■はじめに
現在の社会経済は、多様な化学物質の利用を前提としており、その成長は化学物質により支えられてきた部分が大きい。その反面、極めて多くの化学物質に人や生態系が複合的に長期間曝露されている状況にある。今後、持続可能な社会を構築していくためには、化学物質の有用性を基盤としながら、他方で、その有害性による悪影響が生じないようにする必要がある。
化学物質のひとつである農薬も、農作物等を病害虫・雑草等から防除するために必要な資材として農業生産の安定や作業の省力化のために効果を上げてきた。しかしながら、農薬は、水田をはじめとした農地等で栽培される農作物に対し広範な開放系で使用されることから、その使用に伴う農産物や水の安全性、周辺の野生生物や生態系への影響について、従来から消費者を中心に多くの国民から大きな関心が持たれてきた。
さらに、最近の内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン、BSE(牛海綿状脳)症)問題、無登録農薬問題を契機として、これまで以上に人の健康や生態系への影響に対する国民の関心が高まっている。このような状況を踏まえ、安全(リスク評価・リスク管理)及び安心(情報開示により相手に「知らせる」だけでなく相互理解を深めるためのリスクコミュニケーション)の観点から、農薬の環境保全対策についての現状と課題について検討し、今後の施策の推進方向についてまとめた。