報道発表資料

この記事を印刷
2002年12月26日
  • 水・土壌

農薬環境懇談会報告について

 農薬環境懇談会(座長:須藤隆一 東北工業大学客員教授、環境省水環境部長委嘱)は、農薬環境行政を巡る情勢についてのこれまでの議論を報告として取りまとめた。本報告では、農薬のリスク管理、リスクコミュニケーションに関する現状と課題を整理するとともに、今後の施策の推進方向について提言を行っている。

報告書本文はこちら

経緯

 省庁再編後の新たな農薬環境行政の展開が期待される中で、農薬の生態影響評価システムの確立、環境ホルモン問題への対応など農薬を巡る課題も山積している状況。
 こうした状況を受け、環境省では、今後の農薬環境行政の方向性について、中長期的観点からを議論するため、平成13年7月に農薬環境懇談会を設置。本報告は、これまで7回にわたる議論を取りまとめたもの。

(参考)農薬環境懇談会検討委員名簿

座長   須藤 隆一    東北工業大学客員教授
  伊東 祐孝    JAセレサ川崎営農経済本部技術顧問
  井上 達    国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長
  金森 房子    元(財)日本消費者協会理事
  北原 武    東京大学大学院農学生命科学研究科教授
  白石 寛明    (独)国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター
曝露評価研究室長
  菅谷 芳雄    (独)国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター
生態リスク評価研究室主任研究員
  北條 祥子    尚絅女学院短期大学教授
  星野 敏明    バイエルクロップサイエンス(株)登録センター部次長
  細見 正明    東京農工大学工学部化学システム工学科教授
  真板 敬三    (財)残留農薬研究所常務理事
  眞柄 泰基    北海道大学大学院工学研究科教授

 

報告の概要
  1. 現状と課題
      
    (1)農薬のリスク管理
    生態系を保全する観点からのリスク管理、残留性有機汚染物質(POPs)条約で示されたPOPsの残留性等についての基準との整合が課題。
    複合影響や高感受性群、内分泌かく乱作用、いわゆる化学物質過敏症に対する評価については、現在の科学では直ちに解明できない部分も多く、知見の蓄積を踏まえて現行施策の検証を行っていくことが課題。今後の研究動向に注視し、有益な情報を適切に収集していく必要。
    農薬に該当しない殺虫剤、除草剤等に対する対応、「環境保全型農業」の推進等を背景として、最近、登録申請が増えている微生物農薬や天敵農薬のリスク評価技術の向上・確立が課題。
      
    (2)農薬のリスクコミュニケーション
    農薬登録保留基準の設定に当たり慎重な検討がなされている点について一般国民の理解を増進するため、関係行政機関が連携をとってリスクコミュニケーションがなされるよう検討する必要。
    農薬製造業者等において一般国民の農薬に対する安全・安心感を醸成できるような適切な情報開示手法を検討するよう働きかけていく必要。
    情報開示のみならず、消費者を含む全ての関係者の相互理解を深めるコミュニケーションが重要。 
      
      
  2. 今後の施策の推進方向
      
     当面以下のような施策の充実を検討していくとともに、諸外国・国際機関の動向も含め、常に最新の知見の集積に努め、リスク管理の前提となるリスクの評価技術等の開発・向上に努めていくとともに、新たな知見が得られた場合には機動的に対応することが重要。
      
    (1)農薬のリスク管理対策の充実
     登録保留基準の充実
    現行の登録保留基準について生態系保全の観点からのリスク管理を充実するため、まず、水域において、魚類、甲殻類、藻類等に対する農薬の毒性と環境中における予測濃度との比較によりリスク管理を行うよう登録保留基準を見直すとともに、将来的には、陸生動植物への影響、微生物農薬や天敵農薬の生態系への影響の観点からの評価技術の開発に取り組むことが必要。
    残留性の高い有機物質による新たな環境汚染が生じないよう、POPs条約の内容を踏まえた検討が必要。
    現行の水質汚濁に係る登録保留基準は水田使用農薬のみ設定されているが、畑地・ゴルフ場等使用農薬についても設定できるようにしていく必要。
     使用段階等の的確なリスク管理措置のためのモニタリングの充実
    農薬取締法のリスク管理体系が適切に運用されるためには、農薬の登録、販売・使用段階でモニタリング等により適時・的確に環境リスクを把握し、必要な場合には的確に使用段階における規制措置を講じていくことが必要。
    農薬取締法で規制できない化学物質に対する対応
    化審法の規制対象となっている不快害虫殺虫剤や非農耕地用除草剤については、化審法で生態系への影響も視野に入れた審査・規制が可能となるよう取組の強化が検討されていることも踏まえ、更なる取組が必要か検討する必要。
      
    (2)リスクコミュニケーションの推進
     農薬は、他の化学物質等に比べて安全性に関するデータが充実しているが、一般国民の十分な理解が得られていないと考えられることから、相互の理解増進に向け、リスクコミュニケーションを一層推進していくことが必要。
      
      
  3. おわりに
      
     農薬は、多様な媒体を通じて不特定多数の人の健康と広範な生態系の両者にリスクを及ぼす可能性を持ったものであるが、そのリスク管理対策の内容や使用状況等がこれまで多くの国民の目に見えにくく、農薬に対する安全・安心について広く理解されるまでには至らなかったのではないかと考えられる。
     今後、試験研究機関と行政機関が連携し、常に科学的知見の集積に努めそれに基づく適切なリスク評価・リスク管理を行い、また、農薬のリスクを念頭に置き、農薬使用者にあってはその適正な使用及び使用量の低減を、農薬製造業者等にあっては低毒性農薬、環境への流出が少ない製剤・使用方法の開発を推進し、それらのプロセスと結果が国民にわかりやすく示されるときに、農薬は持続可能な社会の構築に寄与できる資材として社会的な受容性が高まっていくのではないかと考えられる。こうした方向に向け関係者の一層の努力に期待。
連絡先
環境省環境管理局水環境部土壌環境課農薬環境管理室
室長:早川  泰弘(6640)
 補佐:更田真一郎(6641)