報道発表資料本文


3 調査結果

本調査の結果を以下に示す。なお、図表の()内の図表番号は報告書中のものである。

(1) 各症状の有症率
a) 地域別・性別有症率
地域別・性別喘息様症状(現在)(調査時での症状)の有症者数、粗有症率、対象者
数は表2、地域別・性別喘息様症状(既往)(現在に対し既往の症状)の有症者数、
粗有症率、対象者数は表3のとおりであった。

表2 地域別・性別喘息様症状(現在)(報告書中表12)
表3 地域別・性別喘息様症状(既往)(報告書中表13)


b) 地域別・コホート群(学年)別喘息様症状(現在)有症率
喘息様症状(現在)の有症率を地域別・コホート群(学年)別にみた場合、一定の傾
向はみられなかった(表4、表5)。

表4 調査対象コホート(報告書中表5)
表5 地域別・コホート群別喘息様症状(現在)有症率(報告書中表16)


c) 関連要因別喘息様症状(現在)有症率
喘息様症状(現在)の有症率を関連要因別にみた場合、居住年数については有意な差
はみられなかった。家屋構造については鉄筋集合住宅の居住者の有症率が高かった。
家族喫煙、暖房器具の種類については有症率に差はみられなかった。室内ペットにつ
いては「なし」群の方が有症率が高かった。アレルギー性疾患の既往、花粉症症状、
気道過敏性については「あり」群の有症率が高かった。

(2)喘息様症状の新規発症率
喘息様症状の新規発症率の発症者数、発症率、対象者数については、表6のとおりで
あった。

表6 喘息様症状新規発症率(報告書中表17)

新規発症率を関連要因別にみた場合、居住年数については発症率に差はみられなかっ
た。家屋構造については、「木造一戸建・窓木枠」の世帯で発症率が高かった。家族
喫煙、暖房器具の種類、室内ペットについては発症率に差はみられなかった。アレル
ギー性疾患の既往、花粉症症状、気道過敏性については「あり」群の発症率が高かっ
た。

(3)症状の経年変動
継続調査対象者について喘息様症状及び喘鳴症状の継続性・変動性を検討したところ、
東京と神奈川の対象地域で「何らかの症状あり」群や症状継続群の割合が多い傾向が
みられた。性別では「何らかの症状あり」群、症状継続群のいずれも男子で高く有意
差がみられたが、その他の関連要因については症状の変動傾向に大きな差は認められ
なかった。

表7 症状の経年変動(報告書中表18)

(4)大気汚染レベルと呼吸器症状の関連性
 性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況等の影響を除くため統計的な処理を行っ
た各地域の喘息様症状(現在)の有症率と各調査対象地域のNO2、NOX、SPM濃度
の年平均値との間に、統計的な関連性がみられたが(図1~3)、Ox濃度との間に
は関連性はみられなかった。
喘息様症状の新規発症率については、継続調査の結果より、性別、学年、家屋の構造、
家族の喫煙状況の影響を除くため統計的な処理を行った各地域の新規発症率と最寄り
の大気汚染常時測定局のNO2の年平均値との間の統計的な関連性はみられなかった
(図4)。

図1 喘息様症状(現在)有症率とNO2濃度との関係(報告書中図5)
図2 喘息様症状(現在)有症率とNOx(NO+NO2)濃度との関係(報告書中図7)
図3 喘息様症状(現在)有症率とSPM濃度との関係(報告書中図9)
図4 喘息様症状新規発症率とNO2濃度との関係(報告書中図11)

(5)非特異的IgE抗体に注目した調査
 各症状群の非特異的IgE幾何平均値を4年間の計でみると、男女ともに高い方から
喘息様症状(現在)群(男子 720.5 IU/ml、女子 601.8 IU/ml)、喘鳴症状群(男子 
350.7 IU/ml、女子 275.9 IU/ml)、喘息様症状(既往)群(男子 333.6 IU/ml、女子 
208.5 IU/ml)、症状なし群(男子 111.1 IU/ml、女子 79.0 IU/ml)の順となった。
 症状群別IgEの累積度数分布を比較したところ、症状なし群と喘息様症状(現在)
群の分布に差がみられ、喘息様症状(既往)群と喘鳴群の分布はこれらのほぼ中間の
分布を示した(図5)。なお、喘息様症状(現在)を有するものの血清中の非特異的
IgE値が低いものがあり、逆に非特異的IgE値が高くても喘息様症状がないものが多
く含まれていることが示され、喘息様症状発症の多様性が示唆された。

図5 症状別IgE累積度数分布(報告書中図20)

非特異的IgE値が250IU/ml以上を陽性として検討した結果、調査対象の選定が調査
年度、調査校により異なることから各校別に得られた結果がその地域を代表するとは
考えにくいものの、喘息様症状(現在)群の陽性率は低濃度地域群(NO2:0.014ppm
以下)>中間地域群(0.015~0.030)>高濃度地域群(0.031以上)の順に高率であ
った。さらに症状なし群でも中間地域群が高濃度地域群よりもわずかに低いものの低
濃度地域群で最も高率であった(図6、図7)。

図6 喘息様症状(現在)群のIgE陽性率(報告書中図27)
図7 症状なし群のIgE陽性率(報告書中図28)

 (6)肺機能検査
 学校別に努力性肺活量、0.75秒量の平均値をみると、城東、西淀川、富田林、国富
の測定値が他の地域よりも高値であったが、これは使用した測定器の差によるものと
考えられた。
測定器の差を考慮し、茨城・東京、千葉、大阪・宮崎の3地域に区分し、性・症状群
別に平均値を比較したところ、努力性肺活量ではどの地域でも正常群が最も高値であ
るというわけではなく、また、0.75秒量についても全地域共通の傾向はみられなかっ
た。
 身長及び年齢の影響が少ない0.75秒率の平均値は男女、各地域とも正常群が最も高
値であり、喘息群が最も低値であった(有意差あり)。さらに症状群別に受動喫煙(家
族内の喫煙者)別の比較をすると、いずれの症状群も男女とも受動喫煙量が多いと推
測される母喫煙群の0.75秒率の平均値が最も低く、喫煙なし群より低値であった。
家庭内で使用される暖房器具の種類による差はみられなかった。


4 まとめ
調査対象者に対する呼吸器症状質問票に基づく喘息様症状(現在)の有症率と大気汚
染との関連性については、性別、学年、家屋の構造、家族の喫煙状況等の影響を除く
ため統計的な処理を行った各地域の有症率と各調査対象地域の最寄りの大気汚染常時
測定局の NO2の年平均値との間に、統計的な関連性がみられた。
このうち、NO2濃度の環境基準値に相当する年平均値20ppb (0.02ppm)~30ppb 
(0.03ppm)については、30ppbを超える4地域の有症率がそれ以下の7地域の有症率
より高い傾向が認められ、また20ppbを超える5地域の有症率がそれ以下の6地域の
有症率より高い傾向が認められたものの、NO2濃度が20ppbを超え30ppb以下の地
域における有症率については、20ppb以下の地域及び30ppbを超える地域におけるそ
れぞれの有症率との比較を行うことは困難であった。
SPMについてもNO2の場合と同様に有症率と最寄りの大気汚染常時測定局の年平均
値との間に統計的な関連性が認められたが、対象地域の測定局の平均濃度と当該地域
の個人曝露レベルとの関連性に関する評価が不十分であること等から、SPMの健康影
響に関してさらに詳細な検討は困難であると判断された。
また、喘息様症状の新規発症率については、喘息様症状(現在)の有症率と同様に性別、
学年、家屋の構造、家族の喫煙状況等の影響を除くため統計的な処理を行った各地域
の新規発症率と最寄りの大気汚染常時測定局のNO2の年平均値との間の統計的な関
連性はみられなかった。
今回の調査結果と、諸外国を含めたこれまでの多くの調査研究で得られている知見か
ら、喘息様症状(現在)の有症率と大気汚染との間に何らかの関係を有していることが
否定できないことと、20ppbから30ppb程度のNO2濃度を境にして有症率と大気汚
染との間に対応関係があることが推察される。
今後も大気汚染と健康影響に関する調査について、他の関係する因子の検討を含め、
調査研究を進める必要がある。


*図表については、添付ファイル参照。
 



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