水・土壌・地盤・海洋環境の保全

海域の物質循環健全化計画 | 平成23年度第2回海域の物質循環健全化計画検討委員会議事概要

開催日時

2011年12月6日(火) 14:00~16:30

開催場所

弘済会館 菊

出席者

(委員)
松田座長、鈴木委員、寺島委員、中田(喜)委員、西村委員、山本委員
(環境省水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室)
富坂室長、的場主査
(事務局)
いであ(株)島田、黒川、芳川、平野
(地域検討委員会事務局)
三河湾:いであ(株)風間、松田
播磨灘北東部地域:(社)瀬戸内海環境保全協会 藤原、いであ(株)奥村
三津湾:三洋テクノマリン(株)合田、水島

資料確認等

〔中田(英)委員、藤原委員はご欠席。配付資料を確認した。〕〕

座長挨拶

(松田座長)このプロジェクトはユニークな視点に基づいていて、これまでなかったようなチャレンジングなプロジェクトである。一昨年度は一年間かけて準備し、昨年度の平成22年度にモデル海域として気仙沼湾、三河湾、播磨灘北東部地域の3海域を選び、当初3年計画でスタートした。昨年度の一年間で環境変化や現状などを取りまとめた段階で3.11がおこり、気仙沼湾は壊滅的な状況となった。担当の宮城県から申し出があり、少なくとも今年度は検討ができないということで、今年度からは2海域で進めることとなった。気仙沼湾は西村先生のご尽力もありさまざま情報が取りまとめられているので、今後の復興に役立てられることを期待している。その後、新たな海域として三津湾を加え、今年度からスタートすることになる。
全体でいうと3年計画の2年目の2回目の委員会ということで、ちょうど折り返し地点に来ている。今後を見通し、目標を具体的にしていくという意味では重要な位置かと思う。今年度はすでに地域検討委員会(以下、地域WG)で議論がなされており、たくさんの材料、情報が集められているので、本日はこうした情報をもとに審議をお願いしたい。

課題と対応説明【参考資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。参考資料-1に関する質疑はなかった。〕

議事

〔配布資料を確認した。〕

座長挨拶

(松田座長)昨年度からの経緯もあり、今年も座長を務めさせて頂く。さきほど富坂室長からこの委員会の役割について適切な説明があったように、私自身としてもこの委員会は今の時代にあったユニークな役割を担っており、重要なテーマを扱っていると考える。閉鎖性海域のみならず日本の沿岸海域の環境管理を考えると、現在大きな転換期を迎えている。従来は水質管理が中心であったものが、物質循環の制御あるいは生態系の管理に大きく舵を切りつつある。これは私個人の意見だけではなく、環境省のその他の検討結果もそのようになっている。これから、そのように変わっていく必要があるということだろう。ただし、こうした取組は簡単ではない。実現のためには、優れた計画と実証的なデータが必要となる。3海域で進みつつある検討は、これからの日本の沿岸管理にとって重要な役割を担っていると考える。この事業はモデル地域の物質循環をすぐに健全化させるようなハードを伴うものではなく、物質循環を健全にするための方策を検討すること、他の地域でも使えるマニュアルを作ることが目的である。全体の仕組みとしては、この統括検討委員会は親委員会のような役割を担っており、並行して各モデル地域では地域検討委員会が進められる。この両者の関係が重要であると考えている。いずれの委員会も一人歩きしてしまってはうまくいかないだろう。それぞれの委員会は、委員をとおしてつながることができるようになっているので、連携・協力・調整が重要である。
気仙沼湾は津波によりたいへんな状態となった。私も4月末から5月初めにかけて現地をみる機会があったが、本当の意味での復興は長期戦とならざるを得ないだろう。現在、陸域の再生が中心となって進んでいるが、今後は海域の再生も必要となるだろう。昨年度は西村先生が中心となって気仙沼湾の環境を整理した。これは、津波の直前までの気仙沼湾の状況がまとまった貴重な資料となっている。この成果が今後の気仙沼湾の再生・復興になんらかの形で貢献できればと考えている。

議事

(1)ヘルシープラン策定要領(案)について【資料-1】

〔事務局より資料説明を行った。資料-1に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(鈴木委員)現行の環境基準を達成することと、ヘルシープランで海域の物質循環を再生産可能なものに戻すということが、同一次元のものなのか、別次元のものなのか、相互に関連するものなのかを整理しないと、現場の人間にとっては取り扱いづらいものとなるのではないか。現行では環境基準を達成するために沿岸域で統合的な管理がなされているにもかかわらず現状は悪化している。ヘルシープランは環境基準の達成とどの様な関係(位置づけ)にあるのか触れないわけにはいかない。「~はじめに~」のところで触れるなどして、考え方を示してほしい。
資料-1、p.11(以下、参照ページはすべて資料-1)「海藻草類等の植物の減少」では、特にアマモでは従来のように栄養繁殖で藻場が維持されているというよりも、ある核藻場があって、そこからの種子の移流拡散が遮断されるとその風下で藻場が育たなくなるというスキームも文献としてでてきている。想定される原因には、種子の流達に関わる障害の有無なども入れておいたほうがよいのではないか。
→(松田座長)鈴木委員の意見は二つに分けて別々に議論したいと思う。1つ目のヘルシープランがどういう位置づけになるのか、についてはどうか。
→(環境省)これまでは環境基準を絶対的なものとして各種取組みを進めてきた。今回のヘルシープランでは、具体的にどのように入れ込むかについては事務局と話し合って決めていくが、環境基準を達成することだけが目標ではなく、物質循環が健全な状態を目指すということ、もしくはこれらを少なくとも同列で扱うということを表現したい。環境基準そのものの取り扱い、生活環境項目をどうするかなどの根本的な議論については別の場で別途整理していきたい。
→(松田座長)環境基準は守る義務のある最低必要基準ではあるが、これを満たせばすべてよいというわけではない。瀬戸内海では、海域によっては水質環境基準を達成しているにもかかわらず、健全な状態となっていない。そこで、今後どうしていこうかとなると、どうしても生物資源や生物多様性などを考えていかなければならない。こうしたものを全国一律で基準とするのは難しい。海域ごとにさらによくする取組があって、そのなかの枠組みで基準化したり、地域ごとに条例で定めたりすることが考えられる。こうした考え方にも関連するのではないか。
→(山本委員)これまで、窒素、燐など生物を介して生態系のなかで循環するという物質についても、他の生活環境項目と同様に類型指定を行って目標としてきた。しかし、中長期ビジョンなど他の検討会では、こうした循環する物質はそれだけをコントロールすることはできない、という議論がなされている。そういうことを認識したうえで、ヘルシープランはその延長上にあると思う。
→(松田座長)基準は濃度で定められていることが多い。濃度はある一瞬の状態のようなもので、一方、物質循環はフローにも関係している。濃度が同じでも物質循環の形態が異なる仕組みも当然考え得る。濃度だけではなく、物質循環についても検討することは重要だと考える。
2.(山本委員)p.22では、「個々の問題点の解決ではなく、物質循環自体を健全化し」とある。例えば、人でいえば病巣が取り除かれれば、自然治癒能力でうまくいくということはあると思うので、病巣を取り除くことは重要だろう。スライドp.22の表現は検討してほしい。
→(事務局)病巣を取り除くことで、結果的に持続的・自律的な解決につながるのであれば、そのような対処もよいと考える。のちほど説明する物質循環に重点を置いた指標についても、恒久的に対処していく指標と対症療法的に取り組む指標の二つの指標が考えられる。
3.(松田座長)鈴木委員の「海藻草類等の植物の減少」については、地域WGでの議論を含めて最終的に取捨選択するということでよいか。
→(事務局)そのとおりで良い。
4.(中田(喜)委員)今後私も考えていかなければならないと思うのだが、p.18~19のインパクトレスポンスフローの図は、インパクトとレスポンスがわかりづらいので工夫が必要である。今後、議論しながら作っていく必要がある。
→(松田座長)この図だけではなく、インパクトとレスポンスについての説明を入れるではどうか。
→(事務局)p.18の【解説】のところで、インパクトレスポンスフローの考え方などを説明したい。
5.(西村委員)この手引きでは、モデル地域での実際の事例を取り上げ、例えば、当初想定していたものと違ったものがでてきたなどの記載がある点がいいと思う。このようにプロセスがわかることが大事である。
インパクトレスポンスフローについても、この結果に至るまでの検討の過程がわかるようにしてほしい。
6.(山本委員)p.15~16の「取りまとめ方法」で、各海域の取りまとめの仕方が違うという例が示されている。確かに海域ごとに個別の要素など異なることはわかるが、図の書き方としては、横軸に時間、縦軸に海域の区分や河川、陸域などとなっており、共通するところがあるのではないか。例えば、横軸なら悪化期、対策期、改善期など、縦軸なら悪化した場所など。
→(事務局)現段階では地域WGのアウトプットを入れているだけとなっている。山本委員の意見をふまえ、フローとして表現しなければならないベースの部分をまず紹介し、注目すべきところの違いによってこのような表現がある、というように修正したい。
→(松田座長)3つの海域の全体的な表示方法は検討してほしい。
→(事務局)ご意見を参考に検討を進める。
7.(鈴木委員)p.5では「地域にとって何が"ヘルシー"であるかは異なると考えられ、関係者間の合意形成をはかることは難しい」とあり、p.6まで読み進めていっても何が言いたいかわからない、というのが正直な感想である。沿岸域の統合管理では、合意形成は一つの目標である。ヘルシープランが合意の一つの目安であるべきだという前提で、それが科学的であれば皆が従い、再生産の場を確保できないような社会的活動は制限する、環境基準よりもより複雑な基準をヘルシープランの最終的なイメージにしないと、わかりにくい。例えば、三河湾では、下水道部局は委員に入るのも難しいので、オブザーバーとなっている。しかし、彼らの合意がなければヘルシープランの策定はおぼつかない。いっぽ歩(ふ)を進めたかたちでやってほしい。引いたかたちの表現ではなく、p.6、Ⅰ-6の順応的管理につなげられるのではないか。
→(松田座長)高い理想をかかげているので、弱気な表現にならなくていいのではないか。
→(事務局)表現を改めたい。
→(寺島委員)自然的問題についてはどのように取り組むべきかがよく書いてあるが、社会的な問題については非常に抽象的である。p.17「2.問題点の抽出」では、「自然的・社会的変化と海域で生じている不健全な事象の概要が把握できる」とある。自然的な問題だけでなく、社会的な問題も入ってはじめて、実際に地域で使えるものになると考える。p.5で「地域にとって何が"ヘルシー"であるかは異なる」というのはいいが、「関係者間の合意形成をはかることは難しい」と断定的に出発点で言ってしまうのはどうかと思う。ここでは、お互いに持続的可能な開発に向けて「合意形成をはかるように取り組む」という姿勢を示していくことが重要である。
地域のなかで合意形成をはかる社会的な仕組みというところに一つのポイントがある。
8.(山本委員)各湾でどこが悪いということが明らかになったときに、最終的にだれが対策を行うなどの役割分担についてはこの手引きでは取り扱うのか。役割分担について整理してあると、計画を進めるうえでやりやすいのではないか。
→(事務局)p.24、「5-6方策実施のロードマップの作成」のなかで、役割とスケジュールを決定する必要があることを記載している。

(2)海域の健全性指標の検討について【資料-2】

〔事務局より資料説明を行った。資料-2に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(松田座長)生態系は、構造と機能からなるといわれている。構造はストック、機能はフローに関係するもので、両方をバランスよく評価することがよいと考える。
単純な負荷や単純な取り上げ、例えば漁獲量なども入れてはどうか。それからそれらを組み合わせた指標などを考えてはどうか。
2.(鈴木委員)現段階では、物質循環に重点を置いた指標は観測結果とシミュレーションによって得られるデータとが混在している。例えば、海の健康診断では、漁獲量などの既存の資料そのものが健全性の指標の一つとなっている。物質循環に重点を置いた指標のイメージがわからない。
→(事務局)資料では、資料-2、p.3(以下、参照ページはすべて資料-2)で示しているが、わかりやすい指標を作っていく必要があると考える。地域の人が海域の状態を把握する際に、大規模な調査や数値シミュレーションを使わないとわからないのではよくない。既存の資料を解析して得られる指標が基本となると考えている。
ただし、東京湾、大阪湾、伊勢湾などすでに研究がなされていて、物質循環の指標がわかっているのであれば、シミュレーションを使った指標を考えていってよい。
→(鈴木委員)p.2の指標候補がそれぞれどのように得られるものなのか、観測結果からか、シミュレーションが必要かなどを整理する必要がある。
→(事務局)指標のメリット、デメリットなどを最終的にはマトリックスでまとめたい。
→(鈴木委員)海域の健全性は「再生産可能な生物資源を生み出す海の仕組みが健全であること」と定義している。では、この再生産可能な海の仕組みはどのような指標で表現できるのか、というように海域の健全性と指標をつなぐ必要がある。このような流れであれば指標の整理もしやすい。指標がモデルでしか得られないのか観測値でいいのかは次のステップの話だと思う。
→(松田座長)私も海域の健全性と指標がつながらないと議論ができない、意味がないと考える。この点については、この取組のなかで時間をかけて、統括検討委員会でも地域WGでも検討するということでよいか。
→(事務局)ご意見を参考に検討を進める。
3.(寺島委員)再生産可能な仕組みの一つとして、生物が取り込みやすい鉄分の供給ということをよく耳にする。これは指標にできるのか。
→(山本委員)私は調査してはどうかと前回の委員会で述べた。ただし、ルーチンで測れるというレベルではない。研究レベルといわれてしまうと、指標としては難しいかもしれない。
4.(松田座長)再生産可能な生物資源を生み出す仕組みのなかには、構造的なものとフロー的なものがある。例えば再生産のもととなる産卵場がどのくらいあるのか、というような基本的な構造を指標に入れる必要がある。
→(鈴木委員)現在、環境省の中長期ビジョンでは底層DOの基準化を検討している。そこでは、生物生息と再生産が可能となるようなDO濃度を分けて、それぞれを目標とする考え方で検討している。これは海域の健全性の定義とよく似ている。しかし、中長期ビジョンでは再生産可能な状態をDO濃度で基準化しようとしているが、ヘルシープランでは、最終的にはDO濃度になったとしても、そのDO濃度を確保するためにはどのような物質循環の姿が健全かという視点で目標を考えていく必要がある。海域の健全性の定義に沿った、わかりやすい指標は、さきほど述べた方法で整理してほしい。
→(環境省)環境省としては、平成25年度に底層DO、透明度を環境基準化するということはオープンにしている。現在、そのために必要な情報を集めている段階である。
5.(山本委員)モデルでは水の部分は研究がなされてきたが、底生生物など泥の部分は研究が十分ではない。これまで環境省は水の対策として負荷対策などを行ってきたが、環境は改善されない。そこで、今は泥の部分に視点が移っている。底質とそこに棲む生物をうまく扱わないと、これまでの環境省の水対策の枠を出ないと思う。ヘルシープランでは生態系全体のなかでの物質循環をみていくので、泥の部分もしっかり扱ってほしい。
→(松田座長)p.1の「図1物質循環のストックとフロー」では茶色の部分で底質を表現しており、基本的な考えとしては入っているが、これまでは十分な検討がなされてきていなかった。今後は、泥の部分についても重点をおいていく、というような表現を入れるのはよい。
→(山本委員)例えば、p.2の「植物プランクトンから動物プランクトンへの転換効率」は、ベントスでも同様の食段階がある。指標にするには難しいとは思うが、重要な部分だと思う。
→(松田座長)p.1の図1のなかでは、有機物から底生生物への矢印が一段階になっているのが、できればより細かく表現するということ。
6.(中田(喜)委員)p.2の指標は、負荷滞留濃度以外の指標は既存のデータから求めることは難しい。また、山本委員がさきほどいったような転換効率については、海の健康診断では浮魚類と底魚類の漁獲の変遷で評価していた。p.1の図1では魚類という大きなくくりで整理されているが、浮魚類と底魚類に分けて考える必要があって、どちらかというと底魚類が多く獲れる海でないと困るというのが海の健康診断での議論だった。そうした議論の経緯がここでなくってしまっていいのか。検討してほしい。
→(松田座長)極端にいうと、毎月の漁獲量が高くても、カタクチイワシのような浮魚類だけがたくさん獲れて、底生性のエビ・カニが獲れなければ、物質循環が不健全な海ということで、こうした観点もどこかに入れたほうがよい。
7.(山本委員)海域の健全性の定義にある生物資源は海域によって異なる。さきほどの合意形成に係るかもしれないが、各湾をどのように利用していくのか。その使い方も海域によって異なる。水産物がとれるということを一つの指標とすることは、環境省としてはよいのか。
→(松田座長)ここでの生物資源は狭義の水産資源、漁獲対象となる有用水産資源だけではなく、広義の生物、生態系、生物多様性も含めた意味だと私は考えている。ただ、この点について深く議論したわけではないので、議論してもよい。
→(環境省)環境省としては、ここでの生物資源は水産物だけではなく、環境という面から物質循環に必要な生物ということで広く捉えている。どちらかというと生態系が再生産可能であるということが重要だと考えている。
8.(山本委員)p.8の中田英昭先生の論文の図では生物多様性や里海を取り上げている。里海の概念については、柳哲雄先生は「生物生産性が高く、かつ生物多様性も高い」としている。モデルに生物多様性を入れることは私達の現在の技術ではできない。ヘルシープランではどのように生物多様性を扱っていくのか。例えば、現場調査でそのようなところを補完することになるのか。
→(松田座長)既存のデータを有効利用するのがよい。最終的な取りまとめの段階でどのようなセットで表現するかというのは、今後検討が必要である。モデルに入らないことと、それが重要ではないということは少し違う。
→(山本委員)視野のなかには、生物多様性を入れるということか。
→(事務局)指標では場や生物多様性も取り上げていきたい。
9.(松田座長)p.8の図はどのように理解すればよいか。縦軸の生態系の理解というのは何を意味するのか。
→(事務局)この図は学生に対して、「健全な海」はどんな海かワンフレーズ答えてもらうようにアンケートした結果をまとめたものである。縦軸の生態系の理解というのは、学生が「生態系回復力」などのフレーズを書いてきた場合には、学生の理解度が高いということを示していると考えている。また、物質循環の健全性について、これまでは物質に重点を置いて議論をしてきたが、委員から場や生態系、生物自体の視点が入っていないという指摘があったので、今後は、この図の右上の生態系の回復力や安定性なども指標として考えていかなければならないと考えている。
10.(山本委員)生物多様性をモデルに入れることはできないので、生態系の回復力や安定性はモデルで計算することは難しい。
→(鈴木委員)モデルで多様性を表現することが議論されているわけではない。例えば、出現生物種類数や漁獲対象魚種の種類数でも一つの多様性の表現となる。
→(松田座長)モデルの位置づけについて、モデルは一部の道具であって、モデルだけで100%表現するのではなく、できなければその他の方法とあわせて表現するということでよいか。
→(西村委員)数値などがみえていない段階では、モデルで何がどのくらい物質循環を理解できるかというのは、議論しにくいところがある。ケーススタディ的でかまわないが、こういうふうに計算できて、指標化できるのではないか、という具体的なデータを示してほしい。
インパクトレスポンスフローでも、定性的ではあるが、健全化に向けて何が問題かということをある程度整理できる。これについてもモデルでどこまで再現が可能か、今の段階ではここは難しいなどを示してほしい。そうすることで、モデルで難しいところについては違う指標にするなど、議論が進んでいくことと考える。
11.(鈴木委員)ヘルシープランの指標においては、わかりやすさということが加味されている。海の健康診断などで検討がなされてきた漁獲量は、海域の生態系の安定性や多様性、物質循環の円滑性をわかりやすく捉えられる、重要な指標だと考えている。例えば、三河湾では歴史的に漁獲量データがあるので、底生系の生息量の変遷やストック量がわかる。浮魚類についても同様。ただし、問題となるのは漁獲努力量で、過去の漁獲努力量と現在では大きく変わっている。これをいかにパラメータ化するかということについて科学的な厳密性があれば、十分に漁獲量から推定することができる。これは各海域共通してできることなので、漁獲量は有効でわかりやすい指標だと考える。
→(松田座長)漁獲量以外に生物種の長期的なデータはないので、海の健康診断ではグループ別の漁獲量の変化、例えば、いつから甲殻類がいなくなった、底物がとれなくなった、という話は重要であるとなっている。浮魚類については、その海域で生活史が終わるとは限らず、回遊性のものもあるので、底物のほうが地についているということで取り扱われた。

(3)地域検討委員会の調査・実証試験等の状況について【資料-3】

〔事務局より資料説明を行った。資料-3に関する質疑応答は以下のとおりである。〕<

三津湾

1.(松田座長)三津湾のカキの食害は何によるものか。
→(山本委員)漁業者へのヒアリングでは、クロダイやフグとのことである。

播磨灘北東部海域

1.(西村委員)播磨灘では窒素、燐の削減ではなく、管理しながら海域の物質循環の健全化につなげるということで、栄養を供給して海藻の生産を増やすという計画となっている。海藻とプランクトンの競争であれば、モデルでは比較的精度のよい結果が出せるので、生産をコントロールできる・できない、こうすればいいという話ができるのではないか。検討はどの程度進んでいるのか。
→(事務局)播磨灘WGからの要望としては、海域にどのくらい窒素を供給できるのか、そのポテンシャルを検討している段階である。
→(西村委員)1月から実際に下水処理場の放流で窒素を上げる運転を始めるわけだが、その効果をどのようなレベルで検証するのか。生産者のところがこちらの想定どおりにコントロールできて、それが上位につながっていくのか、というような非常に重要なところはモデルでやりたいという感じがするが。
→(事務局)資料-4で詳しく説明するが、下水処理場からの窒素の供給量を1.5倍にした場合に、どの程度の窒素の拡がりがあるのかというデータは播磨灘WGに示している。メッシュを細かくした計算なども行っており、今後はその結果から植物プランクトンや動物プランクトンの増殖量がどのくらいになるというデータは示すことになる。効果の程度がどのくらいあるのかという考察のところについては進んでいない状況である。
2.(松田座長)加古川下流浄化センターでの取組をできるだけ記録として残してほしい。
→(播磨灘WG事務局)浄化センターとは兵庫県下水道課を通じてデータの提供を受けている。データには公表データ、非公表データがあり、調整しているところである。周辺の窒素排出量の大きい事業所の排水データも提供を受けている状況である。

三河湾

1.(中田(喜)委員)三河湾について補足説明をしたい。三河湾ではさまざまな海水でAGP試験を行った。資料-2のp.10、六条干潟で行ったケース④干潟浅場海水の上げ潮・下げ潮に着目すると、上げ潮時に沖合からクロロフィルaの大きい海水が入ってきて、下げ潮時に低くなって出ていく。干潟のなかでは上げ潮から下げ潮にかけてサイズの小さいものが食べられて出ていく、というパターンが得られた。六条干潟では懸濁物食者が少なく、一色干潟では多い。これは、六条干潟では稚貝が多く、一色干潟では成貝が多いためで、六条干潟では稚貝が比較的小さなプランクトンを食べているということをデータが示しているのではと考えている。
→(松田座長)前回議論があったが、なぜ三河湾ではピコ・ナノプランクトンを取り上げ、AGP試験を行っているのか、はじめて読む人がわかるように工夫してほしい。

(4)物質収支モデルでの実証試験の効果検討結果について【資料-4】

〔事務局より資料説明を行った。資料-4に関する質疑応答は以下のとおりである。〕

1.(松田座長)西村委員から指摘のあった播磨灘での取組の効果の検証方法について、モデルでは、栄養塩がどのくらい増えるか、ノリの成長にどう影響するかなどにつなげられないのか。
→(事務局)指摘のとおり、そのような観点で播磨灘WGに示していくべきであると考える。資料-4、p.8~9では下水処理場で窒素増加運転を行った場合の現況との差値を示している。こうした結果からも栄養塩の増加という効果がみえるが、メッシュが粗いということで現在メッシュを細かくした計算を行っている。このように栄養塩や基礎生産につながるデータについても播磨灘WGに示していきたい。
2.(鈴木委員)生物資源の捉え方でさきほど山本委員からもあったが、単純にノリ養殖だけをみていてよいのだろうか。流入負荷量を何倍にした場合にノリ養殖はよくなるけど、他の生物はどうなるのか。漁業生産を上げることと、さまざまな生物資源の再生産を可能にすることが同じ次元のものなのか、かみ合わないのか、かみ合わない場合はどうすればいいのか、こうした話が付帯して生じると思う。シミュレーションがどういうところに出口を求めているかよくわからない。
→(松田座長)これは現地の委員会で議論をしてもらわないといけない重要な課題である。現地でノリの栄養塩不足が問題となっているのはわかるが、物質循環の健全化という大きな定義をした枠組みのなかでの位置づけを話し合ってもらう必要がある。
→(鈴木委員)管理運転をどの期間に実施するのか、例えば冬場だけでなく、夏場も同じような運転をするのかなど、実際の運用ベースでケースを考えていかないと、出口があいまいになって、再生産可能な生物資源がどのように扱われているのか、わからなくなる。シミュレーションの目的を明確にしたほうがよい。
→(松田座長)この統括検討委員会ではこのような議論があったことを欠席の藤原委員に伝えてほしい。
→(事務局)議事録をご送付しお伝えする。
→(山本委員)藤原委員も関わっているが、播磨灘北部ではノリの増殖に対して負荷を与えたらどうなるか、水産庁でも検討している。水産庁では明らかにノリをターゲットとしているので、その検討との色分けのためにも、ここでは他の生物への影響を検討してはどうか。
→(西村委員)いつから運用するかということは重要なので、少なくともそういう検討は行ってほしい。
下水処理水が供給されないが故に海域の物質循環が不健全であるということは、海域の物質循環健全化においてはそぐわないと思う。対症療法的な話なのか、原因療法的に物質循環の健全化を求めていくのか、里海はどうなのかということを整理して、例えば里海の物質循環はこういうものが健全だとか、あるいは水産の場として活用する場合はどうだとか、ケース分けがあっていいと思うが、これらを混在させると難しい議論になると強く感じた。
→(松田座長)最終的には出口は同じになるかもしれないが、物質循環の健全化という全体のコンセプトのなかで整理してほしい。

(5)その他

次回の第3回 海域の物質循環健全化計画統括検討委員会は、平成24年3月9日(金)の開催予定。詳細は後日連絡。

以上

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