水・土壌・地盤・海洋環境の保全

海域の物質循環健全化計画 | 平成24年度第1回海域の物質循環健全化計画検討委員会議事概要

開催日時

2012年7月31日(金) 10:00~12:20

開催場所

東京国際フォーラム G602

出席者

(委員)
松田座長、鈴木委員、中田(喜)委員、中田(英)委員、西村委員、藤原委員、山本委員
(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)
富坂室長、阿部室長補佐、的場主査
(事務局)
いであ(株)島田、黒川、畑、舘野、阿部、平野
(地域検討委員会事務局)
三河湾:いであ(株) 風間、松田
播磨灘北東部地域:(社)瀬戸内海環境保全協会 藤原、いであ(株)奥村
三津湾:三洋テクノマリン(株) 合田、水島

委員紹介

〔寺島委員はご欠席。〕

環境省挨拶

〔海域の物質循環健全化計画統括検討委員会の開催に先立ち、ご挨拶を申し上げる。本事業は、海域のヘルシープランの策定・実行により、豊かで健全な物質循環を構築するということを目的として行っている。委員の皆様には昨年度に引き続き、今年度もご協力頂き誠に感謝する。これまで4つのモデル地域で検討し、今年度はそのうちの3つの地域で検討を進める。特に、三河湾地域及び播磨灘北東部地域は、本年度が最終年度ということでヘルシープランの取りまとめに向けて検討をお願いしたいと考えている。また、昨年度から検討を始めた三津湾地域については、今年度実施する現地調査結果をもって基礎的なデータが揃うという状況になっている。三津湾地域には不健全な事象の要因解析やその解消に向けた具体的な方策の検討をお願いしたいと考えている。
本日は、各モデル地域での本年度の進め方について説明するとともに、本委員会の重要なミッションである「海域のヘルシープラン策定の手引き」の内容について検討をお願いしたいと考えている。昨今、閉鎖性海域は貧酸素の問題や過去の富栄養の問題も含めて、様々な問題を抱えている。本委員会は、これらの問題についての技術的知見、科学的知見が検討され、新しい環境行政の方向性を導き出すというような非常に重要な委員会である。委員の皆様には、忌憚のないご意見を頂きたい。〕

座長選出

〔出席委員の承認により、松田委員が座長として選出された。〕

資料確認

〔配布資料を確認した。〕

座長挨拶

(松田座長)昨年度に引き続き、座長を務めさせて頂く。本事業の全体の経緯、ミッションについては、さきほど富坂室長から説明頂いたとおりで、本年度は、三河湾地域及び播磨灘北東部地域は最終年度ということで取りまとめの重要な時期であり、取りまとめの結果についてはできる限り手引きに反映させたい。三津湾地域は来年度まで検討を続けるということである。皆様には本年度もご協力頂きたい。

議事

(1)本年度の海域の物質循環健全化計画の検討内容について【資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。資料-1に関する質疑はなかった。〕

(2)物質収支モデルによる解析結果及び精度向上について【資料-2】

〔事務局より資料説明を行った。資料-2に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(藤原委員)資料-2、p.14(以下、参照ページはすべて資料-2)で、図の凡例「分解に伴う消費」「無機化に伴う消費」とは何か。
→(事務局)有機物の微生物による分解・無機化を、懸濁物が分解するときの酸素消費である「分解に伴う消費」と、溶存態有機物が低分子化するときの酸素消費である「無機化に伴う消費」の2つに分けて表示している。
2.(山本委員)三河湾での摂餌の選択性をプランクトンのサイズ毎に検討しているが、それぞれの摂餌の選択性の構造がどのようになっているかを知りたい。
→(事務局)植物プランクトン、動物プランクトンをそれぞれ3種類ずつ表現しており、それぞれの種類間の摂餌の比率等は文献から設定している。摂餌性の構造は後程示す。
3.(松田座長)p.18~19では、同じ植物プランクトンのフラックス図を示しているが、内容が異なる。内容がわかるように図のタイトルを工夫してほしい。
→(事務局)表現を工夫したい。
4.(中田(喜)委員)p.10~13では、三河湾口の断面におけるフラックスを1960年代と現況について図示しているが、DIPやNH4-Nが流入し、有機態の形になって流出しているという解釈でよいか。
→(事務局)資料の図中には陸域からの負荷のフラックスは加算していないが、例えば、p.11の全りんについては、断面の全りんのフラックスは陸域からの負荷のフラックスよりも大きく、底泥から溶出したものも加算されながら流出している。
5.(松田座長)無機態の栄養塩が流入して、プランクトンなどの有機態となって流出しているといった説明であったが、その様子が端的に理解できる図化はできないか。
→(事務局)検討したい。
6.(中田(喜)委員)スライドにプランクトンの種間別の摂餌のフラックスについて、計算結果が示されているが、この計算結果は、プランクトンの組成の再現性が得られている結果としてみてよいか。
→(事務局)年間を通した再現性の確認はとれていないが、地域委員会で年間に数回観測されたプランクトンのサイズ別の比率の結果と合うような調整を行っている。
→(松田座長)あまり細かい計算条件というよりは、状況をわかりやすく表現してほしい。
7.(藤原委員)p.13について、無機態の栄養塩が流入し、有機態になって流出すると説明があったが、流出時の有機態は溶存態として流出するということか。また、現地では河口域などで有機物が多く生産されているようだが、計算では内部で生産される有機態のフラックスはどの程度の大きさになるのか。
→(事務局)流出するフラックスでは、溶存態有機物が多くなっているが、これは、もともと河川から流入したものに、内部で生産されたものが加算されたもので、純粋にゼロから生産された有機物については、無機態からプランクトン態などの有機態になって流出していると解釈している。
内部で生産される有機物は、p.11の現況計算の結果では、炭素に関しては半分ほど、窒素に関して半分、りんに関しては8割が内部生産に由来する有機物であった。これらの点も仕分けして示したい。
8.(鈴木委員)最終結果か計算の途中の結果かを確認したい。
→(事務局)プランクトンの摂餌圧・魚類による動物プランクトンの摂餌など、現地実証試験の結果などと対応させながら今後も検討を重ねていきたい。
→(鈴木委員)貧酸素・貧栄養・季節毎にフラックスを区別して整理する必要があるではないか。形態別栄養塩の組成は、大きなフラックスである出水・平水で変化するし、季節的にも変化することが考えられるため、これらの条件も表示してほしい。
→(事務局)p.10に示す日別の断面フラックスを見ても、季節的なパターンが確認でき、十分対応しなければならないと考えている。
→(鈴木委員)これまでの三河湾のフラックス収支の観測結果の観点から、硝酸態窒素が流出傾向にあることに違和感があるため、境界条件などの計算条件を一度精査してほしい。
→(事務局)硝酸態窒素が流出傾向にある原因として、プランクトンの生産においてNOX-NよりもNH4-Nを優先して使用するようなモデル化になっているため、NOX-Nの使われ方が小さくなっていることが考えられる。また、脱窒により系外へ除去される量が小さく見積もられていることなども原因と考えられ、既存の調査結果等から精査を行いたい。
→(鈴木委員)魚類をどのように表現しているか。何らかの形で漁獲量と摂餌圧との関連付けを行う必要性があるのではないか。
→(事務局)魚類を直接表現しているわけではなくて、動物プランクトンの死亡に加味した形で表現されている。魚類の種類(カタクチイワシ・マイワシ)による影響の違いや漁獲量と摂餌圧との関連付けは今後の課題である。
9.(鈴木委員)"ヘルシー"とは何なのか。という部分を、1960年代と現況を比較することで検討している。どの程度生物が繁殖しているかといった「量」の確認の他にマイワシからカタクチイワシへの流れのような「質」的な違いもある。比較を行う際にどの様なデータを取り込んでいるのか。計算結果には何の違いを反映しているのか。また、地形だけを変化させるだけでよいのか。比較の仕方の今後の方向性はどの様に考えているのか。
→(事務局)地形のみを変化させた数値計算によって干潟・藻場の造成により、物質循環のフラックスや沈降フラックスが変化し、地形が物質循環に対して感度を持っていることが確認できた。フラックスの図示については、対策の効果を、フラックスや物質循環への影響を評価できると思いこのような整理を行っている。
→(松田座長)対策計算はどのような計算を行うのか。
→(事務局)三河湾地域については干潟・藻場の造成などを対策計算として想定している。
10.(山本委員)60年代の地形にすることで、湾口部での流入・流出の条件がよくなっているが、具体的に地形がどのように変化すると、湾口部での流入・流出量が変化するか。
→(事務局)湾口での流入・流出量は、湾容積が大きくなることで大きくなっていると考えている。
→(山本委員)p.18に示されているように、地形のみを変えただけで、光合成フラックスが増加、または減少しているのは、直感的にどのように解釈すればよいか。
→(事務局)干潟面積が広くなったことで、底生生物からの栄養塩の供給が行われるようになったことなどが原因であると考えている。
→(松田座長)正確な生データを示してもらえることは重要なことであるが、季節別・地域別などの特徴に合わせて、また、結果が何によってもたらされているかなど、問題意識に沿ったまとめの表現も今後必要である。
11.(藤原委員)現在の地形で1960年代の負荷量の条件に戻したときに、漁業生産は戻ると思うか。また、これを検証する計算を実施する予定はあるか。
→(事務局)地域の要望があれば計算を実施する。数値計算担当者としての直感としては、負荷量を1960年代に戻したのみでは、漁獲量の回復は期待できないと考えている。
→(藤原委員)負荷量を1960年代に戻したのみでは、漁獲量の回復できないことを物質収支モデル(以下、モデルという)で証明することの意義は大きい。
→(松田座長)以上のような事柄について、地域委員会で検討してほしい。
12.(鈴木委員)現況と1960年代の対比として、地形のみに着目しているが、生物量の違いが一番大きく影響するはずである。それを反映するのかどうかを確認したい。
→(松田座長)地形の他にも重要な要因があるかもしれないなかで、地形がどれくらい重要かわからないと、地形だけで話が済むかどうかわからない。この考え方をどのように処理するのかについても合わせて教えてほしい。
→(事務局)計算方法として、生物は強制的につけているわけではなく、まず全域に生物を均等に配置した状態から予備計算を始め、住みづらい環境下では生物が死滅し、住みやすい場所にのみ生物が残った状態を初期条件として用意し、計算を行っている。1960年代は干潟の面積が広くなっているので、その分生物量も多い状態を初期値として計算しており、この意味で、地形による生物量の違いを表現していることになると考えている。
13.(鈴木委員)現在の計算結果には、干潟がよい再生産の場を提供するという効果や再生産のプロセスは入っているか。
→(松田座長)再生産のプロセスを今回から反映したいという方向性になっているが、この件については、次の議題で議論したい。

(3)海域のヘルシープラン策定の手引き(案)について【資料-3】

〔事務局より資料説明を行った。資料-3に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(松田座長)さきほどの議題ででていた、"ヘルシー"とは何かという点と、再生産のプロセスが重要であるという点は手引きではどのように反映されているかについて復習をかねて再度説明をお願いしたい。
→(事務局)まず、"ヘルシー"とはどういうことかについては、資料-3、p.4(以下、参照ページはすべて資料-3)で説明している。沿岸域では陸域から流入した栄養を一次生産者が利用し、それを高次の捕食者が利用するという一連の営みがある。我々はその一部を食料として利用しており、今後も海の恵みを持続的に利用していくためには、海の仕組みを理解し保全していく必要がある。陸域から沿岸の海域に至る栄養塩類の循環はp.5 図I-2に示すとおりであり、我々が食料とする魚介類は、遡れば豊かな栄養塩があって初めて得ることができるものである。栄養塩の循環は物理的な影響や化学的な影響を受けており、海の生物生産に係る一連のシステムのなかで栄養塩の管理を行っていくことが必要である。結果として、海を豊かにし、海の恵みを継続的に得ることにつながる。こうした陸域・海域を通じた栄養が滞り無く循環する仕組みが保たれた状態が"ヘルシー"であると捉え、"ヘルシー"とは「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが持続できること」と位置づけた。
→(鈴木委員)どの海湾においても、陸域からの栄養塩供給とエスチャリー循環による湾口からの栄養塩供給がある。そのバランスは海湾によって異なるものの、海湾に供給された栄養塩が低次から高次に転換される効率に着目することが、沿岸の海域の"ヘルシー"を考えるうえでは重要である。
p.4の第1パラグラフでは「陸域から流入した栄養」とあるが、第3パラグラフでは「遡れば陸域や外海からの豊かな栄養塩」とある。陸域からの栄養塩供給とエスチャリー循環による湾口からの栄養塩供給は、海湾や季節によってその負荷の割合は異なるが、漁業生産にとっては重要なので、意識して表現してほしい。
→(松田座長)たしかに、栄養塩のソースを意識するということは重要なので、意識して表現してほしい。では、もう1つの論点である再生産についてはどうか。
→(事務局)再生産されることによって生物資源が持続的に生み出され、その一部を我々は食料として得ている。我々が持続的に安定して食料を得るためには、再生産が必要であるとここでは述べている。
→(松田座長)再生産の必要性についてはそのとおりでいいと思う。再生産に関する具体的な指標や評価については残りの時間で議論を深めていきたい。
2.(藤原委員)p.4の"ヘルシー"とは「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが持続できること」というよりも、「十分に機能していること」ということだと私は思う。「持続できる」だと過去からの時間の概念が入っている。すでに機能しなくなった海については「持続できる」だとおかしくなる。
→(中田(英)委員)私も同じような考えで、「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが健全に機能するように保全すること」が"ヘルシー"だと思う。「健全だ」ということではなく、「健全に機能するような状態」が"ヘルシー"だと表現すればいいと思う。
さきほどの鈴木委員の意見に関連するが、2つの問題を混同しているような印象を受ける。1つは海の生物を持続的に利用するというコンセプトで、もう1つは海の生物をバランスよく利用するというコンセプトである。この持続性の問題とバランスの問題は独立したものではないが、整理をしていく必要がある。
→(松田座長)バランスとは端的にいうと何と何のバランスか。
→(中田(英)委員)物質循環のことで、例えば、低次と高次のバランスである。(先の2つの問題を言い換えると)再生可能な生物資源の問題と物質循環の問題である。再生産可能な生物資源というのは重要であるが、これまでの議論や事例に再生産の問題が入っていないので、これらの問題をつないで説明していく必要がある。
→(松田座長)"ヘルシー"の概念的な定義では、「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが持続的であること」となっているが、これまでの議論では物質そのものの循環に着目した指標や数値を取り上げてきた。今後、指標や評価システムのなかで、再生産をどのようにつなげるのかというのは、全体に係る重要な論点である。富坂室長のご挨拶にあったように環境省はこのプロジェクトを重要なプロジェクトの1つとして位置づけている。このプロジェクトが最終的に評価されるのは、極端にいえば、"ヘルシー"の概念的な定義が明確になるだけではなく、それが具体的な指標・評価基準で表現できること、また、順応的管理が具体的にできることであると思う。
→(西村委員)さきほどの中田(英)委員の意見のとおり、大きくは2つの観点がある。1つは持続性に関して、物質循環がうまくいっていれば持続性があるということで、逆に捉えれば、物質循環がどこかで滞ると持続性がなくなる、ということもこの物質循環の健全化では重要なところである。もう1つは再生産に関してで、これら2つは「~はじめに~」の「海域のヘルシープランは陸域・海域を通じた総合的な物質循環に係る取組を進めることにより、生態系の低次から高次へ滞り無く物資を循環させることにより、水質の改善のみならず、生物多様性の向上や生息・生育場の保全も含めて」というところで比較的簡潔に書けていると思う。物質循環を健全化させながら再生産可能な生物資源を生み出すことと、物質循環が滞っているために生じている問題を解決するという意味での持続性を適切な言葉を使えば、うまく表現できるだろう。
→(松田座長)物質循環がスムーズであることと、持続性が高いということは同じ現象で、いわばコインの両面のようなものである、という話しは以前の議論であった。
3.(中田(英)委員)「~はじめに~」で、「陸域・海域を通じた総合的な物質循環に係る取組を進めることにより」と「生態系の低次から高次へ滞り無く物質を循環させることにより」とが並列となっているのはおかしいので修文してほしい。ここでは、「生態系の低次から高次へ滞り無く物質を循環させること」を強調するところであると思う。また、"ヘルシー"の定義に係る再生産についてもここでわかるようにしてほしい。
4.(松田座長)"ヘルシー"の定義は、今回の提案としては、藤原委員の「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが十分に機能していること」ということでよいか。(異議なし)
5.(山本委員)生態系の構造を考えると、以前は流入負荷が多く、一次生産の高いようなボトムアップ的な構造だったのが、流域負荷が減りトップダウン的な構造にスイッチングが起こったと捉えるといいと思う。生態系の構成者である生物が複雑であるために、流域負荷対策のみを行ってきたが、このヘルシープランでは多様に存在している生物が重要であると思う。生物が物質循環の一部を構成していることがわかるような図を入れてほしい。
文章の表現として、パラグラフが短く、1つのセンテンスで1つのパラグラフを構成しているようなものもあり論理が理解しにくいため、表現には気を付けてほしい。
→(松田座長)2つ目の意見については今年度内で修文をお願いしたい。初めの意見については、生態系の構造についても入れたほうがいいのではないかという意見である。例えば、p.5では『「海の健康診断」では、"海湾の健康な状態"つまり"ヘルシー"な状態とは「物質循環が円滑で、生態系の安定性が大きいこと」と定義』とある。「生態系の安定性が大きい」には、生物多様性が高いというようなことも含まれると思うので反映させてほしい。
6.(西村委員)資料-2で説明があったモデルの結果から、三河湾では地形変化に起因して水循環が変わり、外海から流入するフラックスが減少したことで、物理的な流れにのってくる栄養塩も減ったと理解した。そこで、モデルを用いて物質循環をシステム全体として解析していることを活かして、p.2で示されている沿岸域の物質循環の概念図が、さらにどういうところをチェックすればよいかというような診断にまでつながるように、資料の内容を深めていってほしい。
また、モデルの結果から閉鎖性水域での地形変化に起因する生態系への影響が重要であることが言えるだろう。環境基準は閉鎖性の水域にあてはめられており、閉鎖性の変化が物質循環に影響を与えるということなどを委員会で議論して、この手引きに書き込みたいと思う。
7.(中田(喜)委員)再生産可能な生物資源というのはモデルで評価するのは難しい。どう取り組むのか。
A3版資料のタイプAの「3」では「藻場を造成して、底質の栄養塩を吸収させて貧酸素を防ごう」となっているが、これは間違っている。藻場の造成はどちらかといえば再生産の場につながる。
レジーム・シフトという現象がいわれている。マイワシからカタクチイワシにシフトしたときに、物質循環が変わることが想定される。変わってしまった物質循環がヘルシープランで求めているような"ヘルシー"な状態かどうか、また、持続性という観点からはこの変化をどう捉えればいいのか。
→(松田座長)1つ目の意見は、概念的に定義されたものをどう評価するかということである。モデルでできる部分と、モデルがなくてもできる部分の仕分けは今後整理していく必要がある。特に、再生産はモデルを用いて評価することが難しいということなので、再生産が重要であるということであれば、他の評価システムを検討する必要がある。3つ目の意見は、生態系が大きく変わったときに持続性をどう捉えるかということであるが、直接的なアプローチなどあるか。
→(中田(喜)委員)私はそのようなアプローチは聞いたことはない。
→(松田座長)今回は、宿題としてはどうか。
→(鈴木委員)中田(喜)委員の2つ目の意見に関連して、資料で述べているような役割もあると思うが、大きな湾全体のなかでの藻場の役割は高次捕食者の生育・生息場であると思う。A3版資料のタイプAの「3」(健全化に向けた方策の決定)では、藻場の役割のある一面しか強調されていないので、誤解を招かないような表現を検討してほしい。
→(松田座長)これまでの議論で、水質は改善されたが、生物の生息環境や再生産機構、生活史全体を保障する仕組みなどが劣化してきたという理解でいいと思うので、確かに藻場の生育・生息場として役割を取り上げる必要はあるだろう。A3版資料は全体として低次の栄養塩段階に着目しており、やや偏っている。再生産に着目した事例も追加して、バランスをとってほしい。
8.(西村委員)A3版資料について、モデルを使うところは「1」(現状把握、問題点の抽出、課題の抽出)だろうと思うが、現在の資料では「1」を簡略化しすぎている印象を受ける。順応的管理の段階で、万が一うまくいかなかった場合にどうやって順応的管理をするかという点がわからないのではよくない。「1」では既往の知見を集めて、少なくともインパクト・レスポンスフローのような整理をして、順応的管理を行ううえでの指針となるようなところまで整理しておく必要がある。あるいは、モデルで対応できそうなところは「1」の段階まで踏み込んで整理する。そのような指針をつくったうえで、「2」(基本方針の決定)でさまざまなステークホルダーが集まって、議論し、メニューを選択するというようにしていく必要がある。
→(松田座長)順応的管理が重要であるということで、今回の手引きの修正案でも「順応的管理」を追加した。しかし、実際に現場で取り組んでいる関係者が順応的管理を行っていこうとしたときに、参考となるようないいマニュアルがない。本手引きで順応的管理の具体的な内容がわかればば価値がでてくると思う。順応的管理というのは概念的であるので、実際にどうすればいいのかというのがこの手引きをみればわかる。あるいは、順応的管理については海域のヘルシープラン策定の手引きをみればいい、というようになればいい。
→(事務局)順応的管理については内容を深めたい。モデルについては、手引きではp.29「5-2 方策の効果の評価」で取り上げており、A3版資料の「3」に該当する箇所で必要があれば使ってみましょうという位置づけになっている。モデルを使わないと問題点や方策がわからないとなると、取り組みにくいだろうということで、「1」にはモデルが入っていないという状況である。
→(西村委員)必ずしも「1」に入れなくてはならないということではなく、例えば「1.5」でもいいのだが、「2」でどういう議論をするかということが重要である。健全化に向けた課題の因果関係が明確であれば「2」の議論は容易であるが、さきほどの意見のように、「藻場を造成して、底質の栄養塩を吸収させて貧酸素を防ごう」というのが、正しいかどうかということを多様な主体が集まって、議論しても意味がないばかりか、間違った方向に進む可能性もある。必ずしもモデルでなくてもいいので、「1.5」で少なくとも専門家へのヒアリングを行うなど、現場をよく分かっている人物に健全化に向けた課題と方策のメニューを積極的に出してもらう必要がある。
→(事務局)「1」について科学的根拠に基づいて整理することが重要で、例えば、今回作成したモデルの結果を既往知見として解析に用いることや、必要な場合はモデルを使った解析も考えられるということまで、事務局で検討して必要があれば手引きに反映させたい。
9.(鈴木委員)p.45で「各種法令を遵守する必要がある」とあるが、p.45の最初2行では、従前の法体系が物質循環の健全化を目指す際にどういう点が課題となるか、また、これらの課題を踏まえて法体系を前向きに見直していく必要があるということを述べる必要があると私は考える。現在各地域で再生委員会のような取組がなされているが、何が問題となっているかというと、関係者がおのおの「我々は法令を遵守している」という言い分で取組が進まない点であると感じる。
→(松田座長)海洋基本法が成立して、沿岸域の総合的管理が大きなテーマとなっているが、地域ではなかなか動きだせない。この原因は、現にある省庁の法律が全体としてうまく整合がとれていない点にある。物質循環の健全化を進めていくためには、もう少し大きな枠組みが必要となると思う。私としても鈴木委員の意見に賛成であるが、こうした意見を反映させることはできるか。
→(山本委員)関連して、p.39~40では、物質循環の健全化のために各主体にどういうことをしてほしいかを書いてはどうか。
→(松田座長)各主体への要望書といった形になってしまう。それが手引きとして適切かどうか、というのもあるので、今後検討することとする。
10.(中田(英)委員)p.39~40について、多様な主体の役割を強調するよりは、多様な主体をどのようにコーディネートするということが重要である。
モデルをこの手引きでどう扱うかは統括委員会では重要である。例えば、p.25「インパクト・レスポンスフローの定量的な把握方法」のところで、モデルの話がでてこないのはおかしい。この事業ではモデルを用いた検討で有益な結果もでてきているので、モデルもうまく使っていく必要があるというのがわかるようにしてほしい。
→(松田座長)2つ目の意見は、モデルの役割を全体のなかでどうするかということである。1つ目の意見は、現状ではp.39のように個別に省庁分担になっているということであるが、A3版資料の「2」で必ずしも各主体が個別のルールを守るのではなく、全体としてどうするのかというコーディネーションを強調することなど反映できるのではないか。
11.(鈴木委員)p.38では、「魚類などが異常に増加し」となっているが、この表現は誤解を招くと思うので、修文をお願いしたい。これは「食性の異なる魚類層の変化が湾内の物質循環に影響を与えていないか。」ということだと思う。
p.35~36の表II-5について、入手できないデータや、入手しにくいが観測すべきデータなどがあるので、データの入手の容易性を「○」「△」で表現するのはおかしい。ここでは、現行の調査に新たな項目を増やすのは難しいが、今ある項目を工夫すれば、より有益な情報が得られる、という点を強調すべきだと思う。例えば、chl.aは公共用水域水質調査でも観測しているので、サイズ分画でchl.aを測定すれば、ピコ・ナノプランクトンの動向などもある程度は評価できる。
→(松田座長)前回の委員会での議論にあったように、代替指標の開発など含めて検討してほしい。

その他

 次回の海域の物質循環健全化計画統括検討委員会は、10月頃の開催を予定している。

以上

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