報道発表資料

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1997年04月25日

窒素酸化物等健康影響継続観察調査報告について

環境庁では、平成4~7年度において約15,000人の学童を対象とした調査を実施し、大気汚染と健康影響との関係に関する疫学的知見の収集を行った。
 その結果、喘息様症状(現在)の有症率については、性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況等の影響を除くため統計的な処理を行った各地域の喘息様症状(現在)の有症率と最寄りの大気汚染常時測定局の NO2の年平均値との間に、統計的な関連性がみられた。
 このうち、NO2濃度の環境基準値に相当する年平均値20ppb~30ppbについては、30ppbを超える地域の有症率がそれ以下の地域の有症率より高い傾向が認められ、20ppbを超える地域の有症率がそれ以下の地域の有症率より高い傾向が認められたものの、NO2濃度が20ppbを超え30ppb以下の地域における有症率については、20ppb以下の地域及び30ppbを超える地域におけるそれぞれの有症率との比較を行うこと困難であった。
 また、喘息様症状の新規発症率については、性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況の影響を除くため統計的な処理を行った各地域の新規発症率と最寄りの大気汚染常時測定局のNO2の年平均値との間の統計的な関連性はみられなかった。  
 今回の調査結果とこれまでの調査研究で得られている知見を総合的に評価すると、喘息様症状(現在)の有症率と大気汚染との間に何らかの関係を有していることが否定できないこと、及び、年平均値20ppbから30ppb程度のNO2濃度を境にして有症率と大気汚染との間に対応関係があることが推察される。
 環境庁としては、環境基準の設定・改定のための適切な科学的判断に資するため、今後も大気汚染と健康影響に関する最新の科学的知見の収集・充実に努める必要があると考えている。

1 経緯
 環境基準は、人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として、環境基本法第16条に基づき設定されているが、この基準については常に適切な科学的判断が加えられ必要な改定を行うことが併せて規定されている。
 環境庁においては、昭和53年に二酸化窒素に係る環境基準を改定した後、疫学的知見を充実させるため、「大気汚染健康影響調査」(昭和54年度~昭和59年度)及び「大気汚染健康影響継続観察調査」(昭和61年度~平成2年度)の2回の疫学調査を実施した。「大気汚染健康影響調査」は全国51地域約30万人を対象とした大規模な疫学調査(断面調査)で、「大気汚染健康影響継続観察調査」は約5,000人の学童について同一対象者の健康状態を5年間追跡した継続調査である。これらの調査はいずれも大気汚染と健康影響の関係について新たな疫学的な知見を得たものであったが、断面調査では年度毎に調査対象者が変わることや継続調査では対象地域が限定されること等から大気汚染と健康影響との関連を評価するには困難があるのではないかといった指摘を受けた。このため、平成3年、大気保全局長の私的諮問機関として「窒素酸化物等健康影響継続観察調査検討会」を設置し、新たな疫学調査の設計から調査の実施、結果の解析に至るまで慎重に検討を行った。
 本調査では、この調査実施に関する検討結果を基に、平成4年度から4年間にわたり6都府県の約15,000人(うち継続調査対象約7,000人)の学童を対象とした継続観察調査を実施することにより、大気汚染と健康影響との関係についての新たな疫学的知見の収集を行ったものである。

窒素酸化物等健康影響継続観察調査検討会名簿

   氏  名         所属及び職名
     安達 元明    千葉大学医学部公衆衛生学教室教授
 (座長)常俊 義三    宮崎医科大学公衆衛生学教室教授
     新田 裕史    国立環境研究所都市環境影響評価研究チーム総合研究官
     松木 秀明    東海大学医療技術短期大学教授
     森  亨     財団法人結核予防会結核研究所所長


2 調査対象と調査方法
 調査は平成4年度から7年度までの4年間継続して、6都府県の11調査地域(19対象校)で実施された。調査対象地域は表1の通りである。なお、調査対象校は原則として大気汚染常時測定局の周辺地域から選ばれている。対象者数は各地域約300名から約1,800名で、4年間の総延べ対象者数は38,330名、実人数は15,140名であった。

表1 調査対象地域

  調査対象地域
 茨城県高萩市      a小学校
 千葉県君津市A      b、c小学校
 千葉県君津市B      d小学校
 東京都杉並区      e小学校
 東京都東大和市     f小学校
 神奈川県大和市     g、h小学校
 神奈川県開成町     i小学校
 大阪市城東区      j、k小学校
 大阪市西淀川区     l小学校
 大阪府富田林市     m小学校
 宮崎県国富町      n~s小学校

 調査項目は、大気汚染に係る疫学調査で広く使用されているATS-DLD呼吸器症状標準質問票をもとに作成された、「大気汚染健康影響継続観察調査」で使用された環境庁版ATS質問票に眼・鼻粘膜症状に関する症状項目の追加と関連項目の若干の改訂を行った呼吸器症状調査、血清中の非特異的IgE抗体検査及びフローボリューム記録計を用いた肺機能検査の3項目である。
 呼吸器症状調査は対象地域の全学童を対象とし、調査を実施した。IgE抗体検査の対象の選定は対象校毎に異なっており、IgE検査結果と質問票の回答の両方がそろった者のみを解析対象とした。また、肺機能検査の対象の選定は対象校毎に異なっており、3~4年継続して肺機能検査を受けた者でそれに対応する質問票調査のある者のみを解析対象とした。
なお、神奈川県の2地域についてはIgE抗体検査及び肺機能検査が実施できなかった。調査対象が若干異なるのは、被調査校及び関係機関側の条件によるものであった。
また、調査対象者のうち3年以上継続して調査対象となった者を継続調査対象者として、喘息様症状の新規発症等について解析を行った。

* 3 調査結果については、添付ファイル参照。

添付資料

連絡先
環境庁大気保全局企画課
課     長 櫻井 正人 (6510)
 調  査  官 岡崎  誠  (6511)
 課 長 補 佐 奥村 二郎 (6514)