報道発表資料
環境省は、地方公共団体において実施した平成12年度低周波音全国状況調査に基づき、低周波音の実態について結果を取りまとめ、解析を行った。
(1) | 苦情件数の推移について |
この20年の間で、7割を占めていた物的苦情が減り、心身にかかる苦情が半数を占めるようになった。 | |
(2) | 苦情内容について |
[1] | 建具のがたつき等の物的苦情については、建具のがたつき閾値とされているレベルとの一定の対応関係を確認した。 |
[2] | G特性(超低周波音(1~20Hz)の人体感覚を評価するためISO規格により規定されている補正特性)や、周波数ごとの音圧レベルで評価したところ、比較的低い音圧レベルであっても心身にかかる苦情が発生していた。 |
(3) | なお、本調査は「低周波音の測定方法に関するマニュアル」(平成12年10月)による初めての全国調査であり、精度の低いデータも見受けられた。 今後は低周波音についての正確な知識を周知していくとともに、測定精度の向上や、対策手法の検討を進めていく。 |
- 目的
- 低周波音苦情の内訳
- 測定結果
- 解析および考察
- 低周波音測定時における注意点の整理
- まとめ
低周波音に関する全国の苦情件数については、平成11年度の45件から平成12年度は115件へと倍増している(平成12年度騒音規制法施行状況調査(平成14年3月発表))。環境省では、全国の低周波音の実態を把握することを目的として平成12年度に地方公共団体へ測定調査を依頼し、集計した測定結果の解析及び苦情原因の分析を行った。
平成12年度低周波音全国状況調査により、43の自治体(24都道府県19市)から166件のデータが収集された。このうち、低周波音に関する苦情があったものは72件、苦情なし・その他が94件となっていた。低周波音苦情は[1]物的苦情(建具のがたつき等)、[2]心身にかかる苦情(頭痛、いらいら等)、[3]それらの複合したものに大別される。今回の調査結果では心身にかかる苦情が最も多く47%であり、複合的なものも含めると全体の71%を占めている(表-1)。過去の調査結果と比較すると、苦情の内訳は物的苦情から心身にかかる苦情へと移行している(図-1)。
(1)周波数分析結果 |
周波数分析結果をもとに、低周波音による建具等への物的影響と心身にかかる影響について結果を整理した。 今回の調査における物的苦情のある測定箇所では、建具のがたつき閾値とされるレベル(建具が受ける低周波音の音圧レベルと建具のがたつきの関係)よりも5dB以上上回る事例が半数以上を占めており、一定の対応関係を確認した。 また、被験者の50%が圧迫感・振動感を感ずるとされている音圧レベル実験値よりも、測定データの多くは低い値となっており、低音圧レベルであっても苦情が発生していた。 |
(2)G特性音圧レベル測定結果 |
一般的に人の耳には聞こえないとされる超低周波音(20Hz以下の低周波音)の人体感覚を評価する指標として、G特性と呼ばれる補正特性がISO国際規格により規定されている。 G特性音圧レベルについては、生活環境側で観測されたほとんどのデータが、ISO規格において超低周波音の感覚閾値とされているG特性100dB未満に分布していた。 圧縮機(コンプレッサー)、ディーゼル発電機、焼却炉煙突、振動ふるい、集塵機や新幹線鉄道等の発生近傍における測定値でG特性90dBを上回る事例が見られた。一方、観測されたデータの多くは90dB未満であった。 |
(1)物的苦情(建具のがたつき等) |
低周波音の周波数バンド毎の音圧レベルが建具のがたつき閾値とされているレベルを上回ると、物的苦情の発生件数が増加する傾向が見られた。 測定点で観測された振動レベルは大半が55dB以下に分布し、振動の感覚閾値とされているレベル以下であるにもかかわらず物的苦情が訴えられている点から、今回調査した物的苦情の大部分は振動ではなく低周波音に起因すると考えられる。 |
(2)心身にかかる苦情(頭痛、いらいら等) |
今回の調査で生活環境側において観測された低周波音のうち、ISO規格において超低周波音(20Hz以下の低周波音)の感覚閾値とされているレベル(G特性音圧レベルで100dB)を上回ったのは屋外で観測された1例のみであった。 一方、可聴域の低周波音(20Hzからおよそ100Hz)の領域においては、多くのデータが圧迫感・振動感を感ずるとされる実験値(被験者の50%が圧迫感・振動感を感じる音圧レベル)より小さい値であり、低音圧レベルであっても苦情が発生していた。また、苦情ありの場合となしの場合との間に音圧レベルの明確な差を見出すことができず、100Hz以上の一般の騒音によるものや、音以外の要因によるものも混在してる可能性があった。 |
今回実施した測定データをもとに、改めて測定時の注意点を整理した。
(1)風による影響 |
今回の測定結果において、測定の約3分の1に及ぶデータが風等による影響を受けていると判断された(図-2)。低周波音測定では風の影響の度合いが一般の騒音測定と全く異なるため、風の強い日は測定しない点の徹底が必要である。 |
(2)暗騒音の影響 |
低周波音の測定では、対象以外の発生源からの低周波音に気が付きにくい。特に屋外の測定では周辺の騒音にマスクされて気が付かないことがあるので、レベルレコーダ記録や実時間分析器の画面をこまめにモニターすることが必要である。また、周辺を観察し状況を書き留めておくことも、低周波音が発生しているかどうかの重要な判断材料となる。 |
(3)苦情者宅での測定 |
家屋の遮音性能の向上により家屋内では高い周波数の音が低減され、人によっては低音圧レベルの低周波音や騒音が際立って感じられる可能性も考えられる。このような場合には、苦情者が苦情を訴える場所、時間帯に測定を行い、原因と思われる低周波音(または騒音)とその発生源を特定するとともに、物理量と苦情者の反応の対応関係を調査することが望ましい。 |
環境省では、平成12年度に「低周波音の測定方法に関するマニュアル」、平成13年度に「低周波音防止対策事例集」を取りまとめた。しかし、今回の解析においては、測定手法やその注意事項が十分に浸透していないことから、有効なデータとして扱えない測定結果が多く見られた。
近年の家屋の遮音性能向上、居住者の意識の変化などにより、物的苦情から低音圧レベルの低周波による苦情へと移行してきている。また、低周波音に関する一部の誤った情報発信もあり、いわゆる「低周波音苦情」には、100Hz以上の一般の騒音によるものや、音以外の要因によるものも混在しているものと考えられ、正確な測定に基づいて要因を明確にすることが重要である。その際、低周波音の評価にあたっては、G特性のみで行うことは適切ではなく、周波数分析を正しく行うことが必要である。
今後は「低周波音」についての正確な知識の周知と共に測定精度の向上を図り、対策手法の検討を進めていく。
添付資料
- 連絡先
- 環境省環境管理局大気環境課
室長 上河原献二(内線6540)
補佐 石井 鉄雄(内線6543)
担当 大野、佐野(内線6546)