水・土壌・地盤・海洋環境の保全

海域の物質循環健全化計画 | 平成25年度第2回海域の物質循環健全化計画統括検討委員会議事概要

開催日時

2013年11月29日(金) 14:00~16:30

開催場所

航空会館 B101号室

出席者

(委員)
松田座長、鈴木委員、寺島委員、中田(喜)委員、西村委員、山本委員
(オブザーバー)
藤原名誉教授
(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)
名倉室長、高山室長補佐、石倉主査
(事務局)
いであ(株)黒川、高橋、舘野、畑、平野
(三津湾地域検討委員会事務局)
三洋テクノマリン(株) 合田、水島

資料確認

〔配布資料を確認した。〕

座長挨拶

(松田座長)今回は本年度予定されている委員会の第2回目である。これまでの議論を少し振り返っておきたい。
三河湾と播磨灘については、平成22~24年度にかけて地域のヘルシープランが取りまとめられ、本検討委員会では、「海域のヘルシープラン策定の手引き」を作成した。また、一年遅れでスタートした三津湾については、平成23~25年度が検討期間であり、今年度が最終年度となる。よって、今年度の大きなミッションは三津湾のヘルシープランを取りまとめて、それを反映した形で手引書の改訂版を作るということである。
本日の議事は、ここにあるように、普及啓発手法の検討、手引書の改訂、三津湾のヘルシープランの概要についてということになっている。本委員会と同時に、国レベルでの政策や施策も進行しており、今年4月には海洋基本法に基づく海洋基本計画の改訂が行われ、その中でヘルシープランを取りまとめることが明記されている。そのようなことから、手引書を用いて地域のヘルシープランを取りまとめる際に役に立つと思う。
また、瀬戸内海に限って言うと、瀬戸内法に基づく瀬戸内海環境保全基本計画が来年6月を目途に取りまとめの検討が進められているところで、そこにはもちろん播磨灘も入っており、このヘルシープランと非常に関係が深いので、そこにも良い形で反映できればと思う。
始めに話したように、今回は今年度予定されている全3回の2回目であり、最終回は3月になると思う。最終回であまり大きな変更のリクエストや課題等が出ると、時間的にも事務的にも変更等は難しいと思うので、できれば今日大きな課題、宿題、リクエストは出していただき、最終回ではなるべくスムーズに報告書にまとめられるようにして頂けるとありがたい。あるいは、最終回で時間が余れば、本プロジェクトは本年度で終わるため、その後どのように進めたらよいかという話もできたらいいと思う。

議事

(1)第1回統括検討委員会の指摘と対応【参考資料-1】

〔事務局より第1回委員会時の指摘事項への対応の説明を行った。参考資料-1に関する質疑応答は特になかった。〕

(松田座長)具体的な修正内容に関しては、個々の資料の中でご確認いただき、その際に質問等をお願いしたい。

(2)普及啓発手法の検討【資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。資料-1に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(山本委員)資料-1のp.14(以下、参照ページはすべて資料-1)で、ヘルシープランや環境基本計画というのは非常に重要である。ヘルシープラン策定後のアウトプットとして、どのように進めていけば自治体が実施する際のやる気につながるのか。例えば、自治体でパワーややる気のあるキーパーソンがいれば、県あるいは市の中で発言してもらえれば一番良い。外から言っても難しいので、良い進め方があれば教えてほしい。
→(松田座長)非常に重要な意見である。例えば、今は基本計画に入れるような例が紹介されたが、本日の資料ではNPOや行政もターゲットとしての話であった。一方で、もう一段階先に進むと、行政等が新しい条例や方針を作ることをターゲットにするなど、もう一つ違うレベルのターゲットを明らかにしてやると、作業が絞られてくると思う。
→(事務局)実際に地域で物事を始めようとするときには、行政の方には最初にお声掛けをし、ワークショップに入っていただくことが重要と考えている。手引きの中にもワークショップの開催方法を入れたが、ワークショップを開くときは有力な人を"一本釣り的に"に委嘱することが必要ではないか。これはエコツーリズム推進法のマニュアルでも言われており、参考として記載させていただいた。関係する方々に狙いをつけることが最初の一歩であると考えている。
→(松田座長)それも必要だが、おそらく山本委員は、兵庫県播磨灘の例が事実としては書いてあるのだが、もう少し地域の具体的な計画に盛り込むようにしたり、方針を立てたり、狙いを定めるような方向性を加えた方がいいのではないかということを言っている。そこを今後の改訂でやってほしい。
2.(寺島委員)p.15に関し、いろいろな形で海の健康に対する取組みの枠組みがあると思うが、ヘルシープランのやり方が、そのような枠組みに取り入れられると、非常に効果があると思う。自然発生的に関係者だけが行うのではなく、何か大きな枠組みの中でこれを積極的に使っていくという方向性を打ち出せるといいと思う。
→(松田委員)自発的な活動は非常に重要だが、最終的には公的な枠組みの中に位置づけ、その中の行動計画につなげるといった方向性かと思う。海洋基本計画や瀬戸内法でもルールブックができてくると思うので、そのようなところになるべくつなげる努力をすることは、よそから見て勝手にやっているということと、国や法律に基づいた枠組みに繋がってくることでは、少し違うと思う。
3.(藤原オブザーバー)p.5にターゲットとあるが、大阪湾や播磨灘で実際にやっていくと、たくさんの関係者が自治体や行政の中、特に国交省にもいる。例えば、国交省でも港湾関係の連絡協議会や下水道関係の勉強会等があり、そのようなところでヘルシープランや今の海の状況を報告させて頂くと反応がある。そのように、時間はかかるが徐々に普及していくのではないかと実感している。
→(松田委員)非常に重要な所である。府県といった大きな自治体のみならず、市町村でもシステムが縦割りになっており、ここのセクターは知っているけど向こうは知らないということがよくある。ここでは自治体を一括りにしているが、自治体の中でもいろいろなセクターや部局があって、全体につながる議論ができるようにすることが必要ということが、自治体をターゲットにする場合の留意点となる。
4.(鈴木委員)地域の中には様々なステークホルダーが存在しており、それを全て合意形成に振り向けることは難しい。総論では賛成だが各論では違うということがある。例えば、海域インフラ整備で重要な港湾計画においては、どこでも必ず浅場や干潟の埋立てや泊地・航路の拡大による深堀、栄養塩の偏在を助長するような防波堤などの構築物の拡充がある。総論の中の合意形成という場合は、今の書きぶりでもよい。しかし、各論についてもこの考え方を適用すべきである。例えば現在までの環境影響評価の手続きを見る限りでは、環境基準さえ負荷量削減で満たせば開発はしてもよいという事実があり、それが物質循環の健全性を大きく損ねている。今後は既往の各評価項目がある中で、海の物質循環の健全性を担保できるような仕組みであるかをどうかをチェックする一つの指針としてヘルシープランの考え方を積極的に展開していき、ある面では半強制的に合意形成を実践させることが必要である。そのように、実際の海域開発にどのように考え方を適用していくかという視点を書いていただきたい。
→(松田座長)大変重要な方向性の提示である。公的な仕組みにつなげることの発展版と言える。現在のアセスの仕組みにはなくても、今後検討していく、あるいは上乗せしていくというのはどうか。
→(事務局)ご指摘のように、今は現状が悪いところの回復のための手引書になっているため、開発の際の影響の考え方にも使えるということも検討していきたい。
→(松田委員)手引書の使い方の説明に入れてほしい。

(3)海域のヘルシープラン策定の手引きの改訂(改訂作業版)の概要【資料-2】【参考資料-2】

〔事務局より資料説明を行った。資料-2及び参考資料-2に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(松田座長)参考資料-2(以下、参照ページはすべて参考資料-2)の目次を見ると、基本的に策定の手引きとなっている。前の議題(2)で指摘のあったアセスや公的仕組みについては、この目次には入れづらいか。場合によってはこの後に、完成した手引書の利用法として設けてはどうか。
→(事務局)当初は海を健康にする手段のみであったが、ご指摘のようにインフラ整備との関係性もあるので、別途使い方の手引きを付けたい。普及啓発に関しても、100ページもある手引書ではなく、リーフレットなどの工夫をしていきたい。
→(松田座長)最終的には使われないと意味のないことで、本来の策定の手引きからはみ出ると思うが、そこは入れてほしい。
→(鈴木委員)個別の開発が累積し、湾全体に影響が及ぶということはなかなか把握できない。例えば場の喪失に関して、海の健康診断の中でも印象的だった、人工海岸にすると物質循環が不健全になるということがある。一つひとつの開発が物質循環をどのように歪める可能性があるかということをきちんと評価することが重要である。影響があればその修復や保全の手続きは必要だが、現在それらは港湾計画や河川管理計画等ではお飾りか、おまけくらいにしかなっておらず、物質循環健全化の思想は全くないと言っても良い。そこで、ダム建設や埋立て等が原因で海の物質循環がどのように滞り、それが健全な生態系や漁業への悪影響になっていることをきちんと評価した上で計画を立てているかを論議しなければならない。そのためには、松田座長のおっしゃるとおり、策定の手引きだけではなくそれを有効的に積極的に使っていくことを打ち出すべきである。
→(松田座長)現状では理解が得られていない部分は大きいが、長期的に見れば本来的な検討課題として非常に重要であるということを前書きなどに書き、使い方についても記載するということでよろしいでしょうか。
2.(藤原オブザーバー)p.1に基本的な考え方を入れて頂いたのはありがたい。しかし、p.3で挙げている、なぜ今、物質循環の健全化が必要かという例は、p.1では東京湾でp.3では東日本大震災であり、内容も抽象的になっている。ここには、2000年以降で海の状況が非常に変わり、物質循環が不健全になっているため物質循環健全化計画が考えられたという各地の情報をベースにして、もう少し迫力のあるような書き方にしてほしい。
→(松田座長)手引きを作るためのケーススタディーとして三河湾等の具体的なデータはあるので、そのようなデータに基づいた書き方のほうが、迫力があるのではというご提案かと思う。三陸の話も大きいが、それは副次的ということになる。
3.(松田座長)p.1に前回リクエストのあったフローとストックが入っていてありがたいが、山本委員はこれでよいか。
→(山本委員)語呂が良いのは、ストックとフローと言う順番かと思う。
→(松田座長)詳しく書くのは難しいと思うが、ストックとフローは単位が違うので、比べるのは難しいか。
→(事務局)時間的な単位が入るフローの部分と、マス(量)としてのストックとなる。
→(松田座長)例えば、ストックのところに現存量や資源量などの例を書くなどはできないか。また、フローは速度的なものなので、ご専門の先生方はいかがでしょうか。
→(藤原オブザーバー)フローは、時間当たりの流量ではないか。
→(松田座長)ここの表現については、本委員会はご専門の先生方が多いので、ご検討いただきたい。
4.(西村委員)普及啓発は非常に重要で、トップダウンでは国や国際的な動きがあり、それに加えて、時間はかかるが地域の人たちの意識が上がってくることは大事である。しかし、物質循環健全化の文言と地域の人の意識の間には距離感がある。なぜ物質循環が悪い方向にいっているかというと、海への意識が遠のいているということがある気がする。よって、やはり意識改革ということは地道な取り組みとして必要かと思うので、そのようなことも書いていただきたい。
また、ステークホルダーに関しては、外的に動かすのは行政の力が大きく、県から市のレベルと行政単位が小さくなっていくと縦割りの弊害が出てくるということがある。国では環境省や国交省、水産庁等の連携が進んでいるようには思うが、地元自治体で海域の物質循環健全化となると非常に弊害となっていると思う。そのように、物質循環健全化に向けて意識を変えていく必要があるという雰囲気が分かるとありがたい。
→(松田座長)前段の海に対する関心は、いろいろな所でデータがあるのでかなり重要な問題かと思う。今の建設的なご提案をぜひ書き加えてほしい。また、後半の縦割りについては現実的な障害になるので、そこを是正するような内容でお願いしたい。
5.(松田座長)p.9のポイントに書かれている内容は正しいが、物質循環健全化計画で捉えているのは、いろいろと健全でないことを前提としている。現状で生物多様性などの複雑な経路が単純化していることが問題で、それを是正しなければならないということをここのポイントに書いた方が良いのではないか。単純化しているということは脆弱になっているということであり、それを強くするにはいろいろな多様性等を確保しなければいけないと思う。
→(事務局)現状として単純化しているということを加えさせて頂く。
6.(寺島委員)p.15で海洋基本計画を取り上げているが、海洋基本計画は今年4月の改定前後で重点の置き方を変えている。
地方も好んで縦割りでやっているのではなく、特に市町村レベルでは一番身近に問題に接している。どのようにして取り組んだらいいかが分からないというところがある。そこで、縦割りプラス横串を通すというアプローチが必要ではないか。
→(松田座長)今年4月に改定された海洋基本計画の中で、沿岸域管理を積極的に進める地方に対しては国が支援すると明記されており、まさにこのような所にヘルシープランが使えるということを書いていただきたい。
7.(西村委員)基本計画や法律は変わっていくが、その変化に重要性が見えていると思うので、それが読んで分かるようなら説得力が出てくると思う。また、良い取組み事例がその後にあるとさらに分かりやすく、三河湾などの流れを示すと自分のところで行う場合のイメージが湧くのではないか。
8.(中田(喜)委員)p.9のポイントのところで、一般的な物質循環は複雑な経路があるのは分かるが、沿岸についてはそうなのだろうかという疑問がある。多様というよりは量的な大きさが沿岸の特徴で、外洋と比べたら多様性は少ないと思う。ある種が一気に増加したりいなくなっても回復力が早いという、回転の速さが特徴ではないか。よって、「ある経路が壊れても、他の経路を通じた循環が行える耐久力がある」という記載は違うのではないか。
→(松田座長)瀬戸内海でも、浜辺の生物が1960年代まではたくさんいたがその後いなくなり、今でも数は少ない。よって、今我々がなじんでいるのは影響を受けてしまった仕組みではないかということも考えられる。
→(事務局)沿岸の場合、反応は単純であるが、ある種がいなくなっても多様性があるために他の種が栄養塩を回してフォローするという、経路と反応を混同しているようなので、そこは丁寧に書きたいと思う。
→(松田座長)結論的な議論はいろいろあると思うが、このポイントを示して何を言いたいかにつながるようにして頂きたい。
→(事務局)元々ある耐久性はあった方がよくて、複雑で複数の反応を示すようなもとの形に戻さなくてはいけないというところを落としどころにしたいと思う。
9.(鈴木委員)ヘルシープランの普及啓発に関して説明があったが、策定の手引きというのはヘルシープランをどう広めていくかということは入っていないということか。モニタリングの項目にはそれらしきことは書いてあるが、明確には位置づけていないような気がするので、教えて頂きたい。
→(事務局)今の段階では、どのようにして手引きを作るかというところがメインで、今までもそこに関する議論を行ってきた。今年からは完成した手引きを使ってもらうための普及啓発手法の検討が加わっている。先ほどご意見を頂いたとおり、これをどう使ってもらってどう普及啓発していくかということをマニュアルに含めた方がいいということで、この検討結果も使い方というところに加えていきたい。
→(松田座長)当初はこの手引きをどのように策定するかというところで、普及啓発に関しては、手引きが出来たときにどのようにして皆に知らせるかということであったが、今日の議論ではそれをどういう方向性にするかということになっている。昨年の文言を少し変えるのではなく、あり方自体を少し変えて頂きたい。
10.(鈴木委員)三河湾を例にとると、「三河湾再生行動計画」を今年度中に作ることになっている。この行動計画はヘルシープランを基本にしているだけではなく、三河湾の再生に係る様々な委員会等の総括的な評価を一旦統括して整理を行うなど、具体的な作業が進んでいる。その中で最も気になるのは、海が大事なことは分かっていても具体的にどのような環境問題があるのかを知らない人がかなりいるということである。つまり、海からすでに離れてしまっている人たちが若年層を中心に多いのが現実である。今のままでは、例えば再生事業に対してお金の必要性が生じた際、特にそれが今までの公共事業の枠の継続でなく新たな事業展開への振替えの場合は、財源の捻出に県民の同意が必要であり、特に若年層にそのような知識や情報がないことは問題である。p.64に三河湾の例で、社会的アプローチの中で三河湾の現状を詳しく知ってもらおうということがあるが、ヘルシープランの周知以前に、物質循環は大事であって、今壊れている状況と原因を切実に分かってもらえる内容をここに入れたらどうか。
→(松田座長)西村委員のご意見とかなり共通部分があり、特に若年層は将来日本の中核になるので、長期的に見ると非常に重要な問題であり、それもなるべく入れて頂きたい。また、愛知県で三河湾を検討材料にしようとしているのであれば、差支えなければその内容を入れてもよいと思う。
11.(山本委員)県レベルでは水産課等の専門の部署があるが、市レベルになると産業部の中の1、2名が担当となり、場合によってはバックグラウンドを持っておらず、海に対する関心がないということがあるので、そこから勉強会を始めていかなければならないと思う。若者もそうだが、一般的に海の環境に対する関心は低いように思う。
また、物質循環というのは専門性の高い部分があり、それを理解してもらうためには難しいハードルがある。環境省が行っている"里海"などは柔らかい言葉であり、一般の人も分かりやすいが、この策定の手引きに入っていないのは意識的に切り離しているからなのか。これは、切っても切り離せないことかと思う。
→(鈴木委員)私は、"里海"とここで議論している"物質循環健全化"は概念として違うと思う。人間活動が海域の物質循環にプラスの影響を与えるという考えが"里海"の概念と考えているが、ヘルシープランでの人間の関わりは、埋立てや下水道などの海域環境へのマイナスの側面を持った影響行為である。つまり、"里海"というのは、人間活動の良いところを強調したものである一方で、"物質循環健全化"は、これまでの負の遺産をどう変えていくかというところに主眼があると思う。よって、"里海"という言葉はなじまないかと思う。
→(環境省)意識的に避けているわけではないので、触れることは可能である。閉鎖性海域対策室で里海とヘルシープランの説明をすると、どちらも同じようなものではないかという反応があるため、ヘルシープランは具体的な海域を対象としていて、そこをどうするかという手続き的な取り組みであると説明している。また、里海は概念としてはまだ抽象的だが、全体的な考え方として重要であるので、その取り組みを広めていくことを考えていくということを説明している。違いに関してはなかなかはっきりとしていないが、ヘルシープランの中ではそれらを分けて扱うことや、どちらかがどちらかの中に入り込むような考え方であることなどを入れ込む形にしても差し支えはない。
→(山本委員)里海というのは、住民参加に向けて一般の人が入りやすいイメージ作りをしている感じを受ける。ただし、一般の人が入れるのは沿岸の干潟や藻場での生物採取や環境学習の場としての利用程度である。一方で、物質循環健全化はもう少し広い湾規模をターゲットとしており、言葉自体や中身も難しい。また、そのフローは見えないもので、一般の人だけでなく自治体の人にも説明する際には、定量的に理解してもらうためにシミュレーションモデルなどの学術的な手法を入れてなくてはならず、その結果に対する聞く側の吸収度合いも非常に難しい。しかし、住民の参加はアウトプットとして非常に重要であるため、そこのハードルをどのように下げるかということが難しいと思う。
→(松田委員)里海とヘルシープランを必ずしも一対一で対応させなくても、地域の住民を中心とした里海の概念はヘルシープランにも役立つということでもよいかと思う。
p.12のコラムにあるように、物質循環健全化はその円滑さが損なわれているものをノーマルにするということが強く、里海の方は生態系の安定性となっているが、やはり両方は関係性があるという気がする。
→(寺島委員)ヘルシープランにつながった「海の健康診断」のスタートラインは、海の状態を把握してどのような状態を良しとするのか判断するということであった。それは水質の問題からでは不十分であり、きれいな海・きれいな水よりも豊かな海・豊かな水として、生態系が加わった指標がいるということであり、その診断結果を踏まえての取り組みに踏み込んだのがヘルシープランである。本日の議論の中で沿岸域のガバナンスという方向性が強くなってきているが、ヘルシープランはその総合的なマネジメントにどこまで踏み込むのか。マネジメントに使うことを強調すべきと思うが、具体的にどのような仕組みの中で使うべきだというところまで踏み込むか、どうか。
→(事務局)使い方を書くべきだということは、各委員からご指摘をいただいているとこなので、どのように使うかについても記載したい。
→(松田座長)実際に判断するのは自治体等なので、使い方の可能性でもよい。
12.(藤原オブザーバー)海域の物質循環を変えるとなると、かなり大きい事業規模になり、事業主体はNPOよりも自治体や国交省等が対象となる。住民の賛同や応援は重要ではあるが、実効性のあるプランを考える場合に必要な科学的及び技術的な基盤を提供することがヘルシープランには入っており、その点で里海とは違う考え方である。

(4)三津湾海域の物質収支モデルによる解析結果及び三津湾地域ヘルシープラン(案)の概要について【資料-3】【参考資料-3】

〔事務局より資料説明を行った。資料-3及び参考資料-3に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(西村委員)資料-3のp.6の堆積量は、観測地点は養殖筏直下のものか。
→(三津湾WG事務局)筏の直下であるが、St.5とSt.Bは水深が浅いため、潮汐によってはイレギュラーな巻き上げも考えられるところに設置している。
→(西村委員)堆積量が冬季は少なく夏季では多いというように大きく違うようだが、カキ養殖の影響から考えて妥当なのか。また、カキ筏の直下では底質悪化によって硫化水素が発生しているということだが、それはどこまでシミュレーションで再現できているのか。
→(事務局)堆積量に季節変化については、冬季は漁獲の最中でカキが多く、クロロフィルについては夏季に湾奥で濃度が上がっている状況である。また、硫化水素の再現性については、今年度は夏に調査したが、モデルと調査共に0~10cm層では10mg/l程度と妥当な結果となっている。
→(西村委員)カキの糞が落ちて悪くなっているということであれば、養殖量を減らせば直接的な効果があると思うが、あまり効果はなさそうである。
→(三津湾WG事務局)資料-3のp.12に示したように、養殖量を減らすと硫化水素濃度も減るという状況になっている。
→(西村委員)底質の改善につながって硫化水素濃度が低下したという意味では、効果があるということで理解できる。これが現実的な対策かどうかはわからないが、カキの実入りもよくなるということで、少量で大きく育てて高く売るということがヘルシーなことであると思う。
2.(鈴木委員)前回も質問したが、カキの付着物処理は陸域に持って行っているのか、その場で落としているのか。
→(三津湾WG事務局)現場の漁協と養殖業者にヒアリングしたところ、陸まで持って行って汚れを落としているという状況であった。
3.(中田(喜)委員)資料-3のp.6で硫化水素を比較しているが、問題は硫化水素が海底から出てくるフラックスであることかと思う。実際のところの酸素プロファイルはどうなっているのか。上層が好気状態であれば硫化水素は出てこないが、これは出てくるということを意味しているのか。
→(事務局)p.6に示したのは0~3cmの図で、酸素のプロファイルは今回示していないが、表層数mmでは好気的な環境であり、0~3cmで出ているということはこの中での下層、または3cmよりも下層で高い濃度となっている状況なので、拡散の速度等を踏まえても高い値が表層まで出ているということはないと思う。
→(松田委員)地域委員会でもそのような議論が出たということで、今後はそこの解釈を付け加えて頂きたい。
4.(松田座長)資料-3のp.3でアマモを考慮した計算をしているようであるが、アマモが生えている計算領域の特徴は何かあるのか。
→(事務局)アマモについては、5、6月あたりに現存量が増えて、秋季には海底でちぎれたものが浮いている状況で、モデルにもそのような影響を入れて年間の変動を示しており、参考資料-3のp.18にも記載している。ただし昨年、物質循環をモデルによって把握して、全体に与えるアマモの影響は多くないのではないかという結論になったのだが、方策としては考えている。
→(松田座長)各省庁の施策や方策で藻場の再生が各所にあるので、関心は高いと思う。アマモに関する今回の研究での結果を書いた方がいいのではないか。
5.(鈴木委員)局所的な環境悪化と広域的な環境との相互的な関連性をどのように考えたらいいのかということがある。三津湾は外海との連環は開放的であるが、今は局所的な状況変化を健全化の対象として捉えており、三津湾内と外海との関係は検討の対象にはなっていないのか。
→(事務局)地域検討委員会で挙げられた5テーマについてはシミュレーションを行ったが、外海の影響については検討していない。局所的な不具合については策定の手引き(参考資料-2)のp.37に加えてあるが、その場の環境悪化から沿岸海域の物質循環が損なわれるという結論を得るのは難しいということで、局所的な不具合の場合には対症療法を用いることとしている。ただし、例えば産卵場のように不具合が局所的であっても湾全体への影響につながるような場合には、問題点として抽出できることとしている。また、湾全体を対象としたい場合、範囲を広げて連携する地域を増やすような再検討が必要である。
→(鈴木委員)三津湾は一つの例であって、前回中田(英)委員が言われたのは、もう少し範囲を広げて、局所的な問題が広域的な海域にどのような影響を与えているのかを判断することが重要ではないかということであったと思う。現実に、三河湾や東京湾では局所的な環境悪化水域でデッドゾーンと呼ばれる場所ができ、そこは硫化水素の発生源であり無生物域で、青潮の発生源になっており、一つ一つは小規模は現象でも全湾に強烈な打撃を与えている。よって、局所的な環境悪化への対症療法と併せて、それが広域的な生態系の物質循環にどの程度の影響を与えるのかを評価して整理する必要はある。
→(松田座長)こちらについては、地域委員会で検討して頂きたい。

(5)三津湾地域のヘルシープラン(案)の概要【参考資料-4】

〔事務局より資料説明を行った。参考資料-4に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(鈴木委員)三津湾ではカキが小粒化してきて成育不良とのことだが、それは密殖という漁業生産上の問題なのか、海域全体の栄養不足による影響なのかの見極めは重要である。それをどのように解釈して、ヘルシープランに取り込んでいるのかを教えてほしい。
→(三津湾WG事務局)定量的にどれほど小さくなったのかは分からない。ただし、三津湾に関しては、昔から栄養塩濃度が低く養殖ガキは小粒であったということであり、更に最近は県の指導で吊り下げる数を減らしてきているが、大きくはなっていないということである。
2.(藤原オブザーバー)参考資料-4のp.1(以下、参照ページはすべて参考資料-4)の真ん中に湾内水中の栄養塩類についてあるが、このデータソースは何か。
→(事務局)公共用水域データベースである。
→(藤原委員)栄養塩はT-NとT-Pなのか。それならば、栄養"塩"ではない。
→(松田座長)そこの表現については検討いただきたい。
3.(中田(喜)委員)p.1でアマモが数年前から急増しているとあり、モデルにはアマモが含まれていたが、アマモがないときと急増した時との違いは出てきているのか。また、モデルではアマモは付着基質として入っているのか。そして、各地ではアマモ場を創造する取組みがなされている一方で、ここでは急増しているということなので、どのような変化があったのかを知りたい。
→(藤原オブザーバー)この海域の東側で2003年からアマモが急増しており、海砂の回収をやめてSS(濁り)が下がった次の年から、今までは移植しても繁茂しなかったところで増加し始めた。
→(松田座長)そこも書けるのであれば書いていただき、急増した場合の変化については検討課題とする。

(6)PICESでの発表内容【添付資料】

〔中田(喜)委員より、カナダでの学会で発表された内容のご説明をいただいた。説明資料に対するコメント等は以下のとおりである。〕

(中田(喜)委員)今回感じたこととして、ヘルシープランのような取り組みは、日本語で書いてあるとほとんど知られていない。せっかく良いことをやっているのだから、英語版を作って海外で配っていくとよいではないか。また、海外の発表ではほとんど定性的な話しかしていないため、英語での発表をどんどんしていけばいいと思う。
(松田座長)ヘルシープランを使うときのターゲットとしては行政や自治体であるが、最近では自治体間での国際連携が進みつつあるということなので、寺島委員より最近の動きをお話しいただきたい。
(寺島委員)9月末から10月にかけて、PNLGフォーラム2013(PEMSEA Network of Local Governments)が三重県志摩市で開かれた。これは、東アジア海域環境管理パートナーシップ(PEMSEA)の活動から生まれたものである。PEMSEAは、当初は国連のプロジェクトとして1993年に始まり、2009年からは地域国際機関となった。2003年に東アジア12カ国の閣僚級会合で採択された「東アジア海域の持続可能な開発戦略」の実施を目的に活動している。具体的な取り組みとしては、閉鎖性湾の環境改善と沿岸域の総合的管理などに取り組んでいる。今回は、ICM(Integrated Coastal Management:沿岸域統合管理)に取り組んでいる10か国の35地方自治体が集まってその取り組み状況を発表したが、今まで入っていなかった日本からも志摩市がネットワークに入って、今回の会議のホストを務めた。今回の年次大会では併せてICMに関するワークショップを開催した。海洋政策研究財団は沿岸域の総合的管理のモデルサイト事業を5自治体と協力して行っていることから、このワークショップを市と共同で開催した。先ほど松田座長が言われたように、同じような取り組みは日本の中だけでなく国際的に行われているので、今回の会議は地方都市や自治体同士で連携して議論を行った良い事例である。これには、志摩市だけでなく、同じように沿岸域の総合的管理の取組みをしている岡山県備前市、福井県小浜市、高知県宿毛市、岩手県宮古市が参加し、自分たちの取組みをアジアに向けて発信した。志摩市に関しては、英虞湾における海の健康診断から始まり、現在は新しい里海創生基本計画を作っており、英虞湾、的矢湾、太平洋沿岸域を対象にICMに取り組んでいる。新しい里海を持つ志摩ということで「稼げる!学べる!遊べる!」新しい里海を作るというスローガンを掲げている。そのベースとなっているのは、海の状況をきちんと把握することであり、PNLGの参加自治体も沿岸の状態を把握して順応的管理でこれに取り組んでいる。したがって、自治体同士の連携にヘルシープランを上手く活用していくのも一つの方法であると思う。

その他

 今回の指摘事項等を踏まえて手引きの改訂版を作成し、各委員に送付予定。
 次回の委員会の予定は3月10日の午後とする。

以上

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