水・土壌・地盤・海洋環境の保全

海域の物質循環健全化計画 | 平成23年度第3回海域の物質循環健全化計画検討委員会議事概要

開催日時

2012年3月9日(金) 9:30~12:10

開催場所

航空会館 B101会議室

出席者

(委員)
松田座長、鈴木委員、寺島委員、中田(喜)委員、中田(英)委員、西村委員、藤原委員、山本委員
(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)
富坂室長、的場主査
(事務局)
いであ(株)島田、黒川、芳川、平野
(地域検討委員会事務局)
三河湾:いであ(株) 松田
播磨灘北東部地域:(社)瀬戸内海環境保全協会 藤原、いであ(株)奥村
三津湾:三洋テクノマリン(株) 合田、水島

1.資料確認等

〔配付資料及び議事の内容と目的を確認した。〕

2.座長挨拶

(松田座長)プロジェクトは昨年度から、当初はモデル海域として気仙沼湾、三河湾、播磨灘北東部地域の3海域ではじまったわけであるが、昨年度の3月11日に発生した東日本大震災の影響により気仙沼湾がプロジェクトを続けることができない状態となった。そこで、今年度からは三津湾が加わった。当初の2海域(三河湾、播磨灘北東部地域)については2年度目の最後の会議、三津湾に限っては開始年度の最後の会議が終了したところである。来年度は、当初の2海域については最終年度の検討となるので、本日の議論は本年度までの成果を来年度へのどのようにつなげるか、あるいはとりまとめていくかという観点からも議論をお願いしたい。
3海域では地域の検討委員会が設置されており、本統括検討委員会はその全体の連絡・調整・コーディネーション機能も役割の一つである。

3.主な指摘と対応説明【参考資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。参考資料-1に関する質疑はなかった。〕

4.議事

(1)ヘルシープラン策定の手引き(案)について【資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。資料-1に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

ヘルシープラン策定の手引き(案)について

1.(鈴木委員)資料-1「~はじめに~」に環境基準との関係について追記してもらっている。対応箇所は、「なお、水質汚染の指標として環境基準が設けられ、汚濁負荷削減のため水質総量削減等の各種取り組みが行われ、水質汚濁の改善に向けて一定の効果をあげている。」となっており、ここまではいいと思うが、次に「海域のヘルシープランはこのような各種取り組みを更にステップアップし、」となっている。これを素直にとれば、「環境基準達成のための水質総量削減等の各種取り組みを強化する」と受け取られる可能性がある。そうではなくて、私の意見の主旨としては、「海域ヘルシープランでは、水質総量削減等の各種取り組みを検証するとともに、問題があれば見直しを含めて更にステップアップする」という意味である。このような意味がくみ取れるように修文してほしい。
→(松田座長)たしかに「ステップアップ」には、「本質を変えないでレベルを上げる」というニュアンスもある。ここで議論していることは水質だけではなく、その他も含んでいるので、このような方向性でよいか。(意見なし)それでは、そのように修文されたい。
→(事務局)そのように表現を改めたい。
2.(中田(英)委員)「Ⅰ.海域の"ヘルシー"の考え方」の最後の結論としては、「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが健全であること」を一つのゴールにしながら、ストーリーを作ってはいるが、この事業では「栄養管理をしっかりしましょう」というところと、「健全な子供を産み育てるようにしましょう」というところをどういうふうにつなげるのかすっきりしない。これは、ストーリーの作り方に問題があるのではないか。背景になるようなメニューを示すことは大事ではあるが、背景を書きすぎており、いきなり再生産に話が飛んでいるような印象を受ける。背景をまとめたあとに、「食料生産の持続性」が重要なキーとなる、というような下地を作っておいて、そのためには再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが重要で、この仕組みが健全であるためには栄養管理が必要となる、というような大きな幹となるような流れをはっきりさせられるといいのではないか。「栄養管理をしっかりするんだ」というところに話をもっていくための基本となるのは「食料生産の持続性」で、ここを強調するような話の流れにしてほしい。そのなかで、特に沿岸域が重要となる、というところにつながってくると考える。
3.(山本委員)水産生物が育つためには餌生物や場が必要となる。「食料生産の持続性」「再生産可能な海の仕組み」といったビジョンを示すためのツールとして生態系モデルを使っているわけであるが、その限界を踏まえておく必要がある。
4.(藤原委員)これまで一次生産を下げる方向で取り組んできて、ある程度まで下げることに成功したが、これからは高次生態系のエネルギー転換の効率をあげる方向に、ベクトルを45度くらい変えるというのがこのヘルシープランである、というイメージで私は捉えている。
→(松田座長)一次生産が上位の生産につながるようになると、食段階の多様性が増え、それを支える種も増えるので、いわゆる豊かさにもつながる。中田(英)委員からあった水産資源の有効利用にもつながる。例えば、一次生産だけみていると赤潮も一次生産は高いわけだが、それが有効利用にはつながっていない。一次生産を極端に減らしてしまうと、上位にいくフローは少なくなる。関連する意見はあるか。
→(中田(英)委員)「有効利用」という表現が気になったので意見を述べたい。基本は「持続性」というのが重要で、そのために「再生産」というのが強調されている。生産性だけでなく、多様性が必要となってきているのは、「持続性」に向かう方向がでてきているためで、生産性と多様性とのバランスをとることができるような栄養管理を目指そうという話になっていきている。
→(松田座長)キーフレーズとして「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが健全であること」という表現が使われているが、「持続性」というのは本文中では使っているのか。
→(事務局)資料-1、p.4(以下、参照ページはすべて資料-1)の下から4行目で、「人が利用しながらも「海」自体の健全性が保たれ、今後も持続的に利用できる海が"ヘルシー"と考えられる」とし、"ヘルシー"とは何かを述べている。
→(松田座長)このカギカッコ内がキーフレーズとして使われることになるのであれば、さきほどの中田(英)委員の意見が反映されたものにできないか、検討してほしい。
→(中田(喜)委員)私としては、ベクトルを180度変えなければいけないと考えている。これまでは水質総量規制などの取り組みにより、栄養塩を減らせば、一次生産がおさえられて、海がきれいになるというような、いわばボトムアップ的な発想であった。しかし、これからはどちらかというとトップダウン的な発想が必要で、一次生産をコントロールするために上位の栄養段階を多様にするというような発想の転換をしよう、というのがこのヘルシープランだろうと考えている。
→(寺島委員)中田(喜)委員の発想を180度変えるという点には賛成であるが、それがトップダウン的かどうかという点には違和感がある。従来は水質に着目して取り組んできたが、それだけでは豊かな海は取り戻せなかったということから、新しい発想がでてきている。これまでの取り組みの改善ではなく、考え方の転換や、基本的なところでの重要な視点を付け加えるというニュアンスのほうがいいだろう。
5.(寺島委員)p.3「3.沿岸の海域への人為的負荷(インパクト)」では、人為的なマイナスの負荷を取り上げているようだが、例えば、陸域で森の手入れをすると沿岸環境にいい影響があり、森を荒らしたままにしておくと沿岸環境も荒れてしまうという話がある。「陸域での行為は海にいい影響も悪い影響も与える。悪い影響ではなく、いい影響を与えよう」という意識を読む人に与えるような表現にしてほしい。例えば、森は海の恋人、魚つき林、湧水保全などの取り組み。こうした視点もあると考える。
→(松田座長)p.3「3.沿岸の海域への人為的負荷(インパクト)」では、ややネガティブなニュアンスだけで人為的負荷が使われているようだ。場合によっては人為的負荷も有効に役立てたり、適切に管理すれば生態系の豊かさにつながるのではないか。
→(中田(英)委員)もう一つの視点もあると考える。沿岸の海のヘルシーをみていくときに、沿岸の海だけをみていてはいけない、という視点である。「陸」と「海」との関係の健全性なども取り込めるといいだろう。
→(事務局)p.3では、「3.沿岸の海域への人為的負荷(インパクト)」という表現にしており、環境への悪影響という観点が強すぎるので、フラットな表現にしたい。
→(寺島委員)「負荷」という表現が気になる。中田(英)委員のいうように陸と海の一体的な管理や、かつての自然豊かなときはいい関係にあったのが、陸域での改変によってその関係が変わったので土地利用をよくしていこう、という意味が加わるので。
→(松田座長)陸域と海との「相互作用」ということか。国際的なテーマでは「Land-Ocean Interactions in the Coastal Zone (沿岸域における陸域-海域相互作用研究計画、LOICZ)」などがある。こうしたところでの書きぶりを参照してはどうか。
→(事務局)参考にしたい。
6.(山本委員)森・川・海の取り組みなどの効果について、このヘルシープランのなかでどの程度根拠に基づいて述べることができるのか。少し難しいように感じる。例えば、陸から海への鉄の供給が足りないので、フルボ酸鉄として供給することが重要だ、というようなことは証拠が多いわけではない。また、藻場・干潟の重要性についても、個々の事例をみるといい例や悪い例がある。こうした取り組みの評価が後半(健全性指標の検討)の議論でどうなるのか、懸念される。
→(松田座長)将来性も考えると、全体としていいだろうという取り組みは取り込んでおいて、今後マニュアルや指標をまとめていくなかで、それが適切かどうかは議論していくのがよいだろう。
7.(鈴木委員)p.4「4.沿岸の海域における"ヘルシー"とは」で沿岸域の利用者の立場によってどの様な海が"ヘルシー"であるかは異なってくるとあるが、これは違うと思う。海の生物生産の仕組みをよく知らない人は、「海がきれいになれば、たくさん魚が捕れる」と思っている。これは認識の違いであって、ここでいう「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが健全であること」がヘルシーであることにはだれも異論はないと思う。書きぶりを工夫してほしい。基本的には海は持続可能な食料生産の場で、私達はそこから海の豊穣さを恵みとして受け取るということがヘルシーであって、その実現の仕方に対して認識の違いがある。見た目をきれいにすることでヘルシーを実現できると思う人もいれば、多少植物プランクトンで濁っていても構わないと思う人もいる。そこを整理して、地域でのヘルシーを考えて下さい、という書き方がいいのではないか。
→(環境省)地域懇談会に参加して、参加者の立場によって認識が違うという状況を感じた。ヘルシーとして目指す方向は定義をしているので、どのように表現を工夫して盛り込むか、検討したい。
→(松田座長)海の仕組みを誤解している人はいる。文のはじめで教育的な表現を入れたほうがいいか。
→(鈴木委員)播磨灘ではノリの色落ちが起きていて、漁業生産量が減少している。一般の人は「赤潮が発生しなくなり、透明度も上がって、海がきれいになったのに、どうしてノリが獲れないんだ」という感覚があるのではないかと思う。これは誤解であるということを示してあげる必要がある。
→(事務局)p.4「4.沿岸の海域における"ヘルシー"とは」で、そうしたところを書き加えたい。地域の方々はそれぞれ思い思いのヘルシーがあるので、そこを調整して合意形成をしていく必要がある。p.23「4.基本方針の決定」のところでは、有識者を含めて海の仕組みを整理し、地域懇談会や勉強会などをとおして、必ずしも透明で透き通った海がヘルシーとは限らないということなどを地域の方々が理解したうえで、基本方針を決めていくべきである、というような主旨で作成している。
8.(中田(喜)委員)p.28「6.モニタリング計画」では、効果検証のためのモニタリングという表現となっているが、効果検証とは関わりなく、ヘルシーな海かどうかを判定するためのモニタリングが必要だということは入れないのか。ここで書かれているのは対策を講じた時に、その効果があったのかという内容になっている。環境基準などの常時監視などのモニタリングとは違うのか。
→(事務局)p.7に示すように、ここでいうモニタリングとは、方策を講じた場合のモニタリングであり、狭義でのモニタリングを意味している。

海域の健全化指標について

9.(鈴木委員)資料1のp.別紙3、図8について、3点ほど見直したほうがいいと考える。1点目は、「基礎生産力を支える栄養(量と質)」のところで、播磨灘、三河湾などの内湾では、全窒素に占める無機態窒素の割合が急激に減っているという現象が共通してみられる。栄養塩の濃度だけではなく、割合を追加すべきであると考える。
2点目は、「植物プランクトンから動物プランクトンへの転換量」のところで、「転換量」というのはあいまいな表現であるので、検討の余地がある。例えば、非常に簡便な方法ではあるが、一つの指標としては、三河湾ではchl.aとフェオ色素(フェオフィチン)の比率をみている。三河湾ではchl.aは増加傾向にあるが、フェオ色素は減少傾向にある。この現象を説明する一つの仮説としては、摂食圧の低下が考えられる。
3点目は、「産卵・成長・採餌の場」のところで、藻場・干潟の面積を項目としてあげているが、地理学的な干潟・藻場だけでなく「浅場」という考え方が必要であると考える。三河湾では、地理学的な干潟とその周囲の水深約5m以浅の海域をあわせて「干潟域」とし、この浅場にも着目してモニタリングなどを行っている。
また、資料-1のp.別紙-1、図7について、「大きな循環」と「小さな循環」という表現は改めてほしい。三河湾のような非常に浅い湾では、森・川からの影響よりも、干潟・藻場での循環がメインの循環であって、湾全体の物質循環がそれで維持されている可能性が高い。
→(松田座長)4点意見があった。1点目の栄養塩の割合については、ある程度研究も進んでいるので、取り入れてほしい。2点目の転換量は、さきほどのchl.aとフェオ色素だけでも不十分だと考えるので、今後の検討課題とする。3点目の「産卵・成長・採餌の場」としての藻場・干潟については、狭い意味での藻場・干潟だけでなく、干潟域や浅場という概念を入れるかについて、今後の検討課題とする。4点目の「大きな循環」「小さな循環」については、大きい・小さいという表現が一般性があるかどうかということであるが、大きい・小さいとするか、循環の内容を説明するかなどについて、検討してほしい。
→(事務局)「大きな循環」「小さな循環」については、表現を工夫して修文したい。補足説明となるが、資料-1のp.別紙-6で各指標に必要なデータの入手のしやすさを整理しており、転換量については、実海域での測定が困難であり、数値シミュレーションによる解析が必要となるので、「△」としている。こうした整理はしている状況である。
→(山本委員)ヘルシープランでのキーワードが「再生産」ということで委員の合意が得られているものと理解しているが、そうなると、資料-1のp.別紙-3、図8はストックとフローという観点ではほとんどがストックとなっており、これでいいのか疑問である。例えば、三河湾での評価では、過去と現在の物質循環を比較することで、ストックだけではなく、フローにも着目してどう変わったかということをみており、この方法は非常にいいやり方だと思う。図8の項目で時間の概念が入っているものは、海水交換量や、植物プランクトンから動物プランクトンへの転換量などだけなので、フローに着目した項目を入れてはどうか。
また、藻場・干潟の面積についても、面積が広がると物質循環をどの程度変えるのかは検討が難しいと考える。
図8の「視点」は、「物質を運ぶ視点」が物理的な項目、「質を変える視点」がバクテリアの機能など生物化学的な項目、「生物が利用する視点」が生物的な項目となっている。「視点」ということなので、このままのほうがわかりやすいのかもしれないが、表現が気になる。
→(松田座長)「指標の項目」に3つの視点を入れたことで整理されたが、更に、ストックとフローの観点を入れて整理してほしい。このプロジェクトの本質としては、これまでの濃度つまりストック中心から、物質循環というフローに主な視点を変えようということなので、指標においてもストックとフローを整理したほうがわかりやすい。「物質を運ぶ視点」「質を変える視点」及び「生物が利用する視点」のなかの転換量は、変化を表すので、時間的観念が入ってくるものと考える。図8を見直してもよいし、別の図で整理してもよいので、検討してほしい。
→(事務局)ストックとフローの観点を加えて、整理したい。
→(藤原委員)転換量は美しい海と豊かな海を分ける決め手となっているものと考える。転換量については、モデルを用いないとわからない。しかし、植物プランクトンや動物プランクトンのバイオマス量は測定されている。植物プランクトンと動物プランクトンのバイオマス比であれば実際の値が出せるので、各海域のデータが得られると考える。
→(松田座長)生物多様性や資源の持続的な利用となると、植物プランクトンと動物プランクトンだけでなく、より高次な生産を視野に入れることが必要となるかもしれない。
→(中田(喜)委員)藤原委員の意見に賛成で、指標はストックとフローに整理できるが、フローに関する実際の値を得ることが難しいので、ストックを指標に用いることは仕方がないだろう。モデルを用いた解析を進めるなかで、ストックからフローを推定していくやり方がいいだろう。物理的な項目についてはフローでも可能であるが、生物的な項目についてはバイオマスなどを用いてもよいと考える。
→(松田座長)ストックに比べてフローを測定するのは難しい。フローそのものを正確に測定できなくても、代替指標で補ったり、いろいろな要素の組合せで判断できるだろう、ということをこの手引き書に入れてほしい。
→(山本委員)バイオマス量として、例えばchl.aが5μ/L以下ならいい、というふうになってしまうと、環境基準と変わらなくなる。それでいいのか、というのが私の疑問である。
→(鈴木委員)中田(喜)委員のとおり、データのとりやすさ、わかりやすさということから、より簡便な方法としてストックを用いることは仕方がないだろう。ストックからフローを求める方法の一つとして生態系モデルがあるが、フローの正確さは使用するモデルの再現性に依存する。従ってモデルそのものの再現性の検証が十分になされることが肝心だ。ヘルシープランの策定は研究ではないので、そこは割り切っていいと思う。
10.(鈴木委員)資料-1のp.別紙-8、「④タイプ別の指標の考え方の例」のなかの、「④物質循環のバランスの崩れの予兆を見る場合」について、2点意見を述べたい。
まず、「イワシなどのプランクトン食の魚類が以上に増加していないか」というところの表現が違うと思う。これは、レジームシフトといわれるような外部的要因であって、人為的負荷による影響でマイワシの漁獲量が高くなったわけではない。事例として取り上げるのであれば、イワシのようなろ過摂食をする生物が4~5万tも獲れるということは、海域でのストックとしてはかなり大きいので、それが湾の物質循環に与える影響も大きいはずである。従って、負荷だけでなく漁獲量なども注意してみていきましょうという意味での資料だと思う。
次に、「特に秋季~冬季にかけてアサリなどの貝類の斃死が発生していないか」のところで、たしかに貝類の斃死をみることは物質循環のバランスの崩れをみるうえで、重要な指標だと思う。三河湾でも同じようなことがみられる。その要因の一つは餌料不足で、冬季のchl.aが急激に減少してしまうことがあげられる。冬季の沿岸域の一次生産はエスチャリー循環が弱いので、湾口下層からの栄養塩流入よりも陸域負荷による影響を強く受けやすく、陸域負荷の減少による餌料不足として解釈していいと思うが、水温低下というのは認識が違う。「冬季の水温低下」ではなく、「秋季から冬季にかけての温暖化による水温上昇等」である。貝類は秋季以降産卵によって疲弊する。温暖化傾向で12~1月まで水温があまり下がらない状況が続いてしまうと、貝類は体力的に疲弊したままの状態で、2月の厳冬期を向かえることとなり、地盤変動に伴う鉛直移動に耐えられずに這い出して死滅する。こういうメカニズムが明らかになってきているところである。
→(松田座長)1点目のイワシについては、レジームシフトをメインとしては取り上げないこととする。2点目の貝類については、指摘どおり修正する。
11.(中田(英)委員)東京湾ではイシガレイが減っていることと、湾の環境の変化、例えば干潟の減少が対応しているという話がある。湾の生態系のバランスが崩れたときに、一番脆弱というか、変化が起きるものをしっかりみていくという例を入れたほうがいい。
→(松田座長)Key indicator species(指標生物)のようなものを探すということでよいか。

(2)地域検討委員会の調査・実証試験等の状況について【資料-2】

〔事務局より資料説明を行った。資料-2に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(中田(英)委員)地域検討委員会が最終的に統括委員会と連携を図る際に、資源の再生産という出口にどう関連づけができるかが懸念される。さきの議論にあった、「上位種への転換」の問題、「再生産の場」の問題がキーになってくると思う。こうしたところを、各地域検討委員会でどのようにまとめるかについて、検討していってほしい。
→(松田座長)前半の議論であったキーフレーズのところと、各地域での具体的な事例がつながるように検討してほしい。
2.(鈴木委員)三河湾での検討結果について補足説明をしたい。三河湾では、ピコ・ナノプランクトンといった非常に小さな基礎生産が高次生産につながるかどうか、というところの知見が少ないので、そこを補うことを目的として実証試験を行った。さきほどの説明では、実証試験の結果、干潟・浅場では他の海域に比べて植物生産が高い、ということであった。これは調査対象の六条干潟で調査の1ヶ月前に苦潮が発生していたことが原因で、苦潮によってマクロベントスがほとんど死滅し、調査時は稚貝群集しかいなかったため、ろ過摂食の影響が減って、植物生産の部分のみが結果にでており、見かけ上干潟・浅場の植物生産が高いという結果になっていると考えられる。1回限りの試験であったことや、干潟が特殊な状態であったことなどから、次年度以降は、こうしたところを検討していく予定である。

(3)物質収支モデルでの実証試験の効果検討結果について【資料-3】

〔事務局より資料説明を行った。資料-3に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(山本委員)資料-3、p.23(以下、参照ページはすべて資料-3)のグラフで、ここでの対策は大型の植物プランクトンを増やすためのものか。
→(事務局)対策は、干潟・浅場を造成する、深堀を埋め戻すなどで、大型の植物プランクトンを直接的に増やすという対策ではない。
→(山本委員)仮に、大型の植物プランクトンを増やすための対策をとったとすると、モデルでは全ての生物を組み込んで生態系モデルを構築し、計算することとなる。そのなかにはアサリも含まれる。さきほどの各地域検討委員会では、三河湾の実証試験結果からアサリは大型の植物プランクトンを摂食するということであった。対策をとれば、大型の植物プランクトンが増えるという効果が期待されるが、アサリが大量に植物プランクトンを摂食すれば、モデルの出力結果に大型の植物プランクトンが増加するという効果が現れないことになる。その出力結果をみて、対策に効果がなかったということを、例えば、p.23の植物プランクトンの存在比率をみて、そのように判断していいとは思わない。そうではなくて、アサリへ移行するフローが増えたという評価にしないと、判断を見誤る危険性がある。
→(西村委員)山本委員と同様の意見で、物質循環の健全化を目指していくので、物質循環がどうなっているのかというところをベースに議論をしていかなければならない。現場調査だけでは限界があるため、生態系モデルを最大限活用して物質循環がどうなっているのかを示してほしい。もちろん、生態系モデルでは表現できない物質循環もあるが。例えば、浅場を造成するとそのなかに物質循環ができる。これがどのくらい重要なのか、生態系モデルでどのくらい再現できるのか、ということを議論していくことが大事である。次年度になると思うが、多少簡易なものでも、早めにそのようなものをみせてほしい。
→(事務局)三河湾や、例えば播磨灘ではノリと植物プランクトンとの競合など、地域検討委員会からもモデルからみれる物質循環を示してほしい、という要望を受けている。なるべく早めに対応していきたい。
→(山本委員)例えば、播磨灘の場合では流れのモデルだけで十分だと考える。ノリへの栄養塩の移行まで示さなくても、栄養塩負荷量を増やした場合に栄養塩を含んだ河川水がどこまで広がるかを示せれば、一般の方も理解しやすいのではないか。栄養塩の濃度で議論しようとすると、対策によって負荷量を増やしても、ノリや植物プランクトンが栄養塩を取り込むことによって、結局濃度は変わらない、という結果になってしまった場合に判断に困ることになる。

(4)その他【資料-4】

〔事務局より資料説明を行った。資料-4に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

来年度の検討内容

1.(西村委員)「管理方策の効果のモデルによる検証」というのは大事なところである。各地域の具体的な状況をみると不健全な事象は把握できている。しかし、そのメカニズムがわかっているかどうか、ということころに踏み込んだときに、仮説があるのか、あるいは明らかになっているのか、いろいろなレベルがあるようだ。実証試験では、不健全な事象に対して対策を実施し、そのレスポンスをみて、いい方向にいけば仮説が実証できるということを行っていくことになる。その論理性が明確にわかるように示してほしい。

全体をとおして

2.(中田(英)委員)資料-1「ヘルシープランの策定の手引き(案)」では、時間軸をどのように設定するのか、明示されていない。ロードマップの作成のところで具体的にでてきているが、実は基本方針を決めたりするところでも、どこにプランの目標をおくか、ということは、時間軸の設定と関連するところなので、時間軸の設定の考え方をはっきりしておくべきであると考える。
→(松田座長)時間軸をどう設定するかについては、次年度の検討課題とする。
3.→(鈴木委員)ヘルシープランでいろいろ指標を決めても、既存のモニタリングはそのままの体制となっている。例えば、公共用水域水質調査では、各態の栄養塩は測定していない。これでは、事業の効果や適正性を検証し、一般の方に説明することはできない。既往のモニタリングで何が不足していて、どのようなモニタリングを付加すべきかを明確にする必要がある。
モデルの再現性についてはある程度納得できるものとなっていることはわかるが、今回の三河湾のような600 ha程度の分散造成のような個別の管理方策を実施した場合に、その効果の効果検証をこのモデルでできるかは疑問と言わざるを得ない。統計的には過去の1970年代に1,200ha程度の湾奥干潟域が無くなったことが、赤潮の発生と貧酸素化に関連があるという事実がある。今回モデル検討で想定された干潟浅場造成箇所はそもそもそれほど悪くないところであるからあまり効果が明瞭ではないのではないかとも思われ、どの時期・場所でどの程度の規模の管理方策を考えるかということと、モデルの精度がそれに追随するかを今後精査してほしい。三河湾ではすでに県や国交省の検討で干潟・浅場造成が負荷削減よりも有効であるという検討がなされている。今回のヘルシープランでも干潟・浅場が中核的なテーマであるのに、本検討での最後の出口であるモデルでの検証結果が効果なしでは、説得力を持たない。
→(西村委員)かつて大規模に干潟があったときの物質循環はわかるわけで、それが今回のモデルで再現できていれば、説得力がある。今回の実証試験そのものというよりは、過去解析をみせてほしい。
→(松田座長)意見を整理すると、モニタリング計画については、指標と関係してくるので、具体的に詰める必要がある。モデルの利用の仕方については、過去と現在と比較についても十分検討する。また、モデルの限界を検証する必要がある。

5.環境省挨拶

〔現在、環境省では豊かな海とはどういうことかということをさまざまな場で議論を進めているところである。これまでの水質中心の行政活動を転換しようとしている段階で、本検討委員会ではこうした取り組みの学術的、科学的な裏付けについての検討をお願いしている。来年度も引き続き、本検討委員会での議論を進めていきたいと考えている。今後も委員の協力を願いたい。〕

以上

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