報道発表資料

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1997年07月03日

東京湾内原油流出事故に伴う原油による健康影響について(暫定版)

東京湾内原油流出事故に伴う原油による健康影響について、別添のとおりまとめ、関係地方公共団体に通知した。
東京湾内原油流出事故に伴う原油による健康影響について(暫定版)

1.概要原油は地中から天然に産出したままの石油のことであって、単一の成分からなるものではなく、様々な分子量の炭化水素化合物、その他少量の硫黄、酸素、窒素化合物などを含む混合物である。
このうち特に、吸入等による健康影響のおそれのある物質として、硫化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などが挙げられる。
 また、大気中の炭化水素濃度の増加により、窒素酸化物の共存のもとで、気象条件により光化学オキシダント濃度の上昇を招く場合がある。

2.健康影響(急性中毒症状)等
(1)健康影響一般に、高濃度蒸気を吸入した場合、症状は頭痛・めまい・嘔吐等、呼吸困難、皮膚・粘膜刺激作用、歩行運動失調、興奮状態・麻酔作用等がある。軽症の場合は、一般に、頭痛、めまい、吐き気など、重症であれば、呼吸困難、意識障害などをきたすことがある。
個別物質ごとの主な症状は別紙1を参照のこと。

(2)応急処置
 高濃度の蒸気を吸入した場合は、新鮮な空気のある場所に移し、体を毛布等で覆い、保温して安静に保ち、直ちに医師の手当を受けること。その間、呼吸が不整となるか停止したら、気道を確保し人工呼吸を実施すること。
なお、原油成分の吸入以外の健康影響及び応急処置(光化学オキシダントに係るものを含む)は、別紙2の「原油の有害性情報等」を参照のこと。

3.環境基準、許容濃度等
 個別物質ごとに、大気環境基準、大気汚染防止法第2条第9項に規定する有害大気汚染物質、労働環境における有害物質の許容濃度(日本産業衛生学会勧告(1996)、ACGIH(1994~1995)より)について急性中毒症状とともに別紙1に示す。

参考添付資料;今回流出した原油の成分について

別紙2
       原油の有害性情報等
1 原油とは
 ・原油は地中から天然に産出したままの石油のことである。
 ・原油は単一の成分からなるものではなく、ガソリン、灯油、軽油といった軽質油と重油などの混合物であり、組成は原油の種類によって変わる。
 ・原油の種類によって揮発性有機化合物(VOC)の含有量は異なる。
 ・今回流出した原油は、重油留分が約40%であり、揮発成分は普通レベル。
 ・原油中には硫黄、バナジウム、ニッケルなども含まれ、バナジウム、ニッケルは重油留分に含まれる。
 ・特に有害なものとして、硫化水素、ベンゼン、多環芳香族化合物(PAH)を含むことがある。
 ・可燃性があり引火・爆発などに対する注意が必要。

2 健康影響
(1)吸入
 ・原油の吸入による害は、種々の要因、その中でも油流出の規模、流出後の経過時間、気象・海象による。
 ・野外では原油の軽質部分は、急速に蒸発し、1日程度で軽揮発物質は飛散する。
 ・閉鎖した場所では揮発分の濃度は有害なレベルになるかもしれず、吸入保護具の使用が必要。
 ・VOC濃度測定のため大気を採取する必要があり、揮発物質濃度が高い場合には、吸入保護具が必要となる。
 ・原油の蒸気を吸入すると呼吸器系に対して刺激症状を生じさせるおそれがある。
  感作性については、有用な情報は得られていない。
 ・高濃度の蒸気を吸入した場合の急性影響として頭痛、進行性の吐き気・めまいを生じることがあり、また意識消失を起こす場合もある。
 ・高濃度の蒸気を吸入した場合は、新鮮な空気のある場所に移し、体を毛布等で覆い、保温して安静を保ち、直ちに医師の手当を受けること。その間、呼吸が不整又は停止したら気道を確保し人工呼吸を実施すること。

(2)皮膚への付着
 ・原油は多環芳香族化合物(PAH)を含む炭化水素化合物を含有する。
 ・ある種のPAHは発がん性を有することが知られている。なお、IARC  (国際がん研究機関)では重油留分を「Residual Fuel Oil」として2B
  (人に対して発がん性があるかもしれない物質)としている。
 ・大部分の人にとっては、短期間の原油への暴露は問題とならない。
 ・いくつかの含有物は皮膚接触により吸収されることがあり、長期間の暴露は重篤な刺激(化学熱傷)や皮膚がん、その他の皮膚の障害を引き起こすことがある。
 ・次のような場合に長期的な暴露が生じる可能性がある。
   {1}作業者が保護衣、長靴、手袋等を用いず、油が直接皮膚に付着した場合
   {2}油が衣服にしみ込んで長時間にわたり皮膚と接触し続けた場合
   {3}油が保護服の穴や割れ目から入り込み皮膚に付着する場合
 ・原油に過敏な人がおり、短時間の油への接触であってもアレルギー反応を生じる場合があり、通常皮膚発疹(皮膚炎)として現れるが、多くの場合局所的である。
 ・皮膚への油の付着は、ゴム長靴、不浸透性の手袋及び防護服の使用により避けられる。
 ・皮膚に付着した油は、多量の石鹸と水で洗浄し、汚染された衣類は取り除くこと。
 ・シンナー、ガソリン、溶剤あるいは原油それ自体よりも皮膚にとって恐らく好ましくないであろうその他の物質を油の除去のために使用してはいけない。

(3)眼への影響
 ・眼(角膜)を刺激するおそれがある。もし接触した液体が迅速に除去されなければ眼の組織の損傷を生じることがある。
 ・眼に入る可能性があるような場合は、眼のための防護具を用いる。
 ・眼に入った場合は、清浄な水で15分間眼を洗浄したのち医師の手当を受ける。

(4)知覚に対する障害
 ・炭化水素の甘く気持ちの良いものから、刺激臭が強く不快なものまで幅広い臭いを  有する。
 ・原油のいくつかの成分に対する嗅覚の閾値は1ppm以下である。
 ・人は人体に有害となるレベルより遥かに下回る濃度において油の臭いをかぐことができる。
 ・油の臭いをかいだ人は、油が人の健康に及ぼし得る影響について心配することがある。
 ・VOC濃度を評価するために、様々な場所で大気試料の採取を行うことが必要。

3 その他の健康影響情報
(1)生殖毒性、催奇形性
 ・生殖毒性、催奇形性については現在のところ明確な報告はない。

(2)誤飲した場合
 ・胃の粘膜を刺激し、嘔吐、胃痛、下痢等の症状を起こすことがある。また、飲み込んだ原油が肺に吸入されると、肺組織の内出血、肺水腫、化学性肺炎等を起こすことがある。
 ・飲み込んだ場合は、無理に吐かせないで、医師の手当を受ける。口の中が汚染されている場合には、水で充分洗う。

(3)硫化水素
 ・原油には硫化水素が含有される場合がある。暴露許容濃度以上の硫化水素を吸入すると、頭痛、めまい、吐き気、下痢等の症状を起こすことがある。
 ・高濃度の硫化水素の暴露を受けた場合は、前兆なしにしばしば死に至る意識消失を生じることがある。
   ○硫化水素の暴露許容濃度
       ・日本産業衛生学会許容濃度          10ppm
       ・ACGIH(米国産業衛生専門家会議)
        TWA-TLV(時間加重平均暴露限界値)     10ppm

(4)ベンゼン
    ベンゼンの暴露による慢性影響として不可逆的な造血作用障害がある。
    ○ベンゼンの環境基準等
       ・大気汚染に係る環境基準(一年平均値)0.003mg/m3
       ・日本産業衛生学会許容濃度          10ppm
       ・ACGIH(米国産業衛生専門家会議)
        TWA-TLV(時間加重平均暴露限界値)     10ppm
              (近年では1994~95年に暫定値0.3ppmが示されている)

(5)光化学オキシダント
 ・大気中の窒素酸化物と炭化水素が強い紫外線により光化学反応を起こして生成されるオゾン、アルデヒドなどの酸化力のつよい物質の総称で、90%以上はオゾンである。
 ・光化学オキシダントが高濃度になるには、風速が小で安定状態、正午前後2時間以上強い日射があり、気温は24度以上であることが必要であり、夏の暑い正午前後によく発生する。
 ・症状は、眼、のどの刺激症状が一般的であるがひどい時には手足のしびれ、頭痛、痙攣、発熱、呼吸困難を訴えることもある。当該症状が現れた場合には、速やかに
  屋内等に入り、必要に応じ医師の手当を受けること。
    ○光化学オキシダントの環境基準等
       ・大気汚染に係る環境基準(一時間値)    0.06 ppm
       ・注意報発令レベル(一時間値)       0.12 ppm(注1)
       ・警報発令レベル(一時間値)        0.24 ppm(注2)
       ・重大緊急時(一時間値)          0.4  ppm(注3)
    ○オゾンの許容濃度
       ・日本産業衛生学会許容濃度          0.1  ppm

(注1)気象条件から見て0.12ppm以上の状態が継続すると認められる場合に、大気汚染防止法に基づき発令
(注2)各都道府県等が独自に要綱等で定めるもので、一般的に、気象条件から見て0.24ppm以上の状態が継続すると認められる場合に、発令
(注3)気象条件から見て、0.4ppm以上の状態が継続すると認められる場合に、大気汚染防止法に基づき発令
*別紙1については、添付資料参照。

添付資料

連絡先
環境庁大気保全局企画課
課 長:櫻井正人(6510)
 補 佐:野田 広(6514)

環境庁企画調整局環境保健部環境安全課
課 長:中島正治(6350)
 課 長:椎葉茂樹(6352)