降雨の状況、人口減少や土地利用の状況等)と組み合わせて分析することにより、当該地域の環境変化について、長期変動の観点も含め、より正確に把握することが可能となる。このため、環境省や関係府県が実施している広域総合水質調査9)を始めとする継続的かつ横断的なモニタリングが今後も不可欠である。

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8) 漂流ごみ及び海底ごみのプラスチックごみ量は、推計困難である場合には、現時点では評価不要とする。 
9) 総合的な水質汚濁防止対策の効果を把握し、また、水質汚濁機構の検討に必要な基礎資 料を得るために行われている、水質及び底質の汚濁の実態を統一的な手法により測定す る調査で、東京湾(28 地点)、伊勢湾(33 地点)、瀬戸内海(127 地点)において、年4回(春、夏、秋、冬)実施 ※ 水質は 1978 年から、底質は 1991 年から、植物プランクトン及び底生生物は 2002 年から調査開始
<調査項目>
水質:水温、色相、塩分、透明度、pH、DO、COD、DCOD、T-N、NH4-N、 NO2-N、NO3-N、T-P、  
   PO4-P、イオン状シリカ、クロロフィル a、TOC、DOC、POC
底質:粒度、pH、酸化還元電位、乾燥重量、強熱減量、COD、T-N、T-P、TOC、 硫化物
植物プランクトン:優占種 10 種の種の種名、細胞数、優占種以外も含む全細胞数、沈殿量
底生生物:種名、個体数、湿重量