水・土壌・地盤・海洋環境の保全

海域の物質循環健全化計画 | 平成25年度第1回海域の物質循環健全化計画統括検討委員会議事概要

開催日時

2013年8月22日(木) 13:30~15:30

開催場所

スタンダード会議室赤坂店7階A会議室

出席者

(委員)
松田座長、鈴木委員、寺島委員、中田(喜)委員、中田(英)委員、西村委員、山本委員
(オブザーバー)
藤原名誉教授
(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)
名倉室長、高山室長補佐、石倉主査
(事務局)
いであ(株)黒川、高橋、舘野、畑、平野
(三津湾地域検討委員会事務局)
三洋テクノマリン(株) 合田、水島

委員紹介

〔全委員が出席。〕

資料確認

〔配布資料を確認した。〕

環境省挨拶

〔この海域のヘルシープラン事業は平成22年度から実施しているが、様々な不具合を抱えている海域において、生態系の低次から高次に物質を循環させることを通じて豊かで健全な海域を構築することを目的としており、本年度が最終年度となっている。これまで3つのモデル地域、播磨灘北東部、三津湾、そして三河湾で検討を進めてきた。昨年度は播磨灘北東部と三河湾でヘルシープランを策定し、全体に関しては海域の物質循環健全化計画の策定の手引きをまとめた。この手引きとヘルシープランについては本年度初めに、関係する自治体に通知した。三津湾地域については現在実証試験等を実施しているが、その結果を加味してヘルシープランを完成させる予定になっている。
本日は、三津湾地域での実証試験の結果を踏まえた物質収支モデルに基づいた解析・精度向上について説明し、昨年度作成した海域のヘルシープラン策定の手引きについて、三津湾地域での検討結果も踏まえた内容に改訂していくこと、さらに普及啓発の手法について検討して頂くことにしている。この事業については、モデル地域だけではなく、様々な問題を抱えている全国各地の閉鎖性海域の環境保全・改善にとって大きな役割を果たすことが望まれるので、先生方には厳しい審議と忌憚のないご意見を頂きたい。〕

座長選出

〔鈴木委員より松田委員の推薦があり、出席委員の承認により松田委員が座長として選出された。〕

座長挨拶

(松田座長)昨年度に引き続き、座長を務めさせて頂く。今年度の本委員会の位置付けとこれまでの経緯については、さきほど名倉室長から説明頂いた通りである。本委員会が始まった当初は、この事業の実施は今までのアプローチと比べるとチャレンジングであり、難しいテーマだがやり甲斐のあるものであった。物質循環を健全化するという考え方には、多方面から期待や希望が寄せられていることを感じる。一例を挙げると、現在瀬戸内海の環境保全基本計画を名倉室長中心に検討しており、今週月曜日に昨年度まで瀬戸内海部会としていた小委員会があり、その中でヘルシープランに密接に関係した論議がなされた。そのような意味でも、手引きやマニュアルを含めて出来るだけ良いものを作りたいと考えている。よって、今年は三津湾のプランをスムーズに作成し、手引きの改訂については三津湾が加わるだけではなく、より使いやすくレベルアップしたものにしていきたい。普及啓発については、少し広い視野に立つと、このプロジェクトは健全化のプランを立てることが主なミッションであって健全化事業ではないため、良い手引きができた後には各地方自治体や海域で実際にアクションが取られないと手引きを作成しただけで終わってしまう。よって、普及啓発については好機と捉えて、皆様には今年度を通して考えて頂き、色々な形でのアピールや協議を期待したい。

議事

(1)本年度の検討内容について【資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。資料-1に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(中田(喜)委員)資料-1、p.6(以下、参照ページはすべて資料-1)で、三津湾はヘルシーな状態だがカキ養殖筏の下では底質の悪化が確認されているというのは、何を持って悪化と言っているのか。また、摂餌圧と植物プランクトンの供給のバランスの欠如とはどういうことか
→(三津湾WG事務局)底質の悪化については、湾の真ん中の流れが緩いカキ筏の直下でCODと硫化物が高く、水産用水基準をオーバーしていたという現状があった。但し、底層の酸素は豊富にあり貧酸素は起こっていない。筏を外れると、硫化物も減少してきれいな底質になることから、このような表現とした。
餌とのバランスについては、カキの摂餌が落ちる夏場にはプランクトンが増加し、摂餌が旺盛となる時期には減少するという現象が確認されたため、カキが必要とする量と存在するプランクトンの量のバランスが崩れていると考えた。
→(松田座長)中田(喜)委員のご意見は、局所的に見ると不健全であるが全体としてはそうではない時に、物質循環に問題はないとしてよいかという趣旨も含んでおり、ここは本委員会で議論すべきかもしれない。筏の下では悪化しているが全体としては健全であるという表現が独り歩きしてしまうと、それは問題である。
2.(山本委員)三津湾では、モデルで計算した滞留時間は2.5日と非常に短く、湾外の影響を強く受けていることが分かった。養殖業には、ある程度水が滞留して植物プランクトンの増加がカキの成長に結び付かなければならないが、それがなく、流入負荷も小さい。よって、他の海域とは状況が異なることから、対策としても別の観点から考えなくてはいけない。カキ養殖をこれまでやってきたが、それを支えるだけの一次生産がないのではないか。水産の観点からすると、カキにうまく栄養が行くような工夫も含めて考えなければいけない。
→(松田座長)カキの餌は、現地での生産というより養殖場の外より水の流動と共にくる有機物フラックスによるものが大きくてコントロールしづらく、それはモデルでの計算により分かってきた。潮の流れは速いということから、底層を含め酸素供給が相当あるにもかかわらず底質が悪くなっていることになる。
3.(藤原オブザーバー)カキの餌要求量が分かっていないとあるが、これについては広島県水産試験場のデータがあるので、それを使ったらよいと思う。
また、この海域は瀬戸内海全体で見ると、全窒素の中で比較的無機態栄養塩の割合が多いことから恵まれた条件にある海域であり、その点も停滞性での比較の中に入れてほしい。
→(山本委員)生態系を表すモデルの中にはカキが入れてあり、摂餌をどのくらいするのかというプロセスを入れ、餌は少ないがカキの個体群としてはどうなっているかを計算できるようにはしている。摂餌率に関しては7月の委員会でも指摘しているが、それが出ればバランスの問題が定量的に評価できる。
4.(西村委員)環境収容力という考え方は大切だと考えるが、資料-1のスライドだけを見ると、いかにカキを養殖させるかという議論に見えてしまう。本質的に三津湾の海域の特性としてあまり停滞はしないということならば、当然プランクトンの量も限定され、そこでヘルシープランに則った容量的なものの議論が大切である。
また、三津湾がヘルシーになる対策を立てるということならば、外側に対する収支も考えるべきである。底質については、カキが植物プランクトンを食べて糞をし、それが底質に溜まるかあるいは外へ出ていくのかということになり、下手をすると三津湾外側に対する負荷をつけ回しすることになりかねない。よって、本質的な物質循環を考えるならば、三津湾とその外側も合わせて考えるべきである。
→(松田座長)西村委員のご指摘は、統括委員会に相応しい。これは、地域検討会での議題に入れて頂きたい。
5.(藤原オブザーバー)この海域は短い滞留時間であるが、実際の瀬戸内海の水質変化はさらに広い範囲で起きており、ローカルに対策を取れるものではない。環境基本計画を地域ごとにきめ細かく行おうとしているときにエリアを狭い範囲で取ってしまうと、対策できないことが多い中で個別に対応するということになるので、まずは三津湾を含む広い変化がどうなっていて海域がどのような位置づけになっているかを明確にすべきではないか。
→(松田座長)藤原オブザーバーのご意見は、まさに瀬戸内海全体として検討課題であるきめ細かな対策、応用の問題の実例を言っている。三津湾だけに関することと全体的なこととを考えていく必要がある。
6.(山本委員)p.8において、今年4月の海洋基本計画の見直しでこのヘルシープランが記載されたということだが、それはヘルシープランの中身が入っているということか。
→(事務局)資料-3、p.7の海洋基本計画からの抜粋にもあるように、生物多様性に富み、豊かで健全な海を作るための管理方策として、海域のヘルシープラン策定の検討を行うということで記載されたところである。
→(松田座長)ここに関しては各方面からの期待も大きいのだが、プランニングと現場研究は同時進行であるため、瀬戸内海基本計画の目標時期である来年夏までに全部をまとめてから策定することは難しい。よって、お互いにポジティブな形で反映するのがいいのではないか。

(2)三津湾地域の物質収支モデルによる解析結果及び精度向上について【資料-2】

〔事務局より資料説明を行った。資料-2に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(中田(喜)委員)この海域は計算結果から貧酸素ではないということだが、このようにりんが多く溶出する理由は何であるのか。また、なぜT-P、T-Nを用いて溶出を表現しているのか。
→(事務局)計算結果としては、IP(無機態のりん)とIN(無機態の窒素)で算出している。計算上でりんが溶出しているのは湾奥のSt.5のカキ筏下のみである。貧酸素でりんの溶出が起こるのは、酸素が上層には十分あるのだが、水温上昇時の有機物分解で間隙水中のりん濃度が高くなり、それが濃度勾配で出てきた結果である。よって、泥の中にはポテンシャルとしてのりんはあるのだと考えている。
→(山本委員)これは、DOP(溶存有機態のりん)をきちんと示せばもう少しはっきりするのではないか。
→(松田座長)中田(喜)委員のご質問は、りんが有機物の分解によって出てくるのか、または硫化水素等ができることで無機態になって泥中から出てくるのかがはっきりすると分かるのではないか。
2.(中田(喜)委員)硫化物についての計算結果があるが、鉛直分布が出ていないので硫化水素が上の方まで上がってきているのか判断がつかない。上まで上がっているのならば相当貧酸素な状態であることになるのだが、酸素があるにも関わらず硫化水素が表層近くまで出てきてしまう理由はよくわからない。酸素の分布は出ているが、表層を出してもあまり意味はない。
→(事務局)底層の酸素濃度の分布も類似している。
→(中田(喜)委員)それならば、ほとんど貧酸素にはなっていないことになるのに、硫化物が表層近くまで出てくるのはよくわからない。三河湾とは様子が違っているので、どういう状態なのかをぜひ教えて頂きたい。
→(藤原オブザーバー)資料-2、p.22(以下、参照ページはすべて資料-2)で底質の全窒素が計算されているが、瀬戸内海でも大阪湾でも底質で2.5mg/gを越えることはほとんどなく、計算値ではずいぶん高いように思う。また、モデル上の底泥の酸素消費速度もアンダーエスティメイト(低めに出ている)であることから、モデルのパラメータがこの海域に合っていないのではないか。ここは強混合の海域であり、底質もカキ筏の下以外は酸素供給がよくあることから、パラメータをこの底質に合ったものにしないと全体の評価に困るのではないか。
→(松田座長)中田(喜)委員のご意見は、今後の検討の中でメカニズムが分かった時点で事務局から追って報告して頂きたい。また、藤原オブザーバーのご意見は今後の検討課題にして頂きたい。
3.(鈴木委員)震災の被害を受けた広田湾では、昔はカキ養殖を行っていても底質はそれほど汚れていなかったが、陸域で行っていたカキの付着物処理を海上の筏の上で温浴で行ってそれを海に流す方法を始めた途端にカキ筏下の底質が悪化したと聞いている。
この海域でも計算上での酸素消費速度が過小評価となっているのは、濾過摂食された糞が徐々に下に溜まっているのではなく付着物負荷が一気に来ている可能性はないか。そうだとしたら、このモデルでは現状再現は難しい。この海域ではどのような養殖業の在り方が海域の健全な物質循環に沿うような形で行えるのかという漁業操業上の重要な問題もあると思うのだが、この海域ではどのような漁業管理が行われているのかを教えて頂きたい。
→(三津湾WG事務局)カキ筏の管理方法については、沿岸まで筏を持ってきて洗い、残ったカキをカキ捨て場に置くというもので、今回用いた底質改善材はそのカキを利用しているとのことである。筏での付着物処理が行われているかについては分からないので、今後調べたい。
→(松田座長)英虞湾でも同様に、現場で機械を用いて付着物を落とすことで負荷が大きいことが分かり、それを回収することも行われた。あまり格好の良いモデルでなくても、実際の管理方法への提言などがあってもよいと思う。
4.(西村委員)有機物が降ってきて微生物分解されることで酸素消費があるということだが、1月の底質に対する有機物の負荷がかなり低い。計算上では、分解されることで窒素・りんが出てくる、分解されなければ出てこないという式になっているようだが、1月は全然出てこないというところを見ると、中田(喜)委員が指摘されたところにはミクロなレベルでそのプロセスが働いている可能性があることになる。よって、重要である底質への有機物負荷量が計算値と観測値で全く合っていないというのであれば、物質循環の根本的な所が評価しにくいので、そこを精査すべきである。
→(事務局)詳細に検討したい。
5.(松田座長)致死性が高い硫化水素について、p.6の図では濃度が上がっても死亡率が上がらないように見えるが、普通は濃度が上がれば致死率も上がるのではないのか。
→(事務局)文献等をいくつか当たったが、モデルに入れるべき閾値が見つからなかったこともあってこのようなグラフにした。このあたりのパラメータ調整も行っているところなので、そのように変更したい。
→(松田座長)致死濃度については、水産用水基準にも出ているのではないか。濃度がどんどん高くなっても致死率が上がらないのはおかしいので、この点は検討していただきたい。

(3)海域のヘルシープラン策定の手引きの海底及び普及啓発手法の検討について【資料-3】

〔事務局より資料説明を行った。資料-3に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(中田(英)委員)三津湾の検討事例にどういう性格を持たせるかということを考える必要性がある。三津湾を選択した時の委員会では、特徴はあまりないが全国の閉鎖性内湾の中で際立って問題のない普通の海域のモデルとして使えるのではないかという議論があったように記憶している。しかし、実際に検討してみると、従来から閉鎖性の湾で取り扱ってきた停滞性の強いものと比べると流動性に富んでいる混合域であった。よって、三津湾だけでなく隣接域も含めた広域の中で、どのようなヘルシープランが必要であるのかが、モデルの考え方として大切である。これまでの事例と同じような形で三津湾の事例をまとめていくのではなく、新しい切り口があってもいいのではないか。
また、局所的な環境悪化は気になるところで、一見問題がないようだが詳しく調べると問題が見えてくるという考え方なのか、あるいは局所的には問題があっても全体で見ると健全であるという考え方なのかでスタンスが大分違うことから、そこを整理して頂きたい。
→(松田座長)閉鎖性海域で症状が重いところでは自己完結で解決できる割合が高いが、三津湾のような総体的に健全性があり周囲との関係性が強い海域では、対象海域と周辺海域との関係をきちんと捉えなくてはならず、これはまとめにおいて重要なポイントである。
また、局所と対象海域全体については、今後整理していくことで三津湾の代表性などが明らかになり、他の海域とは異なるという位置付けになるのではないか。
→(鈴木委員)中田(英)委員のご意見にあった、局所的な環境悪化の評価をどのようにするのかということについては、後者であると思う。局所的な問題が、実は全体の物質収支を大きく劣化させていることは間々ある。閉鎖性海域である三河湾で特に問題になっていることとしては、例えば沖合の埋立て造成によってできた入り江では、一見健全であるように見えるが元々は豊かな生物相があったものが途端に貧弱になってしまうということ。これは酸欠や藻場の喪失、浮遊幼生供給の低下等が原因として挙げられている。また、漁港・港湾など閉鎖的かつ深堀された海域の環境は非常に劣化しており、これは湾全体に大きな負荷をかけているということである。そのような観点からすると、中田(英)委員のご意見の後半部分は非常に重要で、ヘルシープランの中でも局所的な環境負荷をどのように見るべきか、どのように扱うべきか、それが全湾や周辺海域にどう影響しているかをはっきりさせないといけない。それを積極的に改善する方向で検討していくべきだろう。
2.(寺島委員)物質循環の重要性をどう説明するのかが重要である。P.5では物質循環が私たちの生活にもたらしてくれるものとあるが、一般の人に物質循環を分かってもらうためにはかなり工夫がいる。物質循環に関連するキーワードを挙げられるだけでは、分かったようでわからないというところがある。物質循環が健全に行われていればそれが当たり前のように受け止められるが、物質循環が損なわれたときにどうなるのかということや、損なうことに一般の人が知らず知らずに関与している話になると、物質循環について少し考えるようになるのではないか。よく言われる要因としては、洗剤をそのまま流すとそれが川から海に流れて物質循環が停滞するということや、漁師が牡蠣殻を陸に挙げて清掃していたものを筏の上で汚れを落とすことで沈殿して底質を悪化させるということは、案外言われないと分からない話である。よって、物質循環の説明の時に、これは私たちに無縁な話ではないということを導入部に入れると普及に役立つのではないか。
→(松田座長)物質循環を真正面から説明することも必要ではあるが、少し多角的な表現も取り入れることをお願いしたい。
→(鈴木委員)海域の物質循環において、供給プロセスの考え方に問題があるのではないか。上流から流れてきた栄養塩類が海域に供給されているという整理がされているが、海域へは陸域からだけではなく、エスチュアリー循環による湾口底層を通じての外洋からの供給経路がある。供給量の過大・過小ではなく、湾の形状に応じて陸域、海域から流入してきた栄養塩が、海域の中で生物に効率的に転換し、様々な生態系サービスに寄与するかどうかというところに問題があるのだが、ここでは過剰な栄養塩が流入するために物質循環が悪くなるというカラーが強い。例えば、健全な物質循環を維持する要素である酸素と陸域からの流入負荷の関連性を実際の海で調べてみると、T-N、T-P、COD濃度と下層DOとは相関がない。流入負荷だけではなく干潟や浅場を含めた様々な部分海域における酸素収支も含めた物質循環過程が重要なパスとなっている。下層DOは新たに環境基準に追加されると思われるが、T-N、T-P、CODと整合性を取るとなると難しい。それを念頭に置いて海域の物質循環の説明をすべきである。
→(松田座長)資料-3、p.6(以下、参照ページはすべて資料-3)にある物質循環についての記述は、全て栄養塩に関するものである。しかし、本日の議論の前半で出た酸素も重要なパラメータであるし、窒素・りんを中心として炭素も視野に入れた記述にした方がよいのではないか。
→(西村委員)その通りであると思う。海洋基本計画に「生物多様性に富む」との記述があるが、干潟や浅場の場としての多様性やヘルシープラン策定の趣旨においても生物多様性が重要であることはもちろんだが、生物多様性という言葉を最初だけではなく各所に含めた方がよいのではないか。
→(松田座長)物質循環と生物多様性は、一般の人から見るとかなり抽象的である。生物多様性に関しては、ヘルシープランの基である海の健康診断で"生態系の安定性"とあるが、それを保つためには生物多様性を上げなければならず、それが物質循環の安定性や持続性に理論的に繋がっている。これらを見据えた中で、この政策の必要性を言うべきである。
→(事務局)多様性の観点は含めていきたい。物質循環健全化と言ったときに、皆が共通したビジョンや考え方でないと使いづらいので、良い言葉を考えていきたい。
3.(鈴木委員)分かりやすさは非常に重要であると思う。三河湾では、今までキャッチフレーズとして"豊かな海"、"きれいな海"、"親しみやすい海"を挙げてそれらの統合的な実現を目指している行政活動もある。しかし、"豊かな海"と"きれいな海"は誰が見ても相反することがわかる。きれいな海を実現するためには環境基準を達成するために流入負荷を削減させよう、豊かな海のためには干潟・浅場を造成しようという分離した考え方は間違っている。三河湾のような元来栄養塩類に富んだ海で目指すのは唯一"豊かな海"であって、一般の人が海に対するイメージを持つときに誤ったキャッチフレーズを用いてどこまでも透き通ったきれいな海を要求するような政策誘導は間違っている。分かりやすさを強調することは重要であるが、誤った分かりやすさは逆効果であり、三河湾でもこの点においては意見が分かれている。生物の多様性と豊かさを出したいなら、本来の物質循環の説明に貫徹しないと生物多様性に富んだ海は実現できない。
→(山本委員)一般の人にとっては、"生物"というものをイメージしてもらうと分かりやすいのだが、生物多様性と物質循環はリンクしにくい。一方で、窒素等の元素が生態系の中でどのように回っているのかを評価するためには、モデルを作らないと分からない。一般の人でも分かるようにするには、ストックとフローの観点からの説明が必要である。モニタリングではストックである窒素やりんを測るが、計算では先ほどパスと表現されたフローがスムーズに回るかどうかというところを評価しようということである。P.8の瀬戸内海環境保全基本計画の変更に「栄養塩濃度レベルでの管理」とあるが、流入負荷削減は一つの方法であるが、海域での濃度をコントロールできるかというと無理なので、何がコントロールできることで何ができないのかの認識が施策の際に重要である。また、物質循環上の重要性に関し、干潟は面積の重要性が三河湾で言われているのに対して藻場は今回の議論で出てきていない。藻場・干潟はイメージとしては良いものではあるが、定量的な面からみるとモデルに組み込むことは非常に難しい。特に、どのような生物が回復してどのような物質循環につながるのかということをモデルで表すのは難しく、結局は実際に観測した実例を持ってこなければならない。
→(松田座長)山本委員のご意見のように、藻場の機能などでは分かっていないことが多い。p.8の「きめ細やかな水質管理」において栄養塩濃度レベルの管理が新規事項となっているのは、今までは濃度レベルでの削減であったものが、瀬戸内海の第6次の総量規制の時から大阪湾を除く瀬戸内海においても濃度レベルで削減する一方ではなく適切な管理をすべきという新しい方針になっていた。ここでの管理も同様の意図である。
4.(西村委員)生物が関与している物質循環については、より具体的に分かりやすくして頂きたい。このモデルで生物多様性がアウトプットで出てくるわけでもなく、藻場に関しても造成すると生物多様性がどうなるかということについては分からず、そこについては書きにくい。しかし、藻場に様々な生物が生息していることで物質循環が起こっているのであれば、定量的な所も含めて書くことができる。物質循環の中にもっと生物を入れ、生物多様性によってもたらされる物質循環を示して頂きたい。
5.(寺島委員)一般の人にとっては、海と沿岸域は日常生活の中で触れる機会は多いがここで議論している話に関わることはほとんどない。実施されては困ることに対して住民運動やNPO活動が行われても、ある程度収まると元に戻ってしまう。そうではなく、恒常的な取り組みがなされることが必要である。また、沿岸域の"総合的管理"というのは硬い言葉であり、これが普及を妨げている要因ではないか。世界的には、陸と海を沿岸域として一体的に捉えて問題に対して計画的に取り組むこと、自治体が中心となって様々なステークホルダーの参加により計画を作成して取り組むこと、さらに計画実施後には見直しをして次につなげるような順応的管理に取り組むこと、が行われている。これは、リオでの地球サミットのアジェンダ21でも取り上げられており、我が国も含めた先進国が途上国の取組みを支援する財政的な仕組みもできている。国内では、海洋基本計画の基本的政策の中で沿岸域の総合的管理を取り上げており、各沿岸を抱える地域が主体となることに対し、地方任せではなく国が指針を出して財政的・技術的問題を支援するということまでが記載されている。ここでのポイントの一つは、継続的な実施のために自治体が中心であることだが、普通の行政とは異なり住民を含めた参加者が入って計画を作成し取り組むことが重要で、現在はモデルサイトを設けて制度づくりの段階にある。地域住民が目の前の海と日常生活を結びつけながら考えていくことには、物質循環そのものが直接関係してくることから、ヘルシープランの策定は大きな要素となる。目の前の川や海の状況を住民自身がモニターして変化を評価して取り組む形になっていると、非常に関心度が上がるのではないか。また、もう一つポイントとしては、学校教育において生徒を巻き込むことも重要である。
→(松田座長)ヘルシープランの実行には、どうしても地域の地方自治体が中心とならざるを得ないので、寺島委員のご意見は参考となる。また、p.11の「外来生物に関する普及啓発」にある実施例も参考にするといいのではないか。
p.10にある考え方については、平成23年度で終了とのことなので、実例もあるのではないだろうか。もしあれば、調べたうえで補足として入れて頂きたい。
6.(寺島委員)多方面を巻き込むということに関しては、企業に入ってもらうことは有力である。特に、最近はCSRということが盛んに言われ、企業が社会への貢献活動を行うことが大きな流れとなってきている。大企業だけではなく、岡山県ではCOOPが藻場の再生にも参加し、備前の海で取れる魚を店で販売するなどもしている。企業の参加も、普及啓発の図の中に入れて頂きたい。
→(松田座長)英虞湾での干潟再生には近鉄や三井不動産などの企業も積極的に参加しており、それはボランティアの面だけでなく企業イメージの向上としてもメリットがあるということでやっているので参考となる。生物多様性関係では、生物多様性基本法の下にある「生物多様性地域連携促進法」などにも企業と市民との連携の記述もあり、物質循環健全化に参考となるのではないか。

その他

 次回の委員会の予定は11月29日とする。

以上

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